特許第5935987号(P5935987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5935987化学蓄熱材、並びに反応装置、蓄熱装置、及び車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935987
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】化学蓄熱材、並びに反応装置、蓄熱装置、及び車両
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/16 20060101AFI20160602BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20160602BHJP
   C01F 11/24 20060101ALN20160602BHJP
【FI】
   C09K5/16
   F28D20/00 H
   !C01F11/24
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-87786(P2012-87786)
(22)【出願日】2012年4月6日
(65)【公開番号】特開2013-216763(P2013-216763A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2014年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】志満津 孝
(72)【発明者】
【氏名】望月 美代
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 喜章
(72)【発明者】
【氏名】岸田 佳大
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 世里子
(72)【発明者】
【氏名】岡村 徹
(72)【発明者】
【氏名】布施 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】桑山 和利
(72)【発明者】
【氏名】小牧 克哉
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 芳行
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−186119(JP,A)
【文献】 特開2010−223575(JP,A)
【文献】 特開2009−228951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00− 5/20
C01F 1/00−17/00
F28D 17/00−21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属の水酸化物とアルカリ金属の塩化物とが化学的に結合した構造を含む下記構造式(1)で表され、全体に占める前記アルカリ金属の塩化物の含有比率が0質量%超6.8質量%以下である化学蓄熱材。
IICl(OH) ・・・構造式(1)
〔式中、Mは、アルカリ金属を表し、MIIは、アルカリ土類金属を表す。a,b,c及びdは、2a≧d、b>0、c>0、d>0を満たす。〕
【請求項2】
前記アルカリ土類金属がカルシウムである請求項1に記載の化学蓄熱材。
【請求項3】
CuKα線によるX線回折分析により構造解析した場合に得られる回折強度とX線入射角(2θ;単位[°])との関係線において、
X線入射角28.0°以上28.4°以下におけるピーク強度が、水酸化カルシウムに由来するX線入射角28.4°超29.0°以下におけるピーク強度の10%値以上である請求項2に記載の化学蓄熱材。
【請求項4】
前記アルカリ金属がリチウムである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の化学蓄熱材。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の化学蓄熱材と、
前記化学蓄熱材との間で熱の授受を行なう熱交換器と、
を備え、前記熱交換器から前記化学蓄熱材に熱が与えられたときに、前記化学蓄熱材が脱水反応する反応装置。
【請求項6】
請求項5に記載の反応装置と、
前記反応装置から供給された水蒸気を凝縮する凝縮手段と、
水蒸気の流通量を調節する流通調節手段を備え、前記反応装置と前記凝縮手段との間を連通する連通手段と、
前記化学蓄熱材に熱を付与するときに前記連通手段に水蒸気が流通するように、前記流通調節手段を制御する流通制御手段と、
を備え、前記反応装置の化学蓄熱材に熱が与えられたときに、化学蓄熱材の脱水反応により生成した水蒸気が、前記連通手段を流通し、前記凝縮手段に供給されて凝縮されることで蓄熱を行なう蓄熱装置。
【請求項7】
前記凝縮手段は、更に、前記化学蓄熱材から放熱させるときに、水を気化し、前記連通手段に水蒸気を放出する機能を兼ねる請求項6に記載の蓄熱装置。
【請求項8】
内燃機関と、
前記内燃機関から排出された排出ガスを流通する排出ガス流通路と、
前記排出ガス流通路に設けられ、流通する前記排出ガスを浄化するガス浄化触媒を有する浄化手段と、
少なくとも熱交換器が、前記排出ガス流通路における前記浄化手段の上流側に設けられた、請求項6又は請求項7に記載の蓄熱装置と、
を備え、前記内燃機関の作動時に排出された前記排出ガスの熱が前記熱交換器により前記化学蓄熱材に供給されることで蓄熱する車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱材、並びにこれを用いた反応装置、蓄熱装置、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応を利用して熱の吸収、放出を行なうことのできる物質である化学蓄熱材は、従来より広く知られており、種々の分野で利用が検討されている。
【0003】
例えば、化学蓄熱材の一例である水酸化カルシウム(Ca(OH))は、下記のように脱水を伴なって吸熱(蓄熱)し、水和(水酸化カルシウムへの復原)時には発熱(放熱)する機能を持つ。
Ca(OH) + Q(熱量) ⇔ CaO + H
【0004】
このような化学蓄熱材に関連する技術として、マグネシウム又はカルシウムの酸化物に、これらの結晶構造を変化させない混合操作(非複合化)によって吸湿性金属塩を添加した組成物による水和発熱反応と、酸化物に対応する水酸化物の脱水吸熱反応とを組み合わせたケミカルヒートポンプが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−186119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなCa(OH)等の脱水反応は、一般的に400℃を越える高温域で進行する。そのため、例えば内燃機関の排熱などを蓄熱に利用するには、脱水反応がより低い温度域で進行することが求められ、現況では貯蔵に適した排熱の温度範囲が狭いといった課題がある。
【0007】
また、上記従来の技術のように、例えばカルシウムの酸化物に塩化リチウム(LiCl)等を添加、混合することにより、脱水温度を低温度化し得ることが提案されているものの、単にカルシウムの酸化物にLiClを混合しただけで非複合の組成が開示されているのみで、低温化効果を確実に発現させるための構成や条件等は明確にされていない。そのため、実際には、所望とする温度(低温)にて蓄熱作動させることが困難である場合がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、複数種の成分が化学的に複合化されていない従来の化学蓄熱材に比べ、蓄熱(脱水反応)がより低温度で安定的に行なえ、蓄熱密度(単位体積あたりの蓄熱量)の大きい化学蓄熱材、並びに、従来より低い温度域を含む広い温度範囲で安定した蓄熱を行なう反応装置、蓄熱装置、及び車両を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、化学蓄熱が可能な材料であるアルカリ土類金属の水酸化物(例えば水酸化カルシウム)に塩化リチウム等のアルカリ金属の塩化物を添加するに際し、単に混合するのではなく、混ぜ合わせた後に加熱する等により化学的な結合状態を形成(複合化)すると、諸条件に依らず、低温域での脱水反応が安定に発現し、所望とする低い温度範囲で安定的に蓄熱が行なえるようになるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0010】
前記課題を達成するための具体的手段は、以下の通りである。すなわち、
第1の態様に係る発明は、
<1> アルカリ土類金属の水酸化物とアルカリ金属の塩化物とが化学的に結合した構造を含む下記構造式(1)で表され、全体に占める前記アルカリ金属の塩化物の含有比率が0質量%超6.8質量%以下である化学蓄熱材である。
IICl(OH) ・・・構造式(1)
【0011】
下記の構造式(1)において、Mはアルカリ金属を表し、MIIはアルカリ土類金属を表す。a,b,c及びdは、2a≧d、b>0、c>0、d>0を満たす。
【0012】
従来から化学蓄熱材を用いた蓄熱技術が種々検討されているが、一般に化学蓄熱材における蓄熱反応、すなわち吸熱を伴なう脱水反応は、400℃超の温度域で発現し、貯蔵に利用できる排熱の温度域が限られていたところ、本発明においては、
前記構造式(1)で表されるように、アルカリ土類金属の水酸化物とアルカリ金属の塩化物とが化学的に結合した複合構造を有し、しかもその構造中に存在するアルカリ金属の塩化物の含有比率が蓄熱材全体(質量換算)に対して6.8質量%以下であることで、これら水酸化物と塩化物とが化学的に複合化していない従来の化学蓄熱材に比べ、化学蓄熱材の脱水反応がより低温域(例えば、400℃未満、好適な温度域として300℃以上400℃未満)で再現良く発現し、より大きい蓄熱密度(単位体積あたりの蓄熱量)が得られる。これにより、貯蔵に利用可能な排熱の温度域が広がり、所望とする低温域において安定的な蓄熱が期待される。
【0013】
<2> 前記<1>に記載の化学蓄熱材において、前記アルカリ土類金属がカルシウムであることが好ましい。すなわち、水酸化カルシウム(Ca(OH))がアルカリ金属の塩化物と複合化した複合化蓄熱材は、脱水反応の低温度化の点で好ましい態様である。
【0014】
<3> 前記<2>に記載の化学蓄熱材において、CuKα線によるX線回折分析により構造解析した場合に得られる回折強度とX線入射角(2θ;単位[°])との関係線において、X線入射角28.0°以上28.4°以下におけるピーク強度が、水酸化カルシウムに由来するX線入射角28.4°超29.0°以下におけるピーク強度の10%値以上である〔ピーク(28.0≦2θ≦28.4)≧ピーク(28.4<2θ≦29.0)×10%〕ことが好ましい。
【0015】
すなわち、X線入射角28.0°以上28.4°以下におけるピーク強度は、Ca(OH)がアルカリ金属の塩化物と複合化した複合化蓄熱材のピーク高さ(強度)を示しており、前記構造式(1)で表される化学蓄熱材であることを表している。
【0016】
前記関係線は、X線回折分析により構造解析したときの回折強度を縦軸[count]とし、X線の入射角(2θ)を横軸[°]としたグラフであってもよい。
【0017】
<4> 前記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の化学蓄熱材において、前記アルカリ金属がリチウムであることが好ましい。
塩化リチウム(LiCl)がアルカリ土類金属と複合化した複合化蓄熱材は、脱水(蓄熱)反応をより低温化するのに適しており、蓄熱密度を確保することができる。
【0018】
第2の態様に係る発明は、
<5> 前記<1>〜<4>のいずれか1つに記載の化学蓄熱材と、前記化学蓄熱材と熱的に接続され、化学蓄熱材との間で熱の授受を行なう熱交換器とを備え、熱交換器から化学蓄熱材に熱が与えられたときに、化学蓄熱材が脱水反応する反応装置である。
【0019】
第2の態様に係る発明は、前記第1の態様に係る発明である化学蓄熱材を備えて構成されており、この化学蓄熱材に熱交換器を介して外部から熱が供給される。この場合、上記の化学蓄熱材を備えるので、化学蓄熱材による蓄熱・放熱の可逆的な反応は、従来より低い温度範囲で進行する。第2の発明では、従来より低い温度を含む広範な温度域において、脱水反応が安定的に発現するので、広範な温度範囲に属する排熱(貯蔵に利用可能な排熱)を用いた蓄熱が可能である。
【0020】
第3の態様に係る発明は、
<6> 前記<5>に記載の反応装置と、前記反応装置から供給された水蒸気を凝縮する凝縮手段と、水蒸気の流通量を調節する流通調節手段を備え、前記反応装置と前記凝縮手段との間を連通する連通手段と、前記化学蓄熱材に熱を付与するときに前記連通手段に水蒸気が流通するように、前記流通調節手段を制御する流通制御手段と、を備え、
前記反応装置の化学蓄熱材に熱が与えられたときに、化学蓄熱材の脱水反応により生成した水蒸気が、前記連通手段を流通し、前記凝縮手段に供給されて凝縮されることで蓄熱を行なう蓄熱装置である。
【0021】
第3の態様に係る発明は、既述の第1の態様に係る発明である化学蓄熱材を設けて構成されている。この化学蓄熱剤は、反応装置内において外部から熱が与えられたときには、脱水反応を起こして蓄熱するが、発生した水蒸気が、反応装置、凝縮手段、及びこれらを繋ぐ連通手段の内部に多く存在すると脱水反応が進みにくくなる。そのため、水蒸気が発生するとき、すなわち化学蓄熱材に熱を付与する必要があるときに、水蒸気が連通手段の内部を流通するように流通調節手段を制御することにより、発生した水蒸気は連通手段を通じて凝縮手段に達し、凝縮手段で凝縮して液化される。これにより、特に蓄熱時には、蓄熱に伴ない発生する水蒸気の、雰囲気中における分圧が低く維持制御されるので、反応装置での脱水反応が安定的に進み、従来に比べより大きい蓄熱密度が確保される。
【0022】
<7> 前記<6>に記載の蓄熱装置において、凝縮手段は、更に、化学蓄熱材から放熱させるときに、水を気化し、連通手段に水蒸気を放出する機能を兼ねている形態に構成することができる。
【0023】
蓄熱装置では、化学蓄熱材に外部からの熱が与えられて脱水し、脱水生成した水蒸気が連通手段を通じて凝縮手段に供給されたときには、凝縮手段で水蒸気は液化されて水として雰囲気中から除かれる。逆に、熱を外部に放出するときには、蒸発手段で水を加熱し気化させて水蒸気を生成する機能を兼ねることで、蓄熱した熱の利用が可能になる。すなわち、化学蓄熱材を用いた蓄熱装置における蓄熱/放熱サイクルが構築され、比較的低い温度域で安定した熱の利用が可能である。
【0024】
第4の態様に係る発明は、
<8> 内燃機関と、前記内燃機関から排出された排出ガスを流通する排出ガス流通路と、前記排出ガス流通路に設けられ、供給された前記排出ガスを浄化するガス浄化触媒を有する浄化手段と、少なくとも熱交換器が、前記排出ガス流通路における前記浄化手段の上流側に設けられた、前記<6>又は前記<7>に記載の蓄熱装置と、を備え、前記内燃機関の作動時に排出された前記排出ガスの熱が前記熱交換器により前記化学蓄熱材に供給されることで蓄熱する車両である。
【0025】
第4の態様に係る発明では、既述の第1の態様に係る発明である化学蓄熱材を設けた蓄熱装置が、その少なくとも熱交換器が浄化手段の排出ガス流通方向上流側に位置するように配置され、更に化学蓄熱材にアルカリ土類金属の酸化物が用いられるため、比較的低い温度域(例えば200℃以上400℃未満)での蓄熱が可能であると共に、エンジン等の内燃機関の作動時(負荷時)の高温域(例えば450℃以上)での蓄熱が可能である。すなわち、車両の低負荷時ないし高負荷時に亘る広い温度範囲における蓄熱が可能になり、蓄熱された熱の利用温度域も高温化することができる。
【0026】
本発明は、従来より低い温度域での脱水反応を再現よく発現させることが可能であり、低温域から高温域に亘る所望の温度での蓄熱を安定的に行なえる蓄放熱システムが構築される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、複数種の成分が化学的に複合化されていない従来の化学蓄熱材に比べ、蓄熱(脱水反応)がより低温度で安定的に行なえ、蓄熱密度(単位体積あたりの蓄熱量)の大きい化学蓄熱材が提供される。また、
本発明によれば、従来より低い温度域を含む広い温度範囲で安定した蓄熱を行なう反応装置、蓄熱装置、及び車両が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る車両(蓄熱システム)の全体構成の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の本実施形態の複合化蓄熱材をX線回折分析(XRD)して得られたピーク強度とX線入射角(2θ)との関係を示すグラフ(XRDパターン)である。
図3】本発明の実施形態に係る車両(蓄熱システム)において放熱モードで実行される放熱制御ルーチンを示す流れ図である。
図4】本発明の実施形態に係る車両(蓄熱システム)において蓄熱モードで実行される蓄熱制御ルーチンを示す流れ図である。
図5】(A)は、本実施形態の複合化蓄熱材による真空下における脱水反応に伴なう質量の減少変化を示すグラフであり、(B)は、水酸化カルシウムによる真空下における脱水反応に伴なう質量の減少変化を示すグラフである。
図6】CuKα線によるX線回折分析におけるX線入射角2θを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の車両の実施形態について詳細に説明すると共に、該説明を通じて、本発明の蓄熱装置、反応装置、及び化学蓄熱材の実施形態についても詳述する。なお、下記の実施形態では、アルカリ土類金属の水酸化物として水酸化カルシウム(Ca(OH))を、アルカリ金属の塩化物として塩化リチウム(LiCl)を用いた場合を中心に説明する。但し、本発明においては、これらを用いた下記の実施形態に制限されるものではない。
【0030】
本発明の車両、並びにこれを構成する本発明の蓄熱装置、反応装置、及び化学蓄熱材に係る実施形態を図1図5を参照して説明する。本実施形態は、化学蓄熱材としてCa(OH)の粉状物とLiClの粉状物とを用い、これらを乾式混合し、加熱して得られる複合化蓄熱材を化学蓄熱材として用いたものである。
【0031】
図1に示すように、本実施形態の車両200は、蓄熱装置100と、内燃機関であるエンジン120と、エンジンからの排出ガスを排出する排出ガス流路である排出配管130と、排出配管130に取り付けられた浄化装置140とを備えている。この車両では、エンジンの作動時に排出された排出ガスの熱が、浄化装置のガス流通方向上流に配置された蓄熱装置において、その熱交換器により化学蓄熱材に与えられることにより、蓄熱又は放熱が行なわれるようになっている。
【0032】
エンジン120には、排出ガスを排出するための排出口に排出配管130の一端が接続されており、エンジンからの排出ガスは、この排出配管を流通して車両外に排出されるようになっている。
【0033】
浄化装置140は、排出配管130の他端側となる配管途中に取り付けられている。排出配管130中を流通してきた排出ガスは、大気中に排出される前に浄化装置により浄化されるようになっている。排出ガスは、浄化装置で浄化された後、排出配管130における浄化装置のさらに下流の他端から大気中に排出される。浄化装置140は、排出ガス中の炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)等を浄化するガス浄化触媒を備えている。ガス浄化触媒は、白金(Pt)やロジウム(Rh)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)などの金属を用いた三元触媒などを用いることができる。
【0034】
また、浄化装置140には、装置内の温度を検出するための温度検出センサS1が取り付けられており、浄化装置内の温度を検出することにより、エンジンが起動状態か否か、すなわちエンジンから化学蓄熱材への排出ガスによる熱供給が行なえるか否かが判断できるようになっている。温度検出センサS1は、浄化装置内の浄化触媒近傍を通過する排出ガスの温度を検出する。また、温度検出センサは、装置内の触媒の温度を検出するものであってもよい。温度検出センサには、従来公知のものを適宜選択して使用することができる。
【0035】
蓄熱装置100は、反応装置10と、凝縮手段である蒸発・凝縮装置20と、反応装置10と蒸発・凝縮装置20との間を水蒸気が流通するための連通手段である水蒸気流通路40と、水蒸気の流通を制御する流通制御手段である制御装置50とを備えている。この蓄熱装置では、反応装置の化学蓄熱材に熱が与えられた際、化学蓄熱材の脱水反応により生成した水蒸気が、水蒸気流通配管を流通して蒸発・凝縮装置に達し、蒸発・凝縮装置で凝縮されることにより蓄熱されるようになっている。
【0036】
反応装置10は、化学蓄熱材である複合化蓄熱材14と、排出配管130の一部を利用した熱交換器16とを備えている。
【0037】
複合化蓄熱材14は、水蒸気を給排する給排口18を有する密閉容器12中に、その給排口の近傍に空隙部が形成されるように、底部から所定の高さまで充填されている。
【0038】
複合化蓄熱材は、Ca(OH)を主成分として含み、Ca(OH)にLiClが化学的に結合して複合化した、下記の構造式(1−1)で表される構造を有している。すなわち、本実施形態で用いられる複合化蓄熱材は、Ca(OH)とLiClとの間に化学的な結合状態のある化合物であり、Ca(OH)とLiClとが単に混合され、個々の化合物が混在する混合物とは区別されるものである。
CaLiCl(OH) ・・・構造式(1−1)
【0039】
複合化蓄熱材14は、反応装置に粉体ないし粉体同士がくっついた状態で充填されている。粉体であるとは、粒子を含む粉末の状態をいう。本実施形態の複合化蓄熱材には、蓄熱及び放熱を主として担う化学蓄熱用の材料として、Ca(OH)が含有されている。なお、Caはアルカリ土類金属(下記構造式(1)中のMII)に属し、Liはアルカリ金属(下記構造式(1)中のM)に属する元素であり、前記構造式(1−1)中のa,b,c及びdは、2a=d、b>0、c>0、d>0である。
【0040】
化学蓄熱用の材料は、化学反応を利用して熱の吸収、放出を行なうことのできる物質である。
化学蓄熱用の材料としては、本実施形態で用いられるCa(OH)のほか、例えば、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化バリウム(Ba(OH))及びその水和物(Ba(OH)・HO)などのアルカリ土類金属の無機水酸化物や、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)などのアルカリ金属の無機水酸化物、酸化アルミニウム三水和物(Al・3HO)などの無機酸化物などを挙げることができる。中でも、脱水反応に伴なって吸熱し、水和反応に伴なって放熱する水和反応性蓄熱材がより好ましく、かかる点で水酸化カルシウム(Ca(OH))が好ましい。
化学蓄熱用の材料は、上市された市販品として提供されている(Ca(OH))などを使用することができる。
【0041】
ここで、水酸化カルシウム(Ca(OH))を例に蓄熱と放熱について説明する。
化学蓄熱用の材料であるCa(OH)は、脱水に伴なって蓄熱(吸熱)し、水和(水酸化カルシウムへの復原)に伴なって放熱(発熱)する構成となる。すなわち、Ca(OH)は、以下に示す反応(a)により蓄熱、放熱を可逆的に繰り返することができる。
Ca(OH) ⇔ CaO + HO ・・・(a)
また、これに蓄熱量、発熱量Qを併せて示すと、以下の反応式(b)〜(c)になる。
Ca(OH) + Q → CaO + HO ・・・(b)
CaO + HO → Ca(OH) + Q ・・・(c)
【0042】
本実施形態の複合化蓄熱材は、化学蓄熱用の材料であるCa(OH)の間にLiClが存在しており、このような複合構造により、Ca(OH)の蓄熱、放熱を伴なう上記反応が進行する温度範囲はより低温化する。これにより、排熱の貯蔵(蓄熱)が可能な温度範囲の拡充を図ることができる。
本実施形態では、Ca(OH) 93.2質量部に対して6.8質量部に相当するLiCl(=LiCl質量/複合化蓄熱材全質量)が含有されている。
【0043】
複合化蓄熱材の組成、構造は、CuKα線によるX線回折分析で構造解析することにより確認することができる。具体的には、X線回折分析を行ない、一方の軸(例えば縦軸)を回折強度とし、他方の軸(例えば横軸)をX線入射角2θ(単位:°)とした二次元座標上に関係線を引いたときに現れる、回折強度の大きさ(ピーク高さ)から確認することができる。
ここで、2θは、試料(複合化蓄熱材)に対してX線が入射する角度をθとしたとき、図6に示すように回折光の検出部を回転させる回転角(単位:°)に相当し、これをX線入射角とする。
【0044】
本実施形態のCa(OH)及びLiClの複合化蓄熱材の場合、前記二次元座標に引いた関係線において、Ca(OH)及びLiClの複合材料としてX線入射角28.0°以上28.4°以下に現れるピーク強度(ピーク高さ)Iが、Ca(OH)に由来してX線入射角28.4°超29.0°以下に現れるピーク強度(ピーク高さ)Iの10%値以上高く現れている点から確認することができる。本実施形態の複合化蓄熱材をX線回折分析した結果を図2に具体的に示す。図2のように、縦軸を回折強度、横軸をX線入射角2θ(単位:°)とした二次元座標において、X線入射角28.2°に複合化蓄熱材に由来するピークA(ピーク強度I)が、X線入射角28.7°にCa(OH)に由来するピークB(ピーク強度I)が現れており、ピーク強度Iの10%値が約89.2であることから、ピーク強度Iはピーク強度Iの10%値より大きい(I>I×0.1)ことが読み取れる。
【0045】
本実施形態では、化学蓄熱材として、前記構造式(1−1)で表されるCaLiCl(OH)を用いた例を示したが、本発明では、下記の構造式(1)で表される化学蓄熱材の中から選択される化学蓄熱材が用いられる。
IICl(OH) ・・・構造式(1)
前記構造式(1)において、Mは、アルカリ金属を表し、MIIは、アルカリ土類金属を表す。a,b,c及びdは、2a≧d(d>0)、b>0、c>0を満たす。なお、b>0、c>0、及びd>0は、M、Cl、及びOHを含む組成であることを示している。
【0046】
前記Mで表されるアルカリ金属には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等が含まれる。また、前記MIIで表されるアルカリ土類金属には、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(St)、バリウム(Ba)等が含まれる。
また、前記構造式(1)で表される化学蓄熱材の具体例として、CaLiCl(OH)のほか、MgLiCl(OH)、BaLiCl(OH)、CaCl(OH)、MgCl(OH)、BaCl(OH)等を挙げることができる。
【0047】
本発明における化学蓄熱材中におけるアルカリ金属の塩化物(MCl)の含有比率は、化学蓄熱材の全質量に対して、0質量%超6.8質量%以下の範囲とする。化学蓄熱材中のMClの含有比率が6.8質量%を超える高濃度になると、前記蓄熱を伴なう反応の低温化は図れるものの、蓄熱を主として担うMII(OH)(化学蓄熱用の材料)の含有比率が相対的に減少し、蓄熱密度(蓄熱量)が低下してしまう。
Clの含有比率は、蓄熱反応の低温化と大きい蓄熱密度の確保の点から、化学蓄熱材の全質量に対して、好ましくは5質量%以上6.8質量%以下である。
このとき、MII(OH)(化学蓄熱用の材料)の含有比率は、化学蓄熱材の全質量に対して、93質量%以上100質量%未満の範囲とすることができる。化学蓄熱材には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他の成分や元素が含有されていてもよい。
【0048】
化学蓄熱材は、反応装置の容器内に粉体で含有されてもよい。この場合、化学蓄熱材の平均粒径としては、平均一次粒子径で1μm以下が好ましい。平均一次粒子径が1μm以下であると、多孔構造に構成する上で有利である。中でも、平均粒径は、0.6μm以上1μm以下がより好ましい。
なお、平均一次粒子径は、レーザー回折・散乱粒度分布計SALD−2000A〔(株)島津製作所製〕を用いて、レーザー回折散乱法により測定される値である。
【0049】
複合化蓄熱材14は、Ca(OH)の粉状物とLiClの粉状物とを、水等の溶媒を用いて湿式混合してもよいが、溶媒を用いない乾式混合によることでより好適に調製することができる。
具体的には、Ca(OH)の粉状物にLiClの粉状物をそのまま混ぜ合わせ、溶媒を用いずに乾式混合して得られる。湿式混合によるとLiClは液中に広がって均一化される一方、本発明では乾式混合によることで、LiClがCa(OH)の粒子表面に偏在し、加熱により粒子表面に濃縮された構造になる。これより、蓄熱密度を高く保持しながら、蓄熱を伴なう反応温度の低温化が図れ、広い温度域の排熱を利用することができる。
【0050】
化学蓄熱材の調製にあたり、混合する際の温度は常温が、混合時間は5min〜10minが好ましい。化学蓄熱材の調製は、ヘリウム置換雰囲気内で行なうことがより好ましく、化学蓄熱材の炭酸化又は水の吸着を防ぐことができる。
【0051】
熱交換器16は、排出配管130の配管の一部を用いて構成されている。熱交換器16は、排出配管130の一部を複合化蓄熱材14中に埋設し、配管の外壁面を直接複合化蓄熱材と接触させてある。排出配管130のうち、図1の破線で囲まれた配管部分が熱交換器として機能する。この熱交換器では、排出配管130中に排出ガスが流通すると、その外壁を介して、配管内を流通する排出ガスと複合化蓄熱材との間で熱交換が行なわれるようになっている。本実施形態では、排出配管130が、排出ガスを流通する機能と熱交換機能とを兼ねている。
【0052】
蒸発・凝縮装置20は、密閉容器22に、熱媒体が循環する熱媒体循環系統24を設けて構成されている。蒸発・凝縮装置20は、水蒸気が導入されたときには、熱媒体循環系統24に冷媒を流通させて水蒸気を露点以下の温度に冷却することによって液化(凝縮)し、回収する。逆に、水蒸気を外部に供給する必要があるときには、回収等で装置内に貯留されている水を、熱媒体循環系統24に熱媒を流通することにより加熱して気化し、生成した水蒸気を排出できるようになっている。
【0053】
密閉容器22は、底部に水28を貯留することができ、天部には水蒸気を給排するための給排口32が設けられている。上記のように、密閉容器22内で水蒸気を生成したときには、給排口32より水蒸気を排出することができる。反応装置10での蓄熱(脱水反応)時に水蒸気流通管42を流通して蒸発・凝縮装置20に送られた水蒸気は、水に凝縮され、容器内に貯留される。なお、図示しないが、密閉容器22には水の排水口を設けておき、凝縮して得た水を、容器内に貯留しつつ又は貯留せずに、排水口から容器外に排出するようにしてもよい。
【0054】
熱媒体循環系統24は、熱媒体流通管及び該熱媒体流通管を流れる熱媒体と、熱媒体流通管に取り付けられたポンプP1とを有しており、熱媒体が熱媒体流通管中を循環することにより、蒸発・凝縮装置20に水蒸気が供給されるときには、水蒸気を凝縮して液化し、逆に水蒸気を排出するときには、蒸発・凝縮装置20中の水を加熱して気化し、水蒸気を生成できる構成になっている。すなわち、熱媒体循環系統24は、蒸発器、凝縮器の両機能を備えている。
【0055】
蒸発・凝縮装置20に水蒸気が供給される場合には、熱媒体として冷媒が熱媒体流通管中を循環することにより熱媒体流通管が冷やされ、給排口32から供給された水蒸気が熱媒体流通管に接触して凝縮し、液化する。なお、図示しないが、熱媒体流通管には冷却器が取り付けられており、循環する熱媒体(冷媒)の冷却が行なわれるようになっている。これにより、装置内の雰囲気中に含まれる水蒸気量を、化学蓄熱材での脱水反応が進み難くならない程度に維持することができる。熱媒には、水、オイル等の公知のものを使用することができる。
【0056】
また、蒸発・凝縮装置20から水蒸気を排出する場合には、熱媒体として熱媒が熱媒体流通管中を循環することにより熱媒体流通管が昇温し、熱媒体流通管により水(貯留水)28が熱せられ、水28から水蒸気を生成する。
例えば車両のエンジンが停止中でエンジンからの排出ガスの温度も低い場合は、エンジンや浄化触媒、バッテリ等の暖機又は車室内の暖房のため、化学蓄熱材に水蒸気を供給することで放熱させることができる。このとき、熱媒が流通する熱媒体流通管で水を気化し、容器内で生成した水蒸気を給排口32から水蒸気流通管42に排出する。
【0057】
密閉容器22の側部には、貯留されている水の貯留量を検出するための液面検出センサS2が取り付けられている。このセンサがオンされると、密閉容器中に所定量の水が充満された状態にあるため、蓄熱完了を判断することができる。また、容器内水量の確認が可能であるので、蓄熱の停止あるいは貯留水の容器外への排出を判断する基準となる。液面検出センサには、フロートセンサや電極センサ等の従来公知のものを適宜選択して使用することができる。
【0058】
反応装置10と蒸発・凝縮装置20とは、水蒸気流通路40により互いに連通されている。この水蒸気流通路40は、水蒸気が流通する水蒸気流通管42と、水蒸気流通管に取り付けられた流通調節手段である開閉弁V1とを備えている。
【0059】
水蒸気流通管42は、その一端が反応装置10の給配口18に接続され、他端が蒸発・凝縮装置20の給排口32に接続されており、開閉弁V1が開状態にされたときに連通されるようになっている。開閉弁V1は、水蒸気を反応装置10から蒸発・凝縮装置20へ流通させるとき、あるいは水蒸気を蒸発・凝縮装置20から反応装置10へ流通させるときに開状態とされ、前記反応式(b)で表される蓄熱反応、前記反応式(c)で表される放熱反応を良好に進行させることができる。一方、開閉弁V1を閉状態にすることで、水蒸気の移動がなくなるので、反応装置10での蓄熱、放熱反応を停止ないし進み難くすることができる。このように、開閉弁の開閉動作により、化学蓄熱材による蓄熱、放熱が制御されるように構成されている。
【0060】
開閉弁V1は、流通制御手段からの信号により開閉動作して水蒸気の流通を開始又は停止する弁である。この開閉弁は、流通調節手段の一例であり、開閉動作のみならず、開度を調節して水蒸気の流通量を増減することが可能な流量調整機能を有する流量調節器(例えば、流量調整弁)などを用いてもよい。
【0061】
上記のポンプP1及び熱媒の温度制御装置(不図示)、開閉弁V1、温度検出センサS1、液面検出センサS2等は、流通制御手段である制御装置50と電気的に接続されており、制御装置50によって動作タイミングが制御されるようになっている。この制御装置50は、化学蓄熱材14に熱を付与する或いは水蒸気を供給する必要があるとき(すなわち蓄熱又は放熱するとき)に、温度検出センサS1の検出温度に基づいて、開閉弁V1の開閉動作、ポンプP1の駆動等を行なって、水蒸気流通管42における水蒸気の流通制御を担うものである。
【0062】
本実施形態では、蓄熱装置200において、反応装置10が蓄熱するときには、エンジン120から排出された排出ガスと化学蓄熱材14との間で配管壁を介して熱交換が行なわれ、加熱された化学蓄熱材の脱水反応(例えばCa(OH)+Q→CaO+HO)が進行する。このとき、水蒸気流通管42の開閉弁V1は開状態とされている。化学蓄熱材の脱水反応を伴なう蓄熱時に生成する水蒸気は、密閉容器12の天部に設けられた給排口18に接続された水蒸気流通管42を流通して、蒸発・凝縮装置20に移動する。水蒸気は、蒸発・凝縮装置20内で冷却、凝縮されて水として回収される。このように凝縮されることで、装置内雰囲気中に含まれる水蒸気量を減じることができるため、化学蓄熱材の脱水を伴なう蓄熱反応を促進することができる。本実施形態では、Ca(OH)とLiClの複合化蓄熱材を備えるため、排出ガスから伝達される熱が例えば400℃未満となる低い温度域でも、蓄熱時の脱水反応を安定的に発現し、従来よりも広い温度域で安定的な蓄熱が可能である。
【0063】
一方、エンジンが停止中あるいは始動時などで排出ガスの温度が低く、蓄熱装置200の反応装置10において、化学蓄熱材14は脱水反応を行なわないが、例えば、エンジンや浄化装置、トランスミッションなどの暖機又は車室内の暖房が必要なときには、反応装置10は放熱反応を優先して行なう。具体的には、蒸発・凝縮装置20に備えられた熱媒体循環系統24のポンプP1が駆動され、熱媒を流通して水を気化し、蒸発・凝縮装置内に水蒸気が生成される。このとき、水蒸気流通管42の開閉弁V1は開状態とされる。生成された水蒸気は、密閉容器22の天部に設けられた給排口32に接続された水蒸気流通管42を流通して、反応装置10に移動する。反応装置に供給された水蒸気は化学蓄熱材と反応し、発熱反応(例えばCaO+HO→Ca(OH)+Q)が進行し、放熱する。ここで得られた熱により暖機が行なわれる。
【0064】
ここで、本実施形態における蓄熱及び放熱の制御方法を一例を示して具体的に説明する。すなわち、
本実施形態に係る車両(蓄熱システム)の制御装置50による制御ルーチンのうち、エンジンからの排出ガスの熱を利用して蓄熱する際の蓄熱制御ルーチンと、放熱して暖機する際の暖機制御ルーチンとを中心に、図3図4を参照して説明する。
【0065】
図3は、放熱モードで実行される放熱制御ルーチンを示すものである。車両のイグニッション・スイッチ(IG)がオンされると、放熱モードと蓄熱モードのいずれを実行するかを判断するため、まず本ルーチンが実行される。本ルーチンが実行されると、ステップ100において、浄化装置140に取り付けられている温度検出センサS1により、ガス浄化触媒を通過する排出ガスの温度tが取り込まれる。
【0066】
次に、ステップ120において、取り込まれた温度tに基づいて暖機が必要か否かが判定される。具体的には、ステップ120において、排出ガスの温度tが閾値温度T未満であるか否かが判定され、排出ガスの温度tが閾値温度T以上であるときには、暖機が不要なため、ステップ230において蓄熱モード(図4のステップ300)に移行する。また、排出ガスの温度tが閾値温度T未満であると判定されたときには、エンジンが暖まっておらず暖機の必要があるため、まずステップ140において、開閉弁V1を開状態にする。
【0067】
上記のように開閉弁V1を開くと共に、次のステップ160において、蒸発・凝縮装置20の熱媒体循環系統24に設けられたポンプP1を駆動し、水を加熱して水蒸気を生成する。蒸発・凝縮装置20で生成した水蒸気は、密閉容器の給排口32から水蒸気流通管42を流通して反応装置10に供給され、以下の発熱反応が進行する。
CaO + HO → Ca(OH) + Q(発熱量)
【0068】
続いて、ステップ180において、再び浄化装置140の温度検出センサS1により、ガス浄化触媒を通過する排出ガスの温度tが取り込まれ、ステップ200において暖機が完了したか否かが判定される。
具体的には、ステップ200において、排出ガスの温度tが閾値温度T以上であるか否かが判定され、排出ガスの温度tが閾値温度T以上であるときには、暖機が完了しているため、ステップ220において開閉弁V1を閉じ、本ルーチンを終了する。逆に、排出ガスの温度tが未だ閾値温度Tに達していないと判定されたときには、ステップ160に戻り、ポンプP1を駆動して熱媒を流通したまま上記発熱反応が継続される。そして、ステップ200において、上記同様に暖機が完了したと判定されると、ステップ220に移行して本ルーチンを終了する。
【0069】
次に、蓄熱モードについて説明する。図4は、蓄熱モードで実行される蓄熱制御ルーチンを示すものである。前記放熱制御ルーチンにおけるステップ230において、蓄熱モードに移行されると、本ルーチンが実行される。
本ルーチンが実行されると、この時点で既に暖機が不要もしくは完了している状態(すなわちエンジンが駆動中)であるため、ステップ300において、蓄熱条件を満たしているか否かが判定される。具体的には、ステップ300において、車両のアクセル開度が閾値以上であるか否かが判定される。
【0070】
ステップ300において、アクセル開度が閾値以上であると判定されたときには、エンジンから排出される排出ガスの温度が高温に達しており、排出ガスの熱を蓄熱するのに適した状態にあるため、ステップ340において、開閉弁V1を開く。開閉弁V1が開状態になると、下記の脱水反応が進み易くなるため、蓄熱が良好に行なわれる。
Ca(OH) + Q → CaO + H
【0071】
ここで、本実施形態の複合化蓄熱材を用いて蓄熱(脱水反応)させた際の挙動を、Ca(OH)を用いた場合と対比して図5に示す。ここでは、減圧下で(真空下で)昇温したときの質量の減少変化(Δw%)を計測し、グラフとして表した。
本実施形態の複合化蓄熱材(Ca(OH)とLiClとの複合材)を用いた場合、図5(A)に示されるように、温度が250℃付近から400℃未満の範囲で脱水反応が著しく進行していることが分かった。これに対し、Ca(OH)を用いた場合、図5(B)に示されるように、脱水反応は450℃付近から600℃付近で著しく進行していたが、400℃未満の温度域ではほとんど脱水反応は発現していなかった。
このように、LiClを所定比率で複合化したことで、蓄熱時の脱水反応を従来よりも低い温度域で安定的に発現させることができた。
【0072】
また、ステップ300において、アクセル開度が閾値に達していない、つまり高速運転されておらず排出ガスの温度が高温にまで達していないと判定されたときには、蓄熱に伴なう脱水反応が進行しにくいため、ステップ320において開閉弁V1を閉じ、ステップ300で蓄熱条件(アクセル開度≧閾値)を満たすまで待機する。
【0073】
ここでは、蓄熱の可否をアクセル開度の状態を所定の閾値をもとに判定するようにしたが、アクセル開度を用いる以外にも、例えば、浄化装置での温度検出センサS1による排出ガスの温度tが所定値を超えた場合(例えばステップ300においてt>450℃)を捉える等の方法をとることで、蓄熱の可否を判定してもよい。
【0074】
また、開閉弁V1を開くと共に、次のステップ360において、熱媒体循環系統24に取り付けられたポンプP1を駆動し、熱媒体流通管及び密閉容器22内部の冷却を開始する。水蒸気が水蒸気流通管42を流通して蒸発・凝縮装置内に供給されると、水蒸気は熱媒体流通管に接触する等により冷やされて凝縮し、水滴となって容器内に貯留される。
【0075】
次に、ステップ380において、蓄熱が完了したか否かが判定される。すなわち、
ステップ380において、蒸発・凝縮装置の密閉容器の側部に取り付けられた液面検出センサS2がオンされているか否かが判定される。液面検出センサS2がオンになっていると判定されたときには、所望とする蓄熱が既に完了しているため、ステップ400において開閉弁V1を閉じる。開閉弁V1が閉じられると、反応装置内の化学蓄熱材のある雰囲気中の水蒸気量が高くなり、上記脱水反応は停止ないし進み難くなる。
【0076】
逆に、ステップ380において、液面検出センサS2が未だオフであると判定されたときには、所望の蓄熱が完了しておらず、蓄熱を継続できる状況であるため、ステップ300に戻って同様の動作を繰り返す。そして、ステップ380において蓄熱が完了したと判定されたときにステップ400に移行し、本ルーチンを終了する。
【0077】
上記の実施形態では、エンジンからの排出ガスを熱源に利用した場合を中心に説明したが、内燃機関の排出熱に限られず、あらゆる装置から排出される熱(排熱)を利用した蓄熱が可能である。本発明では、アルカリ土類金属の水酸化物とアルカリ金属の塩化物とが化学的に結合して複合化した特定構造の化学蓄熱材を用いるため、蓄熱反応(脱水反応)に必要な熱量が低く抑えられるので、利用可能な排熱が広がり、排熱の貯蔵可能な温度域を広く確保することが可能である。したがって、本発明の化学蓄熱材は、幅広い技術分野に適用が可能であると考えられる。
【0078】
また、上記実施形態では、アルカリ土類金属の水酸化物として水酸化カルシウムを、アルカリ金属の塩化物として塩化リチウムを用いた場合を中心に説明したが、これら以外のアルカリ土類金属及びアルカリ金属の塩化物を適宜組み合わせて用いた場合も、その蓄熱・放熱反応に基づく原理からほぼ同様の効果を奏することができる。
【0079】
上記では、蒸発・凝縮装置を用いて構成した場合を中心に説明したが、必ずしも蒸発機能(例えばヒータによる気化)を備えている必要はなく、凝縮機能のみを有する構成であってもよい。この場合、外部に水を排出する排水口を設けることで、蓄熱を継続的に行なうことが可能である。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。但し、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
(実施例1)
平均一次粒子径が1μmの水酸化カルシウム(Ca(OH))の白色粉末(JIS R 9001 等級:特号)と、平均一次粒子径が1μmの塩化リチウム(LiCl)の粉末とを混ぜ合わせ、溶媒を用いず、常温下で乾式混合した。得られた混合物を、300℃で反応するまで加熱し、複合化蓄熱材を調製した。このとき、化学蓄熱材の全質量に対するLiClの含有比率を6.8質量%とした。
なお、平均一次粒子径は、レーザー回折・散乱粒度分布計SALD−2000A〔(株)島津製作所製〕を用いて、レーザー回折散乱法により測定した。
【0082】
(実施例2)
実施例1において、複合化蓄熱材の全質量に対するLiClの含有比率を6.8質量%から5.5質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、複合化蓄熱材を調製した。
【0083】
(比較例1)
実施例1において、複合化蓄熱材の全質量に対するLiClの含有比率を6.8質量%から8.5質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、複合化蓄熱材を調製した。
【0084】
(評価)
実施例及び比較例で調製した複合化蓄熱材を用い、以下の方法で蓄熱密度を評価した。評価結果は下記表1に示す。なお、下記表1では、実施例1の蓄熱密度を100として規格化し、その相対比で示した。
【0085】
蓄熱密度は、複合化蓄熱材に含有されているCa(OH)のみが蓄熱に寄与するものとして、下記式により求めた。
蓄熱密度=(含有Ca(OH)のエンタルピー変化)/(複合化蓄熱材の質量)
【0086】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の化学蓄熱材、並びにこれを用いた反応装置、蓄熱装置は、蓄熱を必要とするあらゆる用途に適用することができ、また、工場や各種エンジンなどから排出される各種排熱や太陽熱を有効利用したシステムの構築への適用が期待される。さらに、蓄熱と共に放熱が可能であるので、寒冷地での装置(例えば、エンジン等の内燃機関、燃料電池、バッテリなど)の暖機、始動補助を行なうための補助装置、あるいは給湯装置、暖房装置、等への適用も期待される。
【符号の説明】
【0088】
10・・・反応装置
14・・・複合化蓄熱材(化学蓄熱材)
16・・・熱交換器(排出配管130の一部)
20・・・蒸発・凝縮装置
40・・・水蒸気流通配管(連通手段)
50・・・制御装置
120・・・エンジン(内燃機関)
130・・・排出配管(排出ガス流路)
140・・・浄化装置
P1・・・ポンプ
V1・・・開閉弁(流通調節手段)
S1・・・温度検出センサ
S2・・・液面検出センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6