(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固定側に固定される円環状の固定環と、回転軸とともに回転する円環状の回転環とが対向して各摺動面を相対回転させることにより、当該相対回転摺動する前記摺動面の径方向の一方側に存在する被密封流体を密封するメカニカルシールにおいて、
前記固定環または回転環の摺動面のいずれか一方には、円周方向に分離された複数の被密封流体収容ブロックが前記摺動面の径方向の幅の一部であって被密封流体収容空間と連通するように形成され、
前記被密封流体収容ブロックは、前記摺動面に対して凹状の段差を有しており、
さらに、前記複数の被密封流体収容ブロックのそれぞれの底部には、固定環と回転環との相対回転摺動によりポンピング作用を生起する線状の凹凸により構成されるポンピング部が形成され、
前記ポンピング部は、前記被密封流体を吸い込む方向に作用する吸入ポンピング部と被密封流体を前記被密封流体収容空間に吐き出す方向に作用する吐出ポンピング部を備えることを特徴とするメカニカルシール。
前記固定環及び前記回転環の前記摺動面のうち、径方向の幅が小さい方の摺動面に前記被密封流体収容ブロックが設けられる場合、該被密封流体収容ブロックは前記摺動面の径方向の一部であって、前記被密封流体収容空間と外周側または内周側を介して直接連通するように形成されることを特徴とする請求項1記載のメカニカルシール。
前記固定環及び前記回転環の前記摺動面のうち、径方向の幅が大きい方の摺動面に前記被密封流体収容ブロックが設けられる場合、該被密封流体収容ブロックは前記摺動面の径方向の外方及び内方を残して一部に形成され、かつ、前記被密封流体収容ブロックの被密封流体側の一部が相対する摺動面で覆われないように形成されることを特徴とする請求項1記載のメカニカルシール。
前記ポンピング部を構成する線状の凹凸は、周期構造をしており、当該線状の凹凸の方向が当該摺動面の摺動方向に対して所定の角度傾斜するように形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のメカニカルシール。
前記ポンピング部を構成する周期構造をした線状の凹凸は、隣接する被密封流体収容ブロックの線状の凹凸の方向が当該摺動面の摺動方向に対して対称となるように形成されていることを特徴とする請求項4に記載のメカニカルシール。
前記固定環と前記回転環との摺動面間に形成される液膜厚さをhとした場合、前記摺動面からの前記ポンピング部の前記周期構造をした線状の凹凸の頂点を結ぶ仮想平面の深さd1が、d1=0.1h〜10hの範囲に設定され、また、前記ポンピング部の前記周期構造をした線状の凹凸の深さd2が、d2=0.1h〜10hの範囲に設定されることを特徴とする請求項4または5に記載のメカニカルシール。
前記吸入ポンピング部及び前記吐出ポンピング部は、側面視において前記周期構造をした線状の凹凸が円周方向または/及び径方向において、それぞれ任意に傾斜して形成されていることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項に記載のメカニカルシール。
前記吸入ポンピング部は、側面視において前記周期構造をした線状の凹凸が相手側摺動部材の回転方向に向かって次第に高くなるように形成され、前記吐出ポンピング部は、側面視において前記周期構造をした線状の凹凸が相手側摺動部材の回転方向に向かって次第に低くなるように形成されていることを特徴とする請求項7に記載のメカニカルシール。
前記吸入ポンピング部は、側面視において前記周期構造をした線状の凹凸が内周方向に向かって次第に低くなるように形成され、前記吐出ポンピング部は、側面視において前記周期構造をした線状の凹凸が外周方向に向かって次第に低くなるように形成されていることを特徴とする請求項7または8に記載のメカニカルシール。
前記ポンピング部において、前記吐出ポンピング部の径方向の長さが前記吸入ポンピング部の径方向の長さより大きく形成され、または、前記吐出ポンピング部の円周方向の長さが前記吸入ポンピング部の円周方向の長さより大きく形成されていることを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載のメカニカルシール。
前記固定環と前記回転環との前記摺動面の大気側の摺動部において、少なくとも前記ポンピング部の形成された摺動面の大気側の摺動部には撥水化加工が施されていることを特徴とする請求項1ないし16のいずれか1項に記載のメカニカルシール。
請求項4に記載の前記被密封流体収容ブロック及び前記ポンピング部の前記周期構造をした線状の凹凸が、ピコ秒レーザまたはフェムト秒レーザの照射により形成されることを特徴とするメカニカルシールの製造方法。
請求項4に記載の前記被密封流体収容ブロック及び前記ポンピング部の前記周期構造をした線状の凹凸が、スタンプまたは刻印により形成されることを特徴とするメカニカルシールの製造方法。
請求項4に記載の前記被密封流体収容ブロックがエッチングにより形成され、前記ポンピング部の前記周期構造をした線状の凹凸がピコ秒レーザまたはフェムト秒レーザの照射により形成されることを特徴とするメカニカルシールの製造方法。
請求項4に記載の前記被密封流体収容ブロックがメッキまたは成膜により形成され、前記ポンピング部の前記周期構造をした線状の凹凸がピコ秒レーザまたはフェムト秒レーザの照射により形成されることを特徴とするメカニカルシールの製造方法。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシールにおいて、密封性を長期的に維持させるためには、「密封」と「潤滑」という相反する条件を両立させなければならない。特に、近年においては、環境対策などのために、被密封流体の漏れ防止を図りつつ、機械的損失を低減させるべく、より一層、低摩擦化の要求が高まっている。低摩擦化の手法としては、回転により摺動面間に動圧を発生させ、液膜を介在させた状態で摺動する、いわゆる流体潤滑状態とすることにより達成できる。しかしながら、この場合、摺動面間に正圧が発生するため、流体が正圧部分から摺動面外へ流出する。この流体流出はシールの場合の漏れに該当する。
【0003】
本出願人らは、先に、摺動面間への被密封流体の導入及びその保持を良好にすることで、安定的かつ良好な潤滑性を得る、すなわち、過大な漏洩を発生させることなく、摩擦係数の低減を図るべく、静止用摺動材と回転用摺動材とが対向する各摺動面を相対回転摺動させて、当該相対回転摺動する摺動面の径方向一方側に存在する被密封流体をシールするメカニカルシールにおいて、摺動面に、相互に平行な複数の直線状の凹凸部が所定のピッチで所定の区画内に形成されたグレーティング部が、各々分離して複数形成されており、複数のグレーティング部の直線状の凹凸部は、当該凹凸部の方向が当該摺動面の摺動方向に対して所定の角度を成して傾斜するように形成されているメカニカルシール摺動材の発明を特許出願している(以下「従来技術1」という。特許文献1参照。)。
【0004】
一方、停止を伴う往復摺動特性に優れた摺動面構造を提供することを目的として、固体材料表面を成す鏡面部分の離散的な複数の領域のいずれの領域も全周が鏡面部分で囲まれて区分けされ、鏡面部分は連続した一面である、複数の領域にグレーティング状の周期構造を形成した低摩擦摺動面の発明が知られている(以下「従来技術2」という。特許文献2参照。)。
また、低摩擦を実現するとともになじみ過程の短縮化を図ることのできる摺動面構造を提供することを目的として、第1部材の摺動面と第2部材の摺動面とが潤滑剤下で相対的に摺動する摺動面構造であって、第1部材と第2部材との少なくともいずれか一方の摺動面に、複数の凹凸からなるグレーティング部を摺動方向に沿って複数個形成し、摺動方向に沿って隣り合うグレーティング部の周期構造の方向を摺動方向に対して対称とした摺動面構造の発明も知られている(以下「従来技術3」という。特許文献3参照。)。
【0005】
しかしながら、従来技術1は、
図14に示されるように、グレーティング部50は、内径R1及び外径R4の摺動面51の半径R2〜R3の範囲に形成されるものであって、被密封流体側と連通させる点については記載されていないことから、メカニカルシールの起動時にグレーティング部50に被密封流体を積極的に取り込んでおくことは意図されておらず、また、起動後においても、グレーティング部50への被密封流体の取り込み量は十分とはいえない。さらに、グレーティング部50が、摺動面51と略面一に形成されていることから、起動時及び起動後においてグレーティング部50に取り込まれる被密封流体の量も限定されたものとなる。
【0006】
また、従来技術2は、
図15に示されるように、複数のグレーティング状の周期構造部60は、全周が鏡面部分61で囲まれて区分けされ、鏡面部分61の区域外と連通していないことから、メカニカルシールに適用した場合、グレーティング状の周期構造部60が相対する摺動材により覆われ、被密封流体側と非連通となることから、メカニカルシールの起動時にグレーティング状の周期構造部60に鏡面部分61の区域外に存在する被密封流体を取り込んでおくことができず、また、起動後においても、グレーティング状の周期構造部60への被密封流体の取り込み量は十分とはいえない。さらに、グレーティング状の周期構造部60を鏡面部分61より深いところに形成すると、保持できる油膜量が増大するが、摺動時に周期構造部60による側方漏れ防止効果が低下するため、あまり深くできないことが示唆されている。
要するに、従来技術2には、メカニカルシールとして使うことは示唆されておらず、また、仮にメカニカルシールに使うとしても、メカニカルシールの起動時にグレーティング状の周期構造部60に積極的に被密封流体を取り込み、かつ、大気側へ漏らさないという技術思想は開示されていない。
【0007】
また、従来技術3は、
図16(a)に示されるように、円盤体70の摺動面とリング体71の摺動面とが潤滑剤下で相対的に摺動する軸受などの摺動面構造であって、
図16(b)に示すように、円盤体70の摺動面72に、全周が摺動面72で囲まれて区分けされ、複数の凹凸からなるグレーティング部73a、73bを摺動方向に沿って複数個形成し、
図16(c)に示すように、摺動方向に沿って隣り合うグレーティング部73a、73bの周期構造の方向を摺動方向に対して対称としたものであるが、軸受以外の摺動面にどのように適用するかは開示されておらず、仮に、メカニカルシールに適用するとしても、円盤体70の摺動面72のグレーティング部73a、73bが被密封流体側と連通される点について示されていないから、メカニカルシールの起動時及び起動後においてグレーティング部73a、73bに被密封流体を積極的に取り込むという技術思想が開示されているとはいえない。さらに、グレーティング部73a、73bは摺動面72と略面一に形成されていることから、グレーティング部73a、73bに被密封流体を取り込むことができず、起動時及び起動後において摺動面の潤滑を十分に行うことはできないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術の問題を解決するためになされたものであって、静止時に漏れず、回転初期を含み回転時には流体潤滑で作動するとともに漏れを防止し、密封と潤滑を両立させることのできるメカニカルシールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明のメカニカルシール、第1に、固定側に固定される円環状の固定環と、回転軸とともに回転する円環状の回転環とが対向して各摺動面を相対回転させることにより、当該相対回転摺動する前記摺動面の径方向の一方側に存在する被密封流体を密封するメカニカルシールにおいて、
前記固定環または回転環の摺動面のいずれか一方には、円周方向に分離された複数の被密封流体収容ブロックが被密封流体収容空間と連通するように形成され、
前記複数の被密封流体収容ブロックの底部には、固定環と回転環との相対回転摺動によりポンピング作用を生起するポンピング部が形成され、
前記複数の被密封流体収容ブロックの底部に形成されるポンピング部は、被密封流体を吸い込む方向に作用する吸入ポンピング部と被密封流体を吐き出す方向に作用する吐出ポンピング部を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、静止時には、固定環及び回転環の摺動面間は固体接触状態となるため、円周方向に連続した摺動面により漏れを防止することによりシール性が維持されるとともに、起動時には、被密封流体収容ブロック内の空間に被密封流体を取り込むことによってすばやく潤滑流体膜を形成することができ、摺動面の摺動トルクを低くし、摩耗を低減することができる。さらに、運転時には、吸入ポンピング部を備えた被密封流体収容ブロック内に被密封流体を取り込み、摺動面により分離された位置にある吐出ポンピング部に摺動面を通して被密封流体を送り込み、この被密封流体を被密封流体側に戻すことにより、摺動面の潤滑性を確保するとともに、漏れを防止し、シール性を保つことができる。
【0011】
また、本発明のメカニカルシールは、第2に、第1の特徴において、前記固定環及び回転環の摺動面のうち、径方向の幅が小さい方の摺動面に被密封流体収容ブロックが設けられる場合、該被密封流体収容ブロックは摺動面の径方向の一部であって、被密封流体収容空間と外周側または内周側を介して直接連通するように形成されることを特徴としている。
また、本発明のメカニカルシールは、第3に、第1の特徴において、前記固定環及び回転環の摺動面のうち、径方向の幅が大きい方の摺動面に被密封流体収容ブロックが設けられる場合、該被密封流体収容ブロックは摺動面の径方向の外方及び内方を残して一部に形成され、かつ、被密封流体収容ブロックの被密封流体側の一部が相対する摺動面で覆われないように形成されることを特徴としている。
第2、第3の特徴によれば、被密封流体収容ブロックに被密封流体を取り込み、または、被密封流体収容ブロックから被密封流体側に被密封流体を戻すことを容易に行うことができる。
【0012】
また、本発明のメカニカルシールは、第4に、第1ないし第3のいずれかの特徴において、前記ポンピング部は、線状の凹凸の周期構造をしており、前記線状の凹凸は、当該凹凸の方向が当該摺動面の摺動方向に対して所定の角度傾斜するように形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、線状の凹凸の周期構造で所要のポンピング作用を得ることができるので、ポンピング部の形成を容易に行うことができる。
また、本発明のメカニカルシールは、第5に、第1ないし第4のいずれかの特徴において、前記複数の被密封流体収容ブロックの底部に形成されるポンピング部は、隣接する被密封流体収容ブロックの前記線状の凹凸の方向が当該摺動面の摺動方向に対して対称となるように形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面が正逆両方向に回転する場合に好適である。
【0013】
また、本発明のメカニカルシールは、第6に、第1ないし第5のいずれかの特徴において、前記被密封流体収容ブロック及びポンピング部の線状の凹凸の周期構造は、ピコ秒またはフェムト秒レーザの照射により形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、その方向性の制御が可能であり、加工位置の制御も可能であるため、離散的な小区画に分けて各区画ごとに所望の周期構造の形成ができる。
また、本発明のメカニカルシールは、第7に、第1ないし第5のいずれかの特徴において、前記被密封流体収容ブロック及びポンピング部の線状の凹凸の周期構造は、スタンプまたは刻印により形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、線状の凹凸の周期構造を能率良く行うことができる。
また、本発明のメカニカルシールは、第8に、第1ないし第5のいずれかの特徴において、前記被密封流体収容ブロックはエッチングにより形成され、ポンピング部の線状の凹凸の周期構造は、ピコ秒またはフェムト秒レーザの照射により形成されることを特徴としている。
また、本発明のメカニカルシールは、第9に、第1ないし第5のいずれかの特徴において、前記被密封流体収容ブロックはメッキまたは成膜により形成され、ポンピング部の線状の凹凸の周期構造は、ピコ秒またはフェムト秒レーザの照射により形成されることを特徴としている。
第8及び第9の特徴によれば、被密封流体収容ブロックの形成及び線状の凹凸の周期構造の形成を、製造設備に適した手段で柔軟に行うことができる。
【0014】
また、本発明のメカニカルシールは、第10に、第1ないし第8のいずれかの特徴において、前記固定環と回転環との摺動面間に形成される液膜厚さをhとした場合、摺動面からのポンピング部の凹凸の頂点を結ぶ仮想平面の深さd1が、d1=0.1h〜10hの範囲に設定され、また、ポンピング部の凹凸の深さd2が、d2=0.1h〜10hの範囲に設定されることを特徴としている。
この特徴によれば、液膜厚さに応じた最適なポンピング部を得ることができる。
【0015】
また、本発明のメカニカルシールは、第11に、第1ないし第10のいずれかの特徴において、前記吸入ポンピング部及び吐出ポンピング部は、側面視において線状の凹凸が円周方向または/及び径方向において、それぞれ任意に傾斜して形成されていることを特徴としている。
また、本発明のメカニカルシールは、第12に、第11の特徴において、前記吸入ポンピング部は、側面視において線状の凹凸が相手側摺動部材の回転方向に向かって次第に高くなるように形成され、吐出ポンピング部は、側面視において線状の凹凸が相手側摺動部材の回転方向に向かって次第に低くなるように形成されていることを特徴としている。
また、本発明のメカニカルシールは、第13に、第11または12の特徴において、前記吸入ポンピング部は、側面視において線状の凹凸が内周方向に向かって次第に低くなるように形成され、吐出ポンピング部は、側面視において線状の凹凸が外周方向に向かって次第に低くなるように形成されていることを特徴としている。
第11ないし第13の特徴によれば、吸入ポンピング部においては、より一層、被密封流体を取り込んで吐出ポンピング部に送り込むことができ、また、吐出ポンピング部においては、送り込まれた被密封流体を、より一層、被密封流体側に戻すことができる。
【0016】
また、本発明のメカニカルシールは、第14に、第4ないし第13のいずれかの特徴において、前記複数の被密封流体収容ブロックの底部に形成されるポンピング部において、前記吸入ポンピング部のポンピング容量と吐出ポンピング部のポンピング容量とが同等、または、いずれか一方のポンピング容量が大きく設定されていることを特徴としている。
また、本発明のメカニカルシールは、第15に、第4ないし第14のいずれかの特徴において、前記複数の被密封流体収容ブロックの底部に形成されるポンピング部において、前記吐出ポンピング部の線状の凹凸のピッチが吸入ポンピング部の線状の凹凸のピッチより小さく形成されていることを特徴としている。
また、本発明のメカニカルシールは、第16に、第4ないし第15のいずれかの特徴において、前記複数の被密封流体収容ブロックの底部に形成されるポンピング部において、前記吐出ポンピング部の線状の凹凸の幅または深さが吸入ポンピング部の線状の凹凸の幅または深さより大きく形成されていることを特徴としている。
また、本発明のメカニカルシールは、第17に、第1ないし第16のいずれかの特徴において、前記複数の被密封流体収容ブロックの底部に形成されるポンピング部において、前記吐出ポンピング部の径方向の長さまたは円周方向の長さが吸入ポンピング部の径方向の長さまたは円周方向の長さより大きく形成されていることを特徴としている。
第14の特徴によれば、吸入ポンピング部のポンピング容量と吐出ポンピング部のポンピング容量とを同等、または、いずれか一方のポンピング容量を大きく設定することができるため、メカニカルシールの使用態様に応じて吸入または吐出のポンピング容量を自由に設定することができる。
また、第15ないし第17の特徴によれば、吐出ポンピング部の吐出容量が吸入ポンピング部の吸入容量より大きく設定されているため、吸入ポンピング部等からの流入する被密封流体は吐出ポンピング部から被密封流体側に戻され、大気側に漏洩することが防止される。
【0017】
また、本発明のメカニカルシールは、第18に、第1ないし第17のいずれかの特徴において、前記複数の被密封流体収容ブロックの底部に形成されるポンピング部には親水化加工が施されていることを特徴としている。
この特徴によれば、被密封流体をポンピング部に導入し易く、また、防汚効果を奏する。さらに、ポンピング部に親水性コーティングを設けて堆積物の発生を防止することで漏れの予防につながる。
また、本発明のメカニカルシールは、第19に、第1ないし第18のいずれかの特徴において、前記固定環と回転環との摺動面の大気側の摺動部において、少なくとポンピング部の形成された摺動面の大気側の摺動部には撥水化加工が施されていることを特徴としている。
この特徴によれば、大気側に被密封流体が漏洩することを一層防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)上記第1〜第5の特徴により、静止時には、固定環及び回転環の摺動面間は固体接触状態となるため、円周方向に連続した摺動面により漏れを防止することによりシール性が維持されるとともに、起動時には、被密封流体収容ブロック内の空間に被密封流体を取り込むことによってすばやく潤滑流体膜を形成することができ、摺動面の摺動トルクを低くし、摩耗を低減することができる。さらに、運転時には、吸入ポンピング部を備えた被密封流体収容ブロック内に被密封流体を取り込み、摺動面により分離された位置にある吐出ポンピング部に摺動面を通して被密封流体を送り込み、この被密封流体を被密封流体側に戻すことにより、摺動面の潤滑性を確保するとともに、漏れを防止し、シール性を保つことができる。
(2)上記第6〜第9の特徴により、ポンピング部の線状の凹凸の周期構造を、容易かつ正確に設けることができる。
(3)上記第10の特徴により、上記(1)の効果を最良のものとすることができる。
(4)上記第11〜第13の特徴により、吸入ポンピング部においては、より一層、被密封流体を取り込んで吐出ポンピング部に送り込むことができ、吐出ポンピング部においては、送り込まれた被密封流体を、より一層、被密封流体側に戻すことができるため、シール性及び潤滑性を一層高めることができる。
(5)上記第14の特徴によれば、吸入ポンピング部のポンピング容量と吐出ポンピング部のポンピング容量とを同等、または、いずれか一方のポンピング容量を大きく設定することができるため、メカニカルシールの使用態様に応じて吸入または吐出のポンピング容量を自由に設定することができる。
また、上記第15ないし第17の特徴によれば、吐出ポンピング部の吐出容量が吸入ポンピング部の吸入容量より大きく設定されているため、吸入ポンピング部等からの流入する被密封流体は吐出ポンピング部から被密封流体側に戻され、大気側に漏洩することが防止される。
(6)上記第18の特徴によれば、被密封流体をポンピング部に導入し易く、また、防汚効果を奏する。さらに、ポンピング部に親水性コーティングを設けて堆積物の発生を防止することで漏れの予防につながる。
(7)上記第19の特徴によれば、大気側に被密封流体が漏洩することを一層防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るメカニカルシールを実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加えうるものである。
【0021】
図1は、一般産業機械用のメカニカルシールの一例を示す正面断面図である。
図1のメカニカルシールは摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであって、被密封流体側のポンプインペラ(図示省略)を駆動させる回転軸1側にスリーブ2を介してこの回転軸1と一体的に回転可能な状態に設けられた円環状の回転環3と、ポンプのハウジング4に固定されたシールカバー5に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた円環状の固定環6とが、この固定環6を軸方向に付勢するベローズ7によって、ラッピング等によって鏡面仕上げされた摺動面S同士で密接摺動するようになっている。すなわち、このメカニカルシールは、回転環3と固定環6との互いの摺動面Sにおいて、被密封流体が回転軸1の外周から大気側へ流出するのを防止するものである。
回転環3及び固定環6は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、摺動材料にはメカニカルシール用摺動材料として使用されているものは適用可能である。SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボンなどを焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC−TiC、SiC−TiNなどがあり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン、などが利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料なども適用できる。
【0022】
図2は、ウォータポンプ用のメカニカルシールの一例を示す正面断面図である。
図2のメカニカルシールは摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする冷却水を密封する形式のインサイド形式のものであって、冷却水側のポンプインペラ(図示省略)を駆動させる回転軸1側にスリーブ2を介してこの回転軸1と一体的に回転可能な状態に設けられた円環状の回転環3と、ポンプのハウジング4に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた円環状の固定環6とが、この固定環6を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング8及びベローズ9によって、ラッピング等によって鏡面仕上げされた摺動面S同士で密接摺動するようになっている。すなわち、このメカニカルシールは、回転環3と固定環6との互いの摺動面Sにおいて、冷却水が回転軸1の外周から大気側へ流出するのを防止するものである。
【0023】
〔実施形態1〕
図3は、本発明の実施形態1に係り、
図1及び2に例示されるようなメカニカルシールにおいて、固定環6及び回転環3の摺動面のうち、径方向の幅が小さい方の固定環6の摺動面Sに被密封流体収容ブロック及びポンピング部が形成される場合の一実施形態
を示す平面図である。
図3において、固定環6の摺動面Sには、円周方向に分離された複数の被密封流体収容ブロック10が、摺動面Sの径方向の一部であって被密封流体収容空間と外周側12を介して直接連通するように形成されている。
なお、被密封流体側が回転環3及び固定環6の内側に存在するアウトサイド形のメカニカルシールの場合、被密封流体収容ブロック10は、摺動面Sの径方向の一部であって被密封流体収容空間と内周側を介して直接連通するように形成すればよい。
被密封流体収容ブロック10の径方向の幅aは、摺動面Sの径方向の幅Aのおよそ1/3〜2/3であり、また、被密封流体収容ブロック10の周方向の角度範囲bは、隣接する被密封流体収容ブロック10、10間に存在する摺動面の角度範囲Bと同じかやや大きく設定される。
【0024】
メカニカルシールを低摩擦化させるためには、被密封流体の種類、温度などによるが、通常、摺動面間に0.1μm〜10μmほどの液膜が必要である。この液膜を得るために、上記したように、摺動面Sに、円周方向に独立した複数の被密封流体収容ブロック10が配置され、該複数の被密封流体収容ブロック10の底部には、固定環6と回転環3との相対回転摺動によりポンピング作用を生起するポンピング部11が形成されている。該ポンピング部11は、被密封流体を吸い込む方向に作用する吸入ポンピング部11aと被密封流体を吐き出す方向に作用する吐出ポンピング部11bとを備えている。
【0025】
ポンピング部11の各々には、後記する
図5で詳細に説明するように、相互に平行で一定のピッチの複数の線状の凹凸(本発明においては、「線状の凹凸の周期構造」ともいう。)が形成され、該凹凸は、例えば、フェムト秒レーザにより形成される微細な構造である。
なお、本発明において「線状の凹凸」には、直線状の凹凸の他、直線状の凹凸形成の過程で出現される多少彎曲された凹凸、または曲線状の凹凸も包含される。
【0026】
図4は、
図3の被密封流体収容ブロック及びポンピング部を説明するものであって運転時の状態を示しており、
図4(a)は要部の拡大平面図、
図4(b)は
図4(a)のX−X断面図である。
図4において、固定環6は実線で、また、相手側摺動部材である回転環3は二点差線で示されており、回転環3はR方向に回転する。
図4(a)に示すように、複数の被密封流体収容ブロック10は、円周方向において隣接する被密封流体収容ブロック10と摺動面Sにより分離され、また、大気側とも摺動面Sにより非連通となっている。また、
図4(b)に示すように、被密封流体収容ブロック10は、摺動面Sの径方向の一部に形成されており、被密封流体を収容できるように凹状をなし、摺動面Sと段差を有し、被密封流体収容空間とは外周側12を介して直接連通している。このため、静止時には、固定環6及び回転環3の摺動面間は固体接触状態となるため、円周方向に連続した摺動面によりシール性が維持されるとともに、起動時においては、
図4(a)において二点差線の矢印で示すように、被密封流体収容ブロック10へ被密封流体の取り込みが行われるようになっている。
さらに、
図4(a)に示すように、ポンピング部11に形成される線状の凹凸(図においては、線状の凹凸として代表的な直線状の凹凸を示している。以下同じ。)は、摺動面Sの摺動方向、換言すれば摺動面Sの回転接線方向に対して所定の角度θ(曲線状の凹凸の場合は接線のなす角度である。以下同じ。)で傾斜するように形成される。所定の角度θは、摺動面Sの回転接線に対して内径方向及び外径方向の両方向において各々10°〜80°の範囲であることが好ましい。
【0027】
複数被密封流体収容ブロック10の各々におけるポンピング部11の線状の凹凸の回転接線に対する傾斜角度θは、全て同じであってもよいし、ポンピング部11ごとに異なっていてもよい。しかし、この傾斜角度θに応じて摺動面Sの摺動特性が影響を受けるので、要求される潤滑性や摺動条件等に応じて、適切な特定な傾斜角度θに各ポンピング部11の凹凸の傾斜角度を統一するのが安定した摺動特性を得るために有効である。
【0028】
従って、摺動面Sの回転摺動方向が一方向であれば、複数のポンピング部11の各々における凹凸の回転接線に対する傾斜角度θは、最適な特定の角度に規定される。
【0029】
また、摺動面Sの回転摺動方向が正逆両方向であれば、一方の方向の回転の際に適切な摺動特性となる第1の角度で回転接線に対して傾斜する凹凸を有する第1のポンピング部と、それとは反対方向の回転の際に適切な摺動特性となる第2の角度で回転接線に対して傾斜する凹凸を有する第2のポンピング部とを混在させることが望ましい。そのような構成であれば、摺動面Sが正逆両方向に回転する際に、各々適切な摺動特性を得ることができる。
【0030】
さらに具体的には、摺動面Sが正逆両方向に回転する場合には、吸入ポンピング部11aと吐出ポンピング部11bとの各凹凸の傾斜角度θは、回転接線に対して対称となるような角度となるように形成しておくのが好適である。
また、吸入ポンピング部11aと吐出ポンピング部11bとは、摺動面Sの周方向に沿って交互に配置されるように形成するのが好適である。
図1及び
図2に示す摺動面Sは、そのような摺動面Sが両方向へ回転する場合に好適な摺動面Sの構成である。
なお、吸入ポンピング部11aと吐出ポンピング部11bとは、摺動面Sの周方向に沿って交互に配置されなくてもよく、例えば、吸入ポンピング部11aが2個、吐出ポンピング部11bが1個の割合で配置されても、あるいは、逆の割合で配置されてもよい。
【0031】
相互に平行で一定のピッチの複数の線状の凹凸を精度よく所定のピッチで配置した構造(線状の凹凸の周期構造)であるポンピング部11は、例えば、フェムト秒レーザを用いて、摺動面Sの所定の領域に厳密に区画分けされ、さらに各区画において凹凸の方向を精度よくコントロールして形成される。
加工しきい値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを基板に照射すると、入射光と基板の表面に沿った散乱光又はプラズマ波の干渉により、波長オーダーのピッチと溝深さを持つ凹凸状の周期構造が偏光方向に直交して自己組織的に形成される。この時、フェムト秒レーザをオーバーラップさせながら操作を行うことにより、その周期構造パターンを表面に形成することができる。
【0032】
このようなフェムト秒レーザを利用した線状の凹凸の周期構造では、その方向性の制御が可能であり、加工位置の制御も可能であるため、離散的な小区画に分けて各区画ごとに所望の周期構造の形成ができる。すなわち、円環状のメカニカルシール摺動材の摺動面を回転させながらこの方法を用いれば、摺動面に選択的に微細な周期パターンを形成することができる。そしてまたフェムト秒レーザを利用した加工方法では、メカニカルシールの潤滑性向上及び漏洩低減に有効なサブミクロンオーダーの深さの凹凸の形成が可能である。
【0033】
前記被密封流体収容ブロック10及び線状の凹凸の周期構造の形成は、フェムト秒レーザに限らず、ピコ秒レーザや電子ビームを用いてもよい。また、前記被密封流体収容ブロック10及び線状の凹凸の周期構造の形成は、線状の凹凸の周期構造を備えた型を用いて円環状のメカニカルシール摺動材の摺動面を回転させながらスタンプ又は刻印することにより行われてもよい。
さらに、前記被密封流体収容ブロック10及び線状の凹凸の周期構造の形成は、エッチングで行い、その後、フェムト秒レーザなどにより被密封流体収容ブロック底部に線状の凹凸の周期構造を形成させてもよい。さらに、フェムト秒レーザなどにより、摺動面に線状の凹凸の周期構造のみ形成させ、その後、線状の凹凸の周期構造が形成されていない摺動面にメッキあるいは成膜を行うことで、被密封流体収容ブロック10を形成させてもよい。
【0034】
図5は、
図3及び
図4の被密封流体収容ブロック及びポンピング部を説明するもので、被密封流体側から見た斜視図である。
固定環6と回転環3との摺動面間には、
図4(b)に示すように、回転初期から運転時において、厚さ0.1μm〜10μmの液膜hが形成されるが、その場合、ポンピング部11において、凹凸の頂点を結ぶような仮想平面をとると、該仮想平面は液膜hに応じて摺動面Sよりd1=0.1h〜10h低く設定され、仮想平面が摺動面Sと段差d1を形成する形状となっている。この段差d1により形成された被密封流体収容ブロック10内の空間に被密封流体が取り込まれ、十分な液膜が形成される。しかし、十分な液膜を形成するだけでは圧力差により漏れが発生することになる。このため、被密封流体収容ブロック10の底部には、被密封流体が大気側に漏れないように液体の流れを生起させるポンピング部11が形成されているのである。
フェムト秒レーザによる場合には、まず、被密封流体収容ブロック10が形成され、その後続いて、ポンピング部11が形成される。
また、凹凸の頂点と底部との深さd2は、d2=0.1h〜10hの範囲が望ましい。
ポンピング部11の線状の凹凸のピッチpは、被密封流体の粘度に応じて設定されるが、0.1μm〜100μmが望ましい。被密封流体の粘度が高い場合、溝内に流体が十分に入り込めるようにピッチpを大きくした方がよい。
なお、
図5において、ポンピング部11は、円周方向及び径方向において、軸と直交する面と平行に形成されている。
【0035】
上記のように、静止時には、固定環6及び回転環3の摺動面間は固体接触状態となるため、円周方向に連続した摺動面Sにより漏れを防止することによりシール性が維持されるとともに、起動時には、被密封流体収容ブロック10内の空間に被密封流体を取り込むことによってすばやく潤滑流体膜を形成することができ、摺動面Sの摺動トルクを低くし摩耗を低減することができる。さらに、運転時には、吸入ポンピング部11aを備えた被密封流体収容ブロック10内に被密封流体を取り込み、この被密封流体を摺動面Sを介して分離された位置にある吐出ポンピング部11bを備えた被密封流体収容ブロック10に送り込み、吐出ポンピング部11bの作用により該被密封流体収容ブロック10からこの被密封流体を被密封流体側に戻すものである(
図4(a)の二点差線で示す矢印参照。)。このような被密封流体の流れを通じて、摺動面Sの潤滑性を確保するとともに、漏れを防止し、シール性を保つことができる。特に、ポンピング部11の凹凸の頂点を結ぶ仮想平面が摺動面Sより低く設定され、仮想平面が摺動面Sと段差d1を有する形状となっていることにより、起動時に段差d1により形成された空間に被密封流体を取り込むことによってすばやく潤滑流体膜を形成することができる。
【0036】
〔実施形態2〕
図6は、本発明の実施形態2に係り、
図1及び2に例示されるようなメカニカルシールの固定環6の摺動面Sに形成される被密封流体収容ブロック10及びポンピング部11を示す断面図である。
実施形態1において、ポンピング部11は、円周方向及び径方向において軸と直交する面と平行に形成されているが、
図6においては、被密封流体収容ブロック10の底部に形成される吸入ポンピング部11aは、周方向において、その線状の凹凸が相手側摺動材である回転環3の回転方向Rに向かって次第に高くなるように形成され、吐出ポンピング部11bは、その線状の凹凸が相手側摺動材である回転環3の回転方向Rに向かって次第に低くなるように形成されている。
このように、線状の凹凸が、平面から見た際の回転接線に対する傾斜に加えて、側面から見ても周方向に傾斜して形成されていることから、吸入ポンピング部11aにおいては、より一層、被密封流体を取り込んで吐出ポンピング部11bに送り込むことができ、また、吐出ポンピング部11bにおいては、送り込まれた被密封流体を、より一層、被密封流体側に戻すことができる。
本例の場合、前記固定環と回転環との摺動面間に形成される液膜厚さをhとした場合、摺動面からのポンピング部の凹凸の頂点を結ぶ仮想平面の最深部及び最浅部の深さが、0.1h〜10hの範囲内に入るように設定されればよい。
【0037】
被密封流体収容ブロック10の底部に形成されるポンピング11は、円周方向または/及び径方向において、必要に応じて、任意に傾斜させることができる。例えば、
図3に示すようにポンピング部11が形成される場合、吸入ポンピング部11aは、径方向内側に向かって次第に低くなるように形成されて被密封流体を吸い込み易くし、吐出ポンピング部11bは、径方向内側に向かって次第に高くなるように形成されて被密封流体を吐出し易くすることが考えられる。
本例の場合も、前記固定環と回転環との摺動面間に形成される液膜厚さをhとした場合、摺動面からのポンピング部の凹凸の頂点を結ぶ仮想平面の最深部及び最浅部の深さが、0.1h〜10hの範囲内に入るように設定されればよい。
【0038】
〔実施形態3〕
図7は、本発明の実施形態3に係り、
図1及び2に例示されるようなメカニカルシールにおいて、固定環及び回転環の摺動面のうち、径方向の幅が大きい方の回転環の摺動面に被密封流体収容ブロック及びポンピング部が形成される場合の一実施形態
を示す平面図である。
図7において、回転環3及び固定環6の摺動面のうち、径方向の摺動面の幅が大きい回転環3の摺動面Sに、円周方向に分離された複数の被密封流体収容ブロック10が形成されている。これら複数の被密封流体収容ブロック10は、摺動面Sの径方向の外方及び内方を残して一部に形成され、かつ、被密封流体収容ブロック10の被密封流体側の一部が相対する固定環6の摺動面Sで覆われないように形成されるものである。このため、静止時のシール性が維持されるとともに、起動時においては、被密封流体収容ブロック10へ被密封流体が取り込まれるものである。
なお、被密封流体側が回転環3及び固定環6の内側に存在するアウトサイド形のメカニカルシールの場合は、被密封流体収容ブロック10の径方向内側の一部が相対する固定環6の摺動面により覆われないように配置すればよい。
【0039】
〔実施形態4〕
図8は、本発明の実施形態4に係り、ポンピング部の他の例を説明する平面図であって、固定環及び回転環の摺動面のうち、径方向の幅が小さい方の固定環の摺動面に被密封流体収容ブロック及びポンピング部が形成される場合の例を示している。
メカニカルシールの摺動面Sに同じ容量の吸入ポンピング部11a及び吐出ポンピング部11bが形成されている場合、両回転方向のメカニカルシールで利用できるメリットはあるが、被密封流体の圧力が高い場合、吐出ポンピング部11bからの吐出量より吸入ポンピング部11a等からの流入量が上回り漏れ量が増加する恐れがある。
【0040】
図8(a)では、吐出ポンピング部11bの線状の凹凸のピッチPbが吸入ポンピング部11aの線状の凹凸のピッチPaより小さく形成され、吐出ポンピング部11bの吐出容量が吸入ポンピング部11aの吸入容量より大きく設定されている。このため、吸入ポンピング部11a等から流入する被密封流体は吐出ポンピング部11bから被密封流体側に吐出され、大気側に漏洩することが防止される。
また、
図8(b)では、吐出ポンピング部11bの線状の凹凸の幅または深さが吸入ポンピング部11aの線状の凹凸の幅または深さより大きく形成され、吐出ポンピング部11bの吐出容量が吸入ポンピング部11aの吸入容量より大きく設定されている。このため、吸入ポンピング部11a等からの流入する被密封流体は吐出ポンピング部11bから被密封流体側に戻され、大気側に漏洩することが防止される。
【0041】
〔実施形態5〕
図9は、本発明の実施形態5に係り、ポンピング部の他の例を説明する平面図であって、固定環及び回転環の摺動面のうち、径方向の幅が小さい方の固定環の摺動面に被密封流体収容ブロック及びポンピング部が形成される場合の例を示している。
メカニカルシールの摺動面Sに同じ容量の吸入ポンピング部11a及び吐出ポンピング部11bが形成されている場合、両回転方向のメカニカルシールで利用できるメリットはあるが、被密封流体の圧力が高い場合、吐出ポンピング部11bからの吐出量より吸入ポンピング部11a等からの流入量が上回り漏れ量が増加する恐れがある。
【0042】
図9(a)では、吸入ポンピング部11a及び吐出ポンピング部11bの周方向の長さaは同じであるが、吐出ポンピング部11bの径方向の長さb’が吸入ポンピング部11aの径方向の長さbより大きく形成され、吐出ポンピング部11bの吐出容量が吸入ポンピング部11aの吸入容量より大きく設定されている。このため、吸入ポンピング部11a等からの流入する被密封流体は吐出ポンピング部11bから被密封流体側に戻され、大気側に漏洩することが防止される。
また、
図9(b)では、吸入ポンピング部11a及び吐出ポンピング部11bの径方向の長さbは同じであるが、吐出ポンピング部11bの周方向の長さa’が吸入ポンピング部11aの周方向の長さaより大きく形成され、吐出ポンピング部11bの吐出容量が吸入ポンピング部11aの吸入容量より大きく設定されている。このため、吸入ポンピング部11a等からの流入する被密封流体は吐出ポンピング部11bから被密封流体側に戻され、大気側に漏洩することが防止される。
さらに、図示されていないが、吐出ポンピング部11bの周方向の長さまたは径方向の長さを吸入ポンピング部11aの周方向の長さまたは径方向の長さより大きく形成し、吐出ポンピング部11bの吐出容量を吸入ポンピング部11aの吸入容量より大きく設定してもよい。
【0043】
〔実施形態6〕
図10は、本発明の実施形態6に係り、ポンピング部の他の例を説明する被密封流体側から見た斜視図であって、固定環及び回転環の摺動面のうち、径方向の幅が小さい方の固定環の摺動面に被密封流体収容ブロック及びポンピング部が形成される場合の例を示している。
被密封流体収容ブロック10の底部に形成されたポンピング部11は被密封流体に連通する構成となっているが、被密封流体収容ブロック10の深さは極浅いことから吸入ポンピング部11aの被密封流体が入り込みにくく、また、摺動面Sの隙間が狭いため、吸入ポンピング部11aから出た被密封流体が吐出ポンピング部11bに入り込む際も入り込みにくいと想定される。一方、ポンピング部11がその能力を発揮するためには、ポンピング部11に被密封流体が流れ込みやすいことが必要である。
【0044】
図10では、被密封流体収容ブロック10の底部に形成されるポンピング部11(吸入ポンピング部11a及び吐出ポンピング部11b)の凹凸部の表面に沿って親水化加工が施され、濡れ性を制御することでポンピング部11に被密封流体が流れ込みやすくなるように改善されている。
なお、
図10において、親水化加工が施されていることを示すハッチングがポンピング部11の凹部を埋めているように見られる恐れがあるが、ハッチングは凹凸部の表面に沿って付されているのであり、ポンピング部11の親水化加工は凹凸部の表面に沿って施されているものである。
この親水化の手段としては、以下のものがある。
(1)親水性の物質をコーティングすることによる親水化
(2)表面を極微細に粗し(凹凸を増やし)表面積を増加させることによる親水化
(3)光触媒(プラズマ処理を含む)などを用いた化学反応による親水化
【0045】
親水性の物質をコーティングする場合における親水性コーティング材料としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア及びチタニアなどのセラミックス、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、硫酸エステル、リン酸エステル及びサルフェート類などの有機物、並びに、表面に親水性基(脂肪酸、カルボン酸残基など)を持つものが挙げられる。
また、コーティング方法としては、塗布、ゾル−ゲル法、プラズマ処理、PVD、CVD及びショットピーニングがあり、光触媒を用いた方法も可能である。
【0046】
ポンピング部11に親水性コーティングを設けた場合、被密封流体をポンピング部11に導入し易く、また、防汚効果がある。さらに、ポンピング部11に堆積物が付着すると漏れにつながるため、親水性コーティングを設けて堆積物の発生を防止することで漏れの予防につながる。
【0047】
〔実施形態7〕
図11ないし
図13を参照しながら、本発明の実施形態7について説明する。
図11は、固定環及び回転環の摺動面のうち、径方向の幅が小さい方の固定環の摺動面に被密封流体収容ブロック及びポンピング部が形成される場合の例を示しているものであって、摺動面Sの大気側の摺動部には環状の撥水性コーテング16が設けられている。
なお、
図11では、ポンピング部11(吸入ポンピング部11a及び吐出ポンピング部11b)には実施形態6で示した親水性コーテング15が設けられている場合を示しているが、必ずしも必要ではなく、撥水性コーテング16が単独で設けられてもよいことはもちろんである。
図11の例では、吸入ポンピング部11a及び吐出ポンピング部11bは親水性であるから被密封流体の導入が促進され、摺動面Sの潤滑性が良好になり、また、大気側の摺動部は撥水性であるから大気側に被密封流体が漏洩することが防止される。
【0048】
図12は、固定環及び回転環の摺動面のうち、径方向の幅が小さい方の固定環の摺動面に被密封流体収容ブロック及びポンピング部が形成される場合の種々の撥水性コーテングの例を示したものである。
図12(a)では、ポンピング部11に親水性コーテング15が設けられ、ポンピング部11の設けられた摺動面Sの大気側の摺動部に環状の撥水性コーテング16が設けられている。撥水性コーテング16が設けられた摺動面には撥水性コーテング16の厚さ分の段差ができるが、撥水性コーテング16の厚さが摺動面Sの液膜の厚さ程度であればシール性に影響はない。
図12(b)では、ポンピング部11の設けられた摺動面Sの大気側の摺動部には撥水性コーテング16の厚さ分だけ削られた環状凹部が形成され、その環状凹部に撥水性コーテング16が設けられている。このため、摺動面Sは面一となり段差はない。
図12(c)では、ポンピング部11の設けられた摺動面Sの大気側の摺動部には撥水性コーテング16の厚さ以上に削られた環状凹部が形成され、その環状凹部に撥水性コーテング16が設けられている。この場合、撥水性コーテング16は相手側摺動材と非接触となるが、1μm以下の隙間であれば被密封流体の漏洩は十分防止可能である。
図12(d)では、それぞれの摺動面Sの大気側の摺動部には撥水性コーテング16の厚さ分だけ削られた環状凹部が形成され、その環状凹部に撥水性コーテング16が設けられている。この場合、大気側への被密封流体の漏洩は一層防止される。
【0049】
図13は、固定環及び回転環の摺動面のうち、径方向の幅が大きい方の回転環の摺動面に被密封流体収容ブロック及びポンピング部が形成される場合の種々の撥水性コーテングの例を示したものである。
図13(a)では、ポンピング部11に親水性コーテング15が設けられ、ポンピング部11の設けられた摺動面Sの大気側の摺動部に環状の撥水性コーテング16が設けられている。撥水性コーテング16が設けられた摺動面には撥水性コーテング16の厚さ分の段差ができるが、撥水性コーテング16の厚さが摺動面Sの液膜の厚さ程度であればシール性に影響はない。
図13(b)では、ポンピング部11の設けられた摺動面Sの大気側の摺動部には撥水性コーテング16の厚さ分だけ削られた環状凹部が形成され、その環状凹部に撥水性コーテング16が設けられている。このため、摺動面Sは面一となり段差はない。
図13(c)では、ポンピング部11の設けられた摺動面Sの大気側の摺動部には撥水性コーテング16の厚さ以上に削られた環状凹部が形成され、その環状凹部に撥水性コーテング16が設けられている。この場合、撥水性コーテング16は相手側摺動材と非接触となるが、1μm以下の隙間であれば被密封流体の漏洩は十分防止可能である。
図13(d)では、それぞれの摺動面Sの大気側の摺動部には撥水性コーテング16の厚さ分だけ削られた環状凹部が形成され、その環状凹部に撥水性コーテング16が設けられている。この場合、大気側への被密封流体の漏洩は一層防止される。
【0050】
以上、本発明の実施の形態を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0051】
例えば、前記実施形態4及び5では、複数の被密封流体収容ブロックの底部に形成されるポンピング部において、吐出ポンピング部のポンピング容量が吸入ポンピング部のポンピング容量より大きい場合について説明しているが、メカニカルシールの使用態様によっては、ある程度の漏れが許容される場合もあり、そのような場合には、潤滑に重きをおいて吸入ポンピング部のポンピング容量を吐出ポンピング部のポンピング容量より大きく設定してもよい。