特許第5935209号(P5935209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935209
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】放射線測定装置およびサーベイシステム
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/16 20060101AFI20160602BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20160602BHJP
   G01T 1/29 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   G01T1/16 A
   G01T1/20 B
   G01T1/29 C
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-78776(P2012-78776)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-210211(P2013-210211A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】390029791
【氏名又は名称】日立アロカメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白川 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】山野 俊也
(72)【発明者】
【氏名】原 雅樹
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−265471(JP,A)
【文献】 特開2004−301798(JP,A)
【文献】 特開2007−155332(JP,A)
【文献】 特開2008−151539(JP,A)
【文献】 特開平09−101371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00−1/16
G01T 1/167−7/12
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検出する複数のセンサと、前記放射線をフィルタリングする部材であって前記複数のセンサが埋め込まれたフィルタ部材と、を有する検出ユニットと、
前記複数のセンサを用いて測定された複数の測定値に基づいて放射線の飛来方向を推定する演算ユニットと、
を含み、
前記フィルタ部材は、当該フィルタ部材の中心よりも当該フィルタ部材の側周囲面に近い領域としての辺縁領域を有し、
前記複数のセンサは、前記辺縁領域内であって前記側周囲面に沿って互いに離間しつつ配列された複数の空洞内に収容され、これにより前記複数のセンサのれぞれにおいて互いに異なる水平方向指向特性が生じる、ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記複数のセンサはそれぞれシンチレータ部材により構成され、
前記フィルタ部材は前記シンチレータ部材の放射線透過特性と同等の放射線透過特性を有する部材により構成された、ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の装置において、
前記複数の空洞がそれぞれ前記フィルタ部材の側周囲面に内接又は近接している、ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項4】
請求項2記載の装置において、
複数の検出プローブが利用され、
前記各検出プローブは、前記シンチレータ部材と、前記シンチレータ部材で生じた光を受ける光電子増倍管と、前記シンチレータ部材及び前記光電子増倍管を収容するプローブケースと、を含み、
前記各空洞は、前記フィルタ部材の下面又は上面に連なる非貫通型の凹部として構成され、
前記各検出プローブにおいて前記シンチレータ部材を内蔵する先端部分が前記各凹部に挿入された、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装置において、
更に、前記検出ユニットの上面側に設けられ、上方を向いた表示面を有する表示器を含み、
前記表示面に前記放射線の飛来方位が表示される、ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置において、
前記検出ユニットの垂直中心軸上に前記表示面における方位表示原点が位置している、ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の放射線測定装置を備える移動体又は可搬体として構成されたサーベイシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線測定装置に関し、特に、放射線(特にγ線)の飛来方向を測定可能な放射線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線測定装置として、サーベイメータ、モニタリングポスト等が知られている。それらは一般に指向性を有しておらず、γ線の空間線量あるいは空間線量率を計測するものである。γ線を測定する放射線測定装置において、その検出部に指向性をもたせるためには、一般に、検出器に対して鉛等で構成されたコリメータが付加される。そして、そのように構成された検出ユニットを回転駆動し、それによって得られる計数値グラフ上でピークを特定することによりγ線の飛来方向が推定される。しかし、かかる構成では検出ユニットが非常に大型化しその重量も大きくなる。
【0003】
特許文献1に開示された放射線測定装置では、互いに異なる水平指向性を有する複数の検出器を備えている。それらによって計測された複数の計数値の相互比率(実測比率情報)から放射線の飛来方向が特定されている。具体的には、エネルギー区分ごとに、複数の計数値がそれらの総和で規格化されて複数の実測計数値比が演算される。一方、エネルギー区分ごとに、飛来方向に応じて変化する複数の理論計数値比を与える応答関数が用意されている。エネルギー区分ごとに、複数の実測計数値比が応答関数に照合され、最も一致度が高くなる複数の実測計数値比の組み合せを特定することにより、放射線の飛来方向とエネルギー区分とが同時に推定される。この手法によれば、検出ユニットに重いコリメータや回転機構を設ける必要がなくなる。
【0004】
特許文献1に記載された放射線測定装置では、上方から見て扇状の形状を有するシンチレータ部材が3個組み合わさってシンチレータ検出部が構成されている。シンチレータ検出部は全体として円板形状あるいは円筒形状を有している。この構成によれば、個々のシンチレータ部材において、放射線の飛来方向に応じて感度(レスポンス)が変動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−155332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第1に、特別な形状をもったシンチレータ部材を利用する場合、その加工コストが増大してしまうという問題がある。通常のサーベイメータでは単純な円柱形状又は円板形状を有するシンチレータ部材が利用されている。そのような単純な形状を有するシンチレータ部材を利用して放射線の飛来方位を特定することが望まれる。
【0007】
第2に、シンチレータ部材以外の放射線センサ(例えば半導体センサ)を用いる場合、上記のようなセンサ形状を加工する手法を適用できないという問題がある。
【0008】
第3に、測定された飛来方位は検出部から見た方位であり、検出部から離れた表示器において当該飛来方位を表示した場合、厳密には正確な表示内容にならないという問題がある。
【0009】
本発明は上記に記載した複数の課題の内で少なくとも1つを解決することを目的とするものである。
【0010】
詳しくは、本発明の目的は、各センサに特別な加工を施さなくても放射線の飛来方向を測定できるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、単純な形状を有する複数のシンチレータ部材を利用して放射線の飛来方向を簡便に測定できるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、シンチレータ部材以外の他のセンサを利用して放射線の飛来方向を測定できるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、放射線の飛来方向を分かり易く又は正確に表示できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る放射線測定装置は、放射線を検出する複数のセンサと、前記複数のセンサが埋め込まれたフィルタ部材と、を有する検出ユニットと、前記複数のセンサを用いて測定された複数の測定値に基づいて放射線の飛来方向を推定する演算ユニットと、を含み、前記複数のセンサは、前記フィルタ部材の側周囲面近傍の辺縁領域内であって前記側周囲面に沿って互いに離間しつつ配列された複数の空洞内に収容され、これにより前記複数のセンサのそれぞれにおいて互いに異なる水平方向指向特性が生じる、ことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、放射線をフィルタリングするフィルタ部材の側周囲面(側面)近傍の辺縁領域に当該側周囲面に沿って複数の空洞が形成され、それらに複数のセンサが埋設される。複数のセンサそれ自体の形状を加工し、またそれらを水平方向に組合せて、個々のセンサに指向特性を生じさせるのではなく、フィルタ部材に形成された複数の空洞へ複数のセンサを配置するだけで、個々のセンサに指向特性を生じさせることが可能である。よって、センサ形状の特別な加工は基本的に不要となる。各センサから見て、放射線の飛来方位によって、フィルタ部材の放射線透過態様(特に透過経路長)ができるだけ変動するように、個々の空洞の位置を定めるのが望ましい。望ましくは、フィルタ部材は単純な円板状に形成され、その側面に沿ってかつ側面に内接又は近接して複数の空洞が形成される。水平方向以外からの放射線による影響を軽減するため、フィルタ部材の厚み全体中において、各空洞に配置されたセンサの上側及び下側に一定の厚み(距離)が生じるように、フィルタ部材の厚さ、空洞の深さ及び位置等を定めるのが望ましい。同様の理由から、フィルタ部材の下面(及び/又は上面)に遮蔽部材を設けてもよい。上記の辺縁領域は、水平面上において、フィルタ部材の中心よりも側面に近い領域であり、個々のセンサがそのような領域に配置されていれば、各センサにおいて方位方向に応じたレスポンスに大きな変動を生じさせることができ、その結果、方位判別精度を向上できる。
【0013】
望ましくは、複数のセンサを利用して取得された複数の測定値(計数値や線量率等でもよい)の相互比率から放射線の飛来方位が判定される。その場合、特許文献1等に記載された応答関数への当て嵌めを行うようにするのが望ましい。複数の核種に対応する複数の応答関数を用意しておき、その中から測定対象核種に対応する1つの応答関数を選定し、それを利用して飛来方位の判定を行ってもよい。そのような構成によればエネルギー弁別処理が不要となる。
【0014】
上記構成において、例えば、既存のサーベイメータを複数台利用することも可能である。すなわち、複数のサーベイメータが有する複数の検出プローブのセンサ部分をフィルタ部材の複数の空洞に差し込み、複数のサーべーメータ本体から出力される複数の測定値から飛来方位の判別を行うことも可能である。なお、1台のサーベイメータを順次利用して複数の測定値を求め、それによって飛来方位の判別を行うことも可能である。その場合には複数の空洞に対して単一の検出プローブが順番に差し込まれ、各差し込み状態で放射線の検出が行われる。
【0015】
複数の空洞(つまり複数のセンサ)は、フィルタ部材の側周囲面に沿って均等間隔で配置されるのが望ましいが、それらが非均等間隔で配置されてもよい。特定の方位範囲において高精度の飛来方位判別を行いたいような場合にそのような構成を採用するのが望ましい。もっとも、その場合にはセンサの配列に適合した応答関数を事前に作成して用意しておく必要がある。
【0016】
望ましくは、前記複数のセンサはそれぞれシンチレータ部材により構成され、前記フィルタ部材は前記シンチレータ部材の放射線透過特性と同等の放射線透過特性を有する部材により構成される。この構成によれば、単純な形状をもったシンチレータ部材を利用しつつも飛来方位の判別を行える。つまり、特許文献1に記載された特別なシンチレータ形状を採用しなくても各センサにおいてそれと同等の指向特性を生じさせることが可能である。
【0017】
望ましくは、前記複数の空洞がそれぞれ前記フィルタ部材の側周囲面に内接又は近接して形成される。この構成によれば、フィルタ部材の中心から見て、各センサの配置方位から飛来してくる放射線に対しては高感度となり、当該方位から外れれば外れる程より低感度となる。つまり、飛来方位に応じた感度差を容易に増大できる。これにより方位判別精度を高められる。なお、各空洞が側周囲面に完全に接触すると、空洞が側周囲面を介して外界と連通してしまうことになり、センサ保持性低下等が問題となるなら、側周囲面から若干内側にシフトした近接位置に各空洞を形成するのが望ましい。もっとも、各空洞の形状として例えば上方から見てC字形状を採用するようにしてもよい。但し、センサの露出度が大きくなると、応答関数の山が鈍りやすくなる。フィルタ部材の形状は円板形状であるのが特に望ましいが、隣接空洞間つまり隣接センサ間において側面が水平方向に盛り上がった形状等を採用するようにしてもよい。
【0018】
望ましくは、複数の検出プローブが利用され、前記各検出プローブは、前記シンチレータ部材と、前記シンチレータ部材で生じた光を受ける光電子増倍管と、前記シンチレータ部材及び前記光電子増倍管を収容するプローブケースと、を含み、前記各空洞は、前記フィルタ部材の下面又は上面に連なる非貫通型の凹部として構成され、前記各検出プローブにおいて前記シンチレータ部材を内蔵する先端部分が前記各凹部に挿入される。この構成によれば、既存のサーベイメータを複数台利用して簡便に方位判別を行える。各空洞を非貫通型の凹部とすれば上下方向の位置決めが容易となる。また、センサの上方及び下方に一定の厚みを確保するのが容易となる。フィルタ部材の上面側に表示器その他の構造物を配置する場合、物理的な干渉を避けるために、フィルタ部材の下面側に開いた複数の凹部を形成するのが望ましい。
【0019】
望ましくは、更に、前記検出ユニットの上面側に設けられ、上方を向いた表示面を有する表示器を含み、前記表示面に前記放射線の飛来方位が表示される。望ましくは、前記検出ユニットの垂直中心軸上に前記表示面における方位表示原点が位置する。この構成によれば、検出ユニットを用いて判別された飛来方位を分かり易くかつ正確にユーザーに表示することが可能となる。
【0020】
望ましくは、上記放射線測定装置を備える移動体又は可搬体として構成されたサーベイシステムが提供される。例えば台車型サーベイシステム、携帯型サーベイシステム等を構成するようにしてもよい。それらは機動性を有するものであるから、汚染箇所(放射性汚染物質が集中した箇所としてのホットスポット)の特定を簡便かつ迅速に行える。すなわち、飛来方位の判別を連続的に行いながら汚染箇所を絞り込むことが可能である。また移動しながら複数の位置で飛来方位の測定を実施して三角法により汚染箇所の特定を行うことも可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、各センサに特別な加工を施さなくても放射線の飛来方向を測定できる。あるいは、単純な形状を有する複数のシンチレータ部材を利用して放射線の飛来方向を簡便に測定できる。あるいは、シンチレータ部材以外の他のセンサを利用して放射線の飛来方向を測定できる。あるいは、放射線の飛来方向を分かり易く又は正確に表示できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る放射線測定装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】検出ユニットの分解斜視図である。
図3】検出ユニットの上面図である。
図4】検出ユニットの一部断面図である。
図5】第1核種用応答関数を示す図である。
図6】第2核種用応答関数を示す図である。
図7】第3核種用応答関数を示す図である。
図8】第4核種用応答関数を示す図である。
図9】第5核種用応答関数を示す図である。
図10】表示部を搭載した検出ユニットを示す図である。
図11図10に示す表示例を示す図である。
図12】台車型サーベイシステムを示す概念図である。
図13】携帯型サーベイシステムを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1には、本発明に係る放射線測定装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示すブロック図である。この放射線測定システムは本実施形態においてサーベイシステムであり、特に、放射線(γ線)の飛来方位を判別する機能を備えたサーベイシステムである。同システムは本実施形態において可搬型の装置として構成されている。
【0025】
図1において、放射線測定装置は大別して検出ユニット10及び処理ユニット12により構成されている。検出ユニット10は、図示の例において、複数の検出プローブ14,16,18とフィルタ部材20とにより構成されている。望ましくは、3つ以上の検出プローブが利用される。本実施形態において、各検出プローブ14,16,18は後に説明するようにシンチレータ部材及び光電子増倍管(PMT)を備えている。それらは既存の可搬型サーベイメータにおける棒状の検出部を構成するものである。
【0026】
フィルタ部材20は図示の例において円板状の形態を有し、それは後に詳述するように3つの空洞を備えており、それら3つの空洞に対して3つの検出プローブ14,16,18の先端部分が挿入されている。各先端部分はシンチレータ部材を内蔵する部分である。フィルタ部材20は、単純な円板状あるいは円柱状の形態を有し、それは一様性をもった単一部材によって構成されている。もっとも、複数の部材からなるものとしてフィルタ部材20を構成することも可能である。
【0027】
各放射線を検出する3つのシンチレータ部材がフィルタ部材20における辺縁領域内に埋設されているため、各シンチレータ部材は水平方向において固有の感度特性(指向特性)を有することになる。それぞれのシンチレータ部材間ではそれらの指向特性が互いに異なっており、そのような指向特性の相違を利用して後に説明するように放射線飛来方位の判定を行うことが可能である。
【0028】
3つの検出プローブ14,16,18は3つの信号処理部22,24,26にそれぞれ接続されている。3つの信号処理部22,24,26はそれぞれ同一の構成を有している。信号処理部22を代表させてその構成を説明をすると、信号処理部22は信号処理器28及び演算器30を備えている。信号処理器28はプリアンプ、波高弁別器等を有する信号処理モジュールであり、演算器30はカウンタを備え、演算器30によって計数値や線量率等が演算される。信号処理部22はサーベイメータ本体として構成するのが望ましい。すなわち、信号処理部22と検出プローブ14とからなる構成が既存の可搬型サーベイメータそのものであってもよい。例えば、3台のサーベイメータをそのまま利用してそれにフィルタ部材20を加えるだけで、検出ユニット10及び信号処理部22,24,26を簡便に構築することが可能である。なお、信号処理部22内にマルチチャンネルアナライザ(MCA)機能、あるいはシングルチャンネルアナライザ(SCA)機能を搭載するようにしてもよい。
【0029】
本実施形態においては、測定対象核種が予め指定されており、当該核種からのγ線について3つの検出プローブ14,16,18を用いて計測された3つの計数値(線量率)N1,N2,N3が主演算部32へ出力されている。主演算部32及び主制御部34は例えばマイコンで構成され、あるいはパーソナルコンピュータにより構成される。主演算部32は、放射線つまりγ線の飛来方位を判別する演算を実行している。また必要に応じて3つの計数値N1,N2,N3から空間線量率を演算している。主制御部34は、主演算部32の動作制御を行っており、本実施形態においては、メモリ36上に格納された応答関数群の中から測定核種に対応する特定の応答関数を指定している。主演算部32は、そのように指定された特定の応答関数を参照して方位判別を行っている。
【0030】
入力部38はユーザーにより測定核種の指定を行うためのものである。本実施形態においては、5つの核種の中からいずれかの核種を指定することが可能であり、このように指定された核種に対応する応答関数が方位判別演算において参照される。そのような構成に代えて複数のエネルギー区分に対応した複数の応答関数を用意しておき、いずれかのエネルギー区分を指定するようにしてもよい。表示部40は主演算部32において演算された結果を表示するものであり、表示部40においては判別された飛来方位が表示される。また必要に応じて線量率等の情報が表示される。なお、図1には示されてはいないが、放射線測定装置はバッテリを有しており、各構成はバッテリから供給される電力によって動作している。すなわち、この放射線測定装置は可搬型であり、移動させながら各位置において飛来方位の判別を行うことにより放射性汚染源の特定を確実且つ迅速に行えるものである。換言すれば図1に示される放射線測定装置はホットスポット探知で好適なサーベイシステムである。
【0031】
図2には図1に示した検出ユニット10の分解斜視図が示されている。検出ユニット10は、上述したように、3つの検出プローブ14,16,18とフィルタ部材20とにより構成されるものである。フィルタ部材20には3つの空洞42,44,46が形成されている。各空洞42,44,46はフィルタ部材20の下面20A上に形成された開口を有している。各空洞42,44,46は下向きに開いた凹型を有する孔である。それらはセンサ設置用の空間であり、フィルタ部材20において、上方から見て辺縁領域内に形成され、それらは側周囲面に沿って均等間隔で形成されている。
【0032】
フィルタ部材20の直径は例えば20cmであり、その厚さは例えば3−5cmである。各空洞42,44,46は円筒形状を有し、各空洞42,44,46には各検出プローブ14,16,18の先端部分が嵌め込まれる。その直径は例えば数cmである。図2には各検出プローブ14,16,18を固定する手段が図示されていないが、そのような手段を必要に応じて設けるのが望ましい。各検出プローブ14,16,18はそれぞれシンチレータ部材48及び光電子増倍管50を有している。シンチレータ部材48と光電子増倍管50との間には導光部材が設けられている。各空洞42,44,46内に差し込まれるプローブ先端部分は少なくともシンチレータ部材48を内蔵している部分である。シンチレータ部材48は本実施形態においてNaIシンチレータ材料により構成されている。
【0033】
フィルタ部材20は、応答関数の波形をサイン波に近付けるために、シンチレータ部材48が有する放射線透過特性と同等の放射線透過特性をもった部材により構成されるのが望ましい。例えばフィルタ部材20は密度1−3g/cm3をもった材料により構成されるのが望ましい。そのような材料として、樹脂、ガラス等を挙げることができる。NaIシンチレータ材料と同じような質量数をもった材料によりフィルタ部材20を構成するのが望ましい。
【0034】
図2に示す構成例では、3本の検出プローブ14,16,18が配置されていたが、4本以上の検出プローブを配置することも可能である。図2に示す構成例では側周囲面に沿って均等間隔で3つの検出プローブ14,16,18が設けられていたが、もちろん非均等間隔をもってそれらを配置するようにしてもよい。図示の例では、下側から3つの検出プローブ14,16,18がフィルタ部材20に差し込まれているが、もちろん上側からそのような差込みが行われるようにしてもよい。但し、フィルタ部材20の上側に表示部その他の構造体を設ける場合には下側から複数の検出プローブを差し込むようにするのが望ましい。
【0035】
図3には、検出ユニット10の上面図が示されている。上述したように、フィルタ部材20は円板型の形態を有し、その側面20Bに沿って均等間隔で3つの検出プローブ14,16,18が配置されており、すなわち3つの空洞が形成されている。より具体的には120度の角度間隔をもって3つの検出プローブ14,16,18が設けられている。図3において、Оは中心点あるいは垂直中心線を示している。それが検出原点を構成する。各空洞は側面20Bに実質的に内接している。ただし、各空洞と側面20Bとの間に若干の厚みが存在してもよい。円板状のシンチレータ部材48において、中心よりも側面20Bに近い領域すなわち辺縁領域に複数の空洞を形成するのが望ましい。すなわちそのような辺縁領域内に複数のセンサが配置されれば応答関数において山と谷の差を拡大することができ、その結果、方位判別精度を高めることが可能である。
【0036】
図3においては、線源52から飛来するγ線が符号54で示されている。そのようなγ線54に対して各検出プローブ14,16,18すなわち各センサにおいてそれぞれ検出が実施され、これによって3つの計数値が取得されることになる。γ線54の飛来方位に応じてそれぞれの計数値の相互比率が異なるため、それらの計数値の関係から飛来方位を特定することが可能である。その場合において検出ユニット10それ自体を回転駆動させる必要はない。ただし、必要に応じて検出ユニットに対して回転機構を設けることは可能である。
【0037】
図4には、検出ユニットの部分断面が示されている。フィルタ部材20には複数の空洞が形成され、図4においては1つの空洞が示され、そこには検出プローブ14における先端部分が下方から差し込まれている。両者は嵌合状態にある。検出プローブ14の配置状態では、シンチレータ部材48が完全にフィルタ部材20の内部に位置している。すなわち、シンチレータ部材48を基準として、それよりも上側及び下側には一定の厚みすなわちマージンが存在している。これにより斜め上方あるいは斜め下方からの放射線に対する一定の遮蔽作用が得られている。もちろん、水平方向の指向特性をより鋭くするためにフィルタ部材20の上面や下面に遮蔽部材を設けるようにしてもよい。なお、検出プローブ14の内部にはシンチレータ部材48が配置され、その下方側には導光部材56を介して光電子増倍管50が設けられている。符号51はシンチレータ部材48や光電子増倍管50等を収容するケースを示しており、それは数ミリ程度の厚みをもったアルミニウムなどにより構成されている。ちなみに符号58はフィルタ部材20の垂直中心軸を示している。
【0038】
以上のように、検出ユニット10において、各センサごとに異なる水平方向指向特性が生成され、その結果、特定の方位から飛来する放射線に対してそれぞれのセンサにおいて異なるレスポンスが生じることになる。本実施形態においては、3つのセンサにより得られた3つの計数値N1,N2,N3がそれぞれそれらの総和T(=N1+N2+N3)で割られて正規化されており、すなわち3つの計数比N1/T,N2/T,N3/Tが得られている。それらは実測計数比と言えるものである。トータルの計数値に対する内分比として理解すること可能である。3つの計数比の組み合わせ(つまり計数比列)を、指定された応答関数に当てはめることにより相関がもっとも高くなる方位をもって、放射線の飛来方位であると判定することが可能である。
【0039】
図5乃至図9には応答関数の例が示されている。図5は第1核種用応答関数を示しており、図6は第2核種用応答関数を示しており、図7は第3核種用応答関数を示しており、図8は第4核種用応答関数を示しており、図9は第5核種用応答関数を示している。各図において、複数の丸印の列によって特定されているグラフが第1計数比(N1/T)と比較されるグラフであり、複数の三角形の列によって特定されるグラフが第2計数比(N2/T)と比較されるグラフであり、複数の四角の列によって特定されるグラフが第3計数比(N3/T)と比較されるグラフである。すなわち、個々の応答関数は3つの計数比グラフからなるものであり、現在実測された3つの計数比を図示されるような理論的にあるいは事前に求まっている3つの計数比グラフと比較し、もっとも一致度が高い方位をもって放射線の飛来方位であると判別することが可能である。このような方位判別手法は上記の特許文献1に記載された手法と基本的に同一である。ただし、本実施形態においては、γ線エネルギーが異なる5つの核種に対応して5つの応答関数が事前に用意されており、その中から測定対象となった核種に対応する応答関数が選択され、当該選択された関数を用いて3つの計数比をもって飛来方位の判別が行われている。これにより図1に示した各信号処理部においてエネルギーごとに計数値等を計算する必要がなくなる。
【0040】
測定対象となる核種が未知の場合には、それぞれの関数を順番に選択して、もっとも一致度が高まるものから飛来方位の判別を行うようにしてもよい。複数の核種に対応する複数の応答関数ではなく、複数のエネルギー区分に対応する複数の応答関数を用意しておくようにしてもよい。ちなみに、図5乃至図9に示した各応答関数は発明説明上のものであり、一例に過ぎないものである。各応答関数はシミュレーションによりあるいは実験により作成することが可能である。フィルタ部材20が円板形状を有しているため各応答関数においてそれぞれのグラフは基本的にサイン波形に近い形状を有することになる。逆に言えば、フィルタ部材における水平方向の形態を操作することにより各グラフの形状を操作することが可能である。したがって山と谷ができる限り大きく生じるようにフィルタ部材の形状や各空洞の配置を決定するのが望ましい。
【0041】
次に、図10及び図11を用いて検出ユニットに対して表示器を積層させた構成について説明する。図10には検出ユニット10が示されており、その上面には表示部60が設置されている。表示部60は例えば液晶表示器(LCD)である。
【0042】
図11には表示部60の表示例が示されている。表示部60は表示画面を有し、図示の例において、表示画面上には方位インジケータ62が表示されている。方位インジケータ62は飛来方位を示す方位マーカー64を備え、それは具体的には矢印の形態を有している。方位インジケータ62の中心すなわち方位マーカー64の原点は検出ユニット10の測定原点と一致しており、換言すれば、検出ユニット10の垂直中心線上に方位インジケータ62の中心点が位置決められている。その結果、検出ユニット10を用いて判別された放射線54の飛来方位を表示部60上に正確に表示することが可能である。すなわち検出ユニット10を基準としてみた場合における飛来方位をそのまま検出ユニット10上に反映させることが可能であり、特に放射性汚染が近場で生じているような場合においてもその方位を誤りなく認識することが可能となる。また三角法を利用して複数の地点において飛来方位を判別して、それらから汚染源を特定するような場合においても誤差を少なくできるという利点が得られる。
【0043】
表示面上には本実施形態において飛来方位の数値表示66及び線量率表示68も含まれている。ここで線量率は3つの計数値(3つの線量率)から換算を行うことにより算出可能である。あるいは通常の検出ユニットを別途設け、その検出結果に基づいて線量率を演算するようにしてもよい。表示面上には更に核種表示70が含まれている。それは測定対象となっている核種を示す表示である。
【0044】
図12には、上述した放射線測定装置が組み込まれた台車型サーベイシステムの構成例が示されている。
【0045】
台車本体72は4つのキャスタ76を備えている。前側の2輪あるいは後側の2輪が旋回可能なキャスタである。そのようなキャスタ76を利用して地面74上において任意の位置に台車本体72を移動させることが可能である。台車本体72には取っ手78が設けられ、それはハンドルとして機能する。台車本体72の移動は人力によって行われている。ただし、電動機等を搭載するようにしてもよい。
【0046】
台車本体72上には台座82を介して検出ユニット10が設けられている。検出ユニット10の上面側には表示部60が設けられている。このような積層構成については図10及び図11に示した通りである。検出ユニット10において周囲から飛来するγ線80が検出される。
【0047】
筐体84の内部にはバッテリ86が設けられ、そのバッテリ86によって各構成への電力が供給されている。筐体84上にはパーソナルコンピュータ(PC)88が設置されている。もちろん専用のコントローラを設けるようにしてもよい。PC88は図1に示した構成において主演算部32、主制御部34、メモリ36等を備えるものである。ちなみに、システムそれ自体の放射性汚染が問題となる場合には汚染防止カバー90を設けるようにするのが望ましい。そのようなカバー90は例えばポリプロピレン等の透明なフィルムによって構成されるものである。それに汚染が生じた場合には新しいものに交換すればよい。
【0048】
図12示す台車型サーベイシステムによれば、取っ手78を握って台車を移動させながら各位置において汚染源の方位を測定し、汚染源を迅速且つ確実に絞り込むことが可能である。すなわちホットスポットの探知を迅速に行えるという利点がある。例えば学校の校庭や道路等において局所的に高線量汚染が生じている場合、図12に示したようなシステムを利用してその位置を特定し、必要な除染措置等を迅速に適用することが可能となる。図12に示した構成例では台車がベースとなっていたが自動車等の移動体に同様の構成を搭載するようにしてもよい。
【0049】
図13には携帯型サーベイシステムの構成例が示されている。
【0050】
(A)には上面図が示されており、(B)には側面図が示されている。携帯型サーベイシステムは、大別してヘッド100及びグリップ102により構成される。すなわち片手で握って操作されるものである。ヘッド100は円板形状を有し、(B)に示すようにそれは検出ユニット106及び表示部104により構成される。いずれも円板形状を有している。検出ユニット106は、フィルタ部材118とそこに埋め込まれた3つのセンサ112,114,116により構成され、3つのセンサは120度の角度間隔をもって円周方向に配列されている。各センサ112,114,116は図示の例において半導体センサにより構成されている。
【0051】
表示部104は液晶表示器により構成され、それは方位インジケータとしての方位マーカー108及び情報表示部110を含むものである。方位マーカー108は放射線の飛来方位を表示するものである。(A)に示す例においては左方向から放射線が飛来しており、当該方位を方位マーカー108が指し示している。情報表示部110は線量率、方位としての数値、測定対象核種等の各種の情報を表示する部分である。
【0052】
グリップ102は片手で握られる部分であり、その内部にはマイコン118及びバッテリとしての電池120が収容されている。マイコン118は、図1において検出ユニット10以外の部分を司るものであり、すなわち図1に示した処理ユニット12に相当している。電池120はコイン型の電池であり、それが消耗した場合には交換される。もちろん充電型のバッテリを利用するようにしてもよい。
【0053】
図13に示す携帯型サーベイシステムによれば、片手でシステムを把持し、それによって判別される飛来方位を参照しながら汚染源を段階的に絞り込むことが可能である。すなわち操作者自らが移動しながら汚染源の特定を行える。その場合において操作者が移動する方向は方位マーカー108により容易に特定可能である。
【0054】
図13に示す構成例では、3つのシンチレータ部材に代えて3つの半導体センサが設けられていたが、そのような構成においても図1等に示したフィルタ部材と同様のフィルタ部材118が利用されているので、各半導体センサにおいて互いに異なる水平方向指向特性を生じさせることができ、そのような関係を利用して応答関数等を用いて放射線の飛来方位を容易に特定可能である。もっとも、半導体センサにおいてはその配置の向きに応じて感度が異なることから、そのような事情も考慮して事前に応答関数を作成しておくのが望ましい。
【符号の説明】
【0055】
10 検出ユニット、12 処理ユニット、14,16,18 検出プローブ、20 フィルタ部材、22,24,26 信号処理部、32 主演算部、34 主制御部、36 メモリ(応答関数群)。
図1
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図10
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図13