特許第5935520号(P5935520)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935520
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】転がり軸受軌道輪の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/64 20060101AFI20160602BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20160602BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   F16C33/64
   F16C19/06
   F16C33/66 Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-128803(P2012-128803)
(22)【出願日】2012年6月6日
(65)【公開番号】特開2013-253631(P2013-253631A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(72)【発明者】
【氏名】鎌本 繁夫
(72)【発明者】
【氏名】村田 順司
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−227313(JP,A)
【文献】 特開2009−121659(JP,A)
【文献】 特開2004−116766(JP,A)
【文献】 特開2000−147416(JP,A)
【文献】 特開2007−198400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/64
F16C 19/06
F16C 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道輪素材に、熱処理、研削および研磨を施して軌道輪を形成する転がり軸受軌道輪の製造方法において、
工程と研磨工程との間の工程において、転造加工を行い、
軌道溝の表面でかつ前記軌道溝の端部に表面テクスチャを形成することを特徴とする転がり軸受軌道輪の製造方法。
【請求項2】
軌道輪素材に、熱処理、研削および研磨を施して軌道輪を形成する転がり軸受軌道輪の製造方法において、
熱処理工程の後であって、かつ、研削工程と研磨工程との間の工程において転造加工を行い、
軌道溝の表面でかつ前記軌道溝の端部に表面テクスチャを形成することを特徴とする転がり軸受軌道輪の製造方法。
【請求項3】
前記表面テクスチャが設けられている部分の接触圧力は、前記表面テクスチャが設けられていない部分の最大接触圧力を超えないことを特徴とする請求項1または2の転がり軸受軌道輪の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の転がり軸受軌道輪の製造方法であって、前記表面テクスチャがヘリングボーン形状であることを特徴とする転がり軸受軌道輪の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受軌道輪の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受軌道輪の軌道溝は、通常、超仕上げ加工によって平滑に仕上げられている。一方、軌道溝の表面に浅い溝など(「表面テクスチャ」と称す)を設けることにより、排油・給油・潤滑油保持の向上を図ることが考えられている。
【0003】
特許文献1には、転がり軸受軌道輪の製造方法として、電解加工によって、表面テクスチャ(またはパターン)を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−511713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の転がり軸受軌道輪の製造方法において、電解加工は、手間がかかり、コストが高くつくという問題があった。
【0006】
この発明の目的は、表面テクスチャを有する転がり軸受軌道輪を安いコストで得ることができる転がり軸受軌道輪の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による転がり軸受軌道輪の製造方法は、軌道輪素材に、熱処理、研削および研磨を施して軌道輪を形成する転がり軸受軌道輪の製造方法において、工程と研磨工程との間の工程において、転造加工を行い、軌道溝の表面でかつ前記軌道溝の端部に表面テクスチャを形成することを特徴とするものである。表面テクスチャは、排油・給油・潤滑油保持の向上を図るために、軌道溝の表面に設けられる所定形状の溝を意味する。
【0008】
この発明による転がり軸受軌道輪の製造方法は、軌道輪素材に、熱処理、研削および研磨を施して軌道輪を形成する転がり軸受軌道輪の製造方法において、熱処理工程の後であって、かつ、研削工程と研磨工程との間の工程において転造加工を行い、
軌道溝の表面でかつ前記軌道溝の端部に表面テクスチャを形成することを特徴とするものである。
【0009】
転造加工を熱処理前の工程で実施することにより、軌道輪素材が軟らかいことで、表面テクスチャの形成が容易なものとなる。転造加工を研削と研磨との間の工程で実施することにより、表面テクスチャの形成を精度よく行うことができる。
【0010】
前記表面テクスチャは、前記軌道溝の端部に設けられていることが好ましい。
【0011】
また、前記表面テクスチャが設けられている部分の接触圧力は、前記表面テクスチャが設けられていない部分の最大接触圧力を超えないことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
この発明の転がり軸受軌道輪の製造方法によると、軌道溝の表面に表面テクスチャを形成することで、排油・給油・潤滑油保持の向上を図ることができる。また、表面テクスチャの形成を転造加工を行うことにより、表面テクスチャを有する転がり軸受軌道輪を安いコストで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、この発明による転がり軸受軌道輪の製造方法で製造される軌道輪の1例を示す図で、(a)は内輪を、(b)は外輪をそれぞれ示している。
図2図2は、この発明による転がり軸受軌道輪の製造方法の第1実施形態の工程を示す工程フロー図である。
図3図3は、この発明による転がり軸受軌道輪の製造方法の第2実施形態の工程を示す工程フロー図である。
図4図4は、転造加工の例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、この発明の転がり軸受軌道輪の製造方法によって製造される転がり軸受軌道輪の一例を示している。
【0016】
図1(a)には、内輪(1)が示されており、内輪(1)の外周面には、玉(3)が転動する軌道溝(4)が設けられており、この軌道溝(4)の軸方向両端部には、表面テクスチャ(5)が設けられている。図1(b)には、外輪(2)が示されており、外輪(1)の内周面には、玉(3)が転動する軌道溝(6)が設けられており、この軌道溝(6)の軸方向両端部には、表面テクスチャ(7)が設けられている。
【0017】
表面テクスチャ(5)(7)は、潤滑剤を保持する機能、潤滑剤を玉(3)および内輪(1)または外輪(2)の中央部に供給する機能、余分な潤滑剤を軌道輪から排出する機能などを付与するために設けられたもので、複数の溝(5a)(7a)を有している。これら複数の溝(5a)(7a)は、図示した例では、ヘリングボーン状とされているが、これに限定されるものではなく、スパイラル状やその他種々の形状とすることができる。
【0018】
内輪(1)および外輪(2)(以下では、「軌道輪(1)(2)」と称す。)は、軌道溝が形成された軌道輪素材に、熱処理、研削および超仕上げ(研磨)を施して製造される。軌道輪(1)(2)に表面テクスチャ(5)(7)を設けるには、超仕上げ後の軌道溝(4)(6)に表面テクスチャ(5)(7)を加工することが考えられる。超仕上げ後の軌道溝(4)(6)に表面テクスチャ(5)(7)を加工する方法としては、エッチング、イオンビーム、レーザ、マイクロブラストなどによるものが知られている。しかしながら、これらの表面テクスチャ(5)(7)の加工方法は、いずれもコストが高く、大幅に製造コストが増加するという問題がある。そこで、この発明の転がり軸受軌道輪の製造方法では、転造加工を用いて表面テクスチャ(5)(7)が形成される。
【0019】
図2は、この発明の転がり軸受軌道輪の製造方法の第1実施形態を示している。
【0020】
図2に示すように、第1実施形態の製造方法は、軌道溝が形成された軌道輪素材を形成する工程と、転造加工を行って軌道溝に表面テクスチャを形成する工程と、熱処理工程と、研削工程と、超仕上げ(研磨)工程とを備えている。
【0021】
軌道溝が形成された軌道輪素材は、鍛造または旋削により形成することができる。
【0022】
転造加工は、例えば、図4(a)に示すように、溝型が形成された平形ダイス(12)と支持板(13)とによって軌道輪素材(11)を挟んで、平形ダイス(12)および支持板(13)をそれぞれ矢印方向に移動させることで、実施することができる。これにより、軌道輪素材(11)の外周面上に平形ダイス(12)に形成された溝型に対応する溝が形成される。
【0023】
転造加工は、また、図4(b)に示すように、円筒体(15)の内周面に複数個のボール(16)を配設した転造工具(14)を軸方向に移動させながら、軌道輪素材(11)内で回転させることで実施することもできる。これにより、軌道輪素材(11)の外周面上にボール(16)の移動経路に対応する溝が形成される。なお、図4(b)において、符号(11)とボール(16)とを合わせたものを転造工具とすれば、軌道輪素材としての円筒体(15)の内周面に溝を形成することができる。
【0024】
転造加工は、また、図4(c)に示すように、円盤体(19)の外周面に溝型が形成された転造工具(18)を外輪とされる軌道輪素材(17)内で転動させることで実施することもできる。これにより、軌道輪素材(17)の内周面上に転造工具(18)の転動経路に対応する溝が形成される。
【0025】
熱処理工程により、軌道輪(1)(2)に必要とされる硬度が付与される。熱処理前では、熱処理後に比べて、軌道輪(1)(2)が軟らかい状態であり、転造加工を容易に行うことができる。
【0026】
研削工程では、軌道溝(4)(6)の研削の他、幅研削、外径研削(外輪(2)の場合)、内径研削(内輪(1)の場合)も実施される。転造工程で設けられる表面テクスチャ(5)(7)の溝深さは、この研削工程で溝が浅くなることを考慮して設定される。
【0027】
超仕上げ(研磨)工程では、軌道溝(4)(6)および表面テクスチャ(5)(7)に対して研磨が実施される。この研磨により、表面テクスチャ(5)(7)の溝深さや溝面積が調整される。
【0028】
図3は、この発明の転がり軸受軌道輪の製造方法の第2実施形態を示している。
【0029】
第2実施形態の製造方法は、軌道溝が形成された軌道輪素材を形成する工程と、熱処理工程と、研削工程と、転造加工を行って軌道溝に表面テクスチャを形成する工程と、超仕上げ(研磨)工程とを備えている。
【0030】
第2実施形態は、転造加工を行って軌道溝に表面テクスチャを形成する工程を行う順序が第1実施形態と相違している。すなわち、第2実施形態では、研削工程後に転造加工を実施し、これにより、転造工程で設けられる表面テクスチャ(5)(7)の溝が研削工程で浅くなることを考慮する必要がなく、表面テクスチャの形成を精度よく行うことができる。
【0031】
こうして表面テクスチャ(5)(7)が設けられた軌道輪(1)(2)を使用する転がり軸受では、例えば、表面テクスチャ(5)(7)からの効率の良い排油によるトルク低減機能が得られ、また、表面テクスチャ(4)による潤滑剤(グリース)の保持機能により、焼き付き防止機能が得られる。
【0032】
表面テクスチャ(5)(7)の溝(5a)(7a)の深さは、1μm以下では、好ましい排油・給油・潤滑油保持機能を得にくいので、5μm以上とされる。溝(5a)(7a)の深さの上限は、特に限定されないが、耐久性を考慮して、30μm以下とすることが好ましい。
【0033】
なお、表面テクスチャ(5)(7)が設けられた軌道輪(1)(2)を使用する転がり軸受の潤滑方式は、限定されるものではなく、グリース潤滑であってもよく、潤滑油潤滑であってもよい。
【0034】
図1に示したように、表面テクスチャ(5)(7)は、軌道溝(4)(6)の端部に設けられていることが好ましい。すなわち、軌道溝(4)(6)の中央部(軸方向の中央部)は、接触圧力が高くなる箇所であり、この部分に表面テクスチャ(5)(7)を設けると、表面テクスチャ(5)(7)を設けたことで短寿命となる可能性がある。軌道溝(4)(6)の中央部を避けて表面テクスチャを設けることにより、排油・給油・潤滑油保持の性能を向上させ、かつ、寿命が短くなることを防止することができる。
【0035】
また、表面テクスチャ(5)(7)が設けられている部分の接触圧力は、表面テクスチャ(5)(7)が設けられていない部分(軌道溝(4)(6)の中央部)の最大接触圧力を超えないことが好ましい。すなわち、軌道溝(4)(6)の表面に表面テクスチャ(5)(7)を設けた場合、表面テクスチャ(5)(7)の溝(5a)(7a)に相当する分の接触面積が少なくなり、接触圧力が増加する。接触圧力の増加は、短寿命の原因となる。表面テクスチャ(5)(7)が設けられている部分の接触圧力が表面テクスチャ(5)(7)が設けられていない部分の最大接触圧力を超えないようにすれば、表面テクスチャ(5)(7)を設けたことに起因する短寿命化を抑えることができる。接触圧力は、ヘルツの理論に基づいて計算が可能で、例えば、溝(5a)(7a)の面積と溝(5a)(7a)が設けられていない部分の面積との比を所要の値以下にすることで、表面テクスチャ(5)(7)が設けられている部分の接触圧力を調整することができる。
【符号の説明】
【0036】
(1):内輪、(2):外輪、(4)(6):軌道溝、(5)(7):表面テクスチャ
図1
図2
図3
図4