特許第5936083号(P5936083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936083
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】水酸アパタイト結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/32 20060101AFI20160602BHJP
【FI】
   C01B25/32 Q
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-45259(P2014-45259)
(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公開番号】特開2015-168605(P2015-168605A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2014年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】592019213
【氏名又は名称】学校法人昭和大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097179
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 一幸
(72)【発明者】
【氏名】成澤 英明
【審査官】 佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−100007(JP,A)
【文献】 特開昭63−100008(JP,A)
【文献】 特開昭55−167114(JP,A)
【文献】 特開平01−290513(JP,A)
【文献】 特開昭53−081499(JP,A)
【文献】 特開平11−268905(JP,A)
【文献】 特開2010−280583(JP,A)
【文献】 特開2015−086083(JP,A)
【文献】 米国特許第04274879(US,A)
【文献】 K.KANDORI et al.,Preparation of Spherical and Balloonlike Calcium Phosphate Particles from Forced Hydrolysis of Ca(OH)2-Triphosphate Solution and Their Adsorption Selectivity of Water,J. Phys. Chem. C,2010年,Vol.114 No.14,Pages6440-6445
【文献】 杉原久夫 他,縮合リン酸化合物からのリン酸カルシウムの生成,Gypsum & Lime,1987年 9月 1日,No.210,Pages292-300
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00 − 25/46
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合リン酸とカルシウム塩に水を加え、又は、カルシウム塩に重合リン酸水溶液を加え、酸性溶液として合成を開始し、重合リン酸の加水分解に伴うリン酸イオンの放出、キレート能力の減弱に伴うカルシウムイオンの放出によりアパタイト結晶を生成することを特徴とする水酸アパタイト結晶の製造方法。
【請求項2】
成温度が200℃であり、かつ圧力が1.5MPaである請求項1記載の水酸アパタイト結晶の製造方法。
【請求項3】
前記重合リン酸はポリリン酸及び縮合リン酸の少なくとも一方を含み、前記カルシウムイオンは酸化カルシウムにより供給される請求項1又は2記載の水酸アパタイト結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸アパタイト結晶の製造方法に係り、特に、酸性溶液の状態で合成を開始してアパタイト結晶を生成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水酸アパタイトは非常に広い範囲で応用され、例えば、人工歯根、人工骨用原料、吸着剤、各種触媒、温度センサー等のために使用される。
【0003】
水酸アパタイトの製造方法は、水溶液反応によるもの、固相反応によるもの、融体から始めるもの等がある。
【0004】
水溶液反応による場合、生成するアパタイトの結晶性が低く、水熱水溶液反応を用いても単結晶で大粒子径のアパタイトを作成することは困難である。
【0005】
固相反応による場合、結晶性が発達していることから焼結用の原料として用いることはできない。
【0006】
融体から始め引き上げ法あるいはフラックス法を適用する場合、水酸イオンの供給ができないので水酸アパタイトの合成に適用できない。
【0007】
水酸アパタイトの大型単結晶を作成するため、水熱育成法がしばしば用いられる。例えば、Arendsらは、非特許文献1(Journal of Crystal Growth 第46巻 P213−220(1979))において、育成温度430〜500℃、圧力200MPa、育成期間20〜70日にて、長径0.1mmから最大3mmの柱状水酸アパタイト単結晶を育成している。
【0008】
しかしながら、これによると、育成期間が極めて長く、工業化に適さないこと、複雑な化学物質が必要であるという問題点がある。特に、合成環境の圧力(200MPa)及び育成温度(430℃以上)が高いため、合成装置が大規模で高価になることが課題となる。
【0009】
類例として、Roy(103MPa、745〜900℃)、Mengeot(310MPa以上、390℃以上)、Suetsugu(54MPa、1400℃)らの研究例もあるが、圧力及び育成温度が高い点では同じである。
【特許文献1】特開平11−343198号公報
【特許文献2】特開平7−2505号公報
【非特許文献1】Arendsら、Journal of Crystal Growth 第46巻 P213−220(1979)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の点に鑑み、本発明は、より低圧・低温で水酸アパタイト結晶を生成できる方法を提供することを目的とする。
【0011】
ここで、酸性という条件は、一般にはアパタイト製造には不適である。したがって、特許文献2(特開平7−2505号公報)に開示されるように、溶液をアルカリ性に保って結晶を生成するのが一般である。
【0012】
本発明者は、一般的な手法とは異なる新たな手法を模索すべく鋭意研究し、低圧・低温での水酸アパタイト結晶の生成に成功し、本発明の完成に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る水酸アパタイト結晶の製造方法は、重合リン酸とカルシウム塩に水を加え、又は、カルシウム塩に重合リン酸水溶液を加え酸性溶液として合成を開始し、重合リン酸の加水分解に伴うリン酸イオンの放出、キレート能力の減弱に伴うカルシウムイオンの放出によりアパタイト結晶を生成するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の説明により明らかなように、従来よりも圧倒的に低圧・低温でアパタイト結晶を生成できるため、合成装置の規模を縮小し、廉価に構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
本発明に係る水酸アパタイト結晶の製造方法は、重合リン酸とカルシウムイオンとの混和物に水を加え酸性溶液として合成を開始し、重合リン酸の加水分解に伴うリン酸イオンの放出、キレート能力の減弱に伴うカルシウムイオンの放出によりアパタイト結晶を生成するものである。
【0017】
好ましくは、育成温度を200℃とし、かつ圧力を1.5MPaとする。勿論、これらの数値は例示に過ぎず、本発明は、これらの数値のみに限定されない。
【0018】
また好ましくは、重合リン酸はポリリン酸及び縮合リン酸の少なくとも一方を含み、カルシウムイオンは酸化カルシウムにより供給されるようにする。
【0019】
重合リン酸は、化学的手法又は生物学的手法のいずれによるものでも良く、代表的には、ポリリン酸又は縮合リン酸の少なくとも一種を含む。
【0020】
カルシウムイオンは、酸化カルシウム、水酸化カルシウムなどにより供給されるのが好ましい。
【0021】
本方法の基本は、重合リン酸とカルシウムイオンの混和物に、水を加えて反応させアパタイトを製造する点にあるが、溶液が酸性の状態で合成が開始する点に特徴がある。
【0022】
ポリリン酸は鎖状にリン酸が結合したもので、加熱、フォスファターゼにより鎖の端の部分から加水分解され、リン酸イオンを供給し、カルシウムと結合してアパタイト形成が進行する。
【0023】
アパタイト形成に適切な条件(アルカリ性)を最初から与えてしまえば、カルシウムとリン酸はただちに結合を始め、微細な結晶として沈殿する。このため結晶は大きく発育することができない。
【0024】
本法は、敢えてアパタイト形成に不適な酸性条件から合成を開始するので、カルシウムとリン酸がただちに開始直後に結合を始めることはない。しかしながら、その後、ポリリン酸の加水分解により反応が進行し、PHは上昇していく。
【0025】
本法では育成温度200℃、1.5MPa、育成期間1〜7日にて長径0.1mmから最大5mmの柱状アパタイト結晶を得られる。
【0026】
合成の起点材料のリン酸供給には、リン酸水素アンモニウム、カルシウム源に塩化カルシウムなどの化学物質が良く用いられる。
【0027】
合成系に水酸アパタイトを構成しないイオン、例えば硝酸、塩酸、炭酸、アンモニウム、カリウム等が混入していると、イオン吸着能が高い水酸アパタイトの骨格に入り込み排除することは困難となる。
【0028】
本法の合成系には、リン酸とカルシウムと水以外は不要であり、合成の基点が酸性溶液から開始されるためアルカリ溶液には強力に吸収される大気中の炭酸ガスを排除できる効果もある。
【0029】
ポリリン酸の多価金属イオンのキレート吸着能力は広く知られており、取り込みたいイオンをあらかじめポリリン酸とキレートさせておき、このポリリン酸を合成基点としてもよい。
【0030】
例えば、放射性物質(放射性ストロンチウム、放射性セシウム等)で汚染された水から、放射線物質を吸着させて水から取り除き、アパタイト合成することによって、放射性物質が骨格に閉じ込められたアパタイトが生成する。生成されたアパタイトは固体であるから、取り扱いが容易であり、PHが中性域からアルカリ性域まで安定している。
【0031】
本発明の水酸アパタイト結晶の製造方法は、簡便で低温低圧条件であるため、各種分野での応用範囲が広いアパタイトを製造できる。
【0032】
以下、写真及びグラフ等を示しながら、各実施例を説明する。
(実施例1)
本例では、上述したように、育成温度200℃、1.5MPa、育成期間1〜7日による。
【0033】
図1は、本発明の実施例1によるアパタイト結晶を示す100倍顕微鏡写真であり、図2は、本発明の同アパタイト結晶をマクロ撮影した写真である。
【0034】
図1図2により、長径0.1mmから最大5mmの柱状アパタイト結晶が得られている点が分かる。
【0035】
(実施例2)
本例では、2.5gの酸化カルシウムに2gのポリリン酸と10mlの水を加え、攪拌ののち1週間200℃の電気炉で係留し、水洗ののち乾燥させた。
【0036】
図3は、本発明の実施例2による乾燥後のSEM像である。図3の視野全体のCa/Pのモル比は2.3であるが、図3中央の結晶の点分析ではCa/Pのモル比が1.36である。
【0037】
図3の結果を分析すると、水酸化カルシウムと水酸アパタイトとが混在していることが分かった。結晶は明瞭な六角柱形状を成しており、合成系にカルシウムとリン酸イオンと水、最終的にアルカリ性水であったため、柱状の水酸アパタイト結晶が得られている。
【0038】
結晶単独を拾い出して顕微ラマンで測定すると水酸アパタイトの結晶であることが分かった。なお、図3に示された細かい粉末は水酸化カルシウムとして混在しているものと考えられる。
【0039】
(実施例3)
本例では、ポリリン酸を2グラム、酸化カルシウムを所定グラム混和し、水を10CCいれて24時間200℃で水熱合成を行った。
【0040】
図4は、本発明の実施例3において酸化カルシウムを3グラム混和した場合の写真、図5は、同場合のX線回折図形を示すグラフである。
【0041】
図6は、本発明の実施例3において酸化カルシウムを2.5グラム混和した場合の写真、図7は、同場合のX線回折図形を示すグラフである。
【0042】
図8は、本発明の実施例3において酸化カルシウムを1.5グラム混和した場合の写真、図9は、同場合のX線回折図形を示すグラフである。
【0043】
図4図6により分かるように、酸化カルシウムが3グラム又は2.5グラムのものでは棒状の結晶が多く存在する。
【0044】
また図8により分かるように、酸化カルシウムが1.5グラムのものでは板状の結晶が多く存在する。
【0045】
図5図7及び図9に示したX線回折の分析によると、棒状の結晶はハイドロキシアパタイトであり、板状の結晶はモネタイトと考えられる。
【0046】
(実施例4)
本例では、2.5グラムの酸化カルシウム、2グラムのポリリン酸で5日間200℃で水熱合成を行った。図10は、本発明の実施例4におけるX線回折図形等を示すグラフである。
【0047】
5日間のうちの第1日目では、アパタイト以外のリン酸カルシウム成分が見られたが、その成分はその後消え、水酸化カルシウムが残留している。
【0048】
図11は、本発明の実施例4において酸化カルシウムを2.4グラムとした場合であり、5日目に撮影したSEM写真である。柱状の結晶が多く分布するのが理解されよう。
【0049】
(実施例5)
本例では、2グラムの酸化カルシウムに2グラムのポリリン酸に10mlの水を加え、育成温度200℃で1日経過したものである。
【0050】
図12は、本発明の実施例5における視野全体を示す写真、図13は、図12の棒状結晶の部分に着目する写真、図14は、図12の下側の板状結晶の部分に着目する写真、図15は、図12の上側の板状結晶の部分に着目する写真である。
【0051】
図12に示す視野全体を元素分析すると、視野全体においてCa/Pのモル比は1.43であり、立方体の結晶にはリンが含まれていないことが分かった。
【0052】
図13に示す棒状結晶の部分では、Ca/Pのモル比が1.75であり、図14に示す下側の板状結晶の部分では、Ca/Pのモル比が1.47であり、図15に示す上側の板状結晶の部分では、Ca/Pのモル比が0.957である。
【0053】
(実施例5)
巨大な結晶を求めなければ、次のような手法も有効である。即ち、重合リン酸の加水分解は、70℃あるいはそれ以下の低温でも生じ、アパタイトそのものを生成できる。但し、低品位のリン酸カルシウムが含まれ結晶の大きさは、実施例1〜4よりも小さくなる。
【0054】
しかしながら、小径であっても、歯磨きに含有させたり、市販の微粒子の代用品として実用になりうるし、製造コストも従来法よりも低廉にすることができる。
【0055】
さらには、生体中のフォスファターゼ(骨が生体中で形成される箇所に存在する。)等のような重合リン酸の分解酵素の存在下では、さらに低温(例えば体温等)でも重合リン酸の加水分解が生じ、同様のアパタイトを生成できる。
【0056】
このようなアパタイトは、結晶化の程度が低いが、反応活性が高く不安定なため、体内で壊れて吸収されやすい性質を有する。このため、例えば、骨充填材料としての用途に好適に使用できるという利点がある。
【0057】
以上のように実施例5によれば、小径ではあるが有用なアパタイトを従来法よりも、大幅に容易かつ安価に生成できるメリットがある。なお、実施例5において、特に言及していない点は、実施例1と同様である。
【0058】
実施例1〜5のいずれにおいても、紫外線の存在下においてポリリン酸を分解させてアパタイト結晶を生成しても良い。生成速度は低いが、立体造形が可能である。より具体的には、3次元プリンタを用いて、光化学的に結晶化を発生させ、骨や歯の形状を立体構築することもできる。また、合成系においてフッ素を添加すると、反応を加速することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】本発明の実施例1によるアパタイト結晶を示す100倍顕微鏡写真
図2】本発明の同アパタイト結晶をマクロ撮影した写真
図3】本発明の実施例2による乾燥後のSEM像
図4】本発明の実施例3において酸化カルシウムを3グラム混和した場合の写真
図5】同場合のX線回折図形を示すグラフ
図6】本発明の実施例3において酸化カルシウムを2.5グラム混和した場合の写真
図7】同場合のX線回折図形を示すグラフ
図8】本発明の実施例3において酸化カルシウムを1.5グラム混和した場合の写真
図9】同場合のX線回折図形を示すグラフ
図10】本発明の実施例4におけるX線回折図形等を示すグラフ
図11】本発明の実施例4において酸化カルシウムを2.4グラムとした場合であり5日目に撮影したSEM写真
図12】本発明の実施例5における視野全体を示す写真
図13図12の棒状結晶の部分に着目する写真
図14図12の下側の板状結晶の部分に着目する写真
図15図12の上側の板状結晶の部分に着目する写真
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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