特許第5935219号(P5935219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5935219-ビグアニド誘導体化合物 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935219
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】ビグアニド誘導体化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 241/28 20060101AFI20160602BHJP
   A61K 31/4965 20060101ALI20160602BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20160602BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20160602BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20160602BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   C07D241/28CSP
   A61K31/4965ZNA
   A61P25/28
   A61P25/16
   A61P25/14
   A61P25/00
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-546927(P2012-546927)
(86)(22)【出願日】2011年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2011077762
(87)【国際公開番号】WO2012074040
(87)【国際公開日】20120607
【審査請求日】2014年11月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-269512(P2010-269512)
(32)【優先日】2010年12月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】三宅 宗晴
(72)【発明者】
【氏名】草間 貞
(72)【発明者】
【氏名】益子 崇
【審査官】 東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−222603(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/124496(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/059800(WO,A1)
【文献】 米国特許第02753354(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、X1はハロゲン原子を示し、R1はアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアラルキル基を示す)
で表されるビグアニド誘導体、その塩又はそれらの水和物。
【請求項2】
1が、炭素数1〜8のアルキル基;ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよい炭素数6〜14のアリール基;又はハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよいC6-14アリール−C1-4アルキル基である請求項1記載のビグアニド誘導体、その塩又はそれらの水和物。
【請求項3】
1が、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよいC6-14アリール−C1-4アルキル基である請求項1又は2記載のビグアニド誘導体、その塩又はそれらの水和物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の化合物を含有する医薬。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の化合物、及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
【請求項6】
神経変性疾患予防治療薬である請求項4又は5記載の医薬又は医薬組成物。
【請求項7】
神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病又はハンチントン病である請求項6記載の医薬又は医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病に代表される神経変性疾患の予防治療薬として有用なビグアニド誘導体化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタミン酸は、体内において興奮性の神経伝達物質としても機能しており、脳脊髄損傷、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病などにおける神経変性に基づく精神障害及び運動機能障害に関与している。グルタミン酸の受容体は、N−methyl−D−aspartate(以下、「NMDA」という。)受容体;非NMDA受容体であるα−amino−3−hydroxy−5−methyl−4−isoxazolepropionic acid(以下「AMPA」という。)受容体及びカイニン酸受容体;代謝共役型受容体に分類され、グルタミン酸又はアスパラギン酸により活性化されてナトリウムイオンやカリウムイオンを細胞内に流入させる。特にNMDA受容体は活性化されるとカルシウムイオンも流入させることが知られており、そのため哺乳動物脳の記憶、学習の形成、神経の発達等に関与するが、一方でNMDA受容体の過剰興奮は細胞内に多量のカルシウムを流入させるために不可逆的な脳の神経細胞の壊死を生じさせ、後遺症として運動障害、知覚障害、異常行動等の障害を引き起こす(非特許文献1〜3)。
【0003】
このようにNMDA受容体は種々の神経系疾患に関しており、その阻害剤はこれらの疾患の治療薬として期待されており、メマンチン、大環状化合物やポリアミン化合物が報告されている(特許文献1〜3)。
【0004】
一方、酸感受性イオンチャンネル1a(ASIC1a)は、イオンチャンネルの1種であり、これが活性化することで、細胞内にナトリウムが流入し、脱分極化が起こる。細胞膜の脱分極化は、NMDA受容体の活性化を促し、活性化されたNMDA受容体からはナトリウム及びカルシウムが流入する。NMDA受容体を介して流入したカルシウムは、CaMK IIを活性化し、この酵素によりASIC1はリン酸化される。ASIC1はリン酸化されることにより、チャンネル活性が亢進される(非特許文献4〜5)。
【0005】
このようにASIC1aは、ナトリウム等のチャンネルの一つであることから、利尿作用、神経変性疾患等に関与しており、その阻害剤であるアミロライドは利尿薬として使用されている他、神経変性疾患に有効であると期待されている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−262762号公報
【特許文献2】特開2006−206490号公報
【特許文献3】国際公開WO2008/059800号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Benveniste, H. ら(1984), J. Neurochem., 43, 1369.
【非特許文献2】Williams Kら(1993), Mol. Pharmacol. 44:851-859.
【非特許文献3】Chris G. Parsonsら(1999), Neuropharmacology 38:85-108.
【非特許文献4】Wemmie A.J.ら(2002),Neuron, 34:463-477.
【非特許文献5】Gao J.ら(2005),Neuron, 48:635-646.
【非特許文献6】Xiong Z.-J.ら(2004),Cell, 118:687-698.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記NMDA受容体阻害剤であるメマンチンやASIC1a阻害薬であるアミロライドの薬理作用は十分なものではなく、より優れたそれぞれの阻害薬の開発が望まれている。一方、NMDA受容体とASIC1aの両者を同時に阻害する薬剤に関する報告は全くない。
従って、本発明は、神経変性疾患等に関与しているNMDA受容体及びASIC1aの両者を同時に阻害し、種々の神経系疾患の予防及び治療に有用な新たな化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者は、NMDA受容体とASIC1aの両者を同時に阻害する化合物を探索すべく種々検討を行った結果、ピラジン骨格を有するビグアニド化合物がNMDA受容体及びASIC1aを同時に阻害し、かつ細胞毒性が弱く、アルツハイマー症、パーキンソン病等の神経変性疾患予防治療用の医薬品として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[16]に係るものである。
[1] 一般式(1)
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、X1はハロゲン原子を示し、R1はアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアラルキル基を示す)
で表されるビグアニド誘導体、その塩又はそれらの水和物。
[2] R1が、炭素数1〜8のアルキル基;ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよい炭素数6〜14のアリール基;又はハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよいC6-14アリール−C1-4アルキル基である[1]記載のビグアニド誘導体、その塩又はそれらの水和物。
[3] R1が、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよいC6-14アリール−C1-4アルキル基である[1]又は[2]記載のビグアニド誘導体、その塩又はそれらの水和物。
[4] [1]〜[3]のいずれか1項記載の化合物を含有する医薬。
[5] [1]〜[3]のいずれか1項記載の化合物、及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
[6] 神経変性疾患予防治療薬である[4]又は[5]記載の医薬又は医薬組成物。
[7] 神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病又はハンチントン病である[6]記載の医薬又は医薬組成物。
[8] 神経変性疾患予防治療のための、[1]〜[3]のいずれか1項記載の化合物。
[9] 神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病又はハンチントン病である[8]記載の化合物。
[10] 神経変性疾患予防治療薬製造のための、一般式(1)
【0013】
【化2】
【0014】
(式中、X1はハロゲン原子を示し、R1はアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアラルキル基を示す)
で表されるビグアニド誘導体、その塩又はそれらの水和物の使用。
[11] R1が、炭素数1〜8のアルキル基;ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよい炭素数6〜14のアリール基;又はハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよいC6-14アリール−C1-4アルキル基である[10]記載の使用。
[12] R1が、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよいC6-14アリール−C1-4アルキル基である[10]又は[11]記載の使用。
[13] 神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病又はハンチントン病である[12]記載の使用。
[14] 一般式(1)
【0015】
【化3】
【0016】
(式中、X1はハロゲン原子を示し、R1はアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアラルキル基を示す)
で表されるビグアニド誘導体、その塩又はそれらの水和物を投与することを特徴とする、神経変性疾患の予防治療方法。
[15] R1が、炭素数1〜8のアルキル基;ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよい炭素数6〜14のアリール基;又はハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよいC6-14アリール−C1-4アルキル基である[14]記載の方法。
[16] R1が、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよいC6-14アリール−C1-4アルキル基である[14]又は[15]記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明化合物(1)は、NMDA受容体及びASIC1aの両者を強力に阻害し、かつ細胞毒性が弱いことから、NMDA受容体又はASIC1aが関与する種々の疾患、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、脳脊髄損傷、筋萎縮性側索硬化症等の神経変性疾患の予防治療薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】アフリカツメガエルを用いたNMDA受容体発現系のスキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明化合物は、前記一般式(1)で表されるビグアニド誘導体、その塩又はそれらの水和物である。
一般式(1)中、X1はハロゲン原子を示す。該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、このうち塩素原子が好ましい。
【0020】
1は、アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアラルキル基を示す。該アルキル基としては、炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖アルキル基が挙げられ、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基がより好ましい。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等が挙げられる。
【0021】
置換基を有していてもよいアリール基におけるアリール基としては、C6-14アリール基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。このうち、フェニル基、ナフチル基が好ましく、特にフェニル基が好ましい。
【0022】
該アリール基に置換し得る基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が挙げられ、このうちハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が好ましい。ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基等が挙げられる。ハロゲノアルキル基としては、クロルメチル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基等が挙げられる。
【0023】
置換基を有していてもよいアラルキル基におけるアラルキル基としては、C6-14アリール−C1-4アルキル基が挙げられ、フェニル−C1-4アルキル基、ナフチル−C1-4アルキル基等が好ましい。具体的には、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等が挙げられる。
【0024】
該アラルキル基に置換し得る基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が挙げられ、このうちハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が好ましい。ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基等が挙げられる。ハロゲノアルキル基としては、クロルメチル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基等が挙げられる。
【0025】
1で示される置換基を有していてもよいアリール基の好ましい例としては、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルキコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよいフェニル基又はナフチル基が挙げられ、さらには、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びトリフルオロメチル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよいフェニル基又はナフチル基が好ましい。
【0026】
1で示される置換基を有していてもよいアラルキル基の好ましい例としては、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びC1-6ハロゲノアルキル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよいフェニル−C1-4アルキル基又はナフチル−C1-4アルキル基が挙げられ、さらには、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基及びトリフルオロメチル基から選ばれる1〜3個が置換していてもよいフェニル−C1-4アルキル基又はナフチル−C1-4アルキル基が好ましい。
【0027】
本発明化合物(1)の塩としては、薬学的に許容される塩であればよく、硫酸、硝酸、炭酸、重炭酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などの無機酸との塩;酢酸、マレイン酸、乳酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸との塩;メタンスルホン酸、ヒドロキシメタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、タウリン酸などの有機スルホン酸との塩が挙げられる。
【0028】
本発明化合物(1)又はその塩の水和物も、本発明に含まれる。
【0029】
本発明化合物(1)は、例えば次の反応式に従って、製造することができる。
【0030】
【化4】
【0031】
(式中、X1及びR1は前記と同じ)
【0032】
すなわち、ピラジンカルボヒドラジド(2)にシアノグアニジン類(3)を反応させることにより、本発明のビグアニド誘導体(1)を製造することができる。
【0033】
原料化合物であるシアノグアニジン類(3)は、アミン[R1−NH2]にジシアナミド[NH(CN)2]を反応させることにより得ることができる(GB599722(A)、US5534565、EP0161841(B))。
【0034】
ピラジンカルボヒドラジド(2)とシアノグアニジン類(3)との反応は、酸の存在下に行うのが好ましい。用いる酸としては、塩酸、硫酸等が挙げられる。反応は、エタノール等のアルコール溶媒等の有機溶媒中で行うのが好ましい。反応温度は室温から溶媒の還流温度で行うことができる。
【0035】
反応終了後は、洗浄、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の手段により、本発明化合物(1)を単離、精製することができる。
【0036】
NMDA受容体とASIC1aとが相互に関連していることは最近判明してきたことであるが、この両者を同時に阻害する化合物を探索することによって神経系疾患の予防治療薬を開発しようとした報告はない。これに対し、本発明化合物(1)は、後記実施例に示すように、NMDA受容体及びASIC1aの両者を強く阻害し、かつ細胞毒性も弱い。従って、本発明化合物(1)は、NMDA受容体又はASIC1aが関与する疾患、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、脳脊髄損傷、筋萎縮性側索硬化症等の神経変性疾患の予防治療薬として有用である。
【0037】
本発明化合物(1)は、そのまま医薬として用いることもできるが、薬学的に許容される担体とともに医薬組成物として用いることもできる。そのような医薬組成物の形態としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁剤等の経口投与用製剤;注射剤;坐剤;吸入剤;経皮吸収剤;点眼剤;眼軟膏等の製剤が挙げられる。
【0038】
固体製剤とする場合は、添加剤、たとえば、ショ糖、乳糖、セルロース糖、D−マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン類、寒天、アルギネート類、キチン類、キトサン類、ペクチン類、トランガム類、アラビアゴム類、ゼラチン類、コラーゲン類、カゼイン、アルブミン、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、グリセリン、ポリエチレングリコール、炭酸水素ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が用いられる。さらに、錠剤は必要に応じて通常の剤皮を施した錠剤、たとえば糖衣錠、腸溶性コーティング錠、フィルムコーティング錠あるいは二層錠、多層錠とすることができる。
【0039】
半固体製剤とする場合は、動植物性油脂(オリーブ油、トウモロコシ油、ヒマシ油等)、鉱物性油脂(ワセリン、白色ワセリン、固形パラフィン等)、ロウ類(ホホバ油、カルナバロウ、ミツロウ等)、部分合成もしくは全合成グリセリン脂肪酸エステル(ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等)等が用いられる。
【0040】
液体製剤とする場合は、添加剤、たとえば塩化ナトリウム、グルコース、ソルビトール、グリセリン、オリーブ油、プロピレングリコール、エチルアルコール等が挙げられる。特に注射剤とする場合は、無菌の水溶液、たとえば生理食塩水、等張液、油性液、たとえばゴマ油、大豆油が用いられる。また、必要により適当な懸濁化剤、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、非イオン性界面活性剤、溶解補助剤、たとえば安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。
【0041】
これらの製剤の有効成分の量は製剤の0.1〜100重量%であり、適当には1〜50重量%である。投与量は患者の症状、体重、年令等により変わりうるが、通常経口投与の場合、本発明化合物(1)として成人一日当たり1〜500mg程度であり、これを一回又は数回に分けて投与するのが好ましい。
【実施例】
【0042】
実施例1
3,5−ジアミノ−6−クロロピラジン−2−カルボヒドラジド(101mg、0.5mmol)、1−[(2−フェニルエチル)]−3−シアノグアニジン(94mg、0.5mmol)、エタノール(2mL)及び5NHCl(0.1mL、0.5mmol)の混合物を18時間撹拌加熱還流した。冷却後、濾過して沈殿物を除去し、濾液を減圧濃縮した。残渣にメタノール(2mL)及び5M NaOMeのメタノール溶液(0.2mL)を加えてアルカリ性にした。混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、CHCl3;メタノール:25%NH4OH(100:40:4)で溶出し、1−(3,5−ジアミノ−6−クロロピラジンアミド)−5−[2−(フェニルエチル)ビグアニド(化合物1)を黄色アモルファス粉末を得た(120mg、収率62%)。
【0043】
1H-NMR(500MHz, DMSO-d6+ D2O)δ:2.81(2H,t,J=7.5Hz), 3.38(2H,t,J=7.5Hz), 7.22(2H,t,J=6.9Hz), 7.27-7.31(3H,m).
13C-NMR(125MHz DMSO-d6)δ:36.59, 43.44, 114.42, 118.32, 127.35, 129.56, 130.03, 140.80, 153.81, 155.36, 158.23, 161.60, 163.42.
HR-FAB-MS m/z:391.1510[M+H]+(Calcd for C15H2035ClN10O:391.1509), 393.1478[M+H]+(Calcd for C15H2037ClN10O:393.1480).
【0044】
実施例2
1−[(2−フェニルエチル)]−3−シアノグアニジンの代わりに、1−[2−(4−クロロフェニル)エチル]−3−シアノグアニジンを用いて、実施例1と同様にして、1−(3,5−ジアミノ−6−クロロピラジンアミド)−5−[2−(4−クロロフェニル)エチル]ビグアニド(化合物2)を黄色アモルファス粉末として得た(86mg、収率40%)。
【0045】
1H-NMR(500MHz, DMSO-d6+ D2O)δ:2.80(2H,t,J=7.5Hz), 3.36(2H,t,J=7.5Hz), 7.30(2H,br s), 7.34(2H,d,J=8.0Hz).
13C-NMR(125MHz, DMSO-d6)δ:35.73, 43.27, 113.99, 118.54, 129.47, 131.95, 132.03,139.73, 154.00, 155.50, 158.39, 161.92, 164.51.
HRMS(FAB) m/z: Calcd for C15H1935Cl2N10O:425.1119(M+1). Found:425.1116(M+1)+. Calcd for C15H1935Cl37ClN10O:427.1090(M+1). Found:427.1094(M+1)+. Calcd for C15H1937Cl2N10O:429.1060(M+1). Found:429.1107(M+1)+.
【0046】
実施例3
1−[(2−フェニルエチル)]−3−シアノグアニジンの代わりに、1−[2−(3,4−ジクロロフェニル)エチル]−3−シアノグアニジンを用いて、実施例1と同様にして、1−(3,5−ジアミノ−6−クロロピラジンアミド)−5−[2−(3,4−ジクロロフェニル)エチル]ビグアニド(化合物3)を黄色アモルファス粉末として得た(144mg、収率63%)。
【0047】
1H-NMR(500MHz, DMSO-d6+ D2O)δ:2.83(2H,t,J=7.2Hz), 3.38(2H,t,J=7.2Hz), 7.27(1H,br s), 7.53(2H,br s).
13C-NMR(125MHz DMSO-d6)δ:35.45, 42.98, 113.97, 118.48, 129.99, 130.62, 131.61, 132.06, 132.14, 142.10, 153.96, 155.47, 158.38, 161.57,164.28.
HR-FAB-MS m/z:459.0735[M+H]+(Calcd for C15H1835Cl3N10O:459.0729), 461.0736[M+H]+(Calcd for C15H1835Cl237ClN10O:461.0700), 463.0711[M+H]+(Calcd for C15H1835Cl37Cl2N10O:463.0671), 465.0660[M+H]+(Calcd for C15H1837Cl3N10O:465.0641).
【0048】
実施例4
1−[(2−フェニルエチル)]−3−シアノグアニジンの代わりに、1−[3−(4−クロロフェニル)プロピル]−3−シアノグアニジンを用いて、実施例1と同様にして、1−(3,5−ジアミノ−6−クロロピラジンアミド)−5−[3−(4−クロロフェニル)プロピル]ビグアニド(化合物4)を黄色アモルファス粉末として得た(135mg、収率61%)。
【0049】
IR (KBr) cm-1: 3471, 3318, 3197, 2935, 1604, 1544, 1498, 1427, 1243.
1H-NMR (DMSO-d6+ D2O, 500MHz,)δ:1.76 (2H, quintet, J=7.5 Hz), 2.61 (2H, t, J=7.5 Hz), 3.13 (2H, t, J=7.5 Hz), 3.11 (2H, t, J=6.9 Hz), 7.25 (2H, d, J=7.5 Hz), 7.32 (2H, d, J=7.5 Hz).
13C-NMR(DMSO-d6,125 MHz)δ:32.0,32.98,41.31,114.13,118.42,129.46,131.48,131.60,142.01,153.91,155.43,158.61,161.76,164.10.
HR-FAB-MS m/z: 439.1276 [M+H]+ (Calcd for C16H2135Cl2N10O: 439.1276),
441.1244 [M+H]+ (Calcd for C16H2135Cl37ClN10O: 441.1246), 443.1284 [M+H]+ (Calcd for C16H2137Cl2N10O: 443.1217).
【0050】
実施例5
1−[(2−フェニルエチル)]−3−シアノグアニジンの代わりに、1−[2−(3−トリフルオロメチルフェニル)エチル]−3−シアノグアニジンを用いて、実施例1と同様にして、1−(3,5−ジアミノ−6−クロロピラジンアミド)−5−[2−(3−トリフルオロメチルフェニル)エチル]ビグアニド(化合物5)を黄色アモルファス粉末として得た(135mg、収率59%)。
【0051】
IR (KBr) cm-1: 3324, 3205,1612, 1546, 1504, 1425, 1328, 1241.
1H-NMR (DMSO-d6 +D2O, 500MHz,) δ:2.90 (2H, t, J=7.5 Hz), 3.39 (2H, t, J=7.5 Hz), 7.53-7.64 (4H, m).
13C-NMR(DMSO-d6, 125MHz) δ:36.36,40.96,115.02,118.05, (124.09,124.12 or 124.1,d,JC-F=3.8Hz),(124.56,126.73,128.89,129.94 or 127.81,q,JC-F=271.0Hz),(126.59,126.62 or 126.0,d,JC-F=3.8Hz), (129.94,130.18,130.43,130.68 or 130.30,q,JC-F=31.27Hz), 130.58,134.36,142.49,153.64,155.20,157.98,161.39,162.56.
HR-FAB-MS m/z: 459.1382 [M+H]+ (Calcd for C16H1935ClF3N10O: 459.1383), 461.1371 [M+H]+ (Calcd for C16H1937ClN10O: 461.1353).
【0052】
実施例6〜27
実施例1〜5と同様にして、表1に示す化合物を得た。
【0053】
【表1】
【0054】
試験例1
本発明化合物がNMDA受容体に及ぼす影響を二電極膜電位固定法(Voltage Clamp法)により測定した。
(1)NMDA受容体を発現させたアフリカツメガエルの卵母細胞の準備
卵母細胞の発現試験例のスキームを図1に示す。この方法は、益子らの方法(Masuko T.et al.,Mol.Pharmacol.,55:957−969(1999);Masuko T.et al.,Nuerosci.Lett.,371:30−33(2004);Masuko T.et al.,Chem.Pharm.Bull.,53(4):444−447(2005))に従って行うことができる。卵母細胞には、NMDA受容体のNR1サブユニット及びNR2サブユニットのcRNAを1:5の割合(NR1が0.1−4ng、NR2が0.5−20ng)で注入し、NMDA受容体を発現した卵母細胞を得た。
(2)この卵母細胞を培地(96mM NaCl,2 mM KCl,1mM MgCl2,1.8mM CaCl2,5mM Na−HEPES,2.5mMピルビン酸ナトリウム、50mg/mLゲンタマイシン、pH=7.5)中で1〜3日間19℃で培養した。
測定日には、卵母細胞中にK+−BAPTAを注入した後、記録用バッファー(96mM NaCl,2mM KCl,1.8mM BaCl2,10mM Na−HEPES,pH=7.5)を用いて後述の二電極膜電位固定法により受容体の活性を測定した。
尚、NR1には1種類、NR2にはNR2A〜NR2Dの4種類の遺伝子が存在し、NMDA受容体にはNR1/NR2A,NR1/NR2B,NR1/NR2C,NR1/NR2Dのサブタイプがあるが、脳内においてはNR1/NR2Aが最も広く発現していると考えられているため、以下の試験では、NR1/NR2Aに対する活性阻害効果を測定した。
【0055】
(3)二電極膜電位固定法
二電極膜電位固定法は、益子らの方法(Masuko T.et al.,Nuerosci.Lett.,371:30−33(2004))に従った。二電極電位固定用増幅器CEZ−1250(日本光電)を用いて卵母細胞の膜全体を通過する電流を測定した。電極に3Mの塩化カリウムを満たし、抵抗は0.4−4MΩとした。また、測定の際は、NMDA受容体のアゴニストとしてグルタミン酸とグリシンを添加した。
(4)上記方法により得られた卵母細胞に、種々の濃度の化合物を添加し、固定電位をVh=−70mV(静止膜電位)とし、NR1/NR2Aに対する活性阻害効果を測定した。
(5)対照化合物としてメマンチン及びアミロライドを使用して、同様に測定した。例数4〜5の卵母細胞から得た値の平均値±S.E.M.を測定値とし、これらの結果から求められたIC50の値を表2に示す。
【0056】
試験例2
本発明化合物がASIC1aに及ぼす影響を二電極膜電位固定法(Voltage Clamp法)により測定した。
【0057】
(1)ASIC1aを発現させたアフリカツメガエルの卵母細胞の準備
HEK293細胞からRNeasy Protect Mini Kit(QIAGEN)を用いて、total RNAを調製した。次に、High Fidelity RNA PCR kit(TAKARA)を用いて、first strand cDNAを合成し、このfirst strand cDNAを鋳型としてPCR法を行った。PCRのプライマーはsense;ATGGAACTGAAGGCCGAGGAG(配列番号1)とantisense;TCAGCAGGTAAAGTCCTCGAACGT(配列番号2)を用い、反応条件は、95℃30秒、55℃30秒、72℃90秒を1サイクルとし、30サイクル行った。PCR産物はPCR2.1ベクターに挿入させ、さらにpcDNA3.1(−)ベクターにサブクローニングした。BamHI酵素で直鎖化されたASIC1a プラスミドからmMessage mMachine Kits(Ambion)を用いて、capped cRNAを合成した。ASIC1aをコードするcapped cRNAを卵母細胞に10ngずつ注入し、培地(96mM NaCl,2mM KCl,1mM MgCl2,1.8mM CaCl2,5mM Na−HEPES,2.5mMピルビン酸ナトリウム、50mg/mLゲンタマイシン、pH=7.5)中で19℃で2〜3日間インキュベーションした。
(2)ASIC1aの活性測定は標準的な細胞外溶液(96mM NaCl,2mM KCl,1.8mM CaCl2,1mM MgCl2,10mM MES or 5mM Na−HEPES)を用い、pH=7.5からpH=6.0に変化させることにより誘発された電流量を二電極膜電位固定法により測定した。
(3)試験例1と同様にして、例数4〜5の卵母細胞を用いて得られた結果からIC50を求めた。その結果を表2に示す。
【0058】
試験例3
SH−SY5Yを用いて細胞毒性試験を行った。この試験においても対照化合物としてメマンチン及びアミロライドを使用した。
SH−SY5Y神経芽細胞腫細胞系をAmerican Type Culture Collectionより購入した。細胞は、ペニシリン(100U/mL)、ストレプトマイシン(100U/mL)、及び非働化ウシ胎児血清(Gibco)を加えた培地で培養した。細胞は37℃のCO2インキュベーター内に維持され、空気95%とCO2 5%の条件に保たれた。
アラマーブルーアッセイ
未分化SH−SY5Y細胞にさまざまな濃度の化合物1、2、3を24時間暴露した。アラマーブルーのストック溶液は96穴のウエルプレートに移され、最終アッセイボリュームが100μL/wellとなるようにし、アラマーブルーの最終濃度を10%とした。6時間後、還元されたアラマーブルーを波長570nmで測定した。生存率(%)は、薬物無添加の細胞のミトコンドリアの呼吸活性を100%とし、化合物1、2、3を24時間暴露した細胞の呼吸活性を相対値で表した。呼吸活性が50%になったときの化合物1、2、3の濃度をIC50とし、表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
また、前記実施例4〜27の化合物は、30μM濃度でASIC1a及びNR1/NR2Aに対する阻害活性を有することが確認された。
表2から明らかなように、本発明化合物は、アミロライド及びメマンチンに比べて強力にNMDA受容体及びASIC1aを阻害した。またその細胞毒性は、弱かった。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]