(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記外ケーブル定着部における前記アンカーディスクが配置される側で、前記アンカーディスク、およびそのアンカーディスクから突出する前記PC鋼線を外周側から覆う防錆キャップを備え、
その防錆キャップ内に、前記防錆体が充填されている請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の外ケーブルの定着構造体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の技術でコンクリート構造物の補修・補強の要否を判断できたとしても、実際の補修・補強作業が煩雑であるという問題がある。
【0007】
従来の外ケーブル工法では、外ケーブルはセメントグラウトなどで外ケーブル定着部に固着されている。つまり、一度設けた外ケーブルは再緊張することができないようになっているため、既設構造物に補修・補強が必要であると判断した場合、新たに外ケーブルを増設するなどの対応を行なう必要がある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、必要に応じてPC鋼線を再緊張できる外ケーブルの定着構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明外ケーブルの定着構造体は、複数のPC鋼線と、定着具と、外ケーブル定着部とを備え、外ケーブル定着部を介して、各PC鋼線の緊張力をコンクリート構造物に付与することで、当該コンクリート構造物を補強する外ケーブルの定着構造体である。定着具は、緊張されたPC鋼線を個別に把持する複数のウェッジ、およびそれらウェッジを嵌め込む複数のウェッジ孔を有するアンカーディスクを備える。外ケーブル定着部は、定着具によってPC鋼線が定着されるコンクリート製の部材である。この構成を備える本発明外ケーブルの定着構造体は更に、アンカーディスクと、そのアンカーディスクから露出するウェッジおよびPC鋼線の端部を覆うと共に、外ケーブル定着部とPC鋼線との間に介在される防錆体を備え、その防錆体は、後硬化型の脆性樹脂を含むことを特徴とする。
【0010】
上記本発明外ケーブルの定着構造体における後硬化型の脆性樹脂は、硬化前には低粘度の液体状で、硬化後にはゼリー状の固体となる樹脂のことである。この脆性樹脂は、自立可能で自然崩壊しない程度の強度を有するが、人力で断片状に崩すことができる程度の強度を有するものである。脆性樹脂の脆性を物理量で表す場合、例えば、引張り強さを挙げることができる。例えば、脆性樹脂の引張り強さは、70〜200kPaである。
【0011】
上記構成を備える外ケーブルの定着構造体であれば、PC鋼線を再緊張することができる。防錆を担う防錆体が脆性樹脂からなるため、PC鋼線の再緊張の際に防錆体が容易に崩壊し、PC鋼線の再緊張を阻害しないからである。ここで、PC鋼線の再緊張により崩壊した防錆体は大小さまざまな断片となるが、それら断片がPC鋼線の再定着を阻害することはない。ウェッジ間やウェッジとアンカーディスクの隙間などの部材間隙にそれら断片が入り込んだとしても、脆性樹脂でできた断片は部材間で圧縮されて更に細かく崩壊し、部材間隙から追い出されるからである。
【0012】
また、脆性樹脂の防錆体は、外ケーブルの定着構造体において長期にわたって防錆効果を発揮する。脆性樹脂は、脆くはあっても固体であるため、防錆対象となる部分に半永久的に存在し続けるからである。これに対して、本発明における防錆体の形成箇所を防錆油やグリースなどに置換した場合、防錆効果を長期にわたって維持することは難しい。低粘度の防錆油は勿論、それよりも多少高粘度のグリースであっても、これら防錆油やグリースは流体であるため、定着構造体から漏れる恐れがあるからである。
【0013】
さらに、脆性樹脂の防錆体を利用することで、PC鋼線の再緊張作業を行ない易くすることができる。脆性樹脂には、PC鋼線の再緊張時に、防錆油やグリースなどのような液垂れの問題がなく、また再緊張するPC鋼線の表面がべた付いて扱い難くなるという問題もないからである。
【0014】
上記本発明外ケーブルの定着構造体の一形態として、外ケーブル定着部は、コンクリート構造物の側面に後付けされている形態を挙げることができる。
【0015】
上記構成によれば、既設のコンクリート構造物を補強・補修することができる。なお、本発明外ケーブルの定着構造体における外ケーブル定着部は、もともとコンクリート構造物の側方に張り出している部分であっても構わない。つまりこれは、新設されるコンクリート構造物を補強する外ケーブルに本発明外ケーブルの定着構造体を適用した構成である。
【0016】
本発明外ケーブルの定着構造体の一形態として、外ケーブル定着部に埋設され、アンカーディスクの圧力を分散させて外ケーブル定着部に伝達するディスク受けを備える形態を挙げることができる。このディスク受けは、外ケーブル定着部を貫通して設けられ、内部にPC鋼線を挿通させる筒状部と、筒状部の一端側に設けられ、上記アンカーディスクが当接されるアンカープレート部と、筒状部の他端側に設けられ、筒状部の内部空間を外部空間から区画する止水部と、を備える。この場合、防錆体は、筒状部の内部におけるPC鋼線の外周を覆う。
【0017】
上記ディスク受けを備える構成によれば、アンカーディスクの圧力を分散させて外ケーブル定着部に伝達させることで、外ケーブル定着部の損傷を防止することができる。当該圧力を分散させるには、アンカーディスクの押圧面よりも、アンカープレート部の押圧面の面積を大きくすれば良い。また、上記ディスク受けによれば、外ケーブル定着部におけるPC鋼線を再緊張可能な状態にでき、しかも、筒状部の内部でPC鋼線を外部環境から区画した状態にできるため、PC鋼線が錆び難い。
【0018】
本発明外ケーブルの定着構造体の一形態として、外ケーブル定着部におけるアンカーディスクが配置される側で、アンカーディスク、およびそのアンカーディスクから突出するPC鋼線を外周側から覆う防錆キャップを備える形態を挙げることができる。この場合、その防錆キャップ内に、防錆体が充填される。
【0019】
防錆体が充填される防錆キャップでアンカーディスクからPC鋼線の先端までを覆うことで、各部材の防錆をより確実にすることができる。
【0020】
防錆キャップを備える本発明外ケーブルの定着構造体の一形態として、ディスク受けの止水部のうち、外ケーブル定着部から露出する位置に、脆性樹脂の第一注入口を備える形態を挙げることができる。
【0021】
上記構成によれば、第一注入口から注入された脆性樹脂が、ディスク受けの筒状部を通って最終的に防錆キャップ内に吐出されるようにすることができる。そのため、ウェッジと、PC鋼線のウェッジに把持される部分の防錆を担う防錆体を容易に形成することができる。もちろん、第一注入口は、PC鋼線を再緊張したときに崩れた防錆体の隙間に、脆性樹脂を再充填させることにも利用できる。
【0022】
防錆キャップを備える本発明外ケーブルの定着構造体の一形態として、防錆キャップにおけるアンカーディスク近傍の位置に、脆性樹脂の第二注入口を備える形態を挙げることができる。
【0023】
上記構成によれば、第二注入口から注入された脆性樹脂が、防錆キャップ内に充填されると共に、ディスク受けの筒状部にも吐出されるようにすることができる。そのため、本発明における防錆体を容易に形成することができる。もちろん、第二注入口は、脆性樹脂の再充填にも利用できる。
【0024】
ここで、第二注入口と、上述した第一注入口は、両方設けても構わないし、どちらか一方だけを設けても構わない。また、脆性樹脂の排出口は、どちらの注入口を採用するかに関わらず(両方設ける場合も含む)、防錆キャップに設けると良い。
【0025】
防錆キャップを備える本発明外ケーブルの定着構造体の一形態として、筒状部内で、各PC鋼線を個別に収納する管体を備え、管体の内部空間は、管体の外周面と筒状部の内周面との間の空間から区画されている形態を挙げることができる。この場合、管体の内部空間に防錆体が充填されている。
【0026】
管体を設けることで、管体と筒状部の二重の防壁でPC鋼線を保護することができ、PC鋼線を錆び難くできる。また、注入口から硬化前の脆性樹脂を充填する構成では、脆性樹脂の充填量を節約することができる。脆性樹脂を注入口から充填したとき、その脆性樹脂が筒状部の内部全体にではなく、筒状部の内部に配される管体に流れ込むからである。
【発明の効果】
【0027】
本発明外ケーブルの定着構造体によれば、必要に応じてPC鋼線を再緊張することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。なお、図中において同一部材には同一符号を付している。
【0030】
<コンクリート構造物>
本実施形態では、コンクリート構造物である鉄道橋に本発明外ケーブルの定着構造体を適用する例を示す。
図1に示す本実施形態の橋梁(コンクリート構造物)100は、既設のものであって、外ケーブル1によって後から補修されたものとした。この外ケーブル1の定着に本発明外ケーブルの定着構造体αを適用する。なお、
図1では、外ケーブル1は単数で示しているが、実際には複数存在する。
【0031】
上記外ケーブル1は、橋梁100の側面に突出する外ケーブル定着部101に懸け渡されるように配置される。両外ケーブル定着部101,101は、橋梁100の側面に後から取り付けられたもので、外ケーブル1は、両外ケーブル定着部101,101間で橋梁100の側方に露出している。また、外ケーブル1の両端部はそれぞれ、外ケーブル定着部101,101において定着具2,2で定着されており、外ケーブル1の中間部は、橋梁100の下方に設けられたデビエータ110,110,110に挿通され保持されている。デビエータ110は、外ケーブル1を偏向させるものである。デビエータ110を用いることで、橋梁100に曲げ上げ力(中間部を上方に凸となるように曲げる力)を付与し、橋梁100の曲げ耐力を向上させることができる。
【0032】
<外ケーブルの定着構造体>
次に、PC鋼線1(外ケーブル)を定着具2で定着することで形成される外ケーブルの定着構造体αを、
図2に基づいて説明する。
図2では、
図1の紙面左側の定着構造体αを説明する。
図1の紙面右側の定着構造体αは、紙面左側の定着構造体αと線対称の構造を有するため、その説明は省略する。
【0033】
外ケーブルの定着構造体αは、緊張された複数のPC鋼線1と、これらPC鋼線1を緊張状態で定着する定着具2と、を備える。定着具2は、各PC鋼線1を個別に把持するウェッジ3と、PC鋼線1を把持した状態にあるウェッジ3が嵌め込まれるウェッジ孔40Hを有するアンカーディスク4と、を備える。この定着具2によって緊張状態にある各PC鋼線1を外ケーブル定着部101に定着することで、アンカーディスク4を介して各PC鋼線1の緊張力を外ケーブル定着部101(即ち、外ケーブル定着部101が取り付けられる橋梁100)に付与することができる。
【0034】
上記本実施形態における外ケーブルの定着構造体αの最も特徴とするところは、アンカーディスク4の周囲、特に、アンカーディスク4と、そのアンカーディスク4から露出するウェッジ3およびPC鋼線1の端部を覆うと共に、外ケーブル定着部101とPC鋼線1との間に介在される防錆体9を備え、その防錆体9が後硬化型の脆性樹脂からなることである。アンカーディスク4の周囲における防錆体9は、アンカーディスク4の表面側(
図2の左側でウェッジ3の露出端面側)と裏面側(
図2の右側でアンカープレート部50との間)を確実に覆っていることが好ましい。なお、本実施形態における防錆体9は上述した部分以外の箇所にも形成されている。具体的な防錆体9の形成箇所、および定着構造体αに備わる定着具2以外の構成については、定着構造体αの形成手順の説明を行なう際に述べる。
【0035】
防錆体9を構成する後硬化型の脆性樹脂は、硬化前には低粘度の液体状で、硬化後にはゼリー状の固体となる樹脂である。脆性樹脂の定義をより具体的に述べると、自立可能で自然崩壊しない程度の強度を有するが、人力で断片状に崩すことができる程度の強度を有する樹脂で、例えば、引張り強さが70〜200kPa程度の樹脂である。具体的な脆性樹脂としては、例えば、住友スリーエム株式会社の『解体可能型レジン 4441J』などを挙げることができる。この『解体可能型レジン』は、下記溶液Aと溶液Bとを混合し、その混合液を時間の経過によって硬化させることで得られる。硬化前の『解体可能型レジン』(混合液)は、約600〜700kPa/s(25℃)の粘度を有する液状体で、硬化後の『解体可能型レジン』は、約75kPaの引っ張り強度を有する脆性樹脂である。
・溶液A;植物油、ポリブタジエンポリマー、エポキシ化脂肪酸グリセロイド
・溶液B;鉱油、ポリブタジエン、N,N,N−トリ−アルキルアミン
【0036】
<外ケーブルの定着構造体の効果>
上記構成を備える外ケーブルの定着構造体αによれば、一度定着した複数のPC鋼線1を再緊張することができる。ウェッジ3とPC鋼線1の防錆を担う防錆体9が脆性樹脂からなるため、PC鋼線1の再緊張の際に防錆体9が容易に崩壊し、PC鋼線1の再緊張を阻害しないからである。
【0037】
また、脆くはあっても固体である脆性樹脂を用いて防錆処理をすることで、防錆油やグリースなどの流体を用いた防錆処理のような液漏れの問題をなくすことができる。加えて、脆性樹脂を用いた防錆処理では、PC鋼線1の再緊張、再定着の際に、PC鋼線1を扱い易い。防錆油やグリースのように、PC鋼線1の表面がべた付くなどの問題がないからである。
【0038】
さらに、上記構成を備える外ケーブルの定着構造体αでは、各PC鋼線1がウェッジ3により個別に把持されているので、各PC鋼線1を個別に再緊張することができる。そのため、外ケーブル定着部101に付与する緊張力の微調整を容易に行なうことができ、外ケーブル定着部101に過剰な緊張力が作用して外ケーブル定着部101が損傷することを回避できる。さらに、各PC鋼線1を個別に緊張できることから、PC鋼線1を設置時の緊張、ならびに再緊張の際に、小型のジャッキを使用できる。特に、既存の橋梁100に後から定着構造体αを追加する場合、広い作業スペースを確保できないことが多いため、小型のジャッキを使用できることは、作業上の大きなメリットである。
【0039】
<外ケーブルの定着構造体の形成手順>
図2に示す定着構造体αの作製手順は、以下の通りである。
[1]ディスク受け5を埋設した外ケーブル定着部101を、
図1の橋梁100の外ケーブル定着部101として橋梁100の側面に取り付ける。
[2]複数のPC鋼線1を、ディスク受け5の内部に挿通させる。
[3]各PC鋼線1を緊張し、定着する。
[4]PC鋼線1の先端部に防錆キャップ6を取り付ける。
[5]後硬化型の脆性樹脂を定着具2の内部に充填し、脆性樹脂を硬化させる。
【0040】
[1]外ケーブル定着部の配置
ディスク受け5を埋設した外ケーブル定着部101は、例えば、型枠内にディスク受け5を配置し、型枠内にコンクリートを流し込んで硬化させることで作製することができる。この外ケーブル定着部101は、橋梁100の側面に図示しないボルトなどで取り付けられる。
【0041】
外ケーブル定着部101に埋設されるディスク受け5は、アンカーディスク4の圧力を分散させて外ケーブル定着部101に伝達する部材であって、当該圧力による外ケーブル定着部101の損傷を防止する部材である。また、外ケーブル定着部101の内部のPC鋼線1を防錆するための空間で、かつPC鋼線1を再緊張可能なように外ケーブル定着部101とPC鋼線1との固着を縁切りするための空間を形成する部材でもある。ディスク受け5は、例えば、SS400などで形成し、その全面を溶融亜鉛メッキで防錆処理したものを利用することができる
【0042】
当該ディスク受け5は、内部にPC鋼線1を挿通させる筒状部51と、筒状部51の一端側に形成されるアンカープレート部50と、筒状部51の他端側に形成される止水部53と、を備える(
図3を合わせて参照)。
【0043】
アンカープレート部50は、その一面側にアンカーディスク4を嵌め込むための凹部50C(
図3参照)を備え、アンカーディスク4の圧力を受ける。また、アンカープレート部50の他面側は、外ケーブル定着部101に当接して設けられる。つまり、アンカープレート部50は、アンカーディスク4の圧力を分散させて外ケーブル定着部101に伝達することで、外ケーブル定着部101の損傷を抑制しつつ、外ケーブル定着部101に当該圧力を適切に伝達させる役割を持つ。アンカーディスク4の圧力を分散させるために、
図3(A)に示すように、アンカープレート部50を平面視したときの面積は、アンカーディスクを平面視したときの面積(凹部50Cの面積にほぼ等しい)よりも大きい。
【0044】
上記アンカープレート部50の四隅には、
図3(A)に示すように、PC鋼線を緊張するジャッキの取付孔JHが形成されている。また、それら取付孔JHの内周側には、同心円状に並ぶ複数のネジ止め孔50Hが形成されている。ネジ止め孔50Hは、後述する防錆キャップ6を固定するためのものである。
【0045】
筒状部51は、外ケーブル定着部101に埋設される部分であって、その内部にPC鋼線1を挿通させることができる太径の筒体である。本実施形態では、筒状部51の内部に、PC鋼線1を個別に挿通させる管体54が設けられている。管体54の内径は、PC鋼線1の外径よりも約3mm〜4mm大きく、その分だけ管体54の内部にPC鋼線1を挿通させたときに両者の間に隙間ができる。
【0046】
管体54の一端側は、アンカープレート部50の凹部50Cに開口し、管体54の他端側は、筒状部51の他端側に設けられる仕切り部51Sに開口している。このような構成により、筒状部51の内周面と、アンカープレート部50の内側面と、仕切り部51Sの内側面と、で囲まれる筒状部51の内部空間は、その外部から隔絶される。また、その内部空間と、管体54の内部空間との間も隔絶される。
【0047】
止水部53は、ディスク受け5における仕切り部51Sよりも他端側(紙面右側)の部分である。仕切り部51Sよりもさらに他端側には、仕切り部53Sが設けられている。仕切り部53Sには、仕切り部51Sの管体54に対応する位置に挿通孔53SHを備える。この挿通孔53SHの内径は、管体54の内径よりも大きい(PC鋼線1の外径よりも約8mm〜10mm大きい)。
【0048】
止水部53における仕切り部51Sと仕切り部53Sとの間には、脆性樹脂を注入するための第一注入口5
INが開口している。また、仕切り部53の端部には、フランジ部53Fが設けられており、そのフランジ部53Fには、等間隔に並ぶ複数のネジ止め孔53FHが設けられている。
【0049】
[2]PC鋼線の配置
本実施形態で使用するPC鋼線1は、複数の素線を撚り合わせた撚り線10と、その外周に形成されるエポキシなどの樹脂からなる被覆11と、を備える被覆PC鋼線である。もちろん、PC鋼線1は、単線の外周に被覆11を形成したものであっても構わない。なお、PC鋼線1の被覆11は必要に応じて形成されるもので、なくても構わない。
【0050】
このPC鋼線1を、ディスク受け5の仕切り部53Sの貫通孔53SHから仕切り部51Sに開口する管体54の内部に挿通し、ディスク受け5のアンカープレート部50から引き出す。その貫通の際に予め、PC鋼線1の外周には、
図2に示すように、アンカーディスク4側から順に、パッキン71・スペーサ72・漏れ止め板73・押え部材用パッキン74・スペーサ72・パッキン71・押え部材75を嵌め込んでおく(漏れ止め板73と押え部材用パッキン74の嵌め込み順は逆でも良い)。ここで、配置されるPC鋼線1の端部の被覆11を剥ぎ取っておく。被覆11の剥ぎ取り位置は、アンカープレート部50よりも外ケーブル定着部101側(紙面右側)で、ディスク受け5の仕切り部51Sよりも外ケーブル定着部101側(紙面左側)とする。例えば、外ケーブル定着部101のほぼ中間の位置に、被覆11の剥ぎ取り端が配置されるように、被覆11を剥ぎ取ると良い。
【0051】
[3]PC鋼線の緊張と定着
PC鋼線1の定着にあたり、複数のウェッジ3とアンカーディスク4とを備える定着具2を用意する。ウェッジ3は、例えばSCM415Hなどの高剛性材料で形成された複数の分割片(本例では3つ)を組み合わせることで楔状になる部材であって、PC鋼線1の撚り線10を外周側から把持する部材である。ウェッジ3は、次に説明するアンカーディスク4のウェッジ孔40Hに嵌め込まれる。
【0052】
アンカーディスク4は、略円柱状の部材であって、PC鋼線1の緊張力を外ケーブル定着部101に伝達できるように、S45Cなどの高剛性材料で構成される(
図4を合わせて参照)。アンカーディスク4には、その厚み方向に貫通する複数のウェッジ孔40H、貫通孔45H、およびネジ止め孔49Hが設けられている。ウェッジ孔40Hは、ウェッジ3が嵌まり込むテーパー部と、テーパー部に連続する一様な内径を有する直孔部と、からなる。このテーパー部を除くアンカーディスク4の全面には、エポキシ塗装などにより防錆処理がされている。
【0053】
これら定着具2を用いてPC鋼線1を定着するには、まず、アンカープレート部50から突出するPC鋼線1にアンカーディスク4を取り付ける。その取り付けの際、アンカーディスク4のウェッジ孔40Hに、PC鋼線1を挿通させる。
【0054】
次いで、アンカープレート部50のジャッキの取付孔JHに、ジャッキを取り付けて、PC鋼線1を一本ずつ緊張する。緊張後のPC鋼線1の外周にウェッジ3を取り付けて、ウェッジ孔40Hに叩き込み、PC鋼線1を定着する。この操作を全てのPC鋼線1に対して行ない、ジャッキを取り外す。
【0055】
[4]防錆キャップの取り付け
防錆キャップ6は、一端が封止された筒状の細径部60と、細径部60に連続して形成される太径部61と、太径部61の開口端部に形成されるフランジ部6Fと、を備える(
図5を合わせて参照)。細径部60は、アンカーディスク4から突出するPC鋼線1の撚り線10を外周側から覆う部分である。太径部61は、アンカープレート部50に取り付けられたアンカーディスク4の外周と、アンカーディスク4から突出する撚り線10を覆う部分である。フランジ部6Fは、防錆キャップ6をアンカープレート部50に取り付けるための取り付け部として機能する部分である。フランジ部6Fには、周方向に間隔を空けて配置される複数のネジ止め孔6FHが設けられている。ネジ止め孔6FHの位置は、アンカープレート部50のネジ止め孔50Hの位置に対応している。
【0056】
防錆キャップ6の細径部60における閉口端の近傍には脆性樹脂の排出口6
OUTが設けられ、太径部61には脆性樹脂の第二注入口6
INが設けられている。この排出口6
OUTが水平よりも上(好ましくは鉛直上方)を向くように、防錆キャップ6をディスク受け5のアンカープレート部50に取り付ける(必然的に、第二注入口6
INは水平よりも下を向く)。防錆キャップ6の取り付けの際は、防錆キャップ6とアンカープレート部50との間に、リング状のゴム製パッキン6P(
図2)を挟み込んで、当該部分の止水性を向上させる。
【0057】
[5]脆性樹脂の充填・硬化
止水部53よりも右側に予め嵌め込んでおいた部材71・72・73・74・72・71(符号の並びは嵌め込み順)を止水部53に組み付けて、止水部53を封止する止水構造を完成させる。本実施形態における止水構造は、具体的には、仕切り部51Sよりも紙面右側にある部分全てである。以下の説明では、基本的に
図2を参照し、必要に応じて他の図面を参照する。
【0058】
パッキン71は、ゴムなどの弾性材からなる円盤状部材であって、PC鋼線1の数に対応したPC鋼線1の挿通孔を有する。このパッキン71は、次述する一対のスペーサ72,72を挟み込んで一対設けられている。パッキン71の外径は、止水部53の端部の内径よりも小さく、従って、ディスク受け5側に配置されるパッキン71は、止水部53の端部に嵌まり込む。
【0059】
スペーサ72は、
図6に示すように、凹部72Cを有する高密度ポリエチレンなどの剛性材からなる円盤状の部材であり、凹部72CにはPC鋼線1の数に対応したPC鋼線1の挿通孔72CHが形成されている。このスペーサ72は、本実施形態では一対、設けられており、それらスペーサ72,72の凹部72Cは互いに対向して配置されている。スペーサ72の外径は、止水部53の端部の内径よりも小さく、従って、ディスク受け5側に配置されるスペーサ72は、止水部53の端部に嵌まり込む。
【0060】
漏れ止め板73は、特殊合成ゴムなどの弾性材からなる円盤状部材であって、PC鋼線1の数に対応したPC鋼線1の挿通孔を有する。漏れ止め板73の外径は、
図6に示すスペーサ72の凹部72Cの内径よりも若干小さく、配置上、漏れ止め板73は、対向配置される一対のスペーサ72の凹部72Cの間に嵌まり込む。
【0061】
押え部材用パッキン74は、特殊合成ゴムなどの弾性材からなるリング状部材であって、その内径は漏れ止め板73の外径よりも大きい。そのため、押え部材用パッキン74は、PC鋼線1の長手方向に漏れ止め板73と同じ位置で、漏れ止め板73の外周側に配置される。
【0062】
押え部材75は、ディスク受け5の止水部53における仕切り部53Sから端部に至る部分とほぼ同じ形状をした部材である。具体的には、
図7に示すように、ステンレスなどの高剛性材料からなる円盤状部材であって、凹部75Cと、凹部75Cの開口側端部に形成されるフランジ部75Fと、を備える。凹部75Cには、PC鋼線1の数に対応したPC鋼線1の挿通孔75CHが形成されている。一方、フランジ部75Fには周方向にほぼ均等な間隔で配置される合計12個のネジ止め孔75FH
1が形成されている。このネジ止め孔75FH
1は、
図3に示す止水部53のフランジ部53Fのネジ止め孔53FHに対応し、押え部材75をディスク受け5の止水部53に取り付ける際に利用される。また、フランジ部75Fの上下左右の4箇所には、止水構造の解体時に使用する解体用ネジ孔75FH
2が形成されている。ディスク受け5の止水部53には解体用ネジ孔75FH
2に対応するネジ孔がなく、従って解体用ネジ孔75FH
2にボルトをねじ込んでいけば、ボルトの先端は止水部53に当て止めされる。解体用ネジ孔75FH
2の内周面にはネジ溝が切ってあるので、そのままボルトをねじ込んでいけば、押え部材75はディスク受け5から離れる方向に送り出される。
【0063】
以上説明した部材71・72・73・74・72・71を組み付けるには、押え部材75を止水部53のフランジ部53F(
図3参照)にネジ止めし、押え部材75と止水部53の仕切り部53Sとの間で漏れ止め板73を圧縮する。圧縮された漏れ止め板73は、径方向外方および漏れ止め板73の挿通孔の内方に拡がり、漏れ止め板73の挿通孔の内周面が、PC鋼線1の外周面に密着する。その結果、漏れ止め板73を境界として、ディスク受け5の内部が封止される。なお、漏れ止め板73の圧縮の際、その外周にある押え部材用パッキン74も、止水部53のフランジ部と押え部材75のフランジ部との間で圧縮される。押え部材用パッキン74は、漏れ止め板73の外周側で止水を担い、また漏れ止め板73の径方向外方への拡がりを抑制することで、止水構造の止水性を向上させる役割を持つ。
【0064】
部材71・72・73・74・72・71の組み付けが終了したら、第一注入口5
INから脆性樹脂を注入する(第二注入口6
INは閉じておき、排出口6
OUTは開けておく)。第一注入口5
INから注入された脆性樹脂は、仕切り部53Sと仕切り部51Sの間の空間に入り、そこから管体54におけるPC鋼線1との隙間に浸入する。さらに、その隙間からアンカーディスク4とアンカープレート部50との隙間やウェッジ3の分割片の間に浸入し、アンカーディスク4の貫通孔45Hを通って防錆キャップ6内に吐出される。防錆キャップ6が脆性樹脂で満たされ、排出口6
OUTから脆性樹脂が溢れたら、第一注入口5
INからの脆性樹脂の注入を終了する。後は、脆性樹脂の硬化を待てば、上述した脆性樹脂の移動経路全体に防錆体9が形成された本発明外ケーブルの定着構造体αが完成する。
【0065】
なお、脆性樹脂を注入する際、第一注入口5
INを閉じておき、第二注入口6
INから脆性樹脂を注入しても良い。その場合、第二注入口6
INから注入された脆性樹脂は、防錆キャップ6内に充填されると共に、第一注入口5
INから脆性樹脂を注入したときと逆のルートを辿って仕切り板51S,53Sの間に流れ込む。もちろん、第一注入口5
INと第二注入口6
INの両方から脆性樹脂を注入してもかまわない。
【0066】
<脆性樹脂の再充填>
以上説明した工程を経て完成された外ケーブルの定着構造体αに備わるPC鋼線1は、既に述べたように、PC鋼線1の防錆を担う防錆体9が解体可能なために、再緊張することができる。しかし、PC鋼線1を再緊張すれば、防錆体9は複数の断片に崩れて、断片間に大小さまざまな隙間が形成される。そこで、再緊張したPC鋼線1を定着した後、さらに脆性樹脂の再充填を行ない、断片間の隙間を脆性樹脂で埋めることで防錆体9の再建を図る。
【0067】
ここで、PC鋼線1の再緊張によって生じた防錆体9の断片が、PC鋼線1の再定着時にウェッジ3とPC鋼線1との隙間などの部材間隙に入り込む場合がある。しかし、部材間隙に断片が入り込んだとしても、PC鋼線1を把持するウェッジ3をウェッジ孔40Hに嵌め込んだときに、ウェッジ3間やウェッジ3とアンカーディスク4との間で断片は圧縮されて崩れる。崩れた脆性樹脂は部材間隙から追い出されるため、PC鋼線1の定着が阻害されることがない。なお、防錆体9を構成する脆性樹脂よりも引張り強さが高い樹脂が部材間隙に挟まれば、PC鋼線1の定着が阻害される虞がある。
【0068】
脆性樹脂の再充填にあたっては、第一注入口5
INと第二注入口6
INの両方から脆性樹脂を充填すると良い。効率的かつ確実に、断片間の隙間に脆性樹脂を充填できるからである。ここで、硬化前の脆性樹脂は低粘度の液体であるので、断片間の隙間に余すところなく充填される。
【0069】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述した実施の形態では、既存のコンクリート構造物を後から補強・補修する外ケーブルの定着に本発明外ケーブルの定着構造体を適用したが、コンクリート構造物の建造時にコンクリート構造物を補強する外ケーブルの定着に本発明外ケーブルの定着構造体を適用しても構わない。