(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935162
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】高強度繊維複合材ケーブルの損傷評価方法および損傷検出装置。
(51)【国際特許分類】
G01N 27/24 20060101AFI20160602BHJP
【FI】
G01N27/24
【請求項の数】20
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-32423(P2012-32423)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-167602(P2013-167602A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2015年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(72)【発明者】
【氏名】小山 潔
(72)【発明者】
【氏名】星川 洋
(72)【発明者】
【氏名】糸井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 康幸
【審査官】
田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−261972(JP,A)
【文献】
特開平02−298854(JP,A)
【文献】
特開昭63−078063(JP,A)
【文献】
特公平04−053378(JP,B2)
【文献】
特表2010−532651(JP,A)
【文献】
小山潔 他,炭素繊維複合ケーブルの損傷検出法の検討について,第15回表面探傷シンポジウム講演論文集,2012年 2月20日,pp.57-58
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/24
G01N 27/72−27/90
G01R 31/00−31/20
G01R 33/00−33/18
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の高強度繊維複合材からなるストランドを互いに絶縁して撚り合わせた高強度繊維複合材ケーブルの損傷評価方法であって、
隣り合うストランドを組みとして、そのストランド間の静電容量に相関性を有する値を測定すると共に、その測定値の比較結果に基づいて損傷の有無を評価することを特徴とする高強度繊維複合材ケーブルの損傷評価方法。
【請求項2】
前記相関性を有する値は、磁束、誘導起電力、インピーダンス、誘導電流、及び静電容量そのものの何れかであることを特徴とする請求項1に記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷評価方法。
【請求項3】
前記相関性を有する値を前記組み別に測定し、さらにその測定値を相互に比較すると共に、他の組みに対して離れた値を有する組みのストランドを、損傷ストランドとみなすことを特徴とする請求項1又は2に記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷評価方法。
【請求項4】
前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向に順次測定し、その測定値に変化が現れた箇所を損傷箇所とみなすことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷評価方法。
【請求項5】
前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向複数箇所で測定すると共にこれら複数箇所の測定点のうち、隣り合う測定点の値を相互に比較して、その値に差がある区間を損傷区間とみなすことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷評価方法。
【請求項6】
前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向複数箇所で同時期に測定すると共にこれら同時期に取得した測定値のうち、隣り合う測定点の値を相互に比較して、その値に差がある区間を損傷区間とみなすことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷評価方法。
【請求項7】
前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向に走査しながら順次取得することを特徴とする請求項4〜6の何れかに記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷評価方法。
【請求項8】
前記相関性を有する値の測定に先だって、その測定対象となるストランドの組みに交流電圧を印加することを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷評価方法。
【請求項9】
前記ストランドの組み分けにおいて、各組み共用のストランドを各組みに含むように組み分けすることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷評価方法。
【請求項10】
前記高強度繊維複合材は、炭素繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維の何れかを含むことを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷評価方法。
【請求項11】
導電性の高強度繊維複合材からなるストランドを互いに絶縁して撚り合わせた高強度繊維複合材ケーブルの損傷検出装置であって、
隣り合うストランドを組みとして、そのストランド間の静電容量に相関性を有する値を測定する測定手段と、
その測定値の比較結果に基づいて損傷の有無を検出する損傷検出手段と、
検出結果を出力する出力手段と
を有することを特徴とする高強度繊維複合材ケーブルの損傷検出装置。
【請求項12】
前記測定手段は、前記相関性を有する値として、磁束、誘導起電力、インピーダンス、誘導電流、及び静電容量そのものの何れかを測定することを特徴とする請求項11に記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷検出装置。
【請求項13】
前記測定手段は、前記相関性を有する値を前記組み別に測定し、
前記損傷検出手段は、その測定値を相互に比較すると共に他の組みに対して離れた値を有する組みのストランドを損傷ストランドとみなすことを特徴とする請求項11又は12に記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷検出装置。
【請求項14】
前記測定手段は、前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向に順次測定し、
前記損傷検出手段は、その測定値に変化が現れた箇所を損傷箇所とみなすことを特徴とする請求項11〜13の何れかに記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷検出装置。
【請求項15】
前記測定手段は、前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向複数箇所で測定し、
前記損傷検出手段は、これら複数箇所の測定点のうち、隣り合う測定点の値を相互に比較して、その値に差がある区間を損傷区間とみなすことを特徴とする請求項11〜13の何れかに記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷検出装置。
【請求項16】
前記測定手段は、前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向複数箇所で同時期に測定し、
前記損傷検出手段は、これら同時期に取得した測定値のうち、隣り合う測定点の値を相互に比較して、その値に差がある区間を損傷区間とみなすことを特徴とする請求項11〜13の何れかに記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷検出装置。
【請求項17】
前記測定手段は、前記ケーブルの軸方向に走査可能に設けられると共に、前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向に走査しながら順次取得することを特徴とする請求項14〜16の何れかに記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷検出装置。
【請求項18】
測定対象となるストランドの組みに交流電圧を印加する電源供給手段を備え、
前記測定手段は、交流電圧の印加に伴って生じる磁束を測定するためのコイルを有することを特徴とする請求項11〜17の何れかに記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷検出装置。
【請求項19】
前記コイルが前記ケーブルの軸方向に前後連なって設けられ、
前記損傷検出手段は、前方のコイルと、後方のコイルの各々から測定値を取得すると共に、それら測定値を差分処理して前記比較結果を作成することを特徴とする請求項18に記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷検出装置。
【請求項20】
前記高強度繊維複合材が、炭素繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維の何れかを含むことを特徴とする請求項11〜19の何れかに記載の高強度繊維複合材ケーブルの損傷検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度繊維複合材ケーブルの損傷を非破壊的に検出して評価する損傷評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度繊維複合材ケーブルとして、例えば炭素繊維複合材ケーブル(Carbon Fiber Composite Cable)、所謂CFCCが知られている。これら高強度複合繊維材ケーブルは、高強度、低伸縮性であり、また、軽量で耐食性も優れることから、橋梁やコンクリート構造物等の補強材への適用が期待されている。
【0003】
また、一方で、高強度繊維複合材ケーブルは優れた機械的特性を有するものの、腐食環境に晒される橋梁やコンクリート構造物の補強材として使用するには、従来のワイヤーロープと同様、その健全性や安全性を維持するために定期的な検査が必要である。
【0004】
また、この点に関し、炭素繊維複合材ケーブルを対象にした損傷測定法では、AE(アコースティック・エミッション)法が試みられている。このAE法は、損傷の発生時に生じる音波のエネルギーを観測して損傷を検出する方法であり、例えば、電柱に架設された配電線の劣化検出に採用されている(先行技術文献)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−347451
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、AE法は、損傷によって発せられる音波を利用するため、リアルタイムの損傷検出には有効なものの、損傷の有無が定かでない定期検査や非破壊検査には適用できず、高強度繊維複合材ケーブルの検査は、目視に頼らざるを得なかった。
【0007】
また、従来の鋼製ワイヤーケーブルに採用される磁気的な損傷測定法(例えば、漏洩磁束法、全磁束法)も、高強度繊維複合材ケーブルが磁性体ではなく、非磁性体であるため適用できなかった。
【0008】
さらに、高強度繊維複合材ケーブルの多くは、複数本のストランドを撚り合わせて形成されているため、ケーブルの内側に入り込んだストランドは実質点検できず、この点に関しても早期の解決が望まれている。
【0009】
本発明は、上記した問題を考慮してなされたもので、高強度繊維複合材ケーブルの損傷を容易且つ非破壊的に検出及び評価できる損傷評価方法並びにその装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明は、導電性の高強度繊維複合材からなるストランドを互いに絶縁して撚り合わせた高強度繊維複合材ケーブルの損傷評価方法であって、
隣り合うストランドを組みとして、そのストランド間の静電容量に相関性を有する値を測定すると共に、その測定値の比較結果に基づいて損傷の有無を評価することを特徴とする。
【0011】
この損傷評価方法によれば、互いに絶縁状態にある導電性のストランドを撚り合わせて形成した特異なケーブル構造と、この特異な構造によって生じるストランド間の静電容量に着目して損傷を評価する。
すなわち、静電容量に相関性を有する値を測定し、その測定値の比較結果に基づいて損傷の有無を評価する。
また、静電容量を損傷の評価に用いる利点として、静電容量は、AE法で適用される音波と異なり、損傷の履歴を静電容量の変化としてストランドに残す。このため、静電容量に着目した本損傷評価方法は、損傷の有無が定かでない定期検査や非破壊検査にも適用可能である。
【0012】
なお、測定値の比較は、測定値同士の相互比較の他、予め実験等で求めた基準値との比較であってもよく、かつ、基準値に対して測定値が外れているか否かを評価することができれば、その比較対象は実測値、理論値等のいずれであってもよい。また、本発明で測定とは、直接の測定のみならず、間接的な測定をも含む。
【0013】
また、前記相関性を有する値は、磁束、誘導起電力、インピーダンス、誘導電流、及び静電容量そのものの何れかとすることができる。すなわち、静電容量の変化に対して相対的に変化する値を測定対象とし、その値の比較結果に基づいて損傷の有無を評価する。
【0014】
また、前記相関性を有する値を前記組み別に測定し、さらにその測定値を相互に比較すると共に、他の組みに対して離れた値を有する組みのストランドを、損傷ストランドとみなしてもよい。
【0015】
すなわち、組み別に測定値を取得して組み相互に比較した際、他の平均的な値に対して測定値が外れた組みでは、そのストランド間の静電容量が他の組みと異なっていると言える。よってそのストランドの組みに損傷があると推定できる。
【0016】
また、前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向に順次測定し、その測定値に変化が現れた箇所を損傷箇所とみなしてもよい。
【0017】
すなわち、ケーブルの始端から終端に向かって順次測定点を移動しながら測定する。このように測定すれば、測定値が連続的に得られ、測定値の変化が明確に得られる。
【0018】
また、前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向複数箇所で測定すると共にこれら複数箇所の測定点のうち、隣り合う測定点の値を相互に比較して、その値に差がある区間を損傷区間とみなしてもよい。
【0019】
すなわち、隣り合う測定点の値を相互に比較することで、その測定点に挟まれた区間の損傷の有無を評価することができる。
【0020】
また、前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向複数箇所で同時期に測定すると共にこれら同時期に取得した測定値のうち、隣り合う測定点の値を相互に比較して、その値に差がある区間を損傷区間とみなしてもよい。
【0021】
この方法では、異なる測定点において同時期に測定した値を相互に比較するため、当該区間における測定値の変化を即座に把握することができ、よって、損傷の有無をリアルタイムで評価できる。
なお、前記相関性を有する値は、前記ケーブルの軸方向に走査しながら順次取得するのが望ましい。
【0022】
また、前記相関性を有する値の測定に先だって、その測定対象となるストランドの組みに交流電圧を印加してもよい。この方法によれば、交流電圧の印加によって誘導電流及び磁束が生じるため、これらを測定することで静電容量の変化を間接的に測定することが可能になる。
【0023】
また、前記ストランドの組み分けにおいて、各組み共用のストランドを各組みに含むようにするとよい。この方法によれば、何れの組みにおいてもこの共用のストランドが含まれるため、組み相互の測定値の比較において数値が安定し、良好な比較結果が得られやすくなる。
【0024】
また、前記高強度繊維複合材は、炭素繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維の何れかを含む構成であってもよい。すなわち、導電性を有する繊維素材であれば、高強度繊維複合材ケーブル特有の電気的構造によって静電容量を有するため、本評価方法の適用が可能になる。
【0025】
また、上記課題を解決するため、本発明は導電性の高強度繊維複合材からなるストランドを互いに絶縁して撚り合わせた高強度繊維複合材ケーブルの損傷検出装置であって、
隣り合うストランドを組みとして、そのストランド間の静電容量に相関性を有する値を測定する測定手段と、
その測定値の比較結果に基づいて損傷の有無を検出する損傷検出手段と、
検出結果を出力する出力手段と
を有することを特徴とする。
【0026】
また、前記測定手段は、前記相関性を有する値として、磁束、誘導起電力、インピーダンス、誘導電流、及び静電容量そのものの何れかを測定するのが望ましい。なお、ここで測定とは、直接の測定のみならず、他の手段が介在した間接的な定であってもよい。
【0027】
また、前記測定手段は、前記相関性を有する値を前記組み別に測定し、
前記損傷検出手段は、その測定値を相互に比較すると共に、他の組みに対して離れた値を有する組みのストランドを損傷ストランドとみなすようにも構成できる。
【0028】
また、前記測定手段は、前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向に順次測定し、
前記損傷検出手段は、その測定値に変化が現れた箇所を損傷箇所とみなすようにも構成できる。
【0029】
また、前記測定手段は、前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向複数箇所で測定し、
前記損傷検出手段は、これら複数箇所の測定点のうち、隣り合う測定点の値を相互に比較して、その値に差がある区間を損傷区間とみなすようにも構成できる。
【0030】
また、前記測定手段は、前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向複数箇所で同時期に測定し、
前記損傷検出手段は、これら同時期に取得した測定値のうち、隣り合う測定点の値を相互に比較して、その値に差がある区間を損傷区間とみなすようにも構成できる。
【0031】
また、前記測定手段は、前記ケーブルの軸方向に走査可能に設けられると共に、前記相関性を有する値を前記ケーブルの軸方向に走査しながら順次取得する構成としてもよい。
【0032】
また、測定対象となるストランドの組みに交流電圧を印加する電源供給手段を備え、
前記測定手段は、交流電圧の印加に伴って生じる磁束を測定するためのコイルを有する構成としてもよい。
さらに、前記測定手段には、LCRメーターやインピーダンスアナライザ等の測定器を含めることができる。
【0033】
また、前記コイルが前記ケーブルの軸方向に前後連なって設けられ、
前記損傷検出手段は、前方のコイルと、後方のコイルの各々から測定値を取得すると共に、それら測定値を差分処理して前記比較結果を作成する構成であってもよい。ここで差分処理とは、一方の測定値から他方の測定値を差し引く演算処理である。
【0034】
前記高強度繊維複合材が、炭素繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維の何れかを含む構成であってもよい。
【発明の効果】
【0035】
以上のように本発明によれば、高強度繊維複合材ケーブルの損傷を容易に且つ非破壊的に検出及び評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図2】交流電圧を印加する順序を説明するための図。
【
図3】本発明に係る損傷検出方法の原理を説明するための図。
【
図4】差動検出コイルの測定値と損傷の有無との相関関係を示す図。
【
図5】貫通型コイルの測定値と損傷の有無との相関関係を示す図。
【
図6】ケーブルの長さに対するインピーダンスの変化を示す図。
【
図7】交流電圧の周波数に対するインピーダンスの変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の損傷検出装置を炭素繊維複合材ケーブルの損傷検出に適用した実施の形態を説明する。
【0038】
まず、損傷検出装置の説明に先立ち、高強度繊維複合材ケーブルの一種である炭素繊維複合材ケールの構造を説明する。
図1は、損傷検出装置の概略構成図であり、(A)は、炭素繊維複合ケーブルに交流電源供給装置を接続した状態を示し、(B)は、このケーブルに発生した磁束を検出する差動検出コイルと測定器を示す。
炭素繊維複合材ケーブル2は、導電性を有する炭素繊維の束を絶縁性の熱硬化性樹脂で被覆してストランド3を形成し、さらに、これらストランド3の複数本を撚り合わせてた構成である。具体的には、ケーブル2の中心にストランド3の1本を配置し、さらにその周囲に6本のストランド3を配置して、これらのストランド3を撚り合わせて1本のケーブル2を得ている。なお、下記では単にケーブル2と称する事もある。
【0039】
上記構造の炭素繊維複合材ケーブル2に適用する損傷検出装置1は、ストランド3に交流電圧を印加する交流電源供給装置10と、ケーブル2をその軸方向(長手方向)に走査すると共に、前記ケーブル2に発生した磁束を検出する差動検出コイル20と、この差動検出コイル20によって得られた測定値を解析して映し出すアナライザ等の測定器30で構成されている。
なお、本発明の特許請求の範囲との関係では、上記した各種装置の機能によって各手段が具現化されている。
【0040】
交流電源供給装置10は、コンタクトプローブ11を通じて、ストランド3の端面から交流電圧を印加するものである。具体的には、
図2に示すように、ケーブル2の中心に位置するストランド3aと、このストランド3aに隣り合って配置される6本のストランド3b〜3gから順番に選び出した1本のストランドを対象とし、これらストランド3の片側端面にそれぞれコンタクトプローブ11を接触させて交流電圧を印加する。すなわち、隣り合うストランド3を組みとして、そのストランド3,3間に交流電圧を印加する。
【0041】
差動検出コイル20は、2つの貫通型コイル21,22を有し、各コイル21,22はケーブル2の軸方向に前後に連なって設けられている。具体的には、コイル周方向に導線が巻き回された貫通型コイルを2つ備え、これら貫通型コイル21,22を、ケーブル2の一端から順に差し入れてケーブル2に装着する。なお、貫通型コイル21,22の口径は、ケーブル2の外径に対して僅かに大きく、装着された各コイル21,22は、ケーブル2の軸方向にスライドできるようになっている。
また、各コイル21,22の導線はそれぞれ測定器30に接続され、この測定器30では、これら2つの貫通型コイル21,22からなる差動検出コイル20で得た値の解析値を確認できるようになっている。
【0042】
ここで差動検出コイル20の動作特性を説明する。
交流電圧供給装置10によって、隣り合うストランド3に交流電圧を印加すると、このストランド3,3間の静電容量によってケーブル2に交流電流が誘導される。また、この誘導電流によって生じた磁束が差動検出コイル20に作用して、この差動検出コイル20の各コイル21,22に誘導起電力を生じさせる。
また、各コイル21,22に生じた誘導起電力は、個々に測定器30に入力され、その値の差が波形となってモニター31に映し出される。すなわち、差動検出コイル20は、電磁誘導によって生じた誘導起電力を貫通型コイル21,22で個々に検出して測定器30に出力し、この測定器30はその値の差を算出して波形に映し出す。
このように本実施の形態に示す損傷検出装置1は、隣り合うストランド3、3を組みとして、そのストランド間の静電容量に相関性を有する磁束を差動検出コイル20を用いて、ケーブル2の軸方向複数箇所で測定し、また、その測定値を差分処理して比較結果を作成し、その比較結果を波形に置き換えて測定器30に映し出している。
【0043】
続いて、上記の装置構成を踏まえ、本発明に係る損傷評価方法の基本原理を
図2及び
図3を参照して説明する。
図3において(A)は、ストランドに損傷がない状態を示し、(B)は、ストランドに損傷がある状態を示す。
なお、下記では
図3の(B)に示すように、ストランド3gに破断等の損傷があると仮定して説明する。また、
図2に示すように、アース側のコンタクトプローブ11を中心のストランド3aに常設し、他方のコンタクトプローブ11を周囲のストランド3b〜3gに対して順番に接触させて交流電圧を印加する。すなわち、ストランド3を6つに組み分けし、そのそれぞれについて損傷の有無を評価する。
【0044】
まず、損傷の無いストランド3b〜3fを含む組みの試行では、ストランド3a、及びストランド3b〜3fの長さが同じであるため、各組み共にほぼ同じ静電容量になる。このためケーブル2の始端から終端に掛けて、誘導電流並びに磁束がほぼ一様になり、差動検出コイル20で測定した各コイル21,22の測定値もほぼ同じ値を取る。したがって、これら測定値の差は少なく、変化の少ない波形が測定器30に映し出される。
【0045】
一方、損傷のあるストランド3gを含む組み合わせでは、ストランド3gの実長が他のストランド3b〜3fに比べて実質的に短くなり、健全なストランド間の静電容量に比べるとその値は小さくなる。また、これを要因としてケーブル2の始端から損傷部Dにかけての区間と、損傷部Dからケーブル2の終端にかけての区間で誘導電流の大きさが変化して磁束も異なってくる。また、磁束が異なるため差動検出コイル20に設けられた各コイル21,22で得られる値も損傷部Dを境にその前後で異なる値になる。
【0046】
このため差動検出コイル20をケーブル2の長手方向に走査していく過程で、その前後2つのコイルの間に損傷部Dが到達してコイル21,22間に挟まれる状態になると、前方のコイル21と、後方のコイル22とにおいて同時期に取得した測定値に差が生じる。よって、その差が波形となって測定器30に映し出される。つまり、損傷したストランドの組みでは、健全なストランドの組みに比べて変化の大きい波形が得られ、また、変化の大きい測定区間に損傷があるとみなせる。
このように、静電容量に相関性を有する値を測定して、ストランドの損傷を評価している。
【0047】
なお、上記でストランド3aのみに損傷がある場合には、いずれの組みも同じ静電容量になるため各組みとも同じ波形を示す。しかしながら、その波形の特定区間において波形が大きく変化するため、この波形の変化をもってストランド3aの損傷を見抜くことができる。すなわち、ケーブル2の軸方向複数箇所で測定を行えば、組み単位での損傷評価の他、ストランド単体での損傷評価も可能になる。また、差動検出コイル20を用いれば、同時期に複数箇所で測定が行われるため、その測定結果が明確な変化を伴って即座に波形に現れる。よって、損傷部位の特定が一層確実になる。
【0048】
<損傷検出試験>
続いて、上記した損傷検出装置1を用いて実施したケーブル2の損傷検出試験を説明する。
試験体としては、ケーブル2(ストランド数7、直径φ12,5mm、東京製鋼社製)×長さ1000mmを準備し、そのストランドのうち、外側の一本に人工的な損傷(破断)を形成しておく。また、その位置は試験体のほぼ中央に形成した。
【0049】
また、差動検出コイル20には、外径19mm×内径13mm、巻線断面積3×3mm
2、巻き数500の貫通型コイルを2つ組み合わせて用いる。
交流電源供給装置10は、周波数2MHz、電圧7Vの設定で各ストランド間に順次交流電圧を供給する。
【0050】
また、交流電圧を印加する順番は、
図3に示した順番で実施する。
すなわち、アース側のコンタクトプローブ11を中心のストランド3aに常設し、他方のコンタクトプローブ11を周囲のストランド3b〜3gに対して順番に接触させて交流電圧を印加する。また、選択したストランドの組みに交流電圧を印加した状態で、ケーブル2の始端から終端に向かって差動検出コイル20を微速で移動させてケーブル全体に沿って走査させるようにする。また、その時々の変化を差動検出コイル20で順次測定し、これを測定器30のモニター31に映し出す。
【0051】
図4は、測定器30に映し出される差動検出コイル20の測定波形である。
グラフ縦軸は誘導起電力の差を示している。すなわち、差動検出コイル20において前方のコイル21で得た測定値と、後方のコイル22で得た測定値とを差分処理して求めた値であり、その値が大きいほど、前後のコイル21,22間で測定値に差があると言える。グラフ横軸は、ケーブル2の始端から差動検出コイル20にかけての距離、言い換えればケーブル2の測定点に相当する。
図4中波形Aは、健全なストランド3の波形であり、
図4中波形Bは損傷したストランド3の波形である。
【0052】
この図からも理解されるように、健全なストランドの波形Aと損傷したストランドの波形Bを比較すると、損傷したストランドの波形Bでは、差動検出コイル20が試験体のほぼ中央を通過した時点で、大きな変化が見られる。 一方、健全なストランドの波形Aでは、多少のノイズはあるものの、波形全体に大きな乱れはなく安定している。
このように損傷したストランドを含む組みでは、他の組みに比較してその波形に明確な変化が現れた。また、試験体のほぼ中央を差動検出コイル20が通過した際、その前方のコイル21と後方のコイル22との間で測定値に大きな差が見られ、この測定値の差をもって、当該箇所に損傷があると評価できる。
【0053】
このように本実施の形態に示す損傷検出装置1によれば、測定器30に映し出される波形を解析することで損傷の有無を評価でき、さらに、その損傷部位も明確に特定することができる。
【0054】
なお、上記した損傷検出装置1並びにその損傷評価方法は、あくまでも一実施の形態であって、本発明の損傷評価方法に係る原理を応用すれば様々な視点でケーブル2の損傷を評価できる。
【0055】
例えば、上記の試験では2つのコイル21,22を有する差動検出コイル20を用いたが、一つの貫通型コイルのみでも損傷の有無を評価することができる。すなわち、差分処理を行わずに損傷を検出する方法である。
【0056】
図5は、一つの貫通型コイルによって得られた誘導起電力の波形である。グラフ縦軸は貫通型コイルで測定した誘導起電力を示す。グラフ横軸は、選択したストランド3の始端から差動検出コイル20に掛けての距離、言い換えればケーブル2の測定位置に相当する。また、
図5中波形Aは、健全なストランド3の波形であり、
図5中波形Bは損傷したストランド3の波形を示す。
【0057】
この図からも分かるように、健全なストランドの波形Aと損傷したストランドの波形Bとを比較すると、損傷したストランドの波形Bは、貫通型コイルが試験体のほぼ中央を通過した時点で大きな変化が見られる。一方、健全なストランドの波形Aでは、多少のノイズはあるものの、損傷したストランドの波形Aに比べて波形の乱れが少ない。このように損傷したストランドを含む組みでは、他の組みに比較してその波形に明確な変化が現れた。また、試験体のほぼ中央を貫通型コイルが通過した際、その波形に大きな変化が見られるため、この測定値の変化をもって、当該箇所に損傷があると評価できる。
このようにケーブルの軸方向(長手方向)に、順次測定点を移動しながら測定することで、一つの貫通型コイルを用いた場合でも損傷の評価は可能である。
【0058】
また、本実施の形態で説明した損傷評価方法では、ストランドの各組みにおける損傷の有無と、損傷箇所の双方を特定しているが、検査によっては、損傷の有無のみを把握するだけで足りる場合もある。この場合には、貫通型コイルをケーブル2の終端にセットしてストランドの組み別に誘導起電力を測定する。
【0059】
このとき、損傷したストランド3を含む組み合わせでは、ストランド3、3間の静電容量が小さくなるため、貫通型コイルで得た測定値も他の組み合わせと異なる値を示す。よって、この値を組み相互に比較することによって損傷の有無を組み単位で評価できる。
【0060】
また、上記では、差動検出コイル20若しくは貫通型コイル単体から得られる誘導起電力を測定して損傷の有無を評価しているが、静電容量に相関性を有するインピーダンスを測定して損傷の有無や損傷箇所を特定してもよい。
なお、この場合の装置構成としては、交流電圧供給装置10の他、LCRメーターやインピーダンスアナライザ等の測定器を含めることができ、これらの測定器によりインピーダンスを測定することができる。
【0061】
図6は、ケーブル2の長さに対するインピーダンスの変化を示すグラフであり、損傷の無いケーブルを対象とした予備実験で得た測定値に基づき作成している。グラフ縦軸はインピーダンスの大きさを示している。グラフ横軸は、ケーブル2の長さを示している。ここでグラフ横軸をストランド3の始端から損傷箇所までの長さと言い換えれば、試験体の実測によって測定されるインピーダンスをこのグラフに当てはめることで、ストランドの長さ、すなわち始端か
ら損傷箇所までの長さ(距離)を推測できる。
【0062】
具体的には、全長1mの試験体において、そのインピーダンスの実測値が1150Ω(
図6中のB点)を示す場合には、始端から0,7mの付近に損傷があるとみなせる。また、インピーダンスの実測値が2450Ω(
図6中のA点)を示す場合には、始端から0,3mの付近に損傷があるとみなせる。
一方、損傷が無い場合の測定値は、ケーブル長1mに対応する理論値750Ω(
図6中のC点)を示す。このように隣り合うストランド間のインピーダンスを測定すると、損傷のあるストランドにおいては、
図6中のC点に示すインピーダンスと異なる値を示す。
【0063】
また、インピーダンスを利用した損傷評価の他の例として、ストランド間に印加する交流電圧の周波数を変えることによっても損傷評価が可能である。なお、この場合の装置構成としては、交流電圧供給装置10の他、LCRメーターやインピーダンスアナライザ等の測定器を含めることができ、これらの測定器によりインピーダンスや周波数を測定することができる。
【0064】
図7は、交流電圧の周波数に対するインピーダンスの変化を示すグラフである。
グラフ縦軸にインピーダンスの大きさを示している。グラフ横軸は、ストランド間に印加される交流電圧の周波数である。
図7中の折れ線Aは、健全なストランドの組みに対応した測定値であり、
図7中の折れ線Bは損傷したストランドの組みに対応した測定値である。
【0065】
この図からも分かるように、各組みに特定の交流電圧を印加して両者のインピーダンスを相互に比較すると、損傷したストランドを含む組み(折れ線B)では、健全なストランドの組み(折れ線A)に対していずれも高い値を示しており、この値をもって各組みの損傷を評価できる。
【0066】
このように本実施の形態に示す損傷評価方法によれば、磁束、誘導起電力、インピーダンス等、静電容量に相関性を有する値を測定すると共に、その測定値の比較結果に基づいて損傷の有無を評価している。
【0067】
なお、上記した実施の形態では、静電容量に相関性を有する値として、磁束、誘導起電力、インピーダンスを挙げたが、静電容量の変化に伴って変化する誘導電流を検流計等によって測定し、この測定値に基づいて損傷を評価することも考えられる。また、静電容量そのものを測定して損傷を評価することも考えられる。
【0068】
また、本実施の形態では、測定値の比較において組み相互に測定値を比較しているが、基準となるべき値を予備実験等で予め把握しておき、この予備実験で得た基準値と実際の測定値とを比較することによっても、損傷の評価は可能である。
【0069】
また、本実施の形態では、高強度繊維複合材ケーブルとして炭素繊維複合材ケーブルを例に説明したが、導電性と絶縁性とを兼ね備えたストランド構造を有するケーブルであれば、炭素繊維のみならず、例えば、アラミド繊維、炭化珪素繊維等を複合材として用いた高強度繊維複合材ケーブルであってもよい。
【0070】
また、ストランドの片側端面から交流電圧を印加しているが、ストランドの途中に探針を差し込み、この探針を用いてストランド内に交流電圧を印加する事も考えられる。
【0071】
このように本発明の損傷評価方法によれば、隣り合うストランドを組みとして、そのストランド間に交流電流を印加し、さらにそのストランド間の静電容量に相関性を有する値を測定して比較することで、損傷の有無を非破壊的に評価することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 損傷検出装置
2 ケーブル
3 ストランド
3a 中心のストランド
3b〜3g 周囲のストランド
10 交流電源供給装置
11 コンタクトプローブ
20 差動検出コイル
21 前方のコイル
22 後方のコイル
30 測定器