(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
太陽光採光器の分野においては、光の取り込み効率あるいは上方への光線出射効率の向上が望まれている。しかしながら、上記各特許文献に記載の構成では、入射光を効率よく指向的に出射させるには採光器の厚みを大きくする必要があり、薄いフィルムで採光器を構成することは困難であった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、光の取り込み効率を改善でき、薄型化にも対応することができる光学素子およびその製造方法ならびに照明装置、窓材および建具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来技術が有する上述の課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、複数の反射面を有し、複数の反射面の1次元方向の長さ、配列ピッチおよび入射光の入射角が所定の関係を満たすようにされた構造層を具備する光学素子および照明装置を見出すに至った。
【0008】
しかしながら、製造工程上の理由により、構造層が設計値形状からの崩れを有することがある。反射面の形状の設計値からの崩れは、期待される光学特性に好ましくない影響を及ぼしてしまう。
【0009】
そこで、本発明者らは、反射面の形状に設計値からの崩れが存在する場合であっても所望の光学特性が得られるようにすべく鋭意検討した。その結果、設計値形状からの崩れと光学特性との間の関係を定量評価することにより、所定の関係式を満たすように反射面の形状が設計された光学素子およびその製造方法ならびに照明装置、窓材および建具を見出すに至った。
【0010】
したがって、第1の発明は、第1の面と、
第1の面に対向する第2の面と、
第1の面および第2の面で規定される第1の領域の内部に配列される複数の反射面と
を備え、
複数の反射面が、第1の面に垂直な第1の方向に第1の長さを有し、第1の方向と直交する第2の方向に沿って配列され、
第1の面または第2の面のうち、一方の面に入射した光が、複数の反射面により他方の面に向けて反射され、
下記の(1)式および(9)式を満たす光学素子である。
(ただし、d:第1の長さ、n:同一の反射面において入射光が全反射する回数、p:反射面の配列ピッチ、β:反射面に入射する光の第1および第2の方向を含む面への射影と、反射面の任意の点における接線とのなす角(6.5°≦β≦87.5°)、N:自然数の集合、n
p:第1の面および第2の面で規定される領域の内部の屈折率、n
air:空気の屈折率、α:光学素子に入射する光の入射角、ψ:第1および第2の方向を含む面において、反射面の任意の点における接線と第1の方向とのなす角。)
【0011】
【数1】
【0012】
【数2】
【0013】
第2の発明は、第1の面と、
第1の面に対向する第2の面と、
第1の面および第2の面で規定される第1の領域の内部に配列される複数の反射面と
を備え、
複数の反射面が、少なくとも一部に曲率を有するとともに、第1の面に垂直な第1の方向に第1の長さを有し、第1の方向と直交する第2の方向に沿って配列され、
第1の面または第2の面のうち、一方の面に入射した光が、複数の反射面により他方の面に向けて反射され、
下記の(1)式および(16)式を満たす光学素子である。
(ただし、d:第1の長さ、n:同一の反射面において入射光が全反射する回数、p:反射面の配列ピッチ、β:反射面に入射する光の第1および第2の方向を含む面への射影と、反射面の任意の点における接線とのなす角(6.5°≦β≦87.5°)、N:自然数の集合、n
p:第1の面および第2の面で規定される領域の内部の屈折率、n
air:空気の屈折率、ξ:反射面のうち曲率を有する部分をレンズとみなしたときに、反射面に入射した光が、集光後拡散された際の光の広がりの角度。)
【0014】
【数3】
【0015】
【数4】
【0016】
第3の発明は、第1の面と、
第1の面に対向する第2の面と、
第1の面および第2の面で規定される第1の領域の内部に配列される複数の反射面と
を備え、
複数の反射面が、微細な凹凸を有するとともに、第1の面に垂直な第1の方向に第1の長さを有し、第1の方向と直交する第2の方向に沿って配列され、
第1の面または第2の面のうち、一方の面に入射した光が、複数の反射面により他方の面に向けて反射され、
反射面で反射された光のエネルギ分布が正反射方向を中心とするガウス分布を有し、該ガウス分布の標準偏差が、5°以下とされ、かつ下記の(1)式を満たす光学素子である。
(ただし、d:第1の長さ、n:同一の反射面において入射光が全反射する回数、p:反射面の配列ピッチ、β:反射面に入射する光の第1および第2の方向を含む面への射影と、反射面の任意の点における接線とのなす角(6.5°≦β≦87.5°)、N:自然数の集合。)
【0017】
【数5】
【0018】
第4の発明は、原盤に形成された凹凸形状を転写材料に転写することにより、転写面に複数の反射面を有する第1の光透過層を形成する工程と、
第1の光透過層と第2の光透過層とを接合する工程と
を備え、
複数の反射面が、転写面の凹凸形状の深さ方向に第1の長さを有し、深さ方向と直交する第2の方向に沿って配列され、
第1の光透過層または第2の光透過層のうち、一方の一主面に入射した光が、複数の反射面により他方の一主面に向けて反射され、
下記の(1)式および(9)式を満たす光学素子の製造方法である。
(ただし、d:第1の長さ、n:同一の反射面において入射光が全反射する回数、p:反射面の配列ピッチ、β:反射面に入射する光の第1および第2の方向を含む面への射影と、反射面の任意の点における接線とのなす角(6.5°≦β≦87.5°)、N:自然数の集合、n
p:第1の光透過性部材の屈折率、n
air:空気の屈折率、α:光学素子に入射する光の入射角、ψ:第1および第2の方向を含む面において、反射面の任意の点における接線と第1の方向とのなす角。)
【0019】
【数6】
【0020】
【数7】
【0021】
第5の発明は、原盤に形成された凹凸形状を転写材料に転写することにより、転写面に
複数の反射面を有する第1の光透過層を形成する工程と、
第1の光透過層と第2の光透過層とを接合する工程と
を備え、
複数の反射面が、少なくとも一部に曲率を有するとともに、転写面の凹凸形状の深さ方向に第1の長さを有し、深さ方向と直交する第2の方向に沿って配列され、
第1の光透過層または第2の光透過層のうち、一方の一主面に入射した光が、複数の反射面により他方の一主面に向けて反射され、
下記の(1)式および(16)式を満たす光学素子の製造方法である。
(ただし、d:第1の長さ、n:同一の反射面において入射光が全反射する回数、p:反射面の配列ピッチ、β:反射面に入射する光の第1および第2の方向を含む面への射影と、反射面の任意の点における接線とのなす角(6.5°≦β≦87.5°)、N:自然数の集合、n
p:第1の光透過性部材の屈折率、n
air:空気の屈折率、ξ:反射面のうち曲率を有する部分をレンズとみなしたときに、反射面に入射した光が、集光後拡散された際の光の広がりの角度。)
【0022】
【数8】
【0023】
【数9】
【0024】
第6の発明は、原盤に形成された凹凸形状を転写材料に転写することにより、転写面に複数の反射面を有する第1の光透過層を形成する工程と、
第1の光透過層と第2の光透過層とを接合する工程と
を備え、
複数の反射面が、微細な凹凸を有するとともに、転写面の凹凸形状の深さ方向に第1の長さを有し、深さ方向と直交する第2の方向に沿って配列され、
第1の光透過層または第2の光透過層のうち、一方の一主面に入射した光が、複数の反射面により他方の一主面に向けて反射され、
反射面で反射された光のエネルギ分布が正反射方向を中心とするガウス分布を有し、該ガウス分布の標準偏差が、5°以下とされ、かつ下記の(1)式を満たす光学素子の製造方法である。
(ただし、d:第1の長さ、n:同一の反射面において入射光が全反射する回数、p:反射面の配列ピッチ、β:反射面に入射する光の第1および第2の方向を含む面への射影と、反射面の任意の点における接線とのなす角(6.5°≦β≦87.5°)、N:自然数の集合。)
【0025】
【数10】
【0026】
本発明では、第1の面もしくは第2の面のうち、一方の面に入射した光が、複数の反射面により他方の面に向けて反射される。または、第1の光透過層もしくは第2の光透過層のうち、一方の一主面に入射した光が、複数の反射面により他方の一主面に向けて反射される。反射面の形状は、設計値形状からの崩れの種類に応じて、所定の関係式を満たすように設計される。したがって、構造層に設計値形状からの崩れが存在しても、所定の角度範囲で入射する光を所定の角度範囲に効率よく出射することができる。ここで、設計値形状とは、例えば、矩形形状とされる複数の構造単位から構造層が構成される場合、該矩形形状が、歪みのない理想的な形状であることを指す。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、構造層に設計値形状からの崩れが存在しても、所望の光学特性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態について図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1.第1の実施形態(構造層形状に倒れや曲がりが存在する例)
2.第2の実施形態(構造層を形成する構造単位の先端形状に丸みが存在する例)
3.第3の実施形態(構造層形状の表面に微細な凹凸が存在する例)
4.変形例
【0030】
<1.第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る光学素子を窓に用いた例を示す室内の概略斜視図である。光学素子1は、屋外から照射される太陽Dからの入射光L1を室内Rへ取り込む太陽光採光器として構成され、例えば、建屋の窓材に使用される。光学素子1は、上空から照射される入射光L1を室内Rの天井Cに向けて指向的に出射する機能を有する。天井Cに向けて取り込まれた太陽光は、天井Cにおいて拡散反射されて室内Rを照射する。このように太陽光が室内の照明に用いられることで、日中における照明器具ILの使用電力の削減が図られることになる。
【0031】
[光学素子の概略的構成]
図2は、光学素子1の構成を示す概略断面図である。光学素子1は、第1の光透過層3、第2の光透過層5および基材11の積層構造を有する。
図2において、X軸方向は光学素子1の厚み方向であり、光入射面S1と垂直の方向である。Y軸方向は光学素子1の表面における水平方向、そしてZ軸方向は上記表面における上下方向を意味する。
【0032】
第1の光透過層3は、例えば、透明性を有する材料を主成分とする。第1の光透過層3の材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(Triacetylcellulose〔TAC〕)、ポリエステル(Polyester、熱可塑性ポリエステル系エラストマー(Thermoplastic Polyester Elastomer〔TPEE〕))、ポリエチレンテレフタレート(Polyethyleneterephtalate〔PET〕)、ポリイミド(Polyimide〔PI〕)、ポリアミド(Polyamide〔PA〕)、アラミド、ポリエチレン(Polyethylene〔PE〕)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン(Polypropylene〔PP〕)、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル(Polymethylmethacrylate〔PMMA〕))、ポリカーボネート(Polycarbonate〔PC〕)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などが挙げられるが、これらに限られない。
【0033】
第2の光透過層5は、第1の光透過層3と対向する一方の面15aに、後述する構造層15が形成されている。このため、形状転写性に優れた樹脂材料を用いることで、形状精度に優れた構造層を形成することができる。形状転写性に優れた樹脂材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または紫外線硬化樹脂などのエネルギ線硬化性樹脂組成物を挙げることができる。本願明細書において、エネルギ線硬化性樹脂組成物とは、エネルギ線を照射することによって硬化させることができる樹脂組成物を意味する。ここで、エネルギ線とは、紫外線、可視光線等に代表されるエネルギ線を意味する。
【0034】
第2の光透過層5の面15aは、例えば、透明な接着層7を介して第1の光透過層3に接合されている。これにより、構造層15を内包する透明層21が形成される。透明層21は、第1の光透過層3、第2の光透過層5および接着層7で構成される。なお、本願明細書にいう接着層には、粘着層が含まれるものとする。
【0035】
第2の光透過層5は、例えば、透明性を有する材料を主成分とする。第2の光透過層5は、第1の光透過層3と同種の樹脂材料で形成されてもよいが、第2の光透過層5は、紫外線硬化樹脂を主成分とすることが好ましい。また、第2の光透過層5は、ガラスで形成されてもよい。
【0036】
紫外線硬化樹脂は、例えば、(メタ)アクリレートと、光重合開始剤とを含有する。また、必要に応じて、光安定剤、難燃剤、レベリング剤、酸化防止剤、離型剤などがさらに含まれてもよい。アクリレートとしては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーを用いることができる。このモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレートなどを用いることができる。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基またはメタアクリロイル基のいずれかを意味する。オリゴマーとは、分子量500以上6000以下の分子をいう。光重合開始剤としては、例えば、ベンフェノン誘導体、アセトフェノン誘導体、アントラキノン誘導体などを単独で、または併用して用いることができる。
【0037】
また、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリエステル樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、メラミン樹脂、ナイロン系樹脂などが挙げられる。
【0038】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂などが挙げられる。いずれも、透明性の高い材料が好ましい。
【0039】
基材11は、第2の光透過層5の他方の面15b(第2の面)に積層された、光透過性の樹脂フィルムで形成されている。基材11は、保護層としての機能をも有し、例えば、透明性を有する材料を主成分とし、例えば、第1の光透過層3と同種の樹脂材料を主成分としている。基材は、第2の光透過層5の外表面だけでなく、第1の光透過層3の外表面にも積層されてもよい。
【0040】
以上のような積層構造を有する光学素子1は、窓材Fの室内側に積層される。窓材Fには各種ガラスが用いられ、その種類は特に限定されず、フロート板ガラス、合わせガラス、防犯ガラス等が適用可能である。本発明の一実施形態に係る光学素子1においては、第1の光透過層3の外表面が光入射面として形成され、基材11の外表面が光出射面として形成される。なお、基材11は必要に応じて省略可能であり、この場合、第2の光透過層5の表面15bが光出射面として形成されることが好ましい。
【0041】
(構造層)
次に、構造層15の詳細について説明する。
【0042】
構造層15は、上下方向(Z軸方向)に所定ピッチで配列された空隙151の周期構造を有する。空隙151は、X軸方向(第1の方向)に深さd(第1の長さ)、Z軸方向(第2の方向)に幅w(第2の長さ)を有し、Z軸方向に配列ピッチpで形成されている。また、空隙151は、Y軸方向に直線的に形成されている。
【0043】
図2において空隙151各々の上面は、光入射面S1から入射した光L1を光出射面S2に向けて反射する反射面151rを形成する。すなわち、反射面151rは、第2の光透過層5を構成する樹脂材料(第1の媒質)と空隙151内の空気(第2の媒質)との界面で形成される。本発明の一実施形態では、第2の光透過層5の相対屈折率が例えば1.3〜1.7とされ、空隙151内の空気(屈折率1)との屈折率差を有する。なお、上記第2の媒質は空気に限られない。例えば、空隙151内に第2の光透過層5よりも低屈折率の材料が充填されることで反射面151rが形成されてもよい。
【0044】
図3は、反射面151rの作用を説明する模式図である。反射面151rは、反射面151rに対し上方から入射する入射光L1を全反射することで、上方へ向けて出射される出射光L2を形成する。ここで、本願明細書にいう上方とは、光出射面S2から出射される出射光L2の出射角θ
out(
図2)が、0°以上90°以下となる方向を指す。なお、ここでは光の出射方向が上方である場合を説明するが、これに限定されず、光の入射方向や当該光学素子の設置方向などに応じて光の出射方向は変更され得る。
【0045】
図3において、反射面151rのX軸方向に対する長さをd、配列ピッチをp、反射面151rに入射する光のXZ平面への射影とX軸とのなす角をβとする。以下、反射面151rのXZ断面の輪郭線と、反射面151rに入射する光のXZ平面への射影とのなす角を照射角度と適宜称する。反射面151rが曲率を有している場合には、XZ断面の輪郭線に接線を引き、該接線と反射面151rに入射する光のXZ平面への射影とのなす角をとればよい。
図3に示す例では、角βが照射角度に相当する。ここで、以下の(1)式を満たすとき、反射面151rにおいて入射光L1が全反射する。
図3に示す例では、反射面151rに照射角度βで入射する全入射光線は、角度βで上方へ向けて出射される。
【0047】
ここで、nは自然数であり、同一の反射面151rにおいて入射光L1が全反射する回数を表す。
【0048】
本発明の一実施形態に係る光学素子1は、所定の角度範囲におけるいずれかの照射角度βで、上記(1)式を満たすように、反射面151rのX軸方向に対する長さdおよび配列ピッチpが設定される。(1)式を満たす角度を以下、設定照射角という。
【0049】
上記(1)式において、上方へ出射される出射光L2の出射光量は、
図3に示すように出射光L2の出射幅Tに置き換えて考えることができる。このとき、出射光L2の出射光量(T(β))は、XZ面内において入射光L1とX軸とがなす角βと、反射面151rの配列ピッチpとによって、以下の(2)式で定式化される。
【0051】
一方、入射光L1が設定照射角とは異なる角度で反射面151rに入射したとき、上方へ出射される出射光L2の光量が減少する。反射面151rに対する照射角度の変化は、反射面151rのX軸方向に対する長さdの変化として考えることができる。
図4は、反射面151rのX軸方向に対する長さがxだけ増加したときの上方への出射光量の変化を説明する模式図である。
図4に示すように、反射面151rのX軸方向に対する長さがxだけ増加したときの上方への出射光量(T(x))は、以下の(3)式で表される。
【0053】
反射面151rのX軸方向に対する長さの増加は、隣接する反射面の間での光の多重反射を引き起こし、下方へ反射される光L3の増加を招く。したがって、
図4に示した例では、設定照射角における上方への出射光量(T(β))に対する出射光量比は、以下の(4)式で表される。
【0055】
以上のように、反射面151rによる上方への出射光量は、入射角の設定照射角からの変化に応じて変化し、設定照射角からの変化量が大きいほど出射光量の減少量も大きくなる。したがって、設定照射角は、当該設定照射角からの角度の変化による出射ロスを含めて考慮され、用途や反射面151rへ入射する光の照射角度の範囲に応じて任意に設定可能であり、また、上方へ向けて出射させるべき光の量に応じて最適化される。例えば、光学素子1が太陽光採光器として使用される場合、採光を利用する地域や季節あるいは時間帯における太陽光の入射角範囲、採光した出射光の照射範囲等に応じて設定することができる。
【0056】
本発明の一実施形態では、例えば6.5°以上87.5°以下の範囲に設定照射角が存在するように反射面151rが形成される。下限である6.5°は北欧(例えばオスロ(ノルウェー))の冬至における太陽の高度に相当し、上限である87.5°は那覇(日本)の夏至における太陽の高度に相当する。設定照射角は、例えば、約60°とされる。これにより、世界のいずれの地域においても一年を通じて太陽光を効率よく取り込むことができる。また、日中における照明器具の消費電力の削減に大きく貢献することができる。反射面151rのX軸方向に対する長さdおよび配列ピッチpは、光学素子1の厚み(X軸方向の寸法)によって適宜設定可能であり、例えばd=10〜1000μm、p=100〜800μmの各範囲で最適化される。
【0057】
次に、構造層13の開口率について説明する。
【0058】
図2に示す構成の反射面151rは、Z軸方向に幅wを有する空隙151の表面に形成される。したがって、本発明の一実施形態に係る光学素子1における反射面151rの実質的な配列ピッチは、空隙151の幅wの大きさの影響を受けることになる。
図5は、反射面151rの配列ピッチpと、空隙151の幅wとの関係を示す。
図5に示すように、反射面151rの実効的な配列ピッチは、以下の(5)式に示すように表される。
【0060】
ここで、ARは、構造層15の開口率(Aperture Ratio)を示す。開口率が小さいと、入射光の出射割合が減少するだけでなく、窓外の視認性の大きな低下を招く。
図6は、空隙151の幅wによる入射光L1の出射光量の減少を説明する模式図である。
図6に示すように、入射光L1は、空隙151の幅wに相当する量だけ反射面への入射が遮られることになる。したがって、空隙151の幅wを考慮した入射光L1の反射面151rへの入射光量は上記(5)式で表され、上記(4)式と組み合わせると、入射光L1の上方への出射比率は、以下の(6)式で表される。
【0062】
本発明の一実施形態では、空隙151の幅wの大きさは、例えば、0.1μm以上とされ、その上限は、例えば、反射面151rの配列ピッチpの大きさで定まる。また、構造層15の開口率ARは、0.2以上とされることにより、上方への出射光を有効に取り出すことが可能となる。
【0063】
[光学素子の製造方法]
次に、以上のように構成される光学素子1の製造方法について説明する。
図7A〜
図7Cは、本発明の一実施形態に係る光学素子1の製造方法を説明する主要工程の概略斜視図である。
【0064】
まず、
図7Aに示すように、第2の光透過層5を作製するための原盤105を準備する。原盤105は、金型、樹脂型等で構成され、その一方の表面に、構造層15に対応する形状の凹凸形状115が形成されている。そして、
図7Bに示すように、この原盤105の凹凸形状115を転写材料に転写することで、構造層15を有する第2の光透過層5が形成される。
【0065】
転写材料としては、エネルギ線硬化性樹脂組成物、樹脂シートまたは樹脂フィルム上にエネルギ線硬化性樹脂組成物を塗布したものなどを用いることができる。エネルギ線硬化性樹脂組成物としては、紫外線硬化樹脂を用いることが好ましい。
【0066】
具体的には、第2の光透過層5の材料として紫外線硬化樹脂を用いる場合には、基材11と原盤105との間に当該樹脂を挟み込んだ状態で、例えば、基材11を介して紫外線を照射することで、第2の光透過層5が作製される。この場合、基材11には、紫外線の透過性に優れたPET等の樹脂材料を用いることが好ましい。
【0067】
また、第2の光透過層5は、ロール・ツー・ロール方式で連続的に製作することも可能である。この場合、原盤105は、ロール形状に形成することができ、例えば、転写法などを用いて原盤の凹凸形状を転写材料に転写することができる。
【0068】
転写法としては、例えば、帯状の樹脂シートをロールから供給し、熱や圧力を加えながら型の形状を転写する方法(ラミネート転写法)などが挙げられる。また、例えば、帯状の樹脂フィルムに未硬化のエネルギ線硬化性樹脂組成物を塗布し、エネルギ線硬化性樹脂組成物を、ロール形状とされた原盤にニップさせながらエネルギ線を照射して硬化させる方法が挙げられる。エネルギ線としては、例えば、電子線、紫外線、可視光線、ガンマ線、電子線などを用いることができ、生産設備の観点から、紫外線が好ましい。
【0069】
次に、
図7Cに示すように、第2の光透過層5を、例えば、接着層7を介して第1の光透過層3に接着する。これにより、
図2に示す光学素子1が作製される。第1の光透過層と第2の光透過層との接合は、加熱や加圧により溶着させてもよいし、化学溶剤を用いて溶着させてもよい。
【0070】
上記製造方法によれば、構造層15を内部に有する光学素子1を容易に作製することができる。また、原盤の凹凸形状を複雑な形状とする必要がなく、光学素子1の薄型化(例えば25μm〜2500μm)を容易に図ることができる。さらに、第2の光透過層5に基材11が積層されているので、光学素子に適度な剛性を付与することができ、ハンドリング性および耐久性を向上させることができる。
【0071】
以上のように作製される光学素子1は、窓材Fに貼り付けられることで使用されるが、光学素子1単体で使用されてもよい。本発明の一実施形態によれば、構造層15の各反射面151rに対して上方から所定の角度範囲で入射する入射光を効率よく光出射面S2から上方へ向けて出射させることができる。したがって、上記光学素子1を太陽光採光器として使用することで、太陽光を屋内の天井に向けて効率よく取り込むことができる。
【0072】
上述したように、光学素子の内部に構造層を形成することにより、光学素子からの出射光の配光分布を制御することが可能である。このとき、構造層の形状に設計値形状からの崩れが存在すると、期待した光学特性を満たさないということが起こり得る。そこで、本発明者らは検討を重ね、崩れを分類し、光学特性との関係を定量評価することにより、所定の関係式を満たすように構造層を設計することを見出した。
【0073】
構造層の形状における設計値形状からの崩れのうち、光学素子1の光学特性に好ましくない影響を与えるものとして、以下の3つを挙げることができる。
・構造層形状の倒れ・曲がり
・構造層を形成する構造単位の先端形状
・構造層形状の表面の粗度
【0074】
これらは、例えば製造工程上の理由により発生するが、発生を完全に防止することは困難である。したがって、崩れに対する許容範囲を策定することが、期待する光学特性を得るための方法の一つとして有効である。
【0075】
第1の実施形態に係る光学素子は、構造層形状に倒れや曲がりが存在した場合であっても、上方への出射光量の減少が抑えられた光学素子に関する。以下、光学素子に入射した光のうち、光学素子に対して上方へ出射される光の割合を上方透過率と適宜記載する。
【0076】
図8および
図9は、構造層形状の倒れや曲がりの例を示す断面模式図である。接着層7および基材11の図示は省略している。
図8A、CおよびEは、空隙151が、出射側に向かい上向きに傾斜している例である。
図8B、DおよびFのそれぞれに、反射面151rでの反射の様子を模式的に示す。
図8CおよびEに示す例では、反射面151rはある曲率を有している。
図9A、CおよびEは、空隙151が、出射側に向かい下向きに傾斜している例である。
図9B、DおよびFのそれぞれに、反射面151rでの反射の様子を模式的に示す。
図9CおよびEに示す例では、反射面151rはある曲率を有している。
図8および
図9では、空隙151の断面形状として、対向する辺のそれぞれが略平行とされた例を示しているが、空隙151の断面形状の例は、これらに限られない。例えば、一辺だけが曲率を有している形状や、対向する辺がそれぞれ空隙の外部へ向けて膨らんでいる形状等、種々の場合を考えることができる。
【0077】
以下では、反射面151rの形状に着目して説明を行う。なお、以下の説明において、第1の光透過層3と第2の光透過層5の間の屈折率差は、無視できるほど小さいものとする。接着層7や基材11が、光学素子1の内部のいずれかの位置に介在する場合においても、第1の光透過層3または第2の光透過層5との間の屈折率差は、無視できるほど小さいものとする。
【0078】
光学素子1への入射光L1は、光入射面S1で屈折し、反射面151rで反射される。反射面151rで反射された光は、光出射面S2で屈折し、光学素子1の外部へ出射される。構造層15に倒れや曲がりが存在すると、反射面151rに対する照射角度が設計値からずれ、光学素子1から上方に向けて出射される光量に変化が生じてしまう。このとき、空隙151が、出射側に向かい上向きに傾斜しているか、下向きに傾斜しているかのどちらであるかによって、上方に向けて出射される光量の変化の過程は異なる。
【0079】
(出射側に対して上向きの傾斜)
図8に示すように、反射面151rが、出射側に向かい上向きに傾斜している場合、反射面151rで反射されたのち光出射面S2に入射する光の光出射面S2に対する入射角が、設計値からずれてしまう。そのため、光出射面S2において意図しない全反射が起こり、上方透過率が低下してしまう。
【0080】
図10は、反射面が出射側に向かい上向きに傾斜している場合の、光学素子の内部を進む光の様子を模式的に示した要部断面図である。
図10に示す例では、反射面151rが、X軸に対して角度ψだけ傾斜している。以下、角度ψを傾斜角と適宜記載する。
【0081】
図10に示すように、入射角αで光学素子1へ入射する入射光L1は、入射面S1で屈折する。このときの屈折角をφとする。光学素子1の内部を進む光は、照射角度(φ+ψ)でもって反射面151rに入射し、反射面151rで反射されたのち、光出射面S2に向かって進む。光出射面S2へ入射した光は、光出射面S2で屈折し、外部への出射光L2となる。このとき、光出射面S2への入射角度は(φ+2ψ)である。
【0082】
光学素子1の外部へ出射される光の成分の減少を抑制するには、光出射面S2において全反射が起こらないようにすることが有効であるが、このときの臨界角は、光出射面S2に対する入射角度が(φ+2ψ)であることから、傾斜角ψの大きさに依存する。
【0083】
空気の屈折率をn
air、光学素子1内部の屈折率をn
pとすると、光入射面S1において、以下の(7)式が成り立つ。また、光出射面からの出射光L2の出射角をθ
outとすると、光出射面S2で全反射が起こらないための条件は、以下の(8)式で表される。
【0086】
(7)式、(8)式から、以下の(9)式を得る。
【0088】
したがって、構造層形状の倒れが上記(9)式を満たすこととなるように光学素子1の設計を行えば、光出射面S2における全反射を抑制することができ、上方透過率の低下を抑制することができる。
【0089】
なお、上記(9)式は、空隙151の断面形状が曲がりを有している場合にも適用することができる。この場合、角度ψとして、反射面151rのXZ断面の輪郭線にひいた接線のうち、X軸に対する傾きが最大となるものとX軸とがなす角度をとればよい。
【0090】
(出射側に対して下向きの傾斜)
図9に示すように、反射面151rが、出射側に向かい下向きに傾斜している場合、反射に寄与する面積の減少と同様の影響が生じる。例えば、X軸に対してごく浅い角度をなす方向からの入射光は、反射面151rでの反射が起こらない。そのため、反射面151rにおける反射光が減少し、その減少分が光学素子1の下方へ向けて出射されてしまう。
【0091】
図11は、反射面が出射側に向かい下向きに傾斜している場合の、空隙の近傍の様子を模式的に示した要部断面図である。
図11Aに示す例では、反射面151rが、X軸に対して角度ψだけ傾斜している。
図11Bに示す例では、反射面151rが、上方に凸となる曲率を持ちながら全体として下向きに傾斜している。また、
図11Cに示す例では、XZ断面において、反射面151rの光入射側および光出射側の端点を結ぶ直線が、X軸に対して角度ψだけ傾斜している。なお、
図11において、反射面151rに入射する光とX軸とのなす角をφとする。
【0092】
図11Aおよび
図11Bの場合と、
図11Cの場合とに分けて検討する。
図11Aおよび
図11Bの場合、反射面151rで確実に反射を起こさせるためには、XZ断面において、反射面151rの光入射側の端点における接線の傾きが、反射面151rに入射する光とX軸とのなす角に対して小さいことが必要である。すなわち、
図11Aに示す例では、傾斜角ψが角φに対して小となるように光学素子1の設計を行えばよい。
【0093】
図11Cの場合、反射面151rで確実に反射を起こさせるためには、XZ断面において、反射面151rの光入射側および光出射側の端点を結ぶ直線の傾きが、反射面151rに入射する光とX軸とのなす角に対して小さいことが必要である。すなわち、
図11Cに示す例では、傾斜角ψが角φに対して小となるように光学素子1の設計を行えばよい。
【0094】
したがって、構造層形状の倒れまたは曲がりに応じて、反射面151rの入射光線側の端点における接線の傾きが、反射面151rに入射する光とX軸とのなす角に対して小となるように光学素子1の設計を行う。または、反射面151rの光入射側および光出射側の端点を結ぶ直線の傾きが、反射面151rに入射する光とX軸とのなす角に対して小となるように光学素子1の設計を行う。なお、第1の長さdとしては、XZ面における反射面151rの輪郭線の長さをとればよい。このような設計を行うことで、入射する光を反射面151rにおいて確実に反射させることができる。さらに、反射面151rで反射された光が、光出射面S2で全反射されないようにすることで、上方透過率の低下を抑制することができる。
【0095】
以上より、構造層形状の倒れまたは曲がりが、上記(9)式を満たすこととなるように光学素子1の設計を行えばよいことがわかる。この場合において、傾斜角ψを、XZ面において、反射面151rの任意の点における接線とX軸とのなす角と読み替えれば、空隙151が出射側に向かい上向きに傾斜しているか、下向きに傾斜しているかに関わらず、光出射面S2における全反射を抑制することができる。したがって、構造層形状に倒れや曲がりが存在した場合であっても、上方透過率の低下を抑制することができる。
【0096】
<2.第2の実施形態>
第2の実施形態に係る光学素子は、構造層を形成する構造単位の先端形状に丸みが存在した場合であっても、光学素子に対して上方へ出射される光量の減少が抑えられた光学素子に関する。ここで、形状先端とは、光が入射してくる側に突出した構造の頂部をいう。
【0097】
図12および
図13は、構造層を形成する構造単位の先端形状が丸みを有するものである場合に、丸みの存在が上方透過率に与える影響を説明するための図である。構造層を形成する構造単位の先端形状として、
図12A〜Cに示す先端形状を想定し、シミュレーションを行った。シミュレーションは、ORA(Optical Research Associates)社の光学シミュレーションソフト(Light Tools)を用いた。以下、シミュレーションを用いた説明においては、構造層は樹脂などで包埋されておらず、光は形状先端側から入射されるものであるとする。
【0098】
図13A〜Cは、
図12A〜Cに示す先端形状にそれぞれ対応するシミュレーション結果を示す略線図である。
図13Aは、構造単位の先端形状に丸みがない(曲率がない)場合、
図13Bは、構造単位の先端における曲率が0.01の場合、
図13Cは、構造単位の先端における曲率が0.02の場合に相当する。
図13に示すように、先端形状が丸みを有することにより、先端形状がレンズのように作用し、構造層に入射した光が疑似的な焦点において結像したのち、拡散することがわかった。このような集光作用により、反射面151rで反射される光量が減少し、上方透過率の低下につながることがわかった。また、上方透過率の低下は、丸みの増大に伴い顕著になることがわかった。したがって、反射面151rに入射する光が拡散光となった場合であっても、そのほとんどが反射面151rにおける全反射条件を満たすように光学素子1の設計を行えば、先端形状の丸みによる光学素子1の光学特性への影響を低減することができる。
【0099】
図14は、拡散光が反射面によって全反射されるための条件を説明するための図である。
図14Aは、構造層の一部を模式的に示した要部断面図である。
図14Aに示すように、構造層の形状先端側から入射角度αで入射した光は、入射面で屈折して反射面151rに向かう。このときの屈折角をβとすると、入射角αと屈折角βは、以下の(10)式の関係を満たす。
【0101】
入射面で屈折した光は、反射面151rに照射角度βで入射する。照射角度βが以下の(11)式を満たすとき、反射面151rにおいて全反射が起こる。
【0103】
図14Bは、構造層を形成する構造単位の先端を模式的に示した断面図である。構造先端は、Z軸方向(第2の方向)に幅Vを有するものとし、形状先端の丸みは、半径Rの円弧であるものとする。また、丸み部分をレンズとみなしたときの焦点をf、仮想的な光軸と構造単位との交点をAおよびBとする。焦点fで集光したのち、拡散する光の広がりをξとすると、反射面151rへの照射角度はβ〜(β+ξ)の範囲にある。以下、光の広がりξを便宜上、拡散角ξと称する。
【0104】
ここで、拡散角ξと構造単位の形状との関係について考える。円弧の端点をa、bとし、点aおよび点bを結ぶ直線と仮想的な光軸ABとの交点から焦点fまでの距離をl
1とする。また、焦点fから点Bまでの距離をl
2とする。点Bを通り、仮想的な光軸ABと垂直な直線を引き、点aおよび焦点fを結ぶ直線との交点をdとする。また、仮想的な光軸ABと垂直な直線を引き、点bおよび焦点fを結ぶ直線との交点をcとする。点cと点dとの間の距離Dを、形状先端の丸み部分がレンズであるとみなしたときの光拡散の度合いであると考えることができる。
【0105】
三角形abfと三角形dcfは相似の関係にあるから、以下の(12)式が成り立つ。
【0107】
ここで、焦点fから点Bまでの距離l
2は、以下の(13)式を満たす。
【0109】
(12)式および(13)式から、光拡散の度合いDは、円弧aAbの半径R、距離l
1および構造先端のZ軸方向の幅Vを用いて、以下の(14)式によって表される。
【0111】
したがって、集光後の光線の拡散角ξは、(14)式のDを用いて以下の(15)式によって表される。
【0113】
ここで、反射面151rに照射角度βで入射した光が反射面151rにおいて全反射されるための条件は、(11)式で表される。また、形状先端の丸み部分をレンズとみなしたとき、集光後に拡散された光の、反射面151rに対する照射角度は、β〜(β+ξ)の範囲にある。これらから、拡散光が反射面151rによって全反射されるための条件は、以下の(16)式で表されることがわかる。
【0115】
なお、(10)式および(11)式から、入射角度αが、以下の式(17)の範囲にあることが望ましい。
【0117】
以上より、(16)式で表される条件のもとで、(17)式で表される条件が満たされるように光学素子1の設計を行う。このような設計を行うことで、先端形状の丸みによる光学素子1の上方透過率の低下を抑制することができる。
【0118】
(形状先端の丸みに対する光学補償)
図7を参照して説明したように、第2の実施形態に係る光学素子は、原盤の凹凸形状が転写された光透過層と他の光透過層とを接着することにより形成することができる。すなわち、構造層を形成する構造単位の形状先端側には、接着層が配置される。したがって、原盤の凹凸形状が転写された光透過層の形状先端と他の光透過層との接着工程を工夫することにより、先端形状の丸みに起因する上方透過率に対する影響を緩和することができる。
【0119】
図15は、先端形状の丸みに起因する上方透過率に対する影響を緩和する方法の一例を説明するための略線図である。
図15A〜
図15Cは、上方透過率に対する影響を緩和する第1の方法〜第3の方法にそれぞれ対応する。
【0120】
上方透過率に対する影響を緩和する第1の方法は、形状先端と他の光透過層とを接着剤または粘着剤を介して貼り合わせるようにし、形状先端の少なくとも一部を接着剤または粘着剤からなる貼合層に埋没させる方法である。
図15Aに示すように、形状先端の丸みを有する部分が、貼合層37に埋没されるようにすることで、形状先端の丸み部分による光拡散を低減させることができる。
図15Aに示す例では、接着剤または粘着剤があらかじめセパレータ39の片面上に形成されているので、セパレータ39を介して圧力をかけることで、形状先端を貼合層37に埋没させることができる。または、形状先端と貼合層37とを接着した後にセパレータ39を剥離し、他の光透過層と形状先端とを貼合層37を介して接着する際に圧力をかけることで、形状先端を貼合層37に埋没させることができる。この場合において、貼合層37の材料と構造層の構造先端を形成する材料との屈折率差が、できる限り小さくされていることが好ましい。
【0121】
上方透過率に対する影響を緩和する第2の方法は、形状先端の表層部を化学溶剤により膨潤させたうえで、圧力を加えながら、形状先端と他の光透過層とを接着する方法である。
図15Bに示すように、化学溶剤により膨潤した形状先端と他の光透過層とを圧着する。このようにして、形状先端の丸み形状を設計値形状に近づけるようにし、例えば、上述した手順で求められる設計上の許容範囲内のものとする。
【0122】
第2の方法に用いる化学溶剤としては、基本的には使用する樹脂を溶解できればどのような化学溶剤を用いてもよいが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル系、炭化水素系(鎖状、環状、N−メチルピロリドンなどの複素環式も含む)など適宜選択できる。使用する樹脂の溶解性パラメーターと近い溶解性パラメーターを有する化学溶剤を用いるとよい。
【0123】
上方透過率に対する影響を緩和する第3の方法は、形状先端に熱および圧力を加えながら、形状先端と他の光透過層とを接着する方法である。
図15Cに示すように、第1の光透過層を介して形状先端に熱Hを加え、他の光透過層と圧着することで、形状先端の丸み形状を設計値形状に近づけるようにし、例えば、上述した手順で求められる設計上の許容範囲内のものとする。このようにすることで、形状先端において丸み部分が占める割合を低減させることができ、形状先端の丸み部分による光拡散を低減させることができる。
【0124】
図16は、上述した第2または第3の方法により、第1の光透過層3と第2の光透過層5とを熱溶着または溶剤溶着したときの光学素子の断面の例を模式的に示した図である。構造層を形成する構造の先端形状が、
図16Aに示すような形状であったときに、上述した第2の方法により、形状先端と他の光透過層とを接着を行った。そのときに得られた光学素子1の断面形状は、
図16Bに示すように、形状先端における頂部が溶着され、界面が確認できないものとなっていた。したがって、形状先端において丸み部分が占める割合を低減させることができ、形状先端の丸み部分による光拡散を低減させることができる。また、上述した第2または第3の方法を適用して熱溶着または溶剤溶着したときの圧力が過多であると、
図16Cに示すような断面形状となることがある。この場合も、形状先端における頂部が溶着されて界面が確認できないものとなるため、形状先端の丸み部分による光拡散を低減させることができる。
【0125】
<3.第3の実施形態>
第3の実施形態に係る光学素子は、構造層形状の表面に微細な凹凸が存在する場合であっても、光学素子に対して上方へ出射される光量の減少が抑えられた光学素子に関する。
【0126】
図17は、構造層形状の表面が微細な凹凸を有するものである場合に、微細な凹凸の存在が上方透過率に与える影響を説明するための図である。
図17Aは、構造層の一部を模式的に示した要部断面図である。光学素子の構造層形状の表面すなわち反射面151rは、理想的には、平滑面であることが望ましいが、
図17Aに示すように、反射面151rには微細な凹凸が存在する。この微細な凹凸は、例えば、原盤を製作する際に生じた微細な凹凸が転写されたものである。
【0127】
反射面151rの微細な凹凸は、略周期的であってもよいが、ランダム形状である可能性が高いと考えられる。反射面151rの微細な凹凸は、反射面151rに入射する光を拡散反射させると考えられる。そこで、微細な凹凸を有する反射面で反射された光のエネルギ分布は、正反射方向を中心としたガウス分布に従うと考えられる。
【0128】
図17Bは、微細な凹凸を有する反射面で反射された光のエネルギ分布を模式的に示した略線図である。
図17Bに示す角度θは、XZ面内において正反射方向に対して測った角度である。θ方向の光度または放射輝度に対応するP(θ)は、以下の(18)式で表される。
【0130】
上記(18)式において、P
0は、正反射方向の光度または放射輝度であり、σはガウス分布の標準偏差である。以下、標準偏差σを便宜上、表面粗度と称する。
【0131】
微細な凹凸を有する反射面で反射された光は、P(θ)で表されるエネルギ分布を有すると考えられる。そのため、反射面151rで反射されたのち光出射面S2に入射する光の光出射面S2に対する入射角が、ある程度のばらつきを有するものとなる。そうすると、光出射面S2に対する入射角によっては、光出射面S2において意図しない全反射が起こり、反射面151rが平滑面であるとしたときと比較して、上方透過率が低下してしま
う。
【0132】
反射面の微細な凹凸が上方透過率に与える影響を調べるため、
図18Aおよび
図18Bに示す構造層形状を想定し、シミュレーションを行った。シミュレーションには、ORA社のLight Toolsを用いた。
【0133】
図19Aは、照射角度を60°としたときの出射角度θ
out[°]に対する透過率T[%]を示した図である。θ
out≧0°における透過率Tが、上方透過率に相当する。
図19Aにおいて、G1〜G5が、それぞれσ=0°、0.5°、1°、3°、5°のシミュレーション結果に対応する。
図19Bは、照射角度を60°としたときの表面粗度σに対する相対上方透過率Rr[%]を示した図である。
図20Aは、照射角度を30°としたときの出射角度θ
out[°]に対する透過率T[%]を示した図である。
図20Aにおいて、G6〜G10が、それぞれσ=0°、0.5°、1°、3°、5°のシミュレーション結果に対応する。
図20Bは、照射角度を30°としたときの表面粗度σに対する相対上方透過率Rr[%]を示した図である。ここで、相対上方透過率Rr[%]は、σ=0°における上方透過率に対する、各σにおける上方透過率との比である。
【0134】
図19および
図20の結果から、以下のことがわかった。表面粗度σとして、σ≦5°であることが好ましく、σ≦2.5°であることがより好ましい。σ≦5°であると、相対上方透過率として少なくとも1%以上を確保できるからである。また、σ≦2.5°であると、相対上方透過率として10%以上を確保できるからである。さらに、σ≦1°であることが特に好ましい。σ≦1°であると、相対上方透過率として25%以上を確保できるからである。
【0135】
光学素子の表面粗度σは、例えば、以下のようにして見積もることができる。まず、光学素子をXZ面で切断し、反射面151rの断面形状の観察を行うことにより、算術平均粗さRaを算出する。次に、あらかじめRaがわかっている比較用サンプルを準備し、分光ゴニオメータを用いてP(θ)を測定する。または、シミュレーションによりP(θ)を求める。光学素子の断面観察から得られたRaに近い値を有する比較サンプルのP(θ)におけるσを、光学素子の表面粗度σとして見積もることができる。
【0136】
したがって、構造層形状の表面に微細な凹凸が存在する場合であっても、反射光のエネルギ分布における標準偏差が上述した条件を満たすように光学素子1の設計を行う。このような設計を行うことで、反射面に存在する微細な凹凸による光学素子1の上方透過率の低下を抑制することができる。
【実施例】
【0137】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0138】
[試験例1]
以下に説明する試験例1では、構造層を形成する構造単位の先端形状の丸みが透過率に与える影響をシミュレーションにより求めた。シミュレーションは、ORA社のLight Toolsを用い、下記の試験例1−1〜試験例1−7に示す光学素子に対して行った。また、丸み部分は円弧であるとし、円弧の曲率を変化させた場合の透過率T[%]を求めた。
【0139】
(試験例1−1)
まず、
図14に示すものと同様の構造層を形成する構造単位を想定した。曲率として0.01、照射角度として0°を想定した。
【0140】
(試験例1−2)
曲率を0.02とする以外は試験例1−1と同様にして、構造層を形成する構造単位を想定した。
【0141】
(試験例1−3)
曲率を0.03とする以外は試験例1−1と同様にして、構造層を形成する構造単位を想定した。
【0142】
(試験例1−4)
構造単位の先端形状に丸みがない(曲率がない)とし、照射角度を60°とする以外は試験例1−1と同様にして、構造層を形成する構造単位を想定した。
【0143】
(試験例1−5)
曲率を0.01、照射角度を60°とする以外は試験例1−1と同様にして、構造層を形成する構造単位を想定した。
【0144】
(試験例1−6)
曲率を0.02、照射角度を60°とする以外は試験例1−1と同様にして、構造層を形成する構造単位を想定した。
【0145】
(試験例1−7)
曲率を0.03、照射角度を60°とする以外は試験例1−1と同様にして、構造層を形成する構造単位を想定した。
【0146】
試験例1−1〜試験例1−3に示す構造層を形成する構造単位に対するシミュレーションの結果を
図21Aに示す。
図21Aにおいて、R1〜R3が、それぞれ試験例1−1、試験例1−2および試験例1−3のシミュレーション結果に対応する。また、試験例1−4〜試験例1−7に示す構造層を形成する構造単位に対するシミュレーションの結果を
図21Bに示す。
図21Bにおいて、R4〜R7が、それぞれ試験例1−4、試験例1−5
、試験例1−6および試験例1−7のシミュレーション結果に対応する。
【0147】
図21から以下のことがわかった。照射角度が0°のとき、曲率が大きくなるにつれてピークが低下し、光学素子はブロードな光学特性を示す。照射角度が60°のとき、曲率が大きくなるにつれて上方透過率(θ
out≧0°)、下方透過率(θ
out<0°)がともに低下する。すなわち、光学素子に入射する光を取り込む作用が低下することがわかった。
図22および
図23に、照射角度が60°のとき、曲率が大きくなるにつれて、光学素子に入射する光を取り込む作用が低下する様子を示す図である。
図22Aが試験例1−4に、
図22Bが試験例1−5に、
図23Aが試験例1−6に、
図23Bが試験例1−7のシミュレーション結果に対応する。
【0148】
[試験例2]
以下に説明する試験例2では、構造層形状の表面の微細な凹凸が透過率に与える影響をシミュレーションにより求めた。シミュレーションは、ORA社のLight Toolsを用い、下記の試験例2−1〜試験例2−6に示す光学素子に対して行い、反射面が散乱特性を有する場合と有しない場合(σ=0°)について、照射角度を変化させた場合の透過率T[%]を求めた。
【0149】
(試験例2−1)
まず、
図18に示すものと同様の構造層を形成する構造単位を想定した。反射面151rが散乱特性を有するものとし、すなわち、反射光のエネルギ分布がガウス分布に従うものとし、照射角度として10°を想定した。
【0150】
(試験例2−2)
照射角度を30°とする以外は試験例2−1と同様にして、構造層を形成する構造単位を想定した。
【0151】
(試験例2−3)
照射角度を30°とする以外は試験例2−1と同様にして、構造層を形成する構造単位を想定した。
【0152】
(試験例2−4)
反射面151rが散乱特性を有しないものとし、照射角度を10°とする以外は試験例2−1と同様にして、構造層を形成する構造単位を想定した。
【0153】
(試験例2−5)
反射面151rが散乱特性を有しないものとし、照射角度を30°とする以外は試験例2−1と同様にして、構造層を形成する構造単位を想定した。
【0154】
(試験例2−6)
反射面151rが散乱特性を有しないものとし、照射角度を60°とする以外は試験例2−1と同様にして、構造層を形成する構造単位を想定した。
【0155】
試験例2−1〜試験例2−3に示す構造層を形成する構造単位に対するシミュレーションの結果を
図24Aに示す。
図24Aにおいて、R8〜R10が、それぞれ試験例2−1、試験例2−2および試験例2−3のσ=5°の条件下におけるシミュレーション結果に対応する。また、試験例2−4〜試験例2−6に示す構造層を形成する構造単位に対するシミュレーションの結果を
図24Bに示す。
図24Bにおいて、R11〜R13が、それぞれ試験例2−4、試験例2−5および試験例2−6のσ=5°の条件下におけるシミュレーション結果に対応する。
【0156】
図24から、反射面151rが散乱特性を有するものであると、反射面151rが散乱特性を有しない場合と比較して、上方透過率が低下することがわかった。また、上方透過率の低下は、照射角度が大きいほど顕著であることがわかった。
【0157】
<4.変形例>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0158】
[第1の変形例]
図25Aおよび
図25Bは、本発明の第1の変形例に係る光学素子を示している。
【0159】
第1の変形例に係る光学素子は、基本構成として、第1の光透過層203と第2の光透過層205とを有する。
図25Aに示すように、第1の光透過層203は、光入射面S1を形成する外表面と、Y軸方向に延びZ軸方向に配列された複数の凹部203aが形成された内表面とを有する。一方、第2の光透過層205は、光出射面S2を形成する外表面と、Y軸方向に延びZ軸方向に配列された複数の凹部205aが形成された内表面とを有する。これら第1の光透過層203および第2の光透過層205の各々の内表面には、凹部203aおよび凹部205aに区画された凸部203bおよび凸部205bをそれぞれ有する。両凸部203b、205bはそれぞれX軸方向に略平行に突出し、それぞれ同一の突出長さを有する。
【0160】
第1の変形例に係る光学素子201は、第1の光透過層203と第2の光透過層205とを
図25Bに示すように、一方側の凸部203b、205bが他方側の凹部203a、205aの中間に位置するように相互に重ね合わせることで作製される。これにより、凹部203a、205aと、凸部203b、205bとの間に、Z軸方向に配列された同一形状の複数の空隙251を有する構造層215が形成される。以上のように、構造層25を内包する透明層221を備えた光学素子201が構成される。
【0161】
第1の変形例に係る光学素子201においては、各空隙251の上面に太陽光を反射する反射面が形成される。空隙251の深さ、幅および配列ピッチは、凸部203b、205bの高さ、幅およびピッチでそれぞれ設定される。このような構成の光学素子201においても、構造層の形状の崩れに対して、上述した設計手法を適用することにより、上述した実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0162】
なお、第1の光透過層203および第2の光透過層205は、それぞれ、
図7Aに示した原盤115を用いて作製することができる。両光透過層203、205の接合には、透明な粘着剤等が用いられてもよいし、形状の先端に丸みを有するようであれば、
図15に示した方法により、丸み部分を緩和するような形で接合を行ってもよい。
【0163】
[第2の変形例]
図26は、第2の変形例に係る光学素子301の斜視図である。第2の変形例に係る光学素子301は、空隙351が一方の表面に形成された光透過層305と、プリズム311Pが配列された構造面を有するプリズムシート311(第2の基体)との積層構造を有する。空隙351は、光透過層305の光入射側の面に形成され、プリズム311Pは光出射面の側に形成されている。プリズム311Pは、Z軸方向に稜線方向を有し、Y軸方向に配列されている。
【0164】
以上のように構成される光学素子301は、プリズム331Pが空隙351の配列方向(Z軸方向)に稜線方向を有している。このため、空隙351の上面(反射面)にて反射された入射光は、プリズムシート311を透過する際にプリズム311Pの斜面における屈折作用によって、Y軸方向に拡散して出射される。これにより、当該光学素子301へ入射した光を上方へ向けて出射する機能と、横方向へ拡散する機能とを同時に得ることが可能となる。
【0165】
プリズム311Pの配列ピッチ、高さ、頂角の大きさなどは、目的とする光出射特性に応じて適宜設定することができる。また、光透過層305およびプリズムシート311によって入射光を上下左右の4方向へ分離することが可能である。
【0166】
プリズム311Pは、周期的に形成される例に限られず、非周期的に大きさや形状を異ならせて形成されてもよい。また、プリズムシート311は、光透過層305の光入射側に設置されてもよい。さらに、プリズム311Pの配列方向は上述のようにY軸方向だけに限られず、空隙351の配列方向に対して斜めに交差する方向であってもよい。
【0167】
光拡散性を有する基体としては、上述のプリズムシートに限られず、シボ付きのフィルムや、スジ状のシボが形成された光透過性フィルムや、表面上に半球状あるいは円柱状の曲面レンズが形成された光透過性フィルムなど、周期的または非周期的な形状の光拡散要素を有する各種の光透過性フィルムを用いることができる。また、光拡散性フィルムとして、光透過層305と同一の構造面を有するフィルムを用いてもよい。この場合、光入射側に位置する光透過層305と形状が交差するような向きに当該フィルムを積層することで、拡散度を高めることができる。
【0168】
[第3の変形例]
図27は、第3の変形例を示している。第3の変形例に係る照明装置400は、発光体40と、広告媒体48と、これら発光体40と広告媒体48との間に配置された光透過フィルム405とを有する。
【0169】
発光体40は、複数本の線状光源44と、光源44を収容するケーシング42とを有する。ケーシング42の内面は光反射性を有しており、必要に応じて光源44から出射された光を前面に向けて集光する機能が付加されてもよい。
【0170】
光透過フィルム405は、上述した実施形態と同様の構成を有しており、発光体40に対向する光入射面と、広告媒体48に対向する光出射面とを有する。光透過フィルム405の光入射面側には、反射面を有する空隙がZ軸方向に所定ピッチで配列されている。
【0171】
広告媒体48は、光透過性を有するフィルムあるいはシートで形成され、文字、図形、写真等の広告的情報が表示された表面を有する。広告媒体は、光透過フィルム405を被覆するようにして発光体40と一体化されており、発光体40および光透過フィルム405によって形成される照明光が照射されることで、正面方向へ広告情報を表示する。
【0172】
第3の変形例では、光透過フィルム405は、例えば上方へ向けて光を指向的に出射する機能を有しているため、広告媒体48を透過する光量に上下方向で一定の差を生じさせる。このように、広告媒体48に所望の輝度分布を付与することができるため、輝度差に基づく広告媒体の装飾効果が高まり、広告表示の意匠性を向上させることができる。また、第3の変形例によれば、視認方向によって広告媒体48の表示光に輝度の分布を持たせることが可能であるため、広告媒体48を視る位置、角度、高さ等に応じて異なった表示感あるいは装飾感を需要者に与えることができる。
【0173】
また、第3の変形例によれば、光透過フィルム405の空隙部の形状、配列ピッチ、幅、深さ、周期性等を適宜変更することにより、広告媒体の表示内容に応じた所望の輝度分布を容易に付与することができる。
【0174】
[第4の変形例]
照明器具のほか、採光部を備える建具(内装部材または外装部材)に対して光学素子を適用してもよい。
図28Aは、採光部に光学素子を備える建具の一構成例を示す斜視図である。
図28Aに示すように、建具501は、その採光部504に採光部材502を備える構成を有している。具体的には、建具501は、採光部材502と、採光部材502の周縁部に設けられる枠材503とを備える。採光部材502は枠材503により固定され、必要に応じて枠材503を分解して採光部材502を取り外すことが可能である。建具501としては、例えば障子を挙げることができるが、この例に限定されるものではなく、採光部を有する種々の建具に適用可能である。
【0175】
図28Bは、採光部材の一構成例を示す断面図である。
図28Bに示すように、採光部材502は、基材511と、光学素子1とを備える。光学素子1は、基材511の両主面のうち、外光を入射させる入射面側(窓材に対向する面側)に設けられる。光学素子1と基材511とは、接着層または粘着層などの貼合層などにより貼り合わされる。なお、障子502の構成はこの例に限定されるものではなく、光学素子1を採光部材502として用いるようにしてもよい。建具として、サッシに備えられた窓材に、光学素子と同様の構成を適用してもよい。
【0176】
[その他の変形例]
上述した実施形態では、反射面151rが素子の厚み方向(X軸方向)に延在するように配置した例を説明したが、空隙部の上下面に形成される一対の反射面は、相互に平行である場合に限られず、相互に非平行であってもよい。
【0177】
例えば、
図29Aは、上下に対向する面の間の距離が、光入射面S1側から光出射面S2側に向かって連続的に小さくなるようにされた空隙551Aを有する構造層を備えた光学素子を模式的に示している。一方、
図29Bに示す光学素子は、光入射面S1側から光出射面S2側に向かって、上下の反射面が+Z方向へ傾斜する空隙551Buと、上下の反射面が−Z方向へ傾斜する空隙551Bdとが、Z軸方向に交互に配列された構造を有する。または、空隙の上下面に形成される一対の反射面のうち、少なくとも一方がX軸方向に対して傾斜する形状でもよい。
図29Cは、X軸に対して所定の傾斜角ψで傾斜する反射面551rと、X軸方向に平行な反射面とを有する空隙551Cを備える光学素子を模式的に示した図である。
【0178】
図29A、
図29Bおよび
図29Cに示す光学素子は、
図7を参照して説明したように、2枚の光透過層を重ね合わせることで作製される。すなわち、
図29Aおよび
図29Cに示した光学素子は、台形状の凸部が形成された光透過層に、平坦な光透過層を接合することで作製できる。また、
図29Bに示した光学素子は、台形状の凸部が形成された2つの光透過層を互い違いとなるようにして重ね合わせることで作製することができる。
【0179】
図29A、
図29Bおよび
図29Cに示す例のほか、
図8および
図9に示すような空隙の断面形状を意図的に作り出すこともできる。例えば、
図7を参照して説明した製造工程において、他方に対して一方を、第1の方向に垂直な方向に力を加えながら2つの光透過
層を接合すればよい。
【0180】
第1の実施形態の説明において示したように、反射面の傾斜、構造層形状の倒れまたは構造層形状の曲がりが、上記(9)式を満たすこととなるように光学素子の設計を行う。この場合における傾斜角ψは、反射面の任意の点における接線とX軸とのなす角である。上記(9)式を満たすこととなるように光学素子を設計することで、上方透過率の低下を抑制しながら、より緻密な光の配光制御あるいはより複合的な調光機能を実現することが可能となる。
【0181】
そのほかにも、例えば
図30A〜
図30Fおよび
図31A〜
図31Dに示すように、光学素子の積層構造は、任意に設定することが可能である。
【0182】
図30Aは、空隙を有する光透過層5を接着層7を介して直接窓材Fに貼り付けた例を示す図である。基材11は、
図30Eに示すように省略されてもよい。
図30Bは、光透過層5の空隙の形成面に、基材11を貼設して窓材Fに貼り付けた例を示す図である。この例では、光透過層5の成形後、熱溶着などによって光透過層5と基材11とが一体化される。この場合、両フィルム間に界面が存在しないように溶着させることができる。また、この例によれば、接着層7の空隙部内への侵入を回避することができる。
【0183】
図30Cおよび
図30Dは、空隙が光出射側に位置するように光透過層5を窓材Fに貼り付けた例をそれぞれ示す。このような構成によっても、上述の第1の実施形態と同様な効果を得ることができる。
図30Cにおいて、基材11は、
図30Fに示すように省略されてもよい。また、
図30Dは、光透過層5の光出射側にプリズムやシボ等の光拡散要素が表面に形成された形状付きフィルム611を積層した例を示す図である。この作用効果は、
図26を参照して説明した例と同様である。
【0184】
図31Aおよび
図31Bは、光透過層5と基材11とを、光透過性を有する接着層77を介して接合した例を示す図である。接着層77には、接着層7と同種の材料を用いることができる。
図31Aに示す構成例では、光透過層5は、光入射側に空隙を有し、その光入射側に基材11が接合される。
図31Bに示す構成例では、光透過層5は、光出射側に空隙を有し、その光出射側に基材11が接合される。
【0185】
図31Cは、
図30Aにおける基材11を、光拡散性を有するフィルム611に置き換えた構成例を示す図である。
図31Dは、
図30Bの構成例において、光透過層5の光出射側に、光拡散性を有する形状付きフィルム613を接合した例を示している。形状付きフィルム613の接合に代えて、光透過層5の光出射面に直接凹凸形状を形成することで光拡散機能を付与してもよい。
【0186】
また、光学素子は、表面に耐擦傷性などを付与する観点から、ハードコート層をさらに備えるようにしてもよい。このハードコート層は、光学素子1の光入射面および光出射面のうち、窓材などの被着体に貼り合わされる面とは反対側の面に形成されることが好ましい。光学素子は、光出射面に、防汚性などを付与する観点から、撥水性または親水性を有する層を備えてもよい。そのほか、光学素子は、熱線カット層、紫外線カット層、表面反射防止層などの機能層と併用して用いることができ、窓材などの被着体に貼り合わされる側の面に、粘着層と剥離層がさらに積層されていてもよい。このようにすることで、窓材などの被着体に容易に貼り合わせることができる。
【0187】
なお、光学素子の用途に応じて、光学素子に対して着色を施し、意匠性を付与するようにしてもよい。
【0188】
以上に示した例では、光学素子の光入射面および光出射面を垂直方向(Z軸方向)に配置した例を説明したが、水平面や傾斜面に当該光学素子が設置されてもよい。この場合、採光した光が所望の領域へ出射されるように、空隙の形状を適宜調整することができる。また、採光の対象は太陽光に限られず、人工光であってもよい。さらに、光の取り込み方向は必ずしも上方に限られず、横方向でもよいし下方向でもよく、複数方向に分離出射させることも可能である。