特許第5935800号(P5935800)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5935800高流動性ポリカーボネート共重合体、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法、及び芳香族ポリカーボネート化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935800
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】高流動性ポリカーボネート共重合体、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法、及び芳香族ポリカーボネート化合物
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/18 20060101AFI20160602BHJP
【FI】
   C08G64/18
【請求項の数】25
【全頁数】116
(21)【出願番号】特願2013-515237(P2013-515237)
(86)(22)【出願日】2012年5月18日
(86)【国際出願番号】JP2012062853
(87)【国際公開番号】WO2012157766
(87)【国際公開日】20121122
【審査請求日】2015年4月29日
(31)【優先権主張番号】特願2011-112087(P2011-112087)
(32)【優先日】2011年5月19日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-112933(P2011-112933)
(32)【優先日】2011年5月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】伊佐早 禎則
(72)【発明者】
【氏名】平島 敦
(72)【発明者】
【氏名】原田 英文
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真樹
(72)【発明者】
【氏名】早川 淳也
(72)【発明者】
【氏名】磯部 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】徳竹 大地
(72)【発明者】
【氏名】新開 洋介
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−052027(JP,A)
【文献】 特開2009−057574(JP,A)
【文献】 特開平04−153218(JP,A)
【文献】 特開平05−287070(JP,A)
【文献】 特開平06−041290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/00−64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネートと、下記一般式(g1)で表される脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程を含むことを特徴とする、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化9】

(一般式(g1)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。mは1〜30の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(g1)におけるmが2〜8の整数であることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(g1)で表される脂肪族ジオール化合物が、下記一般式(g2)で表される化合物であることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【化10】

(一般式(g2)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。nは1〜28の整数を表す。)
【請求項4】
前記一般式(g2)におけるnが1〜6の整数であることを特徴とする、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(g2)で表される脂肪族ジオール化合物が、下記一般式(g3)で表される化合物であることを特徴とする、請求項3記載の製造方法。
【化11】

(一般式(g3)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。)
【請求項6】
前記一般式(g3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖又は分岐のアルキル基を表すことを特徴とする、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記一般式(g3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表すことを特徴とする、請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
前記脂肪族ジオール化合物が、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、及び2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオールからなる群から選択されることを特徴とする、請求項7記載の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項9】
芳香族ポリカーボネートと、下記一般式(g4)で表される脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程を含むことを特徴とする、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化12】

(一般式(g4)中、Rは下記式で表される構造からなる群から選択される二価の炭化水素基を表す。nは1〜20の整数を表す。)
【化13】
【請求項10】
前記一般式(g4)中、Rは−(CH−で表される二価の炭化水素基(mは3〜20の整数)又は−CH−C(CH−CH−であり、nは1〜3であることを特徴とする、請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
芳香族ポリカーボネートと脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含むことを特徴とする、請求項1又は9記載の製造方法。
【請求項12】
前記環状カーボネートが下記一般式(h1)で表される化合物である、請求項11記載の製造方法。
【化14】

(一般式(h1)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。mは1〜30の整数を表す。)
【請求項13】
前記一般式(h1)におけるmが2〜8の整数であることを特徴とする、請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
前記一般式(h1)で表される環状カーボネートが、下記一般式(h2)で表される化合物であることを特徴とする、請求項12記載の製造方法。
【化15】

(一般式(h2)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。nは1〜28の整数を表す。)
【請求項15】
前記一般式(h2)におけるnが1〜6の整数であることを特徴とする、請求項14記載の製造方法。
【請求項16】
前記一般式(h2)で表される環状カーボネートが、下記一般式(h3)で表される化合物であることを特徴とする、請求項14記載の製造方法。
【化16】

(一般式(h3)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。)
【請求項17】
前記一般式(h3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖アルキル基を表すことを特徴とする、請求項16記載の製造方法。
【請求項18】
脂肪族ジオール化合物の使用量が、前記高分子量化工程における反応前の芳香族ポリカーボネートの全末端量1モルに対して0.01〜1.0モルである、請求項1又は9記載の製造方法。
【請求項19】
前記高分子量化工程における反応前の芳香族ポリカーボネートが、少なくとも一部末端封止されていることを特徴とする、請求項1又は9記載の製造方法。
【請求項20】
前記高分子量化工程における反応前の芳香族ポリカーボネートが、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの反応により得られる末端封止されたプレポリマーである、請求項1又は9記載の製造方法。
【請求項21】
前記高分子量化工程における反応前の芳香族ポリカーボネートの水酸基末端濃度が1,500ppm以下であることを特徴とする、請求項1又は9記載の製造方法。
【請求項22】
前記高分子量化工程における反応後の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)が、該高分子量化工程における反応前の芳香族ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)よりも5,000以上高いことを特徴とする請求項1又は9記載の製造方法。
【請求項23】
前記高分子量化工程における反応前の芳香族ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)が5,000〜60,000であることを特徴とする、請求項1又は9記載の製造方法。
【請求項24】
芳香族ポリカーボネートプレポリマーと末端水酸基に結合する脂肪族炭化水素基を有する脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に減圧条件でエステル交換反応させる工程を含む高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造に用いられる該芳香族ポリカーボネートプレポリマーであって、下記一般式(1)で表わされる構造単位から形成されてなり、以下の条件(A)〜(C)を満たす芳香族ポリカーボネート化合物を主体とし、残カーボネートモノマー量が3000ppm以下であることを特徴とする、高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂製造用プレポリマー材料:
【化20】

(一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のシクロアルコキシル基、又は炭素数6〜20のアリールオキシ基を表す。p及びqは、0〜4の整数を表す。Xは単なる結合又は下記一般式(1’)で表される二価の有機基群から選択される基を表す。
【化21】

(上記一般式(1’)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を表し、RとRとが結合して脂肪族環を形成していても良い。)
(A)重量平均分子量(Mw)が5,000〜60,000であること。
(B)末端水酸基濃度が1500ppm以下であること。
(C)末端フェニル基濃度が2モル%以上であること。
【請求項25】
前記脂肪族ジオール化合物が下記一般式(A)で表される化合物である、請求項24記載の高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂製造用プレポリマー材料。
【化22】

(一般式(A)中、Qは異種原子を含んでも良い炭素数3以上の炭化水素基を表す。R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、及び炭素数6〜20の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基を表す。n及びmはそれぞれ独立して0〜10の整数を表す。ただし、Qが末端水酸基に結合する脂肪族炭化水素基を含まない場合、nは及びmはそれぞれ独立して1〜10の整数を表す。また、R及びRの少なくとも一方と、R及びRの少なくとも一方は、各々水素原子及び脂肪族炭化水素基からなる群から選択される。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な高流動性ポリカーボネート共重合体に関する。詳しくは、本発明は、高分子量(高重合度)であるにもかかわらず高流動性を示す、特定構造を有するポリカーボネート共重合体に関するものである。
【0002】
また、本発明は、新規な高分子量ポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。詳しくは、本発明は、芳香族ポリカーボネートと特定構造の脂肪族ジオール化合物とを反応させて、副生する環状カーボネートを除去しつつ高分子量化する、高分子量ポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
【0003】
また、本発明は、新規な芳香族ポリカーボネート化合物に関する。詳しくは、本発明は特定の脂肪族ジオール化合物と反応して高分子量化する工程を含む高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造に好適に用いられる、末端水酸基濃度が低い芳香族ポリカーボネート化合物及びそれを含むプレポリマー材料に関する。
【背景技術】
【0004】
ポリカーボネートは耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れるため、近年、多くの分野において幅広く用いられている。
このポリカーボネートの製造方法においては、従来多くの検討がなされている。その中で、芳香族ジヒドロキシ化合物、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という)から誘導されるポリカーボネートは、界面重合法或いは溶融重合法の両製造方法により工業化されている。
【0005】
この界面重合法によれば、ポリカーボネートはビスフェノールAとホスゲンとから製造されるが、有毒なホスゲンを用いなければならない。また、副生する塩化水素や塩化ナトリウム及び溶媒として大量に使用する塩化メチレンなどの含塩素化合物により装置が腐食することや、ポリマー物性に影響を与える塩化ナトリウムなどの不純物や残留塩化メチレンの除去が困難なことなどが、課題として残る。
【0006】
一方、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとからポリカーボネートを製造する方法としては、例えばビスフェノールAとジフェニルカーボネートを溶融状態でエステル交換反応により、副生する芳香族モノヒドロキシ化合物を除去しながら重合する溶融重合法が古くから知られている。溶融重合法は、界面重合法と異なり溶媒を使用しない等の利点を有しているが、重合が進行すると共に系内のポリマー粘度が急激に上昇し、副生する芳香族モノヒドロキシ化合物を効率よく系外に除去することが困難になり、反応速度が極端に低下し重合度を上げにくくなるという本質的な問題点を有している。
【0007】
この問題を解決するべく、高粘度状態のポリマーから芳香族モノヒドロキシ化合物を抜き出すための種々の工夫が検討されている。たとえば、特許文献1(特公昭50−19600号公報)ではベント部を有するスクリュー型重合器が開示され、さらに特許文献2(特開平2−153923号公報)では薄膜蒸発装置と横型重合装置の組み合わせを用いる方法も開示されている。
【0008】
また、特許文献3(米国特許第5,521,275号公報)では芳香族ポリカーボネートの分子量転換を触媒の存在下、ポリマーシール部およびベント部を有する押出機を用いて減圧条件で行う方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、これらの公報に開示されている方法ではポリカーボネートの分子量を十分に増加させることはできない。上記のような触媒量を大量に使用する方法或いは高剪断を与えるような厳しい条件により高分子量化を実施すると、樹脂の色相劣化あるいは架橋反応の進行等の樹脂に与える影響が大きくなる問題が発生する。
【0010】
さらに、溶融重合法において反応系に重合促進剤を添加することによってポリカーボネートの重合度を高めることが知られている。分子量の増大を短い反応滞留時間及び低い反応温度により実施することはポリカーボネートの生産量を高め、ひいては簡単で安価な反応器の設計を容易にできる。
【0011】
特許文献4(欧州特許第0595608号公報)では、分子量転換時にいくつかのジアリールカーボネートを反応させる方法が開示されるが、有意な分子量の増大は得られない。また、特許文献5(米国特許第5,696,222号)には、ある種の重合促進剤、例えばビス(2−メトキシフェニル)カーボネート、ビス(2−エトキシフェニル)カーボネート、ビス(2−クロロフェニル)カーボネート、ビス(2−メトキシフェニル)テレフタレート及びビス(2−メトキシフェニル)アジペートを始めとする炭酸及びジカルボン酸のアリールエステル化合物の添加により重合度の高まったポリカーボネートを製造する方法が開示されている。前記特許文献5では、重合促進剤としてエステルを使用するとエステル結合が導入され、その結果(ホモポリマーの代わりに)ポリエステルカーボネートコポリマーが生成し、加水分解安定性が低いことが教示されている。
【0012】
特許文献6(特許第4112979号公報)では芳香族ポリカーボネートの分子量増大を図るためいくつかのサリチルカーボネートを反応させる方法が開示される。
特許文献7(特表2008−514754)には、ポリカーボネートオリゴマーとビスサリチルカーボネート等を押出機に導入して高分子量化する方法が開示されている。
【0013】
また、特許文献8(特許第4286914号公報)には活性水素化合物(ジヒドロキシ化合物)により末端水酸基量を増大し、しかるのちにサリチル酸エステル誘導体により末端水酸基量の増大した芳香族ポリカーボネートのカップリングを行う方法が開示されている。
【0014】
しかしながら、ポリカーボネートの末端水酸基を増大させる必要のある上記公報に開示されている方法は、活性水素化合物との反応工程とサリチル酸エステル誘導体との反応工程を要するため工程が煩雑であり、かつ水酸基末端の多いポリカーボネートは熱安定性が低く、物性の低下の危険性を有する。また活性水素化合物による水酸基量の増大は非特許文献1〜2に示されるように一部鎖分断反応を誘導し、分子量分布の拡大を伴う。さらに十分な反応速度を得るために触媒を比較的多く使用する必要があり、成形加工時の物性低下を招く可能性が考えられる。
【0015】
また、ジオール化合物を反応系に添加してポリカーボネートを製造する方法は、いくつか提案されている。例えば、特許文献9(特公平6−94501号公報)には、1,4−シクロヘキサンジオール導入による高分子ポリカーボネートの製造方法が開示されている。しかしながら、ここに開示された方法では、1,4−シクロヘキサンジオールを芳香族ジヒドロキシ化合物と共に重縮合反応系のはじめから投入しているため、1,4−シクロヘキサンジオールが先にポリカーボネート化反応に消費され(オリゴマー化)、その後芳香族ジヒドロキシ化合物が反応して高分子量化するものと考えられる。このため、比較的反応時間が長くなり、色相等の外観物性が低下しやすいという欠点がある。
【0016】
また、特許文献10(特開2009−102536号公報)には、特定の脂肪族ジオールとエーテルジオールを共重合させるポリカーボネートの製造方法が記載されている。しかしながら、ここに開示されたポリカーボネートは、イソソルビド骨格を主な構造とするため、芳香族ポリカーボネートに要求される優れた耐衝撃性が発現しない。
【0017】
また、環状カーボネート化合物を反応系に添加する方法(特許文献11;特許第3271353号公報)、水酸基の塩基性が使用するジヒドロキシ化合物以上であるジオールを反応系に添加する方法(特許文献12;特許第3301453号公報、特許文献13;特許第3317555号公報)などが提案されているが、いずれも十分に満足する物性を有する高分子量ポリカーボネート樹脂が得られるものではない。
【0018】
このように、従来の高分子量芳香族ポリカーボネートの製造方法は多くの課題を有しており、ポリカーボネート本来の良好な品質を保持し、かつ十分な高分子量化を達成しうる改良された製造法に対する要求は未だに存在する。
【0019】
また、ポリカーボネートは、流動性が悪いのが欠点であり、精密部品や薄物の射出成形が困難であった。流動性を改良するためには、成形温度、金型温度を上げる必要がある。そのために成形サイクルが長くなり、成形のコストが高くなる、或いは成形中にポリカーボネートの劣化が起こるという問題があった。
【0020】
流動性を改良するためには、ポリカーボネートの重量平均分子量を下げる方法が挙げられる。しかしこの方法で得たポリカーボネートは、耐衝撃性、耐ストレスクラッキング性が大巾に低下し、そのうえ耐溶剤性が悪くなるという欠点を有していた。一方、分子量の異なるポリカーボネートを混合して分子量分布を広くすることにより、流動性を改良しようとする方法が提供されている(特許文献14;米国特許第3166606号明細書、特許文献15;特開昭56−45945号公報)。
【0021】
これらの方法では、非ニュートン流体性を持ち、ダイスウェルの大きいポリカーボネート樹脂組成物が得られている。しかし、これらのポリカーボネートにおいては、高せん断応力下での流動性は通常の分子量分布を持つものと同程度であるが、低せん断応力下の流動性は通常の分子量分布を持つものより低下している。即ちこれらのポリカーボネート樹脂組成物は確かに非ニュートン流体性を持つ(高せん断応力下と低せん断応力下での流動性の比が大)が、流動性そのものは決して従来のものより優れたものではなかった。また、分子量分布の広い組成物となる為、低分子量成分により得られる成形体の機械的強度が低下したり、所望の分子量のポリカーボネートを得る為に極めて高い分子量域を有するポリカーボネートを用いた場合は、相対的に長い滞留時間に由来した着色成分が多くなり成形体の色相悪化を招くことなどが懸念される。
【0022】
また、1,4−シクロヘキサンジオール導入による高分子ポリカーボネートの製造方法に関する上記特許文献9には耐熱性、引張強度の情報は記載されているが、ポリカーボネートの重要な特性である耐衝撃性、流動性の情報が開示されていない。
【0023】
この他にも、ポリカーボネートを高流動化する様々な方法が提案されている。例えば、ポリカーボネートに低分子量オリゴマーを加える、あるいは該オリゴマーの含有量を規定することによって高流動化する方法として、特許文献16〜18記載の方法が挙げられる。製造条件を制御することによって高流動化する方法として、特許文献19〜20記載の方法が挙げられる。
【0024】
ポリカーボネートに他の樹脂を加える、または共重合することによって高流動化する方法として、特許文献21〜27記載の方法が挙げられる。ポリカーボネートの重合体分子構造を変化させることによって高流動化する方法として、特許文献28〜30記載の方法が挙げられる。ポリカーボネート樹脂の末端構造を変え、さらに他の樹脂や添加剤を添加することによって高流動化する方法として、特許文献31〜33記載の方法が挙げられる。添加剤を工夫することによって高流動化する方法として、特許文献34〜36が挙げられる。ポリカーボネートの流動改質剤、あるいは該流動改質剤を用いて流動性を高める方法として、特許文献37〜39が挙げられる。
【0025】
しかしながら、上記いずれの技術でも高流動化は可能かも知れないが、同時にポリカーボネート樹脂本来の物性が損なわれる、混練操作等の工程が追加され製造工程が煩雑となる、離型性等の流動性以外の成形性が悪化する、使用対象が限定される、毒性が強くなる可能性がある等の欠点がある。よって、芳香族ポリカーボネートの有用な物性である耐衝撃性をはじめとする機械強度や耐熱性を保持したまま、高い流動性を有するポリカーボネート樹脂を得ることは容易ではなかった。
【0026】
本発明者らは先に、高速な重合速度を達成し、良好な品質の芳香族ポリカーボネートを得る方法として、芳香族ポリカーボネートの封止末端を脂肪族ジオール化合物により連結して鎖延長する新しい方法を見出した(特許文献40;WO2011/062220)。この方法によれば、芳香族ポリカーボネートの封止末端を脂肪族ジオール化合物により連結して鎖延長することにより、Mwが30,000〜100,000程度の高重合度の芳香族ポリカーボネート樹脂を短時間に製造することができる。この方法は、高速な重合反応によってポリカーボネートを製造するため、長時間の熱滞留等により生じる分岐・架橋化反応を抑制、色相等の樹脂劣化を回避することができる。
【0027】
また本発明者らは先に、分岐構造を導入した芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下、減圧条件でエステル交換反応させる工程を含む、所望の分岐化度を有する分岐化芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法を提案した(特許文献41;PCT/JP2012/052988)。
【0028】
また、このような脂肪族ジオール化合物を用いた高分子量ポリカーボネート樹脂の製造に適した原料化合物(プレポリマー)としての芳香族ポリカーボネート化合物は、一定の末端水酸基濃度など特定の物性を備える必要がある。
【0029】
芳香族ポリカーボネート樹脂製造用原料化合物としてのポリカーボネートプレポリマーの末端水酸基濃度を低減させる方法としては、特許文献42(塩基性窒素化合物とアルカリ金属又はアルカリ土類金属を組み合わせた触媒を用いる)、特許文献43(特定のエステル化合物を添加する)、特許文献44(過剰量の芳香族炭酸ジエステルを反応させる)、特許文献45(重縮合工程の条件を限定する)、特許文献46(末端水酸基をアルキルエーテル化する)などが提案されている。
【0030】
従来の高分子量芳香族ポリカーボネートの製造方法は多くの課題を有しており、ポリカーボネート本来の良好な品質を保持し、かつ十分な高分子量化が達成されたポリカーボネート樹脂及び高分子量ポリカーボネート樹脂の製造法のさらなる開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特公昭50−19600号公報
【特許文献2】特開平2−153923号公報
【特許文献3】米国特許第5,521,275号明細書
【特許文献4】欧州特許第0595608号公報
【特許文献5】米国特許第5,696,222号明細書
【特許文献6】特許第4112979号公報
【特許文献7】特表2008−514754
【特許文献8】特許第4286914号公報
【特許文献9】特公平6−94501号公報
【特許文献10】特開2009−102536号公報
【特許文献11】特許第3271353号公報
【特許文献12】特許第3301453号公報
【特許文献13】特許第3317555号公報
【特許文献14】米国特許第3,166,606号明細書
【特許文献15】特開昭56−45945号公報
【特許文献16】特許第3217862号公報
【特許文献17】特開平5−186676
【特許文献18】特許第3141297号公報
【特許文献19】特許第3962883号公報
【特許文献20】特許第3785965号公報
【特許文献21】特開2008−037965号公報
【特許文献22】特開2008−115249号公報
【特許文献23】特開平8−003397号公報
【特許文献24】特表2006−509862号公報
【特許文献25】特開平6−157891号公報
【特許文献26】特開平6−073280号公報
【特許文献27】特開平5−140435号公報
【特許文献28】特許第4030749号公報
【特許文献29】特開2005−060540号公報
【特許文献30】特許第2521375号公報
【特許文献31】特許第3874671号公報
【特許文献32】特開平7−173277号公報
【特許文献33】特開2003−238790号公報
【特許文献34】特開2004−035587号公報
【特許文献35】特再公表2007−132596号公報
【特許文献36】特開2007−039490号公報
【特許文献37】特開平11−181198号公報
【特許文献38】特開昭61−162520号公報
【特許文献39】特開2005−113003号公報
【特許文献40】WO2011/062220
【特許文献41】PCT/JP2012/052988
【特許文献42】特開平5−39354号公報
【特許文献43】特開平6−228301号公報
【特許文献44】特開平8−81552号公報
【特許文献45】特許第3379265号
【特許文献46】特開平4−366128号公報
【非特許文献】
【0032】
【非特許文献1】“ポリカーボネートハンドブック”(日刊工業新聞社), p.344
【非特許文献2】“ポリカーボネート樹脂”(日刊工業新聞社), プラスチック材料講座5, p.144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
本発明が解決しようとする課題は、他の樹脂や添加剤等を用いることなくポリカーボネート本来の良好な品質を保持しつつ、高分子量でありながら高流動性を有する新規なポリカーボネート共重合体を提供することである。
また、本発明が解決しようとする課題は、芳香族ポリカーボネート樹脂の良好な品質を保持し、かつ十分な高分子量化を達成しうる、改良された高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することである。
また、本発明が解決しようとする課題は、脂肪族ジオール化合物を用いた高分子量ポリカーボネートの製造に適したプレポリマーとしての芳香族ポリカーボネート化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、一定以上の長さを有する芳香族ポリカーボネート鎖と特定の脂肪族ジオール化合物から誘導される構造単位とによって形成される構造を有し、高分子量で且つ高流動性であるという特徴を有する新規なポリカーボネート共重合体を見出し、本発明に到達した。
【0035】
また、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、芳香族ポリカーボネートと特定構造の脂肪族ジオール化合物とをエステル交換触媒の存在下に反応させることにより、芳香族ポリカーボネートが高分子量化するとともに、該反応により副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去することにより、高分子量で且つ高流動性であって品質に優れているだけでなく、界面法によるものとほぼ同じ構造で良好な耐熱性を有するポリカーボネート樹脂が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0036】
また、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、一定範囲の末端水酸基濃度及び末端フェニル基濃度を有する新規な芳香族ポリカーボネート化合物を見出し、本発明に到達した。
【0037】
すなわち、本発明は、以下に示す高流動性ポリカーボネート共重合体、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法、及び芳香族ポリカーボネート化合物に関するものである。
【0038】
1)末端水酸基に結合する脂肪族炭化水素基を有する脂肪族ジオール化合物から誘導される下記一般式(I)で表わされる構造単位と下記一般式(II)で表わされる構造単位とから実質的に形成されてなり、以下の条件(a)〜(d)を満たす高流動性ポリカーボネート共重合体。
【0039】
【化1】
【0040】
(一般式(I)中、Qは異種原子を含んでも良い炭素数3以上の炭化水素基を表す。R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、及び炭素数1〜30の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基を表す。n及びmはそれぞれ独立して0〜10の整数を表す。ただし、Qが末端水酸基に結合する脂肪族炭化水素基を含まない場合、nは及びmはそれぞれ独立して1〜10の整数を表す。また、R及びRの少なくとも一方と、R及びRの少なくとも一方は、各々水素原子及び脂肪族炭化水素基からなる群から選択される。)
【0041】
【化2】
【0042】
(一般式(II)中、R及びRは、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のシクロアルコキシル基、又は炭素数6〜20のアリールオキシ基を表す。p及びqは、0〜4の整数を表す。Xは単なる結合又は下記一般式(II’)で表される二価の有機基群から選択される基を表す。
【0043】
【化3】
【0044】
(一般式(II’)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を表し、RとRとが結合して脂肪族環を形成していても良い。)
【0045】
(a)以下の一般式(III)で表される構造を有すること。
【化4】
【0046】
(一般式(III)中、kは4以上の整数、iは1以上の整数、lは1以上の整数、k’は0又は1の整数を表す。Rは直鎖もしくは分岐の炭化水素基、フッ素を含んでもよいフェニル基又は水素原子を表す。ただし、前記共重合体全量中、70重量%以上はi=1である。)
【0047】
(b)前記ポリカーボネート共重合体を構成する構造単位全量に対し、一般式(I)で表わされる構造単位の割合が1〜30モル%であり、一般式(II)で表わされる構造単位の割合が99〜70モル%であること。
(c)流動性の指標であるQ値(280℃、160kg荷重)が0.02〜1.0ml/sであること。
(d)重量平均分子量(Mw)が30,000〜100,000であること。
【0048】
2)下記数式(1)で表されるN値(構造粘性指数)が1.25以下であることを特徴とする、(1)記載の高流動性ポリカーボネート共重合体。
[数1]
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160―log10) ・・・(1)
【0049】
3)前記MwとQ値が、下記数式(2)を満たすことを特徴とする、(1)記載の高流動性ポリカーボネート共重合体。
[数2]
4.61×EXP(-0.0000785×Mw)<Q(ml/s) ・・・(2)
【0050】
4)前記MwとQ値が、下記数式(3)を満たすことを特徴とする、(1)記載の高流動性ポリカーボネート共重合体。
[数3]
4.61×EXP(-0.0000785×Mw)<Q(ml/s)<2.30×EXP(-0.0000310×Mw) ・・・(3)
【0051】
5)前記一般式(I)で表わされる構造単位を誘導する脂肪族ジオール化合物が下記一般式(A)で表される化合物である、(1)記載の高流動性ポリカーボネート共重合体。
【化5】
【0052】
(一般式(A)中、Qは異種原子を含んでも良い炭素数3以上の炭化水素基を表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、及び炭素数6〜20の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基を表す。n及びmはそれぞれ独立して0〜10の整数を表す。ただし、Qが末端水酸基に結合する脂肪族炭化水素基を含まない場合、nは及びmはそれぞれ独立して1〜10の整数を表す。また、R及びRの少なくとも一方と、R及びRの少なくとも一方は、各々独立して水素原子及び脂肪族炭化水素基からなる群から選択される。)
【0053】
6)前記脂肪族ジオール化合物が、下記一般式(i)で表される化合物である、(5)記載の高流動性ポリカーボネート共重合体。
[化6]
HO−(CRn1−Q−(CRm1−OH ・・・(i)
【0054】
(一般式(i)中、Qは芳香環を含む炭素数6〜40の炭化水素基を表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、及び炭素数6〜20の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基を表す。n1及びm1はそれぞれ独立して1〜10の整数を表す。)
【0055】
7)前記脂肪族ジオール化合物が、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、2,2’−ビス[(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシメチル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシエチル)フルオレン、フルオレングリコール、及びフルオレンジエタノールからなる群から選択される化合物である、(6)記載の高流動性ポリカーボネート共重合体。
【0056】
8)前記脂肪族ジオール化合物が、下記一般式(ii)で表される化合物である、(5)記載の高流動性ポリカーボネート共重合体。
[化7]
HO−(CRn2−Q−(CRm2−OH
・・・(ii)
【0057】
(一般式(ii)中、Qは複素環を含んでも良い直鎖状又は分岐状の炭素数3〜40の炭化水素基を表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、及び炭素数6〜20の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基を表す。n2及びm2はそれぞれ独立して0〜10の整数を表す。)
【0058】
9)前記Qが、複素環を含まない分岐を有する炭素数6〜40の鎖状脂肪族炭化水素基を表す、(8)記載の高流動性ポリカーボネート共重合体


**********
【0059】
10)前記脂肪族ジオール化合物が、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、及び2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオールからなる群から選択される、(9)記載の高流動性ポリカーボネート共重合体。
【0060】
11)前記脂肪族ジオール化合物が、下記一般式(iii)で表される化合物である、(5)記載の高流動性ポリカーボネート共重合体。
[化8]
HO−(CRn3−Q−(CRm3−OH
・・・(iii)
【0061】
(一般式(iii)中、Qは炭素数6〜40の環状炭化水素基を表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、及び炭素数6〜20の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基を表す。n3及びm3はそれぞれ独立しては0〜10の整数を表す。)
【0062】
12)前記脂肪族ジオール化合物が、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール、デカリン−2,6−ジメタノール、及びトリシクロデカンジメタノールからなる群から選択される少なくとも一つの化合物である、(11)記載の高流動性ポリカーボネート共重合体。
【0063】
13)前記脂肪族ジオール化合物の沸点が240℃以上である、(5)〜(12)のいずれかに記載の高流動性ポリカーボネート共重合体。
【0064】
14)(1)記載のポリカーボネート共重合体を用いて、射出成形、ブロー成形、押出成形、射出ブロー成形、回転成形、及び圧縮成形からなる群から選択される成形法により成形してなる成形体。
【0065】
15)(1)記載のポリカーボネート共重合体からなる、シート及びフィルムからなる群から選択される成形体。
【0066】
16)芳香族ポリカーボネートと、下記一般式(g1)で表される脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程を含むことを特徴とする、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【0067】
【化9】
【0068】
(一般式(g1)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。mは1〜30の整数を表す。)
【0069】
17)前記一般式(g1)におけるmが2〜8の整数であることを特徴とする、(16)記載の製造方法。
【0070】
18)前記一般式(g1)で表される脂肪族ジオール化合物が、下記一般式(g2)で表される化合物であることを特徴とする、(16)記載の製造方法。
【化10】
【0071】
(一般式(g2)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。nは1〜28の整数を表す。)
【0072】
19)前記一般式(g2)におけるnが1〜6の整数であることを特徴とする、(18)記載の製造方法。
【0073】
20)前記一般式(g2)で表される脂肪族ジオール化合物が、下記一般式(g3)で表される化合物であることを特徴とする、(18)記載の製造方法。
【化11】
【0074】
(一般式(g3)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。)
【0075】
21)前記一般式(g3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖又は分岐のアルキル基を表すことを特徴とする、(20)記載の製造方法。
22)前記一般式(g3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表すことを特徴とする、(20)記載の製造方法。
【0076】
23)前記脂肪族ジオール化合物が、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、及び2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオールからなる群から選択されることを特徴とする、(22)記載の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【0077】
24)芳香族ポリカーボネートと、下記一般式(g4)で表される脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程を含むことを特徴とする、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【0078】
【化12】
【0079】
(一般式(g4)中、Rは下記式で表される構造からなる群から選択される二価の炭化水素基を表す。nは1〜20の整数を表す。)
【化13】
【0080】
25)前記一般式(g4)中、Rは−(CH−で表される二価の炭化水素基(mは3〜20の整数)又は−CH−C(CH−CH−であり、nは1〜3であることを特徴とする、(24)記載の製造方法。
【0081】
26)芳香族ポリカーボネートと脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含むことを特徴とする、(16)又は(24)記載の製造方法。
【0082】
27)前記環状カーボネートが下記一般式(h1)で表される化合物である、(26)記載の製造方法。
【化14】
【0083】
(一般式(h1)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。mは1〜30の整数を表す。)
【0084】
28)前記一般式(h1)におけるmが2〜8の整数であることを特徴とする、(27)記載の製造方法。
【0085】
29)前記一般式(h1)で表される環状カーボネートが、下記一般式(h2)で表される化合物であることを特徴とする、(27)記載の製造方法。
【化15】
【0086】
(一般式(h2)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。nは1〜28の整数を表す。)
【0087】
30)前記一般式(h2)におけるnが1〜6の整数であることを特徴とする、(29)記載の製造方法。
【0088】
31)前記一般式(h2)で表される環状カーボネートが、下記一般式(h3)で表される化合物であることを特徴とする、(29)記載の製造方法。
【化16】
【0089】
(一般式(h3)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。)
【0090】
32)前記一般式(h3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖アルキル基を表すことを特徴とする、(31)記載の製造方法。
【0091】
33)脂肪族ジオール化合物の使用量が、前記高分子量化工程における反応前の芳香族ポリカーボネートの全末端量1モルに対して0.01〜1.0モルである、(16)又は(24)記載の製造方法。
【0092】
34)前記高分子量化工程における反応前の芳香族ポリカーボネートが、少なくとも一部末端封止されていることを特徴とする、(16)又は(24)記載の製造方法。
【0093】
35)前記高分子量化工程における反応前の芳香族ポリカーボネートが、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの反応により得られる末端封止されたプレポリマーである、(16)又は(24)記載の製造方法。
【0094】
36)前記高分子量化工程における反応前の芳香族ポリカーボネートの水酸基末端濃度が1,500ppm以下であることを特徴とする、(16)又は(24)記載の製造方法。
【0095】
37)前記高分子量化工程における反応後の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)が、該高分子量化工程における反応前の芳香族ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)よりも5,000以上高いことを特徴とする(16)又は(24)記載の製造方法。
【0096】
38)前記高分子量化工程における反応前の芳香族ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)が5,000〜60,000であることを特徴とする、(16)又は(24)記載の製造方法。
【0097】
39)(16)又は(24)記載の製造方法で得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とし、下記一般式(h1)で表される環状カーボネートを3000ppm以下含むことを特徴とする、ポリカーボネート樹脂組成物。
【0098】
【化17】
【0099】
(一般式(h1)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。mは1〜30の整数を表す。)
【0100】
40)前記一般式(h1)におけるmが2〜8の整数であることを特徴とする、(39)記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0101】
41)前記一般式(h1)で表される環状カーボネートが、下記一般式(h2)で表される化合物であることを特徴とする、(39)記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化18】
【0102】
(一般式(h2)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。nは1〜28の整数を表す。)
【0103】
42)前記一般式(h2)におけるnが1〜6の整数であることを特徴とする、(41)記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0104】
43)前記一般式(h2)で表される環状カーボネートが、下記一般式(h3)で表される化合物であることを特徴とする、(41)記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化19】
【0105】
(一般式(h3)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。)
【0106】
44)前記一般式(h3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖アルキル基を表すことを特徴とする、(43)記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0107】
45)前記高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の、下記数式(1)で表されるN値(構造粘性指数)が1.25以下であることを特徴とする、(39)記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[数4]
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160―log10) ・・・(1)
【0108】
46)下記一般式(1)で表わされる構造単位から実質的に形成されてなり、以下の条件(A)〜(C)を満たす芳香族ポリカーボネート化合物。
【化20】
【0109】
(一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のシクロアルコキシル基、又は炭素数6〜20のアリールオキシ基を表す。p及びqは、0〜4の整数を表す。Xは単なる結合又は下記一般式(1’)で表される二価の有機基群から選択される基を表す。
【0110】
【化21】
【0111】
(上記一般式(1’)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を表し、RとRとが結合して脂肪族環を形成していても良い。)
(A)重量平均分子量(Mw)が5,000〜60,000であること。
(B)末端水酸基濃度が1500ppm以下であること。
(C)末端フェニル基濃度が2モル%以上であること。
【0112】
47)エステル交換触媒の存在下、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、炭酸ジエステル/芳香族ジヒドロキシ化合物=1.0〜1.3(モル比)の割合で反応させて得られることを特徴とする、(46)記載の芳香族ポリカーボネート化合物。
【0113】
48)構造粘性指数(N値)が1.25以下であることを特徴とする、(46)又は(47)記載の芳香族ポリカーボネート化合物。
【0114】
49)分岐化剤を使用して分岐構造を導入し、且つ構造粘性指数(N値)が1.25を超えることを特徴とする、(46)又は(47)記載の芳香族ポリカーボネート化合物。
【0115】
50)芳香族ポリカーボネートプレポリマーと末端水酸基に結合する脂肪族炭化水素基を有する脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に減圧条件でエステル交換反応させる工程を含む高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造に用いられる該芳香族ポリカーボネートプレポリマーであって、(46)又は(47)記載の芳香族ポリカーボネート化合物を主体とし、残カーボネートモノマー量が3000ppm以下であることを特徴とする、高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂製造用プレポリマー材料。
【0116】
51)前記脂肪族ジオール化合物が下記一般式(A)で表される化合物である、(50)記載の高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂製造用プレポリマー材料。
【化22】
【0117】
(一般式(A)中、Qは異種原子を含んでも良い炭素数3以上の炭化水素基を表す。R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、及び炭素数6〜20の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基を表す。n及びmはそれぞれ独立して0〜10の整数を表す。ただし、Qが末端水酸基に結合する脂肪族炭化水素基を含まない場合、nは及びmはそれぞれ独立して1〜10の整数を表す。また、R及びRの少なくとも一方と、R及びRの少なくとも一方は、各々水素原子及び脂肪族炭化水素基からなる群から選択される。)
【発明の効果】
【0118】
本発明の新規なポリカーボネート共重合体は、一定以上の長さを有する芳香族ポリカーボネート鎖と特定の脂肪族ジオール化合物から誘導される構造単位とによって形成される構造を有するものであって、高分子量で且つ高流動性であり、さらに分岐構造をほとんど含まない(N値が低い)という特徴を有する。
【0119】
このような特徴を有するポリカーボネート共重合体は、これまで存在しなかった。同じ芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導される芳香族ポリカーボネート形成単位と脂肪族ジオール化合物から誘導される構造単位とを有する共重合体であっても、本発明のように一定以上の長さの芳香族ポリカーボネート鎖と脂肪族ジオール化合物から誘導される構造単位とによって形成される構造を有しないものは、高分子量と高流動性の条件を同時に満たすことはできない。添加剤を用いるなどの流動性改良方法では、ポリカーボネート樹脂本来の物性を保持したまま高流動化することは容易にできない。
【0120】
このように、本発明のポリカーボネート共重合体は、添加剤を用いることなく芳香族ポリカーボネートの有用な物性である耐衝撃性、耐摩耗性、耐ストレスクラッキング性等の機械強度や、良好な色相、光学的特性、低平衡吸水率、耐熱性、寸法安定性、透明性、耐候性、耐加水分解性、難燃性といった物性を保持したまま、高分子量で且つ高流動性を達成し得たポリカーボネート樹脂である。さらに、高分子量で且つ高流動性であるだけでなく、分岐構造や異種構造の少ない(N値の小さい)ポリカーボネート樹脂である。
【0121】
また、本発明の新規な製造方法によれば、芳香族ポリカーボネート(プレポリマー)と特定構造の脂肪族ジオール化合物との反応により、芳香族ポリカーボネートが高分子量化されるとともに、副生する環状カーボネートが反応系外へ除去され、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の主鎖中に脂肪族ジオール化合物はほとんど取り込まれない。そのため、得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂は、連結部位が鎖中にほとんど残らず、構造上は従来の界面法又は溶融法で得られるポリカーボネートとほぼ同じとなる。例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールA(BPA)を用いた芳香族ポリカーボネートプレポリマーからは、通常のビスフェノールA由来のポリカーボネート樹脂(BPA−PC)とほぼ同じ化学構造を有するポリマーが得られる。このようにして得られるポリカーボネート樹脂は、従来の界面法によるポリカーボネートと同等の物性を有する上に、脂肪族ジオール化合物を連結剤に用いて高速に高分子量化したものであるから、分岐度が小さい、異種構造が少ないなどの品質上の利点を有するだけでなく、脂肪族ジオール化合物からなる連結剤由来の骨格が含まれないため、高温下での熱安定性(耐熱性)が大幅に改善されたものとなる。
【0122】
また、本発明の新規な芳香族ポリカーボネート化合物は特定の末端物性を有するものであり、末端水酸基に結合する脂肪族炭化水素基を有する特定の脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応によるポリカーボネート樹脂の製造に特に適している。
【0123】
このような特徴を有する芳香族ポリカーボネート化合物を特定の脂肪族ジオール化合物とエステル交換反応させることにより、芳香族ポリカーボネート樹脂の良好な品質を保持しつつ、簡便な方法で十分な高分子量化を達成することができる。特に、高分子量でありながら高流動性を備え、且つ分岐構造を含まないポリカーボネート共重合体を添加剤等を用いずに製造することができる。一方、前記芳香族ポリカーボネート化合物に所定量の分岐化剤を使用して分岐構造を導入すれば、所望の分岐化度を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
図1】本発明の実施例1で得られたポリカーボネート共重合体のH−NMRチャート図(A)である。
図2】本発明の実施例1で得られたポリカーボネート共重合体のH−NMRチャート図(B)である。
図3】本発明の実施例1〜19、比較例1〜5で得られたポリカーボネートにおけるMwとQ値(160kg荷重、280℃測定時)の関係を示す図である。
図4】本発明の実施例1〜19、比較例1〜5で得られたポリカーボネートにおけるMwとN値の関係を示す図である。
図5】本発明の実施例20における反応物のH−NMRチャート図である。
図6】本発明の実施例20で得られた樹脂のH−NMRチャート図である。
図7】本発明の実施例34で得られた芳香族ポリカーボネートプレポリマーのH−NMRチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0125】
I.高流動性ポリカーボネート共重合体
本発明の高流動性ポリカーボネート共重合体は、上記の一般式(I)で表わされる構造単位と一般式(II)で表わされる構造単位とから実質的に形成されている。
【0126】
(1)一般式(I)で表される構造単位
一般式(I)で表される構造単位は、脂肪族ジオール化合物から誘導されるものである。ここで、本発明で言う脂肪族ジオール化合物は、末端水酸基に結合する脂肪族炭化水素基を有する化合物である。末端水酸基とは、エステル交換反応により芳香族ポリカーボネートプレポリマーとの間のカーボネート結合の形成に寄与する水酸基を意味する。
脂肪族炭化水素基としては、アルキレン基及びシクロアルキレン基が挙げられるが、これらは一部が芳香族基、複素環含有基等で置換されていても良い。
【0127】
【化23】
【0128】
上記一般式(I)中、Qは異種原子を含んでも良い炭素数3以上の炭化水素基を表している。この炭化水素基の炭素数の下限は3、好ましくは6、より好ましくは10であり、上限は好ましくは40、より好ましくは30、さらに好ましくは25である。
【0129】
該異種原子としては、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、窒素原子(N)、フッ素原子(F)及びケイ素原子(Si)が挙げられる。これらのうちで特に好ましいものは酸素原子(O)及び硫黄原子(S)である。
該炭化水素基は直鎖状であっても分岐状であっても、環状構造であってもよい。またQは芳香環、複素環等の環状構造を含んでいてもよい。
【0130】
上記一般式(I)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、及び炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基を表す。
【0131】
脂肪族炭化水素基としては、具体的には直鎖又は分岐のアルキル基、シクロアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、アリール基、ナフチル基などが挙げられる。アリール基としてはフェニル基、フェネチル基、ベンジル基、トリル基、o−キシリル基が挙げられ、好ましくはフェニル基である。
【0132】
ただし、R及びRの少なくとも一方と、R及びRの少なくとも一方は、各々水素原子及び脂肪族炭化水素基からなる群から選択される。
〜Rとして特に好ましくは、それぞれ独立して水素原子及び炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基からなる群から選択される基を表す。
特に好ましい脂肪族炭化水素基としては、直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、イソアミル基が挙げられる。
【0133】
なお、R〜Rはいずれも水素原子であることが最も好ましい。すなわち、上記一般式(I)を誘導しうる脂肪族ジオール化合物は、好ましくは1級ジオール化合物であり、さらに好ましくは直鎖状脂肪族ジオールを除く1級ジオール化合物である。
【0134】
n及びmはそれぞれ独立して0〜10、好ましくは0〜4の整数を表す。ただし、Qが末端水酸基に結合する脂肪族炭化水素基を含まない場合、n及びmはそれぞれ独立して1〜10、好ましくは1〜4の整数を表す。
【0135】
上記構造単位(I)を誘導する脂肪族ジオール化合物は、下記一般式(A)で表される2価のアルコール性水酸基を有する化合物である。一般式(A)中、Q、R〜R、n及びmは上記一般式(I)におけるのと同様である。
【0136】
【化24】
【0137】
上記末端構造「HO−(CR1−」及び「−(CRm−OH」の具体例としては、以下の構造が挙げられる。
【0138】
【化25】
【0139】
【化26】
【0140】
本発明で用いられる脂肪族ジオール化合物として、より好ましくは下記一般式(i)〜(iii)のいずれかで表される2価のアルコール性水酸基を有する化合物が挙げられる。
【0141】
【化27】
【0142】
上記一般式(i)中、Qは芳香環を含む炭素数6〜40の炭化水素基、好ましくは芳香環を含む炭素数6〜30の炭化水素基を表す。また、Qは酸素原子(O)、硫黄原子(S)、窒素原子(N)、フッ素原子(F)及びケイ素原子(Si)からなる群から選択される少なくとも一種の異種原子を含んでいてもよい。
【0143】
n1及びm1はぞれぞれ独立して1〜10の整数を表し、好ましくは1〜4の整数である。芳香環としては、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基等が挙げられる。
の具体例としては、下記構造式で表される基が挙げられる。
【0144】
【化28】
【0145】
【化29】
【0146】
【化30】
【0147】
【化31】
【0148】
【化32】
【0149】
上記一般式(ii)中、Qは複素環を含んでも良い直鎖状又は分岐状の炭素数3〜40の炭化水素基、好ましくは複素環を含んでも良い直鎖状又は分岐状の鎖状脂肪族炭素数3〜30の炭化水素基を表す。また、Qは酸素原子(O)、硫黄原子(S)、窒素原子(N)、フッ素原子(F)及びケイ素原子(Si)からなる群から選択される少なくとも一種の異種原子を含んでいてもよい。n2及びm2はそれぞれ独立して0〜10の整数を表し、好ましくは0〜4の整数である。
【0150】
の具体例としては、下記構造式で表される基が挙げられる。なお、下記構造式中、分子量分布を有する構造式群の場合は、平均分子量に基づく平均炭素数が6〜40の範囲に入るものを選択するのが好ましい。
【0151】
【化33】
【0152】
上記一般式(iii)中、Qは炭素数6〜40の環状炭化水素基(シクロアルキレン基)、好ましくは炭素数6〜30の環状炭化水素基を含む基を表す。n3及びm3はそれぞれ独立して0〜10、好ましくは1〜4の整数を表す。シクロアルキレン基としては、シクロヘキシレン基、ビシクロデカニル基、トリシクロデカニル基等が挙げられる。
の具体例としては、下記構造式で表される基が挙げられる。
【0153】
【化34】
【0154】
上記一般式(i)〜(iii)中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、及び炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選択される基を表す。その具体例は上記一般式(I)におけるのと同様である。
【0155】
上記一般式(i)〜(iii)のいずれかで表される脂肪族ジオール化合物のうち、より好ましいものは、一般式(i)及び(ii)で表される化合物であり、特に好ましいものは一般式(ii)で表される化合物である。
また、上記一般式(A)で表される脂肪族ジオール化合物として、特に好ましくは1級ジオール化合物であり、さらに好ましくは直鎖状脂肪族ジオールを除く1級ジオール化合物である。
【0156】
上記一般式(A)で表される脂肪族ジオール化合物として使用可能なものの具体例としては、以下に示す構造の化合物が挙げられる。
【0157】
【化35】
【0158】
【化36】
【0159】
【化37】
【0160】
【化38】
【0161】
【化39】
【0162】
【化40】
【0163】
【化41】
【0164】
【化42】
【0165】
【化43】
【0166】
上記一般式(A)で表される脂肪族ジオール化合物として使用可能なものの具体例を、1級ジオールと2級ジオールに分類して示すと、以下のようになる。
【0167】
(i)1級ジオール:2−ヒドロキシエトキシ基含有化合物
本発明の脂肪族ジオール化合物として好ましくは、「HO-(CH2)2-O-Y-O-(CH2)2-OH」で表される2−ヒドロキシエトキシ基含有化合物が挙げられる。ここで、Yとしては、以下に示す構造を有する有機基(A)、有機基(B)、二価のフェニレン基もしくはナフチレン基から選択される有機基(C)、又は下記構造式から選択されるシクロアルキレン基(D)が挙げられる。
【0168】
【化44】
【0169】
ここで、Xは単結合又は下記構造の基を表す。R及びRは各々独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基又はシクロアルキル基を表し、それらはフッ素原子を含んでも良い。R及びRは好ましくは水素原子又はメチル基である。p及びqは各々独立して0〜4(好ましくは0〜3)の整数を表す。
【0170】
【化45】
【0171】
上記構造中、Ra及びRbは各々独立して、水素原子、炭素数1〜30,好ましくは1〜12、さらに好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、もしくは炭素数6〜12のシクロアルキル基を表すか、又は相互に結合して環を形成してもよい。環としては、芳香環、脂環、複素環(O及び/又はSを含む)、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。Ra、Rbがアルキル基又は相互に環を形成している場合、それらはフッ素原子を含んでも良い。Rc及びRdは各々独立して炭素数1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4のアルキル基(特に好ましくはメチル基又はエチル基)を表し、それらはフッ素原子を含んでも良い。eは1〜20、好ましくは1〜12の整数を表す。
Re及びRfは各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数6〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基を表し、それらはフッ素原子を含んでも良い。また、それらは相互に結合して環を形成してもよい。直鎖もしくは分岐のアルキル基としては、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4のものであり、特に好ましくはメチル基又はエチル基である。炭素数1〜20のアルコキシル基としては、好ましくはメトキシ基又はエトキシ基である。
【0172】
より具体的な脂肪族ジオール化合物の例を以下に示す。下記式中、n及びmは各々独立して0〜4の整数を表す。R及びRは各々独立して水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、フェニル基、又はシクロヘキシル基を表す。
【0173】
<Yが有機基(A)の場合>
Yが有機基(A)の場合の好ましい化合物を以下に示す。
【化46】
【0174】
<Yが有機基(B)の場合>
Yが有機基(B)の場合、Xは好ましくは−CRaRb−(Ra及びRbは各々独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、好ましくはメチル基である)を表す。具体的には以下に示す化合物が挙げられる。
【0175】
【化47】
【0176】
<Yが有機基(C)の場合>
Yが有機基(C)の場合の好ましい化合物を以下に示す。
【化48】
【0177】
上記2−ヒドロキシエトキシ基含有化合物のうちで、特に好ましいものを以下に示す。
【化49】
【0178】
(ii)1級ジオール:ヒドロキシアルキル基含有化合物
本発明の脂肪族ジオール化合物として好ましくは、「HO-(CH2)-Z-(CH2)-OH」で表されるヒドロキシアルキル基含有化合物が挙げられる。ここで、rは1又は2である。すなわち、ヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基及びヒドロキシエチル基である。
【0179】
Zとしては、以下に示す有機基が挙げられる。
【化50】
【0180】
好ましいヒドロキシアルキル基含有化合物を以下に示す。下記式中、n及びmは各々独立して0〜4の整数を表す。
【0181】
【化51】
【0182】
(iii)1級ジオール:カーボネートジオール系化合物
本発明の脂肪族ジオール化合物の好ましいものとして、下記式で表されるカーボネートジオール系化合物が挙げられる。ここで、Rとしては、以下に示す構造を有する有機基が挙げられる。下記式中、nは1〜20、好ましくは1〜2の整数である。mは3〜20、好ましくは3〜10の整数である。
【0183】
【化52】
【0184】
上記ポリカーボネートジオール系化合物として、好ましくは以下に示すジオール(シクロヘキサンジメタノール又はネオペンチルグリコールのダイマー)又はこれらを主成分とするものが挙げられる。
【0185】
【化53】
【0186】
本発明の脂肪族ジオール化合物としては、上記の(i)2−ヒドロキシエトキシ基含有化合物、(ii)ヒドロキシアルキル基含有化合物、及び(iii)カーボネートジオール系化合物から選択される1級ジオールを用いることが好ましい。
【0187】
なお、本発明の脂肪族ジオール化合物は、上述した特定の1級ジオールに特に限定されるものではなく、上記1級ジオール以外の1級ジオール化合物、あるいは2級ジオール化合物のなかにも使用可能なものが存在する。使用可能なその他の1級ジオール化合物又は2級ジオール化合物の例を以下に示す。
【0188】
なお、下記式においてR及びRは、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のシクロアルコキシル基、又は炭素数6〜20のアリールオキシ基であり、好ましくは、水素原子、フッ素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、シクロヘシル基、フェニル基、ベンジル基、メトキシ基、又はエトキシ基である。
【0189】
、R、R、Rは水素原子、または炭素数1〜10の1価のアルキル基である。R及びR10は、各々独立して炭素数1〜8、好ましくは1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基である。
【0190】
Ra及びRbは各々独立して、水素原子、炭素数1〜30,好ましくは1〜12、さらに好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、もしくは炭素数6〜12のシクロアルキル基を表すか、又は相互に結合して環を形成してもよい。環としては、芳香環、脂環、複素環(O及び/又はSを含む)、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。Ra、Rbがアルキル基又は相互に環を形成している場合、それらはフッ素原子を含んでも良い。
【0191】
R’は炭素数1〜10,好ましくは1〜8のアルキレン基である。Re及びRfは各々独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、フェニル基、メトキシ基又はエトキシ基である。m’は4〜20、好ましくは4〜12の整数である。m”は1〜10、好ましくは1〜5の整数である。eは1〜10の整数である。
【0192】
<その他の1級ジオール>
【化54】
【0193】
【化55】

【0194】
<2級ジオール>
【化56】
【0195】
より具体的には、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロ(5.2.1.02.6)デカンジメタノール、デカリン−2,6−ジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、イソソルビド、イソマンニド、1,3−アダマンタンジメタノールなどの環状構造を含む脂肪族ジオール類;p-キシリレングリコール、m−キシリレングリコール、ナフタレンジメタノール、ビフェニルジメタノール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、2,2’−ビス[(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)、9,9−ビス(ヒドロキシメチル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシエチル)フルオレン、フルオレングリコール、フルオレンジエタノールなどの芳香環を含有する脂肪族ジオール類;ポリカプロラクトンジオール、ポリ(1,4−ブタンジオールアジペート)ジオール、ポリ(1,4−ブタンジオールサクシネート)ジオールなどの脂肪族ポリエステルジオール;2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール(ブチルエチルプロパングリコール)、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパンジオール、2−メチル−プロパン−1,3−ジオール等の分岐状脂肪族ジオール;ビス(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル)カーボネート等のカーボネートジオール系化合物、などを挙げることができる。
【0196】
上記脂肪族ジオール化合物は、単独または二種以上の組み合わせにて用いても構わない。なお、実際に用いる脂肪族ジオール化合物は、反応条件等により使用可能な化合物種が異なる場合があり、採用する反応条件等によって適宜選択することができる。
【0197】
本発明で用いられる脂肪族ジオール化合物の沸点については特に制限されるものではないが、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物との反応に伴って副生される芳香族モノヒドロキシ化合物を留去することを考慮すると、使用する脂肪族ジオール化合物は、該芳香族モノヒドロキシ化合物よりも高い沸点を有するものであることが好ましい。また一定の温度及び圧力の下で揮発させずに確実に反応を進行させる必要があるため、より高い沸点を有する脂肪族ジオール化合物を使用することが望ましい場合が多い。その場合、常圧における沸点が240℃以上、好ましくは250℃以上の脂肪族ジオール化合物を用いるのが望ましい。
【0198】
そのような脂肪族ジオール化合物の具体例としては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−シクロヘキサンジメタノール(沸点;283℃)、デカリン−2,6−ジメタノール(341℃)、ペンタシクロペンタデカリンジメタノール、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、2,2’−ビス[(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)、9,9−ビス(ヒドロキシメチル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシエチル)フルオレン、フルオレングリコール、フルオレンジエタノール、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール(271℃)、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール(250℃)、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール(280℃)、ビス(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル)カーボネートなどが挙げられる。
【0199】
一方、常圧における沸点が240℃未満の脂肪族ジオール化合物であっても、添加方法を工夫することによって、本発明において十分に好ましく使用することができる。そのような脂肪族ジオール化合物の具体例としては、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール(226℃)、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール(230℃)、プロパン−1,2−ジオール(188℃)などが挙げられる。
本発明で使用する脂肪族ジオール化合物の沸点の上限については特に制限されないが、700℃以下で十分である。
【0200】
(2)一般式(II)で表される構造単位
本発明のポリカーボネート共重合体の芳香族ポリカーボネート形成単位は、一般式(II)で表される構造単位である。
【0201】
【化57】
【0202】
一般式(II)中、R及びRは、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のシクロアルコキシル基、又は炭素数6〜20のアリールオキシ基を表す。p及びqは、0〜4の整数を表す。Xは単なる結合又は下記一般式(II’)で表される二価の有機基群から選択される基を表す。
【0203】
【化58】
【0204】
一般式(II’)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を表し、RとRとが結合して脂肪族環を形成していても良い。
【0205】
上記一般式(II)で表される構造単位を誘導する芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(II'')で表される化合物が挙げられる。
【0206】
【化59】
【0207】
上記一般式(II'')中、R〜R、p、q、及びXは、各々上記一般式(II)におけるのと同様である。
【0208】
このような芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的にはビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0209】
中でも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンがモノマーとしての安定性、更にはそれに含まれる不純物の量が少ないものの入手が容易である点等の理由により好ましいものとして挙げられる。
【0210】
本発明における芳香族ポリカーボネート形成単位としては、ガラス転移温度の制御、流動性の向上、屈折率の向上、複屈折の低減等、光学的性質の制御等を目的として、上記各種モノマー(芳香族ジヒドロキシ化合物)のうち複数種から誘導される構造単位が必要に応じて組み合わされていてもよい。
【0211】
(3)要件(a)
本発明のポリカーボネート共重合体は、以下の一般式(III)で表される構造を有することを特徴とする。ここで、一般式(III)中、(I)は一般式(I)で表される構造単位を表し、(II)は一般式(II)で表される構造単位を表す。
【0212】
【化60】
【0213】
上記一般式(III)中、Rは直鎖もしくは分岐の炭化水素基、フッ素を含んでもよいフェニル基又は水素原子を表す。具体的には、メチル基、プロピル基、イソプロピル基、エチル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、テトラフルオロプロピル基、t−ブチル−フェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が挙げられる。
【0214】
上記一般式(III)中、kは芳香族ポリカーボネート形成単位からなる鎖(芳香族ポリカーボネート鎖)の平均鎖長を表している。芳香族ポリカーボネート形成単位は、本発明のポリカーボネート共重合体の主体となる構造単位であり、これからなる芳香族ポリカーボネート鎖は該ポリカーボネート共重合体の主たる高分子構造を形成する。kは4以上、好ましくは4〜100、さらに好ましくは5〜70である。この鎖長が一定以上の長さを有しないと、「−(I)−」で表される構造部位が相対的に増加し、その結果、本発明のポリカーボネート共重合体のランダム共重合性が増す上に、ポリカーボネート樹脂本来の特性である耐熱性などが失われる傾向にある。
【0215】
構造単位「−(II)−」(芳香族ポリカーボネート鎖)は芳香族ポリカーボネートプレポリマーから誘導される構造単位であり、その重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5,000〜60,000、より好ましくは10,000〜50,000、さらに好ましくは10,000〜40,000である。
【0216】
芳香族ポリカーボネート鎖の分子量が低すぎると、本発明のポリカーボネート共重合体は、共重合成分の物性影響をより大きく受けたものになる場合がある。これにより物性改良を行うことは可能であるが、芳香族ポリカーボネートの有用な物性を維持する効果は不十分となる場合がある。
【0217】
芳香族ポリカーボネート鎖の分子量が高すぎると、本発明のポリカーボネート共重合体は、芳香族ポリカーボネートの有用な物性を維持しつつ高流動性を有するポリカーボネート共重合体となり得ない場合がある。
【0218】
iは脂肪族ジオール化合物から誘導される構造単位からなる部位「−(I)−」の平均鎖長を表している。iは1以上、好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3、特に好ましくは1〜2、最も好ましくは1であり、この平均鎖長は1に近いほど好ましい。この脂肪族ジオール部位「−(I)−」の平均鎖長が長すぎると耐熱性や機械的強度が低下し、本発明の効果が得られない。
【0219】
lは芳香族ポリカーボネート鎖と脂肪族ジオール部位とからなる構造単位「−[−(II)−(I)−]−」の平均鎖長を表している。lは1以上、好ましくは1〜30、さらに好ましくは1〜20、特に好ましくは1〜10である。
k’は0又は1の整数である。すなわち、脂肪族ジオール部位「−(I)−」は、その両側に芳香族ポリカーボネート鎖を有する場合と、片側のみに芳香族ポリカーボネート鎖を有する場合とがあり、多くはその両側に芳香族ポリカーボネート鎖を有する。
【0220】
前記ポリカーボネート共重合体中、芳香族ポリカーボネート鎖「−(II)−」と脂肪族ジオール部位「−(I)−」との割合(モル比)は特に制限されないが、ポリカーボネート共重合体全体の平均値として好ましくは「−(II)−」/「−(I)−」=0.1〜3、より好ましくは0.6〜2.5、特に好ましくは2である。また、k/lは特に制限されないが、好ましくは2〜200、さらに好ましくは4〜100である。
【0221】
ただし、本発明の前記ポリカーボネート共重合体においては、それを構成するポリマー分子全量中、70重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上のポリマー分子において、i=1である。すなわち、樹脂は通常、種々の構造及び分子量を有する高分子化合物(ポリマー分子)の集合体であるが、本発明のポリカーボネート共重合体は、長鎖の芳香族ポリカーボネート鎖(−(II)k−)が脂肪族ジオール化合物から誘導される1個の構成単位(−(I)−)と結合した構造の高分子化合物を70重量%以上含む集合体であることを特徴とする。i=1の高分子化合物が70重量%未満では、共重合成分の割合が高いため、共重合成分の物性影響を受けやすくなり、芳香族ポリカーボネート本来の物性を維持することができない。
本発明のポリカーボネート共重合体中におけるi=1の高分子化合物の割合は、ポリカーボネート共重合体のH−NMR解析により分析することができる。
【0222】
(4)要件(b)
本発明のポリカーボネート共重合体は全体として、一般式(I)で表わされる構造単位を1〜30モル%、好ましくは1〜25モル%、特に好ましくは1〜20モル%含み、一般式(II)で表わされる構造単位を99〜70モル%、好ましくは99〜75モル%、特に好ましくは99〜80モル%含む。
【0223】
一般式(I)で表わされる構造単位の割合が少なすぎると、ポリカーボネート共重合体の特徴である高分子量且つ高流動性の条件を満たさなくなり、多すぎると機械的強度及び耐熱性等の芳香族ポリカーボネート樹脂が本来有する優れた物性が損なわれる。
【0224】
本発明のポリカーボネート共重合体には、本発明の主旨を逸脱しない範囲で他の共重合成分由来の構造が含まれていても良いが、望ましくは、本発明のポリカーボネート共重合体は一般式(I)で表わされる構造単位1〜30モル%(好ましくは1〜25モル%、特に好ましくは1〜20モル%)と、一般式(II)で表わされる構造単位99〜70モル%(好ましくは99〜75モル%、特に好ましくは99〜80モル%)とからなるものである。
【0225】
(5)要件(c)
本発明のポリカーボネート共重合体は、流動性の指標であるQ値(280℃、160kg荷重)の好ましい下限が0.02ml/secであり、より好ましくは0.022ml/sec、さらに好ましくは0.025ml/sec、特に好ましくは0.027ml/sec、最も好ましくは0.03ml/secであり、上限は好ましくは1.0ml/sec、より好ましくは0.5ml/secであり、高い流動性を有する。一般に、ポリカーボネート樹脂の溶融特性は、Q=K・Pにより表示することができる。ここで、式中のQ値は溶融樹脂の流出量(ml/sec)、Kは回帰式の切片で独立変数(ポリカーボネート樹脂の分子量や構造に由来する)、Pは高化式フローテスターを用い280℃で測定した圧力(荷重:10〜160kgf)(kg/cm2)、Nは構造粘性指を表す。Q値が低すぎると精密部品や薄物の射出成形が困難となる。その場合、成形温度を上げる等の措置が必要となるが、高温下ではゲル化、異種構造の出現、N値の増大などの可能性が生じる。Q値が高すぎるとブロー成形、押出成形等の用途に用いた場合、溶融張力が低くなり、ドローダウンを生じやすく満足な成形品が得られなくなる。また、射出成形等の用途に用いた場合、糸引き等により満足な成形品が得られなくなる。
【0226】
(6)要件(d)
本発明のポリカーボネート共重合体の重量平均分子量(Mw)は30,000〜100,000、好ましくは30,000〜80,000、より好ましくは35,000〜75,000であり、高分子量でありながら、高い流動性を併せ持つ。
【0227】
ポリカーボネート共重合体の重量平均分子量が低すぎると、ブロー成形、押出成形等の用途に用いた場合、溶融張力が低くなり、ドローダウンを生じやすく満足な成形品が得られなくなる。また、射出成形等の用途に用いた場合、糸引き等により満足な成形品が得られなくなる。さらに得られる成形品の機械的物性、耐熱性等の物性が低下する。また、オリゴマー領域が増大し、耐有機溶剤性等の物性も低下する。
【0228】
ポリカーボネート共重合体の重量平均分子量が高すぎると、精密部品や薄物の射出成形が困難となり、成形サイクル時間が長時間となり生産コストへ悪影響を及ぼす。そのため、成形温度を上げる等の措置が必要となるが、高温下では、ゲル化、異種構造の出現、N値の増大などの可能性が生じる。
【0229】
(7)N値(構造粘性指数)
本発明のポリカーボネート共重合体においては、下記数式(1)で表されるN値(構造粘性指数)が、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.28以下、特に好ましくは1.25以下である。
[数5]
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160―log10) ・・・(1)
【0230】
上記数式(1)中、Q160値は280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)((株)島津製作所製:CFT-500D型を用いて測定(以下同様)し、ストローク=7.0〜10.0mmより算出)を表し、Q10値は280℃、荷重10kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)(ストローク=7.0〜10.0mmより算出)を表す。(なお、ノズル径1mm×ノズル長10mm)
【0231】
構造粘性指数「N値」は、芳香族ポリカーボネート樹脂の分岐化度の指標とされる。本発明のポリカーボネート共重合体におけるN値は低く、分岐構造の含有割合が少なく直鎖構造の割合が高い。ポリカーボネート樹脂は一般に、同じMwに於いては分岐構造の割合を多くすると(N値を高くすると)流動性が高くなる(Q値が高くなる)傾向にあるが、本発明のポリカーボネート共重合体は、N値を低く保ったまま高い流動性(高いQ値)を達成している。
【0232】
(8)MwとQ値との関係
本発明のポリカーボネート共重合体においては、前記MwとQ値が、好ましくは下記数式(2)を満たす関係にあり、より好ましくは下記数式(3)を満たす関係にあり、すなわち本発明のポリカーボネート共重合体は、高分子量(高Mw)及び高流動性(Q値)を同時に備えることができる。下記数式(2)好ましくは(3)を満たすポリカーボネート共重合体は、これまで知られていなかった。
【0233】
[数6]
4.61×EXP(-0.0000785×Mw)<Q(ml/s) ・・・(2)
4.61×EXP(-0.0000785×Mw)<Q(ml/s)<2.30×EXP(-0.0000310×Mw) ・・・(3)
【0234】
従来のポリカーボネート樹脂は、高分子量化すれば流動性は低下し、流動性を向上させようとすれば低分子量成分を増やす必要があり、ポリマーそれ自体の性質として高分子量であって且つ高流動性を具備せしめることは、これまで容易に実現し得なかったことである。これに対し本発明のポリカーボネート共重合体が高分子量であって且つ高流動性を有することは、その新規な分子構造によるものと考えられる。
【0235】
(9)ポリカーボネート共重合体の製造方法
本発明のポリカーボネート共重合体は、前記一般式(II)で示される構造を主たる繰り返し単位とする重縮合ポリマー(以下、「芳香族ポリカーボネートプレポリマー」という場合がある。)と、前記一般式(I)で示される構造を誘導する脂肪族ジオール化合物とを、減圧条件でエステル交換反応させることによって得られる。このようにして得られるポリカーボネート共重合体が、耐衝撃性等のポリカーボネート樹脂本来の特性を維持しつつ、高分子量でありながら高流動性を与える。
特に、本発明のポリカーボネート共重合体は、後述する特定条件を満たす末端封止された芳香族ポリカーボネート化合物を用いることが好ましい。
【0236】
また上記一般式(II)であらわされる繰り返し単位構造を有する芳香族ポリカーボネートプレポリマーを製造するとき、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物とともに、一分子中に3個以上の官能基を有する多官能化合物を併用することもできる。このような多官能化合物としてはフェノール性水酸基、カルボキシル基を有する化合物が好ましく使用される。
【0237】
さらに上記一般式(II)であらわされる繰り返し単位構造を有する芳香族ポリカーボネートプレポリマーを製造するとき、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物とともに、ジカルボン酸化合物を併用し、ポリエステルカーボネートとしても構わない。前記ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が好ましく、これらのジカルボン酸は酸クロライドまたはエステル化合物として反応させることが好ましく採用される。また、ポリエステルカーボネート樹脂を製造する際に、ジカルボン酸は、前記ジヒドロキシ成分とジカルボン酸成分との合計を100モル%とした時に、0.5〜45モル%の範囲で使用することが好ましく、1〜40モル%の範囲で使用することがより好ましい。
【0238】
上記芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、その少なくとも一部が芳香族モノヒドロキシ化合物由来の末端基あるいは末端フェニル基(以下、「封止末端基」ともいう)で封止されていることが好ましい。その封止末端基の割合としては、全末端量に対して60モル%以上の場合に特に効果が著しい。また、末端フェニル基濃度(全構成単位に対する封止末端基の割合)は2モル%以上、好ましくは2〜20モル%、特に好ましくは2〜12モル%である。末端フェニル基濃度が2モル%以上の場合に脂肪族ジオール化合物との反応が速やかに進行し、本願発明特有の効果が特に顕著に発揮される。ポリマーの全末端量に対する封止末端量の割合は、ポリマーのH−NMR解析により分析することができる。
【0239】
また、Ti複合体による分光測定によって末端水酸基濃度を測定することが可能である。同評価による末端水酸基濃度としては1,500ppm以下が好ましく、さらに好ましくは1,000ppm以下が好適である。この範囲を超える水酸基末端或いはこの範囲未満の封止末端量では脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応によって十分な高分子量化の効果が得られず、本発明の要件(a)〜(d)を満たすポリカーボネート共重合体が得られない場合がある。
【0240】
ここでいう「ポリカーボネートの全末端基量」または「芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量」は、例えば分岐の無いポリカーボネート(または鎖状ポリマー)0.5モルがあれば、全末端基量は1モルであるとして計算される。
【0241】
封止末端基の具体例としては、フェニル末端、クレジル末端、o−トリル末端、p−トリル末端、p−tert−ブチルフェニル末端、ビフェニル末端、o−メトキシカルボニルフェニル末端、p−クミルフェニル末端などの末端基を挙げることができる。
【0242】
これらの中では、脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応で反応系より除去されやすい低沸点の芳香族モノヒドロキシ化合物で構成される末端基が好ましく、フェニル末端、p−tert−ブチルフェニル末端などが特に好ましい。
【0243】
このような封止末端基は、界面法においては芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造時に末端停止剤を用いることにより導入することができる。末端停止剤の具体例としては、p−tert−ブチルフェノール、フェノール、p-クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。末端停止剤の使用量は、所望する芳香族ポリカーボネートプレポリマーの末端量(すなわち所望する芳香族ポリカーボネートプレポリマーの分子量)や反応装置、反応条件等に応じて適宜決定することができる。
【0244】
溶融法においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造時にジフェニルカーボネートのごとき炭酸ジエステルを芳香族ジヒドロキシ化合物に対して過剰に使用することにより、封止末端基を導入することができる。反応に用いる装置及び反応条件にもよるが、具体的には芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して炭酸ジエステルを1.00〜1.30モル、より好ましくは1.02〜1.20モル使用する。これにより、上記末端封止量を満たす芳香族ポリカーボネートプレポリマーが得られる。
【0245】
本発明において好ましくは、芳香族ポリカーボネートプレポリマーとして、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを反応(エステル交換反応)させて得られる末端封止された重縮合ポリマーを使用する。
【0246】
上記芳香族ポリカーボネートプレポリマーの分子量としては、Mwが5,000〜60,000が望ましい。より好ましくはMwが10,000〜50,000、さらに好ましくは10,000〜40,000の範囲の芳香族ポリカーボネートプレポリマーが望ましい。
【0247】
この範囲を超えた低分子量の芳香族ポリカーボネートプレポリマーを使用すると、本発明により得られる共重合体は、より共重合成分の物性影響が大きくなる場合がある。これにより物性改良を行うことは可能であるが、芳香族ポリカーボネートの有用な物性を維持する効果は不十分となる場合がある。
【0248】
この範囲を超えた高分子量の芳香族ポリカーボネートプレポリマーを使用すると、該芳香族ポリカーボネートプレポリマー自体が高粘度のため、プレポリマーの製造を高温・高剪断・長時間にて実施することが必要となる、及び/又は脂肪族ジオール化合物との反応を高温・高剪断・長時間にて実施することが必要となる場合があり、芳香族ポリカーボネートの有用な物性を維持しつつ高流動性を有するポリカーボネート共重合体を得るには好ましくない場合がある。
【0249】
本発明においては、末端封止された芳香族ポリカーボネートプレポリマーに脂肪族ジオール化合物をエステル交換触媒存在下、減圧条件にて作用させることにより、温和な条件で高速に高分子量化が達成される。すなわち、脂肪族ジオールにより芳香族ポリカーボネートプレポリマーが開裂反応を起こした後エステル交換反応により脂肪族ポリカーボネートユニットが生成する反応よりも、脂肪族ジオール化合物と芳香族ポリカーボネートプレポリマーとの反応が速く進行する。
【0250】
そしてその結果、上記一般式(III)において脂肪族ジオール化合物由来の構造単位の鎖長(i値)が1である高分子化合物が、i値が2以上の脂肪族ポリカーボネートユニットを持つ高分子化合物よりもはるかに多く生成することとなり、i値が1である高分子化合物の割合が極めて高い本発明のポリカーボネート共重合体が得られる。
【0251】
上記一般式(I)で表される構造単位と一般式(II)で表される構造単位とを本発明と同様の割合で含むポリカーボネート共重合体が従来から存在していたとしても、芳香族ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジオール化合物、およびカーボネート結合形成性化合物を一括して反応させる方法では、上記一般式(III)においてi値が1である高分子化合物の割合が極めて高いポリカーボネート共重合体は得られない。そして、上記一般式(III)においてi値が1である高分子化合物の割合が低いポリカーボネート共重合体では、ポリカーボネート樹脂本来の物性を保持し、高分子量であり且つ高流動性を有していても、分岐の多い(分岐度N値の大きい)ポリマーとなり、ゲル化したり、色相や耐衝撃性、耐ストレスクラッキング性等の機械的強度が低下したりする傾向になる場合がある。
【0252】
本発明のように末端封止された芳香族ポリカーボネートプレポリマーに脂肪族ジオール化合物をエステル交換触媒存在下、減圧条件にて作用させる方法で得られたポリカーボネート共重合体は、高分子量でありながら高いQ値を示し、さらに好ましくは低いN値を示し、また本発明において必ずしも好ましくない作用効果をもたらす可能性のある異種構造を有するユニットの割合が極めて少ない。ここで、異種構造を有するユニットとは、従来の溶融法で得られるポリカーボネートに多く含まれる分岐点ユニットなどを言う。異種構造を有するユニットとしては、例えば以下に示す構造を有するユニットが挙げられるが、これらに限られない。なお、下記式中の(R1)p、(R2)q、及びXは、上記一般式(II)において示したものと同様である。Yは、水素原子、フェニル基、メチル基、一般式(II)などが結合していることを示す。
【0253】
【化61】
【0254】
上記芳香族ポリカーボネートプレポリマーとエステル交換反応させる前記一般式(I)で示される構造を誘導する脂肪族ジオール化合物として使用可能なものは、上述した通りである。
【0255】
本発明で脂肪族ジオール化合物の添加量としては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量1モルに対して0.01〜1.0モルであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0モルであり、さらに好ましくは0.2〜0.7モルである。ただし、比較的沸点が低いものを使用するときは、反応条件によっては一部が揮発などにより反応に関与しないまま系外へ出る可能性を考慮して、予め過剰量を添加することもできる。例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノール(沸点283℃)、p−キシリレングリコール(沸点288℃)、m−キシリレングリコール(沸点290℃)、ポリカーボネートジオールなどについては、得られるポリカーボネート共重合体中の脂肪族ジオール化合物由来の構造単位量を所望の範囲とするために、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量1モルに対して最大50モル程度添加することもできる。
【0256】
脂肪族ジオール化合物の使用量がこの範囲を超えて多いと共重合割合が上昇し、共重合成分である上記一般式(I)で表される脂肪族ジオール化合物由来の構造単位の物性影響が大きくなる場合がある。これにより物性改良を行うことは可能であるが、芳香族ポリカーボネートの有用な物性を維持する効果としては好ましくない場合がある。一方、脂肪族ジオール化合物の使用量がこの範囲未満では、高分子量化及び高流動化の効果が少ないため好ましくない場合がある。
【0257】
なお、本発明のポリカーボネート共重合体の製造に用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジオール化合物、カーボネート結合形成性化合物といった原料化合物の化学純度はいずれも高いことが好ましい。市販品、工業用レベルの化学純度で製造は可能であるが、低純度品を用いた場合、不純物由来の副生成物や異種骨格構造を含むこととなるため、得られる樹脂及び成形体の着色が強くなったり、熱安定性や強度等の諸物性が低下し、ポリカーボネート樹脂本来の物性維持が困難となったりする場合がある。
【0258】
脂肪族ジオール化合物の好ましい化学純度としては、70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。ジフェニルカーボネート等のカーボネート結合形成性化合物の好ましい化学純度は80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。芳香族ジヒドロキシ化合物の好ましい化学純度は90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0259】
なお、脂肪族ジオール化合物が下記式で表される化合物(BPEFなど)の場合、該脂肪族ジオール化合物を主体とする原料化合物に含まれる、化学純度を下げる要因となりうる不純物について説明する。
【0260】
【化62】
【0261】
上記脂肪族ジオール化合物を主体とする原料化合物に含まれる、化学純度を下げる要因となりうる不純物の一例としては、主に以下のような化合物が挙げられる。
【0262】
【化63】
【0263】
これらの構造を有する不純物の含有量は、脂肪族ジオール化合物を主体とする原料化合物中、30%以下、好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下であることが望ましい。
【0264】
また、上記原料化合物には化学純度を下げる不純物の他に塩素、窒素、ホウ素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、軽金属、重金属なども不純物として含まれる場合があるが、原料化合物に含まれる塩素量、窒素量、ホウ素量、アルカリ金属量、アルカリ土類金属量、軽金属量、重金属量は低いことが好ましい。
【0265】
アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びこれらの塩や誘導体が挙げられる。アルカリ土類金属としてはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びこれらの塩や誘導体が挙げられる。軽金属としては、チタン、アルミニウム及びこれらの塩や誘導体が挙げられる。
【0266】
重金属としては、具体的にはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金、金、タリウム、鉛、ビスマス、ヒ素、セレン、テルル及びこれらの塩や誘導体が挙げられる。
これらの不純物は全ての原料化合物において低いことが好ましい。
【0267】
脂肪族ジオール化合物に含まれる不純物の含有量は、塩素としては3ppm以下、好ましくは2ppm以下、より好ましくは1ppm以下、窒素としては100ppm以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属量、チタン及び重金属(中でも鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、モリブデン、スズ)としては10ppm以下、好ましくは5ppm、より好ましくは1ppm以下が好ましい。
【0268】
その他の原料(芳香族ジヒドロキシ化合物及びカーボネート結合形成性化合物)に含まれる不純物の含有量は、塩素としては2ppm以下、好ましくは1ppm以下、より好ましくは0.8ppm以下、窒素としては100ppm以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属量、チタン及び重金属(中でも鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、モリブデン、スズ)としては10ppm以下、好ましくは5ppm、より好ましくは1ppm以下が好ましい。
【0269】
金属分の混入量が多い場合、触媒作用により反応がより早くなったり、逆に反応性が悪化することがあり、その結果、想定した反応の進行が阻害されて副反応が進行し、自然発生する分岐構造が増加したり、予想外にN値が増大したりする場合がある。さらに、得られる樹脂及び成形体においても、着色が強くなったり、熱安定性等の諸物性が低下したりする場合がある。
【0270】
芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応に使用する温度としては、240℃〜320℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは260℃〜310℃、より好ましくは270℃〜300℃である。
【0271】
また、減圧度としては13kPaA(100torr)以下が好ましく、さらに好ましくは1.3kPaA(10torr)以下、より好ましくは0.67〜0.013kPaA(5〜0.1torr)である。
【0272】
本エステル交換反応に使用される塩基性化合物触媒としては、特にアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物、含窒素化合物等があげられる。
【0273】
このような化合物としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属化合物等の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物あるいはアルコキシド、4級アンモニウムヒドロキシドおよびそれらの塩、アミン類等が好ましく用いられ、これらの化合物は単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0274】
アルカリ金属化合物としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が用いられる。
【0275】
アルカリ土類金属化合物としては、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が用いられる。
【0276】
含窒素化合物としては、具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル基および/またはアリール基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類、プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類、あるいは、アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基あるいは塩基性塩等が用いられる。
【0277】
エステル交換触媒としては、亜鉛、スズ、ジルコニウム、鉛の塩が好ましく用いられ、これらは単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0278】
エステル交換触媒としては、具体的には、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)等が用いられる。
【0279】
これらの触媒は、芳香族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、1×10−9〜1×10−3モルの比率で、好ましくは1×10−7〜1×10−5モルの比率で用いられる。
【0280】
本発明においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応により、反応後のポリカーボネート共重合体の重量平均分子量(Mw)が前記芳香族ポリカーボネートプレポリマーの重量平均分子量(Mw)よりも5,000以上高めることが好ましく、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは15,000以上高めるのが好ましい。
【0281】
脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応における装置の種類や釜の材質などは公知のいかなるものを用いても良く、連続式で行っても良くまたバッチ式で行ってもよい。上記の反応を行うに際して用いられる反応装置は、錨型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、ヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型であっても、パドル翼、格子翼、メガネ翼等を装備した横型であってもスクリューを装備した押出機型であってもよく、また、これらを重合物の粘度を勘案して適宜組み合わせた反応装置を使用することが好適に実施される。好ましくは横型撹拌効率の良い回転翼を有し、減圧条件にできるユニットをもつものがよい。
さらに好ましくは、ポリマーシールを有し、脱揮構造をもつ2軸押出機あるいは横型反応機が好適である。
【0282】
装置の材質としては、SUS310、SUS316やSUS304等のステンレスや、ニッケル、窒化鉄などポリマーの色調に影響のない材質が好ましい。また装置の内側(ポリマーと接触する部分)には、バフ加工あるいは電解研磨加工を施したり、クロムなどの金属メッキ処理を行ったりしても良い。
【0283】
本発明においては、分子量が高められたポリマーに触媒の失活剤を用いることができる。一般的には、公知の酸性物質の添加による触媒の失活を行う方法が好適に実施される。これらの物質としては、具体的にはp-トルエンスルホン酸のごとき芳香族スルホン酸、パラトルエンスルホン酸ブチル等の芳香族スルホン酸エステル類、ステアリン酸クロライド、酪酸クロライド、塩化ベンゾイル、トルエンスルホン酸クロライドのような有機ハロゲン化物、ジメチル硫酸のごときアルキル硫酸塩、塩化ベンジルのごとき有機ハロゲン化物等が好適に用いられる。
【0284】
触媒失活後、ポリマー中の低沸点化合物を0.013〜0.13kPaA(0.1〜1torr)の圧力、200〜350℃の温度で脱揮除去する工程を設けても良く、このためには、パドル翼、格子翼、メガネ翼等、表面更新能の優れた攪拌翼を備えた横型装置、あるいは薄膜蒸発器が好適に用いられる。
好ましくは、ポリマーシールを有し、ベント構造をもつ2軸押出機あるいは横型反応機が好適である。
【0285】
さらに本発明に於いて、上記熱安定化剤、加水分解安定化剤の他に、酸化防止剤、顔料、染料、強化剤や充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良材、帯電防止剤等を添加することができる。
【0286】
これらの添加剤は、従来から公知の方法で各成分をポリカーボネート樹脂に混合することができる。例えば、各成分をターンブルミキサーやヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサーで代表される高速ミキサーで分散混合した後、押出機、バンバリーミキサー、ロール等で溶融混練する方法が適宜選択される。
【0287】
芳香族ポリカーボネートの色相評価は一般にYI値にて表わされる。通常、界面重合法から得られる分岐化芳香族ポリカーボネート樹脂のYI値としては0.8〜1.0を示す。一方、一般に、溶融重合法により得られる従来の芳香族ポリカーボネートの高分子量体は製造工程に伴う品質の低下により、YI値は1.7〜2.0を示す。しかしながら本発明により得られるポリカーボネート共重合体のYI値は界面重合法により得られる芳香族ポリカーボネートと同等のYI値を示し、色相の悪化は見られない。
【0288】
II.高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法
本発明の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、芳香族ポリカーボネートと、上記脂肪族ジオール化合物のうち特定構造の分岐状脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程を含むことを特徴とする。
【0289】
(1)脂肪族ジオール化合物
本発明の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法で用いられる分岐状脂肪族ジオール化合物は、下記一般式(g1)で表されるものである。
【0290】
【化64】
【0291】
一般式(g1)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。mは1〜30、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜3の整数を表す。
一般式(g1)中、Ra及びRbとしてより好ましくは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基である。特に好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びi−ブチル基が挙げられる。
【0292】
一般式(g1)で表される脂肪族ジオール化合物として好ましいものは、下記一般式(g2)で表される化合物である。一般式(g2)中、Ra及びRbは一般式(g1)におけるのと同じである。nは1〜28、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3、特に好ましくは1の整数を表す。
一般式(g2)中、Ra及びRbとしてより好ましくは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基である。特に好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びi−ブチル基が挙げられる。
【0293】
【化65】
【0294】
一般式(g2)で表される脂肪族ジオール化合物としてより好ましいものは、下記一般式(g3)で表される化合物である。一般式(g3)中、Ra及びRbは一般式(g1)におけるのと同じである。
【0295】
【化66】
【0296】
一般式(g3)中、Ra及びRbとしてより好ましくは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基、さらに好ましくは炭素数2〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基である。特に好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びi−ブチル基が挙げられ、好ましくはエチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びi−ブチル基が挙げられる。
【0297】
かかる脂肪族ジオール化合物としては、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、エタン−1,2−ジオール(1,2−エチレングリコール)、2,2-ジイソアミルプロパン−1,3−ジオール、及び2−メチルプロパン−1,3−ジオールが挙げられる。
【0298】
これらのうちで特に好ましいものは、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール及び2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオールである。
【0299】
また、本発明の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法では、下記一般式(g4)で表される脂肪族ジオール化合物を用いることもできる。
【化67】
【0300】
一般式(g4)中、Rは下記式で表される二価の炭化水素基から選択される。
【化68】
【0301】
好ましくは、一般式(g4)中、Rは−(CH−で表される二価の炭化水素基(mは3〜20の整数)、又は−CH−C(CH−CH−を表す。−(CH−としてより好ましくは−(CH−で表される二価の炭化水素基(mは3〜8の整数)を表す。nは1〜20の整数、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2、特に好ましくは1の整数を表す。具体的には、ビス(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル)カーボネートなどが挙げられる。
【0302】
(2)芳香族ポリカーボネート
本発明の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法で用いられる芳香族ポリカーボネートは、上記ポリカーボネート共重合体の製造に用いられるのと同様に、前記一般式(II)で示される構造を主たる繰り返し単位とする重縮合ポリマー(芳香族ポリカーボネートプレポリマー)である。本発明の製造方法は、かかる芳香族ポリカーボネートプレポリマーと、前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物とを、減圧下でエステル交換反応させる工程を含む。これによって、耐衝撃性等のポリカーボネート樹脂本来の特性を維持しつつ、高分子量でありながら高流動性を与える連結高分子量化されたポリカーボネートの利点を有し、しかも耐熱性が格段に向上した芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる。
【0303】
本発明で用いられる芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、界面重合法で合成したものであっても溶融重合法で合成したものであってもよく、また、固相重合法や薄膜重合法などの方法で合成したものであってもよい。また、使用済みディスク成形品等の使用済み製品から回収されたポリカーボネートなどを用いることも可能である。これらのポリカーボネートは混合して反応前のポリマーとして利用しても差し支えない。たとえば界面重合法で重合したポリカーボネートと溶融重合法で重合したポリカーボネートとを混合してもよく、また、溶融重合法あるいは界面重合法で重合したポリカーボネートと使用済みディスク成形品等から回収されたポリカーボネートとを混合して用いても構わない。
【0304】
本発明でいう芳香族ポリカーボネートプレポリマーとは、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート結合形成性化合物との反応生成物を主たる繰り返し単位とする重縮合体と言うことができる。
【0305】
したがって、かかる芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、それぞれの構造を誘導する芳香族ジヒドロキシ化合物を塩基性触媒の存在下に炭酸ジエステルと反応させる公知のエステル交換法、あるいは芳香族ジヒドロキシ化合物を酸結合剤の存在下にホスゲン等と反応させる公知の界面重縮合法、のいずれによっても容易に得ることができる。
特に、本発明の方法では、後述する特定条件を満たす末端封止された芳香族ポリカーボネート化合物を用いることが好ましい。
【0306】
また芳香族ポリカーボネートプレポリマーを製造するとき、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物とともに、一分子中に3個以上の官能基を有する多官能化合物を併用することもできる。このような多官能化合物としてはフェノール性水酸基、カルボキシル基を有する化合物が好ましく使用される。
【0307】
さらに芳香族ポリカーボネートプレポリマーを製造するとき、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物とともに、ジカルボン酸化合物を併用し、ポリエステルカーボネートとしても構わない。前記ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が好ましく、これらのジカルボン酸は酸クロライドまたはエステル化合物として反応させることが好ましく採用される。また、ポリエステルカーボネート樹脂を製造する際に、ジカルボン酸は、前記ジヒドロキシ成分とジカルボン酸成分との合計を100モル%とした時に、0.5〜45モル%の範囲で使用することが好ましく、1〜40モル%の範囲で使用することがより好ましい。
【0308】
上記芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、その少なくとも一部が芳香族モノヒドロキシ化合物由来の末端基あるいは末端フェニル基(以下、「封止末端基」ともいう)で封止されていることが好ましい。その封止末端基の割合としては、全末端量に対して60モル%以上の場合に特に効果が著しい。また、末端フェニル基濃度(全構成単位に対する封止末端基の割合)は2モル%以上、好ましくは2〜20モル%、特に好ましくは2〜12モル%である。末端フェニル基濃度が2モル%以上の場合に脂肪族ジオール化合物との反応が速やかに進行し、本願発明特有の効果が特に顕著に発揮される。ポリマーの全末端量に対する封止末端量の割合は、ポリマーのH−NMR解析により分析することができる。
【0309】
また、Ti複合体による分光測定によって末端水酸基濃度を測定することが可能である。同評価による末端水酸基濃度としては1,500ppm以下が好ましく、さらに好ましくは1,000ppm以下が好適である。この範囲を超える水酸基末端或いはこの範囲未満の封止末端量では脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応によって十分な高分子量化の効果が得られないおそれがある。
【0310】
ここでいう「ポリカーボネートの全末端基量」または「芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量」は、例えば分岐の無いポリカーボネート(または鎖状ポリマー)0.5モルがあれば、全末端基量は1モルであるとして計算される。
【0311】
封止末端基の具体例としては、フェニル末端、クレジル末端、o−トリル末端、p−トリル末端、p−tert−ブチルフェニル末端、ビフェニル末端、o−メトキシカルボニルフェニル末端、p−クミルフェニル末端などの末端基を挙げることができる。
【0312】
これらの中では、脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応で反応系より除去されやすい低沸点の芳香族モノヒドロキシ化合物で構成される末端基が好ましく、フェニル末端、p−tert−ブチルフェニル末端などが特に好ましい。
【0313】
このような封止末端基は、界面法においては芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造時に末端停止剤を用いることにより導入することができる。末端停止剤の具体例としては、p−tert−ブチルフェノール、フェノール、p-クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。末端停止剤の使用量は、所望する芳香族ポリカーボネートプレポリマーの末端量(すなわち所望する芳香族ポリカーボネートプレポリマーの分子量)や反応装置、反応条件等に応じて適宜決定することができる。
【0314】
溶融法においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造時にジフェニルカーボネートのごとき炭酸ジエステルを芳香族ジヒドロキシ化合物に対して過剰に使用することにより、封止末端基を導入することができる。反応に用いる装置及び反応条件にもよるが、具体的には芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して炭酸ジエステルを1.00〜1.30モル、より好ましくは1.02〜1.20モル使用する。これにより、上記末端封止量を満たす芳香族ポリカーボネートプレポリマーが得られる。
【0315】
本発明において好ましくは、芳香族ポリカーボネートプレポリマーとして、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを反応(エステル交換反応)させて得られる末端封止された重縮合ポリマーを使用する。
【0316】
上記芳香族ポリカーボネートプレポリマーの分子量としては、Mwが5,000〜60,000が望ましい。より好ましくはMwが10,000〜50,000、さらに好ましくは10,000〜40,000の範囲の芳香族ポリカーボネートプレポリマーが望ましい。
【0317】
この範囲を超えた高分子量の芳香族ポリカーボネートプレポリマーを使用すると、該芳香族ポリカーボネートプレポリマー自体が高粘度のため、プレポリマーの製造を高温・高剪断・長時間にて実施することが必要となる、及び/又は、脂肪族ジオール化合物との反応を高温・高剪断・長時間にて実施することが必要となる場合がある。
本発明の方法では、後述する特定条件を満たす末端封止された芳香族ポリカーボネート化合物を用いることが好ましい。
【0318】
(3)環状カーボネート
本発明においては、末端封止された芳香族ポリカーボネートプレポリマーに脂肪族ジオール化合物をエステル交換触媒存在下、減圧条件にて作用させることにより、芳香族ポリカーボネートプレポリマーが高分子量化する。この反応は温和な条件で高速に進み、高分子量化が達成される。すなわち、脂肪族ジオールにより芳香族ポリカーボネートプレポリマーが開裂反応を起こした後エステル交換反応により脂肪族ポリカーボネートユニットが生成する反応よりも、脂肪族ジオール化合物と芳香族ポリカーボネートプレポリマーとの反応が速く進行する。
【0319】
ここで、本発明の上記特定構造の脂肪族ジオール化合物を反応させる方法においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物との反応が進行するとともに、脂肪族ジオール化合物の構造に対応した構造を有する環状体である環状カーボネートが副生する。副生する環状カーボネートを反応系外へ除去することによって、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの高分子量化が進行し、最終的には従来のホモポリカーボネート(例えばビスフェノールA由来のホモポリカーボネート樹脂)とほぼ同じ構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる。
【0320】
すなわち、本発明の好ましい製造方法は、芳香族ポリカーボネートと脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程と、前記高分子量化反応で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含む。
【0321】
なお、高分子量化工程と環状カーボネート除去工程とは、必ずしも物理的及び時間的に別々の工程とする必要はなく、実際には同時に行われる。本発明の好ましい製造方法は、芳香族ポリカーボネートと脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化するとともに、前記高分子量化反応で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する工程を含むものである。
【0322】
副生する環状カーボネートは、下記一般式(h1)で表される構造を有する化合物である。
【化69】
【0323】
一般式(h1)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。mは1〜30、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜3の整数を表す。
【0324】
一般式(h1)中、Ra及びRbとしてより好ましくは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基である。特に好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びi−ブチル基が挙げられる。
【0325】
前記一般式(h1)で表される環状カーボネートとして好ましくは、下記一般式(h2)で表される化合物である。
【化70】
【0326】
一般式(h2)中、Ra及びRbはそれぞれ上述した一般式(h1)におけるのと同様である。nは1〜28、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3、特に好ましくは1の整数を表す。
【0327】
一般式(h2)中、Ra及びRbとしてより好ましくは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基である。特に好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びi−ブチル基が挙げられる。
【0328】
前記一般式(h2)で表される環状カーボネートとしてより好ましくは、下記一般式(h3)で表される化合物である。一般式(h3)中、Ra及びRbはそれぞれ上述した一般式(h2)におけるのと同様である。
【0329】
【化71】
【0330】
上記環状カーボネートの具体例としては、以下に示す構造の化合物が挙げられる。
【化72】
【0331】
本発明の前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法は、従来の溶融法によるポリカーボネートの製造方法と比べ、高速で高分子量化することができるという利点を有する。これは、本発明者らが見出した他の脂肪族ジオール化合物を連結剤として用いる連結高分子量化方法によって得られる高分子量ポリカーボネート樹脂と同様である。
【0332】
しかしながら、本発明の前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法では、高分子量化反応の進行とともに、特定構造の環状カーボネートが副生する。そして、副生する環状カーボネートを反応系外へ除去した後には、ほぼホモポリカーボネート樹脂と同じ骨格を有する高分子量ポリカーボネート樹脂が得られる。副生する環状カーボネートは使用する脂肪族ジオール化合物に対応する構造を有しており、脂肪族ジオール化合物由来の環状体であると考えられるが、このような高分子量化とともに環状カーボネートが副生される反応機構は、必ずしも明らかではない。
【0333】
例えば以下のスキーム(1)又は(2)に示すメカニズムが考えられるが、必ずしも明確ではない。本発明の前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーに特定構造の脂肪族ジオール化合物を反応させ、そこで副生する脂肪族ジオール化合物の構造に対応する構造の環状カーボネートを除去するものであり、いかなる反応機構に限定されるものでもない。
【0334】
スキーム(1):
【化73】
【0335】
スキーム(2):
【化74】
【0336】
本発明の前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法によって得られる高分子量ポリカーボネート樹脂は、連結剤を用いた連結高分子量化方法によって得られる高分子量ポリカーボネート共重合体と異なり、連結剤由来の共重合成分はほとんど含まれず、樹脂の骨格はホモポリカーボネート樹脂とほぼ同じである。
【0337】
このため、他の連結高分子量化方法によって得られる高分子量ポリカーボネート樹脂と比べ、連結剤である脂肪族ジオール化合物由来の共重合成分が骨格に含まれないか、含まれるとしても極めて少量であることから、熱安定性が極めて高く耐熱性に優れている。一方で、従来のホモポリカーボネート樹脂と同じ骨格を有しながら、他の連結高分子量化方法によって得られる高分子量ポリカーボネート樹脂と共通する利点としてN値が低い、異種構造を有するユニットの割合が少ない、色調に優れている、などの優れた品質を備えることができる。ここで、異種構造を有するユニットとは、従来の溶融法で得られるポリカーボネートに多く含まれる分岐点ユニットなどを言う。異種構造を有するユニットの具体例としては、上記のポリカーボネート共重合体に関して言及した異種構造を有するユニットと同様のユニットが挙げられるが、これらに限られない。
【0338】
本発明の前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法によって得られる高分子量ポリカーボネート樹脂の骨格に脂肪族ジオール化合物由来の共重合成分が含まれる場合、高分子量ポリカーボネート樹脂の全構造単位量に対する該脂肪族ジオール化合物由来の構造単位の割合は1モル%以下、より好ましくは0.1モル%以下である。
【0339】
本発明で脂肪族ジオール化合物の使用量としては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量1モルに対して0.01〜1.0モルであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0モルであり、さらに好ましくは0.2〜0.7モルである。ただし、比較的沸点が低いものを使用するときは、反応条件によっては一部が揮発などにより反応に関与しないまま系外へ出る可能性を考慮して、予め過剰量を添加することもできる。例えば、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量1モルに対して最大50モル、好ましくは10モル、より好ましくは5モル添加することもできる。
【0340】
なお、本発明の上記高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造に用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジオール化合物、カーボネート結合形成性化合物といった原料化合物の化学純度はいずれも高いことが好ましい。市販品、工業用レベルの化学純度で製造は可能であるが、低純度品を用いた場合、不純物由来の副生成物や異種骨格構造を含むこととなるため、得られる樹脂及び成形体の着色が強くなったり、熱安定性や強度等の諸物性が低下し、ポリカーボネート樹脂本来の物性維持が困難となったりする場合がある。
【0341】
脂肪族ジオール化合物の好ましい化学純度及び不純物許容量は、上記ポリカーボネート共重合体の製造に用いられるものと同様である。また、さらに純度の良い原料を用いることによって、色調や分子量保持率(高温下で熱滞留を課した時の分子量低下をどの程度抑えられるかを表す指標)をさらに改善することができる。
【0342】
(3)製造方法
以下に、本発明の前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法の詳細な条件を説明する。
(i)脂肪族ジオール化合物の添加
本発明の前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーに脂肪族ジオール化合物を添加混合し、高分子量化反応器内で高分子量化反応(エステル交換反応)を行う。
【0343】
芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物との添加混合方法については特に制限されないが、脂肪族ジオール化合物として沸点の比較的高いもの(沸点約240℃以上)を使用する場合には、前記脂肪族ジオール化合物は、減圧度10torr(1333Pa以下)以下の高真空下で、直接高分子量化反応器へ供給することが好ましい。より好ましくは、減圧度2.0torr以下(267Pa以下)、より好ましくは0.01〜1torr(1.3〜133Pa以下)である。脂肪族ジオール化合物を高分子量化反応器へ供給する際の減圧度が不十分であると、副生物(フェノール)によるプレポリマー主鎖の開裂反応が進行してしまい、高分子量化するためには反応混合物の反応時間を長くせざるを得なくなる場合がある。
【0344】
一方、脂肪族ジオール化合物として沸点の比較的低いもの(沸点約350℃以下)を使用する場合には、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とを比較的ゆるやかな減圧度で混合することもできる。例えば、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物と常圧に近い圧力で混合してプレポリマー混合物としたのち、該プレポリマー混合物を減圧条件下の高分子量化反応に供することにより、沸点の比較的低い脂肪族ジオール化合物であっても揮発が最小限に抑えられ、過剰に使用する必要性がなくなる。
【0345】
(ii)エステル交換反応(高分子量化反応)
芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応(高分子量化反応)に使用する温度としては、240℃〜320℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは260℃〜310℃、より好ましくは270℃〜300℃である。
【0346】
また、減圧度としては13kPaA(100torr)以下が好ましく、さらに好ましくは1.3kPaA(10torr)以下、より好ましくは0.67〜0.013kPaA(5〜0.1torr)である。
【0347】
本エステル交換反応に使用される塩基性化合物触媒としては、特にアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物、含窒素化合物等があげられる。
【0348】
このような化合物としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属化合物等の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物あるいはアルコキシド、4級アンモニウムヒドロキシドおよびそれらの塩、アミン類等が好ましく用いられ、これらの化合物は単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0349】
アルカリ金属化合物としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が用いられる。
【0350】
アルカリ土類金属化合物としては、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が用いられる。
【0351】
含窒素化合物としては、具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル基および/またはアリール基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類、プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類、あるいは、アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基あるいは塩基性塩等が用いられる。
【0352】
エステル交換触媒としては、亜鉛、スズ、ジルコニウム、鉛の塩が好ましく用いられ、これらは単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0353】
エステル交換触媒としては、具体的には、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)等が用いられる。
【0354】
これらの触媒は、芳香族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、1×10−9〜1×10−3モルの比率で、好ましくは1×10−7〜1×10−5モルの比率で用いられる。
【0355】
(iii)環状カーボネート除去工程
本発明の方法では、上記高分子量化反応によって芳香族ポリカーボネートプレポリマーが高分子量化されると同時に、該反応で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する。副生する環状カーボネートを反応系外へ除去することによって芳香族ポリカーボネートプレポリマーの高分子量化反応が進行する。
【0356】
環状カーボネートの除去方法としては、例えば同じく副生するフェノール及び未反応の脂肪族ジオール化合物などとともに反応系より留去する方法が挙げられる。反応系より留去する場合の温度は260〜320℃である。
【0357】
環状カーボネートの除去については、副生する環状カーボネートの少なくとも一部について行う。副生する環状カーボネートの全てを除去するのが最も好ましいが、完全に除去するのは一般に難しい。完全に除去できない場合に製品化したポリカーボネート樹脂中に環状カーボネートが残存していることは許容される。製品中の残存量の好ましい上限は3000ppmである。すなわち、本発明の前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法では、後述するように、環状カーボネートが3000ppm以下含まれるポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
【0358】
反応系外へ留去された環状カーボネートは、その後加水分解、精製等の工程を経て回収・再利用(リサイクル)することができる。環状カーボネートとともに留去されるフェノールについても同様に回収し、ジフェニルカーボネート製造工程へ供給して再利用することができる。
【0359】
(iv)その他の製造条件
本発明においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応により、反応後のポリカーボネート共重合体の重量平均分子量(Mw)が前記芳香族ポリカーボネートプレポリマーの重量平均分子量(Mw)よりも5,000以上高めることが好ましく、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは15,000以上高めるのが好ましい。
【0360】
脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応における装置の種類や釜の材質などは公知のいかなるものを用いても良く、連続式で行っても良くまたバッチ式で行ってもよい。上記の反応を行うに際して用いられる反応装置は、錨型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、ヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型であっても、パドル翼、格子翼、メガネ翼等を装備した横型であってもスクリューを装備した押出機型であってもよく、また、これらを重合物の粘度を勘案して適宜組み合わせた反応装置を使用することが好適に実施される。好ましくは横型撹拌効率の良い回転翼を有し、減圧条件にできるユニットをもつものがよい。
さらに好ましくは、ポリマーシールを有し、脱揮構造をもつ2軸押出機あるいは横型反応機が好適である。
【0361】
装置の材質としては、SUS310、SUS316やSUS304等のステンレスや、ニッケル、窒化鉄などポリマーの色調に影響のない材質が好ましい。また装置の内側(ポリマーと接触する部分)には、バフ加工あるいは電解研磨加工を施したり、クロムなどの金属メッキ処理を行ったりしても良い。
【0362】
本発明においては、分子量が高められたポリマーに触媒の失活剤を用いることができる。一般的には、公知の酸性物質の添加による触媒の失活を行う方法が好適に実施される。これらの物質としては、具体的にはp-トルエンスルホン酸のごとき芳香族スルホン酸、パラトルエンスルホン酸ブチル等の芳香族スルホン酸エステル類、ステアリン酸クロライド、酪酸クロライド、塩化ベンゾイル、トルエンスルホン酸クロライドのような有機ハロゲン化物、ジメチル硫酸のごときアルキル硫酸塩、塩化ベンジルのごとき有機ハロゲン化物等が好適に用いられる。
【0363】
触媒失活後、ポリマー中の低沸点化合物を0.013〜0.13kPaA(0.1〜1torr)の圧力、200〜350℃の温度で脱揮除去する工程を設けても良く、このためには、パドル翼、格子翼、メガネ翼等、表面更新能の優れた攪拌翼を備えた横型装置、あるいは薄膜蒸発器が好適に用いられる。
好ましくは、ポリマーシールを有し、ベント構造をもつ2軸押出機あるいは横型反応機が好適である。
【0364】
さらに本発明に於いて、上記熱安定化剤、加水分解安定化剤の他に、酸化防止剤、顔料、染料、強化剤や充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良材、帯電防止剤等を添加することができる。
【0365】
これらの添加剤は、従来から公知の方法で各成分をポリカーボネート樹脂に混合することができる。例えば、各成分をターンブルミキサーやヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサーで代表される高速ミキサーで分散混合した後、押出機、バンバリーミキサー、ロール等で溶融混練する方法が適宜選択される。
【0366】
芳香族ポリカーボネートの色相評価は一般にYI値にて表わされる。通常、界面重合法から得られる分岐化芳香族ポリカーボネート樹脂のYI値としては0.8〜1.0を示す。一方、溶融重合法により得られる芳香族ポリカーボネートの高分子量体は製造工程に伴う品質の低下により、YI値は1.7〜2.0を示す。しかしながら本発明により得られるポリカーボネート樹脂のYI値は界面重合法により得られる芳香族ポリカーボネートと同等のYI値を示し、色相の悪化は見られない。また、さらに純度の良い原料を用いることによって、色調や分子量保持率(高温下で熱滞留を課した時の分子量低下をどの程度抑えられるかを表す指標)をさらに改善することができる。具体的には、分子量保持率は100%まで改善することができる。
【0367】
(4)高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂
本発明の前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法により得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)は30,000〜100,000、好ましくは30,000〜80,000、より好ましくは35,000〜75,000であり、高分子量でありながら、高い流動性を併せ持つ。重量平均分子量が低すぎると、ブロー成形、押出成形等の用途に用いた場合、溶融張力が低くなり、ドローダウンを生じやすく満足な成形品が得られなくなる。また、射出成形等の用途に用いた場合、糸引き等により満足な成形品が得られなくなる。さらに得られる成形品の機械的物性、耐熱性等の物性が低下する。また、オリゴマー領域が増大し、耐有機溶剤性等の物性も低下する。重量平均分子量が高すぎると、精密部品や薄物の射出成形が困難となり、成形サイクル時間が長時間となり生産コストへ悪影響を及ぼす。そのため、成形温度を上げる等の措置が必要となるが、高温下では、ゲル化、異種構造の出現、N値の増大などの可能性が生じる。
【0368】
また、本発明の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂においては、下記数式(1)で表されるN値(構造粘性指数)が、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.28以下、特に好ましくは1.25以下である。
[数7]
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160―log10) ・・・(1)
【0369】
上記数式(1)中、Q160値は280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)((株)島津製作所製:CFT-500D型を用いて測定(以下同様)し、ストローク=7.0〜10.0mmより算出)を表し、Q10値は280℃、荷重10kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)(ストローク=7.0〜10.0mmより算出)を表す。(なお、ノズル径1mm×ノズル長10mm)
【0370】
構造粘性指数「N値」は、芳香族ポリカーボネート樹脂の分岐化度の指標とされる。本発明のポリカーボネート共重合体におけるN値は低く、分岐構造の含有割合が少なく直鎖構造の割合が高い。ポリカーボネート樹脂は一般に、同じMwに於いては分岐構造の割合を多くしても流動性が高くなる(Q値が高くなる)傾向にあるが、本発明のポリカーボネート共重合体は、N値を低く保ったまま高い流動性(高いQ値)を達成している。
【0371】
(4)ポリカーボネート樹脂組成物
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の上記製造方法で得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とし、下記一般式(h1)で表される環状カーボネートを含むものである。すなわち、本発明の上記製造方法において得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂は、製造工程で副生する環状カーボネートを除去したのちに少量の残存環状ポリカーボネートを含んでいてもよい。
【0372】
【化75】
【0373】
一般式(h1)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。mは1〜30、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜3の整数を表す。
一般式(h1)中、Ra及びRbとしてより好ましくは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基である。特に好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びi−ブチル基が挙げられる。
【0374】
前記一般式(h1)で表される環状カーボネートとして好ましくは、下記一般式(h2)で表される化合物である。
【化76】
【0375】
一般式(h2)中、Ra及びRbはそれぞれ上述した一般式(h1)におけるのと同様である。nは1〜28、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3、特に好ましくは1の整数を表す。
【0376】
一般式(h2)中、Ra及びRbとしてより好ましくは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基である。特に好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びi−ブチル基が挙げられる。
【0377】
前記一般式(h2)で表される環状カーボネートとしてより好ましくは、下記一般式(h3)で表される化合物である。一般式(h3)中、Ra及びRbはそれぞれ上述した一般式(h2)におけるのと同様である。
【化77】
【0378】
上記環状カーボネートの具体例としては、以下に示す構造の化合物が挙げられる。
【化78】
【0379】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中における上記一般式(h1)で表される環状カーボネートの含有量は3000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、特に好ましくは300ppm以下である。環状ポリカーボネートの含有量の下限は特に制限されない。理想的には0%であり、通常は検出限界値となるが、好ましくは0.0005ppm以上である。環状カーボネートの含有量が高すぎると、樹脂強度の低下等のデメリットがある場合がある。
【0380】
(5)成形品
本発明のポリカーボネート共重合体及び本発明の方法で得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂並びにポリカーボネート樹脂組成物は、射出成形やブロー成形(中空成形)、押出成形、射出ブロー成形、回転成形、圧縮成形などで得られる様々な成形品、シート、フィルムなどの用途に好ましく利用することができる。これらの用途に用いるときは、本発明の樹脂単体であっても他のポリマーとのブレンド品であっても差し支えない。用途に応じてハードコートやラミネートなどの加工も好ましく使用しうる。
【0381】
特に好ましくは、本発明のポリカーボネート共重合体及び本発明の方法で得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂並びにポリカーボネート樹脂組成物は、押出成形、ブロー成形、射出成形等に用いられる。得られる成形品としては、押出成形品、中空成形品、精密部品や薄物の射出成形品が挙げられる。精密部品や薄物の射出成形品は、好ましくは1μm〜3mmの厚みを有するものである。
【0382】
成形品の具体例としては、コンパクトディスクやデジタルビデオディスク、ミニディスク、光磁気ディスクなどの光学メディア品、光ファイバーなどの光通信媒体、車などのヘッドランプレンズやカメラなどのレンズ体などの光学部品、サイレンライトカバー、照明ランプカバーなどの光学機器部品、電車や自動車などの車両用窓ガラス代替品、家庭の窓ガラス代替品、サンルーフや温室の屋根などの採光部品、ゴーグルやサングラス、眼鏡のレンズや筐体、コピー機やファクシミリ、パソコンなどOA機器の筐体、テレビや電子レンジなど家電製品の筐体、コネクターやICトレイなどの電子部品用途、ヘルメット、プロテクター、保護面などの保護具、哺乳瓶、食器、トレイなどの家庭用品、人工透析ケースや義歯などの医用品、、包装用材料、筆記用具、文房具等の雑貨類などをあげる事ができるがこれらに限定されない。
【0383】
特に好ましくは、本発明のポリカーボネート共重合体及び本発明の方法で得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂並びにポリカーボネート樹脂組成物の用途としては、高強度且つ精密成形性を必要とする以下の成形品が挙げられる。
・自動車部材として、ヘッドランプレンズ、メータ盤、サンルーフなど、さらにガラス製ウインドウの代替品や外板部品
・液晶ディスプレイなどの各種フィルム、導光板,光ディスク基板。
・透明シートなどの建材
・構造部材として、パソコン、プリンタ、液晶テレビなどの筐体
【0384】
III.芳香族ポリカーボネート化合物
本発明の芳香族ポリカーボネート化合物は、下記一般式(1)で表わされる構造単位(ポリカーボネート形成単位)から実質的に形成されてなり、かつ(A)重量平均分子量(Mw)が5,000〜60,000であること、(B)末端水酸基濃度が1500ppm以下であること、及び(C)末端フェニル基濃度が2モル%以上であること、を満たすことを特徴とする。すなわち、本発明の芳香族ポリカーボネート化合物は、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート結合形成性化合物との反応生成物を主たる繰り返し単位とする重縮合体である。
【0385】
【化79】
【0386】
一般式(1)中、2つのフェニレン基は、両方ともp-フェニレン基、m-フェニレン基またはo-フェニレン基であってもよく、さらには各々異なる置換位置でも良いが、両方ともp-フェニレン基であるのが好ましい
【0387】
一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立にハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のシクロアルコキシル基、炭素数6〜20のアリールオキシ基及び炭素数6〜20のアラルキル基を表す。
【0388】
炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、アミル基等が挙げられる。炭素数1〜20のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。炭素数6〜20のシクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ビシクロデカニル基、トリシクロデカニル基等が挙げられる。炭素数6〜20のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、4−イソプロピル-フェニル基等が挙げられる。炭素数6〜20のシクロアルコキシル基としては、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基、クロロフェノキシ基、ブロモフェノキシ基等が挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、2−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、4−メトキシベンジル基、2−ニトロベンジル基、3−ニトロベンジル基、4−ニトロベンジル基、2−クロロベンジル基、3−クロロベンジル基、4−クロロベンジル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基等が挙げられる。
【0389】
及びRの好ましい具体例は、フッ素、アミノ基、メトキシ基、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基である。
【0390】
p及びqは、0〜4の整数、好ましくは0〜2の整数を表す。Xは単なる結合又は下記一般式(1’)で表される二価の有機基群から選択される基を表す。
【0391】
【化80】
【0392】
上記一般式(1’)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を表し、RとRとが結合して脂肪族環を形成していても良い。
【0393】
Xの具体例としては、単なる結合、-CH-、以下の構造を有する二価の有機基等が挙げられる。
【0394】
【化81】
【0395】
このようなポリカーボネート形成単位としては、具体的にはビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン、4,4’−スルホニルジフェノール、2,2’−ジフェニル−4,4’−スルホニルジフェノール、2,2’−ジメチル−4,4’−スルホニルジフェノール、1,3−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,8−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、4,4’−(1,3−アダマンタンジイル)ジフェノール、および1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン等から誘導される構成単位が挙げられる。
【0396】
中でも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA又はBPA)から誘導される構成単位が好ましいものとして挙げられる。本発明における芳香族ポリカーボネート化合物の形成単位は、ガラス転移温度の制御、流動性の向上、屈折率の向上、複屈折の低減等、光学的性質の制御等を目的として、上記各種モノマー(芳香族ジヒドロキシ化合物)のうち複数種から誘導される構造単位が必要に応じて組み合わされていてもよい。
【0397】
本発明の芳香族ポリカーボネート化合物は、重量平均分子量(Mw)が5,000〜60,000であり、好ましくは10,000〜50,000、より好ましくは10,000〜40,000である。この範囲を超えた低分子量の芳香族ポリカーボネート化合物では、脂肪族ジオール化合物と反応させた場合、脂肪族ジオール化合物の物性影響が大きくなる。これにより物性改良を行うことは可能であるが、芳香族ポリカーボネート化合物本来の物性が損なわれる可能性があり、好ましくない。またこの範囲を超えた高分子量の芳香族ポリカーボネート化合物では、活性末端の濃度が低下し、脂肪族ジオール化合物との反応の効果が少ない。また該化合物自体が高粘度のため、反応条件として高温・高剪断・長時間にて実施する必要があり、高品質の芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには好ましくない。
【0398】
また、本発明の芳香族ポリカーボネート化合物は、その少なくとも一部がフェニル基で末端封止されていることを特徴とし、その封止末端基(末端フェニル基)濃度は2モル%以上、好ましくは2〜20モル%、特に好ましくは2〜12モル%である。末端フェニル基濃度が2モル%以上の場合に脂肪族ジオール化合物との反応が速やかに進行し、本願発明特有の効果が特に顕著に発揮される。
【0399】
ここで、本発明の芳香族ポリカーボネート化合物は、後述するように芳香族ジヒドロキシ化合物(BPAなど)とカーボネート結合形成性化合物(ジフェニルカーボネートなど)との反応により得られるものであり、そのポリマー分子中には芳香族ジヒドロキシ化合物由来のフェニレン基とカーボネート結合形成性化合物由来のフェニル基がある。本発明における芳香族ポリカーボネート化合物の末端フェニル基は、カーボネート結合形成性化合物由来のフェニル基である。本発明における末端フェニル基濃度とは、芳香族ポリカーボネート化合物を構成する芳香族ジヒドロキシ化合物由来の構成単位全量(モル数)と、カーボネート結合形成性化合物由来の末端フェニル基全量(モル数)との合計に対する末端フェニル基の割合(モル%)である。
【0400】
また、芳香族ポリカーボネート化合物の末端水酸基濃度は1,500ppm以下、好ましくは1,300ppm以下、特に好ましくは1,000ppm以下、さらには700ppm以下である。この場合に脂肪族ジオール化合物との反応が速やかに進行し、本願発明特有の効果が特に顕著に発揮される。
【0401】
ここでいう芳香族ポリカーボネート化合物の「全末端基量」は、例えば分岐の無いポリカーボネート(または鎖状ポリマー)0.5モルがあれば、全末端基量は1モルであるとして計算される。芳香族ポリカーボネート化合物の末端フェニル基濃度及び末端水酸基濃度は、いずれもH−NMR解析により分析することができる。
【0402】
(2)芳香族ポリカーボネート化合物の製造方法
本発明の芳香族ポリカーボネート化合物は、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート結合形成性化合物とを反応させることにより得られる。具体的には、上記芳香族ポリカーボネート化合物は、ぞれぞれの構造を誘導する芳香族ジヒドロキシ化合物を酸結合剤の存在下にホスゲン等と反応させる公知の界面重縮合法、あるいは芳香族ジヒドロキシ化合物を塩基性触媒の存在下に炭酸ジエステルと反応させる公知のエステル交換法により得ることができる。
【0403】
すなわち、上記芳香族ポリカーボネート化合物は界面重合法で合成したものであっても溶融重合法で合成したものであってもよく、また、固相重合法や薄膜重合法などの方法で合成したものであってもよい。また、使用済みディスク成形品等の使用済み製品から回収されたポリカーボネートなどを用いることも可能である。これらのポリカーボネートは混合して反応前のポリマーとして利用しても差し支えない。たとえば界面重合法で重合したポリカーボネートと溶融重合法で重合したポリカーボネートとを混合してもよく、また、溶融重合法あるいは界面重合法で重合したポリカーボネートと使用済みディスク成形品等から回収されたポリカーボネートとを混合して用いても構わない。
【0404】
本発明の芳香族ポリカーボネート化合物の製造に用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0405】
【化82】
【0406】
上記一般式(2)中、R〜R、p、q、及びXは、各々上記一般式(1)におけるのと同様である。
【0407】
このような芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的にはビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン、4,4’−スルホニルジフェノール、2,2’−ジフェニル−4,4’−スルホニルジフェノール、2,2’−ジメチル−4,4’−スルホニルジフェノール、1,3−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,8−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、4,4’−(1,3−アダマンタンジイル)ジフェノール、および1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン等が挙げられる。
【0408】
中でも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA又はBPA)がモノマーとしての安定性、更にはそれに含まれる不純物の量が少ないものの入手が容易である点等の理由により好ましいものとして挙げられる。
【0409】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物は、ガラス転移温度の制御、流動性の向上、屈折率の向上、複屈折の低減等、光学的性質の制御等を目的として、上記各種モノマー(芳香族ジヒドロキシ化合物)のうち複数種が必要に応じて組み合わされていてもよい。
【0410】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物とともに、ジカルボン酸化合物を併用し、ポリエステルカーボネートとしても構わない。前記ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が好ましく、これらのジカルボン酸は酸クロライドまたはエステル化合物として反応させることが好ましく採用される。また、ポリエステルカーボネート樹脂を製造する際に、ジカルボン酸は、前記ジヒドロキシ成分とジカルボン酸成分との合計を100モル%とした時に、0.5〜45モル%の範囲で使用することが好ましく、1〜40モル%の範囲で使用することがより好ましい。
【0411】
また、本発明に於いては、必要時応じて上記芳香族ジヒドロキシ化合物とともに一分子中に3個以上、好ましくは3〜6の官能基を有する多官能化合物を併用することもできる。このような多官能化合物としてはフェノール性水酸基、カルボキシル基を有する化合物が好ましく使用される。
【0412】
3官能化合物の具体例としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2’
,2”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン、α−メチル−α,α’,α"−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジエチルベンゼン、α,α’,α"−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,2−ビス〔4,4−(4、4'−ジヒドロキシフェニル)−シクロヘキシル〕−プロパン、トリメリット酸、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、1,2,5−ペンタトリオール、3,4−ジヒドロキシベンジルアルコール、1,2,6−ヘキサトリオール、1,3,5−アダマンタントリオールなどが挙げられる。
【0413】
4官能以上の化合物の具体例としては、プルプロガリン、2,3,4,4’−テロラヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4’−テロラヒドロキシジフェニルメタン、ガレイン、2,3,3’,4,4’,5’−ヘキサヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0414】
中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンがモノマーとしての安定性、更にはそれに含まれる不純物の量が少ないものの入手が容易である点、等より好ましいものとして挙げられる。
【0415】
特に、本発明の芳香族ポリカーボネート化合物を、分岐構造を導入した芳香族ポリカーボネート化合物とする場合、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート結合形成性化合物との反応時に、上記多官能化合物を分岐化剤として使用することによって、その分子鎖内に分岐構造を任意の量で導入することができる。
【0416】
分岐化剤の使用量(分岐構造の導入量)は、ブロー成形性、ドリップ防止性及び難燃性等の改善目的に応じて変動させることができるが、芳香族ポリカーボネート化合物中の上記一般式(1)で表されるカーボネート構造単位全量(総モル数)に対し好ましくは0.01〜1モル%、より好ましくは0.1〜0.9モル%、特に好ましくは0.2〜0.8モル%とするのが望ましい。あるいは、使用する芳香族ジヒドロキシ化合物全量と分岐化剤との合計モル数に対し好ましくは0.01〜1モル%、より好ましくは0.1〜0.9モル%、特に好ましくは0.2〜0.8モル%とするのが望ましい。
【0417】
界面重合法では、カーボネート結合形成性化合物はホスゲンなどのハロゲン化カルボニル又はハロホーメート化合物が用いられる。また、通常、酸結合剤および溶媒の存在下に反応を行う。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物またはピリジンなどのアミン化合物が用いられる。溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩などの触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は数分〜5時間である。
【0418】
界面法では、所望の封止末端基量(末端フェニル基濃度)とするため、芳香族ポリカーボネート化合物の製造時に末端停止剤を用いることができる。末端停止剤の具体例としては、p−tert−ブチルフェノール、フェノール、p-クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。末端停止剤の使用量は、所望する芳香族ポリカーボネート化合物の末端フェニル基濃度や反応装置、反応条件等に応じて適宜決定することができる。
【0419】
溶融重合法では、カーボネート結合形成性化合物として炭酸ジエステルが用いられる。炭酸ジエステル化合物としては下記一般式(3)で示される化合物が挙げられる。
【0420】
【化83】
【0421】
ここで、一般式(3)中におけるAは、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状または環状の1価の炭化水素基である。2つのAは、同一でも相互に異なるものでもよい。
【0422】
炭酸ジエステルの具体例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(2−クロロフェニル)カーボネート、m−クレシルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(4−フェニルフェニル)カーボネート等の芳香族炭酸ジエステルが挙げられる。その他、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等も所望により使用することができる。これらのうち、ジフェニルカーボネートが、反応性、得られる樹脂の着色に対する安定性、更にはコストの点より、好ましい。
【0423】
溶融法においては、芳香族ポリカーボネート化合物の製造時に炭酸ジエステルを芳香族ジヒドロキシ化合物に対して過剰に使用することにより、封止末端基を導入することができる。本発明の芳香族ポリカーボネート化合物は、好ましくは、エステル交換触媒の存在下に芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、炭酸ジエステル/芳香族ジヒドロキシ化合物=1.0〜1.3(モル比)の割合で反応させて得られる。すなわち、炭酸ジエステルは、芳香族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して1.0〜1.3モルの比率で用いられることが好ましく、更に好ましくは1.02〜1.20モルの比率である。
【0424】
カーボネート結合形成性化合物として炭酸ジエステルを用いる溶融重合法は、不活性ガス雰囲気下所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点などにより異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応を完結させる。また、反応を促進するために、通常使用される塩基性化合物触媒等のエステル交換触媒を使用することもできる。
【0425】
塩基性化合物触媒としては、特にアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物、含窒素化合物、含ホウ素化合物等があげられる。
アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物あるいはアルコキシド、4級アンモニウムヒドロキシドおよびそれらの塩、アミン類等が好ましく用いられ、これらの化合物は単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0426】
アルカリ金属化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、グルコン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩、PhBNa、N(CHCONa)、PhNaPO、等が用いられる。
【0427】
アルカリ土類金属化合物の具体例としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が用いられる。
【0428】
含窒素化合物の具体例としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル基および/またはアリール基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類、プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類、あるいは、アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基あるいは塩基性塩等が用いられる。
【0429】
含ホウ素化合物の具体例としては、EtPB(OH)、PhPBPh等が挙げられる。
【0430】
エステル交換触媒としては、亜鉛、スズ、ジルコニウム、鉛の塩が好ましく用いられ、これらは単独もしくは組み合わせて用いることができる。
エステル交換触媒としては、具体的には、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)等が用いられる。
【0431】
これらの触媒は、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、1×10−9〜1×10−3モルの比率で、好ましくは1×10−7〜1×10−5モルの比率で用いられる。
【0432】
溶融法における反応温度としては、180℃〜320℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは180℃〜310℃、特に好ましくは180℃〜300℃である。また、減圧度としては20kPaA(150torr)以下であり、13kPaA(100torr)以下がより好ましく、さらに好ましくは1.3kPaA(10torr)以下、特に好ましくは0.67〜0.013kPaA(5〜0.1torr)である。より具体的には、20kPaA(150torr)・180℃付近からスタートとし、徐々に昇温・高真空状態に調整し、最終的には0.13kPaA(1torr)以下・260℃〜300℃(より好ましくは260℃〜280℃)まで昇温する。急激な昇温・高真空化は、カーボネート結合形成性化合物(DPC)そのものを留去させてしまうことになり、適正な反応モル比が維持できないことになり、所望する化合物が得られない場合がある。
【0433】
本発明の芳香族ポリカーボネート化合物は、その用途に応じて構造粘性指数(N値)が1.3以下のものとすることができる。すなわち、該芳香族ポリカーボネート化合物を脂肪族ジオール化合物と反応させて、高分子量及び高流動性を備え且つ分岐構造を含まない(N値が低い)という特徴を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する場合に、該芳香族ポリカーボネート化合物のN値は1.3以下であることが好ましく、より好ましくは1.28以下、特に好ましくは1.25以下である。ここで、構造粘性指数「N値」は、芳香族ポリカーボネート樹脂の分岐化度の指標とされ、下記数式(1)で表される。
【0434】
[数8]
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160―log10) ・・・(1)
【0435】
上記数式(I)中、Q160値は280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)((株)島津製作所製:CFT-500D型を用いて測定(以下同様)し、ストローク=7.0〜10.0mmより算出)を表し、Q10値は280℃、荷重10kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)(ストローク=7.0〜10.0mmより算出)を表す。(なお、ノズル径1mm×ノズル長10mm)
【0436】
本発明の芳香族ポリカーボネート化合物がN値において1.3以下と低い場合、分岐構造の含有割合が少なく直鎖構造の割合が高い。ポリカーボネート樹脂は一般に、同じMwに於いては分岐構造の割合を多くすると(N値を高くすると)流動性が高くなる(Q値が高くなる)傾向にあるが、このような特徴を有する本発明の芳香族ポリカーボネート化合物を用いて脂肪族ジオール化合物と反応させ高分子量化したポリカーボネート共重合体は、N値を低く保ったまま高い流動性(高いQ値)を達成することができる。
【0437】
一方、本発明の芳香族ポリカーボネート化合物は、その用途に応じてN値が1.3を超える値のものとすることもできる。すなわち、該芳香族ポリカーボネート化合物に所定量の分岐化剤を使用して分岐構造を導入し、N値が1.3を超える値、好ましくは1.31〜2.0、より好ましくは1.31〜1.7の分岐構造を有する芳香族ポリカーボネート化合物とすることができる。
【0438】
このような所定量の分岐化剤を使用して分岐構造を導入した本発明の芳香族ポリカーボネート化合物をプレポリマーとして、これに特定の脂肪族ジオール化合物を減圧条件でエステル交換反応させることにより、所望の分岐化度を有する高分子量の分岐化芳香族ポリカーボネート樹脂を温和な条件下、短時間に得ることが可能になる。
【0439】
(3)芳香族ポリカーボネートプレポリマー材料
本発明の芳香族ポリカーボネート化合物は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に減圧条件でエステル交換反応させる工程を含む高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造に用いられる該芳香族ポリカーボネートプレポリマーとして用いることができる。すなわち、本発明の末端封止された芳香族ポリカーボネート化合物(プレポリマー)を主体とする芳香族ポリカーボネートプレポリマー材料を、脂肪族ジオール化合物(連結剤)とエステル交換反応させてプレポリマーに存在するカーボネート結合形成化合物由来の封止末端基(例えば末端フェニル基)をアルコール性水酸基と入れ替えることによって、芳香族ポリカーボネートプレポリマー同士の連結反応を速やかに進行させ、分子量を増大させることができるため、温和な条件で高速に高分子量化が達成される。
【0440】
このような用途に用いられる本発明の芳香族ポリカーボネートプレポリマーを主体として含む高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂製造用プレポリマー材料は、残カーボネートモノマー量が3000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは残カーボネートモノマー量が2000ppm以下、特に好ましくは1000ppm以下である。
【0441】
残カーボネートモノマー量を3000ppm以下にする方法は特に制限されないが、製造時の炭酸ジエステルの仕込み量を調整する(例えば芳香族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して1.3モルを超えない量、より好ましくは1.2モルを超えない量とする)、あるいは適切な反応温度(例えば180℃〜320℃)及び減圧度(例えば150torr以下)を選択する、などの方法を用いることができる。
【0442】
高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂製造用プレポリマー材料として構造粘性指数(N値)が1.25以下のものを使用する場合、プレポリマーの分岐構造の含有割合が少なく直鎖構造の割合が高いため、かかるプレポリマー材料と脂肪族ジオール化合物とを反応させ高分子量化すると、低いN値を保ったまま、高分子量であり且つ高い流動性(高いQ値)を有する芳香族ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネート共重合体)を得ることができる。得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂のN値(構造粘性指数)は、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.28以下、特に好ましくは1.25以下であり、芳香族ポリカーボネート化合物(プレポリマー)との間にN値の大きな変動がない。
【0443】
一方、本発明の芳香族ポリカーボネート化合物としてN値が1.25を超える値を示す分岐構造を導入した芳香族ポリカーボネート化合物を用いる場合、上記脂肪族ジオール化合物とエステル交換反応させることにより、使用する分岐化剤量に応じた所望の分岐化度を有する高分子量の分岐化芳香族ポリカーボネート樹脂を温和な条件下、短時間に得ることが可能になる。この場合、得られる分岐化芳香族ポリカーボネート樹脂の分岐化度(N値)は1.31〜2.2、より好ましくは1.31〜2.0の範囲、特に好ましくは1.31〜1.9の範囲とすることができる。
【実施例】
【0444】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。なお、実施例中の測定値は、以下の方法あるいは装置を用いて測定した。
【0445】
1)ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw):GPCを用い、クロロホルムを展開溶媒として、既知の分子量(分子量分布=1)の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。この検量線に基づいて、GPCのリテンションタイムから算出した。
2)ガラス転移温度(Tg):示差熱走査熱量分析計(DSC)により測定した。
【0446】
3)ポリマーの全末端基量(モル数):樹脂サンプル0.25gを、5mlの重水素置換クロロホルムに溶解し、23℃で核磁気共鳴分析装置H−NMR(日本電子社製、商品名「LA−500」)を用いて末端基を測定し、ポリマー1ton当たりのモル数で表わした。
【0447】
4)水酸基末端濃度(ppm):塩化メチレン溶液中でポリマーと四塩化チタンとから形成される複合体のUV/可視分光分析(546nm)によって測定した。または、H−NMRの解析結果から末端水酸基を観測することによって測定した。
【0448】
5)末端フェニル基濃度(末端Ph濃度;モル%):H−NMRの解析結果から、下記数式により求めた。
【0449】
【数9】
【0450】
6)樹脂色相(YI値):樹脂サンプル6gを60mlの塩化メチレンに溶解し、光路長
6cmのセルにて、分光式色差計(日本電色工業社製、商品名「SE−2000」)を用いてYI値を測定した。
【0451】
7)流動性(Q値):Q値は溶融樹脂の流出量(ml/sec)であり、高化式フローテスターCFT-500D(島津製作所(株)製)を用いて、130℃で5時間乾燥後、280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積により評価した。
【0452】
8)N値:高化式フローテスターCFT-500D(島津製作所(株)製)を用いて、130℃で5時間乾燥した芳香族ポリカーボネート(試料)について、280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積をQ160値とし、同様に280℃、荷重10kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積をQ10値として、これらを用いて下式(1)により求めた。
【0453】
[数10]
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160―log10) ・・・(1)
【0454】
9)i値=1である高分子化合物の割合:上記一般式(III)におけるi値(脂肪族ジオール化合物由来の構造単位の鎖長)が1である高分子化合物の割合は、得られるポリカーボネート共重合体のH−NMR解析結果により求めた。
【0455】
10)残留カーボネートモノマー(DPC)量及び残量フェノール(PhOH)量:GPC(UV検出器)またはGCにより、内部標準法を用いて定量した。
【0456】
11)樹脂中の環状カーボネート含有量:樹脂サンプル10gをジクロロメタン100mlに溶解し、1000mlのメタノール中へ攪拌しながら滴下した。沈殿物を濾別し、濾液中の溶媒を除去した。得られた固体をGC-MSにより以下の測定条件で分析した。なお、この測定条件での検出限界値は0.0005ppmである。
GC-MS測定条件:
測定装置:Agilent HP6890/5973MSD
カラム:キャピラリーカラムDB-5MS,30m×0.25mm I.D.,膜厚0.5μm
昇温条件:50℃(5min hold)−300℃(15min
hold),10℃/min
注入口温度:300℃、打ち込み量:1.0μl(スプリット比25)
イオン化法:EI法
キャリアーガス:He,1.0ml/min
Aux温度:300℃
質量スキャン範囲:33−700
溶媒:HPLC用クロロホルム
内部標準物質:1,3,5−トリメチロールフェノール
【0457】
12)樹脂の熱滞留試験:サンプル樹脂1gを試験管に入れ、窒素で置換されたグローブボックス(酸素濃度0.0%)内にて、120℃に設定したブロックヒーターで2時間乾燥した。引き続き同グローブボックス内にて、360℃に設定したブロックヒーターで50分間加熱滞留した。熱滞留試験前後の分子量(Mw)保持率(%)及びYI値の変化量を測定した。なお、この試験は、例えば樹脂の溶融粘度を低く保つ必要がある精密成形など、ポリカーボネートの一般的な成形温度の最大レベルでの熱履歴を与える試験である。50分と言う長い滞留時間は、実際の成形現場で、装置のトラブルなどを含めて想定しうる最長の滞留時間を設定したものである。
【0458】
13)熱滞留試験前後の樹脂色相(YI値):樹脂サンプル1gを60mlの塩化メチレンに溶解し、光路長6cmのセルにて、分光式色差計(日本電色工業社製、商品名「SE−2000」)を用いてYI値を測定した。
【0459】
なお、以下の実施例及び比較例で使用した脂肪族ジオール化合物の化学純度はいずれも98〜99%、塩素含有量は0.8ppm以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属、チタン及び重金属(鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、モリブデン、スズ)の含有量は各々1ppm以下である。芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルの化学純度は99%以上、塩素含有量は0.8ppm以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属、チタン及び重金属(鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、モリブデン、スズ)の含有量は各々1ppm以下である。
以下の実施例で、プレポリマーを「PP」、水酸基を「OH基」、フェニル基を「Ph]と略すことがある。
【0460】
<実施例1>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン10,000g(43.80モル)、ジフェニルカーボネート10,581g(49.39モル)及び触媒として炭酸水素ナトリウムを1μmol/mol(触媒は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の50LのSUS製反応器に入れ、系内を窒素雰囲気下に置換した。減圧度を27kPaA(200torr)に調整し、200℃にて原料を加熱溶融し、30分間攪拌した。
【0461】
その後、4時間かけて、反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集、除去しつつエステル交換反応を行ない、系内を260℃、減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、1時間保持した。
【0462】
引き続き、20分かけて系内を280℃、減圧度を0.13kPaA(1torr)以下に保持したまま、脂肪族ジオール化合物として溶融した9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下、「BPEF」と略す)396g(0.90モル)を投入し、30分間攪拌混練してエステル交換反応を続けた。重量平均分子量(Mw);55,000のポリカーボネート共重合体を得た。
【0463】
得られたポリカーボネート共重合体のH−NMR解析結果を図1H−NMRチャート図A)及び図2H−NMRチャート図B)に示す。図1では、脂肪族ジオール化合物由来のピーク(BPEFのメチレン鎖部)が拡大されており、脂肪族ジオール化合物由来の構造単位のピークが認められる。BPEFモノマーのメチレン鎖は3.9ppm付近にシグナルを持つが、芳香族ジヒドロキシ化合物と反応することにより、明らかに異なる位置にシフトしている。尚、4.8ppmは芳香族OH基のピークである。
【0464】
これらのピークにより芳香族ポリカーボネート鎖と脂肪族ジオール部位とからなる構造体ができていることが確認できる。最も強い2本のピークはBPEFと芳香族ポリカーボネート鎖とが結合した構造であり、隣接する弱い2本のピークはBPEF同士がカーボネート結合により繋がった構造(ブロック共重合)を示している。
【0465】
また図2によれば、BPEFのフェニル基部分のピークが認められ、これからも芳香族ポリカーボネート鎖と脂肪族ジオール部位によって形成された構造が確認できる。
【0466】
すなわち、ここで得られたポリカーボネート共重合体は、上記一般式(III)において、脂肪族ジオール化合物由来の構造単位の鎖長が1(i値=1)の場合の構造(芳香族ポリカーボネート鎖と脂肪族ジオール化合物由来の構造単位1個とによって構成される構造)を有する高分子化合物から主としてなるものであることがわかる。このH−NMR解析結果から、i値=1の構造を有する高分子化合物の割合は、ポリカーボネート共重合体全量に対し98モル%であることがわかる。
【0467】
また、得られたポリカーボネート共重合体中、脂肪族ジオール化合物由来の構造単位(一般式(I)で表される構造単位)の割合は1.7モル%であり、芳香族ジヒドロキシ化合物由来の構造単位(一般式(II)で表される構造単位)の割合は98モル%である。また、Q160値は0.17ml/sであり、MwとQ値との関係を表す数式(2)を満たす。さらに、N値(構造粘性指数)は1.21である。
【0468】
得られたポリカーボネート共重合体の物性値を表1に示す。曲げ弾性率(GPa)、曲げ強度(MPa)はJIS−K7171に準拠した曲げ試験によって、引張弾性率(GPa)、引張降伏強度(MPa)、引張降伏伸度(%)、引張破断強度(MPa)はJIS−K7113に準拠した引張試験によって、Izod衝撃強度(kg・cm/cm)はJIS−K7110に準拠した試験によって測定した値である。
【0469】
<実施例2、3>
脂肪族ジオールの種類及び使用量を表1に示すように代えた以外は、実施例1と同様の操作で実験を行った。評価結果を表1に示す。
【0470】
<プレポリマーの製造例1;PP−A>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン10,000g(43.80モル)、ジフェニルカーボネート10,558g(49.39モル)及び触媒として炭酸水素ナトリウムを1μmol/mol(触媒は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の50LのSUS製反応器に入れ、系内を窒素雰囲気下に置換した。減圧度を27kPaA(200torr)に調整し、200℃にて原料を加熱溶融し、30分間攪拌した。
【0471】
その後、4時間かけて、反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集、除去しつつエステル交換反応を行ない、系内を260℃、減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、さらに1時間保持した。重量平均分子量(Mw);24,000のポリカーボネートプレポリマー(以下、「PP−A」と略すことがある)を得た。
得られたポリカーボネートプレポリマーのOH濃度(ppm)及びフェニル末端濃度(Ph末端濃度;mol%)等を表2に示す。なお表2中、OH濃度は、NMRより算出した値であり、全ポリマー中に含まれるOH基濃度を示す。また、Ph末端濃度は、NMRより算出した値であり、全フェニレン基及びフェニル末端中のフェニル基(水酸基で置換されたフェニル基を含む)末端濃度を示す。
【0472】
<プレポリマーの製造例2;PP−B>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン9,995g(43.78モル)、ジフェニルカーボネート10,321g(48.18モル)及び触媒として炭酸水素ナトリウムを1μmol/mol(触媒は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の50LのSUS製反応器に入れ、系内を窒素雰囲気下に置換した。減圧度を27kPaA(200torr)に調整し、200℃にて原料を加熱溶融し、30分間攪拌した。
【0473】
その後、4時間かけて、反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集、除去しつつエステル交換反応を行ない、系内を260℃、減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、さらに2時間保持した。重量平均分子量(Mw);33,000のポリカーボネートプレポリマー(「PP−B」)を得た。
得られたポリカーボネートプレポリマーのOH濃度(ppm)及びフェニル末端濃度(Ph末端濃度;mol%)等を表2に示す。なお、Ph末端濃度は、NMRより算出した値であり、全フェニレン基及びフェニル末端中のフェニル基濃度を表す。
【0474】
<プレポリマーの製造例3;PP-C>
8質量%の水酸化ナトリウム水溶液730ミリリットルに、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン125.00g(0.548モル)と0.3gのハイドロサルファイトを溶解した。これに300ミリリットルのジクロロメタンを加えて撹拌しつつ、15℃に保ちながら、ホスゲン70.50g(0.713モル)を15分で吹き込んだ。
ホスゲン吹き込み終了後、分子量調節剤としてフェノール5.16g(0.055mol)を加え、更に、8質量%の水酸化ナトリウム水溶液130ミリリットル追加し、激しく撹拌して、反応液を乳化させた後、0.60ミリリットルのトリエチルアミンを加え、20℃乃至25℃にて約1時間撹拌し、重合させた。重合終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和後、水洗した。得られた重合体溶液を、50℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去すると同時に固形化物を粉砕して、白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃で24時間乾燥して、重合体粉末を得た(以下、「PP−C」と略すことがある)。
得られたポリカーボネートプレポリマーのOH濃度(ppm)及びフェニル末端濃度(Ph末端濃度;mol%)等を表2に示す。なお、Ph末端濃度は、NMRより算出した値であり、全フェニレン基及びフェニル末端中のフェニル基濃度を表す。
【0475】
<実施例4>
芳香族ポリカーボネートプレポリマー(上記プレポリマーの製造例1で得られたPP-A)10gを、攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、280℃にて真空下、加熱溶融させた。続いて、脂肪族ジオール化合物として9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)0.33gを添加し、ジャケット温度280℃、圧力0.04kPaA(0.3torr)で60分間攪拌混練してエステル交換反応を行った。触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー重合時の重合触媒をそのまま使用した。
【0476】
反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集し、反応系より除去して重量平均分子量(Mw)=37,000、Q値=0.400、i値=1である高分子化合物の割合(i値=1の構造となる脂肪族ジオール骨格の割合)=96モル%、N値=1.22のポリカーボネート共重合体を得た。結果を表3に示す。
【0477】
<実施例5〜15>
芳香族ポリカーボネートプレポリマー及び脂肪族ジオール化合物を表3に示すように代えた以外は、実施例4と同様に実験を行った。なお、PP-Cを用いた系では、触媒として炭酸水素ナトリウムを1μmol/mol(触媒は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンユニットに対してのモル数として計算)添加した。結果を表3に示す。
【0478】
<比較例1>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン10,000g(43.80モル)、ジフェニルカーボネート10,000g(46.68モル)及び触媒として炭酸水素ナトリウムを1μmol/mol(触媒は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の50LのSUS製反応器に入れ、系内を窒素雰囲気下に置換した。減圧度を27kPaA(200torr)に調整し、200℃にて原料を加熱溶融し、30分間攪拌した。
【0479】
その後、4時間かけて、反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集、除去しつつエステル交換反応を行ない、系内を260℃、減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、さらに7時間保持した。重量平均分子量(Mw):63,000、水酸基末端濃度700ppmの芳香族ポリカーボネート約10kgを得た。得られたポリカーボネートの物性値を表1に示す。
【0480】
<比較例2>
5質量%の水酸化ナトリウム水溶液40リットルに、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン3634g(15.92モル)と30gのハイドロサルファイトを溶解した。これに17リットルのジクロロメタンを加えて撹拌しつつ、15℃に保ちながら、ホスゲン2100g(21.23モル)を15分で吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、分子量調節剤としてp−tert−ブチルフェノール99.91g(0.67モル)を加え、更に、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液10リットル、ジクロロメタン20リットルを追加し、激しく撹拌して、反応液を乳化させた後、20ミリリットルのトリエチルアミンを加え、20℃乃至25℃にて約1時間撹拌し、重合させた。重合終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和後、水洗した。得られた重合体溶液を、50℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去すると同時に固形化物を粉砕して、白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃で24時間乾燥して、重合体粉末を得た。
【0481】
<比較例3>
p−tert−ブチルフェノールを78.86g(0.52モル)とした以外は比較例2と同様に行った。得られたポリカーボネートの物性値を表1に示す。
【0482】
<比較例4>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン50.96g(0.2232モル)、ジフェニルカーボネート49.04g(0.229モル)及び触媒として炭酸水素ナトリウムを1μmol/mol(触媒は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下180℃に加熱し、30分間攪拌した。
その後、減圧度を20kPaA(150torr)に調整すると同時に、60℃/hrの速度で200℃まで昇温を行い、40分間その温度に保持しエステル交換反応を行った。さらに、75℃/hrの速度で225℃まで昇温し、10分間その温度で保持した。引き続き、65℃/hrの速度で260℃まで昇温し、1時間かけて減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、さらに6時間保持した。重量平均分子量(Mw):44,000の芳香族ポリカーボネート30gを得た。得られたポリカーボネートの物性の評価結果を表4に示す。
【0483】
<比較例5>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン50.98g(0.2233モル)、ジフェニルカーボネート49.04g(0.229モル)及び触媒として炭酸水素ナトリウムを1μmol/mol(触媒は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下180℃に加熱し、30分間攪拌した。
その後、減圧度を20kPaA(150torr)に調整すると同時に、60℃/hrの速度で200℃まで昇温を行い、40分間その温度に保持しエステル交換反応を行った。さらに、75℃/hrの速度で225℃まで昇温し、10分間その温度で保持した。引き続き、65℃/hrの速度で260℃まで昇温し、1時間かけて減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、さらに7時間保持した。重量平均分子量(Mw):50,000の芳香族ポリカーボネート30gを得た。得られたポリカーボネートの物性の評価結果を表4に示す。
【0484】
【表1】
【0485】
【表2】
【0486】
【表3】

【0487】
【表4】
【0488】
<プレポリマーの製造例4;PP−D>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン10,000.6g(43.81モル)、ジフェニルカーボネート10,560.0g(49.30モル)及び触媒として炭酸セシウムを0.5μmol/mol(触媒は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の50LのSUS製反応器に入れ、系内を窒素雰囲気下に置換した。減圧度を27kPaA(200torr)に調整し、200℃にて原料を加熱溶融し、30分間攪拌した。
【0489】
その後、4時間かけて、反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集、除去しつつエステル交換反応を行ない、系内を260℃、減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、さらに1時間保持した。重量平均分子量(Mw);22,000のポリカーボネートプレポリマー(以下、「PP−D」と略すことがある)を得た。
得られたポリカーボネートプレポリマーのOH濃度(ppm)及びフェニル末端濃度(Ph末端濃度;mol%)等を表5に示す。なお表5中、OH濃度は、NMRより算出した値であり、全ポリマー中に含まれるOH基濃度を示す。また、Ph末端濃度は、NMRより算出した値であり、全フェニレン基及びフェニル末端中のフェニル基(水酸基で置換されたフェニル基を含む)末端濃度を示す。
【0490】
<実施例16>
上記プレポリマーの製造例4で得られた芳香族ポリカーボネートプレポリマー「PP-D」30gを、攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、280℃にて常圧下、加熱溶融させた。続いて、脂肪族ジオール化合物として1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)0.22gを添加し、ジャケット温度280℃、常圧で1分間攪拌混練した。引き続き、圧力0.04kPaA(0.3torr)で45分間攪拌混練してエステル交換反応を行った。触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー重合時の重合触媒をそのまま使用した。
【0491】
反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集し、反応系より除去して重量平均分子量(Mw)=48,000、Q値=0.1294、i値=1である高分子化合物の割合(i値=1の構造となる脂肪族ジオール骨格の割合)=100モル%、N値=1.22のポリカーボネート共重合体を得た。結果を表6に示す。
【0492】
<実施例17>
芳香族ポリカーボネートプレポリマー(上記プレポリマーの製造例4で得られたPP-D)30gを、攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、300℃にて常圧下、加熱溶融させた。続いて、脂肪族ジオール化合物として1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)0.22gを添加し、ジャケット温度300℃、常圧で15分間攪拌混練した。引き続き、圧力0.04kPaA(0.3torr)で45分間攪拌混練してエステル交換反応を行った。触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー重合時の重合触媒をそのまま使用した。
【0493】
反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集し、反応系より除去して重量平均分子量(Mw)=65,000、Q値=0.0305、i値=1である高分子化合物の割合(i値=1の構造となる脂肪族ジオール骨格の割合)=100モル%、N値=1.20のポリカーボネート共重合体を得た。結果を表6に示す。
【0494】
<実施例18>
芳香族ポリカーボネートプレポリマー(上記プレポリマーの製造例4で得られたPP-D)30gを、攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、300℃にて常圧下、加熱溶融させた。続いて、脂肪族ジオール化合物としてデカリン−2,6−ジメタノール(DDM)0.30gを添加し、ジャケット温度300℃、常圧で15分間攪拌混練した。引き続き、圧力0.04kPaA(0.3torr)で30分間攪拌混練してエステル交換反応を行った。触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー重合時の重合触媒をそのまま使用した。
【0495】
反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集し、反応系より除去して重量平均分子量(Mw)=66,000、Q値=0.0319、i値=1である高分子化合物の割合(i値=1の構造となる脂肪族ジオール骨格の割合)=100モル%、N値=1.19のポリカーボネート共重合体を得た。結果を表6に示す。
【0496】
<実施例19>
芳香族ポリカーボネートプレポリマー(上記プレポリマーの製造例4で得られたPP-D)30gを、攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、280℃にて常圧下、加熱溶融させた。続いて、脂肪族ジオール化合物としてデカリン−2,6−ジメタノール(DDM)0.30gを添加し、ジャケット温度280℃、常圧で1分間攪拌混練した。引き続き、圧力0.04kPaA(0.3torr)で55分間攪拌混練してエステル交換反応を行った。触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー重合時の重合触媒をそのまま使用した。
【0497】
反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集し、反応系より除去して重量平均分子量(Mw)=61,000、Q値=0.0440、i値=1である高分子化合物の割合(i値=1の構造となる脂肪族ジオール骨格の割合)=100モル%、N値=1.17のポリカーボネート共重合体を得た。結果を表6に示す。
【0498】
【表5】
【0499】
【表6】
【0500】
図3は、上記実施例と比較例で得られたポリカーボネートのMwとQ値(160kg荷重、280℃測定時)との関係を示すグラフである。本発明のポリカーボネート共重合体は、従来公知のポリカーボネート樹脂に比べ、同じ分子量値でも流動性が高くなる傾向にあることが分かる。
【0501】
図3のグラフでは、本発明のポリカーボネート共重合体(実施例1〜19)は■(黒四角)印で表される。界面法で得られたポリカーボネート(比較例2及び3)(○印)や脂肪族ジオール化合物から誘導される脂肪族ジオール部位の構造を有しない通常溶融法によるポリカーボネート(比較例1、4、5)(△印)と比較して、流動性が高くなっていることが示されている。
【0502】
図4は、上記実施例と比較例で得られたポリカーボネートのMwとN値との関係を示すグラフである。図4のMwとN値との関係を見ると、本発明のポリカーボネート共重合体は明らかにN値が低く、溶融法で製造したにも関わらず分岐構造の割合が極めて少ないことが分かる。
【0503】
<実施例20>
上記プレポリマーの製造例4で得られた芳香族ポリカーボネートプレポリマー「PP-D」30.13gを、攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、280℃にて加熱溶融させた。続いて、脂肪族ジオール化合物として2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール(BEPD)0.34gをジャケット温度280℃にて、常圧で添加し3分間攪拌混練した。
【0504】
引き続きジャケット温度280℃、圧力0.04kPaA(0.3torr)で70分間攪拌混練して、エステル交換反応を行った。触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー重合時の重合触媒をそのまま使用した。
【0505】
反応系より留出するフェノール、環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)及び未反応の2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール(BEPD)を冷却管にて凝集し、反応系より除去して重量平均分子量(Mw)=56,400、N値=1.19、環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)を154ppm含有するポリカーボネート樹脂を得た。
【0506】
得られた樹脂1gを試験管に入れ、窒素で置換されたグローブボックス(酸素濃度0.0%)内にて、120℃に設定したブロックヒーターで2時間乾燥した。引き続き同グローブボックス内にて、360℃に設定したブロックヒーターで50分間加熱滞留した。
その結果、滞留試験前後の分子量(Mw)保持率(%)は98%、YI値の変化量は+5.0であった。
【0507】
BEPDの添加・攪拌終了時の混合物のH−NMRチャートを図5に、及び最終的に得られたポリカーボネート樹脂のH−NMRチャートを図6に示す。図5では、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと反応したBEPD由来のピークが未反応のBEPDモノマーのピークとは別に認められる。一方、図6では、反応したBEPD由来のピーク及び未反応のBEPDモノマーのピークは消失している。
【0508】
このことから、ここで得られた芳香族ポリカーボネート樹脂は、脂肪族ジオール化合物由来の構造単位を有しないホモポリカーボネートであり、添加した脂肪族ジオールがいったんは芳香族ポリカーボネートプレポリマーと反応した後環状カーボネートとして反応系外へ除去されたことがわかる。
【0509】
<実施例21〜26>
芳香族ポリカーボネートプレポリマーの仕込み量及び使用した脂肪族ジオール化合物並びにその仕込み量を表7に示すように変えた以外は、実施例20と同様に行い、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の各種物性を表7に示す。
【0510】
<比較例6>
実施例20と同じ芳香族ポリカーボネートプレポリマーを用い、脂肪族ジオール化合物を添加しなかった以外は実施例20と同様に短時間で反応を行ったところ、Mwは22000のままで分子量は上がらなかった。
【0511】
【表7】
【0512】
実施例20〜26で示したように、最終的に得られた樹脂中の脂肪族ジオール化合物由来の構造単位の割合(モル数)は、脂肪族ジオール化合物の添加・混練終了時における同割合(モル数)に対して著しく減少する。本発明の前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法によれば、最終的に得られる樹脂中の脂肪族ジオール化合物由来の構造単位の割合(モル数)は、脂肪族ジオール化合物の添加・混練終了時における同割合(モル数)に対して50%以下、好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下、最も好ましくは10%以下となる。
【0513】
本発明の前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法で得られるホモポリカーボネート樹脂に近い高分子量ポリカーボネート樹脂は高い熱安定性を有し、360℃−50分という極めて過酷な熱滞留試験の前後で分子量(Mw)保持率が高くYI値変化量が低いことが、上記実施例20〜26の結果からわかる。
【0514】
なお、上記実施例1〜3で得られるポリカーボネート共重合体の熱安定性を同様に測定したところ、以下の通りとなった。この結果と比べると、本発明の前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法で得られる高分子量ポリカーボネート樹脂が極めて優れた熱安定性を有することがわかる。なお、上記比較例1の従来の溶融法で高分子量化したポリカーボネートを用いて同様に熱滞留試験を行うと、ゲル化してしまうため各種物性評価は困難であった。
【0515】
(実施例1)
360℃−50分滞留試験前 Mw;55000
360℃−50分滞留試験後 Mw;21400
360℃−50分滞留試験後 Mw保持率(%);39
360℃−50分滞留試験前 YI値;1.0
360℃−50分滞留試験後 YI値;58.0
360℃−50分滞留試験後 YI値変化量;57.0
(実施例2)
360℃−50分滞留試験前 Mw;68000
360℃−50分滞留試験後 Mw;28000
360℃−50分滞留試験後 Mw保持率(%);41
360℃−50分滞留試験前 YI値;1.6
360℃−50分滞留試験後 YI値;60.0
360℃−50分滞留試験後 YI値変化量;58.4
(実施例3)
360℃−50分滞留試験前 Mw;48000
360℃−50分滞留試験後 Mw;23000
360℃−50分滞留試験後 Mw保持率(%);48
360℃−50分滞留試験前 YI値;1.0
360℃−50分滞留試験後 YI値;65.0
360℃−50分滞留試験後 YI値変化量;64.0
【0516】
<実施例27>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン50.000g(0.219モル)、ジフェニルカーボネート48.091g(0.224モル)及び触媒として炭酸水素ナトリウムを1μmol/mol(触媒は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の500cc四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下180℃に加熱し、30分間攪拌した。
【0517】
その後、減圧度を20kPaA(150torr)に調整すると同時に、60℃/hrの速度で200℃まで昇温を行い、40分間その温度に保持しエステル交換反応を行った。さらに、75℃/hrの速度で225℃まで昇温し、10分間その温度で保持した。引き続き、65℃/hrの速度で260℃まで昇温し、1時間かけて減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、さらに40分間保持した。重量平均分子量(Mw):29,000の芳香族ポリカーボネート化合物(芳香族ポリカーボネート樹脂製造用プレポリマー;以下、単に「芳香族ポリカーボネートプレポリマー」又は「PP」と略すことがある)50gを得た。
【0518】
得られた芳香族ポリカーボネートプレポリマーの末端水酸基濃度は1500ppm、末端フェニル基濃度は3.5mol%、N値(構造粘性指数)は1.23であった。結果を表1に示す。
【0519】
上記芳香族ポリカーボネートプレポリマー10gを、攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、280℃にて真空下、加熱溶融させた。続いて、脂肪族ジオール化合物として9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)0.153gを添加し、ジャケット温度280℃、圧力0.04kPaA(0.3torr)で30分間攪拌混練してエステル交換反応を行った。触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー重合時の重合触媒をそのまま使用した。
【0520】
反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集し、反応系より除去して重量平均分子量(Mw)=60,000のポリカーボネート共重合体を得た。結果を表8に示す。
【0521】
<実施例28〜31>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ジフェニルカーボネートの使用量、脂肪族ジオールの種類及び使用量を表1に示すように代えた以外は、実施例27と同様の操作で実験を行った。結果を表8に示す。
【0522】
<実施例32>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン10,000g(43.8モル)、ジフェニルカーボネート10,322g(48.2モル)及び触媒として炭酸水素ナトリウムを3μmol/mol(触媒は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の50LのSUS製反応器に入れ、系内を窒素雰囲気下に置換した。減圧度を27kPaA(200torr)に調整し、200℃にて原料を加熱溶融し、30分間攪拌した。
【0523】
その後、4時間かけて、反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集、除去しつつエステル交換反応を行ない、系内を260℃、減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、さらに1時間保持した。重量平均分子量(Mw);23,000の芳香族ポリカーボネートプレポリマーを得た。
【0524】
得られた芳香族ポリカーボネートプレポリマーの末端水酸基濃度は500ppm、末端フェニル基濃度は6.6mol%、N値(構造粘性指数)は1.20であった。結果を表1に示す。なお表8中、末端水酸基濃度は、H−NMRより算出した値であり、全ポリマー中に含まれるOH基濃度を示す。また、末端フェニル基濃度は、H−NMRより算出した値であり、全フェニレン基及びフェニル末端基中の末端フェニル基濃度を示す。
【0525】
上記芳香族ポリカーボネートプレポリマー10gを、攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、280℃にて真空下、加熱溶融させた。続いて、脂肪族ジオール化合物として9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)0.33gを添加し、ジャケット温度280℃、圧力0.04kPaA(0.3torr)で15分間攪拌混練してエステル交換反応を行った。触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー重合時の重合触媒をそのまま使用した。
【0526】
反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集し、反応系より除去して重量平均分子量(Mw)=50,000のポリカーボネート共重合体を得た。結果を表8に示す。
【0527】
<実施例33〜36>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ジフェニルカーボネートの使用量、脂肪族ジオールの種類及び使用量を表8に示すように代えた以外は、実施例32と同様の操作で実験を行った。結果を表8に示す。
【0528】
実施例34で得られた芳香族ポリカーボネートプレポリマーのH−NMR解析結果を図7に示す。図7では、ポリカーボネート樹脂のフェニル基及びフェニレン基由来のピークが拡大されており、フェニル末端基由来のピークが認められる。2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンユニットのフェニレン基は7.0〜7.3ppmにシグナルを持つが、フェニル末端基由来のピークは7.4ppm付近にシグナルを持つ。このシグナル強度比より末端フェニル基濃度を算出した。
【0529】
<実施例37>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン50.000g(0.219mol)、ジフェニルカーボネート49.000g(0.229mol)、1,1,1−トリスフェノールエタン(以下、「TPE」と略す場合がある)0.210g(0.00069mol)、及び触媒として炭酸水素ナトリウム3μmol/molを、攪拌機及び留出装置付の500cc四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下180℃に加熱し、30分間攪拌した。
【0530】
その後、減圧度を20kPa(150torr)に調整すると同時に、60℃/hrの速度で200℃まで昇温を行い、40分間その温度に保持しエステル交換反応を行った。さらに、75℃/hrの速度で225℃まで昇温し、10分間その温度で保持した。引き続き、65℃/hrの速度で260℃まで昇温し、1時間かけて減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とした。重量平均分子量(Mw):27,000の芳香族ポリカーボネートプレポリマー50gを得た。
【0531】
この芳香族ポリカーボネートプレポリマーの末端水酸基濃度は480ppm、末端フェニル基濃度は7.3mol%、N値(構造粘性指数)は1.31であった。結果を表9に示す。なお表9中、末端水酸基濃度は、H−NMRより算出した値であり、全ポリマー中に含まれる水酸基(OH基)濃度を示す。また、末端フェニル基濃度は、H−NMRより算出した値であり、全フェニレン基及びフェニル末端中の末端フェニル基濃度を示す。
【0532】
上記芳香族ポリカーボネートプレポリマー10gを攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、290℃にて真空下、加熱溶融させた。続いて9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン0.328g(2.1mmol)を投入し、ジャケット温度290℃、圧力0.04kPa(0.3torr)で15分間攪拌混練した。反応系より留出するフェノールは冷却管にて凝集し、反応系より除去した。その結果、得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)は、55,000であった。得られたポリマーの物性値を表9に示す。
【0533】
<実施例38>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ジフェニルカーボネート、1,1,1−トリスフェノールエタン及び脂肪族ジオールの使用量を表9に示すように代えた以外は、実施例37と同様の操作で実験を行った。結果を表9に示す。
【0534】
<比較例7>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ジフェニルカーボネートの使用量、脂肪族ジオールの種類及び使用量を表8に示すように代えた以外は、実施例32と同様の操作で実験を行った。結果を表8に示す。このものは末端水酸基濃度が高く、末端フェニル基濃度が低いため、芳香族ポリカーボネート樹脂が十分に高分子量化しなかった。
【0535】
<比較例8>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,1−トリスフェノールエタン、ジフェニルカーボネート及び脂肪族ジオールの使用量を表9に示すように代えた以外は、実施例37と同様の操作で実験を行った。結果を表9に示す。このものは末端水酸基濃度が高く、末端フェニル基濃度が低いため、芳香族ポリカーボネート樹脂が十分に高分子量化しなかった。
【0536】
【表8】
【0537】
【表9】
【0538】
なお、表1〜9中の記号は、以下を表す。
PP:芳香族ポリカーボネート化合物(プレポリマー)
BPA:2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン
DPC:ジフェニルカーボネート
TPE:1,1,1−トリスフェノールエタン
BPEF:9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(沸点:約625℃)
BPA−2EO:2,2’−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン(沸点:約480℃)
BP-2EO:4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル(沸点:約430℃)
PCPDM:ペンタシクロペンタデカンジメタノール(沸点:約420℃)
FG:フルオレングリコール(沸点:約370℃)
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール(沸点:約283℃)
DDM:デカリン−2,6−ジメタノール(沸点:約341℃)
BEPD:2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール
DIBPD:2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール
EMPD:2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール
DEPD:2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール
MPPD:2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール
NPG−DI:ビス(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル)カーボネート
1,2−PD:プロパン−1,2−ジオール
【産業上の利用可能性】
【0539】
本発明の新規なポリカーボネート共重合体は、他樹脂・添加剤等を用いることなく、従来の界面法によるポリカーボネートの物性を維持しつつ、高分子量であるにもかかわらず流動性が向上されているという特徴を有する。また、限られた製造条件を必要とせず簡便な製造方法により製造することができる。
【0540】
このような本発明の高流動性ポリカーボネート共重合体は、従来の汎用ポリカーボネート樹脂或いは組成物の代替として用いた場合、成形サイクルが早くなる、成形温度を低く設定できるなどの利点があり、種々の射出成形やブロー成形、押出成形、射出ブロー成形、回転成形、圧縮成形などで得られる様々な成形品、シート、フィルムなどの用途に好ましく利用することができる。また、使用電力の節減等により、自然環境への負荷及び成形体の製造コストの削減も見込まれ、経済的にも優れ、自然環境にも優しい樹脂ということができる。
【0541】
また、本発明の前記一般式(g1)〜(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法によれば、副生する環状カーボネートを反応系外へ除去することにより、高分子量で且つ高流動性であって品質に優れているだけでなく、界面法によるものと同じ構造で良好な耐熱性を有するポリカーボネート樹脂が得られる。
【0542】
このような方法で得られる本発明の高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂は、上記ポリカーボネート共重合体と同様に、従来の汎用ポリカーボネート樹脂或いは組成物の代替として用いた場合、成形サイクルが早くなる、成形温度を低く設定できるなどの利点があり、種々の射出成形やブロー成形、押出成形、射出ブロー成形、回転成形、圧縮成形などで得られる様々な成形品、シート、フィルムなどの用途に好ましく利用することができる。また、使用電力の節減等により、自然環境への負荷及び成形体の製造コストの削減も見込まれ、経済的にも優れ、自然環境にも優しい樹脂ということができる。特に、ポリカーボネートの一般的な成形温度の最大レベルでの熱履歴を長時間与えられても、分子量(Mw)保持率が高く(例えば70%以上)、またYI値変化量が小さい(例えば+25以下)など、極めて優れた熱安定性を示す。よって、例えば樹脂の溶融粘度を低く保つ必要がある精密成形などに特に好ましく利用することができる。
【0543】
また、本発明の新規な芳香族ポリカーボネート化合物は特定の末端物性を有するものであり、末端水酸基に結合する脂肪族炭化水素基を有する特定の脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応によるポリカーボネート樹脂製造用のプレポリマー材料として特に適している。
【0544】
本発明の芳香族ポリカーボネート化合物を特定の脂肪族ジオール化合物とエステル交換反応させることにより、芳香族ポリカーボネート樹脂の良好な品質を保持しつつ、簡便な方法で十分な高分子量化を達成することができる。特に、高分子量でありながら高流動性を備え、且つ分岐構造を含まないポリカーボネート共重合体を添加剤等を用いずに製造することができる。一方、前記芳香族ポリカーボネート化合物に所定量の分岐化剤を使用して分岐構造を導入すれば、所望の分岐化度を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を簡便に製造することができる。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7