特許第5935922号(P5935922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935922
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】信号線路モジュールおよび通信端末装置
(51)【国際特許分類】
   H01P 3/08 20060101AFI20160602BHJP
   H01P 5/08 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   H01P3/08 200
   H01P5/08 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-86452(P2015-86452)
(22)【出願日】2015年4月21日
(62)【分割の表示】特願2014-93289(P2014-93289)の分割
【原出願日】2013年6月28日
(65)【公開番号】特開2015-167377(P2015-167377A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2015年4月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-215393(P2012-215393)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 登
【審査官】 岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/021677(WO,A1)
【文献】 特開平08−242117(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/074101(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00−11/00
H01Q 1/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電回路に接続される第1接続部と、
放射素子に接続される第2接続部と、
第1端が前記第1接続部に接続される第1高周波線路部と、
第1端が前記第2接続部に接続される第2高周波線路部と、
前記第1高周波線路部の第2端と前記第2高周波線路部の第2端との間に構成され、前記第1高周波線路部と前記第2高周波線路部とをインピーダンス整合させる整合回路の全部または一部を構成する第1整合回路部と、
を備え、
前記第1接続部、前記第1高周波線路部、前記第2高周波線路部、および前記第2接続部は複数の基材層を積層してなる積層体に一体的に設けられていて、
前記第1接続部および前記第1高周波線路部は、前記積層体の積層方向からの平面視で、グランド導体と重なるグランド領域に形成され、前記第2高周波線路部および前記第2接続部は、前記グランド領域外に形成されていて、
前記第2高周波線路部の信号線は、前記積層体の積層方向に対して、前記グランド導体との間に形成される容量が小さくなる位置にオフセット配置され、
前記第2高周波線路部および前記第2接続部は、前記放射素子とともに放射部として作用する、信号線路モジュール。
【請求項2】
前記積層体は、第1主面および前記第1主面に対向する第2主面を有し、
前記グランド導体は、前記第1主面側に形成される第1グランド導体と、前記第2主面側に形成され、開口部を有する第2グランド導体とを有し、
前記第1高周波線路部の信号線および前記第2高周波線路部の信号線は、前記積層体の積層方向に対して、前記第1グランド導体と前記第2グランド導体との間の層に設けられ、
前記第2高周波線路部の信号線は、前記積層体の積層方向に対して、前記第2主面寄りにオフセット配置される、請求項1に記載の信号線路モジュール。
【請求項3】
前記第1高周波線路部の信号線は、前記積層体の積層方向に対して前記第2グランド導体寄りにオフセット配置される、請求項2に記載の信号線路モジュール。
【請求項4】
給電回路および放射素子を備えた通信端末装置であって、
前記給電回路と前記放射素子とは信号線路モジュールを介して接続されており、
前記信号線路モジュールは、
給電回路に接続される第1接続部と、
放射素子に接続される第2接続部と、
第1端が前記第1接続部に接続される第1高周波線路部と、
第1端が前記第2接続部に接続される第2高周波線路部と、
前記第1高周波線路部の第2端と前記第2高周波線路部の第2端との間に構成され、前記第1高周波線路部と前記第2高周波線路部とをインピーダンス整合させる整合回路の全部または一部を構成する第1整合回路部と、を備え、
前記第1接続部、前記第1高周波線路部、前記第2高周波線路部、および前記第2接続部は複数の基材層を積層してなる積層体に一体的に設けられていて、
前記第1接続部および前記第1高周波線路部は、前記積層体の積層方向からの平面視で、グランド導体と重なるグランド領域に形成され、前記第2高周波線路部および前記第2接続部は、前記グランド領域外に形成されていて、
前記第2高周波線路部の信号線は、前記積層体の積層方向に対して、前記グランド導体との間に形成される容量が小さくなる位置にオフセット配置され、
前記第2高周波線路部および前記第2接続部は、前記放射素子とともに放射部として作用する、ことを特徴とする通信端末装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性を有する信号線路または信号線路に機能性が付与された信号線路モジュール、および、この信号線路モジュールを利用した通信端末装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話をはじめとする通信端末装置の高機能化・小型化が進められており、通信端末装置における各種電子部品の配置位置の制約上、RFICチップなどの給電回路素子を放射素子から離れた場所に置かざるを得ない場合がある。この場合の構成例が例えば特許文献1に示されている。
【0003】
図14は特許文献1に示されている通信端末装置の概略構成図である。ここで、基板グランドが形成された基板2、アンテナ5、無線回路3が筐体1内に収められている。無線回路3は、給電線路4やアンテナ整合回路8を介して、アンテナ5に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−325093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、一般に、同軸ケーブル(図14の例では給電線路4)をRFIC(無線回路3)やアンテナ整合回路8に接続する際に、コネクタを用いる必要があるため、線路−コネクタ間でインピーダンス不整合による伝送電力の損失が発生することがある。また、放射素子(アンテナ5)の近傍に整合回路を配置せざるを得ないので、放射素子の近傍に整合回路用の別基板が必要になり、この別基板に形成されているグランド導体の影響で放射素子のアンテナ特性が劣化するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、伝送電力の損失を低減するとともに、放射素子のアンテナ特性の劣化を抑制した信号線路モジュール、および、この信号線路モジュールを利用した通信端末装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の信号線路モジュールは、
給電回路に接続される第1接続部と、
放射素子に接続される第2接続部と、
第1端が前記第1接続部に接続される第1高周波線路部と、
第1端が前記第2接続部に接続される第2高周波線路部と、
前記第1高周波線路部の第2端と前記第2高周波線路部の第2端との間に構成され、前記第1高周波線路部と前記第2高周波線路部とをインピーダンス整合させる整合回路の全部または一部を構成する第1整合回路部と、
を備え、
前記第1接続部、前記第1高周波線路部、前記第2高周波線路部、および前記第2接続部は複数の基材層を積層してなる積層体に一体的に設けられていて、
前記第1接続部および前記第1高周波線路部は、前記積層体の積層方向からの平面視で、グランド導体と重なるグランド領域に形成され、前記第2高周波線路部および前記第2接続部は、前記グランド領域外に形成されていて、
前記第2高周波線路部の信号線は、前記積層体の積層方向に対して、前記グランド導体との間に形成される容量が小さくなる位置にオフセット配置され、
前記第2高周波線路部および前記第2接続部は、前記放射素子とともに放射部として作用する、ことを特徴とする。
【0008】
(2)前記積層体は、第1主面および前記第1主面に対向する第2主面を有し、前記グランド導体は、前記第1主面側に形成される第1グランド導体と、前記第2主面側に形成され、開口部を有する第2グランド導体とを有し、前記第1高周波線路部の信号線および前記第2高周波線路部の信号線は、前記積層体の積層方向に対して、前記第1グランド導体と前記第2グランド導体との間の層に設けられ、前記第2高周波線路部の信号線は、前記積層体の積層方向に対して、前記第2主面寄りにオフセット配置されることが好ましい。
【0009】
(3)前記第1高周波線路部の信号線は、前記積層体の積層方向に対して前記第2グランド導体寄りにオフセット配置されることが好ましい。
【0010】
(4)本発明の通信端末装置は、給電回路および放射素子を備え、
前記給電回路と前記放射素子とは信号線路モジュールを介して接続されており、
前記信号線路モジュールは、
給電回路に接続される第1接続部と、
放射素子に接続される第2接続部と、
第1端が前記第1接続部に接続される第1高周波線路部と、
第1端が前記第2接続部に接続される第2高周波線路部と、
前記第1高周波線路部の第2端と前記第2高周波線路部の第2端との間に構成され、前記第1高周波線路部と前記第2高周波線路部とをインピーダンス整合させる整合回路の全部または一部を構成する第1整合回路部と、を備え、
前記第1接続部、前記第1高周波線路部、前記第2高周波線路部、および前記第2接続部は複数の基材層を積層してなる積層体に一体的に設けられていて、
前記第1接続部および前記第1高周波線路部は、前記積層体の積層方向からの平面視で、グランド導体と重なるグランド領域に形成され、前記第2高周波線路部および前記第2接続部は、前記グランド領域外に形成されていて、
前記第2高周波線路部の信号線は、前記積層体の積層方向に対して、前記グランド導体との間に形成される容量が小さくなる位置にオフセット配置され、
前記第2高周波線路部および前記第2接続部は、前記放射素子とともに放射部として作用する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高周波線路部と整合回路部とが一体化しているため、線路−コネクタ間のインピーダンス不整合による、コネクタ間の線路の電気長に対応した定在波の発生を抑えることができ、低損失の伝送電力が可能となる。また、必ずしも整合回路用の別基板を必要としないため、比較的大きなグランド導体が放射素子の近傍に配置されることが無く、アンテナの放射特性の劣化が抑制される。さらに、第2高周波線路部は非グランド領域に形成しているため、この部分を放射素子として利用することができる。しかも、整合回路用の別基板を必要としないため小型化できる。
【0012】
ゆえに、高周波信号の伝送損失が少なく放射利得に優れた信号線路モジュールを構成でき、この信号線路モジュールを備えることで、簡易な構成の通信端末装置を実現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1(A)は第1の実施形態に係る信号線路モジュールを備えた通信端末装置301の下部筐体を取り外した状態での上部筐体側の内部の構造を示す図である。図1(B)は通信端末装置301の断面図である。
図2図2は信号線路モジュール101の断面図である。
図3図3(A)は第1高周波線路部21の部分分解斜視図、図3(B)は整合回路部30、第2高周波線路部22および第2接続部12を含む領域の分解斜視図である。
図4図4は第2の実施形態に係る信号線路モジュール102の断面図である。
図5図5は第1整合回路部31および第2整合回路部32の分解斜視図である。
図6図6図4に示した信号線路モジュール102および放射素子55を含む部分の等価回路図である。
図7図7(A)、図7(B)は図6を更にシンボリックに表した等価回路図である。
図8】第2の実施形態に係る別の信号線路モジュールおよび放射素子を含む部分の等価回路図である。
図9図9(A)、図9(B)は第2の実施形態に係る別の信号線路モジュールの等価回路図である。
図10図10(A)は第3の実施形態に係る信号線路モジュール103を備えた通信端末装置303の下部筐体を取り外した状態での上部筐体側の、主要部の内部構造を示す図である。図10(B)は通信端末装置303の主要部の断面図である。
図11図11は第4の実施形態に係る信号線路モジュールを備えたアンテナ装置の回路図である。
図12図12は第5の実施形態に係る信号線路モジュールを備えたアンテナ装置の回路図である。
図13図13は第6の実施形態に係る信号線路モジュール106の主要部の概念断面図である。
図14図14は特許文献1に示されている通信端末装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《第1の実施形態》
図1(A)は第1の実施形態に係る信号線路モジュールを備えた通信端末装置301の下部筐体(表示パネル側の筐体)を取り外した状態、すなわち上部筐体側の内部の構造を示す図である。この通信端末装置301は、GSM(登録商標)等のセルラー通信システムを搭載したスマートフォンである。但し、下部筐体の内面に貼付されている放射板54については下部筐体から分離して一緒に図示している。図1(B)は通信端末装置301の断面図である。
【0015】
筐体80の内部にはプリント配線板51,52、バッテリーパック53等が収められている。プリント配線板51には通信回路を備えたRFIC56を含む複数の電子部品が実装されている。また、プリント配線板52にはカメラモジュールやその他の電子部品が実装されている。
【0016】
下部筐体の一つのコーナー部には放射板54が貼付されている。放射板54にはGSM(登録商標)等のセルラー通信用のUHF帯の放射素子55が形成されている。
【0017】
プリント配線板51と放射板54とは信号線路モジュール101を介して接続されている。信号線路モジュール101は、その一方の端部に第1接続部であるコネクタ11Cを備えていて、他方の端部には第2接続部である接続ピン12Pを備えている。プリント配線板51にはレセプタクル57が設けられていて、このレセプタクル57にコネクタ11Cが取り付けられる。信号線路モジュール101の接続ピン12Pは放射板54の放射素子55に対する給電点に当接する。
【0018】
信号線路モジュール101はバッテリーパック53に接着層58を介して接着固定されている。この信号線路モジュール101の整合回路部30には整合回路素子30Eが搭載されている。後に詳述するように、信号線路モジュール101の一部は放射板54とともに放射部RZとして作用する。
【0019】
図2は信号線路モジュール101の断面図である、但し、断面構造を明瞭にするため、厚み方向を誇張して描いている。図3(A)は第1高周波線路部21の部分分解斜視図、図3(B)は整合回路部30、第2高周波線路部22および第2接続部12を含む領域の分解斜視図である。
【0020】
図2に示すように、第1接続部11にコネクタ11Cが設けられていて、第2接続部12に接続ピン12Pが設けられている。第1接続部11、第1高周波線路部21、整合回路部30は、グランド導体が形成されたグランド領域GZにある。また、第2高周波線路部22および第2接続部12は、グランド導体が形成されていない非グランド領域NGZにある。
【0021】
以下、図2に基づき、信号線路モジュール101の構造を詳述する。この信号線路モジュール101は、複数の誘電体層を積層してなる積層体を素体とする。
【0022】
コネクタ11Cは、セルラー通信用のRFICチップを含む給電回路への接続端子であり、層間接続導体を介して第1高周波線路部21の信号線SL1の第1端に接続されている。コネクタ11Cは、積層体の他方主面側に搭載されている。第1高周波線路部21の信号線SL1の第2端は第1整合回路30の一端に接続されている。第1整合回路30の他端は第2高周波線路部22の信号線SL2の第2端に接続されている。第2高周波線路部22の信号線SL2の第1端は接続ピン12Pに接続されている。すなわち、給電
回路から供給された出力信号は、コネクタ11C、第1高周波線路部21、第1整合回路30、第2高周波線路部22および接続ピン12Pを介して、アンテナ素子に供給され、アンテナ素子から外部に放射される。アンテナ素子にて受信した受信信号は、接続ピン12P、第2高周波線路部22、第1整合回路30、第1高周波線路部21およびコネクタ11Cを介して、給電回路に供給される。
【0023】
第1高周波線路21の信号線SL1は、グランド導体G1とグランド導体G2との間に設けられており、トリプレート型のストリップライン構造を有する。つまり、第1高周波線路21の信号線SL1、グランド導体G1およびグランド導体G2によって、第1高周波線路部21が構成されている。なお、後に詳述するように、グランド導体G1はベタ状の平面導体であるが、グランド導体G2には、第1高周波線路の信号線SL1の延設方向に沿って平面導体に複数の開口部とブリッジ部とが交互に周期的に設けられた構造を
有している。第1高周波線路部21の信号線SL1は、グランド導体G2寄りにオフセット配置されている。これにより、第1高周波線路部21の信号線SL1に対してグランド導体G1は基準グランドとして機能し、グランド導体G2は補助グランドとして機能する。つまり、第1高周波線路部21の信号線SL1の線幅や第1高周波線路部21の信号線SL1とグランド導体G1との間隔によって、所定のインピーダンス(たとえば50Ω)よりも少し高めのインピーダンス(たとえば55Ω)に設計され、少し高めに設計されていたインピーダンスが所定のインピーダンス(たとえば50Ω)となるように、グランド導体G2におけるブリッジ部と第1高周波線路部21の信号線SL1との間に形成される容量成分を設計することによって、第1高周波線路部21の特性インピーダンスが設計されている。
【0024】
第1整合回路30は、信号伝搬路に対して直列に挿入されたインダクタンス素子と、信号伝搬路に対してシャント接続されたキャパシタンス素子とによって構成されている。インダクタンス素子はチップインダクタで構成されており、キャパシタンス素子はチップコンデンサで構成されている。これらチップインダクタやチップコンデンサは表面実装部品として、積層体の他方主面側に搭載されている。すなわち、第1整合回路30の一端は、第1高周波線路部21の信号線SL1の第2端に、層間接続導体を介して接続された
チップインダクタおよびチップコンデンサによって構成されている。第1整合回路30の他端は、層間接続導体を介して、第2高周波線路部22の信号線SL2の第2端に接続されている。第1整合回路30を構成する表面実装部品は、積層体の他方主面側、つまり、グランド導体G1側に搭載されている。
【0025】
第2高周波線路部22の信号線SL2に対してグランド導体は近接配置されていない。すなわち、第2高周波線路部22の信号線SL2は、マイクロストリップライン構造やトリプレート型ストリップライン構造を構成しておらず、積層体における非グランド領域NGZに設けられている。第2高周波線路部22の信号線SL2は、第1高周波線路部21の信号線SL1が設けられた層と同じ層に設けられている。つまり、各高周波線路は、積層体の一方主面寄りにオフセット配置されている。
【0026】
積層体の一方主面側にはグランド導体G2を覆うようにレジスト層R2が設けられており、積層体の他方主面側には、第1整合回路を構成する表面実装部品の実装用ランド以外は、レジスト層R1によって覆われている。
【0027】
積層体を構成している複数の誘電体層としては、液晶ポリマ等の熱可塑性樹脂シートを利用できる。信号線SL1、信号線SL2、グランド導体G1およびグランド導体G2には、銅箔等の金属薄板を所定形状にパターニングしたものを用いることができる。層間接続導体には、銀や銅を主成分とする導電性ペーストをビア孔に充填して金属化したものを用いることができる。なお、複数の熱可塑性樹脂シートを積層し、これを加熱しながら加圧することによって、各熱可塑性樹脂シートを一体化させることができ、同時に、ビア孔に充填された導電性ペーストを金属化させることができる。
【0028】
図3(A)に示すように、第1高周波線路部21は、レジスト層R1、第1グランド導体G1、第1基材層B1、信号線SL1、第2基材層B2、第2グランド導体G2、レジスト層R2がこの順に積層されている。但し、この順は製造工程の順を表すものではない。第1グランド導体G1と第2グランド導体G2とはビア導体VIAを介して接続されている。これらのうち、第1グランド導体G1、第1基材層B1、信号線SL1、第2基材層B2、第2グランド導体G2でストリップラインが構成されている。
【0029】
上記ストリップラインは次のような特徴を備えている。
【0030】
(1)ストリップラインは全体として特性インピーダンスが50Ωとなるように調整されている。
【0031】
(2)第2グランド導体G2は梯子形状とすることで全体の柔軟性を高めるとともに、特性インピーダンス調整用グランドとして機能するようにしている。また、第1グランド導体G2は梯子形状にしない、つまりベタ状にすることにより、第1グランド導体側に近接する外部の回路や金属体との相互干渉を受けないようにするとともに、基準グランドとして機能するようにしている。
【0032】
(3)梯子形状の第2グランド導体G2によって、高インピーダンスとなる部分と低インピーダンスとなる部分を形成し、信号線の両端間で生じる不要共振を抑えている。すなわち、悪影響のある定在波の発生が抑制されるように、梯子段の段間寸法(周期)が定められている。例えば、梯子段の周期は、RF信号の基本波および高調波の波長の整数倍の関係とならないように設定されている。
【0033】
(4)信号線SL1は第2グランド導体G2と交差する部分で幅が小さく形成されている。そのことで、第2グランド導体G2と交差する部分のインピーダンスが小さくなり過ぎないようにしている。その結果、第2グランド導体G2と交差する部分とそうでない部分とでストリップラインの特性インピーダンスの連続性を確保している。
【0034】
図3(B)に表れているように、整合回路部30は、レジスト層R1、第1グランド導体G1(および線路電極)、第1基材層B1、信号線SL0、第2基材層B2、第2グランド導体G2、レジスト層R2がこの順に積層されている。第1グランド導体G1および線路電極には整合回路素子30Eが搭載されている。
【0035】
また、図3(B)に表れているように、第2高周波線路部22は、レジスト層R1、第1基材層B1、信号線SL2、第2基材層B2がこの順に積層されている。また、第2接続部12は、レジスト層R1、第1基材層B1、接続ピン用端子Pがこの順に積層されている。接続ピン用端子Pには接続ピン12Pが接合されるが、図3(B)では図示を省略している。
【0036】
第2高周波線路部22は、上下がグランド導体で挟まれていない信号線SL2で構成されているので、この第2高周波線路部22の信号線SL2は放射部RZの一部として機能する。この第2高周波線路部22の信号線SL2は接続ピン用端子Pのサイズに合わせて、先端広がりのテーパー状に形成されている。
【0037】
前記整合回路素子30Eはチップインダクタ、チップキャパシタ等であり、例えば第1グランド導体G1に対してシャントに接続されたキャパシタと信号線SLに対してシリーズに接続されたインダクタとでインピーダンス整合回路が構成されている。このようにして、整合回路部30は、例えば、特性インピーダンスが50Ωの第1高周波線路部21とインピーダンスが例えば10Ωの放射部RZにて接続されるアンテナとのインピーダンス整合を行う。これらの整合回路素子は、グランド領域に形成されている。
【0038】
《第2の実施形態》
図4は第2の実施形態に係る信号線路モジュール102の断面図である。第1接続部11にコネクタ11Cが設けられていて、第2接続部12に接続ピン12Pが設けられている。第1接続部11、第1高周波線路部21、第1整合回路部31は、グランド導体が形成されたグランド領域GZにある。また、第2高周波線路部22および第2接続部12は、グランド導体が形成されていない非グランド領域NGZにある。図2に示した例と異なる点は、第1整合回路部31と第2整合回路部32とを備えていること、およびこれらの整合回路部を導体パターンで構成していることである。
【0039】
図5は前記第1整合回路部31および第2整合回路部32の分解斜視図である。積層構造は第1整合回路部31および第2整合回路部32について同様である。第1・第2の整合回路部は、図5に示すように、レジスト層R1、第1グランド導体G1、第1基材層B1、信号線SL、第2基材層B2、第2グランド導体G2、レジスト層R2がこの順に積層されている。信号線SLには容量形成部Scが形成されていて、第2グランド導体G2には、容量形成部Scと対向する容量形成部G2cが形成されている。
【0040】
図6図4に示した信号線路モジュール102および放射素子55を含む部分の等価回路、図7(A)、図7(B)はそれを更にシンボリックに表した等価回路図である。図6に示すように、信号線の二箇所に第1整合回路部31および第2整合回路部32を設けることによって、図7(A)に示すとおり、キャパシタC31,C32および線路Lineによる回路が構成され、この線路Lineをインダクタンスとして作用する電気長にすることで、図7(B)に示すCLCπ型の整合回路として作用する。
【0041】
このようにして、ほぼ全体が整合回路部として作用する、整合回路付き信号線路モジュール102を構成し、用いることができる。
【0042】
図6図7に示した例では、CLCπ型の整合回路を構成したが、例えば図8に示すように、信号線とグランドとの間にインダクタをシャントに接続してもよい。この等価回路は図9(A)、図9(B)に示すように表される。ここで、線路Lineはキャパシタとして作用する電気長に設定される。このようにしてLCLπ型の整合回路を構成することもできる。
【0043】
《第3の実施形態》
図10(A)は第3の実施形態に係る信号線路モジュール103を備えた通信端末装置303の下部筐体(表示パネル側の筐体)を取り外した状態、すなわち上部筐体側の、主要部の内部構造を示す図である。但し、下部筐体の内面に貼付されている放射板54については下部筐体から分離して一緒に図示している。図10(B)は通信端末装置303の主要部の断面図である。
【0044】
放射板54には放射素子55が形成されている。接続ピン12Pおよびショートピン12PSは放射素子55の所定位置に当接して電気的に接続される。信号線SLの終端は接続ピン12Pを介して放射素子55の給電点に接続され、これにより給電される。また、放射素子55の接地点にショートピン12PSが当接することで、この接地点がグランド線GLを介し、第3接続部13で金属シャーシ59に接地される。
【0045】
このようにして、接地点を有する放射素子55に対して信号線路モジュール103は適応する。
【0046】
《第4の実施形態》
図11は第4の実施形態に係る信号線路モジュールを備えたアンテナ装置の回路図である。この例では、放射板に放射素子(給電放射素子)55および無給電放射素子60を備えている。信号線路モジュールには、放射素子55の給電点に対して給電する接続ピン、放射素子55の接地点に接するショートピン、さらには無給電放射素子60の接地点に接するショートピンを備えている。
【0047】
《第5の実施形態》
図12は第5の実施形態に係る信号線路モジュールを備えたアンテナ装置の回路図である。この例では、信号線路モジュールに、放射素子55の給電点に対して給電する接続ピンおよび放射素子55の接地点に接するショートピンを備えている。また、信号線路モジュールには、放射素子55の給電点付近に、シャント接続のキャパシタおよびシリーズ接続のインダクタによる整合回路部が構成されている。
【0048】
このように、放射素子55に信号線路モジュールを2つのピンで接続することで、逆F型アンテナを構成するとともに給電する回路を構成できる。
【0049】
《第6の実施形態》
図13は第6の実施形態に係る信号線路モジュール106の主要部の概念断面図である。この信号線路モジュール106の第1グランド導体G1、第2グランド導体G2および信号線SLでストリップライン構造の第1高周波線路部21が構成されている。整合回路部30にはキャパシタおよびインダクタによるインピーダンス整合回路が構成されている。第2接続部12には接続ピン12Pが設けられている。その他の基本構成はこれまでに示した実施形態と同じである。
【0050】
第2高周波線路部22は非グランド領域NGZにある位相調整ラインであり、このラインと整合回路部30の回路とで一つの整合回路が構成されている。
【符号の説明】
【0051】
B1…第1基材層
B2…第2基材層
G1…第1グランド導体
G2…第2グランド導体
G2c…容量形成部
GL…グランド線
GZ…グランド領域
NGZ…非グランド領域
P…接続ピン用端子
R1,R2…レジスト層
RZ…放射部
Sc…容量形成部
SL…信号線
VIA…ビア導体
G1…1グランド導体
11…第1接続部
11C…コネクタ
12…第2接続部
12P…接続ピン
12PS…ショートピン
13…第3接続部
21…第1高周波線路部
22…第2高周波線路部
30…整合回路部
30E…整合回路素子
31…第1整合回路部
32…第2整合回路部
51,52…プリント配線板
53…バッテリーパック
54…放射板
55…放射素子
56…RFIC
57…レセプタクル
58…接着層
59…金属シャーシ
60…無給電放射素子
80…筐体
101〜103,106…信号線路モジュール
301,303…通信端末装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14