(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コラーゲン、ヒアルロン酸、およびゼラチンが、コラーゲン、ヒアルロン酸、およびゼラチンのうちのいずれか2つの間にエチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)を介して架橋されている、コラーゲン、ヒアルロン酸、およびゼラチンからなるスキャフォールドを含む生体材料であって、
コラーゲン、ヒアルロン酸、およびゼラチンの合計比率を100%と仮定すると、前記コラーゲンの比率が30%〜45%であり、前記ヒアルロン酸の比率が0.1%〜5%であり、前記ゼラチンの比率が50%〜70%である、生体材料であって、
乾燥したスキャフォールドの20倍以上の膨張率を有する生体材料。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、脊椎動物の体で最も大きい器官であるが、これは、血液と神経が複雑に集まった表皮と真皮から構成されており、第3の層では、皮下組織が脂質と疎性結合組織から構成されている。これら3つの層は、多くの化学的または機械的損傷から体を守るのに重要な役割を果たしている(Choi et al.,J Cell Sci 123,3102−3111(2010))。真皮組織が大量に失われる火傷患者の創傷は、創傷拘縮および瘢痕組織形成を伴って治癒する。いくつかの実験的研究では、現在の物理的および薬理学的方法または植物療法のいずれかを用いてヒト皮膚細胞増殖を改善する新しいアプローチが扱われている(Dainiak et al.,Biomaterials 31,67−76(2010))。抗原性または恵皮部の制限のために、皮膚置換は、皮膚回復の目的を達成することができず、しかも広くは利用されていない(Bell et al.,Science 211,1052−1054(1981);Schulz et al.,Annu Rev Med 51,231−244(2000);Boyce,Burns 27,523−533(2001);Ma et al.,Biomaterials 24,4833−4841(2003))。現時点で、皮膚細胞の増殖を強化することは、各年齢層にとって世界的に高額な医療行為である。この数年間に、真皮(または真皮等価物)と表皮との会合を含む、インビトロで再構築されたヒト皮膚等価物の様々なモデルが開発された(Kim et al.,Br J Plast Surg 52,573−578(1999);Kremer et al.,Br J Plast Surg 53,459−465(2000);Hoeller et al.,Exp Dermatol 10,264−271(2001);Souto et al.,Sao Paulo Med J 124,71−76(2006))。皮膚組織工学の1つの重要な要素は、スキャフォールドの構築である。
【0003】
コラーゲンは、特に、皮膚軟部組織中のヒト結合組織の不可欠な構成成分であり、かつ主要なコンパートメントである(Duan and Sheardown,J Biomed Mater Res A 75,510−518(2005))。過去数十年間、コラーゲン多孔質スキャフォールドは、それらが細胞の浸潤、増殖および分化の支持体および鋳型として働く、皮膚、軟骨、骨および神経などの組織工学において広く用いられてきた。しかしながら、未処理のコラーゲンスキャフォールドの弱い機械的強度や速い生体分解速度は、その用途を制限する重大な問題である。その機械的強度が小さいかまたは調節できないばかりでなく、その三重らせん構造は、熱または生化学的処理で容易に変形して、ランダムコイル構造になる。コラーゲンベースのスキャフォールドの架橋は、機械的特性を最適化し、生体分解速度を調整するための効率的な方法である。
【0004】
ヒアルロン酸(HA)も皮膚の主要な構成要素であり、組織修復に関連する。それは、1.0M kDaよりも大きい分子量を有し、3,000を超える二糖反復単位を含む生体ポリマーである。このポリマーは、反復単位としての(1→3)結合で結合した交互のD−グルクロン酸(GlcUA)残基とN−アセチル−D−グルコサミン(GlcNAc)残基から構成される。皮膚の組織では、この特徴が水分保持に根本的に重要である(Toole,Curr Opin Cell Biol 2,839−844(1990))。HAは、天然に存在する最も吸湿性高い分子の1つである。HAは、細胞外マトリックス(ECM)の不可欠な構成要素の1つとなって、上皮組織、神経組織および結合組織に広く分布し、特に、細胞の分化および増殖に資する。
【0005】
さらに、変性したコラーゲンであるゼラチンは、細胞の接着、増殖、および分化のためのドメインの一部をその天然の形態として保持している(Lee et al.,Biomaterials 24,2503−2511(2003))。さらに、ゼラチンは、表面特性を修飾するのに好都合なアミン基およびカルボキシル基などの官能基を有する(Usta et al.,Biomaterials 24,165−172(2003))。ゼラチンは、多数のグリシン残基、プロリン残基および4−ヒドロキシプロリン残基を含む。(通常、再生用の組織の特徴に一致させるために)架橋を用いて、分解速度および生体力学的特徴を調整することができるが、それは、生体適合性を損なう可能性がある(Zeeman et al.,Biomaterials 20,921−931(1999))。
【0006】
したがって、コラーゲン/HA/ゼラチンスキャフォールドの架橋処理は、生体多孔質スキャフォールドの最も重大な関心事の1つになった。現在、機械的特性を改善する際に、物理的処理と化学的手法という2種類の架橋方法が用いられることが多い(Li et al.,J Mater Sci Mater Med 21,741−751(2010))。前者は、光酸化方法、脱水熱的方法およびUV照射方法の使用を含み、潜在的な細胞毒性化学残留物の導入を回避し、かつコラーゲン材料の優れた生体適合性を維持することができる(Lee et al.,Yonsei Med J 42,172−179(2001))。しかし、物理的処理の大部分は、要求を満たすほど十分に高い架橋度を生じさせることができない。そのため、化学的方法による処理がほとんどの場合でやはり必要となる。コラーゲン/HA/ゼラチン多孔質スキャフォールドの架橋剤を選ぶに当たり、2つの様々なアミノ酸側鎖に直接結合することができる2つの異なる反応基を含むヘテロ二官能性剤が、架橋の度合いを最大化する上で興味深い(Pieper et al.,Biomaterials 21,581−593(2000))。
【0007】
米国特許出願US2004/0267362号では、アンカリング部分と生体吸収性ポリマー繊維と中心部分とを含む結合組織スキャフォールドが開示された。この繊維は、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチンなどから作ることができた。この結合組織スキャフォールドは、損傷を受けたまたは裂けた結合組織を置換または強化するためのインプラントとして有用であった。しかしながら、結合組織および皮膚を移植または置換するための生体材料の必要条件は異なる。したがって、皮膚工学用途に用いられる生体材料が今も必要とされている。
【0008】
組織工学において、細胞生物学者の1つの極めて重要な目的は、洗練された培養条件を用いて細胞増殖を刺激することであった。皮膚等価物の性能は、それらが適用される細胞増殖によって決まる。多くの最近の証拠により、皮膚に見られるケラチノサイト(KC)、メラノサイト(MC)および線維芽細胞(FB)が相互の細胞機能を達成し、かつ相互の調節に積極的に関与することが示されている(Regnier et al.,J Invest Dermatol 109,510−512(1997);Berking et al.,Am J Pathol 158,943−953(2001);Schneider et al.,PLoS One 3,e1410(2008))。例えば、メラノサイトは、紫外線放射などの外的要因によって、ならびに線維芽細胞およびケラチノサイトから分泌される内部因子によっても影響を受ける(Yamaguchi et al.,FASEB J 20,1486−1488(2006))。さらに、いくつかのケラチノサイト由来因子は、単離されたメラノサイトの樹状突起形成を増強する(Gordon et al.,J Invest Dermatol 92,565−572(1989))。興味深い研究により、メラノサイト形質膜とケラチノサイト形質膜の相互作用が、メラノソームの移動に必要とされるケラチノサイト内での一過性の細胞内カルシウムシグナルを誘導することが明らかになった(Seiberg et al.,Exp Cell Res 254,25−32(2000);Joshi et al.,Pigment Cell Res 20,380−384(2007);Yamaguchi et al.,J Biol Chem 282,27557−27561(2007))。線維芽細胞が、コラーゲンマトリックスの再編成か、または特定の増殖因子の産生のいずれかによって、ケラチノサイト増殖を刺激することができることも示された。これは、線維芽細胞から生じる増殖因子が、ケラチノサイトおよびメラノサイトの移動、増殖、および分化に対して重要な役割を果たすことを反映するものである(Wang et al.,J Biomed Mater Res B Appl Biomater 82,390−399(2007))。3次元(3D)皮膚スキャフォールドは、物理的支持および宿主浸潤のための必要な鋳型としてのECM類似体を提供し、増殖および標的とされる機能的組織または器官への細胞の移動を導く(Park et al.,Biomaterials 23,1205−1212(2002);Park et al.,Toxicology 267,178−181(2010))。使用される理想的な皮膚スキャフォールドは、優れた生体適合性、好適な微小構造(例えば、細胞増殖のための100〜200μmの平均細孔径および90%を上回る空隙率)、調節可能な生体分解性ならびに好適な機械特性という特徴を有するべきである(Ma et al.,Biomaterials 24,4833−4841(2003))。そのため、好適な皮膚材料はさらに要求水準が高い。適格性に合う生体支持体およびヒト正常皮膚を模倣するケラチノサイト、メラノサイト、および線維芽細胞の共培養物として用いられるより良好な生体材料が今なお必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】生体材料製造、皮膚培養およびマウス皮膚創傷治癒モデルを示す。
【
図1B】EDCを介して架橋されたコラーゲン、ヒアルロン酸(HA)、およびゼラチンの提案される模式的表示。
【
図1C】コラーゲン/HA/ゼラチンスキャフォールドのSEM。細孔径は、132.5±8.4μmであった。
【
図1D】コラーゲン/HA/ゼラチンスキャフォールドのSEM。細孔径は、132.5±8.4μmであった。
【
図2】コラーゲン、HA、もしくはゼラチンを用いて作製したまたはEDC(50mM)を介して架橋したスキャフォールドの膨張研究を示す(n=3)。EDC架橋反応がないと、スキャフォールドは溶解して水になった(記号:×)。市販の材料と比較する場合、Du(DuoDERM 9C52552)、Hy(Hydro Coll)、Te(Tegaderm M1635)、およびME(MEDPOR(登録商標))が含まれる。
【
図4A】スキャフォールドに播種したヒト皮膚FBの細胞増殖率を示す(n=4)。1〜14日まで、増殖率をMTTアッセイで観察することができた(A)
【
図4B】スキャフォールドに播種したヒト皮膚FBの細胞増殖率を示す(n=4)。14日間スキャフォールド中に播種したFBのSEM画像(B)。
【
図5】スキャフォールド中で培養されたヒトKC、MCおよびFBの明視野位相、蛍光位相および合成位相での撮影画像を示す。蛍光化合物のPKH−67(緑)を用いて、細胞を染色した。
【
図6】3Dヒト皮膚等価物のプロトコルを示す(A)。(B)明視野の顕微鏡下の3Dヒト皮膚等価物のパラフィン切片(400×)。(C〜E)スキャフォールド中で14日間培養され、DAPI(青);KCをマーキングするための抗サイトケラチン(緑);MC用の抗s−100(赤)で染色されたKC、MC、およびFBの蛍光画像。(F)合成画像は、KC、MC、およびFBを1つ合わせたものである。矢印は、特定の色が付いたKC、MC、およびFBを指す。
【
図7】プレート上にまたはスキャフォールドとともに播種されたFBから分泌されたコラーゲン量を示す。プレート上またはスキャフォールド中で、最初の7日間FBを育て、その後、KCおよびMCをさらに7日間播種した。
【
図8】損傷して0、1、2、3、4、5、7および10日後の、スキャフォールド処置した創傷(A、上)および損傷創傷(A、下)の治癒パターンを示す。スキャフォールドの創傷治癒効力は、全層創傷モデルで評価した。麻酔した後、外科用ナイフで雄Wistarラットの直径2cmの全層切開を作った。切開を作った後、処置群については、スキャフォールドをすぐに創傷に被覆した。損傷群については、比較のために創傷を被覆しなかった。損傷後の最初の日から、損傷群の創傷の治癒は、損傷後10日まで、スキャフォールドで処置した創傷よりも遅かった。スケールバー=0.5cm。(B)様々な時点でのスキャフォールドおよび損傷の創傷収縮率。決まった日に創傷面積を調べることによって、創傷面積の低下を算出した。熱傷創の表面積を方法に記載したように算出した。創傷面積は、対照と比較したとき、損傷後の最初の日からスキャフォールドの存在下で急速に減少した。対照群の創傷面積は、7日目にもとのサイズの60%であった。このパーセンテージは、スキャフォールド群で約3日早く達成された。損傷群の創傷とスキャフォールド群の創傷の差は、10日目で統計的に有意であった。データを平均±平均の標準誤差(SEM)として示す。損傷群と比較される有意差は、P<0.05と定義した。
*有意。
【
図9】皮膚創傷の形態学的評価のためのヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した切片を示す。損傷10日後に、ラットを屠殺し、創傷皮膚を4%のパラホルムアルデヒドで固定した。組織学的観察のために、皮膚をH&Eで染色した。好中球の計数のために、各試料由来のランダムに選択した10カ所の真皮部分を400倍の倍率で調べた。損傷後10日のスキャフォールド群(A)、損傷群(B)および対照(C)の創傷。スキャフォールド群および損傷群の創傷は両方とも肉芽組織を有する。処置群の表皮は、損傷表皮よりも高密度であった。処置群の創傷は、損傷群と比較して好中球の浸潤が少なかった(D)。スケールバー=200μm。EP、上皮層、GT、肉芽組織。
*対照群と比較したとき、p<0.05。
**損傷群および対照群と比較したとき、p<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、コラーゲン、ヒアルロン酸、およびゼラチンのうちのいずれか2つの間にエチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)を介して架橋された、コラーゲン、ヒアルロン酸、およびゼラチンからなるスキャフォールドを含む生体材料を提供する。EDCは、ヘテロ二官能性のゼロ長架橋試薬である。これは、それ自体をコラーゲン、HAおよびゼラチンの巨大分子内に取り込むことなく、2つのアミノ酸間に架橋を形成する。スキャフォールドは、
(化1)
−(X−Y−Z)
n−
を有し、Xは、ゼラチン−ゼラチン、ゼラチン−コラーゲン、またはゼラチン−ヒアルロン酸であり、Yは、コラーゲン−コラーゲン、コラーゲン−ゼラチン、またはコラーゲン−ヒアルロン酸であり、Zは、ヒアルロン酸−ゼラチン、ヒアルロン酸−コラーゲン、またはヒアルロン酸−ヒアルロン酸であり、nは、1または1より大きい整数である。生体材料は、多孔質の3次元構造体である。コラーゲン、ヒアルロン酸、およびゼラチンの合計比率を100%と仮定すると、コラーゲンの比率は30%〜45%であり、ヒアルロン酸の比率は0.1%〜5%であり、ゼラチンの比率は50%〜70%である。好ましい実施形態では、生体材料の細孔径は、約10〜500μmである。より好ましい実施形態では、生体材料の細孔径は、約50〜200μmである。架橋剤の選択は、様々な構造の生体材料を生じさせる多孔質生体材料を調製するのに重要である。細孔径は、様々なニーズによって様々に異なり得る。生体材料の厚さも、材料の体積および重量/体積濃度のパーセンテージを制御することによって調節することができる。一実施形態では、生体材料の厚さは、ヒト皮膚の表皮層および真皮層の実際の厚さを模倣するために、平均約1mmである。本発明の生体材料は、高い水分吸収力を有する。生体材料の膨張率は、乾燥したスキャフォールドの約20倍強である。好ましい実施形態では、生体材料の膨張率は、乾燥したスキャフォールドの25倍強である。したがって、生体材料は、その水分含有能を高める大きな多孔質層状マトリックス間隙を有する。架橋後の多孔質形態は、細胞がスキャフォールド内に接種され得る可能性を提供する。生体材料内で相互接続した細孔は、ケラチノサイト、メラノサイトおよび真皮線維芽細胞などの細胞によって放出されるサイトカインと増殖因子の相互作用の機会を提供する。
【0014】
本発明の生体材料は、線維芽細胞のコラーゲン分泌を促進する。それはさらに、創傷部位での好中球浸潤を低下させ、かつ創傷部位での表皮の密度を増大させる。したがって、本発明の生体材料はさらに、創傷治癒または人工皮膚に用いることができる。
【0015】
生体材料は優れた生体適合性を有する。生体材料はさらに、線維芽細胞、ケラチノサイト、およびメラノサイトとともに培養すると、皮膚等価物を形成する。線維芽細胞は、ケラチノサイトおよびメラノサイトの前に播種された。ケラチノサイトおよびメラノサイトは、線維芽細胞とともに生体材料上で成長し、増殖する。3次元構造は生理的環境を模倣しており、これはさらに、実験室応用および臨床的応用を含む、皮膚関連の実験に用いることができる。例えば、皮膚細胞との相互作用を研究し、その調節機構を解明するための大規模な化合物のスクリーニングを、本発明の生体材料によって形成される3次元構造により実施することができる。
【0016】
本発明はまた、本発明の生体材料を調製するための方法であって、(a)コラーゲン、ヒアルロン酸、およびゼラチンの混合物を調製すること;(b)工程(a)の混合物を凍結乾燥させること;(c)工程(b)の混合物をEDCを含む有機溶液中でインキュベートすること;(d)EDCを含む有機溶液から混合物を除去すること;および(e)混合物を凍結乾燥させて、生体材料を形成させることを含む、方法を提供する。工程(a)の混合物中のコラーゲン、ヒアルロン酸およびゼラチンの濃度は、それぞれ、約0.5〜2000μM、0.0025〜1μMおよび0.1〜40mMである。有機溶液中のEDCの濃度は約2.5〜1000mMである。本発明における有機溶液としては、限定するものではないが、以下の溶媒:アルカン、アルコール、ケトン、エステル、ケテンおよびそれらの組合せが挙げられる。
【0017】
好ましい実施形態では、コラーゲンの濃度は約10〜1000μMであり、ヒアルロン酸の濃度は約0.0125〜0.2μMであり、ゼラチンの濃度は約0.5〜8mMである。より好ましい実施形態では、コラーゲンの濃度は約50〜200μMであり、ヒアルロン酸の濃度は約0.025〜0.1μMであり、ゼラチンの濃度は約1〜4mMである。
【0018】
好ましい実施形態では、有機溶液中のEDCの濃度は約5〜500mMである。より好ましい実施形態では、有機溶液中のEDCの濃度は約10〜250mMである。別の好ましい実施形態では、有機溶液はエタノールである。
【0019】
本発明はさらに、創傷治癒を増進するための方法であって、本発明の生体材料を創傷に被覆することを含む、方法を提供する。生体材料は、線維芽細胞のコラーゲン分泌を促進し、創傷の好中球浸潤を低下させ、かつ創傷における表皮の密度を増大させることによって、創傷治癒を増進する。
【実施例】
【0020】
以下の実施例は非限定的なものであり、かつ本発明の様々な態様および特徴の単なる代表例である。
【実施例1】
【0021】
生体材料の調製およびその特徴の評価
コラーゲン/HA/ゼラチンスポンジ生体多孔質スキャフォールドでできた生体材料の製造
コラーゲン(カタログ番号C7774、MW:64,000)、ゼラチン(カタログ番号G9539、MW:5,000)およびN−エチル−N’−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)(カタログ番号E1769)は全て、Sigma−Aldrich Chemical(St.Louis,MO)から購入した。HA(グレードFCH−200、MW:2〜2.1MDa)は、Kibun Food Chemicals(Tokyo,Japan)から入手した。コラーゲン/HA/ゼラチンの溶液は、それぞれ、93.75μM、0.05μM、および2mMの最終濃度で混合したものであった。この混合溶液を6cm培養ディッシュに穏やかに入れ、−20℃で48時間凍結させた。この混合溶液を24時間凍結乾燥させることにより、コラーゲン/HA/ゼラチンスポンジを構築した。
【0022】
次に、それを、50mMのEDCを含む純エタノールにて25℃で24時間、化学的にインキュベートした。24時間後、EDC溶液を除去することにより反応を停止させ、蒸留H
2Oで数回洗浄して、未反応の化学物質(EDC)を全て除去した。スキャフォールドをさらに48時間凍結乾燥させ、酸化エチレンガスで滅菌した。乾燥したコラーゲン/HA/ゼラチンスキャフォールドをさらなる研究用に好適なサイズで製造した。
図1は、均質相での確立された反応経路から導かれる反応に従って描かれた。
【0023】
生体材料の膨張率アッセイ
コラーゲン/HA/ゼラチン(30mg)のスキャフォールド試料を25℃で24時間滅菌水に別々に浸漬させた。水から取り出した後、漬け水が見られなくなるまでスキャフォールドを吊し、その後、重量を量った。膨張したスキャフォールド内の水分吸収を以下の方程式により算出した:
(数1)
水分吸収=(W
w−W
d)/W
d
W
wは、膨張したスキャフォールドの重量であり、W
dは、乾燥したスキャフォールドの重量である。結果を他の4つの市販の創傷被覆材とも比較した。
【0024】
水分吸収は、生命維持に必要な栄養摂取を得るために細胞増殖にとって必要である。吸収率を
図2に示した。EDCと架橋した3つの構成要素は、乾燥したスキャフォールドの約15〜30倍の吸収力を示し、HAおよびゼラチンも同様であった。HAがない場合、吸収率は15倍にまで減少した。これは、HAが高い水分吸収特性を有する重要因子であり、周知の事実と一致していたこと示す。HAやゼラチンだけのスキャフォールドは高い膨張率を示したが、コラーゲンが、真皮の重要な構成要素である。したがって、スキャフォールドを製造するためにコラーゲンも取り入れた。3つの構成要素の濃度を低下させて、膨張率に対する影響を評価した。結果は、水分吸収の大きい変化を示さなかった。架橋反応がないと、スキャフォールドは水に溶解し、吸収力を測定することができなかった。比較のために4つの市販の皮膚被覆材を適用したが、その膨張率は全て10倍未満であった。これにより、スポンジ状スキャフォールドが、その水分含有能を高める大きな多孔質層状マトリックス間隙を保持していることが明らかになった。通常、3つの構成要素は、その骨格中に負の電荷を帯びた多数のカルボン酸基を有し、親水性であった。
【0025】
リゾチーム、コラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼによる生体材料の分解率の評価
生体材料(n=6)の重量を正確に量り、0.05MのCaCl
2を含み、10および20UのコラゲナーゼI(Sigma)を含有する、0.1MのTris−HCl(pH7.4)1mlに37℃で浸漬させた。特定の時間間隔の後、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を計0.2ml添加して、消化を終了させた。残ったスキャフォールドを滅菌水中で3回洗浄し、最後に凍結乾燥させた。生体材料分解を残存スキャフォールドの重量によって決定し、もとの重量のパーセンテージとして表した。同様のプロトコルをヒアルロニダーゼおよびリゾチームに適用した。スキャフォールド試料を30または50U/mlのヒアルロニダーゼを含有するPBS(pH=7.4)に懸濁し、37℃で1、3、5、および7日間インキュベートした。スキャフォールドをリゾチーム(10,000および30,000U/ml)を含むPBS(pH7.4)にて37℃で最大21日間インキュベートして、生体材料の分解をリゾチームにより試験した。分解期間の最後に、試料を取り除き、次の測定を行なうために洗浄した。比較解析用に生体材料の残存重量を生体材料の初期重量に対して割り算することによって、架橋していない生体材料(n=6)の分解率を算出した。
【0026】
リゾチーム、ヒアルロニダーゼ、およびコラゲナーゼを別々に用いるインビトロ分解試験によって、コラーゲン/HA/ゼラチンの生物学的安定性を試験した。
図3Aに示すように、生体材料は、7日後、30,000U/mlのリゾチームによって完全には分解されなかった。
図3Bでは、生体材料は、7日後、30と50U/mlの両方のヒアルロニダーゼによって完全に分解された。生体材料は、20U/mlのコラゲナーゼ中で3時間インキュベートした後、完全に分解された(
図3C)。
【実施例2】
【0027】
細胞は多孔質スキャフォールド内で増殖する
ヒト皮膚初代培養
ヒトケラチノサイトを包皮初代培養物から培養した。この包皮初代培養物は、台湾の高雄医学大学付属中和記念病院(Chung−Ho Memorial Hospital,Kaohsiung Medical University,Taiwan)から入手したものである。ヒトケラチノサイトを、ウシ下垂体抽出物(BPE、カタログ番号13028−014)、およびEGFヒト組換え体(カタログ番号10450−013)を補充したケラチノサイト−SFM(10724;GIBCO(商標))中で培養した。ケラチノサイト用の培地および増殖補助因子は、γ−表皮増殖因子、BPE、インスリン、線維芽細胞増殖因子およびカルシウム(0.09mM)を含有していた。新生児の包皮初代ヒト表皮メラノサイト(HEMn−MP)をCascade Biologics(商標)から購入し、Medium 254(M−254−500;Cascade Biologics(商標))中で培養し、ヒトメラノサイト増殖補助因子(HMGS、カタログ番号S−002−5)を補充した。Medium 254は、必須アミノ酸および非必須アミノ酸、ビタミン、有機化合物、微量ミネラル、ならびに無機塩を含有する基本培地であった。ヒトメラノサイト増殖補助因子は、ウシ下垂体抽出物、胎仔ウシ血清、ウシインスリン、ウシトランスフェリン、塩基性線維芽細胞増殖因子、ヒドロコルチゾン、ヘパリン、およびホルボール12−ミリステート13−アセテートを含有していた。ヒト皮膚線維芽細胞の初代培養物は、Ching−Ying Wu博士(Department of Dermatology,Graduate Institute of Medicine,Center of Excellence for Environmental Medicine,Kaohsiung Medical University)から無償で提供されたものであった。どのタイプの細胞も、5%CO
2雰囲気の加湿インキュベーターにて37℃でインキュベートした。
【0028】
トリパンブルーアッセイ
全ての細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の1×トリプシン−EDTA(BioWest)でトリプシン処理し、0.5mlを無菌的にPBS中に希釈し、0.5mlの溶液トリパンブルー(0.4%w/v)を添加した。染色された細胞をパスツールピペットで試料採取し、毛細管現象によって血球計算盤に導入した。合計少なくとも500個の細胞を計数し、青い細胞を個別に計数した。
【0029】
細胞接着率および生存率
スキャフォールドを酸化エチレンガスで滅菌し、予め湿らせて残存する酸化エチレンを排除した後、24ウェルプレートに入れた。100μlの(5×10
5細胞/100μl)細胞懸濁液を、予め湿らせておいた各々のスキャフォールドの上面に載せ、スキャフォールドの中に透過させた。次に、細胞を接着させるために、細胞/スキャフォールド構築物を、5%CO
2条件下、37℃で4時間インキュベートした。細胞が接着した後、ウェルの底の失われた細胞を除去するために、細胞/スキャフォールド構築物を新しい24ウェルプレートに移し、細胞/スキャフォールド構築物を含む各々の新しいウェルに0.5mlの培養培地を添加した。培養培地を2日毎に交換し、培養期間中、培養プレートを振盪させた。表示した全ての時間間隔で、さらなる実験解析のために、細胞/スキャフォールド構築物を回収した。
【0030】
3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム(MTS)アッセイを用いて、スキャフォールド上に播種された細胞の細胞生存率および増殖率を研究した(Han et al.,Breast Cancer Res 11,R57(2009))。MTSアッセイは、生細胞によって摂取され、デヒドロゲナーゼ酵素によって還元され、黄色いホルマザン産物として培養培地中に再び放出された。490nmの吸光度で測定されるホルマザン産物の量は、培養物中の生細胞の数に正比例した。100μl培地中の細胞を、製造元の指示に従って、20μlのCellTiter 96 AQueous One Solution(Promega、カタログ番号G3582)に3時間曝露させた。分光計プレートリーダーを用いて、490nmでの吸光度を記録した。
【0031】
スキャフォールド上の細胞の接着率を保証するために、細胞生存率を試験することにより、スキャフォールド内に播種されたヒト線維芽細胞の細胞適合性を検討した。24ウェルプレート上に直接播種された同量の細胞と比較したとき、播種された細胞の約75%がスキャフォールドにうまく接着することが示された(
図4A)。スポンジ状スキャフォールド上でのヒト線維芽細胞の生存細胞数をMTSアッセイで測定した。培養物の播種後14日で、スキャフォールド内で増殖した線維芽細胞の細胞密度は大きな増強を示し、本発明の生体材料でできたスキャフォールドが、細胞の増殖、分化および生存性の利点を有することを示した。
【0032】
多孔質スキャフォールド/生体材料の形態(SEM画像)
多孔質スキャフォールドの形態学的な特徴を走査電子顕微鏡画像(SEM,JEOL,Tokyo,Japan)を用いて観察した。スキャフォールドを2.5%のグルタルアルデヒドを含む0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)中で一晩固定し、1%の四酸化オスミウム中で1時間後固定し、エタノール(30、50、75、および99.5%)中で脱水し、臨界点乾燥させた。乾燥した試料に、スパッタコーターによって周囲温度で金をコーティングした。スキャフォールドの顕微鏡写真を適切なサイズ(100倍、および200倍)で撮影した。細孔径分布を0.01μm〜1000μmの範囲でBeckman Coulter LS32装置によって測定した。各々のSEM写真および合計5つのSEM写真上の30個の細孔の細孔径を測定し、その後、平均細孔径を算出した。
【0033】
SEMによって記録されたコラーゲン/HA/ゼラチンスキャフォールドの形態学的特徴を
図4Bに示した。スキャフォールドは相互接続した高多孔質構造を見せ、線維芽細胞で処理されなかった細孔壁の表面は、滑らかで均質であるように見えた。スポンジ状スキャフォールドのSEM画像により、このスポンジ状スキャフォールドが、細孔径が132.5±8.4μmの範囲の、隙間の空いた巨大な多孔質構造を有することが示された。線維芽細胞で細胞処理したスキャフォールド(14日)について、SEM画像を
図4Bに示した。細胞処理したスキャフォールドの細孔壁の表面は、起伏があり、おそらく線維芽細胞によって分解されたものと思われる破砕物でできていることが特徴付けられた。
【0034】
3Dヒト皮膚細胞のための共培養
インビトロ細胞培養および蛍光研究
皮膚分布を検出するために、スキャフォールド内に播種する前に、細胞をPKH67で染色した。(製造元のプロトコルに従って)細胞を5μMのPKH−67(選択的分配によって脂肪族化合物レポーター分子を細胞膜に取り込む緑色蛍光化合物;Sigma−Aldrich)とともに25℃で5分間インキュベートし、30秒毎に穏やかにボルテックス処理した。細胞を完全培地で洗浄することによって、取り込まれなかったPKH−67を除去した。PKH−67標識細胞を1×10
5/cm
2の密度でスキャフォールド表面に再プレーティングし、その後、様々な培養期間間隔で回収した。
【0035】
コラーゲン/HA/ゼラチンスキャフォールド内のヒト皮膚細胞の培養物を蛍光染色後に蛍光顕微鏡で検討した。(
図5)3種類の皮膚細胞は全て、その材料が細胞増殖にとって利点があることが証明されているコラーゲン/HA/ゼラチンスキャフォールドの存在下で正常に増殖した。架橋の程度は、スキャフォールド中での多孔質構造の分布と水分含有力とに関連することが確認された。生体材料から形成されるスキャフォールドは、ヒト皮膚細胞増殖のための適切な孔径と水分吸収力を有していた。
【0036】
皮膚等価物パラフィン切片の免疫蛍光研究
5×10
5個の線維芽細胞を事前に7日間播種しておいたスキャフォールド上に10
6個のケラチノサイトと10
5個のメラノサイトを播種することによって、ヒト皮膚等価物を作製した。ケラチノサイトとメラノサイトを播種した後、細胞をさらに7日間インキュベートし、培地を2日毎に交換した。共培養中、培地は、細胞の量に対して同じ比率で混合した。
【0037】
プロトコルは、若干の変更を加えて、公表されているプロトコルに従った(Dainiak et al.,Biomaterials 31,67−76(2010);Wu et al.,Biomaterials 31,631−640(2010))。共培養したケラチノサイト、メラノサイト、および線維芽細胞を含むスキャフォールドの標本を、PBS中に調製した4%ホルムアルデヒドで室温にて24時間固体した。標本をパラフィンに包埋し、切断して5μmの切片にした。切片を脱ろうした後、PBS中の3%H
2O
2で室温にて15分間透過処理し、その後、線維芽細胞を1時間ブロッキングし、サイトケラチンに対する一次抗体(ケラチノサイト用)またはs−100に対する一次抗体(メラノサイト用)とともにインキュベートした。その後、切片を洗浄し、cy3−コンジュゲートヤギ抗ウサギ抗体(Millipore)およびFITC−コンジュゲートヤギ抗マウス抗体(Millipore)とともに室温で30分間インキュベートし、4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)(Vector,Burlingame,CA)で対染色した。免疫蛍光画像を撮影した(TE300;Nikon,Japan)。細胞の局在を調べるために、切片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E染料)でも染色した。
【0038】
実際のヒト皮膚病をシミュレートすることができるモデルを構築するために、3Dヒト皮膚等価物用の共培養プロトコルを構築した(
図6A)。線維芽細胞を事前に7日間播種しておいたスキャフォールド上にケラチノサイトとメラノサイトを播種することによって、皮膚等価物を作製した。共培養した細胞をさらに7日間インキュベートした後、試料を上下方向に薄切し、免疫蛍光で染色し、顕微鏡下で観察した。
図6Bでは、それは、明視野下にある皮膚等価物のパラフィン切片であった。
図6Cでは、DAPIで染色した細胞を示した。
図6Dでは、ケラチノサイトは、FITCにコンジュゲートした抗サイトケラチンでマーキングされた。ケラチノサイトは緑色の蛍光を示した。
図6Eでは、メラノサイトは、cy3にコンジュゲートした抗s100タンパク質で染色され、赤色を示した。
図6C〜Eの画像を合成すると、
図6Fが現われた。
図6Fに示すように、メラノサイトとケラチノサイトは、上に分布し、抗サイトケラチンまたは抗s100タンパク質によってではなく、DAPIで染色された細胞が線維芽細胞であった。
【0039】
コラーゲン量
スキャフォールド中の線維芽細胞によって合成されたコラーゲンの総量を測定するために、Sirius Red色素(Direct Red;Sigma)を用いて、全コラーゲンを染色した。48ウェルプレート上またはスキャフォールド中でインキュベートされた線維芽細胞によって分泌されたコラーゲンと2Dウェル表面上またはスキャフォールド中の線維芽細胞、ケラチノサイト、およびメラノサイトの共培養物によって分泌されたコラーゲンを比較した。表示した時間間隔の後、培地を除去し、細胞をPBSで2回洗浄した。100μlの0.1%Sirius Red染色剤(ピクリン酸50ml当たりSirius Red粉末0.05g)を各ウェルに添加し、室温で1時間保持した。付着しなかった染色剤を除去し、200μlの0.1N HClで5回洗浄した。付着した染色剤を100μlの0.1N NaOHで抽出し(15分)、よく混合した。染色剤を96ウェルプレートに入れ、マイクロプレートリーダーを用いて540nmでの吸光度を読み取った。
【0040】
ECM中のコラーゲンは組織に対して適当な機械的強度を付与するが、線維芽細胞によるECMの産生に対するコラーゲンの効果も重要である。Sirius Red色素を用いて、スキャフォールド中のコラーゲンと線維芽細胞によって分泌されたコラーゲンの両方を染色した。ケラチノサイトとメラノサイトが線維芽細胞によるコラーゲン分泌に影響を及ぼすかどうかを調べるために、スキャフォールドのみ、スキャフォールド内部で7日間育てられた線維芽細胞のコラーゲン量と、48ウェルプレート中に7日間播種された線維芽細胞の場合、および線維芽細胞が7日間播種され、ケラチノサイトとメラノサイトがさらに7日間播種されたスキャフォールドの場合のコラーゲンの量とを比較した。
図7では、スキャフォールド中に線維芽細胞を播種する場合、線維芽細胞によって分泌されるコラーゲンは、ウェル上に播種されるよりも約30%多い。コラーゲンは、細胞外マトリックス(ECM)の重要な構成要素である。細胞増殖、組織体形成、および組織体形状は、コラーゲン濃度に依存的であった。したがって、創傷治癒促進の可能性を検出するために、コラーゲンの分泌量は重要な指標である。スキャフォールドは線維芽細胞のコラーゲン分泌を促進する潜在能力を有していたので、これは、創傷治癒時の組織工学のための優れた
材料であり得る。
【実施例3】
【0041】
ラットモデルでの創傷治癒
動物調製
雄のWistarラット(250〜285g)を本研究の全ての実験に用いた。ラットを、12時間/12時間の明暗スケジュールにした、温度調節された(22±1℃)部屋のPlexiglasケージの中で、食餌と水を自由に摂らせて飼育した。6匹のラットを損傷群と処置群の2つの群にランダムに分けた。切開創傷治癒試験を(Huang and Yang,Int J Pharm 346,38−46(2008))から改変した。麻酔後、背側の毛を電気カミソリで剃り、外科用ナイフで直径2cmの全層切開を作った。切開を作った後、同じサイズの生体材料を生理食塩水ですすぎ、創傷を直接被覆した。損傷群については、比較のために創傷を被覆しなかった。手術後、回復させるために、ラットを個別のケージに入れた。
【0042】
創傷サイズの評価
損傷後1、2、3、4、5、7および10日で、同じパラメータ(F7.2,1/60)でデジタルカメラ(Coolpix P6000,Nikon,Japan)を用いて写真を撮影した。SPOT(Diagnostic Instruments,Inc.,Sterling Heights,MI,USA)ソフトウェアを用いて、各々の創傷の面積を測定した。創傷治癒の程度は、
(数2)
(N日目の創傷面積/0日目の創傷面積)×100%
として算出される、創傷面積のパーセントとして表した。
【0043】
スキャフォールドの創傷治癒効率を全層創傷モデルで評価した。損傷群と処置群の両方の創傷面積は、時間とともに小さくなった(
図8)。損傷後1、2、3、4、5、および7日での処置群の創傷面積は、それぞれ、79.7±3.4%、73.4±3.5%、66.8±2.2%、60.7±5.0%、58.3±6.1%および44.9±4.3%であった。これらは全て、損傷群の創傷面積(97.4±5.5%、86.3±2.2%、75.3±3.7%、71.4±3.8%、67.9±8.1%および62.2±9.4%)よりも小さい。損傷後1日以降、処置群の創傷面積は、損傷群の創傷よりも小さく、この傾向は、損傷後10日まで一貫していた。処置群の創傷は、損傷群の創傷よりも早く閉鎖した。損傷後10日目で、スキャフォールドの場合の創傷の面積は、24.0±2.1%であった。その場合、損傷群の創傷面積は41.8±5.3%であり、このスキャフォールドは、創傷閉鎖速度を顕著に高めることができた。スキャフォールドで処置した創傷治癒は、最初の7日間で45%強の創傷閉鎖を達成し、10日以内にほぼ75%の創傷閉鎖を達成した。
【0044】
組織学的研究
H&E染色後の皮膚切片の組織学的検査(
図9)により、処置群と損傷群の両方の皮膚に肉芽組織が見られ、スキャフォールドが創傷治癒を妨害しないことが示された。処置群の表皮は損傷群の表皮よりも高密度であった。スキャフォールドは、創傷治癒の間に皮膚の強度を高めることができた。損傷群と比較して、処置群の創傷は、好中球浸潤が少なかった。創傷治癒過程の間、好中球は、ケラチノサイト分化および創傷閉鎖遅延を加速する物質を分泌した。このスキャフォールドを適用することによって、好中球浸潤が減少し、創傷閉鎖を加速した。
【0045】
このスキャフォールドは、治癒速度を向上させ、表皮の密度を高め、好中球浸潤を低下させることができる。これらの証拠は、このスキャフォールドが切開創傷治癒に好適であることを示している。
【0046】
損傷10日後、過剰に麻酔をかけることによってラットを屠殺した。創傷皮膚を4%のパラホルムアルデヒドで固定した。組織学的観察のために、皮膚をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。組織学的解析のために、Leica DM−6000顕微鏡(Leica,Wetzlar,Germany)を用いてSpot Xplorer CCD積算カメラ(Diagnostic Instruments,Inc.,Sterling Heights,MI,USA)で画像を取り込んだ。組織学的解析は、Bayatら(2005)を改変したものであった。好中球の計数のために、各試料由来のランダムに選択した10カ所の真皮部分を400倍の倍率で調べた。組織学的検査は盲検で実施した。
【0047】
本発明は、当業者がそれを作製し、使用することができるほど十分詳細に記載され、例示されているが、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、様々な改変、変更、および改良が明白になるはずである。
【0048】
当業者は、本発明をうまく適合させると、目的が実行され、記述された結果および利点、ならびに本明細書に固有の結果および利点が得られることを容易に理解する。それらを作製するためのプロセスおよび方法は、好ましい実施形態を代表するものであり、例示的なものであって、本発明の範囲に対する限定として意図されるものではない。当業者には、本明細書における変更および他の使用が思い当たるであろう。これらの変更は本発明の精神の範囲内に包含され、かつ特許請求の範囲によって定義される。