特許第5935863号(P5935863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935863
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】胃食道逆流症に対する薬剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/426 20060101AFI20160602BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20160602BHJP
   A61K 31/444 20060101ALI20160602BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20160602BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   A61K31/426
   A61K31/4439
   A61K31/444
   A61K45/00
   A61P1/04
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-250124(P2014-250124)
(22)【出願日】2014年12月10日
(62)【分割の表示】特願2014-528164(P2014-528164)の分割
【原出願日】2013年7月30日
(65)【公開番号】特開2015-71635(P2015-71635A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2015年1月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-169037(P2012-169037)
(32)【優先日】2012年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-281959(P2012-281959)
(32)【優先日】2012年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(72)【発明者】
【氏名】岡田 啓希
(72)【発明者】
【氏名】古根村 崇
【審査官】 加藤 文彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2002/072564(WO,A1)
【文献】 国際公開第2002/072145(WO,A1)
【文献】 特表2009−524669(JP,A)
【文献】 特開2007−023028(JP,A)
【文献】 特許第5664831(JP,B2)
【文献】 近藤隆 他,胸やけ症状発現と食道粘膜におけるプロスタグランジンE2 及びEP1 受容体の関連,日本消化管学会総会学術集会プログラム・抄録集,2012年 2月,Vol.8th,p.156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/426
A61K 31/4439
A61K 31/444
A61K 45/00
A61P 1/04
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸またはその塩を有効成分とする胃食道逆流症の再発抑制剤。
【請求項2】
胃酸および/または胃内容物の逆流抑制による請求項1記載の剤。
【請求項3】
一過性下部食道括約筋弛緩回数を低減させることによる請求項1または2記載の剤。
【請求項4】
一過性下部食道括約筋弛緩抑制による請求項1または2記載の剤。
【請求項5】
胃食道逆流症が、逆流性食道炎を伴う請求項1記載の剤。
【請求項6】
胃食道逆流症が、非びらん性である請求項1記載の剤。
【請求項7】
ヒスタミンH2受容体拮抗薬、消化管運動促進薬、経口制酸合剤、粘膜保護剤およびドーパミン受容体拮抗薬から選択される医薬との併用を特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の剤。
【請求項8】
プロトンポンプ阻害薬との併用を特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の剤。
【請求項9】
プロトンポンプ阻害薬が、オメプラゾール、エソメプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール、テナトプラゾール、イラプラゾールおよびランソプラゾールから選択される医薬である請求項8記載の剤。
【請求項10】
4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸またはその塩を有効成分とする胃酸および/または胃内容物の逆流抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃食道逆流症(以下、GERD(Gastroesophageal Reflux Disease)と略記することがある。)の治療または症状改善剤としての4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそのプロドラッグ(以下、本発明化合物と略記することがある。)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
胃食道逆流症とは、胃酸または胃内容物の食道内への逆流により健康な生活を障害する不快な症状あるいは身体的合併症を伴う疾患である。その不快な症状としては、主に胸焼けや呑酸などであるが、食道炎のような合併症(逆流性食道炎)をきたすこともある。一方、食道炎を伴わない胃食道逆流症は、近年、非びらん性胃食道逆流症(NERD(Non-Erosive Reflux Disease))とも呼ばれている。
【0003】
現在、胃食道逆流症の治療には、プロトンポンプ阻害薬、ヒスタミンH2阻害薬、消化管運動促進薬や漢方薬等が使用されている。なかでも、多用されているプロトンポンプ阻害薬は、米FDAより、骨折率の上昇やクロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)関連下痢症との関連が指摘され、低用量或いは短期間の使用にとどめるべきと警告されており、効果に限界があるにも関わらず漫然と使用されることが問題視されている。また、プロトンポンプ阻害薬を含む既存の薬剤は、粘膜損傷が要因の逆流性食道炎を伴う自覚症状に比べ、粘膜損傷のないNERDに分類される患者の自覚症状に対する効果が弱いことが知られており、プロトンポンプ阻害薬で効果が得られない患者の選択肢は乏しく、これらの患者のQOL(Quality Of Life)には十分に対処できていない。従って、副作用がなく、既存治療で効果がない胃食道逆流症、とりわけ非びらん性胃食道逆流症に対する新しい薬剤の開発が強く望まれている。
【0004】
ところで、本発明化合物は、特許文献1の実施例2(105)に記載されている化合物であり、また特許文献2および特許文献3にも報告されている。しかしながら、これら文献には、本発明化合物が胃食道逆流症に対する薬剤として有用であることは示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2002/072564号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2002/072145号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2008/099907号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、胃食道逆流症を治療または症状を改善する薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは鋭意検討した結果、本発明化合物が上記課題を解決することを見出して本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1] 以下の式
【化1】
で表される4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸(以下、化合物Aと略記することがある。)、その塩またはそのプロドラッグを有効成分とする胃食道逆流症の治療および/または症状改善剤。
[2] 胃食道逆流症が、非びらん性である前記[1]記載の剤。
[3] 胃食道逆流症の症状が、胸焼けおよび/または呑酸である前記[1]または[2]記載の剤。
[4] 胃食道逆流症が、プロトンポンプ阻害薬抵抗性である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の剤。
[5] プロトンポンプ阻害薬、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、消化管運動促進薬、経口制酸合剤、粘膜保護剤およびドーパミン受容体拮抗薬から選択される医薬との併用を特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の剤。
[6] プロトンポンプ阻害薬との併用を特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の剤。
[7] プロトンポンプ阻害薬が、オメプラゾール、エソメプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール、テナトプラゾール、イラプラゾールおよびランソプラゾールから選択される医薬である前記[5]または[6]記載の剤。
[8] 4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそのプロドラッグを有効成分とする食道における知覚過敏抑制剤。
[9] 4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそのプロドラッグを有効成分とする一過性下部食道括約筋弛緩抑制剤。
[10] 一過性下部食道括約筋弛緩回数を低減させる前記[9]記載の剤。
[11] 胃酸および/または胃内容物の逆流抑制のための前記[9]または[10]記載の剤。
[12] 胃食道逆流症の予防もしくは再発予防、治療および/または症状改善のための前記[9]〜[11]のいずれかに記載の剤。
[13] 胃食道逆流症が、非びらん性である前記[12]記載の剤。
[14] 胃食道逆流症の症状が、胸焼けおよび/または呑酸である前記[12]または[13]記載の剤。
[15] 胃食道逆流症が、プロトンポンプ阻害薬抵抗性である前記[12]〜[14]のいずれかに記載の剤。
[16] プロトンポンプ阻害薬、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、消化管運動促進薬、経口制酸合剤、粘膜保護剤およびドーパミン受容体拮抗薬から選択される医薬との併用を特徴とする前記[12]〜[14]のいずれかに記載の剤。
[17] プロトンポンプ阻害薬との併用を特徴とする前記[12]〜[14]のいずれかに記載の剤。
[18] プロトンポンプ阻害薬が、オメプラゾール、エソメプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール、テナトプラゾール、イラプラゾールおよびランソプラゾールから選択される医薬である前記[16]または[17]記載の剤。
[19] 4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそのプロドラッグを有効成分とする胃酸および/または胃内容物の逆流抑制剤。
[20] 吐き戻しの予防および/または治療のための前記[19]記載の剤。
[21] 4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそのプロドラッグを有効成分とする胃食道逆流症の予防または再発予防剤。
[22] 胃食道逆流症が、非びらん性である前記[21]記載の剤。
[23] プロトンポンプ阻害薬、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、消化管運動促進薬、経口制酸合剤、粘膜保護剤およびドーパミン受容体拮抗薬から選択される医薬との併用を特徴とする前記[21]または[22]記載の剤。
[24] プロトンポンプ阻害薬が、オメプラゾール、エソメプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール、テナトプラゾール、イラプラゾールおよびランソプラゾールから選択される医薬である前記[23]記載の剤。
[25] 胃食道逆流症の予防もしくは再発予防、治療および/または症状改善のための4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそのプロドラッグ。
[26] 胃食道逆流症の予防もしくは再発予防、治療および/または症状改善剤を製造するための4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそれのプロドラッグの使用。
[27] 薬理学的に有効量の4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそのプロドラッグを胃食道逆流症患者に投与することからなる胃食道逆流症の予防もしくは再発予防、治療および/または当該症状の改善方法。
[28] 食道における知覚過敏を抑制するための4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそのプロドラッグ。
[29] 食道における知覚過敏抑制剤を製造するための4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそれのプロドラッグの使用。
[30] 薬理学的に有効量の4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそのプロドラッグを胃食道逆流症患者に投与することからなる食道における知覚過敏を抑制する方法。
[31] 一過性下部食道括約筋弛緩を抑制するための4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそのプロドラッグ。
[32] 一過性下部食道括約筋弛緩抑制剤を製造するための4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそれのプロドラッグの使用。
[33]薬理学的に有効量の4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそのプロドラッグを胃食道逆流症患者に投与することからなる一過性下部食道括約筋弛緩を抑制する方法。
[34] 4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそのプロドラッグと、プロトンポンプ阻害薬、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、消化管運動促進薬、経口制酸合剤、粘膜保護剤およびドーパミン受容体拮抗薬から選択される薬剤とを組み合わせてなる医薬。
[35] プロトンポンプ阻害薬が、オメプラゾール、エソメプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール、テナトプラゾール、イラプラゾールおよびランソプラゾールから選択される医薬である前記[34]記載の医薬。
[36] 4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩もしくはそのプロドラッグ、当該化合物を含む容器、および胃食道逆流症を予防、再発予防、治療および/またはその症状を改善するために当該化合物を使用できることを示す添付文書またはラベルを含む製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明化合物は、酸ならびに酸以外により惹起される知覚過敏を抑制することから、胃食道逆流症の治療または胸焼けや呑酸などの定型的症状の改善に有効である。また、本発明化合物は、一過性下部食道括約筋弛緩に対する抑制作用も有するため、胃酸または胃内容物の逆流を抑制して胃食道逆流症の発症または再発も抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】酸惹起知覚過敏モデルにおける本発明化合物の評価結果を表す。図中、縦軸は、一定の侵害受容行動を示した電気刺激の電圧(V)を表し、横軸の時間(分)は、食道内への塩酸または生理食塩水の灌流終了時をゼロ分とした。図中、白抜き丸印(○)は健常対照群を、黒丸印(●)はコントロール群を、黒三角印(▲)は化合物A(0.01mg/kg)投与群を、および白抜き三角印(△)は化合物A(0.1mg/kg)投与群を表す。
図2】電気刺激惹起知覚過敏モデルにおける本発明化合物の評価結果を表す。図中、縦軸は、一定の侵害受容行動を示した電気刺激の電圧(V)を表し、横軸の時間(分)は、30分間の電気刺激終了時をゼロ分とした。図中、黒丸印(●)はコントロール群を、および黒三角印(▲)は化合物A(0.1mg/kg)投与群を表す。
図3】一過性下部食道括約筋弛緩モデルにおける本発明化合物の評価結果を表す。図中、縦軸は一過性下部食道括約筋弛緩の回数を表す。「***」は、Steel法による多重比較検定により、コントロール群(媒体投与群)からの有意差(P<0.01)があったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、本発明化合物は4−[({6−[イソブチル(1,3−チアゾール−2−イルスルホニル)アミノ]−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル}オキシ)メチル]−3−メチル安息香酸、その塩またはそのプロドラッグを意味する。特に、化合物Aは国際公開第2002/072564号パンフレットに記載された方法並びに公知の方法、例えば、Synlett 2002, No.1, 239-242またはComprehensive Organic Transformations: A Guide to Functional Group Preparations, 2nd Edition (Richard C. Larock, John Wiley & Sons Inc., 1999) に記載された方法などを適宜改良し、組み合わせて用いることで製造できる。
【0012】
本発明化合物における塩としては、酸付加塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩のような無機酸塩、酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、グルクロン酸塩、グルコン酸塩のような有機酸塩等)、アルカリ金属(カリウム、ナトリウム等)の塩、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)の塩、アンモニウム塩または薬学的に許容される有機アミン(例えば、テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピペリジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、リジン、アルギニン、N−メチル−D−グルカミン等)の塩等が挙げられる。化合物Aは、公知の方法で相当する塩に変換することができる。
【0013】
本発明化合物におけるプロドラッグとしては、例えば、化合物Aのカルボキシ基が、アルキルエステル化、フェニルエステル化、カルボキシメチルエステル化、ジメチルアミノメチルエステル化、ピバロイルオキシメチルエステル化、エトキシカルボニルオキシエチルエステル化、フタリジルエステル化、(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチルエステル化、シクロヘキシルオキシカルボニルエチルエステル化、メチルアミド化された化合物が挙げられるが、これらの化合物は公知の方法によって製造することができる。ここで、化合物Aのカルボキシ基が、アルキルエステル化された化合物として好ましくは、メチル 4−({[6−(N−イソブチルチアゾール−2−スルホンアミド)−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イル]オキシ}メチル)−3−メチルベンゾアートである。
【0014】
本明細書において、胃食道逆流症の症状としては、主に、胸焼けおよび呑酸が挙げられ、これらは一般的に定型的症状と呼ばれる。一方、胃食道逆流症の随伴的症状としては、例えば、心窩部痛、嚥下困難、嘔吐、おくびおよび腹部膨満などが挙げられ、非定型的症状としては、例えば、胸痛、慢性咳嗽および咽喉頭症状などが挙げられる。
【0015】
本明細書において、胃食道逆流症の症状改善とは、本発明化合物の投薬前の症状と比べ、胃食道逆流症で認められる一つ以上の症状が消失或いは後退することを意味する。
【0016】
本発明化合物は、胃食道逆流症における胸焼けおよび/または呑酸などの定型的症状の改善に有効である。また、本発明化合物は、胃食道逆流症のうち、非びらん性胃食道逆流症の治療または症状改善にも有効であり、さらには、胃食道逆流症治療剤として使用されている薬剤、特に、プロトンポンプ阻害薬が無効な胃食道逆流症患者または非びらん性胃食道逆流症患者に対しても有効である。くわえて、本発明化合物は、一過性下部食道括約筋弛緩(TLESR:Transient Lower Esophageal Sphincter Relaxation)に対する抑制作用も有するため、胃酸や胃内容物の逆流を抑制して胃食道逆流症の発症または再発をも抑えることができ、食道に対する胃酸の暴露を総じて低減させるため、胃食道逆流症の治療または症状改善にも有用である。
【0017】
本発明化合物の投与量は、通常、成人1人当たり、1回につき、10mgから300mgの範囲(例えば、10mg、30mg、100mg、300mg)で1日1〜3回経口投与される。もちろん、その投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間などの種々の条件により変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて投与の必要な場合もある。
【0018】
本発明化合物は、(1)本発明化合物の胃食道逆流症の予防もしくは再発予防または治療もしくは症状改善効果の補完および/または増強、(2)本発明化合物もしくは他の薬剤の動態・吸収改善、投与量の低減、および/または(3)他の薬剤の副作用の軽減のために、他の薬剤と組み合わせて投与してもよい。
【0019】
本発明化合物と他の薬剤の併用剤は、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態で投与してもよく、また別々の製剤にして投与する形態をとってもよい。この別々の製剤にして投与する場合には、同時投与および時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、本発明化合物を先に投与し、他の薬剤を後に投与してもよいし、他の薬剤を先に投与し、本発明化合物を後に投与してもよく、それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。ここで、他の薬剤としては、例えば、プロトンポンプ阻害薬、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、消化管運動促進薬、経口制酸合剤、粘膜保護剤およびドーパミン受容体拮抗薬などが挙げられる。
【0020】
プロトンポンプ阻害薬としては、例えば、オメプラゾール、エソメプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール、テナトプラゾール、イラプラゾールおよびランソプラゾールなどが挙げられる。
ヒスタミンH2受容体拮抗薬としては、例えば、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ロキサチジン、ニザチジンおよびラフチジンなどが挙げられる。
【0021】
消化管運動促進薬としては、例えば、ドンペリドン、メトクロプラミド、モサプリド、イトプリドおよびテガセロッドなどが挙げられる。
経口制酸合剤としては、例えば、Maalox(登録商標)、Aludrox(登録商標)およびGaviscon(登録商標)などが挙げられる。
【0022】
粘膜保護剤としては、例えば、ポラプレジンク、エカベトナトリウム、レバミピド、テプレノン、セトラキサート、スクラルファートおよびプラウノトールなどが挙げられる。
ドーパミン受容体拮抗薬としては、例えば、メトクロプラミド、ドンペリドンおよびレボスルピリドなどが挙げられる。
【0023】
本発明化合物と他の薬剤の重量比は特に限定されない。
他の薬剤は、任意の同種のまたは異種の2種以上を組み合わせて投与してもよい。
また、他の薬剤には、上記したメカニズムに基づいて、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。
【0024】
本発明化合物を単独または他の薬剤との併用で投与する際には、経口投与のための内服用固形剤あるいは内服用液剤として用いられる。
【0025】
経口投与のための内服用固形剤には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が含まれる。カプセル剤には、ハードカプセルおよびソフトカプセルが含まれる。このような内服用固形剤においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質はそのままか、または賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(例えば、繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、安定剤、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸等)等と混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(例えば、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また、2以上の層で被覆していてもよい。さらにゼラチンのような吸収されうる物質のカプセルも包含される。
【0026】
経口投与のための内服用液剤は、薬剤的に許容される水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含む。このような液剤においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質が、一般的に用いられる希釈剤(例えば、精製水、エタノールまたはそれらの混液等)に溶解、懸濁または乳化される。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤、緩衝剤等を含有していてもよい。
【0027】
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されない。本発明の記載に基づき種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
【実施例】
【0028】
実施例1:酸惹起知覚過敏モデルでの評価
カニクイザル(4〜6歳、雌性、日本医科学動物資材研究所、投与履歴なし)を、2日間以上モンキーチェアへの馴化を実施し、12時間以上の絶食後の実験当日、体重測定後にモンキーチェアに保定し、さらに1時間以上馴化させた。電気刺激用カテーテルを鼻孔より挿入し、噴門部より約10cm上部の位置(上部食道)にて電気刺激を行った。1秒間に約2Vずつ電圧を上昇させ、個体内で一定の侵害受容行動(ケージから逃れようとする逃避反射行動)を示した電圧(V)を、各評価時点で2〜3分おきに3回実施し、その平均値を各時点における侵害行動閾値とした。生理食塩液あるいは塩酸(1.5N)は、噴門部より約3cm上部の位置(下部食道)から胃内に向けて、160mL/hの注入速度で30分間灌流した。生理食塩液の食道内灌流前後、塩酸の食道内灌流前および塩酸の食道内灌流後0、30、60、90及び120分時点における侵害行動閾値を測定した。塩酸灌流開始30分前に媒体あるいは化合物A(各々0.01及び0.1mg/kg)を皮下投与した。
【0029】
各群の例数は、健常対照群3例(生理食塩液灌流、媒体投与および生理食塩液灌流の順で実施した群)、コントロール群(生理食塩液灌流、媒体投与および塩酸灌流の順で実施した群)および化合物Aの0.01mg/kg群5例(生理食塩液灌流、化合物A投与および塩酸灌流の順で実施した群)および化合物Aの0.1mg/kg群7例(生理食塩液灌流、化合物A投与および酸灌流の順で実施した群)とした。食道内への塩酸(コントロール群および化合物A投与群へ)または生理食塩水(健常対照群へ)の30分間の灌流終了時を基準時(ゼロ分)として、すべての試験群に対する食道内への生理食塩液の灌流は、基準時前90〜120分の間に実施した。
【0030】
侵害行動閾値(V)を評価項目とした。塩酸灌流前後の侵害行動閾値、媒体投与群の各時点における侵害行動閾値と化合物A投与群の各時点における侵害行動閾値を比較することで評価した。
【0031】
また、実験終了後に酸を灌流した噴門部より約3cm上部の下部食道組織の全周囲を摘出し、4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液に浸漬してパラフィン包埋ブロックを作製した。パラフィン包埋ブロックから厚さ4μmのパラフィン切片を作製し、MASコートスライドグラス(MATSUNAMI)に載せ、ヘマトキシリン・エオシン染色を行い、鏡検観察した。
【0032】
[結果]
図1に示すように、健常対照群の侵害行動閾値は、いずれの時点においても変化なく、ほぼ一定に推移し、コントロール群の侵害行動閾値は、塩酸灌流直後より侵害行動閾値が低下し、塩酸灌流120分後まで維持された。一方、化合物A投与群の侵害行動閾値は、コントロール群で塩酸灌流後に認められた侵害行動閾値の低下を用量依存的に抑制し、化合物Aの0.1mg/kg投与群では正常レベルまで抑制した。また、その抑制作用は塩酸灌流120分後においても維持されていた。なお、本実験条件において酸を灌流した食道組織では、食道粘膜組織の欠損並びに炎症像が確認された。
【0033】
以上から、本発明化合物が、胃酸の逆流に起因する胃食道逆流症の症状、特に、食道粘膜傷害を伴う胸焼けおよび呑酸の治療あるいは症状改善に有効であることが示唆された。
【0034】
実施例2:電気刺激惹起知覚過敏モデルでの評価
カニクイザル(4〜6歳、雌性、日本医科学動物資材研究所、投与履歴なし)を、2日間以上モンキーチェアへの馴化を実施し、12時間以上の絶食後の実験当日、体重測定後にモンキーチェアに保定し、さらに1時間以上馴化させた。電気刺激用カテーテルを鼻孔より挿入し、噴門部より約10cm上部の位置(上部食道)にて電気刺激を行った。1秒間に約2Vずつ電圧を上昇させ、個体内で一定の侵害受容行動(ケージから逃れようとする逃避反射行動)を示した電圧(V)を、各評価時点で2〜3分おきに3回実施し、その平均値を各時点における侵害行動閾値とした。知覚過敏は、噴門部より約3cm上部の位置(下部食道)に持続的に電気刺激を行うことで誘発した。すなわち、電気刺激用カテーテルを鼻孔より挿入し、下部食道の位置にて30分間電気刺激を行った。電気刺激による惹起開始30分前に媒体あるいは化合物A(0.1mg/kg)を皮下投与した。各群の例数は3例とした。
【0035】
侵害行動閾値(V)を評価項目とした。惹起前後の侵害行動閾値、媒体投与群の各時点における侵害行動閾値と化合物A投与群の各時点における侵害行動閾値を比較することで評価した。
【0036】
また、実験終了後に電気刺激した噴門部より約3cm上部の下部食道組織の全周囲を摘出し、4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液に浸漬してパラフィン包埋ブロックを作製した。パラフィン包埋ブロックから厚さ4μmのパラフィン切片を作製し、MASコートスライドグラス(MATSUNAMI)に載せ、ヘマトキシリン・エオシン染色を行い、鏡検観察した。
【0037】
[結果]
図2に示すように、コントロール群(媒体投与および持続的電気刺激の順で実施した群)の侵害行動閾値は、惹起直後より侵害行動閾値が低下し、惹起120分後まで維持された。一方、化合物A投与群(化合物A投与および持続的電気刺激の順で実施した群)の侵害行動閾値は、コントロール群で惹起後に認められた侵害行動閾値の低下を正常レベルまで抑制した。また、抑制作用は惹起120分後においても維持されていた。なお、本実験条件において持続的な電気刺激を行った部位の食道組織では、食道粘膜組織の欠損並びに炎症像は確認されなかった。
【0038】
以上から、本発明化合物が、胃酸あるいは胃酸以外の胃内容物の逆流に伴う炎症に起因しない胃食道逆流症、特に、非びらん性胃食道逆流症の治療あるいは症状改善に有効であることが示唆された。
【0039】
実施例3:中枢移行性に関する評価
カニクイザル(4〜6歳、雌性、日本医科学動物資材研究所、投与履歴なし)をモンキーチェアに保定し、化合物Aを皮下投与(0.1mg/kg)した後、投与180分後に血液を採取した。これを10000g、4℃で3分間遠心分離して血漿を採取した。次いで、ペントバルビタールナトリウムの静脈内投与による麻酔下で脳脊髄液を採取後、下部食道、上部食道、後根神経節、脊髄および脳幹を採材した。なお、後根神経節および脊髄は、食道神経を支配する第1胸髄から第6胸髄までを採取した。採取した組織は、各組織の湿重量の4倍量の生理食塩液を加え、ヒストコロンを用いてホモジナイズし、各組織ホモジネートを得た。例数は3例とした。
【0040】
各組織における化合物Aの濃度は、LC/MS/MS(液体クロマトグラフィータンデム質量分析法:liquid chromatography-tandem mass spectrometry)法により測定した。
氷冷下で化合物Aの検量線用試料および測定試料50μLに超純水1mLおよび内標準物質を添加した後、撹拌した。あらかじめコンディショニングした固相抽出カートリッジ(OAS1SMAX 30mg/1cc,Waters Corporation)に各試料を負荷し、洗浄した後、遠心して洗浄液をカートリッジより排出して乾燥させた。さらに、アセトニトリル/酢酸混液(49:1)1mLで溶出し、溶出液を窒素気流下(40℃以下)で濃縮乾固し、残留物をメタノール/0.1vol%酢酸溶液(70:30)200μLに再溶解し、LC/MS/MSの測定用試料とした。
【0041】
LC/MS/MSによる分析は、以下の条件で行った。
[LC条件]
測定装置:Nanospace 3033 (Shiseido Co.,Ltd.)
分析カラム:SunFire C18 3.5μm (2.1 mm i.d. X 100 mm, 3.5μm, Waters Corporation)
移動相:アセトニトリル/0.1vol%酢酸溶液(70:30)
洗浄ポート用洗浄液(1液):2−プロパノール
洗浄ポート用洗浄液(2液):移動相[アセトニトリル/0.1vol%酢酸溶液(70:30)]
流速:0.2mL/分
カラム温度:35℃
試料温度:4℃
分析時間:13分
【0042】
[MS/MS条件]
測定装置:API4000 (AB SCIEX)
イオン源:ESI
スキャンタイプ:MRM
極性:Negative
温度:650℃
モニターイオン:Q1:499.0(m/z)、Q3:147.3(m/z)
【0043】
検量線用試料の測定により得られたピーク面積比(標準物質/内標準物質)を用いて、最小二乗法による一次回帰直線式から検量線(y=aX+b,Y:ピーク面積比,X:濃度)を作成し、測定試料のピーク面積比を検量線に当てはめて、測定値を算出した。
【0044】
[結果]
化合物Aの投与180分後の血漿、脳脊髄液、下部食道、上部食道、後根神経節、脊髄および脳幹組織中の平均濃度は、各々3.79、0.07、0.25、0.28、0.62、0.19および0.22ng/mLであった。血漿中濃度に対する割合は、各々1.9、6.7、7.3、16.3、5.1および5.7%であった。
【0045】
実施例4:一過性下部食道括約筋弛緩(TLESR)に対する作用の評価(1)
カニクイザル(4〜6歳、雌性、日本医科学動物資材研究所、投与履歴なし)を、2日間以上モンキーチェアへの馴化を実施し、12時間以上の絶食後の実験当日、体重測定後にモンキーチェアに保定し、さらに1時間以上馴化させる。高脂肪食/空気注入用カテーテルと圧測定用センサーカテーテルを鼻孔より挿入する。胃へ最終容量80mLになるよう高脂肪食を注入した後、空気を胃内圧が10mmHgとなるまで注入して維持する。食道内圧は、センサーカテーテルで、胃内、下部食道括約筋部および下部食道括約筋から約3cm上部で測定する。化合物Aを皮下投与(0.1mg/kg)した前後の高脂肪食の注入から通気の終了までの45分間におけるTLESRの回数を測定する。
【0046】
実施例5:一過性下部食道括約筋弛緩(TLESR)に対する作用の評価(2)
カニクイザル(4〜6歳、雌性、日本医科学動物資材研究所、投与履歴なし)を、2日間以上モンキーチェアへの馴化を実施し、12時間以上の絶食後の実験当日、体重測定後にモンキーチェアに保定し、さらに1時間以上馴化させた。高脂肪食/空気注入用カテーテルと圧測定用センサーカテーテルを鼻孔および口腔より挿入した。胃へ最終容量80mLになるよう高脂肪食を注入した後、空気を胃内圧が20mmHgとなるまで注入して維持した。食道内圧は、センサーカテーテルで、下部食道括約筋部および下部食道括約筋から約2、3および6cm上部で測定した。化合物Aを皮下投与(0.01および0.1mg/kg)し、皮下投与30分後、高脂肪食の注入および通気を行い、高脂肪食の注入から通気の終了までの45分間におけるTLESRの回数を測定した。ここで、TLESRは、下部食道括約筋部の弛緩反応が0.5秒より長く、食道原発の蠕動運動によって惹起されず、かつ圧力低下速度が0.5秒より大きなものとして測定した。なお、各群(コントロール群(媒体投与群)、0.01mg/kg化合物A皮下投与群および0.1mg/kg化合物A皮下投与群)の例数は各々4例とした。
【0047】
[結果]
TLESRは高脂肪食注入及び空気注入前では全く生じなかったが、高脂肪食注入および空気注入によって生じた。図3に示すように、コントロール群(媒体投与群)のTLESR回数と比較して、化合物A投与群はTLESR回数を用量に依存して低減させた。
【0048】
以上のように、化合物Aが高脂肪食および空気を注入した後のTLESRの発生を抑制することから、本発明化合物が胃酸や胃内容物の逆流を抑制して胃食道逆流症の発症または再発を抑えることができ、ひいては胃食道逆流症の治療または症状改善に有効であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明化合物は胃食道逆流症の予防もしくは再発予防、治療または症状改善に有用である。
図1
図2
図3