(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5935108
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】前方側方同時監視型地中レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/88 20060101AFI20160602BHJP
G01S 13/90 20060101ALI20160602BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20160602BHJP
G01S 7/40 20060101ALI20160602BHJP
H01Q 21/20 20060101ALI20160602BHJP
G01V 3/12 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
G01S13/88 200
G01S13/90 170
G01S7/02 216
G01S7/40 126
H01Q21/20
G01S13/90 191
G01S7/40 152
G01V3/12 B
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-15216(P2015-15216)
(22)【出願日】2015年1月29日
【審査請求日】2015年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014306
【氏名又は名称】防衛装備庁長官
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(72)【発明者】
【氏名】荒木 完
(72)【発明者】
【氏名】大間 茂樹
【審査官】
小川 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−245742(JP,A)
【文献】
特開2004−198195(JP,A)
【文献】
特開平11−352223(JP,A)
【文献】
特開平09−079799(JP,A)
【文献】
特開平10−270930(JP,A)
【文献】
特開2001−220992(JP,A)
【文献】
特開2013−170920(JP,A)
【文献】
特開平04−262286(JP,A)
【文献】
特開平06−085523(JP,A)
【文献】
特開平09−135181(JP,A)
【文献】
特許第4541189(JP,B2)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0285375(US,A1)
【文献】
布施 行規 Yukinori FUSE,埋設地雷離隔探知方式に関する基礎的検討 A Fundamental Study of Method of Standoff Mine Detection,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.107 No.407 IEICE Technical Report,日本,社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,第107巻
【文献】
Liu, Guoqing他,SAR imaging for a forward-looking GPR system,Proceedings of the SPIE,,The International Society for Optical Engineering,2003年,Volume 5089,p. 322-333
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 13/88
G01S 7/02
G01S 7/40
G01S 13/90
G01V 3/12
H01Q 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面上を走行する移動体にマイクロ波地中レーダを搭載し、前記移動体の進行方向前方及び側方の地中に埋設された又は視覚的に隠蔽された障害物を、前記マイクロ波地中レーダが有する唯一のアレイアンテナにより離隔位置から実時間に探知する前方側方同時監視型地中レーダ装置であって、
前記アレイアンテナが進行方向前方及び斜め前方を覆域とする非平面アレイアンテナであり、前記非平面アレイアンテナを構成する各素子アンテナ間の位相差及び各素子アンテナの異なる指向方向による利得の有効範囲を補正した、前記非平面アレイアンテナに適用可能なDAS法による画像合成を特徴とする前方側方同時監視型地中レーダ装置。
【請求項2】
前記マイクロ波地中レーダは、監視すべき前方及び側方の幅に応じて所望の覆域にマイクロ波の照射エリアの設定を変更できるレーダ校正部を有することを特徴とする請求項1に記載の前方側方同時監視型地中レーダ装置。
【請求項3】
前記マイクロ波地中レーダは、非平面アレイアンテナ設定計算器を有するとともに、前記非平面アレイアンテナ設定計算器から送出された個々の素子アンテナの位置及び素子アンテナの指向角度を参照し、伸縮機構、回転機構、位相補正器により与えられた指向方向に素子アンテナを固定できるアレイアンテナ校正装置を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の前方側方同時監視型地中レーダ装置。
【請求項4】
監視対象領域を前方及び側方の所定面積の区画に分割し、区画の中心に等方性散乱体と仮定した点を仮想目標として並べた点群を構成し、前記移動体を停止させた状態で、可変調整可能な各アレイ曲率における前記非平面アレイアンテナによる画像合成を行った結果であるシミュレーション画像を用い、前記非平面アレイアンテナの覆域内の前記点群の存在の有無、分解能の劣化、歪み及びぼけを評価項目として画像識別の良否を視認によって判定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の前方側方同時監視型地中レーダ装置。
【請求項5】
側方の監視対象領域についての前記シミュレーション画像を、前記点群の覆域内における存在の有無、分解能の劣化、歪み及びぼけを評価項目としてスコアリングし、総合点の一番高い前記アレイ曲率を最適値として決定することを特徴とする請求項4に記載の前方側方同時監視型地中レーダ装置。
【請求項6】
前記非平面アレイアンテナ設定計算器は、平面かつ等間隔のリニアアレイアンテナを曲面に投影した位置に素子アンテナを配置して非平面アレイアンテナを構成することを特徴とする請求項3に記載の前方側方同時監視型地中レーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両にマイクロ波地中レーダを搭載し、車両の前方及び側方にある埋設及び表相障害物を探知可能な前方側方同時監視型地中レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下方監視型地中レーダ
地中に埋設された障害物を近接した位置から探知する目的で、地中に対する透過性のある電波をアンテナから地表面に近接して照射し、合成開口又はマイグレーション処理することによりアンテナ開口面の電波照射領域の反射強度分布を画像化すると共に、操作者が画像表示装置により周囲に比較して際立って強く反射した位置及び形状を見て障害物の有無を判別する方法(非特許文献1,2,3)。
【0003】
前方監視型地中レーダ
走行しながら前方に存在する地中に埋設された障害物及び植生に隠蔽された障害物並びに偽装隠蔽された障害物を、十分に離隔した位置から探知する目的で、地中及び植生並びに隠蔽物に対する透過性のある電波をアレイアンテナから送信及び受信を行い、受信波を合成開口又はマイグレーション処理をすることにより進行方向前方における電波照射領域の反射強度分布を画像表示し、画像中に周囲と比較して際立って強く反射した位置を障害物の存在する可能性が最も高い位置と見なして障害物の有無を探知及び形状を判別する装置で、画像生成にはDAS法(Delay And Sum Method)と呼ばれる画像合成手法が主に使用される。前方監視型地中レーダは近接探知を行う下方監視型地中レーダとは方式が異なり、前方に存在する障害物を十分に離隔した位置から広域にわたり障害物の有無及び相対位置を迅速に探知し多くの障害物を一度に回避できるもので、素子アンテナから送信された電波は複数の素子アンテナで受信される。もしある位置に目標が存在すると仮定したならば、電波が送信されてからその位置で反射して各素子アンテナに反射波が受信されるまでの各伝搬距離に応じて遅延時間を補正することにより受信された電波の位相は同相になり、これらが足し合わされ反射波が強調される。もし目標がない場合はノイズしか受信されず遅延時間を補正してもノイズの位相は同相にならないことから、足し合わされても反射波は強調されない。これがDAS法と呼ばれる画像合成法である。計測されるデータは送信チャンネル数と受信チャンネル数、さらに周波数ステップ数を乗算したデータ総数を有し、3次元行列としての計測データとして取得される一方、着目点からの反射波の位相補正パラメータである参照値との相関をとることで、着目点に目標がある場合は反射波を強調させた画像を生成できる方法である(非特許文献4,5,6)。
【0004】
合成開口レーダ
合成開口レーダは通常は航空機や人工衛星に搭載されて地表面の画像合成をするもので、仮に車両に搭載されるならば道路の路肩の地表面及び地中をマッピングすることができる。移動体の進行方向に対して少しでも側方から反射してくる受信波は自機の移動によりドップラー周波数を有する。ここでドップラー周波数に対する優れた分解能をもつ装置によりドップラー周波数を側方からの到来方向の角度に依存して分解識別することができるならば、各周波数ごとに得られる受信ビデオ信号の振幅強度を映像化することで側方のマッピングが可能となる。受信波のドップラー周波数は移動体の速度に比例するため、高速な移動体ほど各方位毎の識別が容易である。しかし、より角度分解能が良好なマッピングを実現するには分解能に反比例した観測時間が必要となる。合成開口レーダにはこのようなサイドルッキング方式の他に、スポットライトマッピングのような斜め前方の狭い領域に限定しての高分解能化が可能な方式もあり、さらにドップラービームシャープニングは前方方向を除いてビーム走査しながらビーム指向方向にドップラーバンクによる角度識別を可能にする方式で優れた方位分解能を有する(特許文献1,2、非特許文献7,8)。
【0005】
非平面アレイアンテナ
非平面アレイアンテナとして多用されているサーキュラアレイアンテナは円形状に素子アンテナを構成し、正面のみならず側方にも電波を送受信できるようにアンテナ覆域の拡大を目的としたアレイアンテナである。他にも素子アンテナを任意形状に配列するコンフォーマルアレイアンテナなどが移動体や個人装具などにも用いられている(特許文献3、4、非特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4541189号公報(特開2006−24271号公報)
【特許文献2】特許第2730296号公報(特開平4−262286号公報)
【特許文献3】特開平6−085523号公報
【特許文献4】特開平9−135181号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D. J. Daniels, Surface-penetrating Radar, pp.143-200, IEE RADAR, SONAR, NAVIGATION AND AVIONICS SERIES 6, 1996.
【非特許文献2】Daniel.M.Port, Peter Gardiner, Kathryn Long, "Analysis and application of a Vehicle Mounted Ground Penetrating Radar Array,"Detection and Remediation Technologies for Mines and Minelike Target VIII, Proc. SPIE5089, pp.348-357, 2003.
【非特許文献3】Richard Walls, "Ground penetrating radar field evaluation in Angola," Detection and Remediation Technologies for Mines and Minelike Target XI, Proc. SPIE6217, pp. 62171Y1-62171Y12 , 2006.
【非特許文献4】H.L.V.Trees, Optimum array processing, Part IV of detection, Estimation, and Modulation Theory, Jhon Wiley & Sons, Inc, New York, 2002.
【非特許文献5】布施行規, 荒木完, ”埋設地雷離隔探知方式に関する基礎的検討” 信学技報, SANE, vol.107, No.407, Desember, 2007.
【非特許文献6】Marshall R. Bradley, Thomas R. Witten, Michael Duncan, "Anti-tank and side-attack mine detection with a forward- looking GPR," Published in Proceedings Volume 5415: Detection and Remediation Technologies for Mines and Minelike Targets IX, pp.421-432, September 2004.
【非特許文献7】吉田 孝, 改定レーダ技術, 電子情報通信学会, pp.280-283, 1996.
【非特許文献8】大橋 和夫, 合成開口レーダの基礎, 東京電機大学出版局, pp.171-195, 2004.
【非特許文献9】吉田 孝, 改定レーダ技術, 電子情報通信学会, pp.119-120, 1996.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
走行する車両にとって路上に埋設された地雷などの障害物及び側方路肩に隠蔽し仕掛けられた表相障害物等は極めて危険であるため、できる限り離隔した位置から障害物を迅速に探知することが求められている。最も危険な障害物とは自車が真横を通過する瞬間に自車を自動感知して路肩から飛翔体が投射されるものである。こうした能動的な障害物に対し、踏まなければ被害を受けない受動的障害物である地雷の探知に使われてきた技術だけでは対応できない探知能力が要求される。
【0009】
従来の地雷探知方式では埋設されている地表直下に探知器の開口面を近づけ磁気やマイクロ波で個々の障害物を慎重に探知してきた。人間が携帯する探知器や車載された下方監視型の探知器などが製作されてきたが、近接型では広域を迅速かつ一度に多数の障害物を探知することはできない。その後、電波、光波を用いた前方監視型の地雷探知方式が発明され、現在その探知性能を向上するための研究開発が進捗している。しかし、前方監視型地中レーダも前方及び側方を同時に探知対象にしたものではなく路上前方の探知を目的にしたものである。特に困難な技術は進行方向の路上前方を監視しながらも、他方では車両が路肩に仕掛けられている投射体等の側方の障害物を走行通過する前に十分に離隔した距離から同時に発見する技術である。しかも探知装置の小型化及び低価格化を必要とする。
【0010】
前方監視型地中レーダは、俯角をもってマイクロ波を路上及びその地中に照射し、地表面で反射波と透過波に分離し、又地表面及び地表の植生を透過したマイクロ波によって地中に埋設及び植生に隠蔽された障害物からの反射波を受信し、得られた全ての受信波は光路長の位相補正を行い反射振幅強度に応じて照射領域の画像を合成及び可視化するとともに、地表面及び地中のクラッタ雑音から障害物の反射波を探知するものである。この前方監視型地中レーダにおいては、アレイアンテナを構成する個々の素子アンテナについて送受信タイミングを時分割で切り替える。地中及び地表からの反射された受信波を素子アンテナで受信し電界強度及び位相をヘテロダイン検波し、その後IFデータに変換して送受信素子アンテナ全ての組み合わせの複素数データを保存する。保存されたデータは地表面及び地中の照射覆域全ての光路長に起因する位相遅れを補正し、DAS法により2次元又は深さまで考慮した3次元画像を合成し、画像中の輝度が高い位置に目標が存在すると見なす。素子アンテナの放射パターンは通常は広角に電波が放射されるように選定しているが、正面から側方に逸れると利得が大きく低下するので送受信波の振幅強度は弱まる。また、利得を高くすると素子アンテナのビームが狭くなり、広域に電波照射をすることができないためDAS法による画像合成の精度が劣化する。その結果、必要最小限の受信強度を確保できる車幅が狭まり路肩側方に存在する障害物を発見することができない。
【0011】
一方、合成開口レーダ方式の一つであるDBS(Doppler Beam Sharpning)方式は、斜め前方の領域を車両の移動に併せて側方のドップラー周波数成分を取得しながら周波数バンクに記録し、各ドップラー周波数成分毎の強度を画像化することで斜め前方の地表面及び地中反射の目標検出を行う方式であり高分解能な側方監視が可能であるが、原理的に移動速度を有するベクトル方向に適用することはできないため、真正面に存在する障害物を発見することができない。
【0012】
また、サイドルッキング方式を用いた合成開口レーダは、レーダの移動に沿って次々に得られる受信信号をその経路に沿って配置されたアレーアンテナの受信信号になぞらえて長大開口のアンテナ受信信号として合成し、高分解能な方位方向のビームを作ることができる。進行方向に直角な側方にまで電波を照射しながら自機が移動することにより、側方の目標を画像化できるため進行方向に対して斜め前方から真横までの監視が可能であるが、これも進行方向正面の障害物を発見することができない。従って路上及び路肩の障害物を同時に発見するためには前方監視型装置及び側方監視型装置を併用する必要があり、複数の地中レーダを車両に搭載することは装置の個数及び大型化が必要となり製造コストも大幅に増加する。
【0013】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、移動体の前方及び側方において地中に埋設された又は視覚的に隠蔽された障害物を実時間に探知可能な前方側方同時監視型地中レーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のある態様は前方側方同時監視型地中レーダ装置である。この前方側方同時監視型地中レーダ装置は、地面上を走行する移動体にマイクロ波地中レーダを搭載し、前記移動体の進行方向前方及び側方の地中に埋設された又は視覚的に隠蔽された障害物を
、前記マイクロ波地中レーダが有する唯一のアレイアンテナにより離隔位置から実時間に探知す
る構成であって、
前記アレイアンテナが進行方向前方及び斜め前方を覆域とする非平面アレイアンテナであり、前記非平面アレイアンテナを構成する各素子アンテナ間の位相差及び各素子アンテナの異なる指向方向による利得の有効範囲を補正した、前記非平面アレイアンテナに適用可能なDAS法による画像合成を特徴とする。
【0017】
前記マイクロ波地中レーダは、監視すべき前方及び側方の幅に応じて所望の覆域にマイクロ波の照射エリアの設定を変更できるレーダ校正部を有するとよい。
【0018】
前記マイクロ波地中レーダは、非平面アレイアンテナ設定計算器を有するとともに、前記非平面アレイアンテナ設定計算器から送出された個々の素子アンテナの位置及び素子アンテナの指向角度を参照し、伸縮機構、回転機構、位相補正器により与えられた指向方向に素子アンテナを固定できるアレイアンテナ校正装置を有するとよい。
【0019】
監視対象領域を前方及び側方の所定面積の区画に分割し、区画の中心に等方性散乱体と仮定した点を仮想目標として並べた点群を構成し、前記移動体を停止させた状態で、可変調整可能な各アレイ曲率における前記非平面アレイアンテナによる画像合成を行った結果であるシミュレーション画像を用い、
前記非平面アレイアンテナの覆域内の前記点群の存在の有無、分解能の劣化、歪み及びぼけを評価項目として画像識別の良否を
視認によって判定するとよい。
【0020】
側方の監視対象領域についての前記シミュレーション画像を、前記点群の覆域内における存在の有無、分解能の劣化、歪み及びぼけを評価項目としてスコアリングし、総合点の一番高い前記アレイ曲率を最適値として決定するとよい。
【0021】
前記非平面アレイアンテナ設定計算器は、平面かつ等間隔のリニアアレイアンテナを曲面に投影した位置に素子アンテナを配置して非平面アレイアンテナを構成するとよい。
【0022】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る前方側方同時監視型地中レーダ装置によれば、車両等の移動体の前方及び側方において、地中に埋設された障害物、又は植生、がれき等で視覚的に隠蔽された障害物を実時間に探知可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る前方側方同時監視型地中レーダ装置の実施の形態のブロック図である。
【
図2】実施の形態におけるレーダ部のブロック図である。
【
図3】実施の形態におけるDAS法による画像合成を示す説明図である。
【
図4】前記レーダ部の主要な照射領域を示す説明図である。
【
図5】実施の形態における非平面アレイアンテナの設計法を示す説明図である。
【
図6】前記非平面アレイアンテナにおける素子アンテナの有効範囲を示す説明図である。
【
図7】実施の形態における側方探知画像のシミュレーション結果の一例を示す説明図である。
【
図8】側方探知画像のシミュレーション結果の官能評価の一例を示す説明図である。
【
図9】アレイアンテナ校正装置を示す概略平面図である。
【
図10】前記官能評価によるアンテナ設計結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0026】
従来の電波、光波を用いた前方監視型地中レーダは前方及び側方を同時に探知対象にしたものではなく路上前方の探知を目的にしたものである。特に困難な技術は進行方向の路上前方を監視しながらも、他方では地表を移動する移動体(車両)が路肩に仕掛けられている投射体等の側方の障害物を走行通過する前に十分に離隔した距離からも同時に発見する技術である。しかも探知装置の小型化及び低価格化を必要とする。
【0027】
こうした課題を解決するために本実施の形態では、前方監視と側方監視を同一のアレイアンテナで行い、かつ車両の走行速度を維持するための高速な目標探知信号処理を行っている。一般的にアレイアンテナは前方監視の場合は素子アンテナをリニアに配列し、個々の素子アンテナは方位方向に広くなるようなアンテナパターンを選択し、なるべく広い領域からの反射波を複数の素子アンテナで集められるようにしているが、側方監視まで含めるとさらにアンテナパターンを方位方向にブロードにするためにアンテナ利得を低下させなければならない。そのため前方目標の探知能力が低下するにもかかわらず、側方目標の存在する路肩の覆域からの探知能力もそれほど向上しない。そこで、本実施の形態では、素子アンテナの利得を変えず(低下させず)にアレイアンテナ全体としての覆域を拡大する手段として、非平面アレイアンテナ及び画像合成の改良を用いている。アレイアンテナ全体を有限な曲率半径を持ったサーキュラアレイアンテナとし、側方にもより大きな輻射を与えるようにする。そこで前方画像を劣化させないで可能な限り幅広い側方路肩の画像化ができるような最適なアレイアンテナの曲率が得られるようにしている。また道路幅によって路肩を含めた電波照射領域が変化する用途に応じて曲率を可変にできるアレイアンテナ構造を容易に変更可能なサーキュラアレイアンテナとし、停車してアレイアンテナの校正を行った後に走行使用できるような簡易な構造を有するアンテナ装置としている。また、クラッタ強度も未知な場合が多く、障害目標の形状によりレーダ反射断面積も進行するに従い大きく変化することも予想されるため、校正時に探知される信号強度の閾値を調整し、分解能を向上させることができる簡易な手法を確立することが必要である。
【0028】
こうした問題を解決するためにアンテナの広角化及び車両が通過前に側方監視が可能な装置を実現する手段として従来から用いられているリニアアレイに代わるサーキュラアレイアンテナによるビーム形成を行うことにより、前方照射領域を維持しながら照射領域をさらに側方に拡大するため有限な曲率を有する円弧状に等間隔又は不等間隔に並べるアレイアンテナ方式を採用することが求められているが、従来の前方監視用の画像構成に用いられてきたDAS法に適用された例はない。そこで、路上及び所望の路肩幅を輻域に追加できるサーキュラアレイアンテナを含む非平面アレイアンテナの設計とサーキュラアレイアンテナに対するDAS法適用の有効性を検討すると共に、地表面及び地中等のノンパラメトリックで曖昧な性質を有するクラッタ強度分布に対し目標を明確に探知できる信号強度、分解能、覆域が確保できる画像合成及び目標探知能力を有することを特徴とする装置を提案する。
【0029】
本装置が有する要件は、以下のとおりである。
(1) 逐次、アレイアンテナの有効性評価を行い側方路肩への覆域の拡大を図る。
(2) 逐次、最適なアンテナ設計及びアレイアンテナの校正ができることを特徴とする地中レーダ装置である。
(3) 送受信アンテナをサーキュラアレイとして、素子アンテナを送信及び受信に共用する。
(4) 平面投影上での等間隔のアレイ素子アンテナを前提とし、サーキュラアレイの最適な曲率を算出する。
(5) 画像合成においてDAS法を補正する。
(6) クラッタ存在下における目標探知のために必要とされる分解能、信号強度、覆域を変数として最適化問題を解く。
(7) 素子アンテナは送信機に結合され、送信機は離散的に周波数掃引をするチャープ方式によることを前提とする。
(8) 素子アンテナパターンは可能な限り同一であることを前提とする。
(9) レーダ装置におけるアレイアンテナ全体の幅は、平面投影をした場合に従来の前方監視型地中レーダのそれと同一であることを前提とする。
(10) アレイアンテナ設置の地上高及び俯角はクラッタ環境及び観測条件を同一にするため、従来の前方監視方地中レーダのそれと同一であることを前提とする。
【0030】
図1は本発明に係る前方側方同時監視型地中レーダ装置の実施の形態のブロック図であり、
図2は実施の形態におけるレーダ部のブロック図である。これらの図に示すように、前方側方同時監視型地中レーダ装置は、地面上を走行する移動体としての車両にマイクロ波地中レーダを搭載したものであり、移動体としての車両に搭載されて走行しながらアレイアンテナからマイクロ波を地表に照射することにより道路前方及び路肩側方の地表及び地中に埋設された地雷等の障害物の有無を画像により同時に監視及び探知できるレーダ部1、及び操作者が所望の前方及び側方探知領域を指定することにより容易に目標探知を可能とする非平面アレイアンテナを設計すること及び設計したアレイアンテナを構成するために車両を停止して個々の素子アンテナの正確な位置及び指向方向を校正できるレーダ校正部2とを備える。
【0031】
レーダ部1は、主にアンテナ部3、送受信部4、データ記録装置11、画像処理装置12、画像表示器13、目標探知判定器14、及びレーダ車両停止装置15を有する。
【0032】
レーダ校正部2は、目標探知諸元入力装置16、シミュレーション画像作成装置17、シミュレーション画像表示装置18、仮想目標探知判定器19、非平面アレイアンテナ設定計算器20、及びアレイアンテナ校正装置21を有する。
【0033】
レーダ部1の主要な構成要素であるアンテナ部3及び送受信部4の詳細なブロック図を
図2に示す。アンテナ部3は、複数の素子アンテナ6、スイッチ7、及び制御回路8を有する。素子アンテナ6は例えば#1から#MまでのM個あってアレイアンテナ5を構成し、制御回路8で制御されるスイッチ7により送受信を時分割に切り替えられ、送信用にN個、受信用にM個と任意に選択できる。
【0034】
送受信部4は、比較的波長の長い600MHz〜2GHz程度の地中透過性の良好なマイクロ波を送受信するマイクロ波送受信機9と、マイクロ波制御器10とを有し、マイクロ波送受信機9では送信時に周波数変調方式(チャープ方式)により変調された信号を周波数変換、電力増幅しパルス変調を加えて送信RF信号としてアンテナ部3に出力し、スイッチ7を介してアンテナ部3のアレイアンテナ5から送信する。また、マイクロ波送受信機9の受信時にはアレイアンテナ5で受信された受信波(受信RF信号)を信号増幅し、受信RF信号から受信IF信号ヘ周波数変換する。M個の受信素子アンテナ6は送信周波数がステップアップして切り替えられるまでの間に全ての素子アンテナ6(番号#1〜#M)で同じ周波数の連続波を受信する。M個の受信が終了した後、送信周波数を1ステップ高くし同様にM個の素子アンテナ6を切り替えながら地表面及び地中から反射してきたマイクロ波を受信する。周波数ステップ数Kはフーリエ級数展開に都合のよい2のべき乗個に指定する。マイクロ波制御器10は受信の同期信号を発生すると共に、受信IF信号はヘテロダイン検波によって位相検波され、受信IF信号は90度位相の異なる複素数としてIチャンネル成分とQチャンネル成分に分離されA/D変換された後、受信デジタル信号(デジタルビデオ信号)として
図1のデータ記録装置11に保存される。
【0035】
図10の画像処理装置12は、データ記録装置に保存されたデータ及び後述するレーダ校正部2の非平面アレイアンテナ設定計算器20から送出されたデータを用いて、地表面及び地中の画像をマイグレーション手法の一つであるDAS法により作成する処理装置である。DAS法による画像合成のデータ処理の概要を
図3に示す。DAS法は従来、前方監視型地中レーダの画像化に多用されている方式で、アンテナから送信された電波は地表面又は地中におけるある目標で散乱され、その散乱波はM個の素子アンテナで受信される。散乱波は受信アンテナの位置及び散乱点の位置に応じて伝搬距離による位相差が加わり受信されている。仮にこの散乱点にのみ強い反射体が存在するなら、全ての受信アンテナで取得された受信波は位相を逆補正することにより波動が重畳され目標は強調される。さらに、チャープ方式による各変調周波数毎に目標位置の反射波が強調されたものとなる。送信アンテナがn番目、受信アンテナがm番目で周波数ステップがk番目の時の受信波のI,Q成分はG
mn(f
k)の複素数として得られる。このようにDAS法は地中の深さ方向も含め着目点に対する光路長に依存する位相を補正し、全ての送受信アンテナの組み合わせ及び全てのチャープ状の周波数ステップによる積和を取り、着目点の反射信号の積み上がりを算出する。
【0036】
画像処理装置12によって作成された監視対象領域の画像合成のデータは画像表示器13に送出され、画像表示器13はBスコープ(グラフの縦軸が前方離隔距離、横軸が道路幅を表す)として目標の有無と背景の画像を表示する。操作者は、画像表示器13の表示から、進行路上及び斜め前方の側方路肩における目標の有無、目標有りの場合にはその位置を同時に実時間で探知可能である。ここで、目標は、車両の進行方向前方の地中に埋設された障害物(例えば路中に埋設された地雷)及び進行方向側方の視覚的に隠蔽された表相障害物(例えば路肩の植生、がれき等に隠蔽された飛翔体)である。
【0037】
目標探知判定器14は操作者が画像表示器13の目標探知結果に満足しない又は画像処理覆域を変更したい事情が生じたときは、レーダ校正部2を起動するためにレーダ車両停止装置15に起動信号を送出する。ただし、操作者の意志に変更がない場合はレーダ校正部2を起動せずにレーダ部1の処理を続行する。
【0038】
目標探知諸元入力装置16、シミュレーション画像作成装置17、シミュレーション画像表示装置18、仮想目標探知判定器19、非平面アレイアンテナ設定計算器20、及びアレイアンテナ校正装置21を有するレーダ校正部2は、レーダ部1の目標探知判定器14からの指令がある場合に起動し目標探知諸元の入力モードになる。
【0039】
操作者は目標探知諸元入力装置16に所望の前方監視距離、前方監視幅(道路幅)、側方監視幅(片側路肩幅)を入力する。目標探知諸元入力装置16は
図4に示すように素子アンテナの仰角方向の利得、アレイアンテナ(アレイアンテナの中心)の地上高、与えられた素子アンテナの方位方向の利得及び素子アンテナの全個数から、前方監視距離及び側方監視幅の実現を可能とするアレイアンテナの俯角を算出する。また、目標探知諸元入力装置16は前方監視距離、前方監視幅、側方監視幅、アンテナの俯角の値をシミュレーション画像作成装置17に送出する。
【0040】
シミュレーション画像作成装置17は、計算上のアレイアンテナを構成しDAS法によるシミュレーション画像を作成する。アレイアンテナの曲率半径rを複数通りの数値、例えば5m、10m、20m、10000mに指定する。非平面アレイアンテナの設計法を
図5に示す。平面上に等間隔に並べられた素子アンテナを、左右対称に平面から曲率半径rの円弧上に投影した位置に並び替える。アレイアンテナ全体の中心点は曲率に無関係にアレイアンテナの前方最先端位置とする。素子アンテナは曲面上の各素子位置を定点として円弧の接線に垂直な方向を中心に指向するものとする。素子アンテナの有する利得は全て同一であるものと仮定する。画像合成のシミュレーションの前提条件として、地表面の仮想目標の設定は、[前方5mから前方監視距離迄]×[最大側方幅(道路幅+2×片側路肩幅)]の領域を等分の正方形区画に分割し、それぞれの区画の中心に等方散乱体(全方位に全反射するものとする)と仮定した点を前方距離方向に1m、側方幅方向に1m間隔に平行に並べた電波散乱体の点群を構成する。
【0041】
図6に素子アンテナの利得の有効範囲を示す。各素子アンテナの中心方向に対して方位方向に利得の有効範囲として限界線をg(x,y)=0、f(x,y)=0と定義し、素子アンテナの利得を有効角度内で1、それ以外で0と簡略化し、利得の有効範囲に存在する任意の点(x
0,
y
0)が送信素子アンテナの対象領域、かつ受信素子アンテナの対象領域であるときのみDAS法における信号の加算を行う。なお、シミュレーション画像作成装置17による
図8及び
図10のシミュレーション画像の例は、前方距離方向に1m、側方幅方向に1mの正方形区画に分割した場合であるが、正方形区画に分割する代わりに、長方形区画等の所定面積の区画に分割してもよいし、等方散乱体と仮定した点の間隔も分割区画に応じて1mから変更可能である。
【0042】
シミュレーション画像表示装置18は計算上のアレイアンテナによるDAS法を用いたシミュレーション画像の結果をBスコープで表示する。
【0043】
仮想目標探知判定器19はシミュレーション画像の良否を判定するものである。各アレイ曲率rにおける画像識別能力の判定法の評価を行う。
図7に側方画像の一例を示す。[前方5mから前方監視距離迄]×[最大側方幅]の領域に並べられた点群はDAS法を適用すると正面から側方に行くに従って道幅方向と進行方向に同時に歪んでくると共に、素子アンテナの周辺利得の低下などにより点目標が分解能の劣化を起こし面積として拡がりを有する領域となって表示されるようになる。このように点群が視野に存在しても画像が劣化した場合には目標を探知したとは認められない。
【0044】
そこで、仮想目標探知判定器19により側方距離1m毎に点の存在位置の有無、分解能の劣化、画像の歪み、画像のぼけ、受信強度を作成画像から判定評価すると共に判定結果から所望の側方領域が確保できない場合は、目標探知諸元入力装置16の入力設定値を変更する。目標探知の判定基準は、前方5m以上、前方監視距離以下の中間点に最も近い離隔距離に存在する点群を基準とし、DAS法による画像処理後の覆域、分解能、信号強度を評価する。覆域は点群の存在を確認できる限界の側方位置、分解能は画像強調されたピーク値の半分以上のレベルを有する散乱体である点の広がり面積(面積が小さいほど分解能は高いものとする)、信号強度は広がった点の領域内のピーク値と定義する。仮想目標探知判定器19はシミュレーション画像表示装置18により[前方5mから前方監視距離迄の中間点]×[最大側方幅]の領域の画像を表示し、操作者は画像を見ながら対象とされる覆域の官能評価を行う。官能評価とは覆域、分解能、信号強度を総合的にどの程度満足しているかをそれぞれの評価項目毎にグレードに応じてスコアリングを入力し、仮想目標探知判定器19では、操作者からのスコアリングを加算し、総合点の一番高いアレイアンテナの曲率rを最適値と決定する。ここで官能評価のグレードとは、○[連続的な像が視認できる]、△[信号ピーク位置が把握できる]、▲[像の存在が認識できる]、×[覆域外である]の4通りを主観的に評価するものである。
【0045】
図8に官能評価の一例として、[前方5mから前方監視距離迄の中間点]を8.5m、[最大側方幅]を12mと条件入力した結果を示す。点群は、曲率r=rnで側方離隔距離d1付近(側方6m〜7m)で、信号強度、分解能共に良好で連続的な像として見なされるのでグレードは○である一方、r=rnで側方離隔距離d2〜d3付近(側方7m〜8m)で分解能は側方6m〜7mと比較し見かけ上高くなっているもののDAS法の画像合成に寄与する素子アンテナの素子数が減少している等の理由により、不連続な像として見られることから、グレードは△となっている。さらに、r=rnで側方離隔距離d4〜dn(側方10m〜11m)では点群の像が広がりすぎて分解能の劣化が顕著であり、また信号強度も低下している不連続な像であることからグレードは▲となる。最終的に操作者が最大側方幅を満足すると判断したときに評価判定結果を「良」とし最適なアレイの曲率半径rの値を非平面アレイアンテナ設定計算器に送出する。なお、曲率r=r1の場合は、グレードが○となる領域は存在しない。
【0046】
非平面アレイアンテナ設定計算器20は最適なアレイの曲率半径r、入力したアレイアンテナの諸条件である前方監視距離、前方監視幅(道路幅)、側方監視幅(片側路肩幅)アレイアンテナの俯角を確定する。確定された非平面アレイアンテナの条件を基準にして、個々の素子アンテナに与える空間位置、指向の値を算出する。非平面アレイアンテナ設定計算器20で確定されたそれらのアンテナ諸元は同時にレーダ部1の画像処理装置13へ送出される。
【0047】
アレイアンテナ校正装置21は、非平面アレイアンテナ設定計算器20から送出された個々の素子アンテナ6の位置及び素子アンテナ6の指向角度を参照し、素子アンテナ6の空間位置を校正し指向方向を固定して、非平面アレイアンテナ5の照射エリアの設定、変更を行うものである。
図9に示すように、アレイアンテナ校正装置21は、伸縮機構22、回転機構23、及び位相補正器24を有している。アレイアンテナ校正装置21は、平面上に等間隔に並べられた素子アンテナ6を、左右対称に平面から曲率半径rの円弧上に投影した位置に並べるとともに、各素子アンテナ6が曲面上の各素子位置を定点として円弧の接線に垂直な方向を中心に指向するように設定する。つまり、伸縮機構22によって素子アンテナ位置をアレイの最先端(中心点)から後方に引き出し式に直線上をスライドして伸縮固定できるようにし、また、素子アンテナ6の指向は回転機構23で任意の方位方向に回転し固定できるようにしている。各素子アンテナ6の非平面配置に起因する位相差は位相補正器24で調整することができる。
【0048】
アレイアンテナ校正装置21による非平面アレイアンテナ5の校正が完了したら、操作者は全体の操作をレーダモードに戻しレーダ部1を再起動すると共に、レーダ車両停止装置15の車両停止命令を解除する。
【0049】
図10に実環境において想定される条件を入力し官能評価を行った結果を示す。アンテナ幅2m、素子アンテナ32個、有効素子利得40度として、道路幅5m、前方監視距離12mの条件で側方距離を10m迄に設定したときの各曲率におけるスコアリングによる官能評価結果からr=10mのときの非平面アレイアンテナ設計結果を総合点8点の最適値とすることにより、路上の画像を劣化させることなく側方路肩を5m拡張することができた。その結果、監視領域を簡易な方法で側方5mまで拡張できることで地雷等の障害物探知能力及び安全性に大きく寄与できることをシミュレーションデータを用いて実証した
【0050】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0051】
(1) 車両の進行方向前方及び側方の地中に埋設された又は視覚的に隠蔽された危険な障害物(例えば、路中に埋設された地雷、路肩の植生、がれき等に隠蔽された投射体等)を、車両を走行させながら障害物を通過する前の十分離隔した安全距離から実時間に探知可能である。
【0052】
(2) 車両の進行方向前方及び側方の地中に埋設された又は視覚的に隠蔽された障害物を、唯一のマイクロ波アレイアンテナである非平面アレイアンテナ5により同時に探知することが可能である。
【0053】
(3) 非平面アレイアンテナ5を構成する各素子アンテナ間の位相差及び各素子アンテナの異なる指向方向による利得の有効範囲を補正した、非平面アレイアンテナ5に適用可能なDAS法による画像合成を用い、地表面及び地中等のノンパラメトリックで曖昧な性質を有するクラッタ強度分布に対し目標を明確に探知できる信号強度、分解能、覆域が確保できることが実証できた。
【0054】
(4) 車両搭載するマイクロ波地中レーダは、レーダ部1及びレーダ校正部2を備えることで、地面の道路幅及び路肩幅に応じて所望の覆域にマイクロ波の照射エリアの設定を変更できる。
【0055】
(5) 前記マイクロ波地中レーダのレーダ校正部2は、非平面アレイアンテナ設定計算器20を有しているので、非平面アレイアンテナ設定計算器20から送出された個々の素子アンテナ6の位置及び素子アンテナ6の指向角度を参照して、伸縮機構22、回転機構23、位相補正器24により与えられた指向方向に素子アンテナ6を固定でき、所定曲率範囲おいて、任意の曲率半径rの非平面アレイアンテナ5を形成できる。
【0056】
(6) 監視対象領域を車両前方及び側方の所定面積の区画に分割し、区画の中心に等方性散乱体と仮定した点を仮想目標として並べた点群を構成し、前記車両を停止させた状態で、可変調整可能な各アレイ曲率における非平面アレイアンテナ5による画像合成を行った結果であるシミュレーション画像を用いて画像識別の良否を判定することができる。前記良否判定結果に応じて、非平面アレイアンテナ5の曲率半径rを変更することができる。
【0057】
(7)
図10に示すように、側方の監視対象領域についての前記シミュレーション画像を、操作者が見ながら点群の覆域内における存在の有無、分解能の劣化、歪み及びぼけを評価項目として画像が総合的にどの程度満足できるものかを人間工学的かつ主観的な判断も考慮しながら項目毎にスコアリングを入力し、総合点の一番高い非平面アレイアンテナ(アレイアンテナの曲率r)を最適値として決定することが可能である。
【0058】
(8) 非平面アレイアンテナ設計における基本である平面投影法は曲面アレイの素子位置を平面に投影し、不等間隔アレイとしてアンテナパターンを評価し、素子アンテナ間隔等を修正する方式であるが、本装置の非平面アレイアンテナ設定計算器20は平面かつ等間隔のリニアアレイアンテナを逆に曲面に投影するだけで平面投影法によるアンテナパターンと同程度のサイドローブ及び利得の特性を得ることができる。
【0059】
(9) 移動速度が非常に遅いほとんど全ての地雷探知車両はドップラー周波数による分解能が劣るため、側方路肩に存在する障害物を探知するには不向きであり、一方、SLARのように開口面を拡大するために側方からの反射波を危険目標が存在する真横近くまで受信することも不可能である状況において、一般商用車に搭載されている側方レーダや前方衝突防止レーダに使用されている技術を流用することが困難な状況においても、側方からの投射体等の危険な障害物を低速走行で探知可能である。
【0060】
(10) 前方及び左右側方の複数のアレイアンテナを1つの共用アンテナにすることにより費用、重量、容積において、安価にして簡易な構造の前方側方同時監視型地中レーダ装置を実現可能である。
【0061】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0062】
非平面アレイアンテナの曲率を変更するための具体的構造は、
図9の構成に限定されないことは自明である。
【符号の説明】
【0063】
1 レーダ部
2 レーダ校正部
3 アンテナ部
4 送受信部
5 アレイアンテナ
6 素子アンテナ
7 スイッチ
8 制御回路
9 マイクロ波送受信機
10 マイクロ波制御器
11 データ記録装置
12 画像処理装置
13 画像表示器
14 目標探知判定器
15 レーダ車両停止装置
16 目標探知諸元入力装置
17 シミュレーション画像作成装置
18 シミュレーション画像表示装置
19 仮想目標探知判定器
20 非平面アレイアンテナ設定計算器
21 アレイアンテナ校正装置
22 伸縮機構
23 回転機構
24 位相補正器
【要約】
【課題】車両等の移動体の前方及び側方において、地中に埋設された障害物、又は植生、がれき等で視覚的に隠蔽された障害物を実時間で探知する。
【解決手段】地面上を走行する車両にマイクロ波地中レーダを搭載したものであり、車両に搭載されて走行しながらアレイアンテナからマイクロ波を地表に照射することにより道路前方及び路肩側方の地表及び地中に埋設された地雷等の障害物の有無を画像により同時に監視及び探知できるレーダ部1、及び操作者が所望の前方及び側方探知領域を指定することにより容易に目標探知を可能とする非平面アレイアンテナを設計すること及び設計したアレイアンテナを構成するために車両を停止して個々の素子アンテナの正確な位置及び指向方向を校正できるレーダ校正部2とを備える。
【選択図】
図1