特許第5936001号(P5936001)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936001
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】動弁装置のロッカアーム
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/18 20060101AFI20160602BHJP
【FI】
   F01L1/18 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-531149(P2012-531149)
(86)(22)【出願日】2011年10月4日
(86)【国際出願番号】JP2011072867
(87)【国際公開番号】WO2013051111
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2014年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227157
【氏名又は名称】日鍛バルブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀人
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【弁理士】
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 悠
(72)【発明者】
【氏名】菅原 健也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 衛
【審査官】 山田 由希子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第4738231(US,A)
【文献】 特開2005−061240(JP,A)
【文献】 米国特許第4856466(US,A)
【文献】 実開昭62−040207(JP,U)
【文献】 実開昭62−071306(JP,U)
【文献】 特開昭63−302113(JP,A)
【文献】 特開平10−299445(JP,A)
【文献】 米国特許第3690958(US,A)
【文献】 米国特許第3314404(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動中心を形成する支持部材によって揺動可能に支持される係合部と、バルブステムを支持するパッド面を下面に備える支持部と、前記係合部と支持部の双方に連続して設けられると共にカムシャフトのカムを摺接させるカム摺接部をその上面に備える突出部と、を有する天板部と、
前記天板部よりも幅を狭く形成され、前記天板部から略垂直方向に延出するよう設けられた立壁部と、
有する動弁装置のロッカアームにおいて、
前記立壁部は、
前記突出部の中央から下方に突出する一の第一の立壁部と、
前記支持部の前後端から下方に突出する一対の第二立壁部と、
前記一の第一立壁部を一対の第二立壁部に一体化するU字部と、
を有することを特徴とする、動弁装置のロッカアーム。
【請求項2】
前記カム摺接部または前記パッド面のうち少なくとも一方には、摩擦係数低減用の表面処理がなされたことを特徴とする、請求項1に記載の動弁装置のロッカアーム。
【請求項3】
前記天板部の前記カム摺接部を除く位置に少なくとも一以上の孔部が設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の動弁装置のロッカアーム。
【請求項4】
前記立壁部に少なくとも一以上の孔部が設けられたことを特徴とする、請求項1から3のうちいずれかに記載の動弁装置のロッカアーム。
【請求項5】
前記立壁部に設けられた孔部は、前記揺動中心の周りを揺動するカム摺接部の揺動軌道上に設けられたことを特徴とする、請求項4に記載の動弁装置のロッカアーム。
【請求項6】
前記カム摺接部に油溝が設けられたことを特徴とする、請求項1から5のうちいずれかに記載の動弁装置のロッカアーム。
【請求項7】
前記カム摺接部または前記パッド面のうち少なくとも一方の幅方向断面が、凸曲面形状を有することを特徴とする、請求項1から6のうちいずれかに記載の動弁装置のロッカアーム。
【請求項8】
前記立壁部が一対の内壁面を有し、前記一対の内壁面と前記バルブステムの外周面との間には、合計で略0.1mm〜1mmとなる隙間が設けられたことを特徴とする、請求項1から7のうちいずれかに記載の動弁装置のロッカアーム。
【請求項9】
前記突出部は、カム摺接部と、平板部によって構成され、
前記平板部と前記係合部に一体化され、かつ前記平板部と前記係合部の上方に延出形成された、一対のリブを有することを特徴とする、請求項1から8のうちいずれかに記載の動弁装置のロッカアーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムシャフトのカムによって揺動するロッカアームを介してエンジンバルブを開閉させる自動車用エンジンの動弁装置において、燃費の向上と装置の小型化を可能にしたロッカアームの技術である。
【背景技術】
【0002】
エンジンのカムシャフトに一体化されたカムの回転に連動して揺動し、エンジンバルブを上下動させる動弁装置のロッカアームには、下記特許文献1に示すものがある。下記特許文献1のロッカレバー(ロッカアーム)1は、球欠型の凹所2を支持部材3の球状の端部4に係合させることで支持部材3に揺動可能に支持され、かつ図示しないバルブスプリングによって閉弁方向に付勢されたガス交換弁(エンジンバルブ)の基端部(バルブステム)に他端を接触させている。ロッカレバー(ロッカアーム)1の中央部には、回転可能なローラー6が設けられ、ローラー6には、図示しないカムシャフトのカムが接触している。ロッカレバー1は、図示しないカムがローラー6を押し下げることによってエンジンバルブを開弁させ、図示しないバルブスプリングの付勢力によってエンジンバルブを閉弁させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−37719号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般にカムシャフトには、エンジンバルブのバルブスプリングによりバルブステムからカムが受ける閉弁方向の付勢力と、開弁時に前記付勢力に対抗してカムがロッカアームを押し下げる際にカムとロッカアームとの間に発生する摩擦力により、カムシャフトの回転を妨げる方向に摩擦トルクが発生する。前記摩擦トルクは、エンジンの燃費を悪化させるため、特許文献1の動弁装置は、カムシャフトと共に回転するカムをロッカレバー1のローラー6に転がり接触させて、カムとロッカアームとの間に発生する前記摩擦力を低減させることにより、カムシャフトに発生する摩擦トルクを低減させようとするものである。
【0005】
しかし、特許文献1のローラー6は、カムとロッカレバー1との間に発生する摩擦力を低減できる反面、ニードルベアリング等の採用によってロッカレバー1の重量を著しく増加させる。ロッカレバー1の重量の増加は、ロッカレバー1の慣性力を増加させるため、動弁装置においては、閉弁に使用するバルブスプリングのばね荷重を強化する必要が生じる。強化されたバルブスプリングの付勢力は、カムに対するローラー6の押圧力を強めることにより、カムシャフトに発生する摩擦トルクを増加させる。
【0006】
その結果、ローラー6を有するロッカレバー1においては、カムをローラー6にころがり接触させることによる摩擦トルクの低減よりも、バルブスプリングの付勢力の増加に基づく摩擦トルクの増加が顕著になるため、エンジンの燃費を悪化させる点で問題がある。また、ローラー6は、ロッカレバー1を大型化させるため、動弁装置の小型化を図る上でもまた問題になる。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みて、カムシャフトのカムに連動して揺動するロッカアームによってエンジンバルブを開閉させる動弁装置において、カムシャフトの回転を阻害する摩擦トルクを従来より低減させることによってエンジンの燃費向上を可能にし、かつ動弁装置の小型化を可能にしたロッカアームの技術である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の動弁装置のロッカアームは、揺動中心を形成する支持部材によって一端を揺動可能に支持され、他端に設けられたパッド面によってバルブステムを支持し、カムシャフトのカムを摺接させるカム摺接部をその上面に有する天板部と、前記天板部よりも幅を狭く形成され、前記天板部から略垂直方向に延出するよう設けられた少なくとも一以上の立壁部と、を有するように構成されている。
【0009】
請求項1の動弁装置のロッカアームは、バルブスプリングによるバルブステムからの反力をパッド面で受け、かつカムの押圧力をカム摺接部で受ける天板部と、天板部の強度を補強する少なくとも一以上の立壁部が一体化された構成を有する。
【0010】
(作用)請求項1の動弁装置のロッカアームにおいては、天板部を必要最低限の薄さに形成しつつ、天板部よりも幅の狭い立壁部で補強しているため、ロッカアームの重量と、ロッカアームによる慣性力が著しく軽減される。その結果、請求項1のロッカアームを有する動弁装置において、バルブスプリングのバネ荷重を著しく低く設定できるため、バルブスプリングの付勢力に基づいてカムシャフトに発生する摩擦トルク、即ちカムシャフトの回転を阻害するトルクを大幅に低減出来る。
【0011】
その結果、請求項1のロッカアームにおいては、ローラーを省略し、カムをロッカアームに滑り接触させることによって発生するわずかな摩擦トルクの増加にくらべて、バルブスプリングの付勢力の低減による摩擦トルクの低減の方が顕著になる。
【0012】
また、請求項2は、請求項1に記載の動弁装置のロッカアームであって、前記カム摺接部または前記パッド面のうち少なくとも一方には、摩擦係数低減用の表面処理がなされるようにした。
【0013】
(作用)請求項2のロッカアームにおいては、表面処理を施した箇所の摩擦係数が低下し、カムとカム摺接部との間に発生する摩擦力、またはパッド面とバルブステムとの間に発生する摩擦力のうち少なくとも一方が低減されるため、前記摩擦力によってカムシャフトに発生する摩擦トルクが更に低減される。
【0014】
また、請求項3は、請求項1または2に記載の動弁装置のロッカアームであって、前記天板部の前記カム摺接部を除く位置に少なくとも一以上の孔部が設けられるようにした。
【0015】
(作用)請求項3のロッカアームにおいては、孔部の形成によってロッカアームが更に軽量化される。その結果、バルブスプリングからカムに伝達される付勢力が更に低減され、カムシャフトに発生する摩擦トルクが更に低減される。
【0016】
また、請求項4は、請求項1から3のうちいずれかに記載の動弁装置のロッカアームであって、前記立壁部に少なくとも一以上の孔部が設けられるようにした。
【0017】
(作用)請求項4のロッカアームにおいては、立壁部に形成された孔部によってロッカアームが更に軽量化されるため、カムシャフトに発生する摩擦トルクが更に低減される。
【0018】
また、請求項5は、請求項4に記載の動弁装置のロッカアームであって、前記立壁部に設けられた孔部が、前記揺動中心の周りを揺動するカム摺接部の揺動軌道上に設けられるようにした。
【0019】
(作用)請求項5のロッカアームにおいては、カム摺接部の揺動軌道上に孔部が形成されることにより、ロッカアームのカムが押圧部位が軽量化される。従って、請求項5のロッカアームにおいては、カムがロッカアームのカム摺接部を押し下げるために必要となる回転モーメントが小さくなる。
【0020】
また、請求項6は、請求項1から5のうちいずれかに記載の動弁装置のロッカアームであって、前記カム摺接部に油溝が設けられるようにした。
【0021】
(作用)請求項6のロッカアームにおいては、カムとカム摺接部との間に流された潤滑油が油溝に定着し、カムがカム摺接部に摺接する際に両者の間に油膜を形成される。その結果、カムとカム摺接部との間に発生する摩擦力が小さくなり、かつカムとカム摺接部との間における耐摩耗性が向上する。
【0022】
また、請求項7は、請求項1から6のうちいずれかに記載の動弁装置のロッカアームであって、前記カム摺接部または前記パッド面のうち少なくとも一方の幅方向断面が、凸曲面形状を有するようにした。
【0023】
カム摺接部及びパッド面の双方の幅方向断面が平坦に形成された場合、カム摺接部は、ロッカアームのガタつきによってカムに対して傾きを生じ、パッド面は、ロッカアームのガタつきによってバルブステムに対して傾きを生じる。その場合、カム摺接部は、角がカムに接触することによってカムとの間に予期せぬ摩擦力を発生させ、パッド面は、バルブステムの角と接触することによってバルブステムとの間に予期せぬ摩擦力を発生させてしまう。前記摩擦力は、カムシャフトの回転を阻害する。
【0024】
(作用)一方、カム摺接部とパッド面のうち少なくとも一方の幅方向断面を凸曲面形状にした場合、カム摺接部またはバルブステムの角が、カムまたはパッド面に接触しにくくなる。その結果、カムとカム摺接部との間、またはパッド面とバルブステムとの間には、角と平面との接触による摩擦が生じにくくなる。その結果、請求項7のロッカアームにおいては、カムがロッカアームのカム摺接部を押し下げるために必要となる回転モーメントが小さくなり、エンジンバルブの開閉動作が安定する。
【0025】
請求項8は、請求項1から7のうちいずれかに記載の動弁装置のロッカアームであって、前記立壁部が一対の内壁面を有し、前記一対の内壁面と前記バルブステムの外周面との間には、合計で略0.1mm〜1mmとなる隙間が設けられるようにした。
【0026】
(作用)バルブステムと立壁部との間に適度な遊びが形成されるため、バルブと立壁部との間に不要な摩擦力が発生しにくくなって、エンジンバルブの開閉動作が安定する。
【発明の効果】
【0027】
請求項1の動弁装置のロッカアームによれば、ロッカアームの著しい軽量化によって、カムシャウトに発生する摩擦トルクが従来よりも低減されるため、エンジンの燃費が向上する。また、ローラーの省略により、動弁装置の小型化、部品コストの低減、及びニードルベアリングやシャフトの異常摩耗を原因とした不具合の解決を図ることが出来る。
【0028】
請求項2から請求項4の動弁装置のロッカアームによれば、カムシャフトに発生する摩擦トルクが更に低減されることにより、エンジンの燃費が更に向上する。
【0029】
請求項5のロッカアームによれば、カムがロッカアームのカム摺接部を押し下げるために必要となる回転トルクが小さくなることにより、カムシャフトに発生する摩擦トルクが更に低減されるため、エンジンの燃費が更に向上する。
【0030】
請求項6のロッカアームによれば、カムとカム摺接部との間に発生する摩擦力が小さくなることにより、カムシャフトに発生する摩擦トルクが更に低減されるため、エンジンの燃費が更に向上する。
【0031】
請求項7のロッカアームによれば、カム摺接部とカムとの間に発生する摩擦力、またはパッド面とバルブステムとの間に発生する摩擦力の少なくとも一方が小さくなることにより、カムシャフトに発生する摩擦トルクが更に低減されるため、エンジンの燃費が更に向上し、エンジンバルブの安定した開閉動作が実現される。
【0032】
請求項8のロッカアームによれば、バルブと立壁部との間の摩擦力低減により、安定したバルブの開閉動作が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】(a)は、動弁装置のロッカアームの第一実施例を表す斜視図である。(b)は、第1実施例のロッカアームの平面図である。
図2】(a)は、ロッカアームを長手方向に切断した図1(b)のA−A断面図である。(b)は、第1実施例のロッカアームの底面図である。(c)は、カム摺接部を幅方向に切断した図2(a)のB−B断面図である。
図2A】(a)は、カムとカム摺接部を凸型曲面とした変形例にを示す図であって、図2(c)に相当する断面図である。(b)は、パッド面とバルブステムを凸型曲面とした変形例を示す図であって、バルブステムの支持部を図2(a)のE−Eに相当する位置で幅方向に切断した断面図である。
図3】第1実施例のロッカアームを有する動弁装置の動作説明図である。
図4】(a)は、動弁装置のロッカアームの第二実施例を表す斜視図である。(b)は、第二実施例のロッカアームの平面図である。
図5】(a)は、図4(b)のC−C断面図である。(b)は、第2実施例のロッカアームの底面図である。(c)は、図5(a)のD−D断面図である。
図6】動弁装置のロッカアームの第三実施例を表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、動弁装置のロッカアームに関する第1実施例を図1から3によって説明する。尚、以降の説明においては、各図におけるロッカアームの上下左右方向を上方:下方:左方:右方=Up:Lw:Le:Riとして説明し、ロッカアームの幅方向を前方:後方=Fr:Reとして説明する。
【0035】
第1実施例の動弁装置のロッカアーム10は、金属製の天板部11及び一対の立壁部12、12によって形成される。天板部11は、上方に突出する突出部13と、突出部13の左端に連続して設けられた支持部材16(エンドピボット型ラッシュアジャスタ)の係合部14と、突出部13の右端に連続して設けられ、エンジンバルブ17のバルブステム17aを支持する支持部15によって構成される。
【0036】
突出部13は、図示しないカムシャフトのカムが摺接するカム摺接部18(図1(a)、図3において線L1とL2に囲まれた部位)と、平板部19によって構成される。カム摺接部18は、上方に突出する円弧状の凸部として形成され、平板部19は、カム摺接部18の左端に連続し、かつ下方に傾斜する。支持部材16の係合部14は、平板部19の左端に連続して形成され、上方に突出する略半球型形状を有する。係合部14の内側には、略半球型凹部である支持部材16の係合部20が形成され、係合部20は、支持部材16の球頭部21に係合する。
【0037】
一方、支持部15は、カム摺接部18の右端部に連続し、かつ下方に突出する円弧状凸部として形成される。支持部15の下面には、バルブステム17aに当接する部位であるパッド面22が形成される。尚、カム摺接部18と、パッド面22のうち少なくとも一方には、摩擦係数の減少、耐摩耗性の向上、または硬度の強化等を実現するための表面処理として、DLCコーティング等を施すことがより望ましい。前記表面処理は、図示しないカムとカム摺接部18、またはパッド面22とバルブステム17aとの摩擦力を低減させ、カムシャフトにおいて回転を妨げる方向に発生する摩擦トルクを低減させることにより、エンジンの燃費を向上させる。
【0038】
尚、カム摺接部18は、単なる平滑面でも良いが、カム摺接部18には、図1に示すような複数の油溝25を設けることがより望ましい。第1実施例においては、ロッカアームの長手方向に平行な直線上の油溝25が複数形成されている。油溝25に潤滑油を流した場合には、カムとカム摺接部18の間に油膜が形成されるため、カムとカム摺接部18との間における耐摩耗性が向上する。
【0039】
また、突出部13と支持部15の下面には、これらの前後端から下方に向けて略直行する方向に突出する一対の立壁部12、12が一体に設けられる。一対の立壁部12、12の前後方向の幅W2の合計は、天板部11の幅W1よりも狭く形成される。ロッカアーム10は、前後方向の断面において、逆Uの字に近似した形状に形成され、内側に中空部24を有することになるため、軽量化される。また、一対の立壁部12、12には、前後に貫通する孔部23,23がそれぞれ設けられる。尚、孔部は、平板部19等、カム摺接部18及びパッド面22を除く部位であれば、天板部11に形成してもよい。ロッカアーム10は、孔部23,23によって軽量化される。ロッカアーム10の軽量化は、カムとカム摺接部18との間に発生する摩擦力を低減させ、カムシャフトにおいてカムシャフトの回転を阻害する方向に作用する摩擦トルクを低減させるため、エンジンの燃費を向上させる。
【0040】
尚、図2Aは、第1実施例のカム摺接部及びパッド面の変形例を示すものである。図2Aのロッカアーム10'は、カム摺接部18’及びパッド面22’の構成以外、図1のロッカアーム10と共通した構成を有する。図2A(a)のカム摺接部18’においては、幅方向断面がカム9に向かって凸となる凸曲面を有するように形成され、図2A(b)の支持部15’のパッド面22’においては、幅方向断面がエンジンバルブ17’のバルブステム17a’の上端部17e’に向かって凸となる凸曲面を有するように形成されている。
【0041】
カム9、カム摺接部18’、パッド面22’及びバルブステム17a’は、これらのガタつきにより、ロッカアームの上下方向に延びる軸線L5に対して前後に傾きを生じることがある。仮に、カム摺接部18’の幅方向の角(18a’、18b’)がカム9の摺接面9aに接触した場合や、バルブステム17a’の上端部17e’の幅方向の角(17b’、17c’)がパッド面22’に接触した場合には、カムシャフトの回転を妨げる摩擦力が生じるため、エンジンバルブを安定して開閉させる点で問題がある。
【0042】
図2Aの実施例においては、カム摺接部18’とパッド面22’の幅方向断面が凸曲面になるように両者を形成しているため、角(18a’、18b’)は、摺接面9aから引き離されて、これに接触しにくくなり、かつ角(17b’、17c’)もまた、パッド面22’に接触しにくくなる。従って、図2Aのロッカアーム10’は、カムシャフトの回転を妨げる摩擦力がカム摺接部18’とパッド面22’に発生しにくいという利点を有する。
【0043】
尚、図2Aにおいては、カム9の摺接面9aとバルブステム17a’の上端部17e’についてもまた幅方向断面が凸曲面になるように両者を形成している。この場合、カム9の角(9b,9c)と、カム摺接部18’の角(18a’、18b’)は、それぞれカム摺接部18’及び摺接面9aに更に接触しにくくなり、バルブステム17a’の上端部17e’の角(17b’、17c’)は、パッド面22’に更に接触しにくくなる。
【0044】
尚、ロッカアーム10’の立壁部(12’,12’)の一対の内壁面(12a’,12b’)と、バルブステム17’の外周面17d’との間には、図2A(b)に示すように、それぞれ隙間(C1,C2)を設けることが望ましい(各実施例において同様)。また、前記隙間(C1,C2)においては、合計(C1+C2)を略0.1mm〜1mmにすることがより望ましい。ロッカアーム10’においては、前記隙間(C1,C2)を適度な遊びとすることによって、バルブの開閉動作を安定させている。
【0045】
ロッカアーム10は、図3に示すように係合部20が球頭部21に係合することにより、球頭部21の揺動中心L0周りに揺動可能な状態で支持部材16に支持される。尚、図3においては、ロッカアーム10のみが断面図であるが、天板部11の切断面は、網掛を省略して記載している。パッド面22は、図示しないバルブスプリングから閉弁方向の付勢力を受けるバルブステム17aによって、上方に付勢される。カム摺接部18は、パッド面22が上方に付勢されることによって、その上方に配置された図示しないカムシャフトのカムに押しつけられ、カムシャフトは、常にカムがカム摺接部18と摺接した状態で回転する。ロッカアーム10は、回転するカムに押し下げられることによってエンジンバルブ17を開弁させる方向(図3のD1方向)に揺動し、かつカムの回転位置とエンジンバルブ17から受けるバルブスプリングの付勢力に応じてエンジンバルブ17を閉弁させる方向(図3のD2方向)に揺動する。
【0046】
カム摺接部18(図3の線L1と線L2に囲まれた部位)は、揺動中心L0を中心として揺動する。尚、線L1及びL2が揺動する際の軌跡を一点鎖線L3、L4で表した場合、孔部23,23は、立壁部12,12において、一点鎖線L3とL4に囲まれる領域に形成されることがより望ましい。その場合、立壁部12,12においては、図示しないカムによる押圧部位が軽量化される。その場合、ロッカアーム10においては、カムがカム摺接部を押し下げるために必要となる回転トルクが小さくなり、カムシャフトにおいてカムシャフトの回転を阻害する方向に作用する摩擦トルクが低減されるため、エンジンの燃費が向上する。
【0047】
次に、図4図5により、動弁装置のロッカアームの第2実施例を説明する。第2実施例のロッカアーム29は、立壁部31の形状が第1実施例の立壁部12,12と異なり、かつ補強用のリブ32,32を有する他、第1実施例のロッカアーム10と共通の構成を有する。
【0048】
第2実施例のロッカアーム29は、金属製の天板部30及び立壁部31によって形成される。第1実施例の天板部11と同一の形状を有する天板部30は、突出部33,図示しない支持部材の係合部34、及びバルブステムの支持部35によって構成される。突出部33は、カム摺接部36と、平板部37によって構成される。係合部34は、平板部37の左端に連続して形成され、上方に突出する略半球型形状を有する。係合部34の内側には、図示しない支持部材の球頭部に係合する略半球型凹部形状の係合部38が形成される。支持部35の下面には、上方に付勢されたバルブステム(図示せず)に当接する部位であるパッド面39が形成される。カム摺接部36とパッド面39のうち少なくとも一方には、第1実施例と同様に、摩擦係数の減少等を実現するための表面処理として、DLCコーティング等を施すことがより望ましい。また、カム摺接部36には、第1実施例のように複数の油溝42を設けて潤滑油を定着させることがより望ましい。
【0049】
尚、天板部30には、平板部37と係合部34に一体化され、かつこれらの上方に延出形成された、一対のリブ32,32が設けられる。リブ32,32は、天板部30を介してロッカアーム29を補強し、ロッカアーム29の剛性を向上させることによって、動弁装置の応答性を向上させる。尚、リブ32,32は、第1実施例の平板部19と係合部14との間に設けられてもよい。
【0050】
また、立壁部31は、天板部30の下面から下方に向かって延出形成される。図5(b)の立壁部31は、突出部33前後方向中央一から下方に突出する一の立壁部40と、支持部35の前後端から下方に突出する一対の立壁部41と、U字部43によって形成される。一の立壁部40は、U字部43によって一対の立壁部41に一体化される。一の立壁部40の前後方向の幅W3と、一対の立壁部41,41の幅W4の合計は、天板部30の幅W1よりも狭く形成される。ロッカアーム29は、一の立壁部40が形成された位置の前後方向断面が図5(C)のような略T字断面形状を有し、一対の立壁部41が形成された位置の前後方向断面が図2(c)の逆Uの字に近似した形状を有するため、軽量化される。
【0051】
また、一の立壁部40には、前後に貫通する孔部44が設けられる。孔部は、カム摺接部36及びパッド面39を除く部位であれば、天板部30に形成してもよい。ロッカアーム29は、孔部44によって軽量化される。尚、孔部44は、第1実施例の孔部23,23と同様にカムに押圧される部位の軽量化を図るため、立壁部31において、カム摺接部36が揺動する軌道上に設けられることが望ましい。
【0052】
尚、図6は、第3実施例のロッカアーム50を示すものである。ロッカアーム50は、油溝51の形状が図1の油溝25と異なる他、第1実施例のロッカアーム10と共通の構成を有する。ロッカアーム50のカム摺接部18’’には、ディンプル形状からなる油溝51が多数形成されている。多数の油溝51は、潤滑油を多く保持することで図示しないカムとカム摺接部18’’の間に強固な油膜を形成するため、カムとカム摺接部18’’との間における耐摩耗性が更に向上する。
【符号の説明】
【0053】
9 カムシャフトのカム
10 動弁装置のロッカアーム
11 天板部
12,12’ 立壁部
12a’,12b’ 内壁面
16 支持部材(エンドピボット型ラッシュアジャスタ)
17a,17a’ エンジンバルブのバルブステム
17d’ バルブステムの外周面
18,18’,18’’ カム摺接部
22、22’ パッド面
23 孔部
25 油溝
29 動弁装置のロッカアーム
30 天板部
31 立壁部
36 カム摺接部
39 パッド面
42 油溝
44 孔部
50 動弁装置のロッカアーム
51 油溝
L0 揺動中心
図1
図2
図2A
図3
図4
図5
図6