(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態に係る蓄電素子の劣化後容量推定装置及び当該劣化後容量推定装置を備える蓄電システムについて説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0026】
まず、蓄電システム10の構成について、説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施の形態に係る劣化後容量推定装置100を備える蓄電システム10の外観図である。
【0028】
同図に示すように、蓄電システム10は、劣化後容量推定装置100と、複数(同図では6個)の蓄電素子200と、劣化後容量推定装置100及び複数の蓄電素子200を収容する収容ケース300とを備えている。
【0029】
劣化後容量推定装置100は、複数の蓄電素子200の上方に配置され、複数の蓄電素子200の放電容量を推定する回路を搭載した回路基板である。具体的には、劣化後容量推定装置100は、複数の蓄電素子200に接続されており、複数の蓄電素子200から情報を取得して、複数の蓄電素子200の所定の劣化時点における放電容量である劣化後容量を推定する。この劣化後容量推定装置100の詳細な機能構成の説明については、後述する。
【0030】
なお、ここでは、劣化後容量推定装置100は複数の蓄電素子200の上方に配置されているが、劣化後容量推定装置100はどこに配置されていてもよい。
【0031】
蓄電素子200は、正極と負極とを有する非水電解質二次電池などの二次電池である。また、同図では6個の矩形状の蓄電素子200が直列に配置されて組電池を構成している。なお、蓄電素子200の個数は6個に限定されず、他の複数個数または1個であってもよい。また蓄電素子200の形状も特に限定されない。
【0032】
ここで、蓄電素子200は、正極活物質として層状構造のリチウム遷移金属酸化物を含むリチウムイオン二次電池であるのが好ましい。具体的には、正極活物質として、Li
1+xM
1−yO
2(MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素、0≦x<1/3、0≦y<1/3)等の層状構造のリチウム遷移金属酸化物等を用いるのが好ましい。なお、当該正極活物質として、LiMn
2O
4やLiMn
1.5Ni
0.5O
4等のスピネル型リチウムマンガン酸化物や、LiFePO
4等のオリビン型正極活物質等と、上記層状構造のリチウム遷移金属酸化物とを混合して用いてもよい。
【0033】
また、負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。例えば、リチウム金属、リチウム合金(リチウム−ケイ素、リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−錫、リチウム−アルミニウム−錫、リチウム−ガリウム、及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、ケイ素酸化物、金属酸化物、リチウム金属酸化物(Li
4Ti
5O
12等)、ポリリン酸化合物、あるいは、一般にコンバージョン負極と呼ばれる、Co
3O
4やFe
2P等の、遷移金属と第14族乃至第16族元素との化合物などが挙げられる。
【0034】
次に、劣化後容量推定装置100の詳細な機能構成について、説明する。
【0035】
図2は、本発明の実施の形態に係る劣化後容量推定装置100の機能的な構成を示すブロック図である。
【0036】
劣化後容量推定装置100は、蓄電素子200の所定の劣化時点における放電容量である劣化後容量を推定する装置である。同図に示すように、劣化後容量推定装置100は、関係式取得部110、劣化後容量推定部120及び記憶部130を備えている。また、記憶部130には、関係式データ131及び蓄電素子データ132が記憶されている。
【0037】
関係式取得部110は、蓄電素子200の放電容量の劣化状態を示す関係式を取得する。つまり、関係式取得部110は、蓄電素子200の初期容量と平衡論的容量低下量と速度論的容量低下量と抵抗値との関係を示す第一関係式を取得する。具体的には、関係式取得部110は、平衡論的容量に対する速度論的容量低下量の比率である容量比率と、当該抵抗値との関係を示す当該第一関係式を取得する。さらに具体的には、関係式取得部110は、当該容量比率が当該抵抗値の一次関数で示される当該第一関係式を取得する。
【0038】
ここで、蓄電素子200を所定の第一電流で放電する場合の放電容量を蓄電容量とし、蓄電素子200を当該第一電流より小さい電流値の第二電流で放電する場合の放電容量を平衡論的容量とする。そして、蓄電素子200の初期容量から平衡論的容量を差し引いた値を平衡論的容量低下量とし、平衡論的容量から蓄電容量を差し引いた値を速度論的容量低下量とする。また、抵抗値とは、蓄電素子200の直流抵抗または交流抵抗の抵抗値である。つまり、当該抵抗値は、蓄電素子200の内部抵抗の抵抗値であり、例えば、1kHzの交流抵抗、または10秒目の直流抵抗の抵抗値である。
【0039】
また、蓄電素子200の初期容量とは、蓄電素子200の初期状態において、上記の第二電流で放電したときの可逆容量である。なお、蓄電素子200の初期状態とは、例えば蓄電素子200の製造時または出荷時の状態である。なお、当該初期容量は上記の場合に限定されず、蓄電素子200の使用が開始された後のある時点での可逆容量を初期容量としてもよい。
【0040】
なお、関係式取得部110は、記憶部130に記憶されている関係式データ131から、第一関係式を読み出すことで、当該第一関係式を取得する。つまり、関係式データ131は、蓄電素子200の劣化後容量を推定するための第一関係式を保持しているデータである。当該第一関係式の詳細については、後述する。
【0041】
劣化後容量推定部120は、関係式取得部110が取得した第一関係式と、所定の劣化時点における蓄電素子200の抵抗値とを用いて、当該劣化時点における蓄電容量である劣化後容量を推定する。ここで、劣化後容量推定部120は、データ取得部121、容量比率算出部122及び劣化後容量算出部123を備えている。
【0042】
データ取得部121は、当該劣化時点において、蓄電素子200の抵抗値と平衡論的容量とを取得する。そして、データ取得部121は、取得した蓄電素子200の抵抗値と平衡論的容量とを記憶部130の蓄電素子データ132に記憶させる。この記憶部130に記憶されている蓄電素子データ132の詳細については、後述する。
【0043】
容量比率算出部122は、データ取得部121が取得した抵抗値と、第一関係式とを用いて、劣化時点における容量比率を算出する。具体的には、容量比率算出部122は、記憶部130の蓄電素子データ132に記憶されている抵抗値と、関係式データ131に記憶されている第一関係式とを読み出し、当該容量比率を算出する。そして、容量比率算出部122は、算出した容量比率を記憶部130の蓄電素子データ132に記憶させる。
【0044】
劣化後容量算出部123は、劣化後容量と、データ取得部121が取得した平衡論的容量と、容量比率算出部122が算出した容量比率との関係を示す第二関係式を用いて、劣化後容量を算出する。具体的には、劣化後容量算出部123は、1から容量比率を減じた値に、平衡論的容量を乗じることで、劣化後容量を算出する。つまり、劣化後容量算出部123は、記憶部130の蓄電素子データ132に記憶されている平衡論的容量と容量比率とを読み出し、第二関係式を用いて、劣化後容量を算出する。
【0045】
図3は、本発明の実施の形態に係る蓄電素子データ132の一例を示す図である。
【0046】
蓄電素子データ132は、所定の劣化時点における蓄電素子200の抵抗値と平衡論的容量と容量比率とを示すデータの集まりである。つまり、同図に示すように、蓄電素子データ132は、「抵抗値」と「平衡論的容量」と「容量比率」とが対応付けられたデータテーブルである。そして、「抵抗値」には、所定の劣化時点における蓄電素子200の抵抗値を示す値が記憶され、「平衡論的容量」には、当該劣化時点における蓄電素子200の平衡論的容量を示す値が記憶され、「容量比率」には、当該劣化時点における蓄電素子200の容量比率を示す値が記憶される。
【0047】
次に、関係式取得部110が取得する第一関係式について、詳細に説明する。
【0048】
図4及び
図5は、本発明の実施の形態に係る関係式取得部110が取得する第一関係式を説明するための図である。具体的には、
図4は、蓄電素子200を繰り返し充放電した場合での充放電回数(サイクル数)と蓄電素子200の放電容量との関係を示すグラフである。また、
図5は、蓄電素子200の放電容量が劣化していくことを示す図である。
【0049】
図4に示すグラフAは、蓄電素子200を所定の第一電流で放電する場合の放電容量である蓄電容量Qの推移を示しており、グラフBは、蓄電素子200を当該第一電流より小さい電流値の第二電流で放電する場合の放電容量である平衡論的容量Q
eの推移を示している。
【0050】
ここで、第一電流は例えば1CAの定電流であり、蓄電容量Qは、1C容量確認試験を実施した場合での放電容量である。また、第二電流は電流値が0に限りなく近い電流であり、平衡論的容量Q
eは、例えば、0.05Cで間欠放電を行って得られるOCV(開回路電圧)カーブから求められる放電容量(以下、「間欠放電容量」ともいう)、または0.05Cの定電流定電圧(CCCV)充電を行った場合での充電容量である。なお、第一電流は0.5〜2CAの定電流であるのが好ましく、第二電流は0〜0.1CAの定電流に相当する電流値であるのが好ましい。
【0051】
また、蓄電素子200の初期容量Q
0から平衡論的容量Q
eを差し引いた値が平衡論的容量低下量Q
tである。つまり、平衡論的容量低下量Q
tは、所定の劣化時点における平衡論的容量Q
eの0サイクルからの差分である。
【0052】
また、平衡論的容量Q
eから蓄電容量Qを差し引いた値が速度論的容量低下量Q
kである。つまり、速度論的容量低下量Q
kは、蓄電容量Qの初期容量Q
0からの低下量である容量低下量Q
dから平衡論的容量低下量Q
tを差し引いた値である。なお、容量低下量Q
dは、所定の劣化時点における蓄電容量Qの0サイクルからの差分である。
【0053】
以上により、蓄電容量Qは、以下の式1で表される。
【0054】
Q=Q
0−Q
d=Q
0−(Q
t+Q
k) (式1)
【0055】
ここで、
図5に示すように、
図5の(a)の状態から
図5の(b)の状態に劣化が進行すると、平衡論的容量Q
eと蓄電容量Qとが低下する。なお、
図5の(a)は、蓄電素子200のフレッシュ品における放電容量を示すグラフであり、
図5の(b)は、蓄電素子200が劣化した寿命品の放電容量を示すグラフである。そして、これらの図に示すグラフA1及びA2は、蓄電容量Qの推移を示しており、グラフB1及びB2は、平衡論的容量Q
eの推移を示している。
【0056】
例えば、45℃、SOC(State Of Charge:充電状態)の範囲が0〜100%の1Cサイクル試験を1350サイクル実施した場合、平衡論的容量Q
eは約1/2まで低下し、蓄電容量Qは約1/5まで低下する設計容量600mAhのリチウムイオン二次電池があったとする。つまり、速度論的容量低下量Q
kが大幅に増加する。
【0057】
この速度論的容量低下量Q
kや平衡論的容量Q
eは、電池の直流あるいは交流の抵抗値Rと密接な関係があると考えられるが、どのような関係があるのかを見出すことは容易ではなかった。
【0058】
そこで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、以下の式2に示すように、初期容量Q
0から平衡論的容量低下量Q
tを減じた値(平衡論的容量Q
e)に対する速度論的容量低下量Q
kの比率である容量比率r
gが、抵抗値Rに比例することを見出した。
【0059】
r
g=Q
k/(Q
0−Q
t)=a×R+b (式2)
【0060】
ここで、a及びbは定数であり、抵抗値Rは、蓄電素子200の直流抵抗または交流抵抗である。そして、上記の容量比率r
gが抵抗値Rの一次関数で示される式2が、関係式取得部110が取得する第一関係式である。
【0061】
そして、上記の第一関係式は、蓄電素子200の種類ごとに、事前に以下のような試験によって導出され、記憶部130の関係式データ131に事前に記憶される。なお、上記の式2における定数a及びbは、蓄電素子200の種類ごとに算出される。以下に、第一関係式を導出するための試験について、説明する。
【0062】
まず、劣化後容量を推定したい蓄電素子200と同じ構成の蓄電素子200を用いて、想定される使用条件(電流値は規定)を模擬した標本試験(サイクル試験、放置試験、それらを組合わせた様々な試験)を予め実施する。例えば、45℃で1Cサイクルの寿命試験を実施する。
【0063】
そして、試験期間ごとの放電容量確認試験において、平衡論的容量低下量Q
tを0.05C間欠放電試験により測定し、0.05C間欠放電容量から1C放電容量を差し引くことで速度論的容量低下量Q
kを算出する。例えば、150、200、400サイクル後に次のデータを取得する。
【0064】
(a)OCV(開回路電圧)試験によりQ
tを測定
(b)1C容量確認試験によりQ
kを算出
(c)1kHzの交流抵抗または10秒目の直流抵抗を測定
【0065】
そして、得られた平衡論的容量低下量Q
tと速度論的容量低下量Q
kとから、容量比率r
g=Q
k/(Q
0−Q
t)(Q
0は電流0の初期放電容量)を算出する。また、試験期間ごとの放電容量確認試験において、直流抵抗あるいは交流抵抗の抵抗値Rを取得する。なお、1kHzの交流抵抗とは、1kHzの周波数の交流電圧または交流電流を蓄電素子200に印加することで測定される交流抵抗(交流インピーダンス)である。また、10秒目の直流抵抗は、10秒目のV−I(電圧−電流)プロットの傾きより測定される。
【0066】
具体的には、抵抗値Rの測定方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。つまり、回収した電池を25℃で少なくとも3時間放置後、電池定格容量の0.05CAで定電流放電(残存放電)を、SOC(State Of Charge:充電状態)が0%になるまで行う。
【0067】
そして、直流抵抗の抵抗値Rを取得する場合には、0.2CAで定電流定電圧充電をSOCが50%になるまで合計8時間行う。その後、0.2、0.5、1CAなど少なくとも3点以上の放電電流の10秒目電圧(V)をそれぞれの放電電流(I)に対してプロットし、それらの傾きが直線性を示すことを確認して、そのV−Iプロットの傾きから直流抵抗の抵抗値Rを取得する。
【0068】
また、交流抵抗の抵抗値Rを取得する場合には、交流インピーダンス測定器を用いて、例えば1kHzの電池の内部インピーダンス(SOC:0%)を取得する。
【0069】
そして、r
g=a×R+bの相関マップを作成し、定数a及びbの値を求める。
【0070】
次に、第一関係式の具体例について、説明する。
【0071】
以下の具体例において用いたリチウムイオン二次電池は、正極、負極及び非水電解質を備えている。上記正極は、正極集電体であるアルミニウム箔上に正極合剤が形成されてなる。上記正極合剤は、正極活物質と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンと、導電材としてのアセチレンブラックを含む。上記正極活物質は、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2で表される層状構造のリチウム遷移金属酸化物とスピネル型リチウムマンガン酸化物との混合物である。上記負極は、負極集電体である銅箔上に負極合剤が形成されてなる。上記負極合剤は、負極活物質である黒鉛質炭素材料と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを含む。
【0072】
図6A、
図6B及び
図7は、本発明の実施の形態に係る関係式取得部110が取得する第一関係式の具体例を示す図である。具体的には、
図6Aは、45℃1Cサイクル試験における1C放電容量確認試験を実施した場合での電池(1N)の容量比率と1kHz交流抵抗値との関係を示すグラフであり、
図6Bは、
図6Aと同様の場合での電池の容量比率と10秒目直流抵抗値との関係を示すグラフである。また、
図7は、サイクルあるいは放置試験において、一定期間(約1年)供試した電池(10N)の容量比率と1kHz交流抵抗値との関係を示すグラフである。なお、いずれの場合においても、0.05C間欠放電試験によって平衡論的容量を取得した。
【0073】
まず、
図6Aに示すように、1350サイクルまでの試験結果に基づき、容量比率r
gと交流(1kHz)抵抗値Rとの関係を直線近似した結果、第一関係式として、r
g=0.0024×R−0.1206が得られた。そして、この第一関係式を用いて、1350サイクルの場合での容量比率r
gを算出した結果、r
g=0.597との推定値が得られた。この推定値は、実測値0.618と比べて誤差が−0.021であり、実測値に近い値が得られた。
【0074】
また、
図6Bに示すように、1350サイクルまでの試験結果に基づき、容量比率r
gと放電開始から10秒目の直流抵抗値Rとの関係を直線近似した結果、第一関係式として、r
g=0.001×R−0.1124が得られた。そして、この第一関係式を用いて、1350サイクルの場合での容量比率r
gを算出した結果、r
g=0.585との推定値が得られた。この推定値は、実測値0.618と比べて誤差が−0.033であり、実測値に近い値が得られた。
【0075】
また、
図7に示すように、容量比率r
gと抵抗値Rとの関係を直線近似した結果、第一関係式として、r
g=0.00319×R−0.1488が得られた。そして、この第一関係式を用いて、サイクル試験Aの場合での容量比率r
gを算出した結果、r
g=0.165との推定値が得られた。この推定値は、実測値0.179と比べて誤差が−0.014であり、実測値に近い値が得られた。
【0076】
なお、
図7は、同一種類のリチウムイオン二次電池について、試験の種類及び試験条件の異なる種々の試験結果を重ねてプロットしたものである。即ち、サイクル試験Aは、温度が25℃及び45℃、SOCの範囲が0〜100%(2.75〜4.1V)での1Cサイクル試験であり、サイクル試験Bは、温度が45℃、SOCの範囲が0〜100%、10〜90%及び20〜80%である3種類の1Cサイクル試験であり、放置試験Aは、温度が45℃、SOCが100、90及び80%での3種類の放置試験であり、放置試験Bは、温度が25、45及び60℃、SOCが100%での3種類の放置試験であり、全ての試験をおよそ1年間継続した後の電池について以下の測定を行った結果に基づいてプロットした。
【0077】
なお、上記1Cサイクル試験の条件は次のとおりである。充電は、電流1CmA(=600mA)、電圧4.1V、充電時間3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流1CmA(=600mA)、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。なお、充電と放電の間、及び、放電と充電の間にはそれぞれ10分間の休止時間を設けた。休止時間は電池を開回路状態とした。即ち、充電、休止、放電、休止の4工程を1サイクルとする。
【0078】
具体的には、それぞれの電池の1C放電容量(蓄電容量Q)と0.05C間欠放電容量(平衡論的容量Q
e=Q
0−Q
t)とを測定して、0.05C間欠放電容量から1C放電容量を差し引いた放電容量(速度論的容量低下量Q
k)を算出し、容量比率r
g=Q
k/(Q
0−Q
t)を算出した。また、そのときの1kHzの交流抵抗の抵抗値R(SOC0%、0.05C定電流放電により2.75Vまで放電)を測定して、
図7に示す相関マップを作成した。
【0079】
なお、1C放電容量については、定電流定電圧充電を4.1Vまで行い、3時間の定電流放電を2.75Vまで実施して測定した。また、0.05C間欠放電容量については、間欠定電流定電圧充電を電流レート0.05C、通電時間1時間、休止時間3時間で実施し、25回の測定を行い、間欠定電流放電を電流レート0.05C、通電時間1時間、休止時間3時間で実施し、25回の測定を行った。
【0080】
次に、劣化後容量推定装置100が蓄電素子200の劣化後容量を推定する処理について、説明する。
【0081】
図8及び
図9は、本発明の実施の形態に係る劣化後容量推定装置100が蓄電素子200の劣化後容量を推定する処理の一例を示すフローチャートである。
【0082】
まず、同図に示すように、関係式取得部110は、劣化後容量を推定する蓄電素子200の種類に応じた、上記の式2に示す第一関係式を取得する(S102)。具体的には、関係式取得部110は、記憶部130に記憶されている関係式データ131を参照して、当該蓄電素子200の種類に応じた第一関係式を取得する。ここで、第一関係式は、蓄電素子200の初期容量と平衡論的容量低下量と速度論的容量低下量と抵抗値との関係を示す式であり、具体的には、平衡論的容量に対する速度論的容量低下量の比率である容量比率が当該抵抗値の一次関数で示される式である。
【0083】
そして、劣化後容量推定部120は、関係式取得部110が取得した第一関係式と、所定の劣化時点における蓄電素子200の抵抗値とを用いて、当該劣化時点における蓄電容量である劣化後容量を推定する(S104)。以下に、劣化後容量推定部120が当該劣化後容量を推定する処理を詳細に説明する。
図9は、本発明の実施の形態に係る劣化後容量推定部120が劣化後容量を推定する処理(
図8のS104)の一例を示すフローチャートである。
【0084】
図9に示すように、まず、データ取得部121は、当該劣化時点において、蓄電素子200の抵抗値を取得する(S202)。つまり、データ取得部121は、劣化後容量を推定したい蓄電素子200の当該劣化時点での抵抗値R(交流あるいは直流)を取得する。なお、データ取得部121は、当該抵抗値Rを測定することで取得することにしてもよいし、ユーザによる入力など外部から取得することにしてもよい。そして、データ取得部121は、取得した蓄電素子200の抵抗値Rを記憶部130の蓄電素子データ132に記憶させる。
【0085】
また、データ取得部121は、当該劣化時点において、蓄電素子200の平衡論的容量を取得する(S204)。つまり、データ取得部121は、劣化後容量を推定したい蓄電素子200の当該劣化時点での平衡論的容量Q
eを取得する。
【0086】
例えば、データ取得部121は、0.05C残存放電後に、十分な時間のCCCV充電(例えば、0.2CAで10時間充電)を実施して、そのときの充電電気量を測定し、測定した充電電気量を平衡論的容量Q
eとして取得する。このように、充電電気量と放電電気量とが同じ(クーロン効率が100%)であると仮定することで、0.05C間欠放電を行う必要がなくなる。
【0087】
また、データ取得部121は、0.05C間欠放電を行うことにより平衡論的容量Q
eを取得することにしてもよいし、ルート則及び指数則を用いた容量の推定方法などにより平衡論的容量Q
eを取得することにしてもよいし、ユーザによる入力など外部から平衡論的容量Q
eを取得することにしてもよい。そして、データ取得部121は、取得した平衡論的容量Q
eを記憶部130の蓄電素子データ132に記憶させる。
【0088】
次に、容量比率算出部122は、データ取得部121が取得した抵抗値と、第一関係式とを用いて、劣化時点における容量比率を算出する(S206)。つまり、容量比率算出部122は、記憶部130から抵抗値と第一関係式とを読み出し、上記の式2で示される第一関係式に抵抗値Rを代入して、容量比率r
gを算出する。そして、容量比率算出部122は、算出した容量比率r
gを記憶部130の蓄電素子データ132に記憶させる。
【0089】
そして、劣化後容量算出部123は、劣化後容量と、データ取得部121が取得した平衡論的容量と、容量比率算出部122が算出した容量比率との関係を示す第二関係式を用いて、劣化後容量を算出する(S208)。
【0090】
ここで、第二関係式は、次のプロセスにより導かれる以下の式3で示す関係式である。
【0091】
Q=Q
0−(Q
t+Q
k)
=Q
0−{Q
t+r
g×(Q
0−Q
t)}
=Q
0−Q
t−r
g×(Q
0−Q
t)
=(1−r
g)×(Q
0−Q
t)
=(1−a×R−b)×(Q
0−Q
t) (式3)
【0092】
つまり、劣化後容量算出部123は、1から容量比率r
g(=a×R+b)を減じた値に、平衡論的容量Q
e(=Q
0−Q
t)を乗じることで、劣化後容量Qを算出する。このように、劣化後容量算出部123は、記憶部130から平衡論的容量Q
eと容量比率r
gとを読み出して、第二関係式に代入することで、劣化後容量Qを算出することができる。
【0093】
以上により、劣化後容量推定装置100が蓄電素子200の劣化後容量を推定する処理は、終了する。
【0094】
次に、本発明の実施の形態に係る劣化後容量推定装置100が奏する効果について説明する。具体的には、劣化後容量推定装置100が蓄電素子200の劣化後容量を精度良く推定することができることについて、説明する。
図10及び
図11は、本発明の実施の形態に係る劣化後容量推定装置100が奏する効果を説明するための図である。
【0095】
まず、劣化後容量を推定したい電池と同じ構成の電池の第一関係式を取得する。ここでは、
図7で示された第一関係式であるr
g=0.00319×R−0.1488を取得した。また、所定の劣化時点での当該劣化後容量を推定したい電池の1kHzの交流抵抗を求めたところ、抵抗値R=98.2mOhmであった。
【0096】
そして、当該電池の0.05C残存放電後に0.05CのCCCV充電を実施して、充電電気量が平衡論的容量Q
eであるとみなした。この結果、Q
e=Q
0−Q
t=557.4mAhであった。
【0097】
そして、上記の式3に、r
gとQ
eとを代入して、当該電池の劣化後容量として蓄電容量Qを求めた。この結果、
図11に示すように、Q=(1−r
g)×Q
e=(1−0.00319×98.2+0.1488)×557.4=465.2mAhとなり、実測値465.3mAhとよく一致した。
【0098】
次に、比較例として、従来用いられてきた方法での劣化後容量の算出を実施した。具体的には、上記電池と同じく、温度が45℃、SOCの範囲が0〜100%(2.75〜4.1V)の1Cサイクル試験に供試した2000サイクル(約1年)時点の電池を用いた。
【0099】
そして、
図10に示すように、非特許文献1を参考に、当該電池と同じ構成の電池の初期品及び試験品を回収し、それらの1C放電容量Qと1kHzの交流抵抗の抵抗値Rとを測定して、相関マップを作成し、Q=−5.0468×R+929.45を得た。
【0100】
また、所定の劣化時点での当該電池の1kHzの交流抵抗の抵抗値Rを求めた結果、R=98.2mOhmであった。そして、このRを上記の式に代入して、推定したい電池の放電容量Qを求めた。
【0101】
この結果、
図11に示すように、Q=−5.0468×R+929.45=−5.0468×98.2+929.45=433.9mAhとなり、実測値465.3mAhと比べて、約31.4mAhの推定誤差があった。このように、上記実施の形態に係る劣化後容量推定装置100は、従来用いられてきた方法と比べて、非常に高い精度で劣化後容量を推定することができた。
【0102】
以上のように、本発明の実施の形態に係る劣化後容量推定装置100によれば、蓄電素子200の初期容量と平衡論的容量低下量と速度論的容量低下量と抵抗値との関係を示す第一関係式を取得し、当該第一関係式と、劣化時点における抵抗値とを用いて、蓄電素子200の所定の劣化時点における放電容量である劣化後容量を推定する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、放電容量の低下量を平衡論的容量低下量と速度論的容量低下量とに分離し、平衡論的容量低下量及び速度論的容量低下量と、蓄電素子200の抵抗値との関係を示す第一関係式を用いることによって、当該劣化後容量を精度良く推定することができることを見出した。なお、例えば、第一電流は1CAの定電流であり、第二電流は電流値が0に限りなく近い電流である。これにより、劣化後容量推定装置100は、蓄電素子200の所定の劣化時点における放電容量を精度良く推定することができる。
【0103】
また、劣化後容量推定装置100は、平衡論的容量に対する速度論的容量低下量の比率である容量比率と、抵抗値との関係を示す第一関係式を取得する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、当該容量比率と抵抗値との関係を示す第一関係式を用いることによって、劣化後容量を精度良く推定することができることを見出した。これにより、劣化後容量推定装置100は、蓄電素子200の所定の劣化時点における放電容量を精度良く推定することができる。
【0104】
また、劣化後容量推定装置100は、容量比率が抵抗値の一次関数で示される第一関係式を取得する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、容量比率が抵抗値の一次関数で示される第一関係式を用いることによって、劣化後容量を精度良く推定することができることを見出した。これにより、劣化後容量推定装置100は、蓄電素子200の所定の劣化時点における放電容量を精度良く推定することができる。
【0105】
また、劣化後容量推定装置100は、劣化時点における抵抗値と第一関係式とを用いて、劣化時点における容量比率を算出し、劣化後容量と、劣化時点における平衡論的容量と容量比率との関係を示す第二関係式を用いて、劣化後容量を算出する。つまり、劣化後容量推定装置100は、第一関係式と第二関係式とを用いることによって、蓄電素子200の所定の劣化時点における放電容量を精度良く推定することができる。
【0106】
また、劣化後容量推定装置100は、1から容量比率を減じた値に、平衡論的容量を乗じることで、劣化後容量を算出する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、1から容量比率を減じた値に、平衡論的容量を乗じることで、劣化後容量を精度良く算出することができることを見出した。これにより、劣化後容量推定装置100は、蓄電素子200の所定の劣化時点における放電容量を精度良く推定することができる。
【0107】
また、蓄電素子200は、正極活物質として層状構造のリチウム遷移金属酸化物を含むリチウムイオン二次電池であるのが好ましい。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、蓄電素子200が当該リチウムイオン二次電池の場合に、上記の第一関係式によって劣化状態を精度良く表現できることを見出した。このため、劣化後容量推定装置100は、当該リチウムイオン二次電池の劣化後容量を正確に推定することができる。
【0108】
なお、劣化後容量推定装置100は、特に、蓄電素子200の寿命末期における放電容量を精度良く推定することができる。ここで、蓄電素子200の寿命末期とは、例えば、放電容量が初期容量の70%以下になった場合を指す。これにより、例えば電気自動車など移動体用のリチウムイオン二次電池の交換時期のタイミングを正確に見極めることができる。また、蓄電素子200において、推定される寿命に応じて充放電制御を行うことで、容量劣化を抑制することができるため、寿命延命措置をとることができる。
【0109】
以上、本発明の実施の形態に係る劣化後容量推定装置100及び蓄電システム10について説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。つまり、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0110】
例えば、上記実施の形態では、劣化後容量推定部120は、関係式取得部110が取得した関係式を変更することなく用いて蓄電素子200の劣化後容量を推定することとした。しかし、劣化後容量推定部は、当該関係式を補正して、当該劣化後容量を推定することにしてもよい。
図12は、本発明の実施の形態の変形例に係る劣化後容量推定装置100aの構成を示すブロック図である。同図に示すように、劣化後容量推定装置100aの劣化後容量推定部120aは、関係式取得部110が取得した関係式を補正する関係式補正部124を備えており、関係式補正部124が補正した補正後の関係式を用いて、劣化後容量を推定する。これにより、劣化後容量推定装置100aは、例えば、自動車等での実使用中に、容量比率rgと抵抗値Rに相当するデータ対を取得し、これに基づき、上記の関係式を補正して当該関係式の精度を向上させていくことで、劣化後容量を正確に推定することができる。
【0111】
また、上記実施の形態では、劣化後容量推定装置100は、関係式取得部110、劣化後容量推定部120及び記憶部130を備えており、劣化後容量推定部120は、データ取得部121、容量比率算出部122及び劣化後容量算出部123を備えていることとした。しかし、
図13に示すように、劣化後容量推定装置は、少なくとも、関係式取得部及び劣化後容量推定部を備えていればよい。
【0112】
図13は、本発明の実施の形態に係る劣化後容量推定装置の最小の構成を示すブロック図である。同図に示すように、劣化後容量推定装置100bは、上記実施の形態と同様の機能を有する関係式取得部110及び劣化後容量推定部120bを備えており、外部の記憶部130と情報をやり取りすることで、劣化後容量を推定する。なお、劣化後容量推定部120bは、関係式取得部110が取得した関係式を用いて劣化後容量を推定することができればよく、上記実施の形態のようにデータ取得部121、容量比率算出部122及び劣化後容量算出部123を備えていることには限定されない。
【0113】
ここで、本発明に係る劣化後容量推定装置100が備える処理部は、典型的には、集積回路であるLSI(Large Scale Integration)として実現される。つまり、
図14に示すように、本発明は、関係式取得部110と劣化後容量推定部120とを備える集積回路101として実現される。
図14は、本発明の実施の形態に係る劣化後容量推定装置を集積回路で実現する構成を示すブロック図である。
【0114】
なお、集積回路101が備える各処理部は、個別に1チップ化されても良いし、一部または全てを含むように1チップ化されても良い。
【0115】
ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0116】
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用しても良い。
【0117】
さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。バイオ技術の適応等が可能性としてあり得る。
【0118】
また、本発明は、このような劣化後容量推定装置100として実現することができるだけでなく、劣化後容量推定装置100が行う特徴的な処理をステップとする劣化後容量推定方法としても実現することができる。
【0119】
また、本発明は、劣化後容量推定方法に含まれる特徴的な処理をコンピュータに実行させるプログラムとして実現したり、当該プログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能なCD−ROMなどの記録媒体として実現したりすることもできる。そして、そのようなプログラムは、CD−ROM等の記録媒体及びインターネット等の伝送媒体を介して流通させることができるのは言うまでもない。