(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
図1〜
図3は、実施の形態1に係る縫目のほつれ止め装置の要部の構成を略示する上方からの平面図である。図示の装置は、二重環縫いミシン、偏平縫いミシン等、二重環縫いの縫目を形成するミシンに装備されるものである。以下の説明では、
図1中に矢符により示した「左,右」及び「前,後」を使用する。
【0017】
ミシンは、ルーパ1と2本の針2,2(
図6〜
図14参照)とを備えている。針2,2は、針棒駆動機構の動作により上昇及び下降する。
図1〜
図3中のA,Aは、針2,2の下降位置(針落ち位置)を示している。針落ち位置A,Aは、針板Pの略中央において、左右方向に間隔を隔てて設定してある。
【0018】
ルーパ1は、ルーパ駆動機構の動作により針2,2(針落ち位置A,A)の並び方向に進退(左進及び右退)動作する。
図1には、左進位置にあるルーパ1を実線により示し、右退位置にあるルーパ1を破線により示してある。左進位置にあるルーパ1の先端は、針落ち位置A,Aを超えて左方向に延出し、右退位置にあるルーパ1の先端は、針落ち位置A,Aの右方に離れて位置する。
【0019】
ミシンは、針2,2の上昇及び下降動作と、ルーパ1の左進及び右退動作とにより、針板P上の縫製生地(図示を省略する)を縫製する。縫製生地は、針板P上に押え金 (図示を省略する)により押えられ、ミシンベッドの内部に設けた送り機構の動作により、後方向(
図1中に白抜矢符にて示す方向)に送り移動する。送り機構は、針板P上に突出して後方向に移動し、針板P下に埋没して前方向に復帰移動する動作を繰り返す送り歯を備えている。縫製生地は、送り歯が針板P上に突出している間にのみ移動力を加えられ、間欠的に送り移動せしめられる。
【0020】
針棒駆動機構、ルーパ駆動機構及び送り機構は、ミシン主軸からの伝動により互いに同期して動作する公知の機構である。針2,2は、各別に針糸6,6(
図6〜
図14参照)を保持し、縫製生地が送り移動を略停止している間に、該縫製生地を貫通して針板P下に達し、その後に上昇して縫製生地の上方に抜け出す。ルーパ1は、ルーパ糸7(
図6〜
図14参照)を保持し、針2,2の上昇開始に合わせて左進し、針板P下に形成される針糸6,6のループを捉える。縫製生地は、針2,2の上昇時に送り移動する。針2,2は、送り移動した縫製生地を貫いて下降し、右退中のルーパ1が保持するルーパ糸7を捉える。ミシンは、以上の動作を繰り返し、縫製生地に二重環縫いの縫目を形成する。
【0021】
以上の如きミシンが備える縫目のほつれ止め装置は、糸掛けフック3及びストッパレバー4を備えている。糸掛けフック3は、針板Pの後側のミシンベッドの内部に、上下方向の支軸30を中心として揺動可能に支持してある。ストッパレバー4は、支軸30の後方に配した上下方向の支軸40を中心として揺動可能に支持してある。
【0022】
糸掛けフック3は、円弧形の湾曲形状を有しており、支軸30から後方に延びるアーム3aの端部に、左前方に折り返すように連設されている。糸掛けフック3の先端部は、左側後方から針落ち位置A,Aに臨ませてあり、該先端部には、外向きに突出するフック部3bが設けてある。糸掛けフック3の基部(アーム3aとの連設部)は、連結ロッド31を介して糸掛けソレノイド32に連結してある。糸掛けソレノイド32は、励磁電流の通電により所定角度の回転出力を得るように構成されたロータリソレノイドである。糸掛けソレノイド32は、糸掛けフック3の右後方位置に、出力端を上向きとして固定してある。糸掛けソレノイド32の出力端には、揺動アーム33が固定してあり。連結ロッド31は、糸掛けフック3の中途部と揺動アーム33の先端部とを連結している。
【0023】
図1は、糸掛けソレノイド32の消磁状態を示し、
図2は、糸掛けソレノイド32の励磁状態を示している。糸掛けソレノイド32が消磁状態にある場合、揺動アーム33は、
図1の揺動位置にある。糸掛けソレノイド32が励磁された場合、揺動アーム33は、
図1中に矢符により示すように時計回りに揺動し、
図2に示す揺動位置となる。揺動アーム33の揺動は、連結ロッド31を介して糸掛けフック3に伝わり、該糸掛けフック3は、
図1中に矢符により示すように、支軸30を中心として反時計回りに揺動し、糸掛けフック3の先端のフック部3bは、
図2に示すように、左右の針落ち位置A,Aの間に位置する。このように糸掛けフック3は、糸掛けソレノイド32の励磁に応じて、
図1に示す待機位置から
図2に示す糸掛け位置にまで揺動する。糸掛けソレノイド32は、フックアクチュエータに相当する。
【0024】
ストッパレバー4は、中間部を支軸40により支え、前方を凹として湾曲するアーチ形状を有している。右前方に延びるストッパレバー4の基部は、連結ロッド41を介してストッパソレノイド42に連結してある。ストッパソレノイド42は、糸掛けソレノイド32と同様のロータリソレノイドであり、ストッパレバー4の右方に離れた位置に出力端を上向きとして固定してある。ストッパソレノイド42の出力端には、揺動アーム43が固定してあり。連結ロッド41は、ストッパレバー4の基部と揺動アーム43の先端部とを連結している。
【0025】
図1は、ストッパソレノイド42の消磁状態を示している。ストッパソレノイド42が消磁状態にある場合、揺動アーム43は、
図1の揺動位置にある。ストッパソレノイド42が励磁された場合、揺動アーム43は、
図1中に矢符により示すように時計回りに揺動する。揺動アーム43の揺動は、連結ロッド41を介してストッパレバー4に伝わり、該ストッパレバー4は、
図1中に矢符により示すように、支軸40を中心として時計回りに揺動する。
【0026】
ストッパソレノイド42が消磁状態にある場合、ストッパレバー4の左前方に延びる先端部4aは、
図1に示すように、待機位置にある糸掛けフック3の一部に重なる。糸掛けフック3は、ストッパレバー4の重なり部の後位置に、前側を上げるように設けた段部3cを有している。ストッパレバー4の先端部4aは、段部3cの前位置で糸掛けフック3の下位置に重なることができる。またストッパレバー4は、支軸40と基部との間に段部4bを有している。段部4bは、後側を上げるように設けられ、
図1に示すように、連結ロッド31の下位置での交叉を可能としている。
【0027】
糸掛けフック3が前記糸掛け位置に揺動する際、ストッパソレノイド42は消磁状態にある。ストッパレバー4は、糸掛けフック3により押されて反時計回りに揺動し、糸掛けフック3の揺動を可能とする。ストッパレバー4は、糸掛けフック3の通過後、
図2中に実線により示す位置(拘束位置)となる。なお、糸掛けフック3が糸掛け位置に揺動する際には、糸掛けソレノイド32と共にストッパソレノイド42を励磁し、ストッパレバー4を
図1中に2点鎖線にて示す位置(退避位置)に移動させてもよい。この場合、糸掛けフック3は、ストッパレバー4に干渉せずに揺動することができる。ストッパレバー4は、糸掛けフック3の揺動完了後、ストッパソレノイド42を消磁することで拘束位置となる。拘束位置にあるストッパレバー4の先端部4aは、糸掛けフック3の中途部に外向きに突設された止め部3dの後側に対向する。糸掛けフック3の止め部3dは、前記段部3cの後側に設けてあり、ストッパレバー4の先端部4aと同一の高さ位置にある。
【0028】
図2に示す状態で糸掛けソレノイド32が消磁された場合、揺動アーム33は、
図2中に矢符により示すように反時計回りに揺動し、糸掛けフック3は、時計回りに揺動する。この揺動は、糸掛けフック3の止め部3dがストッパレバー4の先端部4aに当たることで拘束され、糸掛けフック3は、
図3に示す保持位置において停止する。このとき糸掛けフック3の先端のフック部3bは、
図2に示す糸掛け位置(左右の針落ち位置A,Aの間)から、
図3に示す保持位置(左側の針落ち位置Aの後方)に移動し、後述するように、左側の針2の針糸6を引っ掛けて
図3に示す位置で保持する。糸掛けフック3のフック部3bは、図示のように、面取りされた角部を有しており、以上の如き移動の間に接触する針糸6,6及びルーパ糸7の損傷を防止している。
【0029】
図3に示す状態でストッパソレノイド42が励磁された場合、
図3中に矢符により示すように、揺動アーム43が反時計回りに揺動し、ストッパレバー4は時計回りに揺動する。ストッパレバー4の先端部4aは、
図3中に2点鎖線にて示す位置に移動し、糸掛けフック3の止め部3dから外れる。糸掛けフック3は、拘束が解除されることで、
図1に示す待機位置に復帰する。ストッパレバー4は、ストッパソレノイド42を消磁することで、
図1に示す位置に戻る。ミシンによる前述した縫製は、この状態で行われる。ストッパソレノイド42は、ストッパアクチュエータに相当する。
【0030】
糸掛けフック3は、糸掛けソレノイド32及びストッパソレノイド42を選択的に励磁することで、前述した待機位置、糸掛け位置及び保持位置となる。実施の形態1の装置においては、縫製終了時に糸掛けフック3を動作させることで、後述するほつれ止め方法を実行する。
【0031】
ミシンは、更に、糸切り機構5を備えている。糸切り機構5は、糸切りフック50と糸切りメス51とを備えている。糸切りフック50は、ルーパ1の右側に、該ルーパ1の上位置で左右方向に進退動作可能に支持してある。糸切りメス51は、糸切りフック50の上部に弾接する平板状の部材であり、左側に向けた端縁に刃を有している。
【0032】
糸切りフック50は、
図1に示すように、先端の一部を糸切りメス51の刃部から突出させた初期位置にある。糸切りフック50は、先端部の近くに設けた第1のフック部52と、中途部に設けた第2のフック部53とを備えている。第1,第2のフック部52,53は、後方に向けて突設されており、第2のフック部53の突設位置は、第1のフック部52の突設位置よりも幅広としてある。
図1には、糸切りメス51の下位置に重なる第1,第2のフック部52,53を破線により示してある。
【0033】
糸切りフック50及び糸切りメス51は、共通の基台54に取り付けてある。基台54は、右側端部の上下方向の支軸 54aを中心として揺動可能である。基台54の中途部には、揺動レバー55が連結してある。糸切りフック50及び糸切りメス51は、揺動レバー55の動作に応じて基台54と共に揺動し、
図1〜
図3に示す糸切り位置と、該糸切り位置の後側の退避位置との間で移動する。糸切り位置にある糸切りフック50の先端部は、ルーパ1の右側上部に位置する。糸切りフック50及び糸切りメス51は、縫製中には、ルーパ1の進退動作を阻害しないように退避位置に移動する。
【0034】
糸切りフック50は、糸切りメス51の右方に延びる延長部を有し、この延長部は、基台54をガイドとして左右方向に摺動するスライダ56を介して糸切りレバー57の一端部に連結されている。糸切りレバー57は、上下方向の支軸 57aを中心として揺動可能であり、他端部に連結した糸切りアクチュエータ58(
図4参照)の動作により左右方向に揺動する。この揺動は、
図1に示すように、糸切りフック50及び糸切りメス51が糸切り位置にある状態で生じ、糸切りフック50は、スライダ56と共に左進動作した後に右退動作する。
【0035】
図4は、以上のような縫目のほつれ止め装置を備えるミシンの制御系のブロック図である。ミシンの制御部8には、ペダルスイッチ21が発する踏み込み信号 21a及び踏み返し信号 21bと、針2,2が上死点近傍にある時に発せられる針位置信号22と、後述の如く発せられる糸切り信号23及び針糸払い信号24とが夫々入力されている。
【0036】
一方制御部8の出力は、前述した糸掛けソレノイド32、ストッパソレノイド42及び糸切りアクチュエータ58に夫々与えられており、糸掛けフック3及びストッパレバー4は、制御部8から糸掛けソレノイド32及びストッパソレノイド42に夫々与えられる動作指令に従って前述の如く動作し、糸切りフック50は、制御部8から糸切りアクチュエータ58に与えられる動作指令に従って前述の如く進退動作する。
【0037】
更に制御部8の出力は、ミシン主軸の駆動源であるミシンモータ26、布押え用の押え金を昇降する布押えシリンダ27、後述の如く切断される針糸6,6を跳ね上げるエアワイパ28、及び縫製生地の送り量を調整する送り低減機構29に夫々与えられている。ミシンモータ26は、制御部8からの動作指令に従って駆動又は停止され、また布押えシリンダ27、エアワイパ28及び送り調整機構29は、制御部8からの動作指令に従って動作する。
【0038】
送り低減機構29は、送り機構の送り歯の動作態様を変えることで縫製生地の送り量を小さくする公知の機構である。送り歯の動作態様の変更は、例えば、該送り歯の動作経路を針板Pに対して傾けることで針板P上への突出時間を短くするように実施される。これにより、送り歯が縫製生地に移動力を加える時間が短くなり、該縫製生地の送り量は小さくなる。
【0039】
図5は、制御部8の動作内容を示すタイムチャートである。制御部8は、CPU、ROM及びRAMを備えるコンピュータであり、
図5のタイムチャートに従うほつれ止め動作は、ROMに格納された制御プログラムに従うCPUの一連の動作により実行される。
図6〜
図14は、縫目のほつれ止め装置の動作説明図であり、
図5のタイムチャートに従う制御部8の動作の間に生じる糸掛けフック3及び糸切りフック50の動作状態を示している。
【0040】
ミシンを使用する縫製作業者は、縫製生地の縫製を終了する際、ミシン駆動のためのペダルの踏み込み操作を止め、その後にほつれ止め動作を実行する場合には、前記ペダルを踏み返し操作する。ペダルスイッチ21は、前記ペダルに付設してあり、踏み込み操作中に踏み込み信号 21aを出力し、踏み返し操作がなされたとき踏み返し信号 21bを出力する。
【0041】
制御部8は、縫製生地の縫製が終了し、
図5のS1 時点において、ミシン駆動のためのペダルが踏み込み状態から中立状態に戻されたとき、即ち、ペダルスイッチ21から踏み込み信号 21a及び踏み返し信号 21bのいずれもが与えられない状態となったとき、入力側に与えられる針位置信号22を参照して出力側のミシンモータ26に停止指令を発し、針2,2が上死点近傍にあってルーパ1が左進した状態でミシンを一時停止させる。
【0042】
その後制御部8は、前記ペダルが踏み返し操作されるまで待機し、
図5のS2 時点において踏み返し操作がなされ、入力側に踏み返し信号 21bが与えられることを条件として、以下に示すほつれ止め動作を開始する。なお制御部8は、ペダルスイッチ21から踏み込み信号 21aが再入力された場合、通常縫製動作に復帰する。縫製作業者は、ペダルを再度踏み込み操作することで通常縫製を継続することができる。
【0043】
なお
図5においては、S1 時点からS2 時点までの間に中立状態が維持されることとなっているが、このような中立状態の維持は必須の操作ではなく、縫製終了時のペダルの操作は、踏み込み状態から踏み返し状態に連続的に移行するようになされてもよい。この場合、移行の過程で中立位置を通過する際、踏み込み信号 21a及び踏み返し信号 21bのいずれもが与えられない無信号状態が存在し、制御部8は、このような無信号状態をトリガとし、前述の如く、針2,2が上死点近傍に上昇し、ルーパ1が左進端にまで進出した状態を実現した後にほつれ止め動作を開始する。
【0044】
また
図5のタイムチャートでは、S2 時点においてなされるペダルの踏み返し操作が、以下に示すほつれ止め動作の実行中に継続されることとなっているが、このような踏み返し操作の継続も必須ではなく、制御部8のほつれ止め動作は、踏み返し信号 21bの入力停止後も継続して実行される。
【0045】
図6は、ほつれ止め動作の開始時における針2,2及びルーパ1の状態を示している。針2,2は、2本の針糸6,6とルーパ糸7とで二重環縫いの縫目Mが形成された縫製生地の上方に抜け出した状態にある。ルーパ1は、前記縫製生地の下側で左進し、針糸6,6が夫々形成する2つの針糸ループを捉えた状態にある。この状態で、針糸6,6及びルーパ糸7を切断すると、
図22(a)に示すような縫い終わり部が形成される。
【0046】
ほつれ止め動作の開始後、制御部8は、まず出力側の糸掛けソレノイド32に動作指令を与え、該糸掛けソレノイド32を短時間励磁する。糸掛けフック3は、糸掛けソレノイド32の励磁により、
図1に示す待機位置から糸掛け位置に移動する。この移動は、前述したように、ストッパレバー4の先端部4aを左向きに押し拡げつつ生じる。
【0047】
ストッパレバー4は、糸掛けフック3が通過した後、復帰ばね(図示を省略する)のばね力の作用により、
図2中に実線にて示す拘束位置に移動する。糸掛けフック3は、糸掛けソレノイド32の消磁により、時計回りに復帰揺動する。この揺動は、糸掛けフック3の止め部3dが拘束位置にあるストッパレバー4の先端部4aに当たることで拘束され、糸掛けフック3は、
図3に示す保持位置にて停止する。
【0048】
図7には、糸掛け位置に移動した糸掛けフック3の先端部が図示してある。前述した如く糸掛けフック3の先端のフック部3bは、ルーパ1の左側からルーパ糸7の下を通り、左右の針落ち位置A,Aの間にまで達し、ルーパ1の後側で左側(ルーパ1の進出端側)の針糸ループを超えて位置する。
図8には、保持位置に移動した糸掛けフック3の先端部が図示してある。糸掛けフック3の先端のフック部3bは、糸掛け位置から右後方に移動し、この移動の間に左側の針糸ループを捉えて保持する。
【0049】
以上の如く糸掛けフック3を動作させた後、制御部8は、
図5のS3 時点において、出力側のミシンモータ26及び送り低減機構29に動作指令を与える。この動作指令は、針位置信号22を参照し、針2,2が下降した後に上昇し、再度上死点近傍に位置するまでの間与えられる。これにより縫製生地は、一針分縫製される。この縫製は、送り低減機構29が動作することにより、通常縫製時よりは小さい送り量の下で実行される。
【0050】
またこの間、制御部8は、ストッパソレノイド42に短時間の動作指令を与え、該ストッパソレノイド42を短時間励磁する。この励磁によりストッパレバー4は、
図3中に実線にて示す拘束位置から、2点鎖線により示す退避位置に移動し、糸掛けフック3の拘束を解除する。これにより糸掛けフック3は、保持位置から待機位置に復帰する。
【0051】
図8〜
図12は、この動作の間に実現される状態が順に示されている。縫製生地の送り移動は、下降する針2,2が貫通する前に完了する。糸掛けフック3は、縫製生地の送りが完了するまで保持位置を維持し、
図8に示すように、左側の針糸ループを保持した状態にある。針2,2は、この状態で縫製生地を貫通して下降する。このとき、
図8に示すように、右側の針2は、ルーパ1の後側でルーパ糸7を捉える。一方、左側の針2は、ルーパ1の後側でルーパ糸7を捉えると共に、糸掛けフック3が保持する針糸ループ内を通り、該針糸ループを捉える。
【0052】
糸掛けフック3は、左側の針2が針糸ループを捉えたタイミングで、ストッパレバー4の拘束が解除されることにより待機位置に移動し、
図9に示すように、針糸ループの保持を解除する。ルーパ1は、針2,2の下降と共に右退動作しており、
図10に示すように針糸ループから外れる。このとき、右側の針2は、ルーパ糸7だけを捕捉するのに対し、左側の針2は、ルーパ糸7と共に、針糸6のループを捕捉した状態となる。
【0053】
この状態でルーパ1は、左進に転換し、針2,2は、上昇に転換する。
図11に示すように、左進するルーパ1は、針2,2の夫々が保持する針糸6,6のループを捉え、上昇する針2,2は、縫製生地の上方に抜け出す。これにより、ルーパ1が捉えた右側の針糸6は、ルーパ糸7だけを他糸ルーピングした状態となるのに対し、左側の針糸6は、ルーパ糸7を他糸ルーピングすると共に、先に生じた針糸6のループを自糸ルーピングした状態となる。
【0054】
一針分の縫製動作は、
図12に示すように、針2,2が上死点近傍まで上昇し、ルーパ1が左進端に達した状態で終了する。その後制御部8は、糸切り信号23が与えられるまで待機し、
図5のS4 時点において糸切り信号23が与えられると、出力側の糸切りアクチュエータ58に動作指令を与え、該糸切りアクチュエータ58に所定の動作を行わせる。これにより糸切りフック50は、左進した後に右退動作する。
【0055】
左進する糸切りフック50は、ルーパ1の上部に沿って
図13に示す進出端にまで達する。このとき、糸切りフック50先端の第1のフック部52は、ルーパ1の先端から延びるルーパ糸7に右側から対向し、糸切りフック50の中途部に設けた第2のフック部53は、ルーパ1が保持する針糸6,6のループ内を通り、右側の針糸6のループに右側から対向した状態となる。
【0056】
糸切りフック50は、進出端に達した後に右退動作する。このとき、第1のフック部52はルーパ糸7を捕捉し、また第2のフック部53は、2本の針糸6,6を捕捉する。このように捉えられたルーパ糸7及び針糸6,6は、糸切りフック50の退入端にまで引かれる。このとき、第2のフック部53に捉えられた針糸6,6は、糸切りメス51の先端の刃部に摺接することで切断され、また第1のフック部52に捉えられたルーパ糸7は、同様に糸切りメス51の先端の刃部に摺接することで切断されると共に、この切断位置よりもルーパ1側にて保持される。糸切りフック50及び糸切りメス51を備える糸切り機構5は、以上の動作により針糸6,6及びルーパ糸7を切断する。
【0057】
図13,
図14に示すように、糸切りフック50は、下面の前側に弾接する板ばね59のばね力により糸切りメス51との摺接部に押し付けられており、糸切りメス51による針糸6,6及びルーパ糸7の切断は、前記板ばね59による押し付け下にて確実になされる。糸切りフック50の先端に設けた第1のフック部52に捕捉されたルーパ糸7は、
図14に示すように、切断後においても、糸切りフック50の下面と板ばね59との間に挟まれた状態で保持される。第2のフック部53に捕捉された針糸6,6は、切断後、二重環縫いの縫目Mの末端及び針2,2の側に分離する。
【0058】
以上のように切断動作を終えた後、制御部8は、針糸払い信号24が与えられるまで待機し、
図5のS5 時点において針糸払い信号24が与えられると、出力側のエアワイパ28に動作指令を発し、該エアワイパ28を動作させる。エアワイパ28は、空気を吹き出し、針2,2側に連続する針糸6,6の切断端を跳ね上げる。その後制御部8は、
図5のS6 時点において出力側の布押えシリンダ27に動作指令を発し、該布押えシリンダ27を動作させて布押え用の押え金を上昇させて、ほつれ止めのための一連の動作を終える。
【0059】
これにより作業者は、縫製を終えた生地を針板P上から取り外し、新たな縫製生地をセットして次回の縫製を開始することができる。このときルーパ糸7は、糸切りフック50と糸切りメス51とにより針板Pの下で保持され、また針糸6,6は、針板P上に跳ね上げられて、
図14に示すように、各別の針2,2から垂れ下がった状態にある。従って、作業者は、針糸6,6及びルーパ糸7に対して何らの始末を要することなく次回の縫製を開始することができる。
【0060】
なお、糸切り機構5による針糸6,6及びルーパ糸7の切断、エアワイパ28の動作による針糸6,6の跳ね上げ、及び布押えシリンダ27を動作による押え金の上昇は、必須の動作ではない。また実施の形態においてこれらの動作は、外部から与えられる糸切り信号23及び針糸払い信号24を待って実施するようにしてあるが、ほつれ止めのための一針分の縫製を終えた後の一連の動作として実施してもよい。
【0061】
図15は、実施の形態2に係る縫目のほつれ止め装置の要部の構成を略示する上方からの平面図、
図16は、同じく下方からの平面図、
図17、
図18は、同じく動作説明図である。以下の説明では、
図15、
図16中に矢符により示した「左,右」及び「前,後」を使用する。
【0062】
実施の形態2の縫目のほつれ止め装置は、糸掛けフック3及びストッパレバー4を備えており、更に揺動レバー9を備えている。
図15に示すように、糸掛けフック3は、針板Pが取付けられた針板台10の上面に、上下方向の支軸34を中心として揺動可能に支持されている。支軸34は、針板Pの右後側で、該針板Pの近傍に位置している。
【0063】
糸掛けフック3は、円弧形の湾曲形状を有しており、支軸34から左方に延びる支持アーム3eの先端部に、前方に折り返すように連設されている。糸掛けフック3の先端部は、針板Pの下側において、左側後方から針落ち位置A,Aに臨ませてあり、該先端部には、外向きに突出するフック部3bが設けてある。支持アーム3eは、支軸34から前方にも延びており、この延設端には、連結ロッド35の一端部が連結されている。
【0064】
揺動レバー9は、針板台10の上面に、上下方向の支軸90を中心として揺動可能に支持されている。支軸90は、糸掛けフック3の支軸34から右方に離れて位置している。揺動レバー9は、支軸90から前方に延びており、該揺動レバー9の先端部には、前記連結ロッド35の他端部が連結されている。
【0065】
揺動レバー9は、先端部近傍の右側を下向きに折り曲げて一体形成された押し板91を備えている。
図16に示すように、針板台10の下面には、揺動レバー9の左側に糸掛けシリンダ92が固定してある。糸掛けシリンダ92は、右向きに突出する出力ロッド93を備えるエアシリンダである。出力ロッド93の先端は、押し板91に対向している。出力ロッド93は、エアチューブ94を介して糸掛けシリンダ92に供給される作動エアの作用により進出し、押し板91を右向きに押圧する。
【0066】
針板台10は、糸掛けシリンダ92の左側に、前向きに突設されたばね掛け棒95を備えており、該ばね掛け棒95と前記押し板91との間に戻しばね96が張架されている。戻しばね96は、押し板91を左方向に引っ張り付勢するコイルばねであり、連結ロッド35と糸掛けシリンダ92との間に配してある。
図15、
図17、
図18においては、連結ロッド35の中途部を破断して戻しばね96の一部を示してある。
【0067】
糸掛けシリンダ92が非作動状態にある場合、揺動レバー9は、戻しばね96のばね力により左方に引かれ、
図15に示す揺動位置となる。糸掛けフック3は、連結ロッド35を介して揺動レバー9に連結されており、
図15に示すように、先端のフック部3bが針落ち位置A,A(ルーパ1)の左後方に離れた待機位置にある。
【0068】
糸掛けシリンダ92が作動した場合、出力ロッド93が進出し、押し板91を右向きに押圧する。この押圧により揺動レバー9は、
図17中に矢符により示すように、戻しばね96のばね力に抗して反時計回りに揺動する。糸掛けフック3の支持アーム3eは、支軸34を中心として反時計回りに揺動し、糸掛けフック3は、
図17中に矢符により示すように、右前方に進出し、糸掛けフック3先端のフック部3bは、
図17に示すように、針落ち位置A,Aの近くの糸掛け位置に達し、実施の形態1におけると同様に、ルーパ1の後側で左側(ルーパ1の進出端側)の針糸ループを超えて位置する。
【0069】
図16に示すように、ストッパレバー4は、針板台10の下面に上下方向の支軸44を中心として揺動可能に支持されている。支軸44は、揺動レバー9の支軸90の近傍に位置する。ストッパレバー4は、支軸44から右方に延びている。ストッパレバー4は、先端部近傍の後側を下向きに折り曲げて一体形成された押し板45を備え、また前縁の中途部を切欠いてなる係合凹部46を備えている。
【0070】
針板台10の下面には、後端部近傍にストッパシリンダ47が固定されている。ストッパシリンダ47は、後向きに突出する出力ロッド48を備えるエアシリンダである。出力ロッド48の先端は、押し板45に対向している。出力ロッド48は、エアチューブ49を介してストッパシリンダ47に供給される作動エアの作用により進出し、押し板45を後向きに押圧する。
【0071】
針板台10の上面には、ばね掛け棒97が、ストッパシリンダ47の上側で右向きに突設されており、該ばね掛け棒97とストッパレバー4の先端部との間には戻しばね98が張架されている。戻しばね98は、ストッパレバー4の先端部を後方向に引っ張り付勢するコイルばねである。
図15、
図17、
図18においては、針板10の一部を破断して、戻しばね98とストッパレバー4との連結部を示してある。
【0072】
ストッパシリンダ47が非作動状態にある場合、ストッパレバー4は、戻しばね98のばね力により前方に引かれ、
図16に示すように、揺動レバー9の押し板91に前縁を押し当てた位置にある。この状態で糸掛けシリンダ92が作動した場合、押し板91は、ストッパレバー4の前縁に沿って右方に移動する。ストッパレバー4は、移動する押し板91が前縁に設けた係合凹部46に整合した時点で戻しばね98のばね力により引かれ、
図16における反時計回りに揺動し、
図17に示すように、係合凹部46の底面を揺動レバー9の押し板91に押し当てた状態となる。
【0073】
この状態で糸掛けシリンダ92が非作動状態となった場合、揺動レバー9は、戻しばね96のばね力により左方に引かれ、
図18中に矢符により示すように時計回りに揺動する。この揺動は、ストッパレバー4の係合凹部46内で押し板91が滑り移動し、該押し板91が係合凹部46の左側縁に係合する位置で拘束される。この時、糸掛けフック3の支持アーム3eは、支軸34を中心として時計回りに揺動し、糸掛けフック3は、
図18中に矢符により示すように左後方に後退移動する。糸掛けフック3先端のフック部3bは、
図18に示すように、前述した糸掛け位置の近くの保持位置に移動し、この移動の間に、実施の形態1におけると同様に左側の針糸ループを捉えて保持する。
【0074】
この状態でストッパシリンダ47が作動した場合、出力ロッド48が進出し、ストッパレバー4の押し板45を後向きに押圧する。この押圧によりストッパレバー4は、戻しばね98のばね力に抗して揺動する。ストッパレバー4に設けた係合凹部46は後方に移動し、押し板91との係合を解除する。これにより揺動レバー9は、戻しばね96のばね力の作用で時計回りに揺動し、糸掛けフック3は、保持位置から左後方に移動し、
図15に示す待機位置に戻る。ストッパレバー4は、ストッパシリンダ47が非作動状態となることで戻しばね98のばね力の作用により揺動し、
図15に示す揺動位置に復帰する。
【0075】
実施の形態2に係る縫目のほつれ止め装置において糸掛けフック3は、糸掛けシリンダ92及びストッパシリンダ47を選択的に動作させることで、待機位置と糸掛け位置と保持位置との間で移動し、実施の形態1と同様のほつれ止め方法を実施することができる。糸掛けシリンダ92は、フックアクチュエータに相当し、ストッパシリンダ47は、ストッパアクチュエータに相当する。
【0076】
実施の形態2に係る縫目のほつれ止め装置の前述した動作は、糸掛けシリンダ92及びストッパシリンダ47、より詳しくは、糸掛けシリンダ92及びストッパシリンダ47に作動エアを給排する給排弁を制御対象とし、
図4に示すように構成された制御部8が、
図5に示すタイムチャートと同様の制御動作を行うことで達成することができる。
【0077】
図19は、実施の形態1、2の縫目のほつれ止め装置により得られる縫い終わり部分の縫目構造を縫製生地の裏面から見た図であり、
図20、
図21は、
図19に示す縫目構造によるほつれ止め効果の説明図である。なおこれらの図は、縫製生地の裏面側から見た図であるため、
図6〜
図14とは、左右関係が逆となっているが、以下の説明では、
図6〜
図14における左,右を使用する。また
図19〜
図21において、縫製生地の送り移動の方向は白抜矢符にて示す方向であり、
図19〜
図21においては、上方が後、下方が前となる。
【0078】
図19に示すように、ルーパ糸7は、二重環縫いの縫目Mの最後に縫製生地の裏面に形成される右側(
図19においては左側)の針糸ループ6a(以下、右最終ループ6aという)内を通り、ほつれ止めのための一針分の縫製の際に縫製生地の裏面に抜け出す同側の針糸6の前で折り返し、右最終ループ6a内を再度通った位置で切断される。
【0079】
一方、一針分の縫製の際に縫製生地の裏面に抜け出す左側(
図19においては右側)の針糸6は、前述したように、通常縫製時の最後に縫製生地の裏面に形成される左側(
図19においては右側)の針糸ループ6b(以下、左最終ループ6bという)内を通り、該左最終ループ6bを自糸ルーピングし、単環縫いの縫目を形成する。従って、ルーパ糸7は、図示のように、左側の針糸6と左最終ループ6bとの間に押えられた状態となる。
【0080】
図19〜
図21において左最終ループ6bは、針糸6との絡みを明示するために緩んだ状態で示されているが、実際の左最終ループ6bは、針糸6が通った後に引き締められ、右最終ループ6aと同様の状態となる。従って、ルーパ糸7は、針糸6と左最終ループ6bとで強固に押えられ、図示のように、左最終ループ6bと、一回前に形成された左針糸ループ6cとの間に掛け渡された状態で拘束される。この拘束は、ルーパ糸7に加わる如何なる方向の作用力に対しても維持されるから、二重環縫いの縫目Mに特有のほつれの発生を、その発生段階にて確実に防止することができる。
【0081】
前述したように、一針分の縫製時における縫製生地の送りピッチは、通常縫製時における縫製生地の送りピッチよりも小さい。従って、
図19に示すように、一針分の縫製時における針糸6の抜け出し位置と左最終ループ6bとの間の間隔Lは、左最終ループ6bと一回前に形成された左針糸ループ6cとの間の間隔L
0よりも小さくなる。これにより、左側の針糸6と左最終ループ6bとの間でのルーパ糸7の押えは強化され、ルーパ糸7の抜けに起因するほつれの発生をより確実に防止することができる。
【0082】
ルーパ糸7の押えを強化するという観点から見た場合、前記間隔Lは、可及的に小さくするのが望ましい。一方、前記間隔Lが小さい場合、例えば、薄い縫製生地において、針糸6の抜け出し位置と左最終ループ6bとの間の強度が不足し、縫製生地の損傷を引き起こす虞れがある。それ故、前記間隔L、即ち、一針分の縫製時における縫製生地の送りピッチは、縫製生地の種類に応じて適正に設定する必要がある。
【0083】
図20は、ルーパ糸7の切断端部が、図中に矢符により示す向きに引っ張られた状態を示している。この引っ張りがなされた場合、前述のように、同側の針糸6の前を通るルーパ糸7のループが縮小し右最終ループ6a内に引き込まれる。この結果、針糸6は、ルーパ糸7と右最終ループ6aとの間に挟まれて
図20に示す状態となり、針糸6とルーパ糸7とにより、図示のような「結び目」が形成される。この「結び目」は、ルーパ糸7にも抵抗を加え、該ルーパ糸7の抜けを防止する作用をなすから、
図20に示す状態となった場合、二重環縫いの縫目のほつれは、左側の自糸ルーピング部と、右側の「結び目」との相乗作用により一層確実に防止することができる。
【0084】
以上のようなルーパ糸7の引っ張りは、該ルーパ糸7を切断する際、また針板P上から縫製生地を取り外す際に自然に生じるから、
図20に示す縫い終わり部の状態は、本発明に係るほつれ止め方法の実施の過程で、付加的な操作を必要とせずに実現される。
【0085】
一方、ルーパ糸7の切断端部は、
図20中の矢符と逆向きに引っ張られた場合、右最終ループ6aから抜け出し、
図21に示す状態となる。この場合においても、左最終ループ6bと針糸6とによる自糸ルーピングは維持され、ルーパ糸7の抜けは、自糸ルーピング部において阻止される。従って、縫い始めに向かうほつれの進行は、左側の自糸ルーピング部の位置で止まり、二重環縫いの縫目Mに特有のほつれの発生を防止することができる。
【0086】
なお以上の実施の形態においては、2本の針糸6,6とルーパ糸7とにより形成する二重環縫いの縫目構造について説明したが、本発明に係る縫目構造は、3本以上の針糸を使用する二重環縫いの縫目においても同様に実現でき、ほつれの発生を有効に防止することができる。
【0087】
また以上の実施の形態においては、2本の針糸6,6が形成する針糸ループのうち、ルーパ1の進出端側に位置する1つを捉え、この状態で1針分の縫製動作を行わせる場合について説明したが、捉える針糸ループは、ルーパ1の進出端側の1つを含む複数であってもよく、またこの保持状態で実施する縫製動作も、2針又はそれ以上であってもよい。