【実施例1】
【0018】
本発明の容積形圧縮機の実施例1を、
図1〜
図4を用いて説明する。
図1は本実施例の容積形圧縮機の全体構造を示す縦断面図で、本実施例では密閉形のスクロール圧縮機に本発明を適用した例を説明する。
【0019】
密閉形スクロール圧縮機(容積形圧縮機)1は、密閉容器21内に、圧縮機構部2、この圧縮機構部2を駆動するための電動機部3、この電動機部3の回転を前記圧縮機構部2に伝達するためのクランク軸11等を収容している。
【0020】
前記圧縮機構部2は、前記クランク軸11の主軸部11aを支持するための主軸受(軸受)14を設けたフレーム12を備えており、このフレーム12は、A部に示すように、その外周面を、周方向に数箇所、前記密閉容器21に溶接(本実施例ではプラグ溶接)した溶接部により固定されている。また、前記圧縮機構部2には、非旋回スクロール19と、この非旋回スクロール19と噛み合って旋回運動をする旋回スクロール20を有している。前記非旋回スクロール19は前記フレーム12に固定されており、またその外周側には吸込管6が接続され、中央部には吐出ポート4が設けられている。
【0021】
前記旋回スクロール20の背面にはボス部20aが形成されており、このボス部20aに前記クランク軸11の偏心ピン部11bが係合されて、前記旋回スクロール20は旋回運動される。また、前記旋回スクロール20の背面と前記フレーム12との間には、前記旋回スクロール20の自転を防止するオルダムリング29が設けられている。
【0022】
前記非旋回スクロール19と前記旋回スクロール20が噛み合って旋回運動することにより、前記吸込管6から前記非旋回スクロール19外周側の吸込室19aに吸い込まれた冷媒などのガスは、前記両スクロール19,20で形成される圧縮室により圧縮されながら中心側に移動し、前記吐出ポート4から密閉容器21内上部に形成された吐出空間5aに吐出される。その後、この圧縮ガスは、前記密閉容器21の内周面と前記圧縮機構部2の外周面で形成された通路(図示せず)を通って、前記電動機部3側の吐出空間5bに流れ、圧縮ガスに混入されている油を分離して、吐出管7から冷凍サイクルなどに吐出される。
【0023】
前記分離された油は密閉容器21下部の油溜り18に溜まる。また、前記油溜り18の油は、前記クランク軸11下端に取り付けた給油ポンプ30により、前記主軸受14や前記偏心ピン部11bなどの各摺動部に給油される。10は前記主軸受14や前記偏心ピン部11bなどに供給されて潤滑した後の油を前記油溜り18に導くための排油管である。
【0024】
前記クランク軸11下部の副軸部11cは副軸受15で支持されている。この副軸受15は副軸受ハウジング16に設けられ、この副軸受ハウジング16は、前記密閉容器21にプラグ溶接などで溶接固定された副フレーム13に取り付けられている。前記副軸受15にも前記油溜り18の油が前記給油ポンプ30を介して供給されるように構成されている。
【0025】
前記電動機部3は、固定子8と回転子9から構成され、前記固定子8は前記密閉容器21内周面に固定され、前記回転子9は前記クランク軸11に固定されている。また、前記電動機部3は、電気端子17を経由したインバータ(図示せず)からの電気入力により駆動され、その回転子9の回転は、前記クランク軸11を介して前記圧縮機構部2の旋回スクロール20を旋回運動させる。
【0026】
本実施例においては、
図1のA部に示すように、前記フレーム12の外周面を、周方向に数箇所、前記密閉容器21にプラグ溶接で溶接固定しているが、このプラグ溶接部の本実施例の構成を説明する前に、比較のために、従来のプラグ溶接部の構成を
図8、
図9により説明する。
図8は従来の容積形圧縮機におけるプラグ溶接部の溶接前の状態を示す要部拡大図、
図9は同じく溶接後の状態を示す要部拡大図である。
【0027】
図8に示すように、プラグ溶接部は、その溶接前に、フレーム12をプラグ溶接する箇所に対応する位置の前記密閉容器21に、予めプラグ溶接のための貫通穴22を設けておく。そして、この貫通孔22の位置をアーク溶接などにより溶接してフレーム12を密閉容器21に固定すると共に前記貫通孔22を溶接金属で塞ぐ。
フレーム12と密閉容器21をプラグ溶接した後の状態を
図9に示す。プラグ溶接を行うことにより、フレーム12と密閉容器21とは溶接金属23で接合されて固定される。
ところで、フレーム12の材質には鋳鉄(例えば、FC250のねずみ鋳鉄)を使用しているが、鋳鉄には多くの炭素(2〜7%程度)が含有されている。このため、溶接時に鋳鉄の炭素が溶接金属に移動して溶け込み、溶接金属の硬度を高め、延性・靱性を阻害して割れが発生し易くなる。また、鋳鉄は多量の炭素を含んでいるため、それが溶接中に酸素により酸化されてCOガスとなり、溶接金属と母材(フレーム)との間や、溶接金属中に空隙を生じる原因となる。更に、鋳鉄は、溶融状態から空気に触れて急冷されると白銑化し易くなり、白銑化すると熱膨張係数がねずみ鋳鉄に比べて著しく異なるため、溶接部と母材(フレーム)との収縮に差ができ、また白銑は硬くもろいために割れが発生し易くなる。
【0028】
このため、従来の容積形圧縮機におけるプラグ溶接部は、
図9に示すように、溶接金属23とフレーム12との間などに空隙(隙間)28が生じ、更に溶接金属23が、炭素の溶け込みによる硬化や、前述した白銑化により、前記空隙28の部分を起点として割れ(クラック)29が発生し、これらの空隙28や割れ29の部分から、密閉容器21内部の圧縮ガスが漏れる虞があることがわかった。
また、前記溶接部に空隙や割れが発生するとフレーム12を密閉容器21に固定する強度が低下するため、容積形圧縮機の信頼性を低下させる。
【0029】
そこで、本実施例の容積形圧縮機では、前記プラグ溶接部を
図2〜
図4に示すように構成している。
図2は、
図1のA部を拡大して示す要部拡大図で、密閉容器21に形成された貫通孔22に介在物24を挿入する状態を示す図である。即ち、本実施例においても、従来と同様に、前記フレーム12を前記密閉容器21にプラグ溶接を行なうため、前記密閉容器21の溶接対象箇所に前記貫通孔22を形成するところまでは同じである。この状態から従来は、前記貫通孔22を塞ぐように、直接プラグ溶接していたが、本実施例では、プラグ溶接を実施する前に、前記貫通孔22に炭素含有量の少ない鉄系材料の介在物24を挿入した後、アーク溶接などにより、前記貫通孔22を塞ぐようにプラグ溶接を実施する。
【0030】
前記介在物24の形状は、
図3の拡大断面図に示すように、円筒部24aと、この円筒部24aの一端側を塞ぐ底部材24bとで構成された形状となっている。また、この介在物24の材質としては、炭素含有量が0.3%以下の焼入れ硬化の小さい、或いは無視できる鉄系材料を使用している。好ましくは、炭素含有量が0.25〜0.1%の軟鋼を使用すると良い。例えば、機械構造用炭素鋼鋼材のS25CやS15C、一般構造用圧延鋼材のSS400などの軟鋼を用いると良い。
【0031】
なお、
図3に示した例では、前記介在物24として、一端側が塞がれた円筒部材を使用しているが、必ずしもこの形状に限定されるものではなく、例えば円板形状(
図3の底部材24bに相当する部材のみで構成されたのもの)などの介在物を使用しても、ほぼ同様の効果を得ることができる。但し、好ましくは
図3に示したような、円筒部24aと底部材24bで構成された介在物を使用すれば、貫通孔22に挿入後、前記介在物24を安定した姿勢に保つことができるので、溶接作業を容易に行える効果が得られる。
【0032】
図4は、
図2と同様に
図1のA部を拡大して示す要部拡大図で、密閉容器21に形成された貫通孔22に介在物24を挿入してプラグ溶接した後の状態を示す図である。前記介在物24を設けてプラグ溶接することにより、溶接時に、前記介在物も溶融し、更に前記介在物に接している部分の前記フレーム12や密閉容器21も溶融することで、フレーム12は密閉容器21に固定され、更に前記貫通孔22は溶接金属で塞がれる。また、前記介在物24を設けて溶接を行なうため、鋳鉄製のフレーム12に多量に含有されている炭素が溶接金属23に移動して溶け込むのを、前記介在物24により抑制することができる。これにより、前記溶接金属23の硬度を高め、延性・靱性を阻害して割れが発生し易くなるのを防止できる。
【0033】
また、鋳鉄製のフレーム12に多量に含有されている炭素が、溶接中に空気中の酸素に触れるのも抑制できるから、COガスの発生を抑制でき、フレーム12と溶接金属23との間や、溶接金属中に空隙を生じるのも抑制できる。
更に、鋳鉄製のフレーム12も溶接時には溶融するが、前記介在物24により空気との接触が抑制されるから、溶融状態から空気に触れ急冷されて白銑化するのも抑制できる。従って、溶接部23とフレーム12との収縮時の熱膨張差を軽減でき、この点からも割れや空隙の発生を抑制できる。
【0034】
従って、本実施例によれば、フレーム12と溶接金属23との間や前記溶接金属中に隙間が発生するのを抑えることができ、更に溶接金属23の硬化も抑制して延性・靱性を改善できるから、前記空隙の部分を起点として割れ(クラック)が発生したり、これらの空隙や割れの部分から、密閉容器21内部の圧縮ガスが漏れるのも防止することができる。
【0035】
また、溶接部に前記割れ(クラック)などを生じさせないことでフレーム12の固定強度を増加させることができる。その結果、前記主軸受14によるクランク軸11の支持剛性や、前記非旋回スクロール19の支持剛性を確保できるから、信頼性の高い容積形圧縮機を得ることができる。
【実施例2】
【0036】
本発明の容積形圧縮機の実施例2を、
図5〜
図7を用いて説明する。
図5は
図2に相当する図、
図6は
図5に示す介在物の拡大断面図、
図7は密閉容器に形成された貫通孔に介在物を挿入して溶接した後の状態を示す図で、
図4に相当する図である。これらの図により本実施例2が上記実施例1と異なる点を説明する。なお、上記
図1〜
図4と同一符号を付した部分は同一或いは相当する部分であるので、それらの説明については省略する。
【0037】
本実施例2が上記実施例1と異なる点は、
図5に示すように、プラグ溶接されるフレーム12の部分(溶接箇所)に、予め凹部25を設けておき、密閉容器21に形成されている貫通孔22と前記凹部25に跨るように、円筒部と、前記凹部25に嵌め込むための凸形状の底部材を有する介在物(以下、凸形状介在物と称す)26を挿入する。その後、プラグ溶接を実施するようにしている。
図5はプラグ溶接前の状態を示しており、27は前記凸形状介在物26を、前記貫通孔22と前記凹部25に圧入するための圧入部材である。
【0038】
図6は
図5に示す前記凸形状介在物26を拡大して示す図で、フレーム12を密閉容器21にプラグ溶接する前の形状を示し、またこの凸形状介在物26の材質も実施例1と同様に、炭素含有量の少ない鉄系材料で構成されている。上記実施例1に示した介在物24(
図3参照)は、円筒部24aの一端側を塞ぐ底部材24bが円板形状に構成されているが、この実施例2における介在物26は、円筒部26aと、この円筒部26aの一端側を塞ぐ底部材26bとで構成され、且つ前記底部材26bが凸形状に構成されている。このような凸形状部を有する介在物26を、
図5に示す圧入部材27を使用して、前記貫通孔22及び前記凹部25に押し込むことにより、
図7の26に示すように、介在物は前記貫通孔22と前記凹部25の形状に沿った形状に変形しながら圧入される。
【0039】
なお、
図7は、前記凸形状介在物26を、前記貫通孔22と前記凹部25に圧入後、プラグ溶接した状態を示している。23は溶接金属で、プラグ溶接時には前記介在物26も溶融し、この介在物26に接している部分の前記フレーム12や前記密閉容器21も溶融して、前記フレーム12は前記密閉容器21に固定される。また、前記溶接金属23により、前記貫通孔22も塞がれる。
【0040】
本実施例2によれば、上記実施例1と同様の効果が得られ、前記介在物26を圧入して溶接しているため、鋳鉄製のフレーム12に含有されている炭素が溶接金属23に移動して溶接金属を硬化させたり、前記炭素が、溶接中に空気中の酸素に触れてCOガスが発生するのを抑制でき、更に溶接部の白銑化も抑制できる。従って、フレーム12と溶接金属23との間や、溶接金属中に空隙を生じたり、溶接金属23に割れが発生するのを抑制することができる。
【0041】
更に、本実施例によれば、溶接前に、前記凸形状介在物26を前記凹部25に圧入して、仮固定した状態で溶接するため、溶接前に行うフレーム12と密閉容器21の位置決め作業を容易且つ確実に行なうことができ、前記フレーム12と密閉容器21の位置決め精度を向上させることができる。その結果、容積形圧縮機1の信頼性を更に向上することができる。
【0042】
以上述べたように、本発明の各実施例によれば、フレーム12と密閉容器21との溶接部を、前記密閉容器21に予め形成された貫通孔22に炭素含有量の少ない鉄系材料で構成された介在物24を挿入した後、溶接するように構成しているので、フレーム12の炭素が溶接金属23に移動し難くなり、これにより溶接金属23を硬化させたり、ガスが発生して、フレーム12と溶接金属23との間や、溶接金属中に空隙を生じるのを抑制できる。
従って、前記隙間から溶接金属23に割れ(クラック)が発生するのを抑制して、フレーム12と密閉容器21との固定強度が低下するのを抑制できるから、信頼性の高い容積形圧縮機を得ることができる効果がある。