(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
気筒内に噴射された燃料を自己着火により燃焼させる圧縮自己着火式エンジンに設けられ、所定の自動停止条件が成立したときに上記エンジンを自動停止させるとともに、その後所定の再始動条件が成立したときに、エンジンの停止時に圧縮行程にある停止時圧縮行程気筒のピストンの停止位置が相対的に下死点寄りに設定された基準停止位置範囲内にある場合は、スタータモータを用いて上記エンジンに回転力を付与しつつ、上記停止時圧縮行程気筒に燃料噴射を実行することにより、上記エンジンを再始動させる圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置であって、
上記エンジンの自動停止条件が成立するのに伴い、気筒への燃料供給を停止する燃料カットを実行すると共に、エンジンの吸気通路に開閉可能に設けられた吸気絞り弁の開度をエンジンが完全停止するまで0%に維持する自動停止制御部と、
上記燃料カットからの経過時間であるエンジンの停止時間が短いほど上記基準停止位置範囲を上死点側に拡大する再始動制御部とを備えることを特徴とする圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンに代表される圧縮自己着火式エンジンは、一般に、ガソリンエンジンのような火花点火式エンジンよりも熱効率に優れ、排出されるCO
2の量も少ないことから、近年、車載用エンジンとして広く普及しつつある。
【0003】
上記のような圧縮自己着火式エンジンにおいて、より一層のCO
2の削減を図るには、アイドル運転時等にエンジンを自動的に停止させ、その後車両の発進操作等が行われたときにエンジンを自動的に再始動させる、いわゆるアイドルストップ制御の技術を採用することが有効であり、そのことに関する種々の研究もなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、所定の自動停止条件が成立したときにディーゼルエンジンを自動的に停止させ、所定の再始動条件が成立すると、スタータモータを駆動してエンジンに回転力を付与しつつ燃料噴射を実行してディーゼルエンジンを再始動させるディーゼルエンジンの制御装置が開示されている。そして、エンジンの停止時(停止完了時)に圧縮行程にある気筒(停止時圧縮行程気筒)のピストン停止位置に基づき、最初に燃料を噴射する気筒を可変的に設定することが記載されている。
【0005】
より具体的には、ディーゼルエンジンが自動停止されると、その時点で圧縮行程にある停止時圧縮行程気筒のピストン位置を求め、そのピストン位置が相対的に下死点寄りに予め設定された基準停止位置範囲内にあるか否かを判定し、基準停止位置範囲内にあるときには、エンジンを再始動させる際に、上記停止時圧縮行程気筒に最初に燃料を噴射する一方、基準停止位置範囲よりも上死点側にあるときには、エンジン全体として1回目の上死点を越えて、停止時吸気行程気筒(エンジンの停止時に吸気行程にある気筒)が圧縮行程を迎えたときに、該気筒に最初に燃料を噴射するようにしている。
【0006】
このような構成によれば、停止時圧縮行程気筒のピストンが上記基準停止位置範囲内にあるときには、停止時圧縮行程気筒に燃料を噴射することにより、その燃料を確実に自己着火させることができ、比較的短時間でエンジンを迅速に再始動させることができる(これを便宜上「1圧縮始動」という)。一方、停止時圧縮行程気筒のピストンが上記基準停止位置範囲から上死点側に外れているときには、そのピストンによる圧縮ストローク量(圧縮代)が少なく気筒内の空気が十分に高温化しないことから、停止時圧縮行程気筒に燃料を噴射しても失火が起きるおそれがある。そこで、このような場合には、停止時圧縮行程気筒ではなく停止時吸気行程気筒に燃料を噴射することにより、筒内の空気を十分に圧縮して確実に燃料を自己着火させることができる(これを便宜上「2圧縮始動」という)。
【0007】
また、エンジンの自動停止制御に関しては、例えば特許文献2には、エンジンの自動停止制御の前半期間では吸気弁の開弁を抑制することにより、気筒内への新気の導入を抑制して、筒内温度の低下を抑制し、エンジン再始動時のグロー通電を抑制し得るディーゼルエンジンが開示されている。なお、エンジンの自動停止制御の後半期間では吸気弁が開弁されて、気筒内に新気が導入される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、停止時圧縮行程気筒のピストンが基準停止位置範囲内にあるときには速やかにエンジンを再始動できるものの、上記基準停止位置範囲から上死点側に外れてしまった場合には、停止時吸気行程気筒に燃料を噴射する必要があるため、停止時吸気行程気筒のピストンが圧縮上死点付近に到達するまでは(つまりエンジン全体として2回目の上死点を迎えるまでは)、燃料噴射に基づく自己着火を行わせることができず、再始動時間(スタータモータの駆動開始から完爆までの時間)が長くなってしまうという問題がある。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、圧縮自己着火式エンジンを再始動させる際に、できるだけ高い頻度でエンジンを1圧縮始動で迅速に再始動させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、気筒内に噴射された燃料を自己着火により燃焼させる圧縮自己着火式エンジンに設けられ、所定の自動停止条件が成立したときに上記エンジンを自動停止させるとともに、その後所定の再始動条件が成立したときに、エンジンの停止時に圧縮行程にある停止時圧縮行程気筒のピストンの停止位置が相対的に下死点寄りに設定された基準停止位置範囲内にある場合は、スタータモータを用いて上記エンジンに回転力を付与しつつ、上記停止時圧縮行程気筒に燃料噴射を実行することにより、上記エンジンを再始動させる圧縮自己着火式エンジンの始動制御装置であって、
上記エンジンの自動停止条件が成立するのに伴い、気筒への燃料供給を停止する燃料カットを実行すると共に、エンジンの吸気通路に開閉可能に設けられた吸気絞り弁の開度をエンジンが完全停止するまで0%に維持する自動停止制御部と、上記燃料カットからの経過時間であるエンジンの停止時間が短いほど上記基準停止位置範囲を上死点側に拡大する
再始動制御部とを備えることを特徴とするものである(請求項1)。
【0012】
一般に、エンジンの自動停止制御によってエンジンが停止した時点では、停止時圧縮行程気筒内にはピストンが下死点(TDC)又は吸気弁の閉弁(IVC)タイミングに対応する位置から停止クランク角に対応する位置までストロークした分だけ新気が圧縮された状態で残っている。また、エンジン停止直後(例えば燃料カットからの経過時間が2秒以内等)は、オイル等がピストンやライナー等に比較的多量に残っているため、筒内からの空気漏れが抑制される。そして、その後、時間の経過とともに、停止時圧縮行程気筒内の空気は徐々に抜けていく。そのため、エンジンの自動停止制御によるエンジンの停止時間が短いほど、停止時圧縮行程気筒の筒内圧ないし筒内温度は相対的に高い値が維持される。同様に、エンジンの自動停止制御によってエンジンが停止した時点では、停止時圧縮行程気筒内の雰囲気温度はライナーの高温により高い状態で残っている。そして、その後、時間の経過とともに、停止時圧縮行程気筒内の温度は放熱により徐々に低下していく。そのため、エンジンの自動停止制御によるエンジンの停止時間が短いほど、停止時圧縮行程気筒の筒内温度は相対的に高い値が維持される。
【0013】
したがって、エンジンの自動停止制御によるエンジンの停止時間が相対的に短いときは、たとえ停止時圧縮行程気筒のピストンが上死点寄りに位置していて圧縮ストローク量が少なくても、上死点まで圧縮したときに、気筒内の空気が充分に高圧化し、その結果、燃料の着火温度まで充分に高温化する可能性が高くなり、失火のおそれが低くなるから、停止時圧縮行程気筒に燃料を噴射しても、燃料を自己着火させて1圧縮始動できる可能性が高くなる。
【0014】
以上のことから、本発明によれば、エンジンの自動停止制御によるエンジンの停止時間が相対的に短いときは、相対的に長いときに比べて、停止時圧縮行程気筒に燃料を噴射してエンジンを再始動させる1圧縮始動を行うか否かの判定に用いる基準停止位置範囲を上死点側に拡大するので、結果として、1圧縮始動が行われる確率が高くなる。そのため、圧縮自己着火式エンジンを再始動させる際に、できるだけ高い頻度でエンジンを1圧縮始動で迅速に再始動させることが可能となる。しかも、上述したように、エンジンの自動停止制御によるエンジンの停止時間が相対的に短いときは、圧縮時に気筒内の空気が充分に高温化する可能性が高いから、良好な1圧縮始動が実現する。
【0015】
ここで、エンジンの自動停止制御によるエンジンの停止時間とは、例えば、エンジンの自動停止制御の開始時刻からエンジンの再始動制御の開始時刻までの時間等をいう。また、エンジンの自動停止制御の開始時刻とは、例えば、自動停止条件の成立時刻〜燃料噴射の停止(燃料カット)時刻の範囲にあるいずれかの時刻等であり、エンジンの再始動制御の開始時刻とは、例えば、再始動条件の成立時刻〜スタータモータの駆動開始時刻の範囲にあるいずれかの時刻等である。
【0016】
本発明において、好ましくは、上記
再始動制御部は、エンジンの自動停止制御の開始時の筒内温度が高いほど上記基準停止位置範囲を上死点側に拡大する(請求項2)。
【0017】
この構成によれば、エンジンの停止時間以外の環境的要因(エンジンの自動停止制御の開始時の筒内温度)により圧縮時に気筒内の空気が充分に高温化する可能性が高いときは、1圧縮始動が行われる確率がさらに高まり、エンジンをより一層迅速、良好に再始動させることが可能となる。
【0018】
本発明において、好ましくは、上記
再始動制御部は、エンジンの再始動制御の開始時のエンジン冷却水温が高いほど上記基準停止位置範囲を上死点側に拡大する(請求項3)。
【0019】
この構成によっても、また、エンジンの停止時間以外の環境的要因(エンジンの再始動制御の開始時のエンジン冷却水温)により圧縮時に気筒内の空気が充分に高温化する可能性が高いときは、1圧縮始動が行われる確率がさらに高まり、エンジンをより一層迅速、良好に再始動させることが可能となる。
【0020】
なお、エンジンの停止時間以外の環境的要因としては、他に、外気温度、すなわち気筒内に導入される新気の温度(吸気温度)や、大気圧、すなわち気筒内に導入される新気の圧力(吸気圧力)等が挙げられる。例えば、上記制御手段は、エンジンの自動停止制御中の吸気温度が高いほど、あるいはエンジンの自動停止制御中の吸気圧力が高いほど、上記基準停止位置範囲を上死点側に拡大することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、圧縮自己着火式エンジンを再始動させる際に、できるだけ高い頻度でエンジンを1圧縮始動で迅速に再始動させることができる。そのため、エンジンの再始動に長い時間がかかるという違和感が減少する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る始動制御装置が適用されたディーゼルエンジンの全体構成を示すシステム構成図である。本図に示されるディーゼルエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼルエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、いわゆる直列4気筒型のものであり、紙面に直交する方向に列状に並ぶ4つの気筒2A〜2Dを有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2A〜2Dにそれぞれ往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
【0024】
上記ピストン5の上方には燃焼室6が形成されており、この燃焼室6には、後述する燃料噴射弁15から噴射される燃料(軽油)が供給される。そして、噴射された燃料が、ピストン5の圧縮作用により高温・高圧化した燃焼室6で自着火し(圧縮自己着火)、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動するようになっている。
【0025】
上記ピストン5は図外のコネクティングロッドを介してクランクシャフト7と連結されており、上記ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて上記クランクシャフト7が中心軸回りに回転するようになっている。
【0026】
ここで、図示のような4サイクル4気筒のディーゼルエンジンでは、各気筒2A〜2Dに設けられたピストン5が、クランク角で180°(180°CA)の位相差をもって上下運動する。このため、各気筒2A〜2Dでの燃焼(燃料噴射)のタイミングは、180°CAずつ位相をずらしたタイミングに設定される。具体的には、気筒2A,2B,2C,2Dの気筒番号をそれぞれ1番、2番、3番、4番とすると、1番気筒2A→3番気筒2C→4番気筒2D→2番気筒2Bの順に燃焼が行われる。このため、例えば1番気筒2Aが膨張行程であれば、3番気筒2C、4番気筒2D、2番気筒2Bは、それぞれ、圧縮行程、吸気行程、排気行程となる。
【0027】
上記シリンダヘッド4には、各気筒2A〜2Dの燃焼室6に開口する吸気ポート9および排気ポート10と、各ポート9,10を開閉可能に閉止する吸気弁11および排気弁12とが設けられている。なお、吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト等を含む動弁機構13,14により、クランクシャフト7の回転に連動して開閉駆動される。
【0028】
また、上記シリンダヘッド4には、燃料噴射弁15が各気筒2A〜2Dにつき1つずつ設けられている。各燃料噴射弁15は、蓄圧室としてのコモンレール20と分岐管21を介してそれぞれ接続されている。コモンレール20には、燃料供給ポンプ23から燃料供給管22を通じて供給された燃料(軽油)が高圧状態で蓄えられており、このコモンレール20内で高圧化された燃料が分岐管21を通じて各燃料噴射弁15にそれぞれ供給されるようになっている。
【0029】
各燃料噴射弁15は、複数の噴孔を有する噴射ノズルが先端部に設けられた電磁式のニードル弁からなり、その内部に、上記噴射ノズルに通じる燃料通路と、電磁力により作動して上記燃料通路を開閉するニードル状の弁体とを有している(いずれも図示省略)。そして、通電による電磁力で上記弁体が開方向に駆動されることにより、コモンレール20から供給された燃料が上記噴射ノズルの各噴孔から燃焼室6に向けて直接噴射されるようになっている。
【0030】
上記シリンダブロック3やシリンダヘッド4の内部には、冷却水が流通する図外のウォータジャケットが設けられており、このウォータジャケット内の冷却水の温度を検出するための水温センサSW1が、上記シリンダブロック3に設けられている。
【0031】
また、上記シリンダブロック3には、クランクシャフト7の回転角度および回転速度を検出するためのクランク角センサSW2が設けられている。このクランク角センサSW2は、クランクシャフト7と一体に回転するクランクプレート25の回転に応じてパルス信号を出力する。
【0032】
具体的に、上記クランクプレート25の外周部には、一定ピッチで並ぶ多数の歯が突設されており、その外周部における所定範囲には、基準位置を特定するための歯欠け部25a(歯の存在しない部分)が形成されている。そして、このように基準位置に歯欠け部25aを有したクランクプレート25が回転し、それに基づくパルス信号が上記クランク角センサSW2から出力されることにより、クランクシャフト7の回転角度(クランク角)および回転速度(エンジン回転速度)が検出されるようになっている。
【0033】
一方、上記シリンダヘッド4には、動弁用のカムシャフト(図示省略)の角度を検出するためのカム角センサSW3が設けられている。カム角センサSW3は、カムシャフトと一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じて、気筒判別用のパルス信号を出力するものである。
【0034】
すなわち、上記クランク角センサSW2から出力されるパルス信号の中には、上述した歯欠け部25aに対応して360°CAごとに生成される無信号部分が含まれるが、その情報だけでは、例えばピストン5が上昇しているときに、それがどの気筒の圧縮行程または排気行程にあたるのか判別することができない。そこで、720°CAごとに1回転するカムシャフトの回転に基づきカム角センサSW3からパルス信号を出力させ、その信号が出力されるタイミングと、上記クランク角センサSW2の無信号部分のタイミング(歯欠け部25aの通過タイミング)とに基づいて、気筒判別を行うようにしている。
【0035】
上記吸気ポート9および排気ポート10には、吸気通路28および排気通路29がそれぞれ接続されている。すなわち、外部からの吸入空気(新気)が上記吸気通路28を通じて燃焼室6に供給されるとともに、燃焼室6で生成された排気ガス(燃焼ガス)が上記排気通路29を通じて外部に排出されるようになっている。
【0036】
上記吸気通路28のうち、エンジン本体1から所定距離上流側までの範囲は、気筒2A〜2Dごとに分岐した分岐通路部28aとされており、各分岐通路部28aの上流端がそれぞれサージタンク28bに接続されている。このサージタンク28bよりも上流側には、単一の通路からなる共通通路部28cが設けられている。
【0037】
上記共通通路部28cには、各気筒2A〜2Dに流入する空気量(吸気流量)を調節するための吸気絞り弁30が設けられている。吸気絞り弁30は、エンジンの運転中は基本的に全開もしくはこれに近い高開度に維持されており、エンジンの停止時等の必要時にのみ閉弁されて吸気通路28を遮断するように構成されている。
【0038】
上記サージタンク28bには、吸気圧力を検出するための吸気圧センサSW4が設けられており、上記サージタンク28bと吸気絞り弁30との間の共通通路部28cには、吸気流量を検出するためのエアフローセンサSW5が設けられている。
【0039】
上記クランクシャフト7には、タイミングベルト等を介してオルタネータ32が連結されている。このオルタネータ32は、図外のフィールドコイルの電流を制御して発電量を調節するレギュレータ回路を内蔵しており、車両の電気負荷やバッテリの残容量等から定められる発電量の目標値(目標発電電流)に基づき、クランクシャフト7から駆動力を得て発電を行うように構成されている。
【0040】
上記シリンダブロック3には、エンジンを始動するためのスタータモータ34が設けられている。このスタータモータ34は、モータ本体34aと、モータ本体34aにより回転駆動されるピニオンギア34bとを有している。上記ピニオンギア34bは、クランクシャフト7の一端部に連結されたリングギア35と離接可能に噛合している。そして、上記スタータモータ34を用いてエンジンを始動する際には、ピニオンギア34bが所定の噛合位置に移動して上記リングギア35と噛合し、ピニオンギア34bの回転力がリングギア35に伝達されることにより、クランクシャフト7が回転駆動されるようになっている。
【0041】
(2)制御システム
以上のように構成されたエンジンは、その各部がECU(電子制御ユニット)50により統括的に制御される。ECU50は、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されたマイクロプロセッサであり、本発明に係る制御手段に相当する。
【0042】
上記ECU50には、各種センサから種々の情報が入力される。すなわち、ECU50は、エンジンの各部に設けられた上記水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、吸気圧センサSW4、およびエアフローセンサSW5と電気的に接続されており、これら各センサSW1〜SW5からの入力信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、エンジン回転速度、気筒判別、吸気圧力、吸気流量等の種々の情報を取得する。
【0043】
また、ECU50には、車両に設けられた各種センサ(SW6〜SW9)からの情報も入力される。すなわち、車両には、運転者により踏み込み操作されるアクセルペダル36の開度を検出するためのアクセル開度センサSW6と、ブレーキペダル37のON/OFF(ブレーキの有無)を検出するためのブレーキセンサSW7と、車両の走行速度(車速)を検出するための車速センサSW8と、バッテリ(図示省略)の残容量を検出するためのバッテリセンサSW9とが設けられている。ECU50は、これら各センサSW6〜SW9からの入力信号に基づいて、アクセル開度、ブレーキの有無、車速、バッテリの残容量といった情報を取得する。
【0044】
上記ECU50は、上記各センサSW1〜SW9からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。具体的に、ECU50は、上記燃料噴射弁15、吸気絞り弁30、オルタネータ32、およびスタータモータ34と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
【0045】
上記ECU50が有するより具体的な機能について説明する。ECU50は、例えばエンジンの通常運転時に、運転条件に基づき定められる所要量の燃料を燃料噴射弁15から噴射させたり、車両の電気負荷やバッテリの残容量等に基づき定められる所要発電量をオルタネータ32に発電させる等の基本的な機能を有する他、予め定められた特定の条件下でエンジンを自動的に停止させ、または再始動させる機能をも有している。このため、ECU50は、エンジンの自動停止または再始動制御に関する機能的要素として、自動停止制御部51および再始動制御部52を有している。
【0046】
上記自動停止制御部51は、エンジンの運転中に、予め定められたエンジンの自動停止条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを自動停止させる制御を実行するものである。
【0047】
例えば、車両が停止状態にあること等の複数の条件が揃い、エンジンを停止させても支障のない状態であることが確認された場合に、自動停止条件が成立したと判定する。そして、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止(燃料カット)する等により、エンジンを停止させる。
【0048】
上記再始動制御部52は、エンジンが自動停止した後、予め定められた再始動条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを再始動させる制御を実行するものである。
【0049】
例えば、車両を発進させるために運転者がアクセルペダル36を踏み込むなどして、エンジンを始動させる必要が生じたときに、再始動条件が成立したと判定する。そして、スタータモータ34を駆動してクランクシャフト7に回転力を付与しつつ、燃料噴射弁15からの燃料噴射を再開させることにより、エンジンを再始動させる。
【0050】
(3)自動停止制御
次に、エンジン自動停止制御を司るECU50の自動停止制御部51の具体的制御動作の一例について、
図2のフローチャートを用いて説明する。
【0051】
図2のフローチャートに示す処理がスタートすると、自動停止制御部51は、各種センサ値を読み込む(ステップS1)。具体的には、水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、吸気圧センサSW4、エアフローセンサSW5、アクセル開度センサSW6、ブレーキセンサSW7、車速センサSW8、およびバッテリセンサSW9からそれぞれの検出信号を読み込み、これらの信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、エンジン回転速度、気筒判別、吸気圧力、吸気流量、アクセル開度、ブレーキの有無、車速、バッテリの残容量等の各種情報を取得する。
【0052】
次いで、自動停止制御部51は、上記ステップS1で取得された情報に基づいて、エンジンの自動停止条件が成立しているか否かを判定する(ステップS2)。例えば、車両が停止していること(車速=0km/h)、アクセルペダル36の開度がゼロ(アクセルOFF)であること、ブレーキペダル37が操作中(ブレーキON)であること、エンジンの冷却水温が所定値以上(温間状態)にあること、バッテリの残容量が所定値以上であること、等の複数の条件が全て揃ったときに、自動停止条件が成立したと判定する。なお、車速については、必ずしも完全停止(車速=0km/h)を条件とする必要はなく、所定の低車速以下(例えば3km/以下)という条件を設定してもよい。
【0053】
上記ステップS2でYESと判定されて自動停止条件が成立したことが確認された場合、自動停止制御部51は、吸気絞り弁30の開度を全閉(0%)に設定する(ステップS3)。すなわち、上記自動停止条件が成立した時点で、吸気絞り弁30の開度を、アイドル運転時に設定される所定の開度(例えば30%)から、全閉(0%)まで低下させる。
【0054】
次いで、自動停止制御部51は、燃料噴射弁15を常に閉状態に維持することにより、燃料噴射弁15からの燃料の供給を停止(燃料カット)する(ステップS4)。
【0055】
次いで、自動停止制御部51は、エンジン回転速度が0rpmであるか否かを判定することにより、エンジンが完全停止したか否かを判定する(ステップS5)。そして、エンジンが完全停止していれば、自動停止制御部51は、例えば、吸気絞り弁30の開度を、通常運転時に設定される所定の開度(例えば80%等)に設定する等して(ステップS6)、この自動停止制御はエンドとなる。
【0056】
(4)再始動制御
次に、エンジン再始動制御を司るECU50の再始動制御部52の具体的制御動作の一例について、
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0057】
図3のフローチャートに示す処理がスタートすると、再始動制御部52は、各種センサ値に基づいて、エンジンの再始動条件が成立しているか否かを判定する(ステップS21)。例えば、車両発進のためにアクセルペダル36が踏み込まれたこと(アクセルON)、バッテリの残容量が低下したこと、エンジンの冷却水温が所定値未満(冷間状態)になったこと、エンジンの停止継続時間(自動停止後の経過時間)が所定時間を越えたこと、等の条件の少なくとも1つが成立したときに、再始動条件が成立したと判定する。
【0058】
上記ステップS21でYESと判定されて再始動条件が成立したことが確認された場合、再始動制御部52は、燃料カットからの経過時間が所定時間(例えば2秒等)以内か否かを判定する(ステップS22)。ここで、上記燃料カットとは、
図2に示した自動停止制御のステップS4で行われる燃料カットのことである。上記ステップS4で行われる燃料カットの開始時刻は、エンジンの自動停止制御の開始時刻である。つまり、ステップS22では、エンジンの自動停止制御によるエンジンの停止時間が所定時間以内か否かを判定する。
【0059】
上記ステップS22でNOと判定されたとき、つまりエンジンの自動停止制御によるエンジンの停止時間が所定時間を超えて長いときは、再始動制御部52は、第1マップを選択し(ステップS23)、上記ステップS22でYESと判定されたとき、つまりエンジンの自動停止制御によるエンジンの停止時間が所定時間以内のときは、再始動制御部52は、第2マップを選択する(ステップS24)。
【0060】
ここで、上記第1マップ及び第2マップは、エンジンを再始動させる際にエンジンを1圧縮始動で再始動させるか2圧縮始動で再始動させるかを判定するために用いるマップである。1圧縮始動とは、エンジン停止時に圧縮行程にある気筒(停止時圧縮行程気筒)に、エンジン全体として1つ目の上死点(TDC)を迎えるときに燃料を噴射してエンジンを再始動させることである。2圧縮始動とは、エンジン停止時に吸気行程にある気筒(停止時吸気行程気筒)に、エンジン全体として2つ目の上死点を迎えるときに燃料を噴射してエンジンを再始動させることである。
【0061】
図4に示すように、上記判定用マップは、停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置とエンジン冷却水温とをパラメータとして、基準停止位置範囲Rが設定されたものである。ここで、縦軸のエンジン冷却水温は、エンジンの再始動制御の開始時のエンジン冷却水温である。エンジンの再始動制御の開始時とは、本実施形態では、ステップS21で再始動条件の成立が確認された時点である。
【0062】
基準停止位置範囲Rは、図示したように、相対的に下死点(BDC)寄りに設定されている。また、基準停止位置範囲Rは、エンジン冷却水温が高いほど上死点側に拡大されている。つまり、再始動制御の開始時のエンジン冷却水温が相対的に高いときは、相対的に低いときに比べて、停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置が基準停止位置範囲Rに入る確率が高くなる。
【0063】
そして、エンジンの自動停止時間が相対的に長いときに選択される第1マップに比べて、エンジンの自動停止時間が相対的に短いときに選択される第2マップは、基準停止位置範囲Rが上死点側に拡大されている。つまり、エンジンの自動停止時間が相対的に短いときは、相対的に長いときに比べて、停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置が基準停止位置範囲Rに入る確率が高くなる。
【0064】
次いで、再始動制御部52は、選択した第1マップ又は第2マップを用いて、停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置が上記基準停止位置範囲R(例えば圧縮上死点前83°CA〜180°CAの範囲等)内にあるか否かを判定する(ステップS25)。このとき、上記のように、再始動制御の開始時のエンジン冷却水温が高いほど、停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置が基準停止位置範囲Rに入る確率が高くなる。また、第2マップを用いたとき(エンジンの自動停止時間が相対的に短いとき)は、第1マップを用いたとき(エンジンの自動停止時間が相対的に長いとき)に比べて、停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置が基準停止位置範囲Rに入る確率が高くなる。
【0065】
上記ステップS25でYESと判定されて停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置が基準停止位置範囲R内にあることが確認された場合、再始動制御部52は、停止時圧縮行程気筒に最初の燃料を噴射してエンジンを再始動させる制御(1圧縮始動)を実行する(ステップS26)。すなわち、スタータモータ34を駆動してクランクシャフト7に回転力を付与しつつ、停止時圧縮行程気筒に燃料を噴射して自着火させることにより、エンジン全体として1つ目の上死点を迎えた時点から燃焼を再開させ、エンジンを再始動させる。そして、この再始動制御はエンドとなる。
【0066】
一方、上記ステップS25でNOと判定されて停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置が基準停止位置範囲Rから外れていることが確認された場合、再始動制御部52は、停止時吸気行程気筒に最初の燃料を噴射してエンジンを再始動させる制御(2圧縮始動)を実行する(ステップS27)。すなわち、スタータモータ34を駆動してクランクシャフト7に回転力を付与しつつ、エンジン全体として1つ目の上死点を越えて、停止時吸気行程気筒が圧縮行程を迎えたときに、停止時吸気行程気筒に燃料を噴射して自着火させることにより、エンジン全体として2つ目の上死点を迎えた時点から燃焼を再開させ、エンジンを再始動させる。そして、この再始動制御はエンドとなる。
【0067】
このような制御を実行するのは、エンジンを再始動させる際に、できるだけ高い頻度でエンジンを1圧縮始動で迅速に再始動させるためである。すなわち、
図4に示したように、上記基準停止位置範囲Rは、相対的に下死点寄りの範囲(例えば圧縮上死点前83°CA〜180°CAの範囲等)に予め定められたものである。停止時圧縮行程気筒のピストン5がこのような下死点寄りの位置に停止していれば、エンジンの再始動時に、上記停止時圧縮行程気筒に最初の(エンジン全体として最初の)燃料を噴射することにより、エンジンを1圧縮始動で迅速かつ確実に再始動させることができる。つまり、停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置が上記基準停止位置範囲R内にあれば、停止時圧縮行程気筒内に比較的多くの空気が存在するため、エンジン再始動時のピストン5の上昇に伴い、ピストン5による圧縮ストローク量(圧縮代)が多くなり、停止時圧縮行程気筒内の空気は十分に圧縮されて高温化する。このため、再始動時の最初の燃料を停止時圧縮行程気筒内に噴射すると、この燃料は停止時圧縮行程気筒内で確実に自着火して燃焼するのである。
【0068】
これに対し、停止時圧縮行程気筒のピストン5が基準停止位置範囲Rから上死点側に外れていると、ピストン5による圧縮ストローク量が少なくなり、停止時圧縮行程気筒内の空気が十分に高温化しないことから、停止時圧縮行程気筒に燃料を噴射しても失火が起きるおそれがある。そこで、このような場合には、停止時圧縮行程気筒ではなく停止時吸気行程気筒に燃料を噴射することにより、停止時吸気行程気筒の空気を十分に圧縮して確実に燃料を自己着火させる(2圧縮始動)。
【0069】
このように、停止時圧縮行程気筒のピストン5が基準停止位置範囲R内にあるときにはエンジンを1圧縮始動で速やかに再始動できるものの、基準停止位置範囲Rから上死点側に外れてしまったときには、2圧縮始動で停止時吸気行程気筒に燃料を噴射する必要があるため、停止時吸気行程気筒のピストン5が圧縮上死点付近に到達するまでは(つまりエンジン全体として2つ目の上死点を迎えるまでは)、燃料噴射に基づく自己着火を行わせることができず、再始動時間(本実施形態では、スタータモータ34の始動時点から、エンジン回転速度が750rpmになるまでの時間をいう)が長くなってしまう。
【0070】
この点、上記制御によれば、エンジンの自動停止制御によるエンジンの停止時間が相対的に短いとき(ステップS22でYES)は、相対的に長いとき(ステップS22でNO)に比べて、停止時圧縮行程気筒に燃料を噴射してエンジンを再始動させる1圧縮始動を行うか、停止時吸気行程気筒に燃料を噴射してエンジンを再始動させる2圧縮始動を行うかの判定に用いる基準停止位置範囲Rを上死点側に拡大するので、結果として、1圧縮始動が行われる確率が高くなる。そのため、エンジンを再始動させる際に、できるだけ高い頻度でエンジンを1圧縮始動で迅速に再始動させることが可能となる。しかも、エンジンの自動停止制御によるエンジンの停止時間が相対的に短いときは、圧縮時に停止時圧縮行程気筒内の空気が充分に高温化する可能性が高いから、良好な1圧縮始動が実現する。次に、この点をさらに詳しく説明する。
【0071】
図5は、自動停止制御開始時、すなわち自動停止制御で行われる燃料カットの開始時からの経過時間と、筒内温度との関係を示すグラフである。図示したように、筒内温度は、燃料カットの開始時から時間の経過とともに低下していき、再始動制御開始時、すなわち再始動条件の成立時のエンジン冷却水温に収束する。燃料カット開始時からの経過時間が同じ場合、筒内温度は、燃料カット開始時の値(初期値)が高いほど、また、再始動制御開始時のエンジン冷却水温が高いほど、高い値を示す。例えば、図示したように、再始動制御開始時の筒内温度は、再始動制御開始時のエンジン冷却水温が同じであれば、自動停止制御開始時の筒内温度が高いほど高い値を示す。また、再始動制御開始時の筒内温度は、自動停止制御開始時の筒内温度が同じであれば、再始動制御開始時のエンジン冷却水温が高いほど高い値を示す。そして、自動停止制御開始時から再始動制御開始時までの経過時間、すなわちエンジンの自動停止時間が短いほど、筒内温度は高い値が維持される。
【0072】
このことは次のようなシーンで説明される。エンジンの自動停止制御によってエンジンが停止した時点(ステップS5でYESと判定された時点)では、停止時圧縮行程気筒内にはピストン5が下死点又は吸気弁11の閉弁(IVC)タイミングに対応する位置から停止クランク角に対応する位置までストロークした分だけ新気が圧縮された状態で残っている。また、エンジン停止直後(例えば燃料カットからの経過時間が2秒以内等)は、オイル等がピストンやライナー等に比較的多量に残っているため、筒内からの空気漏れが抑制される。そして、その後、時間の経過とともに、停止時圧縮行程気筒内の空気は徐々に抜けていく。そのため、エンジンの自動停止時間が短いほど、停止時圧縮行程気筒の筒内圧ないし筒内温度は相対的に高い値が維持される。同様に、エンジンの自動停止制御によってエンジンが停止した時点では、停止時圧縮行程気筒内の雰囲気温度はライナーの高温により高い状態で残っている。そして、その後、時間の経過とともに、停止時圧縮行程気筒内の温度は放熱により徐々に低下していく。そのため、エンジンの自動停止時間が短いほど、停止時圧縮行程気筒の筒内温度は相対的に高い値が維持される。
【0073】
したがって、エンジンの自動停止時間が相対的に短いときは、たとえ停止時圧縮行程気筒のピストンが上死点寄りに位置していて圧縮ストローク量が少なくても、上死点まで圧縮したときに、気筒内の空気が充分に高圧化し、その結果、燃料の着火温度まで充分に高温化する可能性が高くなり、失火のおそれが低くなるから、停止時圧縮行程気筒に燃料を噴射しても、燃料を自己着火させて1圧縮始動できる可能性が高くなる。つまり、良好な1圧縮始動が実現することになる。
【0074】
なお、
図4において、再始動制御開始時のエンジン冷却水温が高いほど、基準停止位置範囲Rが上死点側に拡大されているのは、
図5において、再始動制御開始時のエンジン冷却水温が高いほど、筒内温度が高い値を示すことを反映したものである。また、
図4において、エンジンの自動停止時間が相対的に短いときに用いられる第2マップが、エンジンの自動停止時間が相対的に長いときに用いられる第1マップに比べて、基準停止位置範囲Rが上死点側に拡大されているのは、
図5において、自動停止制御開始時から再始動制御開始時までの経過時間(エンジンの自動停止時間)が短いほど、筒内温度が高い値に維持されることを反映したものである。
【0075】
図6は、エンジンの自動停止時間の違いによって、エンジンを1圧縮始動で再始動させるときのエンジン回転数及び停止時圧縮行程気筒の筒内圧がどのように変化するかを示すタイムチャートである。図中、実線はエンジン自動停止時間が2秒のときのデータであり、破線は30秒のときのデータである。再始動制御開始時のエンジン冷却水温は80℃、停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置は上死点前83°CAとした。
【0076】
筒内圧は、まずスタータモータによるピストンの上昇によってある程度高められた後、燃料の燃焼によって急激に増大する変化を示している。このような筒内圧の変化において、エンジン自動停止時間が2秒で1圧縮始動させた場合(実線)は、30秒で1圧縮始動させた場合(破線)に比べて、停止時圧縮行程気筒の筒内圧が全体的に高いことが明らかである。その結果、前者は、後者に比べて、回転のトルクが高くなり、エンジン回転数が大きくなり、1圧縮始動が良好、円滑に実現する。
【0077】
このことは、エンジン自動停止時間が相対的に短いときは、たとえ停止時圧縮行程気筒のピストンが上死点寄りに位置していても、上死点まで圧縮したときに、気筒内の空気が充分に高圧化し、燃料の着火温度まで充分に高温化する可能性が高くなり、1圧縮始動できる可能性が高くなることを如実に示している。
【0078】
なお、上記条件において、エンジン自動停止時間が2秒のときは、停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置を上死点側に7°CA〜8°CA程度拡大しても、つまり上死点前75°CA〜76°CA程度としても、1圧縮始動が可能であった。
【0079】
ところで、
図5に示したように、筒内温度は燃料カット開始時からの経過時間に依存し、上記経過時間が短いほど筒内温度は高く、上記経過時間が長いほど筒内温度は低くなる。したがって、
図4に示した判定用マップを、エンジンの自動停止時間が所定時間(例えば2秒等)を超えて長いときに選択される第1マップと、エンジンの自動停止時間が所定時間以内のときに選択される第2マップとの2種類とせずに、エンジンの自動停止時間が短いほど基準停止位置範囲Rが上死点側に拡大された複数のマップを用意して、エンジンの自動停止時間に応じてマップを複数の中から選択するようにしてもよい。より緻密な再始動制御が行え、より一層高い頻度で、かつ、より一層良好に、エンジンを1圧縮始動させることができる。
【0080】
ただし、判定用マップを複数持つことは、ECU50の記憶容量をいたずらに増大させることになる。そこで、判定用マップを持つ代わりに、エンジンの再始動時に、その都度、停止時圧縮行程気筒の1圧縮時の筒内温度(上死点温度)を算出し、その上死点温度が燃料の着火温度を超えて高いか否かを判定し、高ければ1圧縮始動を行い、そうでなければ2圧縮始動を行うようにしてもよい。
【0081】
その場合、上死点温度(TCYLTDC)は、
図5の特性から決定される再始動制御開始時の筒内温度(TCYLISS)をベースとし、ピストン停止位置での筒内容積(VTEI)、上死点での筒内容積(VTDC)、及び比熱比(k)を用いて、次式(1)に従い算出される。
【0082】
TCYLTDC=TCYLISS×(VTEI/VTDC)
(k−1) …(1)
そして、TCYLISSは、
図5における自動停止制御開始時(燃料カット開始時)の筒内温度と、再始動制御開始時(再始動条件成立時)のエンジン冷却水温と、筒内温度低下速度ゲインと、エンジンの自動停止時間とから求められる。ここで、自動停止制御開始時の筒内温度は、燃料カットされる直前のエンジンの運転状態(アイドル状態)から予測される。
【0083】
この場合、再始動制御開始時の筒内温度(TCYLISS)がエンジンの自動停止時間に依存しており、エンジンの自動停止時間が短いほど、再始動制御開始時の筒内温度(TCYLISS)ひいては上死点温度(TCYLTDC)が高い値に算出される。そのため、上死点温度(TCYLTDC)が燃料の着火温度を超えて高くなる確率が高くなり、1圧縮始動が行われる確率が高くなる。したがって、これによっても、ECU50は、結果的に、エンジンの自動停止時間が短いほど基準停止位置範囲Rを上死点側に拡大することになる。
【0084】
(5)作用効果
以上説明したように、本実施形態に係るディーゼルエンジン(圧縮自己着火式エンジン)の始動制御装置は、所定の自動停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立したときに、停止時圧縮行程気筒のピストン5の停止位置が基準停止位置範囲R内にある場合は、スタータモータ34を用いてエンジンに回転力を付与しつつ、停止時圧縮行程気筒に燃料を噴射することにより、エンジンを再始動させる制御手段50を備えている。制御手段50は、エンジンを再始動させる際に、エンジンの自動停止制御によるエンジンの停止時間が短いほど上記基準停止位置範囲Rを上死点側に拡大する。
【0085】
エンジンの自動停止時間が相対的に短いときは、相対的に長いときに比べて、停止時圧縮行程気筒に燃料を噴射してエンジンを再始動させる1圧縮始動を行うか否かの判定に用いる基準停止位置範囲Rを上死点側に拡大するので、結果として、1圧縮始動が行われる確率が高くなる。そのため、圧縮自己着火式エンジンを再始動させる際に、できるだけ高い頻度でエンジンを1圧縮始動で迅速に再始動させることが可能となる。しかも、エンジンの自動停止制御によるエンジンの停止時間が相対的に短いときは、圧縮時に気筒内の空気が充分に高温化する可能性が高いから、良好な1圧縮始動が実現する。
【0086】
図4に例示されているように、エンジンの再始動制御の開始時のエンジン冷却水温が高いほど上記基準停止位置範囲Rは上死点側に拡大されている。
【0087】
エンジンの再始動制御の開始時のエンジン冷却水温という、エンジンの自動停止時間以外の環境的要因により、圧縮時に気筒内の空気が充分に高温化する(つまり上死点温度TCYLTDCが充分に高くなる)可能性が高いときは、1圧縮始動が行われる確率がさらに高まり、エンジンをより一層迅速、良好に再始動させることが可能となる。
【0088】
(6)他の実施形態
エンジンの自動停止時間以外に、上死点温度(TCYLTDC)を高くする環境的要因としては、上記のようにエンジンの再始動制御の開始時のエンジン冷却水温の他、
図5におけるエンジンの自動停止制御の開始時の筒内温度や、外気温度、すなわち気筒内に導入される新気の温度(吸気温度)や、大気圧、すなわち気筒内に導入される新気の圧力(吸気圧力)等が挙げられる。
【0089】
したがって、ECU50は、例えば、エンジンの自動停止制御の開始時の筒内温度が高いほど、エンジンの自動停止制御中の吸気温度が高いほど、あるいはエンジンの自動停止制御中の吸気圧力が高いほど、上記基準停止位置範囲Rを上死点側に拡大することもできる。
【0090】
これによっても、エンジンの自動停止時間以外の環境的要因により、圧縮時に気筒内の空気が充分に高温化する(つまり上死点温度TCYLTDCが充分に高くなる)可能性が高いときは、1圧縮始動が行われる確率がさらに高まり、エンジンをより一層迅速、良好に再始動させることが可能となる。
【0091】
また、上記実施形態では、自動停止条件の成立時点(ステップS2でYES)で吸気絞り弁30の開度を全閉(0%)に設定し(ステップS3)、その後、ある程度の吸気圧力の低下が見られる時点で、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する燃料カットを実行する(ステップS4)ようにしたが、吸気絞り弁30を全閉にするのと同じ時点で燃料カットを実行してもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、圧縮自己着火式エンジンの一例としてディーゼルエンジン(軽油を自己着火により燃焼させるエンジン)を用い、ディーゼルエンジンに本発明に係る自動停止・再始動制御を適用した例を説明したが、圧縮自己着火式エンジンであれば、ディーゼルエンジンに限定されない。例えば、最近では、ガソリンを含む燃料を高圧縮比で圧縮して自己着火させる(HCCI:Homogeneous−Charge Compression Ignition:予混合圧縮着火)タイプのエンジンが研究、開発されているが、このような圧縮自己着火式のガソリンエンジンに対しても、本発明に係る自動停止・再始動制御は好適に適用可能である。