特許第5935208号(P5935208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5935208ニトリルゴムとブチルゴムとの架橋接着積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935208
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】ニトリルゴムとブチルゴムとの架橋接着積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/16 20060101AFI20160602BHJP
   B32B 25/18 20060101ALI20160602BHJP
   F16L 11/08 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   B32B25/16
   B32B25/18
   F16L11/08 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-69515(P2012-69515)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-199076(P2013-199076A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233619
【氏名又は名称】株式会社ニチリン
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東家 慎二
(72)【発明者】
【氏名】川崎 孝伸
(72)【発明者】
【氏名】後藤 慎一郎
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−166393(JP,A)
【文献】 特開2008−001810(JP,A)
【文献】 特開2008−106206(JP,A)
【文献】 特許第3891718(JP,B2)
【文献】 特開平02−085591(JP,A)
【文献】 特開昭58−162335(JP,A)
【文献】 特開2007−098900(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0208248(US,A1)
【文献】 特開2005−299629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
F16L9/00−11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルゴム層とブチルゴム層とが積層され
前記ニトリルゴム層に、ニトリルゴム100重量部に対して、フェノール樹脂が2重量部以上20重量部以下含有され、且つ、エポキシ樹脂が1重量部以上20重量部以下含有され
前記ニトリルゴム層と前記ブチルゴム層とがフェノール樹脂及びエポキシ樹脂により架橋接着していることを特徴とするゴム積層体。
【請求項2】
前記ブチルゴム層に、フェノール樹脂が含有されていることを特徴とする請求項1に記載のゴム積層体。
【請求項3】
前記ニトリルゴム層に、シリカ及び1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン塩が含有されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のゴム積層体。
【請求項4】
前記ニトリルゴム層に、ニトリルゴム100重量部に対して、シリカが30重量部以下含有されていることを特徴とする請求項3に記載のゴム積層体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム積層体を備えたフレキシブルホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルゴム層とブチルゴム層とが架橋接着されたゴム積層体及びこれを用いたフレキシブルホースに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の冷媒輸送用ホースとしては、一般的に、特許文献1,2に開示された構造のものが、適宜選択されて使用されている。
【0003】
そして、現在、ハイブリッド車等のエコカーには、エアコンシステムとして電動コンプレッサが搭載されているが、その潤滑油としては、従来から使用されてきたポリアルキレングリコール(PAG)系ではなく、ポリオールエステル(POE)系が使用されている。ここで、特許文献1に開示された最内層がポリアミド樹脂からなるホースでは、POE系の潤滑油を用いても特に問題はないが、特許文献2に開示された最内層がブチルゴム(以下、IIRという)からなるホースでは、POE系の潤滑油とIIRとの相性が悪いため、POE系の潤滑油を用いると、最内層のIIRが膨潤して不具合を起こす可能性が高い。しかし、特許文献2に開示された構造(内管:ゴム層)のホースは、特許文献1に開示された構造(内管:樹脂層+ゴム層)のホースに対して、非常に柔軟で取付け作業性等に優れていることから、内管がゴム層だけで構成されたホースのニーズは依然として高い。
【0004】
そこで、耐POE油性が高く且つ安価なニトリルゴム(以下、NBRという)を用いて、特許文献2に開示された構造のホースの最内層であるIIRに対して、NBRをブレンドすることで耐POE油性を向上させること、もしくは、NBRを保護層として内部流体側に設けることが考えられる。しかしながら、IIRにNBRをブレンドした場合には、IIRのガスバリア性とNBRの耐POE油性との特性をともに保持させることは困難なため、NBRを独立した保護層として内部流体側に設けつつ、IIR層と積層することが好ましい。
【0005】
ここで、これらの独立した2層を積層する場合の接着手法の1つとして、IIR層とNBR層とを接着剤で接着させることが考えられるが、このような方法では、接着剤による接着工程を要するとともに、十分な接着力が得られないことがある。そこで、IIR層とNBR層とを架橋接着させることが考えられるが、IIRとNBRとは、SP値(溶解性を示す値)が大きく異なり、相溶性が非常に悪いことから、この両者を架橋接着させてゴム積層体を得る技術は過去には存在しなかった。このような問題を解決するため、特許文献3では、独立した2層のゴム組成物からなる積層体において、一方のゴム組成物に含まれるゴムと同種のゴムを他方のゴム組成物にも含ませた後に架橋接着することにより、相溶性が悪いゴム層同士を接着させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3891718号
【特許文献2】特許第3372475号
【特許文献3】特開2007−98900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3のような手法では、一方および/または他方のゴム組成物内に異種のゴム成分が混在することにより、各ゴム層が有する特性(例えば、一方のゴムが耐油性、他方のゴムがガスバリア性)が、発揮されにくくなったり、低下したりすることがある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、接着剤を用いることなく2つのゴム層を架橋接着し、且つ、各ゴム層の特性を保持したゴム積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のゴム積層体は、NBR層とIIR層とが積層されゴム積層体である。ここで、前記NBR層には、NBR100重量部に対して、フェノール樹脂が2重量部以上20重量部以下含有され、且つ、エポキシ樹脂が1重量部以上20重量部以下含有されている。また、前記NBR層と前記IIR層とは、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂により架橋接着されている。
【0010】
本発明によると、NBR層とIIR層とを架橋接着させるために、NBR層にフェノール樹脂とエポキシ樹脂とが含有されている。これにより、NBR層の良好な耐油性を維持しつつ、IIR層の良好なガスバリア性を維持できるため、各ゴム層の特性を確実に保持することができる。また、NBR層のフェノール樹脂とエポキシ樹脂との配合割合を上記範囲内にすることにより、製造時の作業性を低下させることなく、NBR層とIIR層との接着性を向上させることができる。
【0011】
また、IIR層にもフェノール樹脂が含有されている場合は、2つのゴム層に同種の架橋剤(フェノール樹脂)が含有されることから、2つのゴム層が架橋接着しやすくなり、これら2層の接着性を向上させることができる。
【0012】
さらに、NBR層に、シリカ及び1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン塩(以下、DBU塩という)が含有されている場合は、NBR層とIIR層との界面の濡れ性がさらに向上するため、2つのゴム層の接着性をさらに向上させることができる。また、NBR層に、NBR100重量部に対して、シリカが30重量部以下含有されている場合は、NBR層の製造時に作業性を低下させることなく、2つのゴム層の接着性を向上させることができる。
【0013】
また、上記ゴム積層体をホースの内管材料として用いることにより、接着剤を用いることなく2つのゴム層が強固に架橋接着しつつ、各ゴム層の特性を保持したフレキシブルホースを提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のゴム積層体及びこれを用いたフレキシブルホースによると、接着剤を用いることなく2つのゴム層を架橋接着しつつ、各ゴム層の特性を保持したゴム積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は本発明の実施形態に係るホースの構成を示す模式図であり、(b)は図1(a)のIB-IB線に沿った断面図である。
図2】ホースの製造方法を説明するフロー図である。
図3】ホースの製造方法の変形例を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
〔フレキシブルホース100〕
図1に示すように、フレキシブルホース100は、最内層のNBR層1と、IIR層2とが順に積層された2層のゴム積層体10を用いて形成され、このIIR層2の外側に繊維補強層3と、最外層のゴム層4とが順に形成されている。フレキシブルホース100は、自動車等の冷媒輸送用ホースに用いられる。
【0018】
(NBR層)
最内層のNBR層1には、NBRと、フェノール樹脂と、エポキシ樹脂とが含有されている。NBR層1は、ゴム成分であるNBRにより耐油性を示す。
【0019】
<NBR>
NBRにはアクリロニトリルが含まれ、アクリロニトリル含有量(AN量)により耐油性や低温特性を調整することができる。具体的には、AN量が少なすぎるとNBR層1の耐油性が低下する傾向があり、AN量が多すぎると低温特性が低下する傾向があるので、使用目的や用途に応じてAN量を調整することにより、耐油性と低温特性とのバランスを適宜調整すればよい。また、耐熱性等を向上させるために、水素化されたNBRを用いてもよい。
【0020】
<フェノール樹脂>
フェノール樹脂は、主にNBRの架橋剤として用いられるが、NBR層1とIIR層2とを接着させる架橋剤としても用いられる。フェノール樹脂としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0021】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂は、架橋助剤であり、NBR層1とIIR層2との界面の粘着性を向上させる。これにより、NBR層1とIIR層2との濡れ性が向上するため、2つのゴム層の接着性を向上させることができる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂、ノボラック・エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0022】
本実施形態のNBR層1には、NBR100重量部に対して、フェノール樹脂が2重量部以上20重量部以下含有され、且つ、エポキシ樹脂が1重量部以上20重量部以下含有されている。フェノール樹脂含有量及びエポキシ樹脂含有量が多すぎると、NBR層1用材料を製造する際に、材料の粘着性が高くなりすぎたり、ブリードが生じたりして、製造作業性が低下することがある。一方、フェノール樹脂含有量及びエポキシ樹脂含有量が少なすぎると、製造作業性には問題ないが、NBR層1とIIR層2との接着性が十分に得られない。そこで、フェノール樹脂含有量及びエポキシ樹脂含有量を上記配合割合とすることにより、問題なく作業することができるとともに、NBR層1とIIR層2との接着性を向上させることができる。
【0023】
ここで、NBR層1には、シリカやDBU塩がさらに含まれていてもよい。
【0024】
<シリカ、DBU塩>
シリカ及びDBU塩により、NBR層1とIIR層2との界面の濡れ性がさらに向上するため、NBR層1とIIR層2との接着性をさらに向上させることができる。
【0025】
シリカとしては、例えば、結晶性シリカ、無定形シリカ、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等が挙げられる。
【0026】
また、DBU塩としては、例えば、DBU−炭酸塩、DBU−ステアリン酸塩、DBU−2−エチルヘキシル酸塩、DBU−安息香酸塩、DBU−サリチル酸塩、DBU−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸塩、DBU−フェノール塩、DBU−2−メルカプトベンゾチアゾール塩、DBU−メルカプトベンゾイミダゾール塩等が挙げられる。
【0027】
シリカ及びDBU塩の配合割合は特に限定されないが、NBR層1の製造作業性から、NBR100重量部に対して、シリカが30重量部以下含有されていることが好ましい。シリカ含有量が多すぎると、NBR層1用材料を製造する際に、材料の粘着性が高くなりすぎるため、製造作業性を低下させることがある。
【0028】
(IIR層)
IIR層2には、IIRと、フェノール樹脂とが含有されている。IIR層2は、ゴム成分であるIIRによりガスバリア性を示す。
【0029】
<IIR>
IIRとしては、イソブチレンとイソプレンとの共重合体が挙げられ、例えば、レギュラーIIR、ハロゲン化IIR(臭素化IIR,塩素化IIR等)が挙げられる。これらのゴムは、単独で用いてもよく、二種類以上を併合して用いてもよい。
【0030】
<フェノール樹脂>
フェノール樹脂は、主にIIRの架橋剤として用いられるが、NBR層1とIIR層2とを接着させる架橋剤としても用いられる。
【0031】
次に、フレキシブルホース100を製造する方法を、図2を参照しつつ説明する。
【0032】
(NBR層用材料の調整及び成形)
NBRにフェノール樹脂及びエポキシ樹脂を添加し、ニーダー等を用いてこれらを混練することにより、NBR層用材料を調整する(S1)。このとき、NBRに、シリカやDBU塩等を添加してもよい。その後、NBR層用材料を所定の形状に成形し、リボン状の未架橋のNBR層用成形体を形成する(S2)。
【0033】
(IIR層用材料の調整及び成形)
IIRにフェノール樹脂を添加し、ニーダー等を用いてこれらを混練することにより、IIR層用材料を調整する(S3)。その後、IIR層用材料を所定の形状に成形し、リボン状の未架橋のIIR層用成形体を形成する(S4)。
【0034】
(ゴム積層体の作製)
NBR層用成形体を押出成形によりホース用の円筒形状に成形(S5A)した後に、IIR層用成形体を押出成形によりホース用の円筒形状に成形して、NBR層の外周に積層(S5B)した後、このゴム積層体を加熱することにより架橋する(S6)。なお、押出成形(積層)工程(S5B)の後で、IIR層の外周に、繊維補強層3及び最外層のゴム層4を形成してもよい。
【0035】
加熱(S6)により、NBR層用成形体でNBRが架橋することによりNBR層1が製造されるとともに(NBRの架橋)、IIR層用成形体でIIRが架橋することによりIIR層2が製造される(IIRの架橋)。また、NBR層1に含有されたフェノール樹脂及びエポキシ樹脂やIIR層に含有されたフェノール樹脂により、NBR層1及びIIR層2が架橋接着する。
【0036】
このように、本実施形態では、NBR層1及びIIR層2を製造する加熱工程(S6)で、NBR層1及びIIR層2を架橋接着させることから、2層を接着させるための工程を設けなくてよい。例えば、NBR層1及びIIR層2を接着剤により接着させる場合は、加熱工程(S6)とは別に2層を接着させる工程(例えば、接着剤を各層に塗布する工程、接着剤により2層を接着する工程)を設ける必要があるが、本実施形態では、このような接着工程を設けることなく、2つのゴム層を接着させることができる。
【0037】
ここで、2つのゴム層を架橋接着するフェノール樹脂は、主にNBRの架橋剤として作用することから、フェノール樹脂がNBR層に含有されている場合は、NBR層1の特性を保持することができる。また、フェノール樹脂は、IIRと架橋反応をすることから、NBR層とIIR層との界面に対する共架橋剤としても作用する。さらに、エポキシ樹脂は、様々な架橋助剤のなかでも、NBRに対して、耐熱性や耐薬品性等に優れた特徴を付与するとともに、ゴム表面に安定した粘着性を持たせるため、2つのゴム層の界面の濡れ性を向上させる。そして、フェノール樹脂を単独で用いるのでなく、エポキシ樹脂を併用することは、これらの樹脂同士も反応するので、NBR層1及びIIR層2との界面で起こる共架橋反応に寄与する。したがって、本実施形態では、NBR層1の耐油性を保持できるとともに、IIR層2のガスバリア性を保持できる。よって、本実施形態のフレキシブルホース100を自動車等の冷媒輸送用ホースとして用いた場合、冷媒の透過を抑えることができる。
【0038】
以上に述べたように、本実施形態のフレキシブルホース100によると、NBR層1にフェノール樹脂及びエポキシ樹脂が含有されているため、NBR層1とIIR層2とがフェノール樹脂及びエポキシ樹脂により架橋接着する。このため、NBR層の良好な耐油性及びIIR層の良好なガスバリア性を保持しつつ、接着剤を用いることなく2つのゴム層を強固に架橋接着させることができる。
【0039】
また、NBR層1に、NBR100重量部に対して、フェノール樹脂が2重量部以上20重量部以下含有され、且つ、エポキシ樹脂が1重量部以上20重量部以下含有されていることにより、製造時の作業性を低下させることなく、NBR層とIIR層との接着性を向上させることができる。
【0040】
さらに、2つのゴム層を架橋接着するフェノール樹脂は、主にIIRの架橋剤としても作用することから、様々な架橋剤のなかでも、IIRに対して、諸特性のバランスに優れ、特に耐熱性に優れた特徴を付与する。よって、フェノール樹脂がIIR層に含有されている場合は、IIR層2の特性を保持することができる。
【0041】
また、NBR層1及びIIR層2に同種の架橋剤(フェノール樹脂)を含有させることにより、界面で共架橋するため、2つのゴム層が架橋接着しやすくなり、これら2層の接着性を向上させることができる。さらに、NBR層1にエポキシ樹脂を含有させることにより、界面の濡れ性が向上するため、2つのゴム層が架橋しやすくなり、これら2層の接着性を向上させることができる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0043】
(実施例1〜11、比較例1〜10)
NBR層及びIIR層の2層構造のゴム積層体の接着性及び製造作業性(ロール作業性及び耐ブリード性)について、試験を行った。
【0044】
本実施例および比較例では、NBR層の配合材料及び配合割合を変えて試験を行った。表1にはNBR層の配合材料及び配合割合を示し、表2にはIIR層の配合材料及び配合割合を示している。また、表1には、ゴム積層体の試験結果(接着性)及び製造作業性の試験結果(ロール作業性及び耐ブリード性)を示している。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
ここで、試験条件及び試験結果を説明する。
[実験条件]
1.NBR層用材料の調整及び成形
NBRに、酸化亜鉛、ステアリン酸、FEFカーボン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリカ及びDBU塩を添加し(表1参照)、これらをニーダー及びロールを用いて混練することにより、NBR層用材料を調整し、これをシート状に成形した。ここで、表1の「−」は、該当する成分を添加していないことを示す。また、表1の「フェノール樹脂」はレゾール型フェノール樹脂である。さらに、表1の「エポキシ樹脂A」はビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、「エポキシ樹脂F」はビスフェノールF型エポキシ樹脂である。
2.IIR層用材料の調整及び成形
IIRに、酸化亜鉛、ステアリン酸、FEFカーボン、フェノール樹脂及びシリカを添加し(表2参照)、これらをニーダー及びロールを用いて混練することにより、IIR層用材料を調整し、これをシート状に成形した。ここで、表2の「フェノール樹脂」はレゾール型フェノール樹脂である。
3.ゴム積層体の作製
上記1,2で得られたシート状の成形体を積層し、加熱して架橋させることにより、2層構造のゴム積層体を作製した。
【0048】
ここで、上記成分には下記の製品を用いた。
・NBR:日本ゼオン製 (製品名)Nipol 1052J
・IIR:JSR製 (製品名)JSR BUTYL 365
・酸化亜鉛:正同化学工業製 (製品名)酸化亜鉛 3種
・ステアリン酸:新日本理化学工業製 (製品名)ステアリン酸 50S
・FEFカーボン:キャボットジャパン製 (製品名)ショウブラック N550
・硫黄:細井化学工業製 (製品名)微粉硫黄 500メッシュ
・TS:大内新興化学工業製 (製品名)ノクセラー TS(TS−P)
・過酸化物:日本油脂製 (製品名)パーブチル P(登録商標)
・フェノール樹脂:田岡化学工業製 (製品名)タッキロール 250−I
・エポキシ樹脂A:三菱化学製 (製品名)jER 828
・エポキシ樹脂F:三菱化学製 (製品名)jER 806
・シリカ:トクヤマ製 (製品名)トクシール 233
・DBU塩:ダイソー製 (製品名)P−152
【0049】
[試験結果]
<接着力、剥離状態>
ゴム積層体を所定の大きさの試験片に形成し、これを用いて剥離試験(JIS K6256−1)を行った。表1には、剥離試験の結果として、2つのゴム層の「剥離状態」を示している。「剥離状態」には、試験片を引張試験装置に取り付け、NBR層の一端及びIIR層の一端(同じ側の一端)を互いに反対の方向に引っ張ったときのゴム界面の架橋接着の度合いを示している。表1では、両層を引っ張っても2つのゴム層が界面で剥離せず、一方のゴム層がすべて破壊したときを「◎」とし、すべてではないが大部分が破壊したときを「○」とし、界面剥離が起こらなかったが、一方のゴム層に他方のゴム層の一部が接着残存したとき(他方のゴム層が部分的に破壊したとき)を「△」とした。また、界面剥離が起こったときを「×」とした。
【0050】
<ロール作業性>
NBR層用材料の調整において、ロールを用いて材料を混練した際のロール作業性を確認した。ロール作業に問題がなかったときを「○」とし、NBR層用材料が粘着性を示し、粘着成分がロール表面に残留したときを「△」とした。また、NBR層用材料が粘着性を示し、材料がロール表面に接着してロール表面から離れなかったときを「×」とした。
【0051】
<ブリード性>
NBR層用材料の調整において、ロールを用いて材料を混練した際のエポキシ樹脂によるブリード性を確認した。ブリードが起こらなかったときを「○」とした。そして、ブリードが起こったが、ブリード量が少なかったときを「△」とし、ブリード量が比較的多かったときを「×」とした。
【0052】
表1,2から、実施例1〜11では、NBR層とIIR層との接着性が良好であるとともに、ロール作業性及びブリード性に問題がなかった。また、同種のフェノール樹脂及びエポキシ樹脂を用いた、実施例2と実施例6〜10とを比較すると、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂が同じ含有量であるが、シリカ及びDBU塩を添加した実施例6〜10では、シリカ及びDBU塩を添加していない実施例2よりも接着性が向上した。さらに、実施例2と実施例11とでは、用いたエポキシ樹脂の種類が異なるものの、同等の接着性を示した。
【0053】
一方、比較例1,2では、NBR層にフェノール樹脂及びエポキシ樹脂でなく別の架橋剤を添加したため、NBR層とIIR層とが殆ど接着せず界面剥離が起こったと考えられる。
【0054】
また、比較例3では、NBR層のフェノール樹脂含有量及びエポキシ樹脂含有量が少なすぎたため、実施例1〜11よりも接着性が低下したと考えられる。
【0055】
さらに、比較例4〜10では、実施例1〜11との配合割合の相違から、実施例1〜11よりも製造作業性が低下した。なお、比較例4,5では、フェノール樹脂含有量及びエポキシ樹脂含有量が多すぎたため、ロール作業性及び耐ブリード性が低下したと考えられる。また、比較例6〜9では、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂のうち一方の含有量が多すぎたため、ロール作業性および/または耐ブリード性が低下したと考えられる。
【0056】
また、比較例10では、シリカ添加量が多かったため、NBR層用材料の粘着性が高くなり、ロール作業性が低下したと考えられる。
【0057】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態及び実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0058】
例えば、本実施形態では、フレキシブルホース100は、2層のゴム積層体を用いて形成されているが、NBR層とIIR層との3層以上のゴム積層体を用いて形成されてもよい。
【0059】
また、繊維補強層3は、ブレード編みの1層で形成されているが、ブレード編みの2層で形成されてもよく、スパイラル編みの層で形成されてもよい。これらの場合は、各繊維補強層の間に、さらにゴム層が追加されてもよい。
【0060】
また、本実施形態及び本実施例では、NBR層にフェノール樹脂及びエポキシ樹脂が含有されている場合について説明したが、NBR層及びIIR層の両層にフェノール樹脂及びエポキシ樹脂が含有されてもよい。また、IIR層に、フェノール樹脂が含有されなくてもよい。
【0061】
さらに、本実施形態及び本実施例では、フレキシブルホースの製造において、図2に示すように、NBR層用成形体と、IIR層用成形体とを別々に押出成形(S5A,S5B)して積層(S5B)したが、図3に示すように、NBR層用成形体とIIR層用成形体とを同時に押出成形して積層(S5)してもよい。
【0062】
また、本実施形態では、NBR層とIIR層とのゴム積層体が自動車等の冷媒輸送用ホースに用いられる場合について説明したが、上記積層体の用途は自動車等の冷媒輸送用ホースに限られず、パッキンや他の用途のホースに用いてもよい。
【0063】
さらに、NBR層及びIIR層の含有成分は、本実施形態及び本実施例に示すものに限られない。また、NBR層にシリカ、DBU塩が含有されていなくてもよい。また、ホースとして要求される強度及び伸延性等のゴム特性や作業性をさらに向上させるため、NBRに過酸化物等の架橋剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、着色剤等の市販されている配合剤を必要に応じて添加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明を利用すれば、接着剤を用いることなく2つのゴム層を架橋接着しつつ、各ゴム層の特性を保持することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 NBR層(ニトリルゴム層)
2 IIR層(ブチルゴム層)
3 繊維補強層
4 ゴム層
10 ゴム積層体
100 フレキシブルホース
図1
図2
図3