特許第5936008号(P5936008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936008
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/26 20060101AFI20160602BHJP
   G02B 7/36 20060101ALI20160602BHJP
   G02B 7/28 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   G02B21/26
   G02B7/36
   G02B7/28 J
【請求項の数】19
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-505997(P2013-505997)
(86)(22)【出願日】2012年3月22日
(86)【国際出願番号】JP2012057277
(87)【国際公開番号】WO2012128305
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2014年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-64256(P2011-64256)
(32)【優先日】2011年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503138134
【氏名又は名称】ナノフォトン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】河田 聡
(72)【発明者】
【氏名】小林 実
(72)【発明者】
【氏名】太田 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】内山 知也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 直義
(72)【発明者】
【氏名】河野 省悟
【審査官】 森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−197287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/28 − 7/40
G02B 21/00 − 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
該タッチスクリーンに1本の指が当接されると、該制御装置は、該撮像手段からの画像信号を内蔵メモリに保存し、該表示手段の表示面上に保存した画像信号に基づくメモリ画像を表示せしめ、指が該タッチスクリーンから離脱されることなく移動されると、指の移動に応じて該表示手段の表示面上において該メモリ画像を移動せしめると共に、該X及びY方向駆動手段を作動せしめて該試料ステージをX及び/又はY方向に移動せしめる、ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項2】
該制御手段は、該タッチスクリーンに指が当接されてから該タッチスクリーンから指が離脱されるまで、所定時間間隔で指の移動を検出し指の位置に基いて該メモリ画像を更新し、そして指の移動が停止されて指が該タッチスクリーンから離脱され、該試料ステージの移動が終了すると、該表示手段の表示面上に表示される画像を該撮像手段に投射されているリアルタイム画像にせしめる、請求項1記載の顕微鏡。
【請求項3】
X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
該タッチスクリーンに2本の指が同時に当接されると、該制御手段は、2本の指の間隔を記憶し、該タッチスクリーンから2本の指が離脱されることなく2本の指の間隔が変化せしめられると、該制御手段は、2本の指の間隔の変化率に応じて該表示手段の表示面上に表示される画像の倍率を変化せしめる、ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項4】
2本の指の間隔の変化率が所定閾値を越えると、該制御手段は、該レボルバ駆動手段を作動せしめて該試料ステージに対向する該作用位置に位置する対物レンズを変更する、請求項3記載の顕微鏡。
【請求項5】
該レボルバ駆動手段の作動を開始する際には、該制御手段は、該撮像手段からの画像信号を内蔵メモリに保存し、該レボルバ駆動手段の作動中においては該表示手段の該表示面上には該内臓メモリに保存した画像信号に基づくメモリ画像を2本の指の変化率に応じた倍率で表示せしめる、請求項4記載の顕微鏡。
【請求項6】
対物レンズの変更が終了すると、該制御手段は、内蔵メモリに予め保存した同焦点距離及び視野中心位置に関する情報に基いて、該X方向及びY方向駆動手段及び/又は該Z方向駆動手段を作動せしめてピント調整し、しかる後に該表示手段の表示面上に表示される画面を該撮像手段に投射されているリアルタイム画像にせしめる、請求項4又は5記載の顕微鏡。
【請求項7】
X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
最低倍率の対物レンズが作用位置に位置せしめられた後に該表示手段の該表示面上に表示される画像が縮小された場合、該制御手段は、該表示手段の該表示面上におけるリアルタイム画像の外側の領域にリアルタイム画像に続く追加画像が付加された広視野バッファ画像を表示せしめる、ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項8】
該追加画像が内蔵メモリに記憶されていない場合には、該X及びY方向移動手段を作動せしめて該試料ステージをX及びY方向に移動して所要追加画像信号を該内蔵メモリに保存し、しかる後に該試料ステージを初期位置に戻す、請求項7記載の顕微鏡。
【請求項9】
該表示手段の該表示面上に該広視野バッファ画像が表示せしめられている状態において、該タッチスクリーンに1本の指が当接されると、該制御装置は、該広視野バッファ画像信号を内蔵メモリに保存し、指が該タッチスクリーンから離脱されることなく移動されると、指の移動に応じて該表示手段の表示面上において該広視野バッファ画像を移動せしめると共に、該X及びY方向駆動手段を作動せしめて該試料ステージをX及び/又はY方向に移動せしめる、請求項7又は8記載の顕微鏡。
【請求項10】
X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
該タッチスクリーンの同位置に指が2回続けて当接されると、該制御手段は、該同位置及びその近傍のコントラストに基づいて該Z方向駆動手段を作動せしめて、該試料ステージ上の試料に対して作用位置に位置付けられている対物レンズの焦点合わせを遂行する、ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項11】
X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
ラマン顕微鏡であり、該タッチスクリーンに操作者の指の特定のジェスチャが適用されると、該制御手段は、ラマン測定領域設定モードに設定する、ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項12】
該特定のジェスチャは指を当接せしめて所定時間維持することであり、該制御手段は、指が当接された部位を測定領域として設定する、請求項11記載の顕微鏡。
【請求項13】
該測定領域設定モードに設定された後に、該タッチスクリーンに指が当接され該タッチスクリーンから離脱されることなく移動されると、該制御手段は指の移動に対応して測定領域を設定する、請求項11記載の顕微鏡。
【請求項14】
X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
該タッチスクリーンに2本の指が同時に当接され、該タッチスクリーンから離脱されることなく平行移動せしめられると、該制御手段は、2本の指の平行移動量に応じて該Z方向駆動手段を作動せしめて該レボルバに対して該料ステージをZ方向に相対的に移動せしめる、ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項15】
2本の指が所定方向に平行移動せしめられると、該制御手段は、該レボルバに対して接近する方向に該試料ステージを相対的に移動せしめ、2本の指が反対方向に平行移動せしめられると、該制御手段は、該レボルバに対して離隔する方向に該試料ステージを移動せしめる、請求項14記載の顕微鏡。
【請求項16】
該タッチスクリーンに2本の指が同時に当接され、該タッチスクリーンから離脱されることなく平行移動せしめられると、該制御手段は、該表示手段上に該レボルバに対する該試料ステージの相対的位置を示すための尺度と試料ステージ標識とを表示し、該レボルバに対する該試料ステージに相対的移動に応じて該試料ステージ標識を該尺度に沿って移動せしめる、請求項14又は15記載の顕微鏡。
【請求項17】
該尺度と該試料ステージ標識とが所定時間に渡って表示され、該尺度と該試料ステージ標識とが表示されている時に、該試料ステージ標識に指を当接せしめて該尺度に沿って移動せしめると、指の移動に応じて該レボルバに対して該試料ステージが相対的に移動せしめられる、請求項16記載の顕微鏡。
【請求項18】
X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
該タッチスクリーンが無線で該制御手段に接続されている状態において、使用者の意図に反して無線接続が切断された時に、該レボルバに対して該試料ステージが所定距離を超えて接近している場合には、該制御手段は、該Z方向駆動を作動せしめて該レボルバに対して該試料ステージを所定距離離隔した位置に相対的に移動せしめる、ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項19】
X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
レーザ光源を備えており、該タッチスクリーンが無線で該制御手段に接続されている状態において、使用者の意図に反して無線接続が切断された時に該レーザ光源が付勢されている場合には、該制御手段は、該レーザ光源を除勢する、ことを特徴とする顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーンを備えた顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン顕微鏡の如き顕微鏡の典型例は、X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、試料ステージとレボルバとをZ方向に相対的に移動せしめるためのZ方向駆動手段、複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、CCDカメラの如き撮像手段、試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を作用位置に位置付けられた対物レンズを通して撮像手段に投射する画像投射光学手段、液晶パネルの如き表示手段、及び制御手段を具備している。かような顕微鏡においては、試料ステージ上の試料の観察乃至測定領域の選定、観察乃至測定倍率の選定、対物レンズの焦点合わせ等の制御操作を適宜に遂行することが必要であるが、通常、これらの制御操作はジョイステック或いはトラックボ−ルの如き入力手段を介して遂行されている。しかしながら、かような入力手段を利用した制御操作には、入力操作と試料ステージの移動の如き出力作動との間に存在するタイムラグ等に起因して制御操作が必ずしも容易ではなく相当な熟練を要する。特に高倍率で観察乃至測定を行う場合、低倍率画面で観察乃至測定領域を概略的に設定し、しかる後に高倍率で観察乃至測定領域を充分精密に設定することになるが、倍率変更の際には対物レンズを交換し焦点合わせを行うことが必要であり、操作が相当煩雑である。
【0003】
一方、下記特許文献1及び2には、液晶パネルの如き表示手段の表示面上にタッチスクリーンを配設し、かかるタッチスクリーンを入力手段として利用する顕微鏡が開示されている。しかしながら、下記特許文献1及び2に開示されている顕微鏡における作動制御様式は、タッチスクリーン上に規定された各種機能スイッチに対する指の当接或いは単なる指の移動に基づくものであり、制御操作が限定的である、表示手段上には画像投射光学系を介して撮像手段に投射される試料ステージ上の試料の画像が表示されるが、入力操作と試料ステージの移動完了との間には相当なタイムラグが存在し、試料ステージを相当な長さに渡って移動せしめる場合は領域指定と試料ステージの移動完了待ちと繰り返すことが必要である、対物レンズを交換した場合には同焦点距離の誤差及び視野中心の誤差を修正することが必要であるが、かような誤差修正が考慮されていない、ラマン顕微鏡の場合に必要とされる測定領域の設定が考慮されていない、等の問題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−197287号公報
【特許文献2】特開2001−59940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーンを入力手段として利用して、顕微鏡の種々の作動制御を充分容易に且つ精密に遂行することができる、新規且つ改良された顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討の結果、表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリ−ンに適用される操作者の指の種々のジェスチャ、例えば1本の指による当接(タップ)、2回連続して当接(ダブルタップ)、指を当接し離脱することなく移動する(ドラッグ)、指を当接して所定時間以上維持する(タッチアンドホールド)、2本の指を同時に当接せしめて指の間隔を広げる(ピンチアウト)或いは狭める(ピンチイン)、2本の指を同時に当接せしめて平行移動する(ダブルドラッグ)等、に基づいて種々の作動制御を遂行するようになすことによって、上記主たる技術的課題を達成することができることを見出した。
【0007】
即ち、本発明の第一の局面によれば、上記主たる技術的課題を達成する顕微鏡として、X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
該タッチスクリーンに1本の指が当接されると、該制御装置は、該撮像手段からの画像信号を内蔵メモリに保存し、該表示手段の表示面上に保存した画像信号に基づくメモリ画像を表示せしめ、指が該タッチスクリーンから離脱されることなく移動されると、指の移動に応じて該表示手段の表示面上において該メモリ画像を移動せしめると共に、該X及びY方向駆動手段を作動せしめて該試料ステージをX及び/又はY方向に移動せしめる、ことを特徴とする顕微鏡が提供される。
本発明の第二の局面によれば、上記主たる技術的課題を達成する顕微鏡として、X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
該タッチスクリーンに2本の指が同時に当接されると、該制御手段は、2本の指の間隔を記憶し、該タッチスクリーンから2本の指が離脱されることなく2本の指の間隔が変化せしめられると、該制御手段は、2本の指の間隔の変化率に応じて該表示手段の表示面上に表示される画像の倍率を変化せしめる、ことを特徴とする顕微鏡が提供される。
本発明の第三の局面によれば、上記主たる技術的課題を達成する顕微鏡として、X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
最低倍率の対物レンズが作用位置に位置せしめられた後に該表示手段の該表示面上に表示される画像が縮小された場合、該制御手段は、該表示手段の該表示面上におけるリアルタイム画像の外側の領域にリアルタイム画像に続く追加画像が付加された広視野バッファ画像を表示せしめる、ことを特徴とする顕微鏡が提供される。
本発明の第四の局面によれば、上記主たる技術的課題を達成する顕微鏡として、X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
該タッチスクリーンの同位置に指が2回続けて当接されると、該制御手段は、該同位置及びその近傍のコントラストに基づいて該Z方向駆動手段を作動せしめて、該試料ステージ上の試料に対して作用位置に位置付けられている対物レンズの焦点合わせを遂行する、ことを特徴とする顕微鏡が提供される。
本発明の第五の局面によれば、上記主たる技術的課題を達成する顕微鏡として、X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
ラマン顕微鏡であり、該タッチスクリーンに操作者の指の特定のジェスチャが適用されると、該制御手段は、ラマン測定領域設定モードに設定する、ことを特徴とする顕微鏡が提供される。
本発明の第六の局面によれば、上記主たる技術的課題を達成する顕微鏡として、X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
該タッチスクリーンに2本の指が同時に当接され、該タッチスクリーンから離脱されることなく平行移動せしめられると、該制御手段は、2本の指の平行移動量に応じて該Z方向駆動手段を作動せしめて該レボルバに対して該料ステージをZ方向に相対的に移動せしめる、ことを特徴とする顕微鏡が提供される。
本発明の第七の局面によれば、上記主たる技術的課題を達成する顕微鏡として、X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
該タッチスクリーンが無線で該制御手段に接続されている状態において、使用者の意図に反して無線接続が切断された時に、該レボルバに対して該試料ステージが所定距離を超えて接近している場合には、該制御手段は、該Z方向駆動を作動せしめて該レボルバに対して該試料ステージを所定距離離隔した位置に相対的に移動せしめる、ことを特徴とする顕微鏡が提供される。
本発明の第八の局面によれば、上記主たる技術的課題を解決するための顕微鏡として、X及びY方向に移動自在に装着された試料ステージ、該試料ステージをX及びY方向に駆動するX及びY方向駆動手段、倍率が異なった複数個の対物レンズを含むレボルバ、該試料ステージと該レボルバとをZ方向に相対的移動せしめるためのZ方向駆動手段、該複数個の対物レンズのうちの任意の1個を選択的に該試料ステージに対向する作用位置に位置付けるためのレボルバ駆動手段、撮像手段、該試料ステージ上に位置せしめられた試料の画像を該作用位置に位置付けられた対物レンズを通して該撮像手段に投射する画像投射光学手段、表示手段、該表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーン、及び該タッチスクリーンに適用される操作者の指のジェスチャに応じて、該X及びY方向駆動手段の作動、該Z方向駆動手段の作動、該レボルバ駆動手段の作動、及び該表示手段における表示倍率を制御する制御手段を具備する顕微鏡にして、
レーザ光源を備えており、該タッチスクリーンが無線で該制御手段に接続されている状態において、使用者の意図に反して無線接続が切断された時に該レーザ光源が付勢されている場合には、該制御手段は、該レーザ光源を除勢する、ことを特徴とする顕微鏡が提供される。
【0008】
制御手段は、該タッチスクリーンに指が当接されてから該タッチスクリーンから指が離脱されるまで、所定時間間隔で指の移動を検出し指の位置に基いて該メモリ画像を更新し、そして指の移動が停止されて指が該タッチスクリーンから離脱され、該試料ステージの移動が終了すると、該表示手段の表示面上に表示される画像を該撮像手段に投射されているリアルタイム画像にせしめるのが好適である。
【0009】
好適には、2本の指の間隔の変化率が所定閾値を越えると、該制御手段は、該レボルバ駆動手段を作動せしめて該試料ステージに対向する該作用位置に位置する対物レンズを変更する。該レボルバ駆動手段の作動を開始する際には、該制御手段は、該撮像手段からの画像信号を内蔵メモリに保存し、該レボルバ駆動手段の作動中においては該表示手段の該表示面上には該内臓メモリに保存した画像信号に基づくメモリ画像を2本の指の変化率に応じた倍率で表示せしめるのが好都合である。好ましくは、対物レンズの変更が終了すると、該制御手段は、内蔵メモリに予め保存した同焦点距離及び視野中心位置に関する情報に基いて、該X方向及びY方向駆動手段及び/又は該Z方向駆動手段を作動せしめてピント調整し、しかる後に該表示手段の表示面上に表示される画面を該撮像手段に投射されているリアルタイム画像にせしめる。
【0010】
該追加画像が内蔵メモリに記憶されていない場合には、該X及びY方向移動手段を作動せしめて該試料ステージをX及びY方向に移動して所要追加画像信号を該内蔵メモリに保存し、しかる後に該試料ステージを初期位置に戻すのが好適である。該表示手段の該表示面上に該広視野バッファ画像が表示せしめられている状態において、該タッチスクリーンに1本の指が当接されると、該制御装置は、該広視野バッファ画像信号を内蔵メモリに保存し、指が該タッチスクリーンから離脱されることなく移動されると、指の移動に応じて該表示手段の表示面上において該広視野バッファ画像を移動せしめると共に、該X及びY方向駆動手段を作動せしめて該試料ステージをX及び/又はY方向に移動せしめるのが好ましい。
【0012】
特定のジェスチャは指を当接せしめて所定時間維持することであり、該制御手段は、指が当接された部位を測定領域として設定するのが好都合である。該測定領域設定モードに設定された後に、該タッチスクリーンに指が当接され該タッチスクリーンから離脱されることなく移動されると、該制御手段は指の移動に対応して測定領域を設定するのが好ましい。
【0013】
ましくは、2本の指が所定方向に平行移動せしめられると、該制御手段は、該レボルバに対して接近する方向に該試料ステージを相対的に移動せしめ、2本の指が反対方向に平行移動せしめられると、該制御手段は、該レボルバに対して離隔する方向に該試料ステージを移動せしめる。該タッチスクリーンに2本の指が同時に当接され、該タッチスクリーンから離脱されることなく平行移動せしめられると、該制御手段は、該表示手段上に該レボルバに対する該試料ステージの相対的位置を示すための尺度と試料ステージ標識とを表示し、該レボルバに対する該試料ステージに相対的移動に応じて該試料ステージ標識を該尺度に沿って移動せしめるのが好都合である。該尺度と該試料ステージ標識とが所定時間に渡って表示され、該尺度と該試料ステージ標識とが表示されている時に、該試料ステージ標識に指を当接せしめて該尺度に沿って移動せしめると、指の移動に応じて該レボルバに対して該試料ステージが相対的に移動せしめられるのが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の顕微鏡においては、表示手段の表示面上に配設されたタッチスクリーンに適用される指の種々のジェスチャが検出され、これに応じて種々の作動制御が遂行され、かくして顕微鏡の種々の作動制御を充分容易に且つ精密に遂行される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に従って構成された顕微鏡の好適実施形態を示す簡略ブロック線図。
図2図1に図示する顕微鏡における基本作動制御様式を示すフローチャート。
図3図1に図示する顕微鏡における指のジェスチャに応じて作動制御様式を示すフローチャート。
図4図1に図示する顕微鏡における試料ステージ移動及び画像更新様式を示すフローチャート。
図5図1に図示する顕微鏡における倍率変化様式を示すフローチャート。
図6図1に図示する顕微鏡における倍率変化様式(デジタルズーム倍率が1より小さい場合)を示すフローチャート。
図7図1に図示する顕微鏡における試料ステージ移動及び画面更新様式(デジタルズーム倍率が1より小さい場合)を示すフローチャート。
図8図1に図示する顕微鏡における試料ステージ昇降様式を示すフローチャート。
図9】倍率変化と対物レンズ交換との関係を示すグラフ。
図10図1の顕微鏡における表示手段に表示される広視野バッファ画像の一例を示す簡略線図。
図11】試料ステージの昇降位置を示すための尺度及び試料ステージ標識を示す罐略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1には、本発明に従って構成されたラマン顕微鏡の主要構成要素が簡略に図示されている。図示のラマン顕微鏡は、試料2を載置するための試料ステージ4を含んでいる。この試料ステージ4はX方向(図1において左右方向)、Y方向(図1において紙面に垂直な方向)及びZ方向(図1において上下方向)に移動自在に装着されている。試料ステージ4には駆動手段6が付設されており、かかる駆動手段6の作動によって試料ステージ4はX方向、Y方向及びZ方向に適宜に移動せしめられる。従って、駆動手段6は試料ステージ4をX方向及びY方向に駆動するためのX及びY方向駆動手段を構成すると共に、試料ステージ4をZ方向に駆動するためのZ方向駆動手段を構成する。
【0018】
試料ステージ4の上方にはレボルバ10が回転自在に装着されており、このレボルバ10には倍率が異なった複数個の対物レンズ8、例えば倍率が5、10、20及び50である4個の対物レンズ8、が装備されている(図1にはそのうちの1個のみを図示している)。レボルバ10にはレボルバ駆動手段12が付設されており、レボルバ駆動手段12によってレボルバ10を適宜に回転せしめることによって、複数個の対物レンズ8のうちの所定の1個が試料ステージ4に対向して位置する作用位置に位置付けられる。図示の実施形態においては、上述したとおり試料ステージ4がZ方向に適宜に移動せしめられて対物レンズ8と試料ステージ4上の試料2とのZ方向間隔が適宜に設定されるが、所望ならば試料ステージ4をZ方向に移動することに代えて或いはこれに加えてレボルバ10をZ方向に適宜に移動せしめて対物レンズ8と試料ステージ4上の試料2とのZ方向間隔を適宜に設定することもできる。
【0019】
図示のラマン顕微鏡には、レーザ光源14、ビームエキスパンダ16、Y方向操作手段18、レンズ20、絞り24、レンズ26、ビームスプリッタ28、X方向操作ミラー30、レンズ32、レンズ34、レンズ40、入射スリット44を有する分光器46、及びCCDカメラから構成することができるラマン信号検出器48が配設されている。図示のラマン顕微鏡におけるこれらの構成要素の具体的構成及び作用は、特開2007−179002号公報の明細書及び図面(特に図1)に詳細に開示されているので、かかる記載に委ね本明細書においては説明を省略する。
【0020】
図1を参照して説明を続けると、レンズ40とレボルバ10との間にはビームスプリッタ50が配設され、このビームスプリッタ50に関連せしめてレンズ52及び撮像手段54が配設されている。ビームスプリッタ50及びレンズ52は、試料ステージ4上の試料2の画像を作用位置に位置付けられている対物レンズ8を介して撮像手段54に投射する画像投射光学手段を構成する。撮像手段54はCCDカメラから構成することができる。撮像手段54は上記ラマン信号検出器48と共に制御手段56に接続されている。メモリを内蔵したコンピュターから構成することができる制御手段56には表示手段58が付設されている。この表示手段58は液晶パネルの如き適宜の表示器から構成することができる。表示手段58の表示面上には、操作者の指の当接を感知するタッチスクリーン60が配設されていることが重要である。
【0021】
本発明に従って構成された顕微鏡においては、以下の詳細に説明するとおり、上記タッチスクリ−ン60に適用される操作者の指のジェスチャに応じて、制御手段56が顕微鏡の種々の作動を制御することが重要である。制御手段56と顕微鏡の種々の構成要素との信号の送受信は、適宜の信号線を介して遂行することができる。所望ならば、無線によって信号の送受信を遂行することもできる。図1と共に図2に図示するフローチャートを参照して説明を続けると、電源投入により顕微鏡の作動が開始されると、投入ステップn−1においては初期化が遂行されて、顕微鏡は予め設定された初期状態にせしめられる。次いで、ステップn−2において撮像手段54に投射されている画像、即ちリアルタイム画像が表示手段58の表示面に表示される。ステップn−3においては、タッチスクリーン60に操作者の指のジェスチャが適用されたか否かが判別される。操作者の指のジェスチャが適用された場合には、ステップn−4に移行し、以下に詳述するとおりにしてジェスチャに応じた作動制御が遂行される。ステップn−5においてはジェスチャに応じた作動制御が終了したか否かが判別される。
【0022】
次に、ジェスチャに応じた作動制御について詳述するが、試料ステージ4上の試料が表示手段58の表示面に表示される倍率を意味する「総合倍率」は、次の式で示される。
(総合倍率)=(対物レンズ8の倍率)×(画像投射光学手段の倍率)
×(デジタルズーム倍率)×(撮像手段54の画像領
域寸法と表示手段58の表示面寸法との比)
尚、語句「デジタルズーム倍率」は撮像手段54からの画像全体と表示手段58の表示面上に実際に表示される部分との比であって、倍率1の場合には撮像手段54からの画像全体が表示され、倍率が1よりも大きい場合には撮像手段54からの画像の一部が拡大されて表示手段58の表示面に表示され、倍率が1よりも小さい場合には表示手段58の表示面よりも撮像手段54からの画像が小さくなる。
【0023】
図1と共に図3に図示するフローチャートを参照して説明すると、ステップs−1においては、タッチスクリーン60に適用されたジェスチャが判別される。そして、ジェスチャがドラッグの場合にはステップs−2に移行して試料ステージ4の移動が遂行され、ジェスチャがピンチイン或いはピンチアウトの場合にはステップs−3に移行して倍率変更が遂行され、ジェスチャがダブルタップの場合にはステップs−4に移行して対物レンズ8の焦点合わせ(オートフォーカス)が遂行され、ジェスチャがタップアンドホールドの場合にはステップs−5に移行して測定領域設定が遂行され、ジェスチャがダブルドラッグ場合にはステップs−6に移行して試料ステージ昇降が遂行される。
【0024】
図1と共に図4に図示するフローチャートを参照して試料ステージ4の移動について説明すると、デジタルズーム倍率が1以上である状態において、ステップt−1においては、撮像手段54からの画像信号が制御手段56の内蔵メモリに保存され、保存された画像信号に基づくメモリ画像が表示手段58の表示面に表示される。次いで、ステップt−2に移行し、指の移動距離が算出される。ステップt−3においては、表示手段58の表示面に表示されているメモリ画像が指の移動距離だけ移動せしめられると共に、試料ステージ4の移動が開始される。しかる後に、ステップt−4に移行してタッチスクリーン60から指が離脱されたか否か、即ちドラッグが終了したか否か、が判別される。ドラッグが終了していない場合には、ステップt−5に移行して試料ステージ4が指の移動距離に対応した距離に渡って移動されたか否かが判別される。そして、試料ステージ4の所要移動が完了していない場合には上記ステップt−2に戻る。このようにして試料ステージ4の移動完了を待たずに、所定時間間隔で指の移動距離を繰り返し検出して試料ステージ4の移動距離を更新する。従って、試料ステージ4の移動完了を待って次の移動を開始する場合(上記特許文献1及び2に開示の場合)に比べて、待ち時間なくして試料ステージ4を連続して移動せしめて試料の測定部位を迅速に探すことができる。試料ステージ4の所要移動が完了した場合には、ステップt−6に移行して制御手段56の内蔵メモリに保存されている画像信号を撮像手段54からの画像信号に更新する。従って、内臓メモリに保存されている画像信号も所定時間間隔で更新される。上記ステップt−4においてドラッグが終了した場合には、ステップt−7に移行して試料ステージ4が指の移動距離に対応した距離に渡って移動されるのを待って、表示手段58の表示面に表示される画像がメモリ画像からリアルタイム画像に切り替えられる。所望ならば、試料ステージ4の移動の際に、表示手段58の表示面に表示される画像をリアルタイム画像からメモリ画像に変換することに代えて、リアルタイム画像に重ねてメモリ画像を例えば半透明な状態で表示することもできる。
【0025】
図1と共に図5を参照して倍率変更様式を説明すると、ステップx−1においては、タッチスクリーン60に当接せしめられた2本の指の間隔を保存する。次いで、ステップx−2に移行して、2本の指の間隔が変化(ピンチイン或いはピンチアウト)せしめられると、間隔の縮小率或いは拡大率を算出し、算出した縮小率或いは拡大率に応じて撮像手段54からの画像信号を縮小或いは拡大して表示手段58の表示面上に表示する。縮小率或いは拡大率が閾値を越えると、レボルバ10の回転が開始されて作用位置に位置付けられる対物レンズ8の交換が開始される。対物レンズ8の交換に関する閾値には、図9に図示する如く、ヒステリシスを持たせて指の振動或いは指の位置の読取りノイズによって対物レンズ8が頻繁に交換されてしまうことを回避するのが望ましい。作用位置にある対物レンズ8が最低倍率のものであってデジタルズーム倍率が1より小さい場合には、図6に図示するフローチャートに従った作動制御が遂行される(これについては後述する)。ステップx−3においては、対物レンズ8の交換が開始されたか否かが判別される。対物レンズ8の交換が開始されていない場合にはステップx−4に移行し、ピンチイン或いはピンチアウトが終了し2本の指がタッチスクリーン60から離脱されたか否かが判別される。ピンチイン或いはピンチアウトが終了していない場合には上記ステップx−2に戻る。ピンチイン或いはピンチアウトが終了し2本の指がタッチスクリーン60から離脱された場合にはステップx−5に移行し、対物レンズ8の交換が実行されているか否かが判別される。対物レンズ8の交換が実行されている場合にはステップx−6に移行し、対物レンズ8の交換終了を待って、表示手段58の表示面に表示される画像をリアルタイム画像に切り替える。上記ステップx−3において対物レンズ8の交換が開始された場合には、ステップx−7に移行して、対物レンズ8の交換開始時における撮像手段54からの画像信号を制御手段56の内蔵メモリに保存し、表示手段58の表示面に表示されている画像がメモリ画像に切り替わっていない場合にはメモリ画像に切り替える。従って、対物レンズ8の交換中においては、表示手段58の表示面にはメモリ画像がデジタルズームされて表示される。次いで、ステップx−8に移行して対物レンズ8の交換が終了したか否かが判別される。対物レンズ8の交換が終了したか否かが判別される。対物レンズ8の交換が終了していない場合には上記ステップx−4に移行する。対物レンズ8の交換が終了した場合にはステップx−9に移行する。ステップx−9においては、制御手段56の内蔵メモリに予め保存されている同焦点距離の誤差及び視野中心位置の誤差に基いて、試料ステージ4がZ方向並びにX及びY方向に移動せしめられてピント調整され、そしてまた表示手段58の表示面上の画像がリアルタイム画像に切り替えられる。しかる後に上記ステップx−4に移行する。
【0026】
デジタルズーム倍率が1よりも小さい場合おける倍率変更について説明すると、次のとおりである。ピンチインによる縮小によって最低倍率の対物レンズ8に交換された後に更にピンチインによる縮小が実行された場合、撮像手段54からの画像信号による画像寸法が表示手段58の表示面の寸法よりも小さくなる。この場合には、図10に図示する如く、表示手段58の表示面における、撮像手段54から画像信号に基づく表示画像Aの外側領域に、所要追加画像B1乃至8を付加した広視野バッファ画像を表示する。図1と共に図6に図示するフローチャートを参照して説明すると、最低倍率の対物レンズ8に交換された後に更にピンチインによる縮小が実行された場合、ステップy−1において、撮像手段54からの画像信号を制御手段56の内蔵メモリに保存し、リアルタイム画像表示を中止して表示手段58の表示面に表示される画像を広視野バッファ画像(即ち、リアルタイム画像の周囲にこれに隣接する追加画像が表示される画像)に切り替える。この広視野バッファ画像において、メモリ画像を中央に表示し、その周囲領域における追加画像信号が未取得の部位は例えば灰色にする。次いで、ステップy−2に移行して、上述した様式と同様にしてピンチイン(或いはデジタルズーム倍率が既に1よりも小さい状態でのピンチアウト)による画像の縮小率(或いは拡大率)を算出する。ステップy−3においては、メモリ画像を所要縮小倍率で縮小(或いは所用拡大倍率で拡大)して表示する。ステップy−4においては、メモリ画像の周囲に表示すべき追加画像の未取得領域が存在するか否かが判別される。そして、未取得領域が存在する場合には、ステップy−5に移行する。ステップy−5においては、試料ステージ4を適宜移動せしめてメモリ画像に隣接する領域の画像が撮像手段54に投射されるようにして撮像手段54からの追加画像信号を保存し、保存したメモリ追加画像を表示手段58の表示面上の所要部位に表示する。かかる作動を中心のメモリ画像の周囲に必要な全ての追加画像について繰り返し遂行し、かくして表示手段58の表示面上に広視野バッファ画像を表示する。必要追加画像信号の取得が完了、即ち必要追加画像信号の未取得領域が存在しなくなると、ステップy−6に移行してピンチイン(或いはピンチアウト)が終了、即ち2本の指がタッチスクリーン60から離脱されたか否かが判別される。ピンチイン(或いはピンチアウト)が終了していない場合には上記ステップy−2に戻る。ピンチイン(或いはピンチアウト)が終了した場合にはステップy−7に移行する。ステップy−7においては、メモリ画像が表示手段58の表示面の中央に位置する状態に試料ステ−ジ4を戻し、そして試料ステージ4の戻し完了を待って、広視野画像の中央領域の画像をリアルタイム画像に切り替える。
【0027】
次に、図1と共に図7を参照して、デジタルズーム倍率が1より小さい場合における試料ステージの移動様式を説明する。タッチスクリーン60の指が当接されると試料ステージ4の移動手順が開始され、ステップz−1においては、撮像手段54からの画像信号を制御手段56の内蔵メモリに保存し、リアルタイム画像表示を中止して表示手段58の表示面に表示される画像を広視野バッファ画像に切り替える。ステップz−2においては、指の移動距離が算出される。ステップz−3においては、指の移動距離に応じて広視野バッファ画像が移動せしめられる。ステップz−4においては、メモリ画像の周囲に表示すべき追加画像の未取得領域が存在するか否かが判別される。そして、未取得領域が存在する場合には、ステップz−5に移行する。ステップz−5においては、試料ステージ4を適宜移動せしめてメモリ画像に隣接する領域の画像が撮像手段54に投射されるようにして撮像手段54からの追加画像信号を保存し、保存したメモリ追加画像を表示手段58の表示面上の所要部位に表示する。かかる作動を中心のメモリ画像の周囲に必要な全ての追加画像について繰り返し遂行し、かくして表示手段58の表示面上に広視野バッファ画像を表示する。必要追加画像信号の取得が完了、即ち必要追加画像信号の未取得領域が存在しなくなると、ステップz−6に移行して指がタッチスクリーン60から離脱されたか否か、即ちドラッグが終了したか否か、が判別される。ドラッグが終了していない場合には上記ステップz−2に戻る。ドラッグが終了した場合にはステップz−7に移行する。ステップz−7においては、撮像手段54からの画像が表示手段58の表示面の中央に位置する状態に試料ステ−ジ4を移動し、そして試料ステージ4の移動完了を待って、広視野画像の中央領域の画像をリアルタイム画像に切り替える。
【0028】
図1及び図3を参照して説明すると、タッチスクリーン60の同位置が指で2回続けて当接(ダブルタップ)されると、制御手段56は、試料ステージ4上の試料2に対する対物レンズ8の焦点合わせ(オートフォーカス)を遂行する。この焦点合わせは、例えば指が当接された位置及びその近傍のコントラストを検出し、かかるコントラストに基いて遂行することができる。所望ならば、指が当接された位置にレーザ光線を照射し、レーザ光線が照射された状態における試料2の所要領域のコントラストに基いて焦点合わせを遂行することもできる。
【0029】
図1及び図3を参照して説明を続けると、図示の実施形態においては、タッチスクリーン60に指の特定のジェスチャが適用される、例えば指を当接せしめて所定時間以上維持される(タッチアンホールド)、と制御手段56は、ラマン測定領域設定モードに設定する。そして、このラマン測定モードにおいては、タッチスクリーン60に適用される指のジェスチャに応じてラマン測定領域を設定する。例えば、指が当接された位置自体をラマン測定領域として設定することができる。或いは、当接された指が移動された場合には、この移動に応じてラマン測定領域を設定することができる。例えば、当接された指がドラッグされた場合、当初の当接位置とドラッグ最終位置とを対角点とした矩形領域を測定領域とすることができる。ドラッグ中に表示されているリアルタイム画像ハシに達し或いは端を越えた場合には、上述した広視野バッファ画像に切り換え、広視野バッファ画像を更新しながら画像を移動せしめて、最低倍率の対物レンズの視野よりも広い領域を測定領域に設定することもできる。或いは、指が所要領域を囲むように移動された場合には囲まれた所要領域をラマン測定領域として設定することができる。
【0030】
図8を参照して試料ステージ昇降様式を説明すると、ステップm−1においては、タッチスクリーン60に当接された2本の指の間隔を保存する。次いで、ステップm−2に移行し、2本の指の間隔が実質上変動されることなく移動された場合(2本の指の間隔が変化した場合には図5に示すステップx−2に移行する)には、移動方向(上方又は下方)及び移動量が検出される。次いでステップm−3に移行し、表示手段58の例えば片側部に図11に図示する通りの尺度62及び試料ステージ標識64を所定時間に渡って表示する。試料ステージ標識64は試料ステージ4の上下方向位置を示し、尺度62はレボルバ10と試料ステージ4との上下方向間隔を示している。次のステップm−4においては、2本の指の平行移動に応じて駆動手段6を作動せしめて試料ステージ4を昇降動する。更に詳しくは、2本の指が所定方向即ち上方へ平行移動せしめられた場合には試料ステージ4を上昇せしめ、2本の指が反対方向即ち下方に平行移動せしめられた場合には試料ステージ4を下降せしめる。試料ステージ4の上下方向位置は適宜の検出手段(図示していない)によって検出され、試料ステージ4の昇降に応じて試料ステージ標識64が尺度62に沿って昇降せしめられる。次いでステップm−5に移行し、2本の指の平行移動が終了し2本の指がタッチスクリーン60から離脱されたか否かが判別される。平行移動が終了していない場合には、上記ステップm−2に戻る。表示手段58に尺度62及び試料ステージ標識64が表示されている状態においては、試料ステージ標識64に指を当接せしめ、試料ステージ標識64を昇降動することによって試料ステージ4を昇降動せしめることもできる。
【0031】
上述したとおり、タッチスクリーン60と制御手段56とは無線で接続することもできる。この場合には、使用者の意図に反して無線接続が切断された時にレボルバト10と試料ステージ4とが所定距離を超えて接近している場合に、制御手段56は自動的に試料ステージ4を下降せしめてレボルバ10から試料ステージ4を所定距離離隔せしめ、かくして安全性を確保することが望ましい。また、レーザ光源14が付勢されている場合にはこれを除勢するのが望ましい。
【符号の説明】
【0032】
2:試料
4:試料ステージ
6:駆動手段(X及びY方向駆動手段、Z方向駆動手段)
8:対物レンズ
10:レボルバ
12:レボルバ駆動手段
54:撮像手段
56:制御手段
58:表示手段
60:タッチスクリーン
図1
図2
図3
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図11