【文献】
Annals of the New York Academy of Sciences, 1987, Vol.507 , No.1,pp.337-338
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
標識が、気体もしくは生理条件下で気体を発生する物質、放射性同位体、磁性体、核磁気共鳴する元素、核磁気共鳴する元素の緩和時間に影響を与える物質、標識化物質に結合する物質、蛍光物質、フルオロフォア、化学発光物質、酵素、ビオチンもしくはその誘導体、アビジンもしくはその誘導体、または、これらの1または2以上を含む物質からなる群から選択される、請求項6に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の1つの側面は、細網内皮系細胞における多特異性レクチンの第1のリガンド(本明細書において、阻害リガンド、ブロッキングリガンドまたは遮断リガンドと称する場合がある)を含む第1の成分と、該第1のリガンドとは異なる細網内皮系細胞における多特異性レクチンの第2のリガンド(本明細書において、標的化リガンドまたはターゲティングリガンドと称する場合がある)で標的化された、標的細胞に関連する疾患を処置するための薬剤を含む第2の成分とを含む、標的細胞に関連する疾患を処置するための組合わせ医薬製剤に関する。
本発明において、細網内皮系細胞における多特異性レクチンには、細網内皮系細胞、例えば、脾洞内皮細胞、脾索細網細胞、リンパ細網細胞、リンパ内皮細胞、クッパー細胞、肝類洞内皮細胞、骨髄毛細血管内皮細胞、単球、組織球、肺胞大食細胞、小膠細胞、マクロファージ等において発現している任意の多特異性レクチン、すなわち、複数の糖に対する結合能を有するレクチンが含まれる。かかるレクチンとしては、限定されずに、例えば、マンノース受容体およびフコース受容体が挙げられる。
【0023】
マンノース受容体は、CD206としても知られる、I型膜貫通タンパク質を指す。この受容体は、クッパー細胞、肝類洞内皮細胞、マクロファージ、ランゲルハンス細胞、リンパ内皮細胞等に発現し、細菌などの病原体の貪食に関与していると考えられている(Kerrigan AM et al., Immunobiology. 2009;214(7):562-75、Takahashi et al., Cell Tissue Res. 1998;292(2):311-23)。同受容体はC型レクチン様ドメインを有しており、マンノース(Man)、フコース(Fuc)、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびグルコース(Glc)と結合するが、ガラクトース(Gal)とは結合しない(Taylor ME et al., J Biol Chem. 1992;267(3):1719-26)。したがって、マンノース受容体のリガンドとしては、限定されずに、例えば、マンノース、フコース、N−アセチルグルコサミン、グルコース、これらの糖を末端に有する任意の化合物、例えば、これらの糖を末端に有する糖鎖(例えば、マンナン、デキストラン等)、これらの糖の配糖体(例えば、マンノシド、フコシド、グルコシドなど)、これらの糖の誘導体(例えば、メチル化糖などのアルキル化糖、アミノ糖、糖アルコール、糖リン酸、糖ペプチド、糖タンパク質など)、マンノシル化オリゴリジン(Biessen EA et al., J Biol Chem. 1996;271(45):28024-30)、抗マンノース受容体抗体(PAM-1(Am J Pathol. 1997;150(3):929-38)、MR5D3(Serotec, Oxford, UK)など)、フコシル化BSA、マンノシル化BSA(Higuchi Y et al., Int J Pharm. 2004;287(1-2):147-54)などが挙げられる。
【0024】
フコース受容体は、肝臓のクッパー細胞等に発現し、マンノース受容体と同様、細菌などの病原体の貪食に関与していると考えられており、フコースおよびガラクトースと結合するが、マンノースとは結合しない(上記Higuchi et al.)。また、フコース受容体へのフコースの結合は、以下の種々の糖類によって阻害されることが知られている:N−アセチルガラクトサミン、フコース、メチルガラクトシド、アラビノース、ガラクトース、マンノース、タロース、ガラクトサミン、マンノサミン、メチルグルコシド、メチルアラビノシド、グルコース、グルコサミン、リボース、メチルマンノシド、キシロース、アルトロース、N−アセチルマンノサミン、アロース、メチルグルコース、リキソース、グルクロン酸、マンノース6リン酸、デオキシグルコース(Lehrman MA et al., J Biol Chem. 1986;261(16):7426-32)。
【0025】
したがって、フコース受容体のリガンドとしては、限定されずに、N−アセチルガラクトサミン、フコース、メチルガラクトシド、アラビノース、ガラクトース、マンノース、タロース、ガラクトサミン、マンノサミン、メチルグルコシド、メチルアラビノシド、グルコース、グルコサミン、リボース、メチルマンノシド、キシロース、アルトロース、N−アセチルマンノサミン、アロース、メチルグルコース、リキソース、グルクロン酸、マンノース6リン酸、デオキシグルコース、これらの糖を末端に有する化合物、例えば、これらの糖を末端に有する糖鎖(例えば、マンナン、デキストラン等)、これらの糖の配糖体(例えば、フコシド、ガラクトシド、マンノシド、グルコシドなど)、これらの糖の誘導体(例えば、メチル化糖などのアルキル化糖、アミノ糖、糖アルコール、糖リン酸、糖ペプチド、糖タンパク質など)、種々のグリコシル化BSA、抗フコース受容体抗体などが挙げられる。
【0026】
ある化合物が細網内皮系細胞における多特異性レクチンのリガンドであるか否かは、当該レクチン、例えば、マンノース受容体またはフコース受容体などと、当該化合物との結合性を評価することにより決定することができる。かかる結合性の評価方法としては、例えば、上記各文献(Taylor et al.、Biessen et al.、Higuchi et al.、Lehrman et al.など)に記載の方法などを適宜用いることができる。したがって、上記に例示した以外の化合物であっても、かかる方法により細網内皮系細胞における多特異性レクチンとの結合性が認められれば、本発明におけるリガンドに含まれ得る。
【0027】
本発明におけるリガンドとして利用可能な糖類(他の化合物に結合した形態のものを含む)は、所望の特性(すなわち、第1のリガンドについては、細網内皮系細胞における多特異性レクチンとの結合能、第2のリガンドについては、細網内皮系細胞における多特異性レクチンとの結合能および標的化能)を有する限り、L体およびD体の両方を包含する。したがって、限定されずに、例えば、L−およびD−マンノース、L−およびD−フコース、L−およびD−N−アセチルグルコサミン、L−およびD−グルコース、ならびにL−およびD−ガラクトースなどが本発明におけるリガンドに含まれ得る。本発明においては、これらの形態の一方を用いても、両方を用いてもよい。
【0028】
マンノース、フコース、N−アセチルグルコサミン、グルコース、ガラクトース等の糖類は市販されているか、種々の天然の給源から公知の手法で得ることができる。また、化合物をマンノース、フコース、N−アセチルグルコサミン、グルコース、ガラクトース等で修飾する方法は当該技術分野で知られており(例えば、Lee YC et al., Biochemistry. 1976;15(18):3956-63等に記載のアミジン化反応、Lee RT et al., Biochemistry. 1980;19(1):156-63等に記載の還元的アミノ化など)、また、種々の糖修飾化合物が市販されている(例えば、Dextra Ltd., Reading, UKから市販されている種々の単糖結合BSA)。したがって、当業者は、これら任意の給源から所望のリガンドを入手、精製または合成することができる。
【0029】
本発明における第1のリガンドは、上記リガンドを1種または2種以上含んでいてもよい。第1のリガンドに含まれるリガンドまたはリガンドの組合わせは、細網内皮系細胞における多特異性レクチンのいずれか1種のみに結合しても、その2種以上、またはその全てに結合してもよい。これらのリガンドのうち、マンノース受容体およびフコース受容体の少なくとも1種、好ましくは、これら受容体の両方に結合するリガンドが好ましい。第1のリガンドに好ましいリガンドとしては、限定されずに、例えば、マンノース、フコース、グルコース、これらを末端に有する化合物、N−アセチルグルコサミンとガラクトースとの組合わせ、N−アセチルグルコサミンとガラクトースの両方を末端に有する化合物、N−アセチルグルコサミンを末端に有する化合物とガラクトースを末端に有する化合物との組合わせ等が挙げられる。
【0030】
本発明における第2のリガンドは、上記リガンドのうち、第1のリガンドとは異なる、所定の標的細胞を標的化できるものを指す。第2のリガンドとしては、限定することなく、例えば、フコース、マンノース、ガラクトース、これらを含む分子、例えば、糖鎖(例えば、これらを側鎖末端や非還元末端に含む糖鎖)、糖タンパク質、糖脂質などが挙げられる。フコースまたはこれを含む分子は、フコシル化分子産生細胞、フコース結合機構保有細胞およびフコシルトランスフェラーゼ発現細胞からなる群から選択される細胞を標的化することができる。マンノースまたはこれを含む分子は、DC−SIGN(上記Kerrigan et al.)などのマンノース結合性レクチンを発現する細胞、例えば、樹状突起細胞等を標的化することができる。ガラクトースまたはこれを含む分子は、アシアロ糖タンパク質受容体(上記Zelensky et al.)を発現する細胞、例えば、肝実質細胞等を標的化することができる(特開2007-112768)。
【0031】
フコースまたはこれを含む分子を第2のリガンドとして用いる場合、第1のリガンドとしては、フコース以外のもの、例えば、マンノース、N−アセチルグルコサミン、グルコース、ガラクトース、N−アセチルガラクトサミン、メチルガラクトシド、アラビノース、ガラクトース、マンノース、タロース、ガラクトサミン、マンノサミン、メチルグルコシド、メチルアラビノシド、グルコース、グルコサミン、リボース、メチルマンノシド、キシロース、アルトロース、N−アセチルマンノサミン、アロース、メチルグルコース、リキソース、グルクロン酸、マンノース6リン酸、デオキシグルコース、これらの糖を末端に有する化合物、例えば、これらの糖を末端に有する糖鎖(例えば、マンナン、デキストラン等)、これらの糖の配糖体(例えば、ガラクトシド、マンノシド、グルコシドなど)、これらの糖の誘導体(例えば、メチル化糖などのアルキル化糖、アミノ糖、糖アルコール、糖リン酸、糖ペプチド、糖タンパク質など)、種々のグリコシル化BSA、マンノシル化オリゴリジン、抗フコース受容体抗体および抗マンノース受容体抗体からなる群から選択される1種または2種以上のものを用いることができる。
【0032】
これらのうち、マンノース受容体およびフコース受容体の両方に結合し得るリガンドまたはリガンドの組合わせが好ましく、限定されずに、例えば、マンノース、グルコース、これらを末端に有する化合物、N−アセチルグルコサミンとガラクトースとの組合わせ、N−アセチルグルコサミンとガラクトースの両方を末端に有する化合物、N−アセチルグルコサミンを末端に有する化合物とガラクトースを末端に有する化合物との組合わせ、抗フコース受容体抗体および抗マンノース受容体抗体の組合わせ等が挙げられる。この態様において特に好ましい第1のリガンドは、マンノースおよび/またはマンノースを末端に有する化合物である。
【0033】
マンノースまたはこれを含む分子を第2のリガンドとして用いる場合、第1のリガンドとしては、マンノース以外のもの、例えば、フコース、N−アセチルグルコサミン、グルコース、ガラクトース、N−アセチルガラクトサミン、メチルガラクトシド、アラビノース、ガラクトース、タロース、ガラクトサミン、マンノサミン、メチルグルコシド、メチルアラビノシド、グルコース、グルコサミン、リボース、メチルマンノシド、キシロース、アルトロース、N−アセチルマンノサミン、アロース、メチルグルコース、リキソース、グルクロン酸、マンノース6リン酸、デオキシグルコース、これらの糖を末端に有する化合物、例えば、これらの糖を末端に有する糖鎖(例えば、デキストラン等)、これらの糖の配糖体(例えば、ガラクトシド、フコシド、グルコシドなど)、これらの糖の誘導体(例えば、メチル化糖などのアルキル化糖、アミノ糖、糖アルコール、糖リン酸、糖ペプチド、糖タンパク質など)、種々のグリコシル化BSA、抗フコース受容体抗体および抗マンノース受容体抗体からなる群から選択される1種または2種以上のものを用いることができる。
【0034】
これらのうち、マンノース受容体およびフコース受容体の両方に結合し得るリガンドまたはリガンドの組合わせが好ましく、限定されずに、例えば、フコース、グルコース、これらを末端に有する化合物、N−アセチルグルコサミンとガラクトースとの組合わせ、N−アセチルグルコサミンとガラクトースの両方を末端に有する化合物、N−アセチルグルコサミンを末端に有する化合物とガラクトースを末端に有する化合物との組合わせ、抗フコース受容体抗体および抗マンノース受容体抗体の組合わせ等が挙げられる。
【0035】
ガラクトースまたはこれを含む分子を第2のリガンドとして用いる場合、第1のリガンドとしては、ガラクトース以外のもの、例えば、フコース、マンノース、N−アセチルグルコサミン、グルコース、N−アセチルガラクトサミン、メチルガラクトシド、アラビノース、ガラクトース、タロース、ガラクトサミン、マンノサミン、メチルグルコシド、メチルアラビノシド、グルコース、グルコサミン、リボース、メチルマンノシド、キシロース、アルトロース、N−アセチルマンノサミン、アロース、メチルグルコース、リキソース、グルクロン酸、マンノース6リン酸、デオキシグルコース、これらの糖を末端に有する化合物、例えば、これらの糖を末端に有する糖鎖(例えば、マンナン、デキストラン等)、これらの糖の配糖体(例えば、マンノシド、フコシド、グルコシドなど)、これらの糖の誘導体(例えば、メチル化糖などのアルキル化糖、アミノ糖、糖アルコール、糖リン酸、糖ペプチド、糖タンパク質など)、種々のグリコシル化BSA、マンノシル化オリゴリジン、抗フコース受容体抗体および抗マンノース受容体抗体からなる群から選択される1種または2種以上のものを用いることができる。これらのうち、マンノース受容体およびフコース受容体の両方に結合し得るリガンドまたはリガンドの組合わせが好ましく、限定されずに、例えば、マンノース、フコース、グルコース、これらを末端に有する化合物、抗フコース受容体抗体および抗マンノース受容体抗体の組合わせ等が挙げられる。
【0036】
第2のリガンドによって標的化される細胞要素、例えば細胞表面受容体は、第2のリガンドのみを特異的に認識してもよいし、第2のリガンドに対し、第1のリガンドよりも高い親和性を有していてもよい。後者の場合、第2のリガンドによって標的化される細胞要素は、第2のリガンドに対し、第1のリガンドよりも2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上または10倍以上高い親和性を有する。第2のリガンドに対する親和性が第1のリガンドに対する親和性より大きければ大きい程、第2のリガンドによって標的化された薬剤の標的特異性はより高くなる。リガンドの細胞要素に対する親和性は、文献的に知られているか(例えば、上記Taylor et al.、Biessen et al.、Higuchi et al.、Lehrman et al.、Kerrigan et al.など)、これらの文献に記載の方法などを適宜用いて実験的に決定することができる。
【0037】
本明細書中、標的化とは、物質、例えば薬剤、標識、担体などを、特定の標的、例えば特定の細胞や組織(本発明においては第2のリガンドを認識する細胞要素を有する細胞やかかる細胞を含む組織)などに、標的としない細胞や組織よりも、標的化していない前記物質と比較して、迅速、効率的かつ/または大量に送達すること、すなわち標的に特異的に送達することを可能にすることをいい、標的化剤とは、物質と結合または反応した場合に、当該物質をこのように標的化できる物質を意味する。したがって、本発明における第2のリガンドは、標的化剤として機能する。また、標的特異性とは、標的化された物質、例えば、薬剤、標識、担体などが、標的細胞へ、標的としない細胞よりも迅速、効率的かつ/または大量に送達される程度を意味し、これが高ければ、標的化物質はより効率的に標的細胞に送達され、標的としない細胞への送達は抑制される。
【0038】
本発明において、フコシル化分子産生細胞は、フコシル化分子を産生するものであれば特に限定されず、フコシル化分子を細胞表面または細胞内に含むものであっても、フコシル化分子を細胞外に放出するものであってもよい。したがって、本発明におけるフコシル化分子産生細胞としては、特に限定されずに、腫瘍、例えば、膵臓腫瘍、胆道系腫瘍、肝臓腫瘍、消化管腫瘍、脳腫瘍、肺腫瘍、骨軟部腫瘍、造血器腫瘍、より具体的には、膵癌、胆道系癌、肝癌、胃癌、食道癌、結腸直腸癌、さらには、乳癌、肺癌、子宮内膜癌、前立腺癌、白血病、リンパ腫などにおける細胞や、膵炎、肝硬変、肝炎などの炎症性疾患における炎症部位の細胞、リンパ球などの免疫系の細胞などが挙げられる。炎症部位の細胞としては、限定されずに、例えば、炎症部位に本来存在する細胞であって、炎症の影響を受けているものが挙げられる。すなわち、炎症部位の細胞は、膵炎であれば炎症の影響を受けている膵臓の構成細胞(膵管細胞、外分泌細胞、内分泌細胞等)、肝炎であれば炎症の影響を受けている肝臓の構成細胞(肝実質細胞、胆管細胞、星細胞等)などを指す。炎症の影響としては、例えば、炎症性サイトカインへの暴露や、炎症性細胞との接触等が挙げられる。白血病としては、限定されずに、例えば、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)等が挙げられる。
本発明の一態様において、フコシル化分子産生細胞は、好ましくは正常細胞以外の細胞である。かかる細胞としては、例えば、上記の腫瘍細胞や炎症部位の細胞が挙げられる。
【0039】
本発明において、フコシル化分子は、フコースが付加された任意の分子、例えば、限定されずに、フコシル化糖鎖、フコシル化糖タンパク質、フコシル化糖脂質などを含む。付加されるフコースの数は特に限定されず、1個または2個以上であってもよい。したがって、フコシル化糖タンパク質やフコシル化糖脂質は、糖部分としてフコースのみを含んでも、フコースを構成糖として含む糖鎖、すなわちフコシル化糖鎖を含んでもよい。
【0040】
本発明において、フコシル化糖鎖は、糖鎖単体として産生されても、他の物質と結合した形で産生されてもよい。したがって、フコシル化糖鎖は、タンパク質に結合した糖タンパク質の形で産生されても、脂質に結合した糖脂質の形で産生されてもよい。また、本発明におけるフコシル化糖鎖は、フコースが含まれていればいずれの構造の糖鎖であってもよいが、フコースが非還元末端に含まれているものが好ましい。含まれるフコースはL−フコースまたはD−フコースであってもよいが、L−フコースが好ましい。また、フコシル化糖鎖は、I型糖鎖抗原(例えば、CA19−9、SPAN−1、DU−PAN−2、CA50、KMO−1等)を含んでも、II型糖鎖抗原(例えば、SLX、CSLEX等)を含んでも、母核糖鎖抗原(例えば、CA72−4、CA546、STN等)を含んでもよい。本発明の一態様では、I型糖鎖抗原を含む糖鎖が好ましい。また、フコシル化は、種々の結合様式、例えば、α1,2結合、α1,3結合、α1,4結合またはα1,6結合などでなされてもよい。このうち、本発明においては、α1,4結合が好ましい。本発明において特に好ましい糖鎖は、CA19−9、SPAN−1およびDU−PAN−2からなる群から選択される糖鎖抗原を含む。
【0041】
本発明におけるフコシル化糖タンパク質は、フコースを糖部分に含む任意の糖タンパク質を含み、限定されずに、例えば、Notch受容体(Notch−1、Notch−2、Notch−3、Notch−4など)、Notchリガンド(Delta−1、Delta−3、Delta−4、Jagged−1、Jagged−2など)、ハプトグロビン、AFP(αフェトプロテイン)−L3などを包含する。フコースは、糖タンパク質の糖鎖に付加されても、タンパク質部分に直接付加されてもよい。糖タンパク質の糖鎖はI型糖鎖、II型糖鎖、母核糖鎖を包含する種々の構造を有してよく、また、O結合型であってもN結合型であってもよい。
本発明におけるフコシル化糖脂質は、フコースを糖部分に含む任意の糖脂質を含み、限定されずに、例えば、フコシルGM1などを包含する。糖脂質の糖鎖はI型糖鎖、II型糖鎖、母核糖鎖を包含する種々の構造を有してよい。
【0042】
本発明の一態様において、フコシル化分子産生細胞は、正常細胞よりもフコシル化分子の産生が増大している。ここで、正常細胞とは、例えば、対象となる細胞が腫瘍細胞であれば、腫瘍化していない同種の細胞を指し、対象となる細胞が炎症部位の細胞であれば、炎症が生じる前の、または、炎症が生じていない部分の同種の細胞を指す。フコシル化分子の産生量は、限定されずに、例えば、上記の糖鎖抗原を認識する抗体やレクチンなどを用いて適宜測定することができる。本発明の一態様において、フコシル化分子産生細胞のフコシル化分子産生量は、正常細胞に比べ、2倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは20倍以上、特に好ましくは50倍以上である。また、別の態様において、フコシル化分子産生細胞のフコシル化分子産生量は、細胞株MIAPaCa、PANC−1、KP4、PK45H、HT−29、HCT−15、RBE、OCUG−1、TGBC14TKB、SSP−25、YSCCC、TKKK、HuH−28、MKN45、MKN74、NUGC−4および/またはMOLT−4より多く、PK59、ASPC1、SW1116、LS174T、COLO205、LS180、HuCCT1、JR−St、HSC−39、NCI−N87および/またはHL−60と同等かまたはこれより多い。
【0043】
本発明の別の態様において、フコシル化分子産生細胞は、フコース結合機構を有している。フコース結合機構は、細胞に備わった、フコースを選択的に結合し、かつ/または取り込む機構を指し、限定されずに、例えば、受容体や運搬体などの細胞要素を含む。フコース結合機構保有の有無は、例えば、放射性標識などにより検出可能に標識したフコースの、被験細胞への結合量や結合定数を調べることにより判定することができる(実施例3参照)。例えば、フコース結合機構を有する細胞は、後述の実施例3に記載の手法で測定した場合、結合定数Kdが25nM以上、好ましくは28nM以上、より好ましくは30nM以上、さらに好ましくは34nM以上であり、bmaxが5pmol/10
6細胞以上、好ましくは7.5pmol/10
6細胞以上、より好ましくは10pmol/10
6細胞以上、さらに好ましくは11pmol/10
6細胞以上である。
【0044】
本発明の別の態様において、フコシル化分子産生細胞には、フコシルトランスフェラーゼが発現している。フコシルトランスフェラーゼは、フコースをフコース供与体からフコースアクセプター(例えば、糖鎖、ポリペプチド、脂質等)に転移させられるものであれば特に限定されずに、例えば、既知のFUT1、FUT2、FUT3、FUT4、FUT5、FUT6およびFUT7、FUT8、FUT9、FUT10およびFUT11を含む。本発明の一態様において、フコシルトランスフェラーゼは、FUT1、FUT2、FUT3およびFUT4からなる群から選択される。本発明の別の態様において、フコシルトランスフェラーゼは、FUT1、FUT2、FUT4、FUT5、FUT6およびFUT8からなる群から選択される。本発明のさらに別の態様において、フコシルトランスフェラーゼは、FUT1、FUT2、FUT3、FUT4、FUT5、FUT6およびFUT8からなる群から選択される。また、本発明の一態様において、フコシルトランスフェラーゼは、フコースをα1,4結合で転移できるものが好ましく、かかるフコシルトランスフェラーゼとしては、例えばFUT3等が挙げられる。また、本発明の一態様において、好ましいフコシルトランスフェラーゼは、CA19−9の産生と関連性の高いFUT3および/またはFUT6である。本発明の別の態様において、フコシルトランスフェラーゼは、フコースをポリペプチドに結合できるものが好ましく、かかるフコシルトランスフェラーゼとしては、例えばPOFUT1、POFUT2などが挙げられる。また、本発明の一態様において、好ましいフコシルトランスフェラーゼは、Notch−1のフコシル化と関連性の高いPOFUT1である。
【0045】
フコシルトランスフェラーゼは、遺伝子の転写から、タンパク質の成熟に至る一連のタンパク質発現過程の中で発現していればよく、その発現は、遺伝子および/またはタンパク質レベルで検出することができる。具体的には、遺伝子レベルでは、例えば、ノーザンブロッティング法、サザンブロッティング法、DNAマイクロアレイ解析、RNaseプロテクションアッセイ、RT−PCR、リアルタイムPCR等のPCR法、in situハイブリダイゼーション法、in vitro転写法等の任意の公知の遺伝子発現解析法により、また、タンパク質レベルでは、免疫沈降法、電気泳動、ウェスタンブロッティング法、質量分析法、EIA、ELISA、RIA、免疫組織化学法、免疫細胞化学法等の任意の公知のタンパク質検出法により検出することができる。本発明の一態様において、フコシル化分子産生細胞のフコシルトランスフェラーゼ発現量は、正常細胞に比べ、2倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは20倍以上、特に好ましくは50倍以上である。また、本発明の一態様において、フコシル化分子産生細胞のフコシルトランスフェラーゼ発現量は、細胞株MIAPaCa、PANC−1、KP4、PK45H、HT−29、HCT−15、RBE、OCUG−1、TGBC14TKB、SSP−25、YSCCC、TKKK、HuH−28、MKN45、MKN74、NUGC−4および/またはMOLT−4より多く、PK59、ASPC1、SW1116、LS174T、COLO205、LS180、HuCCT1、JR−St、HSC−39、NCI−N87および/またはHL−60と同等かまたはこれより多い。
【0046】
本発明において、フコース結合機構保有細胞は、上記フコース結合機構を保有する細胞を意味する。フコース結合機構に関する詳細は上記のとおりである。また、フコース結合機構は、フコシル化分子の産生量およびフコシルトランスフェラーゼの発現量と関連しているため、これらをフコース結合機構保有の指標として用いることもできる。したがって、本発明の一態様において、フコース結合機構保有細胞は、フコシル化分子を産生する。また、本発明の別の態様において、フコース結合機構保有細胞はフコシルトランスフェラーゼを発現する。フコシル化分子の産生およびフコシルトランスフェラーゼの発現に関する詳細は上記のとおりである。
【0047】
本発明において、フコシルトランスフェラーゼ発現細胞は、上記フコシルトランスフェラーゼを発現する細胞を意味する。フコシルトランスフェラーゼの発現に関する詳細は上記のとおりである。フコシルトランスフェラーゼの発現はフコシル化分子の産生およびフコース結合機構の存在と関連しているため、これらをフコシルトランスフェラーゼ発現の指標として用いることもできる。したがって、本発明の一態様において、フコシルトランスフェラーゼ発現細胞は、フコシル化分子を産生する。また、本発明の別の態様において、フコシルトランスフェラーゼ発現細胞はフコース結合機構を有する。フコシル化分子の産生およびフコース結合機構の存在に関する詳細は上記のとおりである。
【0048】
本発明における薬剤は、標的細胞に関連する疾患を処置するための薬物(以下、医薬化合物と称する場合もある)であって、第2のリガンドで標的化されたもの(以下、標的化薬物、標的化医薬化合物と称する場合もある)であっても、第2のリガンドで標的化された担体(標的化担体)に含まれた標的細胞に関連する疾患を処置するための薬物(以下、薬物含有標的化担体と称する場合もある)であっても、標的化担体に含まれた標的化薬物(以下、標的化薬物含有標的化担体と称する場合もある)であってもよい。
【0049】
標的化薬物は、第2のリガンドが標的化剤として機能し得る形で薬物と複合体を形成していれば特に限定されず、第2のリガンドが、標的とする細胞要素と接触可能な態様で、薬物と直接、または、リンカー、スペーサーなどの介在化学構造を介して結合したものを含む。第2のリガンドは、薬物と共に標的細胞に取り込まれた後、または、薬物が標的細胞に取り込まれる際に、薬物から切り離され、薬物が所望の効果を奏するよう設計することもできる。糖または糖鎖を所望の化合物に結合させる方法は周知である。糖をアミノ酸、ペプチドまたはタンパク質に結合する手法は特によく知られており、これらの分子をリンカーやスペーサーとして利用することもできる(Negre E et al., Antimicrob Agents Chemother. 1992;36(10):2228-32)。
【0050】
標的化担体は、第2のリガンドが標的化剤として機能し得る形で担体と複合体を形成していれば特に限定されず、第2のリガンドが、標的とする細胞要素と接触可能な態様で、担体と直接、または、リンカー、スペーサーなどの介在化学要素を介して結合したものを含む。担体の成分としては、特に限定されずに、医薬および薬学の分野で知られる任意のものを用いることができるが、第2のリガンドを包含し得るか、または、これと結合し得るものが好ましい。このような成分としては、例えば、脂質、例えば、グリセロリン脂質などのリン脂質、スフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質、コレステロールなどのステロール、大豆油、ケシ油などの植物油、鉱油、卵黄レシチンなどのレシチン類、ポリエチレングリコール、PEG:ポリマー担体等が挙げられるが、これらに限定されない。このうち、リポソームを構成し得るもの、例えば、レシチンなどの天然リン脂質、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)などの半合成リン脂質、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、コレステロールなどが好ましい。
【0051】
特に好ましい成分としては、細網内皮系による捕捉を回避し得る成分、例えば、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジドデシル−D−グルタメートクロリド(TMAG)、N,N’,N’’,N’’’−テトラメチル−N,N’,N’’,N’’’−テトラパルミチルスペルミン(TMTPS)、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、ジドデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2−ジオレイルオキシ−3−トリメチルアンモニオプロパン(DOTAP)、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)、1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド(DC−6−14)などのカチオン性脂質が挙げられる。
【0052】
担体への第2のリガンドの結合または包含は、化学的および/または物理的な方法によって第2のリガンドを担体に結合させるかまたは包含させることによっても可能となる。第2のリガンドを担体に結合させる方法としては、限定されずに、例えば、リポソームをトリス(ヒドロキシアルキル)アミノアルカンにより親水性化処理し、リンカータンパク質、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA)などの生体由来のタンパク質を結合させ、これに糖鎖を結合させる方法(WO2007/091661、Hirai et al., Biochem Biophys Res Commun. 2007;353(3):553-8、Hirai et al., Int J Pharm. 2010;391(1-2):274-83)、糖付加コレステロール誘導体でリポソームを作製する方法(特許文献1)、ポリ−L−リジンに糖を付加する方法(上記Negre et al.)、糖脂質でリポソームを作製する方法またはp−アミノフェニル−D−グリコシドをグルタルアルデヒドを用いてホスファチジルエタノールアミンリポソームに共有結合する方法(Ghosh P et al., Biochim Biophys Acta. 1980;632(4):562-72)、コレステン−5−イルオキシ−N−(4−((1−イミノ−2−β−D−チオグリコシルエチル)アミノ)ブチル)ホルムアミドでリポソームを作製する方法(非特許文献1)等が挙げられる。または、担体への第2のリガンドの結合または包含は、該担体の作製時に、第2のリガンドと、担体構成成分とを混合することによっても可能となる。
【0053】
担体に結合させるかまたは包含させる第2のリガンドの量は、担体構成成分中の重量比で0.01%〜100%、好ましくは0.2%〜20%、さらに好ましくは1〜5%とすることが可能である。担体への第2のリガンドの結合または包含は、該担体に薬物等を担持させる前に行ってもよいし、担体、第2のリガンドおよび薬物を同時に混合することなどによって行ってもよいし、または、薬物を既に担持した状態の担体と、第2のリガンドとを混合することなどによって行ってもよい。したがって、本発明はまた、既存の任意の薬物結合担体や薬物封入担体、例えば、DaunoXome
(R)、Doxil、Caelyx
(R)、Myocet
(R)などのリポソーム製剤に第2のリガンドを結合させる工程を含む、薬物含有標的化担体の製造方法にも関する。
【0054】
担体の形態は、所望の物質や物体を、標的とする細胞に運搬できればいずれの形態でもよく、例えば、限定するものではないが、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球、ポリマーマトリックス、リポプレックスなどのうちいずれの形態をとることもできる。本発明においては、送達効率の高さ、送達できる物質の選択肢の広さや製剤の容易性等の観点から、これらのうちリポソームまたはリポプレックスの形態が好ましく、中でもカチオン性脂質を含むカチオン性リポソームが特に好ましい。担体がリポソームの形態である場合、第2のリガンドとリポソーム構成脂質とのモル比は、好ましくは8:1〜1:8、より好ましくは4:1〜1:4、さらに好ましくは2:1〜1:2、特に1:1である。別の態様において、第2のリガンドの担体懸濁液における濃度は、5〜500μg/ml、好ましくは10〜250μg/ml、より好ましくは20〜200μg/ml、さらに好ましくは25〜100μg/mlである。
【0055】
担体は、これに含まれる第2のリガンドが、標的化分子として機能する態様で存在していれば、薬物を内部に含んでも、薬物の外部に付着して存在しても、また、薬物と混合されていてもよい。ここで、標的化分子として機能するとは、第2のリガンドを含む担体が、これを含まない担体よりも迅速かつ/または大量に、標的細胞に到達し、かつ/または取り込まれることを意味し、これは、例えば、標識を付した、または標識を含む担体を細胞培養物に添加し、所定時間後に標識の存在部位を分析することにより容易に確認することができる。構造的には、例えば、第2のリガンドが、遅くとも標的細胞に到達するまでに、担体を含む製剤の外部に、少なくとも部分的に露出しているか、標的となる細胞要素が認識し得る態様で存在していれば、上記要件を充足し得る。
投与経路や薬物放出様式などに応じて、上記薬剤を、適切な材料、例えば、腸溶性のコーティングや、時限崩壊性の材料で被覆してもよく、また、適切な薬物放出システムに組み込んでもよい。
【0056】
本発明において、標的細胞に関連する疾患を処置するための薬物は、標的細胞に関連する疾患を処置し得る任意の薬物を包含する。
標的細胞がフコシル化分子産生細胞である場合、標的細胞に関連する疾患を処置するための薬物としては、限定されずに、例えば、フコシル化分子産生細胞の活性または増殖を制御する薬物を含む。ここで、フコシル化分子産生細胞の活性とは、同細胞が示す分泌、取り込み、遊走等の種々の活性を指すが、例えば、腫瘍細胞においては、腫瘍の発症、進行、再発および/または転移、悪液質などの症状の発現や増悪化などに関与する活性を意味する。かかる活性としては、例えば、限定することなく、副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)や免疫抑制酸性タンパク(IAP)などの産生・分泌が挙げられる。
【0057】
したがって、フコシル化分子産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とは、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患の発症、進行および/または再発に関係するフコシル化分子産生細胞の物理的、化学的および/または生理的な作用等を直接または間接に抑制する何れの薬物であってもよい。例えば、腫瘍細胞においては、かかる薬物は限定されずに、上記生理活性物質の活性もしくは産生を阻害する薬物、例えば、前記生理活性物質を中和する抗体および抗体断片、前記生理活性物質の発現を抑制する、RNAi分子(例えば、siRNA、shRNA、ddRNA、miRNA、piRNA、rasiRNAなど)、リボザイム、アンチセンス核酸(RNA、DNA、PNA、またはこれらの複合物を含む)などの物質、もしくはドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、またはこれらを発現するベクター、ナトリウムチャンネル阻害剤などの細胞活性化抑制剤、アルキル化剤(例えば、イホスファミド、ニムスチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、メルファラン、ラニムスチン等)、抗腫瘍性抗生物質(例えば、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ミトキサントロン、マイトマイシンC等)および代謝拮抗剤(例えば、ゲムシタビン、エノシタビン、シタラビン、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン等)などの細胞増殖抑制剤、ならびにcompound 861、gliotoxinなどのアポトーシス誘導剤を包含する。また、本発明における「フコシル化分子産生細胞の活性または増殖を制御する薬物」は、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患の発症、進行および/または再発の抑制に直接または間接に関係するフコシル化分子産生細胞の物理的、化学的および/または生理的な作用等を直接または間接に促進する何れの薬物であってもよい。
【0058】
フコシル化分子産生細胞の活性または増殖を制御する薬物としてはまた、フコシル化分子の産生を抑制する物質、例えば、フコシルトランスフェラーゼの機能を阻害する抗体および抗体断片、フコシルトランスフェラーゼの発現を抑制する、RNAi分子(例えば、siRNA、shRNA、ddRNA、miRNA、piRNA、rasiRNAなど)、リボザイム、アンチセンス核酸(RNA、DNA、PNA、またはこれらの複合物を含む)などの物質、もしくはドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、またはこれらを発現するベクターなどが挙げられる。フコシルトランスフェラーゼとしては、例えば、FUT1、FUT2、FUT3、FUT4、FUT5、FUT6、FUT7およびFUT8等が挙げられ、これらに対するsiRNAの配列として、例えば、下表2に記載のものなどを使用できる。フコシルトランスフェラーゼの他の例としては、FUT9、FUT10、FUT11、POFUT1およびPOFUT2等が挙げられる。
【0059】
本発明の一態様において、阻害されるフコシルトランスフェラーゼは、FUT1、FUT2、FUT3およびFUT4からなる群から選択される。本発明の別の態様において、フコシルトランスフェラーゼは、FUT1、FUT2、FUT4、FUT5、FUT6およびFUT8からなる群から選択される。本発明のさらに別の態様において、フコシルトランスフェラーゼは、FUT1、FUT2、FUT3、FUT4、FUT5、FUT6およびFUT8からなる群から選択される。また、本発明の一態様において、阻害されるフコシルトランスフェラーゼは、フコースをα1,4結合で転移できるものが好ましく、かかるフコシルトランスフェラーゼとしては、例えばFUT3等が挙げられる。また、本発明の一態様において、阻害されるフコシルトランスフェラーゼは、CA19−9の産生と関連性の高いFUT3および/またはFUT6である。本発明の別の態様において、阻害されるフコシルトランスフェラーゼは、フコースをポリペプチドに結合できるものが好ましく、かかるフコシルトランスフェラーゼとしては、例えばPOFUT1、POFUT2などが挙げられる。また、本発明の一態様において、阻害されるフコシルトランスフェラーゼは、Notch−1のフコシル化と関連性の高いPOFUT1である。
【0060】
フコシル化分子産生細胞に関連する疾患は、フコシル化分子産生細胞に起因する疾患のみならず、同細胞がその影響を受ける疾患をも包含し、限定されずに、腫瘍、例えば、膵臓腫瘍、胆道系腫瘍、肝臓腫瘍、消化管腫瘍、脳腫瘍、肺腫瘍、骨軟部腫瘍、造血器腫瘍、より具体的には、例えば、膵癌、胆道系癌、肝癌、胃癌、食道癌、結腸直腸癌、さらには、乳癌、肺癌、子宮内膜癌、前立腺癌、白血病、リンパ腫などの腫瘍性疾患や、膵炎、肝硬変、肝炎などの炎症性疾患を含む。また、創傷治癒に関与する内皮細胞、線維芽細胞およびケラチノサイトにおいてNotchが活性化していることから(Chigurupati et al., PLoS One. 2007 Nov 14;2(11):e1167)、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患には、創傷も含まれる。
【0061】
したがって、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患を処置するための薬物としては、限定されずに、例えば、腫瘍性疾患の発症、進行および/または再発を抑制する抗腫瘍剤、例えば、限定することなく、イホスファミド、ニムスチン(例えば、塩酸ニムスチン)、シクロホスファミド、ダカルバジン、メルファラン、ラニムスチン等のアルキル化剤、ゲムシタビン(例えば、塩酸ゲムシタビン)、エノシタビン、シタラビン・オクホスファート、シタラビン製剤、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(例えば、TS−1)、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン等の代謝拮抗剤、イダルビシン(例えば、塩酸イダルビシン)、エピルビシン(例えば、塩酸エピルビシン)、ダウノルビシン(例えば、塩酸ダウノルビシン、クエン酸ダウノルビシン)、ドキソルビシン(例えば、塩酸ドキソルビシン)、ピラルビシン(例えば、塩酸ピラルビシン)、ブレオマイシン(例えば、塩酸ブレオマイシン)、ペプロマイシン(例えば、硫酸ペプロマイシン)、ミトキサントロン(例えば、塩酸ミトキサントロン)、マイトマイシンC等の抗腫瘍性抗生物質、エトポシド、イリノテカン(例えば、塩酸イリノテカン)、ビノレルビン(例えば、酒石酸ビノレルビン)、ドセタキセル(例えば、ドセタキセル水和物)、パクリタキセル、ビンクリスチン(例えば、硫酸ビンクリスチン)、ビンデシン(例えば、硫酸ビンデシン)、ビンブラスチン(例えば、硫酸ビンブラスチン)等のアルカロイド、アナストロゾール、タモキシフェン(例えば、クエン酸タモキシフェン)、トレミフェン(例えば、クエン酸トレミフェン)、ビカルタミド、フルタミド、エストラムスチン(例えば、リン酸エストラムスチン)等のホルモン療法剤、カルボプラチン、シスプラチン(CDDP)、ネダプラチン等の白金錯体、サリドマイド、ネオバスタット、ベバシズマブ等の血管新生阻害剤、L−アスパラギナーゼなどを挙げることができる。
【0062】
フコシル化分子産生細胞に関連する疾患を処置するための薬物としてはさらにまた、限定されずに、炎症性疾患の発症、進行および/または再発を抑制する抗炎症剤、例えば、ステロイド系抗炎症剤(プレドニゾロン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、フルチカゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン等)や非ステロイド系抗炎症剤(アセチルサリチル酸、ロキソプロフェン、アセトアミノフェン、ケトプロフェン、チアプロフェン酸、スプロフェン、トルメチン、カルプロフェン、ベノキサプロフェン、ピロキシカム、ベンジダミン、ナプロキセン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ジフルニサール、アザプロパゾン等)、炎症性サイトカインの発現を抑制するRNAi分子(例えば、siRNA、shRNA、ddRNA、miRNA、piRNA、rasiRNAなど)、アンチセンス核酸などの物質、および/または炎症性サイトカインの作用を抑制する薬物、例えば、炎症性サイトカインに対する抗体や、炎症性サイトカインの受容体拮抗剤などを挙げることができる。
【0063】
標的細胞が樹状突起細胞である場合、標的細胞に関連する疾患としては、限定されずに、例えば、種々の免疫疾患、例えば、アレルギー、免疫不全、感染症、腫瘍、癌等が挙げられる。したがって、標的細胞に関連する疾患を処置するための薬物としては、限定されずに、例えば、ステロイド、アザチオプリン、メルカプトプリン、シクロスポリンなどの免疫抑制剤、抗原、DNAワクチンなどの核酸ワクチン、NFκBデコイなどが挙げられる。
【0064】
標的細胞が肝実質細胞である場合、標的細胞に関連する疾患としては、限定されずに、例えば、肝癌、感染症、例えば、HBV感染症、HCV感染症などのウイルス性肝炎、肝実質細胞の機能障害、例えば、高脂血症、酵素欠損症など、さらには、肝実質細胞に遺伝子を導入・発現することによって治癒し得る疾患、例えば、糖尿病、ADA欠損症、血友病等が挙げられる。したがって、標的細胞に関連する疾患を処置するための薬物は疾患によって異なるが、限定されずに、例えば、抗癌剤、ウイルス遺伝子の発現を抑制するRNAi分子(例えば、siRNA、shRNA、ddRNA、miRNA、piRNA、rasiRNAなど)、リボザイム、アンチセンス核酸(RNA、DNA、PNA、またはこれらの複合物を含む)などの物質、アポリポプロテインB遺伝子、HMG−CoA還元酵素遺伝子、インスリン遺伝子、アデノシン・デアミナーゼ遺伝子、第VIII因子遺伝子、第IX因子遺伝子、これらの核酸分子を発現させるベクター等が挙げられる。
【0065】
標的細胞に関連する疾患を処置するための薬物は、標的細胞内に送達されることが好ましいが、状況によっては、標的細胞の周囲に送達されることが好ましい場合もある。例えば、標的細胞がフコシル化分子産生細胞である場合、炎症性サイトカインの発現を抑制するRNAi分子、アンチセンス核酸などの物質は、フコシル化分子を産生しない炎症性サイトカイン産生細胞にも送達することができ、これにより膵炎や肝炎などの、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患をより有効に処置することができる。
【0066】
標的細胞に関連する疾患を処置するための薬物は、標識されていてもいなくてもよい。標識化により、送達の成否や、標的細胞の増減などをモニタリングすることが可能となり、特に試験・研究レベルにおいて有用である。
本明細書において、標識は、それ自体、またはそれが付されたものを直接的または間接的に検出せしめることができる任意の物質を指す。標識は、当業者に公知な任意のもの、例えば、気体もしくは生理条件下で気体を発生する物質、任意の放射性同位体、磁性体、核磁気共鳴する元素(例えば、水素、リン、ナトリウム、フッ素等)、核磁気共鳴する元素の緩和時間に影響を与える物質(例えば、金属原子もしくはこれを含む化合物)、標識化物質に結合する物質(例えば抗体)、蛍光物質、フルオロフォア、化学発光物質、酵素、ビオチンもしくはその誘導体、アビジンもしくはその誘導体などから選択することができる。
【0067】
本明細書において、標識は検出可能なものであってよく、これには、既存の任意の検出手段により検出し得る任意の標識が含まれる。検出手法としては、限定されることなく、例えば、肉眼、光学検査装置(例えば、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、位相差顕微鏡、in vivoイメージング装置など)、X線装置(例えば、単純X線装置、CT(コンピュータ断層撮影)装置など)、MRI(磁気共鳴イメージング)装置、核医学検査装置(シンチグラフ装置、PET(positron emission tomography)装置、SPECT(single photon emission computed tomography)装置など)、超音波検査装置およびサーモグラフィー装置によるものなどが挙げられる。各検出手法に適した標識は当業者に知られており、例えば、Lecchi et al., Q J Nucl Med Mol Imaging. 2007;51(2):111-26などに記載されている。
【0068】
肉眼および光学検査装置での検出に適した標識としては、例えば、種々の蛍光標識および発光標識が挙げられる。
具体的な蛍光標識としては、限定されることなく、例えば、Cy
TMシリーズ(例えば、Cy
TM2、3、5、5.5、7など)、DyLight
TMシリーズ(例えば、DyLight
TM 405、488、549、594、633、649、680、750、800など)、Alexa Fluor
(R)シリーズ(例えば、Alexa Fluor
(R) 405、488、549、594、633、647、680、750など)、HiLyte Fluor
TMシリーズ(例えば、HiLyte Fluor
TM 488、555、647、680、750など)、ATTOシリーズ(例えば、ATTO488、550、633、647N、655、740など)、FAM、FITC、テキサスレッド、GFP、RFP、Qdotなどを用いることができる。in vivoイメージングに適した蛍光標識としては、例えば、生体透過性が高く、自家蛍光の影響を受けにくい波長、例えば、近赤外波長の蛍光を発するものや、蛍光強度の強いものが挙げられる。かかる蛍光標識としては、限定することなく、例えば、Cy
TMシリーズ、DyLight
TMシリーズ、Alexa Fluor
(R)シリーズ、HiLyte Fluor
TMシリーズ、ATTOシリーズ、テキサスレッド、GFP、RFP、Qdotおよびこれらの誘導体などが挙げられる。
具体的な発光標識としては、限定されることなく、例えば、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン、イクオリンなどを用いることができる。
【0069】
X線装置での検出に適した標識としては、例えば、種々の造影剤が挙げられる。具体的な造影剤としては、限定されることなく、例えば、ヨウ素原子、ヨウ素イオン、ヨウ素含有化合物などを用いることができる。
【0070】
MRI装置での検出に適した標識としては、例えば、核磁気共鳴する元素や核磁気共鳴する元素の緩和時間に影響を与える物質などが挙げられる。核磁気共鳴する元素には、例えば、水素、リン、ナトリウム、フッ素等が含まれる。核磁気共鳴する元素の緩和時間に影響を与える物質としては、限定されずに、種々の金属原子や1種または2種以上の該金属原子を含む化合物、例えば1種または2種以上の該金属原子の錯体などが挙げられる。具体的には、限定されることなく、例えば、ガドリニウム(III)(Gd(III))、イットリウム−88(
88Y)、インジウム−111(
111In)、およびこれらと、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸(DOTA)、(1,2−エタンジイルジニトリロ)四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン、2,2’−ビピリジン(bipy)、1,10−フェナントロリン(phen)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(DPPE)、2,4−ペンタンジオン(acac)、シュウ酸塩(ox)などの配位子との錯体、超常磁性酸化鉄(SPIO)、酸化マンガン(MnO)などを用いることができる。
【0071】
核医学検査装置での検出に適した標識としては、例えば、種々の放射性同位体や1種または2種以上の該放射性同位体を含む化合物、例えば1種または2種以上の該放射性同位体の錯体などが挙げられる。放射性同位体としては、限定されることなく、例えば、テクネチウム−99m(
99mTc)、インジウム−111(
111In)、ヨウ素−123(
123I)、ヨウ素−124(
124I)、ヨウ素−125(
125I)、ヨウ素−131(
131I)、タリウム−201(
201Tl)、炭素−11(
11C)、窒素−13(
13N)、酸素−15(
15O)、フッ素−18(
18F)、銅−64(
64Cu)、ガリウム−67(
67Ga)、クリプトン−81m(
81mKr)、キセノン−133(
133Xe)、ストロンチウム−89(
89Sr)、イットリウム−90(
90Y)などを用いることができる。また、放射性同位体を含む化合物としては、限定されることなく、例えば、
123I−IMP、
99mTc−HMPAO、
99mTc−ECD、
99mTc−MDP、
99mTc−テトロフォスミン、
99mTc−MIBI、
99mTcO
4−、
99mTc−MAA、
99mTc−MAG3、
99mTc−DTPA、
99mTc−DMSA、
18F−FDG1などが挙げられる。
【0072】
超音波検査装置での検出に適した標識としては、限定されることなく、例えば、生体許容性の気体もしくは生理条件下で気体を発生する物質、脂肪酸、または、これらの物質を含む物質が挙げられる。気体としては、限定されずに、例えば、空気、希ガス、窒素、N
2O、酸素、二酸化炭素、水素、不活性希ガス(例えば、ヘリウム、アルゴン、キセノンまたはクリプトン)、フッ化硫黄(例えば、六フッ化硫黄、十フッ化二硫黄、トリフルオロメチル硫黄ペンタフルオリド)、六フッ化セレニウム、ハロゲン化シラン(例えば、テトラメチルシラン)、低分子炭化水素(例えば、C
1〜7アルカン(メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタンなど)、シクロアルカン(シクロブタン、シクロペンタンなど)、アルケン(エチレン、プロペン、ブテンなど))、フッ素含有ガス、アンモニアなど、生理条件下で気体を発生する物質としては、限定されずに、例えば、ドデカフルオロペンタン(DDFP)、生理条件下で気化するパーフルオロカーボン(特開2010-138137)などが、上記物質を含む物質としては、ナノ粒子、リポソームなどが挙げられる。フッ素含有ガスとしては、限定されずに、例えば、ハロゲン化炭化水素ガス(例えばブロモクロロジフルオロメタン、クロロジフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタン、クロロトリフルオロメタン、クロロペンタフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、パーフルオロカーボン)、フッ素化ケトン(例えば、パーフルオロアセトンなど)、フッ素化エーテル(例えば、パーフルオロジエチルエーテル)などが挙げられる。
【0073】
パーフルオロカーボンとしては、限定されずに、例えばパーフルオロアルカン(例えば、パーフルオロメタン、パーフルオロエタン、パーフルオロプロパン、パーフルオロブタン、パーフルオロ−n−ブタン、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン)、パーフルオロアルケン(例えば、パーフルオロプロペン、パーフルオロブテン(例えば、パーフルオロブト−2−エン)、パーフルオロブタジエン)、パーフルオロアルキン(例えば、パーフルオロブト−2−イン)、パーフルオロシクロアルカン(例えば、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロメチルシクロブタン、パーフルオロジメチルシクロブタン、パーフルオロトリメチルシクロブタン、パーフルオロシクロペンタン、パーフルオロメチルシクロペンタン、パーフルオロジメチルシクロペンタン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロシクロヘプタン)などが挙げられる。
【0074】
超音波検査装置での検出に適した標識として、既に市販されているものを利用することもできる。市販されている超音波検査用標識としては、限定されずに、例えば、第1世代のAlbunex(Mallinckrodt)、Echovist(SHU 454、Schering)、Levovist(SHU 508、Schering)、Myomap(Quadrant)、Quantison(Quadrant)、Sonavist(Schering)、Sonazoid(GE Healthcare)など、第2世代のDefinity/luminity(Bristol-Myers Squibb Medical Imaging)、Imagent-imavist(Alliance)、Optison(GE Healthcare)、biSphere/cardiosphere(POINT Biomedical)、SonoVue (BR1, Bracco)、AI700/imagify(Acusphere)など、第3世代のEchogen(Sonus Pharmaceuticals)などが挙げられる(Reddy et al., World J Gastroenterol. 2011 Jan 7;17(1):42-8)。また、超音波検査装置での検出に適した標識は、上記のほか、特開平5−194278、特開平8−310971、特開平8−151335、特開2002−308802、WO2004/069284、WO2005/120587などにも記載されている。
【0075】
本発明において「標的細胞用」とは、担体や薬剤が標的細胞を標的として使用するのに適していることを意味し、これは例えば、担体や薬剤が標的細胞に、標的としない細胞よりも迅速、高効率かつ/または大量に送達されることを含む。例えば、本発明の標的化薬物または標的化担体は、標的細胞に、標的としない細胞に比べ、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、さらには3倍以上の速度および/または効率で送達され得る。
【0076】
本発明の組合わせ医薬製剤における第1のリガンドを含む第1の成分と、第2のリガンドで標的化された薬剤を含む第2の成分とは、第1の成分が、第2の成分の標的特異性を高める限りは任意の比率で存在してもよく、当業者であれば、例えば、実験動物などの対象に、所定量の標識を付した第2の成分に対して、第1の成分の量を変化させるか、所定量の第1の成分に対して、標識を付した第2の成分の量を変化させて投与し、標的組織または細胞における標識量を測定することなどにより、適切な比率を適宜決定することができる。例えば、第1のリガンドとしてマンノースを、第2のリガンドとしてフコースをそれぞれ用いた場合、マンノースとフコースとの比率は、例えば質量比で、20000:1〜200:1、10000:1〜300:1、5000:1〜500:1、3000:1〜1000:1、2500:1〜1500:1、モル比で、16000:1〜160:1、8000:1〜240:1、4000:1〜400:1、2400:1〜500:1、2000:1〜1200:1などとすることができる。また、第1のリガンドとしてマンノースを用いる場合、第1の成分の投与量は、マンノースとして1回あたり、0.01〜10000mg/kg体重、0.1〜1000mg/kg体重、0.5〜500mg/kg体重、1〜100mg/kg体重、5〜50mg/kg体重、または、0.05〜50000μモル/kg体重、0.5〜5000μモル/kg体重、2.5〜2500μモル/kg体重、5〜500μモル/kg体重、25〜250μモル/kg体重などとすることができる。
【0077】
本発明の組合わせ医薬製剤において、第1の成分と第2の成分とは、同時投与または逐次投与することができる。したがって、第1の成分は、第2の成分と同時に投与しても、第2の成分の前に投与しても、第2の成分の後に投与してもよい。第1の成分と第2の成分とを逐次投与する場合、第1の成分の直後に第2の成分を連続して投与しても、第2の成分の直後に第1の成分を連続して投与しても、第1の成分を投与後、時間間隔を空けて第2の成分を投与しても、第2の成分を投与後、時間間隔を空けて第1の成分を投与してもよいし、これらの投与方法を組合わせてもよい。したがって、例えば、第1の成分を投与後、時間間隔を空けて、第1の成分と第2の成分を同時投与し、その後にさらに時間間隔を空けて第1の成分を投与してもよい。時間間隔は、48時間以内、36時間以内、24時間以内、12時間以内、6時間以内、5時間以内、4時間以内、3時間以内、2時間以内、1時間以内、30分以内、15分以内、または10分以内などであってもよい。当業者であれば、例えば、実験動物などの対象に第1の成分および第2の成分を種々の順序および時間間隔で投与し、標的組織または細胞における標識量を測定することなどにより、適切な時間間隔を適宜決定することができる。
【0078】
本発明の組合わせ医薬製剤は、第1の成分と第2の成分とを同時に投与する場合には、単一の投与形態としてもよいし、第1の成分と第2の成分とを別々の投与形態としてもよい。第1の成分と第2の成分とを同時に投与しない場合には、当然のことながら、第1の成分と第2の成分とを別々の投与形態とする。また、第1の成分と第2の成分とを同時に投与するのに加え、第1の成分をさらに別のタイミングで投与する場合には、第1の成分と第2の成分とを別々の投与形態としてもよいし、第1の成分と第2の成分とを含む単一の投与形態と、第1の成分のみを含む別の投与形態との組合わせとしてもよい。第1の成分と第2の成分とを別々の投与形態とする場合、第1の成分と第2の成分とは同一の包装で提供してもよいし、各成分を別包装としてもよい。また、本発明の組合わせ医薬製剤は、第1の成分と第2の成分とを組合わせて使用する方法を示した指示、例えば、使用説明書や、使用方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリーなどをさらに含んでもよい。
【0079】
本発明の別の側面は、細網内皮系細胞における多特異性レクチンの第1のリガンドを含む第1の成分と、該第1のリガンドとは異なる細網内皮系細胞における多特異性レクチンの第2のリガンドで標的化された担体を含む第2の成分とを含む、標的細胞特異的に物質を送達するための組合わせ医薬組成物に関する。
本発明のこの側面における細網内皮系細胞、多特異性レクチン、第1のリガンド、第2のリガンド、標的化、担体、第1の成分と第2の成分との比率および投与順序については、本発明の組合わせ医薬製剤について上述したとおりである。ただし、本発明の組合わせ医薬組成物が送達する物質は、標的細胞に関連する疾患を処置するための薬物に限られず、投与部位から標的細胞が存在する病変部位へ、生物の体内を物理的に移動できるような大きさのものであれば任意の物質を含む。したがって、本発明の医薬組成物は、原子、分子、化合物、タンパク質、核酸等はもとより、ベクター、ウイルス粒子、細胞、1以上の要素で構成された薬物放出システム、マイクロマシン等の物質をも運搬することができる。前記物質は、好ましくは標的細胞および/またはその周囲に何らかの影響を与える性質を有し、例えば、標的細胞を標識するものや、標的細胞および/またはその周囲に存在する細胞の活性または増殖を制御する(例えば、これを増強または抑制する)ものを含む。
本発明の医薬組成物の一態様において、送達される物質は、本発明の組合わせ医薬製剤について上述した標識および/または標的細胞に関連する疾患を処置するための薬物である。
【0080】
本発明の別の側面は、細網内皮系細胞における多特異性レクチンの第1のリガンドを含む第1の成分と、該第1のリガンドとは異なる細網内皮系細胞における多特異性レクチンの第2のリガンドで標的化された標識剤を含む第2の成分とを含む、標的細胞または標的細胞を含む組織(以下、標的組織と称することがある)を標識するための、標的細胞または標的細胞を含む組織を検出するための、標的細胞または標的細胞を含む組織をイメージングするための、標的細胞に関連する疾患を診断、検出および/またはモニタリングするための、標的細胞に関連する疾患の可能性を検出するための、および/または標的細胞に関連する疾患に対する処置の効果を評価するための、組合わせ医薬組成物(以下、標識含有組成物と称することがある)に関する。
本発明のこの側面における細網内皮系細胞、多特異性レクチン、第1のリガンド、第2のリガンド、標的化、第1の成分と第2の成分との比率および投与順序については、本発明の組合わせ医薬製剤について上述したとおりである。ここで、標識剤は、第2のリガンドで標的化された標識のみで構成されても、第2のリガンドで標的化された担体に担持された標識であっても、第2のリガンドで標的化された担体に担持された第2のリガンドで標的化された標識であってもよい。標識については、本発明の組合わせ製剤に関して上記したとおりである。
【0081】
標的細胞を含む組織としては、標的細胞がフコシル化分子産生細胞である場合は、限定されずに、例えば、腫瘍組織、例えば、膵臓腫瘍、胆道系腫瘍、肝臓腫瘍、消化管腫瘍、脳腫瘍、肺腫瘍、骨軟部腫瘍、造血器腫瘍、より具体的には、膵癌、胆道系癌、肝癌、胃癌、食道癌、結腸直腸癌、さらには、乳癌、肺癌、子宮内膜癌、前立腺癌、リンパ腫などの組織や、白血病に冒された骨髄組織、膵炎、肝硬変、肝炎などの炎症性疾患における炎症部位の組織、リンパ系などの免疫系の組織、創傷を受けた皮膚組織などが、標的細胞が樹状突起細胞である場合は、例えば、皮膚、鼻腔、肺、胃腸管などが、標的細胞が肝実質細胞である場合は、肝臓などが、それぞれ挙げられる。
【0082】
標的細胞または標的細胞を含む組織の標識および検出(イメージングを含む)は、in vivoで行っても、in vitroで行ってもよい。また、前記組成物は、標識を、標的細胞または標的細胞を含む組織を標識するため、標的細胞または標的細胞を含む組織を検出するため、標的細胞または標的細胞を含む組織をin vivoまたはin vitroでイメージングするため、標的細胞に関連する疾患を診断、検出および/またはモニタリングするため、標的細胞に関連する疾患の可能性を検出するため、または標的細胞に関連する疾患に対する処置の効果を評価するための有効量で含んでもよい。該有効量は、例えば、標識が、in vivoまたはin vitroで検出され得る程度に、標的細胞に取り込まれる量であってもよい。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。前記組成物は、標識剤のほかに、任意の薬物、例えば、上記の標的細胞の活性または増殖を制御する薬物、標的細胞に関連する疾患を処置する薬物等を含んでもよい。
【0083】
本発明のさらなる側面は、細網内皮系細胞における多特異性レクチンの第1のリガンドを含む、該第1のリガンドとは異なる細網内皮系細胞における多特異性レクチンの第2のリガンドで標的化された担体、薬剤または標識剤(以下、標的化担体等と略す場合がある)の標的特異性強化剤に関する。
本発明のこの側面における細網内皮系細胞、多特異性レクチン、第1のリガンド、第2のリガンド、標的化、担体、薬剤、標識剤、標的特異性については、本発明の組合わせ医薬製剤および組合わせ医薬組成物について上述したとおりである。
【0084】
本発明の標的特異性強化剤は、上記の第2のリガンドで標的化された担体等の標的特異性を強化するものである。すなわち、第2のリガンドで標的化された担体等の標的特異性は、本発明の標的特異性強化剤の使用により、これを使用しなかった場合に比べて高まる。標的特異性の程度は、本発明の標的特異性強化剤と、第2のリガンドで標的化された担体等とを対象、例えば実験動物などに投与し、標的細胞における分布と、標的としない細胞における分布との差異、または、治療効果などを、第2のリガンドで標的化された担体等を、本発明の標的特異性強化剤と併用しなかった場合の分布の差異または治療効果などと比較することなどにより評価することができる。例えば、限定されずに、標的特異性強化剤と、第2のリガンドで標的化された担体等とを併用した場合の標的としない細胞における分布に対する標的細胞における分布の割合が、併用しなかった場合の割合より高い場合、または併用した場合の治療効果が併用しなかった場合のものより優れている場合、担体等の標的特異性が強化されているものとする。
【0085】
本発明の標的特異性強化剤と、第2のリガンドで標的化された担体等との投与比率は、標的特異性強化剤が、担体等の標的特異性を高める限りは任意の比率であってよく、当業者であれば、例えば、実験動物などの対象に、所定量の標識を付した担体等に対して、標的特異性強化剤の量を変化させるか、所定量の標的特異性強化剤に対して、標識を付した担体等の量を変化させて投与し、標的組織または細胞における標識量を測定することなどにより、適切な比率を適宜決定することができる。例えば、第1のリガンドとしてマンノースを、第2のリガンドとしてフコースをそれぞれ用いた場合、マンノースとフコースとの比率は、例えば質量比で、20000:1〜200:1、10000:1〜300:1、5000:1〜500:1、3000:1〜1000:1、2500:1〜1500:1、モル比で、16000:1〜160:1、8000:1〜240:1、4000:1〜400:1、2400:1〜500:1、2000:1〜1200:1などとすることができる。また、第1のリガンドとしてマンノースを用いる場合、標的特異性強化剤の投与量は、マンノースとして1回あたり、0.01〜10000mg/kg体重、0.1〜1000mg/kg体重、0.5〜500mg/kg体重、1〜100mg/kg体重、5〜50mg/kg体重、または、0.05〜50000μモル/kg体重、0.5〜5000μモル/kg体重、2.5〜2500μモル/kg体重、5〜500μモル/kg体重、25〜250μモル/kg体重などとすることができる。
【0086】
本発明の標的特異性強化剤は、第2のリガンドで標的化された担体等と同時投与または逐次投与することができる。したがって、標的特異性強化剤は、担体等と同時に投与しても、担体等の前に投与しても、担体等の後に投与してもよい。標的特異性強化剤と担体等とを逐次投与する場合、標的特異性強化剤の直後に担体等を連続して投与しても、担体等の直後に標的特異性強化剤を連続して投与しても、標的特異性強化剤を投与後、時間間隔を空けて担体等を投与しても、担体等を投与後、時間間隔を空けて標的特異性強化剤を投与してもよいし、これらの投与方法を組合わせてもよい。したがって、例えば、標的特異性強化剤を投与後、時間間隔を空けて、標的特異性強化剤と担体等を同時投与し、その後にさらに時間間隔を空けて標的特異性強化剤を投与してもよい。時間間隔は、48時間以内、36時間以内、24時間以内、12時間以内、6時間以内、5時間以内、4時間以内、3時間以内、2時間以内、1時間以内、30分以内、15分以内、または10分以内などであってもよい。当業者であれば、例えば、実験動物などの対象に標的特異性強化剤および担体等を種々の順序および時間間隔で投与し、標的組織または細胞における標識量を測定することなどにより、適切な時間間隔を適宜決定することができる。
【0087】
本発明の医薬製剤、医薬組成物または標的特異性強化剤は、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、限定することなく、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、直腸、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形および製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる(例えば、標準薬剤学、渡辺喜照ら編、南江堂、2003年などを参照)。
例えば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤などが挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤などの注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であることができる。
【0088】
本発明の医薬製剤または医薬組成物は、いずれの形態で供給されてもよいが、保存安定性の観点から、用時調製可能な形態、例えば、医療の現場あるいはその近傍において、医師および/または薬剤師、看護士、もしくはその他のパラメディカルなどによって調製され得る形態で提供されてもよい。この場合、本発明の医薬製剤または医薬組成物は、これらに必須の構成要素の少なくとも1つを含む1個または2個以上の容器として提供され、使用の前、例えば、24時間前以内、好ましくは3時間前以内、そしてより好ましくは使用の直前に調製される。調製に際しては、調製する場所において通常入手可能な試薬、溶媒、調剤器具などを適宜使用することができる。
【0089】
本発明のさらなる側面は、細網内皮系細胞における多特異性レクチンの第1のリガンドと、該第1のリガンドとは異なる細網内皮系細胞における多特異性レクチンの第2のリガンドで標的化された、標的細胞に関連する疾患を処置するための薬剤とを、単独でまたは組み合わせて含む1または2以上の容器を含む、本発明の医薬製剤を調製するための、または標的細胞に関連する疾患を処置するためのキット、ならびに、そのようなキットの形で提供される本発明の医薬製剤の必要構成要素にも関する。また、本発明は、細網内皮系細胞における多特異性レクチンの第1のリガンドと、該第1のリガンドとは異なる細網内皮系細胞における多特異性レクチンの第2のリガンドで標的化された担体または標識剤とを、単独でまたは組み合わせて含む1または2以上の容器を含む、本発明の医薬組成物を調製するための、標的細胞に物質を送達するための、標的細胞または標的細胞を含む組織を標識するための、標的細胞または標的細胞を含む組織を検出するための、標的細胞または標的細胞を含む組織をイメージングするための、標的細胞に関連する疾患を診断、検出および/またはモニタリングするための、標的細胞に関連する疾患の可能性を検出するための、および/または標的細胞に関連する疾患に対する処置の効果を評価するためのキット、ならびに、そのようなキットの形で提供される本発明の医薬組成物の必要構成要素にも関する。
【0090】
本発明のキットの各構成要素は、本発明の医薬製剤および医薬組成物について上記したとおりである。本キットは、上記のほか、本発明の医薬製剤または医薬組成物の調製方法や投与方法などに関する指示、例えば、使用説明書や、使用方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリーなどをさらに含んでいてもよい。また、本発明のキットは、本発明の医薬製剤または医薬組成物を完成するための構成要素の全てを含んでいてもよいが、必ずしも全ての構成要素を含んでいなくてもよい。したがって、本発明のキットは、医療現場や、実験施設などで通常入手可能な試薬や溶媒、例えば、無菌水や、生理食塩水、ブドウ糖溶液などを含んでいなくてもよい。
【0091】
本発明のさらなる側面は、本発明の医薬製剤および/または医薬組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、標的細胞の活性または増殖を制御するための、または標的細胞に関連する疾患を処置するための方法、さらには、本発明の医薬組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、標的細胞特異的に物質を送達するための、または標的細胞もしくは標的組織を標識するための、標的細胞または標的細胞を含む組織を検出するための、標的細胞または標的細胞を含む組織をイメージングするための、標的細胞に関連する疾患を診断、検出および/またはモニタリングするための、標的細胞に関連する疾患の可能性を検出するための、および/または標的細胞に関連する疾患に対する処置の効果を評価するための方法に関する。ここで、有効量とは、例えば、標的細胞の活性または増殖を制御するための方法については、標的細胞の活性または増殖を増大または減少させ得る量であり、標的細胞に関連する疾患を処置するための方法については、当該疾患の発症や再発を抑制し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止し得る量であり、好ましくは、当該疾患の発症および再発を予防し、または当該疾患を治癒する量であり、標的細胞特異的に物質を送達するための方法については、標的としていない細胞に比べて、標的細胞に、迅速および/または大量に物質を送達し得る量であり、標的細胞もしくは標的組織をin vivoまたはin vitroで標識するための、標的細胞または標的細胞を含む組織をin vivoまたはin vitroで検出するための、標的細胞または標的細胞を含む組織をin vivoまたはin vitroでイメージングするための、標的細胞に関連する疾患を診断、検出および/またはモニタリングするための、標的細胞に関連する疾患の可能性を検出するための、および/または標的細胞に関連する疾患に対する処置の効果を評価するための方法における有効量は、例えば、標的細胞もしくは標的組織を検出可能に標識し得る量である。
【0092】
また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどの実験動物や、疾患モデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、医薬製剤に含まれる第1のリガンドおよび第2のリガンド、ならびに本発明の方法に用いる薬物や標識の用量は当業者に公知であるか、または、上記の試験等により適宜決定することができる。標的細胞もしくは標的組織を標識するための方法において、担体が送達するものは医薬組成物について上記した標識である。
標的細胞に関連する疾患の可能性は、標的細胞に関連する疾患と関連性の高い指標の存在を含み、かかる指標としては、例えば、正常個体より多い標的細胞の数、正常個体より高い標的細胞の活性、正常個体における標的細胞の検出結果と異なる検出結果等が含まれる。
【0093】
本発明の方法において投与する医薬製剤または医薬組成物の具体的な用量は、処置を要する対象に関する種々の条件、例えば、標的の種類、方法の目的、治療内容、疾患の種類、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。
投与経路としては、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、直腸、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路が含まれる。
投与頻度は、用いる製剤または組成物の性状や、上記のような対象の条件によって異なるが、例えば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回または5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎など)、1週間に数回(例えば、1週間に2、3、4回など)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎など)であってもよい。この場合、各投与において、本医薬製剤または医薬組成物の第1の成分および第2の成分を両方とも投与することが好ましいが、投与頻度が多い場合、例えば、1日多数回投与する場合には、第1の成分の投与頻度を第2の成分の投与頻度に対して減少させることも可能である。ここで、各投与とは、第2の成分の1回の投与あたり第1の成分を複数回投与する場合には、これら一連の投与を含む。
【0094】
本発明の検出、イメージング、診断、モニタリングおよび/または評価方法は、前記標識含有組成物に含まれる標識を検出することをさらに含んでもよい。標識は、検出の時点で組成物に含まれていても、これと分離して存在していてもよい。標識の検出は、標識を検出し得る任意の手法、例えば、限定することなく、肉眼、光学検査装置(例えば、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、位相差顕微鏡、in vivoイメージング装置など)、X線装置(例えば、単純X線装置、CT(コンピュータ断層撮影)装置など)、MRI(磁気共鳴イメージング)装置、核医学検査装置(シンチグラフ装置、PET装置、SPECT装置など)、超音波検査装置およびサーモグラフィー装置による手法などにより行うことができる。各検出手法に適した標識は当業者に知られており(例えば、Lecchi et al., Q J Nucl Med Mol Imaging. 2007;51(2):111-26などを参照)、非限定的な例はすでに上記したとおりである。
【0095】
本発明の一態様において、標的細胞はin vivoで検出(例えば、イメージング)される。かかる検出には、限定することなく、光学検査装置(例えば、in vivoイメージング装置など)、X線装置(例えば、単純X線装置、CT(コンピュータ断層撮影)装置など)、MRI(磁気共鳴イメージング)装置、核医学検査装置(シンチグラフ装置、PET装置、SPECT装置など)、超音波検査装置およびサーモグラフィー装置などの、in vivo検出に適した任意の装置を用いることができ、かかる検出に適した標識も当業者に知られている(例えば、Lecchi et al., Q J Nucl Med Mol Imaging. 2007;51(2):111-26などを参照)。
【0096】
標的細胞をin vivoで検出(例えば、イメージング)することにより、標的細胞の存在部位(例えば、臓器や器官)や、標的細胞に関連する疾患の病巣を決定することができる。したがって、本発明は、前記標識含有組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、標的細胞の存在部位および/または標的細胞に関連する疾患の病巣の決定方法にも関する。かかる方法は、標的細胞に関連する疾患の診断に資することができる。
また、標識をin vitroまたはin vivoで検出することにより、標的細胞の数、分布など、標的細胞に関連する疾患の診断に資する情報を得ることができる。したがって、本発明は、前記標識含有組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、標的細胞に関連する疾患の診断を補助する方法にも関する。同方法は、標的細胞に関連する疾患の診断に資する情報を、医師に提供することをさらに含んでもよい。
【0097】
本発明の標的細胞に関連する疾患の検出および診断方法、標的細胞に関連する疾患の可能性の検出方法、および標的細胞に関連する疾患の診断を補助する方法は、対象における標識の検出結果と、基準となる標識の検出結果とを比較することをさらに含んでもよい。基準となる標識の検出結果は、例えば、標的細胞に関連する疾患を有しないことが分かっている対象における標識の検出結果(「陰性検出結果」とも称する)、または、標的細胞に関連する疾患を有していることが分かっている対象における標識の検出結果(「陽性検出結果」とも称する)であってもよい。ここで、例えば、対象における標識の検出結果が陰性検出結果と同等(例えば、それと顕著に異ならない)であれば、陰性と判定し、対象における標識の検出結果が陰性検出結果を顕著に上回る場合、陽性と判定することができる。また、対象における標識の検出結果が陽性検出結果と同等である(例えば、それと顕著に異ならない)場合に、陽性と判定することもできる。
【0098】
本発明の検出、イメージング、診断、診断補助、モニタリングおよび/または評価方法における標識の検出結果は、検出された標識のシグナル強度および/またはシグナル分布であってもよい。
ここで標識のシグナル強度は、標識から発せられる種々のシグナル、例えば、蛍光シグナル、発光シグナル、磁性シグナル、放射性シグナルなどの強さまたはこれに類する測定値を意味し、典型的には適切な検出手段で測定される。検出手段の具体例は、すでに上述した。シグナル強度は、対象の全体から得られるものであっても、対象の特定の部位または領域から得られるものであってもよい。また、シグナル強度は、測定する部位の面積または体積に対する平均値であってもよいし、積算値であってもよい。シグナル強度が経時的に変化する場合、本方法におけるシグナル強度は、ある特定の時点のものであってもよいし、ある期間について積算されたものであってもよい。疾患の進行に従って標的細胞の数、活性等が増大する場合、シグナル強度の増大は疾患の存在または進行の指標となり得、逆にシグナル強度の低減は、疾患の改善の指標となり得る。
【0099】
標識のシグナル分布は、標識から発せられるシグナルの対象における位置に関する情報を意味し、これは2次元的なものであっても3次元的なものであってもよい。シグナル分布を、解剖学的な臓器の位置関係、または、CT像、MRI像、超音波像などの組織の構造的な情報と照合することにより、シグナルがどの組織から発せられているのかを特定することができる。シグナル分布が経時的に変化する場合、本方法におけるシグナル分布は、ある特定の時点のものであってもよいし、ある期間について積算されたものであってもよい。疾患の進行に従って標的細胞の存在領域が拡大する場合、シグナル分布の拡大は疾患の存在または進行の指標となり得、逆にシグナル分布の縮小は、疾患の改善の指標となり得る。
本発明の方法においては、シグナル強度とシグナル分布とを組み合わせて評価することも可能である。どの位置にどの程度の強度のシグナルが検出されるかを評価することにより、より精確な判定や、より正確な情報の提供を行うことができる。
【0100】
本発明のモニタリング方法は、第1の時点の検出結果と、第1の時点より後の第2の時点の検出結果とを比較することをさらに含んでもよい。例えば、検出結果が標的細胞の数に関する指標(例えば、標的細胞に取り込まれた標識からのシグナル強度、シグナル分布など)である場合、第2の時点での指標が第1の時点での指標よりも小さいことは、標的細胞の数の減少を示し、標的細胞に関連する疾患が、標的細胞の増殖により悪化するものであれば、当該標的細胞に関連する疾患が改善したことを意味する。例えば、ここで、第2の時点におけるシグナル強度が第1の時点におけるシグナル強度よりも低ければ、疾患が改善していると判定することができ、また逆に第2の時点におけるシグナル強度が第1の時点におけるシグナル強度よりも高ければ、疾患が悪化していると判定することができる。また、例えば、第2の時点におけるシグナル分布が第1の時点におけるシグナル分布よりも縮小していれば、疾患が改善していると判定することができ、また逆に第2の時点におけるシグナル分布が第1の時点におけるシグナル分布よりも拡大していれば、疾患が悪化していると判定することができる。
【0101】
本発明の処置の効果の評価方法は、治療前の第1の時点の検出結果と、第1の時点より後の、治療後の第2の時点の検出結果、または、第1の治療の後の第1の時点の検出結果と、第1の治療の後になされた第2の治療の後の第2の時点の検出結果とを比較することをさらに含んでもよい。例えば、検出結果が標的細胞の数に関する指標(例えば、標的細胞に取り込まれた標識からのシグナル強度、シグナル分布など)である場合、第2の時点での指標が第1の時点での指標よりも小さいことは、標的細胞の数の減少を示し、標的細胞に関連する疾患が、標的細胞の増殖により悪化するものであれば、当該標的細胞に関連する疾患が改善したこと、すなわち、処置の効果がポジティブであることを意味する。例えば、ここで、第2の時点におけるシグナル強度が第1の時点におけるシグナル強度よりも低ければ、疾患が処置により改善しており、したがって、処置が成功していると判定することができ、また逆に第2の時点におけるシグナル強度が第1の時点におけるシグナル強度よりも高ければ、疾患が処置により悪化しており、処置があまり成功していないか、不成功であると判定することができる。また、例えば、第2の時点におけるシグナル分布が第1の時点におけるシグナル分布よりも縮小していれば、疾患が処置により改善しており、したがって、処置が成功していると判定することができ、また逆に第2の時点におけるシグナル分布が第1の時点におけるシグナル分布よりも拡大していれば、疾患が処置により悪化しており、処置があまり成功していないか、不成功であると判定することができる。
【0102】
本発明のさらなる側面は、本発明の標的特異性強化剤の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、本発明の第2のリガンドで標的化された担体、薬剤または標識剤(以下、標的化担体等と略す場合がある)の標的特異性を強化するための方法に関する。ここで、有効量とは、例えば、上記担体、薬剤または標識剤の標的特異性を高め、上記薬剤の治療効果を高める量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどの実験動物や、疾患モデル動物における、上記のような標的特異性を評価するための試験などにより適宜決定することができる。また、標的特異性強化剤に含まれる第1のリガンドの用量は上記の試験等により適宜決定することができる。第1のリガンドとしてマンノースを、第2のリガンドとしてフコースをそれぞれ用いた場合のマンノースとフコースとの比率、およびマンノースの用量は、本発明の標的特異性強化剤について上記したとおりである。
【0103】
本発明の方法において投与する標的特異性強化剤の具体的な用量は、処置を要する対象に関する種々の条件、例えば、標的の種類、疾患の種類、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。
投与経路としては、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、直腸、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路が含まれる。
投与頻度は、用いる剤の性状や、上記のような対象の条件によって異なるが、例えば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回または5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎など)、1週間に数回(例えば、1週間に2、3、4回など)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎など)であってもよい。この場合、各投与において、標的特異性強化剤および第2のリガンドで標的化された担体等を両方とも投与することが好ましいが、投与頻度が多い場合、例えば、1日多数回投与する場合には、標的特異性強化剤の投与頻度を担体等の投与頻度に対して減少させることも可能である。また、担体等の1回の投与に対し、標的特異性強化剤を複数回(2、3、4回または5回以上など)投与してもよく、これらの投与は担体等の投与と同時、および/または投与の前および/もしくは後であってもよい。したがって、例えば、標的特異性強化剤を、担体等の投与前に1回、担体等の投与と同時に1回、さらに担体等の投与後に1回といったタイミングで複数回投与することができる。
【0104】
本発明の方法において、用語「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、標的細胞に関連する疾患の処置、検出、診断、診断補助もしくはモニタリング、または標的細胞に関連する疾患の可能性の検出が企図される場合には、典型的には当該疾患に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を、標的化薬剤、標識剤または担体の標的特異性の強化が企図される場合には、かかる薬剤、標識剤または担体を投与する予定の対象または投与した対象を、標的細胞に関連する疾患に対する処置の効果の評価が企図される場合には、典型的には当該疾患に対する治療を受けているか、受けようとしている対象を、それぞれ意味する。
また、用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、標的細胞に関連する疾患の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、当該疾患発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0105】
本発明の1つの側面は、フコースを含む、フコシル化分子産生細胞用物質送達担体に関する。本発明の一態様は、フコースによってフコシル化分子産生細胞に標的化された担体に関する。同担体は、フコシル化分子産生細胞に対する標的化のための有効量のフコースを含んでもよい。したがって、本発明の一態様は、フコシル化分子産生細胞に対する標的化のための有効量のフコースを含む、前記細胞に標的化された担体に関する。また、同担体は、フコシル化分子産生細胞へ物質を送達するために用いることができる。したがって、本発明の一態様は、フコースを含む、フコシル化分子産生細胞へ物質を送達するための担体に関する。フコシル化分子産生細胞については、本発明の組合わせ医薬製剤に関して上記したとおりである。
【0106】
本発明の別の側面は、フコースを含む、フコース結合機構保有細胞用物質送達担体に関する。この担体は、フコース結合機構をその標的とするものである。したがって、本発明の一態様は、フコースによってフコース結合機構保有細胞に標的化された担体に関する。フコース結合機構に関する詳細は上記のとおりである。同担体は、フコース結合機構保有細胞に対する標的化のための有効量のフコースを含んでもよい。したがって、本発明の一態様は、フコース結合機構保有細胞に対する標的化のための有効量のフコースを含む、前記細胞に標的化された担体に関する。また、同担体は、フコース結合機構保有細胞へ物質を送達するために用いることができる。したがって、本発明の一態様は、フコースを含む、フコース結合機構保有細胞へ物質を送達するための担体に関する。また、フコース結合機構は、フコシル化分子の産生量およびフコシルトランスフェラーゼの発現量と関連しているため、これらをフコース結合機構保有の指標として用いることもできる。したがって、本発明の一態様において、フコース結合機構保有細胞は、フコシル化分子を産生する。また、本発明の別の態様において、フコース結合機構保有細胞はフコシルトランスフェラーゼを発現する。フコシル化分子の産生およびフコシルトランスフェラーゼの発現に関する詳細は、本発明の組合わせ医薬製剤に関して上記したとおりである。
【0107】
本発明のさらなる側面は、フコースを含む、フコシルトランスフェラーゼ発現細胞用物質送達担体に関する。同担体は、フコシルトランスフェラーゼ発現細胞に対する標的化のための有効量のフコースを含んでもよい。したがって、本発明の一態様は、フコシルトランスフェラーゼ発現細胞に対する標的化のための有効量のフコースを含む、前記細胞に標的化された担体に関する。また、同担体は、フコシルトランスフェラーゼ発現細胞へ物質を送達するために用いることができる。したがって、本発明の一態様は、フコースを含む、フコシルトランスフェラーゼ発現細胞へ物質を送達するための担体に関する。フコシルトランスフェラーゼの発現に関する詳細は上記のとおりである。フコシルトランスフェラーゼの発現はフコシル化分子の産生およびフコース結合機構の存在と関連しているため、これらをフコシルトランスフェラーゼ発現の指標として用いることもできる。したがって、本発明の一態様において、フコシルトランスフェラーゼ発現細胞は、フコシル化分子を産生する。また、本発明の別の態様において、フコシルトランスフェラーゼ発現細胞はフコース結合機構を有する。フコシル化分子の産生およびフコース結合機構の存在に関する詳細は、本発明の組合わせ医薬製剤に関して上記したとおりである。
【0108】
本明細書中、標的化とは、物質、例えば薬剤や担体などを、特定の標的、例えば特定の細胞や組織(本発明においてはフコシル化分子産生細胞および/またはフコース結合機構保有細胞および/またはフコシルトランスフェラーゼ発現細胞(以下、代表的にフコシル化分子産生細胞のみを記載する)やかかる細胞を含む組織)などに、標的としない細胞や組織よりも、標的化していない前記物質と比較して、迅速、効率的かつ/または大量に送達すること、すなわち標的に特異的に送達することを可能にすることをいい、標的化剤とは、物質と結合または反応した場合に、当該物質をこのように標的化できる物質を意味する。したがって、本発明におけるフコースは、標的化剤として機能する。また、標的特異性とは、標的化された物質、例えば、薬剤や担体などが、標的細胞へ、標的としない細胞よりも迅速、効率的かつ/または大量に送達される程度を意味し、これが高ければ、標的化物質はより効率的に標的細胞に送達され、標的としない細胞への送達は抑制される。
【0109】
本発明の担体に含まれるフコースは、フコシル化分子産生細胞への物質送達を促進するものであれば特に限定されず、例えばL−フコース、D−フコース、L−フコースおよび/またはD−フコースを含む糖鎖、例えば、L−フコースおよび/またはD−フコースを側鎖に含む糖鎖やL−フコースおよび/またはD−フコースを非還元末端に含む糖鎖、L−フコースおよび/またはD−フコースが結合したポリペプチドもしくは脂質などを用いることができる。
【0110】
本発明の担体は、これらのフコース自体で構成してもよいし、フコースを、これとは別の担体構成成分に結合または包含させることにより構成してもよい。したがって、本発明の担体は、フコース以外の担体構成成分を含んでいてもよい。この場合、フコース以外の担体構成成分とフコースとの関係は、フコースが標的化剤として機能し得る形でフコース以外の担体構成成分が形成する構造体と複合体を形成していれば特に限定されず、フコースが、標的とする細胞要素と接触可能な態様で、フコース以外の担体構成成分が形成する構造体と直接、または、リンカー、スペーサーなどの介在化学要素を介して結合したものを含む。フコース以外の担体構成成分としては、特に限定されずに、医薬および薬学の分野で知られる任意のものを用いることができるが、フコースを包含し得るか、または、これと結合し得るものが好ましい。
【0111】
このような成分としては、脂質、例えば、グリセロリン脂質などのリン脂質、スフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質、コレステロールなどのステロール、大豆油、ケシ油などの植物油、鉱油、卵黄レシチンなどのレシチン類、ポリエチレングリコール、PEG:ポリマー担体等が挙げられるが、これらに限定されない。このうち、リポソームを構成し得るもの、例えば、レシチンなどの天然リン脂質、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)などの半合成リン脂質、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、コレステロールなどが好ましい。
【0112】
特に好ましい成分としては、細網内皮系による捕捉を回避し得る成分、例えば、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジドデシル−D−グルタメートクロリド(TMAG)、N,N’,N’’,N’’’−テトラメチル−N,N’,N’’,N’’’−テトラパルミチルスペルミン(TMTPS)、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、ジドデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2−ジオレイルオキシ−3−トリメチルアンモニオプロパン(DOTAP)、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)、1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド(DC−6−14)などのカチオン性脂質が挙げられる。
【0113】
本発明の担体へのフコースの結合または包含は、化学的および/または物理的な方法によってフコースを担体の他の構成成分に結合させるかまたは包含させることによっても可能となる。フコースを担体に結合させる方法としては、限定されずに、例えば、リポソームをトリス(ヒドロキシアルキル)アミノアルカンにより親水性化処理し、リンカータンパク質、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA)などの生体由来のタンパク質を結合させ、これに糖鎖を結合させる方法(WO2007/091661、Hirai et al., Biochem Biophys Res Commun. 2007;353(3):553-8、Hirai et al., Int J Pharm. 2010;391(1-2):274-83)、糖付加コレステロール誘導体でリポソームを作製する方法(特許文献1)、ポリ−L−リジンに糖を付加する方法(上記Negre et al.)、糖脂質でリポソームを作製する方法またはp−アミノフェニル−D−グリコシドをグルタルアルデヒドを用いてホスファチジルエタノールアミンリポソームに共有結合する方法(Ghosh P et al., Biochim Biophys Acta. 1980;632(4):562-72)、コレステン−5−イルオキシ−N−(4−((1−イミノ−2−β−D−チオグリコシルエチル)アミノ)ブチル)ホルムアミドでリポソームを作製する方法(非特許文献1)等が挙げられる。または、本発明の担体へのフコースの結合または包含は、該担体の作製時に、フコースと、それ以外の担体構成成分とを混合することによっても可能となる。
【0114】
本発明の担体に結合させるかまたは包含させるフコースの量は、限定されずに、担体構成成分中の重量比で0.01%〜100%、好ましくは0.2%〜20%、さらに好ましくは1〜5%とすることが可能である。担体へのフコースの結合または包含は、該担体に薬物等を担持させる前に行ってもよいし、担体、フコースおよび薬物等を同時に混合することなどによって行ってもよいし、または、薬物等を既に担持した状態の担体と、フコースとを混合することなどによって行ってもよい。したがって、本発明はまた、既存の任意の薬物結合担体や薬物封入担体、例えば、DaunoXomee
(R)、Doxil、Caelyx
(R)、Myocet
(R)などのリポソーム製剤にフコースを結合させる工程を含む、フコシル化分子産生細胞特異的製剤の製造方法にも関する。
【0115】
本発明の担体の形態は、所望の物質や物体を、標的とする細胞に運搬できればいずれの形態でもよく、例えば、限定するものではないが、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球、ポリマーマトリックス、リポプレックスなどのうちいずれの形態をとることもできる。本発明においては、送達効率の高さ、送達できる物質の選択肢の広さや製剤の容易性等の観点から、これらのうちリポソームまたはリポプレックスの形態が好ましく、中でもカチオン性脂質を含むカチオン性リポソームが特に好ましい。担体がリポソームの形態である場合、フコースとリポソーム構成脂質とのモル比は、好ましくは8:1〜1:8、より好ましくは4:1〜1:4、さらに好ましくは2:1〜1:2、特に1:1である。別の態様において、フコースの担体懸濁液における濃度は、5〜500μg/ml、好ましくは10〜250μg/ml、より好ましくは20〜200μg/ml、さらに好ましくは25〜100μg/mlである。
【0116】
本発明の担体は、これに含まれるフコースが、標的化分子として機能する態様で存在していれば、運搬物を内部に含んでも、運搬物の外部に付着して存在しても、また、運搬物と混合されていてもよい。ここで、標的化分子として機能するとは、フコースを含む担体が、これを含まない担体よりも迅速かつ/または大量に、標的細胞に到達し、かつ/または取り込まれることを意味し、これは、例えば、標識を付した、または標識を含む担体を細胞培養物に添加し、所定時間後に標識の存在部位を分析することにより容易に確認することができる。構造的には、例えば、フコースが、遅くとも標的細胞に到達するまでに、担体を含む製剤の外部に、少なくとも部分的に露出しているか、標的となる細胞要素が認識し得る態様で存在していれば、上記要件を充足し得る。
【0117】
本担体が送達する物質や物体は特に制限されないが、投与部位から標的細胞が存在する病変部位へ、生物の体内を物理的に移動できるような大きさであることが好ましい。したがって、本発明の担体は、原子、分子、化合物、タンパク質、核酸等の物質はもとより、ベクター、ウイルス粒子、細胞、1以上の要素で構成された薬物放出システム、マイクロマシン等の物体をも運搬することができる。前記物質または物体は、好ましくは標的細胞および/またはその周囲に何らかの影響を与える性質を有し、例えば、標的細胞を標識するものや、標的細胞および/またはその周囲に存在する細胞の活性または増殖を制御する(例えば、これを増強または抑制する)ものを含む。
【0118】
したがって、本発明の一態様においては、担体が送達する物は、本発明の組合せ医薬製剤に関して上記した「フコシル化分子産生細胞の活性または増殖を制御する薬物」である。本発明の担体の送達物としてはまた、フコシル化糖分子生細胞に関連する疾患を処置する薬物である。これらの薬物については、本発明の組合わせ医薬製剤に関して上記したとおりである。
【0119】
本発明において「フコシル化分子産生細胞用」とは、フコシル化分子産生細胞を標的として使用するのに適していることを意味し、これは例えば、フコシル化分子産生細胞に、フコシル化分子非産生細胞よりも迅速、高効率かつ/または大量に物質を送達できることを含む。例えば、本発明の担体は、フコシル化分子産生細胞に、フコシル化分子非産生細胞に比べ、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、さらには3倍以上の速度および/または効率で物質を送達することができる。
【0120】
本発明はまた、前記担体と、前記フコシル化分子産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とを含む組成物(以下、薬物含有組成物と称することがある)、および、前記担体の、かかる組成物の製造への使用に関する。本発明の一態様において、前記組成物は、フコシル化分子産生細胞の活性または増殖を制御するための、またはフコシル化分子産生細胞に関連する疾患を処置するためのものであってよい。また、前記組成物は、フコシル化分子産生細胞の活性または増殖を制御する薬物を、フコシル化分子産生細胞の活性または増殖を制御するため、またはフコシル化分子産生細胞に関連する疾患を処置するための有効量で含んでもよい。ここで、有効量とは、例えば、後者については、当該疾患の発症や再発を抑制し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止する量であり、好ましくは、当該疾患の発症および再発を予防し、または当該疾患を治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、担体に含まれるフコース、および本発明の方法に用いる薬物の用量は当業者に公知であるか、または、上記の試験等により適宜決定することができる。
【0121】
本発明の組成物におけるフコシル化分子産生細胞の活性または増殖を制御する薬物およびフコシル化分子産生細胞に関連する疾患は、本発明の組合わせ医薬製剤に関連してすでに上記したとおりである。したがって、前記組成物は、標識された薬物を含んでもよい。また、前記組成物は、フコシル化分子産生細胞の活性または増殖を制御する薬物のほか、標識や、他の薬物、例えば、上記したフコシル化分子産生細胞に関連する疾患を処置する薬物などをさらに含んでもよい。
【0122】
本発明はさらに、前記担体と、標識とを含む組成物(以下、標識含有組成物と称することがある)、および、前記担体の、かかる組成物の製造への使用に関する。本発明の一態様において、前記組成物は、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織を標識するための、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織を検出するため、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患を診断、検出および/またはモニタリングするための、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患の可能性を検出するための、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患の診断を補助するための、またはフコシル化分子産生細胞に関連する疾患に対する処置の効果を評価するためのものであってよい。フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織は、in vivoまたはin vitroイメージングによって検出してもよい。したがって、上記組成物はフコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織の、in vivoまたはin vitroイメージングに用いることができる。また、前記組成物は、標識を、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織を標識するため、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織を検出するため、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織をin vivoまたはin vitroでイメージングするため、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患を診断、検出および/またはモニタリングするため、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患の可能性を検出するため、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患の診断を補助するため、またはフコシル化分子産生細胞に関連する疾患に対する処置の効果を評価するための有効量で含んでもよい。
【0123】
ここで、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織を標識するため、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織を検出するため、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織をin vivoまたはin vitroでイメージングするため、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患を診断、検出および/またはモニタリングするため、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患の可能性を検出するため、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患の診断を補助するため、またはフコシル化分子産生細胞に関連する疾患に対する処置の効果を評価するための有効量は、例えば、標識が、in vivoまたはin vitroで検出され得る程度に、フコシル化分子産生細胞に取り込まれる量であってもよい。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。
【0124】
本発明の標識含有組成物における標識およびフコシル化分子産生細胞に関連する疾患、フコシル化分子産生細胞を含む組織は、本発明の組合わせ医薬製剤および組合わせ医薬組成物に関連してすでに上記したとおりである。前記組成物は、標識のほかに、任意の薬物、例えば、上記のフコシル化分子産生細胞の活性または増殖を制御する薬物、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患を処置する薬物等を含んでもよい。
本発明の組成物においては、担体に含まれるフコースが標的化分子として機能する態様で存在する限り、担体は、送達物をその内部に含んでも、送達物の外部に付着して存在しても、また、送達物と混合されていてもよい。したがって、投与経路や薬物放出様式などに応じて、上記組成物を、適切な材料、例えば、腸溶性のコーティングや、時限崩壊性の材料で被覆してもよく、また、適切な薬物放出システムに組み込んでもよい。
【0125】
本発明の組成物は、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、限定することなく、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、直腸、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形および製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる(例えば、標準薬剤学、渡辺喜照ら編、南江堂、2003年などを参照)。
例えば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤などが挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤などの注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であることができる。
したがって、本発明の組成物は、1または2以上の薬学的に許容し得る界面活性剤、担体、希釈剤および/または賦形剤を含む医薬組成物とすることができる。薬学的に許容し得る担体、希釈剤等は医薬分野でよく知られており、例えば、その全体を本明細書に援用するRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., Mack Publishing Co., Easton, PA (1990)などに記載されている。
【0126】
本発明の担体または組成物は、いずれの形態で供給されてもよいが、保存安定性の観点から、好ましくは用時調製可能な形態、例えば、医療の現場あるいはその近傍において、医師および/または薬剤師、看護士、もしくはその他のパラメディカルなどによって調製され得る形態で提供される。この場合、本発明の担体または組成物は、これらに必須の構成要素の少なくとも1つを含む1個または2個以上の容器として提供され、使用の前、例えば、24時間前以内、好ましくは3時間前以内、そしてより好ましくは使用の直前に調製される。調製に際しては、調製する場所において通常入手可能な試薬、溶媒、調剤器具などを適宜使用することができる。
【0127】
したがって、本発明はまた、フコース、および/または送達物、および/またはフコース以外の担体構成物質を、単独でもしくは組み合わせて含む1個または2個以上の容器を含む担体もしくは組成物の調製キット、ならびに、そのようなキットの形で提供される担体または組成物の必要構成要素にも関する。本発明のキットは、上記のほか、本発明の担体および組成物の調製方法や投与方法などに関する指示、例えば、説明書や、使用方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVDブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリーなどをさらに含んでいてもよい。また、本発明のキットは、本発明の担体または組成物を完成するための構成要素の全てを含んでいてもよいが、必ずしも全ての構成要素を含んでいなくてもよい。したがって、本発明のキットは、医療現場や、実験施設などで通常入手可能な試薬や溶媒、例えば、無菌水や、生理食塩水、ブドウ糖溶液などを含んでいなくてもよい。
【0128】
本発明はさらに、前記薬物含有組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、フコシル化分子産生細胞の活性または増殖を制御するための、またはフコシル化分子産生細胞に関連する疾患を処置するための方法に関する。フコシル化分子産生細胞、フコシル化分子産生細胞の活性、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患、有効量、用量、投与経路、投与頻度、対象、処置などについては、本発明の組合わせ医薬製剤などについてすでに記載したものと同様である。
【0129】
本発明はさらに、前記標識含有組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織をin vivoまたはin vitroで標識するための、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織をin vivoまたはin vitroで検出するための、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織をin vivoまたはin vitroでイメージングするための、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患を診断、検出および/またはモニタリングするための、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患の可能性を検出するための、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患の診断を補助するための、またはフコシル化分子産生細胞に関連する疾患に対する処置の効果を評価するための方法に関する。前記有効量は、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織を標識するため、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織を検出するため、フコシル化分子産生細胞またはこれを含む組織をイメージングするため、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患を診断、検出および/またはモニタリングするため、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患の可能性を検出するため、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患の診断を補助するため、またはフコシル化分子産生細胞に関連する疾患に対する処置の効果を評価するための有効量、または検出のための有効量であってもよい。フコシル化分子産生細胞、フコシル化分子産生細胞に関連する疾患、有効量などについては、本発明の組合わせ医薬製剤および組合わせ医薬組成物などについてすでに記載したものと同様である。
【0130】
本発明はまた、上記フコシル化分子産生細胞を標的とする担体を利用した、フコシル化分子産生細胞へ物質を送達する方法に関する。この方法は、限定されずに、例えば、上記担体に送達物を担持させる工程と、送達物を担持した担体をフコシル化分子産生細胞を含む生物や媒体、例えば培養培地などに投与または添加する工程とを含む。これらの工程は、公知の任意の方法や、本明細書中に記載された方法などに従って適宜達成することができる。上記送達方法はまた、別の送達方法、例えば、フコシル化分子産生細胞が存在する臓器を標的とする他の送達方法などと組み合わせることもできる。また、上記方法は、in vitroでなされる態様も、in vivoでなされる態様、例えば、体内のフコシル化分子産生細胞を標的とする態様も含む。
【実施例】
【0131】
以下の実施例で本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は例証を目的とするものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
本発明の実施例に用いた細胞培養方法を以下に示す。膵癌細胞株KP4、PK−59、PK−45H、MIAPaCa2およびPANC−1、胆道癌細胞株HuCCT1、RBE、TGBC24TKB、TGBC14TKB、SSP−25、YSCCC、TKKKおよびHuH−28、胃癌細胞株MKN45、MKN74、NUGC−4およびKATO−IIIは理研バイオリソースセンターより、膵癌細胞株AsPC−1およびBxPC−3、大腸癌細胞株SW1116、COLO205、HT−29およびHCT−15、胃癌細胞株NCI−N87、白血病細胞株HL−60、RPMI8226、KG−1およびMOLT−4はアメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)より、大腸癌細胞株LS174Tは東北大学より、大腸癌細胞株LS180はDSファーマより、胃癌細胞株OCUG−1はJCRBより、胃癌細胞株JR−StおよびHSC−39はIBLよりそれぞれ入手した。
【0132】
BxPC−3、AsPC−1、PANC−1、PK−45HおよびPK−59細胞は、L−グルタミンおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen)を含むRPMI−1640培地(GIBCO)で、KP4およびMIAPaCa2細胞は、L−グルタミンおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen)を含む10%FBS添加DMEM(GIBCO)で、COLO205、HCT−15、HuCCT1、RBE、SSP−25、YSCCC、NCI−N87、MKN45、MKN74、NUGC−4、KATO−III、HL−60、RPMI8226、KG−1およびMOLT−4細胞は、10%FBS添加RPMI1640培地(GIBCO)で、SW1116細胞は10%FBS添加Leibovitz’s L−15培地で、LS174T、LS180およびHuH−28細胞は、10%FBS添加MEMで、HT−29細胞は10%FBS添加McCoy’s 5A培地で、OCUG−1、TGBC24TKB、TGBC14TKBおよびTKKK細胞は、10%FBS添加DMEM(GIBCO)で、JR−StおよびHSC−39細胞は、10%FBS添加TIL培地で、それぞれ培養した。各細胞の培養条件は当業者に知られており、各細胞の供給者から入手可能である。
【0133】
実施例1 各種膵癌細胞培養上清中の腫瘍マーカー濃度の検討
各種膵癌細胞株の細胞5×10
6個を25cm
2フラスコに播種し、無血清培地Opti−MEM
(R)3mlで48時間培養した。培養上清中のフコシル化糖鎖抗原腫瘍マーカー、CA19−9、Span−1およびDupan−2の濃度はELISA法で検討した。結果を
図1(a)に示す。これに基づいて、PK59、AsPC−1をフコシル化糖鎖高産生株、MIAPaCa2、PANC−1をフコシル化糖鎖低産生株とした。
【0134】
実施例2 各種膵癌細胞株におけるフコシルトランスフェラーゼ(FUT)の発現
PK59、AsPC−1、MIAPaCa2およびPANC−1の各細胞株につき、1×10
6個の細胞から全RNAを抽出し、RT−PCRを行った。ランダムヘキサマー(100pM)およびMMLV(GIBCO)を用いて、製造者の説明書に従って全RNA(1μg)を逆転写した。使用したPCRプライマー配列を、表1に示す。
【表1】
cDNAは、Pfu Turbo(Stratagene)、0.2mMの各dNTP、および100pMの各プライマーを用いて、25〜30サイクルで増幅した。サイクルは、95℃で30秒、55℃で30秒および72℃で60秒からなる。また、各FUTのプライマーは(Mas et al., Glycobiology. 1998;8(6):605-13.)に基づいて作製した。
【0135】
PCR産物を1.2%アガロースゲルで泳動後、発現をUV下で観察した結果を
図1(b)に示す。各種細胞株において、FUT7以外のすべてのFUT遺伝子の発現が観察された。これに基づいて、PK59、AsPC−1をフコシルトランスフェラーゼ高発現株、MIAPaCa2、PANC−1を低発現株とした。
【0136】
実施例3 各種膵癌細胞におけるフコース結合機構の存在
フコシル化糖鎖高産生株AsPC−1と、フコシル化糖鎖低産生株PANC−1におけるフコース(特に記載がない限りL−フコースを指す)の結合を放射性標識フコースを用いて検討した。
12ウェルのカルチャープレートに1×10
5個の細胞を播種後、1晩培養し、0〜200nMの濃度にBSA−PBSで希釈した
14C−フコース(比活性:55mCi/mmol)を細胞に添加し4℃で1時間培養した。冷BSA−PBSで洗浄後、1%TritonX100/PBS−0.25%トリプシンで細胞を可溶化し、細胞膜に結合した
14C−フコースの放射活性を測定した(
図2および3)。
【0137】
また、別な実験では、12ウェルのカルチャープレートに2×10
5個の細胞を播種後、1晩培養し、10nmolの
14C−フコース(比活性:55mCi/mmol)を、単独で、または、1μmolのフコースとともに添加し、4℃で、1、3または24時間培養した。各条件の細胞を冷BSA−PBSで洗浄後、1%TritonX100/PBS−0.25%トリプシンで可溶化し、
14C−フコースの放射活性を測定した(
図4)。
【0138】
これらの結果より、フコースが、受容体様の機構を介して、AsPC−1およびPANC−1に結合し、その親和性がフコシル化糖鎖高産生株であるAsPC−1においてより高いことが判明した。また、
14C−フコースの結合が、非標識フコースにより阻害されたことから、この機構がフコース特異的なものであることも明らかとなった。これは、フコシル化糖鎖産生細胞、特にフコシル化糖鎖高産生細胞において、フコース特異的な受容体様の結合機構が存在することを示すものである。
【0139】
実施例4 フコシル化リポソームによるsiRNAの導入
リポソーム(Lipotrust、10nmol)とL−フコース(0〜20nmol)(SIGMA, MO, USA)を懸濁し、5分間室温で放置した後、マイクロパーティションシステム(Sartorion VIVASPIN 5000MWCO PES)により遊離フコースを除去した。次にFAM標識siRNA(random)(センス鎖:5'-CGAUUCGCUAGACCGGCUUCAUUGCAG-3'(配列番号19)、アンチセンス鎖:5'-GCAAUGAAGCCGGUCUAGCGAAUCGAU-3'(配列番号20)を加えインキュベーション後、チャンバースライドに播種したAsPC−1細胞に添加し、1時間培養した。培養後、細胞をPBSで洗浄し4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBSで洗浄し、DAPIで対比染色して蛍光顕微鏡下に観察した。その結果、リポソーム:フコースのモル比は1:1が最も高い導入効率であることが判明した(
図5および6)。
【0140】
実施例5 フコシル化リポソームによる導入に対するフコースの影響
siRNAの導入が、フコシル化分子産生細胞に存在するフコース特異的な受容体様の結合機構によるものであることを確認するため、過剰のフコース存在下におけるsiRNA導入効率を検討した。リポソーム(Lipotrust、10nmol)とフコース(10nmol)とを懸濁し、5分間室温で放置した後、マイクロパーティションシステム(Sartorion VIVASPIN 5000MWCO PES)により遊離フコースを除去した。次に上記と同じFAM標識siRNA(random)を加えインキュベーション後、チャンバースライドに播種したAsPC−1細胞に添加し、1時間培養した(Liposome+F)。また、リポソーム単独群(Liposome)、リポソーム添加前10分間、1μmol(×100)のフコースを加えプレインキュベーションした群(Liposome+F+CE)も同時に検討した。培養後、細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBSで洗浄し、DAPIで対比染色して蛍光顕微鏡下に観察した。その結果、フコースの存在によりsiRNAの導入が顕著に抑制された(
図7)。すなわち、過剰量のフコースによりsiRNAの導入が阻害されたことから、フコシル化リポソームによるsiRNAの導入は、フコース特異的な受容体様の結合機構を介していることが示唆された。
【0141】
実施例6 各種膵癌細胞株におけるsiRNA導入効率の比較
フコシル化糖鎖高産生株と低産生株におけるフコシル化リポソームによるsiRNA導入効率の検討を行った。前述の方法に従い、フコシル化リポソームを作製し、高産生株(PK59、AsPC−1)と低産生株(MIAPaCa2、PANC−1)におけるFAM−siRNAの導入を蛍光顕微鏡下で観察した。この結果、高産生株においては細胞内に多量のFAMの緑色が認められたのに対し、低産生株における細胞内のFAMの緑色は顕著に少なかった(
図8および9)。これは、フコシル化リポソームが、フコシル化糖鎖の産生量依存的に細胞に物質を送達することを示すものである。
【0142】
実施例7 膵癌細胞株のフコシルトランスフェラーゼ依存的なCA19−9の産生
FUTが、膵癌細胞株のCA19−9産生の原因遺伝子であることを検証するため、細胞をsiRNAでトランスフェクションし、各種FUT遺伝子の発現を阻害した。siRNAオリゴヌクレオチドは、精製され、アニーリングした二本鎖の形で作製した。ヒトFUT遺伝子を標的とする配列を、表2に示す。
【表2】
【0143】
siRNAトランスフェクションの実験は、100nMのsiRNAとTransMessenger Transfection Reagent(QIAGEN)を用いて、製造者の説明書に従って行った。siRNAトランスフェクションの40時間後に、RT−PCRでFUTmRNAの発現を解析した。siRNAによるFUT遺伝子の発現阻害の結果を
図10(a)に示す。
【0144】
各種FUT遺伝子の発現阻害細胞のうち、FUT3またはFUT6をノックダウンした細胞において、
14C−フコースの吸収が抑制された。また、同様にFUT3またはFUT6をノックダウンした細胞において、CA19−9の産生が抑制された(
図10(b))。図中、NTは未処理(No Treatment)を示し、2、3および6は、それぞれFUT2、FUT3およびFUT6のsiRNAをトランスフェクションした細胞を示す。
以上の結果から、FUT3およびFUT6が、CA19−9の産生に必要であることが示唆された。
【0145】
実施例8 Cy5.5およびCDDPを被包するフコシル化リポソームの調製
本発明のCy5.5およびシス−ジアミンジクロロ白金(II)(シスプラチン、CDDP)を被包するフコシル化リポソームを以下のようにして調製した。始めに、Dahara, S., Indian J. Chem. 1970;7:193−194の方法に従って、CDDP3の合成を行った。テトラクロロ白金(II)酸カリウム(4.15g、10mmol)を蒸留水に溶解した後、ヨウ化カリウム(6.64g、40mmol)を加え、窒素雰囲気下および光遮蔽下において5分間氷上で攪拌した。次いで、アンモニア水溶液(28%、1.35mL)を反応液に加え、3時間氷上で攪拌した。形成した黄色結晶は、蒸留水およびエタノールで洗浄し、減圧下で10時間、40℃で乾燥した。この段階で、4.49gのCDDP2(cis-diamminediiodoplatinum(II))が得られた。CDDP2(2.41g、5mmol)を蒸留水に懸濁した後、硝酸銀(1.68g、9.9mmol)を加え、光遮蔽下で24時間氷上で攪拌した。ヨウ化銀を取り除くために反応液を濾紙に通した後、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、白色結晶が得られた。結晶は、氷冷の蒸留水およびエタノールで洗浄した後、減圧下で10時間、40℃で乾燥した。CDDP3の最終産生量は、1.0gであった。
【0146】
次に、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、コレステロール(Chol)、ガングリオシド、リン酸ジセチル(DCP)およびジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)を、35:40:5:15:5のモル比(全脂質456mg)で混合し、ミセル形成を容易にするためにコール酸(469mg)を添加した。混合物は、30mLのメタノール/クロロホルム溶液(1:1、v/v)に溶解した。脂質薄膜を得るために、溶媒は37℃で、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発させ、減圧下で乾燥した。得られた脂質薄膜は、NaClを含まない10mM N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)バッファー(pH8.4)30mLに溶解し、均一のミセル懸濁液を得るために超音波処理をした。
【0147】
CDDPの被包化のスキームを、
図11に示す。1gのCDDP3を、NaClを含まない10mM TAPSバッファー(pH8.4)70mLに完全に溶解し、1M NaOHでpHを8.4に調整した。CDDP3およびCy5.5の溶液を、上述のミセル懸濁液に加えた。コール酸、遊離CDDP3および遊離Cy5.5を取り除くため、ミセル溶液は、限外濾過ディスクメンブレン(分子量カットオフ:10,000)(Amicon PM10、Millipore)と、それに適合する限外濾過セルホルダー(Amicon model 8200、Millipore)を用いて、10mM TAPSバッファー(pH8.4)で限外濾過した。その結果、CDDP3を被包するリポソーム100mLが得られた。リポソーム中のCDDP3をCDDPに変換するため、限外濾過ディスクメンブレン(分子量カットオフ:300,000)(Amicon XM300、Millipore)に通して、150mM NaClを含む10mM TAPSバッファー(pH8.4)でバッファーを交換した。
【0148】
リポソームのフコシル化のスキームを、
図12(a)に示す。図中、HSAはヒト血清アルブミン、BS
3はビス(スルホスクシンイミジル)スベラート、Trisはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、およびDTSSPは3,3’−ジチオビス(プロピオン酸3−スルホスクシンイミジル)を示す。
【0149】
親水性化処理およびリポソーム表面へのL−フコースの結合は、Yamazaki, N. J Membrane Sci 1989;41:249-267およびYamazaki et al., Methods Enzymol. 1994;242:56-65に記載の方法に従って行った。バッファーを交換するため、溶液を5mMの炭酸水素ナトリウムのバッファー(CBS、pH8.5)で、Amicon XM300のメンブレンに通して限外濾過した。100mLのリポソーム溶液に、100mgの架橋剤BS
3を加え、25℃で2時間攪拌した。BS
3がリポソーム表面に結合した後、懸濁液を4℃で一晩攪拌した。400mgのTrisを加えて25℃で2時間攪拌し、BS
3にTrisが結合するように4℃で一晩さらに攪拌した。残留するTrisを除去するため、懸濁液を10mM TAPSバッファー(pH8.4)で、Amicon XM300のメンブレンに通して限外濾過した。
【0150】
さらに、上記Hirai et al. 2007およびHirai et al. 2010に記載の方法に従って、ヒト血清アルブミン(HSA)をリポソーム表面に結合させた。リポソーム表面を酸化するため、108mgの過ヨウ素酸ナトリウムを100mLのリポソーム溶液に加え、4℃で一晩攪拌した。残留する過ヨウ素酸ナトリウムを除去するため、懸濁液を10mM リン酸緩衝食塩水(PBS、pH8.0)で、Amicon XM300のメンブレンに通して限外濾過した。その後、200mgのHSAを懸濁液に加え、25℃で2時間攪拌した。31.3mgのシアノ水素化ホウ素ナトリウムを加え、25℃で2時間攪拌し、さらに4℃で一晩攪拌した。残留するシアノ水素化ホウ素ナトリウムを除去するため、溶液をCBSバッファー(pH8.5)で、Amicon XM300のメンブレンに通して限外濾過した。
【0151】
架橋剤であるDTSSPにより、L−フコースをリポソーム表面に結合した。100mgのDTSSPを100mLのリポソーム溶液に加え、25℃で2時間攪拌し、さらに4℃で一晩攪拌した。残留するDTSSPを除去するため、溶液をCBSバッファー(pH8.5)で、Amicon XM300のメンブレンに通して限外濾過した。グリコシルアミノ化反応によって、フコース還元末端をアミノ化した。8mgのフコースを2mLの蒸留水に溶解し、1gの炭酸水素アンモニウムを加え、37℃で3日間攪拌した。アミノ化フコースを、終濃度10、25、50、100g/mLとなるように加え、25℃で2時間攪拌した。その後、リポソーム表面を繰り返し親水化させるため、Trisを終濃度132mg/mLとなるように加え、4℃で一晩攪拌した。残留するフコースおよびTrisを除去するため、溶液を20mM HEPESバッファー(pH7.2)で、Amicon XM300のメンブレンに通して限外濾過した。
【0152】
フコシル化していないリポソームは、フコース結合の工程を除いて、上述のCDDPを被包するフコシル化リポソームと同様に調製した。CDDPを被包するリポソームおよびCDDPを被包するフコシル化リポソームは、さらに20mM HEPESバッファー(pH7.2)で、Amicon XM300のメンブレンを用いて限外濾過し、10倍に濃縮した。
【0153】
実施例9 Cy5.5を被包するフコシル化リポソームの生理化学的特徴
図12(a)に示すように、25(F25)、50(F50)、100(F100)μg/mLの終濃度となるように、改変したコール酸透析法によって調製したリポソームに、DTSSPを介してアミノ化フコースを架橋した。さらに、リポソーム表面を親水性化するため、BS
3およびTrisを結合した。リポソーム表面の親水性化は、肝臓および脾臓の細網内皮系、マクロファージおよび血管内皮細胞への取り込みを防止することができ、さらに血漿中のオプソニンタンパク質の吸着も防いで、リポソームが血流中で長く維持されるようになる。
図12(b)に示す電子顕微鏡観察結果から、ほぼすべてのフコシル化リポソームが球状であり、Cy5.5を被包するリポソームは約80nmの大きさであった。
【0154】
Cy5.5内包フコシル化リポソームの生理化学的特徴を、
図13および表3に示す。
【表3】
【0155】
水中で調製したリポソームの平均粒子サイズおよびゼータ電位は、標準ラテックスナノ粒子で較正した動的光散乱光度計によって、25℃で測定した(Zetasizer Nano-S90、Malvern)。Zetasizer Nano-S90により測定した粒子の大きさは、顕微鏡観察の結果とも一致しており、リポソーム膜表面の電荷を示すゼータ電位は、各リポソームにおいて、−40mV以下で負に荷電していた。4℃で6月間保存した後の粒子サイズ分布は、調製直後とほぼ同一であったことから、これらリポソームの安定した性質が示された。
【0156】
実施例10 フコシル化リポソームに被包したCy5.5の導入
フコシル化リポソームの特異的送達を調べるため、Cy5.5を被包するフコシル化リポソームを、CA19−9産生または非産生の膵臓腺癌細胞にトランスフェクトした。AsPC−1細胞をCy5.5内包フコシル化リポソームとともに2時間インキュベートした後、リン酸緩衝食塩水で2回洗浄し、蛍光顕微鏡で可視化した(
図14)。CA19−9を多く分泌するAsCP−1細胞において、フコシル化リポソーム(F0)ではなく、フコシル化リポソーム(F50)が、Cy5.5を効率よく導入した。
【0157】
フローサイトメトリーの結果からも、フコシル化リポソーム(F50)が、CA19−9非産生細胞ではなく(
図15(b))、CA19−9産生細胞(
図15(a))において、最も効率よくCy5.5をトランスフェクトしていることが示された(
図15)。さらに、過剰のフコースが効率的導入を阻害したことからも(図中、+Fuc×100)、フコシル化リポソームによるCy5.5の導入は、フコース受容体依存的に媒介されていることを示している。
【0158】
実施例11 CDDPを被包するフコシル化リポソームの生理化学的特徴
CDDPを被包するフコシル化リポソームの生理化学的特徴を、表4に示す。CDDPを被包するフコシル化リポソームの粒子サイズは、約200nmで、CDDPの終濃度は約2mg/mLと推定された。
【表4】
【0159】
脂質濃度分析は、以下の手順で行った。CDDPを被包するリポソームおよびCDDPを被包するフコシル化リポソームを、コレステロールE−テストワコーのキットを用いて、0.5%TritonX−100存在下で全コレステロールとして測定した。脂質濃度は、式(1)により各脂質(4.5)のモル比から計算した。
式(1):脂質濃度(mg/mL)=コレステロール濃度(mg/mL)×4.5
【0160】
CDDPの測定、CDDP濃度および被包効率の計算は、以下の手順で行った。CDDPを被包するフコシル化リポソームを蒸留水で10,000倍希釈し、白金濃度を自動の無炎原子吸光分析装置(FAAS)(Model AA-6700、SHIMADZU)で測定した。シス-ジアミンジクロロ白金を標準物質として使用した。50〜250ng/mLの白金濃度の検量線は、各試料の分析前に作成した。CDDP量は、式(2)により計算した。
【0161】
式(2):CDDP濃度=A×(300/195)
式(2)において、Aは白金濃度を示し、300はCDDPの分子量、および195は白金の分子量を示す。
【0162】
被包効率およびCDDPと脂質との重量比は、式(3)および式(4)によってそれぞれ計算した。
式(3):被包効率(%)=(リポソーム中のCDDP量/CDDP初期量)×100
式(4):CDDPと脂質との重量比=CDDP濃度(mg/mL)/脂質濃度(mg/mL)
【0163】
実施例12 CDDPを被包するフコシル化リポソームの各種膵癌細胞株への効果
WST−1アッセイによって、CDDPを被包するフコシル化リポソームの細胞毒性効果を調べた結果を
図16に示す。2×10
4の各種細胞株(AsPC−1など)を24ウェルのプレートにそれぞれ移し、10%のウシ胎仔血清、5%のL−グルタミン、および1%の抗生物質を添加したRPMI−1640で1日培養した。その後、様々な投与量で、CDDPを被包するフコシル化リポソームまたはCDDPを被包するリポソームとともに、細胞をインキュベートした。2時間のインキュベーション後、細胞をPBSで2回洗浄し、最後に血清および抗生物質を含むRPMI−1640で懸濁した。72時間培養後、WST−1試薬を添加し、増殖アッセイをSato , Y. Nat Biotechnol. 2008;26(4):431-42の方法で行った。実験は3連で最低2回繰り返した。
【0164】
その結果、CDDPを被包するリポソーム(F50)(50μg/mLのリポソームに結合したフコース)が最も高い細胞毒性効果を示した(
図16(a))。また、CA19−9産生細胞(PK45H、AsPC−1およびKP4)においては、CDDPを被包するリポソーム(F50)は、CDDPを被包するリポソーム(F0)より効率的であり、フコース依存的な細胞毒性効果を示している(
図16(b))。
【0165】
実施例13 膵癌皮下モデルの作製
皮下モデルの作製では、AsPC−1細胞(2×10
6個)をマウス(4週〜6週齢)の背側に播種した。注射後0〜4日目までバイオルミネセンスを測定し、処理を開始する前に、マウスを無作為に複数の集団に分けた。in vivo光学イメージングは、Xenogen-IVIS-cooled CCD optical system(Xenogen-IVIS)を用いて行った。結合(フコシル化リポソーム中のCDDPなど)または遊離のCDDPは、各投与につき2mg/kgの用量であった。注射は、第1週目に2回、そして2および3週目に2回行った。使用したマウスはすべて、最後に注射した日の翌日、バイオルミネセンスの最終測定の前に屠殺した。
【0166】
実施例14 マンノース処理によるフコシル化リポソームの腫瘍への蓄積
膵癌モデルマウスにおけるフコシル化リポソームの送達を調べたところ、フコシル化リポソームに被包したCy5.5は、肝臓に蓄積し、Cy5.5の腫瘍病変部への蓄積が減少していることが観察された。本発明者らは、このフコシル化リポソームの肝臓への捕捉は、非実質細胞に存在するレクチンが原因であると予測した。
【0167】
そこで、レクチンを介するフコースの取り込みを抑制するため、フコシル化リポソームの注射前および注射後に過剰量のマンノース処理を行った。Cy5.5を被包するフコシル化リポソームまたはCy5.5を被包するリポソームは、尾静脈から投与した(50μl/マウス)。同一マウスの腫瘍領域(両脇腹病変部の背後)を、投与前および注射の0〜96時間後にIVISイメージングシステムを用いて観察した。D−マンノース(SIGMA)はPBSに溶解し、マウスの尾静脈に50μL(0.02mg/μL)注射した。投与したマンノースは、フコースの1000倍の過剰量であった。
【0168】
その結果、フコシル化リポソームとマンノースとを併用した場合に、Cy5.5の腫瘍への蓄積および肝臓におけるCy5.5の減少が観察された(
図17、
図18(a))。Cy5.5の蓄積は、フコシル化リポソームの投与後一週間まで持続した。さらに、腫瘍組織を顕微鏡観察したところ、Cy5.5の蓄積が確認された(
図18(b))。
【0169】
過剰量のマンノースが、フコシル化リポソームのトランスフェクション効率へ与える影響についても、フローサイトメトリーを用いて検討したが、明らかな影響は観察されなかった(
図19)。マンノースは、ヘキソキナーゼによって、マンノース−6−リン酸にリン酸化された後、解糖系で使用されるフルクトース−6−リン酸に変換される。しかしながら、90%の摂取したマンノースは、30〜60分で尿中に未変換のまま排出され、残りの99%が続く8時間内に排出される。投与したマンノース量は、マウスにとって1mgのマンノースに相当し、ヒトでは0.6gに相当するが、この量では明白な悪影響は観察されなかった。
【0170】
表5に、治療期間中の血液学的/生化学的な分析の結果を示す。試料は、マウス眼窩静脈叢より採取した。表中、WBCは白血球数を、RBCは赤血球数を、Hbはヘモグロビン濃度を、PLTは血小板数を、ASTはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ濃度を、ALTはアラニンアミノトランスフェラーゼ濃度を、Bilはビリルビン濃度を、BSは血糖値を、Crはクレアチニン濃度を、それぞれ示す。
【表5】
【0171】
健康なヒトの血清には、平均54.1±11.9μMのマンノースが含まれていることから、使用したマンノースはヒト身体の全マンノースに対して少量である。
【0172】
実施例15 異種移植モデルにおけるCDDPを被包するフコシル化リポソームの腫瘍増殖阻害
膵癌モデルマウス(AsPC−1)におけるCDDP、CDDPを被包するリポソーム(F0)、およびCDDPを被包するリポソーム(F50)による腫瘍増殖抑制効果を比較した(
図11)。CDDP(2mg/kg)、CDDPを被包するリポソーム(F0)(2mg/kg CDDP)またはCDDPを被包するリポソーム(F50)(2mg/kg CDDP)の溶液を、マウスの尾静脈から1週間に2回注射した。マンノース処理はリポソームの投与1時間前、投与と同時および投与1日後に行った。移植から4、8、11、15、18および22日後、腫瘍の容積をそれぞれ測定した。その結果、CDDPを被包するフコシル化リポソームは、腫瘍の増殖をほぼ完全に阻害した(
図20)。
【0173】
CDDPを被包するフコシル化リポソーム(F50)で処理した腫瘍において、アポトーシス性の細胞が他の腫瘍より多いことが、TUNEL染色によって観察された(
図21(a))。また、腫瘍細胞におけるCDDP濃度を測定したところ、腫瘍細胞にCDDPが送達され、蓄積していることが確認された(
図21(b))。測定は、最後の注射の翌日にマウスを屠殺して腫瘍を収集し、ICP分析によって行った。
また、表5に示すように、マンノースまたはCDDPを被包するフコシル化リポソームの投与は、悪影響を及ぼさないことが示された。
【0174】
実施例16 各種大腸癌細胞培養上清中のCA19−9濃度の検討
各種大腸癌細胞株の細胞5×10
6個を25cm
2フラスコに播種し、無血清培地Opti−MEM
(R)3mlで48時間培養した。培養上清中のCA19−9の濃度はELISA法で検討した。結果を
図22および表6に示す。
【表6】
なお、上記結果に基づいて、以下の検討には高産生株としてCOLO205を、低産生株としてHT−29をそれぞれ用いた。
【0175】
実施例17 フコシル化リポソームに被包したCy5.5の導入
フコシル化リポソームの特異的送達を調べるため、まず、蛍光顕微鏡法でCy5.5の細胞内導入を確認した。1×10
5個のCOLO205細胞をチャンバースライドに播種し、実施例8で得たCy5.5内包フコシル化リポソームとともに2時間インキュベートした後、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBSで洗浄し、DAPIで対比染色してから蛍光顕微鏡で可視化した(
図23)。フコースを含まないリポソーム(F0)では、細胞内にCy5.5の赤い蛍光がほとんど見られないが、フコシル化リポソーム(F25、F50およびF100)により、Cy5.5が効率よく導入されたことが分かる。
【0176】
フコシル化リポソームの特異的送達は、フローサイトメトリー法でも検討した。1×10
6個のCOLO205細胞を6ウェルカルチャーフラスコに播種し、Cy5.5内包フコシル化リポソームを添加し2時間培養した。培養後、細胞をPBSで洗浄し、細胞懸濁液を作製、FACSCalibur
TMフローサイトメーター(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)にてCy5.5陽性細胞を検出した(
図24)。この結果からも、フコシル化リポソームによるCy5.5の効率的な細胞内導入が確認された。
【0177】
実施例18 CDDPを被包するフコシル化リポソームの各種大腸癌細胞株への効果
WST−1アッセイによって、CDDPを被包するフコシル化リポソームの細胞毒性効果を調べた。2×10
4個の各種細胞を96ウェルカルチャーフラスコに播種し、CDDPを被包する、フコシル化されていない(F0)、または、種々の程度にフコシル化された(F50、F100)リポソームとともに、細胞をインキュベートした。2時間のインキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、培養液(COLO205は10%FBS添加RPMI1640培地、HT−29は10%FBS添加McCoy’s 5A培地)に置換後、さらに72時間培養してから実施例12と同様にWST−1試薬でのアッセイを行い、生細胞数を計測した。
図25に示す結果から、CA19−9高産生株では低産生株に比し、CDDP内包フコシル化リポソームによる高い殺細胞効果を認めた。
また、別の実験では、同様の条件の下で、種々の濃度のCDDP内包フコシル化リポソーム(F100)またはCDDP内包非フコシル化リポソーム(F0)とともに細胞をインキュベートし、同様に生細胞数を計測した(
図26)。この結果、CDDP内包フコシル化リポソームが用量依存的に殺細胞効果を示すことが明らかとなった。
【0178】
実施例19 マンノース処理によるフコシル化リポソームの腫瘍への集積
ヌードマウス(5週齢、三共ラボサービス)の背部皮下2箇所にLS180細胞1×10
6個をそれぞれ移植した。腫瘍径が5mmに達した後(移植後約2週間)、Cy5.5内包フコシル化リポソーム(F100)50μlを尾静脈より注射した(Cy5.5:0.3μg、フコース1μg相当)。マンノース処理群(F100+M)では、PBSに溶解したD−マンノース(SIGMA)5mg/100μlを、リポソーム投与1時間前に腹腔内投与し、さらに、リポソーム投与時に尾静脈より投与した(合計10mg/200μl)。各投与におけるマンノースは、フコースの5000倍の過剰量であった。リポソーム投与後2日目、5日目および14日目に、Cy5.5の集積をIn vivo image analyzer(IVIS
(R) Lumina、Caliper Life Sciences)で観察した。Cy5.5の肝臓への集積結果を
図27に、腫瘍への集積結果を
図28にそれぞれ示す。この結果、フコシル化リポソームとマンノースとを併用した場合に、肝臓におけるCy5.5の集積が少なく(
図27)、逆に、腫瘍への集積が極めて多くなること(
図28)が明らかとなった。
【0179】
実施例20 CDDPを被包するフコシル化リポソームの腫瘍増殖阻害
ヌードマウス(5週齢、三共ラボサービス)の背部皮下2箇所にLS180細胞1×10
6個をそれぞれ移植した。腫瘍径が5mmに達した後(移植後約2週間)、マウスを、未処理群(NT)、CDDP単独群(CDDP)、CDDP内包非フコシル化リポソーム群(F0−CDDP)、CDDP内包非フコシル化リポソーム群(F50−CDDPおよびF100−CDDP)の5群に分け(各群6匹)、未処理群を除き、CDDP2mg/kg相当の量の各処置剤を100μl、週2回尾静脈注射した。また、マンノース処理は、PBSに溶解したD−マンノース(SIGMA)5mg/100μlを、各処置剤の投与1時間前に腹腔内投与し、さらに、各処置剤の投与時に尾静脈より投与した(合計10mg/200μl)。処置開始後4、8、11、15、18および22日目の腫瘍径を計測した。
図29に示す結果から、CDDP内包非フコシル化リポソームを投与したF100−CDDP群の腫瘍体積が、未処理群、CDDP単独群およびCDDP内包非フコシル化リポソーム群の腫瘍体積に比べ有意に減少したことが明らかとなった。
【0180】
実施例21 各種胆道癌細胞培養上清中のCA19−9濃度の検討
各種胆道癌細胞株の細胞5×10
6個を25cm
2フラスコに播種し、無血清培地Opti−MEM
(R)3mlで48時間培養した。培養上清中のCA19−9の濃度はELISA法で検討した。結果を
図30に示す。これに基づいて、以下の検討には高産生株であるHuCCT1を用いた。
【0181】
実施例22 フコシル化リポソームに被包したCy5.5の導入
フコシル化リポソームの特異的送達を調べるため、フローサイトメトリー法でCy5.5の細胞内導入を確認した。1×10
6個のHuCCT1細胞を6ウェルカルチャーフラスコに播種し、実施例8で得たCy5.5内包フコシル化リポソームを添加し2時間培養した。培養後、細胞をPBSで洗浄し、細胞懸濁液を作製、FACSCalibur
TMフローサイトメーター(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)にてCy5.5陽性細胞を検出した(
図31)。この結果、フコシル化リポソーム(F50)により、非フコシル化リポソーム(F0)よりも、Cy5.5が効率よく導入されたことが分かる。また、過剰のフコースが効率的導入を阻害したことは(図中、F50+Fuc)、フコシル化リポソームによるCy5.5の導入が、フコース受容体依存的であることを示すものである。
【0182】
実施例23 各種胃癌細胞培養上清中のCA19−9濃度の検討
各種胃癌細胞株の細胞5×10
6個を25cm
2フラスコに播種し、無血清培地Opti−MEM
(R)3mlで48時間培養した。培養上清中のCA19−9の濃度はELISA法で検討した。結果を表7に示す。
【表7】
なお、上記結果に基づいて、以下の検討には高産生株としてJR−Stを、低産生株としてMKN45をそれぞれ用いた。
【0183】
実施例24 フコシル化リポソームに被包したCy5.5の導入
フコシル化リポソームの特異的送達を調べるため、フローサイトメトリー法および蛍光顕微鏡法でCy5.5の細胞内導入を確認した。
フローサイトメトリー法においては、1×10
6個の各種細胞を6ウェルカルチャーフラスコに播種し、実施例8で得たCy5.5内包フコシル化リポソームを添加し1時間インキュベートした。インキュベート後、細胞をPBSで洗浄し、細胞懸濁液を作製、FACSCalibur
TMフローサイトメーター(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)にてCy5.5陽性細胞を検出した。
図32および33の左側のチャートに示す結果から、高産生株のJR−St細胞では、非フコシル化リポソーム(F0)に比べ、フコシル化リポソーム(F50およびF100)によってCy5.5が効率よく導入されたが、低産生株のMKN45細胞では、フコシル化リポソーム(F50およびF100)によっても、Cy5.5の導入は、非フコシル化リポソーム(F0)と同程度の低いレベルに止まることが分かる。また、過剰のフコースがJR−St細胞におけるフコシル化リポソームによるCy5.5の効率的導入を阻害したことは(図中、F100+Fuc)、フコシル化リポソームによるCy5.5の導入が、フコース受容体依存的であることを示すものである。
【0184】
蛍光顕微鏡法においては、1×10
5個の各種細胞をチャンバースライドに播種し、実施例8で得たCy5.5内包フコシル化リポソームとともに1時間インキュベートした後、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBSで洗浄し、DAPIで対比染色してから蛍光顕微鏡で可視化した。
図34および35の右側の蛍光顕微像から、高産生株のJR−St細胞では、非フコシル化リポソーム処理細胞(F0)に比べ、フコシル化リポソーム処理細胞(F50およびF100)において細胞内にCy5.5の赤い蛍光が多く認められたが、低産生株のMKN45細胞では、フコシル化リポソーム(F100)によっても、細胞内に導入されたCy5.5の量は、非フコシル化リポソーム(F0)と同程度の低いレベルに止まることが分かる。また、過剰のフコースにより、JR−St細胞へのCy5.5の導入がほとんど認められなかったことは(図中、F100+Fuc)、フコシル化リポソームによるCy5.5の導入が、フコース受容体依存的であることを示すものであり、フローサイトメトリー法での結果が裏付けられた。
【0185】
実施例25 CDDPを被包するフコシル化リポソームの各種胃癌細胞株への効果
WST−1アッセイによって、CDDPを被包するフコシル化リポソームの細胞毒性効果を調べた。2×10
4個の各種細胞を96ウェルカルチャーフラスコに播種し、CDDPを被包する、フコシル化されていない(F0)、または、種々の程度にフコシル化されたリポソーム(F25、F50またはF100)とともに、細胞をインキュベートした。1時間のインキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、培養液(10%FBS添加RPMI1640培地)に置換後、さらに72時間培養してから実施例12と同様にWST−1試薬でのアッセイを行い、生細胞数を計測した。
図34および35の左側のグラフに示す結果が示すとおり、CA19−9高産生株(JR−St)では低産生株(MKN45)に比し、CDDP内包フコシル化リポソームによる高い殺細胞効果を認めた。
また、別の実験では、同様の条件の下で、種々の濃度(0、0.1、1、10または100μM)のCDDP内包フコシル化リポソーム(F100)またはCDDP内包非フコシル化リポソーム(F0)とともに細胞をインキュベートし、同様に生細胞数を計測した(
図34および35の右側のグラフ)。この結果、CA19−9高産生株において、CDDP内包フコシル化リポソームが用量依存的に殺細胞効果を示すことが明らかとなった。
【0186】
実施例26 各種白血病細胞株の細胞におけるCD33およびNotch−1発現の検討
各種白血病細胞株の細胞1×10
6個を0.1%BSA/PBSで洗浄後、1mlのPBS中の10μlの抗体(PE結合CD33抗体(R&D)およびFITC結合Notch−1抗体(R&D))で10分間反応させて標識し、PBSで細胞を洗浄して細胞懸濁液を作製した。これをFACSCalibur
TMフローサイトメーター(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)に供して陽性細胞を検出し、CellQuest Pro software(BD Biosciences)で解析した。
図36に示す結果から明らかなとおり、HL−60、KG−1およびRPMI8226の各細胞においてCD33およびNotch−1がともに発現しており、HL−60細胞においてNotch−1の発現率が特に高かったが、MOLT−4ではCD33もNotch−1も殆ど発現していなかった。
【0187】
実施例27 各種白血病細胞株におけるフコシルトランスフェラーゼの発現
各白血病細胞株につき、1×10
6個の細胞から全RNAを抽出し、RT−PCRを行った。ランダムヘキサマー(100pM)およびMMLV(GIBCO)を用いて、製造者の説明書に従って全RNA(1μg)を逆転写した。各フコシルトランスフェラーゼのプライマーを下表に示す。
【表8】
cDNAを、Pfu Turbo(Stratagene)、0.2mMの各dNTP、および100pMの各プライマーを用いて、25〜30サイクルで増幅した。各サイクルは、95℃で30秒、55℃で30秒および72℃で60秒からなる。
PCR産物を1.2%アガロースゲルで泳動後、発現をUV下で観察した。
図37に示す結果から、Notch−1のフコシル化に関与するとされるPOFUT1が、Notch−1陽性のHL−60、KG−1およびRPMI8226の各細胞において発現している一方、Notch−1陰性のMOLT−4ではほとんど発現していないことが分かる。これに基づいて、以下の検討では、Notch−1発現株としてHL−60を、Notch−1非発現株としてMOLT−4をそれぞれ用いた。
【0188】
実施例28 フコシル化リポソームに被包した蛍光標識の導入
フコシル化リポソームの特異的送達を調べるため、フローサイトメトリー法および蛍光顕微鏡法で蛍光標識の細胞内導入を確認した。
フローサイトメトリー法においては、1×10
6個の各種細胞を6ウェルカルチャーフラスコに播種し、実施例8で得たCy5.5内包フコシル化リポソーム(HL−60細胞)または実施例8と同様にして得たFAM内包フコシル化リポソーム(MOLT−4細胞)を添加し2時間インキュベートした。インキュベート後、細胞をPBSで洗浄し、細胞懸濁液を作製、FACSCalibur
TMフローサイトメーター(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)にて蛍光標識陽性細胞を検出した。
図38に示す結果から、Notch−1発現株のHL−60細胞では、非フコシル化リポソーム(F0)に比べ、フコシル化リポソーム(F25およびF50)によって蛍光標識が効率よく導入されたが、Notch−1非発現株のMOLT−4細胞では、フコシル化リポソームによっても、蛍光標識の導入は、非フコシル化リポソームと同程度の低いレベルに止まることが分かる。
【0189】
蛍光顕微鏡法においては、1×10
5個の各種細胞をチャンバースライドに播種し、実施例8と同様にして得たFAM内包フコシル化リポソームとともに2時間インキュベートした後、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、PBSで洗浄し、DAPIで対比染色してから蛍光顕微鏡で可視化した。
図39に示す蛍光顕微像では、Notch−1発現株のHL−60細胞において、非フコシル化リポソーム処理細胞(F0)に比べ、フコシル化リポソーム処理細胞(F25およびF50)において細胞内にFAMの蛍光が顕著に多く認められたが、Notch−1非発現株のMOLT−4細胞では、フコシル化リポソームによっても、細胞内に導入されたFAMの量は、非フコシル化リポソームと同程度の低いレベルに止まっており、フローサイトメトリー法での結果が裏付けられた。
【0190】
実施例29 ドキソルビシンを被包するフコシル化リポソームの各種白血病細胞株への効果
WST−1アッセイによって、ドキソルビシンを被包するフコシル化リポソームの細胞毒性効果を調べた。ドキソルビシン内包フコシル化リポソームは、実施例8と同様の手法で作製した。2×10
4個の各種細胞を96ウェルカルチャーフラスコに播種し、種々の濃度のドキソルビシン内包フコシル化リポソーム(F−DOX)またはドキソルビシン単独(DOX)とともに、細胞をインキュベートした。2時間のインキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、培養液(10%FBS添加RPMI1640培地)に置換後、さらに72時間培養してから実施例12と同様にWST−1試薬でのアッセイを行い、生細胞数を計測した。
図40に示すとおり、Notch−1発現株(HL−60)では、ドキソルビシン内包フコシル化リポソーム(F−DOX)が、ドキソルビシン単独(DOX)に比べ顕著な用量依存的な殺細胞効果を示した。これに対し、Notch−1非発現株(MOLT−4)では、このような用量依存的な殺細胞効果は認められなかった。
【0191】
実施例30 白血病患者由来の検体におけるCD33およびNotch−1発現の検討
白血病患者検体は患者本人の同意のもと末梢血を採取し、Ficoll-Hypaqueにて単核球を分離し使用前まで液体窒素内で保存した。検体を採取した患者の内訳は下表9に示すとおりである。
【表9】
【0192】
各検体の細胞1×10
6個を0.1%BSA/PBSで洗浄後、1mlのPBS中の10μlの抗体(PE結合CD33抗体(R&D)およびFITC結合Notch−1抗体(R&D))で10分間反応させて標識し、PBSで細胞を洗浄して細胞懸濁液を作製した。これをFACSCalibur
TMフローサイトメーター(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)に供して陽性細胞を検出し、CellQuest
Pro software(BD Biosciences)で解析した。
図41に示す結果から、1例のALL(急性リンパ性白血病)検体を除き、AML(急性骨髄性白血病)検体においてNotch−1/CD33陽性細胞が高頻度に認められることが分かる。参考のため、下表10に、各検体におけるNotch−1および/またはCD33陽性細胞の割合を示す。表中、20以上の数値を四角で囲ってある。なお、各検体は上表9と同じ順序で記載してある。
【表10】
【0193】
実施例31 ドキソルビシンを被包するフコシル化リポソームの各種白血病検体細胞への効果
WST−1アッセイによって、ドキソルビシンを被包するフコシル化リポソームの細胞毒性効果を調べた。2×10
4個の各種細胞を96ウェルカルチャーフラスコに播種し、0.1μMまたは1.0μMのドキソルビシン単独(DOX)、ドキソルビシン内包フコシル化(F25)または非フコシル化リポソーム(F0)とともに、細胞をインキュベートした。2時間のインキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、培養液(10%FBS添加RPMI1640培地)に置換後、さらに72時間培養してから実施例12と同様にWST−1試薬でのアッセイを行い、生細胞数を計測した。
図42に示すとおり、Notch−1発現検体(Case1および2)では、ドキソルビシン内包フコシル化リポソームが、ドキソルビシン単独およびドキソルビシン内包非フコシル化リポソームに比べ顕著な殺細胞効果を示した。これに対し、Notch−1非発現検体(Case4)では、このような顕著な殺細胞効果は認められなかった。