特許第5935945号(P5935945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明電舎の特許一覧

<>
  • 特許5935945-セラミックフィルタ 図000005
  • 特許5935945-セラミックフィルタ 図000006
  • 特許5935945-セラミックフィルタ 図000007
  • 特許5935945-セラミックフィルタ 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935945
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】セラミックフィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20160602BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20160602BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20160602BHJP
   B01D 69/04 20060101ALI20160602BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20160602BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20160602BHJP
   C04B 41/89 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   B01D71/02
   B01D69/10
   B01D69/06
   B01D69/04
   B01D69/12
   C04B41/85 C
   C04B41/89 Z
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-517525(P2015-517525)
(86)(22)【出願日】2014年11月28日
(86)【国際出願番号】JP2014081496
(87)【国際公開番号】WO2015083628
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2015年4月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-251594(P2013-251594)
(32)【優先日】2013年12月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】白石 英也
(72)【発明者】
【氏名】野口 寛
(72)【発明者】
【氏名】中川 彰利
(72)【発明者】
【氏名】宇賀神 孝行
(72)【発明者】
【氏名】清家 聡
(72)【発明者】
【氏名】土屋 達
(72)【発明者】
【氏名】松浦 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直樹
【審査官】 團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−235172(JP,A)
【文献】 特開2001−260117(JP,A)
【文献】 特開2012−040549(JP,A)
【文献】 特開平10−236887(JP,A)
【文献】 特開2010−228946(JP,A)
【文献】 特開2005−154227(JP,A)
【文献】 特開2003−176185(JP,A)
【文献】 特開平03−127615(JP,A)
【文献】 特開2007−254222(JP,A)
【文献】 特開2002−136969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B01D39/00−41/04
B01D61/00−71/99
C02F 1/44
C04B41/00−41/72
DB JSTPlus/JMEDPlus
/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を主成分とする粒子からなる多孔質支持体の表面に、前記金属酸化物に当該金属酸化物とは異種の金属酸化物が担持されてなる粒子から構成される濾過膜層を被覆した、ファウリング原因物質を含有する被処理水を膜分離処理するためのセラミックフィルタであって、
前記異種の金属酸化物は、前記濾過膜層の表面電荷が前記ファウリング原因物質の表面電荷と同極性となる金属酸化物であり、
前記異種の金属酸化物が担持されてなる粒子から構成される濾過膜層の表面電荷は、前記多孔質支持体の主成分である金属酸化物の粒子からなる濾過膜層の表面電荷よりもマイナス側にシフトしている
セラミックフィルタ。
【請求項2】
前記多孔質支持体の主成分である金属酸化物は、アルミナ、シリカ、コーディエライト、チタニア、ムライト、ジルコニア、スピネルのいずれか若しくはこれらから複数選択されたものの混合物である
請求項に記載のセラミックフィルタ。
【請求項3】
前記異種の金属酸化物は、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化タングステンのいずれか若しくはこれらから複数選択されたものの混合物、または、これらの金属酸化物の金属元素の複合酸化物である
請求項に記載のセラミックフィルタ。
【請求項4】
前記異種の金属酸化物の平均粒径は、前記濾過膜層の主成分である金属酸化物の平均粒径0.01〜1μmの1/10以下であり、
前記異種の金属酸化物の添加量は、前記濾過膜層の主成分である金属酸化物に対して0.1〜50質量%である
請求項1からのいずれか1項に記載のセラミックフィルタ。
【請求項5】
前記濾過膜層は複数層からなり、この複数層の少なくとも最表層を構成する粒子は前記金属酸化物の粒子の表面に当該金属酸化物とは異種の金属酸化物が担持されてなる
請求項1からのいずれか1項に記載のセラミックフィルタ。
【請求項6】
前記多孔質支持体は中空円筒状、板状、モノリス状のいずれかの形状を成し、
この支持体において単一若しくは複数並列に形成された貫通孔の内周面または当該支持体の外周面に前記濾過膜層が形成された
請求項1からのいずれか1項に記載のセラミックフィルタ。
【請求項7】
前記濾過膜層を構成する粒子は、前記多孔質支持体の主成分である金属酸化物の粒子の表面に前記異種の金属酸化物を主成分とするゾル由来若しくは粉末由来の粒子が担持されてなる
請求項1からのいずれか1項に記載のセラミックフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は上水用原水、下水、各種廃水等の被処理水を膜分離処理するセラミックフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックフィルタはアルミナなどのセラミックス粒子をバインダ等と混合、成形した後、大気圧下、高温で焼き固めることで高い比表面積を有する多孔質の構造として作製される。そして、その多孔質構造は粗い粒子からなる板状や管状などの形状の多孔質支持体とその上に細かい粒子から成る膜が一層または複数層からなる濾過膜により構成される。セラミックフィルタは堅牢で物理的、化学的な耐久性及び親水性が高いことから各種の排水の処理に適用されている。
【0003】
有機膜の材料であるポリスルフィン系樹脂等は疎水性を有しており、ファウリングの原因物質である疎水性のタンパク質や油脂などと親和性がある。そのため、有機膜はファウリングを起こしやすく、一般的に界面活性剤の塗布による膜表面の親水化処理を行うことで有機膜を作製する。
【0004】
これに対して、セラミックフィルタは、セラミックの親水性が高いのでファウリング物質との親和性は低く、微視的に表面が平滑であり洗浄しやすいことから、ファウリングを抑制、制御しやすいという利点がある。
【0005】
しかしながら、実際には、前記原因物質を含めて被処理水の存在物質に起因するファウリングを防止することは困難であり、膜の洗浄等の対策が重要な課題となっている。
【0006】
ファウリングによる濾過性能低下の抑制方法として、例えば、膜分離活性汚泥法(MBR)に適用されているセラミック平膜などでは、洗浄を目的とした曝気や逆洗並びに濾過操作を停止してフィルタの薬液洗浄の実施等の操作を行っている。
【0007】
ファウリングを抑制する工夫は従来から行われており、特に、被処理水中の固液分離粒子の有する表面電荷とセラミック濾過膜の表面電荷とを同極性(電位符号が同符号)にすることでファウリングを抑制することは膜洗浄に関わる電力の低減や濾過運転の効率化などに効果がある(特許文献1,2等)。
【0008】
例えば、特許文献1に開示された水性懸濁液からの微粒子物質の除去方法は、表面電荷の関係から基材である支持体管上へチタニアをか焼することによって作製されたフィルタが目詰まりの制御に有効であるとしている。
【0009】
特許文献2に開示された膜モジュールの運転方法は、外圧式のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)限外濾過中空糸膜モジュールを用いて膜ファウリングを抑制するために膜のゼータ電位の測定値に基づいて膜を負電荷状態に制御する。
【0010】
また、ファウリングの抑制効果があるとされる材質であるシリカ、チタニア、ジルコニアなどをセラミックフィルタの濾過膜に適用した技術としては例えば特許文献3,4,5に開示されたセラミックフィルタが知られている。
【0011】
特許文献3に開示されたセラミックフィルタは、基材(支持体),中間層,濾過層を有するセラミックフィルタであって、濾過層にはセラミック粉末の骨材粒子と、無機結合材として粒径1μm未満の粘土,カオリナイト,チタニアゾル,シリカゾル,ガラスフリット等を5〜25質量%含有する。シリカゾルまたはチタニアゾルはナノサイズのシリカ(SiO2)粒子またはチタニア(TiO2)粒子を水中に分散させたものである。
【0012】
特許文献4に開示されたセラミックフィルタは、多孔質基材(支持体)上にシリカゾルを複数回塗布することでシリカ膜を積層させた多層構造のセラミックフィルタであって、支持体としてMF(精密濾過)膜やUF(限外濾過)膜を利用している。
【0013】
特許文献4に開示されたセラミックフィルタは、多孔質基材(支持体)の表面に、骨材粒子がジルコニアからなるセラミックス多孔質膜を形成し、その表面粗さがRaで1μm以下である。
【0014】
ファウリングの抑制効果のある材質である金属酸化物を主成分として調整したスラリーを多孔質セラミックからなる基材(支持体)上に塗布して濾過膜が形成されセラミックフィルタを作製する場合、熱膨張係数の違いなどにより、濾過膜内部、支持体と濾過膜との間における収縮量や収縮速度のずれなどが生じることから濾過膜にピンホールやクラックなど膜欠陥が発生しやすい。特に、膜厚を有する程、膜欠陥の発生が顕著となる。
前記金属酸化物としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化タングステンなどやこのいずれかが複数選択されたものの混合物、または、アルミノシリケート、チタニアシリケートなどの金属複合酸化物などがから選択され、ゾルや粉末の態様にてスラリーの調整に使用される。
【0015】
本発明は上記の事情に鑑みなされたものでピンホールやクラックなどの膜欠陥の発生を防止するとともに濾過膜の表面を改質させたセラミックフィルタの提供を課題とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2002−136969号公報
【特許文献2】特開2010−227836号公報
【特許文献3】特開2001−260117号公報
【特許文献4】特開2012−40549号公報
【特許文献5】特開2007−254222号公報
【特許文献6】特開昭63−274407号公報
【特許文献7】特開平7−41318号公報
【特許文献8】特開平6−329412号公報
【特許文献9】特開平6−316407号公報
【特許文献10】特開2000−290015号公報
【特許文献11】国際公開番号WO2007/000926号公報
【特許文献12】特開2006−335635号公報
【特許文献13】特開2006−182604号公報
【特許文献14】特開2004−131346号公報
【発明の概要】
【0017】
そこで、本発明は、金属酸化物を主成分とする多孔質支持体の表面を当該金属酸化物とこの金属酸化物とは異種の金属酸化物とを成分とする粒子からなる濾過膜層で被覆することにより、当該支持体上の濾過膜の膜欠陥の発生を防止するとともに当該表面の改質を可能とする。
【0018】
本発明のセラミックフィルタは、金属酸化物を主成分とする粒子からなる多孔質支持体の表面に、前記金属酸化物に当該金属酸化物とは異種の金属酸化物が担持されてなる粒子から構成される濾過膜層を被覆した、ファウリング原因物質を含有する被処理水を膜分離処理するためのセラミックフィルタであって、前記異種の金属酸化物は、前記濾過膜層の表面電荷が前記ファウリング原因物質の表面電荷と同極性となる金属酸化物であり、前記異種の金属酸化物が担持されてなる粒子から構成される濾過膜層の表面電荷は、前記多孔質支持体の主成分である金属酸化物の粒子からなる濾過膜層の表面電荷よりもマイナス側にシフトしている
【0019】
本発明によればセラミックフィルタにおいて濾過膜でのピンホールやクラックなどの膜欠陥の発生を防止するとともに濾過膜の表面を改質できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の濾過膜層の構成成分のゼータ電位を示した特性図。
図2】本発明の実施例のセラミックフィルタにおける濾過膜表面の走査型電子顕微鏡画像。
図3】比較例のセラミックフィルタにおける濾過膜表面の走査型電子顕微鏡画像。
図4】本発明の実施利,比較例のセラミックフィルタが適用された濾過試験装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
アルミナ粉末を骨材とする多孔質セラミック支持体の表面にアルミナに加えてこのアルミナとは異種のシリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化タングステンに例示される金属酸化物若しくはこのいずれかの金属酸化物が複数選択されものの混合物を主成分とする濾過膜を形成して当該金属酸化物若しくは混合物に基づく表面電荷を有するセラミックフィルタを成すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明の完成に至った。
【0022】
すなわち、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化タングステンに例示される金属酸化物若しくはこのいずれかの金属酸化物が複数選択されたものの混合物の粒子によって被覆されたアルミナ粒子を含んで成る濾過膜の表面電荷は当該金属酸化物若しくは混合物に起因する表面電荷を有することから、前記金属酸化物若しくは混合物が当該アルミナ粒子の改質材として機能することが確認された。
【0023】
アルミナ粉末などを骨材とする多孔質セラミック支持体の表面上にシリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化タングステンに例示される金属酸化物若しくはこのいずれかの金属酸化物が複数選択されたものの混合物を主成分とする濾過膜を形成する場合、濾過膜の焼成などの製造工程において、熱膨張係数の違いなどにより、濾過膜内部、支持体と濾過膜との間における収縮量や収縮速度のずれなどが生じることから、濾過膜にピンホールやクラックなど膜欠陥が発生しやすい。特に、膜厚を有する程、膜欠陥の発生が顕著となる。
【0024】
そのため、この濾過膜の収縮量や収縮速度のずれを少なくするために、濾過膜を構成する主骨材粒子としては、多孔質セラミック支持体の主骨材粒子と略同材質のものを使用することが望ましい。
【0025】
また、本発明の実施例のセラミックフィルタの作製方法は、濾過膜の構成成分に改質材を添加すること以外は、従来のセラミックフィルタの作製方法をほぼ変更することなく利用した。
【0026】
一般にセラミック多孔質において、それを形成する骨材の粒径と気孔径には直接的な関係が成り立ち、粒径が大きいほど充填率が低下し、気孔径は大きくなり、この気孔は焼成してもそのまま残る。そのため、濾過膜の原料となる骨材粒子の粒径により焼成後の濾過膜の細孔径を調整することが可能となる。そして、骨材粒子よりも粒径が小さい改質材粒子の過剰添加は開気孔率を低下させることになり、焼成後の濾過膜の細孔径を小さくさせ、所望する細孔径が得られない。そこで、本発明においては、改質材を添加することで濾過膜の細孔径などの濾過性能を大きく変えることなく濾過膜の主骨材の粒子表面を改質することとした。
【0027】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0028】
1.セラミックフィルタの作製条件
本実施例では、公知の多孔質支持体(例えば、主骨材はアルミナ)の表面に濾過膜用スラリーを塗布・乾燥後、焼成して前記多孔質支持体上に濾過膜を形成させたセラミックフィルタを作製した。なお、セラミックフィルタの形状は平膜式(板状)とした。
【0029】
以下、従来のセラミックフィルタの作製方法に基づいた本実施例の支持体、濾過膜、濾過膜用スラリーの調製について説明する。
【0030】
(1−1)支持体
多孔質支持体の骨材は金属酸化物からなり、例えば、アルミナ(Al23)、シリカ(SiO2)、コーディエライト(2MgO・2Al23・5SiO2)、チタニア(TiO2)、ムライト(Al25・SiO2)、ジルコニア(ZrO2)、スピネル(MgO・Al23)、あるいはそれらの混合物等を用いることができるが、所望の平均粒径の原料が入手しやすいことからアルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニアなどが好ましい。
【0031】
多孔質支持体の骨材の粒径は、セラミックフィルタの用途から平均粒径0.1〜100μmであることが好ましい。
【0032】
前記多孔質支持体の細孔径が大きい場合には、濾過膜を直接設けないで、中間層を介して濾過膜を設ける場合がある。また、支持体としては、例えば、中空円筒状、板状、モノリス状のいずれかの形状を成したものが挙げられる。
【0033】
実施例においては、アルミナ(平均粒径0.7μmまたは3μm)を主成分とする公知の構成成分により形成された板状の多孔質支持体を用いた。
【0034】
前記多孔質支持体は、例えば特許文献7に開示されたように、主骨材がアルミナであり、これにバインダ、無機質ゾル、水を添加した混錬物を成型、乾燥、焼成により形成したものが挙げられる。特許文献3に例示された基材(支持体)や周知の基材(支持体)の構成成分や支持体が使用できる。
【0035】
(1−2)濾過膜
本発明の濾過膜は骨材と改質材とを含有する。そして、以下に説明する濾過膜用スラリーを調製して多孔質支持体に塗布した。
【0036】
濾過膜の骨材は金属酸化物からなり、公知の濾過膜の骨材と同種のものが使用できる。例えば、前記支持体の説明において記載された材質から選択が可能である。
【0037】
また、骨材粒子は、濾過膜の骨格を形成するセラミック粒子であり、当該骨材粒子の平均粒径を適宜選択することにより濾過膜の細孔径が決定される。セラミックフィルタの用途から、濾過膜の骨材の平均粒径は0.01〜1μmであることが好ましい。
【0038】
実施例では、平均粒径0.4μmのアルミナ粒子(例えば特許文献7や特許文献8)を使用した。
【0039】
一方、改質材の粒径は、改質材を添加することで開気孔率や粒子捕捉率などの濾過性能を変化させることなく本発明の効果を得るためには前記濾過膜の骨材よりも平均粒径が小さく、骨材の平均粒径に対して1/1以下、好ましくは1/10以下がよい。
【0040】
本実施例では、改質材の平均粒径として、骨材であるアルミナ粒子の平均粒径0.4μmに対して1/10以下(平均粒径40nm以下)とした。そして、改質材として、シリカ(シリカゾル、例えば特許文献9)、チタニア(チタニアゾル、例えば特許文献10)、ジルコニア(ジルコニアゾル、例えば特許文献11)、セリア(セリアゾル、例えば特許文献12、特許文献13)、酸化鉄(III)(酸化鉄ゾル、例えば特許文献13)、酸化タングステン(酸化タングステンゾル、例えば特許文献14)の6種類とし、各々平均粒径を66nm、15nmとして、金属酸化物ゾルの態様にて使用した。
なお、本発明のセラミックフィルタにおいて異種の金属酸化物として適用される前記酸化鉄は、酸化鉄(III)(Fe23)以外に、FeO、Fe34などの態様であってもよい。
【0041】
その他、濾過膜用のスラリーの調製にあたり、分散剤は、水溶性アクリル酸系分散剤(アロンA−6114、東亜合成株式会社)、バインダは、アクリル系水性バインダ(アロンAS−1800、東亜合成株式会社)を使用した。
【0042】
また、濾過膜用のスラリーの調製において、前記改質材は周知の金属酸化物のゾルまたは粉末を使用すればよく、例えば、骨材100質量%に対して、0.1質量%以上であり、50質量%以下の改質材を含む水溶液となるようにイオン交換水を加えて調合される。さらに、全溶液量に対して分散剤を0.1〜10質量%(実施例では0.4質量%とした)、骨材と改質材の合量に対してバインダを0.1〜1.1質量%(実施例では0.1質量%とした)を加えて濾過膜用のスラリーが調合される。
【0043】
前記改質材は前記骨材に対して50質量%より大きいと、乾燥や焼成工程で膜面にピンホールやクラックなどの膜欠陥が生じやすくなる。そのため、改質材は骨材に対して50質量%以下とすることが好ましい。
また、前記改質材は前記骨材に対して0.1質量%以上とすることにより、濾過膜の等電点(ゼータ電位が0mVとなるときの値)が低pH側へシフトする。
【0044】
本実施例においては、多孔質支持体上に形成した濾過膜層の膜厚は、40μm程度となるように設定した。なお、濾過膜の膜厚は、膜欠陥の発生の有無や純水透過性能などを考慮して10〜100μmの範囲で適宜設定される。
【0045】
濾過膜用スラリーを多孔質支持体へ空気搬送によるスプレー方法にて当該支持体の表面に濾過膜用スラリーを塗布し、熱風送風などにて乾燥させた後、焼成した。
【0046】
スラリーを支持体上へ形成する方法としては、前記スプレー方法以外にもディップコート法など公知の方法を利用できる。なお、焼成温度は骨材種類などの構成成分により異なり、例えば、骨材がアルミナからなる濾過膜であれば温度800〜1600℃、1時間などの焼成条件により焼成される。そして、焼成温度を、より高温とすることで濾過膜の緻密化により強度向上を図れる。一方、焼成助剤を適宜、濾過膜用スラリーに添加することで、より低い焼結温度での焼成が可能となる。
本実施例では焼成温度を1370℃にて実施したが、本発明の焼成温度は、材料組成、焼成工程等に応じて適宜設定すればよい。
【0047】
セラミックフィルタが内圧濾過方式を採用する場合には濾過膜は前記支持体の内周面に形成される。一方、同フィルタが外圧濾過方式を採用する場合には濾過膜は前記支持体の外周面に形成される。
【0048】
例えば、前記支持体が中空円筒状の支持体の場合、濾過膜は当該支持体の内周面または外周面に形成される。前記支持体が板状の支持体の場合、この支持体の幅方向に複数並列に形成された貫通孔の内周面または当該支持体の両方の主面に濾過膜層が形成される。前記支持体がモノリス状の支持体の場合、この支持体の軸方向に沿って複数形成された貫通孔の内周面または当該支持体の外周面に濾過膜層が形成される。
【0049】
なお、骨材であるアルミナと、改質材の主成分でシリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化タングステンなどの金属酸化物の各粒径は、その粒径に適した周知の測定方法によって測定される。例えば、シリカ、チタニア、ジルコニアの粒径は以下の測定法にて測定される。
【0050】
アルミナ、ジルコニアの粒径:レーザ回折散乱式粒子径分布測定法による測定の平均粒径(JIS Z8826−2005 粒子径解析−光子相関法に準拠) シリカの粒径:BET吸着法による比表面積測定値からの換算値(JIS Z8830−2013に準拠) チタニアの粒径:透過型電子顕微鏡撮影画像の画像解析による値(JIS 7804−2005に準拠)
【0051】
2.セラミックフィルタの表面電荷、表面性状についての測定と観察結果
前述のセラミックフィルタの作製条件により測定試料、本発明の実施例のフィルタならびに比較例のフィルタを作製した。
濾過膜の表面被覆(表面電荷、表面性状)の様子ならびに模擬排水による濾過試験にて濾過膜の改質効果についての測定結果は以下の通りである。
【0052】
(2−1)濾過膜の表面電荷の測定結果
セラミックフィルタの作製条件にて濾過膜スラリーの焼成物を作製後、この焼成物のゼータ電位(界面動電電位)の測定を行なった。
【0053】
測定試料の作製のため、骨材のアルミナ粒子(平均粒径0.4μm)に対する改質材の添加量をシリカが25、50質量%、チタニアが20質量%とする濾過膜用スラリーを調製した。
【0054】
この濾過膜用スラリーを焼成後、焼成物を粉砕して測定試料としてゼータ電位を下記装置にて測定した。
【0055】
測定分析装置は、ゼータサイザーナノZS(マルバーン)、キャピラリーセル、自動滴定装置MPT−2(マルバーン)を使用した。
【0056】
表面電荷の測定結果を図1に示す。図中、Al23(アルミナ)は改質材を添加せずに作製した従来のセラミックフィルタの濾過膜と同一としたものであり改質材の添加による効果との比較を行った。
【0057】
アルミナ(Al23)に対するシリカ添加量25質量%(SiO2(25%))、50質量%(SiO2(50%))の測定結果から、骨材のアルミナの特性よりも広範囲のpHにてゼータ電位がマイナス側にシフトしていることがわかった。このことはアルミナ骨材が改質材によって被覆されることで改質の効果が得られことを示すものである。さらに、シリカの添加量(25質量%、50質量%)の測定結果で添加量増減による明確な差異が認められなかったことから、改質材の添加量の増減が改質効果へ及ぼす影響は小さいことが確認された。なお、濾過膜の骨材であるアルミナ粉末の平均粒径が0.4μm以外にも0.01、0.3、0.5、1μmに対して同様な結果が得られた。また、改質材がシリカ以外のチタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化タングステンであっても前記アルミナ粉末の平均粒径0.01〜1μmにおいて当該改質材の平均粒径6nm、15nmにて同様の効果が得られた。さらに、改質材がシリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化タングステンであるとき当該改質材の添加量が0.1、0.2、1、5質量%でも同様の効果が得られた。
なお、濾過膜の骨材であるアルミナ(Al23)粉末に各種改質材の粉末を適量添加して混合して等電点(ゼータ電位が0mV)を測定したところと、アルミナの等電点9.1に対して、チタニア:6.7、シリカ:1.8−2.7、ジルコニア:6.5、セリア:6.5、酸化鉄:8.3、酸化タングステン:0.5なる数値が得られた。
アルミナと各種改質材である金属酸化物を混合することで、ゼータ電位をマイナス側にシフトさせる効果が確認できた。
【0058】
以上のことから、濾過膜の骨材の平均粒径が0.01〜1μmであって、改質材の平均粒径が骨材平均粒径の1/10以下、改質材の添加量が骨材に対して0.1〜50質量%であるとき、アルミナ骨材が改質材によって担持されることで改質の効果が得られた。
【0059】
(2−2)走査型電子顕微鏡(SEM)による濾過膜の表面性状の観察結果 本発明の実施例、比較例のセラミックフィルタの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)画像によって表面性状を観察し、アルミナ粒子表面に改質材の粒子の担持の状況について検討した。
【0060】
濾過膜の骨材であるアルミナ粒子(平均粒径0.4μm)に対して改質材のシリカ(平均粒径15nm)50%質量をシリカゾルとして添加し濾過膜用スラリーを調製した。そして、この濾過膜用スラリーにより前述のセラミックフィルタの作製条件にて本発明の実施例のフィルタを作製した。また、前記作製条件においてシリカを添加させずに製作したフィルタを比較例のフィルタとした。
【0061】
上記の実施例のフィルタ、比較例のフィルタの走査型電子顕微鏡(SEM)画像をそれぞれ図2,3に示した。図2の実施例のフィルタの画像から明らかなように、特異的な粒子塊は認められず、図3の比較例のフィルタのSEM画像との比較によると、アルミナ粒子上に改質材が担持されていることが確認された。また、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化タングステンも同様であった。したがって、骨材に金属酸化物を添加して調製したスラリーとすることで改質材粒子が均等に分散した状態でアルミナ粒子の表面を被覆させることが確認された。
【0062】
3.セラミックフィルタによる模擬排水の濾過試験結果
前記の実施例のフィルタならびに比較例のフィルタを用いて模擬排水の濾過試験を行った。試験概要並びに試験結果は以下の通りである。
【0063】
図4に示した濾過試験装置に前記模擬排水を供給して実施例のフィルタ、比較例のフィルタの濾過試験を室温にて行った。模擬排水を原水槽11から原水供給ポンプP0によって200ml/分の流量で膜濾過槽12(有効容積3l)に供給する一方でこの膜濾過槽12からのオーバーフローを原水槽11に返送した。膜濾過槽12内に浸漬させた平膜式の実施例(または比較例)のセラミックフィルタ(平膜式、有効幅W80mm×有効高さH250mm)20を介して同槽12内の液相を濾過ポンプP1によって1.0m3/(m2・日)の濾過流束で吸引することにより当該液相の濾過処理を行った。なお、濾過流束は単位膜面積当たりの濾過流量を意味する。
【0064】
濾過処理の過程では濾過流路14のバルブV1を開に設定する一方で逆洗流路15のバルブV2を閉に設定した。被処理水はセラミックフィルタ20の外部から内部に吸引される。そして、セラミックフィルタ20内に透過した濾過水は集水部22を介して濾過水槽13に移送される。濾過水槽13からオーバーフローした濾過水は原水槽11に返送されるようになっている。濾過水の流量は流量計F1によって計測し、膜モジュール2の差圧は圧力計PIによって計測した。
【0065】
セラミックフィルタ(実施例のフィルタ,比較例のフィルタ)20の洗浄では、ブロアBからスクラビングエアを1.0l/分の流量で散気管16からセラミックフィルタ20に供給した。また、逆洗工程では、バルブV1を閉に設定する一方でバルブV2を開に設定し、濾過水槽13から濾過水を逆洗ポンプP2によって1.0m3/(m2・日)の流量でセラミックフィルタ20に逆流させた。スクラビングは常時実施し、逆洗工程は14分毎に1分間実施した。
【0066】
模擬排水による濾過試験の試験条件を以下に示す。
【0067】
模擬排水:水道水に軽油200mg/l添加し、振とう機によって0.3Hz、10分以上混合、その後、カオリナイトを100mg/l添加したものである。この模擬排水の水質は生物化学的酸素要求量(BOD):6mg/l、二クロム酸カリウムによる酸素要求量(CODCr):12mg/l、懸濁物質(SS):104mg/lであった。
【0068】
BOD、CODCr、SSは、各々、工業排水試験方法(JIS K0102)に記載の方法にて測定した。油分は模擬排水中の油分を抽出溶媒(H−997(堀場製作所))に抽出して非分散赤外線分析方式の油分濃度計(OCMA−305(堀場製作所))によって測定した。
【0069】
濾過条件:流速1.0m3/(m2・日)、濾過時間14分、逆洗時間1分、濾過流量と逆洗流量の比率=1、散気風量1.0l/分 計装機器:圧力計PI(GC61−174(長野計器))、流量計F1(FD−SS02A(キーエンス)) セラミックフィルタに適用した実施例のフィルタ、比較例のフィルタによる濾過試験結果を表1に示す。
【0070】
表1に記載の「純水透過性能」は100kPa、25℃に換算した純水における流束(m3/(m2・日))である。また、開気孔率は測定試料の外形容積を基準としたときの開気孔部分の百分比であり、ASTM−D−792に記載の方法での測定値である。
【0071】
【表1】
【0072】
表1から、濾過膜の純水透過性能、開気孔率、細孔径などの濾過性能は、実施例のフィルタと比較例のフィルタと同等の結果が得られ、濾過性能は変わらないセラミックフィルタを作製できることがわかった。
【0073】
一方、実施例のフィルタは、比較例のフィルタと比較して、膜差圧上昇速度を71%低減でき、顕著なファウリング抑制効果があることが確認された。
【0074】
また、濾過膜の改質材の添加量が膜差圧上昇速度に及ぼす影響について、アルミナ(平均粒径0.4μm)100質量%に対するシリカの添加量が0.1、0.2、1、5、25、50質量%の場合でも同様の試験を行った。
【0075】
その結果、シリカ添加量0.1、0.2、0.4、0.5、1、5、25質量%の膜差圧上昇速度は、比較例のフィルタ基準比で0.5以下の範囲内にあり、シリカの添加量が0.1〜50質量%で膜差圧上昇速度を抑制した濾過膜表面の改質効果が確認できた。
【0076】
また、アルミナ粒子(平均粒子0.4μm)に対してチタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化タングステンを添加した場合も同様であり、当該添加量が0.1、0.2、1、5、25、50質量%で膜差圧上昇速度を抑制した濾過膜表面の改質効果が確認された。さらに、濾過膜の骨材であるアルミナ粉末の平均粒径が0.01、0.3、0.5、1μmの場合でも同様の効果が得られた。
【0077】
また、改質材がシリカ以外のチタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化タングステンであっても前記アルミナ粉末の平均粒径0.01〜1μmにおいて当該改質材の平均粒径6nm、15nmにて同様の効果が得られた。
【0078】
以上のことから、濾過膜の骨材の平均粒径が0.01〜1μmであって、改質材の平均粒径が骨材平均粒径の1/10以下、改質材の添加量が骨材に対して0.1〜50質量%であると、模擬排水に対して、前述の濾過膜の表面電荷での結果と同様に、骨材が改質材によって被覆されることで濾過膜の改質の効果が顕著であり、さらに、改質材の添加量が改質効果へ及ぼす影響は小さいことが確認された。
【0079】
4.本発明の実施例,比較例における濾過膜の評価
前述のセラミックフィルタの作製条件に従って、本発明の改質材により被覆された骨材により濾過膜用スラリーを調合し、このスラリーを多孔質支持体に塗布、乾燥、焼成の各工程を経てセラミックフィルタを作製した。そして、セラミックフィルタの諸特性を試験することで本発明の濾過膜の評価を行った。実施例、比較例ともに支持体はアルミナを主成分とした多孔質支持体(平均粒径3μm)を、また、濾過膜の骨材にはアルミナ粒子(平均粒径0.4μm)を使用した。
【0080】
表2に改質材としてシリカ、チタニアを用いた本発明の実施例1〜3の濾過膜用スラリーの仕様を示した。比較例1は改質材が添加されていない濾過膜用スラリーである。
【0081】
【表2】
【0082】
表3に本発明の実施例,比較例のセラミックフィルタの膜特性評価結果を示した。同表に示された比較例1は改質材を添加せずに濾過膜を形成したセラミックフィルタである。
【0083】
表3に示された濾過膜の開気孔率、粒子捕捉率の値は以下の測定法による値である。
【0084】
粒子捕捉率は0.1μmの標準粒子に対する粒子の捕捉率(%)であり、JIS R 1680−2007に準拠した測定法による値である。標準粒子はポリエチレンビーズ(商品名:JSR SIZE STANDARD PARTCLES、粒径平均値:0.1μm)を使用した。
【0085】
【表3】
【0086】
表3に示された実施例1〜3から、改質材(シリカまたはチタニア)の添加によりアルミナ骨材が改質材によって被覆された構造を有する濾過膜の開気孔率は、改質材を添加しない従来のセラミックフィルタである比較例1の場合と同程度であり、改質材の添加でも濾過膜内の気孔が減少することなく維持されていることが確認された。さらに、粒子捕捉率も実施例1〜3と比較例1が同等であることから、濾過膜でのピンホールやクラックなどの膜欠陥がないことが確認された。
【0087】
したがって、濾過膜の骨材への改質材の適用により改質材(シリカ、チタニア)を用いない従来の比較例1の濾過膜と濾過性能的に同等の濾過膜が得られることが確認された。
【0088】
さらに、濾過膜の骨材のアルミナ粒子(平均粒径0.4μm)に対するシリカならびにチタニアの添加量が0.1、0.2、1、5質量%である場合や、ジルコニアの添加量が0.1、0.2、1、5、25、50質量%でも同様な結果が得られた。
【0089】
また、濾過膜の骨材であるアルミナ粉末の平均粒径が0.01、0.3、0.5、1μmである場合や、改質材がジルコニアであっても前記アルミナ粉末の平均粒径0.01、0.3、0.4、0.5、1μmにおいて当該改質材の平均粒径6nm、15nmにて同様の効果が得られた。
なお、他の改質材(セリア、酸化鉄、酸化タングステン)についても、別途、評価試験を行い、シリカ、チタニアおよびジルコニアと同等の膜特性評価結果が得られた。
【0090】
以上のことから、濾過膜の骨材の平均粒径が0.01〜1μmであって、改質材の平均粒径が骨材平均粒径の1/10以下、改質材の添加量が骨材に対して0.1〜50質量%であるとき、従来の濾過膜と濾過性能的に同等の濾過膜が得られることが確認された。
【0091】
以上の説明から明らかなように本実施形態のセラミックフィルタによれば改質材の添加により膜特性を劣化させることなく濾過膜の膜欠陥の発生を防止するとともに濾過膜の表面を改質できる。
【0092】
特に、多孔質支持体上に形成される濾過膜に適用される改質材の添加量を低減できる。
また、金属酸化物を主成分とする粒子からなる多孔質支持体の表面に当該金属酸化物を主成分とする粒子からなる濾過膜層を被覆したセラミックフィルタにおいて、前記濾過膜層を構成する粒子が前記金属酸化物の粒子の表面に当該金属酸化物とは異種の金属酸化物が担持されて成る粒子とすることにより、セラミックフィルタの表面電荷を適宜に調整できる。これにより、ファウリング原因物質による濾過膜のファウリングを抑制させる効果を高めることができる。
例えば、前記多孔質支持体の主成分である金属酸化物がアルミナである場合、前記異種の金属酸化物を例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化タングステンのいずれか若しくはこれらから複数選択されたものの混合物または当該異種の金属酸化物の金属元素の複合酸化物とすることにより、セラミックフィルタの表面電荷をマイナス側へシフトできる。したがって、マイナスに帯電しているファウリング原因物質による濾過膜のファウリングを効果的に抑制できる。
【0093】
また、上記の実施例は前記多孔質支持体の主成分である金属酸化物がアルミナであるが、アルミナ以外の金属酸化物、例えば、シリカ、コーディエライト、チタニア、ムライト、ジルコニア、スピネルのいずれか若しくはこれらから複数選択されたものの混合物であっても、当該実施例と同様の評価が得られる。
さらに、上記の実施例は改質材がシリカ、チタニアのいずれかであるが、改質材は前記アルミナとは異種の金属酸化物であればよく、シリカ、チタニア以外の金属酸化物、例えば、ジルコニア、セリア、酸化鉄、酸化タングステンのいずれか若しくはこれらから複数選択されたものの混合物、または、これらの金属酸化物の金属元素の複合酸化物(例えば、アルミノシリケート、チタニアシリケート)であっても、当該実施例と同様の評価が得られる。
【0094】
そして、上記の実施例は前記濾過膜層を構成する粒子が多孔質支持体の主成分である金属酸化物の粒子の表面に当該金属酸化物とは異種の金属酸化物を主成分とするゾル由来の粒子が担持されて成るものであるが、粉末由来の異種の金属酸化物の粒子が担持されて成るものであっても、当該実施例と同様の評価が得られる。
【0095】
本発明は以上説明した実施例に何ら限定することなく、当業者によって適宜変更して実施が可能であり、この変更された態様も発明の技術範囲に属する。
【0096】
例えば、実施例において、セラミック多孔質支持体上に形成される濾過膜は複数層からなる構成としてもよく、支持体の平均細孔径が大きい場合、中間層を介して濾過膜を設けてもよい。また、既存のセラミックフィルタにファウリング抑制機能を付加するため表層に濾過膜を形成して複数層からなる構成としてもよい。なお、複数層とする場合には、少なくともセラミックフィルタの最表層に骨材粒子の表面に改質材を被覆してなる濾過層を形成することでファウリングを抑制する効果を有することとなる。
【0097】
また、既存のセラミックフィルタの作製条件をほぼ修正することなく利用が可能であり、改質材の添加により膜特性を劣化させることなく濾過膜の膜欠陥の発生を防止するとともに濾過膜の細孔径などの濾過性能などを維持したセラミックフィルタを作製できる。
【0098】
さらに、上記の実施例は、板状(平膜方式)の多孔質セラミック支持体において複数並列に形成された貫通孔の内周面または当該支持体の外周面に濾過膜が形成されたセラミックフィルタであるが、他の形状のセラミックフィルタ、例えば、中空円筒状の支持体の内周面または外周面に濾過膜層が形成されたもの、モノリス状の支持体において複数に形成された貫通孔の内周面または当該支持体の外周面に前記濾過膜層が形成されたものについても、同様の結果が得られることが明らかである。
図1
図2
図3
図4