(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記遷移金属触媒が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅からなる群より選択される少なくとも1種以上の遷移金属を含むものである、請求項1記載の酸素吸収性多層体。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
【0019】
[シーラント層(層C)]
本実施形態の層Cは熱可塑性樹脂を含有するシーラント層である。層Cは、シーラントとしての役割に加え、酸素吸収層(層A)と内容物とを隔離する役割を有する。また、層Cの酸素透過度は、20μmの厚さのフィルムについて、23℃、相対湿度60%の条件下で測定したときに、300mL/(m
2・day・atm)以上であることが好ましく、400mL/(m
2・day・atm)以上がより好ましく、500mL/(m
2・day・atm)以上が特に好ましい。酸素透過度が上記範囲の場合、300mL/(m
2・day・atm)未満の場合に比べ、層Aでの酸素吸収速度をより高めることが出来る。層Cに用いる熱可塑性樹脂には、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状超低密度ポリエチレン、メタロセン触媒によるポリエチレン等の各種ポリエチレン類、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、プロピレンホモポリマー、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体等のポリプロピレン類、ヒートシール性を有するPET、A−PET、PETG、PBT等のポリエステルやアモルファスナイロン等を、単独で、または組み合わせて使用することができる。これら熱可塑性樹脂には、必要に応じて、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、熱可塑性エラストマーを添加してもよい。
【0020】
また、本実施形態の層Cに用いる熱可塑性樹脂には、酸化チタン等の着色顔料、酸化防止剤、スリップ剤、帯電防止剤、安定剤、滑剤等の添加剤、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカ等の充填剤、消臭剤等を添加しても良い。特に、製造中に発生した端材をリサイクルし、再加工するためには、酸化防止剤を添加することが好ましい。
【0021】
層Cにおける熱可塑性樹脂の含有率は特に限定されないが、層Cの総量に対する熱可塑性樹脂の含有率が、70〜100質量%であることが好ましく、80〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。また、前記熱可塑性樹脂においては、本発明の前記ポリエステル化合物以外の熱可塑性樹脂の含有量が、50〜100質量%であることが好ましく、70〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。
【0022】
[酸素吸収層(層A)]
本実施形態の酸素吸収層(層A)は、上記一般式(1)〜(4)からなる群より選択される少なくとも1種のテトラリン環を有する構成単位を含有するポリエステル化合物と遷移金属触媒を含有する酸素吸収性樹脂組成物からなる。
【0023】
層A中の前記ポリエステル化合物の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。前記範囲の場合、50質量%未満の場合に比べ、酸素吸収性能をより高めることが出来る。
【0024】
[ポリエステル化合物]
本実施形態のポリエステル化合物は、上記一般式(1)〜(4)からなる群より選択される少なくとも1種のテトラリン環を有する構成単位を含有する。
【0025】
本願の一般式(1)〜(4)及び(8)〜(15)においてRで表される一価の置換基としては、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素数が1〜15、より好ましくは炭素数が1〜6個の直鎖状、分岐状又は環状アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基)、アルケニル基(好ましくは炭素数が2〜10、より好ましくは炭素数が2〜6の直鎖状、分岐状又は環状アルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基)、アルキニル基(好ましくは炭素数が2〜10、より好ましくは炭素数が2〜6のアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基)、アリール基(好ましくは炭素数が6〜16、より好ましくは炭素数が6〜10のアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基)、複素環基(好ましくは炭素数が1〜12、より好ましくは炭素数が2〜6の5員環或いは6員環の芳香族又は非芳香族の複素環化合物から1個の水素原子を取り除くことによって得られる一価の基、例えば、1−ピラゾリル基、1−イミダゾリル基、2−フリル基)、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、ニトロ基、アルコキシ基(好ましくは炭素数が1〜10、より好ましくは炭素数が1〜6の直鎖状、分岐状又は環状アルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数が6〜12、より好ましくは炭素数が6〜8のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ基)、アシル基(ホルミル基を含む。好ましくは炭素数が2〜10、より好ましくは炭素数が2〜6のアルキルカルボニル基、好ましくは炭素数が7〜12個、より好ましくは炭素数が7〜9のアリールカルボニル基、例えば、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基)、アミノ基(好ましくは炭素数が1〜10、より好ましくは炭素数が1〜6のアルキルアミノ基、好ましくは炭素数が6〜12、より好ましくは炭素数が6〜8のアニリノ基、好ましくは炭素数が1〜12、より好ましくは炭素数が2〜6の複素環アミノ基、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、アニリノ基)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは炭素数が1〜10、より好ましくは炭素数が1〜6のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基)、アリールチオ基(好ましくは炭素数が6〜12、より好ましくは炭素数が6〜8のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ基)、複素環チオ基(好ましくは炭素数が2〜10、より好ましくは炭素数が1〜6の複素環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基)、イミド基(好ましくは炭素数が2〜10、より好ましくは炭素数が4〜8のイミド基、例えば、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基)等が例示されるが、これらに特に限定されない。
【0026】
なお、上記の一価の置換基Rが水素原子を有する場合、その水素原子が置換基T(ここで、置換基Tは、上記の一価の置換基Rで説明したものと同義である。)でさらに置換されていてもよい。その具体例としては、例えば、ヒドロキシ基で置換されたアルキル基(例えば、ヒドロキシエチル基)、アルコキシ基で置換されたアルキル基(例えば、メトキシエチル基)、アリール基で置換されたアルキル基(例えば、ベンジル基)、第1級或いは第2級アミノ基で置換されたアルキル基(例えば、アミノエチル基)、アルキル基で置換されたアリール基(例えば、p−トリル基)、アルキル基で置換されたアリールオキシ基(例えば、2−メチルフェノキシ基)等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、上記の一価の置換基Rが一価の置換基Tを有する場合、上述した炭素数には、置換基Tの炭素数は含まれないものとする。例えば、ベンジル基は、フェニル基で置換された炭素数1のアルキル基と看做し、フェニル基で置換された炭素数7のアルキル基とは看做さない。また、上記の一価の置換基Rが置換基Tを有する場合、その置換基Tは複数あってもよい。
【0027】
Xは、芳香族炭化水素基、飽和または不飽和の脂環式炭化水素基、直鎖状または分岐状の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基及び複素環基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を含有する2価の基を表す。芳香族炭化水素基、飽和または不飽和の脂環式炭化水素基、直鎖状または分岐状の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基及び複素環基は、置換されていても無置換でもよい。Xは、ヘテロ原子を含有していてもよく、エーテル基、スルフィド基、カルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基、スルホキシド基、スルホン基等を含有していてもよい。ここで、芳香族炭化水素基としては、例えば、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、メチルフェニレン基、o−キシリレン基、m−キシリレン基、p−キシリレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、フェナントリレン基、ビフェニレン基、フルオニレン基等が挙げられるが、これらに特に限定されない。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、メチルシクロへキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基等のシクロアルキレン基や、シクロヘキセニレン基等のシクロアルケニレン基が挙げられるが、これらに特に限定されない。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、イソプロピリデン基、テトラメチレン基、イソブチレン基、tert‐ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基等の直鎖状又は分枝鎖状アルキレン基や、ビニレン基、プロペニレン基、1−ブテニレン基、2−ブテニレン基、1,3−ブタジエニレン基、1−ペンテニレン基、2−ペンテニレン基、1−ヘキセニレン基、2−ヘキセニレン基、3−ヘキセニレン基等のアルケニレン基等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、さらに置換基を有していてもよく、その具体例としては、例えば、ハロゲン、アルコキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボアルコキシ基、アミノ基、アシル基、チオ基(例えばアルキルチオ基、フェニルチオ基、トリルチオ基、ピリジルチオ基等)、アミノ基(例えば非置換アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、フェニルアミノ基等)、シアノ基、ニトロ基等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0028】
上記一般式(1)で表される構成単位を含有するポリエステル化合物は、テトラリン環を有するジカルボン酸またはその誘導体(I)、及びジオールまたはその誘導体(II)、を重縮合することで得られる。
【0029】
本実施形態で用いるテトラリン環を有するジカルボン酸またはその誘導体(I)は、下記一般式(8)で表される。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【化3】
(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子または一価の置換基を示し、一価の置換基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基及びイミド基からなる群より選択される少なくとも1種であり、これらはさらに置換基を有していてもよい。mは0〜3、nは0〜7の整数を表し、テトラリン環のベンジル位に少なくとも1つ以上の水素原子が結合している。Yは水素原子又はアルキル基を表す。)
【0030】
上記一般式(8)で表される化合物は、下記一般式(9)で表されるナフタレン環を有するジカルボン酸またはその誘導体を水素と反応させて得ることが出来る。
【化4】
(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子または一価の置換基を示し、一価の置換基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基及びイミド基からなる群より選択される少なくとも1種であり、これらはさらに置換基を有していてもよい。mはそれぞれ独立して0〜3の整数を表す。Yは水素原子又はアルキル基を表す。)
【0031】
本実施形態で用いるジオールまたはその誘導体(II)としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2−フェニルプロパンジオール、2−(4−ヒドロキシフェニル)エチルアルコール、α,α−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α−ジヒドロキシ−1,4−ジイソプロピルベンゼン、o-キシレングリコール、m-キシレングリコール、p-キシレングリコール、ヒドロキノン、4,4−ジヒドロキシフェニル、ナフタレンジオール、またはこれらの誘導体が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0032】
また、上記一般式(2)で表される構成単位を含有するポリエステル化合物は、テトラリン環を有するジオールまたはその誘導体(III)、及び、ジカルボン酸またはその誘導体(IV)を重縮合することによって得られる。
【0033】
本実施形態で用いるテトラリン環を有するジオールまたはその誘導体(III)は、下記一般式(10)で表される。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【化5】
(式中、それぞれ独立して、水素原子または一価の置換基を示し、一価の置換基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基及びイミド基からなる群より選択される少なくとも1種であり、これらはさらに置換基を有していてもよい。mは0〜3、nは0〜7の整数を表し、テトラリン環のベンジル位に少なくとも1つ以上の水素原子が結合している。)
【0034】
上記一般式(10)で表される化合物は、下記一般式(11)で表されるナフタレン環を有するジオールまたはその誘導体を水素と反応させて得ることが出来る。
【化6】
(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子または一価の置換基を示し、一価の置換基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基及びイミド基からなる群より選択される少なくとも1種であり、これらはさらに置換基を有していてもよい。mはそれぞれ独立して0〜3の整数を表す。)
【0035】
本実施形態で用いるジカルボン酸またはその誘導体(IV)としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、3,3−ジメチルペンタン二酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェニルマロン酸、フェニレンジ酢酸、フェニレンジ酪酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、p-フェニレンジカルボン酸、またはこれらの誘導体等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0036】
上記一般式(3)又は(4)で表される構成単位を含有するポリエステル化合物は、テトラリン環を有するヒドロキシカルボン酸またはその誘導体(V)を重縮合することで得られる。
【0037】
本実施形態で用いるテトラリン環を有するヒドロキシカルボン酸またはその誘導体(V)は、下記一般式(12)又は(13)で表される。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【化7】
(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子または一価の置換基を示し、一価の置換基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基及びイミド基からなる群より選択される少なくとも1種であり、これらはさらに置換基を有していてもよい。mは0〜3、nは0〜7の整数を表し、テトラリン環のベンジル位に少なくとも1つ以上の水素原子が結合している。Yは水素原子又はアルキル基を表す。)
【0038】
上記一般式(1)または(2)で表される構成単位を含有するポリエステル化合物は、下記一般式(14)または(15)で表される構成単位を含有するポリエステル化合物の水添反応によって得ることも出来る。
【化8】
(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子または一価の置換基を示し、一価の置換基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基及びイミド基からなる群より選択される少なくとも1種であり、これらはさらに置換基を有していてもよい。mはそれぞれ独立して0〜3の整数を表す。Xは芳香族炭化水素基、飽和または不飽和の脂環式炭化水素基、直鎖状または分岐状の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基及び複素環基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を含有する2価の基を表す。)
【化9】
(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子または一価の置換基を示し、一価の置換基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基及びイミド基からなる群より選択される少なくとも1種であり、これらはさらに置換基を有していてもよい。mはそれぞれ独立して0〜3の整数を表す。Xは芳香族炭化水素基、飽和または不飽和の脂環式炭化水素基、直鎖状または分岐状の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基及び複素環基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を含有する2価の基を表す。)
【0039】
本実施形態のポリエステル化合物には、性能に影響しない程度で、テトラリン環を有さない構成単位を共重合成分として組み込んでもよい。具体的には、前記ジオールまたはその誘導体(II)や、前記ジカルボン酸またはその誘導体(IV)に示した化合物を共重合成分として用いることが出来る。
【0040】
前記一般式(1)で表される構成単位を含有するポリエステル化合物の好ましい具体例としては、上記式(5)〜(7)及び、下記式(16)〜(18)が挙げられるが、これらに限定されない。
【化10】
【0041】
上述したポリエステル化合物は、いずれも、テトラリン環のベンジル位に水素を有するものであり、上述した遷移金属触媒と併用することでベンジル位の水素が引き抜かれ、これにより優れた酸素吸収能を発現する。
【0042】
また、本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物は、酸素吸収後の臭気発生が抑制されたものである。その理由は明らかではないが、例えば以下の酸化反応機構が推測される。すなわち、ポリエステル化合物においては、まずテトラリン環のベンジル位にある水素が引き抜かれてラジカルが生成し、その後、ラジカルと酸素との反応によりベンジル位の炭素が酸化され、ヒドロキシ基又はケトン基が生成すると考えられる。そのため、本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物においては、上記従来技術のような酸化反応による酸素吸収主剤の分子鎖の切断がなく、ポリエステル化合物の構造が維持されるため、臭気の原因となる低分子量の有機化合物が酸素吸収後に生成し難く、その結果、酸素吸収後の臭気強度の増大が抑制されているものと推測される。
【0043】
本実施形態のポリエステル化合物の極限粘度(フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒を用いた25℃での測定値)は特に限定されないが、ポリエステル化合物の成形性の面から、0.1〜2.0dL/gが好ましく、0.5〜1.5dL/gがより好ましい。
【0044】
本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物において使用される遷移金属触媒としては、上記ポリエステル化合物の酸化反応の触媒として機能し得るものであれば、公知のものから適宜選択して用いることができ、特に限定されない。
【0045】
かかる遷移金属触媒の具体例としては、例えば、遷移金属の有機酸塩、ハロゲン化物、燐酸塩、亜燐酸塩、次亜燐酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物等が挙げられる。ここで、遷移金属触媒に含まれる遷移金属としては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅が好ましい。また、有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、オクタノイック酸、ラウリン酸、ステアリン酸、アセチルアセトン、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2−エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、トール酸、オレイン酸、カプリン酸、ナフテン酸が挙げられるが、これらに限定されない。遷移金属触媒は、これらの遷移金属と有機酸とを組み合わせたものが好ましく、遷移金属がマンガン、鉄、コバルト、ニッケル又は銅であり、有機酸が酢酸、ステアリン酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸又はナフテン酸である組み合わせがより好ましい。なお、遷移金属触媒は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
遷移金属触媒の配合量は、使用する前記ポリエステル化合物や遷移金属触媒の種類及び所望の性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。酸素吸収性樹脂組成物の酸素吸収量の観点から、遷移金属触媒の配合量は、前記ポリエステル化合物100質量部に対し、遷移金属量として0.001〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.002〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1質量部である。
【0047】
ポリエステル化合物及び遷移金属触媒は、公知の方法で混合する事が出来るが、好ましくは押出機により混練することにより、分散性の良い酸素吸収性樹脂組成物として使用することができる。また、酸素吸収性樹脂組成物には、本実施形態の効果を損なわない範囲で、乾燥剤、顔料、染料、酸化防止剤、スリップ剤、帯電防止剤、安定剤等の添加剤、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカ等の充填剤、消臭剤等を添加しても良いが、以上に示したものに限定されることなく、種々の材料を混合することができる。
【0048】
なお、本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物は、酸素吸収反応を促進させるために、必要に応じて、さらにラジカル発生剤や光開始剤を含有していてもよい。ラジカル発生剤の具体例としては、各種のN−ヒドロキシイミド化合物が挙げられ、例えば、N−ヒドロキシコハクイミド、N−ヒドロキシマレイミド、N,N’−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタルイミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタルイミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタルイミド、3−スルホニル−N−ヒドロキシフタルイミド、3−メトキシカルボニル−N−ヒドロキシフタルイミド、3−メチル−N−ヒドロキシフタルイミド、3−ヒドロキシ−N−ヒドロキシフタルイミド、4−ニトロ−N−ヒドロキシフタルイミド、4−クロロ−N−ヒドロキシフタルイミド、4−メトキシ−N−ヒドロキシフタルイミド、4−ジメチルアミノ−N−ヒドロキシフタルイミド、4−カルボキシ−N−ヒドロキシヘキサヒドロフタルイミド、4−メチル−N−ヒドロキシヘキサヒドロフタルイミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド等が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、光開始剤の具体例としては、ベンゾフェノンとその誘導体、チアジン染料、金属ポルフィリン誘導体、アントラキノン誘導体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、これらのラジカル発生剤及び光開始剤は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
また、本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物は、本実施形態の目的を阻害しない範囲で他の熱可塑性樹脂と押出機で混練することも出来る。混練に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、あるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同士のランダムまたはブロック共重合体等のポリオレフィン、無水マレイン酸グラフトポリエチレンや無水マレイン酸グラフトポリプロピレン等の酸変性ポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体やそのイオン架橋物(アイオノマー)、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体等のエチレン−ビニル化合物共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、α−メチルスチレン−スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンオキサイド等のポリエーテル等あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0050】
[ガスバリア層(層D)]
本実施形態の層Dは、ガスバリア性物質を含有するガスバリア層である。層Dの酸素透過率は、20μmの厚さのフィルムについて、23℃、相対湿度60%の条件下で測定したときに、100mL/(m
2・day・atm)以下が好ましく、80mL/(m
2・day・atm)以下がより好ましく、50mL/(m
2・day・atm)以下が特に好ましい。層Dに用いるガスバリア性物質としては、ガスバリア性熱可塑性樹脂や、ガスバリア性熱硬化性樹脂、シリカ、アルミナ、アルミ等の各種蒸着フィルム、アルミ箔等の金属箔を用いることが出来る。ガスバリア性熱可塑性樹脂としては、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体、MXD6、ポリ塩化ビニリデン等が例示できる。また、ガスバリア性熱硬化性樹脂としては、ガスバリア性エポキシ樹脂、例えば、三菱ガス化学株式会社製「マクシーブ」等が例示できる。
【0051】
[酸素吸収性多層体]
本実施形態の酸素吸収性多層体は、熱可塑性樹脂を含有するシーラント層(層C)、ポリエステル化合物及び遷移金属触媒を含有する酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収層(層A)、並びにガスバリア性物質を含有するガスバリア層(層D)をこの順に積層した、少なくとも3層を含む。また、前記多層体は、必要に応じて前記3層以外の層を任意の位置に設けることが出来る。
【0052】
例えば、層Dの破損やピンホールを防ぐために、層Dの内側や外側に熱可塑性樹脂からなる保護層を設けることが出来る。保護層に用いる樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン等のポリエチレン類、プロピレンホモポリマー、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体等のポリプロピレン類、ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド類、さらに、PET等のポリエステル類及びこれらの組合せが挙げられる。
【0053】
また、加工性を考慮すると、層Dと層Aとの層間に、ポリオレフィン樹脂からなる中間層を介在させることが好ましい。この中間層の厚みは、加工性から、層Cの厚みとほぼ同一とすることが好ましい。この場合、加工によるバラツキを考慮すると、厚み比が±10%以内であれば、同一とする。
【0054】
本実施形態の酸素吸収性多層体の酸素吸収層(層A)の厚みは、特に制限はないが、5〜200μmが好ましく、10〜100μmが特に好ましい。この場合、厚みが上記範囲を外れる場合に比べて、層Aが酸素を吸収する性能をより高めることができるとともに加工性や経済性が損なわれることを防止することができる。また、熱可塑性樹脂からなるシーラント層(層C)の厚みは、5〜200μmが好ましく、10〜80μmが特に好ましい。この場合、厚みが上記範囲を外れる場合に比べて、層Aの酸素吸収速度をより高めることができるとともに加工性が損なわれることを防止することができる。さらに、酸素吸収性多層体の加工性を考慮すると、層Cと層Aの厚み比が、1:0.5〜1:3にあることが好ましく、1:1.5〜1:2.5が特に好ましい。
【0055】
ガスバリア性物質として熱可塑性樹脂を用いる場合、ガスバリア層(層D)の厚みは、5〜200μmが好ましく、10〜100μmが特に好ましい。また、ガスバリア性物質として、アミン−エポキシ硬化剤のような熱硬化性樹脂をガスバリア性接着剤層に使用する場合は、層Dの厚みは0.1〜100μmが好ましく、0.5〜20μmが特に好ましい。厚みが上記範囲内である場合、これを外れる場合に比べて、ガスバリア性をより高めることができるとともに加工性や経済性が損なわれることを防止することができる。
【0056】
酸素吸収性多層体の製造方法については、各種材料の性状、加工目的、加工工程等に応じて、共押出法、各種ラミネート法、各種コーティング法などの公知の方法を利用することができる。例えば、フィルムやシートの成形については、Tダイ、サーキュラーダイ等を通して溶融させた樹脂組成物を付属した押出機から押し出して製造する方法や、酸素吸収性フィルムもしくはシートに接着剤を塗布し、他のフィルムやシートと貼り合わせることで製造する方法がある。また、射出機を用い、溶融した樹脂を、多層多重ダイスを通して射出金型中に共射出または逐次射出することによって所定の形状の多層容器に一挙に成形することができる。
【0057】
本実施形態の酸素吸収性多層体は、フィルムとして作製し、袋状、蓋材に加工して用いることができる。また、層Dの外層に紙基材を積層して、酸素吸収性紙容器として用いることもできる。紙基材と積層して紙容器とした時の加工性を考慮すると、層Dの内側部が100μm以下とすることが好ましく、80μm以下が特に好ましい。層Dより内部の厚みが大きくなると、紙基材を積層し、容器形状に成形する際、容器への加工性に問題が生じる。
【0058】
また、本実施形態の酸素吸収性多層体は、シートとして作製し、真空成形、圧空成形、プラグアシスト成形等の成形方法によりトレイ、カップ、ボトル、チューブ、PTP(プレス・スルー・パック)等の所定の形状の酸素吸収性多層容器に熱成形することができる。また、袋状容器に食品等の内容物を充填し、開封口を設け、電子レンジ加熱調理時にその開封口から蒸気を放出する、電子レンジ調理対応の易通蒸口付パウチに好ましく用いることができる。
【0059】
本実施形態の酸素吸収性多層体を使用するにあたり、エネルギー線を照射して、酸素吸収反応の開始を促進したり、酸素吸収速度を高めたりすることができる。エネルギー線としては、例えば、可塑光線、紫外線、X線、電子線、γ線等を利用可能である。照射エネルギー量は、用いるエネルギー線の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0060】
本実施形態の酸素吸収性多層体を、層Cを内側として密封用包装容器の一部または全部に使用することにより、容器外からわずかに侵入する酸素の他、容器内の酸素を吸収して、酸素による容器内収納物の変質等を防止することができる。
【0061】
本実施形態の酸素吸収性多層体及び該多層体を含む容器は、酸素吸収に水分を必要としないので、低湿度から高湿度までの広範な湿度条件下(相対湿度0%〜100%)での酸素吸収性能に優れ、かつ内容物の風味保持性に優れるため、種々の物品の包装に適している。
被保存物の具体例としては、牛乳、ジュース、コーヒー、茶類、アルコール飲料等の飲料;ソース、醤油、ドレッシング等の液体調味料、スープ、シチュー、カレー等の調理食品;ジャム、マヨネーズ等のペースト状食品;ツナ、魚貝等の水産製品;チーズ、バター等の乳加工品;肉、サラミ、ソーセージ、ハム等の畜肉加工品;にんじん、じゃがいも等の野菜類;卵;麺類;調理前の米類、調理された炊飯米、米粥等の加工米製品;粉末調味料、粉末コーヒー、乳幼児用粉末ミルク、乳幼児用調理食品、粉末ダイエット食品、介護調理食品、乾燥野菜、せんべい等の乾燥食品(水分活性の低い食品);農薬、殺虫剤等の化学品;医薬品;ペットフード;洗剤等、種々の物品を挙げることができるが、これらに特に限定されない。特に、酸素存在下で劣化を起こしやすい内容品、例えば、飲料ではビール、ワイン、フルーツジュース、炭酸ソフトドリンク等、食品では果物、ナッツ、野菜、肉製品、幼児食品、コーヒー、ジャム、マヨネーズ、ケチャップ、食用油、ドレッシング、ソース類、佃煮類、乳製品類等、その他では医薬品、化粧品等の包装材に好適である。なお、水分活性とは物品中の自由水含有量を示す尺度で、0〜1の数字で示され、水分のない物品は0、純水は1となる。すなわち、ある物品の水分活性Awは、その物品を密封し平衡状態に到達した後の空間内の水蒸気圧をP、純水の水蒸気圧をP
0、同空間内の相対湿度をRH(%)、とした場合、
Aw=P/P
0=RH/100
と定義される。
【0062】
また、これらの被保存物の充填前後に、被保存物に適した形で、本実施形態の酸素吸収性多層体及び該多層体を含む容器や被保存物の殺菌を施すことができる。殺菌方法としては、100℃以下での熱水処理、100℃以上の加圧熱水処理、130℃以上の超高温加熱処理等の加熱殺菌、紫外線、マイクロ波、ガンマ線等の電磁波殺菌、エチレンオキサイド等のガス処理、過酸化水素や次亜塩素酸等の薬剤殺菌等が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例と比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、特に記載が無い限り、NMR測定は室温で行った。
【0064】
[モノマー合成例]
内容積18Lのオートクレーブに、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸ジメチル2.20kg、2−プロパノール11.0kg、5%パラジウムを活性炭に担持させた触媒350g(50wt%含水品)を仕込んだ。次いで、オートクレーブ内の空気を窒素と置換し、さらに窒素を水素と置換した後、オートクレーブを水素で0.8MPaに加圧した。次に、撹拌機を起動し、回転速度を500rpmに調整し、30分かけて内温を100℃まで上げた後、内圧を水素で1MPaまで上げ、その状態で7時間保持した。そこで水素の吸収が無くなったので、オートクレーブを冷却し、水素を放出した後、オートクレーブから反応液を取り出した。反応液を濾過し、触媒を除去した後、分離濾液から2−イソプロパノールをエバポレーターで蒸発させた。得られた粗生成物に、2−プロパノールを4400g加え、再結晶により精製し、テトラリン−2,6−ジカルボン酸ジメチルを80%の収率で得た。尚、NMRの分析結果は下記の通りである。1H‐NMR(400MHz CDCl
3)δ7.76-7.96(2H m)、7.15(1H d)、3.89(3H s)、3.70(3H s)、2.70-3.09(5H m)、1.80-1.95(1H m)。
【0065】
[ポリマー製造例]
(製造例1)
充填塔式精留等、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置および窒素導入管を備えたポリエステル樹脂製造装置に、モノマー合成例で合成したテトラリン−2,6−ジカルボン酸ジメチル543g、1,4−ブタンジオール315g、テトラブチルチタネート0.171gを仕込み、窒素雰囲気下で230℃まで昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を85%以上とした後、テトラブチルチタネート0.171gを添加し、昇温と減圧を徐々に行い、245℃、133Pa以下で重縮合を行い、ポリエステル化合物(1)を得た。
【0066】
得られたポリエステル化合物(1)の重量平均分子量と数平均分子量をGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定を行った結果、ポリスチレン換算の重量平均分子量は8.7×10
4、数平均分子量は3.1×10
4であった。ガラス転移温度と融点をDSCにより測定を行った結果、ガラス転移温度は36℃、融点は145℃であった。
【0067】
(製造例2)
製造例1の1,4−ブタンジオールをエチレングリコールとし、その重量を217gとした以外は、製造例1と同様にしてポリエステル化合物(2)を合成した。このポリエステル化合物(2)は、ポリスチレン換算の重量平均分子量は8.5×10
4、数平均分子量は3.0×10
4、ガラス転移温度は67℃、融点は非晶性のため認められなかった。
【0068】
(製造例3)
製造例1の1,4−ブタンジオールを1,6−ヘキサンジオールとし、その重量を413gとした以外は、製造例1と同様にしてポリエステル化合物(3)を合成した。このポリエステル化合物(3)は、重量平均分子量は8.9×10
4、数平均分子量は3.3×10
4、ガラス転移温度は16℃、融点は137℃であった。
【0069】
(実施例1)
ポリエステル化合物(1)100質量部に対し、ステアリン酸コバルト(II)をコバルト量が0.05質量部となるようドライブレンドし、直径37mmのスクリューを2本有する2軸押出機に15kg/hの速度で上記材料を供給し、シリンダー温度220℃の条件にて溶融混練を行い、押出機ヘッドからストランドを押し出し、冷却後、ペレタイジングし、酸素吸収性樹脂組成物を得た。次いで、得られた酸素吸収性樹脂組成物を使用し、Tダイを備えたスクリュー径が25mmの単軸押出機にて幅200mm、厚み50μmのフィルムを作製し、得られたフィルムの両面をコロナ放電処理し、酸素吸収性フィルムを作製した。
【0070】
次いで、ウレタン系ドライラミネート用接着剤(東洋インキ株式会社製、商品名:AD−817/CAT−RT86)を用いて、アルミナ蒸着PETフィルム(凸版印刷株式会社製、商品名:GL-ARH−F)、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(東セロ株式会社製、商品名:トーセロT.U.X HC、以下LLDPEと表記する)を積層し、アルミナ蒸着PETフィルム(12)/接着剤(3)/酸素吸収性樹脂組成物(50)/接着剤(3)/LLDPE(30)の酸素吸収性多層フィルムを得た。尚、括弧内の数字は各層の厚さ(単位:μm)を意味する。次いで、LLDPE層側を内面にして10cm×10cmの三方シール袋を作製し、水分活性0.35の粉末調味料「だしの素」を50g充填して密封した。前記密封袋を40℃・80%RH下にて保存し、14日後と2ヶ月後の袋内酸素濃度測定を行った。また、2ヶ月後に前記密封袋を開封し、粉末調味料の風味を調査した。これらの結果を表1に示した。
【0071】
(実施例2)
ポリエステル化合物(1)をポリエステル化合物(2)とした以外は、実施例1と同様にして酸素吸収性多層フィルムを得た後、三方シール袋を作製して、実施例1と同様の保存試験を実施した。これらの結果を表1に示した。
【0072】
(実施例3)
ポリエステル化合物(1)をポリエステル化合物(3)とした以外は、実施例1と同様にして酸素吸収性多層フィルムを得た後、三方シール袋を作製して、実施例1と同様の保存試験を実施した。これらの結果を表1に示した。
【0073】
(比較例1)
ステアリン酸コバルトを添加しないこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを得た後、三方シール袋を作製して、実施例1と同様の保存試験を実施した。これらの結果を表1に示した。
【0074】
(比較例2)
ポリエステル化合物(1)をN−MXD6(三菱ガス化学株式会社製、商品名:MXナイロン S6011)とした以外は、実施例1と同様にして酸素吸収性多層フィルムを得た後、三方シール袋を作製して、実施例1と同様の保存試験を実施した。これらの結果を表2に示した。
【0075】
【表1】
【0076】
実施例1〜3から明らかなように、本発明の酸素吸収性多層体は、低湿度下において良好な酸素吸収性能を示し、内容物の風味も良好に維持されていた。
【0077】
(実施例4)
4台の押出機、フィードブロック、Tダイ、冷却ロール、巻き取り機等を備えた多層シート製造装置を用い、1台目の押出機からポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、商品名:ノバテックPP FY6、以下PPと表記する)を、2台目の押出機から接着性樹脂(三菱化学株式会社製、商品名:モディック F532)を、3台目の押出機から実施例1で得られた酸素吸収性樹脂組成物を、4台目の押出機からエチレン−ビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製、商品名:エバール F101B、以下EVOHと表記する)をそれぞれ押し出し、フィードブロックを介して、内層より、PP(100)/接着性樹脂(15)/酸素吸収性樹脂組成物(100)/接着性樹脂(15)/EVOH(30)/接着性樹脂(15)/PP(250)の4種7層構造の酸素吸収性多層シートを製造した。尚、括弧内の数字は各層の厚さ(単位:μm)を意味する。
【0078】
次いで、得られた酸素吸収性多層シートについて、内層を内側にして、真空成形機を用いて、カップ状容器(内容積100cc、表面積96cm
2)に熱成形加工した。この容器にみかん40gとフルーツシラップ液40gを充填後、シリカ蒸着PETフィルム(三菱樹脂株式会社製、商品名:テックバリアTXR)、ナイロン6フィルム(東洋紡績株式会社製、商品名:N1202)、無延伸ポリプロピレンフィルム(オカモト株式会社製、商品名:アロマーET)をウレタン系ドライラミネート用接着剤(三井化学株式会社製、商品名:A−525/A−532)でドライラミネートしたガスバリア性フィルム(シリカ蒸着PETフィルム(12)/接着剤(3)/ナイロン6フィルム(15)/接着剤(3)/無延伸ポリプロピレンフィルム(50))をトップフィルムとして用い、密封した。フルーツシラップ漬けを充填した密封容器を90℃ボイル殺菌処理後、40℃・90%RHの条件下に保存し、14日後と2ヶ月後の容器内酸素濃度測定を行った。また、2ヶ月保存後に前記密封容器を開封しみかんの色調を調査した。これらの結果を表2に示した。
【0079】
(実施例5)
ポリエステル化合物(1)をポリエステル化合物(2)とした以外は、実施例4と同様にして酸素吸収性多層シートを得た後、カップ状容器を作製して、実施例4と同様の保存試験を実施した。これらの結果を表2に示した。
【0080】
(実施例6)
ポリエステル化合物(1)をポリエステル化合物(3)とした以外は、実施例4と同様にして酸素吸収性多層シートを得た後、カップ状容器を作製して、実施例4と同様の保存試験を実施した。これらの結果を表2に示した。
【0081】
(比較例3)
酸素吸収性樹脂組成物を使用しなかったこと以外は、実施例4と同様に多層シートを得た後、カップ状容器を作製して、実施例4と同様の保存試験を実施した。これらの結果を表2に示した。
【0082】
【表2】
【0083】
実施例4〜6から明らかなように、本発明の酸素吸収性多層体は、高湿度下において良好な酸素吸収性能を示し、内容物の色調も良好に維持された。