(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5934854
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】減粘剤及びこれを用いた黒液濃縮方法
(51)【国際特許分類】
D21C 11/10 20060101AFI20160602BHJP
【FI】
D21C11/10
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-162975(P2012-162975)
(22)【出願日】2012年7月23日
(65)【公開番号】特開2014-19993(P2014-19993A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106438
【氏名又は名称】サンノプコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112438
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 健一
(72)【発明者】
【氏名】松村 陽平
(72)【発明者】
【氏名】島林 克臣
【審査官】
平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−339290(JP,A)
【文献】
特表平11−502268(JP,A)
【文献】
特開昭62−41390(JP,A)
【文献】
特開平9−208853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00〜 1/38
D21C 1/00〜11/14
D21D 1/00〜99/00
D21F 1/00〜13/12
D21G 1/00〜 9/00
D21H11/00〜27/42
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフトパルプの製造で副生する黒液を濃縮する黒液濃縮工程で黒液に添加する減粘剤であって、
尿素、第4級アンモニウム塩及びアルカノールアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする減粘剤。
【請求項2】
クラフトパルプの製造で副生する黒液に、尿素、第4級アンモニウム塩及びアルカノールアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種を添加して、黒液を濃縮することを特徴とする黒液濃縮方法。
【請求項3】
尿素、第4級アンモニウム塩及びアルカノールアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の添加量が、黒液の固形分に基づいて、0.005〜3重量%である請求項2に記載の黒液濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は減粘剤及びこれを用いた黒液濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラフトパルプの製造で副生する黒液は燃料としての使用やアルカリの回収等のために、回収後、まず、固形分濃度が60〜80重量%程度になるまで濃縮される。この黒液濃縮工程において、濃縮効率を向上させるための助剤として、「非イオン性界面活性剤及び硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤を含有する黒液濃縮助剤」が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−179917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の黒液濃縮助剤は、減粘効果が不十分であり、十分な濃縮効率を発揮しないという問題がある。本発明は黒液の粘度を大幅に低下できる黒液の減粘剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の減粘剤の特徴は、クラフトパルプの製造で副生する黒液を濃縮する黒液濃縮工程で黒液に添加する減粘剤であって、
尿素、第4級アンモニウム塩及びアルカノールアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる点を要旨とする。
【0006】
本発明の黒液濃縮方法の特徴は、クラフトパルプの製造で副生する黒液に、尿素、第4級アンモニウム塩及びアルカノールアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種を添加して、黒液を濃縮する点を要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の減粘剤は、黒液の粘度を大幅に低下できるので、黒液の濃縮効率を向上できる。したがって、少ないエネルギーで効率よく黒液を所定濃度まで濃縮することが期待できる。
【0008】
本発明の黒液濃縮方法は上記の減粘剤を用いるので、黒液の粘度を大幅に低下でき、黒液の濃縮効率を向上できる。したがって、少ないエネルギーで効率よく黒液を所定濃度まで濃縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
第4級アンモニウム塩としては、アルキル基の炭素数が1〜18であるテトラアルキルアンモニウム塩及びベンザルコニウム塩等が使用でき、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリメチルエチルアンモニウム塩、トリメチルブチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩及びステアラルコニウム塩(ステアリルジメチルベンジルアンモニウム塩)が含まれる。
【0010】
上記の第4級アンモニウム塩としては、ハロゲン化物イオン(塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン)、水酸化物イオンの塩が含まれる。
【0011】
アルカノールアミンとしては、アルカノールの炭素数が2〜4のアミン等が使用でき、モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、トリアルカノールアミンが含まれる。
モノアルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン及びモノブタノールアミンが挙げられる。
ジアルカノールアミンとしては、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジブタノールアミン及びエタノールプロパノールアミン等が挙げられる。
トリアルカノールアミンとしては、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン及びトリブタノールアミン等が挙げられる。
【0012】
これらのうち、第4級アンモニウム塩及びアルカノールアミンが好ましく、さらに好ましくはテトラメチルアンモニウム塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンであり、特に好ましくはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムクロライド、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンである。
【0013】
尿素、第4級アンモニウム塩及びアルカノールアミンからなる群より選ばれる少なくとも2種を用いる場合、組み合わせに特に制限は無いが、第4級アンモニウム塩とアルカノールアミンとの組み合わせが好ましい。
【0014】
第4級アンモニウム塩とアルカノールアミンとを併用する場合、第4級アンモニウム塩及びアルカノールアミンの重量に基づいて、第4級アンモニウム塩及びアルカノールアミンの含有量は、それぞれ、3〜97重量%が好ましく、さらに好ましくは5〜95重量%、特に好ましくは10〜90重量%である。この場合、本発明の減粘剤は、黒液に添加した際、均一に混合できれば、これらの混合状態(均一性等)や製造方法に制限はない。
【0015】
本発明の減粘剤は、溶媒に溶解又は乳化分散して用いてもよい。溶媒としては、水(上水、イオン交換水、蒸留水等)が含まれる。
【0016】
本発明の減粘剤の添加量(重量%)は、黒液の固形分に基づいて、0.005〜3が好ましく、さらに好ましくは0.01〜2.5、特に好ましくは0.02〜2.3、最も好ましくは0.03〜2である。この範囲であると、減粘効率及びコストパフォーマンスがさらに良好となる。
黒液の固形分は、測定試料の重量を量りながら、測定試料を加熱できる装置{たとえば、ハロゲン・赤外線水分計(HR−83P、メトラー・トレド株式会社製)}にて、黒液2gを105℃に加熱して、重量変化が50秒間で1mg以下となるまで105℃を保った後、残った重量を測定して求める値である。
【0017】
本発明の減粘剤は、減粘剤が黒液中に均一に混合されれば制限はないが、黒液の濃縮工程の直前又は濃縮工程の途中で添加することが好ましい。これはクラフトパルプの蒸解工程や洗浄工程で減粘剤を添加した場合、黒液減粘剤が変性したり、パルプに吸着して持ち去られる可能性があるためである。
【0018】
黒液と減粘剤との混合方法は、特に制限はないが、ストックタンク(希黒液タンク、中間タンク、濃黒液タンク等)に添加して混合する方法又はストックタンクへの黒液移送ポンプのサクション側に添加して混合する方法等が適用でき、必要に応じて複数の場所で添加することができる。
【0019】
本発明の黒液濃縮方法で用いる黒液及び黒液濃縮装置は特に限定されず、減粘剤を用いる以外は、従来の黒液及び黒液濃縮装置をそのまま用いることができる。
【0020】
本発明の黒液濃縮方法では、本発明の減粘剤以外に、従来の黒液濃縮助剤(スケール防止剤、芒硝など)を用いてもよい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特記しない限り、部は重量部を、%は重量%を意味する。
【0022】
<濃黒液(1)の調製>
クラフトパルプ製造工場で広葉樹を蒸解して副生した黒液を、ビーカーに入れて90℃で加熱攪拌して水分を蒸発させて濃縮し、固形分82%の濃黒液(1)を得た。濃黒液(1)の粘度(60℃、Pa・s)は、36700であった。
【0023】
固形分は、ハロゲン・赤外線水分計(HR−83P、メトラー・トレド株式会社製)を用いて黒液2gを105℃に加熱して、重量変化が50秒間で1mg以下となるまで105℃を保った後、残った重量を測定して求めた。
【0024】
粘度(60℃、Pa・s)は、ANTONPAAR社製粘弾性測定装置MCR301にて、コーンプレート(CP25−2;プレート径25mm、コーン角度2°)を用い、ずり速度を0.01/sから100/sまで300秒かけて上昇させた際の粘度を測定して、ずり速度0.01/sでの粘度を読み取った。
【0025】
<実施例1〜8、比較例1〜2>
濃黒液(1)に表1に記載した減粘剤を添加して均一に混合した後、粘度(60℃、Pa・s)を測定した。
なお、表中、添加量は濃黒液の固形分に対する濃度である(以下同様である。)。
【0026】
【表1】
【0027】
<濃黒液(2)の調製>
クラフトパルプ製造工場で広葉樹を蒸解して発生した黒液を、ビーカーに入れて90℃で加熱攪拌して水分を蒸発させて濃縮し、固形分75重量%の濃黒液(2)を得た。濃黒液(2)の粘度(60℃、Pa・s)は、368であった。
【0028】
<実施例9〜15、比較例3〜4>
濃黒液(2)に表2に記載した減粘剤を添加して均一に混合した後、粘度(60℃、Pa・s)を測定した。
【0029】
【表2】
【0030】
本発明の減粘剤は、ブランクや比較用の減粘剤(黒液濃縮助剤)を用いたものに比べて優れた減粘効果を示した。すなわち、本発明の減粘剤は、黒液の粘度を大幅に低下できるので、黒液の濃縮効率の向上が期待できる。また、黒液粘度の低下により、濃縮中のスケール発生を抑制することが期待できる他に、濃黒液を燃料として使用する際、燃焼室への噴霧効率を改善することが期待できる。