特許 5936064 ボールジョイント用ダストカバー

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】5936064

(24)【登録日】2016年5月20日

(45)【発行日】2016年6月15日

(54)【発明の名称】ボールジョイント用ダストカバー

(51)【国際特許分類】

   F16C 11/06 20060101AFI20160602BHJP

   F16J 15/52 20060101ALI20160602BHJP

   F16J 3/04 20060101ALI20160602BHJP

【ＦＩ】

   F16C11/06 Q

   F16J15/52 B

   F16J3/04 C

【請求項の数】3

【全頁数】6

(21)【出願番号】特願2012-213418(P2012-213418)

(22)【出願日】2012年9月27日

(65)【公開番号】特開2014-66333(P2014-66333A)

(43)【公開日】2014年4月17日

【審査請求日】2015年8月19日

(73)【特許権者】

【識別番号】000004385

【氏名又は名称】ＮＯＫ株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100107320

【弁理士】

【氏名又は名称】高塚 一郎

(72)【発明者】

【氏名】宝泉 達郎

【審査官】 北中 忠

(56)【参考文献】

【文献】 特開平３−１０７６１１（ＪＰ，Ａ）

【文献】 特表２００２−５２５５１７（ＪＰ，Ａ）

【文献】 実開昭６２−１７４１１４（ＪＰ，Ｕ）

【文献】 特開２０１２−９７８５５（ＪＰ，Ａ）

【文献】 実開平３−１２３１６１（ＪＰ，Ｕ）

【文献】 特開２００９−１４０６４（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】（Int.Cl.，ＤＢ名）

Ｆ１６Ｃ １１／００−１１／１２

Ｆ１６Ｊ ３／００− ３／０６、１５／１６−１５／３０、

１５／４６−１５／５２

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

ボールスタッド（１）の一端に形成された球頭部（２）がソケット（３）内に保持され、前記ボールスタッド（１）の他端の軸（４）はナックル（５）に締め付け固定され、一端大径開口部（８）が前記ソケット（３）の外周面に固定保持され、補強環（９）が埋設された他端小径開口部（７）が前記軸（４）に保持されたボールジョイント用ダストカバー（６）において、
前記補強環（９）が、前記軸（４）外周面に形成されたネジ部（４１）と螺合するネジ溝内周面（９１）を備えていることを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。

【請求項2】

前記他端小径開口部（７）が、前記ネジ溝内周面（９１）の前記一端大径開口部（８）側に、前記軸（４）外周面と弾性接触しているリップ部（７１）を有することを特徴とする請求項１記載のボールジョイント用ダストカバー。

【請求項3】

前記ネジ溝内周面（９１）が、円周上等配に設けられた不連続溝であることを特徴とする請求項１または２記載のボールジョイント用ダストカバー。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、ボールジョイント用ダストカバーに関する。
また、本発明は、自動車懸架装置、操舵装置等に使用されるボールジョイント用ダストカバーに関する。

【背景技術】

【0002】

従来、ボールジョイント継ぎ手部の防塵、防水を目的としてダストカバーが装着されているボールジョイントとしては図３に記載のボールジョイント用ダストカバーが知られている。（特許文献１）

【0003】

この種ボールジョイント用ダストカバーのシール構造は、ボールスタッド１００の一端に形成された球頭部２００がソケット３００内に保持されている。
そして、ボールスタッド１００の他端の軸４００は、ナックル５００に締め付け固定されている。
一方、弾性材製ダストカバー６００の断面略コ字形状の一端大径開口部８００が、ソケット３００の外周面に形成された環状の溝部３１０内に、円環状押さえリング７００により固定保持され、他端小径開口部１５０が軸４００に保持された構成となっている。
この押さえリング７００は、断面略矩形状のサークリップが使用されている。

【0004】

この種、従来の弾性材製ダストカバー６００は、図３に示す様にボールスタッド１００が傾斜した状態で揺動すると、弾性材製ダストカバー６００の膜部が伸びる側（図上右側）において、小径開口部１５０を引き伸ばす力が作用する為、小径開口部１５０のリップ部とナックル５００との接触が外れる、いわゆる小径開口部１５０の口開き現象が発生する。
この結果、小径開口部１５０におけるシール性能が低下し、外部から土砂や塵芥がダストカバー６００内に浸入する問題を惹起した。

【0005】

特に、低温雰囲気下では弾性材製ダストカバー６００を構成するゴムが伸縮性を失い、ボールジョイントの揺動運動に対する膜部の追随性が低下する結果、シールリップ部が軸４００から離れる口開き現象が顕著に発生する事が判った。
この現象を対策する方法の一つとして、他端小径開口部１５０（リップ部）と軸４００側を完全に固定する方法が挙げられるが、他端小径開口部１５０（リップ部）を完全に固定した場合、ボールジョイントの摺動運動によってダストカバー腰部に振れが発生し、破損に至る危険性を招来した。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0006】

【特許文献1】特開昭６２−１３７４０８号公報

【発明の開示】

【発明が解決しようとする課題】

【0007】

本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、低温雰囲気下においても、小径開口部のリップ部と軸との接触が外れる、いわゆる小径開口部の口開き現象の発生を抑えると共に、小径開口部と軸との相対回転運動を損なう事が無い為、カバー腰部に振れが発生し、破損に至る危険性も無い、耐久性が良好なボールジョイント用ダストカバーを提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0008】

本発明のボールジョイント用ダストカバーは、ボールスタッドの一端に形成された球頭部がソケット内に保持され、前記ボールスタッドの他端の軸はナックルに締め付け固定され、一端大径開口部が前記ソケットの外周面に固定保持され、補強環が埋設された他端小径開口部が前記軸に保持された弾性材製ボールジョイント用ダストカバーにおいて、前記補強環が、前記軸外周面に形成されたネジ部と螺合するネジ溝内周面を備えていることを特徴とする。

【発明の効果】

【0009】

本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
請求項１記載の発明のボールジョイント用ダストカバーによれば、補強環が、軸外周面に形成されたネジ部と螺合するネジ溝内周面を備えている構成とした為、低温雰囲気下においても、小径開口部のリップ部と軸との接触が外れる、いわゆる他端小径開口部の口開き現象の発生を抑えると共に、他端小径開口部と軸との相対回転運動を損なう事が無い為、カバー腰部に振れが発生し、破損に至る危険性も無く、耐久性が良好である。
更に、請求項２記載の発明のボールジョイント用ダストカバーによれば、軸外周面と弾性接触しているリップ部を有する構成としている為、外部から土砂や塵芥がダストカバー内に浸入するのを効果的に阻止出来る。

【0010】

更に、請求項３記載の発明のボールジョイント用ダストカバーによれば、ネジ溝内周面が、円周上等配に設けられた不連続溝である為、ダストカバーの成形時の離型が容易であと共に、小径開口部と軸との相対回転運動時の摺動抵抗を下げる事が出来る。

【図面の簡単な説明】

【0011】

【図1】本発明に係る、ボールジョイント用ダストカバーの縦断面図。

【図2】本発明に係る、ボールジョイント用ダストカバーの他端小径開口部の装着前の部分拡大断面図。

【図3】従来技術に係る、ボールジョイント用ダストカバーの縦断面図。

【発明を実施するための形態】

【0012】

以下、本発明を実施するための形態について説明する。
図１及び図２に示される様に、本発明に係るボールジョイント用ダストカバーは、ボールスタッド１の一端に形成された球頭部２がソケット３内に保持され、このボールスタッド１の他端の軸４は、ナックル５に締め付け固定され、一端大径開口部８がソケット３の外周面に固定保持され、補強環９が埋設された他端小径開口部７が軸４に保持される構成となっている。

【0013】

そして、この補強環９は、軸４外周面に形成されたネジ部４１と螺合するネジ溝内周面９１を備えている。
更に、他端小径開口部７には、ネジ溝内周面９１の一端大径開口部８側（図上下側）に、軸４外周面と弾性接触しているリップ部７１が形成されている。
このリップ部７１は、弾性材製のダストカバー６本体と一体に成形されており、軸４外周面に対し一定の締め代（約０．８ｍｍ／ｄｉａ）を持って装着される。
このため、外部から弾性材製ダストカバー６内へのダストの侵入を、より効果的に阻止出来ると共に、弾性材製ダストカバー６内からのグリースの流出を防いでいる。
本実施形態においては、環状のリップ部７１を２本設ける態様としたが、使用環境に応じ、リップ部７１の本数を変える事が出来る。
また、本実施形態においては、補強環９の材質は、樹脂材を使用したが、金属材であっても良い。

【0014】

また、ボールスタッド１の軸４の外周面に形成したネジ部４１は、予め切削加工により形成しておく事も可能であるが、ネジ部４１を形成したスリーブを軸４の外周面に嵌合して設ける形としても良い。

【0015】

また、補強環９に形成するネジ溝内周面９１は、弾性材製ダストカバー６本体を成形する際に、成形金型により、ネジ部４１に対応したネジ形状に形成されるが、このネジ溝内周面９１の形状は、円周上等配に設けられた不連続溝であっても良い。
この事により、弾性材製ダストカバーの成形時の離型が容易であと共に、他端小径開口部７と軸４との相対回転運動時の摺動抵抗を下げる事が出来る。

【0016】

また、ボールスタッド１に弾性材製ダストカバー６を取り付ける際は、弾性材製ダストカバー６とボールスタット１を相対回転させながら、補強環９のネジ溝内周面９１と、軸４の外周面に形成したネジ部４１を螺合させる。

【0017】

この様に、補強環９のネジ溝内周面９１と軸４の外周面に形成したネジ部４１が螺合している為、低温雰囲気下においても、他端小径開口部７のリップ部７１と軸４との接触が外れる、いわゆる他端小径開口部７の口開き現象の発生を抑えると共に、他端小径開口部７と軸４との相対回転運動を損なう事が無い為、弾性材製ダストカバー腰部に振れが発生し、破損に至る危険性も無く、耐久性が良好である。
尚、補強環９のネジ溝内周面９１と軸４の外周面に形成したネジ部４１が螺合している為、他端小径開口部７と軸４との相対回転運動に伴い、他端小径開口部７が若干軸方向移動するが、僅かであり問題と成らないが、予めナックル５側との間に余裕（隙間）を持たせておく事も考慮される。

【0018】

また、弾性材製ダストカバー６の材質は、クロロプレン等のゴム状弾性材や、ポリエステル系エラストマー、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性エラストマーから、適宜用途に合わせ選択して使用される。

【0019】

また、弾性材製ダストカバー６内には、グリースが封入されている。

【0020】

一方、弾性材製ダストカバー６の断面略コ字形状の一端大径開口部８は、ソケット３の外周面に形成された環状の溝部３１内に、円環状押さえリング１１により固定保持される構成となっている。
この押さえリング１１は、断面略矩形状のサークリップが使用されている。

【0021】

また、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。

【産業上の利用可能性】

【0022】

自動車の懸架装置及び操舵装置等に使用されるボールジョイントに使用できる。

【符号の説明】

【0023】

１ ボールスタット
２ 球頭部
３ ソケット
４ 軸
５ ナックル
６ 弾性材製ダストカバー
７ 他端小径開口部
８ 一端大径開口部
９ 補強環
１１ 押えリング
４１ ネジ部
７１ リップ部
９１ ネジ溝内周面

【図1】

【図2】

【図3】