(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935187
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】圧電セラミックスおよびこれを用いた圧電アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
C04B 35/491 20060101AFI20160602BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20160602BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
C04B35/49 A
H01L41/18 101D
H01L41/18 101J
H01L41/08 M
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-178205(P2012-178205)
(22)【出願日】2012年8月10日
(65)【公開番号】特開2014-34507(P2014-34507A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】武井 義文
(72)【発明者】
【氏名】浅井 義博
(72)【発明者】
【氏名】片岡 昌子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 友好
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−187117(JP,A)
【文献】
特開平01−298060(JP,A)
【文献】
米国特許第04948767(US,A)
【文献】
特開平08−104568(JP,A)
【文献】
特開2001−181033(JP,A)
【文献】
特開平08−225367(JP,A)
【文献】
特開2003−055045(JP,A)
【文献】
特開平05−315669(JP,A)
【文献】
特開2005−333105(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0236654(US,A1)
【文献】
特開昭59−181585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/49−35/493
H01L 41/09
H01L 41/187
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PZT系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスであって、
組成元素にPb、Sr、Mg、Nb、Zr、Tiを含み、
比誘電率が3000以上で、圧電歪定数d31が200以上であり、
室温において、電圧印加の保持時間を1秒としたとき、絶縁抵抗が最小となる印加逆電圧が670V/mm以上であることを特徴とする圧電セラミックス。
【請求項2】
(101)面によるX線の回折ピーク位置が2θ=31.2〜31.5度の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の圧電セラミックス。
【請求項3】
バイモルフ構造を有する圧電アクチュエータであって、
金属製で弾性を有するシム板と、
前記シム板の両主面に設けられ、請求項1または請求項2記載の圧電セラミックスにより形成された圧電素子と、を備えることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PZT系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスおよびこれを用いたバイモルフ構造を有する圧電アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高い圧電特性を有することから、いわゆるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を主成分とし、ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスが、圧電アクチュエータ用材料として用いられている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、xPb(Mg
1/3Nb
2/3)O
3−yPbTiO
3−zPbZrO
3系磁器組成物のうち、Pb原子の一部をSr、Ba、Ca群から選ばれた少なくとも1つの原子で20原子%まで置換され、x=87.5〜1、y=81.3〜0、z=95.0〜0、x+y+z=100(いずれもモル%)、である強誘電性磁器組成物が開示されている。このような組成により、その電気機械結合係数、誘電率を大きくし、共振抵抗を小さくしている。
【0004】
特許文献2には、(Pb
1−a−bM
a)(Mg
1/3Nb
2/3)
xTi
yZr
zO
3で表される酸化物組成物において、b=0.005〜0.05であって、Mは、Sr、Ba、Caのうち少なくとも1種の原子であり、a=0.01〜0.1、x=0.10〜0.50、y=0.30〜0.50、z=0.10〜0.50、x+y+z=1(いずれも原子比)であるチタン酸ジルコン酸鉛系酸化物組成物が開示されている。このような組成により、比誘電率および電気機械結合係数を大きくしている。
【0005】
特許文献3には、(Pb
1−xSr
x)(Zr
yTi
1−yM
z)O
3+z′〔式中、MはNb、Sr、TaまたはLaから選ばれる1種以上の元素を表わし、0.08≦x≦0.14、0.49≦y−0.5x≦0.51、0.005≦z≦0.02、z′はLaが3/2z、MがSb、Ta又はNbのとき5/2zのようにM
zO
z′を化学量論的化合物にする値である。〕で表される組成を有することを特徴とする圧電磁器組成物が開示されている。これにより、圧電歪み定数が大きく、キュリー温度が高く、特に自動車等に用いるのに適した材料を提供可能にしている。
【0006】
特許文献4には、組成式Pb
z〔(Ti
xZr
1−x)
1−yM
y〕O
3(ただし、Mは、Nb、Sb、Wのうち少なくとも1種)の組成で表される積層圧電素子用圧電磁器組成物が開示されている。その組成式中のx、yは、0.45≦x≦0.52、0.005≦y≦0.03であり、かつ、その組成式中のzが0.95≦z≦0.998となるようにPbを化学量論組成より減じている。これにより、変位性能、耐熱性に優れかつ低消費電力のアクチュエータを提供可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭44−17103号公報
【特許文献2】特公平4−78582号公報
【特許文献3】特公平7−110786号公報
【特許文献4】特許4752156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1、2記載の材料を圧電アクチュエータに用いた場合、比誘電率が大きく、d定数も大きいことから、十分な駆動変位が得られる。しかしながら、圧電素子を駆動する際には、圧電体に分極方向と逆方向に電圧をかけ続けるため、駆動に伴い減極が発生し、駆動変位が低下する。一方、特許文献3、4記載の材料を用いた場合には、キュリー温度が高い等の特性を有することから減極を低減できると考えられるが、圧電特性が特許文献1、2記載の材料より劣っている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、大きい比誘電率およびd定数を有し、駆動に伴い発生する減極を低減できる圧電セラミックスおよびこれを用いた圧電アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の圧電セラミックスは、PZT系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスであって、組成元素にPb、Sr、Mg、Nb、Zr、Tiを含み、比誘電率が3000以上で、圧電歪定数d
31が200以上であり、室温において、電圧印加の保持時間を1秒としたとき、絶縁抵抗が最小となる印加逆電圧が670V/mm以上であることを特徴としている。
【0011】
このように、本発明の圧電セラミックスは、比誘電率およびd定数を大きくしつつ、分極方向に対する逆電圧の印加に伴い発生する減極を低減できる。その結果、圧電アクチュエータの駆動性能を向上できる。
【0012】
(2)また、本発明の圧電セラミックスは、(101)面によるX線の回折ピーク位置が2θ=31.2〜31.5度の範囲内であることを特徴としている。このような構造を有することにより、高い圧電特性を維持することができる。
【0013】
(3)また、本発明の圧電アクチュエータは、バイモルフ構造を有する圧電アクチュエータであって、金属製で弾性を有するシム板と、前記シム板の両主面に設けられ、上記の圧電セラミックスにより形成された圧電素子と、を備えることを特徴としている。これにより、高い駆動性能を有しつつ、駆動に伴い発生する減極を低減する圧電アクチュエータを実現できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大きい比誘電率およびd定数を有し、駆動に伴い発生する減極を低減する圧電セラミックスを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)〜(d)いずれも各条件で作製した試料の圧電特性の測定結果を示すグラフである。
【
図3】室温(25℃)における各印加電圧による逆電圧印加時の絶縁抵抗を示すグラフである。
【
図4】各温度での絶縁抵抗が最小となる印加逆電圧を示すグラフである。
【
図5】31°付近における各試料の回折X線ピークを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(圧電セラミックスの構成)
本発明の圧電セラミックスは、PZT系ペロブスカイト構造を有し、高い圧電特性を有するとともに、駆動に伴い発生する減極を低くすることができる。特に、バイモルフ型圧電アクチュエータの圧電素子への適用に好適である。
【0018】
この圧電セラミックスは、組成元素にPb、Sr、Mg、Nb、Zr、Tiを含んで構成されている。そして、比誘電率が3000以上で、圧電歪定数d
31が200以上であり、室温において、電圧印加の保持時間を1秒としたとき、絶縁抵抗が最小となる印加逆電圧が670V/mm以上である。このように、大きい比誘電率およびd定数を維持しつつ、分極方向に対する逆電圧の印加に伴い発生する減極を低減できる。
【0019】
このように比誘電率およびd定数が大きいため、圧電アクチュエータの駆動性能を向上できる。このような特性を実現できるのは、圧電セラミックスを構成する結晶粒子が、圧電特性の高い結晶構造を有するためと考えられる。なお、各結晶粒子は、ペロブスカイト型の正方晶系結晶構造を有し、(101)面によるX線の回折ピーク位置が2θ=31.2〜31.5度の範囲内に生じる。この結晶粒子の構造は、圧電セラミックス全体で一様である。また、電気機械結合係数krは60%以上である。
【0020】
また、室温において、電圧印加の保持時間1秒としたときの絶縁抵抗が最小となる印加逆電圧が670V/mm以上である。このような圧電セラミックスをバイモルフ型圧電アクチュエータに利用した場合には、十分な駆動変位を保ったまま、減極速度を低減できる。なお、電圧印加の保持時間1秒としたときの絶縁抵抗が最小となる印加逆電圧は700V/mm以上であればさらに好ましい。
【0021】
(圧電セラミックスおよび圧電アクチュエータの製造方法)
まず、構成される元素の配合比が下記条件の(1)を満たす酸化物を第1の材料とし、構成される元素の配合比が下記条件の(2)を満たす酸化物を第2の材料としたときに、第1の材料となるようにPb、Sr等を含む各材料を秤量、混合し、仮焼して第1の材料を有する圧電セラミックス粉末を生成する。また、同様に、第2の材料を有する圧電セラミックス粉末を生成する。
【0022】
(1)Pb
aSr
b(Mg
1/3Nb
2/3)
cZr
dTi
eO
3
0.92≦a≦0.94、0.04≦b≦0.06、0.36≦c≦0.39、0.24≦d≦0.27、0.36≦e≦0.38、c+d+e=1
(2)Pb
fSr
gNb
hZr
jTi
kO
3
0.95≦f≦0.98、0.04≦g≦0.06、0.15≦h≦0.25、0.52≦j≦0.55、0.45≦k≦0.48、h+j+k=1
【0023】
これらの原料粉末を、第1の材料:第2の材料=6:4〜8:2となる所定の比率で混合する。その際には、たとえばジルコニアボール等のボールとともにミル混合する。そして、造粒したものをプレス成形し、成形体を作製する。なお、予め所定の混合比率の組成の原料粉末を準備して、成形体を作製してもよい。
【0024】
次に、成形体を1150℃以上1200℃以下で焼成し、得られた圧電セラミックス焼結体を加工、研磨して、所定の電極を形成する。電極形成された焼結体を分極処理し、本発明の圧電セラミックスで圧電体を形成された圧電素子を得ることができる。焼成温度は、1200℃付近であることが好ましい。
【0025】
なお、成形体を作製する際には、原料粉末を混合して得られたスラリーから、グリーンシートを作製し、所定の電極を印刷して、積層し、積層型圧電素子用の成形体を得てもよい。そして、焼成して電極を焼き付けた圧電素子を金属製で弾性を有するシム板の両主面に接着すれば、バイモルフ構造を有する圧電アクチュエータを作製することができる。
【0026】
(実験1:圧電特性)
次に、本発明の圧電セラミックスについて行なった実験を説明する。まず、第1の材料と第2の材料とを所定の混合比率で混合して、1200℃または1150℃で焼成して圧電セラミックス焼結体のペレット試料を作製し、それぞれの混合比率と焼成温度の試料に対する密度、比誘電率、kr、d
31を測定した。
【0027】
混合比率は、それぞれ第1の材料:第2の材料=10:0、9:1、8:2、7:3、6:4として試料を作製した。密度の測定は、JIS R1634、比誘電率、krおよびd
31の測定は、、JEITA EM−450に基づいて行なった。
【0028】
図1(a)〜(d)は、各条件で作製した試料の圧電特性の測定結果を示すグラフである。また、以下に示す表1は、測定結果を表で示したものである。
【表1】
【0029】
このような実験結果により、1200℃で焼成した試料の方が緻密化が進んでおり、比誘電率、kr、d
31についても優れた結果が得られた。また、1200℃で焼成した試料については、6:4の混合比率のものでも、比誘電率が3000以上、krが60%以上、d
31が220×10
−12m/V以上であり、十分な圧電特性を有することを確認できた。一方、混合比率が9:1の試料は、8:2で形成されたものと圧電特性上大きく異ならないことが分かった。
【0030】
(実験2:減極速度)
上記の実験結果を考慮し、焼成温度1200℃で混合比率10:0、8:2、7:3、6:4の4つの試料について、減極速度に関する実験を行なった。上記条件の分極された圧電セラミックス試料を用意し、所定の逆電圧を1秒間印加し、絶縁抵抗を測定した。このようにして、絶縁抵抗が最小となるときの印加逆電圧を測定した。このようにして測定されたいわゆる「反転電圧」が高くなればなるほど、圧電セラミックスの「減極速度」は遅くなる。
【0031】
図2は、実験の構成を示す回路図である。
図2に示すように、圧電セラミックス試料10を抵抗11およびコンデンサ12の並列回路と仮定したときの抵抗を測定することで、絶縁抵抗を測定した。
【0032】
図3は、室温(25℃)における各印加電圧による逆電圧印加時の絶縁抵抗を示すグラフである。
図3に示すように、混合比率が、10:0から6:4に近づくにつれて、絶縁抵抗が最小となる印加逆電圧が高くなっている。
【0033】
このような測定を、温度条件を変えて40℃、60℃、80℃についても行なった。
図4は、各温度での絶縁抵抗が最小となる印加逆電圧を示すグラフである。また、以下に示す表2は、上記の測定結果を表で示したものである。
【表2】
【0034】
図4によれば、第1の材料と第2の材料の混合比率をx:(10−x)で表したときにx≦8を満たす組成を境にして、著しく印加逆電圧が大きくなっていることが分かる。このような傾向は、室温〜80℃の各温度で同様であった。
【0035】
(実験3:X線回折角)
混合比率10:0、8:2、7:3、6:4の4つの試料と、さらに第2の材料のみで形成した圧電セラミックス試料(混合比率0:10)について、X線回折ピークを測定した。いずれの試料も1200℃で焼成したものを使用した。
【0036】
まず、標準試料ホルダーに試料をセットし、MultiFlexのゴニオメータに設置した。そして、固定モノクロメータで調整したCuKαのX線を試料に入射させ、X線強度と回折角とを測定した。回折角は3°から90°まで連続で測定した。
【0037】
図5は、31°付近における各試料の回折X線ピークを示すグラフである。31°付近に最も強いピークが観測されたため、
図5では代表的にこれを示したものである。
図5に示すように、混合比率0:10の試料で生じた回折ピークのみ30.9°付近に存在しており、他の試料の回折ピーク位置とは異なっている。一方、混合比率10:0、8:2、7:3、6:4の試料で生じた回折ピークは、31.3〜31.4付近に存在し、8:2〜6:4の混合比率の試料を構成する結晶粒子の構造は、いずれも第1の材料のみで作製したときの圧電セラミックスの結晶構造と同等であることが確認された。
【符号の説明】
【0038】
10 圧電セラミックス試料
11 抵抗
12 コンデンサ