(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記着色塗膜層内の前記着色顔料濃度の平均値を基準とした前記顔料濃化層内の着色顔料濃度比cの最大値c1と最小値c2の比c1/c2が、1.04≦c1/c2≦2.0を満たす、請求項1に記載のプレコート金属板。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
[1.プレコート金属板の製造方法の概要]
まず、本発明の第1の実施形態に係るプレコート金属板の製造方法の概要について説明する。
【0025】
上述したように、帯状の長尺金属板(金属帯)を連続塗装する従来の塗装方法としては、逐次塗布焼付方式や、ウェットオンウェット方式、多層同時塗布方式などがある。しかし、これら従来の塗装方式は、プレコート金属板の高い光沢度と、塗膜相互の高い密着性を両立できないという問題があった。
【0026】
そこで、かかる問題を解決すべく、本実施形態では、金属板に複数層の塗膜を塗装する連続塗装ラインにおいて、第1層(下層)の着色塗料を塗布する第1の塗布装置の後段であって、第2層(上層)のクリア塗料を塗布する第2の塗布装置の前段に、プレヒート用の加熱装置(以下、プレヒート装置)を設置する。このプレヒート装置は、従来の焼付装置よりも出力や加熱温度が低く、設置スペースも小さい簡素な加熱装置である。
【0027】
本実施形態に係るプレコート金属板の製造方法では、上記連続塗装ラインにより帯状の金属板を連続塗装する際に、まず、金属板に下層の着色塗膜を塗布する。次いで、上記プレヒート装置により、着色塗膜を適切な加熱条件でプレヒートして生乾き状態にする。さらに、該生乾き状態の着色塗膜を冷却及び乾燥させることなく、上層のクリア塗料を塗布して、クリア塗膜を形成する。その後、下層の着色塗膜と上層のクリア塗膜を同時に焼き付ける。
【0028】
かかるプレヒートを利用したウェットオンウェット方式の連続塗装方法により、プレコート金属板の着色塗膜とクリア塗膜中に、着色顔料の濃度分布特性が異なる4つの特徴的な塗膜層(クリア層、拡散層、顔料濃化層、着色塗膜層)を形成できる。これにより、高い光沢度を有し、かつ、下層の着色塗膜と上層のクリア塗膜間の密着性に優れたプレコート金属板を製造できる。
【0029】
以下では、上記プレヒートを利用したウェットオンウェット方式(以下、プレヒート方式とも称する。)を実現するための連続塗装装置と、該装置を用いたプレコート金属板の製造方法について詳述する。なお、以下では、プレコート金属板として、鋼板に対して着色塗膜とクリア塗膜という上下2層の塗膜を塗装したプレコート鋼板を製造する例について説明するが、本発明のプレコート金属板は、かかる例に限定されない。例えば、塗装対象の基材(金属板)として、鋼板以外の任意の材質の金属板を使用してもよい。また、本発明は、金属板に対して3層以上の塗膜が塗装されたプレコート金属板を製造する場合にも適用可能である。
【0030】
[2.連続塗装装置の構成]
次に、
図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る連続塗装装置の全体構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る連続塗装装置のライン構成を示す模式図である。
【0031】
図1に示すように、本実施形態に係る連続塗装装置は、所定幅の帯状の鋼板10(鋼帯)の表面を連続的に塗装して、多層プレコート金属板を製造するための塗装ラインである。該連続塗装装置は、鋼板10を通板方向に一定のライン速度で通板しながら、該鋼板10の少なくも一方の表面に対して複数層の塗膜11、12を連続的に塗布し、さらに、該複数層の塗膜11、12を同時に焼付、冷却及び乾燥する。鋼板10を通板する際のライン速度は、例えば、30〜200m/minである。
【0032】
かかる連続塗装装置は、ロールコーター13(本発明の第1の塗布装置に相当する。)と、プレヒート装置14(本発明の加熱装置に相当する。)と、カーテンコーター15(本発明の第2の塗布装置に相当する。)と、焼付装置16(本発明の焼付装置に相当する。)と、冷却装置17と、乾燥装置18とを備える。
【0033】
ロールコーター13は、鋼板10の表面上に、着色顔料を含有する着色塗料を塗布する第1の塗布装置の一例である。着色塗料は、下層の着色塗膜11を形成するための塗料であり、着色顔料を含有している。ロールコーター13は、着色塗料を保持するロールを回転させながら鋼板10の表面に接触させることで、鋼板10の表面に着色塗料を塗布する。これにより、鋼板10の表面に第1層(下層)として着色塗膜11が形成される。
【0034】
かかる第1の塗布装置としては、接触式の塗布装置(ロールコーター等)又は非接触式の塗布装置(カーテンコーター等)のいずれを用いてもよいが、
図1に示すように、接触式のロールコーター13を用いる方が好ましい。一般にカーテンコーターは、膜厚の制御が難しい。これに対して、ロールコーター13は、ロール回転速度やロール間ギャップを調整することで比較的容易かつ高精度に膜厚を制御できるので、下層の着色塗膜11の膜厚を高精度で制御できる。また、ロールコーター13を用いれば、塗布可能な塗料の粘度範囲も広い。
【0035】
プレヒート装置14は、着色塗膜11を所定の加熱温度Tで加熱する加熱装置の一例である。プレヒート装置14は、塗装ライン上で、上記ロールコーター13(第1の塗布装置)の後段であって、カーテンコーター15(第2の塗布装置)の前段に配置される。
図1に示すように、これら両塗布装置の間の塗装ライン上には、プレヒート装置14のみが設置されており、着色塗膜11用の焼付装置、冷却装置、乾燥装置等は設置されていない。この点で、本実施形態に係る連続塗装ラインは、従来の2C2B方式の連続塗装ラインとは装置構成及び配列が相違する。
【0036】
プレヒート装置14は、例えば、熱風乾燥炉、誘導加熱炉、赤外線加熱炉、又は、これらを併用した炉等で構成されるが、塗料を加熱可能であれば任意の加熱装置を使用できる。このプレヒート装置14は、鋼板10上の着色塗膜11を、高い温度で長時間加熱して焼き付けるのではなく、一般的な焼付装置による焼付温度よりも低い所定の加熱温度T(例えば60〜150℃)で、着色塗膜11を短時間加熱する。この加熱温度Tは、例えば、着色塗料の揮発分の沸点以下の温度である。なお、加熱温度Tは、プレヒート装置14により加熱される鋼板10のメタルピーク温度(PMT:Peak Metal Temperature)で表される。
【0037】
このため、プレヒート装置14は、従来の塗装ラインで一般的に使用される焼付装置よりも、低出力、低加熱温度、小型、省設置スペースの加熱装置で構成される。例えば、従来一般的なIH型の焼付装置16の出力(鋼板10の単位質量当たりの必要電力量)は、11〜24kWh/tonである。これに対し、プレヒート装置14の出力は3〜17kWh/tonとすることが可能であり、一般的な焼付装置16の出力の27〜70%程度に抑えることができる。また、焼付装置16の加熱温度は200℃以上であることが多い。これに対し、プレヒート装置14の加熱温度Tは60〜150℃程度に低減することが可能である。さらに、焼付装置16の通板方向の全長は30m以上であることが一般的である。これに対し、プレヒート装置14の全長は1〜5m程度とすることが可能である。
【0038】
かかるプレヒート装置14を用いて、着色塗料の揮発分の沸点以下の低い加熱温度Tまで、着色塗膜11を加熱することで、着色塗膜11は、塗料の揮発分の全てが揮発して完全に乾燥するのではなく(即ち、焼き付けられるのではなく)、塗料の揮発分の一部が揮発して部分的に乾燥した「生乾き状態」となる。
【0039】
カーテンコーター15は、着色塗膜11上にクリア塗料を塗布する第2の塗布装置の一例である。カーテンコーター15は、上記プレヒート装置14により加熱されて生乾き状態となっている着色塗膜11上に、クリア塗料を塗布して、クリア塗膜12を形成する。
【0040】
カーテンコーター15としては、例えば、カーテンフローコーター又はローラーカーテンコーターなどの公知のカーテンコーターを使用できる。このカーテンコーター15は、通板する鋼板10の上方から、クリア塗料を鋼板10の板幅よりも幅広のカーテン状に流下させることで、着色塗膜11上にクリア塗料を非接触式で塗布する。これにより、下層の着色塗膜11上に、上層のクリア塗膜12が形成される。
【0041】
かかる第2の塗布装置としては、接触式の塗布装置(ロールコーター等)又は非接触式の塗布装置(カーテンコーター等)のいずれを用いてもよいが、
図1に示すように、カーテンコーター15などの非接触式の塗布装置を用いる方が好ましい。この理由は、生乾き状態の着色塗膜11に対して、接触式のロールコーターを用いてクリア塗料を塗布すると、着色塗膜11が剥離する可能性があるからである。
【0042】
第2の塗布装置として、カーテンコーター15等の非接触式の塗布装置を用いることで、着色塗膜11の剥離を防止して、上層と下層の塗膜を所望の膜厚で安定的に塗装できる。また、該非接触式の塗布装置を用いれば、平滑で美しい外観のクリア塗膜12が得られる。さらに、ロールの転写むらが生じやすい塗料を塗布できるとともに、高速塗装が可能となる。
【0043】
また、
図1に示すように、塗装ライン上で、カーテンコーター15は、上記プレヒート装置14の後段に配置され、プレヒート装置14とカーテンコーター15との間に、着色塗膜11を強制冷却及び乾燥させるための冷却装置や乾燥装置は設けていない。このため、カーテンコーター15は、プレヒート装置14により加熱された後に強制冷却及び乾燥されていない着色塗膜11上に、クリア塗料を塗布することになる。かかる塗装ライン構成により、プレヒート装置14から排出される生乾き状態の着色塗膜11の温度が低下する前に、カーテンコーター15により該着色塗膜11上にクリア塗料を塗布して、着色塗膜11とクリア塗膜12を適切に馴染ませることができる。
【0044】
焼付装置16は、上記カーテンコーター15の後段に配置され、鋼板10上に塗布された着色塗膜11及びクリア塗膜12を同時に焼き付ける。この焼付装置16は、一般的な塗料用焼付け炉、例えば、熱風乾燥炉、誘導加熱炉、赤外線加熱炉、又は、これらを併用した炉等で構成される。
【0045】
上述したように、
図1に示す焼付装置16は、従来の塗装ラインで一般的に使用される焼付装置と同等であり、プレヒート装置14よりも出力や加熱温度等が大幅に高く、設置スペースも大きい。また、焼付装置16による加熱温度は、上記着色塗料やクリア塗料の揮発分の沸点よりも高く(例えば200℃以上)、焼付装置16による加熱時間は、プレヒート装置14よりも長い。従って、焼付装置16内に鋼板10を通板させることで、着色塗膜11及びクリア塗膜12が高い加熱温度まで加熱されて、両塗膜11、12が同時に鋼板10に焼き付けられる。
【0046】
また、冷却装置17と、乾燥装置18は、上記焼付装置16の後段に配置される。冷却装置17は、上記焼付装置16により着色塗膜11及びクリア塗膜12が焼き付けられた鋼板10を水冷する。乾燥装置18は、ドライヤーなどで構成され、冷却装置17による冷却後の鋼板10を乾燥させる。
【0047】
[3.塗料の具体例]
次に、着色塗膜11(中塗り塗膜)及びクリア塗膜12(トップコート塗膜)に用いられる塗料の定義と具体例について説明する。
【0048】
[3.1.用語の定義]
まず、塗料に関する用語について定義する。
塗料は、固形分と揮発分とからなる。固形分は、塗料の成分のうち、焼付により皮膜を構成する成分であり、塗料の各種機能を発揮するために用いられる。この固形分は、揮発分に溶解する溶解成分と、揮発分に溶解せずに微細粒子状に分散した状態で懸濁する懸濁成分とを含む。一方、塗料の揮発分は、塗料の成分のうち、焼付により揮発する成分であり、上記固形分に流動性を与えて塗布し易くするために用いられる。この揮発分は、塗布後の加熱時に揮発して、焼付後の皮膜を構成しない。なお、本明細書において、塗料の揮発分の揮発とは、該揮発分がその沸点未満で揮発することのみならず、その沸点以上で蒸発することも含む。
【0049】
油性塗料は、揮発分として有機溶剤を用いる塗料である。油性塗料の固形分は、各種の樹脂(溶解成分)と、ワックス、顔料、架橋剤、つや消し剤、体質顔料、紫外線吸収剤、硬化剤又は防錆剤等の微細粒子(懸濁成分)を含む。油性塗料の揮発分(有機溶剤)中には、固形分として、上記各種の樹脂(溶解成分)が溶解するとともに、上記ワックス、顔料等の微細粒子(懸濁成分)が分散している。油性塗料としては、油性着色塗料や、油性クリア塗料などがある。
【0050】
水性塗料は、揮発分として水を主体とする液体を用いる塗料である。水性塗料の固形分は、各種の樹脂(懸濁成分)と、ワックス、顔料、架橋剤、つや消し剤、体質顔料、紫外線吸収剤、硬化剤又は防錆剤等の微細粒子(懸濁成分)を含む。水性塗料の揮発分(水を主体とする液体)中には、固形分として、上記各種の樹脂(懸濁成分)の微細粒子が溶解せずに分散するとともに、上記ワックス、顔料等の微細粒子(懸濁成分)も分散している。水性塗料としては、水性着色塗料や、水性クリア塗料などがある。
【0051】
ここで、水性塗料の揮発分は、水のみであってもよいし、或いは、有機溶剤と水の混合液(例えば低級アルコール)であってもよい。後者の場合、水性塗料の揮発分に占める水の質量割合は、例えば95質量%以上であるが、該水の質量割合が95質量%未満である混合液についても、水性塗料の揮発分となりうる。
【0052】
揮発分濃度とは、塗料の全質量(固形分の質量Aと揮発分の質量Bの合計)に占める揮発分の質量Bの割合である(揮発分濃度=B/(A+B)[質量%])。塗膜を成す塗料の揮発分濃度は、塗料の塗布時が最も高く、塗布された塗膜が乾燥するにつれて(つまり、塗膜中の揮発分が揮発するにつれて)、揮発分濃度が減少する。
【0053】
[3.2.着色塗料の具体例]
着色塗膜11は、中塗り塗膜であり、プレコート鋼板の色彩等の意匠性や、塗膜の硬さ向上、耐薬品性、耐汚染性、防錆等の機能性を実現するために用いられる。着色塗料は、着色顔料を含有する塗料であり、着色塗膜11を形成するために用いられる。着色塗料としては、一般に公知の塗料用樹脂に着色顔料等を添加したものを使用することができ、例えば、防錆塗膜用樹脂等、プレコート用の塗料として市販されているものを使用することができる。
【0054】
着色塗料の樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、又はフッ素樹脂等のプレコート用塗料に使用される一般的な樹脂を用いることができる。また、必要に応じて、これら樹脂を2種以上混合して用いたり、メラミン樹脂又はイソシアネート樹脂などの架橋剤を使用したりしてもよい。特に、ポリエステル樹脂をメラミン樹脂又はイソシアネートで架橋させたタイプの樹脂は、加工性に優れる。
【0055】
着色塗料中に含有される着色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、アルミニウム、又はカーボンブラックなどの一般的な着色顔料を用いることができる。特に、上記樹脂と屈折率差の大きい着色顔料を用いることが好ましい。
【0056】
また、着色塗料には、必要に応じて、公知のレベリング剤、顔料分散剤、ワックス、艶消し剤等を添加することができる。これら添加剤の種類や添加量は、特に規定されるものではなく、必要に応じて適宜選定することができる。また、着色塗料は、油性塗料、又は、水性塗料のいずれであってもよい。
【0057】
油性着色塗料は、揮発分として有機溶剤を用いる着色塗料である。油性着色塗料の固形分は、例えば、着色顔料、シリカ、潤滑剤等である。また、油性塗料の揮発分(有機溶剤)は、例えば、キシレン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等である。油性塗料の揮発分濃度(即ち、有機溶剤の濃度)は、例えば、30〜70質量%、特に、40〜65質量%である。油性着色塗料の具体例としては、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂との混合溶液(ポリエステル樹脂をメラミン樹脂で架橋したもの)に酸性触媒を添加し、攪拌することで得られるクリア塗料に、白色顔料(酸化チタン)又は黒色顔料(カーボンブラック)を添加して攪拌した着色塗料の例が挙げられる。
【0058】
一方、水性着色塗料は、揮発分として水を主体とする液体を用いる着色塗料である。水性着色塗料に占める水の割合は、例えば40〜90質量%である。水性着色塗料の具体例としては、水性樹脂(ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等)に、硬化剤(メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物等)、着色顔料(カーボンブラック等)、シリカ粒子(球状シリカ粒子等)及び潤滑剤(ポリエチレン樹脂粒子等)を添加した着色塗料の例が挙げられる。
【0059】
[3.3.クリア塗料]
クリア塗膜12は、プレコート鋼板の最表層を成す上塗り塗膜であり、プレコート鋼板の光沢等の意匠性や、塗膜の硬さ向上、耐薬品性、耐汚染性、防錆等の機能性を実現するために用いられる。クリア塗料は、着色顔料を含有しない塗料であり、クリア塗膜12を形成するために用いられる。クリア塗料としては、一般に公知の塗料用樹脂に、潤滑剤等を添加したものを使用することができ、例えば、防錆塗膜用樹脂等、プレコート用の塗料として市販されているものを使用することができる。
【0060】
クリア塗料の樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等のプレコート用塗料に使用される一般的な樹脂を用いることができる。必要に応じて、これら樹脂を2種以上混合して用いたり、メラミン樹脂やイソシアネート樹脂などの架橋剤を使用したりしてもよい。特に、ポリエステル樹脂をメラミン樹脂又はイソシアネートで架橋させたタイプの樹脂は、加工性に優れる。
【0061】
クリア塗料には必要に応じて潤滑剤を添加することができる。潤滑剤の成分は特に限定されるものではなく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、又はマイクロクリスタリン等を用いることができる。
【0062】
また、クリア塗料には、必要に応じて、公知のレベリング剤、ワックス、艶消し剤等を添加することができる。これら添加剤の種類や添加量は、特に規定されるものではなく、必要に応じて適宜選定することができる。また、クリア塗料は、油性塗料、又は、水性塗料のいずれであってもよい。
【0063】
油性クリア塗料は、揮発分として有機溶剤を用いるクリア塗料である。油性クリア塗料の固形分は、例えば、シリカ、潤滑剤等である。また、油性クリア塗料の揮発分(有機溶剤)は、例えば、キシレン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等である。油性塗料の揮発分濃度(即ち、有機溶剤の濃度)は、例えば、30〜70質量%、特に、40〜65質量%である。油性クリア塗料の具体例としては、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂との混合溶液(ポリエステル樹脂をメラミン樹脂で架橋したもの)に酸性触媒を添加し、攪拌することで得られるクリア塗料の例が挙げられる。
【0064】
一方、水性クリア塗料は、揮発分として水を主体とする液体を用いるクリア塗料である。水性クリア塗料に占める水の割合は、例えば40〜90質量%である。水性クリア塗料の具体例としては、水性樹脂(ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等)に、硬化剤(メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物等)、シリカ粒子(球状シリカ粒子等)及び潤滑剤(ポリエチレン樹脂粒子等)を添加したクリア塗料の例が挙げられる。
【0065】
[4.プレコート金属板の製造方法]
次に、本実施形態に係るプレコート金属板の製造方法について説明する。以下では、上記
図1に示した連続塗装装置(塗装ライン)を用いて鋼板を連続的に多層コーティングして、プレコート鋼板を製造する方法について説明する。また、
図2を参照して、当該製造方法の各工程における塗膜の積層状態や、塗膜中の着色顔料濃度の分布についても、適宜説明する。
【0066】
本実施形態に係るプレコート金属板の製造方法は、(1)第1の塗装工程と、(2)プレヒート工程と、(3)第2の塗装工程と、(4)焼付工程と、(5)冷却工程と、(6)乾燥工程とを含む。以下に各工程について説明する。
【0067】
(1)第1の塗装工程
鋼板10は、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、冷延鋼板等であり、板厚は例えば0.3〜3.2mm、板幅は例えば600〜1828mmである。
【0068】
図1に示すように、まず、塗装ライン上を通板する帯状の鋼板10は、ロールコーター13(第1の塗布装置)に導入される。このロールコーター13により、鋼板10の表面に着色塗料を塗布することで、鋼板10の表面に着色塗膜11(下層塗膜)が形成される。この塗布時の着色塗膜11の膜厚D1は、例えば、5〜50μmであってよいが、以下では、D1=24μmである例について説明する。なお、着色塗料の塗布前に予め、不図示の化成処理装置により鋼板10の表面に化成処理層を形成しておき、該化成処理層上に着色塗膜11を形成してもよい。また、鋼板10上若しくは化成処理層上にプライマー塗料を塗布してプライマー塗膜を予め形成しておき、該プライマー塗膜上に着色塗膜11を形成してもよい。
【0069】
また、上記のように塗布された着色塗膜11は、膜厚方向にほぼ均一な濃度で着色顔料を含有している。このため、
図2Aに示すように、着色塗膜11内において、着色顔料濃度は、基材(鋼板10)側から表層側にかけて、ほぼ一定である。
【0070】
(2)プレヒート工程
次いで、上記着色塗膜11が形成された鋼板10は、プレヒート装置14(加熱装置)に導入される。このプレヒート装置14により、鋼板10上の着色塗膜11がプレヒートされる。この際、プレヒート装置14は、着色塗膜11を高い加熱温度まで長時間加熱して焼き付けるのではなく、着色塗料の揮発分の沸点以下の低い加熱温度T(例えば、60〜150℃)で加熱する。また、プレヒート装置14による鋼板10の加熱時間tは、非常に短く、例えば、1.0〜10秒が好ましい。例えば、設備長5mのプレヒート装置14に対して、ライン速度100m/minで鋼板10を通板した場合、プレヒート装置14による鋼板10の加熱時間は3秒である。
【0071】
かかるプレヒート装置14による低温かつ短時間の加熱(プレヒート)により、着色塗膜11から着色塗料の揮発分(有機溶剤又は水等)の一部が揮発して、該着色塗膜11中の揮発分濃度が低下し、着色塗膜11が「生乾き状態」となる。
【0072】
着色塗料が油性着色塗料である場合、その沸点は150〜160℃であるので、プレヒート装置14による加熱温度Tは、該沸点以下のPMT60〜150℃であることが好ましく、PMT90〜140℃であることがより好ましい。また、着色塗料が水性着色塗料である場合、その沸点は90〜120℃であるので、プレヒート装置14による加熱温度Tは、該沸点以下のPMT50〜80℃であることが好ましい。このように、プレヒート装置14により着色塗料の揮発分の沸点以下の適切な加熱温度Tまで着色塗膜11を加熱することで、着色塗膜11を適度に乾燥させて、上層塗料の混合を防止可能な生乾き状態にすることができる。なお、このプレヒートにより、着色塗膜11の膜厚D1は、若干減少する(例えば、24μm→22μm)。
【0073】
また、上記プレヒート工程では、着色塗膜11を低温で短時間加熱するだけであるので、着色塗膜11中に含まれる着色顔料は、着色塗膜11内部でほとんど移動しない。このため、
図2Bに示すように、プレヒートされた着色塗膜11内において、着色顔料濃度は、依然として、膜厚方向にほぼ一定である。
【0074】
(3)第2の塗装工程
次いで、生乾き状態の着色塗膜11が塗布されている鋼板10は、カーテンコーター15(第2の塗布装置)に導入される。このカーテンコーター15により、生乾き状態の着色塗膜11上に、クリア塗料を塗布することで、該着色塗膜11(下層塗膜)上にクリア塗膜12(上層塗膜)が形成される。即ち、クリア塗膜とは「クリア塗料を塗布して形成された塗膜」であり、後述する様に一部に着色顔料を含む。この塗布時のクリア塗膜12の膜厚D2は、例えば、10〜100μmであってよいが、以下では、D2=40μmである例について説明する。
【0075】
また、
図1に示すように、塗装ライン上でカーテンコーター15はプレヒート装置14の直後に配置されている。このため、上記プレヒート装置14による加熱工程の直後に、カーテンコーター15による第2の塗装工程が行われ、両工程間で、冷却装置や乾燥装置を用いて着色塗膜11が強制冷却及び乾燥されることはない。従って、第2の塗装工程では、生乾き状態のままの着色塗膜11上に、クリア塗膜12が塗布される。
【0076】
上記のようにして生乾き状態の着色塗膜11上にクリア塗膜12が塗布される。クリア塗膜12を塗布した時点では、
図2Cに示すように、着色塗膜11の着色顔料濃度は、
図2Bの場合と同様に一定であり、クリア塗膜12の着色顔料濃度はゼロである。しかし、クリア塗膜12の塗布後に時間の経過とともに、着色塗膜11とクリア塗膜12の界面で、物質移動が生じるため、クリア塗膜12内に、顔料濃化層123と拡散層122が形成される。即ち、下層の着色塗膜11中に含まれている着色顔料が、対流及び濃度拡散により上層側に移動し、上層のクリア塗膜12中に進入して拡散する。この結果、
図2Dに示すように、着色塗膜11内の着色顔料濃度が低下するとともに、クリア塗膜12内に、着色顔料を含む顔料濃化層123及び拡散層122と、着色顔料を含まないクリア層121とが形成される。
【0077】
顔料濃化層123は、クリア塗膜12内の基材側であって、着色塗膜11の直上に形成される。この顔料濃化層123は、クリア塗膜12の表層側に向かうほど着色顔料濃度が連続的に増加していく部分である。顔料濃化層123の表層側で、着色顔料濃度が最も高いピークとなる。
【0078】
また、拡散層122は、クリア塗膜12内で顔料濃化層123の直上(表層側)に形成される。この拡散層122は、クリア塗膜12のうち、クリア塗膜12の表層側に向かうほど着色顔料濃度が連続的に減少していく部分である。
【0079】
さらに、クリア塗膜12内の最表層側には、着色顔料を実質的に含まないクリア層121が形成される。本実施形態では、クリア塗膜12の塗布前に着色塗膜11をプレヒートすることで、着色塗膜11が適切な生乾き状態となっている。これにより、着色塗膜11からクリア塗膜12に着色顔料が移動、拡散するものの、その拡散範囲は制限され、クリア塗膜12の最表層部分までは着色顔料が到達しない。従って、クリア塗膜12内の最表層部分に、着色顔料を実質的に含まないクリア層121が形成される。
【0080】
また、上記のように着色顔料が着色塗膜11からクリア塗膜12の顔料濃化層123及び拡散層122に移動したため、着色塗膜11内の着色顔料濃度は、全体的に低下する。特に、顔料濃化層123に隣接する着色塗膜11の表層側部分では、着色顔料濃度が大きく低下して、着色塗膜11の膜厚方向中央部よりも着色顔料濃度が低い谷が生じることもある。このように上層のクリア塗膜12の塗布により、下層の着色塗膜11の着色顔料濃度が低下するが、該クリア塗膜12の塗布後に着色顔料濃度が低下した着色塗膜11を、着色塗膜層111と称する。
【0081】
以上のように、上層のクリア塗膜12と下層の着色塗膜11との間で、着色顔料等の物質が対流及び拡散する作用により、クリア塗膜12内に、3つの層(顔料濃化層123、拡散層122、クリア層121)が形成される。また、着色塗膜11は、クリア塗膜12の塗布後に、着色顔料濃度が低下した着色塗膜層111となる。以上の結果、着色塗膜11とクリア塗膜12からなる2層構造の塗膜層が、4層構造の塗膜層(下層側から順に、着色塗膜層111、顔料濃化層123、拡散層122、クリア層121)に変化する。
【0082】
(4)焼付工程
その後、上記着色塗膜11及びクリア塗膜12が形成された鋼板10は、焼付装置16に導入される。この焼付装置16により、鋼板10上の着色塗膜11及びクリア塗膜12が、塗料の揮発分の沸点よりも大幅に高い加熱温度(例えば200℃以上)まで加熱されて、該着色塗膜11及びクリア塗膜12が同時に焼き付けられる。
【0083】
かかる焼付装置16による高温加熱(焼付)により、着色塗膜11から着色塗料の揮発分が完全に揮発し、クリア塗膜12からクリア塗料の揮発分が完全に揮発する。これにより、両塗膜11、12中の揮発分濃度がほぼゼロにまで低下し、当該両塗膜11、12が完全に乾燥して硬化した状態となる。
【0084】
この結果、
図2Eに示すように、着色塗膜11及びクリア塗膜12の膜厚が減少する。例えば、着色塗膜11の膜厚D1は、例えば、22μmから15μmに減少し、また、クリア塗膜12の膜厚D2は、例えば、40μmから15μmに減少する。この結果、上記のクリア層121、拡散層122、顔料濃化層123、着色塗膜層111の厚みもそれぞれ減少する。ただし、各層の着色顔料濃度の分布は変化しない。
【0085】
(5)冷却工程
次いで、上記のように着色塗膜11及びクリア塗膜12が焼き付けられた高温の鋼板10は、冷却装置17に導入される。この冷却装置17により、該鋼板10に対して冷却水を吹き付けることで、該鋼板10が常温近くまで冷却される。
【0086】
(6)乾燥工程
その後、上記のように冷却された鋼板10は、乾燥装置18に導入される。この乾燥装置18により、該鋼板10のクリア塗膜12表面に付着した水分を蒸発させて、該鋼板10を乾燥させる。
【0087】
以上の工程により、長尺の鋼板10に対して着色塗膜11及びクリア塗膜12が連続的に塗装されて、2層コーティングのプレコート金属板が製造される。なお、上記では鋼板10の表面を2層コーティングする例について説明したが、鋼板10の裏面も公知の塗装方法で1層又は多層コーティングしてもよい。
【0088】
次に、
図3A〜
図3Cを参照して、上記第2の塗布工程におけるクリア塗料の再利用と、下層の着色塗膜11と上層のクリア塗膜12との密着性について説明する。
図3A〜
図3Cは、着色塗膜11上に、カーテンコーター15を用いてクリア塗料を塗布する工程を示す模式図である。
【0089】
図3Aは、従来の2C2B方式(逐次塗布焼付方式)によるクリア塗料の塗布工程を示している。
図3Aに示すように、下層の着色塗膜11を完全に焼き付けた後に、カーテンコーターを用いて上層のクリア塗料を塗布する場合、着色塗膜11の塗料と、塗布されるクリア塗料は混合しない。即ち、流動状態のクリア塗料がカーテンコーターからカーテン状に流下して、その下部を通過する鋼板10の着色塗膜11上に付着して、クリア塗膜12が形成される。これとともに、余剰のクリア塗料12aは鋼板10の幅方向両側より下方に流下する。この際、着色塗膜11は完全に乾燥した状態であるので、クリア塗料は、着色塗膜11の塗料と混合することがない。従って、鋼板10の幅方向両側より流下するクリア塗料12aを回収して再利用することが可能である。
【0090】
しかし、
図3Aに示す2C2B方式では、焼き付けられて完全に乾燥及び固化した下層の着色塗膜11に対して、上層のクリア塗料が馴染まない。このため、クリア塗膜12を焼き付けた後に、着色塗膜11とクリア塗膜12の密着性が低下し、両塗膜の界面でクリア塗膜12が着色塗膜11から剥離しやすくなるという問題がある。
【0091】
また、
図3Bは、従来の多層同時塗布方式によるクリア塗料の塗布工程を示している。
図3Bに示すように、多層カーテンコーターを用いて、下層の着色塗料と上層のクリア塗料を同時に塗布する場合、両塗料は濡れ状態であるので、相互に混合してしまう。従って、鋼板10の幅方向両側より下方に流下する余剰の着色塗料11aとクリア塗料12aを回収したとしても、両者は混ざり合っているので、再利用することはできず、廃棄せざるを得ない。このように、
図3Bに示す多層同時塗布方式では、塗料を回収して再利用できないため、塗料廃棄量が多くなり、塗料コストが増大するという問題がある。
【0092】
これに対し、
図3Cは、本実施形態に係るプレヒートを利用したウェットオンウェット方式(以下、プレヒート方式という。)によるクリア塗料の塗布工程を示している。本実施形態では、カーテンコーター15により、上記生乾き状態の下層の着色塗膜11上に、上層のクリア塗料を塗布する。
図3Cに示すように、カーテンコーター15からカーテン状に流下するクリア塗料は、着色塗膜11上に付着して、クリア塗膜12を形成するとともに、余剰のクリア塗料12aは鋼板10の幅方向両側より下方に流下して回収される。この際、着色塗膜11は、生乾き状態であるので、クリア塗料は、着色塗膜11と混合しない。従って、回収される余剰のクリア塗料12aは、着色塗料が混合しておらず、再利用可能であるので、塗料廃棄量及び塗料コストを削減できるという効果がある。
【0093】
さらに、生乾き状態の着色塗膜11に濡れ状態のクリア塗料を塗布することにより、着色塗膜11とクリア塗膜12の界面で両塗料が馴染み、該界面の粗度が、
図3Aの場合よりも高くなる。従って、着色塗膜11及びクリア塗膜12を同時に焼き付けた後に、着色塗膜11とクリア塗膜12の密着性が向上し、両塗膜の界面でクリア塗膜12が着色塗膜11から剥離しにくいという効果がある。
【0094】
以上のように、本実施形態に係るプレコート金属板の製造方法によれば、プレヒート装置14により下層の着色塗膜11を生乾き状態にし、冷却及び乾燥させることなく、該着色塗膜11上に上層のクリア塗料を塗布する。これにより、下層の着色塗膜11と上層のクリア塗膜12の密着性を向上でき、かつ、下層のクリア塗料の再利用率を向上させ、塗料廃棄量を低減できる。
【0095】
[5.生乾き状態の塗膜の揮発分濃度の適正範囲]
次に、上記プレヒート装置14により生乾き状態となる着色塗膜11の揮発分濃度の適正範囲について説明する。
【0096】
上記のように、下層の着色塗膜11の揮発分濃度が高く、着色塗膜11が濡れ状態に近い場合、上層のクリア塗料の塗布時に、両塗膜11、12が馴染みやすく、その密着性が向上する。反面、濡れ状態に近い着色塗膜11とクリア塗膜12が混合して、混層となるため、着色顔料を含まないクリア層121が形成され難くなってしまう。
【0097】
一方、下層の着色塗膜11の揮発分濃度が低く、該塗膜11が乾燥状態に近い場合、両塗膜11、12が馴染みにいので、その密着性が低下する。さらに、乾燥状態に近い着色塗膜11からクリア塗膜12に着色顔料が移動し難いため、クリア層121は形成され易いが、クリア塗膜12内に顔料濃化層123や拡散層122が形成され難くなってしまう。
【0098】
以上のように、塗膜間の密着性と、クリア層121の形成性とは相反関係にある。また、クリア層121の形成容易性と、顔料濃化層123や拡散層122の形成性も、相反関係にある。従って、クリア塗膜12内にクリア層121、拡散層122及び顔料濃化層123の3層を適切に形成でき、かつ、塗膜間の密着性も確保できるように、プレヒート時の加熱条件を制御して、生乾き状態の着色塗膜11の揮発分濃度を適正範囲内に調整することが好ましい。
【0099】
そこで、本実施形態では、プレヒート装置14により着色塗膜11を加熱して生乾き状態にする際、着色塗膜11の揮発分濃度が22〜64質量%となるように、加熱条件を制御する。なお、着色塗膜11の揮発分濃度とは、着色塗膜11を成す着色塗料の揮発分濃度である。
【0100】
下層の着色塗料が、油性着色塗料である場合、生乾き状態の着色塗膜11の揮発分濃度(有機溶剤の濃度)は、22〜55質量%であることが好ましい。生乾き状態の着色塗膜11の揮発分濃度が55質量%以下であれば、該着色塗膜11の油性着色塗料と、上層のクリア塗料が混合しない。このため、クリア塗膜12内にクリア層121を適切に形成できる。一方、着色塗膜11の揮発分濃度が22質量%以上であれば、生乾き状態の着色塗膜11の油性着色塗料とクリア塗料が馴染み易くなり、両層の塗膜の密着性が向上するとともに、クリア塗膜12内に顔料濃化層123及び拡散層122を適切に形成できる。さらに、従来の逐次塗布焼付方式と比べて、本実施形態に係るプレヒート装置14の出力スペックや設置スペースを40〜50%程度削減できるので、連続塗装装置の省スペース、省エネルギー化を実現できる。
【0101】
また、下層の着色塗料が水性着色塗料である場合、生乾き状態の着色塗膜11の揮発分濃度(水の濃度、又は、水と有機溶剤の混合液の濃度)は、25〜64質量%であることが好ましい。生乾き状態の着色塗膜11の揮発分濃度が64質量%以下であれば、該着色塗膜11の水性着色塗料と、上層のクリア塗料が混合しない。このため、クリア塗膜12内にクリア層121を適切に形成できる。一方、生乾き状態の着色塗膜11の揮発分濃度が25質量%以上であれば、該着色塗膜11の水性着色塗料とクリア塗料が馴染み易くなり、両層の塗膜の密着性が向上するとともに、クリア塗膜12内に顔料濃化層123及び拡散層122を適切に形成できる。さらに、上記油性着色塗料の場合と同様に、プレヒート装置14の出力スペックや設置スペースを40〜50%程度削減できるので、連続塗装装置の省スペース、省エネルギー化を実現できる。
【0102】
[6.プレコート鋼板の特性]
次に、上述した本実施形態に係るプレコート鋼板の製造方法により製造されたプレコート鋼板の特性について説明する。
【0103】
プレコート鋼板は、上記本実施形態に係るプレヒート方式(プレコートを利用したウェットオンウェット方式)により塗装されており、基材となる鋼板10の片面又は両面に少なくとも2層以上の塗膜を塗装することによって製造される。本実施形態に係るプレコート鋼板は、上述したように、鋼板10の片面に、下層の着色塗膜11と上層のクリア塗膜12を塗装したものである。
【0104】
さらに、本実施形態に係るプレコート鋼板は、
図2に示したように、着色塗膜層111とクリア層121との間に、顔料濃化層123と、拡散層122が形成されていることを特徴としている。上記
図2で説明したように、着色塗膜11上に塗布されたクリア塗膜12は、着色顔料濃度の分布に応じて、クリア層121、拡散層122、顔料濃化層123の3層に区分される。クリア塗膜12のうち、着色顔料を含まない最表層部分がクリア層121である。また、クリア塗膜12のうち、着色顔料を高濃度で含む基材側部分が顔料濃化層123である。さらに、クリア塗膜12のうち、クリア層121と顔料濃化層123の間の部分が拡散層122である。また、クリア塗膜12の塗布により着色顔料濃度が低下した着色塗膜11は、着色塗膜層111となる。
【0105】
このように、本実施形態に係るプレコート鋼板では、2回の塗装工程で形成された上下2層の塗膜(着色塗膜11及びクリア塗膜12)が、着色顔料濃度の分布に応じて4つの層(下層側から順に、着色塗膜層111、顔料濃化層123、拡散層122、クリア層121)に区分される。
【0106】
着色塗膜層111は、膜厚方向に概ね一定の濃度で着色顔料を含有する層である。該着色塗膜層111の厚みd4は、例えば8〜13μmである。また、顔料濃化層123は、着色塗膜11から移動した着色顔料を高濃度で含有する層であり、該顔料濃化層123の厚みd2は、例えば2.2〜8μmである。さらに、拡散層122は、着色塗膜11からクリア塗膜12中に拡散した着色顔料を含有する層であり、該拡散層122の厚みd3は、例えば3〜12μmである。また、クリア層121は、着色顔料を含有しない透明な層であり、該クリア層121の厚みd1は、例えば5〜12.3μmである。
【0107】
ここで、
図4〜
図6を参照して、本実施形態に係るプレコート鋼板の塗膜層内の着色顔料濃度の分布について詳述する。
図4は、従来の2C2B方式とウェットオンウェット方式で製造されたプレコート鋼板の塗膜層内の着色顔料濃度分布の例を示すグラフである。
図5、
図6は、本実施形態に係るプレコート鋼板の塗膜層内の着色顔料濃度分布の例を示すグラフである。なお、
図5、
図6のグラフでは、着色塗膜層111における着色顔料濃度の平均値を1.0としたときの各層の着色顔料濃度比を表している。
【0108】
まず、
図4を参照して、従来の塗装方式に係るプレコート鋼板の着色顔料濃度の分布と、その問題点について説明する。
【0109】
従来の2C2B方式では、下層の着色塗膜を焼き付けた後に、上層のクリア塗膜を塗布するので、両塗膜間で着色顔料が移動することがない。このため、
図4に示すように、下層の着色塗膜(膜厚D1)の着色顔料濃度は膜厚方向に一定であり、上層のクリア塗膜(膜厚D2)の着色顔料濃度は、ゼロである。この2C2B方式の場合、着色顔料を含まないクリア塗膜の膜厚D2を大きくできるものの、本実施形態のように着色顔料濃度が高い顔料濃化層123を形成できない。従って、着色塗膜で光を効率的に拡散反射させることができないので、プレコート鋼板の光沢に改善の余地がある。また、2C2B方式では、着色塗膜とクリア塗膜の密着性も非常に低い。
【0110】
また、従来のウェットオンウェット方式では、下層の濡れ状態の着色塗膜上に、上層の濡れ状態のクリア塗膜を塗布するので、両塗膜が混合して混層となってしまう。このため、
図4に示すように、下層の着色塗膜(膜厚D1)から上層のクリア塗膜(膜厚D2)まで膜厚方向全体に渡って、着色顔料が含まれており、該着色顔料の濃度は表層側に向かうにつれて徐々に低下している。このように、ウェットオンウェット方式では、着色顔料を含まないクリア層が形成されない。従って、入射した光が塗膜表層部を適切に透過できないばかりか、該入射光を着色塗膜で適切に正反射及び拡散反射させることもできないので、プレコート鋼板の光沢が大幅に低下してしまう。
【0111】
これに対し、
図5及び
図6を参照して、本実施形態に係るプレコート鋼板の着色顔料濃度の分布について説明する。
【0112】
図5に示すように、本実施形態に係るプレコート鋼板の着色塗膜層111(厚みd4)では、着色塗膜層111の膜厚方向の中央部においては、着色顔料濃度はほぼ一定であるが、該中央部から表層側に向かうにつれ、着色顔料濃度が減少する。かかる着色塗膜層111内の着色顔料濃度の平均値C
AVEを基準として、他の各層の着色顔料濃度Cの分布を相対評価する。以下で用いる着色顔料濃度比cは、CとC
AVEとの比である(c=C/C
AVE)。
【0113】
また、顔料濃化層123(厚みd2)は、上記着色塗膜層111内の着色顔料濃度の平均値C
AVE以上の着色顔料濃度を有している。この顔料濃化層123では、基材側から表層側に向かうにつれ、その着色顔料濃度が連続的に増加している。顔料濃化層123と着色塗膜層111との界面で、着色顔料濃度比cが最小値c2となり、顔料濃化層123と拡散層122との界面で、着色顔料濃度比cが最大値c1となる。この顔料濃化層123の着色顔料濃度比cは、例えば1.0〜1.2の範囲内である。顔料濃化層123と着色塗膜層111との境界部では、その周囲と比べて着色顔料濃度が低くなっている。この理由は、上記プレヒート時に、着色塗膜11の該境界部に対応する箇所に存在した着色顔料が対流及び濃度拡散により表層側(クリア塗膜12側)に移動して、顔料濃化層123が形成されたからである。
【0114】
また、
図5に示すように、拡散層122(厚みd3)では、基材側から表層側に向かうにつれ、着色顔料濃度が連続的に減少しており、拡散層122とクリア層121との境界で、着色顔料濃度がゼロとなる。この拡散層122の着色顔料濃度比cは、例えば0〜1.2の範囲内である。そして、クリア層121(厚みd1)は、着色顔料を含有していないので、着色顔料濃度はゼロである。
【0115】
以上のように、本実施形態に係るプレコート鋼板は、塗膜層内の4層構造の着色顔料濃度分布に特徴を有している。特に、クリア塗膜12の最表層側に、着色顔料を実質的に含有しないクリア層121が形成され、かつ、クリア塗膜12の基材側に、着色顔料濃度が顕著に高い顔料濃化層123が形成されていることを特徴とする。かかるクリア層121と顔料濃化層123を兼備することで、プレコート鋼板の光沢度を大幅に向上できる。この理由は次の通りである。
【0116】
一般的に、プレコート鋼板に光が当たるとき、最表層のクリア塗膜を透過した光は、下層の着色塗膜で反射する。ここで、着色塗膜の着色顔料濃度が高ければ、反射する光の量も大きくなる。しかし、着色塗料の着色顔料濃度を高くすると、着色塗料の貯蔵安定性が低下するとともに、鋼板の加工時の着色塗膜の密着性が劣化するという問題がある。
【0117】
これに対して、本実施形態では、上述したように、プレコート鋼板の製造時に、従来技術にはない短時間で下層の着色塗膜11をプレヒートする。これにより、クリア塗膜12の最表層側に、着色顔料を含有しない適正な厚みd1のクリア層121を、従来のウェットオンウェット方式よりも安定的に形成できる。加えて、クリア塗膜12の基材側(着色塗膜11との境界部付近)に、着色顔料濃度が顕著に高い顔料濃化層123を形成できる。従って、クリア層121及び拡散層122を透過した光を、顔料濃化層123により、表層側に効率的に拡散反射させることが可能となる。よって、本実施形態によれば、最終製品であるプレコート鋼板の光沢を大幅に向上できる。
【0118】
なお、
図6に示すように、顔料濃化層123と着色塗膜層111との境界部において、着色顔料濃度が周囲よりも低下しないような濃度分布の場合も、本願発明の技術的範囲に含まれる。この場合も、顔料濃化層123の着色顔料濃度が、着色塗膜層111内の着色顔料濃度の平均値C
AVE以上であり、かつ、表層側に向かうにつれ着色顔料濃度が連続的に増加している。従って、当該
図6の顔料濃化層123は、
図5の顔料濃化層123と同等に、入射光を効率的に拡散反射させることができるので、光沢度の高いプレコート鋼板が得られる。
【0119】
また、本実施形態に係るプレコート鋼板の製造時には、上述したプレヒートにより下層の着色塗膜11を生乾きにした状態で上層のクリア塗膜12を塗布するので、着色塗膜11とクリア塗膜12の界面で両塗膜が好適に馴染んでいる。従って、着色塗膜11とクリア塗膜12を同時に焼き付けた後に、着色塗膜11とクリア塗膜12間の密着性が大幅に向上される。よって、本実施形態に係るプレコート鋼板は、加工(曲げ加工、プレス加工等)された膜間の密着性(加工密着性)が十分に高い。
【0120】
以上のように、本実施形態に係るプレコート鋼板によれば、上下層の塗膜間の密着性が高く、かつ、鋼板表面の光沢も高いという利点がある。さらに、該プレコート鋼板の製造時において、着色塗膜11のプレヒートの加熱条件(加熱時間t及び加熱温度T等)を調整することにより、着色顔料を含まないクリア層121の厚みd1と、顔料濃化層123の厚みd2を制御することができる。当該制御によって、上下層間の密着性と、プレコート鋼板の光沢度を、高いレベルで両立させることが可能になる。この結果、本実施形態に係るプレヒート方式で製造されたプレコート鋼板は、従来のウェットオンウェット方式よりも高い光沢を実現できる。さらに、本実施形態に係るプレコート鋼板では、プレヒートの加熱条件やd1、d2を好適に制御すれば、逐次塗装焼付方式(2C2B等)よりも高い光沢を得ることも可能である。
【0121】
ここで、プレコート鋼板の光沢を高める観点から、本実施形態に係るクリア層121(厚みd1)、拡散層122(厚みd3)、顔料濃化層123(厚みd2)、着色塗膜層111(厚みd4)の膜厚の相互関係について、より詳細に説明する。
【0122】
(1)d1/d2の適正範囲
まず、本実施形態に係るクリア層121と顔料濃化層123の厚みの比d1/d2の適正範囲について説明する。次の式(1)に示すように、d1/d2を、1.7以上、4.7以下に制御することにより、上下層間の密着性とプレコート鋼板の光沢を高いレベルで両立できる。
1.7≦d1/d2≦4.7 ・・・(1)
【0123】
d1/d2が、1.7未満であると、クリア層121の厚みd1が十分でないため、目標とする光沢(例えば、ウェットオンウェット方式と比べて1.7倍以上の光沢)が得られない。一方、d1/d2が、4.7超であると、顔料濃化層123の厚みd2が十分でないため、塗膜間の密着性が劣化したり、逐次焼付方式(2C2B等)よりも高い光沢が得られ難くなったりする。従って、塗膜間の高い密着性を確保し、かつ、ウェットオンウェット方式よりも十分に高い光沢を得るためには、d1/d2を、1.7〜4.7に制御することが好ましい
【0124】
さらに、次の式(2)に示すように、d1/d2を、2.0以上に制御することが、より好ましい。これにより、本実施形態に係るプレコート鋼板の60°光沢を100以上に向上できるので、逐次塗布焼付方式(2C2B等)の場合(60°光沢:90程度)よりも高い光沢を得ることができる。
2.0≦d1/d2≦4.7 ・・・(2)
【0125】
(2)c1/c2の適正範囲
次に、顔料濃化層123内の着色顔料濃度比cの最大値c1と最小値c2の比c1/c2の適正範囲について説明する。次の式(3)に示すように、c1/c2は、1.04以上、2.0以下であることが好ましい。
1.04≦c1/c2≦2.0 ・・・(3)
【0126】
c1/c2が1.04以上である場合には、顔料濃化層123及び拡散層122に跨る着色顔料の高濃度部分(ピーク部分)で、入射光の拡散反射が起こり易くなり、光沢計の受光機に入射する光量を増加させることができる。従って、本実施形態に係るプレコート鋼板の60°光沢を100以上に向上できるので、逐次塗布焼付方式(2C2B等)の場合(60°光沢:90程度)よりも高い光沢を得ることができる。一方、c1/c2が1.04未満であると、ウェットオンウェット方式の場合よりも高い光沢が得られるものの、上記高濃度部分のピーク値が不足し、逐次塗布焼付方式(2C2B等)よりも高い光沢が得られない場合がある。
【0127】
また、c1/c2が2.0超である場合には、顔料濃化層123における着色顔料の濃化度が、過度に激しくなってしまう。このため、顔料濃化層123が脆くなり、塗膜間の加工密着性が劣化する恐れがある。従って、加工密着性を維持するためには、c1/c2が2.0以下であることが好ましい。
【0128】
(3)d2の適正範囲
次に、顔料濃化層123の厚みd2の適正範囲について説明する。次の式(4)に示すように、d2は、2.2μm以上、8.0μm以下であることが好ましい。
2.2μm≦d2≦8.0μm ・・・(4)
【0129】
d2が、2.2μm以上である場合には、顔料濃化層123により入射光を適切に拡散反射させることができるので、従来よりも高い光沢のプレコート鋼板が得られる。一方、d2が、2.2μm未満であると、顔料濃化層123による拡散反射が不十分になり、プレコート鋼板の光沢が低下してしまう。
【0130】
また、d2が、8.0μm超であると、顔料濃化層123による光沢向上効果が飽和して、プレコート鋼板の光沢が上限値に達するとともに、塗膜層間の加工密着性が低下してしまう。従って、プレコート鋼板の高い光沢を得つつ、塗膜層間の加工密着性を確保するためには、d2が2.2〜8.0μmであることが好ましい。
【0131】
(4)d1の適正範囲
次に、クリア層121の厚みd1の適正範囲について説明する。次の式(5)に示すように、d1は、5.0μm以上、12.3μm以下であることが好ましい。
5.0μm≦d1≦12.3μm ・・・(5)
【0132】
プレコート鋼板の高光沢を実現するためには、塗膜層の最表層側に、着色顔料を含まないクリア層121が存在する必要がある。このクリア層121の厚みd1が、5.0μm未満である場合には、入射光を拡散反射させるために必要なクリア層121の厚みが得られないので、プレコート鋼板の光沢が不足してしまう。一方、d1が12.3μm超である場合には、クリア層121よりも下層に位置する顔料濃化層123に届く光量が小さくなるため、十分な光沢が得られなくなる。従って、プレコート鋼板の高い光沢を得るためには、d1が5.0〜12.3μmであることが好ましい。
【0133】
以上、本実施形態に係るd1/d2、c1/c2、d2、d1といったパラメータの適正範囲について、式(1)〜(5)を用いて説明した。本実施形態に係るプレコート鋼板の製造方法では、上記プレヒート工程において、着色塗膜11の加熱条件(加熱温度T、加熱時間t等)を制御することにより、上記パラメータを制御することができる。
【0134】
本実施形態に係るプレコート鋼板の製造方法によれば、プレヒート工程において、加熱温度Tを60〜150℃、加熱時間tを1〜10秒とすることで、上記式(1)、(3)〜(5)を満たすプレコート鋼板を製造できる。さらに、加熱温度Tを90〜150℃、加熱時間tを1.9〜10秒とすることで、上記式(1)〜(5)を全て満たすプレコート鋼板を製造できる。
【0135】
[7.まとめ]
以上、本発明の第1の実施形態に係るプレコート金属板と、その製造方法、及び連続塗装装置について詳述した。本実施形態によれば、プレヒート装置14により、下層の着色塗膜11を低温で短時間加熱して、生乾き状態にした後に、上層のクリア塗料を塗布して、該生乾き状態の着色塗膜11上に上層のクリア塗膜12を形成する。
【0136】
これにより、上下層の塗膜間の密着性とプレコート鋼板の光沢を、高いレベルで両立できる。即ち、プレヒート時の加熱条件を適切に制御することで、クリア塗膜12の最表層に、着色顔料を含有しないクリア層121(厚みd1)を安定的に形成できるとともに、その下層側に着色顔料濃度が顕著に高い顔料濃化層123(厚みd2)を形成できる。さらに、クリア層121と顔料濃化層123の厚みの比d1/d2を、好適な範囲(1.7≦d1/d2≦4.7)に制御することができる。従って、クリア層121を透過した入射光を、顔料濃化層123により、表層側に効率的に拡散反射させることができるので、プレコート鋼板の光沢を大幅に向上できる。よって、本実施形態に係るプレコート鋼板は、従来のウェットオンウェット方式により製造されたプレコート鋼板よりも、大幅に高い光沢度を達成することができる。
【0137】
さらに、プレヒート時の加熱条件をより適切に制御することで、顔料濃化層123内における着色顔料濃度比cの最大値c1と最小値c2の比c1/c2を好適な範囲(c1/c2≧1.04)に制御する。これにより、上記顔料濃化層123により入射光を拡散反射する機能を更に向上できる。従って、本実施形態に係るプレコート鋼板は、従来の逐次塗装焼付方式(2C2B方式)により製造されたプレコート鋼板よりも、高い光沢度を得ることが可能となる。
【0138】
また、上記製造方法により、上下層の塗膜が相互に馴染み易くなり、両層の塗膜界面の粗度が高くなるので、最終焼付で両層を完全に乾燥させた後に、両層間の密着性が向上する。従って、下層の塗膜を完全に乾燥させてから上層の塗料を塗布及び焼き付ける従来の逐次塗布焼付方式(2C2B方式)と比べて、上下層の塗膜間の密着性を大幅に向上できるので、両層の塗膜界面で剥離しにくくなり、混層制御が容易になる。
【0139】
また、カーテンコーター15を用いた上層のクリア塗膜12の塗布時に、下層の着色塗膜11(生乾き状態)と上層のクリア塗料(濡れ状態)とが混合しないので、クリア塗料だけを回収して再利用できる。これにより、クリア塗料を循環利用できるので、クリア塗料の廃棄量と塗料コストを削減でき、環境親和性にも優れる。
【0140】
さらに、従来の逐次塗布焼付方式の焼付装置よりも、プレヒート装置14の出力及び設置スペース等を低減できるとともに、塗装ラインに複数組の冷却装置、乾燥装置を設置しなくて済む。従って、従来の逐次塗布焼付方式と比べて、塗装ラインの設備を簡素化、省スペース化及び省エネルギー化できる。従って、鋼板10のめっき工程において、簡素な連続塗装ラインを用いて鋼板10を多層コーティングすることが容易になる。
【0141】
[8.他の実施形態]
次に、本発明の他の実施形態について説明する。上記第1の実施形態では、2層コーティングの例について説明したが、本発明は3層以上の塗膜を多層コーティングする場合にも適用可能である。
【0142】
[8.1.第2の実施形態]
図7は、本発明の第2の実施形態に係る連続塗装装置のライン構成を示す模式図である。
図7に示すように、第2の実施形態に係る連続塗装装置は、上記第1の実施形態に係る連続塗装装置の塗装ライン(
図1参照。)の後段に、第3層の塗膜を塗装するための塗装設備(カーテンコーター21、焼付装置22、冷却装置23及び乾燥装置24)を追加設置したライン構成を有する。
【0143】
第2の実施形態では、まず、ロールコーター13(第1の塗布装置)により鋼板10に着色塗料が塗布されて、第1層の着色塗膜11が形成され、プレヒート装置14により着色塗膜11が加熱され、生乾き状態となる。
【0144】
次いで、カーテンコーター15(第2の塗布装置)により、生乾き状態の着色塗膜11上にクリア塗料が塗布されて、第2層のクリア塗膜12が形成される。さらに、焼付装置16により、第1層の塗膜11と第2層の塗膜12が同時に焼き付けられた後に、該塗膜11、12が焼き付けられた鋼板10が冷却装置17により水冷され、乾燥装置18により乾燥される。
【0145】
その後、カーテンコーター21(第3の塗布装置)により、乾燥状態のクリア塗膜12上にクリア塗料が塗布されて、第3層のクリア塗膜20が形成される。なお、第3の塗布装置としては、カーテンコーター21に代えて、ロールコーター又はその他の塗装装置を用いてもよい。さらに、焼付装置22により第3層の塗膜20が焼き付けられた後に、該塗膜20が焼き付けられた鋼板10が冷却装置23により水冷され、乾燥装置24により乾燥される。
【0146】
以上のようにして、第2の実施形態では、3層の塗膜11、12、20がコーティングされたプレコート鋼板が製造される。第2の実施形態によれば、第1層の着色塗膜11と第2層のクリア塗膜12内に、上記クリア層121、拡散層122、顔料濃化層123、着色塗膜層111が形成される。このクリア層121の厚みd1’と、第3層のクリア塗膜20の厚みD2’を合わせたクリア層の合計膜厚d1(=d1’+D2’)が、1.7≦d1/d2≦4.7を満たすように制御することが好ましい。これにより、第1の実施形態の2層コーティングのプレコート鋼板と同様に、3層コーティングされたプレコート鋼板においても、上記4層構造により、高い光沢度を得ることができる。
【0147】
また、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、第1層の着色塗膜11と第2層のクリア塗膜12の密着性が優れる。また、カーテンコーター15による第2の塗布工程において、第2層のクリア塗料を回収して再利用可能であり、さらに、第2の実施形態では、カーテンコーター21による第3の塗布工程において、第3層のクリア塗料を回収して再利用することも可能である。
【0148】
なお、第2の実施形態では、第2層のクリア塗膜12の塗布後に、焼付装置16により第1層及び第2層を焼き付けてから第3層を塗布したが、かかる例に限定されない。例えば、
図7に示す焼付装置16、冷却装置17及び乾燥装置18を設置せずに、2台のカーテンコーター15、21を用いて、第2層と第3層のクリア塗膜12、20をウェットオンウェット方式で塗装してもよい。
【0149】
[8.2.第3の実施形態]
図8は、本発明の第3の実施形態に係る連続塗装装置のライン構成を示す模式図である。
図8に示すように、第3の実施形態に係る連続塗装装置は、上記第1の実施形態に係る連続塗装装置の塗装ライン(
図1参照。)の前段に、下層の塗膜を塗装するための塗装設備(カーテンコーター34、焼付装置35、冷却装置36及び乾燥装置37)を追加設置したライン構成を有する。
【0150】
第3の実施形態では、まず、カーテンコーター34(第3の塗布装置)により、鋼板10にプライマー塗料が塗布されて、第1層のプライマー塗膜31が形成される。なお、第3の塗布装置としては、カーテンコーター34に代えて、ロールコーター又はその他の塗布装置を用いてもよい。さらに、焼付装置35によりプライマー塗膜31が鋼板10に焼き付けられた後に、該鋼板10が冷却装置36により水冷され、乾燥装置37により乾燥される。
【0151】
次いで、ロールコーター13(第1の塗布装置)により、乾燥状態のプライマー塗膜31上に着色塗料が塗布されて、第2層の着色塗膜32が形成される。そして、プレヒート装置14により着色塗膜32が加熱され、生乾き状態となる。
【0152】
次いで、カーテンコーター15(第2の塗布装置)により、生乾き状態の着色塗膜32上にクリア塗料が塗布されて、第3層のクリア塗膜33が形成される。さらに、焼付装置16により、第2層と第3層の塗膜32、33が同時に焼き付けられ。その後に、該塗膜32、33が焼き付けられた鋼板10が冷却装置17により水冷され、乾燥装置18により乾燥される。
【0153】
以上のようにして、第3の実施形態では、3層の塗膜31、32、33がコーティングされたプレコート鋼板が製造される。第3の実施形態によれば、第2層の着色塗膜32と第3層のクリア塗膜33内に、上記4層構造(クリア層121、拡散層122、顔料濃化層123、着色塗膜層111)を形成できる。この4層構造により、光沢度の高いプレコート鋼板を製造できる。さらに、第1の実施形態と同様に、第2層の着色塗膜32と第3層のクリア塗膜33の密着性が優れ、かつ、第3層のクリア塗料を回収して再利用可能であるとともに、第1層のプライマー塗料を回収して再利用することも可能である。
【0154】
なお、第3の実施形態では、焼付装置35により第1層のプライマー塗膜31を焼き付けてから第2層を塗布したが、かかる例に限定されない。例えば、
図8に示す焼付装置35、冷却装置36及び乾燥装置37を設置せずに、カーテンコーター34とロールコーター13を用いて、第1層のプライマー塗膜31と第2層の着色塗膜32をウェットオンウェット方式で塗装してもよい。
【0155】
[8.3.第4の実施形態]
図9は、本発明の第4の実施形態に係る連続塗装装置のライン構成を示す模式図である。
図9に示すように、第4の実施形態に係る連続塗装装置は、上記第1の実施形態に係る連続塗装装置の塗装ライン(
図1参照。)の途中に、第2層の塗膜を塗装するための塗装設備(カーテンコーター44、プレヒート装置45)を追加設置したライン構成を有する。
【0156】
第4の実施形態では、まず、ロールコーター13(第3の塗布装置)により鋼板10にプライマー塗料が塗布されて、第1層のプライマー塗膜41が形成され、プレヒート装置14によりプライマー塗膜41が加熱され、生乾き状態となる。
【0157】
次いで、カーテンコーター44(第1の塗布装置)により、生乾き状態のプライマー塗膜41上に着色塗料が塗布されて、第2層の着色塗膜42が形成される。さらに、プレヒート装置45により、第2層の着色塗膜42が加熱され、生乾き状態となる。
【0158】
その後、カーテンコーター15(第2の塗布装置)により、生乾き状態の着色塗膜42上にクリア塗料が塗布されて、第3層のクリア塗膜43が形成される。さらに、焼付装置16により、第1〜3層の塗膜41、42、43が同時に焼き付けられた後に、該塗膜41、42、43が焼き付けられた鋼板10が冷却装置17により水冷され、乾燥装置18により乾燥される。
【0159】
以上のようにして、第4の実施形態では、3層の塗膜41、42、43がコーティングされたプレコート鋼板が製造される。第4の実施形態によれば、第2層の着色塗膜32と第3層のクリア塗膜33中に、上記4層構造(クリア層121、拡散層122、顔料濃化層123、着色塗膜層111)を形成できる。この4層構造により、光沢度の高いプレコート鋼板を製造できる。
【0160】
さらに、第2層の着色塗膜42と第3層のクリア塗膜43の密着性が優れるだけでなく、第1層のプライマー塗膜41と第2層の着色塗膜42の密着性も優れる。また、第3層のクリア塗料のみならず、第2層の着色塗料を回収して再利用可能である。加えて、最終焼付を行う焼付装置16や、冷却装置17及び乾燥装置18をそれぞれ1台だけ設置すれば済むので、従来の3コート3ベーク方式の塗装ラインと比べて、3層コーティングの塗装ラインの設備を大幅に簡素化及び省スペース化できる。
【0161】
[8.4.その他の実施形態]
上記第1〜第4の実施形態では、鋼板10の片面を塗装する例について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の塗装方法は、鋼板10の片面又は両面のいずれの塗装にも適用可能である。
【0162】
例えば、上記第1の実施形態に係る連続塗装装置(
図1参照。)において、上記鋼板10の表面(片面)を塗装するための第1の塗布装置(ロールコーター13)及び第2の塗布装置(カーテンコーター15)に加えて、鋼板10の他側の面(裏面)を塗装するための第3の塗布装置を設置してもよい。そして、鋼板10の片面に対して、第1の塗布装置を用いて第1の塗膜(着色塗膜11)を塗布する第1の塗装工程と、プレヒート装置14を用いて着色塗膜11を生乾き状態にする加熱工程と、第2の塗布装置を用いて第2の塗膜(クリア塗膜12)を塗布する第2の塗装工程と同時並行で、鋼板10の他側の面に対して、第3の塗布装置を用いて第3の塗膜を形成する第3の塗装工程を行ってもよい。その後、鋼板10の両面の第1〜第3の塗膜を同時に焼き付ける焼付工程を実施してもよい。なお、第2〜第4の実施形態の場合も(
図7〜
図9参照。)、上述した鋼板10の片面の塗装と同時並行して、別途の塗布装置を用いて鋼板10の他側の面(裏面)を塗装してもよい。
【実施例】
【0163】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した条件例にすぎず、本発明が以下の実施例の条件に限定されるものではない。
【0164】
<1.試験の概要>
化成処理液、着色塗料及びクリア塗料を作製して、鋼板に2層コーティングを施し、プレコート鋼板の供試材を製造した。この際、上記本発明の実施形態に係るプレヒート方式で鋼板に着色塗膜とクリア塗膜を塗装した供試材を、本発明の実施例とした。また、従来の2C2B方式、ウェットオンウェット方式で鋼板に着色塗膜とクリア塗膜を塗装した供試材を比較例とした。また、プレヒート方式であっても、適正範囲から外れた加熱条件(加熱温度Tと加熱時間t)でプレヒートした供試材も、比較例とした。
【0165】
上記実施例及び比較例の供試材に関し、塗膜厚み方向の元素分析を行い、クリア層、拡散層、顔料濃化層、着色塗膜層の厚みd1、d3、d2、d4や、顔料濃化層の着色顔料濃度比cの最大値c1、と最小値c2を測定した。
【0166】
さらに、光沢計を用いて各供試材の60°光沢を測定し、光沢度を評価した。また、密着180°曲げ(0T曲げ)試験により、各供試材の上下層の塗膜の密着性を評価した。
【0167】
かかる試験の試験条件と評価結果を表1に示す。
【0168】
【表1】
【0169】
<2.供試材の作製>
<2.1.使用塗料の作製>
(1)化成処理液−1
供試材に用いる化成処理液として以下のものを作製した。
シランカップリング剤として、信越シリコーン社製「3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」を5g/L、水分散シリカとして、日産化学社製「スノーテック−N」を1.0g/L、ジルコニウム化合物として、炭酸ジルコニルアンモニウムをジルコニウムイオンで0.5g/L、水系アクリル樹脂として、ポリアクリル酸を25g/L含む水溶液を作製し、化成処理液−1とした。
【0170】
(2)化成処理液−2
ウレタン樹脂として、ADEKA社製「HUX−320」を80質量部、シリカゾルとして、日産化学工業株式会社製スノーテックスNを15質量部、水系ワックスとして、三井化学株式会社製ケミパール(W500)を5質量部配合した後、イオン交換水を加えて、配合液の固形分が20%となるように調整し、裏面用化成処理液−2を調製した。
【0171】
(3)クリア塗料(上層塗料)
まず、東洋紡績社製の非晶性ポリエステル樹脂である「バイロン(商標)270」(以下、PES)を、有機溶剤(質量比でシクロヘキサノン:ソルベッソ150(商品名)=1:1に混合したものを使用)に溶解した。次に、該ポリエステル樹脂が溶解された有機溶剤に、硬化剤として、三井サイテック社製のメラミン樹脂「サイメル(商標)303」を添加した。この際、樹脂固形分の質量比で、ポリエステル樹脂固形分:メラミン樹脂固形分=100:35となるように、メラミン樹脂を添加した。さらに、該ポリエステル樹脂とメラミン樹脂の混合溶液に、三井サイテック社製の酸性触媒「キャタリスト600」を0.5質量%添加した。以上のようにして、着色顔料を含有しないクリア塗料として、ポリエステル/メラミン系塗料を作製した。
【0172】
(4)着色塗料(下層塗料)
上記(3)で得たクリア塗料中に、市販の潤滑剤であるポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFE)を乾燥塗膜中に2質量%となる様に添加した。次に、トヨーカラー社製の酸化チタン「マルチラック 106 ホワイト」を乾燥塗膜中に60質量%となる様に添加した。その後、分散機を用いて酸化チタンをクリア塗料中に分散させることで、白色塗料を得た。以上のようにして、着色塗料として、ポリエステル/メラミン系塗料(着色顔料として酸化チタンを含有)を作製した。
【0173】
<2.2.プレコート鋼板の供試材の作製>
(1)基材
塗装対象の基材(金属板)として、電気めっき鋼板を使用した。
【0174】
(2)塗装及び乾燥硬化
基材の表面及び裏面に上記化成処理液−1、2をそれぞれ塗布して化成処理層を形成した。次いで、基材の表面に下層の着色塗料を、乾燥膜厚D1が15μmとなる条件でバーコート塗布し、所定の加熱温度T(PMT)及び加熱時間tで、着色塗膜をプレヒートした。さらに、下層の加熱温度Tと同一の温度に保持したホットプレート上に、着色塗膜のプレヒート後の鋼板を置き、着色塗膜上に上層のクリア塗料を、乾燥膜厚D2が15μmとなる条件でブレードコート塗布した。その後、鋼板に塗布された着色塗料及びクリア塗料を、PMT230℃で焼き付けて(乾燥及び硬化)、供試材を作製した。
【0175】
(3)下層塗膜の加熱条件
上記表1に示すように、プレヒート方式の実施例1〜7では、下層の着色塗膜のプレヒート時の加熱温度T(PMT)を、60℃(実施例1)、90℃(実施例2)、120℃(実施例3)、150℃(実施例4)、120℃(実施例5〜7)、150℃(実施例8)とした。一方、プレヒート方式の比較例3〜8では、下層の着色塗膜のプレヒート時の加熱温度T(PMT)を、40℃(比較例3)、50℃(比較例4)、160℃(比較例5)、150℃(比較例6、7)、60℃(比較例8)とした。
【0176】
また、2C2B方式(比較例1)、ウェットオンウェット方式(比較例2)の供試材も作成した。2C2B方式(比較例1)では、下層の着色塗膜の加熱温度を230℃として、着色塗膜を完全に乾燥及び硬化させた。ウェットオンウェット方式(比較例2)では、着色塗膜の塗布後に、着色塗膜を加熱せず、濡れ状態の着色塗膜上にクリア塗料を塗布した。
【0177】
<3.試験方法>
<3.1.チタン濃度比の測定試験>
(1)測定方法
GDS(グロー放電発光分析)のアルゴンスパッタリングにより、着色塗膜及びクリア塗膜が塗装された供試材の最表層から、塗膜及び亜鉛めっき層を削りながら、塗膜厚み方向の元素分析を行った。測定元素はC、N、O、Si、Ti、Zn、Feとした。グロー放電発光分析装置としては、堀場製作所社製「GD−PROFILER2」を用いた。
【0178】
(2)Ti濃度比の測定
実施例(プレヒート方式)の供試材と同様の膜厚構成で作製した比較例1(2C2B)の供試材をベースとして、上記4層構造の各層(クリア層、拡散層、顔料濃化層、着色塗膜層)の厚みd1、d3、d2、d4をそれぞれ求めた。この際、各供試材について、着色塗膜層のTiモル濃度を1としたときのTi濃度比(次式を参照)の分布を測定した。
Ti濃度比=(Tiモル濃度)/(着色塗膜層の最大Tiモル濃度)
【0179】
(3)膜厚の測定
酸化チタンは、白色の着色顔料であるので、膜厚方向のTi濃度比を測定することで、着色顔料濃度の分布と、各層の厚みを測定可能である。そこで、塗膜最表面から着色顔料(Ti)を含有しない層の厚みを求めて、クリア層の厚みd1とした。また、クリア塗膜内におけるTi濃度分布の極大値(複数の極大値が存在する場合は、最表層に最も近い濃度分布の極大値)から基材側の極小値までの層の厚みを求めて、顔料濃化層の厚みd2とした。また、クリア層と顔料濃化層との間の層の厚みを求めて、拡散層の厚みd3とした。また、顔料濃化層と基材との間の層の厚みを求めて、着色塗膜層の厚みd4とした。
【0180】
<3.2.光沢の測定試験>
供試材の表面の光沢度を表す指標として、”JIS Z 8741”に記載の60°光沢を測定した。60°光沢の光沢計としては、スガ試験機社製の光沢計「UGV−6P」を用いた。測定時には、入射角及び受光角がそれぞれ60°となるように調整した。即ち、供試材により反射される全ての反射光(全反射)のうち、プレコート鋼板の光沢として一般的に求められる正反射成分の強度のみを測定した。なお、光の反射率を測定する方法として拡散反射率や全反射率が知られているが、一般的に、「全反射率=正反射率+拡散反射率」という関係である。また、これらの値は本願で測定した60°光沢とは異なる。
【0181】
<3.3.加工密着性の評価試験>
図10に示すように、プレコート鋼板の供試材を、50mm×100mmの矩形板状に加工し、評価面10aが外側になるように折り曲げ加工した。この折り曲げ加工は、20℃雰囲気中で、鋼板10の間にスペーサーを挟まない「密着曲げ加工(0T)」とした。その後、曲げ加工部の塗膜上に24mm幅のニチバン社製「セロテープ(登録商標)」を貼り付けてから剥離して、曲げ加工部の塗膜の剥離を試み、塗膜の残存状態を目視観察した。そして、塗膜の残存程度を5段階に区分して評価し、塗膜の剥離が全く生じない評点5以上である場合に、上下層の塗膜の加工密着性が好適であると判定した(表1の「Good」)。一方、評点4以下である場合は、加工密着性が不適であると判定した(表1の「No Good」)。
【0182】
<3.4.断面SEM観察>
供試材に金蒸着を施した後、該供試材を樹脂中に埋め込み、供試材の断面を樹脂と共に研磨した。その後、供試材の断面(研磨面)の状態をFE−SEMで観察した。
【0183】
<4.評価結果>
次に、表1を適宜参照しながら、上記各試験の結果について説明する。
【0184】
<4.1.チタン濃度比の測定結果>
図11は、表1の比較例1〜3の塗膜厚み方向のTi濃度比の分布を示し、
図12は、表1の実施例1〜4と比較例1の塗膜厚み方向のTi濃度比の分布を示すグラフである。
図13は、
図12を部分拡大したグラフである。
【0185】
図11に示すように、比較例1(2C2B方式)では、表層側にTiが存在しておらず、基材側にTi濃度が高い層が存在している。つまり、比較例1では、Ti濃度がゼロであるクリア層と、Ti濃度が高い着色塗膜層が存在しているが、顔料濃化層や拡散層は存在していない。
【0186】
また、比較例2(ウェットオンウェット方式)では、塗膜の表層側にTiが多く存在しており、塗膜の最表層までTiが到達している。この理由は、濡れ状態のクリア塗膜と着色塗膜が混合して、混層となったため、着色塗膜のTiがクリア塗膜に移動したからであると考えられる。このように、比較例2では、Ti濃度がゼロであるクリア層が存在しておらず、Ti濃度の分布が不均一になっている。
【0187】
また、比較例3(プレヒート方式)では、比較例2に比べると、塗膜厚み方向の中央部に多くのTiが分布しているものの、塗膜の最表層付近までTiが移動しており、明確なクリア層及び顔料濃化層が存在していない。この理由は、次の通りであると考えられる。つまり、比較例3では、下層の着色塗膜のプレヒート時の加熱温度Tが40℃と低すぎ、かつ、加熱時間tが0.4秒と短すぎるため、プレヒートを行ったとしても、下層の着色塗膜が適切な生乾き状態となっていない。このため、上層のクリア塗料の塗布時に、着色塗膜とクリア塗膜とが混合してしまい、明確なクリア層や顔料濃化層が形成されなかったといえる。
【0188】
これに対し、実施例1〜4(プレヒート方式)では、
図12及び
図13に示すように、Tiの表層側への移動は、比較例2、3よりも小さく、最表層から少なくとも5μm以上の範囲は、Tiが存在しておらず、Tiを含まないクリア層が形成されている。そして、塗膜厚みが14〜17μm付近には、Ti濃度のピークが存在している。該ピークの表層側には、該ピークから表層側に向かうにつれTi濃度が連続的に減少する拡散層が形成されている。また、該ピークの基材側には、表層側に向かうにつれTi濃度が連続的に増加して該ピークに至る顔料濃化層が形成されている。そして、顔料濃化層の基材側には、Ti濃度がほぼ一定の着色塗膜層が形成されている。
【0189】
このように、実施例1〜4では、クリア層、拡散層、顔料濃化層、着色塗膜層の4層構造が明確に存在している。特に、実施例4(T=150℃)では、
図13に示すように、塗膜厚みが16μm付近に、Ti濃度比が顕著に高くなるピークが存在するとともに、塗膜厚みが21μm付近に、Ti濃度比が顕著に低くなる谷が存在している。このように実施例4では、顕著な顔料濃化層の存在が確認された。
【0190】
また、表1に示すように、実施例1〜8では、クリア層の厚みd1と顔料濃化層の厚みd2の比d1/d2は、1.7以上、4.7以下であり、前述した高い光沢を得るためのd1/d2の適正範囲内(1.7≦d1/d2≦4.7)に収まっている。この理由は、実施例1〜8では、下層の着色塗膜のプレヒート時に、適切な加熱条件(即ち、加熱温度T=60〜150℃、加熱時間t=1.0〜10秒)で加熱しているので、d1/d2を適正範囲内に収めることができたと考えられる。さらに、T=90〜150℃である実施例2〜8では、d1/d2は、より好適なd1/d2の適正範囲内(2.0≦d1/d2≦4.7)に収まっている。
【0191】
これに対し、比較例4、6〜8のd1/d2は、d1/d2の上記適正範囲から外れている。比較例4では、加熱時間t=0.7秒という短い時間で、加熱温度Tが50℃と低すぎるため、着色塗膜のプレヒートが不十分であったと考えられる。また、比較例6、7では、T=150℃と適正範囲内であるが、t=11秒、20秒と長すぎるため、着色塗膜をプレヒートしすぎてしまい、必要以上に着色塗膜を乾燥させてしまったと考えられる。また、比較例8では、T=60℃と低い温度であるにもかかわらず、加熱時間tが600秒と顕著に長すぎるため、着色塗膜をプレヒートしすぎてしまい、必要以上に着色塗膜を乾燥させてしまったと考えられる。さらに、比較例5では、T=160℃と高すぎるため、プレヒート時に着色塗料から揮発する溶剤量が過多となり、試験を行うことができなかった。
【0192】
以上の結果により、上記実施形態に係るプレコート鋼板の製造方法において、プレヒート時に適切な加熱条件(T=60〜150℃、t=1.0〜10秒)で下層の着色塗膜を加熱することにより、最終焼付後のプレコート鋼板の塗膜層中に上記4層構造を明確に形成でき、かつ、そのd1/d2を適正範囲内に制御できることが確認されたといえる。
【0193】
<4.2.光沢の評価結果>
図14は、表1のd1/d2と、60°光沢の試験結果との関係を示すグラフである。
図15は、表1の加熱温度Tと、d1、d2及び60°光沢の試験結果との関係を示すグラフである。なお、
図15は、下層塗膜のプレヒート時の昇温速度「=(PMT[℃]−25[℃])/加熱時間t[s]」が、約35℃/sである場合の結果を示す。
【0194】
表1及び
図14に示すように、1.7≦d1/d2≦4.7を満たす実施例1〜8の場合は、60°光沢が85以上であり、比較例2(ウェットオンウェット方式)の場合の60°光沢(=50)よりも、大幅に高い光沢(1.7倍以上)が得られている。さらに、2.0≦d1/d2≦4.7を満たす実施例2〜8の場合は、60°光沢が103以上であり、比較例1(2C2B方式)の場合の60°光沢(=90)よりも高い光沢が得られている。
【0195】
また、比較例3、4(プレヒート方式)の結果から分かるように、下層の着色塗膜の加熱温度Tが60℃より低くなるほど、60°光沢は低下し、比較例2(ウェットオンウェット方式)の場合の60°光沢に近づく。一方、T≧90℃である実施例2〜8の場合は、60°光沢は100以上でほぼ一定となる。また、プレヒート時の加熱時間tの適正条件(1秒≦t≦10秒)を満たさない比較例6〜8(プレヒート方式)では、比較例2(ウェットオンウェット方式)よりも高い光沢が得られるが、比較例1(2C2B方式)よりも光沢が低くなる。なお、これら比較例6〜8では、後述するように塗膜間の密着性が低いという問題がある(表1参照。)。
【0196】
以上の結果により、1.7≦d1/d2≦4.7を満たすことにより、少なくとも従来のウェットオンウェット方式よりも大幅に高い光沢を得ることができ、さらに、2.0≦d1/d2≦4.7を満たすことにより、従来の2C2B方式よりも高い光沢を得られることが確認されたといえる。
【0197】
また、表1及び
図15に示すように、実施例1〜8(プレヒート方式)において、「60℃≦T≦150℃」、「d2≧2.2μm」及び「5.0μm≦d1≦12.3μm」を満たす場合には、60°光沢が85以上となり、比較例2(ウェットオンウェット方式)よりも大幅に高い光沢が得られることが分かる。さらに、実施例2〜8(プレヒート方式)において、「90℃≦T≦150℃」、「d2≧2.8μm」及び「8.0μm≦d1≦12.3μm」を満たす場合には、60°光沢が100以上となり、比較例1(2C2B方式)よりも高い光沢が得られることが分かる。
【0198】
<4.3.加工密着性の評価結果>
次に、上記
図10に示した「密着曲げ加工(0T)」試験により、上下層の塗膜の加工密着性を評価した結果について説明する。
図16Aは、比較例1(2C2B)に係るプレコート鋼板の曲げ加工部の拡大写真である。
図16Bは、実施例1(加熱温度T=60℃)に係るプレコート鋼板の曲げ加工部の拡大写真である。
【0199】
表1に示すように、比較例1(2C2B)では、
図15Aに示すように、下層の着色塗膜から上層のクリア塗膜が剥離した。また、比較例6〜8(プレヒート方式)でも、同様に剥離が発生した。この理由は、比較例1及び比較例6〜8では、下層塗膜の加熱時に、下層塗膜が乾燥及び硬化しているので、上層塗膜と下層塗膜の密着性が低いことが原因であると考えられる。
【0200】
これに対し、実施例1〜8(プレヒート方式)、比較例2(ウェットオンウェット方式)、及び比較例3、4(プレヒート方式)では、
図15Bに示すように、上層のクリア塗膜は下層の着色塗膜から剥離しなかった。この理由は、比較例2では、下層塗膜をプレヒートしないので、濡れ状態の上下塗膜の密着性が高いからであると考えられる。また、実施例1〜8(プレヒート方式)、及び比較例3、4(プレヒート方式)では、プレヒートにより下層塗膜を適切な生乾き状態にした上で、上層塗膜を塗布するので、比較例1、6〜8の場合よりも、上下層の塗膜間の密着性を大幅に向上できるからと考えられる。
【0201】
また、上述した60°光沢の評価試験結果と、加工密着性の試験結果の双方を考慮すると、d1/d2の適正条件(1.7≦d1/d2≦4.7)を満たす実施例1〜8(プレヒート方式)では、85以上の高い60°光沢と、高い加工密着性を両立できている。これに対し、比較例2(ウェットオンウェット方式)、及び、1.7≦d1/d2≦4.7を満たさない比較例3、4(プレヒート方式)では、加工密着性は高いものの、60°光沢が50〜70程度と低い。また、比較例6〜8(プレヒート方式)では、ある程度高い60°光沢が得られるものの、塗膜間の密着性が低い。
【0202】
以上の結果によれば、上記実施形態に係るプレコート鋼板の製造方法のプレヒート方式により、最終焼付後のプレコート鋼板の塗膜層中に上記4層構造を形成し、かつ、1.7≦d1/d2≦4.7を満たすことで、高い光沢度と、塗膜間の高い加工密着性を両立できることが確認されたといえる。
【0203】
<4.4.断面SEM観察の評価結果>
次に、上記断面SEM観察試験において、各供試材の断面SEM画像を観察及び評価した結果について説明する。
【0204】
比較例2(ウェットオンウェット方式)の供試材では、下層の着色塗膜と、上層のクリア塗膜が混合して、混層となっていた。また、比較例3(プレヒート方式、T=40°)では、下層の着色塗膜と上層のクリア塗膜との界面が大きく湾曲していた。従って、これら比較例2、3では、上記クリア層や顔料濃化層が形成されていないと考えられる。よって、入射光が、クリア層の無い塗膜表層部分を適切に透過できず、かつ、顔料拡散層で拡散反射されないので、比較例2、3の供試材の60°光沢が低かったと考えられる。
【0205】
これに対し、実施例1〜4(プレヒート方式)では、層の着色塗膜と上層のクリア塗膜との界面は、上記比較例2、3と比べて平滑であった。従って、実施例1〜4では、上記クリア層や顔料濃化層が適切に形成されていると考えられる。よって、入射光が、クリア層を適切に透過して、顔料拡散層で効率的に拡散反射されるので、実施例1〜4の供試材の60°光沢が、比較例2、3よりも大幅に高かったと考えられる。
【0206】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。