【文献】
DING,Lei et al.,Preparation and near zero thermal expansion property of Mn3Cu0.5A0.5N(A=Ni,Sn)/Cu composites,Scripta Materialia,英国,Elsevier;Acta Materialia Inc.,2011年,vol.65, pp.687-690,[online]. [retrieved on 15 October 2012]. Retrieved from the Internet:<URL:http://ac.els-cdn.com/S13
【文献】
MATSUMOTO,Akihiro et al.,Fabrication and Thermal Expansion of Al-ZrW2O8 Composites by Pulse Current Sintering Process,Materials Science Forum,スイス,Trans Tech Publications,2003年,Vols.426-432, pp.2279-2284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献4に開示される手法つまり高圧浸透法により逆ペロフスカイト型マンガン窒化物と軽金属とを複合化し金属基複合材料を製造する手法には、いまだ改善の余地が残されていることが明らかとなった。
【0013】
具体的には、まず、(1)高圧浸透法ではしばしば熱膨張の精密な制御が困難となる。高い精度により熱膨張抑制剤における元素の組成比を制御することにより熱膨張を精密に制御したり、熱膨張抑制剤とマトリックス金属相などの金属相の比率を高い精度に制御したりすることにより熱膨張を制御する目的において高圧浸透法を常に採用できるわけではない。
【0014】
また、(2)高圧浸透法の適否は、複合化により製造される部材の大きさや形状にも依存している。つまり、試験用の小片や単純な形状の試験片を製造して所望の特性(例えば目的の熱膨張率の値)が実現されたとしても、その材料の組合せにより所望の大きさ・形状の部材を製造すると特性が変化してしまう。このため高圧浸透法に関して、試験により発見された知見をスケールアップのために適用する際に、実際の機械部品にまで適用することに多大な困難を伴う場合がある。例えば、高圧浸透法による複合化の際に、マトリックス金属相となる軽金属と逆ペロフスカイト型マンガン窒化物との化学反応をごく精密に制御することや、特に実用される機械部品において所望の特性を実現することは困難な場合がある。本願の発明者らの検討によれば、高圧浸透法において5cm角の立方体程度を超えるサイズの部材を良好に複合化することはしばしば困難である。
【0015】
さらに、(3)高圧浸透法による複合化においては、複合化されるマトリックス金属相と熱膨張抑制剤との材質の組合せや、マトリックス金属相と熱膨張抑制剤との比率といった条件の中には採用しがたいものも散見される。これらの組成や比率にも高圧浸透法では制約がある。
【0016】
本願の発明者らは、高圧浸透法におけるこれらの制約の根本的な原因を詳細に解析した。そして、高圧浸透法におけるこれらの制約が、高圧浸透法の工程それ自体や、高圧浸透法に不可避な工程によりもたらされているとの結論に達した。以下、高圧浸透法の上記制約の原因を説明することのみを目的として、本願の発明者の一部が開示した特許文献4の内容に即し、高圧浸透法による金属基複合材料の作製工程例を説明する。
【0017】
高圧浸透法においては、粉体をプレス成形等することにより形成された圧粉体または焼結体であるプレス成形体に軽金属等を加圧等により溶浸させる。具体的には、特許文献4の実施例として開示したプレス成形体は、Mn
3Cu
0.5Sn
0.5Nといった熱膨張抑制剤の粉末を、その100重量部に対して5重量部程度のコロイダルシリカと、バインダーとしての5重量部程度のポリビニルブチラール(PVB)とを添加して均一に混合したものである。なお、この時点のプレス成形体は、例えば40体積%といった割合でMn
3Cu
0.5Sn
0.5Nを含有している。
【0018】
ここで、高圧浸透法の手順は予熱工程と溶浸工程とに大別される。つまり、上記プレス成形体が例えば400℃といった温度に予熱される(予熱工程)。そして、予熱されたプレス成形体が例えばアルミニウム鋳造用金型の内部にセットされ、その金型に例えば750℃程度に加熱・溶融されたアルミニウム合金が注入される(溶浸工程)。特許文献4の作製工程例の溶浸工程では、60MPaにて10分間程度加圧することによって溶融合金をプレス成形体に溶浸させる。溶融金属が固化した後、鋳造用金型から固形物が取り出される。この時点での固形物は、そのままでは金属基複合材料として利用できない場合がある。例えば、その固形物の表面には、溶浸されるアルミニウム合金にごく近い組成の単体金属または合金のみの層(以下「合金層」という)が形成されることがある。高圧浸透法においては、その合金層を除去した後に、中心付近の残りの部分が利用されることが多い(例えば、特許文献4、段落[0039]および[0042])。
【0019】
本願発明者らは、高圧浸透法の各制約の原因の一つが予熱工程にあるものと推測している。端的には、予熱工程のために、プレス成形体が高温な状態で空間に開放され、鋳造用金型に配置されるまでの間、プレス成形体は酸化などにより変質しやすい状況におかれる。また、例えば、高温において蒸気圧が高く昇華・析出しやすい組成物や成分を高圧浸透法の熱膨張抑制剤として採用しがたいこともこの予熱工程に起因している。高圧浸透法において、上記酸化などの化学変化や昇華・析出などの組成変化を経た熱膨張抑制剤は所望の作用を発揮しえない可能性が高まる。これらの組成変化による変質は、熱膨張抑制剤の組成を制限し、さらに、予熱工程自体の条件を制約する要因となる。このように、予熱工程が熱膨張抑制剤の組成に対する制約をもたらしている。
【0020】
また、本願発明者らの検討によれば、高圧浸透法の別の制約は、溶浸工程それ自体の難しさにも原因がある。高圧浸透法においては、溶融した金属を溶浸させる以上、熱膨張抑制剤の気孔のうちの多数が、プレス成形体の内部において連結孔となった開放気孔となっている必要がある。しかし、そのようなプレス成形体が常に作製可能とは限らない。最も典型的には、プレス成形体を用いる高圧浸透法では組成に非一様性が生じやすい。その対処の際に、マトリックス金属相と熱膨張抑制剤との比率によって熱膨張特性が変化するため、目的の熱膨張特性が実現されるようにマトリックス金属相と熱膨張抑制剤との比率を維持しながらプレス成形体の気孔率を調整するという、その実現には著しい困難を伴う工程を行わざるをえないことも制約をもたらす。さらには、プレス成形体に浸透させる単体金属または合金の組成にも制約が生じる。溶浸工程を行なうためには、金属の融点が高々750℃程度以下の、比較的低融点のものに限定されるのである。マトリックス金属相として融点が高い金属を採用することは、この溶浸工程の温度を高めることを意味し、上記化学変化や昇華・析出などの問題を助長するために採用することはできない。加熱される部分の容積が大きくなることは、冷却に時間がかかることになり、金属と熱膨張抑制剤との化学反応を進行させてしまう、大きなデメリットも有する。
【0021】
しかも、上記空隙を防止するとともに、マトリックス金属相と熱膨張抑制剤との比率を一様にするために溶浸工程の処理時間を長くすると、別の問題を生じる。それは、熱膨張抑制剤とマトリックス金属相とが化学反応してしまい、熱膨張抑制剤の組成を制御して得られていた負の熱膨張特性が失われ、複合化された金属基複合材料の熱膨張の抑制の効果が消失してしまうことである。このように、溶浸工程が熱膨張抑制剤の組成に対する制約をもたらしている。
【0022】
そしてやっかいなことには、上述した予熱工程と溶浸工程は互いに密接に関連している。例えば、溶浸工程において溶融した金属のプレス成形体への浸透を容易にするためには、プレス成形体の予熱温度を高めることが考えられる。しかし、その対策では、上述した予熱工程に起因する制約はいっそう顕著なものとなる。そして、高圧浸透法の制約となる熱膨張抑制剤の化学変化のしやすさや、膨張抑制剤に含まれる成分の昇華・析出のしやすさは、高温になるにつれて影響を大きく受けるものでもある。しかも、上述した予熱工程および溶浸工程に関連する制約は、いずれも、表面と内部の環境の違いが影響しており、スケールアップの難しさにつながっている。
【0023】
これらの複雑にからみあった要因のために、上記(1)のように、高圧浸透法においては固形物の内部における実際の組成を精密に制御し目的の組成に均一化することがしばしば困難となる。また、上記(2)のように、形成される複合材料のサイズにも限界がある。当初はサイズに限界の少ない手法として採用した高圧浸透法ではあったが、熱膨張抑制剤の変質しやすさを原因として、必ずしも常に目論見通りとなるわけではない。そして、上記(3)のように、熱膨張抑制剤の組成や、マトリックス金属相の組成は、限定的なものに過ぎない。化学変化や昇華・析出しやすい組成の熱膨張抑制剤を採用しても、熱膨張抑制の作用を安定させることが難しく、また、溶浸させにくい金属、例えば高融点の単体金属または金属合金のマトリックス金属相は採用しえない。
【0024】
上述した熱膨張抑制剤の変質しやすさや単体金属または金属合金の高融点による溶浸の難しさは熱膨張抑制剤や金属相の組成に大きく左右される。熱膨張抑制剤の具体的組成に着目すると、特に昇華・析出したり化学変化しやすいZnを組成に含む熱膨張抑制剤の取り扱いが困難を極め、Znを含む熱膨張抑制剤による十分な実用性を備えた金属複合材料はこれまで作製されていない。また、熱膨張抑制剤としてCuを含むものは、非特許文献9には金属と複合化された例が報告されているものの、細かな複合化のための条件は開示されていない。さらに、Gaを含む熱膨張抑制剤による十分な実用性を備えた金属複合材料もこれまで作製されていない。
【0025】
さらに、金属相に着目すると、高圧浸透法では、融点の低いAl(融点660℃)やAl合金についての必ずしも十分な精度とはいいがたい複合化の実績があるのみであった。それより融点が高いCu(融点1083℃)についても、非特許文献9に開示はあるものの、細かな複合化のための条件は開示されておらず、十分な精度において実証されているとは言いがたい。また、Cuの融点を超える高融点の金属には、構造材として、または、高い防蝕性の点で優れた、鉄(融点1539℃)やTi(融点1727℃)といった物が含まれている。これらの高融点の金属に対してどのようにして熱膨張抑制剤と複合化すべきかの指針は得られていない。
【0026】
以上のように、高圧浸透法による金属基複合材料やその製造方法は依然として克服すべき技術的課題を残している。本発明は、上記課題の少なくともいずれかを解決するものである。本発明は、逆ペロフスカイト型マンガン窒化物のもつ優れた特徴を活かした金属複合材料およびその製造方法を提供する。これらにより、本発明は各種の装置の高精度化や性能向上に貢献するものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本願の発明者は、金属基複合材料やその作製方法における上述した制約が高圧浸透法を採用する限り避けがたいことに気づいた。金属基複合材料の複合化の精度を高めにくいこと、金属複合材料の複合化の成否が形状やサイズの影響を受けること、熱膨張抑制剤、金属もしくは合金の金属相、またはこれらの組成または互いの比率に制約が生じることは、いずれも、高圧浸透法の工程に起因している。そして、本願発明者らは、高圧浸透法における組成変化によりもたらされる制約のうちの少なくともいずれかを緩和することを目指し、熱膨張抑制剤と金属相の複合化に適用可能な複合化手法を鋭意探索した。
【0028】
その結果、プレス成形体を予熱する予熱工程や、単体金属または合金を溶融させプレス成形体に浸透させる溶浸工程を利用することなく複合化する手法が有望であると予測した。特に、高圧浸透法よりも、むしろ、全く別の金属加工法である粉体冶金法または粉末冶金法(以下「粉末冶金法」と総称する)に類似の手法が、高圧浸透法による制約を緩和することにつながるものと本願発明者らは予測した。具体的には、金属相となる単体金属または金属合金の粉末と、逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の熱膨張抑制剤の粉末とを混合し、その混合された粉末(以下「混合粉」という)を焼結させる。その際、本願発明者らは、粉末冶金の各種の方法のなかでも、密閉された状態においてその混合粉を加熱して焼結することにより複合化する手法が有効に違いないとの予測に基づき、熱膨張抑制剤の粉末に関し発明者が高圧浸透法を含めたこれまでの技術的検討において獲得してきた知見を反映させることとした。上述した高圧浸透法により獲得した知見からは、複合化前の予熱工程や複合化の処理中に加熱されている際に開放空間に暴露されることが複合化の制御性を悪化させ、組成に対する制約をもたらしているといえるからである。そして実際にも、Mn−Zn−Sn−N系またはMn−Zn−Ge−N系の熱膨張材料、Mn−Cu−Sn−N系またはMn−Cu−Ge−N系の熱膨張材料、そして、Mn−Ga−Sn−N系またはMn−Ga−Ge−N系の熱膨張材料において、密閉状態にて加熱し焼結を行なう手法をこの複合化に適用することにより高い精度で組成が制御される金属複合材料が形成されることを確認した。
【0029】
すなわち、本発明のある態様においては、少なくともある温度範囲で負の熱膨張を示す、Mn−Zn−Sn−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物またはMn−Zn−Ge−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の粉末と、金属相となる組成の単体金属または金属合金の粉末とを混合した混合粉を密閉状態に配置して加熱することにより、前記金属相と前記逆ペロフスカイト型マンガン窒化物とが焼結により複合化されている熱膨張制御金属複合材料が提供される。
【0030】
また、本発明のある態様においては、少なくともある温度範囲で負の熱膨張を示す、Mn−Cu−Sn−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物またはMn−Cu−Ge−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の粉末と、金属相となる組成の単体金属または金属合金の粉末とを混合した混合粉を密閉状態に配置して加熱することにより、前記金属相と前記逆ペロフスカイト型マンガン窒化物とが焼結により複合化されている熱膨張制御金属複合材料が提供される。
【0031】
さらに、本発明のある態様においては、少なくともある温度範囲で負の熱膨張を示す、Mn−Ga−Sn−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物またはMn−Ga−Ge−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の粉末と、金属相となる組成の単体金属または金属合金の粉末とを混合した混合粉を密閉状態に配置して加熱することにより、前記金属相と前記逆ペロフスカイト型マンガン窒化物とが焼結により複合化されている熱膨張制御金属複合材料が提供される。
【0032】
また上述の態様に加えて、本発明では、焼結工程において、混合粉に対して、または混合粉を内包する導電性の型に対して電流を流す通電焼結法により密閉状態にある混合粉を加熱するような熱膨張制御金属複合材料の製造方法の態様も提供される。すなわち、本発明のある態様では、少なくともある温度範囲で負の熱膨張を示す、Mn−Zn−Sn−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物またはMn−Zn−Ge−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の粉末と、金属相となる組成の単体金属または金属合金の粉末とを互いに混合した混合粉を準備する工程と、前記混合粉を密閉状態におく工程と、前記密閉状態にある前記混合粉を加圧しながら、該混合粉に対して、または該混合粉を内包する導電性の型に対して電流を流す通電焼結法により該密閉状態にある該混合粉を加熱する焼結工程とを含み、これにより、前記金属相と前記逆ペロフスカイト型マンガン窒化物とが複合化される熱膨張制御金属複合材料の製造方法が提供される。
【0033】
また、本発明のある態様では、少なくともある温度範囲で負の熱張を示す、Mn−Cu−Sn−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物またはMn−Cu−Ge−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の粉末と、金属相となる組成の単体金属または金属合金の粉末とを互いに混合した混合粉を準備する工程と、前記混合粉を密閉状態におく工程と、前記密閉状態にある前記混合粉を加圧しながら、該混合粉に対して、または該混合粉を内包する導電性の型に対して電流を流す通電焼結法により該密閉状態にある該混合粉を加熱する焼結工程とを含み、これにより、前記金属相と前記逆ペロフスカイト型マンガン窒化物とが複合化される熱膨張制御金属複合材料の製造方法が提供される。
【0034】
さらに、本発明のある態様では、少なくともある温度範囲で負の熱膨張を示す、Mn−Ga−Sn−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物またはMn−Ga−Ge−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の粉末と、金属相となる組成の単体金属または金属合金の粉末とを互いに混合した混合粉を準備する工程と、前記混合粉を密閉状態におく工程と、前記密閉状態にある前記混合粉を加圧しながら、該混合粉に対して、または該混合粉を内包する導電性の型に対して電流を流す通電焼結法により該密閉状態にある該混合粉を加熱する焼結工程とを含み、これにより、前記金属相と前記逆ペロフスカイト型マンガン窒化物とが複合化される熱膨張制御金属複合材料の製造方法が提供される。
【0035】
本発明の各態様においては、逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の熱膨張抑制剤(以下、逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の熱膨張抑制剤を「マンガン窒化物熱膨張抑制剤」または、単に「熱膨張抑制剤」と呼ぶ)の粉末と、単体金属または金属合金つまり金属相となる金属原材料の粉末とを適当な比率であらかじめ混合し、その混合粉を、例えば気密を保った密閉状態に維持し、金型や導電性のグラファイト製のダイおよびパンチなどの焼結用の型(「焼結型」)の内部に配置することにより複合化する。その密閉状態は、必ずしも焼結型が気密であることは必要ではなく、例えば真空チェンバーや、外部の雰囲気(外気)とは遮断された容器といった気密容器の内部に、その気密容器の内部空間と連通しているような焼結型を配置していてもよい。その複合化においては、例えば必要最小限の熱エネルギーを作用させる。このため、混合粉は密封状態において加熱され焼結される。この手法により、上述した高圧浸透法の工程に起因する複合化の制約の少なくともいずれかが緩和される。なお、本出願全般にわたり、負の熱膨張とは、温度に対して線熱膨張ΔL/Lが右肩下がりとなるか、線膨張係数αが負となることを意味する。また、粉末とは、必ずしも粒径が限定されていない粉体もしくは粉末を指し、その粉末の組成、層構造、内部構造、凝集状態等は特に限定されない。
【0036】
また、混合粉が密封状態において加熱される態様には、放射、対流、伝導、誘導のいずれかによって熱を加えるもののほか、外部から任意のエネルギーを供給することに応じて熱が生じるものも含む。例えば、電流を流しジュール熱を生成させることにより、混合粉自体を自己発熱させるものも加熱の一態様である。本発明の各態様においては、従来の高圧浸透法などと異なり、混合粉が、粉体のまま密封状態におかれて加熱されることにより焼結される。このため、金属の融点より低い温度で複合化できる。その上、金属が溶融するような温度において熱膨張抑制剤が酸素を含んだ大気に触れることは防止される。したがって、金属相となる単体金属または金属合金の材料は、融点が低いものには限定されない。さらに、金属相は、複合化後に必ずしもマトリックス金属相となっていることを要さず、連続金属相であっても、また、連続金属相でなくともよい。このため、本発明の各態様においては、上記の高圧浸透法の場合に融点が高く採用し難くい金属材料を採用することが可能となり、熱膨張抑制剤と金属相との互いの混合比率に対する許容範囲も拡がる。さらには、溶浸のための予熱工程が不要であることから、本発明の各態様においては、熱膨張抑制剤の選択範囲も拡大する。また、加熱する部分を混合粉が装填された焼結型に限定することにより、昇温・冷却をより効率的に行
え、特に冷却時間を短縮できる。すなわち、本発明の各態様においては、特許文献4に記載された高圧浸透法に比べ、より広い温度範囲、より広い熱膨張範囲、より高い精度、より自由度の大きな形状・サイズという、少なくともいずれかの点において実用性が高められた熱膨張可変金属複合材料を提供することが可能となる。
【0037】
さらに、Mn−Zn−Sn−N系またはMn−Zn−Ge−N系の熱膨張抑制剤、Mn−Cu−Sn−N系またはMn−Cu−Ge−N系の熱膨張抑制剤、そして、Mn−Ga−Sn−N系またはMn−Ga−Ge−N系の熱膨張抑制剤とは、より具体的に組成式により表現することも可能である。これらの各表現は、つぎの組成式の組成を「Mn−M
1−M
2−N系」と簡略化して記載したものである。
組成式:Mn
3+yM
11−(x+y)M
2xN (0<x<1、0≦y<1)、ここで、M
1にはZn、Cu、Gaの少なくとも1種を含み、M
2にはGe、Snの少なくとも1種を含む。また、Mnの一部は他の元素に置き換わっていてもよく、窒素Nの一部が水素H、ホウ素B、炭素C、酸素Oと置き換わっていてもよい。なお、M
1にはGa、Zn、Cu以外の元素を含んでいてもよいし、M
2にはGe、Sn以外の元素を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明のいずれかの態様により、高圧浸透法に残存していた制約の少なくともいずれかが解消されるかまたは緩和される。その結果、従来採用し難かったマンガン窒化物の熱膨張抑制剤を採用する金属複合材料を作製することが可能となる。例えば、より広い温度範囲および広い熱膨張範囲において、より高い精度であったり、より自由度の大きな形状・サイズを有したりするような熱膨張を制御した金属複合材料を提供することが可能となる。本発明のいずれかの態様によれば、例えばマトリックス金属相とマンガン窒化物熱膨張抑制剤を任意の比率で再現性よく複合化することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の説明に際し特に言及がない限り、全図にわたり共通する部分または要素には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。
【0041】
<第1実施形態>
[1 概要]
図2は、複合化手法の基本的な分類を示す説明図である。本実施形態においては、少なくともある温度範囲で負の熱膨張を示す逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の粉末すなわち熱膨張抑制剤の粉末と、金属相となる組成の単体金属または金属合金の粉末とを混合した混合粉を密閉状態に配置して加熱することにより、金属相と前記逆ペロフスカイト型マンガン窒化物とが焼結により複合化される粉体冶金または粉末冶金法の手法を採用する。ここで、複合化手法には粉末冶金法以外にも非加圧浸透法や鋳造法、メカニカル・アロイングといった手法がある。また、粉末冶金法をさらに細分類すると、通電焼結や冷間成形低温焼結法、電磁波焼結、粉末圧延といった手法が含まれている。これらの手法のうち、本実施形態においては、逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の熱膨張抑制の粉末と、複合化後に金属相となる組成の単体金属または金属合金の粉末とを混合した混合粉を密閉状態において加熱し焼結するかぎり、任意の粉末冶金の手法を採用することが可能である。本実施形態として説明する粉末冶金法は、最も典型的には、通電焼結法の一種である放電プラズマ焼結法(Spark Plasma Sintering, SPS)と、通電焼結法には含まれない冷間成形低温焼結法とにより実施される。これらについて説明する。以下の説明において、「合金」とは金属合金を意味する。
【0042】
放電プラズマ焼結法は、通電焼結法の1種であるパルス通電法の一形態であり、粉末に、またはその粉末を焼結するためのダイ・パンチまたは型(焼結型)に大電流を流すことにより加熱される焼結手法である。通電焼結法に含まれる他の手法であるパルス通電加圧焼結(PECS:Pulsed Electric Current Sintering)や、プラズマ活性化焼結(PAS: Plasma Activated Sintering)も本実施形態に適用可能である。
【0043】
また、冷間成形低温焼結法は、「冷間成形」(cold pressing)を行い、その後に低温にて焼成して焼結させる手法である。なお、本出願において、コールドプレスと記した場合には、上記冷間成形のみを意味している。
【0044】
本実施形態においては、金属相と熱膨張抑制剤との比率も、より広い範囲に設定することが可能となる。従来の高圧浸透法では、金属の溶浸に適合し、その溶浸の際に形状が維持される程度の気孔率や機械的強度のプレス成形体を形成しなくてはならず、金属相と熱膨張抑制剤との比率にも自ずと制約があった。これに対し本実施形態においては、混合した金属の粉末と熱膨張抑制剤の粉末を密閉空間に配置し加熱するため、その時点での混合粉が何らかの形状を保っている必要はない。また本実施形態においては、混合粉が雰囲気の影響を受けにくい。高圧浸透法における溶融した金属を浸透させるために必要な予熱工程に相当する工程は必要ないためである。さらに、本実施形態においては混合粉における金属相と熱膨張抑制剤との混合比率や、それが反映された金属複合材料における金属相と熱膨張抑制剤の比率にも制約が少ない。その結果、本実施形態においては、熱膨張をより効果的に抑制したり、精密に制御したりすることが可能となる。その結果、例えばシリコンの熱膨張に精度よく熱膨張を適合させたより高性能のパッケージヒートシンクを製造することも可能となる。
【0045】
また、密閉状態の混合粉に対する加熱および焼結は、従来の高圧浸透法などと比べて低温・短時間で実施することが可能となり有利である。その結果、金属相のための粉末とマンガン窒化物熱膨張抑制剤の粉末との間の化学反応を適切に制御することが可能となる。この利点は、特に通電焼結などの電気的な熱の生成や、放電現象によるプラズマを焼結に用いるものにおいて顕著である。例えば、高圧浸透法において複合化する際に金属相と化学反応して熱膨張抑制剤としての機能を失うような金属相の材質の組合せにおいても、密閉状態の混合粉に対する加熱および焼結であれば低温・短時間の処理により複合化が可能となる。
【0046】
加えて、本実施形態における焼結による複合化は、混合粉が密閉空間に密閉された状態にて進行する。このため、混合粉に含まれる熱膨張抑制剤であるマンガン窒化物の粉末は、密閉空間の外部の雰囲気(外気)にさらされることも、また、高温下で密閉空間の外部に開放された状態に置かれることもない。したがって、昇華・析出しやすい成分元素、例えばZnが熱膨張抑制剤に含まれていたとしても、組成変化を最小限にして複合化を実行することができる。したがって、例えば、従来は化学変化や昇華・析出のために複合化することが困難であったMn−Zn−Sn−N系またはMn−Zn−Ge−N系の熱膨張抑制剤を採用する金属複合材料を作製することが可能となり、精密に熱膨張が制御された金属複合材料を作製することが可能となる。
【0047】
さらに、密閉空間において混合粉を焼結させる本実施形態や通電燒結などにおいては、複合化の処理の繰り返し再現性を向上させることができる。これは、マンガン窒化物熱膨張抑制剤の粉末と金属相のための単体金属または合金の粉末を、高い再現性で任意の比率に混合することが可能となるということである。このため、高圧浸透法などの先行技術では不可能であった精緻な熱膨張性の制御が可能となる。したがって、従来は精密な複合化が行えなかったMn−Cu−Sn−N系またはMn−Cu−Ge−N系の熱膨張抑制剤を採用する場合や、Mn−Ga−Sn−N系またはMn−Ga−Ge−N系の熱膨張抑制剤を採用する場合においても、密閉空間において混合粉を焼結させる本実施形態や通電燒結などの複合化の処理により、精密に熱膨張が制御された金属複合材料を作製することが可能となる。
【0048】
なお、冷間成形低温焼結法も密閉空間において混合粉を焼結させる粉末冶金法の一形態である。冷間成形低温焼結法においては、通電焼結とは異なり、粉末にも焼結型にも電流が流されないものの、密閉空間において混合粉を焼結させることから上述した各利点が達成される。
【0049】
通電焼結や冷間成形低温焼結法などの密閉空間において混合粉を加熱し焼結させる粉末冶金法においては金属の選択肢が拡がる利点もある。複合材料において金属相となる単体金属または合金の組成を、従来選択しえなかったものから選ぶことが可能となる。例えば、融点の高さから高圧浸透法において採用しにくかった銅を主体とする合金(単体の銅を含む)を金属相に採用することにより、特許文献4に開示される高圧浸透法に比し優れた熱伝導や電気伝導を示す金属複合材料を作製することが可能となる。また、別の例では、例えば融点の他からから採用しえなかったチタニウムを主体とする合金(単体のチタニウムを含む)を金属相に採用することにより、特許文献4に開示される高圧浸透法に比して強度が一層大きい金属複合材料を作製することができる。これら以外にも、鉄、真鍮といった構造材に適する安価な単体金属または合金を採用することも可能である。なお、これらの単体金属または合金は、例示のために示したものに過ぎない。
【0050】
上述したように、本実施形態において複合化される熱膨張抑制剤の組成は、次の組成式により表現される逆ペロフスカイト型マンガン窒化物からなるものが好適である。
組成式(1):Mn
3+yM
11−(x+y)M
2xN (0<x<1、0≦y<1)、
ここで、M
1にはGa、Zn、Cuの少なくとも1種を含み、M
2にはGe、Snの少なくとも1種を含む。また、Mnの一部は他の元素に置き換わっていてもよく、窒素Nの一部が水素H、ホウ素B、炭素C、酸素Oと置き換わっていてもよい。なお、M
1にはGa、Zn、Cu以外の元素を含んでいてもよいし、M
2にはGe、Sn以外の元素を含んでいてもよい。
【0051】
なお、本出願において、成分や組成式により表現される物質や、成分や組成式を列記して「からなる」と表現される物質は、明示された成分や組成式により特定される物質を主成分としている任意の物質を意味する。したがって、これらの表現により特定または規定される本願発明をなす物質は、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲において、各成分や組成式に明示されない不純物を含んでいてもかまわない。そして、主成分とは、含有率が50重量%以上を占める成分をいう。逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の特性は主成分によって概ね定まるため、逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の特性を判断するにあたり、当該逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の主成分となる組成により判断することは妥当である。本出願においては、例えば組成式(1)の逆ペロフスカイト型マンガン窒化物を主成分とする熱膨張抑制剤とは、組成式(1)の逆ペロフスカイト型マンガン窒化物と、その逆ペロフスカイト型マンガン窒化物を超えない質量の副成分との混合物である場合がある。そして、本出願においては、組成式または化学式により明示した当該特定の組成の逆ペロフスカイト型マンガン窒化物として、「主成分」についての記載と明示せずに表現することがある。これは、単に記載の明確化または簡略化のためのものである。その場合であっても、熱膨張抑制剤のための当該表現は、熱膨張抑制剤への副成分の添加を排除するものではない。
【0052】
上記組成式(1)に含まれる逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の中には、高圧浸透法において単体金属または合金との複合化に支障が生じていたものも散見される。ところが、本実施形態においては、そのような組成の逆ペロフスカイト型マンガン窒化物も単体金属または合金と複合化することが可能となる。特に、例えば、複合化時において昇華・析出しかねないZnを含むような熱膨張抑制剤を採用しても、本実施形態においては、幅広い条件で複合化することが可能となる。このように、これまで複合化の条件が限られていた熱膨張抑制剤を利用する複合化も本実施形態においては容易に行なうことが可能である。
【0053】
特に、逆ペロフスカイト型マンガン窒化物が、Mn−Zn−Sn−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物である金属複合材料は、本実施形態において好適なものの一つである。密閉空間において焼結させる本実施形態においては、熱膨張抑制剤からのZnの昇華・析出による脱離を防ぐことができる。したがって、機能と素材価格の両面でより優れているにもかかわらず、昇華・析出しやすい成分を含むためにこれまで複合化のための条件が限られていた熱膨張抑制剤、例えば、Mn−Zn−Sn−N系の熱膨張抑制剤を利用する複合化も容易になる。
【0054】
本実施形態においてMn−Zn−Sn−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の熱膨張抑制剤を用いる金属複合材料の製造に成功したことは、Mn−Cu−Sn−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物より高機能であるマンガン窒化物熱膨張抑制剤を実用に供する可能性があることを意味する。つまり、Mn−Zn−Sn−N系マンガン窒化物熱膨張抑制剤では、Mn−Cu−Sn−N系マンガン窒化物熱膨張抑制剤よりも大きな負の熱膨張を示す。このため、Mn−Zn−Sn−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の熱膨張抑制剤を採用する場合、熱膨張抑制剤を利用した熱膨張制御の自由度が高まるという利点が生まれる。つまり、より広い線膨張の範囲で制御された熱膨張を実現することができ、また、より少ない熱膨張抑制剤の添加量により熱膨張を目的の値に抑制したりすることにより、熱膨張抑制剤が金属相の性質に及ぼす熱膨張の抑制以外の影響を軽減することができる。また、より大きな負の熱膨張を示す金属複合材料を提供することができる。このことにより、本実施形態においては、従来のマンガン窒化物熱膨張抑制剤において作製することができなかった光フィルターの温度補償のために金属複合材料を採用することが可能となる。なお、本出願において、Mn−Zn−Sn−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物等の表記は、窒素を軽元素により置換する態様を明示すれば、例えば
Mn
3+yM
11−x−yM
2xN
1−zX
z(Xは軽元素、x、y、zは0以上1未満)
と表示される組成式において、金属元素M
1をZn、金属元素M
2をSnとすることを意味する。また、本出願において軽元素とは、B(ホウ素)、C(炭素)、H(水素)、O(酸素)からなる元素群である。Mnの一部は他の元素に置き換わっていてもよい。
【0055】
また、Mn−Zn−Sn−N系の熱膨張抑制剤を採用する金属複合材料について上述した事情は、金属元素M
2をGeとしたMn−Zn−Ge−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物を採用する金属複合材料についても同様である。
【0056】
さらに、従来の、例えば特許文献4に開示されていたMn−Cu−Sn−N系やMn−Cu−Ge−N系の熱膨張抑制剤、Mn−Ga−Sn−N系やMn−Ga−Ge−N系など、他の材料系の熱膨張抑制剤に対しても、上述した本実施形態は、例えば化学変化を抑制し、熱膨張抑制剤に含まれる元素の組成比を所望の値に精度良く制御することか可能となる点において有利である。
【0057】
加えて、本実施形態の金属複合材料の製造方法における焼結工程が、密閉空間に配置されている混合粉に対して電流を流すことにより焼結する工程とされる。この電流を利用する焼結工程は、上述した各熱膨張抑制剤を採用する金属複合材料を製造する手法としてとりわけ有利である。この手法は、粉末冶金等の分野において、通電焼結法と呼ばれる手法またはそれに類似する手法である。例えば非特許文献8などに開示される各種の粉末冶金的手法のうち通電焼結法を用いることができる。この通電焼結法を採用することの利点は次の点で顕著である。
【0058】
まず、通電焼結法においても加熱された状態で粉末を外気に触れさせることはない。また、通電焼結法を採用すれば、高圧浸透法において採用することが可能であった単体金属や合金を採用する場合であっても、その単体金属または合金と組み合わせる熱膨張抑制剤に対する熱の影響を低減することができる。これは、通電による温度上昇を、複合化に必要な必要最小限の範囲で行えるためである。その上、通電焼結法においては、複合化終了後、短時間で冷却可能である。以上の理由により、通電焼結法は多くの種類の金属や合金が、複合化の選択肢となるばかりか、低温・短時間で複合化させるメリットも生じ、その結果、金属相とマンガン窒化物の熱膨張抑制剤の化学反応を高い精度にて制御することが可能となる。
【0059】
[1−1 変形例]
本実施形態の変形例として、熱膨張抑制の粉末と金属の粉末との混合比率が傾斜している金属複合材料が提供される。
図3は、傾斜した混合比率を有する金属複合材料の構成を説明するための説明図である。
図3(a)は、一例として円柱形状に成形され、上記混合比率が、熱膨張が大きい構成となる図上の底部の混合比率から、熱膨張が小さい構成となる図上の頂部の混合比率へと連続的に変化している構成を示している。ここでの混合比率の変化の様子は図の網点の密度により模式的に示されている。これに対し、
図3(b)は、一例として円柱形状に成形され、上記混合比率が、段階的に変化している構成の混合比率の変化の様子を同様の手法により示している。図示されているのは、熱膨張が大きい構成となる上段の混合比率、熱膨張が小さい構成となる下段の混合比率、そして、これら上段および下段に挟まれる中段における、これらの中間の熱膨張となる混合比率という3段階の変化の例である。
【0060】
これらに示した混合比率の連続的または段階的な変化は説明のための非限定的な例に過ぎない。本変形例により、連続した一体の素材において、熱膨張の程度が位置に依存して変化している素材を提供することが可能である。従来の高圧浸透法においては、金属相となる単体金属または合金の粉末と、熱膨張抑制剤の粉末との間の比率を空間的に意図したように変化させることができない。そのため、本実施形態の変形例における傾斜混合比率とされた金属複合材料は、焼結前の混合粉を密閉状態にて加熱し焼結する手法を採用することによって可能となる精密な熱膨張制御の一例である。これによる実用面での利点は、例えばシリコンと銅など、熱膨張の著しく異なる材料間の、熱膨張変化を緩和する緩衝材などを提供することが可能となることである。また、例えば弾性率の異なる複数種の単体金属または合金の粉末の互いの比率を位置により変更し、熱膨張抑制剤の粉末と混合した混合粉を利用した複合化も行なうこととしてもよい。この場合、熱膨張だけではなく弾性率を位置により制御することが可能となる。さらに、熱膨張抑制剤や金属に加え、さらに別の材料、例えば、熱伝導の優れた材料や機械的強度の優れた材料、弾性率の大きな材料を混合して焼結させることにより、熱膨張とともにそれらの性質も制御した材料を作製することが可能となる。なお、この変形例のような傾斜した混合比率において金属複合材料を作製しうることは、傾斜した混合比率の複合材料自体を作製すること自体の利点以外に、混合粉を密閉状態にて加熱し焼結する手法により精密な熱膨張制御が可能になる利点を示す好例でもある。
【0061】
[2 マンガン窒化物熱膨張抑制剤]
本実施形態の金属複合材料のための熱膨張抑制剤としては各種のマンガン窒化物を採用することが可能である。特に、特許文献2において開示されているようなマンガン窒化物熱膨張抑制剤の構成元素の役割は、本願の発明者の一部により既にほぼ特定されている。ここでは系統的にその役割を説明する。
【0062】
まず、マンガンと窒素以外にマンガン窒化物熱膨張抑制剤に含まれる主要な元素は、第1群(群の集合に含まれるメンバーとなる元素を「M
1」と総称する)と、第2群(同、「M
2」)とに分けることが可能である。このうち、第1群(M
1)は、Zn、Cu、Gaなどを含んでおり、マンガン窒化物熱膨張抑制剤に大きなマイナス熱膨張をもたらす元素群である。これに対し、第2群(M
2)は、Sn、Geなどを含んでおり、マンガン窒化物熱膨張抑制剤の動作温度を拡げる元素群である。なお、動作温度とは、熱膨張抑制剤の負の熱膨張作用が発揮される温度域である。
【0063】
より詳細に、これらの第1群(M
1)と第2群(M
2)とを用いて本実施形態において採用されるマンガン窒化物熱膨張抑制剤を組成例として示したものが上記組成式(1)により表記されるされる逆ペロフスカイト型マンガン窒化物である。
【0064】
上記組成式を例として含み、本実施形態において採用されるマンガン窒化物熱膨張抑制剤のからいくつかの典型的な組成をより具体的に説明すると、M
1をCu、Zn、Gaからなる群から選択される少なくとも一の元素、M
2をGeまたはSnからなる群から選択される少なくとも一の元素、そしてM
3を、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Hf、Ta、W、Re、Ir、Pt、Au、Bi、希土類元素からなる群から選択される少なくとも一の元素として、
組成式(2):Mn
3M
11−xM
2xN(xは0以上1未満)、
組成式(3):Mn
3+yM
11−x−yM
2xN(x、yは0を超え1未満)、
組成式(4):(Mn
1−δM
3δ)
3M
11−xM
2xN(xは0を超え1未満、δは0を超え1未満)、そして
組成式(5):Mn
3M
11−xM
2xN
1−yX
y(Xは軽元素、x、yは0を超え1未満)
と表現されるものを挙げることができる。すなわち、組成式(2)は、本実施形態において採用されるマンガン窒化物熱膨張抑制剤として第1群(M
1)と第2群(M
2)とを用いて示した組成式である。つぎの組成式(3)は、組成式(2)からみてマンガンMnが過剰となりM
1が減少したもの、組成式(4)は、組成式(2)からみてマンガンMnの一部が欠損し元素M
3によりMnを置換したものである。そして、組成式(5)は、組成式(2)において窒素Nの一部が水素H、ホウ素B、炭素C、酸素Oなどの軽元素と置き換わったものである。
【0065】
そして上記組成式(2)〜(5)をより一般的な表現により表すと先述の組成式(1)により表現される。なお、組成式(1)〜(5)のx、y、zおよびδは、マンガン窒化物熱膨張抑制剤の示す負の熱膨張作用が発揮される範囲において、例えば負の熱膨張作用の温度範囲を拡げたり温度域をシフトしたりするために、金属複合材料の用途に応じて選択される。また、本出願において、異なる組成式におけるx、y、z、およびδなどの組成比を決定する値は組成式別に決定される。
【0066】
本実施形態の熱膨張抑制剤を具体例として示せば、例えばMn−Zn−Sn−N系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の熱膨張抑制剤である。この熱膨張抑制剤は、第1群(M
1)としてZn、第2群(M
2)としてSnを含むものである。一般に、マンガン窒化物熱膨張抑制剤における第1群の大きなマイナス熱膨張をもたらす作用は、顕著なものから順に、Ga、Zn、Cuとなる。つまり、第1群の元素の大きなマイナス熱膨張をもたらすという作用は、Gaを含むものが最も優れており、つぎにZn、そしてCuの順に弱くなる。ただし、実用面からは、素材価格が高価なGaを高い比率で用いることは難しく、ZnとCuが好適に選択される。このうち、特にZnは、Cuより負の熱膨張をもたらす作用が大きくしかも安価である。このため、上記Mn−Zn−Sn−N系やMn−Zn−Ge−N系(以下、「Zn系」と記載する)の逆ペロフスカイト型マンガン窒化物は熱膨張抑制剤としては理想的といえる。ただし、従来の複合化手法においては、Zn系逆ペロフスカイト型マンガン窒化物は上述したように昇華・析出しやすいために採用しにくかった。本実施形態は、Zn系の逆ペロフスカイト型マンガン窒化物を採用した金属複合材料が作製可能となるため、マンガン窒化物熱膨張抑制剤を含む金属複合材料の実用性を大きく改善するものといえる。
【0067】
また、第2群の元素による広い動作温度をもたらす作用はSnよりもGeの方が優れるものの、素材価格の面からはSnが有利である。
【0068】
上記の例も含め本実施形態における熱膨張抑制剤を、その構成元素となる元素名の組合せにより具体的に示せば、Mn−Zn−Sn−N系、Mn−Zn−Ge-N系、Mn−Cu−Sn−N系、Mn−Cu−Ge−N系、Mn−Ga−Sn−N系、Mn−Ga−Ge−N系のそれぞれの逆ペロフスカイト型マンガン窒化物である。なお、第1群(M
1)と第2群(M
2)とを用いて説明した上記各組成例は、各元素の役割を説明するための非限定的な例に過ぎない。
【0069】
[3 金属相]
本実施形態の単体金属または合金の粉末に採用される金属相の材質は、典型的には、アルミニウム、マグネシウム、銅、真鍮、鉄、チタンが選択される。なお、本実施形態の複合材料における金属相は、これら各金属の単体、または、これらの金属を基調とする合金である。また上述したように、金属相は、作製された複合材料において必ずしもマトリックス金属相となっていることを要さない。すなわち、本実施形態における金属相は、焼結された材料において気孔または他の成分粒子をその中に包含して基盤となる連続金属相であってもよく、またそのような連続相となっていなくともよい。なお、上記金属相の材質には、高圧浸透法において溶浸が困難であった単体金属または合金が含まれている。特に、銅、真鍮といった融点が1000℃を超えるものや、さらには鉄、チタンといった融点が1500℃を超えるようなものも含まれている。このような材質を金属相に採用する場合であっても、本実施形態においては複合化に支障がない。さらに、溶融させても合金をなさない金属元素の組合せや組成の合金が金属相にて実現されるように、互いに合金をなさない複数種の単体金属または合金の組合せや分量にて金属相のための粉末を準備し、それを金属相のための粉末として採用することも可能である。
【0070】
[4 熱膨張の指標]
本実施形態の金属複合材料を含め、固体材料の熱膨張は線熱膨張ΔL/Lと呼ばれる指標により表示される。なお、線熱膨張ΔL/Lは、Tを金属複合材料の温度、L(T)を温度Tでの試料の長さ、T
0を基準温度として、次式:
ΔL/L=[L(T)−L(T
0)]/L(T
0) 数式(1)
によって定義される。線熱膨張ΔL/Lは、基準温度T
0における試料の長さに対して温度Tでは長さがどの程度変化するかを表している無次元量である。なお、熱膨張は、線熱膨張ΔL/Lの傾き(温度微分)である線膨張係数αにより表示される場合もある。その場合、線膨張係数αは通常、ppm/℃の単位によって表現される。通常の固体材料では、温度の上昇とともに膨張し長さも伸びるので、線熱膨張ΔL/Lは右肩上がりとなり線膨張係数αの値は正となる。これに対し、負の熱膨張を示す材料は、温度とともに縮む材料であることを意味している。このため、負の熱膨張を示す材料における線熱膨張ΔL/Lは右肩下がり、線膨張係数αは負の値となる。
【0071】
[5 製造方法]
以上に説明した本実施形態に含まれる金属複合材料の製造方法を次に説明する。説明は、熱膨張抑制剤の作製と、金属複合材料の作製とに分けて説明する。ここに説明する製造方法は、本実施形態を説明するためにのみ記載されるものである。
【0072】
[5−1 熱膨張抑制剤の作製]
本実施形態として採用される熱膨張抑制剤の粉末を製造するための手段は特に限定されない。典型的には、二段階の固相反応法が採用される。具体的には、第1の工程は、Mn
3M
1Nの粉末、Mn
3M
2Nの粉末、Mn
4Nの粉末、そして、Mn
3MX(Xは軽元素)の粉末(以下、総称して中間体粉末と呼ぶ)を、固相反応法によりそれぞれ別々に製造する工程である。そして第2の工程は、第1の工程により製造した中間体粉末を、目的の各比率となるように組み合わせて固相反応法させることにより、目的の組成の熱膨張抑制剤の粉末を製造する段階である。第1の工程は中間体粉末の材料別に、また、第2の工程は熱膨張抑制剤別に説明する。
【0073】
[5−1−1 二段階の固相反応法:第1の工程]
[5−1−1−1 第1の工程:Mn
3M
1NおよびMn
3M
2Nの粉末の製造]
Mn
3M
1NおよびMn
3M
2Nの粉末のための固相反応法の第1の工程はつぎのようにして実行される。ここでは、Mn
3M
1Nを例に説明する。まず、モル比でMn:M
1=3:1となるように秤量したMn
2N(粉末)とM
1(粉末)とを互いに混合し十分に攪拌する。そして、その攪拌後のものを石英管に真空封入する。この際の到達真空度は、典型的には、約10
−3torr(約0.13Pa)程度とする。つぎに、石英管への封入物を石英管ごと、例えば500℃〜770℃で60時間〜70時間加熱し焼成する。この焼成によりMn
3M
1Nの塊の材料(バルク材料)が作製される。そして、石英管の内部からバルク材料を取り出して粉砕することにより、Mn
3M
1Nの粉末が製造される。Mn
3M
2Nの粉末も同様の焼成および粉砕により製造される。
【0074】
[5−1−1−2 第1の工程:Mn
4Nの粉末の製造]
Mn
4Nの粉末については金属Mn(粉末)を原料とし、窒素ガス1気圧、450℃で
60時間〜120時間加熱することにより製造される。
【0075】
[5−1−1−3 第1の工程:Mn
3MXの粉末の製造]
さらに、Mn
3MX(Mは上述のM
1またはM
2、Xはホウ素Bまたは炭素C)は、Mn、M、Xそれぞれの粉末を秤量し、順に、3:1:(1〜1.05)のモル比を与える比率に混合し十分に攪拌した後、石英管に真空封入して加熱することにより製造する。石英管における真空度は約10
−3torr(約0.13Pa)とし、熱処理は550℃〜850℃で80時間〜120時間加熱する。製造されたMn
3MXのバルク材料を粉砕すると粉末としてMn
3MXが製造される。なお、上記X(ホウ素Bまたは炭素C)のモル比を1ではなく1〜1.05と示したのは、焼成の処理中に欠損する可能性のあるX原子を補うためにXの比率が調整されることを示している。
【0076】
[5−1−2 第2の工程]
固相反応法の第2の工程を三つの場合に分けて説明する。一つは、製造される粉末が、組成式(2)のMn
3M
11−xM
2xNである場合、次に、組成式(3)のMn
3+yM
11−x−yM
2xN(x、yは0を超え1未満)の場合、最後に、組成式(5)のMn
3M
11−xM
2xN
1−yX
y(Xは軽元素、x、yは0を超え1未満)の場合である。なお、組成式(4)(Mn
1−δM
3δ)
3M
11−xM
2xN(xは0を超え1未満、δは0を超え1未満)については5−2に記載する。
【0077】
[5−1−2−1 第2の工程:Mn
3M
11−xM
2xN]
固相反応法の第2の工程におけるMn
3M
11−xM
2xN(組成式(2))の製造では、まず、第1の工程により製造したMn
3M
1N粉末とMn
3M
2N粉末とを秤量し、目的のモル比(1−x):xを与える比率に混合し十分に攪拌した後、真空封入状態または窒素ガス1気圧の雰囲気下で、800℃、60時間の加熱によりバルク材料を作製する。そのバルク材料を粉砕して、Mn
3M
11−xM
2xNの粉末を製造する。
【0078】
[5−1−2−2 第2の工程:Mn
3+yM
11−x−yM
2xN(x、yは0を超え1未満)(組成式(3))については、第1の工程により製造したMn
4N、Mn
3M
1N、Mn
3M
2Nそれぞれの粉末を秤量し、目的のモル比y:(1−x−y):xを与える比率に混合して十分に攪拌した後、真空封入もしくは窒素ガス1気圧の雰囲気で、800℃にて60時間加熱してバルク材料を作製する。そしてそのバルク材料を粉砕して粉末とする。
【0079】
[5−1−2−3 第2の工程:Mn
3M
11−xM
2xN
1−yX
y(x、yは0を超え1未満)]
そして、固相反応法の第2の工程におけるMn
3M
11−xM
2xN
1−yX
y(x、yは0を超え1未満)(組成式(5))の製造においては、第1の工程により製造したMn
3M
1N、Mn
3M
2Nの粉末と、第1の工程により製造したMn
3MX(MはM
1またはM
2)が原料となる。これらを目的の組成となるように秤量し、十分に攪拌した後、石英管に真空封入し、800℃、60時間〜80時間加熱してバルク材料を作製する。そしてそのバルク材料を粉砕して粉末とする。ここで、目的の組成を実現するためには、例えばMn
3Zn
1−xSn
xN
1−yB
yであれば、Mn
3ZnN、Mn
3SnN、Mn
3ZnB粉末を(1−x−y):x:yのモル比を与える比率で混合する。また、例えばMn
3Zn
1−xSn
xN
1−yC
yであれば、Mn
3ZnN、Mn
3SnN、Mn
3SnC粉末を(1−x):(x−y):yのモル比を与える比率で混合する。
【0080】
さらに、XがHやOの場合は、上記第2の工程(5−1−2−1もしくは5−1−2−2)により製造されたマンガン窒化物熱膨張抑制剤の粉末を、水素もしくは酸素雰囲気中で熱処理することによってNをHやOにより置換する。Hによる置換の場合には、150℃〜350℃、水素圧1気圧〜6気圧の条件下で30分から3時間熱処理する。一方、Oによる置換の場合は、250℃〜450℃、酸素分圧0.2気圧〜1気圧の条件下で2時間〜10時間熱処理する。
【0081】
[5−2 一段階の固相反応法]
また、本実施形態として採用される熱膨張抑制剤の粉末を製造するためには、上記二段階の固相反応法の他に、一段階の固相反応法を採用することも可能である。例えば、Mn
2N、Mn
1、Mn
2を原料として適当なモル比で混合し、500℃〜760℃、24〜60時間、窒素雰囲気中で1回の焼成により製造する工程を採用することができる。組成式(4):(Mn
1−δM
3δ)
3M
11−xM
2xN(xは0を超え1未満、δは0を超え1未満)については、この一段階の固相反応を用いることができる。原料をMn
2N、単体M
1、単体M
2、および単体MもしくはMの窒化物(全て粉末)として、それぞれをモル比3(1−δ)/2:(1−x):x:3δだけ秤量し、攪拌した後、石英管に真空封入して760℃、60時間加熱して前反応体を作製する。それを粉砕した後、再度石英管に真空封入し、800℃、60時間加熱してバルク材料を作製する。それを粉砕して粉末とする。組成式(4)については5−1−2−3に記載した方法をもって、Nの一部をHやOと置換できる。
【0082】
[5−3 金属複合材料の作製]
次に、上記の手順で製造された粉末状のマンガン窒化物熱膨張抑制剤と金属相となる単体金属または合金の粉末とを複合化し金属複合材料を形成する工程について説明する。
図4は、金属複合材料を形成する工程を示すフローチャートである。
【0083】
[5−3−1 通電焼結]
上記の手順で製造された粉末状のマンガン窒化物熱膨張抑制剤を、金属相となる単体金属または合金の粉末
に対し所定の比率で混合し攪拌して混合粉を準備する(S102)。次に、その混合粉を例えばグラファイト製の焼結型に収容し、例えば、真空槽などの内部における真空雰囲気の空間に配置することにより、混合粉を密閉状態とする(S104)。そして、混合粉を加熱し焼結を実施する(S110)。
【0084】
焼結工程(S110)では、例えば、温度300℃〜650℃の温度において、圧力10MPa〜60MPaの圧力を加える(S112)。そして、例えば、焼結型
として、中央に内径10mm〜20mmの円筒状収容部を有するドーナツ状のダイと、そのダイの円筒状の収容部に外部から内挿されて円筒軸にそって円筒状収容部の空間を圧縮するパンチとを組み合わせたグラファイト製のものを利用した場合、250A〜750A程度のパルス電流を通電時20ミリ秒〜60ミリ秒、休止時4ミリ秒〜10ミリ秒を1サイクルとする条件で断続させながら流すことにより、混合粉と焼結型とのいずれかまたは両方にジュール熱を生成させる(S114)。その状態を2分〜60分保持することにより、焼結型の内部において金属複合材料の複合化が進行する。なお、電流の通電条件は、使用する材料や作製される金属複合材料における熱膨張抑制剤や金属相の組成やこれらの混合比率、焼結型のサイズ等により事前に決定しておく。こうして、例えば金属相の材質により融点や電気抵抗率が変化し、また、焼結型のサイズによって電流密度が変化することに適合する条件を見出しておく。なお、通電条件によっては、いわゆる放電プラズマ焼結法と呼ばれる種類の通電焼結法が実現している場合もある。
【0085】
最後に、冷却し、焼結型を取り外し、真空槽から取り出すことによって密閉状態を解除して、複合化された金属複合材料を取り出す(S120)。これで通電焼結法を利用した金属複合材料の複合化処理が終了する。
【0086】
なお、本願発明者らの検討によれば、上記通電時間が短すぎると複合化が不十分となる場合があり、長すぎると、熱膨張抑制剤が金属相と化学反応して熱膨張抑制剤による熱膨張抑制効果がみられないようである。ただし、本実施形態においては、概して、焼結工程における温度が温度300℃〜650℃と低く、通電時間も5分〜15分にて十分に焼結が進行する。また、昇温、降温過程も十数分〜30分程度のごく短時間で可能である。つまり、金属層となる単体金属または合金の融点に比べて低い温度で、しかも短時間、密閉状態において行なわれる焼結においては、熱膨張抑制剤の変質はほとんどみられない。この点において、高圧浸透法においてマトリックス金属相を形成するために金属の融点より高く、溶浸を進行させるため、そして冷却にも時間を要し、熱膨張抑制剤の組成、金属相の組成、こられの比率に制約があり十分な精度が得られなかったのとは大きく異なる。
【0087】
[5−3−2 冷間成形低温焼結法]
本実施形態の金属複合材料を製造するための焼結方法は必ずしも通電焼結には限定されない。例えば、本願の発明者が冷間成形低温焼結法と呼ぶ手法によって焼結して金属複合材料を製造することも可能である。この冷間成形低温焼結法は、熱膨張抑制剤の粉末と金属相となる金属粉末とを混合して準備した混合粉を、プレス用金型でコールドプレスして取り出し、それを石英官に真空封入した状態にて焼成する手法である。例えば、プレス用金型にて10MPa〜30MPa程度の一軸圧縮によって成形体を作ることが可能であり、250℃〜300℃、2時間〜12時間、石英管中、真空度は約10
−3torr(約0.13Pa)を雰囲気とする焼成条件により、金属複合材料となるように複合化することが可能である。
【0088】
[5−4 熱膨張評価に用いる焼結体試料の作製]
本実施例で用いた熱膨張抑制剤の熱膨張評価のためには、以下の手順で、熱膨張評価用試料片を作製した。組成式(2)、(3)、(5)については第2の工程において、粉末の一部を冷間加圧して矩形の試料片の作製し、それを粉体とともに石英管封入して、加熱することにより得た。また組成式(4)については、2回目の石英管封入をする際、粉末の一部を冷間加圧して矩形の試料片の作製し、それを粉体とともに石英管封入して、加熱することにより得た。
【0089】
[6 実施例]
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することかできる。したがって、本発明の範囲は以下の具体例に限定されるものではない。上述した金属複合材料の製造方法を実施し、各実施例につき少なくとも再現性の確認が可能な数の試験片を作製した。上述した各作製条件において、各金属複合材料を作製した具体的条件は、以下に説明する通りである。ここでは、各試験片を、実施例1〜19と呼ぶ。各実施例の概略は表1および表2のとおりである。
【0092】
さらに、各実施例において採用した金属相の組成および熱膨張抑制剤の組成を表3および表4にまとめている。
【0095】
なお、上述した各組成の熱膨張抑制剤と各実施例との対応は、
Mn
3M
11−xM
2xN(xは0を超え1未満):実施例1、3、4、6〜10、17
Mn
3+yM
11−x−yM
2xN(x、yは0を超え1未満):実施例11〜14
Mn
3M
11−xM
2xN
1−yX
y(x、yは0を超え1未満):実施例2、5、15、16、18、19
となる。
【0096】
[6−1 熱膨張抑制剤の製造]
各実施例において第1の工程および第2の工程における中間粉末や金属複合材料の製造のために採用した実際の温度および時間は次に説明する通りとした。
【0097】
[6−1−1 熱膨張抑制剤の製造:実施例1、3、4、6〜10および17]
実施例1、3、4、6および7のために、M
1をZn、M
2をSn、そしてxを0.45として、上述したMn
3M
11−xM
2xN(xは0を超え1未満)のための第1の工程および第2の工程を実施し、Mn
3Zn
0.45Sn
0.55Nの組成比の熱膨張抑制剤を製造した。具体的には、Mn
3Zn
0.45Sn
0.55Nの組成比の熱膨張抑制剤のためのMn
3ZnNとMn
3SnNの中間粉末を(5−1−1−1)に説明した第1の工程によって作製した。この際、Mn
2N(粉末)とZn(粉末)を、石英管による密閉状態において500℃、60時間焼成して製造した。また、Mn
3SnNの粉末は、Mn
2N(粉末)とSn(粉末)を、石英管による密閉状態において760℃、60時間焼成して製造した。次に、Mn
3ZnNの粉末とMn
3SnNの粉末から、(5−1−2−1)に説明した第2の工程によってMn
3Zn
0.45Sn
0.55Nの粉末を製造した。
【0098】
また、実施例8および10のために、M
1をCu、M
2をSn、そしてxを0.5として、上述したMn
3M
11−xM
2xN(xは0を超え1未満)のための第1の工程および第2の工程を実施し、Mn
3Cu
0.5Sn
0.5Nの組成比の熱膨張抑制剤を製造した。具体的には、Mn
3Cu
0.5Sn
0.5Nの組成比の熱膨張抑制剤のためのMn
3CuNとMn
3SnNの中間粉末を(5−1−1−1)に説明した第1の工程によって作製した。この際、Mn
2N(粉末)とCu(粉末)を、石英管による密閉状態において760℃、60時間焼成して製造した。また、Mn
3SnNの粉末は、上述したとおりである。次に、Mn
3CuNの粉末とMn
3SnNの粉末から、(5−1−2−1)に説明した第2の工程によってMn
3Cu
0.5Sn
0.5Nの粉末を製造した。
【0099】
さらに、実施例9のために、M
1をGa、M
2をGe、そしてxを0.27として、上述したMn
3M
11−xM
2xN(xは0を超え1未満)のための第1の工程および第2の工程を実施し、Mn
3Ga
0.73Ge
0.27Nの組成比の熱膨張抑制剤を製造した。具体的には、Mn
3Ga
0.73Ge
0.27Nの組成比の熱膨張抑制剤のためのMn
3GeNの中間粉末を(5−1−1−1)に説明した第1の工程によって作製した。この際、Mn
2N(粉末)とGe(粉末)を、石英管による密閉状態において760℃、60時間焼成して製造した。なお、Mn
3GaNの粉末は、上述した第1の工程に代えて、Mn
2NとGaNそれぞれの粉末原料を混合して窒素ガス1気圧、760℃で60時間加熱し、粉砕して製造した。次に、Mn
3GaNの粉末とMn
3GeNの粉末から、(5−1−2−1)に説明した第2の工程によってMn
3Ga
0.73Ge
0.27Nの粉末を製造した。
【0100】
そして実施例17のために、M
1をCu、M
2をGe、そしてxを0.45として、上述したMn
3M
11−xM
2xN(xは0を超え1未満)のための第1の工程および第2の工程を実施し、Mn
3Cu
0.55Ge
0.45Nの組成比の熱膨張抑制剤を製造した。Mn
3GeNとMn
3CuNの中間粉末は上述したように作製し、これらの中間粉末から、(5−1−2−1)に説明した第2の工程によってMn
3Cu
0.55Ge
0.45Nの粉末を製造した。
【0101】
[6−1−2 熱膨張抑制剤の製造:実施例11〜14]
実施例11および12のために、M
1をZn、M
2をSn、xを0.25、そしてyを0.15として、上述したMn
3+yM
11−x−yM
2xN(x、yは0を超え1未満)のための第1の工程および第2の工程を実施し、Mn
3.15Zn
0.6Sn
0.25Nの組成比の熱膨張抑制剤を製造した。具体的には、(6−1−1)に上述したようにMn
3ZnNの粉末とMn
3SnNの粉末とを製造した。また、(5−1−1−2)に説明した第1の工程によりMn
4Nの粉末を製造した。これらの中間粉末から、(5−1−2−2)に説明した第2の工程によりMn
3.15Zn
0.6Sn
0.25Nの粉末を製造した。
【0102】
また、実施例13のために、上記の工程においてxを0.4、yを0.1として、Mn
3.1Zn
0.5Sn
0.4Nの粉末を製造した。また、実施例14のために、上記の工程においてxを0.25、yを0.0.25として、Mn
3.5Zn
0.25Sn
0.25Nの粉末を製造した。
【0103】
[6−1−3 熱膨張抑制剤の製造:実施例2、5、15、16、18および19]
実施例2、5、18および19のために、M
1をZn、M
2をSn、XをB、xを0.25、そしてyを0.05として上述したMn
3M
11−xM
2xN
1−yX
y(x、yは0を超え1未満)のための第1の工程および第2の工程を実施し、Mn
3Zn
0.75Sn
0.25N
0.95B
0.05の組成比の熱膨張抑制剤を製造した。具体的には、(6−1−1)に上述したようにMn
3ZnNの粉末とMn
3SnNの粉末とを製造した。また、(5−1−1−3)に上述したようにしてMn(粉末)、Zn(粉末)、B(粉末)から、800℃で80時間の熱処理によりMn
3ZnBの粉末を製造した。Mn、Zn、Bの比率は、この順に、3:1:1.05のモル比を与える比率に混合した。そして、Mn
3ZnNの粉末とMn
3SnNの粉末とMn
3ZnBの粉末とから、(5−1−2−3)に従って800℃、60時間の加熱により、Mn
3Zn
0.75Sn
0.25N
0.95B
0.05の組成比の熱膨張抑制剤を製造した。
【0104】
また、実施例15および16のために、上記の工程においてMn
3ZnN、Mn
3SnN,Mn
3SnCを用いて、それぞれMn
3Zn
0.4Sn
0.6N
0.85C
0.15とMn
3Zn
0.4Sn
0.6N
0.88C
0.12の粉末を製造した。
【0105】
[6−2 金属複合材料の作製]
上述した各実施例のための熱膨張抑制剤の粉末と、各実施例のための単体金属または合金の粉末との混合した混合粉を準備し各組成の金属複合材料を作製した。単体金属または合金の粉末は、アルミニウム(実施例1、2、9、10、12、14、15および17〜19)、真鍮(実施例3および16、なお、ここでの真鍮はC2700(Cu65wt%Zn35wt%)とした)、鉄(実施例6)、チタン(実施例7)、銅(実施例4、5、8および11)、マグネシウム(実施例13)とした。混合比率は、熱膨張抑制剤の粉末と単体金属または合金の粉末との体積分率によって目的の比率とした。具体的には、熱膨張抑制剤の体積%対単体金属または合金の体積%で、50vol%対50vol%(実施例1、3〜7、11、13、14、16、17)、40vol%対60vol%(実施例2、8、10、18、19)、30vol%対70vol%(実施例9)、60vol%対40vol%(実施例12)、70vol%対30vol%(実施例15)とした。なお、これらの体積分率は、焼結前の熱膨張抑制剤および金属の粉末の重量から、それぞれの比重を用いて算出した。熱膨張抑制剤の比重は、粉末X線回折の結果から実験で求めた格子定数と化学組成の式(例えばMn
3.15Zn
0.6Sn
0.25N)から算出した理論値7.2を用いた。理論値の計算に必要な原子量は、文献値(「理科年表」、国立天文台編、丸善、平成11年版)を用いた。金属の比重についてはJIS規格の数値を用いた。
【0106】
実施例1〜16、18および19は、放電プラズマ焼結法を採用して焼結した。具体的には、放電プラズマ焼結装置(Syntex lab.、SPSシンテックス株式会社(日本))を利用して、各組成の金属複合材料を作製した。その動作条件は、実施例1〜12のすべてにおいて、真空雰囲気、圧力40MPaの条件の下、内径15mmの円柱状収容部をもつグラファイト製ダイを型として、通電時40ミリ秒、休止時7ミリ秒の条件でパルス電流を流して複合化した。なお、上記グラファイト製ダイの外側面に感温部を接触させた熱電対温度計の温度が目標の複合化温度になるように電流を制御した。実施例それぞれの条件は前掲表2に示したとおりとした。一例を説明すると、実施例1については、複合化温度350℃、保持時間7分であった。最大電流値は490Aであった。同様に実施例2〜16、18および19についてはも表2に明示したように複合化温度および保持時間を設定し、その際の最大電流値が得られている。
【0107】
ここで、電流の制御のための複合化温度は、金属相の組成に応じて決定している。融点が660℃であるAlを作用する実施例1、2、9、10、12、14、15、18、および19は、複合化温度を350℃とした。真鍮(融点1100℃)を採用する実施例3、16の複合化温度を600℃とした。Cu(融点1083℃)を採用する実施例4、5、8、11の複合化温度を550℃とした。Fe(融点1539℃)を採用する実施例6の複合化温度を550℃とした。Ti(融点1727℃)を採用する実施例7の複合化温度を650℃とした。Mg(融点651℃)を採用する実施例13の複合化温度を350℃とした。このように、通電焼結を用いる実施例1〜16、18、19において複合化された温度は、グラファイト製ダイの温度を、金属相となる金属材料の融点より少なくとも300℃以上低温にして複合化処理を行なった。
【0108】
また、実施例17は、冷間成形低温焼結法により金属複合材料を作製した。具体的には、プレス用金型で圧力20MPaの軸加圧によってコールドプレスして取り出し、それを石英官に真空封入した状態にて、250℃、12時間焼成条件した。
【0109】
上記の試料作製工程において、原料は全て純度99.9%以上、粒径1μm〜200μmの粉末であった。また、第1の工程により製造された各中間粉末の粒径は、粒径1〜200μmであった。各原料粉などの秤量、混合および攪拌は全て窒素ガス雰囲気にて行った。なお、用いた窒素ガスは、フィルター(DC−A4およびGC−RX、日化精工株式会社(日本))により水分と酸素を除去した。
【0110】
[6−3 線熱膨張の測定]
作製した各実施例の金属複合材料の線熱膨張ΔL/Lはつぎの二つの測定手法によって測定することが可能である。なお、これらの測定手法の使い分けは、サンプル形状により選択される。
【0111】
線熱膨張の第1の測定手法においては、レーザー光干渉型熱膨張計(例えば、LIX−2、アルバック理工株式会社(日本))により、例えば、5mm×5mm×12mmの直方体形状に整形した試料を測定する。試料は、例えば、同装置の光干渉用石英板に挟み込むために両端部を突起状に加工する。そしてその線熱膨張の測定は、例えば、液体窒素温度から220℃までの範囲にて実行することが可能である。
【0112】
線熱膨張の第2の測定手法においては、ストレインゲージ(例えば、KFL−02−120−C1−11、共和電業株式会社(日本))を用いて板状の試料を対象とする。上記ストレインゲージは、例えば、4mm×4mm×1mmの板状に整形した焼結体試料(「板状試料」)に接着剤(PC−6、共和電業株式会社(日本))により貼り付け一体化される。この一体化したものが測定用試料片となる。なお、この一体化の手順の例は、まず、板状試料に接着剤を塗布しストレインゲージを配置する。その状態のものを、文書用のダブルクリップ(例えば、J−35、コクヨ株式会社(日本))により挟み、厚み方向の圧縮荷重を印加する。つぎに、その状態で加熱し、制御された雰囲気に所定時間置いて接着剤を硬化させることにより、板状試料にストレインゲージが固着される。具体的な硬化処理は、窒素ガス1気圧の雰囲気のもと、80℃で1時間、130℃で2時間、150℃で2時間維持し、その後、ダブルクリップによる荷重を解除しさらに窒素ガス1気圧の雰囲気のもとにて150℃で2時間維持することにより接着剤を硬化させる、というものである。
【0113】
第2の線熱膨張の測定手法においては、その測定用試料片のストレインゲージの抵抗値Rが、例えば、物理特性評価システム(PPMS6000、Quantum Design Inc.(米国))により測定される。その測定のためには、例えば、事前に、参照試料(純度99.99%の無酸素銅板)を用いる参照測定によりストレインゲージを含む測定系固有の補正値が算出される。具体的には、測定用試料片と同様の条件にて同種のストレインゲージを固着させておいた参照試料を対象にすることにより、ストレインゲージ抵抗歪み値ΔR/Rを物理特性評価システムにより測定する。そしてその値を、Cuについての線膨張率の文献値(G. K. White and J. G. Collins, J. Low Temp. Phys. 7, 43 (1972)、および G. K. White, J. Phys. D: Appl. Phys. 6, 2070 (1973))と比較することより、同種のストレインゲージの抵抗歪み値の測定値から差し引くべき補正値を決定する。
【0114】
そして、測定系の動作条件を参照測定のものと同様に維持しながら測定用試料片のストレインゲージから取得される抵抗歪み値を測定し、上記補正値を差し引く。この測定により、各金属複合材料の測定用試料片についての線熱膨張ΔL/Lを算出する。
【0115】
[6−4 測定結果]
以下、各実施例における金属複合材料の線熱膨張ΔL/Lの実測値をグラフにして示す。またその結果の概要を前掲表2に示している。
図5〜
図22は、実施例1〜19の金属複合材料の線熱膨張を各基準温度T
0(数式(1))に基づき、横軸を温度、縦軸をΔL/L(10
−3の目盛)として描いたグラフである。基準温度は、100℃(実施例1、3、4、6、7、9、13、15;
図5、7、8、10、11、13、17、19)および0℃(実施例2、5、8、10〜12、14、16〜19;
図6、9、12、14〜16、18、20〜22)である。各グラフには、確認の参考のため、組成、基準温度T
0、複合化方法を併記している。実施例1〜16および実施例18,19の実測値は第1の測定手法により測定されたものである。実施例17については第2の測定手法により測定されたものである。
【0116】
[6−5 放電プラズマ焼結法の技術的利点]
上述した各実施例においては、各組合せの熱膨張抑制剤
は、変質することな
く各単体金属または合金の金属相と複合化された。
図23に、その一例をX線回折実験結果として示す。このX線回折実験結果では、CuのKα1輝線により、実施例1の金属複合材料の回折パターンを取得した。比較のため、実施例1の金属複合材料をなす金属相(Al)と熱膨張抑制剤(Mn
3Zn
0.45Sn
0.55N)がそれぞれ単独で示す回折パターンのピーク位置を、それぞれ記号にて明示している。
図23のように、実施例1の金属複合材料の示す回折ピークは、金属相のAlのものか、熱膨張抑制剤のMn
3Zn
0.45Sn
0.55Nのものかのいずれかのもののみであることが確認された。このように、放電プラズマ焼結法により複合化された実施例1の金属複合材料においては、熱膨張抑制剤が変質することなく、アルミニウムと複合化されたことを確認した。この結果は、放電プラズマ焼結法の技術的利点、つまり融点に比べて低温で、かつ、短時間の加熱により複合化が完了したため、と本願の発明者は考えている。
【0117】
[6−6 開放形の加熱が熱膨張抑制剤に与える影響]
気密性の高いグラファイト・ダイおよびパンチを用いた本発明の実施形態が、開放系かつ予熱工程を必要とする高圧浸透法に比べて極めて有効であることを、金属と複合化していない熱膨張抑制剤Mn
3.15Zn
0.6Sn
0.25Nの開放系での熱処理により確認した。
図24にはMn
3.15Zn
0.6Sn
0.25Nを窒素ガス中に800℃、12時間接触させ続けた熱膨張抑制剤Mn
3.15Zn
0.6Sn
0.25N試料についての線熱膨張の測定結果である。熱膨張抑制剤Mn
3.15Zn
0.6Sn
0.25Nは、本実施形態の実施例11および12で採用した熱膨張抑制剤であり、6−1−2に示した実施例11〜14と同様に粉末として製造した。その熱膨張抑制剤Mn
3.15Zn
0.6Sn
0.25Nの粉末は開放系で熱処理すると、その熱膨張特性が著しく変化する事を確認した。なお、熱膨張特性を測定するために、熱膨張抑制剤Mn
3.15Zn
0.6Sn
0.25Nの粉末は、5−4に示した手順により熱膨張抑制剤Mn
3.15Zn
0.6Sn
0.25Nの焼結体を得た。この開放系における熱処理による著しい変化が明快に示しているのは、気密性の高いグラファイト・ダイおよびパンチの焼結型において短時間のうちに複合化を完了する発明の実施形態の有用性である。すなわち、
図24に示すように、Znを含有するマンガン窒化物熱膨張抑制剤は、開放系において熱処理された場合その熱膨張特性が著しく変化し、熱膨張の度合いや動作温度域が変化した。この結果は、Zn系のマンガン窒化物熱膨張抑制剤を採用して単体金属または合金の粉末と複合化した金属複合材料の製造工程において、開放系での熱処理を行なうと、熱膨張特性を再現よく制御することが著しく困難になることを示している。また、組成分析のために別途測定したオージェ分析(日本電子 JAMP-7800)によれば、上記の開放系での熱処理により、熱膨張抑制剤Mn
3.15Zn
0.6Sn
0.25Nの焼結体に含有されているZnのうち少なくとも10%が、昇華・析出していることが確認された。
【0118】
[6−7 実施例に対する評価]
以上の各実施例により、本実施形態の所期
の目的のいくつかが実際に確認された。各実施例に対する評価を前掲の表2に示している。また前掲の表3には各実施例に採用した金属の線膨張係数も併記している。さらに熱膨張抑制剤のみの性質は、前掲の表4も参照されたい。
【0119】
まず、すべての実施例における金属複合材料において、熱膨張が少なくともある温度範囲において抑制されたことが確認された。しかも、すべての実施例における金属複合材料は安定して複合化が進行し、機械部品等のための素材として用いることが可能な程度の繰り返し再現性をもって製造された。
【0120】
次に、各実施例により各種の熱膨張抑制剤に対する本実施形態の適用可能性が確認された。実施例1、3、4、6または7により、熱膨張抑制剤であるMn
3Zn
0.45Sn
0.55Nを、各種の金属、つまり、Al、真鍮、Cu、またはTiである金属相に複合化させて金属複合材料を形成することに対し本実施形態が役立つことが確認された。つまり、多様な種類の単体金属または合金が実際に通電焼結による熱膨張抑制剤との複合化の対象となることを確認した。熱膨張抑制剤であるMn
3Zn
0.45Sn
0.55Nは、少なくとも122℃〜135℃の範囲にて線膨張係数が−50ppm/℃の負の熱膨張を示す材質である(表4)。そして、その負の熱膨張を示す温度範囲にほぼ対応して、複合化後の金属複合材料それぞれの線膨張係数が−32ppm/℃〜+5ppm/℃の範囲で制御された(表2)。ここで、Al、真鍮、Cu、Fe、Tiの、この温度における線膨張係数はそれぞれ、約23ppm/℃、約18ppm/℃、約17ppm/℃、約12ppm/℃、約9ppm/℃である(表3)。したがって、実施例1、3、4、6または7により、顕著な熱膨張抑制効果が得られ、広い範囲で線膨張係数が制御可能であることが実証された。
【0121】
実施例2または5により、熱膨張抑制剤であるMn
3Zn
0.75Sn
0.25N
0.95B
0.05を、各種の金属、つまり、AlまたはCuである金属相に複合化させて金属複合材料を形成することに対し本実施形態が役立つことが確認された。熱膨張抑制剤であるMn
3Zn
0.75Sn
0.25N
0.95B
0.05は、少なくとも25℃〜45℃の範囲にて線膨張係数が−29ppm/℃の負の熱膨張を示す材質である(表4)。そして、その負の熱膨張を示す温度範囲にほぼ対応して、複合化後の金属複合材料それぞれの線膨張係数が−16ppm/℃〜+1ppm/℃の範囲で制御された(表3)。ここで、Al、Cuの、この温度における線膨張係数はそれぞれ、約23ppm/℃、約17ppm/℃である(表3)。したがって、実施例2または5により、顕著な熱膨張抑制効果が得られ、広い範囲で線膨張係数が制御可能であることが実証された。
【0122】
実施例8または10により、熱膨張抑制剤であるMn
3Cu
0.5Sn
0.5Nを、各種の金属、つまり、CuまたはAlである金属相に複合化させ金属複合材料を形成することに対し本実施形態が役立つことが確認された。熱膨張抑制剤であるMn
3Cu
0.5Sn
0.5Nは、少なくとも40℃〜60℃の範囲にて線膨張係数が−27ppm/℃の負の熱膨張を示す材質である(表4)。そして、その負の熱膨張を示す温度範囲にほぼ対応して、複合化後の金属複合材料それぞれの線膨張係数が−8ppm/℃〜+3ppm/℃の範囲で制御された(表2)。ここで、Cu、Alの、この温度における線膨張係数はそれぞれ、約17ppm/℃、約23ppm/℃である(表3)。したがって、実施例8または10により、顕著な熱膨張抑制効果が得られ、広い範囲で線膨張係数が制御可能であることが実証された。
【0123】
実施例9により、熱膨張抑制剤であるMn
3Ga
0.73Ge
0.27Nを、各種の金属、つまりAlである金属相に複合化させて金属複合材料を形成することに対し本実施形態が役立つことが確認された。熱膨張抑制剤であるMn
3Ga
0.73Ge
0.27Nは、少なくとも130℃〜160℃の範囲にて線膨張係数が−35ppm/℃の負の熱膨張を示す材質である(表4)。そして、その負の熱膨張を示す温度範囲にほぼ対応して、複合化後の金属複合材料の線膨張係数がおよそ5ppm/℃以内に制御された(表2)。ここで、Alの、この温度における線膨張係数は約23ppm/℃である(表3)。したがって、実施例9により、顕著な熱膨張抑制効果が得られることが実証された。
【0124】
実施例11または12により、熱膨張抑制剤であるMn
3.15Zn
0.6Sn
0.25Nを、各種の金属、つまりCuまたはAlである金属相に複合化させて金属複合材料を形成することに対して本実施形態が役立つことが確認された。熱膨張抑制剤であるMn
3.15Zn
0.6Sn
0.25Nは、少なくとも10℃〜50℃の範囲にて線膨張係数が−21ppm/℃の負の熱膨張を示す材質である(表4)。そして、その負の熱膨張を示す温度範囲にほぼ対応して、複合化後の金属複合材料の線膨張係数が4ppm/℃〜7ppm/℃の範囲で制御された(表2)。ここで、Cu、Alの、この温度における線膨張係数はそれぞれ、約17ppm/℃、約23ppm/℃である(表3)。したがって、実施例11または12により、顕著な熱膨張抑制効果が得られることが実証された。
【0125】
実施例13により、熱膨張抑制剤であるMn
3.1Zn
0.5Sn
0.4Nを、各種の金属、つまりMgである金属相に複合化させて金属複合材料を形成することに対して本実施形態が役立つことが確認された。熱膨張抑制剤であるMn
3.1Zn
0.5Sn
0.4Nは、少なくとも50℃〜75℃の範囲にて線膨張係数が−23ppm/℃の負の熱膨張を示す材質である(表4)。そして、その負の熱膨張を示す温度範囲にほぼ対応して、複合化後の金属複合材料の線膨張係数がおよそ1ppm/℃に制御された(表2)。ここで、Mgの、この温度における線膨張係数は約25ppm/℃である(表3)。したがって、実施例13により、顕著な熱膨張抑制効果が得られることが実証された。
【0126】
実施例14により、熱膨張抑制剤であるMn
3.5Zn
0.25Sn
0.25Nを、各種の金属、つまりAlである金属相に複合化させて金属複合材料を形成することに対して本実施形態役立つことが確認された。熱膨張抑制剤であるMn
3.5Zn
0.25Sn
0.25Nは、少なくとも−120℃〜15℃の範囲にて線膨張係数が±1ppm/℃以内の低熱膨張を示す材質である(表4)。そして、その低熱膨張を示す温度範囲にほぼ対応して、複合化後の金属複合材料の線膨張係数がおよそ10ppm/℃に制御された(表2)。ここで、Alの、この温度における線膨張係数は約23ppm/℃である(表3)。したがって、実施例14により、−120℃〜7℃という広い温度範囲で顕著な熱膨張抑制効果が得られることが実証された。
【0127】
実施例15により、熱膨張抑制剤であるMn
3Zn
0.4Sn
0.6N
0.85C
0.15を、各種の金属、つまりAlである金属相に複合化させて金属複合材料を形成することに対して本実施形態が役立つことが確認された。熱膨張抑制剤であるMn
3Zn
0.4Sn
0.6N
0.85C
0.15は、少なくとも45℃〜100℃の範囲にて線膨張係数が−8ppm/℃の負の熱膨張を示す材質である(表4)。そして、その負の熱膨張を示す温度範囲にほぼ対応して、複合化後の金属複合材料の線膨張係数がおよそ1ppm/℃に制御された(表2)。ここで、Alの、この温度における線膨張係数は約23ppm/℃である(表3)。したがって、実施例15により、顕著な熱膨張抑制効果が得られることが実証された。
【0128】
実施例16により、熱膨張抑制剤であるMn
3Zn
0.4Sn
0.6N
0.88C
0.12を、各種の金属、つまり真鍮である金属相に複合化させて金属複合材料を形成することに対して本実施形態が役立つことが確認された。熱膨張抑制剤であるMn
3Zn
0.4Sn
0.6N
0.88C
0.12は、少なくとも20℃〜60℃の範囲にて線膨張係数が−23ppm/℃の負の熱膨張を示す材質である(表4)。そして、その負の熱膨張を示す温度範囲にほぼ対応して、複合化後の金属複合材料の線膨張係数がおよそ3ppm/℃に制御された(表2)。ここで、Alの、この温度における線膨張係数は約23ppm/℃である(表3)。したがって、実施例16により、顕著な熱膨張抑制効果が得られることが実証された。
【0129】
そして、実施例17により、熱膨張抑制剤であるMn
3Cu
0.55Ge
0.45Nを、各種の金属、つまりAlである金属相に複合化させて金属複合材料を形成することに対し本実施形態が役立つことが確認された。熱膨張抑制剤であるMn
3Cu
0.55Ge
0.45Nは、少なくとも−15℃〜50℃の範囲にて線膨張係数が−15ppm/℃の負の熱膨張を示す材質である(表4)。そして、その負の熱膨張を示す温度範囲にほぼ対応して、複合化後の金属複合材料は線熱膨張が150ppm以内に抑えられた(表2)。これは線膨張係数の平均値が±2.5ppm/℃以内に抑制できていることに相当する。ここで、Alの、この温度における線膨張係数は約25ppm/℃である(表3)。したがって、実施例17により、顕著な熱膨張抑制効果が得られることが実証された。
【0130】
さらに、各実施例により各種の粉末冶金の手法に対する本実施形態の適用可能性が確認された。すなわち、実施例1〜16および実施例18、19と、実施例17との対比により、本実施形態が放電プラズマ焼結とともに冷間成形低温焼結法においても実施されることが確認された。
【0131】
加えて、各実施例により各種の金属相に対する本実施形態の適用可能性が確認された。すなわち、実施例1、3、4、6および7の相互の対比により、本実施形態において、金属相の材質が、Al(融点約660℃)、真鍮(融点約1100℃、ただし、組成に依存)、Cu(融点約1083℃)、Fe(融点約1539℃)、Ti(融点約1727℃)と融点が大きく変化していても同一の熱膨張抑制剤であるMn
3Zn
0.45Sn
0.55Nが複合化されること、そして、作製された金属複合材料において類似の温度範囲において熱膨張抑制作用が実現されることが確認された。特に、実施例1、3、4、6および7により、融点の高さから高圧浸透法を適用して複合化すること自体が難しかった真鍮、Cu、Fe、Tiを複合化のための金属相として採用しうることが確認された。また、実施例1、3、4、6および7により、高圧浸透法においてZnの昇華・析出のために採用が難しかった熱膨張抑制剤であるMn
3Zn
0.45Sn
0.55Nを、融点の高い各種の金属相に複合化させて金属複合材料を形成することに対し本実施形態が役立つことが確認された。
【0132】
より具体的には、実施例1と2の対比、および、実施例4と5の対比により、Mn
4−x−yZn
xSn
yN
1−zB
z(ただし、0.45≦x≦0.75、0.25≦y≦0.55、0≦z≦0.05)と一般式により表現される熱膨張抑制剤において、値の組(x、y、z)が、(0.45、0.55、0)、および、(0.75、0.25、0.05)の条件において、Al、Cuの金属相を選択しても複合化することが可能であり、本実施形態が役立つことが確認された。とりわけ、これらの対比に、実施例11〜14それぞれを加えると、Mn
4−x−yZn
xSn
yN
1−zB
z(ただし、0.25≦x≦0.75、0.25≦y≦0.55、0≦z≦0.05)と表現される一般式において、値の組(x、y、z)が、(0.6、0.25、0)、(0.5、0.4、0)および(0.25、0.25、0)となるMnが多い条件において、Al、Cu、Mgの金属相を選択しても複合化することが可能であり、本実施形態が役立つことも確認された。実施例としての測定値は示さないが、Mn
4−x−yZn
xSn
yN
1−zB
zの熱膨張抑制剤は、値の組(x、y、z)が、0.45≦x≦0.75、0.25≦y≦0.55、0≦z≦0.05を満たすすべての条件において、各種の金属相に対し安定して複合化することが可能であった。
【0133】
加えて、実施例1と15の対比、および、実施例3と16の対比により、Mn
4−x−yZn
xSn
yN
1−zC
z(ただし、0.25≦x≦0.75、0.25≦y≦0.55、0≦z≦0.15)と一般式により表現される熱膨張抑制剤において、値の組(x、y、z)が、(0.45、0.55、0)、(0.4、0.6、0.12)、および(0.4、0.6、0.15)の条件において、Al、真鍮の金属相を選択しても複合化することが可能であり、本実施形態が役立つことが確認された。上述したMn
4−x−yZn
xSn
yN
1−zB
z(ただし、0.45≦x≦0.75、0.25≦y≦0.55、0≦z≦0.05)との一般式により表現される熱膨張抑制剤と合わせ、Mn
4−x−yZn
xSn
yN
1−zX
z(ただし、0.25≦x≦0.75、0.25≦y≦0.55、0≦z≦0.15、XはBまたはC)と一般式により表現される熱膨張抑制剤において、各種の金属相に対し安定して複合化させうることを確認した。
【0134】
さらに加えて、各実施例により様々な温度域における様々な熱膨張への本実施形態の適用可能性が確認された。すなわち、実施例1、2、9、10、12、14、15および17の相互の対比により、本実施形態において、同一の金属相Alに対し様々な温度域、例えば−100℃〜157℃において、様々な線膨張係数、例えば−32ppm/℃〜+10ppm/℃、を実現することが可能であることが確認された。Alをベースとする1種の金属材料でこのように広い範囲にわたり線膨張係数が制御できることは、本発明の金属複合材料の汎用性を示すものとして特筆できる。
【0135】
本実施形態の手法が熱膨張制御の再現性に極めて優れていることは、本実施形態により複合化された金属複合材料の熱膨張特性が、通電焼結の条件変更に対して大きく変化せず高い精度で再現されることにより示される。実施例2、18および19の対比により、この性質は実証される。実施例18および19では、熱膨張抑制剤としてMn
3Zn
0.75Sn
0.25N
0.95B
0.05(40vol%)、金属・合金マトリックスとしてAl(60vol%)からなる複合材料を、複合に際しての保持時間のみを2分(実施例18)、60分(実施例19)と変えて作製した。つまり実施例18および19は、実施例2と同一の金属複合材料を採用し、複合化の保持時間のみを変更したものである。
図22には、実施例2、18、19において測定された線膨張を示している。
図22に示すように、実施例2、18および19においては、熱膨張特性は高い精度で再現されている。しかも、実施例2、18および19のいずれにおいても、例えば熱膨張抑制剤と金属の混合比を調整することにより、例えば±1ppm/℃以内という高い精度で25℃〜45℃の温度域の線膨張係数を制御することが可能である。このように、本実施形態の手法による線膨張係数の制御は、保持時間といった通電焼結の条件に対して大きな依存性を示さず、極めて優れた再現性を有していることが実証された。
【0136】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。上述の実施形態、変形例、および実施例は、いずれも、本出願において開示される発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき定められるべきものである。実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。