特許第5936040号(P5936040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936040
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】小型観測ブイシステム
(51)【国際特許分類】
   B63B 22/00 20060101AFI20160602BHJP
   B63B 22/04 20060101ALI20160602BHJP
   B63B 22/18 20060101ALI20160602BHJP
   B63B 21/20 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   B63B22/00 C
   B63B22/04 A
   B63B22/04 Z
   B63B22/18
   B63B21/20 B
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-50345(P2012-50345)
(22)【出願日】2012年3月7日
(65)【公開番号】特開2013-184531(P2013-184531A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年1月19日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 ウェブサイトの掲載日 平成23年 9月 8日 ウェブサイトのアドレス http://db.prer.tottori.jp/pressrelease.nsf/0/8F710B26EEB8BC9F492578FE00201705 ウェブサイトの掲載日 平成23年 9月 8日 ウェブサイトのアドレス http://www.pref.tottori.lg.jp/dd.aspx?menuid=172013 研究集会名 日本船舶海洋工学会秋季講演会 主催者名 日本船舶海洋工学会 開催日 平成23年11月 8日
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000132688
【氏名又は名称】株式会社ゼニライトブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100103654
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100165755
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 典彦
(72)【発明者】
【氏名】小寺山 亘
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】麻生 裕司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】浅野 立雄
【審査官】 中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭51−053082(JP,U)
【文献】 実開昭57−192167(JP,U)
【文献】 特表昭60−502252(JP,A)
【文献】 米国特許第05431589(US,A)
【文献】 特開平06−219372(JP,A)
【文献】 実開昭61−205896(JP,U)
【文献】 特開2004−191268(JP,A)
【文献】 特開2007−255032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測ブイ、標識ブイ、中間フロート、両端フロートを主係留ロープと左右2本のアンカーロープからなる台形状2点係留ラインで一連ならしめ、荒天時における過大な外力に対して上記一連の係留物を水没させることを特徴とする小型観測ブイシステム。
【請求項2】
観測ブイを中央に、この観測ブイの両端に両端フロートを、さらに前記観測ブイ、両端フロート間に中間フロートと標識ブイを配置し、荒天時における過大な外力の波浪方向に対して直角方向に設置された係留ラインを、一連の係留物の端側から順に水没させ、水中において2点係留ラインを台形状から逆V字状に変形させることを特徴とする請求項1記載の小型観測ブイシステム。
【請求項3】
観測ブイに外力を計測するためのドップラー式流向流速計、GPS波浪計および無線通信装置が搭載され、観測ブイが水没している間の流向流速計で測定された表層水温、水圧を含む流況データと、観測ブイが水没しているときにはGPS波浪計が水中にあってGPS波浪計で測定された波浪データが通信されないことを基地局で認識することで、観測ブイが水没しているか否かをドップラー式流向流速計により判定すること、および水没時の外力値、すなわち流速、流向と波高、波周期、波向の各値がGPS波浪計とドップラー式流向流速計により把握できることを特徴とする請求項1又は2記載の小型観測ブイシステム。
【請求項4】
観測ブイ、標識ブイを係留する主係留ロープを水面に沿って水平方向に張ることを特徴とする請求項1又は2記載の小型観測ブイシステム。
【請求項5】
2点係留ラインを荒天時における過大な外力の波浪方向に対して直角方向に設置することを特徴とする請求項1又は2記載の小型観測ブイシステム。
【請求項6】
弾性を有するロープを係留ラインに用い、当該ロープの初期張力を調整することを特徴とする請求項1又は2記載の小型観測ブイシステム。
【請求項7】
2点係留ラインの2点間である左右の沈錘間距離を調整することにより、係留ラインの張力を調整することを特徴とする請求項1、2又は5のいずれかに記載の小型観測ブイシステム。
【請求項8】
主係留ロープとアンカーロープの長さを調整することにより、係留ラインの張力を調整することを特徴とする請求項1記載の小型観測ブイシステム。
【請求項9】
中間フロート、両端フロートを増減させ、あるいは両フロートの大きさを変えることにより、係留ライン張力を調整することを特徴とする請求項1又は2記載の小型観測ブイシステム。
【請求項10】
主係留ロープに対して観測ブイを中央に、この観測ブイの外側に中間フロートを介して標識ブイを、さらにその外側に両端フロートを順次分布させて配置し、係留ライン浮力を調整することを特徴とする請求項1又は2記載の小型観測ブイシステム。
【請求項11】
両端フロートを小さい浮力の一連のフロート群で形成することを特徴とする請求項1、2、9、10のいずれかに記載の小型観測ブイシステム。
【請求項12】
主係留ロープの比重、太さを変えることにより、係留ライン浮力を調整することを特徴とする請求項1、4、6又は8記載の小型観測ブイシステム。
【請求項13】
ランプドマス法による3次元数値計算により、係留ラインの形状、張力、対象ブイの浮力、その他小型観測ブイシステムの平衡状態を計算し、それらの値からの外力閾値で水没する最適な係留ラインの緒元を決定する請求項1又は2記載の小型観測ブイシステム。
【請求項14】
観測ブイにドップラー式流向流速計、GPS波浪計、および無線通信装置が搭載され、流向流速計により測定された表層水温、水圧を含む流況データは、GPS波浪計により測定された波浪データと共に携帯電話回線又は衛星通信により基地局に送信されるようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の小型観測ブイシステム。
【請求項15】
観測ブイは水没に耐え得る構造および機能とし、観測ブイが水没している間はデータをブイ内のメモリに保存しておき、再浮上時に送信可能とすることを特徴とする請求項1、2、3、4又は14のいずれかに記載の小型観測ブイシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沿岸漁場その他の海域に設置される小型観測ブイシステムに関し、さらに詳しくは、荒天時における過大な外力に対して係留物を係留ラインと共に水没させることができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の係留式観測ブイは、海象が厳しくなる冬場その他の荒天時も水没せず、常時、観測データを送信し続けるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3638497号公報(特許請求の範囲、図5等)
【0004】
【特許文献2】特開2011−142878号公報(特許請求の範囲、図1等)
【0005】
【特許文献3】特開2003−52273号公報(特許請求の範囲、図3等)
【0006】
【特許文献4】特開2010−24616号公報(特許請求の範囲、図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、荒天時にも耐えなければならないから、耐久性を高めるために観測ブイ自体を大きくせざるを得ないのみならず、人が乗り移って保守する必要もあるところから、浮力体も自ずと大きくなるので、クレーン台船で設置せざるを得なかった。
【0008】
クレーン台船を用いると高価であるから、初期工事費比率が極めて大きくなり、トータルコストも大幅に嵩む。これらが従来の観測ブイの欠点であり、観測ブイや係留装置の小型化が強く望まれている。観測ブイや係留装置の小型化、軽量化を実現できれば、安価な小型船で設置できるので、極めて好都合である。ただし、係留ラインの耐久性を維持しながら、観測ブイや係留装置を小型化する必要がある。
【0009】
そこで、発明者等は、荒天時においてブイシステムに過大な外力が作用したとき、対象ブイを水没させることができれば、対象ブイならびにその係留装置の小型化、軽量化を図ることができることを思い付いた。そして、さらに鋭意研究の結果、本発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
なお、本発明においては、対象ブイならびにその係留装置を水没させ、再浮上させる方式を採るが、これに類似する技術として、浮沈式ブイ(例えば、特許文献1参照)、浮沈式生簀(例えば、特許文献2、3参照)、浮沈式オイルフェンス(例えば、特許文献4参照)などがある。ただし、これらはいずれもエアーの給・排気による操作でブイ、生簀、オイルフェンスを浮沈させるものであって、本発明の方式とは全く異なるものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明においては、観測ブイ、標識ブイ、中間フロート、両端フロートを主係留ロープと左右2本のアンカーロープからなる台形状2点係留ラインで一連ならしめ、荒天時における過大な外力に対して上記一連の係留物を水没させることを特徴とするものである。
このようにした場合には、荒天時において小型観測ブイシステムに過大な外力が作用したとき、対象ブイを水没させることで対象ブイならびに係留ラインの小型化を図ることができる。
【0012】
観測ブイを中央に、この観測ブイの両端に両端フロートを、さらに前記観測ブイ、両端フロート間に標識ブイと中間フロートを配置し、荒天時における過大な外力の波浪方向に対して直角方向に設置された係留ラインを、一連の係留物の端側から順に水没させ、水中において2点係留ラインを台形状から逆V字状に変形させるのが良い。標識ブイと中間フロートの配置は入れ替えても良い。
この小型観測ブイシステムによれば、荒天時における過大な外力の波浪方向に対して直角方向に設置された係留ラインを、一連の係留物の端側から順に徐々に水没させることができ、水中において2点係留ラインを台形状から逆V字状に変形させることができるので、一連の係留物の衝撃エネルギーを抑えることができる。
【0013】
観測ブイに外力を計測するためのドップラー式流向流速計、GPS波浪計、および無線通信装置が搭載され、観測ブイが水没している間の流向流速計で測定された表層水温、水圧を含む流況データと、観測ブイが水没しているときにはGPS波浪計が水中にあってGPS波浪計で測定された波浪データが通信されないことを基地局で認識することで、観測ブイが水没しているか否かをドップラー式流向流速計により判定すること、および水没時の外力値、すなわち流速、流向と波高、波周期、波向の各値がGPS波浪計とドップラー式流向流速計により把握できるようにするのが良い。
この小型観測ブイシステムによれば、観測ブイに搭載されている流向流速計により、観測ブイが水没している間の表層水温、水圧などを含む流況データを測定でき、また、観測ブイが水没しているときにはGPS波浪計が水中にあってGPS波浪計で測定された波浪データが通信されないことを基地局で認識することで、海域に設置されている観測ブイが水没しているか否かを流向流速計により、さらに水没時の外力値、すなわち流速、流向と波高、波周期、波向の各値をGPS波浪計と流向流速計により正確に、かつリアルタイムで把握でき、合わせて、観測ブイが正確に作動しているか否かを判定することができる。
また、対象ブイ水没時の外力域値が分かり、もし設計値以下で水没しているなら、生物付着、漂流物の絡みによるライン抵抗増加で水没が早まったとみなし、付着物除去作業の要否を判断できる。これは、対象ブイ水没直前までの波浪と流況の外力値はGPS波浪計と流向流速計で測定できているから、上記現象はそれ以上の外力で水没したと判断できるからである。
【0014】
観測ブイ、標識ブイを係留する主係留ロープを水面に沿って水平方向に張ることが好ましい。このようにした場合には、下方に引き込む張力を減じることができ、水没荷重が減じられるので、対象ブイの浮力体を小型化できる。
【0015】
2点係留ラインを荒天時における過大な外力の波浪方向に対して直角方向に設置することが好ましい。このようにした場合には、荒天時において小型観測ブイシステムに、特に、その係留ラインに、変動荷重である波浪の衝撃的な外力が作用するのを防止できる。
【0016】
弾性を有するロープを係留ラインに用い、当該ロープの初期張力を調整することが好ましい。このようにした場合には、弾性を有するロープの初期張力を調整することにより、対象ブイの水没限界を調整するとともに、係留ラインの衝撃耐久性を向上させることができる。
【0017】
2点係留ラインの2点間である左右の沈錘間距離を調整することにより、係留ラインの張力を調整することが好ましい。このようにした場合には、係留ラインの張力を容易に調整することができる。
【0018】
主係留ロープとアンカーロープの長さを調整することにより、係留ラインの張力を調整することが好ましい。このようにした場合には、2点係留ラインの2点間である左右の沈錘間距離を調整する方法以外の方法で、係留ラインの張力を容易に調整することができる。
【0019】
中間フロート、両端フロートを増減させ、あるいは両フロートの大きさを変えることにより、係留ライン張力を調整することが好ましい。このようにした場合には、係留ライン浮力可変方式により、係留ライン張力を容易に調整することができる。
【0020】
主係留ロープに対して観測ブイを中央に、この観測ブイの外側に中間フロートを介して標識ブイを、さらにその外側に両端フロートを順次分布させて配置し、係留ライン浮力を調整することが好ましい。このようにした場合には、係留ライン浮力を分布化することができるので、荒天時において小型観測ブイシステムに過大な外力が作用したとき、観測ブイ、標識ブイ、中間フロート、両端フロートを徐々に水没させて衝撃エネルギーを抑えることができる。
【0021】
両端フロートを小さい浮力の一連のフロート群で形成することが好ましい。このようにした場合には、小さい浮力の一連のフロートを徐々に水没させることができるので、水没時間を延ばしつつ係留ラインが弧を描くごとく緩やかに水没させて衝撃エネルギーを抑えることができる。
【0022】
主係留ロープの比重、太さを変えることにより、係留ライン浮力を調整することが好ましい。このようにした場合には、主係留ロープの比重、太さを変えるだけで、係留ライン浮力を容易に調整することができる。
【0023】
ランプドマス法による3次元数値計算により、係留ラインの形状、張力、対象ブイの浮力、その他小型観測ブイシステムの平衡状態を計算し、それらの値からの外力閾値で水没する最適な係留ラインの緒元を決定することができる。この場合には、ランプドマス法による3次元数値計算により、水没する最適な係留ラインの緒元を決定できるので、対象ブイを小型化できるのみならず、係留ラインを細くできるから、係留ラインの軽量化も可能である。
【0024】
観測ブイに外力を計測するためのドップラー式流向流速計、GPS波浪計、および無線通信装置が搭載され、ドップラー式流向流速計により測定された表層水温、水圧を含む流況データは、GPS波浪計により観測された波浪データと共に携帯電話回線又は衛星通信により基地局に送信されるようにすることが好ましい。このようにした場合には、観測ブイに搭載されたドップラー式流向流速計により、表層水温、水圧を含む流況データを容易に観測することができ、また、観測ブイに搭載されたGPS波浪計により、波浪データを観測することができるので、当該流況データと波浪データとを携帯電話回線又は衛星通信によりリアルタイムで基地局に送信することができる。したがって、荒天時における過大な外力である流速、流向と波高、波周期、波向の各値をGPS波浪計とドップラー式流向流速計により正確に把握でき、出漁等海域へ出向くか否かの効率的な判断の支援が可能となる。その結果、漁船等の船舶の燃油高騰への対策に大きく貢献することができる。
【0025】
観測ブイは水没に耐え得る構造および機能とし、観測ブイが水没している間はデータをブイ内のメモリに保存しておき、再浮上時に送信可能とすることが好ましい。このようにした場合には、海域に設置された観測ブイにより観測された流況データを、観測ブイの再浮上時に配信できるので、極めて好都合である。
【発明の効果】
【0026】
請求項1記載の発明によれば、荒天時において小型観測ブイシステムに過大な外力が作用したとき、対象ブイを水没させることで対象ブイならびに係留ラインの小型化を図ることができる。
【0027】
請求項2記載の発明によれば、荒天時における過大な外力の波浪方向に対して直角方向に設置された係留ラインを、一連の係留物の端側から順に徐々に水没させることができ、水中において2点係留ラインを台形状から逆V字状に変形させることができるので、一連の係留物の衝撃エネルギーを抑えることができる。
【0028】
請求項3記載の発明によれば、観測ブイに搭載されている流向流速計により、観測ブイが水没している間の表層水温、水圧を含む流況データを測定でき、また、観測ブイが水没しているときにはGPS波浪計が水中にあってGPS波浪計で測定された波浪データが通信されないことを基地局で認識することで、海域に設置されている観測ブイが水没しているか否かを流向流速計により、さらに水没時の外力値、すなわち流速、流向と波高、波周期、波向の各値をGPS波浪計と流向流速計により正確に、かつリアルタイムで把握でき、合わせて、観測ブイが正確に作動しているか否かを判定することができる。
また、対象ブイ水没時の外力域値が分かり、もし設計値以下で水没しているなら、生物付着、漂流物の絡みによるライン抵抗増加で水没が早まったとみなし、付着物除去作業の要否を判断できる。
【0029】
請求項4記載の発明によれば、観測ブイ、標識ブイを係留する主係留ロープを水面に沿って水平方向に張ることによって、下方に引き込む張力を減じることができ、水没荷重が減じられるので、対象ブイの浮力体を小型化できる。
【0030】
請求項5記載の発明によれば、荒天時において小型観測ブイシステムに、特に、その係留ラインに、変動荷重である波浪の衝撃的な外力が作用するのを防止できる。
【0031】
請求項6記載の発明によれば、弾性を有するロープの初期張力を調整することにより、対象ブイの水没限界を調整するとともに、係留ラインの衝撃耐久性を向上させることができる。
【0032】
請求項7記載の発明によれば、係留ラインの張力を容易に調整することができる。
【0033】
請求項8記載の発明によれば、2点係留ラインの2点間である左右の沈錘間距離を調整する方法以外の方法で、係留ラインの張力を容易に調整することができる。
【0034】
請求項9記載の発明によれば、係留ライン浮力可変方式により、係留ライン張力を容易に調整することができる。
【0035】
請求項10記載の発明によれば、主係留ロープに対して観測ブイを中央に、この観測ブイの外側に中間フロートを介して標識ブイを、さらにその外側に両端フロートを順次分布させて配置することにより、係留ライン浮力を分布化することができるので、荒天時において小型観測ブイシステムに過大な外力が作用したとき、観測ブイ、標識ブイ、中間フロート、両端フロートを徐々に水没させて衝撃エネルギーを抑えることができる。
【0036】
請求項11記載の発明によれば、小さい浮力の一連のフロートを徐々に水没させることができるので、水没時間を延ばしつつ係留ラインが弧を描くごとく緩やかに水没させて衝撃エネルギーを抑えることができる。
【0037】
請求項12記載の発明によれば、主係留ロープの比重、太さを変えるだけで、係留ライン浮力を容易に調整することができる。
【0038】
請求項13記載の発明によれば、ランプドマス法による3次元数値計算により、水没する最適な係留ラインの緒元を決定できるので、対象ブイを小型化できるのみならず、係留ラインを細くできるので、係留ラインの軽量化も可能である。
【0039】
請求項14記載の発明によれば、観測ブイに搭載されたドップラー式流向流速計により、表層水温、水圧を含む流況データを容易に測定することができ、また、観測ブイに搭載されたGPS波浪計により、波浪データを観測することができるので、当該流況データと波浪データとを携帯電話回線又は衛星通信によりリアルタイムで基地局に送信することができる。したがって、荒天時における過大な外力である流速、流向と波高、波周期、波向の各値をGPS波浪計とドップラー式流向流速計により正確に把握でき、出漁等海域へ出向くか否かの効率的な判断の支援が可能となる。その結果、漁船等の船舶の燃油高騰への対策に大きく貢献することができる。
【0040】
請求項15記載の発明によれば、海域に設置された観測ブイにより観測された海況データを、観測ブイの再浮上時に配信できるので、極めて好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明による小型観測ブイシステムの係留状態を示す概略図である。
図2】本発明による小型観測ブイシステムの係留状態を示すイメージ図で、荒天時における過大な外力に対して小型観測ブイシステムの一連の係留物を水没させた状況を合わせて示す。
図3】本発明による小型観測ブイシステムに用いられる観測ブイの一例を示す正面図である。
図4】本発明による小型観測ブイシステムに用いられる標識ブイの一例を示す正面図である。
図5】小型観測ブイシステムに対する質点配置を示す
図6】ランプドマス法において、係留ラインの質点間が自重のない線形バネで結ばれていると仮定した場合の原理図である。
図7図6における質点jの座標を示す図である。
図8】質点jの近傍のラインが直線であると仮定した場合の座標を示す図である。
図9】中間フロートの形状の簡略化を示す原理図である。
図10】両端フロートの形状の簡略化を示す原理図である。
図11】標識ブイの形状の簡略化を示す原理図である。
図12】ランプドマス法による3次元数値計算に使用する外力の状態を示す原理図で、(a)は座標系を、(b)は潮流速度を、(c)は吹送流を示す。
図13】外力がない場合における係留ラインの張力と傾斜角(立体角)を表わすグラフである。
図14図12に示す外力が加わった場合の小型観測ブイシステムの係留状態を示すグラフである。
図15図12に示す外力が加わった場合の係留ラインの張力と傾斜角(立体角)を表わすグラフである。
図16図12に示す外力が加わるとともにメインテナンスを怠り生物付着が発生した場合の、小型観測ブイシステムの係留状態を示すグラフである。
図17図12に示す外力が加わるとともにメインテナンスを怠り生物付着が発生した場合の、係留ラインの張力と傾斜角(立体角)を表わすグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明による小型観測ブイシステムの一例を、図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明による小型観測ブイシステムSの係留状態を示す概略図、図2は、そのイメージ図で、荒天時における過大な外力に対して小型観測ブイシステムSの一連の係留物を水没させた状況を合わせて示す。
【0043】
本発明による小型観測ブイシステムSは、沿岸漁場その他の海域(図1図5における水深Dmの海域、例えば、D=50mの海域)に設置されるものであって、観測ブイ1、標識ブイ2、中間フロート3、両端フロート4を主係留ロープ5と左右2本のアンカーロープ6からなる台形状の2点係留ラインAで一連ならしめたものである。
そして、左右2本のアンカーロープ6、6は海底Bに所定の距離(図1における沈錘間距離:W)を隔てて沈設された2つの沈錘7、7にそれぞれ係留されており、係留方式はいわゆる2点係留である。なお、ここでは、沈錘7として土嚢を用いた場合が例示されている。
【0044】
ここに示す係留状態をさらに詳しく説明すると、観測ブイ1を中央に配置し、この観測ブイ1の外側に中間フロート3を介して標識ブイ2が、さらにその外側に両端フロート4が配置されるように係留する。ただし、標識ブイ2と中間フロート3の配置は入れ替えても良い。そして、観測ブイ1、標識ブイ2を係留する主係留ロープ5を、水面に沿って水平方向に張る。
また、図2に示すように、台形状の2点係留ラインAを波浪外力方向に対して直角方向になるように配置する。すなわち、同図に示すように、台形状の2点係留ラインAが波浪方向に対して直角になるように配置する。なお、潮流に対しては、台形状の2点係留ラインAが平行になるように配置する。
【0045】
図3に示す観測ブイ1は、浮力体1aの直径d=1m、全体の高さh=1.4m程度の小型のもので、ドップラー式流向流速計1bが搭載されていてこのドップラー式流向流速計1bにより観測ブイ1が設置されている海域の表層水温を含む流況を容易に観測することができる。また、観測ブイ1には、GPS用アンテナ1c、携帯電話回線用アンテナ1d、イリジウム通信用アンテナ1eが搭載されており、前記流況データは、GPS波浪計(図示しない)により観測された波浪データなどと共に携帯電話回線又はイリジウム通信衛星通信によりリアルタイムで基地局に送信することができる。したがって、荒天時における過大な外力である流速と波浪とを正確に把握でき、出漁等海域へ出向くか否かの効率的な判断の支援が可能となる。その結果、漁船等の船舶の燃油高騰への対策に大きく貢献することができる。
なお、図3において、符号1fはソーラーパネル、1gは標識灯、1hはバッテリー、1iは格納容器で、その中には無線通信装置が格納されている。
【0046】
図4に示す標識ブイ2は、浮力体2cの直径d=30cm、全体の高さh=90cm程度の小型のもので、標識灯2aが備えられており、この標識灯2aの発光により航行する船舶に小型観測ブイシステムSが係留されていることを知らせ、係留ラインA、すなわち、主係留ロープ5とアンカーロープ6の切断を防止するのに役立つ。小型観測ブイシステムSの小型化のため、標識ブイ2も荒天時は水没を許すが、荒天時は船舶の航行も無いと考えられるので、係留ラインAの切断の危険は少ない。
観測ブイ1、標識ブイ2には、ソーラーパネル1f、2bがそれぞれ備えられており、太陽光発電により様々な機器を作動させることができるようになっている。
なお、図4において、符号2cは浮力体、2dは係留環である。
【0047】
ところで、本発明による小型観測ブイシステムSは、荒天時における過大な外力である流速と波浪に対して上記一連の係留物、すなわち、対象ブイである観測ブイ1と標識ブイ2、及び中間フロート3と両端フロート4を水没させるものであって、この点が本発明の要旨というべきところである。
荒天時において、小型観測ブイシステムSに過大な外力が作用したとき、対象ブイ、例えば、観測ブイ1、標識ブイ2等を水没させることで対象ブイならびに係留ラインAの小型化を図ることができる。
【0048】
上述したように、観測ブイ1にドップラー式流向流速計1bとGPS波浪計(図示しない)と無線通信装置(図示しない)が搭載され、観測ブイ1が水没している間のドップラー式流向流速計1bで測定された表層水温、水圧を含む流況データと、観測ブイ1が水没しているときにはGPS波浪計が水中にあってGPS波浪計で測定されたGPS波浪データが通信されないことを基地局で認識することで、観測ブイ1が水没しているか否かをドップラー式流向流速計1bにより判定すること、および水没時の外力値、すなわち流速、流向と波高、波周期、波向の各値がGPS波浪計とドップラー式流向流速計1bにより把握できるようになっている。
【0049】
この小型観測ブイシステムSによれば、観測ブイ1に搭載されているドップラー式流向流速計1bにより、観測ブイ1が水没している間の表層水温、水圧などの流況データを測定でき、また、観測ブイ1が水没しているときにはGPS波浪計が水中にあってGPS波浪計で測定された波浪データが通信されないことを基地局で認識することで、海域に設置されている観測ブイ1が水没しているか否かをドップラー式流向流速計1bにより正確に、かつリアルタイムで、合わせて、観測ブイ1が正確に作動しているか否かを判定することができる。
【0050】
観測ブイ1には、上述したドップラー式流向流速計1bとGPS波浪計以外に、風向風速計をさらに搭載することができる。観測ブイ1に風向風速計をさらに搭載すれば、上記データ以外に、風向風速計で測定された風向風速データを把握できるので、水没時の外力値のもう一つの値である風向風速値も正確に把握できる。
【0051】
また、対象ブイ水没時の外力域値が分かり、もし設計値以下で水没しているなら、生物付着、漂流物の絡みによるライン抵抗増加で水没が早まったとみなし、付着物除去作業の要否を判断できる。これは、対象ブイ水没直前までの波浪と流況の外力値はGPS波浪計とドップラー式流向流速計1bで測定できているから、上記現象はそれ以上の外力で水没したと判断できるからである。
【0052】
上記の場合において、前記係留ラインAの形状、張力、対象ブイである観測ブイ1と標識ブイ2、及び中間フロート3と両端フロート4の浮力、その他小型観測ブイシステムSの平衡状態を知り、それらの値からの外力閾値で水没する最適な係留ラインAの緒元を決定するものとする。例えば、係留ラインAの形状に基づく張力の値、中間フロート3の浮力の大きさに基づく主係留ロープ5の張力の値、両端フロート4の浮力の大きさに基づくアンカーロープ6の張力の値や、対象ブイである観測ブイ1と標識ブイ2、及び中間フロート3と両端フロート4の浮力などの諸元(因子・要素)を知り、それらの値からの外力閾値で水没する最適な係留ラインAの諸元を決定する。
【0053】
ここに例示するように、観測ブイ1を中央に、この観測ブイ1の両端に両端フロート4が、さらに前記観測ブイ1、両端フロート4間に標識ブイ2と中間フロート3が配置されるように係留し、観測ブイ1、標識ブイ2を係留する主係留ロープ5を、水面に沿って水平方向に張り、さらに、台形状の2点係留ラインAを波浪外力方向に対して直角方向になるように配置した場合には、荒天時において小型観測ブイシステムSに過大な外力が作用したとき、当該外力によって一連の傾斜物の端側から順に徐々に水没させることができ、図2の矢印で示すように、水中において2点係留ラインAを台形状から逆V字状に変形させることができる。したがって、一連の係留物、すなわち、観測ブイ1、標識ブイ2、中間フロート3、両端フロート4、主係留ロープ5などの衝撃エネルギーを抑えることができる。
【0054】
また、観測ブイ1、標識ブイ2を係留する主係留ロープ5を水面に沿って水平方向に張ることによって、下方に引き込む張力を減じることができ、水没荷重が減じられるので、対象ブイ、すなわち、観測ブイ1、標識ブイ2の浮力体を小型化できる。
【0055】
さらに、図2に示すように、2点係留ラインAを波浪外力方向に対して直角方向に設置するので、荒天時において小型観測ブイシステムSに、特に、その係留ラインAに、変動荷重である波浪の衝撃的な外力が作用するのを防止できる。
【0056】
係留ラインA、すなわち、主係留ロープ5及びアンカーロープ6に弾性を有するロープを用い、当該ロープの初期張力を調整するのが良い。弾性を有するロープの初期張力を調整することにより、対象ブイ、すなわち、観測ブイ1、標識ブイ2の水没限界を調整するとともに、係留ラインAの衝撃耐久性を向上させることができる。
【0057】
2点係留ラインAの2点間である左右の沈錘7、7間距離(図1における図面符号W)を調整することができる。この調整により、係留ラインAの張力を容易に調整することができる。
【0058】
主係留ロープ5とアンカーロープ6の長さを調整することにより、係留ラインAの張力を調整することができる。このようにした場合には、2点係留ラインAの2点間である左右の沈錘7、7間距離を調整する方法以外の方法で、係留ラインAの張力を容易に調整することができる。
【0059】
中間フロート3、両端フロート4を増減させ、あるいは両フロート3、4の大きさを変えることにより、係留ラインAの張力を調整することができる。この係留ライン浮力可変方式により、係留ラインAの張力を容易に調整することができる。
【0060】
主係留ロープ5に対して観測ブイ1を中央に、この観測ブイ1の外側に中間フロート3を介して標識ブイ2を、さらにその外側に両端フロート4を順次分布させて配置し、係留ラインAの浮力を調整することができる。このようにした場合には、係留ラインAの浮力を分布化することができる。したがって、荒天時において小型観測ブイシステムSに過大な外力が作用したとき、標識ブイ2、中間フロート3、両端フロート4を徐々に水没させて衝撃エネルギーを抑えることができる。
【0061】
両端フロート4を小さい浮力の一連のフロート群で形成することができる。このようにした場合には、小さい浮力の一連のフロート、を徐々に水没させることができるので、水没時間を延ばしつつ係留ラインAが弧を描くごとく緩やかに水没させて衝撃エネルギーを抑えることができる。
【0062】
主係留ロープ5の比重、太さを変えることにより、係留ラインAの浮力を調整することができる。このように、主係留ロープ5の比重、太さを変えるだけで、係留ラインAの浮力を容易に調整することができる。
【0063】
観測ブイ1は水没に耐え得る構造および機能とし、観測ブイ1が水没している間はデータをブイ1内のメモリに保存しておき、再浮上時に送信可能としてある。したがって、海域に設置された観測ブイ1により観測された海況データを、観測ブイ1の再浮上時に配信できるので、極めて好都合である。
【0064】
上述したように、ランプドマス法による3次元数値計算により、係留ラインAの形状、張力、観測ブイ1、標識ブイ2、中間フロート3、両端フロート4の浮力、その他小型観測ブイシステムSの平衡状態を計算し、それらの値からの外力閾値で水没する最適な係留ラインの緒元を決定するものとする。この場合には、ランプドマス法による3次元数値計算により、水没する最適な係留ラインの緒元を決定することができるので、対象ブイ、すなわち、観測ブイ1、標識ブイ2中間フロート3、両端フロート4を小型化できるのみならず、係留ラインAを細くできるので、係留ラインAの軽量化も可能である。
【0065】
次に、ランプドマス法による3次元数値計算により、係留ラインAの形状、張力、観測ブイ1、標識ブイ2、中間フロート3、両端フロート4の浮力、その他小型観測ブイシステムSの平衡状態を計算し、それらの値からの外力閾値で水没する最適な係留ラインの緒元を予測・決定する手法について、詳細に説明する。
【0066】
この場合に用いられる係留ラインAの主要目を表1に示す。ここでは、係留ラインA、すなわち、主係留ロープ5及びアンカーロープ6として合成繊維からなる弾性を有するロープが用いられており、係留ラインAのうち主係留ロープ5には比重が1.0以下のものを、アンカーロープ6には比重が1.0以上のものを選択して使用した。
小型観測ブイシステムSは定期的にメインテナンスが行われるため、生物付着の影響は小さいと考えられるが、例えば、水深D=50mの1/2以浅で深刻な生物付着が起きた場合の挙動予測も合わせて行うこととする。
【0067】
【表1】
【0068】
ここでは、潮流等の外力に対する係留状態の静的な平衡状態をランプドマス法により計算する。ランプドマス法とは、長さに比べて構成要素の径が小さく、剛性も小さい場合の解析に対して有効な方法であり、主係留ロープ5及びアンカーロープ6を有限個の要素に分解して各要素の質量及び作用外力を質点に集中した「質点系」でモデル化し、これらの質点を質量のないバネで連結して各質点の挙動を差分法により解く方法である。
【0069】
小型ブイシステムSに対する質点配置を図5に示す。ランプドマス法においては、係留ラインAは図6に示すように複数個の質点からなり、質点間は自重がない線形バネで結ばれていると近似する。係留ラインAには抗力などの流体力と重力が加わるが、これらの力は各質点に集中して加わると仮定する。FDjが抗力、δは質点jの水中重量である。また、各質点間は線形バネに近似したラインで結ばれているので、質点jには張力T、Tj−1が加わる。なお、Lは質点間距離である。
図6において、質点jを取り出し、座標を図7のように決めると、質点jの平衡状態は次式(1)、(2)で表わされる。
【0070】
【数1】
【0071】
【数2】
【0072】
図8に示すように、質点jの近傍の係留ラインAが直線であると近似すると、係留ラインAに加わる抗力は次式(3)〜(6)で求められる。
【0073】
【数3】
【0074】
【数4】
【0075】
【数5】
【0076】
【数6】
【0077】
ここで、ρは海水密度、Dは係留ラインAのライン直径、CDnj、CDtjは法線方向抗力係数、接線方向抗力係数、uxj、uyj、uzjは質点の速度(流体との相対速度)である。
【0078】
各質点の位置は、次式(7)で得られるので、各質点に対する(1)式と制約式x21=310.18m(沈錘7、7間距離:W)、y21=0.0、z21=0.0を連立して解けば、小型観測ブイシステムSの平衡状態(係留ラインAの形状、張力等)が得られる。
【0079】
【数7】
【0080】
図5において、質点8、10、12、14は中間フロート3を代表する質点、質点7、15は16連の両端フロート4を代表する質点、質点9、13は標識ブイ2を代表する質点、質点11は観測ブイ1を代表する質点であり、フロート・ブイの水没量により浮力・抗力が変化する。すなわち、質点7、8、9、10、11、12、13、14、15については、質点の位置から計算される水没量に応じた浮力・抗力が(2)式に加えられることになる。
【0081】
そこで、浮力・抗力の計算を簡単にするため、図9図11に示す形状の簡略化を行うものとする(観測ブイ1については、浮力体1a部分が円柱状なので、形状の簡略化は行っていない)。
複雑な形状を円柱に簡略化することで、浮力・抗力の計算が容易になる。ただし、質点7、15については、注意が必要である。他の質点の場合と同様に、質点位置で流れの状態を監視すると、水没量が大きい場合、吹送流による抗力が計算上ゼロになってしまうからである。したがって、水没量に応じて吹送流にさらされるフロート部分を計算し、吹送流による抗力を考慮するべきである。
【0082】
さらに、中間フロート3、観測ブイ1、標識ブイ2については、大きさを無視して質点とみなしてもよいと思われるが、質点7、15の両端フロート4は16連のため、長さを無視できない。したがって、図5に示すように、質点7、15の両側に16連のフロート長さにみあう仮想の係留ラインaを付加した。なお、抗力係数については、図中に示したように、オリジナルの形状に見合う値を使用している。
【0083】
図12に、計算に使用する外力の状態を示す。潮流速度0.5m/secおよび風速30m/sec時の風浪の状態でも観測ブイ1が水没せず、観測データを送ってくることが要求されているため、風浪の影響を吹送流(風速の3%)に置き換えて、外力とした。
【0084】
設置海域の主な潮流方向に沿って係留ラインを敷設することとして、抗力の向きはψ=0deg、ψ=90degである。また、最大潮流速度0.7m/sec、最大風速60m/sec(最大吹送流1.8m/sec)に対して沈錘7が移動せず、係留ラインAも破断しないことが要求されているものとする。
【0085】
次に、ランプドマス法による係留状態の予測計算について説明する。
まず、外力がない状態で両端フロート4が2個水没するようにアンカーロープ7のライン長さを調節した。外力がない状態である程度ラインが緊張する状態にしておかないと、係留ラインAが絡んでしまう危険がある。
【0086】
この目的は、計算結果を使用して最大外力下において係留ラインAが破断せず、沈錘7が移動しないように小型観測ブイシステムSを設計して、理論的に裏付けることである。
【0087】
小型観測ブイシステムSの係留状態を図2に、係留ラインAの張力・傾斜角(立体角)を図13に示す。アンカーロープ6の長さLをL=124.61mとすると、両端フロート4が2個水没する状態になることがわかった。この場合の沈錘7位置での張力は69kgであった。
【0088】
次に、図12に示す外力が加わった場合の係留状態を図14に、係留ラインAの張力・傾斜角(立体角)を図15に示す。両端フロート4のうち、図5の数字7で示すフロートは12個、図5の数字15で示すフロートは11個水没し、標識ブイ2も水没するが、観測ブイ1は水没しない。沈錘7位置での張力は684kgと、外力がない場合の10倍となる。
【0089】
メインテナンスを怠り生物付着が発生した場合の係留状態を、図16に示す。両端フロート4のうち、図5の数字7で示すフロートはすべて、図5の数字15で示すフロートは15個水没、標識ブイ2も水没してしまうが、観測ブイ1は水没せず、観測データの送信が可能である。しかしながら、標識ブイ2がすべて水没してしまうので、船舶による係留ラインAを破断する危険性が増大し、好ましくない。こまめなメインテナンスが重要であることがわかる。沈錘7位置での張力も、図17に示すように、827kgと増大してしまうこともわかった。
【0090】
生物付着が発生していると、観測ブイ1、標識ブイ2ともに水没してしまう結果となった。ただし、潜水深度はわずかであり、対象ブイが圧壊に至ることはない。沈錘7位置での張力も996kgと最大となるが、沈錘7はこの場合でも充分把持力を有し、小型観測ブイシステムSが流されない設計となっていることもわかった。
【0091】
このように、ランプドマス法による3次元数値計算によって外力下での係留状態を計算することにより、性能を評価したところ、次のような結論を得ることができた。
(1) 荒天時は無理をせず、観測ブイ1を水没させておくことで、対象ブイの小型化が可能である。
(2) アンカーロープ6のライン長さにより、図1に示す両端ブイ4の水没個数を調整することで、外力の大きさと観測ブイ1の水没状況の関係をコントロールすることができる。
(3) 生物付着が係留状態に及ぼす影響は非常に大きく、こまめなメインテナンスが必要である。
【0092】
本発明のように、ランプドマス法による3次元数値計算により、係留ラインAの形状、張力、観測ブイ1、標識ブイ2、中間フロート3、両端フロート4の浮力、その他小型観測ブイシステムSの平衡状態を計算し、それらの値からの外力閾値で水没する最適な係留ラインの緒元を決定するものとすると、ランプドマス法による3次元数値計算により、水没する最適な係留ラインの緒元を決定することができる。したがって、対象ブイ、すなわち、観測ブイ1、標識ブイ2中間フロート3、両端フロート4を小型化できるのみならず、係留ラインAを細くできるので、係留ラインAの軽量化も可能であることを証明することができる。
【符号の説明】
【0093】
1…観測ブイ、1b…ドップラー流向流速計、1c…GPS用アンテナ、1d…携帯電話回線用アンテナ、1e…イリジウム通信用アンテナ、2…標識ブイ、2a…標識灯、3…中間フロート、4…両端フロート、5…主係留ロープ、6…アンカーロープ、7…沈錘、A…2点係留ライン、B…海底、S…小型観測ブイシステム。
図4
図6
図7
図8
図13
図15
図17
図1
図2
図3
図5
図9
図10
図11
図12
図14
図16