【文献】
Analytical Quantitative Cytology and Histology,2004年,Vol.26, No.5,p.278-284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
細胞試料が、5−ブロモデオキシウリジン(BrdU)存在下で培養した細胞由来の試料であり、かつ、工程(d)が、イメージサイトメーターを用いてBrdUを検出し、BrdUのシグナルの有無を指標にして、染色体多倍性細胞の細胞増殖の有無を検出する工程であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
工程(d)が、イメージサイトメーターを用いて細胞コロニー形成を検出し、細胞コロニー形成の有無を指標にして、染色体多倍性細胞の細胞増殖の有無を検出する工程であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
工程(a)が、DNAを標的とした蛍光物質に加えて、FISHプローブを細胞集団由来の細胞試料に接触させる工程であり、かつ、工程(c)〜(e)の間に、イメージサイトメーターを用いてFISHプローブを検出し、FISHプローブのシグナル数を基に染色体多倍性を測定する工程(p)をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のイメージサイトメーターによって、細胞集団における、染色体多倍性を示し、かつ、細胞増殖能を有する細胞の有無を判定する方法としては、DNAを標的とした蛍光物質と細胞集団由来の細胞試料とを接触させる工程(a);イメージサイトメーターを用いて、細胞試料中の各細胞のDNA含量を測定する工程(b);イメージサイトメーターを用いて、細胞周期G2/M期に相当する細胞よりもDNA含量が多い細胞を、染色体多倍性細胞として選択する工程(c);イメージサイトメーターを用いて染色体多倍性細胞の細胞増殖の有無を検出する工程(d);染色体多倍性細胞の細胞増殖が認められた場合、前記細胞集団に、染色体多倍性を示し、かつ、細胞増殖能を有する細胞が含まれていると判定する工程(e);を備えた方法であれば特に制限されないが、工程(c)〜(e)の間に、イメージサイトメーターを用いてFISHプローブを検出し、FISHプローブのシグナル数を基に染色体多倍性を測定する工程(p)をさらに備えることが好ましく、かかる工程(p)をさらに備えた場合、上記工程(a)の実施の形態として、DNAを標的とした蛍光物質に加えて、FISHプローブを細胞集団由来の細胞試料に接触させる工程を挙げることができる。
【0013】
本発明において、染色体多倍性を示す細胞とは、ヒト、マウスなどの動物細胞等の2倍体(2n)を示す細胞の倍数性が増加した、2倍体より多い倍数性を示す細胞のことを意味する。染色体多倍性を示す細胞は、例えば、染色体が複製(S)期に複製した後、有糸分裂(M)期において何らかの原因により正常に娘細胞へ分配されず、細胞あたりの染色体数が増えた場合、ごくまれに生じ得る。染色体多倍性を示す細胞の多くは、細胞周期チェックポイント機構やアポトーシス機構により細胞増殖が停止したり、或いは細胞死に至るが、中には細胞増殖できる細胞がごく一部生じることもあり、かかる染色体多倍性を示し、かつ、細胞増殖能を有する細胞は、本発明の判定する方法を用いることにより、検出することができる。
【0014】
本発明のイメージサイトメーターは、顕微鏡による蛍光画像の取得と取得された蛍光画像の解析とを自動的に行うことができる画像解析装置であって、蛍光画像を基にして得られた解析データから、蛍光画像を呼び出す手段を有するものをいう。また、本発明のイメージサイトメーターとしては、例えば、レーザー走査型イメージサイトメーターやこれを適宜改良したイメージサイトメーター等を挙げることができ、具体的にはレーザー走査型サイトメーター(LSC:Laser Scanning Cytometer)(オリンパス社製)、LSC2(オリンパス社製)、CELAVIEW RS100(オリンパス社製)などを挙げることができる。
【0015】
本発明の細胞集団としては、細胞増殖能を有する細胞の集団であれば特に制限されないが、例えば、複数系統の細胞に分化できる能力(多分化能)と、細胞分裂を経ても多分化能を維持できる能力(自己複製能)とを有する多能性幹細胞集団を挙げることができ、多能性幹細胞集団としては、全ての種類の細胞に分化することができる能力(全能性)を有するES細胞や、造血幹細胞、皮膚幹細胞、肝幹細胞など、生体内の各組織における幹細胞集団(成体幹細胞集団)を挙げることができ、この中には、体細胞などの分化した細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより人工的に作製された人工多能性幹細胞、いわゆるiPS細胞集団も含まれる。iPS細胞は、例えば3つの遺伝子(Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子)を体細胞へ導入し、非特許文献3、4に記載の技術に基づいて作製することができる。
【0016】
本発明のDNAを標的とした蛍光物質としては、DNAに結合できる蛍光物質であれば特に制限されず、DNA結合性の化合物やタンパク質などに、Cy3、Cy5、Cy2、フルオレセイン(FITC)、ローダミン、テキサスレッド、Alexa−488、Alexa−546、Alexa−594等のDNA結合性のない蛍光物質(以下、単に「蛍光物質」という)で標識させたものも含まれるが、簡便性を考慮すると、DNAの2本鎖の間にインターカレートするインターカレーター蛍光物質が好ましい。インターカレーター蛍光物質としては、例えば、ヘキスト(Hoechest)33342、Hoechest33258、4',6'-ジアミノ-2-フェニルインドール(4',6-diamino-2-phenylindole;DAPI)、ヨウ化プロピジウム(Propidium Iodide;PI)などを挙げることができ、これらの中でもPIを好適に例示することができる。
【0017】
本発明の細胞試料としては、本発明の細胞集団由来の各細胞のDNA含量を測定することができる細胞試料であれば特に制限されず、例えば、本発明の細胞集団からサンプリングした細胞を、ホルマリンやエタノールなどを用いてスライドグラスやカバーグラス上に固定したものを挙げることができる。本発明の細胞集団からサンプリングする細胞の数としては、本発明の判定する方法により、染色体多倍性を示し、かつ、細胞増殖能を有する細胞の有無を判定するために十分な細胞数あればよく、例えば、1000〜10000000、1000〜1000000、1000〜100000、1000〜10000、10000〜10000000、100000〜10000000、1000000〜10000000、10000〜1000000などを例示することができる。
【0018】
本発明の判定する方法における工程(a)において、DNAを標的とした蛍光物質と細胞集団由来の細胞試料とを接触させる方法としては、DNAを標的とした蛍光物質の特性を考慮して接触時間、接触時の温度、接触に用いる溶媒などの条件は適宜選択することができ、例えば、DNAを標的とした蛍光物質がインターカレーター蛍光物質である場合、接触時間としては、1分〜2時間の範囲から選択することができ、接触時の温度としては、0〜40℃の範囲から選択することができ、接触に用いる溶媒としては、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline;PBS)、トリス緩衝食塩水(Tris buffered saline;TBS)、脱イオン水(Deionized Water;DW)などから選択することができる。またDNAを標的とした蛍光物質がPIである場合、PIはDNAに加えてRNAにも結合性があるため、DNAを標的とした蛍光物質と細胞集団由来の細胞試料とを接触させる前又は接触させた後に、RNase処理により細胞試料中の各細胞におけるRNAを分解処理することが好ましい。
【0019】
本発明の判定する方法における工程(b)において、イメージサイトメーターを用いて、細胞試料中の各細胞のDNA含量を測定する方法としては、イメージサイトメーターを用いて、細胞試料中の各細胞で検出される、DNAを標的とした蛍光物質の蛍光量を測定する方法であれば特に制限されず、かかる測定する方法のより具体的な形態としては、イメージサイトメーターにより、細胞試料中の各細胞が発するDNAを標的とした蛍光物質の蛍光量を検出し、DNA蛍光画像として取得することや、かかるDNA蛍光画像を基にして得られた、各細胞の全蛍光量や最大蛍光量などの蛍光量に関する値をヒストグラムやドットプロットなどで表示したDNA解析データを取得することを、自動的に行う方法を例示することができる。
【0020】
本発明の判定する方法における工程(c)において、イメージサイトメーターを用いて、細胞周期G2/M期に相当する細胞よりもDNA含量が多い細胞を、染色体多倍性細胞として選択する方法としては、上記工程(b)で取得したDNA解析データで細胞周期G2/M期に相当する細胞よりもDNA含量が多い細胞を分類し、イメージサイトメーターを用いて、細胞周期G2/M期に相当する細胞よりもDNA含量が多い細胞を、上記工程(b)で取得したDNA蛍光画像で選択する方法であればよい。DNA蛍光画像とDNA解析データとは対応しているので、上記DNA解析データでG1期、S期、G2期、M期、多倍性などの細胞に分類すると、イメージサイトメーターを用いて、DNA蛍光画像でG1期、S期、G2期、M期、多倍性などの細胞を自動的に選択することができる。選択した各細胞は、分類したカテゴリーごとにImage・J(http://rsb.info.nih.gov/ij/)、Photoshop(Adobe社製)、After Effect(Adobe社製)、G-Count(株式会社ジーオングストローム社製)等の画像解析ソフトを用いて、色分けなどの画像処理をしてもよい。
【0021】
上記細胞周期G2/M期に相当する細胞は、DNA解析データを基に適宜分類することができ、例えば、各細胞におけるDNAを標的とした蛍光物質の全蛍光量と細胞数とをパラメーターとしてヒストグラムで表示したDNA解析データの場合、かかる全蛍光量が異なる2つのピークが検出されるが、ここで全蛍光量がより少ない方のピークをG1期の細胞由来のものとして、また全蛍光量がより多い方のピークをG2/M期の細胞由来のものとしてイメージサイトメーターを用いて分類することができる。かかるピークは、測定誤差などからある割合のピーク幅を有するため、ピーク幅を含めたものをG2/M期の細胞由来の細胞として分類してもよく、例えば、G1期の細胞由来のピークにおけるDNA含量を1とした場合、G2/M期の細胞のDNA含量は、DNA複製によりG1期の細胞と比べ2倍となることから、G2/M期の細胞由来のピークにおけるDNA含量は2となるが、ピーク幅を含めるために、例えば、1.7〜2.3、1.8〜2.2、1.9〜2.1などのピーク幅を含めたものをG2/M期の細胞由来の細胞として分類してもよい。
【0022】
DNA解析データにおける細胞周期G2/M期に相当する細胞を分類すると、かかる細胞よりもDNA含量が多い細胞を、染色体多倍性細胞として分類し、イメージサイトメーターを用いて、染色体多倍性細胞をDNA蛍光画像で自動的に選択することができる。選択する染色体多倍性細胞としては、細胞周期G2/M期に相当する細胞の中から任意のものであっても、或いは染色体4倍性、染色体8倍性など、特定の染色体多倍性を示す細胞に照準を合わせてもよい。特定の染色体多倍性を示す細胞に照準を合わせる場合、例えば、染色体4倍性を示す細胞を選択するときは、DNA解析データにおいて、G2/M期の細胞のDNA含量〜G2/M期の細胞の2倍のDNA含量の細胞に照準を合わせて分類することが好ましい。なお、DNA解析データで細胞周期G2/M期に相当する細胞よりもDNA含量が多い細胞を分類した中には、イメージサイトメーターが誤って複数の細胞が重なったものを染色体多倍性細胞として検出したものが含まれる場合があるが、かかるケースは、DNA蛍光画像を基に確認することができる。
【0023】
本発明の判定する方法における工程(d)において、イメージサイトメーターを用いて染色体多倍性細胞の細胞増殖の有無を検出する方法としては、イメージサイトメーターを用いて染色体多倍性細胞の細胞増殖を検出できる方法であれば特に制限されず、例えば、イメージサイトメーターを用いて、Ki−67、PCNA、トポイソメラーゼなどの細胞増殖関連タンパク質の発現を検出し、細胞増殖関連タンパク質のシグナルの有無を指標にして、染色体多倍性細胞の細胞増殖の有無を検出する方法や、イメージサイトメーターを用いてBrdUを検出し、BrdUのシグナルの有無を指標にして、染色体多倍性細胞の細胞増殖の有無を検出する方法や、イメージサイトメーターを用いて細胞コロニー形成を検出し、細胞コロニー形成の有無を指標にして、染色体多倍性細胞の細胞増殖の有無を検出する方法などを挙げることができ、これらの中でも正確性を考慮すると、イメージサイトメーターを用いてBrdUを検出し、BrdUのシグナルの有無を指標にして、染色体多倍性細胞の細胞増殖の有無を検出する方法が好ましく、また簡便性を考慮すると、イメージサイトメーターを用いて細胞コロニー形成を検出し、細胞コロニー形成の有無を指標にして、染色体多倍性細胞の細胞増殖の有無を検出する方法が好ましい。
【0024】
本発明の判定する方法における工程(d)において、上記イメージサイトメーターを用いて細胞増殖関連タンパク質の発現を検出し、細胞増殖関連タンパク質のシグナルの有無を指標にして、染色体多倍性細胞の細胞増殖の有無を検出する方法を用いる場合、上記工程(a)の形態として、DNAを標的とした蛍光物質に加えて、細胞増殖関連タンパク質に特異的な抗体を細胞集団由来の細胞試料に接触させる工程を挙げることができる。細胞増殖関連タンパク質に特異的な抗体としては、イメージサイトメーターを用いて検出できるものであれば特に制限はないが、蛍光物質で標識した抗体を好適に例示することができる。蛍光物質で標識した抗体としては、蛍光物質で直接的に標識したものや、蛍光物質で標識した2次抗体により間接的に標識したものを挙げることができる。細胞増殖関連タンパク質に特異的な抗体に直接又は間接的に標識した蛍光物質のシグナルは、イメージサイトメーターを用いて検出し、細胞増殖関連タンパク質蛍光画像として取得することができる。かかる細胞増殖関連タンパク質蛍光画像を基に、染色体多倍性細胞における細胞増殖関連タンパク質に特異的な抗体のシグナルの有無を指標にして、染色体多倍性細胞の増殖の有無を検出することができる。
【0025】
本発明の判定する方法における工程(d)において、上記イメージサイトメーターを用いてBrdUを検出し、BrdUのシグナルの有無を指標にする方法を用いる場合、本発明の細胞試料としては、BrdU存在下の培地で細胞を培養することにより、DNA複製中の細胞にBrdUが取り込まれるため、BrdU存在下で培養した細胞由来の試料を挙げることができる。BrdU存在下の培地としては、細胞培養に適した培地を適宜選択することができる。例えば、培地におけるBrdUの濃度としては、1〜100μMの範囲から選択することができ、培地としては、ウシなどの血清を5〜20%添加した、α−MEM、DMEM、IMDMなどの細胞培養用培地を挙げることができる。DNA複製中の細胞がBrdUを取り込むことができる条件としては、細胞が培養可能な条件であれば適宜選択することができる。例えば、培養温度としては、30〜40℃の範囲から選択することができ、培養時間としては、10分〜24時間の範囲から選択することができる。また、培養は、5〜10%の二酸化炭素ガスを満たしたインキュベーター内で行うことができる。細胞に取り込まれたBrdUは、例えば蛍光物質で標識した抗BrdU抗体と細胞試料とを接触させ、かかる蛍光物質のシグナルを、イメージサイトメーターを用いて検出することにより、検出することができる。蛍光物質で標識した抗BrdU抗体としては、Molecular Probe社製などの直接的に蛍光物質を標識した抗BrdU抗体や、蛍光物質で標識した2次抗体により間接的に標識した抗BrdU抗体を挙げることができる。蛍光物質で標識した抗BrdU抗体と細胞試料とを接触させる方法としては、例えばDolbeare, F., et al. 1983. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 80:5573-5577、Holm, M., et al. 1998. Cytometry. 32:28-36などに記載の方法や、BrdU Fow Kit(BD Pharmingen社製)、In Situ Cell Proliferation Kit, FLUOS(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)などの市販のキットを用いて実施する方法を挙げることができる。上記BrdUのシグナルは、イメージサイトメーターを用いてBrdU蛍光画像として取得し、かかるBrdU蛍光画像を基に、染色体多倍性細胞におけるBrdUのシグナルの有無を指標にして、染色体多倍性細胞の増殖の有無を検出することができる。
【0026】
本発明の判定する方法における工程(d)において、上記イメージサイトメーターを用いて細胞コロニー形成を検出し、細胞コロニー形成の有無を指標にする方法を用いる場合、本発明の細胞試料としては、細胞集団からサンプリングし、細胞が複数の細胞クローンを生成するのに十分な期間培養を行った細胞の試料であれば特に制限されない。細胞が複数の細胞クローンを生成するのに十分な期間としては、細胞が1回分裂するのに十分な期間に基づき適宜選択することができ、例えば細胞が1回分裂するのに十分な期間が1日である場合、1日以上の期間であればよく、例えば1週間、2週間、4週間、8週間などを選択することができる。細胞コロニー形成の有無は、細胞を検出した画像、好ましくはDNA蛍光画像を基に、細胞コロニー形成している染色体多倍性細胞数に基づいて評価することができる。例えば、細胞コロニー形成が有ると評価する、細胞コロニー形成している染色体多倍性細胞数としては、1つの染色体多倍性細胞が、1回分裂して細胞クローンを1つ生成すると、2つの染色体多倍性細胞からなるコロニーが形成されることから、2以上であればよく、好ましくは4以上、より好ましくは16以上を挙げることができる。
【0027】
本発明のFISHプローブとしては、染色体上の特定の領域にハイブリダイズするプローブであれば特に制限されず、RNAをベースとしたプローブも含まれるが、安定性の面からDNAをベースとしたプローブが好ましい。染色体上の特定の領域としては、任意の遺伝子、セントロメア、テロメアなどの領域を挙げることができ、これらの中でも検出感度及び特異性が高いため、セントロメアを好適に例示することができる。セントロメアを検出するプローブとしては、任意の染色体セントロメアを検出するプローブを適宜選択することができ、例えば7番染色体セントロメアを検出するプローブや11番染色体セントロメアを検出するプローブを挙げることができる。また、染色体多倍性をより正確に測定するために、複数の染色体セントロメアを検出するプローブや異なる染色体セントロメアを検出するプローブを複数用いてもよい。
【0028】
また本発明のFISHプローブとしては、イメージサイトメーターを用いて検出できるものであれば特に制限はないが、蛍光物質で標識したFISHプローブを好適に例示することができる。蛍光物質で標識したFISHプローブとしては、市販のものを購入して用いてもよいし、自ら調製したものを用いてもよい。自ら調製する場合、例えばGenBank、EMBL(European Molecular Biology Laboratory)、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)などの公知のDNAデータベースを基に染色体上の特定の領域のヌクレオチド配列を選択し、かかるヌクレオチド配列をオリゴDNA合成法やゲノムDNAを鋳型にしたPCR法により増幅した後、Nick Translation Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)等のキットによるニックトランスレーション法を用いて、ビオチン(biotin)やジゴキシゲニン(digoxigenin)などで標識したDNAでラベルし、蛍光物質が標識されたビオチンに対する親和性の高いアビジン(avidin)やジゴキシゲニンを認識する抗体などで間接的に標識したものを調製することができる。
【0029】
上記FISHプローブを細胞集団由来の細胞試料に接触させる方法としては、FISHプローブが細胞試料中の各細胞の染色体にハイブリダイズできるFISH法であればよく、FISH法としては、モレキュラー・クローニング、ア・ラボラトリーマニュアル(Molecular cloning,A laboratorymanual)などに記載の方法を挙げることができる。例えば、ハイブリダイズする条件のうち、ホルムアミドの濃度としては、30〜50%の範囲から選択することができ、温度としては、65〜75℃の範囲から選択することができ、時間としては、2〜48時間の範囲から選択することができる。
【0030】
上記工程(p)において、イメージサイトメーターを用いてFISHプローブを検出し、FISHプローブのシグナル数を基に染色体多倍性を測定する方法としては、イメージサイトメーターを用いて蛍光物質で標識したFISHプローブのシグナルを検出し、FISH蛍光画像として取得した後、かかるFISH蛍光画像を基に、染色体多倍性細胞におけるFISHプローブのシグナル数を指標にして、染色体多倍性を測定する方法を挙げることができる。例えば、FISHプローブとして、ある特定の染色体セントロメアを検出するプローブを1つ用いる場合、染色体数に応じたシグナルが検出されるので、1つの細胞あたり2つのシグナルが検出されるが、かかるシグナルが4つ又は8つ検出されるとき、それぞれ染色体4倍性、8倍性を示す細胞が検出されることになる。測定する染色体多倍性としては、染色体4倍性、8倍性などの任意の染色体多倍性を挙げることができるが、染色体4倍性を好適に例示することができる。
【0031】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
1.細胞試料における、多倍性細胞のスクリーニングと、かかる多倍性細胞の細胞増殖能の有無の検出
1−1 方法
1−1−1 細胞試料の作製
[1]乳癌由来の培養細胞株(Cal51)をスライドグラス上で一定期間(1週間、2週間、又は4週間)培養する。かかるCal51が接着したスライドグラスを基に、以下に示す[2]〜[6]の手順により細胞試料を作製した。
[2]PBSで5分間、3回洗浄した。
[3]100%エタノールで10分間、固定処理を行った。
[4]RNaseA(シグマアルドリッチ社製)(1mg/ml in PBS])で30分間、RNase処理を行った。
[5]PI溶液(0.03mg/ml in PBS)中に30分間浸し、DNA染色を行った。
[6]カバーグラスをかけ、周囲をマニキュアでシールした。
1−1−2 DNA含量を基にした多倍性細胞のスクリーニング
[1]CELAVIEW RS−100(オリンパス社製)を用いて、上記方法で作製した細胞試料における各細胞のDNA蛍光画像の取得、DNA蛍光画像を基にしたDNA含量の測定、及びDNA含量を基にしたヒストグラム(DNA解析データ)の作成を自動的に行った。
[2]得られたDNA解析データにおいて、4種類の細胞(G1期細胞、S期細胞、G2/M期細胞、染色体多倍性細胞)に分類した。
[3]DNA蛍光画像において、上記4種類に分類した細胞に対応する細胞を、解析ソフト(RS-100 analyser)を用いてマークした。
[4]マークした細胞について、画像解析ソフト(Photoshop:Adobe社製)を用いて、G1期細胞を青色で、S期細胞を緑色で、G2/M期細胞を赤色で、染色体多倍性細胞を紫色で示した。
【0033】
1−2 結果
図1には、スライドグラス上でCal51細胞を2週間培養した細胞試料を用いた結果を示す。ヒストグラムで表示したDNA解析データを基に、Cal51細胞集団における、G1期、S期、G2/M期、及び染色体多倍性細胞の割合を分類したところ、それぞれ79%、8%、12%及び1%であり(
図1[a]参照)、本発明の方法により、細胞集団全体で1%程度の染色体多倍性細胞をスクリーニングすることができた。かかるDNA解析データを基に、DNA蛍光画像における各染色体多倍性細胞を解析すると、その多くの細胞は個々に分散していたが、詳細に解析を進めたところ、16つ及び9つの染色体多倍性細胞からなる、細胞コロニーの形成が認められた(
図1(b)、丸で囲んだ部分)。これらの結果は、元々染色体多倍性細胞は細胞数が少ないため、1つずつ分散しているが、その多くは細胞増殖能を有しておらず、したがって、多くの染色体多倍性細胞は細胞コロニーを形成しなかったが、染色体多倍性細胞の一部には、細胞増殖能を有するものがあり、これらが複数の細胞クローンを生成した結果、細胞コロニーが形成されたことを示している。
【0034】
上記結果をさらにサポートするため、BrdUを用いて染色体多倍性細胞の細胞増殖について解析を行った。BrdUは、チミジンの誘導体であり、DNA複製時に染色体に取り込まれるため、BrdUの有無を指標にして、染色体多倍性細胞がDNA複製しているか、すなわち細胞増殖しているかどうかをリアルタイムに検証することができる。また、細胞増殖能を有する染色体多倍性細胞の倍数性について解析するために、セントロメアを特異的に検出するプローブを用いてFISHを行った。
【実施例2】
【0035】
2.細胞試料における、DNA含量の測定、FISHによる染色体倍数性の検出、及びBrdUによる細胞増殖の検出
1−1 方法
1−1−1 細胞試料の作製とDNA含量の測定
[1]乳癌由来の培養細胞株(Cal51)をスライドグラス上で一定期間(1週間、2週間、又は4週間)培養する。かかるCal51が接着したスライドグラスを基に、以下に示す[2]〜[9]の手順により細胞試料を作製し、DNA含量の測定を行った。
[2]BrdU(シグマアルドリッチ社製)を最終濃度が10μMになるように培地に添加した。
[3]インキュベータ内(37℃、5%CO
2条件下)に1時間置いた。
[4]PBSで5分間、3回洗浄した。
[5]100%エタノールで1時間、固定処理を行った。
[6]1晩風乾した。
[7]RNaseA(シグマアルドリッチ社製)(1mg/ml in PBS])で30分間、RNase処理を行った。
[8]PI溶液(0.03mg/ml in PBS)中に30分間浸し、DNA染色を行った。
[9]カバーグラスをかけた後(マニキュアによるシールはせずに)、CELAVIEW RS−100(オリンパス社製)を用いて、各細胞のDNA蛍光画像の取得、DNA蛍光画像を基にしたDNA含量の測定、及びDNA含量を基にしたヒストグラム(DNA解析データ)の作成を自動的に行った。
1−1−2 セントロメアプローブを用いたFISH法
[1]CELAVIEW RS−100(オリンパス社製)により解析したスライドグラスからカバーガラスを取り除いた後、PIを細胞核内のDNAから除くため、PBS溶液中に1週間浸した。
[2]ハイブリダイゼーション効率を上昇させるために、0.05%〜0.5% ペプシン/0.1N HCl溶液中に37℃で12分間処理した。
[3]70%、85%及び100% エタノールで順次2分間処理した後、風乾した。
[4]細胞のDNAを変性するために、Denaturation solution(7ml 20xSSC[3M 塩化ナトリウム、0.3M クエン酸三ナトリウム、pH 7.0]、14ml H
2O、49ml ホルムアミド)溶液中に、73℃で5分間処理した。
[5]70%、85%及び100% エタノールで順次2分間処理した後、風乾した。なお、かかる処理において、−20℃〜4℃のエタノールを使用した。
[6]7番染色体セントロメアを特異的に検出するプローブ溶液(7番染色体セントロメアプローブ 1μl、ハイブリダイゼーションバッファー 7μl、脱イオン蒸留水[Deionized distilled Water;DDW)] 2μl)(UroVysion Bladder Cancer Kit、Vysis社製)を変性処理した後、細胞が接着したスライドグラス上に接触させ、その後カバーガラスで被せペーパーボンドでシールし、ハイブリダイゼーション処理を37℃で2〜3日間行った。なお、用いたプローブ溶液の調製及び変性方法は、製品に添付された説明書にしたがって行った。
[7]2xSSC/0.3% NP−40溶液中に室温で1分間洗浄した。
[8]70%、85%及び100% エタノールで順次2分間処理した後、風乾した。
[9]カバーグラスをかけた後(マニキュアによるシールはせずに)、CELAVIEW RS−100(オリンパス社製)を用いて、各細胞のFISH蛍光画像の取得を自動的に行った。
1−1−3 BrdUの検出法
[1]PBSで5〜10分間、3回洗浄した。
[2]抗BrdU抗体(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)(0.1mg/ml)を抗体希釈用緩衝液(コードNO S3022[ダコ社製])で100〜200倍希釈した溶液中に4℃で1晩、1次抗体反応処理を行った。
[3]PBSで5分間、3回洗浄した。
[4]Alexa488標識抗ゴートIgG抗体(Alexa Fluor 488F(ab')2 fragment of Goat anti-Mouse IgGantibody、インビトロジェン社製)を抗体希釈用緩衝液(コードNO S3022[ダコ社製])で100倍希釈した溶液中に室温で1時間、2次抗体反応処理を行った。
[5]PBSで5分間、3回洗浄した。
[6]カバーグラスをかけた後(マニキュアによるシールはせずに)、CELAVIEW RS−100(オリンパス社製)を用いて、各細胞のBrdU蛍光画像の取得を自動的に行った。
【0036】
上記「1−1−1 細胞試料の作製とDNA含量の測定」の項目の[9]で取得したDNA解析データにおいて、各染色体多倍性細胞に対応する3種類の蛍光画像(DNA蛍光画像、FISH蛍光画像、及びBrdU蛍光画像)は、解析ソフト(RS-100 analyser)により解析した。
【0037】
1−2 結果
上記実施例1と同様の方法によりヒストグラムで表示したDNA解析データを作成し(
図2[a])、かかるDNA解析データを基に、DNA蛍光画像(
図2[b])、BrdU蛍光画像(
図2[c])、及びFISH蛍光画像(
図2[d])における各染色体多倍性細胞を解析した。
図2には、スライドグラス上でCal51細胞を2週間培養した細胞試料を用いた結果を示す。染色体多倍性細胞は、4つの細胞からなる細胞コロニーを形成しており(
図2[b])、この結果は上記実施例1の結果を支持するものである。また、かかる染色体多倍性細胞のBrdUのシグナルの有無を検証したところ、BrdUのシグナルが検出された(
図2[c])。この結果は、染色体多倍性細胞がDNA複製をしている、すなわち細胞増殖能を有することを示しており、上記実施例1の結果を支持するとともに、細胞集団からサンプリングする直前まで染色体多倍性細胞が細胞増殖能を有していることを示している。さらに、7番染色体セントロメアプローブを用いたFISHを行い、染色体倍数性について解析したところ、上記染色体多倍性細胞は、4つのシグナルが認められた(
図2[d])。この結果は、上記染色体多倍性細胞は、染色体を4セット有した染色体4倍性を示す細胞であることを示している。
【実施例3】
【0038】
さらにがん細胞に加えて正常細胞についても検証するために、骨髄間葉細胞を用いて上記実施例2と同様の方法で解析を行った。上記実施例2と同様の方法によりヒストグラムで表示したDNA解析データを作成したところ、染色体多倍性細胞が認められた(
図3[a])。骨髄間葉系細胞集団における、G1期、S期、G2/M期、及び染色体多倍性細胞の割合は、それぞれ79%、8.74%、12.04%及び0.2%であった(
図3[b])。この結果は、本発明の方法により、細胞集団でわずか0.2%程度の染色体多倍性細胞をもスクリーニングできることを示している。さらに、7番染色体セントロメアプローブを用いたFISHを行い、染色体倍数性について解析したところ、かかる染色体多倍性細胞は、染色体4倍性を示す細胞であることが明らかとなった。この結果は、正常細胞を含めたあらゆるタイプの細胞集団において、染色体多倍性を示し、かつ、細胞増殖能を有する細胞が存在している場合、本発明の判定する方法により、かかる細胞を検出できることを示している。