(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935993
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】保持具
(51)【国際特許分類】
B24B 37/30 20120101AFI20160602BHJP
【FI】
B24B37/04 L
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-137840(P2012-137840)
(22)【出願日】2012年6月19日
(65)【公開番号】特開2014-640(P2014-640A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100157185
【弁理士】
【氏名又は名称】吉野 亮平
(72)【発明者】
【氏名】川村 佳秀
【審査官】
大山 健
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−058066(JP,A)
【文献】
特開2004−216485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 −37/34
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を研磨するときに使用される保持具であって、
発泡性ポリウレタンで形成された保持パッドと、
この保持パッドにおける被研磨物に押し当てられる底面の周縁部に沿って取り付けられ前記被研磨物の厚さよりも薄い、リング形状の枠材とを備え、
前記保持パッドの前記底面には、前記枠材の内周に沿って切り込みが形成されており、 前記切り込みの幅は、前記保持パッドを所定の圧力で前記被研磨物に押し当てて前記保持パッドの切り込みよりも内側の内側部が圧縮されて周方向外側に広がったときに、変形した内周部の側面が、前記切り込みの外側の外側部の側面に接触できるように寸法決めされている、保持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持具に関し、特に、片面研磨機で被研磨物を研磨するときに被研磨物を保持するための保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラス基板、カラーフィルタ、インジウム錫酸化物(ITO)成膜済基板等の材料(被研磨物)では、高精度な平坦性が要求されるため、研磨布を使用した研磨加工が行われている。通常、これらの被研磨物の研磨加工には、被研磨物を片面ずつ研磨加工する片面研磨機が使用されている。この片面研磨機では、保持用定盤に被研磨物が保持され、研磨用定盤に研磨布が装着されている。研磨加工時には、研磨粒子を含む研磨液を循環させつつ供給し、被研磨物に圧力をかけながら両定盤を回転させることで被研磨物が研磨加工される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−202314号公報
【特許文献2】特許第2849533号公報
【0004】
一般に、片面研磨機を使用した研磨加工では、被研磨物が金属製の保持用定盤と直接接触することで生じる被研磨物のスクラッチ等を抑制するため、保持用定盤に軟質クロス等の保持パッドを備える保持具が装着されている。保持パッドの装着によりスクラッチ等を回避することはできるが、保持パッドおよび被研磨物間の粘着性や静摩擦が不十分なとき、すなわち、保持パッドの被研磨物保持性が不十分なときは、研磨加工中に被研磨物の横ずれが生じるため、被研磨物を平坦に研磨加工することが難しくなる。この横ずれを抑制するため、保持パッドの周縁に沿って、被研磨物を挿入可能な開口が形成されたテンプレートを取り付けた保持具が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図4に、従来用いられていた保持具の断面を示す。
図4に示すように、従来用いられていた保持具は、円板形状の保持パッド101の底面の周縁部に沿って、リング状の枠材103を取り付けて構成されている。そしてこの枠材103の内部に被研磨物Wを収容し、被研磨物Wを研磨パッド105に押し当てて被研磨物Wを保持している。被研磨物Wを研磨する際、保持パッド101に所定の研磨圧を加える必要があり、被研磨物Wの厚さを均一にするためには、被研磨物Wを研磨パッド105に押し当てる力を垂直にし、且つ均一にする必要がある。そして被研磨物Wを研磨パッド105に押し当てる力を垂直にし、且つ均一にするためには、保持パッド101を被研磨物に押し当てる力も垂直にし、且つ均一にする必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来用いられていた保持具では、被研磨物Wを研磨パッド105に押し当てる力を垂直にし、且つ均一にすることが困難であった。一般的にリング状の枠材103の厚さt1は、被研磨物Wの厚さt2よりも薄くする必要があるが、枠材103内に被研磨物Wを収容して、枠材103の底面と被研磨物の底面が研磨パッドの表面に押し当てると、保持パッド101の厚さは不均一になる。この場合、被研磨物Wと接触している保持パッドの内側部101aの厚さt3が、枠材103が取り付けられている保持パッド101の外側部101bの厚さt4よりも薄くなる。これにより、外側部101bと内側部101aとの間に段差G及び傾斜面107が形成される。そして保持パッド101に段差G及び傾斜面107が形成されると、保持パッド101の外側部101bと内側部101aとの間で延びる傾斜面107が被研磨物Wに接触して垂直方向に対して傾斜した力F1を加えてしまう。
【0007】
また、保持パッド101に傾斜面107が形成されると、保持パッドの内側部101aが、保持パッド101の外側部101bによって下向きに引っ張られてしまう。そして保持パッドの内側部101aが下向きに引っ張られると、保持パッドの内側部101aが被研磨物Wに加える力が増加してしまい、被研磨物Wを研磨パッド105に押しつける力が増加してしまう。保持パッドの内側部101aが被研磨物Wを研磨パッド105に押しつける力F2は、保持パッド101の全面において均一ではなく、下向きの引っ張り力の作用点である傾斜面107からの距離に応じて異なり、被研磨物Wの周縁において強くなり中央において弱くなる。そして、保持パッドから被研磨物に対して、傾斜方向に力F1が加わったり、不均一な力F2が加わったりすると、被研磨物Wを研磨パッド105に押し当てる力が不均一になり、結果として、被研磨物の厚さを均一にすることが困難であった。
【0008】
そこで本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、保持パッドが被研磨物に対して加える力をほぼ垂直にし、且つ均一にすることによって、被研磨物の厚さを均一にすることができる保持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明は、発泡性ポリウレタンで形成された保持パッドと、この保持パッドにおける被研磨物に押し当てられる底面の周縁部に沿って取り付けられ前記被研磨物の厚さよりも薄い、リング形状の枠材とを備え、前記保持パッドの前記底面には、前記枠材の内周に沿って切り込みが形成されて
おり、切り込みの幅は、保持パッドを所定の圧力で被研磨物に押し当てて保持パッドの切り込みよりも内側の内側部が圧縮されて周方向外側に広がったときに、変形した内周部の側面が、切り込みの外側の外側部の側面に接触できるように寸法決めされている。
【0010】
このように構成された本発明によれば、発泡性ウレタンで形成された保持パッドに切り込みを形成することができ、この切り込みを形成することによって、保持パッドが被研磨物に対して加える力をほぼ垂直にし、且つ均一にすることができる。即ち、保持パッドにリング形状の切り込みを形成することによって、保持パッドを外側部と内側部に実質的に分割することができる。
【0011】
上述したように、従来用いられていた保持具では、保持具の枠材内に被研磨物を収容して研磨パッドに押し当てると、枠材と接触している保持パッド外側部の厚さが被研磨物と接触している保持パッド内側部の厚さよりも厚くなり、保持パッドには、傾斜面が形成される。これに対して、保持パッドの外側部と保持パッドの内側部との間に切り込みを形成して両者を分離することによって、保持具を研磨パッドに押し当てたときに、保持パッドの外側部と、保持パッドの内側部との間に傾斜面が形成されなくなる。これにより、保持パッドの内側部以外の部分が被研磨物に接触するのを防止することができる。また、保持パッドの外側部と、保持パッドの内側部が分離することによって、保持パッドの外側部が、保持パッドの内側部の変形によって周方向内側に引っ張られるのを防止することができる。これにより、被研磨物の周縁部において保持パッドから被研磨物に加わる力が増加するのを防止することができ、保持パッドが被研磨物に加える力を保持パッドの内側部全面にわたって均一にすることができる。
【0013】
さらにまた、このように構成された本発明によれば、保持パッドに形成されている切り込み幅を小さくすることができる。そして切り込みの幅を小さくすることによって、保持パッドの切り込みの内側部が被研磨物によって圧縮されて周方向外側に広がろうとしても、保持パッドの外側部の側面に接触するので、内側部の広がりを抑制することができる。そして保持パッドの内側部が周方向外側に広がりを抑制することによって、保持パッドの内側部の厚さを保持パッドの内側部の全面にわたってほぼ均一に保つことができる。
【0014】
例えば、特許文献2に記載された構造では、保持パッドの外側部と保持パッドの内側部との間に所定の幅を有する溝が形成されている。しかしながら、保持パッドに、所定の幅を有する溝を形成すると、保持パッドの内側部が圧縮されて外周方向に変形し易くなってしまう。そして保持パッドが外周方向に変形する場合、保持パッドの内側部の側面付近の変形量が多くなり、その結果、保持パッドの内側部の側面付近において保持パッドが被研磨物に加えられる力が弱くなってしまう。したがって、特許文献2に記載されたような構造では、保持パッドが被研磨物に加える力を均一にすることができない。これに対して本発明では、切り込みの幅を、保持パッドの切り込みよりも内側の内側部分が圧縮されて外周方向に拡がったときに、変形した内周部分の側面が、切り込みの外側の外側部分の側面に接触できるように寸法決めしているので、保持パッドが被研磨物に加える力を保持パッドの内側部全面にわたってより均一にすることができる。
【0015】
また、特許文献2に記載された構造では、保持パッドの外側部と保持パッドの内側部との間の溝が所定の幅を有しているので、研磨時に保持パッドの内側部が変形し易くなってしまう。そしてこれにより、研磨時に保持パッドによって十分に被研磨物を固定することができず、横ずれを起こしてしまう場合があるが、本発明のように保持パッドの内側部分と外側部分との間の切り込みを狭くすることによって、研磨時の内側部分の変形を抑制することができる。そしてこれにより、被研磨物の横ずれを防止することができる。
【0016】
さらに、特許文献2に記載された構造では、保持パッドの外側部と保持パッドの内側部との間の溝が所定の幅を有しているので、溝内にスラリーが滞留し易くなる。そして溝内にスラリーが滞留すると、スラリー中の粒子により凝集物が形成され易くなり、その結果凝集物によって被研磨物にスクラッチが形成され易くなる。これに対して本発明のような狭い切込みを形成することによって、内部にスラリーが滞留するのを抑制することができ、これにより被研磨物がスラリー中の粒子により形成される凝集物によって傷つけられるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように本発明によれば、保持パッドが被研磨物に対して加える力をほぼ垂直にし、且つ均一にすることができ、これにより、被研磨物の厚さを均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態による保持具が適用される片面研磨機の一例を示す斜視図。
【
図2】本発明の実施形態による研磨ヘッドの要部断面図。
【
図3】本発明の実施形態による保持具によってウェハを研磨パッド上に保持している状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による保持具について説明する。
図1は、保持具が適用される片面研磨機の一例を示す斜視図である。
【0020】
まず、
図1に示すように、片面研磨機1は、上面に研磨パッド3が固定された研磨定盤5を備える。研磨定盤5の底にはシャフト7が設けられており、研磨定盤5は、シャフト7の軸周りに自転できるように構成されている。研磨パッド3の上には、シャフト7の軸から偏心した位置に複数の研磨ヘッド9が配置されている。研磨ヘッド9と研磨パッド3との間には、被研磨物として例えばウェハが保持されている。
【0021】
図2は、研磨ヘッドの要部断面図である。
研磨ヘッドは、基部11を備えており、この基部11の底面には、本発明の実施形態による保持具13が取り付けられている。保持具13は、発泡性ポリウレタンで形成された保持パッド15と、保持パッド15の外周に取り付けられた枠材17とを備えている。
【0022】
保持パッド15は、円板形状を有しており、例えば、100%モジュラス(無発泡の樹脂シート2倍長に引っ張ったとき、に掛かる荷重を断面積で割った値)が20MPa以下のポリウレタン樹脂を湿式成膜することで形成されている。そして保持パッド15内部には無数の気泡19が形成されており、この気泡によって保持パッド15のクッション性を向上させている。
【0023】
枠材17は、保持パッド15と同一の外径を有するリング状の部材によって形成されており、その外周が保持パッド15の外周と一致するように、保持パッド15の底面に固定されている。枠材17は、ウェハWを周方向から囲むことで、ウェハWが研磨ヘッド9と研磨パッド3との間から離脱するのを防止する。従って、枠材17の内径は、ウェハWの外径よりも僅かに大きい。また、枠材17の厚さは、ウェハWの厚さよりも薄くされている。このような枠材17は、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂にガラス繊維等の繊維材を含有させて形成されている。
【0024】
保持パッド15は、さらに、その底面に形成された切り込み21を備える。切り込み21は、リング形状を有しており、保持パッド15と同心状に形成されている。切り込み21は、保持パッド15に枠材17を固定したときに、枠材17の内周に沿う位置に形成されている。この切り込み21は、所定の径を有するリング形状の刃物を保持パッド15に押し当てることによって形成されている。また、切り込み21は、保持パッド15の底面から保持パッド15の上面まで達しない深さを有している。切り込み21の深さは、例えば保持パッド15の厚さの50〜80%に達していることが好ましい。また、切り込み21の幅は、0.1〜1.0mm程度であることが好ましいが、スラリーの進入を防ぐ観点、被研磨物にかかる応力を均一にする観点より、切り込み21の幅はできる限り狭い方がより好ましい。
【0025】
そして保持パッド15は、切り込み21によって、切り込み21よりも内周側の内側部15aと、切り込み21よりも外周側の外側部15bとに実質的に分けられている。内側部15aは、保持パッド15と同心の円板形状を有しており、外側部15bは、内側部15bを囲むリング形状を有している。そして切り込み21は、保持パッド15の上面まで達していないので、内側部15aと外側部15bは、保持パッドの上面付近で連結されている。
【0026】
図3は、保持具によってウェハを研磨パッド上に保持している状態を示す断面図である。
枠材17の内側にウェハWを収容して保持具13を研磨パッド3に押し当てると、ウェハW及び枠材17によって保持パッド15は変形させられる。そして枠材17は、ウェハWよりも薄いので、枠材17と接触する外側部15bよりもウェハWと接触する内側部15aのほうがより圧縮される。この場合においても、内側部15aと、外側部15bとは、切り込み21によって少なくとも底面が切り離されているので、内側部15aの変形と、外側部15bの変形は、互いの変形に影響を及ぼさない。従って、内側部15aの変形によって外側部15bが引っ張られたり、外側部15bの変形によって内側部15aが引っ張られたりすることはない。これにより、外側部15bが周方向内側に引っ張られてウェハWに、垂直方向に対して傾斜した力を加えるのを防止することができる。また、内側部15aが周方向外側に引っ張られてウェハWに加わる垂直方向の力が不均一になるのを防止することができる。
【0027】
また、保持パッド15は、発泡性ポリウレタンで形成されているので、保持パッド15に圧縮力が加えられても内部の気泡によってある程度、外形の変形を抑制することができるものの、加える圧力によっては、保持パッド15の外形が変形する場合もある。或る圧力下では、内側部15a及び外側部15bは、垂直方向に圧縮され幅方向に膨張する。内側部15aは、幅が広く、且つ圧縮量が少ないため、外側部15bと比較して幅方向への膨張量が微少であるが、その一方で外側部15bの膨張量は多くなる。そこで、切り込み21の幅を十分に狭くして外側部15bが膨張したときに内側部15aに接触するように切り込み21の幅を寸法決めすることによって、外側部15bの膨張を抑制することができる。
【0028】
また、切り込み21の幅を狭くすることによって、スラリーが滞留し難くなる。これにより、切り込み21内部でスラリー中の粒子によって凝集物が形成されるのを抑制することができ、ウェハWが傷つくのを防止することができる。
【符号の説明】
【0029】
13 保持具
15 保持パッド
15a 内側部
15b 外側部
17 枠材
21 切り込み