【文献】
木戸一博,巻渕千穂,清原淳子,伊藤司,本田凡,実用X線管を用いたX線格子干渉計の試み−タルボ・ロー干渉計の医用画像への適用−,日本写真学会誌,日本,2009年12月25日,Vol.72 No.6 ,Page.393-398
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る医用画像表示システムを示す。医用画像表示システムは、X線撮影装置1とコントローラ5を備える。X線撮影装置1は、縞走査型撮影装置として機能する第1の撮影モードと、フーリエ変換型撮影装置として機能する第2の撮影モードとを有する装置である。縞走査型撮影装置は、縞走査法による再構成画像用にタルボ・ロー干渉計により複数ステップで撮影を行い、複数のモアレ画像を生成するものである。フーリエ変換型撮影装置は、フーリエ変換法による再構成画像用に1又は2方向で撮影を行い、1又は2のモアレ画像を生成するものである。
本実施形態においては、X線撮影装置1は、手指を被写体として撮影する装置として説明するが、これに限定されるものではない。
【0027】
X線撮影装置1は、
図1に示すように、X線源11、マルチスリット12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16、保持部17、本体部18等を備える。X線撮影装置1は縦型であり、X線源11、マルチスリット12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16は、この順序に重力方向であるz方向に配置される。X線源11の焦点とマルチスリット12間の距離をd1(mm)、X線源11の焦点とX線検出器16間の距離をd2(mm)、マルチスリット12と第1格子14間の距離をd3(mm)、第1格子14と第2格子15間の距離をd4(mm)で表す。
【0028】
距離d1は好ましくは5〜500(mm)であり、さらに好ましくは5〜300(mm)である。
距離d2は、一般的に放射線科の撮影室の高さは3(m)程度又はそれ以下であることから、少なくとも3000(mm)以下であることが好ましい。なかでも、距離d2は400〜2500(mm)が好ましく、さらに好ましくは500〜2000(mm)である。
X線源11の焦点と第1格子14間の距離(d1+d3)は、好ましくは300〜5000(mm)であり、さらに好ましくは400〜1800(mm)である。
X線源11の焦点と第2格子15間の距離(d1+d3+d4)は、好ましくは400〜5000(mm)であり、さらに好ましくは500〜2000(mm)である。
それぞれの距離は、X線源11から照射されるX線の波長から、第2格子15上に第1格子14による格子像(自己像)が重なる最適な距離を算出し、設定すればよい。
【0029】
X線源11、マルチスリット12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16は、同一の保持部17に一体的に保持され、z方向における位置関係が固定されている。保持部17はC型のアーム状に形成され、本体部18に設けられた駆動部18aによりz方向に移動(昇降)可能に本体部18に取り付けられている。
X線源11は、緩衝部材17aを介して保持されている。緩衝部材17aは、衝撃や振動を吸収できる材料であれば何れの材料を用いてもよいが、例えばエラストマー等が挙げられる。X線源11はX線の照射によって発熱するため、X線源11側の緩衝部材17aは加えて断熱素材であることが好ましい。
【0030】
X線源11はX線管を備え、当該X線管によりX線を発生させてz方向(重力方向)にX線を照射する。X線管としては、例えば医療現場で広く一般に用いられているクーリッジX線管や回転陽極X線管を用いることができる。陽極としては、タングステンやモリブデンを用いることができる。
X線の焦点径は、0.03〜3(mm)が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1(mm)である。
【0031】
マルチスリット12は回折格子であり、
図2Aに示すように複数のスリットが所定間隔で配列されて設けられている。この複数のスリットは、X線照射軸方向(
図1のz方向)と直交する方向(
図2Aに白矢印で示す)に配列されている。マルチスリット12はシリコンやガラスといったX線の吸収率が低い材質の基板上に、タングステン、鉛、金といったX線の遮蔽力が大きい、つまりX線の吸収率が高い材質により形成される。例えば、フォトリソグラフィーによりレジスト層がスリット状にマスクされ、UVが照射されてスリットのパターンがレジスト層に転写される。露光によって当該パターンと同じ形状のスリット構造が得られ、電鋳法によりスリット構造間に金属が埋め込まれて、マルチスリット12が形成される。
【0032】
マルチスリット12のスリット周期は1〜60(μm)である。スリット周期は、
図2Aに示すように隣接するスリット間の距離を1周期とする。スリットの幅(各スリットのスリット配列方向の長さ)はスリット周期の1〜60(%)の長さであり、さらに好ましくは10〜40(%)である。スリットの高さ(z方向の高さ)は1〜500(μm)であり、好ましくは1〜150(μm)である。
マルチスリット12のスリット周期をw
0(μm)、第1格子14のスリット周期をw
1(μm)とすると、スリット周期w
0は下記式により求めることができる。
w
0=w
1・(d3+d4)/d4
当該式を満たすように周期w
0を決定することにより、マルチスリット12及び第1格子14の各スリットを通過したX線により形成される自己像が、それぞれ第2格子15上で重なり合い、いわばピントが合った状態とすることができる。
【0033】
マルチスリット12は、
図2Bに示すように、ラック12aを有するホルダー12bに保持されている。ラック12aは、マルチスリット12のスリット配列方向に設けられている。ラック12aは、後述する駆動部122のピニオン122cと係合し、ピニオン122cの回転(位相角)に応じてホルダー12bに保持されたマルチスリット12をスリット配列方向に移動させるためのものである。
【0034】
本実施形態において、X線撮影装置1には、マルチスリット回転部121及び駆動部122が設けられている。マルチスリット回転部121は、第1格子14及び第2格子15のX線照射軸周りの回転に応じてマルチスリット12をX線照射軸周りに回転させるための機構である。駆動部122は、複数のモアレ画像の撮影のためにマルチスリット12をスリット配列方向に移動させるための機構である。
【0035】
図3に、マルチスリット回転部121及び駆動部122の平面図及びA−A´断面図を示す。
【0036】
図3に示すように、マルチスリット回転部121は、モータ部121a、ギア部121b、ギア部121c、支持部121d等を備えて構成されている。モータ部121a、ギア部121b、ギア部121cは、支持部121dを介して保持部17に保持されている。
モータ部121aは、マイクロステップ駆動に切り替え可能なパルスモータであり、制御部181(
図8参照)からの制御に応じて駆動され、ギア部121bを介してギア部121cをX線照射軸(
図3に一点鎖線Rで示す)を中心として回転させる。ギア部121cは、ホルダー12bに保持されたマルチスリット12を装着するための開口部121eを有している。ギア部121cを回転させることにより、開口部121eに装着されたマルチスリット12をX線照射軸周りに回転させ、マルチスリット12のスリット配列方向を可変することができる。なお、撮影において、マルチスリット12は0°〜90°程度回転できればよいので、ギア部121cは全周にある必要はなく、
図3に2点鎖線で示す範囲(正逆回転方向にそれぞれ90°)で回転できればよい。
開口部121eは、ホルダー12bに保持されたマルチスリット12を上部から嵌め込むことが可能な形状及びサイズとなっている。ここでは、開口部121eにおけるスリット配列方向のサイズw4はホルダー12bにおけるスリット配列方向のサイズW2より若干大きくなっており、マルチスリット12をスリット配列方向にスライドさせることが可能となっている。なお、開口部121eにおけるスリット配列方向に直交する方向のサイズw3は、ホルダー12bにおけるスリット配列方向に直交する方向のサイズW1との精密嵌合可能な寸法としており、ホルダー12bを開口部121eに装着すると、ホルダー12bに設けられたラック12aは開口部121eの外に、後述するピニオン122cと係合可能に配置される。
【0037】
駆動部122は、マルチスリット周期に応じ0.1μm〜数十μm単位でマルチスリット12をスリット配列方向に移動させる精密減速機等を備えて構成される。駆動部122は、例えば、
図3に示すように、モータ部122a、ギア部122b、ピニオン122c等を備えて構成され、図示しないL字型板金等によりマルチスリット回転部121のギア部121cに固定されている。これにより、マルチスリット12と駆動部122は一体的に回転されるようになっている。
モータ部122aは、例えば、制御部181からの制御に応じて駆動され、ギア部122bを介してピニオン122cを回転させる。ピニオン122cは、マルチスリット12のラック12aと係合して回転することで、マルチスリット12をスリット配列方向に移動させる。
【0038】
図1に戻り、被写体台13は、被写体である手指を載置するための台である。被写体台13は、患者の肘が載置できる高さに設けられていることが好ましい。このように、患者の肘まで載置できるように構成することで、患者は楽な姿勢となり、比較的長時間にわたる撮影の間に、指先の撮影部位の動きを低減させることができる。
【0039】
また、被写体台13には、被写体を固定するための被写体ホルダー130が設けられている。被写体ホルダー130は、被写体に応じて着脱可能である。
図4Aに示すように、被写体ホルダー130は、手のひらで掴みやすいマウスのような楕円形状131のついた板状の部材である。上記楕円形状131は、その断面を側面から観察すると、
図4Bに示すように、手のひらサイズのなだらかな凸曲面となっており、患者が手のひらで楕円形状131を掴むことで、被写体が疲れにくい状態で被写体の下方への動きを抑制することができる。
【0040】
被写体ホルダー130が場所によってX線複素屈折率の不均一な形状又は厚みを有している場合、X線検出器16に到達するX線量は被写体ホルダー130のX線複素屈折率が不均一であることによってムラが生じる。
被写体ホルダー130上には、更に被写体姿勢を安定させるため、指間スペーサ133を備えることが好ましい。また、患者毎に手や指間の大きさは異なるので、患者毎の手のひらの形状に合わせて被写体ホルダー130を作成しておき、撮影時には、その患者用の被写体ホルダー130を被写体台13にマグネット等で取り付けることが好ましい。腕から手首までの荷重は被写体台13が支えるので、被写体ホルダー130は指先部分の加重と患者が上方から押さえる力に耐えるものであればよく、安価で量産が可能なプラスチック成形とすることが可能である。
【0041】
図1に戻り、第1格子14は、マルチスリット12と同様にX線照射軸方向であるz方向と直交する方向に複数のスリットが配列されて設けられた回折格子である。第1格子14は、マルチスリット12と同様にUVを用いたフォトリソグラフィーによって形成することもできるし、いわゆるICP法によりシリコン基板に微細細線で深掘加工を行い、シリコンのみで格子構造を形成することとしてもよい。第1格子14のスリット周期は1〜20(μm)である。スリットの幅はスリット周期の20〜70(%)であり、好ましくは35〜60(%)である。スリットの高さは1〜100(μm)である。
【0042】
第1格子14として位相型を用いる場合、スリットの高さ(z方向の高さ)はスリット周期を形成する2種の素材、つまりX線透過部とX線遮蔽部の素材による位相差がπ/8〜15×π/8となる高さとする。好ましくは、π/4〜3×π/4となる高さである。第1格子14として吸収型を用いる場合、スリットの高さはX線遮蔽部によりX線が十分吸収される高さとする。
【0043】
第1格子14が位相型である場合、第1格子14と第2格子15間の距離d4は、次の条件をほぼ満たすことが必要である。
d4=(m+1/2)・w
12/λ
なお、mは整数であり、λはX線の波長である。
【0044】
上記条件は第1格子14がπ/2型格子であること、つまり、第1格子のX線遮蔽部とX線透過部の素材による位相差がπ/2近傍にある場合の例を述べたが、第1格子14はπ型を用いても良く、使用する格子の型式に応じた条件を演算すればよい。
【0045】
第2格子15は、マルチスリット12と同様に、X線照射軸方向であるz方向と直交する方向に複数のスリットが配列されて設けられた回折格子である。第2格子15もフォトリソグラフィーにより形成することができる。第2格子15のスリット周期は1〜20(μm)である。スリットの幅はスリット周期の30〜70(%)であり、好ましくは35〜60(%)である。スリットの高さは1〜100(μm)である。
【0046】
本実施形態では第1格子14及び第2格子15は、それぞれの格子面がz方向に対し垂直(x−y平面内で平行)であり、第1格子14のスリット配列方向と第2格子15のスリット配列方向とは、x−y平面内で所定角度だけ傾けて配置されているが、両者を平行な配置としても良い。また、本実施形態において、第1格子14及び第2格子15は、円盤状である。
【0047】
上記マルチスリット12、第1格子14、第2格子15は、例えば下記のように構成することができる。
X線源11のX線管の焦点径;300(μm)、管電圧:40(kVp)、付加フィルタ:アルミ1.6(mm)
X線源11の焦点からマルチスリット12までの距離d1 : 240(mm)
マルチスリット12から第1格子14までの距離d3 :1110(mm)
マルチスリット12から第2格子15までの距離d3+d4:1370(mm)
マルチスリット12のサイズ:10(mm四方)、スリット周期:22.8(μm)
第1格子14のサイズ:50(mm四方)、スリット周期:4.3(μm)
第2格子15のサイズ:50(mm四方)、スリット周期:5.3(μm)
【0048】
本実施形態において、第1格子14及び第2格子15は格子回転部210に装着されている。
図5に、格子回転部210の平面図を示す。
図6に、第1格子14及び第2格子15が装着された状態の格子回転部210の平面図及びD−D´断面図を示す。
【0049】
図5に示すように、格子回転部210は、回転トレイ212上に、ハンドル211、相対角調整部213、ストッパー214等を備えて構成されている。
【0050】
回転トレイ212は、第1格子14及び第2格子15を保持するための開口部212aを有している。
ここで、本実施形態において、第1格子14は、複数のスリットが配列されてなる円形状の格子部140と、この格子部140を開口部212aに取り付けるための第1ホルダー部141及び第2ホルダー部142と、により構成されている(
図6参照)。第1ホルダー部141は、格子部140の外周に取り付けられた、開口部212aと略同じ半径(外周の半径)の部材であり、第1格子14の装着時に開口部212aと嵌合する。第2ホルダー部142は、第1ホルダー部141より更に外側に取り付けられた、開口部212aよりやや半径(外周の半径)の大きい部材である。第2ホルダー部142は、その外周の一部がギア加工されている。また、第2ホルダー部142の外周の所定位置には、突起部142aが設けられている。
第2格子15は、複数のスリットが配列されてなる円形状の格子部150と、この格子部150を開口部212aに取り付けるためのホルダー部151と、により構成されている。ホルダー部151は、開口部212aの半径と略同様の半径を有する円盤状の部材である。格子部150はホルダー部151の中央部上面に保持されている(
図6参照)。
【0051】
回転トレイ212に第1格子14及び第2格子15を装着する際には、まず、第2格子15が開口部212aの底面に嵌め込まれる。次に、第1格子14が第2格子15の上から開口部212aに嵌め込まれる。これにより、
図6に示す状態で回転トレイ212に第1格子14及び第2格子15が保持される。
【0052】
開口部212aに保持された第1格子14及び第2格子15は、撮影モードに応じて相対角調整部213により互いのスリット方向の相対角度が調整される。
ここで、X線撮影装置1は、縞走査法による再構成画像用に複数ステップで撮影を行う第1の撮影モードと、フーリエ変換法による再構成画像用に1又は2方向で撮影を行う第2の撮影モードとを有している。縞走査法用の撮影において要求される第1格子14のスリット方向と第2格子15のスリット方向との相対角度は第2格子の周期と画像サイズと縞の本数に依存する。縞走査法においては、モアレ画像における干渉縞の本数が少ないほど、また、干渉縞が鮮明なほど、このモアレ画像に基づいて作成される再構成画像が鮮明となることが知られている(非特許文献2参照)。そこで、第2格子の周期を5.3μm、60mm角の画像の中に干渉縞が0〜3本程度にすると仮定すると、相対角度は0度〜±0.015度とする必要がある。一方、フーリエ変換法用の撮影において要求される第1格子14のスリット方向と第2格子15のスリット方向との相対角度はX線検出器16の画素ピッチと空間分解能に依存する。一般的に使用される検出器(空間分解能30μm〜200μm)とすると、その相対角度は0.4度〜3度とする必要がある。よって、第1の撮影モードと第2の撮影モードを切り替えて撮影を行うためには、撮影モードに応じて第1格子と第2格子の相対角度を調整する必要がある。しかし、例えば、上記構成において、縞走査法の角度の0.005度のずれは、縞1周期分に相当する。縞走査法で常に縞が広がった状態を維持するためには、ミリ度の精度での調整が要求されるため、手動で第1格子14及び第2格子15のスリット方向の相対角度を調整するのは困難である。
そこで、X線撮影装置1においては、相対角調整部213により、操作部182で設定された撮影モードに応じて第1格子14と第2格子15の相対角度を自動的に調整することが可能となっている。
【0053】
図5、6に示すように、相対角調整部213は、モータ部213a、第1ギア213b、第2ギア213c、レバー213dにより構成されている。モータ部213aは、第2ギア213cと係合し、制御部181からの制御に応じて第2ギア213cを回転させる。第2ギア213cは、レバー213dを介してその中心が第1ギア213bの中心と接続されており、その円周が第1ギア213bと係合している。第2ギア213cがモータ部213aの駆動に応じて回転すると、第1ギア213bが第2ギア213cの中心を回転軸として第2ギア213cの周囲に沿って回転移動して第1格子14の第2ホルダー部142のギア部分と係合し、第2格子15を回転させることなく第1格子14をX線照射軸周りに回転させることが可能となっている。
【0054】
本実施形態においては、工場出荷時に、第2ホルダー部142の突起部142aが回転トレイ212上に設けられたストッパー(凸状の突起)214に突き当たったときに第1格子14と第2格子15のスリット方向の相対角度が第1の撮影モード時(縞走査法用の撮影モード)に最適な相対角となるように、ストッパー214の位置及び第1格子14と第2格子15の相対角度が予め調整されて開口部212aに装着されている。第2の撮影モード(フーリエ変換用の撮影モード)が設定されると、第1格子14と第2格子の相対角度が第2の撮影モードに最適となるように制御部181により相対角調整部213のパルスモータを採用したモータ部213aが駆動(通電制御)される。これにより、第2ギア213cを介して第1ギア213bが回転して第2ホルダー部142のギア部分に係合し、第1格子14と第2格子15のスリット方向の相対角度が第2の撮影モードに最適となるように第2ホルダー部142が回転される。その後、当該パルスモータへの通電状態を可変させ、後述するバネ力に打ち勝つモータ自己保持力(励磁力)を発揮させる程度の通電状態(駆動時の定格電流の50%未満等)とすることで、第2ホルダー部142を当該位相に維持することができる。
なお、このときの回転角度は1度程度と小さいため、まず、モータ部213aのパルスモータにより、突起部142aが基準位置215にくるまで反時計周りに第2ホルダー部142を回転させ、突起部142aが基準位置215に来たことが図示しないセンサにより検知されたら、第2ホルダー部142の回転方向を時計回りに切り替えてマイクロステップ駆動より第2ホルダー部142を回転させることが好ましい。
第2ホルダー部142は図示しないバネに付勢されており、モータ部213aの駆動により第1ギア213bと第2ホルダー部142との係合が解除されると、バネの付勢力により突起部142aがストッパー214の位置に戻る。即ち、第1格子14と第2格子15が第1の撮影モードに最適な相対角度に戻る。
【0055】
以上のようにして、第1格子14と第2格子15の相対角度が撮影モードに応じた角度に調整される。
格子回転部210は、また、相対角度が調整された第1格子14及び第2格子15を被写体に対してX線照射軸周り(
図6に点線Rで示す)に一体的に回転させることができる。
ここで、1次元格子(スリット)を用いるタルボ干渉計及びタルボ・ロー干渉計では、第1格子14及び第2格子15のスリット方向と平行に線状に延びる構造物は鮮明に撮影することができないという特性がある。よって、被写体の注目すべき構造物の配置方向に応じて、第1格子14及び第2格子15のスリット方向の角度を調整する必要がある。格子回転部210は、以下の機構により第1格子14及び第2格子15をその相対角度を維持したまま一体的にX線照射軸周りに回転させ、被写体の注目すべき構造物の配置方向に対する第1格子14及び第2格子15のスリット方向の角度を調整することができる。
【0056】
回転トレイ212には、上述のように、ハンドル211が設けられている。ハンドル211は、撮影技師等のオペレータがX線照射軸(
図6に点線Rで示す)を軸として回転トレイ212を手動で回転させるための突起である。また、回転トレイ212は、回転トレイ212の回転角度を固定するための凹部212b〜212eを有している。凹部212b〜212eは、予め0°と定められた位置(ここでは凹部212bがトレイ固定部材171bのボールと対向する位置を0°の位置とする)から所定の回転角度にある位置(ここでは、0°、30°、60°、90°)に設けられている。凹部212b〜212eのそれぞれには、角度検知センサSE1〜SE4が設けられており、トレイ固定部材171bと係合したことを検知して制御部181にその検知信号を出力する。
このように、回転トレイ212を手動で回転させるので、患者が触れる範囲に第1格子14及び第2格子15を一体的に回転させるための電気コード等を設ける必要がなく、安全性を確保することができる。
【0057】
なお、本実施形態では、回転トレイ212が0°に設定されたときの第1格子14及び第2格子15の位置(角度)をホームポジションとする。また、第1格子14及び第2格子15がホームポジションであるときの第1格子14のスリット方向とマルチスリット12のスリット方向が平行である位置(角度)をマルチスリット12のホームポジションとする。
【0058】
図7Aは、保持部17における格子回転部210の保持部分171を拡大して示した平面図であり、
図7Bは、
図7AにおけるE−E´断面図である。
図7Cは、保持部17に格子回転部210を保持した状態を示す図である。
図7A、
図7Bに示すように、保持部分171には、格子回転部210の回転トレイ212と精密嵌合するサイズであり、回転トレイ212を回転可能に保持する開口部171aと、回転トレイ212の回転角度を固定するためのトレイ固定部材171bと、が設けられている。開口部171aの底部とX線検出器16の載置部の間は、X線の透過を妨げないように、中空とするか又はX線透過率の高いアルミやカーボン等とすることが好ましい。トレイ固定部材171bは、凹部212b〜212eの何れかがトレイ固定部材171bと対向するように位置したときにその対向する凹部に係合するボールと、ボールを
図7A、
図7Bの矢印方向に誘導するための図示しないスライドガイド(押圧バネのガイド)により構成されている。凹部212b〜212eの何れかがトレイ固定部材171bと対向する位置で回転トレイ212の回転が停止すると、トレイ固定部材171bのスライドガイドにより、対向している凹部にボールが係合するとともに、凹部に設けられた角度検知センサ(SE1〜SE4の何れか)によりボールの係合が検知されて制御部181に検知信号が出力される。これにより、制御部181は、回転トレイ212の回転角度、即ち、第1格子14及び第2格子15の回転角度を検知できるようになっている。
【0059】
また、
図7Dに示すように、回転トレイ212の開口部212aの下部に、X線検出器16の装着部212fを設け、第1格子14及び第2格子15とX線検出器16とを一体として回転させることができるようにしてもよい。このようにすれば、X線検出器16の縦横方向の鮮鋭性の異方性の影響を受けることがないので、再構成画像の縦横の鮮鋭性を第1格子14及び第2格子15の回転角度によらずに概ね一定とすることができる。
【0060】
図1に戻り、X線検出器16は、照射されたX線に応じて電気信号を生成する変換素子が2次元状に配置され、当該変換素子により生成された電気信号を画像信号として読み取る。X線検出器16の画素サイズは10〜300(μm)であり、さらに好ましくは50〜200(μm)である。
【0061】
X線検出器16は第2格子15に当接するように保持部17に位置を固定することが好ましい。第2格子15とX線検出器16間の距離が大きくなるほど、X線検出器16により得られるモアレ画像がボケるからである。
X線検出器16としては、FPD(Flat Panel Detector)を用いることができる。FPDにはX線をシンチレータを介して光電変換素子により電気信号に変換する間接変換型、X線を直接的に電気信号に変換する直接変換型があるが、何れを用いてもよい。
【0062】
間接変換型は、CsIやGd
2O
2等のシンチレータプレートの下に、光電変換素子がTFT(薄膜トランジスタ)とともに2次元状に配置されて各画素を構成する。X線検出器16に入射したX線がシンチレータプレートに吸収されると、シンチレータプレートが発光する。この発光した光により、各光電変換素子に電荷が蓄積され、蓄積された電荷は画像信号として読み出される。
【0063】
直接変換型は、アモルファスセレンの熱蒸着により、100〜1000(μm)の膜圧のアモルファスセレン膜がガラス上に形成され、2次元状に配置されたTFTのアレイ上にアモルファスセレン膜と電極が蒸着される。アモルファスセレン膜がX線を吸収するとき、電子正孔対の形で物質内に電圧が遊離され、電極間の電圧信号がTFTにより読み取られる。
なお、CCD(Charge Coupled Device)、X線カメラ等の撮影手段をX線検出器16として用いてもよい。
【0064】
X線撮影時のFPDによる一連の処理を説明する。
まずFPDはリセットを行い、前回の撮影(読取)以降に残存する不要な電荷を取り除く。その後、X線の照射が開始するタイミングで電荷の蓄積が行われ、X線の照射が終了するタイミングで蓄積された電荷が画像信号として読み取られる。なお、リセットの直後や画像信号の読み取り後等に、オフセット補正用のダーク読み取りを行う。
【0065】
本体部18は、
図8に示すように、制御部181、操作部182、表示部183、通信部184、記憶部185を備えて構成されている。
制御部181は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)等から構成され、記憶部185に記憶されているプログラムとの協働により、X線撮影装置1の各部を制御するとともに各種処理を実行する。例えば、制御部181は、後述する撮影制御処理をはじめとする各種処理を実行する。
【0066】
操作部182は曝射スイッチや撮影条件等の入力操作に用いるキー群の他、表示部183のディスプレイと一体に構成されたタッチパネルを備え、これらの操作に応じた操作信号を生成して制御部181に出力する。
表示部183は制御部181の表示制御に従って、ディスプレイに操作画面やX線撮影装置1の動作状況等を表示する。
【0067】
通信部184は通信インターフェイスを備え、ネットワーク上のコントローラ5と通信する。例えば、通信部184はX線検出器16によって読み取られ、記憶部185に記憶されたモアレ画像をコントローラ5に送信する。
記憶部185は、制御部181により実行されるプログラム、プログラムの実行に必要なデータを記憶している。また、記憶部185はX線検出器16によって得られたモアレ画像を記憶する。
【0068】
コントローラ5は、オペレータによる操作に従ってX線撮影装置1の撮影動作を制御する。また、コントローラ5は、X線撮影装置1により得られたモアレ画像を用いて診断用の再構成画像を作成する画像処理部として機能する。
【0069】
コントローラ5は、
図9に示すように、制御部51、操作部52、表示部53、通信部54、記憶部55を備えて構成されている。
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)等から構成され、記憶部55に記憶されているプログラムとの協働により、後述する縞走査法による再構成画像作成・表示処理、フーリエ変換法による再構成画像作成・表示処理をはじめとする各種処理を実行する。
【0070】
操作部52は、カーソルキー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードで押下操作されたキーの押下信号とマウスによる操作信号とを、入力信号として制御部51に出力する。表示部53のディスプレイと一体に構成されたタッチパネルを備え、これらの操作に応じた操作信号を生成して制御部51に出力する構成としてもよい。本実施形態において、操作部52は、例えば、
図14BのステップS22や
図21のステップS43において表示する画像の種類や画像の表示の切り替えタイミング等を部位毎やユーザ(医師)毎に設定することができる。
【0071】
表示部53は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)等のモニタを備えて構成されており、制御部51の表示制御に従って、操作画面、X線撮影装置1の動作状況、作成された再構成画像等を表示する。
【0072】
通信部54は、通信インターフェイスを備え、ネットワーク上のX線撮影装置1やX線検出器16と有線又は無線により通信する。例えば、通信部54は、X線撮影装置1に撮影条件や制御信号を送信したり、X線撮影装置1又はX線検出器16からモアレ画像を受信したりする。
【0073】
記憶部55は、制御部51により実行されるプログラム、プログラムの実行に必要なデータを記憶している。例えば、記憶部55は、RIS、HIS等や図示しない予約装置より予約されたオーダを示す撮影オーダ情報を記憶している。撮影オーダ情報は、患者名、撮影部位、撮影モード等の情報である。
また、記憶部55は、操作部52により設定された設定情報、例えば、
図14BのステップS22や
図21のステップS43において表示する画像の種類や画像の表示の切替タイミング等を部位情報やユーザIDに対応付けて記憶する。
また、記憶部55は、X線検出器16によって得られたモアレ画像、モアレ画像に基づき作成された診断用の再構成画像を撮影オーダ情報に対応付けて記憶する。
また、記憶部55は、病変の典型的な症例を示す参照画像(詳細後述)を病変名及び画像の種類(縞走査法orフーリエ変換法、吸収画像or微分位相画像or小角散乱画像)等と対応付けて記憶する。
更に、記憶部55は、X線検出器16に対応するゲイン補正データ、欠陥画素マップ等を予め記憶する。
【0074】
コントローラ5においては、操作部52の操作により撮影オーダ情報の一覧表示が指示されると、制御部51により、記憶部55から撮影オーダ情報が読み出されて表示部53に表示される。操作部52により撮影オーダ情報が指定されると、指定された撮影オーダ情報に応じた撮影条件(撮影モードを含む)の設定情報やX線源11のウォームアップの指示等が通信部54によりX線撮影装置1に送信される。これにより、X線撮影装置1に撮影モードが設定される。即ち、コントローラ5は、撮影モードを設定する設定部として機能する。また、X線検出器16がケーブルレスのカセッテ型FPD装置である場合には、制御部51は、内部バッテリ消耗防止の為のスリープ状態から、撮影可能状態に起動せしめる。
X線撮影装置1においては、通信部184によりコントローラ5から撮影条件の設定情報等が受信されると、X線撮影準備が実行される。
【0075】
上記X線撮影装置1のタルボ・ロー干渉計によるX線撮影方法(第1の撮影モードの撮影方法)を説明する。
図10に示すように、X線源11から照射されたX線が第1格子14を透過すると、透過したX線がz方向に一定の間隔で像を結ぶ。この像を自己像といい、自己像が形成される現象をタルボ効果という。自己像を結ぶ位置に第2格子15が平行に配置され、当該第2格子15はその格子方向が第1格子14の格子方向と平行な位置からわずかに傾けられているので、第2格子15を透過したX線によりモアレ画像Mが得られる。X線源11と第1格子14間に被写体Hが存在すると、被写体HによってX線の位相がずれるため、
図10に示すようにモアレ画像M上の干渉縞は被写体Hの辺縁を境界に乱れる。この干渉縞の乱れを、モアレ画像Mを処理することによって検出し、被写体像を画像化することができる。これがタルボ干渉計及びタルボ・ロー干渉計の原理である。
【0076】
X線撮影装置1では、X線源11と第1格子14との間のX線源11に近い位置に、マルチスリット12が配置され、タルボ・ロー干渉計によるX線撮影が行われる。タルボ干渉計はX線源11が理想的な点線源であることを前提としているが、実際の撮影にはある程度焦点径が大きい焦点が用いられるため、マルチスリット12によってあたかも点線源が複数連なってX線が照射されているかのように多光源化する。これがタルボ・ロー干渉計によるX線撮影法であり、焦点径がある程度大きい場合にも、タルボ干渉計と同様のタルボ効果を得ることができる。
【0077】
従来のタルボ・ロー干渉計では、マルチスリット12は上述のように多光源化と照射線量の増大を目的に用いられ、複数のモアレ画像を得るためには第1格子14又は第2格子15を相対移動させていた。しかし、本実施形態では、第1格子14又は第2格子15を相対移動させるのではなく、第1格子14及び第2格子15の位置は固定したまま、第1格子14及び第2格子15に対してマルチスリット12を移動させることで一定周期間隔のモアレ画像を複数得る。
なお、第2の撮影モードによりモアレ画像を得る場合には、マルチスリット12の移動は行わず、1回撮影又は被写体とスリット方向を90度回転させて2回撮影を行う。
【0078】
図11は、X線撮影装置1の制御部181により実行される撮影制御処理を示すフローチャートである。撮影制御処理は、制御部181と記憶部185に記憶されているプログラムの協働により実行される。
【0079】
まず、コントローラ5から受信された設定情報に基づいて、第1の撮影モード(縞走査法用)と第2の撮影モード(フーリエ変換法用)の何れの撮影モードが設定されているかが判断される(ステップS1)。第1の撮影モードが設定されていると判断されると(ステップS1;第1の撮影モード)、第1の撮影モード処理が実行される(ステップS2)。一方、第2の撮影モードが設定されていると判断されると(ステップS1;第2の撮影モード)、第2の撮影モード処理が実行される(ステップS3)。
【0080】
図12A〜
図12Bは、
図11のステップS2においてX線撮影装置1の制御部181により実行される第1の撮影モード処理を示すフローチャートである。第1の撮影モード処理は、制御部181と記憶部185に記憶されているプログラムの協働により実行される。
【0081】
ここで、第1の撮影モードでのX線撮影には上述のタルボ・ロー干渉計によるX線撮影方法が用いられ、被写体像の再構成には縞走査法が用いられる。X線撮影装置1では、制御部181の制御により駆動部122が駆動及び停止されることによりマルチスリット12が等間隔毎に複数ステップ移動され、ステップ毎に撮影が行われて、各ステップのモアレ画像が得られる。
【0082】
ステップ数は2〜20、さらに好ましくは3〜10である。視認性の高い再構成画像を短時間で得るという観点からすれば、5ステップが好ましい(参照文献(1)K.Hibino, B.F.Oreb and D.I.Farrant, Phase shifting for nonsinusoidal wave forms with phase-shift errors, J.Opt.Soc.Am.A, Vol.12, 761-768(1995)、参照文献(2)A.Momose, W.Yashiro, Y. Takeda, Y.Suzuki and T.Hattori, Phase Tomography by X-ray Talbot Interferometetry for biological imaging, Jpn. J. Appl. Phys., Vol.45, 5254-5262(2006))。
【0083】
図12A〜
図12Bに示すように、まず、制御部181により、X線源11がウォームアップ状態に切り替えられる(ステップS101)。
次いで、格子回転部210の相対角調整部213が制御され、第1格子14と第2格子15の相対角度が第1の撮影モードに最適となるように(突起部142aがストッパー214に接触する位置にくるように)第1格子14が回転される。これにより、第1格子14と第2格子15の相対角度が調整される(ステップS102)。
【0084】
次いで、オペレータの操作に応じて第1格子14及び第2格子15が一体的に回転され、被写体に対する第1格子14及び第2格子15のスリット方向が設定される(ステップS103)。即ち、撮影技師等のオペレータは、格子回転部210のハンドル211を回転させ、被写体台13に載置された被写体の注目すべき構造物の配置方向に応じて第1格子14及び第2格子15のスリット方向を設定する。ハンドル211の回転が停止し、トレイ固定部材171bのバネ附勢されたボールの係合により位置固定されると、角度検知センサSE1〜SE4の何れかから制御部181に検知信号が出力され、制御部181において、設定されたスリット方向に対応する、格子回転部210の回転トレイ212(即ち、第1格子14及び第2格子15)のホームポジションからの回転角度が取得される。
【0085】
次いで、第1格子14及び第2格子15の回転角度に応じて、マルチスリット回転部121のモータ部121aがパルスにより制御され、第1格子14及び第2格子15の回転角度に応じてマルチスリット12が回転される(ステップS104)。例えば、モータ部121aのパルスモータが制御され、マルチスリット12のホームポジションからの回転角度が回転トレイ212回転角度近傍(例えば、回転トレイ212が30°に設定された場合は29°ぐらい)まで一気に回転される。
【0086】
次いで、モータ部121aがマイクロステップ精密制御に切り替えられ、マルチスリット12を少しずつ回転させながら複数の回転角度で撮影が行われて調整用の複数のモアレ画像が生成される(ステップS105)。例えば、回転トレイ212が30°に設定された場合は、マルチスリット12を29.5°、30°、30.5°の3つの回転角度に設定してX線源11により低線量X線が照射され、撮影が行われる。これにより、調整用の3つのモアレ画像が取得される。なお、ステップS105においては、被写体を被写体台13に載置しない状態で撮影が行われる。
【0087】
撮影された調整用の複数のモアレ画像は、マルチスリット12の回転角度に対応付けて、並べて表示部183に表示される(ステップS106)。
【0088】
ここで、上述のように、第1格子14と第2格子15の相対角度は干渉縞本数が最小となるようにステップS102で調整されているので、ステップS103においては、回転トレイ212の回転によりその相対角度を保ったまま第1格子14及び第2格子15が回転される。しかし、第1格子14及び第2格子15を載置した回転トレイ212が回転し、マルチスリット12と第1格子14及び第2格子15との相対角度が変化すると、干渉縞(すなわちモアレ)の鮮明性が変化してしまう。そこで、マルチスリット12と第1格子14及び第2格子15、即ち、これらを載置した回転トレイ212との相対角度を調整する必要がある。
一般的には、マルチスリット12と第1格子14との相対角度が少ないほど、干渉縞の鮮明性の高いモアレ画像が得られる。しかし、マルチスリット12は発熱部であるX線源11近傍に配置されるので熱影響を受けやすい。そのため、マルチスリット12の変形等を考慮して、マルチスリット12を回転トレイ212と同じ角度だけ回転させるだけでなく、モータ部121aをマイクロステップ駆動させてステップS105〜S108における微調整を行うことが有効である。
【0089】
オペレータは、ステップS106で表示部183に表示されたモアレ画像を観察し、干渉縞が最も鮮明な回転角度を撮影に用いる回転角度として選択する。なお、ここでは、干渉縞の鮮明性はオペレータの目視により観察するが、干渉縞の鮮明性の度合いを示す鮮明度は、後述するサインカーブ(
図17参照)における極大値をMAX、極小値をMINとした場合、下記の式で表すことができる。この干渉縞の鮮明度を用いてオペレータではなく、プログラムで自動的に最大値となる回転角度を設定しても良い。
干渉縞の鮮明度=(MAX−MIN)/(MAX+MIN)=振幅/平均値
【0090】
操作部182により、マルチスリット12の回転角度が入力されると(ステップS107;YES)、モータ部121aが再駆動され、マルチスリット12のホームポジションからの回転角度が入力された回転角度となるようにマルチスリット12の位置が微調整される(ステップS108)。
【0091】
マルチスリット12の回転角度の調整後、被写体台13に被写体が載置され、オペレータにより曝射スイッチがON操作されると(ステップS109;YES)、駆動部122によりマルチスリット12がそのスリット配列方向に移動され、複数ステップの撮影が実行され、被写体有りの複数のモアレ画像が生成される(ステップS110)。
まず、マルチスリット12が停止した状態でX線源11によるX線の照射が開始される。X線検出器16ではリセット後、X線照射のタイミングに合わせて電荷が蓄積され、X線の照射停止のタイミングに合わせて蓄積された電荷が画像信号として読み取られる。これが1ステップ分の撮影である。1ステップ分の撮影が終了するタイミングで、制御部181の制御により駆動部122が起動され、マルチスリット12の移動が開始される。所定量移動すると駆動部122が停止されることによりマルチスリットの移動が停止され、次のステップの撮影が行われる。このようにして、マルチスリット12の移動と停止が所定のステップ数分だけ繰り返され、マルチスリット12が停止したときにX線の照射と画像信号の読み取りが行われる。読み取られた画像信号はモアレ画像として本体部18に出力される。
【0092】
例えば、マルチスリット12のスリット周期を22.8(μm)とし、5ステップの撮影を10秒で行うとする。マルチスリット12がそのスリット周期の1/5に該当する4.56(μm)移動し停止する毎に撮影が行われる。
【0093】
従来のように第2格子15(又は第1格子14)を移動させる場合、第2格子15のスリット周期は比較的小さく、各ステップの移動量も小さくなるが、マルチスリット12のスリット周期は第2格子15よりも比較的大きく、各ステップの移動量も大きい。例えば、スリット周期5.3(μm)の第2格子15のステップ毎の移動量は1.06(μm)であるのに対し、スリット周期22.8(μm)のマルチスリット12の移動量は4.56(μm)と約4倍の大きさである。同一の駆動伝達系(駆動源、減速伝達系を含む)を使用し、各ステップの撮影に際し、駆動部122の起動と停止を繰り返して撮影を行った場合、移動用のパルスモータ(駆動源)の制御量(駆動パルス数)に対応した実際の移動量に占める、起動時及び停止時の駆動部122のバックラッシュ等の影響による移動量誤差の割合は、本実施形態のようにマルチスリット12を移動させる方式の方が小さくなる。これは、後述するサインカーブに沿ったモアレ画像を得やすく、起動及び停止を繰り返しても高精細な再構成画像が得られることを示している。或いは、従来方式による画像でも充分診断に適合する場合には、モータ(駆動源)を含む駆動伝達系全体の精度(特に、起動特性及び停止特性)を緩和し、駆動伝達系を構成する部品のコストダウンが可能であることを示している。
【0094】
各ステップの撮影が終了すると、本体部18の通信部184からコントローラ5に、各ステップのモアレ画像が送信される(ステップS111)。本体部18からコントローラ5に対しては各ステップの撮影が終了する毎に1枚ずつ被写体有りのモアレ画像が送信される。
【0095】
次いで、X線検出器16においてダーク読み取りが行われ、被写体有り画像データ補正用のダーク画像(オフセット補正データ)が取得される(ステップS112)。ダーク読み取りは、少なくとも1回行われる。又は、複数回のダーク読み取りを行ってその平均値をダーク画像として取得してもよい。ダーク画像は、通信部184からコントローラ5に送信される(ステップS113)。当該ダーク読取に基づくオフセット補正データは、各モアレ画像信号の補正に共通に用いられる。
尚、ダーク画像の取得は、各ステップのモアレ画像取得後に、当該ステップのダーク読取を行って、各ステップ専用のオフセット補正データを生成することとしても良い。
【0096】
次いで、オペレータによる曝射スイッチのON操作待ち状態となる(ステップS114)。ここで、オペレータは、被写体無しのモアレ画像を作成できるように、被写体台13から被写体を取り除いて患者を退避させる。被写体無しの撮影の準備が完了したら、曝射スイッチを押下する。
【0097】
曝射スイッチが押下されると(ステップS114;YES)、駆動部122によりマルチスリット12がそのスリット配列方向に移動され、被写体無しで複数ステップの撮影が実行され、被写体無しの複数のモアレ画像が生成される(ステップS115)。各ステップの撮影が終了すると、本体部18の通信部184からコントローラ5に、各ステップのモアレ画像が送信される(ステップS116)。本体部18からコントローラ5に対しては各ステップの撮影が終了する毎に通信部184により1枚ずつ被写体無しのモアレ画像が送信される。
【0098】
次いで、X線検出器16においてダーク読み取りが行われ、被写体無しのダーク画像が取得される(ステップS117)。ダーク読み取りは、少なくとも1回行われる。又は、複数回のダーク読み取りを行ってその平均値をダーク画像として取得してもよい。ダーク画像は、通信部184からコントローラ5に送信され(ステップS118)、一つの撮影オーダに対する一連の撮影は終了する。
尚、ダーク画像の取得は、各ステップのモアレ画像取得後に、当該ステップのダーク読取を行って、各ステップ専用のオフセット補正データを生成することとしても良い。
なお、被写体無しの複数のモアレ画像及びダーク読取は被写体有りの撮影直後に実施されることが精度的に最も好ましいが、被写体画像の再構成までの時間短縮をはかるために、始業開始等に事前に取得しておいたデータを用いることとしても良い。
コントローラ5においては、通信部54によりモアレ画像が受信されると、受信されたモアレ画像が撮影開始時に指定された撮影オーダ情報と対応付けて記憶部55に記憶される。
【0099】
図13A〜
図13Bは、
図11のステップS3においてX線撮影装置1の制御部181により実行される第2の撮影モード処理を示すフローチャートである。第2の撮影モード処理は、制御部181と記憶部185に記憶されているプログラムの協働により実行される。
【0100】
図13A〜
図13Bに示すように、まず、制御部181により、X線源11がウォームアップ状態に切り替えられる(ステップS201)。
次いで、格子回転部210の相対角調整部213が制御され、第1格子14と第2格子15の相対角度が第2の撮影モードに最適となるように(突起部142aがホームポジションから所定角度回転した位置にくるように)調整される(ステップS202)。
【0101】
次いで、ステップS203〜ステップS208の処理が行われる。ステップS203〜S208の処理は、
図12AのステップS103〜108で説明したものと同様であるので説明を援用する。
【0102】
被写体台13に被写体が載置され、オペレータにより曝射スイッチがON操作されると(ステップS209;YES)、撮影が実行され、被写体有りのモアレ画像が生成される(ステップS210)。即ち、X線源11から放射線が照射され、X線検出器16において読み取りが行われる。なお、第2の撮影モードでは、駆動部122は停止されたままの状態で、マルチスリット12を移動させることなく、1枚のみの撮影が行われる。
撮影が終了すると、本体部18の通信部184からコントローラ5に撮影により得られたモアレ画像が送信される(ステップS211)。
【0103】
次いで、X線検出器16においてダーク読み取りが行われ、被写体有り画像データ補正用のダーク画像(オフセット補正データ)が取得される(ステップS212)。ダーク読み取りは、少なくとも1回行われる。又は、複数回のダーク読み取りを行ってその平均値をダーク画像として取得してもよい。ダーク画像は、通信部184からコントローラ5に送信される(ステップS213)。当該ダーク読取に基づくオフセット補正データは、モアレ画像信号の補正に共通に用いられる。
【0104】
次いで、オペレータによる曝射スイッチのON操作待ち状態となる(ステップS214)。ここで、オペレータは、被写体無しのモアレ画像を作成できるように、被写体台13から被写体を取り除いて患者を退避させる。被写体無しの撮影の準備が完了したら、曝射スイッチを押下する。
【0105】
曝射スイッチが押下されると(ステップS214;YES)、被写体無しで撮影が実行され、被写体無しのモアレ画像が生成される(ステップS215)。ステップS215においてもステップS210と同様に、駆動部122は停止されたままの状態で、マルチスリット12を移動させることなく、1枚のみの撮影が行われる。
撮影が終了すると、本体部18の通信部184からコントローラ5に、モアレ画像が送信される(ステップS216)。
【0106】
次いで、X線検出器16においてダーク読み取りが行われ、被写体無しのダーク画像が取得される(ステップS217)。ダーク読み取りは、少なくとも1回行われる。又は、複数回のダーク読み取りを行ってその平均値をダーク画像として取得してもよい。ダーク画像は、通信部184からコントローラ5に送信され(ステップS218)、一つの撮影オーダに対する一連の撮影は終了する。
なお、被写体無しの複数のモアレ画像及びダーク読取は被写体有りの撮影直後に実施されることが精度的に最も好ましいが、被写体画像の再構成までの時間短縮をはかるために、始業開始等に事前に取得しておいたデータを用いることとしても良い。
【0107】
コントローラ5の制御部51においては、通信部54によりモアレ画像が受信されると、現在処理対象となっている撮影オーダ情報において設定されている撮影モードが第1の撮影モードである場合は縞走査法による再構成画像作成・表示処理が実行され、第2の撮影モードである場合はフーリエ変換法による再構成画像作成・表示処理が実行される。
【0108】
図14A〜
図14Bは、制御部51により実行される縞走査法による再構成画像作成・表示処理を示すフローチャートである。縞走査法による再構成画像作成・表示処理は、制御部51と記憶部55に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0109】
まず、ステップS11〜S13においては、被写体有りの複数のモアレ画像及び被写体無しの複数のモアレ画像のそれぞれについて、X線検出器16の各画素のバラツキを補正するための補正処理が実行される。具体的には、オフセット補正処理(ステップS11)、ゲイン補正処理(ステップS12)、欠陥画素補正処理(ステップS13)が実行される。
【0110】
ステップS11においては、被写体有り画像データ補正用のダーク画像に基づいて、被写体有りの各モアレ画像にオフセット補正が施される。被写体無し画像データ補正用のダーク画像に基づいて、被写体無しの各モアレ画像にオフセット処理が施される。ステップS12においては、撮影に用いられたX線検出器16に対応するゲイン補正データが記憶部55から読み出され、読み出されたゲイン補正データに基づいて、各モアレ画像にゲイン補正が施される。
ステップS13においては、撮影に用いられたX線検出器16に対応する欠陥画素マップ(欠陥画素位置を示すデータ)が記憶部55から読み出され、各モアレ画像における欠陥画素位置マップで示す位置の画素値(信号値)が周辺画素により補間算出される。
【0111】
次いで、複数のモアレ画像間でX線強度変動補正(トレンド補正)が行われる(ステップS14)。縞走査法では、複数のモアレ画像に基づいて1枚の再構成画像が作成される。そのため、各モアレ画像の撮影において照射されるX線強度にゆらぎ(変動)があると精巧な再構成画像が得られず、微細な信号の変化が見落とされてしまう可能性がある。そこで、ステップS14においては、複数のモアレ画像における撮影時のX線強度変動による信号値差を補正する処理が行われる。
具体的な処理としては、各モアレ画像の予め定められた1点の画素の信号値を用いて補正する方法、各モアレ画像間におけるX線検出器16の所定方向の信号値差を補正する(一次元補正する)方法、各モアレ画像間における2次元方向の信号値差を補正する(二次元補正する)方法、の何れであってもよい。
【0112】
1点の画素の信号値を用いて補正する方法では、まず、
図15に示すように複数のモアレ画像のそれぞれについて、X線検出器16のモアレ画像領域(被写体配置領域)161外の直接X線領域に対応する予め定められた位置Pにある画素の信号値が取得される。次いで、1枚目のモアレ画像(例えば、被写体有りの最初に撮影されたモアレ画像)が2枚目以降の上記取得された位置Pの画素の平均信号値で規格化され、規格化後の位置Pの値に基づいて2枚目以降の各モアレ画像の補正係数が算出される。そして、2枚目以降の各モアレ画像に補正係数が乗算されることにより、X線強度変動が補正される。この補正方法では、各撮影間の全体的なX線強度の変動を容易に補正することができる。なお、X線検出器16の裏側に、X線照射量を検知するセンサ等の検知手段を設け、検知手段から出力される各モアレ画像撮影時のX線照射量に基づいて、各モアレ画像間における撮影時のX線強度変動に起因する信号値差を補正することとしてもよい。
【0113】
一次元補正では、まず、複数のモアレ画像のそれぞれについて、予め定められた行L1(行は、X線検出器16における読み取りライン方向をさす)の画素の平均信号値が算出される。次いで、1枚目のモアレ画像が2枚目以降の画素の平均信号値で規格化され、規格化後の行L1と2枚目以降の行L1の各画素の信号値に基づいて、2枚目以降の各モアレ画像の行方向の補正係数が算出される。そして、2枚目以降の各モアレ画像に行方向の位置に応じた補正係数が乗算されることにより、行方向のX線強度変動が補正される。この補正方法では、各撮影間の一次元方向のX線強度の変動を容易に補正することができる。例えば、或る撮影において、X線源11による照射タイミングとX線検出器16の読み取りタイミングのずれが生じた場合に、これにより生じるX線検出器16の読み取りライン方向のX線強度変動等を補正することができる。
【0114】
二次元補正では、まず、複数のモアレ画像のそれぞれについて、予め定められた行L1、列L2(列は、X線検出器16における読み取りライン方向と直交する方向をさす)のそれぞれにおける画素の平均信号値が算出される。次いで、1枚目のモアレ画像が2枚目以降の行L1の画素の平均信号値で規格化され、規格化後の行L1と2枚目以降の行L1の各画素の信号値に基づいて、2枚目以降の各モアレ画像の行方向の補正係数が算出される。同様に、1枚目のモアレ画像が2枚目以降の列L2の画素の平均信号値で規格化され、規格化後の列L2と2枚目以降の列L2の各画素の信号値に基づいて、2枚目以降の各モアレ画像の列方向の補正係数が算出される。そして行方向と列方向の補正係数が掛け合わされて2枚目以降の各モアレ画像の各画素の補正係数が算出される。そして、各画素に行方向及び列方向の補正係数が乗算されることにより、二次元方向のX線強度変動が補正される。この補正方法では、各撮影間の二次元方向のX線強度の変動を容易に補正することができる。
【0115】
次いで、モアレ画像の解析が行われ(ステップS15)、再構成画像の作成に使用できるか否かが判断される(ステップS16)。理想的な送り精度によりマルチスリット12を一定の送り量で移動できた場合、
図16に示すように、5ステップの撮影でマルチスリット12のスリット周期1周期分のモアレ画像5枚が得られる。各ステップのモアレ画像は0.2周期という一定周期間隔毎に縞走査をした結果であるので、各モアレ画像の任意の1画素に注目すると、その信号値を正規化して得られるX線相対強度は、
図17に示すようにサインカーブを描く。よって、コントローラ5は得られた各ステップのモアレ画像のある画素に注目してX線相対強度を求める。各モアレ画像から求められたX線相対強度が、
図17に示すようなサインカーブを形成すれば、一定周期間隔のモアレ画像が得られているので、再構成画像の作成に使用できると判断することができる。
なお、上記サインカーブ形状は、マルチスリット12の開口幅、第1格子14及び第2格子15の周期、及び第1格子及び第2格子の格子間距離に依存し、また、放射光のようなコヒーレント光の場合には三角波形状となるが、マルチスリット効果によりX線が準コヒーレント光として作用する為、サインカーブを描くものとなる。ステップS15の解析は、被写体有りのモアレ画像と被写体無しのモアレ画像についてそれぞれ行われる。
【0116】
各ステップのモアレ画像の中にサインカーブを形成できないモアレ画像がある場合、再構成画像の作成に使用できないと判断され(ステップS16;NO)、撮影のタイミングを変更して再撮影するよう指示する制御情報がコントローラ5からX線撮影装置1に送信される(ステップS17)。例えば、
図17に示すように、3ステップ目は本来0.4周期のところ、周期がずれて0.35周期のモアレ画像が得られた場合であれば、駆動部122の送り精度の低下が原因(例えば、パルスモータの駆動パルスへのノイズ重畳等)と考えられる。よって、0.05周期分だけ撮影のタイミングを早めて3ステップ目のみ再撮影を行うよう指示すればよい。或いは、5ステップ全てについて再撮影し、3ステップ目のみ0.05周期分の撮影時間を早めるように指示してもよい。5ステップ全てのモアレ画像が所定量ずつサインカーブからずれている場合、駆動部122の起動から停止までの駆動パルス数を増やすか、或いは減らすように指示してもよい。
X線撮影装置1では、当該制御情報に従って撮影のタイミングが調整され、再撮影が実行される。
【0117】
一方、再構成画像の作成にモアレ画像を使用できると判断された場合(ステップS16;YES)、被写体有りと被写体無しのそれぞれの複数のモアレ画像を用いて、被写体有りの再構成画像と被写体無しの再構成画像の作成が行われる(ステップS18〜ステップS20)。
具体的には、複数のモアレ画像の干渉縞を加算することにより吸収画像(X線吸収画像)が作成される(ステップS18)。また、縞走査法の原理を用いて干渉縞の位相が計算され、微分位相画像が作成される(ステップS19)。また、縞走査法の原理を用いて干渉縞のVisibilityが計算され(Visibility=2×振幅÷平均値)、小角散乱画像が作成される(ステップS20)。
【0118】
次いで、被写体無しの再構成画像を用いて、被写体有りの再構成画像から、干渉縞の位相の除去と、画像ムラ(アーチファクト)を除去するための補正処理が行われる(ステップS21)。ステップS21の処理には、撮影時のマルチスリット12や第1格子14及び第2格子15のスリット方向変更に起因するX線の線量分布のムラ、当該スリットの製造バラつき起因の線量分布のムラ、及び、主に被写体ホルダー130の画像への写り込みによるムラ、を含む画像ムラ(アーチファクト)を除去するための処理が含まれる。
例えば、被写体有りの再構成画像が微分位相画像である場合には、被写体有りの微分位相画像の各画素の信号値から被写体無しの微分位相画像の対応する(同じ位置の画素)の信号値を減算する処理が行われる(公知文献(A);Timm Weitkamp,Ana Diazand,Christian David, franz Pfeiffer and Marco Stampanoni, Peter Cloetens and Eric Ziegler, X-ray Phase Imaging with a grating interferometer,OPTICSEXPRESS,Vol.13, No.16,6296-6004(2005)、公知文献(B);Atsushi Momose, Wataru Yashiro, Yoshihiro Takeda, Yoshio Suzuki and Tadashi Hattori, Phase Tomography by X-ray Talbot Interferometry for Biological Imaging, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.45, No.6A, 2006, pp.5254-5262(2006)参照)。
被写体有りの再構成画像が吸収画像、小角散乱画像である場合には、公知文献(C)に記載されているように、被写体有りの再構成画像の各画素の信号値を被写体無しの再構成画像の対応する画素の信号値で除算する割り算処理が行われる(公知文献(C);F.Pfeiffer, M.Bech,O.Bunk, P.Kraft, E.F.Eikenberry, CH.Broennimann,C.Grunzweig, and C.David,Hard-X-ray dark-field imaging using a grating interferometer, nature materials Vol.7,134-137(2008))。
【0119】
上記処理では、マルチスリット12、第1格子14及び第2格子15の各格子のスリット方向変更や被写体台特性に起因するX線の線量分布のムラだけでなく、撮影に用いられるX線検出器16の個々の画素の特性にバラツキがあっても、この影響を除去することができるので好ましい。従い、スリット方向を被写体に応じて可変としても、被写体に対するX線検出器16の配置方向を固定(位置変更せず)とすることができ、コントローラ5に表示される再構成画像における被写体の表示向きは、コントローラ表示画面上で常に同一方向となるので、経過観察等で過去画像との比較読影を行う場合に、コントローラ5において再構成画像の向きを揃える操作を行う必要がなくなるので、より好ましい。
【0120】
図18A〜
図18Cに、さくらんぼを被写体として撮影したモアレ画像に基づいて、縞走査法により作成された再構成画像の一例を示す。
図18Aは吸収画像、
図18Bは微分位相画像、
図18Cは小角散乱画像である。
図18Aに示すように、吸収画像は、被写体の大きな構造の変化を表すという特徴がある。
図18Bに示すように、微分位相画像は、被写体の組織辺縁の位相変化を表すという特徴がある。
図18Cに示すように、小角散乱画像は、被写体の組織内の散乱を表すという特徴がある。
【0121】
ステップ21の処理が終了すると、作成された再構成画像が表示部53に表示される(ステップS22)。
図19に、ステップS22において表示部53に再構成画像を表示する際の表示方法の一例を示す。
図19に示すように、ステップS22においては、吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像の3つの画像が表示部53の同一位置(領域R0)に所定時間毎に順次切り替えて表示される。
【0122】
ステップS11〜S21までの処理によって作成された吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像の3つの画像は、一回の撮影セットによって得られた撮影画像(モアレ画像)から異なる処理によって作成されたものであるため、
図18A〜
図18Cに示すように、3つの画像における被写体の位置は同一であり、それぞれ被写体の異なる特徴の情報を表している。よって、
図19に示すように、3つの画像を表示部53の同一位置(領域R0)に所定時間毎に順次切り替えて表示すれば、読影を行う医師は、視線の移動が不要で疲れを誘発しないので高い集中度合いを維持して読影を行うことができる。また所定時間毎に画像を切り替えた際の残像効果(所謂サブリミナル効果)により、被写体に関する複数の情報(特徴)を自身の頭の中で再構築可能となり、高い精度の診断を行うことが可能となる。
【0123】
なお、
図19においては、吸収画像→微分位相画像→小角散乱画像の3つの画像をこの順に順次切り替えて循環表示させることとしているが、画像の表示順はこれに限定されない。また、表示される画像数は2種以上であればよく、例えば、吸収画像と微分位相画像を交互に切り替えて表示するようにしてもよいし、微分位相画像と小角散乱画像を交互に切り替えて表示するようにしてもよいし、吸収画像と小角散乱画像を交互に切り替えて表示するようにしてもよい。切り替え表示させる画像の種類や、画像の切り替えタイミングは、上述のように、部位毎や、ユーザ毎に予め設定することができる。また、表示部53の画像領域外の画面上に、停止ボタンや一時停止ボタンを設け、操作部52の操作に応じて何れかの画像を静止状態で表示し続けることができるようにすることが好ましい。
【0124】
また、ステップS22においては、今回の撮影により得られた診断用の再構成画像(診断画像)の他、参照画像も併せて表示することとしてもよい。例えば、
図20に示すように、まず、2種以上の診断画像を領域R1に所定時間毎に順次切り替えて循環表示する。操作部52から次の表示への移行が指示されると、表示した診断画像と同一種類の参照画像を領域R2に所定時間毎に順次切り替えて循環表示する。参照画像は、医師が診断画像を読影する際に参照する画像であり、例えば、同一患者の同一撮影部位について以前X線撮影装置1において撮影された縞走査法による再構成画像や、典型的な症例の縞走査法による再構成画像である。操作部52から並列表示の指示が指示されると、同じ種類の診断画像と参照画像(例えば、吸収画像と吸収画像、微分位相画像と微分位相画像、小角散乱画像と小角散乱画像)を領域R1、R2に並べて順次切り替え表示する。この場合、操作部52からの切り替え指示に応じて表示する画像の種類を切り替えることとしてもよい。または、同一種類の画像を左右に並べて全ての種類の画像を一画面上に表示することとしてもよい。参照画像の循環表示は、診断画像の循環表示の前に行うようにしてもよい。
【0125】
次に、フーリエ変換法による再構成画像の作成及び表示について説明する。
図21は、制御部51により実行されるフーリエ変換法による再構成画像作成・表示処理を示すフローチャートである。フーリエ変換法による再構成画像作成・表示処理は、制御部51と記憶部55に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0126】
まず、ステップS31〜S33においては、被写体有りの複数のモアレ画像及び被写体無しの複数のモアレ画像のそれぞれについて、X線検出器16の各画素のバラツキを補正するための補正処理が実行される。具体的には、オフセット補正処理(ステップS31)、ゲイン補正処理(ステップS32)、欠陥画素補正処理(ステップS33)が実行される。各処理の内容は、
図14AのステップS11〜S13で説明したものと同様であるので説明を援用する。
【0127】
次いで、被写体有りのモアレ画像と被写体無しのモアレ画像間のX線強度変動補正(トレンド補正)が行われる(ステップS34)。X線強度変動補正の具体的な処理内容は、
図14AのステップS14で説明したものと同様であるので説明を援用する。
【0128】
次いで、ステップS35以降の処理において、フーリエ変換法による被写体の再構成画像の作成が行われる。フーリエ変換法による再構成画像の作成については、公知の手法により行うことができる(非特許文献1参照)
【0129】
まず、補正後の被写体有りのモアレ画像と被写体無しのモアレ画像のそれぞれがフーリエ変換(二次元フーリエ変換)される(ステップS35)。
図22Aに、第2の撮影モードで撮影された被写体有りのモアレ画像の一例を示す。
図22AにおけるH1はマジックペンであり、H2はUSBメモリである。
図22Bに、
図22Aのモアレ画像を二次元フーリエ変換した結果を示す。
図23Aに、第2の撮影モードで撮影された被写体無しのモアレ画像の一例を示す。
図23Bに、
図23Aのモアレ画像を二次元フーリエ変換した結果を示す。フーリエ変換後の計算結果は複素数であるため、
図22B、
図23Bでは実部と虚部のnorm(振幅)を表示している。
図22B、
図23Bに示すように、1枚のモアレ画像をフーリエ変換すると、低周波成分(0次成分と呼ぶ)と干渉縞周波数付近の成分(1次成分と呼ぶ)、又は、0次成分と1次成分に加えさらに高周波成分(X線撮影装置1の干渉性に依存)が並んで得られる。0次成分と1次成分の並ぶ方向はモアレ画像の縞の方向に関係しており、モアレ画像の縞の方向に対して略直角になる。
【0130】
ここで、マルチスリット12、第1格子14、第2格子15の格子の向き(スリット方向)と干渉縞及び0次成分、1次成分の並ぶ向きとの関係について説明する。
例えば、
図24のA1に示すように、マルチスリット12、第1格子14、第2格子15の格子の向きが縦であった場合、縞走査法用のモアレ画像(第1格子14に対して第2格子をわずかに傾けて得られた画像)の縞は、
図24のA2に示すように横となる。フーリエ変換用のモアレ画像(第2格子を更に傾けて得られた画像)の縞は、
図24のA3に示すように、
図24のA2に比べて細かな横縞となる。フーリエ変換用のモアレ画像をフーリエ変換した画像は、
図24のA4に示すように、0次成分、1次成分が縦に並んだ画像となる。
図25のB1に示すように、マルチスリット12、第1格子14、第2格子15の格子の向きが横であった場合、縞走査法用のモアレ画像(第1格子14に対して第2格子をわずかに傾けて得られた画像)の縞は、
図25のB2に示すように縦となる。フーリエ変換用のモアレ画像(第2格子を更に傾けて得られた画像)の縞は、
図25のB3に示すように、
図25のB2に比べて細かな縦縞となる。フーリエ変換用のモアレ画像をフーリエ変換した画像は、
図25のB4に示すように、0次成分、1次成分が横に並んだ画像となる。
図26のC1に示すように、マルチスリット12、第1格子14、第2格子15の向きが斜め45°であった場合、縞走査法用のモアレ画像(第1格子14に対してわずかに第2格子を少し傾けて得られた画像)の縞は、
図26のC2に示すように斜め45°(スリット方向とは逆方向の斜め)となる。フーリエ変換用のモアレ画像(第2格子を更に傾けて得られた画像)の縞は、
図26のC3に示すように、
図26のC2と同方向の、より細かな斜め縞となる。フーリエ変換用のモアレ画像をフーリエ変換した画像は、
図26のC4に示すように、0次成分、1次成分が縞方向とは逆の斜め45°に並んだ画像となる。
【0131】
次いで、フーリエ変換により得られた画像(被写体有り、被写体無しのそれぞれ)において、0次成分が
図27に示すHanning窓Wにより切り出される(ステップS36)。Hanning窓Wで切り出すことによりHanning窓Wの周辺部が0に落とされ、Hanning窓Wの中心部はそのまま通される。
次いで、フーリエ変換により得られた画像において、1次成分が
図28に示すようにキャリア周波数(=モアレ周波数)分シフトされ、Hanning窓Wで切り出される(ステップS37)。切り出しの窓関数はHanning窓に限定されず、用途に応じてHamming窓、ガウス窓等を使用しても良い。
次いで、切り出された0次成分、1次成分のそれぞれが逆フーリエ変換される(ステップS38)。
【0132】
逆フーリエ変換が終了すると、逆フーリエ変換された0次成分、1次成分を用いて被写体有りと被写体無しのそれぞれの再構成画像の作成が行われる(ステップS39〜ステップS41)。具体的には、0次成分の振幅から吸収画像が作成される(ステップS39)。また、1次成分の位相から微分位相画像が作成される(ステップS40)。また、0次成分と1次成分の振幅の比(=Visibility)から小角散乱画像が作成される(ステップS41)。
【0133】
次いで、被写体無しの再構成画像を用いて被写体有りの再構成画像から干渉縞の位相の除去と、画像ムラ(アーチファクト)を除去するための補正処理が行われる(ステップS42)。ステップS42の処理は、
図14BのステップS21で説明したものと同様であるので説明を援用する。
【0134】
なお、上述の従来のフーリエ変換法では、0次成分、1次成分を切り出す際に、縦、横ともに高周波成分を捨てるため、空間分解能が落ちて全体的にぼけた画像となる。ここで、本願発明者らは、X線格子に一次元格子を用いる場合は、タルボ干渉計及びタルボ・ロー干渉計の微分位相画像及び小角散乱画像の情報が格子(マルチスリット12、第1格子14、第2格子15)のスリット方向と直交する一方向のみであることに着目し、ステップS36、S37で用いる窓wを従来型の正方形ではなく、
図29に示すように格子のスリット方向と直交する方向に延びる長方形とすれば、画像情報を含む格子のスリット方向と直交する方向の信号の高周波成分を落とさないように取り出すことができ、格子のスリット方向と直交する方向のぼけを低減することができることを見出した(改良型フーリエ変換法と呼ぶ)。本発明は、原理的に空間分解能の低下が避けられない格子のスリット方向と平行な方向は元々画像情報を含まないことを利用していることが特徴であり、後述する二回撮影時には、二次元格子を用いたフーリエ変換法の撮影に対して大きなアドバンテージが得られる。(
図29は、
図24のA4に長方形の窓Wを設定した例を示したものである。)
【0135】
図30Aに、縞走査法により得られた被写体の再構成画像の一例を示す。
図30Bに、改良型フーリエ変換法により得られた再構成画像の一例を示す。
図30Cに、従来のフーリエ変換法により得られた再構成画像の一例を示す。
図30A〜
図30Cの再構成画像は、格子のスリット方向を縦にして撮影して得られた微分位相画像である。
図30Aに示すように、縞走査法により得られた画像は、縦方向、横方向ともぼけが小さい。
図30Bに示すように、改良型フーリエ変換法により得られた画像は、縦方向のみぼけており、横方向にはぼけていない。
図30C示すように、従来のフーリエ変換法により得られた画像では、縦方向、横方向ともぼけている。
なお、
図30A〜
図30Cにおいては、微分位相画像を示しているが、吸収画像、小角散乱画像においても各手法によるぼけの方向は同様である。
【0136】
このように、改良型フーリエ変換法では格子のスリット方向と平行な方向の信号成分のみがぼけるので、被写体の長手方向が格子のスリット方向と直交する方向となるように配置して1回目の撮影を行った後、被写体と格子との相対角度を90°回転させて2回目の撮影を行い、1回目と2回目の撮影で得られたそれぞれのモアレ画像から、それぞれ再構成画像を生成し、生成された2つの再構成画像を合成すれば、被写体の縦方向、横方向ともぼけの少ない2次元的な画像を取得することができる(微分位相画像、小角散乱画像の場合)。
2次元格子を用いてフーリエ変換方式で撮影することも可能だが、縦横ともに1次成分が存在するため、切り出す窓wは縦横ともに狭い範囲に限定される。そのため空間分解能が大きく低下することを避けられない。一方、本方式によれば、1次元格子を使用して、分解能を大きく低下させずに2次元画像を生成することが可能となる。なお、2方向の撮影に基づく合成画像においては、合成画像の四隅部の被写体情報が欠損するが、医用現場の放射線撮影に於いては、一般的に被写体の関心領域を撮影領域の中央部に位置させることが多いので、上記の被写体情報欠損も問題なることが少ない。また、撮影自体も2回で済むため、被写体の体動影響も抑制可能である。
なお、撮影方向の変更(被写体に対するスリット方向の変更)する際には、縞走査法方式と同様に、マルチスリット12、第1格子14及び第2格子15を同時に90°回転させる必要がある。
【0137】
第1格子14と第2格子15の相対角度を90°変化させて1回目と2回目の撮影を行った場合、コントローラ5の制御部51は、1回目の撮影画像と2回目の撮影画像のそれぞれについて
図21に示すフーリエ変換法による再構成画像作成・表示処理を実行した後、2つの画像の合成を行う。なお、1回目の画像と2回目の画像とで被写体の同じ部分が同じ画素に描画されていない場合(被写体の変形や移動があった場合)は、何れか一方の画像を並行又は回転移動させて両画像の誤差が最も小さくなる位置に位置あわせを行った後、合成を行う。合成方法としては、様々な手法を用いることができる。例えば、1回目の撮影画像の画素をf1(x、y)、2回目の撮影画像の画素をf2(x、y)、合成画像の画素をg(x、y)とし、各画素で以下の計算をして(二乗和の平方根をとって)パワーの平均値をとる。
g(x、y)=√(f1(x、y)^2+f2(x、y)^2)
また、例えば、1回目の撮影画像を赤、2回目の撮影画像を青にする等、カラー表示することとしてもよい。
【0138】
ところで、
図30A〜
図30Cの画像からもわかるように、縞走査法で得られる再構成画像のほうがフーリエ変換法で得られる再構成画像よりも鮮明でぼけが少ない。しかし、縞走査法用の撮影では連続して複数枚の撮影を行うため、撮影時間が検出器の取込時間やX線曝射前後の処理時間、機構動作時間等に応じて長くなり(約1分)、体動が生じやすい。これに対してフーリエ変換法では1回の撮影で1枚の撮影となるので、撮影時間はX線の曝射時間だけに依存し、5秒程度に抑えることができるため、体動抑制効果を期待できる。更に、改良型フーリエ変換法では、空間分解能の劣化小さく抑えられる。よって、例えば、(1)被写体の固定が可能なものは縞走査法、体動を抑制したい場合はフーリエ変換法とする、(2)簡易検査ではフーリエ変換法、より精密な検査となった場合には縞走査法とする、等、両者を併用することにより、目的に応じた画像の取得、及び、より患者の負担や再撮影の少ない撮影を行うことが可能となる。本実施形態においては、第1格子14及び第2格子15の相対角度を簡単に調整して縞走査法用の撮影とフーリエ変換法用の撮影を切り替えることができるので、撮影の目的に応じた最適な撮影を行うことが可能となる。
【0139】
図21に戻り、作成された再構成画像は、表示部53に表示される(ステップS43)。
ステップS43においては、
図14BのステップS22で説明したものと同様の表示方法により表示される。即ち、
図19に示すように、吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像のうち2種以上の画像が表示部53の同一位置に所定時間毎に順次切り替えて表示される。
【0140】
表示される2種以上の画像は、上述のように一回の撮影セットによって得られた撮影画像(モアレ画像)から異なる処理によって作成されたものであるため、
図18A〜
図18Cに示すように、3つの画像における被写体の位置は同一であり、それぞれ被写体の異なる特徴の情報を表している。よって、
図19に示すように、3つの画像を表示部53の同一位置に所定時間毎に順次切り替えて表示すれば、読影を行う医師は、視線の移動が不要で疲れを誘発しないので高い集中度合いを維持して読影を行うことができる。また所定時間毎に画像を切り替えた際の残像効果(所謂サブリミナル効果)により、被写体に関する複数の情報(特徴)を自身の頭の中で再構築可能となり、高い精度の診断を行うことが可能となる。
【0141】
また、
図21のステップS43においても、ステップS22と同様に、今回の撮影により得られた診断用の再構成画像の他、参照画像も併せて表示することとしてもよい。例えば、
図31に示すように、まず、2種以上の診断画像を領域R1に所定時間毎に順次切り替えて循環表示する。操作部52から次の表示への移行が指示されると、表示した診断画像と同一種類の参照画像を領域R2に所定時間毎に順次切り替えて循環表示する。参照画像は、医師が診断画像を読影する際に参照する画像であり、例えば、同一患者の同一撮影部位について以前撮影されたフーリエ変換法による再構成画像や、典型的な症例のフーリエ変換法による再構成画像である。参照画像の循環表示は診断画像の循環表示の前に行うようにしてもよい。
なお、上述のように縞走査法による再構成画像はフーリエ変換法による再構成画像よりも鮮明でぼけが少ない。よって、縞走査法による再構成画像の参照画像が記憶部55に存在する場合、
図31に示すように、操作部52からの操作に応じて縞走査法による参照画像を循環表示することが好ましい。更に、操作部52からの指示に応じて、同じ種類の診断画像と同じ種類の縞走査法の参照画像同士(例えば、診断画像が吸収画像が表示されているときは縞走査法の吸収画像の参照画像)を領域R1、R2に並べて順次切り替え表示することが好ましい。この場合、操作部52からの切り替え指示に応じて表示する画像の種類を切り替えることとしてもよい。または、同一種類の画像を左右に並べて全ての種類の画像を一画面上に表示することとしてもよい。
【0142】
ここで、上記のX線撮影装置1及びコントローラ5において作成、表示される吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像は、上述のようにそれぞれ被写体の位置が同一で、かつ被写体の異なる特徴の情報を表している。よって、例えば、乳房のように、従来の吸収画像だけの読影では病変の特徴を捉えるのが困難であった被写体部位に適用することにより、診断精度を大きく向上させることができる。
【0143】
吸収画像には、大きな構造の変化の情報が表れる。微分位相画像には、組織辺縁の位相変化の情報が表れる。小角散乱画像には、組織内の散乱の情報が表れる。よって、被写体を乳房とした場合、吸収画像には、乳房全体における乳腺や脂肪の分布、辺縁が明確な大きな腫瘤等の情報が表れる。微分位相画像には、組織石灰化、スピキュラ、腫瘤、乳腺の構築の乱れ(ディストーション)等の情報が表れる。腫瘤と乳腺の構築の乱れには、スピキュラが存在するものとしないものがある。小角散乱画像には、乳腺の構築の乱れ、腫瘤、スピキュラ等の情報が表れる。よって、吸収画像→小角散乱画像(微分位相画像)→微分位相画像(小角散乱画像)を切り替えて表示部53に順次表示させることで、各画像の情報を総合した、精度の高い診断を行うことが可能となる。
【0144】
例えば、脂肪上に存在する腫瘤は、辺縁が明確であるが、乳腺上に存在する腫瘤は辺縁が不明瞭である。そこで、まず吸収画像で被写体乳房全体における脂肪や乳腺の分布を把握しておき、次に微分位相画像や小角散乱画像に切り替えて、吸収画像で把握した乳腺領域を意識して微分位相画像や小角散乱画像で腫瘤陰影の有無を確認することで、辺縁が不明瞭な腫瘤の検出精度を向上させることができる。
このように、従来から診断に用いられ、医師自身が見慣れている吸収画像に対し、各医師が長年の診断で培ってきた診断分解能に基づく1次診断を行い、然る後、微分位相画像及び/または小角散乱画像を表示し、当該画像に基づく再読影を行うことで、異常陰影の有無自体や異常陰影の良性/悪性等の1次診断の結果を自己修正可能となり、また、微分位相画像及び/または小角散乱画像の読影後に、再度、吸収画像の読影を行うと、最初は見えなかった異常陰影や、良性/悪性の差異等が、やがて、視認できるようになり、この診断方法を繰り返すことで、医師は、やがて、新たなステップアップした診断分解能を確立することになり、吸収画像のみに基づく診断であっても、より高精度の診断を行うことができるようになり、好ましい。
【0145】
また、腫瘤がスピキュラを伴う場合は悪性である可能性が高いといわれている。そこで、まず吸収画像で大きな腫瘤の存在有無を確認し、次に小角散乱画像に切り替えて、吸収画像で把握した大きな腫瘤の周辺にある周辺部スピキュラ、或いは腫瘤のない単独のスピキュラの有無を確認することで、悪性の可能性が高い腫瘤、スピキュラの検出精度を向上させることができる。また、小角散乱画像で腫瘤陰影の有無を確認し、次に微分位相画像に切り替えて、小角散乱画像で把握した腫瘤の周辺部のスピキュラ或いは単独のスピキュラの有無を確認することで、悪性の可能性の高い腫瘤、スピキュラの検出精度を向上させることができる。
【0146】
また、コントローラ5に異常陰影候補検出機能(CAD(Computer-Aided Diagnosis)機能)をもたせ、吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像のそれぞれから異常陰影候補の検出を行い、各画像及び各画像における異常陰影候補の検出結果(CAD結果と呼ぶ)を順次切り替え表示させることにより、異常陰影候補の検出精度を向上させることができる。CAD機能は、コントローラ5の制御部51と記憶部55に記憶されている異常陰影候補検出プログラムとの協働により実現される。また、表示部53において、各画像は同一位置(領域R0)に、CAD結果はCAD結果欄R4に表示される(
図32A、
図32B参照)。
【0147】
ここで、従来、診断用の乳房画像としては吸収画像が用いられており、CADによる異常陰影候補の検出処理も吸収画像のみに対して行われていた。異常陰影候補の検出アルゴリズムには、様々な検出感度のものがあるが、一般的には、検出感度が高いほど偽陽性の割合も高くなる。そのため、真陽性の検出漏れをなくすために検出感度の高い検出アルゴリズムを使用すると偽陽性の数も増えてしまい、偽陽性の数を減らすために検出感度の低いアルゴリズムを使用すると真陽性の検出漏れが生じるといった問題があった。また、例えば同じスピキュラの病変であっても、病変の大きさや種類によって、微分位相画像でより情報がよく表れる病変があるし、小角散乱画像でより情報がよく表れる症例もある。そこで、同一被写体の異なる特徴を表す吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像のそれぞれに対し、同一の検出アルゴリズムで異常陰影候補の検出を行い、
図19等における各画像の表示時にCAD結果を併せて表示することにより、医師が各画像や各画像におけるCAD検出結果を比較して総合的に正常、異常を判断することが可能となるので、上記の偽陽性の拾いすぎや真陽性の検出漏れを低減することができる。
【0148】
例えば、吸収画像において検出感度の高い(標準より高い)検出アルゴリズムで検出を行い、各画像及びCAD検出結果を切り替えて表示した場合に、
図32Aに示すように、吸収画像におけるCADの検出結果が「CAD検出有り」であり、微分位相画像及び/又は小角散乱画像におけるCADの検出結果が「CAD検出無し」である場合、CAD結果が偽陽性を拾った可能性が高いと判断することができる。そこで、
図32Aに示す表示の場合、医師は、まず吸収画像で被写体乳房全体における乳腺や脂肪の分布を把握して異常と思われる部分をピックアップし、次いで微分位相画像及び/又は小角散乱画像に切り替えて、吸収画像で異常と思われた部分を観察し、正常であることが確認されれば、その部分を偽陽性であるとして削除することができる。
【0149】
また、例えば、吸収画像において検出感度の低い(標準より低い)検出アルゴリズムで検出を行い、各画像及びCAD検出結果を切り替えて表示した場合に、
図32Bに示すように、吸収画像におけるCADの検出結果が「CAD検出無し」であり、微分位相画像及び/又は小角散乱画像におけるCADの検出結果が「CAD検出有り」である場合、CADにおける真陽性の検出漏れの可能性が考えられる。そこで、
図32Bに示す表示の場合、医師は、まず吸収画像で被写体乳房全体における乳腺や脂肪の分布を把握して異常と思われる部分をピックアップし、微分位相画像及び/又は小角散乱画像に切り替えて、吸収画像で異常と思われた部分を観察し、異常であることが確認されれば、その部分を異常陰影と診断することができる。
【0150】
ここで、領域R0における乳房画像の表示態様としては、
図33Aに示すように、左乳房画像と右乳房画像の2枚の画像の胸壁を合わせて表示してもよいし、左乳房画像又は右乳房画像を単体で表示してもよい。また、MLOとCCのペアで表示することとしてもよい。更に、
図33Bに示すように、領域R0の領域外に乳房画像の縮小画像を表示し、縮小画像のCADにより検出された異常陰影候補の位置にアノテーションを表示することとしてもよい。このようにすれば、CADにより検出された異常陰影候補の位置を確認でき、かつ、アノテーションに邪魔されることなく乳房画像を観察することが可能となる。
【0151】
以上説明したように、医用画像表示システムによれば、X線撮影装置1において縞走査型撮影装置による第1の撮影モード、又はフーリエ変換型撮影装置による第2の撮影モードによって被写体を撮影し、コントローラ5において、撮影により得られたモアレ画像に基づいて、X線吸収画像、微分位相画像、及び小角散乱画像のうち少なくとも2つの画像を作成する。そして、作成された少なくとも2つの画像を表示部53の同一位置に順次切替表示する。
【0152】
上記医用画像表示システムで作成、表示される吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像の3つの画像は、一回の撮影セットによって得られた撮影画像(モアレ画像)から異なる処理によって作成されたものであるため、3つの画像における被写体の位置は同一であり、それぞれ被写体の異なる特徴の情報を表している。よって、少なくとも2つの画像を表示部53の同一位置(領域R0)に所定時間毎に順次切り替えて表示すれば、読影を行う医師は、視線の移動が不要で疲れを誘発しないので高い集中度合いを維持して読影を行うことができる。また所定時間毎に画像を切り替えた際の残像効果(所謂サブリミナル効果)により、被写体に関する複数の情報(特徴)を自身の頭の中で再構築可能となり、高い精度の診断を行うことが可能となる。
【0153】
また、コントローラ5においては、被写体台に被写体を載置して撮影を行うとともに、被写体台に被写体を載置せずに撮影を行い、被写体有りのモアレ画像に基づいて、被写体有りのX線吸収画像、微分位相画像、及び小角散乱画像のうち少なくとも2つの画像を作成し、被写体無しのモアレ画像に基づいて、被写体有りの少なくとも2つの画像と同種の被写体無しの画像を作成し、被写体有りの画像を被写体無しの画像を用いて、干渉縞の位相の除去や画像ムラの除去等の補正を行う。従って、干渉縞の影響やムラのない画像を医師に提供することが可能となる。
【0154】
また、作成された少なくとも2つの画像を表示部53の同一位置に順次切替表示する前又は後に、少なくとも2つの参照画像を表示部53の読影する2つの画像とは異なる同一位置に順次切替表示することで、参照画像を用いて診断を行う際の診断精度を向上させることができる。
【0155】
なお、上記実施形態は本発明の好適な一例であり、これに限定されない。
例えば、上記実施形態においては、X線撮影装置1を、マルチスリットを有し、マルチスリットを第1格子及び第2格子に対して相対的に移動させることで縞走査法用の複数のモアレ画像を生成するタルボ・ロー干渉計の構成とした例を説明したが、第1格子と第2格子とを一定周期間隔で相対移動させ、一定周期間隔での移動毎にX線源により照射されたX線に応じて放射線検出器が画像信号を読み取る処理を繰り返すことで縞走査法用の複数のモアレ画像を生成するタルボ干渉計としてもよい。そして、タルボ干渉計で生成された複数のモアレ画像を再構成することにより得られる吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像を上述のように表示部53の同一位置に順次切り替え表示することとしてもよい。
また、上記実施例では、縞走査方式とフーリエ変換方式(改良型含む)の両方式が可能な装置により撮影された1次元画像データに基づく再構成画像を使用したが、これに限定されるものでは無く、フーリエ変換方式(改良型含む)専用の装置を用いても良い。
また、第1格子及び第2格子を2次元格子としたフーリエ変換方式専用の撮影装置や、更に焦点位置近傍にマルチ格子(2次元格子)を併用したフーリエ変換方式専用の撮影装置で撮影された2次元画像データに基づく再構成画像に適用しても良い。
【0156】
また、上記実施形態においては、吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像を表示部53の同一位置に順次切り替え表示する場合を例にとり本発明の表示方法について説明したが、本発明の表示方法は、これに限定されず、同一の撮影画像に異なる画像処理を施して作成した複数の画像を表示する場合に適用可能である。
また、切替表示に際しては、画像が切替られたことを容易に視認可能なように、各表示画面の彩度(色)を、例えば、黒モノトーン、赤モノトーン、青モノトーンのように切替えても良い。
【0157】
また、上記実施形態では、X線源11、マルチスリット12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16をこの順に配置(以下、第1の配置と呼ぶ)したが、X線源11、マルチスリット12、第1格子14、被写体台13、第2格子15、X線検出器16の配置(以下、第2の配置と呼ぶ)としても、第1格子14及び第2格子15は固定のまま、マルチスリット12の移動により、再構成画像を得ることが可能である。
第2の配置においては、被写体の厚み分だけ、被写体中心と第1格子14は離れることになり、上記の実施形態に比べ感度の点でやや劣ることになるが、一方で、被写体への被曝線量低減を考慮すると、当該配置の方が第1格子14でのX線吸収分だけX線を有効に活用していることになる。
また、被写体位置での実効的な空間分解能は、X線の焦点径、検出器の空間分解能、被写体の拡大率、被写体の厚さ等に依存するが、上記実施例に於ける検出器の空間分解能が120μm(ガウスの半値幅)以下の場合には、第1の配置よりも第2の配置の方が実効的な空間分解能は小さくなる。
感度、空間分解能、及び、第1格子14でのX線吸収量等を考慮して、第1格子14、被写体台13の配置順をきめることが好ましい。
【0158】
また、被写体有りの撮影と、被写体無しの撮影の順序は、上記実施形態に限定されず、何れを先としてもよい。被写体有りの再構成画像の作成と、被写体無しの再構成画像の作成の順序についても同様である。
【0159】
その他、医用画像表示システムを構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【0160】
なお、明細書、請求の範囲、図面及び要約を含む2010年9月29日に出願された日本特許出願No.2010−219031号の全ての開示は、そのまま本出願の一部に組み込まれる。