特許第5935464号(P5935464)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935464
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】樹脂微粒子
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20160602BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20160602BHJP
   C09D 11/10 20140101ALI20160602BHJP
   C08F 255/00 20060101ALI20160602BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   C08F2/44 C
   C09D11/00
   C09D11/10
   C08F255/00
   C08F265/06
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-89427(P2012-89427)
(22)【出願日】2012年4月10日
(65)【公開番号】特開2013-216809(P2013-216809A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2014年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】仁科 安紀子
(72)【発明者】
【氏名】小池 隆明
(72)【発明者】
【氏名】大竹 隆明
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−540796(JP,A)
【文献】 特開2012−046639(JP,A)
【文献】 特開平08−067726(JP,A)
【文献】 特開昭56−067303(JP,A)
【文献】 特開2007−131745(JP,A)
【文献】 特開昭50−055648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/44
C08F255/00−255/10
C08F265/00−265/06
C09D11/00−11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン共重合体(ただし、アクリル共重合体を除く)(A)と、アクリル共重合体(B)との存在下で、エチレン性不飽和単量体(C)を水性媒体中で乳化重合してなる樹脂微粒子分散体であって、オレフィン共重合体(A)が、末端酸変性オレフィン共重合体(a1)であり、樹脂微粒子分散体は、オレフィン共重合体(A)1〜40重量%と、アクリル共重合体(B)20〜40重量%と、エチレン性不飽和単量体(C)40〜70重量%からなり、最低造膜温度(MFT)が−40〜20℃であることを特徴とする樹脂微粒子分散体。
【請求項2】
オレフィン共重合体(A)が酸価50〜300mgKOH/g、アクリル共重合体(B)が酸価50〜300mgKOH/gかつ重量平均分子量が500〜30000であることを特徴とする請求項1記載の樹脂微粒子分散体。
【請求項3】
顔料と、請求項1または2記載の樹脂微粒子分散体とを含むことを特徴とする水性インク組成物。
【請求項4】
フレキソあるいはグラビア印刷に用いられることを特徴とする、請求項記載の水性インク組成物。
【請求項5】
オレフィン共重合体基材に用いられることを特徴とする、請求項3または4記載の水性インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温で成膜させてもオレフィン共重合体基材への接着性と耐水性を発現し、かつ版上で乾燥したインク皮膜が再度水性インク組成物によって溶解できる再溶解性を有する水性インク組成物に用いることができる水性樹脂微粒子分散体、ならびにその水性樹脂微粒子分散体を用いた水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン等のプラスチックフィルムが各種の包装材料として多用されており、これらプラスチックフィルムへの印刷は、フレキソあるいはグラビア印刷方式で行われている。従来、かかる用途に対しては、トルエン、酢酸エチル、イソプロピルアルコール等の有機溶剤を媒体とする溶剤インクが専ら用いられてきたが、近年、大気汚染、火災の危険性、作業衛生面等の配慮から、有機溶剤を使用しない水性インクに対する関心が高まりつつある。
【0003】
しかしながら、軟包装材用途を中心とした非浸透性のプラスチックフィルム基材に対する印刷分野においては、一部用途を除き、水性インク組成物はほとんど実用化されていない。これは、かかる分野において水性インク組成物の品質が溶剤型印刷インクと比べ十分とは言い難いためである。つまり、水性インク組成物の品質として基本性能であるオレフィン共重合体基材への接着と耐水性、版上で乾燥したインク皮膜が再度水性インク組成物によって溶解できる再溶解性をバランスよく有することが必要であるが、未だかかる水性インク組成物は実用化されていない。
【0004】
プラスチックフィルムへの接着性を向上させる試みとして、特許文献1には、スチレンアクリル系共重合体のアルカリ溶液と特定のガラス転移温度範囲にあるアクリル系エマルジョンを混合し、ロジンエステルを粘着付与剤として水性分散体の形態で添加することにより、各種プラスチック基材への接着性及びラミネート加工適性を付与する水性インク組成物が開示されている。また、特許文献2には、水性のアクリルコポリマーまたはポリウレタン類からなるポリマーにロジン成分を含有する水分散体を含有してなる、水性インク等に使用される組成物が開示されている。しかしながら、ロジン等の水性分散体の添加では、各種フィルム基材に対する接着強度が向上したとしても、汎用的に用いられるコロナ放電処理を施されたオレフィン共重合体フィルムへの濡れは全く改善されておらず、平滑な印刷面が得られないという欠点があった。
【0005】
特許文献3、特許文献4には、再溶解性を付与するために水溶性樹脂をメインバインダーに用い、アルド基を表面に有するプラスチックフィルムへの密着性と耐水性とを付与するためにケト/ヒドラジド架橋を用いている。しかしカルボニル基含有水溶性アクリル系共重合体と、ヒドラジン誘導体からなるバインダー樹脂を使用すると、塗膜が非常に薄膜となる版上で水の蒸発によって架橋反応が進行し、流動性や再溶解性が低下するという問題がある。
【0006】
また、特許文献5、特許文献6には、塩素化オレフィン共重合体を乳化剤として、α,β−不飽和二重結合を有するモノマーを重合してなる水性樹脂分散体が開示されている。これによりオレフィン共重合体基材への優れた接着性が確認されているが、塩素化オレフィン共重合体は燃焼時に塩素化合物を放出するため、環境保護の観点から好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−19676号公報
【特許文献2】特開平3−7783号公報
【特許文献3】特開昭63−101435号公報
【特許文献4】特開平6−143786
【特許文献5】特開平7−118312号公報
【特許文献6】特開平8−3207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、低温で成膜させてもオレフィン共重合体基材への接着性と耐水性を発現し、かつ版上で乾燥したインク皮膜が水性インク組成物によって溶解できる再溶解性を有する水性インク組成物に用いることができる水性樹脂微粒子分散体ならびにその水性樹脂微粒子分散体を用いた水性インク組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の発明は、オレフィン共重合体(ただし、アクリル共重合体を除く)(A)と、アクリル共重合体(B)との存在下で、エチレン性不飽和単量体(C)を水性媒体中で乳化重合してなる樹脂微粒子分散体であって、オレフィン共重合体(A)が、末端酸変性オレフィン共重合体(a1)であり、樹脂微粒子分散体は、オレフィン共重合体(A)1〜40重量%と、アクリル共重合体(B)20〜40重量%と、エチレン性不飽和単量体(C)40〜70重量%からなり、最低造膜温度(MFT)が−40〜20℃である樹脂微粒子分散体に関する。
【0010】
又、第2の発明は、オレフィン共重合体(A)が酸価50〜300mgKOH/g、アクリル共重合体(B)が酸価50〜300mgKOH/gかつ重量平均分子量が500〜30000である第1の発明の樹脂微粒子分散体に関する。
【0014】
又、第の発明は、顔料と、第1またはの発明の樹脂微粒子分散体とを含む水性インク組成物に関する。
【0015】
又、第の発明は、フレキソあるいはグラビア印刷に用いられる、第の発明の水性インク組成物に関する。
【0016】
又、第の発明は、オレフィン共重合体基材に用いられる、第の発明の水性インク組成物に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂微粒子をフレキソあるいはグラビア印刷に用いることにより、オレフィン共重合体基材への接着と耐水性、版上で乾燥したインク皮膜が再度水性インク組成物によって溶解できる再溶解性が良好である水性インク組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明は、オレフィン共重合体(ただし、アクリル共重合体を除く)(A)と、アクリル共重合体(B)との存在下で、エチレン性不飽和単量体(C)を水性媒体中で乳化重合してなることを特徴とする。
【0019】
まず、オレフィン共重合体(A)について説明する。
【0020】
本発明で使用するオレフィン共重合体(A)は末端酸変性オレフィン共重合体(a1)ある酸を含むオレフィン共重合体を用いることにより、疎水性の高いオレフィン共重合体の水性媒体への親和性を高めることができる。中でも、オレフィン骨格中に酸のような極性基を含まないために、オレフィン骨格導入の効果が大きい末端酸変性オレフィン共重合体(a1)が好ましい。
【0021】
末端酸変性オレフィン共重合体(a1)は、オレフィン共重合体の末端を酸で変性することによって得ることができる。オレフィン共重合体は、常法に従って、例えば、バナジウム系触媒、マグネシウム触媒、チタン、ハロゲン等を成分とするチタン系触媒等を用いて製造することができる。オレフィン共重合体としては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンから炭素数40のα−オレフィンの単独重合体および共重合体が挙げられる。
【0022】
末端酸変性オレフィン共重合体(a1)は、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、ベーカー・ヒューズ社のX−10065、X−10087、X−10044、ベーカー・ペトロライト社のユニシッドTM350等が挙げられる。
【0029】
オレフィン共重合体骨格を導入することにより疎水性が高まり、オレフィン共重合体基材への接着と耐水性の向上効果が得られる。
【0030】
オレフィン共重合体(A)は、酸価が50〜300mgKOH/gであることが好ましい。より好ましくは100〜250mgKOH/gである。酸価が50mgKOH/g未満であると、オレフィン共重合体(A)の水性化が困難となり、樹脂微粒子分散体の重合安定性も低下する。酸価が300mgKOH/gを越えると、印刷物の耐水性の悪化や、インク組成物の低極性基材への密着性が悪化する。ここで言う酸価とは、樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数の事をいう。
【0031】
次に、アクリル共重合体(B)について説明する。アクリル共重合体(B)はカルボキシル基含有アクリル単量体(b1)と、その他のアクリル単量体(b2)およびアクリル単量体と共重合可能な単量体(b3)との共重合体である。
【0032】
カルボキシル基含有アクリル単量体(b1)としては、例えば、フタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、イソフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、テレフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、コハク酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらは1種類または2種以上を併用して用いることができる。
【0033】
その他のアクリル単量体(b2)としては、例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル基含有アクリル単量体;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有アクリル単量体;
ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族アクリル単量体;
(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ペントキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N−メトキシメチル−N−(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有アクリル単量体;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有アクリル単量体;
2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸基含有アクリル単量体;
アリル(メタ)アクリレート、1−メチルアリル(メタ)アクリレート、2−メチルアリル(メタ)アクリレート、1−ブテニル(メタ)アクリレート、2−ブテニル(メタ)アクリレート、3−ブテニル(メタ)アクリレート、1,3−メチル−3−ブテニル(メタ)アクリレート、2−クロルアリル(メタ)アクリレート、3−クロルアリル(メタ)アクリレート、o−アリルフェニル(メタ)アクリレート、2−(アリルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、アリルラクチル(メタ)アクリレート、シトロネリル(メタ)アクリレート、ゲラニル(メタ)アクリレート、ロジニル(メタ)アクリレート、シンナミル
(メタ)アクリレート、2−(2’−ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート等の2個以上のエチレン性不飽和基を有するアクリル単量体;
グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有アクリル単量体;
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシメチルトリメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有アクリル単量体;
N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アルキルエーテル化N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基含有アクリル単量体が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらは1種類または2種以上を併用して用いることができる。
【0034】
アクリル単量体と共重合可能な単量体(b3)としては、例えば、
マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、または、これらのアルキルもしくはアルケニルモノエステル等のカルボキシル基含有ビニル単量体;
スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体;
4−ヒドロキシビニルベンゼン、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体;
スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸アンモニウム、ビニルスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、アリルオキシベンゼンスルホン酸アンモニウム等のスルホン酸基含有ビニル単量体;
ジアリルマレエート、ジアリルイタコン酸、ビニル(メタ)アクリレート、クロトン酸ビニル、オレイン酸ビニル,リノレン酸ビニル、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル、イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等のジビニル単量体;
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシ
シラン等のアルコキシシリル基含有ビニル単量体が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらは1種類または2種以上を併用して用いることができる。
【0035】
アクリル共重合体(B)の製造方法として、例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体について挙げる。反応槽に有機溶剤を仕込み、昇温させる。有機溶剤には、反応時ならびにその後の処理に悪影響が無く、得られた樹脂を溶解するものであれば任意のものを使用する事ができる。昇温後、窒素雰囲気下で、スチレン、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレートを滴下しながら、ラジカル開始剤を加えてラジカル重合を行う。ラジカル重合は、公知の重合方法で行うことができ、特に溶液重合で行うのが好ましい。得られた樹脂溶液については、そのままイオン交換水で希釈しても良いし、有機溶剤をイオン交換水に溶剤置換してもかまわない。また、樹脂がイオン交換水などの水性媒体に溶解しにくい場合には、樹脂中のカルボキシル基を塩基性物質で
中和する。
【0036】
アクリル共重合体(B)は酸価が50〜300mgKOH/gであることが好ましい。より好ましくは100〜250mgKOH/gである。酸価が50mgKOH/g未満であるとアクリル共重合体(B)の水性化が困難となり、樹脂微粒子分散体の重合安定性も低下する。酸価が300mgKOH/gを越えると、印刷物の耐水性や低極性基材への密着性、インク組成物の経時安定性が悪化する。
【0037】
また、アクリル共重合体(B)の重量平均分子量は500〜30000であることが好ましい。重量平均分子量が500未満であると、低分子量成分による印刷物の耐ブロッキング性や耐水性、さらに樹脂微粒子分散体の重合安定性が悪化する。重量平均分子量が30000を越えると、インク組成物の経時安定性が悪化し、高分子量成分の増加による印刷物の密着性も低下する。ここで言う重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値をいう。
【0038】
アクリル共重合体(B)は、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、BASF社製JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL683、JONCRYL690、JONCRYL57J、JONCRYL60J、JONCRYL61J、JONCRYL62J、JONCRYL63J、JONCRYLHPD−96J、JONCRYL501J、JONCRYLPDX-6102B、ビックケミー社製DISPERBYK、DISPERBYK180、DISPERBYK187、DISPERBYK190、DISPERBYK191、DISPERBYK194、DISPERBYK2010、DISPERBYK2015、DISPERBYK2090、DISPERBYK2091、DISPERBYK2095、DISPERBYK2155、ゼネカ社製SOLSPERS41000、サートマー社製、SMA1000H、SMA1440H、SMA2000H、SMA3000H、SMA17352Hが挙げられる。これらは1種類または2種以上を併用して用いることができる。
【0039】
オレフィン共重合体(A)のみでは水への溶解性が不十分で重合が不安定となるが、アクリル共重合体(B)を含むことにより、優れた重合安定性を確保することが可能となる。さらに水性媒体への親和性が高く、再溶解性良好なオレフィン共重合体(A)とアクリル共重合体(B)との存在下でエチレン性不飽和単量体(C)を乳化重合することにより、高分子量の疎水的なコアを持つ樹脂微粒子分散体が形成され、優れた再溶解性と塗膜耐性を両立するインク組成物を得ることができる。
【0040】
本発明に用いられるエチレン性不飽和単量体(C)としては、上記のカルボキシル基含有アクリル単量体(b1)、その他のアクリル単量体(b2)、アクリル単量体と共重合可能な単量体(b3)などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。これらは1種類または2種以上を併用して用いることができる。
【0041】
本発明で使用するエチレン性不飽和単量体(C)を乳化重合するのに用いられる重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物;
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリルなどのアゾビス化合物を挙げることができる。これらは1種類又は2種類以上を混合して使用することができる。これら重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、0.1〜10.0重量部の量を用いるのが好ましい。
【0042】
本発明においては水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなど、従来既知のものを好適に使用することができる。又、乳化重合を行うに際して、所望により重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。これにより、乳化重合速度を促進したり、低温において乳化重合を行ったりすることが容易になる。このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩等の還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元性無機化合物、塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などを例示できる。これら還元剤は、全エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、0.05〜5.0重量部の量を用いるのが好ましい。なお、前記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や、放射線照射等によっても重合を行うことができる。重合温度は各重合開始剤の重合開始温度以上とする。例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常70℃程度とすればよい。重合時間は特に制限されないが、通常2〜24時間である。
【0043】
さらに必要に応じて、緩衝剤として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが、また、連鎖移動剤としてのオクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類が適量使用できる。
【0044】
本発明の水性樹脂分散体には、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて他の樹脂成分や、酸化防止剤、紫外線吸収剤、塩酸吸収剤、脱塩酸防止剤、顔料、染料、充填剤、ブロッキング剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、タッキファイヤ−樹脂、増粘剤、消泡剤、レベリング剤などを併用することができる。
【0045】
また、水分散体の安定性、あるいは該分散体を重合してなる複合分散体の機械的安定性を改良する目的で、界面活性剤の併用も可能である。
【0046】
本発明において乳化重合の際に必要に応じて用いられる界面活性剤としては、エチレン性不飽和基を有する反応性界面活性剤やエチレン性不飽和基を有しない非反応性界面活性剤など、従来公知のものを任意に使用することができる。
【0047】
エチレン性不飽和基を有する反応性界面活性剤は更に大別して、アニオン系、非イオン系のノニオン系のものが例示できる。特にエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性界面活性剤若しくはノニオン性反応性界面活性剤を用いると、共重合体の分散粒子径が微細となるとともに粒度分布が狭くなるため、非水系二次電池電極用バインダーとして使用した際に耐電解液性を向上することができ好ましい。このエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性界面活性剤若しくはノニオン性反応性界面活性剤は、1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
【0048】
エチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性界面活性剤の一例として、以下にその具体例を例示するが、本願発明において使用可能とする界面活性剤は、以下に記載するもののみを限定するものではない。前記界面活性剤としては、アルキルエーテル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH−05、KH−10、KH−20、株式会社ADEKA製アデカリアソープSR−10N、SR−20N、花王株式会社製ラテムルPD−104など);
スルフォコハク酸エステル系(市販品としては、例えば、花王株式会社製ラテムルS−120、S−120A、S−180P、S−180A、三洋化成株式会社製エレミノールJS−2など);
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンH−2855A、H−3855B、H−3855C、H−3856、HS−05、HS−10、HS−20、HS−30、株式会社ADEKA製アデカリアソープSDX−222、SDX−223、SDX−232、SDX−233、SDX−259、SE−10N、SE−20N、など);
(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製アントックスMS−60、MS−2N、三洋化成工業株式会社製エレミノールRS−30など);
リン酸エステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製H−3330PL、株式会社ADEKA製アデカリアソープPP−70など)が挙げられる。
【0049】
本発明で用いることのできるノニオン系反応性界面活性剤としては、例えばアルキルエーテル系(市販品としては、例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープER−10、ER−20、ER−30、ER−40、花王株式会社製ラテムルPD−420、PD−430、PD−450など);
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50、株式会社ADEKA製アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、NE−40など);
(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製RMA−564、RMA−568、RMA−1114など)が挙げられる。
【0050】
本発明の樹脂微粒子を乳化重合により得るに際しては、前記したエチレン性不飽和基を有する反応性界面活性剤とともに、必要に応じエチレン性不飽和基を有しない非反応性界面活性剤を併用することができる。非反応性界面活性剤は、非反応性アニオン系界面活性剤と非反応性カチオン系界面活性剤と非反応性ノニオン系界面活性剤とに大別することができる。
【0051】
非反応性ノニオン系乳化剤界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類;
ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;
ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類;
オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルなどを例示することができる。
【0052】
又、非反応性アニオン系乳化剤の例としては、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩類;
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類;
ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類;
ポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;
モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩及びその誘導体類;
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩類などを例示することができる。
非反応性カチオン系界面活性剤の例としては、
例えばR−N(CH3X〔R=ステアリル・セチル・ラウリル・オレイル・ドデシル・ヤシ・大豆・牛脂等/X=ハロゲン・アミン等〕で表されるアルキルトリメチルアミン系4級アンモニウム塩類;
テトラメチルアミン系塩、テトラブチルアミン塩等の4級アンモニウム塩類;
(RNH3)(CH3COO)〔R=ステアリル・セチル・ラウリル・オレイル・ドデシル・ヤシ・大豆・牛脂等〕で表される酢酸塩類;
ラウリルジメチルベンジルアンモニウム塩(ハロゲン・アミン塩等)、ステアリルジメチルベンジルアンモニウム塩(ハロゲン・アミン塩等)、ドデシルジメチルベンジルアンモニウム塩(ハロゲン・アミン塩等)等のベンジルアミン系4級アンモニウム塩類;
R(CH3)N(C24O)mH(C24O)n・X〔R=ステアリル・セチル・ラウリル・オレイル・ドデシル・ヤシ・大豆・牛脂等/X=ハロゲン・アミン等、mおよびnは、0以上の整数〕で表されるポリオキシアルキレン系4級アンモニウム塩類を使用することができる。
【0053】
それでは本発明の樹脂微粒子分散体の製造方法について説明する。まず、反応槽に水性媒体と酸価50〜300mgKOH/gのオレフィン共重合体(A)と、酸価50〜300mgKOH/gかつ重量平均分子量が500〜30000のアクリル共重合体(B)を仕込み昇温し、塩基性物質で中和して溶解させる。その後、窒素雰囲気下でエチレン性不飽和単量体(C)を滴下しながら、ラジカル重合開始剤を添加する。反応開始後、反応槽の溶液の色が青白くなるので、粒子核の形成が確認できる。エチレン性不飽和単量体(C)の滴下完了後、更に数時間反応させる事で目的の樹脂微粒子分散体が得る事ができる。オレフィン共重合体(A)とアクリル共重合体(B)は水性媒体中で保護コロイドとして働き、生成する粒子核を大きく安定化させる。この方法により得られる樹脂微粒子分散体は、界面活性剤を使用した、一般的な乳化重合により得られる樹脂微粒子分散体と比較して、分散安定性が極めて優れており、安定性の確保が難しい平均粒子径の小さい樹脂微粒子分散体についても容易に得る事ができる。この樹脂微粒子分散体を水性インク組成物に使用する事で、インクの経時安定性が良好になる。また、平均粒子径の小さい樹脂微粒子分散体を得やすく、成膜性も良好である事から印刷物の光沢や明度も優れている。
【0054】
塩基性物質としては、無機塩基性物質ならびに有機塩基物質を用いることができる。無機塩基性物質としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基性物質が挙げられるが、必ずしもこれに限定されない。
有機塩基性物質としては、例えば、
アンモニア、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミンなどのモノアミン類;
エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミン、トリエチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどのポリアミン類;
モノエタノ−ルアミン、ジエタノ−ルアミン、トリエタノ−ルアミン、N−メチルジエタノ−ルアミンなどのアルカノ−ルアミン類等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0055】
本発明の樹脂微粒子分散体は、オレフィン共重合体(A)1〜40重量%と、アクリル共重合体(B)20〜40重量%と、エチレン性不飽和単量体(C)40〜70重量%からなることが好ましい。
【0056】
オレフィン共重合体(A)が1重量%未満だとオレフィン骨格の効果が十分に現れず、印刷物の密着性や耐水性が低下する恐れがある。また、40重量%を超えると、樹脂微粒子分散体の重合安定性悪化、比較的低分子量の成分増加による耐ブロッキング性低下の恐れがある。
【0057】
アクリル共重合体(B)が20重量%未満だと、樹脂微粒子分散体の重合安定性低下、インク組成物の再溶解性悪化の恐れがある。また、40重量%を超えると、水性媒体への親和性が増えることによる印刷物の耐水性低下、比較的低分子量の成分増加によるブロッキング性低下の恐れがある。
【0058】
エチレン性不飽和単量体(C)が40重量%未満だと、樹脂微粒子分散体の水性媒体への親和性が高まることによる印刷物の耐水性の低下、比較的低分子の成分が増えることによるブロッキング性の低下の恐れがある。また、70重量%を超えると、樹脂微粒子分散体の重合安定性悪化、疎水的なコア部分が増えることによる再溶解性低下の恐れがある。
【0059】
本発明の樹脂微粒子分散体は、最低造膜温度(MFT)が−40〜20℃であることが好ましい。より好ましくは、−20〜15℃である。MFTが−40℃未満であると、印刷物の耐ブロッキング性の低下や、塗膜硬度の低下による耐水摩擦性の悪化の恐れがある。MFTが20℃を超えると、樹脂微粒子をインク組成物に用いた際に成膜せず、印刷物の密着性や耐水性等の塗膜物性が悪化する恐れがある。最低造膜温度は、モノマー組成物の配合や粒子径によって制御することができる。なお、最低造膜温度とはポリマー粒子が融着して成膜するのに必要な最低温度を意味する。
【0060】
さらに本発明の樹脂微粒子分散体は、平均粒子径が30〜200nmであることが好ましい。より好ましくは、40〜100nmである。平均粒子径が30nmより小さいと、樹脂微粒子分散体の保存安定性が悪化する恐れがある。また、平均粒子径が200nmより大きいと、樹脂微粒子分散体の成膜不良が起こり、印刷物の光沢、明度、耐水性が低下する恐れがある。
【0061】
動的光散乱法による平均粒子径の測定は、以下のようにして行うことができる。樹脂微粒子分散液は固形分に応じて500倍に水希釈しておく。該希釈液約5mlを測定装置[(株)日機装製 マイクロトラック]のセルに注入し、サンプルに応じた溶剤(本発明では水)及び樹脂の屈折率条件を入力後、測定を行う。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを本発明の平均粒子径とする。
【0062】
本発明の水性インク組成物は、顔料、顔料分散樹脂、樹脂微粒子分散体、水を配合してなる。
【0063】
顔料としては、印刷インクまたは塗料の技術分野で通常使用される、公知の有機顔料、無機顔料及び体質顔料といった顔料を使用することができる。
顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無彩色の顔料または有彩色の有機顔料が使用できる。有機顔料としては、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッドなどの不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系有機顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系有機顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系有機顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系有機顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロンエローなどのキノフタロン系有機顔料、イソインドリンエローなどのイソインドリン系有機顔料、その他の顔料として、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。
【0064】
カーボンブラックの具体例としては、デグサ社製「Special Black350、250、100、550、5、4、4A、6」「PrintexU、V、140U、140V、95、90、85、80、75、55、45、40、P、60、L6、L、300、30、3、35、25、A、G」、キャボット社製「REGAL400R、660R、330R、250R」「MOGUL E、L」、三菱化学社製「MA7、8、11、77、100、100R、100S、220、230」「#2700、#2650、#2600、#200、#2350、#2300、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#900、#850、#750、#650、#52、#50、#47、#45、#45L、#44、#40、#33、#332、#30、#25、#20、#10、#5、CF9、#95、#260」等が挙げられる。
【0065】
酸化チタンの具体例としては、石原産業社製「タイペークCR−50、50−2、57、80、90、93、95、953、97、60、60−2、63、67、58、58−2、85」「タイペークR−820,830、930、550、630、680、670、580、780、780−2、850、855」「タイペークA−100、220」「タイペークW−10」「タイペークPF−740、744」「TTO−55(A)、55(B)、55(C)、55(D)、55(S)、55(N)、51(A)、51(C)」「TTO−S−1、2」「TTO−M−1、2」、テイカ社製「チタニックスJR−301、403、405、600A、605、600E、603、805、806、701、800、808」「チタニックスJA−1、C、3、4、5」、デュポン社製「タイピュアR−900、902、960、706、931」などが挙げられる。顔料は、水性インク組成物中の固形成分の全重量を基準として5〜50重量%、より好ましくは8〜45重量%の範囲で使用される。
【0066】
体質顔料の一例として、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、沈降性硫酸バリウム等の硫酸塩、シリカ、タルク、マイカ等の珪酸塩が挙げられ、これらは単独又は2種以上を併用して使用することができる。インク組成物の耐ブロッキング性及びラミネート強度を向上させるために、当技術分野で周知の充填剤を添加することもでき、このような目的で上述の体質顔料を使用してもよい。
【0067】
顔料分散時に使用する顔料分散樹脂は、水系での分散安定性の観点から、カルボキシル基を有する水溶性樹脂が好ましく、例えば、上述したアクリル共重合体(B)、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系の樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、市販品を使用しても構わない。
【0068】
顔料分散樹脂は、顔料に対し5〜60重量%の範囲で用いられるのが好ましい。顔料分散樹脂が顔料に対して5重量%未満であると顔料分散安定性が低下し、インク組成物の掲示安定性に問題を生じる恐れがある。一方、顔料分散樹脂が顔料に対して60重量%を越えると、印刷物の耐水性が低下する恐れがある。
【0069】
樹脂微粒子分散体は、水性インク組成物中の固形成分の全重量を基準として10〜60重量%使用するのが好ましく、20〜50重量%使用するのがより好ましい。樹脂微粒子分散体が10重量%未満であると、被印刷体上と顔料粒子、もしくは顔料粒子同士の結着が不十分となり、印刷物の耐摩擦性や耐水性が低下する恐れがある。一方、樹脂微粒子分散体が60重量%を超えると、十分な顔料濃度を得られない恐れがある。
【0070】
本発明の水性インク組成物には、有機溶剤を併用することができる。本発明で使用する有機溶剤は、当技術分野において通常使用される公知の有機溶剤であり、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール、イソブタノール、ノルマルブタノールなどのものアルコール類;
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸ノルマルブチル、酢酸イソブチル等のエステル類。トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエステル類等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらは1種類または2種以上を併用して用いることができる。
【0071】
有機溶剤は、水性インク組成物中を100重量%に対し、0.5〜10重量%使用するのが好ましい。有機溶剤が0.5重量%未満であるとインク組成物のフィルム基材への濡れ性が確保できない恐れがあり、10重量%を超えると水性インク組成物の特徴である大気汚染、火災の危険性、作業衛生面等の安全性が確保されない恐れがある。
【0072】
グラビア印刷では、金属製の凹版が使用される。グラビア印刷は、高速で多量に印刷を行う場合に適した印刷方式として知られている。一方、フレキソ印刷では、一般に、樹脂製の凸版が使用されることが多い。従って、印刷を付与する基材が同じであっても、グラビア印刷のためには、より乾燥性の速い溶剤を選択することが好ましい。一方、フレキソ印刷のためには、樹脂版に対して膨潤性の無い溶剤を選択することが好ましい。即ち、フレキソ印刷用インクでは、芳香族系溶剤やケトン系溶剤ではなく、アルコール系溶剤を主体として使用することが好ましい。フレキソ印刷用インクでは、アルコール系溶剤を主体として、樹脂版の耐久性や印刷速度に影響しない範囲で、多用な溶剤を組み合わせて使用することもできる。フレキソ印刷用インクでは、一般的に顔料濃度の高いインクが使用される。
【0073】
本発明の水性インク組成物の粘度は、10mPa・s〜1000mPa・sの範囲であることが好ましい。粘度が10mPa・sより小さいと顔料が沈降する恐れがある。一方、粘度が1000mPa・sより大きいとインク組成物調整時の作業効率が悪くなる恐れがある。なお、上記粘度は、トキメック社製B型粘度計で25℃において測定して得た値である。インクの粘度は、原料として使用する各成分の種類、例えばポリウレタン樹脂、着色剤、有機溶剤などを適切に選択し、その配合量を適切に調整することによって調節することができる。インクの粘度は、インク中の顔料の粒度および粒度分布を調整することによっても調節することができる。
【0074】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
<樹脂微粒子分散体の合成>
[実施例1]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水120部とX−10087(ベーカー・ヒューズ社)10部とJONCRYL67(BASF社)30部と25%アンモニア9.3部とを仕込み、反応系内を70℃に昇温して半透明な水溶性樹脂分散体とした。過硫酸カリウムの5%水溶液11部を添加した後、反応系内を70℃に保ちながらメチルメタクリレート22.5部、2−エチルヘキシルアクリレート25.5部、エチルアクリレート12.0部を3時間かけて滴下して重合し、更に2時間攪拌を継続した。その後、冷却してイオン交換水で固形分を40%に調整し、MFT−8℃、酸価77mgKOH/gの乳白色の樹脂微粒子分散体が得られた。
[実施例2、6〜9、11、13、14、参考例3〜5、10、12、15、16]
表1に示す配合組成で、製造例1と同様の方法で合成し、乳白色の樹脂微粒子分散体を得た。表1中の実施例3〜5、10、12、15、16は、いずれも参考例である。
[比較例1、2]
表1に示す配合組成で、実施例1と同様の方法で合成し、乳白色の樹脂微粒子分散体を得た。
[比較例3]
反応容器に、イオン交換水55部とX−10087(ベーカー・ヒューズ社)10部とJONCRYL67(BASF社)30部と25%アンモニア9.3部とを仕込み、反応系内を70℃に昇温して溶解した後に冷却し、イオン交換水で固形分を40%に調整し、酸価190mgKOH/gの半透明な水溶性樹脂分散体を得た。
(重合安定性)
実施例1、2、6〜9、11、13、14、参考例3〜5、10、12、15、16および比較例1〜で得られた各樹脂微粒子分散体を100メッシュ濾過布でろ過して濾過布上に残った残滓の乾燥重量を測定し、下記の基準で評価した。
◎:樹脂微粒子分散体1Kgあたり0.1g未満
○:樹脂微粒子分散体1Kgあたり0.1g以上〜0.5g未満
△:樹脂微粒子分散体1Kgあたり0.5g以上〜1.0g未満
×:樹脂微粒子分散体1Kgあたり1.0g以上
◎、〇は実用上問題がない範囲である。
[実施例17]
以下の組成の混合物をサンドミルで分散処理し、本発明の水性インク組成物を製造した。
顔料(酸化チタン) 32.4部
顔料分散樹脂(JONCRYL67) 3部
添加剤 0.7部
ポリエチレンワックス 5部
樹脂微粒子分散体(製造例1) 41部
イソプロピルアルコール 2.5部
水 15.4部
合計 100部
[実施例18〜22、26〜29、31、33、34、参考例23〜25、30、32、35、36、比較例4〜6]
表2に示す配合組成で、実施例17と同様の方法でインク組成物を調整した。
表2中の実施例23〜25、30、32、35、36は、いずれも参考例である。
【0075】
次に、得られた各インク組成物を用いて、ウインドミラーアンドヘルシャー社製「SOLOFLEX」セントラルインプレッション(CI)型6色フレキソ印刷機により東洋紡績株式会社製片面コロナ処理OPPフィルム「パイレンP2161」のコロナ処理面に印刷層を形成し、印刷物を得た。
【0076】
以上、実施例17〜36および比較例4〜6の各水性インク組成物のインク粘度を、水と顔料分散樹脂によりNo.4ザーンカップで10〜15秒に調整する。この調整済み各インク組成物について(1)貯蔵安定性(2)再溶解性を、また各印刷物については(3)密着性、(4)耐水摩擦性(5)耐ブロッキング性等の塗膜性能を評価した。その結果を表3に記す。
(1)貯蔵安定性
40℃の保温庫で、2週間保存した調整済みインク組成物を25℃まで冷却し、No.4ザーンカップにて粘度を測定し、下記の基準で評価した。
◎:粘度上昇が、仕上がり粘度の3秒未満
○:粘度上昇が、仕上がり時粘度3秒以上5秒未満
△:粘度上昇が、仕上がり時粘度の5秒以上10秒未満
×:粘度上昇が、仕上がり時粘度の10秒以上
◎、〇は実用上問題がない範囲である。
(2)再溶解性
印刷後24時間放置した印刷物に、各々の調整済みインク組成物を滴下し、そのインクを脱脂綿にて素早く拭き取る。滴下から拭き取るまでの時間を徐々に長くしていき、完全にインクが溶解するまでの時間を測定し、下記の基準で評価した。
◎:滴下から、1秒以内に完全に塗膜が溶解する
○:滴下から、3秒以内に完全に塗膜が溶解する
△:滴下から、5秒以内に完全に塗膜が溶解する
×:完全に溶解するまで、滴下から5秒以上要する
◎、〇は実用上問題がない範囲である。
(3)密着性
ニチバン社製セロハンテープ(10mm幅)を印刷面に貼り付け、次にセロハンテープを印刷面よりゆっくり剥離し、セロハンテープへのインク塗膜の剥離状態を測定し、下記の基準で評価した。
◎:インク塗膜の剥離が10%未満
○:インク塗膜の剥離が10%以上25%未満
△:インク塗膜の剥離が25%以上50%未満
×:インク塗膜の剥離が50%以上
◎、〇は実用上問題がない範囲である。
(4)耐水摩擦性
印刷物を水道水に3時間浸漬後、学新型堅牢度摩擦試験機を用い、荷重200g、50回往復の条件にて水道水を含ませた綿布(カナキン3号)で摩擦し、インクの溶解の様子を測定し、下記の基準で評価した。
◎:綿布に色が着かない
○:綿布に色が着くが、フィルム地は見えない
△:綿布に色が着き、フィルム地の50%未満が見える
×:綿布に色が着き、フィルム地の50%以上が見える
◎、〇は実用上問題がない範囲である。
【0077】
(5)耐ブロッキング性
上記印刷物の印刷面と非印刷面が接触するようにフィルムを重ねて、10kgf/cmの加重をかけ、40℃80%RHの環境下に24時間放置させ、取り出し後、非印刷面へのインクの転移の状態を測定し、下記の基準で評価した。
◎・・・非印刷面へのインクの転移量0%
〇・・・転移量10%未満
△・・・転移量10%以上30%未満
×・・・転移量30%以上
◎、〇は実用上問題がない範囲である。
【0078】
表2に示すように、実施例17〜22、26〜29、31、33、34の水性インク組成物はインク適性(貯蔵安定性、再溶解性)、印刷物の塗膜耐性(密着性、耐水摩擦性、耐ブロッキング性)の全てにおいて優れていることが分かった。一方、比較例4〜6の水性インク組成物はインク適性、塗膜耐性共に不良であった。

【0079】
【表1】
【0080】
【表2】