(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記閾値回転数と前記回転数検出手段で検出した前記モータの回転数とを比較して前記モータの回転数が所定の条件を満たすか否かを判定することを特徴とする、請求項2又は3に記載の電動工具。
前記回転数条件判定手段は、条件判定の際に、前記補正用パラメータにより変動させた変動閾値回転数と前記回転数検出手段で検出した前記モータの回転数とを比較する、請求項8に記載の電動工具。
前記回転数条件判定手段は、条件判定の際に、前記回転数検出手段で検出した前記モータの回転数を前記補正用パラメータにより補正した補正回転数と閾値回転数とを比較する、請求項8に記載の電動工具。
前記補正用パラメータ発生手段は、電源投入後ないし前記ドリルモードの実行中に前記モータ駆動回路に供給される電圧のピーク値、周波数、及び位相、又は前記ドリルモードの実行中の前記モータのトルクに基づいて前記補正用パラメータを導出する、請求項14に記載の電動工具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば商用電源AC100Vを全波整流し、平滑コンデンサ無しでブラシレスモータを駆動させるインパクトドライバの場合、駆動電圧(全波整流波)の脈動によって回転変動が生じてしまい、打撃によって発生する回転変動か駆動電圧の脈動による回転変動かを判別することは難しい。そうすると、例えば、打撃開始後に所定回数の打撃でモータを停止させる単発モード機能を正確に実行できないという問題がある。平滑コンデンサの容量が小さい場合にも同様のことがいえる。なお、平滑コンデンサ無し或いは小容量の平滑コンデンサを用いた場合を平滑コンデンサレスと表記することもある。
【0005】
図11(A)は直流駆動のインパクトドライバにおける駆動電圧の波形図であり、
図11(B)は同インパクトドライバにおける打撃開始前後のモータの回転数と閾値回転数を時間の経過とともに示す回転数グラフである。回転数は、ごく短い単位時間当たりの回転数(あるいは回転角度)から特定される瞬時回転数である(
図12においても同様)。直流駆動の場合、駆動電圧が一定のため、打撃検出用の回転数の閾値(以下「閾値回転数」とも表記)を例えば
図11(B)の点線に示すように設定すれば、打撃によって発生する回転変動(すなわち回転数の低下)を容易に検出できる。言い換えると、回転変動から正確に打撃を検出することができる。
【0006】
図12(A)は全波整流波駆動(平滑コンデンサレス)のインパクトドライバにおける駆動電圧の波形図であり、
図12(B)は同インパクトドライバにおける打撃開始後のモータの回転数と閾値回転数を時間の経過とともに示す回転数グラフである。全波整流波駆動の場合、閾値回転数を上げすぎると全波整流波の谷に起因する回転数低下を打撃によるものと誤検出する可能性がある一方、閾値回転数を下げすぎると全波整流波の山と打撃のタイミングによっては打撃によって発生する回転変動(すなわち回転数の低下)を見逃す可能性があり、単発モード機能を正確に実行するための回転数の閾値の設定が困難ないし現実的には不可能である。
【0007】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、モータ駆動回路に供給される電圧の脈動によるモータの回転数の変動の影響を減じることの可能
な電動工
具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の
ある態様は、電動工具である。この電動工具は、
交流電圧を変換したことに起因する脈動を含む入力電圧がモータの駆動回路に入力される電動工具であって、
前記モータの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記駆動回路に供給される入力電圧の脈動に応じて、前記モータの回転数が所定の条件を満たすか否かを判定する判定値を補正する制御部と、を有することを特徴とする。
【0009】
前記判定値は、前記回転数検出手段で検出した前記モータの回転数と比較する閾値回転数であり、
前記制御部は、前記駆動回路に供給される電圧の脈動に応じて前記閾値回転数を変動させてもよい。
【0010】
前記制御部は、前記駆動回路に供給される電圧の脈動に連動して前記閾値回転数を変動させてもよい。
【0011】
前記制御部は、前記閾値回転数と前記回転数検出手段で検出した前記モータの回転数とを比較して前記モータの回転数が所定の条件を満たすか否かを判定してもよい。
【0012】
前記判定値は、前記回転数検出手段で検出した前記モータの回転数であり、
前記制御部は、前記駆動回路に供給される電圧の脈動に応じて前記モータの回転数を補正してもよい。
【0013】
前記制御部は、前記
モータの補正回転数と所定の閾値回転数とを比較して前記モータの回転数が所定の条件を満たすか否かを判定してもよい。
【0014】
前記モータの回転を先端工具に伝達する回転伝達機構を備え、
前記回転伝達機構は、前記モータの回転により先端工具を連続的に回転させるドリルモードと、前記モータのトルクが所定値を超えたとき前記モータの回転を利用した回転打撃力で先端工具を回転する打撃モードとを実行可能であり、
前記制御部は、電源投入後ないし前記ドリルモードの実行中に前記判定値を補正してもよい。
【0015】
本発明のもう1つの態様は、電動工具である。この電動工具は、
交流電源からの供給電力で動作する電動工具であって、
モータと、
前記モータを駆動するモータ駆動回路と、
前記モータ駆動回路を制御する制御部と、
前記モータの回転数を検出する回転数検出手段と、を備え、
前記モータ駆動回路には、交流電圧を変換したことに起因する脈動を含む電圧が入力され、
前記制御部は、
前記回転数検出手段で検出した前記モータの回転数が所定の条件を満たすか否かを判定する回転数条件判定手段と、
前記モータ駆動回路に供給される
前記電圧の脈動による前記モータの回転数の変動の影響を前記回転数条件判定手段における条件判定の際に減じる補正用パラメータを発生する補正用パラメータ発生手段と
、を有する。
【0016】
前記回転数条件判定手段は、条件判定の際に、前記補正用パラメータにより変動させた変動閾値回転数と前記回転数検出手段で検出した前記モータの回転数とを比較してもよい。
【0017】
前記回転数条件判定手段は、前記回転数検出手段で検出した前記モータの回転数が前記変動閾値回転数を下回ったか否かを判定し、
前記制御部は、前記回転数検出手段で検出した前記モータの回転数が前記変動閾値回転数を下回ったとの判定回数が所定回数以上となったことを条件に前記モータを停止してもよい。
【0018】
前記回転数条件判定手段は、条件判定の際に、前記回転数検出手段で検出した前記モータの回転数を前記補正用パラメータにより補正した補正回転数と閾値回転数とを比較してもよい。
【0019】
前記回転数条件判定手段は、前記補正回転数が前記閾値回転数を下回ったか否かを判定し、
前記制御部は、前記補正回転数が前記閾値回転数を下回ったとの判定回数が所定回数以上となったことを条件に前記モータを停止してもよい。
【0020】
前記補正用パラメータ発生手段は、前記モータ駆動回路に供給される電圧のピーク値、周波数、及び位相に基づいて前記補正用パラメータを導出してもよい。
【0021】
前記モータの回転を先端工具に伝達する回転伝達機構を備え、
前記回転伝達機構は、前記モータの回転により先端工具を連続的に回転させるドリルモードと、前記モータのトルクが所定値を超えたとき前記モータの回転を利用した回転打撃力で先端工具を回転する打撃モードとを実行可能であり、
前記補正用パラメータ発生手段は、電源投入後ないし前記ドリルモードの実行中に前記補正用パラメータを導出してもよい。
【0022】
前記補正用パラメータ発生手段は、電源投入後ないし前記ドリルモードの実行中に前記モータ駆動回路に供給される電圧のピーク値、周波数、及び位相、又は前記ドリルモードの実行中の前記モータのトルクに基づいて前記補正用パラメータを導出してもよい。
【0023】
交流電源からの供給電力を整流して前記モータ駆動回路に供給する整流回路を備えてもよい。
【0024】
交流電源と前記モータとの間に平滑コンデンサを有しなくてもよい。
【0028】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現をシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、モータ駆動回路に供給される電圧の脈動によるモータの回転数の変動の影響を減じることの可能な電動工
具を実現可能である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0032】
図1は、本発明の実施の形態に係る電動工具1の内部構成を示す側断面図である。電動工具1は、ACコードを商用電源等の交流電源に接続して動作する例えばインパクトドライバである。インパクトドライバにおいて先端工具を回転駆動する機械的構成は公知のものでよいが、以下、一例を説明する。
【0033】
電動工具1は、商用電源等の交流電源を電源とし、モータ3を駆動源として回転打撃機構21を駆動し、出力軸であるアンビル30に回転力と打撃力を与え、スリーブ31に覆われる取付穴30aに保持されるドライバビット等の図示しない先端工具に回転打撃力を間欠的に伝達してねじ締めやボルト締め等の作業を行う。
【0034】
ブラシレス方式(例えば4極6コイル、2極3コイル等)のモータ3は、側面視で略T字状の形状を成すハウジング2の筒状の胴体部2a内に収容される。モータ3の回転軸3eは、ハウジング2の胴体部2aの中央部付近に設けられるベアリング19a(軸受け部材)と後端側のベアリング19b(軸受け部材)によって回転可能に保持される。モータ3の前方には、回転軸3eと同軸に取り付けられモータ3と同期して回転するロータファン13が設けられる。モータ3の後方には、モータ3を駆動するためのインバータ回路基板4が配設される。ロータファン13によって起こされる空気流は、ハウジング2の胴体部2aの後ろ側に形成された空気取入孔17、及びインバータ回路基板4の周囲のハウジング部分に形成された図示しない空気取入口から胴体部2aの内部に取り込まれ、主にロータ3aとステータコア3bの間、ステータコア3bと胴体部2aの内周部の間を通過するように流れ、さらにロータファン13の後方から吸引されてロータファン13の半径方向に流れ、ロータファン13の周囲のハウジング部分に形成された図示しない空気排出口からハウジング2の外部に排出される。
【0035】
インバータ回路基板4は、モータ3の外形とほぼ同径の円環状の多層基板であり、インバータ回路基板4上にはFET(Field Effect Transistor)等の複数のスイッチング素子5や、ホールIC等の位置検出素子、及びその他の電子素子が搭載される。ステータコア3bとステータコイル3cとの間には絶縁材となるインシュレータ15が設けられており、インバータ回路基板4はインシュレータ15の突出部15aに螺子等で固定されている。ロータ3aとベアリング19bの間には、プラスチック製のスペーサ35が設けられる。スペーサ35の形状は略円筒形で、ベアリング19bとロータ3aとの間の間隔を一定に保つために配置される。
【0036】
ハウジング2の胴体部2aから略直角に一体に延びるハンドル部2b内の上部にはトリガスイッチ6が配設され、トリガスイッチ6の下方にはスイッチ基板7が設けられる。ハンドル部2b内の下部には、トリガ6aの引き動作によって前記モータ3の速度を制御する機能を備えた制御回路基板8が収容され、この制御回路基板8は、ACコードを介して交流電源とトリガスイッチ6に電気的に接続される。制御回路基板8は、信号線12を介してインバータ回路基板4と接続される。
【0037】
回転打撃機構21は、遊星歯車減速機構22とスピンドル27とハンマ24を備え、後端がベアリング20、前端がメタル軸受け29により保持される。トリガ6aが引かれてモータ3が起動されると、正逆切替レバー10で設定された方向にモータ3が回転を始め、その回転力は遊星歯車減速機構22によって減速されてスピンドル27に伝達され、スピンドル27が所定の速度で回転駆動される。ここで、スピンドル27とハンマ24とはカム機構によって連結され、このカム機構は、スピンドル27の外周面に形成されたV字状のスピンドルカム溝25と、ハンマ24の内周面に形成されたハンマカム溝28と、これらのカム溝25、28に係合するボール26によって構成される。
【0038】
ハンマ24は、スプリング23によって常に前方に付勢されており、静止時にはボール26とカム溝25、28との係合によってアンビル30の端面とは隙間を隔てた位置にある。そして、ハンマ24とアンビル30の相対向する回転平面上の2箇所には図示しない凸部がそれぞれ対称的に形成されている。
【0039】
スピンドル27が回転駆動されると、その回転はカム機構を介してハンマ24に伝達され、ハンマ24が半回転しないうちにハンマ24の凸部がアンビル30の凸部に係合してアンビル30を回転させるが、そのときの係合反力によってスピンドル27とハンマ24との間に相対回転が生ずると、すなわち、アンビル30(先端工具)に大きな負荷が掛かり、アンビル30がロック状態となってハンマ24とアンビル30が一体的に回転できなくなると、ハンマ24はカム機構のスピンドルカム溝25に沿ってスプリング23を圧縮しながらモータ3側へと後退を始める。なお、係合反力(負荷)が小さい場合には、ハンマ24とアンビル30の凸部が互いに係合して一体的に回転し、ドリルモードとして機能する。
【0040】
そして、ハンマ24の後退動によってハンマ24の凸部がアンビル30の凸部を乗り越えて両者の係合が解除されると、ハンマ24は、スピンドル27の回転力に加え、スプリング23に蓄積されていた弾性エネルギーとカム機構の作用によって回転方向及び前方に急速に加速されつつ、スプリング23の付勢力によって前方へ移動し、その凸部がアンビル30の凸部に再び係合して一体に回転し始める。このとき、強力な回転打撃力がアンビル30に加えられるため、アンビル30の取付穴30aに装着される図示しない先端工具を介してねじに回転打撃力が伝達される。以後、同様の動作が繰り返されて先端工具からねじに回転打撃力が間欠的に繰り返し伝達され、例えば、ねじが木材等の図示しない被締め付け材にねじ込まれる。このように、係合反力(負荷)が大きい場合には、ハンマ24がアンビル30を打撃し回転打撃力を間欠的に伝達する打撃モードとして機能する。なお、ライト51は、先端工具の先端側と被締め付け材を照らす。
【0041】
図2は、
図1に示す電動工具1における、モータ3の駆動制御系の構成を示すブロック図である。本実施の形態では、商用電源等の交流電源39からの供給電圧を整流回路40で例えば全波整流波に変換し、平滑コンデンサ無しでモータ駆動回路としてのインバータ回路47に供給する。モータ3は、例えば3相のブラシレスモータである。モータ3は、いわゆるインナーロータ型であって、ロータ3aと、ステータと、3つの位置検出素子42とを有する。ロータ3aは、複数組(本実施の形態では2組)のN極とS極を含むロータマグネット3dを含んで構成される。ステータは、スター結線された3相の固定子巻線U、V、Wから成るステータコイル3c及びステータコア3bを含む。3つの位置検出素子42は、ロータ3aの回転位置を検出するために周方向に所定の間隔毎、例えば角度60°毎に配置される。これら位置検出素子42からの回転位置検出信号に基づいて固定子巻線U、V、Wへの通電方向と時間が制御され、モータ3が回転する。位置検出素子42は、インバータ回路基板4上の、ロータ3aに対向する位置に設けられる。
【0042】
インバータ回路基板4上に搭載される電子素子には、3相ブリッジ形式に接続されたFET等の6個のスイッチング素子5(Q1〜Q6)を含む。ブリッジ接続された6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートは、制御回路基板8に搭載される制御信号出力回路46に接続され、6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ドレインまたは各ソースは、スター結線された固定子巻線U、V、Wに接続される。これによって、6個のスイッチング素子Q1〜Q6は、制御信号出力回路46から入力されたスイッチング素子駆動信号(H1〜H6)によってスイッチング動作を行い、インバータ回路47に印加される電圧(全波整流波)を3相(U相、V相及びW相)電圧Vu、Vv、Vwとして固定子巻線U、V、Wに電力を供給する。
【0043】
各スイッチング素子のゲートを駆動するスイッチング素子駆動信号(3相信号)のうちローサイドスイッチング素子Q4、Q5、Q6のゲートを駆動するスイッチング素子駆動信号をパルス幅変調信号(PWM信号)H4、H5、H6とし、制御回路基板8上に搭載された演算部41によって、トリガスイッチ6のトリガ操作量(ストローク)の検出信号に基づいてPWM信号のパルス幅(デューティ比)を変化させることによってモータ3への電力供給量を調整し、モータ3の起動/停止と回転速度を制御することができる。
【0044】
ここで、PWM信号は、インバータ回路47のハイサイドスイッチング素子Q1〜Q3又はローサイドスイッチング素子Q4〜Q6の何れか一方に供給されればよく、スイッチング素子Q1〜Q3またはスイッチング素子Q4〜Q6を高速スイッチングさせることによって結果的に各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を制御可能である。尚、本実施の形態では、ローサイドスイッチング素子Q4〜Q6にPWM信号が供給されるため、PWM信号のパルス幅を制御することによって各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を調整してモータ3の回転速度を制御することができる。なお、スイッチング素子5(Q1〜Q6)は、インバータ回路基板4上の、空気取入孔17に対向する位置に設けられており、高速スイッチングによって発熱するが効率よく冷却することができる。
【0045】
電動工具1には、モータ3の回転方向を切り替えるための正逆切替レバー10が設けられ、回転方向設定回路50は正逆切替レバー10の変化を検出するごとに、モータの回転方向を切り替えて、その制御信号を演算部41に送信する。演算部41は、例えばマイコンであり、図示していないが、処理プログラムとデータに基づいて駆動信号を出力するための中央処理装置(CPU)、処理プログラムや制御データを記憶するためのROM、データを一時記憶するためのRAM、タイマ等を含んで構成される。
【0046】
制御信号出力回路46は、演算部41の制御に従い、回転方向設定回路50と回転子位置検出回路43の出力信号に基づいて所定のスイッチング素子Q1〜Q6を交互にスイッチングするための駆動信号を発生する。これによって固定子巻線U、V、Wの所定の巻線に交互に通電し、ロータ3aを設定された回転方向に回転させる。この場合、ローサイドスイッチング素子Q4〜Q6に印加する駆動信号は、印加電圧設定回路49の出力制御信号に基づいてPWM変調信号として出力される。モータ3に供給される電流値(抵抗Rsに流れる電流値)は、電流検出回路48によって測定され、その値が演算部41にフィードバックされることにより、設定された駆動電力となるように調整される。尚、PWM信号はハイサイドスイッチング素子Q1〜Q3に印加してもよい。
【0047】
以下、本実施の形態における単発モード機能について説明する。なお、単発モード機能とは打撃開始後に所定回数の打撃でモータを停止させることにより締め付けトルクを安定させる機能をいう。演算部41は、単発モード機能に関連し、補正用パラメータ導出部411と、回転数検出部412と、回転数条件判定部413とを含む。補正用パラメータ導出部411は、電圧検出回路52の出力信号に基づき、インバータ回路47に供給される全波整流波の電圧のピーク値、周波数、及び位相を特定し、後述の補正用パラメータを導出(算出)する。本実施の形態では、インバータ回路47に供給される電圧の脈動によるモータ3の回転数の変動を単発モード機能の実行にあたってキャンセルするために、以下の3つの手法を提案する。
【0048】
手法1.変動閾値回転数の導入
本手法において、補正用パラメータ導出部411の導出する補正用パラメータは、インバータ回路47に供給される電圧(全波整流波)の脈動に同期して変動する変動閾値回転数を導出するためのパラメータであり、例えば変動閾値回転数の中央値、振幅、周波数、及び位相等である。補正用パラメータの導出にあたっては、打撃開始前(ドリルモードでの螺子締め中)のモータ3のトルクや回転数(脈動のピーク値、最低値、周波数、及び位相等)を使用してもよい。なお、トルクは電流検出回路48における電流測定値によって特定され、回転数は回転子位置検出回路43の出力信号により回転数検出部412が特定する。回転数は、ごく短い単位時間当たりの回転数(あるいは回転角度)から特定される瞬時回転数である(以下同じ)。
【0049】
回転数条件判定部413は、補正用パラメータ導出部411で導出した補正用パラメータにより変動させた変動閾値回転数と回転数検出部412で検出したモータ3の回転数とを比較し、モータ3の回転数が変動閾値回転数を下回るか否かを判定する。モータ3の回転数が変動閾値回転数をN回(Nは2以上の整数)下回ると、演算部41はモータ3を停止する(制御信号出力回路46はスイッチング素子Q1〜Q6をオフする)。なお、N回の数え方は、モータ3の回転数が変動閾値回転数以上から変動閾値回転数未満に遷移したことを以て1回とし、変動閾値回転数未満の状態が連続的に続いても回数は加算しない。
【0050】
図3は、本実施の形態の手法1における電動工具1の動作の概略的なフローチャートである。
【0051】
使用者がトリガ6aを引き、モータ3の回転により先端工具を連続的に回転させるドリルモードでの螺子締めが開始される(
図3のS1)。ドリルモードの実行中に、補正用パラメータ導出部411は補正用パラメータを算出する(
図3のS3)。なお、補正用パラメータ導出部411は、商用電源の通電後かつドリルモードでの螺子締めの開始前にインバータ回路47に供給される電圧のピーク値、周波数、及び位相を特定し、ドリルモードでの螺子締めの開始に先だって補正用パラメータを算出してもよい。ドリルモードでの螺子締めが進むと、螺子が着座してトルクが上昇してくる。トルクが所定値以上になると、ドリルモードから打撃モードに移行する(
図3のS5)。打撃モードではモータ3の回転を利用した回転打撃力で先端工具を回転する。打撃モードの実行中に、回転数条件判定部413は、補正用パラメータ導出部411で導出した補正用パラメータにより変動させた変動閾値回転数と回転数検出部412で検出したモータ3の回転数とを随時比較し、モータ3の回転数が変動閾値回転数を下回るか否かを判定する。ここでは、回転数検出部412で検出したモータ3の回転数が変動閾値回転数を3回下回ったときに(
図3のS7)、モータ3を停止する(
図3のS9)。
【0052】
図4(A)は本実施の形態の手法1における駆動電圧(インバータ回路47への供給電圧)の波形図であり、
図4(B)は本実施の形態の手法1における打撃開始前後のモータ3の回転数と変動閾値回転数を時間の経過とともに示す回転数グラフである。なお、
図4(A)の波形は、
図12(A)の波形と同じである。
【0053】
図4(B)に示すように、本実施の形態では、補正用パラメータ導出部411で導出した補正用パラメータにより閾値回転数を時間により変動させている(ここでは正弦波状に変動させた変動閾値回転数としている)。変動周期はインバータ回路47に供給される全波整流波の脈動周期と一致させる。また、全波整流波の山(回転数脈動の山)と変動閾値回転数の山、並びに全波整流波の谷(回転数脈動の谷)と変動閾値回転数の谷を、時間的に概ね一致させる。すなわち、全波整流波の変動と回転数変動は概ね連動するため、打撃開始前(ドリルモード)の回転数変動に連動させて閾値回転数を正弦波状に変動させている。変動閾値回転数の変動幅(振幅)は、全波整流波のピーク値、ドリルモード実行中のモータ3のトルク及び回転数の少なくともいずれかに基づいて補正用パラメータ導出部411が決定する。例えば、全波整流波のピーク値と変動閾値回転数の変動幅を比例関係とし、その比例定数をドリルモード実行中のモータ3のトルク(電流)により変動させる。このとき、モータ3のトルク(電流)が大きくなると比例定数も大きくするように正の相関関係とする。
【0054】
具体的には
図5のフローチャートに示す。作業者は電動工具1の電源プラグを商用電源に接続する(S30)。交流電源39からの入力電圧(供給電圧)は整流回路40によって全波整流波に変換されインバータ回路47に供給される。この時、この全波整流波の電圧を電圧検出回路52により検出し、電圧検出回路52の出力信号に基づいて演算部41は、
図4(A)に示す全波整流波から、インバータ回路47に供給される全波整流波の電圧ピーク値、周波数(電圧ピーク値間の周期)及び電圧ピークのタイミング(位相)を特定(検出)する(S31)。このS31の処理は、電源プラグを商用電源に接続した状態、すなわちモータ3が停止している状態で行われる。
【0055】
次に、作業者がトリガ6aを操作すると(S32)、演算部41(補正用パラメータ導出部411)は、回転数条件判定部413によって回転数検出部412で検出したモータ3の回転数と比較する変動閾値回転数を、S31で検出したパラメータ(電圧ピーク値、周期、位相)に基づいて決定し(S33)、モータ3を駆動する(S34)。
【0056】
その結果、モータ3の回転数は入力電圧の脈動の影響により脈動するが、入力電圧の脈動に合わせて閾値回転数を脈動することによって打撃を正確に検知することができる(S35)。
【0057】
本手法によれば、下記の効果を奏することができる。
【0058】
全波整流波の谷に合わせて変動閾値回転数を低下させているため、閾値回転数が一定である場合と比較して全波整流波の谷に起因する回転数低下を打撃によるものと誤検出する可能性を減らすことができる(全波整流波の谷に起因する回転数低下の影響を減じることができる)。また、全波整流波の山に合わせて変動閾値回転数を上げているため、打撃のタイミングと全波整流波の山が一致する等に起因して打撃によって発生する回転変動(すなわち回転数の低下)を見逃す可能性を減らすことができる(全波整流波の山に起因する回転数上昇の影響を減じることができる)。すなわち、モータ3の回転数が所定の条件を満たすか否かを判定する際に、インバータ回路47への供給電圧(電力)の脈動によるモータ3の回転数の変動の影響を減じることができる。このため、単発モード機能を正確に実行でき(すなわち打撃モードにおいて正確な打撃回数でモータ3を停止でき)、最終的な螺子の締付トルクを高精度にする(例えば螺子の締め過ぎや締め不足を防止する)ことが可能となる。
【0059】
また、ドリルモードでの螺子締めの際のモータ3のトルク及び回転数、並びにインバータ回路47への供給電圧の少なくともいずれかに基づいて閾値回転数を算出する場合は、毎回同じ閾値回転数を用いる場合と比較して、閾値回転数の平均値(中央値)や変動幅を材料の性質に合わせて適切に決定できる。また、ドリルモードでの螺子締めの際には打撃モードに比べモータ3の回転数の負荷変動が少ない。そのため、ドリルモード或いは無負荷状態におけるモータ3の回転数の負荷変動に連動して閾値回転数を変動させることで、打撃モードの際に、ドリルモードにおけるモータ3の回転数変動分(すなわち全波整流波の変動によるモータの回転数変動)をキャンセルすることと同じ効果があり正確な打撃検知を行うことが可能となる。
【0060】
手法2.補正回転数の導入
ここでは、手法1との相違点を中心に説明し、一致点については適宜説明を省略する。上記の手法1では閾値回転数を変動させたのに対し、本手法では閾値回転数は変動させない一方、回転数検出部412で検出したモータ3の回転数を閾値回転数との比較前に補正用パラメータにより補正する。すなわち、本手法において、補正用パラメータ導出部411の導出する補正用パラメータは、回転数検出部412で検出したモータ3の回転数を補正する回転数補正量(インバータ回路47に供給される電圧の脈動に同期して変動する回転数補正量)を導出するためのパラメータであり、例えば回転数補正量の中央値、振幅、周波数、及び位相等である。なお、回転数補正量は、回転数検出部412で検出したモータ3の回転数に加減算される回転数であってもよいし、乗算される補正係数であってもよい。
【0061】
図3に示す手法1のフローチャートは、補正用パラメータの内容が異なる以外は本手法においても同様である。打撃モードの実行中に、回転数条件判定部413は、回転数補正量によりモータ3の回転数を補正した補正回転数と閾値回転数とを比較し、補正回転数が閾値回転数を下回るか否かを判定する。ここでは、補正回転数が閾値回転数を3回下回ったときに(
図3のS7)、モータ3を停止する(
図3のS9)。閾値回転数は時間的に一定でよい。
【0062】
図6(A)は本実施の形態の手法2における駆動電圧(インバータ回路47への供給電圧)の波形図であり、
図6(B)は手法2における回転数補正量の時間変化グラフであり、
図6(C)はインバータ回路47への供給電圧のピーク値と回転数補正量のピーク値との関係を示す特性図(電流大の場合と電流小の場合)である。なお、
図6(A)の波形は、手法1の
図4(A)の波形と同じである。
図6(B)に示すように、本実施の形態では、回転数補正量を時間により変動させている(ここでは正弦波状に変動する回転数補正量としている)。回転数補正量の変動周期はインバータ回路47に供給される全波整流波の脈動周期と一致させる。また、全波整流波の山と回転数補正量の谷、並びに全波整流波の谷と回転数補正量の山を、時間的に概ね一致させる。これは、モータ3の回転数が全波整流波の変動と略同期(全波整流波の山と回転数の山、全波整流波の谷と回転数の谷が略一致)するため、回転数が高い(山)のときに回転数補正量を小さく(谷)とし、回転数が低い(谷)のときに回転数補正量を大きく(山)とすることにより、全波整流波の変動の影響を受けなくすることができる。これにより、補正回転数は、モータ3の回転数と比較して、インバータ回路47への供給電圧(電力)の脈動に起因する変動が減じられたものとなる。回転数補正量の変動幅(振幅)は、全波整流波のピーク値、ドリルモード実行中のモータ3のトルク及び回転数の少なくともいずれかに基づいて補正用パラメータ導出部411が決定する。例えば、
図6(C)に示すように全波整流波のピーク値(振幅)と回転数補正量の変動幅を比例関係とし、その比例定数をドリルモード実行中のモータ3のトルク(電流)により変動させる。このとき、モータ3のトルク(電流)が大きくなると比例定数も大きくするように正の相関関係とする。
【0063】
本手法によれば、下記の効果を奏することができる。
【0064】
全波整流波の谷に合わせて回転数補正量を上げているため、回転数検出部412で検出したモータ3の回転数をそのまま用いる場合と比較して全波整流波の谷に起因する回転数低下を打撃によるものと誤検出する可能性を減らすことができる(全波整流波の谷に起因する回転数低下の影響を減じることができる)。また、全波整流波の山に合わせて回転数補正量を低下させているため、打撃のタイミングと全波整流波の山が一致する等に起因して打撃によって発生する回転変動(すなわち回転数の低下)を見逃す可能性を減らすことができる(全波整流波の山に起因する回転数上昇の影響を減じることができる)。すなわち、モータ3の回転数が所定の条件を満たすか否かを判定する際に、インバータ回路47への供給電圧(電力)の脈動によるモータ3の回転数の変動の影響を減じることができる。このため、単発モード機能を正確に実行でき(すなわち打撃モードにおいて正確な打撃回数でモータ3を停止でき)、最終的な螺子の締付トルクを高精度にする(例えば螺子の締め過ぎや締め不足を防止する)ことが可能となる。
【0065】
図7(A)は、モータ3の回転数(補正前)の時間変化グラフである。
図7(B)は、インバータ回路47に供給される電圧の脈動の影響のみを回転数補正量により補正した補正回転数の時間変化グラフである。
図7(C)は、インバータ回路47に供給される電圧の脈動の影響に加え、負荷変動の影響も回転数補正量により補正した補正回転数の時間変化グラフ(理想波形)である。
図7(A)に示す補正前の回転数と比較すれば、
図7(B)に示す補正回転数は打撃以外の要因による変動が低減されている。しかし、負荷変動(トルク変動)による回転変動は依然として残っている。そこで、本手法では、インバータ回路47への供給電圧のピーク値、周波数、及び位相に加え、ドリルモード実行中のモータ3のトルク(電流)変動のピーク値、周波数、及び位相も加味して回転数補正量を導出することで、インバータ回路47に供給される電圧の脈動の影響のみの補正と比較して、
図7(C)に示す理想波形に一層近づけることができる。これにより、単発モード機能をより正確に実行できる。なお、
図7(B)の打撃開始前に回転数が低下するのは、螺子の着座によって負荷が増加するためである。
【0066】
具体的には
図8のフローチャートに示す。作業者は電動工具1の電源プラグを商用電源に接続する(S40)。交流電源39からの入力電圧(供給電圧)は整流回路40によって全波整流波に変換されインバータ回路47に供給される。この時、この全波整流波の電圧を電圧検出回路52により検出し、電圧検出回路52の出力信号に基づいて演算部41は、
図6(A)に示す全波整流波から、インバータ回路47に供給される全波整流波の電圧ピーク値、周波数(電圧ピーク値間の周期)及び電圧ピークのタイミング(位相)を特定(検出)する(S41)。このS41の処理は、電源プラグを商用電源に接続した状態、すなわちモータ3が停止している状態で行われる。
【0067】
次に、作業者がトリガ6aを操作すると(S42)、演算部41(回転数検出部412)はモータ3の回転数を検出する(S43)。又は電流検出回路48を介して電流を検出する。トリガ6aの操作によりモータ3が起動しドリルモードで駆動する(S44)。ドリルモードにおいて、
図6(B)に示すように、S41で検出したパラメータ(電圧ピーク値、周期、位相)に基づいて入力電圧の脈動に起因する回転数の脈動を補正する(S45)ことで
図7(B)に示すように、入力電圧の脈動による回転数の脈動を抑えることができる。更に、回転数補正量(ピーク値)すなわち補正量の変動幅を、
図6(C)に示すように比例定数×電圧ピーク値の算式に応じて変更すれば、
図7(C)に示すように、負荷変動による回転数の脈動も抑えることができる。なお、比例定数は、トルク(負荷電流)に応じて変動する。
【0068】
その結果、入力電圧の脈動によるモータ3の回転数の脈動を補正することができるため、ドリルモードから打撃モードに移行したときには回転数は補正されているため、打撃を正確に検知することができる(S46)。
【0069】
また、ドリルモードでの螺子締めの際のモータ3のトルク及び回転数、並びにインバータ回路47への供給電圧の少なくともいずれかに基づいて回転数補正量を算出する場合は、毎回同じ回転数補正量を用いる場合と比較して、回転数補正量の平均値(中央値)や変動幅を材料の性質に合わせて適切に決定できる。
【0070】
手法3.デューティ比補正
ここでは、手法1,2との相違点を中心に説明し、一致点については適宜説明を省略する。本手法では、回転数検出部412で検出したモータ3の回転数には補正をせず、モータ3の実際の回転数の脈動を低減する。また、閾値回転数も変動させない。すなわち、本手法において、補正用パラメータ導出部411の導出する補正用パラメータは、使用者によるトリガスイッチ6のトリガ操作量(ストローク)によって定まるデューティ比(インバータ回路47の各スイッチング素子のオン時間の割合)を補正するデューティ比補正量(インバータ回路47に供給される電圧の脈動に同期して変動するデューティ比補正量)を導出するためのパラメータであり、例えばデューティ比補正量の中央値、振幅、周波数、及び位相等である。なお、デューティ比補正量は、トリガ操作量によって定まるデューティ比に加減算される補正量であってもよいし、乗算される補正係数であってもよい。
【0071】
図3に示す手法1のフローチャートは、補正用パラメータの内容が異なる以外は本手法においても同様である。補正用パラメータを算出したら(
図3のS3)、トリガ操作量によって定まるデューティ比を補正した補正デューティ比でインバータ回路47を制御し、モータ3を回転駆動する。なお、補正用パラメータ導出部411が商用電源の通電後かつドリルモードでの螺子締めの開始前にインバータ回路47に供給される電圧のピーク値、周波数、及び位相を特定し、ドリルモードでの螺子締めの開始に先だって補正用パラメータを算出した場合は、当初から補正デューティ比でインバータ回路47を制御する。打撃モードの実行中に、回転数条件判定部413は、回転数検出部412で検出したモータ3の回転数と閾値回転数とを比較し、モータ3の回転数が閾値回転数を下回るか否かを判定する。ここでは、モータ3の回転数が閾値回転数を3回下回ったときに(
図3のS7)、モータ3を停止する(
図3のS9)。閾値回転数は時間的に一定でよい。
【0072】
図9(A)は本実施の形態の手法3における駆動電圧(インバータ回路47への供給電圧)の波形図であり、
図9(B)は手法3におけるデューティ比補正量の時間変化グラフである。なお、
図9(A)の波形は、手法1の
図4(A)の波形と同じである。
図9(B)に示すように、本実施の形態では、デューティ比補正量を時間により変動させている(ここでは正弦波状に変動するデューティ比補正量としている)。デューティ比補正量の変動周期はインバータ回路47に供給される全波整流波の脈動周期と一致させる。また、全波整流波の山とデューティ比補正量の谷、並びに全波整流波の谷とデューティ比補正量の山を、時間的に概ね一致させる。これは、モータ3の回転数が全波整流波の変動と略同期(全波整流波の山と回転数の山、全波整流波の谷と回転数の谷が略一致)するため、回転数が高い(山)のときにデューティ比(デューティ比補正量)を小さく(谷)とし、回転数が低い(谷)のときにデューティ比(デューティ比補正量)を大きく(山)とすることにより、全波整流波の変動の影響を受けなくすることができる。これにより、補正デューティ比により駆動されたモータ3の回転数は、補正前のデューティ比で駆動されるモータ3の回転数と比較して、インバータ回路47への供給電圧(電力)の脈動に起因する変動が減じられたものとなる。デューティ比補正量の変動幅(振幅)は、全波整流波のピーク値、ドリルモード実行中のモータ3のトルク及び回転数、トリガの操作量の少なくともいずれかに基づいて補正用パラメータ導出部411が決定する。例えば、全波整流波のピーク値とデューティ比補正量の変動幅を比例関係とし、その比例定数を
図9(C)に示すようにトリガの操作量(引代)により変動させる。このとき、トリガの操作量が大きくなると比例定数も大きくするように正の相関関係とする。さらに、ドリルモード実行中のモータ3のトルク(電流)によってもデューティ比補正量を正の相関関係となるように変化させてもよい。この手法により、手法2と同様に
図7(B)、(C)に示すように、全波整流波の変動の影響を受けずモータ3を駆動することができる。
【0073】
具体的には
図10のフローチャートに示す。作業者は電動工具1の電源プラグを商用電源に接続する(S50)。交流電源39からの入力電圧(供給電圧)は整流回路40によって全波整流波に変換されインバータ回路47に供給される。この時、この全波整流波の電圧を電圧検出回路52により検出し、電圧検出回路52の出力信号に基づいて演算部41は、
図9(A)に示す全波整流波から、インバータ回路47に供給される全波整流波の電圧ピーク値、周波数(電圧ピーク値間の周期)及び電圧ピークのタイミング(位相)を特定(検出)する(S51)。このS51の処理は、電源プラグを商用電源に接続した状態、すなわちモータ3が停止している状態で行われる。
【0074】
次に、作業者がトリガ6aを操作すると(S52)、演算部41(補正用パラメータ導出部411)は、インバータ回路47のスイッチング素子Q1〜Q6のPWM信号のデューティ比の補正値を、S51で検出したパラメータ(電圧ピーク値、周期、位相)に基づいて決定する(S53)。例えば、デューティ比補正量(ピーク値)すなわち補正量の変動幅は、
図9(C)に示すように、比例定数×電圧ピーク値により決定される。比例定数は、トリガ6aの操作量に応じて変動させる。
【0075】
デューティ比の補正値を決定後、演算部41は、制御信号出力回路部46を介してインバータ回路47のスイッチング素子Q1〜Q6を所定のPWMデューティによりスイッチング制御しモータ3を駆動させる(S54)。これらの処理は、ハンマ24とアンビル30の凸部が係合して一体的に回転するドリルモードで駆動している間に行われる。
【0076】
S54でモータ3を駆動させると、演算部41はS53で決定したデューティ比補正値によってPWMデューティを補正する(S55)。その結果、入力電圧の脈動によるモータ3の回転数の脈動を補正することができるため、ドリルモードから打撃モードに移行したときにはPWMデューティは補正されているため、打撃を正確に検知することができる(S56)。
【0077】
本手法によれば、下記の効果を奏することができる。
【0078】
全波整流波の谷に合わせてデューティ比補正量を上げているため、補正前のデューティ比で駆動する場合と比較して全波整流波の谷に起因するモータ3の回転数低下を低減ないし無くすことができ、全波整流波の谷に起因する回転数低下により打撃を誤検出する可能性を減らすことができる。また、全波整流波の山に合わせてデューティ比補正量を低下させているため、補正前のデューティ比で駆動する場合と比較して全波整流波の山に起因するモータ3の回転数上昇を低減ないし無くすことができ、打撃のタイミングと全波整流波の山が一致する等に起因して打撃によって発生する回転変動(すなわち回転数の低下)を見逃す可能性を減らすことができる。このため、単発モード機能を正確に実行でき(すなわち打撃モードにおいて正確な打撃回数でモータ3を停止でき)、最終的な螺子の締付トルクを高精度にする(例えば螺子の締め過ぎや締め不足を防止する)ことが可能となる。
【0079】
また、ドリルモードでの螺子締めの際のモータ3のトルク及び回転数、並びにインバータ回路47への供給電圧の少なくともいずれかに基づいてデューティ比補正量を算出する場合は、毎回同じデューティ比補正量を用いる場合と比較して、デューティ比補正量の平均値(中央値)や変動幅を材料の性質に合わせて適切に決定できる。
【0080】
以上説明したように、本実施の形態によれば、補正用パラメータを新たに導入したことで、インバータ回路47に供給される電圧の脈動によるモータ3の回転数の変動の影響を減じることができる。このため、交流電源39とモータ3との間に平滑コンデンサを有しない或いは小容量の平滑コンデンサの構成(平滑コンデンサレス)とすることができ、小型化や低コスト化に有利である。
【0081】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0082】
補正用パラメータ(変動閾値回転数、補正回転数、及び補正デューティ比)の変動は正弦波状に限定されず、例えば三角波状や全波整流波状であってもよい。
【0083】
交流電源39とモータ3との間に平滑コンデンサを設けてもよく、この場合も、残留する脈動によるモータ3の回転数の変動又はその影響を減じることができる。なお、本実施の形態では、打撃モードにおける打撃数をモータ回転数の変動により検知するため、打撃モード時にはモータ回転数の変動をなくすようなフィードバック制御は行っていない。フィードバック制御を行うと打撃時の回転数変動も補正してしまうため打撃数を検知できなくなってしまうためである。
【0084】
また、本実施の形態によれば、モータ駆動回路としてインバータ回路を用いたが、インバータ回路ではなく、モータと直列にスイッチング素子(FET等)を配置して、このスイッチング素子をオン・オフすることでモータを駆動するモータ駆動回路であってもよい。さらに、商用電源からの供給電力で動作する電動工具としたが、商用電源ではなく直流電源であってもよく、モータ駆動回路への入力電圧が変動してしまうものであればよい。
【0085】
また、本実施の形態によれば、電動工具としてインパクトドライバを例に打撃検知について説明したが、打撃検知にかかわらずモータ駆動回路に入力される電圧が脈動している場合にこの脈動に影響を受けずに正確にモータを駆動できる電動工具であればよいため、ドライバドリル、ハンマドリル、丸鋸、芝刈機等、様々な電動工具に適用することができる。例えば、モータの回転数の変動により負荷状態を検出するような制御を行う電動工具に有効である。