特許第5935998号(P5935998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5935998型締装置の異常診断方法および型締装置の異常診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5935998
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】型締装置の異常診断方法および型締装置の異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/66 20060101AFI20160602BHJP
   B29C 45/84 20060101ALI20160602BHJP
   B25J 17/00 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   B29C45/66
   B29C45/84
   B25J17/00 H
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-260623(P2012-260623)
(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-104689(P2014-104689A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】宇部興産機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100152261
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】中川 雅之
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−254218(JP,A)
【文献】 特開平11−170260(JP,A)
【文献】 特開平04−259523(JP,A)
【文献】 特開平06−055595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 − 33/76
B29C 39/26 − 39/36
B29C 41/38 − 41/44
B29C 43/36 − 43/42
B29C 43/50
B29C 45/00 − 45/84
B29C 49/48 − 49/56
B29C 49/70
B29C 51/30 − 51/40
B29C 51/44
B25J 1/00 − 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定プラテンに対してリンクハウジングを基点として可動プラテンを進退させるトグル機構を備え、前記トグル機構は、前記可動プラテンの進退方向に沿って配置されるガイドロッドに対してガイドロッドブッシュを介して挿通されると共に、駆動機構のロッドに接続されるクロスヘッドと、リンクハウジングに接続されたミッドリンクと、前記可動プラテンに接続されたトグルリンク、および前記クロスヘッドと前記ミッドリンクを接続するクロスヘッドリンクを前記ロッドを基点として線対称に配置している型締装置の異常診断方法であって、
前記ガイドロッドブッシュの許容荷重に基づいて、前記クロスヘッドリンクを介して前記クロスヘッドの上下に負荷される応力の許容差を求める工程と、
規定型締力を生じさせる型締時に、前記クロスヘッドリンクに生ずる圧縮方向の歪量に基づいて、前記クロスヘッドの上下に負荷される実測応力差を求める工程と、
前記実測応力差の絶対値が、前記応力の許容差の絶対値以上である場合に、前記トグル機構の保守・点検が必要と判定する工程と、
を有することを特徴とする型締装置の異常診断方法。
【請求項2】
前記応力の許容差は、前記クロスヘッドの寸法と、前記ガイドロッドブッシュの寸法、前記ガイドロッドブッシュのPV値、およびトグル機構を動作させる駆動機構による動作速度に基づいて求められることを特徴とする請求項1に記載の型締装置の異常診断方法。
【請求項3】
前記実測応力差は、前記クロスヘッドリンクの断面積と、前記クロスヘッドリンクの構成部材のヤング率を乗算した値に、型締め時に前記クロスヘッドの上側に配置された前記クロスヘッドリンクに生ずる圧縮方向の歪量と下側に配置された前記クロスヘッドリンクに生ずる圧縮方向の歪量との差分を乗算することで求めることを特徴とする請求項1または2に記載の型締装置の異常診断方法。
【請求項4】
前記クロスヘッドリンクの前記歪量は応力計測手段により計測し、
前記応力計測手段は、少なくとも前記実測応力差を求める工程の前に前記クロスヘッドリンクへの取り付けを成し、
前記トグル機構の保守・点検が必要と判定する工程を終えた後に取り外すことを特徴とする請求項3に記載の型締装置の異常診断方法。
【請求項5】
前記クロスヘッドリンクが複数存在する前記トグル機構において前記トグル機構の保守・点検が必要であるとの判定が成された場合に、
各クロスヘッドリンクの前記歪量の多寡に基づいて、前記実測応力差を生じさせている要因となる前記クロスヘッドリンクを特定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の型締装置の異常診断方法。
【請求項6】
固定プラテンに対してリンクハウジングを基点として可動プラテンを進退させるトグル機構を備え、前記トグル機構は、前記可動プラテンの進退方向に沿って配置されるガイドロッドに対してガイドロッドブッシュを介して挿通されると共に、駆動機構のロッドに接続されるクロスヘッドと、リンクハウジングに接続されたミッドリンクと、前記可動プラテンに接続されたトグルリンク、および前記クロスヘッドと前記ミッドリンクを接続するクロスヘッドリンクを前記ロッドを基点として線対称に配置されている型締装置の異常診断装置であって、
前記クロスヘッドリンクの圧縮方向の歪量を計測する応力計測手段と、
前記ガイドロッドブッシュの許容荷重に基づいて、前記クロスヘッドの上下に負荷される応力の許容差を求めると共に、規定型締力を生じさせる型締工程において前記応力計測手段によって計測された前記クロスヘッドリンクの前記歪量に基づいて、前記クロスヘッドの上下に負荷される実測応力差を求め、前記実測応力差の絶対値が、前記応力の許容差の絶対値以上である場合に、前記トグル機構の保守・点検が必要と判定する解析手段と、
少なくとも前記解析手段による解析結果を視認可能な状態で表示する出力手段と、
を備えたことを特徴とする型締装置の異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型締装置の異常診断方法および装置に係り、特にダイカストマシンや樹脂射出成型機等に用いられる機構であるトグル機構の経年変化に対する保守・点検の要否判定を行う場合に好適な型締装置の異常診断方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカストマシンや樹脂射出成型機等に用いられる型締機構1に附帯するトグル機構2は、図11に示すように、固定プラテン3に対して可動プラテン4を進退させ、固定プラテン3に取り付けられた金型5aと可動プラテンに取り付けられた金型5bとの開閉を成す機構である。
【0003】
トグル機構2は、可動プラテン4とリンクハウジング6との間に配置され、リンクハウジング6に取り付けられた駆動機構7(例えば油圧シリンダ)により動作する。トグル機構2は、トグルリンク2aとミッドリンク2b、クロスヘッドリンク2c、およびクロスヘッド2dを主体として構成される。トグルリンク2aは、一方の端部が可動プラテン4に接続され、他方の端部がミッドリンク2bに接続されるリンクである。また、ミッドリンク2bは、一方の端部がリンクハウジング6に接続され、他方の端部がトグルリンク2aに接続されるリンクである。また、クロスヘッドリンク2cは、一方の端部をミッドリンク2bに接続され、他方の端部をクロスヘッド2dに接続されるリンクである。さらにクロスヘッド2dは、駆動機構7(駆動機構が油圧シリンダである場合にはロッド)に接続される接続部である。
【0004】
トグル機構2では、上記のような構成から成るリンク機構をクロスヘッド2dを基点として上下線対称に配置することで構成されている。このような基本構成を有するトグル機構2は通常、クロスヘッド2dの上下に配置された各リンク機構が対称に動作することで、型5a,5bの開閉がなされる。ところが、何らかの原因により、トグル機構2に上下方向の過大なアンバランス力が生じると、クロスヘッド2dの摺動部に配置されているガイドロッドブッシュ(不図示)の摩耗が進展し、クロスヘッド2dがリンクハウジング6(又は可動プラテン4)の方に傾倒する。これにより、トグル機構2の上下における幾何学的対称が損なわれ、型締時に上(又は下)のリンク(トグルリンク2aとミッドリンク2b)が、一直線の状態(デッドポイント)を超え過剰に折れ曲がってしまう、トグルロックアップという状態に陥る場合がある。このような状態に陥った場合、リンクを一直線の状態に戻してからでないと型開きの動作に入ることができないため、駆動機構7の出力だけでは型開きができなくなってしまう。
このような状況に陥ることを防止するために、型締装置の保守・点検時期の目安を求めるための発明が特許文献1、2に開示されている。
【0005】
特許文献1には、トグル機構を構成する各リンクや、ガイドロッド等に歪みゲージを貼付し、型締時に各リンクに負荷される応力を用いて保守・点検時期の判定を行う技術が開示されている。この技術では、各歪みゲージによる計測値に基づいて算出される応力と、各リンクに負荷される応力と摩耗量との関係が示されたデータベースを構築している。そして、歪ゲージによって得られる計測値に基づいて、トグル機構を構成する各リンクの摩耗量を求め、保守・点検時期の判断を行うことが開示されている。
【0006】
特許文献2には、レーザ照射器等の非接触式の変位センサを用いて、保守・点検時期の判定を行う技術が開示されている。具体的には、クロスヘッドの移動をガイドするガイドロッドの位置決めを成すガイドロッド固定板に、非接触式の変位センサを配置している。そして、この非接触式の変位センサにより、クロスヘッドの上下における距離を計測することで、クロスヘッドの傾きを求める。クロスヘッドの傾きは、クロスヘッドの上下に配置されたリンクのバランスの崩れに起因するものである。このため当該技術では、クロスヘッドの傾きが所定の閾値を超えた場合には、保守・点検が必要であることを示す趣旨の警告を発する。なお、特許文献2では、ガイドロッド固定板の他に、リンクハウジングに変位センサを設け、可動プラテンとリンクハウジングとの距離を計測し、可動プラテン自体の傾きに基づいて保守・点検の要否判定を行うことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4449049号公報
【特許文献2】特願2011−5796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に開示されている技術は、確かに保守・点検時期の目安を得るのに有用な技術である。しかし、特許文献1に開示されている技術では、応力の計測値と実機の摩耗量との関係を示すデータベースを得る必要がある。このため、応力計測値と摩耗量との関係を実測した経験の無い機種には、対応することができないという問題がある。
【0009】
また、特許文献2に開示されている技術では、クロスヘッド、あるいは可動プラテンに傾きが有るか否かといったトグル機構、あるいは型締装置全体としての結果を得ることしかできない。このため、クロスヘッドや可動プラテンに傾きが生じた原因が何処にあるのかということを知ることができないといった問題がある。さらに、実施例ではレーザ光による側距を行っているが、測定面が傾いた場合、レーザ光の反射する方向がズレ、計測に支障を来たす虞がある。
【0010】
さらに、いずれの文献に開示されている技術も、トグルロックアップを生じさせる危険性を判断するための閾値が、経験値等に基づいて定められた、いわゆる定性的なものである。このため、新規の機種などの場合には、安全マージンを必要以上に大きくとる必要があり、故障前に必要十分な保守・点検を行うことを目的としたプリメンテナンスのメリットを十分に引き出すことができない場合があった。
【0011】
そこで本発明では、保守・点検の要否判定に用いる基準値を定量的なものとし、型締機構の新旧等に関わり無く、その仕様に応じてプリメンテナンスのメリットを引き出すことのできる型締装置の異常診断方法、および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係る型締装置の異常診断方法は、固定プラテンに対してリンクハウジングを基点として可動プラテンを進退させるトグル機構を備え、前記トグル機構は、前記可動プラテンの進退方向に沿って配置されるガイドロッドに対してガイドロッドブッシュを介して挿通されると共に、駆動機構のロッドに接続されるクロスヘッドと、リンクハウジングに接続されたミッドリンクと、前記可動プラテンに接続されたトグルリンク、および前記クロスヘッドと前記ミッドリンクを接続するクロスヘッドリンクを前記ロッドを基点として線対称に配置している型締装置の異常診断方法であって、前記ガイドロッドブッシュの許容荷重に基づいて、前記クロスヘッドリンクを介して前記クロスヘッドの上下に負荷される応力の許容差を求める工程と、規定型締力を生じさせる型締時に、前記クロスヘッドリンクに生ずる圧縮方向の歪量に基づいて、前記クロスヘッドの上下に負荷される実測応力差を求める工程と、前記実測応力差の絶対値が、前記応力の許容差の絶対値以上である場合に、前記トグル機構の保守・点検が必要と判定する工程と、
を有することを特徴とする。
【0013】
また、上記のような特徴を有する型締装置の異常診断方法において、前記応力の許容差は、前記クロスヘッドの寸法と、前記ガイドロッドブッシュの寸法、前記ガイドロッドブッシュのPV値、およびトグル機構を動作させる駆動機構による動作速度に基づいて求めるようにすると良い。
このような設計上の仕様に基づいて応力の許容差を求めることにより、型締装置の新旧等に関わらず、診断の基準値を定量的に求めることができる。
【0014】
また、上記のような特徴を有する型締装置の異常診断方法において、前記実測応力差は、前記クロスヘッドリンクの断面積と、前記クロスヘッドリンクの構成部材のヤング率を乗算した値に、型締め時に前記クロスヘッドの上側に配置された前記クロスヘッドリンクに生ずる圧縮方向の歪量と下側に配置された前記クロスヘッドリンクに生ずる圧縮方向の歪量との差分を乗算することで求めるようにすることができる。
このようにして、実測応力差を求めるようにすれば、トグルリンクの構成、すなわちクロスヘッドの数等に関わらず、実測応力差を求めることが可能となる。
【0015】
また、上記のような特徴を有する型締装置の異常診断方法では、前記クロスヘッドリンクの前記歪量は応力計測手段により計測し、前記応力計測手段は、少なくとも前記実測応力差を求める工程の前に前記クロスヘッドリンクへの取り付けを成し、前記トグル機構の保守・点検が必要と判定する工程を終えた後に取り外すようすることができる。
このような方法とすることによれば、通常の稼動時に、応力計測手段等の配線(ケーブル)が、型締動作や成型動作の妨げになるといった虞が無くなる。
【0016】
さらに、上記のような特徴を有する型締装置の異常診断方法では、前記クロスヘッドリンクが複数存在する前記トグル機構において前記トグル機構の保守・点検が必要であるとの判定が成された場合に、各クロスヘッドリンクの前記歪量の多寡に基づいて、前記実測応力差を生じさせている要因となる前記クロスヘッドリンクを特定するようにしても良い。
このような方法を採ることにより、クロスヘッドを傾倒させる要因となったクロスヘッドリンクを容易に特定することができる。よって、保守・点検の作業を行うにあたり、全てのクロスヘッドリンクを分解、点検した上で、クロスヘッドを傾倒させる要因となったクロスヘッドリンクを特定するための検査、検討を行うといった無駄を無くすことができる。
【0017】
また、上記目的を達成するための型締装置の異常診断装置は、固定プラテンに対してリンクハウジングを基点として可動プラテンを進退させるトグル機構を備え、前記トグル機構は、前記可動プラテンの進退方向に沿って配置されるガイドロッドに対してガイドロッドブッシュを介して挿通されると共に、駆動機構のロッドに接続されるクロスヘッドと、リンクハウジングに接続されたミッドリンクと、前記可動プラテンに接続されたトグルリンク、および前記クロスヘッドと前記ミッドリンクを接続するクロスヘッドリンクを前記ロッドを基点として線対称に配置されている型締装置の異常診断装置であって、前記クロスヘッドリンクの圧縮方向の歪量を計測する応力計測手段と、前記ガイドロッドブッシュの許容荷重に基づいて、前記クロスヘッドの上下に負荷される応力の許容差を求めると共に、規定型締力を生じさせる型締工程において前記応力計測手段によって計測された前記クロスヘッドリンクの前記歪量に基づいて、前記クロスヘッドの上下に負荷される実測応力差を求め、前記実測応力差の絶対値が、前記応力の許容差の絶対値以上である場合に、前記トグル機構の保守・点検が必要と判定する解析手段と、少なくとも前記解析手段による解析結果を視認可能な状態で表示する出力手段と、を備えるようにすると良い。
【発明の効果】
【0018】
上記のような特徴を有する型締装置の異常診断方法、および装置によれば、保守・点検の要否判定に用いる基準値を定量的なものとし、型締機構の新旧等に関わり無く、その仕様に応じてプリメンテナンスのメリットを引き出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る型締装置の異常診断装置の構成を示す図である。
図2】実施形態に用いる型締装置の側面構成を示す図である。
図3】実施形態に用いる型締装置の上面構成を示す図である。
図4】応力測定手段を取り付けた状態のトグル機構、およびタイバーを正面から見た場合の構成を示す図である。
図5】応力測定手段を取り付けた状態のトグル機構を側面から見た場合の構成を示す図である。
図6】ガイドロッドブッシュが1つの場合のクロスヘッドの構成を示す部分断面側面図である。
図7】ガイドロッドブッシュが2つの場合のクロスヘッドの構成を示す部分断面側面図である。
図8】型締工程時に、タイバーとクロスヘッドリンクに負荷される応力の方向を示す図である。
図9】型締限に至った後にタイバーとクロスヘッドリンクに負荷される応力の方向を示す図である。
図10】型締工程時に、タイバーとクロスヘッドリンクに負荷される応力(歪量)の一例を示すグラフである。
図11】型締装置において、トグルロックアップが生じた様子を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の型締装置の異常診断方法および型締装置の異常診断装置に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、図2図3を参照して、本発明を実施するためのトグル機構を備えた型締装置40について説明する。なお、図2は、実施形態で使用する型締装置の側面構成を示す図であり、図3は、同上面構成を示す図である。
【0021】
本発明の実施対象とする型締装置40は、ベース42と、固定プラテン44、可動プラテン46、リンクハウジング48、タイバー50、およびトグル機構52を基本として構成される。
ベース42は、型締装置全体を搭載する基盤である。固定プラテン44は、ベース42上に配置される固定盤であり、後述する可動プラテン46と対向面側に、ダイカストや射出成型用の金型100の一方(一方の金型100a)が固定されている。
【0022】
可動プラテン46は、ベース42上を摺動可能な移動盤である。可動プラテン46の一方の面、具体的には、固定プラテン44との対向面には、固定プラテン44に固定されている金型100の他方(他方の金型100b)が固定されている。このような配置構成とすることにより、可動プラテン46を固定プラテン44に近接させることで、2つの金型(一方の金型100aと他方の金型100b)が組み合わされ、金型100の内部には、成型用のキャビティが構成される。
【0023】
リンクハウジング48は、固定プラテン44との間に可動プラテン46を挟み込むように配置され、ベース42上を摺動可能としつつ、型締時には固定状態とされる半移動盤である。リンクハウジング48には、盤面に貫通孔48aが設けられていると共に、後述するトグル機構52の駆動機構54が備えられている。駆動機構54としては、油圧シリンダが備えられており、可動プラテン46が配置されている側の面と反対側の面にシリンダ54aを配置し、ロッド54bが、貫通孔48aを介して可動プラテン配置側側面から突出するように固定されている。
【0024】
タイバー50は、固定プラテン44、可動プラテン46、およびリンクハウジング48を貫くように、配置されたロッドである。タイバー50は、操作側、反操作側のそれぞれの上部と下部に配置されている。タイバー50の固定ハウジング側端部には固定ナット50aが設けられ、リンクハウジング側端部には可動ナット50bが設けられている。可動ナット50bは、図示しないダイハイト調整装置によって回転させることが可能で、金型の型厚に応じてリンクハウジング48およびトグル機構52の位置を移動させることができる。
【0025】
トグル機構52は、トグルリンク56、ミッドリンク58、クロスヘッドリンク60、およびクロスヘッド62を基本として構成され、クロスヘッド62には、ガイドロッド64が挿通される。
【0026】
トグルリンク56は、可動プラテン46側に配置されるリンクであり、一方の端部を回動可能な状態で、可動プラテン46に対してピン結合している。また、トグルリンク56の他方の端部は、詳細を後述するミッドリンク58に、回動可能な状態でピン結合している。トグルリンク56の結合部である両端部は、いずれも櫛歯状に形成され、櫛歯の凹凸に合わせて結合部材を介入する構成が採られている。
【0027】
ミッドリンク58は、リンクハウジング48側に配置されるリンクであり、一方の端部をリンクハウジング48に、他方の端部をトグルリンク56に、それぞれ回動可能な状態でピン結合している。ミッドリンク58は、トグルリンク56と異なり、リンクハウジング48、およびトグルリンク56における結合部である凹状部の数に合わせた分割部材により構成されており、図3に示す形態では、幅方向に3つのミッドリンク58が備えられている。
【0028】
クロスヘッドリンク60は、ミッドリンク58とクロスヘッド62とを接続するリンクである。このため、クロスヘッドリンク60の一方の端部はミッドリンク58に、他方の端部はクロスヘッド62に、それぞれ回動可能な状態でピン結合している。
【0029】
クロスヘッド62は、駆動機構54である油圧シリンダのロッド54bに接続され、ロッド54bの伸縮に伴う動力により、リンクを動作させる役割を担う。実施形態に係るトグル機構52は、このような構成のリンクが、クロスヘッド62を基点として、型締装置40の上下に、線対称に設けられることで構成されている。上記のようなリンクを線対称に配置することにより、クロスヘッド62の動作(進退動作)に伴い、型締装置40の上側、下側に配置された各リンクが線対称に動作することとなる。これにより、可動プラテン46を傾倒させることなく進退させることができる。
【0030】
ガイドロッド64は、リンクハウジング48を基端として、クロスヘッド62よりも可動プラテン46側となる位置に設けられたガイドロッド固定板66にまで延設された支持ロッドである。ガイドロッド64は、クロスヘッド62を基点として、型締装置40の操作側と反操作側に、線対称に設けられており、それぞれクロスヘッド62の一部を貫通するように配置されている。このような構成とすることで、重力によるクロスヘッド62の落ち込みを抑え、トグル機構52の上下線対称な動作を可能とすることができる。
【0031】
このような構成の型締装置40では、トグル機構52を構成する各リンクの連結部や、摺動部に、滑り軸受けが設けられている。型締装置40では、この滑り軸受けの摩耗や摩滅などにより、トグル機構52を構成する各リンクの動作バランスが崩れ、クロスヘッド62の傾倒が生じ、型締時に、トグルリンク56とミッドリンク58とが一直線を超える動作を成すトグルロックアップ等の異常状態に陥る。このような異常状態の発生を未然に防ぎ、異常発生前に保守・点検を行うことを目的として、本発明の型締装置の異常診断装置10が用いられる。よって、本実施形態に係る型締装置の異常診断装置10は、型締装置40に対して常設である必要性は無く、必要に応じて設置、診断が行えるものであれば良い。
【0032】
以下、上記のような基本構成を有する型締装置40に用いる、本発明の型締装置の異常診断装置についての実施形態を説明する。実施形態に係る型締装置の異常診断装置(以下、単に異常診断装置10と称す)は、図1に示すように、応力計測手段22と、記録手段20、解析手段12、および出力手段26を備えるように構成されている
【0033】
本実施形態では、応力計測手段22として、歪みゲージ(strain gauge)を採用している。計測対象物の変化を直接測定することで、その変化を確実かつ精度良く検出することが可能となるからである。
【0034】
実施形態において応力計測手段22は少なくとも、タイバー50と、クロスヘッドリンク60に、それぞれ設ける構成とする。タイバー50に対する応力計測手段22の配置は、クロスヘッドリンク60に負荷される応力(歪量)を計測する際に、型締装置40が規定の型締力を生じさせているということを確認するためのものである。型締力の多寡によって、各リンクに掛かる負荷は変動する。このため、成型を行う際に掛けられる型締力を生じさせる状態で、保守・点検の必要性を判定しなければ、プリメンテナンスの意味を成さないからである。
【0035】
このため、タイバー50に設ける応力計測手段22は、計測される歪量に基づいて、型締装置40が規定の型締力を生じさせていることができれば、良く、その設置数や設置箇所を具体的に問うものでは無い。なお、一例として本実施形態では、4本のタイバー50それぞれに、4つずつの応力計測手段22を配置することとしている。具体的な配置箇所は図4に示すように、タイバー50の径方向断面において、水平軸、および垂直軸と外径線が交わる位置から、約45度回転させた位置にあたる外径上の4箇所としている。このような配置形態とすることで、各タイバー50について、操作側と反操作側のそれぞれに関し、上下の伸び縮みに関する応力を計測することが可能となる。
【0036】
クロスヘッドリンク60に対する応力計測手段22の配置は、型締動作時にクロスヘッドリンク60に負荷される圧縮方向の応力(歪量)を計測することを目的とするものである。クロスヘッドリンク60への応力負荷は、その長さ方向に対するものに限定される。よって、クロスヘッドリンク60には、その側面に、長さ方向に沿って計測部が配置されるように、応力計測手段22が設けられる(図5参照)。
【0037】
記録手段20は、応力計測手段22からの電気信号を時系列的な応力波形として得るための測定手段であり、例えばメモリハイコーダなどであれば良い。記録手段20であるメモリハイコーダと各応力計測手段22との間には、ブリッジボックス24等の端子台を配置すると良い。ブリッジボックス24は、応力計測手段22によって得られる抵抗値の変化を電圧変化信号としてメモリハイコーダへ入力するための変換手段である。
【0038】
解析手段12は、記録手段20によって得られた応力計測値に基づいて、クロスヘッド62におけるガイドロッドブッシュ68(図6参照)に掛かる応力バランスを算出し、保守・点検の必要性を判定するための手段であり、例えばパソコンなどであれば良い。解析手段12は、少なくともインターフェース18と、記憶手段14、および演算手段16を備える。
【0039】
インターフェース18は、記録手段14からの出力信号を、解析手段12への入力信号として得るための要素である。記憶手段14としては、ハードディスクやメモリを挙げることができる。記憶手段14には、解析手段12によって実行される解析を行うための演算プログラムや、キーボードやマウス等の入力手段28を介して入力された型締装置40の設計上の仕様データの他、記録手段20からの応力計測値や、解析結果などが保存される。また、演算手段16としてはCPU(Central Processing Unit)などを挙げることができる。演算手段16は、記憶手段14に記憶された演算プログラムを実行し、指定された領域に保存された応力計測値等のデータを、該当する数値を必要している項に当てはめることで、保守・点検の要否を解析し、その結果を出力手段26に出力する。
【0040】
解析手段12では、記録手段20から出力された応力計測値としての信号が、インターフェース18を介して入力されると、バスを介して接続された記憶手段14にデータとして保存される。記憶手段14に保存されたデータは、バスを介して接続された演算手段16によって実行される演算プログラムにおいて、実測データとして利用される。
【0041】
出力手段26は、記録手段20や解析手段12によって得られた測定データや算出データ、保守・点検の必要性に関する判定結果等を視認可能に出力するための手段である。出力手段26としては、記録手段20や解析手段12に接続、あるいは内蔵されたモニタや、プリンタ等であれば良い。
【0042】
本実施形態に係る異常診断装置10ではまず、トグル機構52を構成するクロスヘッド62の上下に負荷される応力の許容差である許容アンバランス力[N]を求める。許容アンバランス力[N]は、型締装置40を構成する要素の設計上の仕様に基づいて求めることができる。
【0043】
許容アンバランス力F[N]を求める最初の工程として演算手段16では、ガイドロッドブッシュ68の内周側投影面の面積S[mm]を求める。ここで、面積S[mm2]は、数式1で示すように、ガイドロッドブッシュ68の内径A[mm]と、ガイドロッドブッシュの長さB[mm]を乗算することで求めることができる。
【数1】

・・・(数式1)
【0044】
よって、解析手段12に入力する仕様データとしては、まず、ガイドロッドブッシュ68の内径A[mm]と、ガイドロッドブッシュ68の長さB[mm]が必要である。ここで、図6に示す例では、使用されているガイドロッドブッシュ68が1つの(片側あたり)クロスヘッド62の場合を例に示している。このような構成の機種の場合、入力するBの値は、予め1/2倍して入力するようにする。なお、ガイドロッドブッシュ68が、直列に2つ配置されているような大型の型締装置の場合(図7参照)には、Bの値をそのまま数式1に代入すれば良い。
【0045】
次に、ガイドロッドブッシュ68の性能指標の1つであるPV値[N/mm・m/s]を確認し、仕様データとして解析手段12へ入力する。PV値とは、P:軸受け面圧に、V:軸の周速(回転数×軸径)を乗算した値であり、軸受けの許容使用範囲を示す値である。なお、PV値は、各ブッシュの仕様表などにより確認することができる。
【0046】
次に、型締装置40の型締動作で使用する作動油流量Q[L/min]を確認し、仕様データとして解析手段12へ入力する。なお、作動油流量Qについては、型締装置40の仕様に基づいて確認する。
【0047】
次に、型締に用いる駆動機構54である油圧シリンダの内径D[mm]を確認し、仕様データとして解析手段12へ入力する。ここで、内径D[mm]は、油圧シリンダのヘッド側における内径とする。型締動作に用いられる油室は、ロッド54bを押し出すために用いられるヘッド側油室だからである。内径D[mm]については、型締装置40の仕様、あるいは油圧シリンダの仕様を確認することにより得ることができる。
【0048】
次に、演算手段16は、駆動機構54である油圧シリンダの動作速度V[m/s]を算出する。動作速度Vの算出は、作動油量Q[L/min]を油圧シリンダの断面積で除算することにより得ることができる。ここで、油圧シリンダにおけるヘッド側油室の内径はD[mm]であるから、その断面積はπ×D/4[mm]となる。このため、各項の単位を合わせると、動作速度Vは、数式2のように示すことができる。
【数2】

・・・(数式2)
【0049】
油圧シリンダの動作速度Vを算出した後、演算手段16は、ガイドロッドブッシュ68の許容面圧P[MPa]を求める。ガイドロッドブッシュ68の許容面圧Pは、数式3に示すように、PV値を動作速度Vで除算することによって得ることができる。
【数3】

・・・(数式3)
【0050】
次に、演算手段16は、算出した許容面圧Pを利用して、ガイドロッドブッシュ68の許容荷重F[N]を求める。許容荷重F[N]は、許容面圧がガイドロッドブッシュ68の投影面積S[mm]に掛かる荷重であるから、数式4のように示すことができる。
【数4】

・・・(数式4)
【0051】
その後、演算手段16は、許容アンバランス力F[N]を求める。許容アンバランス力F[N]は、クロスヘッド62の操作側と反操作側に設けられたガイドロッドブッシュ68それぞれに作用する許容応力差をF[N]とすると、2×Fと示すことができる。そして、図6に示すような力の吊り合いの関係より、F[N]とF[N]、およびF[N]の間には、数式5および数式6の関係が成り立つこととなる。
【数5】

・・・(数式5)
【数6】

・・・(数式6)
【0052】
ここで、L[mm]は、F[N]が負荷される位置、すなわちクロスヘッドとクロスヘッドリンクとの連結点の中心からガイドロッドブッシュ68における可動プラテン46側端部までの距離である。また、L[mm]は、F[N]が負荷される位置からガイドロッドブッシュ68におけるリンクハウジング48側端部までの距離である。よって、これらの寸法も、型締装置40の仕様データとして、解析手段12へ入力しておく必要がある。
【0053】
演算手段16は、数式5と数式6に基づいてF[N]を求めると共に、F[N]とF[N]の関係より、許容アンバランス力F[N]を求める。許容アンバランス力F[N]は、数式7として求めることができる。
【数7】

・・・(数式7)
【0054】
上記のような計算により求められる許容アンバランス力F[N]は上述したように、解析手段12に対して入力手段28により、ガイドロッドブッシュ68の内径A[mm]、ガイドロッドブッシュ68の長さB[mm]、ガイドロッドブッシュ68のPV値[N/mm・m/s]、型締動作時における油圧シリンダの作動油量Q[L/min]、油圧シリンダにおけるヘッド側油室の内径D[mm]、およびクロスヘッド62の寸法L[mm]、L[mm]を入力することにより記憶手段14に記憶され、演算手段16を介して算出される。
【0055】
このように、本実施形態における許容アンバランス力F[N]は、ガイドロッドブッシュ68の寸法やクロスヘッド62の寸法等の型締装置40の設計上の仕様に基づいて定量的に算出することができる。このため、型締装置40の新旧に関わらず、求めることができる。
【0056】
許容アンバランス力F[N]の算出と前後して、あるいは許容アンバランス力F[N]の算出と同時に、実測アンバランス力F[N]を求める。実測アンバランス力F[N]は、規定型締力を生じさせている型締昇圧工程時に、クロスヘッド62の上下に掛かる応力の差(実測応力差)である。ここで、型締昇圧工程(型締工程)とは、型タッチから型締限までの動作をいう。型タッチから、型締限までの工程においては、図8に示すように、タイバー50には引張の応力、クロスヘッドリンク60には圧縮の応力がそれぞれ負荷されることとなる。一方、型締限に至った後には、トグルリンク56とミッドリンク58とが一直線上に位置することとなる。このため、タイバー50には継続して引張の応力が作用するものの、クロスヘッドリンク60には、圧縮方向の応力が掛からなくなる。よって、クロスヘッドリンク60の応力計測を行う場合は、型締工程とする必要がある。
【0057】
実測アンバランス力F[N]は、型締昇圧工程時のアンダーピーク値におけるクロスヘッドリンク60に生じる歪に基づいて算出することができる。型締工程にタイバー50やクロスヘッドリンク60に生じる応力の一例を図10に示す。具体的には、クロスヘッドリンク60の断面積(リンク長手方向と直交する方向の軸を持つ面の断面積)S[mm]とクロスヘッドリンク60の構成部材のヤング率Eとを乗算した値に、型締時における上側クロスヘッドリンク60の歪量(操作側の上側クロスヘッドリンクの歪量Sf1[ε]+反操作側の上側クロスヘッドリンクの歪量Sb1[ε])から下側クロスヘッドリンク60の歪量(操作側の下側クロスヘッドリンクの歪量Sf2[ε]+反操作側の下側クロスヘッドリンクの歪量Sb2[ε])を減算した値を乗算することで求めることができる。これを数式として示すと実測アンバランス力F[N]は、数式8のように示すことができる。
【数8】

・・・(数式8)
【0058】
実測アンバランス力F[N]は、解析手段12に対して、入力手段28を介してクロスヘッドリンク60の断面積S[mm]、あるいは断面積S[mm]を求めるための数値を入力し、応力測定手段22を介して各クロスヘッドリンク60に対応した応力値が入力されることで、演算手段16によって算出される。そして、演算手段16によって算出された許容アンバランス力F[N]や実測アンバランス力F[N]は、記憶手段14に保存される。なお、数式8は、クロスヘッドリンク60が2つの場合に対応した数式を示しており、クロスヘッドリンク60の数が異なる場合には、クロスヘッドリンク60の歪量を表す項に若干の変更を加えることで、対応することができる。具体的には、上側クロスヘッドリンク60の歪量の和を求める項と、下側クロスヘッドリンク60の歪量の和を求める項について、それぞれクロスヘッドリンク60の数に合わせた項の増減を行うようにすれば良い。
【0059】
許容アンバランス力F[N]と実測アンバランス力F[N]を算出した後、演算手段16は、記憶手段14から各値を読み出し、両者の比較を行う。両者の比較は、許容アンバランス力F[N]を基準値とした絶対値評価で行い、|F|>|F|である場合にはガイドロッドブッシュ68の保守・点検は不要と判定がなされる。一方、比較の結果が|F|≦|F|となった場合には、ガイドロッドブッシュ68に摩耗や摩滅が生じており、クロスヘッド62の傾きが大きく、トグルロックアップを生じさせる危険性があるとして、ガイドロッドブッシュ68の交換を含む保守・点検が必要であるとの判定がなされる。
保守・点検の判定結果、および必要に応じた算出結果は、解析手段12に附帯された出力手段26に視認可能な状態に表示される。
【0060】
このように、本実施形態に係る異常診断装置10では、型締装置40の設計上の仕様に基づいて定量的に算出することができる許容アンバランス力F[N]を基準値として、その安全性、すなわち保守・点検の要否を判定することとしている。このため、経験値などから定性的に基準値を求めていた従来に比べ、その診断結果の信頼性が高い。また、型締装置の新旧に関わらず、プリメンテナンスのメリットを十分に引き出すことができる。
【0061】
さらに、実測アンバランス力F[N]を求める際には、各クロスヘッドリンク60に生じている歪量を測定しているため、保守・点検が必要であるとの診断結果が出た場合には、その要因(アンバランス力を生じさせている要因)がどのリンクの連結部(ブッシュ)にあるのかを究明することが容易となる。よって、出力手段26には、保守・点検の要否の判定結果と共に、各クロスヘッドリンク60に生じている歪量を表示すると良い。なお、クロスヘッドリンク60の歪量を数値として表示する代わりに、他のクロスヘッドリンク60の歪量に比べて明らかに歪量が小さい(あるいは大きい)クロスヘッドリンク60について、図形描写と共に危険を示唆させる色(例えば赤)を付して表示するようにしても良い。これにより、アンバランス力を生じさせている要因となるクロスヘッドリンク60の判定が成されることとなる。
【0062】
上記のような異常診断装置10では、少なくとも診断時にクロスヘッドリンク60に負荷される歪量(応力)を得ることができれば良い。このため、型締装置40に対して、応力計測手段22を常時設置しておく必要性は無く、必要に応じて、診断時に応力計測手段22を貼り付けるようにすることができる。すなわち、応力計測手段22は、少なくとも実測アンバランス力F[N]を求める工程の前にクロスヘッドリンク60やタイバー50に取り付けるようにすれば良い。そして、トグル機構52の保守・点検を必要とするか否かの判定する工程を終えた後に取り外すようにしても良い。このような手法を採ることにより、通常の稼動時に、応力計測手段22等の配線が、型締動作や成型動作の妨げになるといった虞が無くなる。
【0063】
また、特定の型締装置40を定期的に診断するような場合には、タイバー50やクロスヘッドリンク60の所定位置に、応力測定手段22の検出部(応力測定手段を歪ゲージとした場合には、抵抗体)のみを型締装置40に常時設置する形態を採るようにしても良い。このような構成とした場合には、診断の都度、応力測定手段22の貼り付けと引き剥がしを行う必要性が無く、型締装置40に貼付された応力測定手段22の検出部に対し、検出用のケーブルを端子接続するだけで良い。このため、通常の稼動の妨げになることが無いことはもちろん、診断作業を効率的に行うことが可能となる。
【0064】
なお、実施形態に示した型締装置40は、本発明に係る異常診断装置10による異常診断を実施可能な装置の一例を示すものであり、本発明は、種々の形態の型締装置の異常診断に適応することができることはいうまでも無い。
【符号の説明】
【0065】
10………異常診断装置、12………解析手段、14………記憶手段、16………演算手段、18………インターフェース、20………記録手段、22………応力計測手段、24………ブリッジボックス、26………出力手段、28………入力手段、40………型締装置、42………ベース、44………固定プラテン、46………可動プラテン、48………リンクハウジング、50………タイバー、50a………固定ナット、50b………可動ナット、52………トグル機構、54………駆動機構、54a………シリンダ、54b………ロッド、56………トグルリンク、58………ミッドリンク、60………クロスヘッドリンク、62………クロスヘッド、64………ガイドロッド、66………ガイドロッド固定板、68………ガイドロッドブッシュ、100………金型、100a………一方の金型、100b………他方の金型。
図1
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図7
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図10
図11