(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
ここでは、放送局における放送用信号を例として、フィルタ及び共振器を説明するが、放送用信号に限らず、他の高周波信号において、予め定められた周波数帯域の信号を通過させるために用いられるフィルタ及び共振器であってもよい。
【0010】
<フィルタ100>
図1は、放送用信号の送信におけるフィルタ100を説明する図である。
放送用信号は、送信機200から、フィルタ100を介して、アンテナ300に送信され、アンテナ300から電波として放射される。
フィルタ100は、送信機200から入力された放送用信号のうち、予め定められた周波数帯域の信号を通過させ、それ以外の周波数成分の通過を抑制するバンドパスフィルタ(BPF)である。
なお、本実施の形態におけるフィルタ及び共振器は、上記のように放送用信号に限定されないため、以下では、信号と表記する。
また、以下では、通過させる周波数帯域を、通過周波数帯域と表記する。
【0011】
図2は、本実施の形態におけるフィルタ100の斜視図である。
図2に示すように、本実施の形態におけるフィルタ100は、複数の共振器10によって構成されている。
さらに説明をすると、フィルタ100は、一例として、6個の共振器10(それぞれを区別する場合は、共振器10−1〜10−6と表記する。)を連結して構成されている。そして、フィルタ100は、信号が入力する入力部の一例としての入力端子20と、信号を出力する出力部の一例としての出力端子30とを備えている。また、フィルタ100は、各々の共振器10に設けられ各々の共振器10の共振周波数を微調整可能とする微調ねじ40を備える。
【0012】
このフィルタ100においては、入力端子20に入力した信号は、共振器10−1〜10−6間を伝搬して、出力端子30から出力される。
なお、図示の例においては、共振器10−1に入力端子20が接続され、共振器10−6に出力端子30が接続されている。また、共振器10−1〜10−6のそれぞれの間には、結合機構(不図示)が設けられ、信号が伝搬するように構成されている。さらに説明をすると、結合機構は、共振器10−1と共振器10−2との間、共振器10−2と共振器10−3との間、共振器10−3と共振器10−4との間、共振器10−4と共振器10−5との間、共振器10−5と共振器10−6との間に設けられている。
【0013】
ここで、複数の共振器10が結合機構により相互に連結され、予め定められた通過周波数帯域が得られればよく、複数の共振器10のいずれの共振器10間に結合機構を設けてもよい。例えば、図示の例とは異なり、共振器10−1と共振器10−6との間、共振器10−2と共振器10−5との間に結合機構が設けられていてもよい。
【0014】
さて、
図2では、フィルタ100は、共振器10を6段(6個)連結して構成されている。この連結する共振器10の段数は、通過周波数帯域の急峻性に影響を与える。さらに説明をすると、共振器10の段数が多いほど、通過周波数帯域の急峻性が高くなる。一方で、段数が多くなると、ロスが増大する。よって、共振器10の段数は、要求される通過周波数帯域の急峻性に応じて設定されるものである。さらに説明をすると、例えば、フィルタ100が1段(1個)の共振器10で構成されてもよい。
なお、通過周波数帯域の急峻性とは、通過させる周波数と通過させない周波数との境界の周波数帯の幅が狭いことをいう。
また、上記の結合機構としては、公知の技術を適用すればよく、ここでは説明を省略する。
【0015】
<共振器10>
図3(a)および(b)は、共振器10の構成を説明する平面図及び断面図である。さらに説明をすると、
図3(a)は共振器10の平面図であり、
図3(b)は
図3(a)のIIIB−IIIB線での断面図である。
なお、
図3(a)では、対向面部121の表記を省略している。また、
図3(b)では、便宜上先端部131および移動体133を、断面図ではなく側面図として表記している。また、
図3(a)および(b)では、入力端子20、出力端子30、微調ねじ40、あるいは結合機構の表記を省略している。
【0016】
図3(a)および(b)に示すように、共振器10は、内部に空洞(キャビティ)11を形成する外導体12と、外導体12が形成する空洞11内に設けられた内導体13とを備えている。ここで、外導体12は、共振器10の筐体を構成する。
なお、共振器10は、
図3(a)および(b)に示す向きの配置に限定されるものではなく、例えば
図3(b)に示す共振器10とは上下を逆に配置してもよく、あるいは鉛直方向に対して傾けて配置してもよい。
【0017】
<外導体12>
次に、
図3(a)および(b)を参照しながら、外導体12について説明をする。
図3(a)および(b)に示すように、外導体12は、対向面部121、側面部122、および支持面部123を備えている。
ここで、
図3(b)に示すように、外導体12の対向面部121及び支持面部123の外形は、正方形である。すなわち、外導体12が囲む空洞11は、直方体である。なお、外導体12は、他の形状であってもよい。例えば、底面が長方形の直方体であってもよく、立方体であってもよい。さらに、外導体12は、円筒形、楕円筒形であってもよい。
【0018】
また、支持面部123には円形の開口部124が設けられている。詳細は後述するが、この開口部124に内導体13が設けられる。
なお、図示は省略するが、入力端子20、出力端子30あるいは結合機構を設ける場合には、例えば、外導体12の側面部122に開口を設けて、入力端子20、出力端子30又は結合機構を設ければよい。また、微調ねじ40を設ける場合には、例えば支持面部123に開口を設けて、微調ねじ40を設ければよい。
【0019】
<内導体13>
図4は、内導体13の構成を説明する分解斜視図である。
次に、
図3および
図4を参照しながら、内導体13について説明をする。
図3(a)および(b)に示すように、内導体13は、外形が略円柱状の部材である。この内導体13は、外導体12の開口部124に設けられる。さらに説明すると、内導体13は、空洞11内側から外導体12の開口部124を覆うように設けられ、外導体12が形成する空洞11内に突出して配置される。この内導体13は、使用する周波数帯域を設定する調整ねじの機能と、環境や発熱による共振器10の温度変化により生じる周波数の変化(温度ドリフト)を抑制、すなわち温度補償する機能とを兼ね備えている(詳細は後述)。
【0020】
ここで、図示の例の内導体13は、空洞11内において、長手方向(軸方向)が上下方向に沿って配置される。以下の説明においては、内導体13の軸方向を単に軸方向と呼ぶことがある。また、内導体13の軸方向において、内導体13の先端側を単に先端側、内導体13の根元側を単に根元側と呼ぶことがある。また、内導体13の軸を中心とした周方向(円周方向)を単に周方向と呼ぶことがある。
【0021】
図4に示すように、内導体13は、先端部131、支持棒132、移動体133、支持体134、および固定板135を備えている。
以下、
図4乃至
図6を参照しながら、内導体13を構成するこれらの構成部材について、各々説明をする。
ここで、
図5(a)乃至(e)は内導体13の構成を構成する部材を説明する断面図である。さらに説明をすると、
図5(a)は先端部131の断面図であり、
図5(b)は支持棒132の断面図であり、
図5(c)は移動体133の断面図であり、
図5(d)は支持体134の断面図であり、
図5(e)は固定板135の断面図である。
図6(a)および(b)は、移動体133の構成を説明する底面図および上面図である。さらに説明をすると、
図6(a)は移動体133の上面図であり、
図6(b)は移動体133の底面図である。
【0022】
<先端部131>
図4に示すように、覆い部材の一例である先端部131は、円盤状の部材である。図示の例における先端部131は、軸方向における先端側の縁131aと根元側の縁131bとがそれぞれアール(R)状に加工されている。
また、
図5(a)に示すように、先端部131は、先端側の面の中央に形成された第1凹部131cと、根元側の面の中央に形成された第2凹部131dと、第1凹部131cおよび第2凹部131dを軸方向で連続させる貫通孔131eとを備える。
【0023】
なお、内導体13における先端側の縁131aがアール状に加工されていることにより、先端部131と、外導体12との間(例えば対向面部121との間)で、放電が発生することが抑制される。図示の例においては、電界強度が3.0kV/mm以下になる寸法で、内導体13の先端側の縁131aの形状が定められている。これにより、フィルタ100において高電力の信号を扱うことができる。
【0024】
<支持棒132>
図4および
図5(b)に示すように、支持棒132は、円柱状であり、所謂棒状の部材である。この支持棒132は、本体132aと、先端側および根元側の両端面にそれぞれ形成された第1ねじ孔132bおよび第2ねじ孔132cを備える。
なお、ここでは支持棒132を円柱状の棒としたが、角柱状の棒など他の形状であってもよい。さらに説明をすると、支持棒132の断面形状は、円形に限らず、例えば楕円形や多角形など、いかなる形状であってもよい。
【0025】
<移動体133>
図4に示すように、本体および中空部材の一例である移動体133は、自身の内部に空間133aを形成するとともに、先端側が開放され、根元側が覆われた有底円筒状の部材である。この移動体133は、先端側に位置するスライド支持部133bと、スライド支持部133bよりも根元側に位置する被固定部133cとを備える。ここで、被固定部133cの外周面には周方向に沿ってねじ溝133tが形成されている一方で、スライド支持部133bの外周面にはねじ溝133tは形成されていない。なお、この被固定部133cは、ねじ溝133tが形成される領域の一例である。
【0026】
また、
図4に示すように、スライド支持部133bは、先端側から軸方向に延びるスリット133eを備える。図示の例においては、周方向において、複数(6つ)のスリット133eが、互いに離間して(並べて)形成されている。言い替えると、スライド支持部133bは、スリット133eが複数(6つ)形成されていることにより、小片部133fを複数(6つ)備えた構成である。この小片部133fは、周方向において互いに離間して(並べて)形成されている。
【0027】
また、
図5(c)に示すように、移動体133は、根元側の面の中央に形成された第3凹部133mと、第3凹部133mと空間133aとを連続させる貫通孔133nとを備える。
【0028】
また、スライド支持部133bは、被固定部133cの外径と一致する(対応する)外径である。また、スライド支持部133bは、被固定部133cと比較して、内部に形成される空間133aの径が大きい拡径部133dを備える。したがって、スライド支持部133bは、被固定部133cと比較して、径方向の厚みが薄く、径方向においてより弾性変形しやすい。
ここで、
図6(a)に示すように、複数の小片部133fの各々は、弾性変形することにともない、スライド支持部133bの径方向に移動可能である(図中矢印参照)。さら説明をすると、スライド支持部133bは、その外径が変化可能(収縮可能)に構成されている。
【0029】
再び
図4に戻ると、本実施形態の被固定部133cは、周方向において、ねじ溝133tが形成された部分と、ねじ溝133tがされていない部分とを有する。すなわち、ねじ溝133tは、周方向において不連続である。
図6(b)を参照しながらさらに説明をすると、被固定部133cは、周方向において互いに隣接する位置にねじ部133gおよび平坦部133hを備える。ここで、ねじ部133gは、被固定部133cにおけるねじ溝133tが形成された領域であるのに対して、平坦部133hは、被固定部133cにおけるねじ溝133tが形成されていない領域である。この平坦部133hは、ねじ溝133tが連続しない不連続部の一例である。
【0030】
平坦部133hは、所謂Dカットに相当する部分であり、被固定部133cの外周面に形成された平面部である。言い替えると、平坦部133hは、長手方向が軸方向に沿って延びる略平面状の領域である。ここで、平坦部133hは、例えばねじ部133gよりも凹凸が少ない部分として捉えることができる。また、平坦部133hは、移動体133を支持体134に対して固定するための力を生じさせない領域として捉えることができる。付言すると、平坦部133hの長手方向が軸方向に沿うことにより、平坦部133hを形成する作業が容易となる。
【0031】
さて、
図6(b)に示すように、被固定部133cは、それぞれ複数(4つ)のねじ部133gおよび平坦部133hを周方向に交互に並べて備える。また、図示の例においては、ねじ部133gの各々は、移動体133の中心軸を挟んで互いに対向する位置に配置されている。また、平坦部133hの各々は、移動体133の中心軸を挟んで互いに対向する位置に配置されている。さらに、図示の例における周方向長さとしては、ねじ部133gよりも平坦部133hの方が長い。
なお、図示の例のように、移動体133において平坦部133hが周方向に複数(4つ)並べて構成されることにより、例えば周方向長さがこの4つの平坦部133hの総和と等しい1つの平坦部(不図示)を形成する構成と比較して、移動体133と支持体134との電気的な接続が安定して維持され得る。また、移動体133と支持体134との相対位置がずれることが抑制され得る。
【0032】
<支持体134>
図4および
図5(d)に示すように、支持体134は、自身の内部に空間134aを形成するとともに、先端側の一部が覆われ、根元側が開放された円筒状の部材である。
この支持体134は、先端側の面の中央に移動体133の外径と対応する寸法で形成された貫通孔134bを備える。また、支持体134は、この貫通孔134bの内周面に周方向に沿って形成され、移動体133のねじ溝133tと噛み合うねじ溝134tを備える。なお、このねじ溝134tは、他のねじ溝の一例である。
【0033】
また、支持体134は、根元側の外周面に形成されたフランジ部134cと、このフランジ部134cを軸方向に貫通するねじ溝134dとを備える。また、図示の例においては、支持体134は、軸方向における先端側の縁134eがアール(R)状に加工されている。
さらに、支持体134は、先端側を覆う面に、ねじ孔134fを複数備える。このねじ孔134fは、空間134aに対峙する側の面にて周方向に沿って形成される。このねじ孔134fは、根元側から先端側に向けて延びるように形成される。
【0034】
ここで、
図4および
図5(d)に示すように、支持体134の外周面には、ねじ溝134tは形成されていない。
また、支持体134に形成された貫通孔134bの内周面には、ねじ溝134tが形成されている一方で、貫通孔134bよりも根元側に位置する支持体134の内周面には、ねじ溝134tは形成されていない。なお、図示の例における空間134aの内径は、貫通孔134bの内径よりも大きい。
さらに、貫通孔134bの内周面に形成されるねじ溝134tは、周方向において連続して形成される。さらに説明をすると、貫通孔134bの内周面は、上記移動体133の被固定部133cとは異なり、周方向におけるねじ溝133tの不連続部を有しない。
【0035】
<固定板135>
図4および
図5(e)に示すように、固定板135は、円環状の板状部材である。この固定板135の内径は、移動体133の外径と対応する寸法で形成されている。
また、固定板135は、内周面135aにて周方向に沿って形成され、移動体133のねじ溝133tと噛み合うねじ溝135tを備える。なお、このねじ溝135tは、周方向において連続して形成される。
また、固定板135は、軸方向に貫通する貫通孔135bを周方向に沿って複数備える。なお、この貫通孔135bは、各々支持体134のねじ孔134fと対峙する位置に形成される。
【0036】
<内導体13における各部材の関係>
次に、
図3乃至
図5を参照しながら、内導体13が組み立てられた状態における、内導体13を構成する各部材どうしの位置関係について説明をする。
まず、先端部131は、移動体133の開放された先端側を覆うように配置される。このとき、先端部131は、移動体133の先端において、軸方向の位置を変位可能に設けられる。
【0037】
具体的には、先端部131の第2凹部131d内に、移動体133のスライド支持部133bが挿入される。このことにより、スライド支持部133bが、先端部131を軸方向でスライド可能に支持される。
なお、上記では説明を省略したが、先端部131の第2凹部131dの内径およびスライド支持部133bの外径は、スライド支持部133bが第2凹部131d内に挿入(配置)された状態で、先端部131が径方向に移動することが制限され、かつ軸方向に移動可能となる寸法である。
また、上述のように小片部133fが径方向に弾性変形することにより、スライド支持部133bが軸方向にスライド移動する際の抵抗が低減される。
付言すると、先端部131の第2凹部131d内に、移動体133のスライド支持部133bが挿入されることにより、スライド支持部133bに対する先端部131の相対位置が安定する。
【0038】
さて、先端部131および移動体133は、それぞれ支持棒132の両端にボルト(固定具、不図示)を介して固定される。
具体的には、ボルト(不図示)が、先端部131の先端側(第1凹部131c側)から貫通孔131eを通り第2凹部131d側まで貫通して配置される。そして、このボルトの先端を、支持棒132の先端側に形成された第1ねじ孔132b内に挿入することで、先端部131が支持棒132に対して固定される(接続される)。
また、他のボルト(不図示)が、移動体133の根元側(第3凹部133m側)から貫通孔133nを通り空間133a側まで貫通して配置される。そして、このボルト(不図示)の先端を、支持棒132の根元側に形成された第2ねじ孔132c内に挿入することで、移動体133が支持棒132に対して固定される。
【0039】
なお、支持棒132は、ボルト(不図示)を介して、移動体133に対して固定されている状態である。この支持棒132は、移動体133におけるスライド支持部133bとは反対側の端部、言い替えると、移動体133の底部側に対して固定されている。ここで、移動体133の底部とは、中空部材として形成される移動体133の一端を覆う部分に限定されるものではなく、移動体133の一部分であって、移動体133の長手方向の中央を挟んで、スライド支持部133bとは反対側に位置する部分であればよい。
【0040】
また、移動体133は、根元側が支持体134内に挿入されるとともに、支持体134に対する軸方向における位置が変位可能となるように設けられる。
具体的には、移動体133の根元側が、支持体134の貫通孔134b内に挿入される。ここで、移動体133の外周面に形成されたねじ溝133tが、支持体134の貫通孔134bの内周面に形成されたねじ溝134tと噛み合わせられる。そして、この状態において、移動体133を周方向に回転させることにより、移動体133および支持体134の軸方向における相対位置が変化する。
【0041】
なお、本実施の形態においては、支持体134が空洞11内に設けられるとともに、支持体134の先端側で移動体133を支持する。このことにより、移動体133が、外導体12の支持面部123よりも外側に突出する量が抑制される。
また、支持体134は、移動体133の根元側の外周(移動体133の一部)を覆う構成として捉えることができる。そして、上述のように、支持体134が移動体133の一部を覆うことにより、移動体133に形成されたねじ溝133tが、空洞11内に挿入される面積が抑制される。
【0042】
また、上記のように、移動体133には平坦部133hが形成されており、移動体133のねじ溝133tは周方向において一部連続していないのに対して、支持体134のねじ溝134tは周方向で連続して円環状に形成されている。このことにより、例えば図示の例とは異なり、支持体134のねじ溝134tが周方向において一部連続していない構成を採用した場合に生じ得る、軸方向における変位が抑制される。
さらに説明をすると、このように支持体134のねじ溝134tが連続しない構成においては、移動体133の周方向に回転させた結果の取付角度によっては、支持体134のねじ溝134tが形成されてない部分と、移動体133のねじ溝133tが形成されていない部分(平坦部133h)とが対峙した状態となり得る。この場合、ねじ溝133tとねじ溝134tとが噛み合わず、支持体134と移動体133との軸方向における相対位置がずれる可能性がある。本実施の形態においては、この軸方向における位置ずれを抑制するべく、支持体134のねじ溝134tが周方向に連続して形成されている。
【0043】
さて、移動体133の根元側が支持体134内に挿入され、移動体133の軸方向における位置調整(詳細は後述)が完了した状態において、移動体133および支持体134に対して、固定板135が取り付けられる。このことにより、移動体133が支持体134に対して変位することが抑制される。
【0044】
具体的には、貫通孔134bを介して空間134a内に挿入された移動体133に固定板135が取り付けられ、移動体133のねじ溝133tと、固定板135のねじ溝135tとが噛み合せられる。そして、このねじ溝133tとねじ溝135tとが噛み合った状態にて、ボルト(不図示)を、固定板135の貫通孔135bを貫通させた上で、支持体134のねじ孔134fに挿入し固定する。このことにより、固定板135およびボルトを介して、移動体133が周方向に移動する(回転する)ことが抑制される。
なお、
図3(b)に示すように、支持体134と固定板135とは、軸方向において離間した状態で固定される。よって、移動体133は、所謂ダブルナットで固定されたような状態となる。また、固定板135は、回転抑制部材の一例である。
【0045】
さて、上記では説明を省略したが、内導体13は、支持体134を介して外導体12に対して固定される。
具体的には、
図3(b)に示すように、ボルト(不図示)を外導体12の支持面部123に形成されたねじ孔(不図示)へと挿入し、さらに内導体13の支持体134に形成されたねじ溝134dに挿入し固定する。このことにより、支持体134(内導体13)が外導体12に対して固定される。
【0046】
<材質>
次に、共振器10を構成する材料の一例について説明する。
外導体12は、導電性材料である金属、具体的には、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)などにより構成されている。
また、内導体13における支持棒132および固定板135以外の部材、すなわち、先端部131、移動体133、および支持体134は、導電性材料である金属、具体的には、アルミニウム、鉄、銅などにより構成されている。また、これらの金属に対して、銀(Ag)などによるメッキ処理を施して構成されてもよい。
【0047】
一方で、支持棒132は、外導体12、先端部131、移動体133、支持体134、および固定板135(以下、外導体12などということがある)と比較して、熱膨張率(線膨張率)が小さい材料で構成されている。例えば、支持棒132は、外導体12などを構成するアルミニウム、鉄、銅などよりさらに熱膨張率が小さい金属材料、具体的には、インバー(登録商標)(不変鋼)、炭素鋼などで構成される。
なお、支持棒132は、外導体12などよりも、温度変化にともなう変形量が小さければよく、上記の材質を組み合わせた構成などにより構成されてもよい。
また、固定板135は、本実施の形態では金属(具体的には、アルミニウム、鉄、銅など)で構成されるが、確実な固定が出来ればよく、金属以外の他の材料(具体的には、樹脂など)であってもよい。
【0048】
<共振器10の共振周波数の調整>
図7(a)および(b)は、通過周波数帯域が異なる場合の共振器10を示す図である。さらに説明をすると、
図7(a)は周波数帯域が低い(低周波数帯域)場合、
図7(b)は周波数帯域が高い(高周波数帯域)場合を示す。
なお、
図7(a)に示すように、外導体12内の空洞11は一辺長が長さLr、高さHrとする。また、内導体13を構成する各部材の寸法は、先端部131の外径D1、移動体133の外径D2、支持体134本体の外径D3、固定板135の外径D4とする。
また、外導体12の支持面部123から内導体13の先端部131の先端までを距離h1、内導体13の先端部131の先端から外導体12の対向面部121までを距離h2とする。また、支持体134の先端から支持棒132の先端までの軸方向における距離をh3、支持体134の先端から支持棒132の根元までの軸方向における距離をh4とする。また、支持体134の先端から先端部131の先端までの軸方向における距離をh5、支持面部123から支持体134の先端までの軸方向における距離をh6とする。
また、本実施の形態では、低周波数帯域をLF、高周波数帯域をHFと表記することがある。
【0049】
次に、
図7を参照しながら、共振器10における共振周波数の調整について説明をする。
まず、共振器10の寸法について説明をする。
本実施の形態における共振器10では、外導体12が囲む空洞11の長さLr、高さHr、先端部131の外径D1、移動体133の外径D2、支持体134の本体の外径D3、固定板135の外径D4は、使用する周波数帯域が異なっても、同じ(固定)である。
一方、距離h1乃至h6は使用する周波数帯域に基づいて変更される。さらに説明をすると、本実施の形態における共振器10においては、距離h1を設定することにより、使用する周波数帯域が変更できる。また、詳細は後述するが、本実施の形態における共振器10においては、距離h1を調整することにより、使用する周波数帯域において周波数の温度ドリフトが抑制される。
【0050】
なお、共振器10の空洞11は、例えば、一辺長の長さLrが120mm、高さHrが150mmである。また、先端部131の外径D1が45mm、移動体133の外径D2が35mm、支持体134の本体の外径D3が50mm、固定板135の外径D4が46mmである。
【0051】
さて、
図7(a)に示す低周波数帯域の場合における距離h1(LF)は、
図7(b)に示す高周波数帯域の場合の距離h1(HF)に比べ、大きく設定される。すなわち、低周波数帯域の場合における距離h2(LF)は、高周波数帯域の場合の距離h2(HF)より小さい。
そして、本実施の形態では、外導体12の支持面部123から先端部131の先端までの距離h1を可変にすることにより、使用する周波数帯域を変化させることができる。
【0052】
ここで、距離h1は、シミュレーション(電磁界解析)により、使用する周波数帯域に基づいて求められる。付言すると、距離h1は、使用する周波数帯域および予め定められた温度範囲における温度変化にともなう熱収縮又は熱膨張によって、外導体12などが変形する量(詳細は後述)などに基づいて求められる。
なお、距離h2乃至h6は、距離h1を設定することで決定される。このことから、距離h2乃至h6のいずれかをシミュレーションにより求め、その結果に基づいて距離h1を決定してもよい。
【0053】
<共振器10の調整方法>
さて、ここで共振器10の調整方法を説明する。
まず、前提として、共振器10の調整する際には、移動体133および支持体134に対して、固定板135が取り付けられていない状態である。
そして、共振器10が使用される周波数帯域が決まると、移動体133の軸方向における位置調整を行いながら、予めシミュレーションにより求められた距離h1となるように内導体13を配置する。このとき、移動体133を周方向に回転させる(捩じる)ことにより、距離h1が調整される。
なお、距離h1は、距離h5および距離h6の和により定まる。また、距離h6は、支持体134の寸法により定まる固定値である。したがって、例えば、移動体133を捩じりながら距離h5を測定しながら、シミュレーションにより求められた位置に内導体13が配置される。
【0054】
そして、移動体133の軸方向における位置調整が完了した状態において、移動体133および支持体134に対して、上述のように固定板135およびボルト(不図示)が取り付けられる。このことにより、移動体133が支持体134に対して変位することが抑制される。
以上により、共振器10の設定が行われ、共振器10が使用される周波数帯域への対応が完了する。
【0055】
なお、
図2に示すフィルタ100において、共振器10−1〜10−6各々の距離h1は、通過周波数帯域などのフィルタ100の特性によって、互いに異なるように設定されてもよい。
また、共振器10が使用される周波数帯域を再調整する場合には、固定板135およびボルト(不図示)を外し、移動体133を周方向に回転させ所望の位置に配置した後、移動体133を再び固定板135およびボルトを介して固定する。このように、本実施の形態における共振器10は、周波数帯域を容易に変更可能である。
【0056】
<機械的振動>
さて、上述のように、本実施の形態においては、移動体133の外周面と、支持体134の貫通孔134bの内周面とに、ねじ溝133tおよびねじ溝134tをそれぞれ形成し、互いに噛み合わせるとともに、固定板135でそれらを固定する。
このことにより、内導体13と外導体12との電気的接触が確保された状態で、共振器10が機械的な振動に耐えることが可能となる。すなわち、共振器10(フィルタ100)の耐震性が向上するとともに、内導体13と外導体12との接触抵抗が低減される。また、内導体13を回転させることにより、移動体133が軸方向に滑らかに移動し、かつその位置が固定されるものであることから、移動体133の突出量(距離h5参照)の調整および移動体133の固定が容易となる。
【0057】
ここで、本実施の形態とは異なり、内導体13を可変で支持する構造としては、外導体12に対して固定された弾性変形支持部材である所謂フィンガー(不図示)を用いる態様が考えられる。さらに説明をすると、このフィンガーによって内導体13の外周を押圧しながら内導体13を支持することにより、フィンガーを介して内導体13と外導体12との電気的な接触が確保され、かつ内導体13の位置を滑らかに変化させることができる。
しかしながら、このフィンガーを用いた態様においては、フィンガーの弾性力により内導体13の外周面を押圧し、この外周面とフィンガーとの間の摩擦力で内導体13を固定するため、機械的な振動が加わった際に、内導体13の位置がずれ得る。したがって、他の固定部材等で、内導体13を固定する必要がある。
そこで、本実施形態においては、このフィンガーの態様と比較して、機械的な振動に耐え得るよう、移動体133の外周面と、支持体134の貫通孔134bの内周面とが対向する領域にねじ溝133t、134tを設けることとした。
【0058】
<Qu値低下の抑制>
さて、上述のように、移動体133の外周面には、ねじ溝133tが設けられる。すなわち、移動体133が雄ねじ状に形成される。このことにより、内導体13全体の表面抵抗が大きくなり、結果としてQu値の低下につながり得る。
そこで、本実施の形態の移動体133の外周面においては平坦部133hが設けられる。この平坦部133hが形成されていることにより、平坦部133hが形成されていない構成、すなわち移動体133の被固定部133c全周にわたってねじ部133gが形成されている構成と比較して、Qu値の低下が抑制される。
【0059】
なお、この平坦部133hが形成されていることによりQu値の低下が抑制されるメカニズムとしては、例えば次のことが考えられる。すなわち、平坦部133hが形成されると、移動体133(被固定部133c、内導体13)の表面積が狭くなり、軸方向における電気経路が短くなる。これは表皮効果によるものであり、このことにより、内導体13全体の電気抵抗が小さくなり、Qu値の低下が抑制される。すなわち、良好なQu値が得られ、結果として通過損失も低減できる。
【0060】
ここで、移動体133の外周面にねじ溝133tを形成すること、および平坦部133hを形成することについてのシミュレーション結果について説明をする。まず、本実施の形態とは異なり、移動体133の外周面にねじ溝133tを形成しない場合、すなわち移動体133を円柱状とした場合のQu値は、約9500となった。
また、本実施の形態とは異なり移動体133の全周にねじ溝133tを形成する場合、すなわち移動体133の外周面にねじ溝133tを形成し、かつ平坦部133hを形成しない場合のQu値は、約7500となった。
一方で、本実施の形態の移動体133、すなわち移動体133の外周面にねじ溝133tを形成し、かつ平坦部133hを形成する場合、Qu値は、約8100となった。
このシミュレーション結果から、平坦部133hを形成することにより、平坦部133hを形成しない場合と比較して、Qu値の低下が抑制されることが確認された。
【0061】
<温度補償>
図8(a)乃至(c)は、共振器10における温度補償を説明する図である。
図8(a)は、本実施の形態とは異なり内導体13が外導体12に固定されている共振器101を示す図、
図8(b)は、本実施の形態であり内導体13が外導体12に対して移動できる構成として温度補償している共振器10を示す図、
図8(c)は、周波数fの温度ドリフトをSパラメータS11により説明する図である。
なお、
図8(a)および(b)において表記する白抜き矢印および黒塗り矢印は、共振器10が温度T0から温度(T0−ΔT)となった場合、すなわち、温度が低下した場合における外導体12及び内導体13の変化(収縮の方向)を示している。
【0062】
次に、
図8を参照しながら、周波数の温度ドリフトを抑制する温度補償について説明する。
まず、
図8(a)に示す本実施の形態とは異なる共振器101について説明をする。この共振器101においては、外導体12の支持面部123に内導体13が固定されている。そして、この共振器101には、先端部131、支持棒132、移動体133、支持体134、および固定板135は設けられておらず、内導体13の位置は調整できない。
この場合、温度T0から温度(T0−ΔT)となると、外導体12及び内導体13が熱膨張率にしたがって収縮し、図中の白抜き矢印の方向に移動する。このとき、空洞11の大きさは小さくなり、距離h1も小さくなる。その結果、
図8(c)に示すように、中心周波数f0は、中心周波数f0′にシフトする。これが、周波数の温度ドリフトである。
【0063】
次に、
図8(b)に示す本実施の形態における共振器10について説明をする。この共振器10においては、上述のように、内導体13の先端部131が、移動体133に対して軸方向でスライド可能に設けられている。また、先端部131は、支持棒132に接続されている。そして、前述したように、支持棒132の熱膨張率は、外導体12などの熱膨張率に比べて小さい。
【0064】
したがって、
図8(b)に示す構成においても、
図8(a)に示す構成と同様に、温度T0から温度(T0−ΔT)となると、熱収縮によって、外導体12は、収縮する(白抜き矢印の方向に移動する)。また、移動体133および支持体134も軸方向において収縮する(白抜き矢印の方向に移動する)。
ここで、支持棒132も軸方向において収縮する。しかしながら、支持棒132の熱膨張率は小さいため、支持棒132は、移動体133と比較して、軸方向における収縮する長さ(変形量)が短くなる。この変形量の差により、支持棒132が、内導体13の先端部131を空洞11の内部に押し込める(入り込む)方向に移動させる(黒塗り矢印の方向に移動する)。言い替えると、熱膨張率が小さい支持棒132が、内導体13の内部でお押し出す状態となる。
【0065】
したがって、仮に熱収縮によって、移動体133及び支持体134が収縮(白抜き矢印の方向に移動)しても、支持棒132により内導体13の先端部131を空洞11の内部に押し込める(入り込む)方向に移動させる(黒塗り矢印の方向に移動する)ため、距離h1が小さくなることが抑制される。
その結果、中心周波数f0は中心周波数f0′にシフトせず、中心周波数f0を維持する。
【0066】
さて、
図8(b)に示す構成において温度T0から温度(T0+ΔT)変化する場合、すなわち温度が上昇する場合は、上記の説明とは逆になる。すなわち、外導体12は膨張し、移動体133の膨張に伴い、熱膨張率が小さい支持棒132により、内導体13の先端部131が空洞11の内部から押し出される(出ていく)方向に移動する。つまり、距離h1が大きくなることが抑制される。これにより、中心周波数f0はシフトせず、中心周波数f0を維持する。
【0067】
このように、支持棒132の熱膨張率を、特に、外導体12および移動体133より小さくすることにより、温度が低下した場合には、内導体13の先端が空洞11に押し込まれる方向(黒塗り矢印の方向)に移動し、温度が上昇した場合には、内導体13の先端が空洞11から押し出される方向(白抜き矢印の方向)に移動することにより、周波数の温度ドリフトが抑制される。
なお、温度変化によって、内導体13が空洞11に対して移動する量は、例えば−10℃から45℃などの予め定められた温度範囲において、周波数の温度シフトが抑制されるように設定される。
【0068】
<周波数帯域と温度補償量との関係>
図9(a)および(b)は、共振器10における通過周波数帯域と温度補償量との関係を説明する図である。さらに説明をすると、
図9(a)は周波数帯域が低い(低周波数帯域)場合、
図9(b)は周波数帯域が高い(高周波数帯域)場合を示す。
次に、
図9を参照しながら、共振器10における周波数帯域と温度補償量との関係を説明する。言い替えると、共振器10における移動体133の軸方向における移動にともなう、温度補償量の変化について説明をする。
【0069】
まず、上述のように、低周波数帯域の場合における距離h1(LF)は、高周波数帯域の場合の距離h1(HF)に比べ、大きく設定される。このことにより、高周波数帯域の場合の距離h3(HF)は、低周波数帯域の場合における距離h3(LF)に比べ、小さくなる。また、高周波数帯域の場合の距離h4(HF)は、低周波数帯域の場合における距離h4(LF)に比べ、大きくなる。
【0070】
次に、
図9(a)および(b)に示す配置において、共振器10が温度T0から温度(T0−ΔT)となった場合、すなわち、温度が低下した場合を考える。この温度低下により、移動体133よりも変形量は小さいものの、支持棒132も収縮する。
ここで、高周波数帯域の場合の距離h3(HF)は、低周波数帯域の場合における距離h3(LF)に比べ、小さい。したがって、同じ温度(ΔT)だけ低下したとしても、距離h3の変形量は、長さがより短い高周波数帯域の場合の方が小さくなる。その結果、高周波数帯域の場合の方が、低周波帯域の場合に比べて、距離h1の変化を抑制する。言い替えると、高周波数帯域であるほど、熱変形の影響を打ち消す向きの作用が大きくなり、結果として、温度補償の量が大きくなる。
【0071】
なお、移動体133の配置についての観点から温度補償量の変化を捉えることもできる。
まず、移動体133は、支持体134によって軸方向中程(軸方向における中間位置)が支持されている状態である。そのため、温度低下にともない移動体133が収縮すると、移動体133の根元側の端部は、先端側へ向かう向きに移動する(白抜き矢印の方向に移動する)。
ここで、
図9(a)および(b)に示すように、高周波数帯域の距離h4(HF)は、低周波帯域の距離h4(LF)よりも大きい。言い替えると、移動体133における根元側の長さ、すなわち移動体133における根元側の端部から支持体134の先端までの軸方向長さは、高周波数帯域の方が長い。そのため、同じ温度(ΔT)だけ低下したとしても、根元側の長さの変化量は、高周波数帯域の場合の方が大きくなる。その結果、移動体133の根元側の端部は、高周波数帯域の場合の方が、先端側へ向かう向きに大きく移動する。
【0072】
このとき、移動体133の根元側の端部に固定される支持棒132は、高周波数帯域の場合の方が、低周波帯域の場合に比べて、先端部131が空洞11の内部に押し込められる(入り込む)向きに、より大きく移動する。その結果、高周波数帯域の場合の方が、低周波帯域の場合に比べて、距離h1の変化を抑制する。言い替えると、高周波数帯域であるほど、熱変形の影響を打ち消す向きの作用が大きくなり、結果として、温度補償の量が大きくなる。
【0073】
<先端部131のスライド移動>
図10(a)および(b)は、先端部131のスライド移動を説明するための図である。さらに説明をすると、
図10(a)は本共振器10を調整したときの温度に比べて高温の場合、
図10(b)は本共振器10を調整したときの温度に比べて低温の場合を示す。また、
図10(a)および(b)における周波数帯域は同一であるものとする。
次に、
図10を参照しながら、先端部131のスライド移動について説明をする。
【0074】
まず、本実施の形態においては、上述のように、先端部131は移動体133および支持棒132と接続する。そして、支持棒132によって、先端部131と移動体133との軸方向における距離を変化させることにより、温度補償を実行する。
具体的に説明をすると、
図10(a)および(b)に示すように、温度に応じて、先端部131の移動体133側(根元側)の面131rと、移動体133の先端部131側(先端側)の面133rとの距離が変化する。なお、この距離は、低温の場合(
図10(b)参照)の方がより大きくなる。
【0075】
ここで、先端部131と移動体133との軸方向における距離を変化させる際には、上述のように、先端部131の内周面である第2凹部131d(
図5(a)参照)が、移動体133のスライド支持部133bの外周面によって支持されている状態で、先端部131がスライド移動する。
また、本実施の形態においては、スライド支持部133bの外周面にはねじ溝133tなどの凹凸が形成されていない。また、スライド支持部133bは、径方向に弾性変形する。その結果、先端部131のスライド移動を滑らかに行うことが可能となる。そして、スライド移動が滑らかに行われることにより、温度補償が確実に実行され、結果として共振周波数の調整が容易となる。また、スライド支持部133bの弾性変形により、先端部131と移動体133との電気的な接続が安定して維持される。
なお、支持棒132の軸方向長さは、所望の温度補償を実行するために、先端部131と移動体133との軸方向において必要とされる距離に基づいて定めることができる。
【0076】
<BPF特性>
図11は、フィルタ100において、中心周波数f0を474MHzに設定した場合(低周波数帯域)の減衰量の温度変化を示す図である。
図12は、フィルタ100において、中心周波数f0を850MHzに設定した場合(高周波数帯域)の減衰量の温度変化を示す図である。
なお、
図11および
図12においては、
図2に示すように、共振器10を6個連結させたフィルタ100を用いた。
【0077】
次に、
図11および
図12を参照しながら、
図2に示したフィルタ100における減衰量の温度変化の測定結果について説明をする。
ここで、
図11および
図12においては、フィルタ100として、
図3に示した共振器10を6個連結させた構成が用いられている(
図2参照)。また、ここでは、
図11および
図12においては、温度を23℃、−10℃、45℃、23℃と順に変化させている。
【0078】
図11に示すように、中心周波数f0を474MHzに設定した低周波数帯域の場合に、上記の温度範囲で、減衰量はほとんど変化がなく、通過周波数帯域(470〜478MHz)の変動(温度ドリフト)もほとんど見られない。
【0079】
また、
図12に示すように、中心周波数f0を850MHzに設定した高周波数帯域の場合に、上記の温度範囲で、減衰量は、やや変動を示しているが、通過周波数帯域(846〜856MHz)の変動(温度ドリフト)はほとんど見られない。
【0080】
以上
図11および
図12に示したように、
図3に示した共振器10を用いたフィルタ100では、中心周波数f0が474MHz〜850MHzの広帯域において、−10℃から+45℃の温度範囲における高い温度安定性が得られていることが確認された。
【0081】
<共振器特性>
図13は、共振器10単体において、中心周波数f0を863MHzに設定した場合(高周波数帯域)の減衰量の温度変化を示す図である。
次に、
図13を参照しながら、
図3に示した共振器10単体における減衰量の温度変化の測定結果について説明をする。
なお、上記の
図11および
図12においては、共振器10を6個連結させたフィルタ100を用いたのに対して、
図13においては共振器10が1個のみで構成されている。また、上記の
図11および
図12と同様に、温度を23℃、−10℃、45℃、23℃と順に変化させている。
【0082】
図13に示すように、上記の温度範囲において、減衰量はほとんど変化がなく、温度ドリフトもほとんど見られない。したがって、共振器10の高い温度安定性が得られている。
そして、前述したように、この共振器10は、高電力の信号を扱えるとともに、小型化が達成されている。
【0083】
<変形例>
図14(a)乃至(c)および
図15(d)乃至(f)は、本実施の形態における変形例を説明する図である。
次に、
図14および
図15を参照しながら、本実施の形態における変形例について説明をする。なお、以下の説明においては、上記の構成と同様の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
上記において、
図1乃至
図13を参照しながら本実施の形態のフィルタ100について説明をしたが、フィルタ100においては様々な変形例が考えられる。
【0084】
まず、上記の説明においては、平坦部133hが、軸方向に沿って直線状に延びることを説明したが、これに限定されない。
例えば、
図14(a)に示す移動体1330のように、ねじ部1330gと、軸方向において連続しない平坦部1330hとを備える構成であってもよい。
また、例えば、
図14(b)に示す移動体1331のように、ねじ部1331gと、移動体1331の外周面を旋回するようにらせん状に形成された平坦部1331hとを備える構成であってもよい。
【0085】
また、上記の説明においては、平坦部133hが、周方向に沿って複数形成されることを説明したが、これに限定されない。
例えば、
図14(c)に示す移動体1332のように、周方向において1つの平坦部1332hを備える構成であってもよい。この移動体1332においては、周方向において1つのねじ部1332gが形成される。なお、図示の例における周方向長さとしては、ねじ部1332gの方が平坦部1332hよりも長い。
ここで、図示は省略するが、ねじ部133gおよび平坦部133hの個数が、それぞれ2、3、あるいは5以上であってももちろんよい。また、ねじ部133gおよび平坦部133hの個数に関わらず、周方向長さは、全てのねじ部133gの総和、および全ての平坦部133hの総和が、等しくてもよいし、いずれか一方の方が長くてもよい。
【0086】
また、上記の説明においては、平坦部133hが、平坦な面であることを説明したが、これに限定されない。図示は省略するが、平坦部133hは、ねじ溝133tが形成されていなければよく、例えば湾曲面や凹凸を備える面として構成されてもよい。
【0087】
また、上記の説明においては、スライド支持部133bがスリット133eを周方向に複数設けることを説明したが、これに限定されない。図示は省略するが、例えば、スリット133eを1つ備える構成であってもよい。
あるいは、
図15(d)に示す移動体1334のように、スリット133eを備えない構成であってもよい。この構成においては、例えばスライド支持部1334bを、例えば弾性率が高い部材により形成する構成や、厚みが薄い形状とすることにより、スライド支持部1334bの外径が変化可能となる。
【0088】
さて、上記の説明においては、内導体13は、先端部131、支持棒132、移動体133、支持体134、および固定板135を備える構成であることを説明したが、これに限定されない。
例えば、
図15(e)に示す内導体130のように、支持体134を備えない構成としてもよい。この支持体134を備えない共振器103においては、外導体1210の支持面部1230には、内導体130を挿入する開口部1240が形成される。また、この開口部1240の内周面1241にねじ溝1241tが形成される。
そして、開口部1240のねじ溝1241tと、移動体1335のねじ部1335gのねじ溝133tとが噛み合うことにより、移動体1335が、機械的な振動に耐えつつ、移動体1335の軸方向における位置を調整することが可能となる。
【0089】
あるいは、
図15(f)に示す内導体140のように、支持棒132を備えない構成としてもよい。この支持棒132を備えない共振器105においては、先端部1316および移動体1336が、別部材ではなく、一体の部材として構成されている。なお、
図15(f)に示す内導体140とは異なり、上記の先端部131および移動体133のように、先端部131が移動体133とを別部材として構成するとともに、例えばボルトなど周知の固定具により互いに固定される構成であってもよい。
【0090】
さらに、図示は省略するが、移動体133の外周面にねじ溝133tを備えない構成であってもよい。すなわち、例えば上述の内導体13などとは異なり、ねじ溝133tを備えない移動体(不図示)と、この移動体の先端に設けられた先端部131と、この移動体および先端部131のそれぞれに両端が接続された支持棒132を備えるよう内導体(不図示)を構成してもよい。
【0091】
さて、上記では種々の実施形態および変形例を説明したが、これらの実施形態や変形例どうしを組み合わせて構成してももちろんよい。
また、本開示は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。
【解決手段】本発明の共振器は、内部に空洞を形成する外導体と、外導体の空洞内に突出して設けられるとともに空洞内における位置が調整可能である内導体13とを備える。ここで、内導体13は、内導体13の外周面において内導体13の周方向に沿って形成され、位置の調整を可能にするねじ溝133tを有する。さらに、ねじ溝133tが形成される領域である被固定部133cは、周方向においてねじ溝133tが連続しない不連続部として平坦部133hを有する。