(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ESCAによる表面解析において、粒子表面から中心に向けて1nmの位置における炭素原子の1sに帰属されるピーク位置に対して、粒子表面から中心に向けて11nmの位置における前記ピーク位置が、0.08eV以上低エネルギー側にシフトしている請求項5記載の炭素被覆金属粉末。
レーザー回折式粒度分布測定の体積基準の積算分率における10%値、50%値、90%値をそれぞれD10、D50、D90としたとき、D50が300nm以下、(D90−D10)/(D50)で示されるSD値が1.5以下、
窒素−水素還元雰囲気中で、5℃/分の速度で室温から1200℃まで昇温させてTMA測定を行ったとき、式(1)で示されるXが50以下である請求項5乃至7のいずれか一項に記載の炭素被覆金属粉末。
X(%)=(X200℃/XMAX)×100 ・・・(1)
(式(1)において、XMAX:最大収縮率、X200℃:200℃の温度幅における最大収縮率と最小収縮率との差の最大値である。)
前記金属核析出工程では、前記炭素源の分解温度以上、(前記金属原料の沸点+当該沸点×10%)℃以下の位置に炭素源を供給する請求項10に記載の炭素被覆金属粉末の製造方法。
前記金属核析出工程は、前記反応容器から前記キャリアガスによって搬送される前記金属蒸気を間接的に冷却する間接冷却工程において行われることを特徴とする請求項10乃至14のいずれか一項に記載の炭素被覆金属粉末の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、具体的な実施形態に基づきながら本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を含む範囲を示す。
【0018】
本発明にかかる炭素被覆金属粉末は、金属粉末と、前記金属粉末を被覆する炭素被覆膜とを有するものであって、特に積層電子部品の内部導体(内部電極)や端子電極を形成するのに好適であるが、これに限られるものではなく、他の各種用途に用いてもよい。
【0019】
[炭素被覆金属粉末]
炭素被覆金属粉末の金属としては、特に制限はないが、卑金属が好ましく、ニッケル及び銅のうち少なくともいずれか一方を含む金属が特に好ましい。具体的には、金属粉末として、実質的にニッケルのみからなるニッケル粉末、実質的に銅のみからなる銅粉末、ニッケルと銅からなる粉末、が特に好ましい。ここで、「実質的にニッケルのみからなる」とは、金属粉末中にニッケルを98wt%より多く含むことをいう。同様に、「実質的に銅のみからなる」とは、金属粉末中に銅を98wt%より多く含むことをいう。ニッケルと銅からなる粉末としては、2〜20wt%の銅を含むニッケル粉末が特に好ましい。
【0020】
炭素被覆金属粉末は、レーザー回折式粒度分布測定の体積基準の積算分率における10%値、50%値、90%値をそれぞれD10、D50、D90としたとき、D50が300nm以下、(D90−D10)/(D50)で示されるSD値が1.5以下である。D50は好ましくは100nm以上300nm以下、さらに好ましくは150nm以上300nm以下である。また、SD値はできるだけ小さいことが望ましいが、製造上、コストの点から0.5以下とすることは困難である。
【0021】
炭素被覆膜の厚さは、TEMの観察像から求めることができ、2〜15nmが好ましい。上記範囲内であれば、焼結抑制効果が十分であり、かつ、焼成後に残存する炭素の量を低く抑えることができる。
【0022】
また、炭素被覆金属粉末の酸素含有量は、単位重量の炭素被覆金属粉末に対する酸素成分の重量比率で、粉末の比表面積1m
2/gあたり1500ppm以下、好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは800ppm以下であって、できるだけ少ないことが望ましいが、10ppm以下にすることは困難である。なお、比表面積はBET法で測定された比表面積である。例えば「粉末の比表面積1m
2/gあたり1500ppm以下」とは、炭素被覆金属粉末の比表面積をam
2/gとすると、炭素被覆金属粉末の単位重量に対して酸素含有量は(a×1500)ppm以下、すなわち炭素被覆金属粉末の表面積1m
2に対して1500×10
−6g以下ということである。
炭素被覆金属粉末に対して、粒径によっても異なるが、炭素含有量は0.5〜3.50wt%、酸素含有量が1wt%以下であってできるだけ少なく抑えることが望ましい。また、酸素を含む不純物含有量は3wt%以下に抑えることが好ましい。上記範囲内であれば、焼成後に残存する炭素及び不純物量が低く抑えられる。
【0023】
さらに、炭素被覆金属粉末は、窒素−水素還元雰囲気中で、5℃/分の速度で室温から1200℃まで昇温させて、熱機械分析(TMA)測定を行ったとき、式(1)で示されるXが50以下となる。
X(%)=(X
200℃/X
MAX)×100 ・・・(1)
ここで、室温とは、25〜30℃程度のことをいう。上記式(1)において、X
MAXは最大収縮率であり、室温から1200℃までの範囲における最大収縮率をいう。X
200℃は、200℃の温度幅における最大収縮率と最小収縮率との差の最大値であり、室温から1200℃の間で200℃の温度幅における最大収縮率と最小収縮率の差をそれぞれ求め、その差のうち最大となる値をいう。例えば、
図4、5を参照して説明すると、昇温温度に対する熱収縮率を表す曲線が最も急激に変化する200℃の温度幅における最大収縮率と最小収縮率との差が、X
200℃となる。すなわち、上記式(1)から算出されるX(%)は、室温から1200℃の範囲でどの程度急激に炭素被覆金属粉末が収縮したかを示す指標であり、値が大きくなればなるほど、より急激に収縮していることが分かる。
【0024】
X
MAXは19.5%未満であることが好ましい。また、X
200℃における200℃の温度幅をT〜(T+200)℃としたとき、T℃>400℃であること好ましい。すなわち、最大収縮率と最
小収縮率の差が最大となる200℃の温度幅の開始温度が400℃より大きいことが好ましい。また、室温から400℃までの範囲における最大収縮率をX’
MAXとしたとき、X’(%)=(X’
MAX/X
MAX)×100で示されるX’が30以下であることが好ましく、さらに好ましくは25以下である。これにより、炭素被覆金属粉末を含有する導電性ペーストで形成された導体層をセラミックシートと同時に焼成する場合の焼結挙動のずれによる欠陥が生じにくくなる。
【0025】
[炭素被覆金属粉末(炭素被覆ニッケル系粉末)]
炭素被覆金属粉末が、ニッケル系粉末と、このニッケル系粉末を被覆する炭素被覆膜とを有する炭素被覆金属粉末であって、ESCAによる表面解析により以下の特性を有する炭素被覆金属粉末について説明する。ここでは、より分り易く説明するために、炭素被覆金属粉末を「炭素被覆ニッケル系粉末」と記載する。
【0026】
「ニッケル系粉末」とは、実質的にニッケルのみからなる、又はニッケルを主成分とするニッケル系粉末である。ここで、「実質的にニッケルのみからなる」とは、金属粉末中にニッケルを98wt%より多く含むことをいう。また、「ニッケルを主成分とする」とは、金属粉末中にニッケルを50wt%より多く含むことをいう。ニッケルを主成分とするニッケル系粉末としては、銅を含有するニッケル粉末、特には銅を2〜20wt%含むニッケル粉末が好ましい。
【0027】
炭素被覆ニッケル系粉末は、当該炭素被覆ニッケル系粉末の酸素含有量が、単位重量の炭素被覆金属粉末に対する酸素成分の重量比率で、粉末の比表面積1m
2/gあたり1500ppm以下、好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは800ppm以下であって、できるだけ低いことが望ましいが、10ppm以下にすることは困難である。炭素含有量、酸素を含む不純物含有量については、前述の炭素被覆金属粉末と同様に説明される。
【0028】
炭素被覆ニッケル系粉末は、ESCAによる表面解析において、粒子表面から中心に向けて炭素原子の1sに帰属されるピーク位置が変化している。そして、粒子表面から中心に向けて1nmの位置における前記ピーク位置に対して、粒子表面から中心に向けて11nmの位置における前記ピーク位置が、低エネルギー側にシフトしている。この低エネルギー側へのシフトは、0.08eV以上であることが好ましく、このシフト量が1.00eV以下の炭素被覆ニッケル系粉末が得られ易い。炭素原子の1sに帰属されるピークとは、具体的には結合エネルギー約284.6eV付近に存在するピークである。このようにシフトする理由は、以下のように考えられる。
粒子表面から中心に向けて1nmの位置は、炭素被覆膜表面に近い部分であり、炭素が多く存在している。粒子表面から中心に向けて11nmの位置は、炭素被覆膜とニッケル系粉末との界面付近であり、炭素とニッケルによるニッケルカーバイド層が存在している。このように、粒子表面から中心に向けて1nmと11nmの位置では、電子状態が異なるため、シフトが発生する。
このニッケルカーバイド層によりニッケルから炭素層へ連続的に変化することから接着力の高い強固な炭素被覆膜が形成される。
【0029】
また、本発明の炭素被覆ニッケル系粉末は、ESCAによる表面解析において、粒子表面に酸化ニッケル及び水酸化ニッケルに帰属されるピークが存在しないことが好ましい。酸化ニッケルに帰属されるピークとは、具体的には結合エネルギー約854.0eV付近に存在するピークである。水酸化ニッケルに帰属されるピークとは、具体的には結合エネルギー約855.7eV付近に存在するピークである。
このように、粒子表面に酸化ニッケル及び水酸化ニッケルがほとんど存在しないことから、本発明の炭素被覆ニッケル系粉末の酸素含有量は極めて低く制抑されていることがわかる。
【0030】
上記の構成を有する炭素被覆ニッケル系粉末によれば、不純物が極めて少ない炭素被覆ニッケル系粉末を得ることができる。また、炭素被覆ニッケル系粉末は上記の特性、構成に加え、さらにTMA特性等で特徴付けられた前述の炭素被覆金属粉末について好ましいと記載された炭素被覆膜の厚さ等の特性を含め該炭素被覆金属粉末と同様の特性(TMA特性等)を有することが好ましく、これにより更なる効果が得られる。
【0031】
[炭素被覆金属粉末の製造方法]
本発明にかかる炭素被覆金属粉末の製造方法は、反応容器内において金属原料を加熱し、当該金属原料を溶融・蒸発させて金属蒸気を発生させる金属蒸気発生工程と、キャリアガスにより前記金属蒸気を前記反応容器内から冷却管に搬送する搬送工程と、前記冷却管内において前記金属蒸気を冷却し、金属核を析出させる金属核析出工程と、前記析出した金属核を成長させる金属核成長工程とを備える。当該方法は、金属核析出工程において、前記冷却管内に炭素源を供給し、吸熱分解させることにより前記金属蒸気を急速冷却して、前記金属核の析出に並行して当該金属核表面上への炭素被覆膜形成を行うものであり、この製造方法により前記の本発明の炭素被覆金属粉末を得ることができる。
以下、本発明にかかる炭素被覆金属粉末の製造方法について添付の図面を参照して具体的に説明する。
【0032】
まず、
図1を参照して、本発明にかかる炭素被覆金属粉末の製造方法に用いるプラズマ装置について説明する。
図1は、本発明にかかる炭素被覆金属粉末の製造方法に用いるプラズマ装置100の構成の一例を示した概略図である。
【0033】
反応容器101の内部には、金属原料が収容される。フィードポート107は、反応容器101の内部に金属原料を補充するものである。金属原料は、予め、装置の稼働を開始する前に、反応容器101内に所定量を準備しておき、装置の稼働開始後は、金属蒸気となって反応容器101内から減少した量に応じて、随時、フィードポート107から反応容器101内に金属原料が補充される。そのため本発明のプラズマ装置100は、長時間連続して炭素被覆金属粉末を製造することが可能である。
【0034】
反応容器101の上方にはプラズマトーチ102が配置され、図示しない供給管を介してプラズマトーチ102にプラズマ生成ガスが供給される。プラズマトーチ102は、カソード104(陰極)と、プラズマトーチ102の内部に設けられた図示しないアノード(陽極)との間でプラズマ103を発生させた後、カソード104(陰極)とアノード105(陽極)との間でプラズマ103を生成し、 当該プラズマ103の熱により反応容器101内の金属原料の少なくとも一部を溶融させ、金属の溶湯108を生成する。さらにプラズマトーチ102は、プラズマ103の熱により、溶湯108の一部を蒸発させ、金属蒸気を発生させる。
【0035】
キャリアガス供給部106は、金属蒸気を搬送するためのキャリアガスを反応容器101内に供給するものである。
反応容器101には、冷却管110が接続されている。反応容器101内で発生した金属蒸気は、キャリアガスにより冷却管110に搬送される。
冷却管110は、反応容器101側(上流側)から、金属蒸気を間接的に冷却する間接冷却区画ICと、炭素被覆金属粉末を直接的に冷却する直接冷却区画DCとを順次備える。間接冷却区画ICは、内管112と外管113の二重管で構成されている。そして、内管112の外壁と外管113の内壁との間の空間に冷却用流体を循環させ、冷却管110(内管112)の周囲を冷却又は加熱する。これにより、間接冷却区画ICの温度が制御される。そして、この間接冷却区画IC内で、反応容器101からの金属蒸気、並びに当該金属蒸気からの金属核の析出に並行して金属核表面上へ炭素被覆膜が形成されることにより生成した炭素被覆金属粉末に対して間接冷却を行っている。炭素被覆膜の形成のために供給される炭素源については以下に説明されている。
【0036】
冷却用流体としては、前述したキャリアガスやその他の気体を用いることができ、また水、温水、メタノール、エタノール或いはこれらの混合物等の液体を用いることもできる。但し、冷却効率やコスト的な観点からは、冷却用流体には水又は温水を用いることが好ましい。なお、ここでは、冷却管110(内管112)周囲の冷却又は加熱する方法の一例として、冷却用流体を用いて説明したが、これに限定されない。例えば、冷却管110の周囲に外部ヒータを設けて冷却又は加熱を行ってもよい。
【0037】
直接冷却区画DCでは、間接冷却区画ICから搬送されてきた炭素被覆金属粉末に対し、図示しない冷却流体供給部から供給される冷却用流体を噴出又は混合して、直接冷却を行う。なお、直接冷却区画DCで使用する冷却用流体は、間接冷却区画ICで使用した冷却用流体と同じものでも異なるものでも良いが、取扱いのし易さやコスト的な観点から、前記キャリアガスと同じ気体を使用することが好ましい。また、冷却用流体が液体を含む場合は、当該液体は噴霧された状態で冷却管110(内管112)内へ導入される。
【0038】
また直接冷却区画DCでは、間接冷却区画ICに比べて開口の断面積の大きい冷却管を採用してもよい。これにより、間接冷却区画ICを通ってきたキャリアガスを急激に膨張させ、冷却効率を高めることができる。
なお、本明細書の図面において、間接冷却区画IC及び直接冷却区画DCの具体的な冷却機構は省略されているが、本発明の作用効果を妨げない限り、公知のもの(一例として特表2002−530521号公報に記載のもの)を使用することができる。
【0039】
また、後述する仮想面120bより上流側において、冷却管110の内管112の内壁に、凸部や凹部を設けてもよい。これにより、冷却管110内においてキャリアガスと金属蒸気の混合ガスの流れが乱れ、攪拌されるため、キャリアガスの温度や流速、金属蒸気濃度の不均一性を抑えることができ、これによって核が析出するタイミングをさらに揃えやすくなる。
【0040】
炭素源供給部111は、内管112の内壁に局所的に設けられた開口と接続され、炭素被覆金属粉末の炭素被覆の原料となる炭素源を間接冷却区画IC内に供給できるように設けられる。ここで局所とは、仮想面120a近傍の部分であって、冷却管110の長手方向において幅が10cm以内の横断ゾーンであることが好ましく、さらには幅5cm以内の横断ゾーンであることがより好ましい。このように炭素源を間接冷却区画IC内に供給するためには、例えば、炭素源供給部111が接続される内管112の内壁の開口の大きさが10cm以内であることが好ましい。
図1においては、1つの開口のみを設けているが、仮想面120a近傍であれば複数の開口を設けて複数の箇所から炭素源を供給してもよい。例えば、
図1の開口と対向するように、さらに開口を設けて2箇所から炭素源を供給してもよい。
【0041】
炭素源供給部111は、前述の通り、仮想面120a近傍に炭素源を供給できるように設けることが好ましく、仮想面120a近傍において仮想面120aより上流側に炭素源を供給できるように設けることがより好ましい。詳細については後述するが、仮想面120aとは、炭素源供給部111を設けない場合、すなわち間接冷却区画ICに炭素源を供給しない場合に、間接冷却区画IC内で多くの金属核が析出する位置のことであり、例えば冷却管110内の温度分布をシミュレーションしたり、実機の冷却管110内の付着物を分析することで求めることができる。
【0042】
冷却管110より下流側には、図示しない捕集器が設けられている。捕集器により、冷却管110から更に下流に向けて搬送された炭素被覆金属粉末がキャリアガスと分離されて回収される。なお、捕集器で分離されたキャリアガスは、キャリアガス供給部106で再利用するように構成しても良い。
【0043】
次に、
図2を参照して、他の構成を有するプラズマ装置100について説明する。
図2は、本発明にかかる炭素被覆金属粉末の製造方法に用いるプラズマ装置100の構成の他の例を示した概略図である。ここでは、
図1に示したプラズマ装置100と異なる部分のみ説明する。
【0044】
間接冷却区画ICは、反応容器101から金属蒸気が搬送される第1の間接冷却区画114と、当該第1の間接冷却区画114と前記直接冷却区画DCとの間に配置される第2の間接冷却区画115とを備える。第1の間接冷却区画114の開口の断面積は、前記第2の間接冷却区画115の開口の断面積よりも小さい。ここで開口とは金属蒸気が搬送される流路となる部分であり、
図2においては内管112a、112bの内壁で取り囲まれる部分である。断面積とは、冷却管の長手方向に対して垂直な面における開口面積のことである。好ましくは、第1の間接冷却区画114と第2の間接冷却区画115はそれぞれ円筒状を有し、第1の間接冷却区画114の内径は、前記第2の間接冷却区画115の内径よりも小さい。
【0045】
炭素源供給部111は、第2の間接冷却区画115内に炭素源を供給できるように設けることが好ましく、第1の間接冷却区画114近傍の第2の間接冷却区画115内に炭素源を供給できるように設けることがより好ましい。この場合、炭素源の供給部分は、断面積の小さい第1の間接冷却区画114から断面積の大きい第2の間接冷却区画115に金属蒸気が搬送された後あるいは直後であり、キャリアガスの体積が急激に大きくなるとともに、金属蒸気の濃度が急激に低くなる部分である。前記説明においては、間接冷却区画ICを断面積の異なる2つの区画により構成したが、断面積の異なる3以上の区画により構成してもよい。
【0046】
次に、
図1、2を参照しながら、本発明にかかる炭素被覆金属粉末の製造方法について詳細に説明する。なお、ここでは、前記のプラズマ装置100を用いた炭素被覆金属粉末の製造方法について説明するが、その他の構成を有する製造装置を用いて炭素被覆金属粉末を製造してもよい。
【0047】
[金属蒸気発生工程〜搬送工程]
まず、反応容器101の内部に金属原料を入れる。金属原料としては、目的とする炭素被覆金属粉末の金属成分を含有する導電性の物質であれば特に制限はなく、純金属の他、2種以上の金属成分を含む合金や複合物、混合物、化合物等を使用することができる。金属成分の一例としては、銀、金、カドミウム、コバルト、銅、鉄、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、タンタル、チタン、タングステン、ジルコニウム、モリブデン、ニオブ等を挙げることができる。金属原料としては、沸点が炭素源の分解温度より高いものが好ましく、700〜3600℃のものがより好ましい。これにより、冷却管110内を炭素源の分解温度以上の雰囲気とすることが容易になる。また、3600℃を超えると、炭素被覆膜が制御しにくくなる。
【0048】
金属原料としては限定されるものではないが、貴金属よりも酸化されやすい卑金属の方が本発明の効果をより享受することができるため好ましく、ニッケル及び銅のうち少なくともいずれか一方を含む金属原料が特に好ましい。特に金属原料が、実質的にニッケル(沸点2732℃)のみ、実質的に銅(沸点2567℃)のみ、又はニッケルと銅の混合物、合金、複合物からなることが好ましい。ここで、「実質的にニッケルのみからなる」とは、金属原料中にニッケルを98wt%より多く含むことをいう。同様に、「実質的に銅のみからなる」とは、金属原料中に銅を98wt%より多く含むことをいう。ニッケルと銅からなる金属原料としては、2〜20wt%の銅を含むニッケル金属原料が特に好ましい。特に制限はないが、取扱い易さから、金属原料としては数mm〜数十mm程度の大きさの粒状や塊状の金属材料又は合金、複合材料を使用することが好ましい。
【0049】
そして、金属原料を加熱し、金属原料を溶融・蒸発させて金属蒸気を発生させる。具体的には、カソード104とアノード105との間でプラズマ103を生成し、当該プラズマ103の熱により反応容器101内の金属原料の少なくとも一部を溶融させ、金属原料の溶湯108を生成する。そして、プラズマ103の熱により、溶湯108の一部を蒸発させ、金属蒸気を発生させる。なお、金属蒸気発生工程は、炭素源が存在しない状態で実施することが好ましい。すなわち、反応容器101内には、炭素源が存在しないことが好ましい。これは、反応容器101内に炭素源が存在すると炭素源のプラズマ化が起こってしまい、炭素の被覆量を制御しにくくなるためである。また、金属原料を加熱する方法としてはプラズマにより加熱することが好ましいが、金属原料を溶融・蒸発させることができれば特に限定がない。
【0050】
反応容器101内で発生した金属蒸気は、キャリアガスにより冷却管110に搬送される。キャリアガスとしては、不活性ガスを用いることが好ましい。特に断らない限り、以下の説明においては、キャリアガスとして窒素ガスを用いる。なお、キャリアガスには、必要に応じて水素、一酸化炭素、メタン、アンモニアガスなどの還元性ガスや、アルコール類、カルボン酸類などの有機化合物を混合してもよく、その他、炭素被覆金属粉末の性状や特性を改善・調整するためにリンや硫黄等の成分を含有させても良い。なお、プラズマの生成に使用されたプラズマ生成ガスも、キャリアガスの一部として機能する。ただし、前述の通り、反応容器101内には炭素源が存在しないことが好ましく、キャリアガスとして、メタン等の炭素源となり得る成分を含まないガスを用いることが好ましい。
キャリアガスの流量は、金属濃度が0.01〜1g/Lとなるように制御することが好ましい。これにより、炭素源の吸熱分解により、金属蒸気を効率的に急速冷却することができる。
【0051】
[金属核生成工程]
反応容器101から搬送された金属蒸気は、冷却管110内で冷却される。これにより、金属蒸気から金属核が析出される。本発明では、炭素源供給部111により冷却管110内に供給された炭素源を吸熱分解させ、金属蒸気を急速冷却させることにより、金属核の析出に並行して金属核表面上への炭素被覆膜形成を行うことを特徴とする。
【0052】
炭素源は、分解する際に吸熱反応(吸熱分解)するものである。炭素源の分解温度は、700〜3600℃が好ましい。3600℃を超えると、金属表面に形成された炭素被覆膜に含まれるグラファイトの昇華が起こりやすくなり、炭素被覆膜が制御しにくくなる。
炭素源としては、エタン、メタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ブチレン等の炭化水素、エタノール、モノエチレングリコール等のアルコールを使用することができる。また、固体状、液体状及び気体状のいずれの炭素源も用いることができるが、気体状の炭素源を用いることが好ましい。気体状の炭素源を用いることにより、炭素源を炭素単体まで分解しやすくなる。具体的には、炭素源として、メタンガス(分解温度700℃程度)を用いることが好ましい。また、用いる金属原料の沸点より炭素源の分解温度のほうが、好ましくは100℃以上、より好ましくは500℃以上、さらに好ましくは1000℃以上低いことが好ましく、金属原料としてニッケル又はニッケルを主成分とする金属原料、炭素源としてメタンガスを用いることが好ましい。これにより、金属蒸気が搬送されている冷却管110内の温度で炭素源が効率的に分解する。なお、炭素源をアルゴンガス等のキャリアガスに含ませた混合ガスとして供給する場合、この混合ガスを炭素源ということがある。
【0053】
また、炭素源を吸熱分解させるので、少ない炭素源でも金属蒸気を冷却し、金属核を析出させることができる。流量を毎分V(L)、炭素源の供給場所における断面積をS(cm
2)としたとき、V/S(L/cm
2)が0より大きく、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下となるように供給する。また、供給する炭素源の温度は、炭素源の分解温度未満であれば特に限定されるものではないが、予め加熱等をしておく必要もなく、例えば室温(25〜30℃)の炭素源を用いることができる。炭素源の添加量は、生成された炭素被覆金属粉末の金属量に対して0.1〜5wt%の炭素含有量となるような添加量とすることが好ましい。例えば、金属原料としてニッケル、炭素源としてアルゴンガス等の不活性ガス中に10%のメタンを含む混合ガスを用い、金属蒸気濃度が0.05g/Lの場合、炭素源の流量は毎分7〜25Lとすることが好ましい。
【0054】
金属核生成工程は、前記金属蒸気を間接的に冷却する間接冷却工程において行われることが好ましい。間接冷却工程は、冷却管110の間接冷却区画ICにおいて行うことができる。この工程では、金属蒸気に冷却用流体を噴出又は混合させないので、特定の位置に存在する金属蒸気に対して炭素源を供給しやすくなる。また、間接冷却区画ICにおいては、高温のまま冷却管110内に移送されるキャリアガス中の金属蒸気は輻射により冷却され、安定的且つ均一的に温度制御された雰囲気中で生成した金属核の成長、結晶化が進行することで、キャリアガス中に粒径の揃った炭素被覆金属粉末が生成されやすくなる。また、安定的且つ均一的に温度制御されているので、炭素源の吸熱分解によって金属蒸気の温度が急激に変化させることができる。
【0055】
具体的には、反応容器101から冷却管110の間接冷却区画ICに金属蒸気が搬送される。キャリアガス中の金属蒸気は、反応容器101から間接冷却区画ICに導入された時点では濃度も高く、温度も数千K(例えば5000K)であるが、間接冷却(輻射冷却)されることにより、温度は金属の沸点近くまで降下する。通常、金属蒸気が沸点以下になると、液滴となり金属核が生成し始める。そして、間接冷却区画IC内の或る位置(本発明では仮想面と称す)でほぼ同時に多くの核が析出し始める。仮想面は、目的とする金属や炭素源の種類、金属蒸気や炭素源の濃度、炭素源やキャリアガスの流量、金属蒸気やキャリアガスや炭素源の温度、冷却管内の温度分布等々に応じて変わるものであり、特定の位置を示すものではないが、ここでは理解を容易にするため、炭素源を供給しない場合の仮想面を120a、炭素源を供給する場合の仮想面を120bとする。
【0056】
本発明では、沸点近くまで降下した金属蒸気に対して、炭素源供給部111から炭素源が供給される。具体的には、炭素源の分解温度以上、且つ(金属原料の沸点+当該沸点×10%)℃以下である位置(例えば仮想面110b)に炭素源を供給することが好ましい。例えば、メタンの分解温度である700℃程度以上、3005℃(ニッケルの沸点である2732℃+(2732℃×10%))以下の位置に炭素源を供給することが好ましい。
【0057】
図1のプラズマ装置100においては、仮想面110a近傍の上流側に炭素源を供給する。この炭素源は、分解温度以上に加熱されて分解し、炭素源の分解の際の吸熱反応により金属蒸気から熱を奪い、金属蒸気を急速冷却させる。沸点付近の温度から急激に温度が下がることにより、金属蒸気は 沸点以下となっても液滴とならず、不安定な状態(過飽和な状態)となる。この過飽和な状態を経ることにより、金属核の生成が一気に起こる。これにより、金属核の生成のタイミングが揃い、かつ、金属核の量が増加する。そして、粒径が小さく、かつ、粒度分布が狭い炭素被覆金属粉末が得られる。なお、仮想面120bは、炭素供給部111から炭素源を供給した位置近傍となることが通常であり、
図1のプラズマ装置では、仮想面120a近傍の上流側が仮想面120bとなる。
【0058】
また、間接冷却工程は、第1の間接冷却工程と、第1の間接冷却工程の金属蒸気の濃度を下げた状態で間接冷却を行う第2の間接冷却工程とを備えることがより好ましい。そして、第2の間接冷却工程において、炭素源を吸熱分解させることにより前記金属蒸気を急速冷却して、金属核の析出に並行して当該金属核表面上への炭素被覆膜形成を行うことがより好ましい。また、第1の間接冷却工程から第2の間接冷却工程に移行する際、金属蒸気の体積が急激に膨張することから、この体積膨張による補助的な冷却により金属蒸気の急速冷却をより高めることができる。すなわち、この補助的な急速冷却と同時に、炭素源によっても金属蒸気を急速冷却することにより、容易に金属蒸気濃度の過飽和度の高い状態とすることができる。過飽和度は高い方が好ましく、ニッケル、銅、銀等の遷移金属は、急速冷却により融点近くの温度とすることで過飽和度が高い状態となる。
この場合、炭素源の分解温度以上且つ(金属原料の融点+当該融点×25%)℃以下である位置に炭素源を供給することがより好ましい。例えば、炭素源がメタンの場合には、その分解温度である700℃程度以上、1816℃(ニッケルの融点である1453℃+(1453℃×25%))以下の位置に炭素源を供給することがより好ましい。
【0059】
第1の間接冷却工程及び第2の間接冷却工程は、
図2のプラズマ装置を用いることにより実現できる。まず、第1の間接冷却区画114において金属蒸気の濃度が高い状態で間接冷却を行った後、第2の間接冷却区画115で金属蒸気の濃度を下げた状態で引き続き間接冷却を行う。そして、第2の間接冷却区画115内、好ましくは第2の間接冷却区画115の第1の間接冷却区画114近傍に、炭素源供給部111によって炭素源を供給する。なお、この場合、仮想面120a及び120bは略同位置となり、例えば、第2の間接冷却区画115の第1の間接冷却区画114近傍の位置となる。
【0060】
金属核生成直前の金属蒸気及び生成直後の金属核の周囲には炭素源の分解物(炭素)が存在している。このため、金属核の生成とほぼ同時又は遅くとも金属核の生成直後に金属核の表面上に炭素被覆膜が形成され始める。また、プラズマ化された炭素ではなく、熱分解された炭素によって被覆しているので、ほぼ均一な炭素被覆膜が形成された炭素被覆金属粉末が得られる。
【0061】
[核成長工程〜捕集工程]
前記のように、生成された金属核は、引き続き間接冷却区画IC内で粒成長及び結晶化が行われる。粒成長には、大きく分けて、核の周りにある金属蒸気が核の表面上に析出しながら進行していく粒成長と、隣り合う複数の核が合一しながら進行していく粒成長があり、粒度分布の広狭に対する影響としては後者が支配的と考えられる。本発明では、金属核の生成とほぼ同時又は遅くとも金属核の生成直後に金属核の表面上に炭素被覆膜が形成するので、合一による粒成長が抑制される。これにより粒度分布が極めて狭い均一粒径の揃った炭素被覆金属粉末が得られる。
【0062】
間接冷却区画ICにおいて間接的に冷却されて生成された炭素被覆金属粉末は、続く直接冷却区画DCにおいて直接的に冷却される。そして、直接冷却区画DCにおいて直接的に冷却された炭素被覆金属粉末は、冷却管110から更に下流に向けて搬送され、捕集器においてキャリアガスと分離されて回収される。
【0063】
[熱処理工程]
捕集された炭素被覆金属粉末に対して、熱処理を施すことが好ましい。これにより、炭素被覆のグラファイトの結晶化度が高くなり、焼結抑制効果が向上する。グラファイトの結晶化度は、ラマンスペクトル測定においてグラファイトのGバンド起因のピーク強度で評価できる。好ましくは、Gバンドピークの半値幅が100以下である。100を超えると、アモルファス部分が多く残った状態となり、結晶化度が不十分となる。
【0064】
熱処理は、例えば、不活性雰囲気下、180〜1000℃で1〜10時間、あるいは、大気雰囲気下、180〜400℃で1〜10時間実施される。また、好ましい熱処理温度は、180〜300℃であり、300℃を超えると熱凝集が起こり、分散性が悪化しやすく、熱処理温度が180℃未満であると、グラファイトの結晶化度は低くなり、熱処理による効果が小さくなる。
【0065】
本発明にかかる炭素被覆金属粉末の製造方法によって得られた炭素被覆金属粉末は、粒径が小さく、かつ、粒度分布が狭いものである。また、従来のように、金属粉末を生成した後に、炭素被覆膜を形成するのではなく、金属粉末と炭素
被覆膜の形成を同時に進行させるので、得られた炭素被覆金属粉末の不純物を少なくすることができる。ここで、不純物とは、意図的に含有させた成分ではなく、原料、製造工程などから不可避的に混入される成分等であり、通常、塩素、アルカリ金属等が挙げられる。従って、例えばキャリアガスに、炭素被覆金属粉末の性状や特性を改善・調整するためにリンや硫黄等の成分を含有させる場合、これらの成分を不純物とは言わない。不純物の含有量は、粒径によっても異なるが、3wt%以下とすることが好ましい。かかる本発明の製造方法により、良好な炭素被覆膜を有する本発明の炭素被覆金属粉末を容易に得ることができる。
【0066】
[導電性ペースト、それを用いた積層電子部品]
本発明にかかる導電性ペーストは、前記の炭素被覆金属粉末を導電性粉末として含有し、これをバインダー樹脂、溶剤からなるビヒクルに混練させたものである。この導電性ペーストは、特に、積層コンデンサ、積層インダクタ、積層アクチュエータ等の積層電子部品の内部導体(内部電極)の形成に好適に用いられるが、その他にセラミック電子部品の端子電極や厚膜導体回路の形成に使用することもできる。炭素被覆金属粉末は、TMA特性等で特徴付けられる炭素被覆金属粉末、ESCAの解析により特徴付けられる炭素被覆ニッケル系粉末のいずれであってもよい。
上記の導電性ペースト、積層電子部品の製造方法の一例を以下に説明する。
【0067】
まず、本発明にかかる炭素被覆金属粉末とバインダー樹脂と溶剤とを3本ロールミルを使って混練する。バインダー樹脂としてはエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ロジン等が挙げられ、通常導電性粉末100重量部に対して1〜15重量部程度配合して用いることができる。溶剤としてはジヒドロタ一ピネオール等のアルコール系、ケトン系、エーテル系、エステル系、炭化水素系等の有機溶剤や水、またはこれらの混合溶剤等を適宜選択して用いることができる。溶剤の量は、導電性粉末の性状や樹脂の種類、塗布法等に応じて適宜配合され、通常は導電性粉末100重量部に対して40〜150重量部程度である。
【0068】
また、本発明の導電性ペーストには、前記成分の他に、通常配合されることのある成分、即ち、セラミックシートに含有されるセラミックと同一または組成が近似した成分を含むセラミックや、ガラス、アルミナ、シリカ、酸化銅、酸化マンガン、酸化チタン等の金属酸化物、モンモリロナイトなどの無機粉末や、金属有機化合物、可塑剤、分散剤、界面活性剤等を、目的に応じて適宜配合することができる。
上記のようにして、導電性ペーストが製造される。
【0069】
次に、未焼成セラミック層としての未焼成セラミックグリーンシート上に導電性ペーストを所定のパターンで印刷し、乾燥して溶剤を除去し、内部導体ペースト層を形成する。得られた内部導体ペースト層を有する未焼成セラミックグリーンシートを複数枚積み重ね、圧着して未焼成セラミックグリーンシートと内部導体ペースト層とを交互に積層した未焼成の積層体を得る。
【0070】
この積層体を、所定の形状に切断した後、バインダー樹脂を燃焼、飛散させる脱バインダー工程を経て、約1200〜1400℃の高温で焼成することによりセラミック層の焼結と内部導体層の形成を同時に行い、セラミック素体を得る。この後、素体の両端面に端子電極を焼き付けて積層電子部品を得る。端子電極は、前記所定の形状に切断した未焼成の積層体の両端面に端子電極用導体ペーストを塗布し、その後、積層体と同時に焼成することによって形成してもよい。
【0071】
不純物が少ない炭素被覆金属粉末を用いることにより、焼成時にガスが発生しにくくなり、良好な焼成膜(内部導体層)を得ることができる。また、炭素被覆金属粉末が良好な炭素被覆膜を有することにより、導電性ペースト中での分散性が向上し、かつ、焼結時の収縮性が改善されていることにより導体層とセラミック層との焼結収縮挙動が近似し、クラックやデラミネーション等の発生が抑えられる。
さらに、本発明の炭素被覆金属粉末は、粒度分布が狭く、平均粒径が小さいため、炭素被覆金属粉末含有する導電性ペーストを塗布・焼成して形成された焼成膜は、膜厚が薄い場合であっても、穴(欠陥)が少なく、平滑性、緻密性、連続性に優れたものであり、内部導体層の薄層化が可能なものである。内部導体層の厚さは、例えば0.4〜0.8μmである。
【0072】
上記のようであることから、本発明の炭素被覆金属粉末を含有する導電性ペーストを積層電子部品の製造に使用した場合には、緻密で連続性に優れた薄い内部導体層を備え、優れた特性を有する積層電子部品を、クラックやデラミネーション等の構造欠陥を生ずることなく得ることができる。
【実施例】
【0073】
次に、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
実施例1
図2のプラズマ装置100を用いて炭素被覆金属粉末の製造を行った。冷却管110としては、内径3.8cmの内管112a(第1の間接冷却区画114)と、内径8cmの内管112b(第2の間接冷却区画115)と、内径15cmの内管112c(直接冷却区画DC)とを組合せたものを用いた。なお、内管112aの長さを20cm、内管112bの長さを22.5cm、内管112cの長さを20cmとした。また、第2の間接冷却区画115の上流端から5cm下流側に0.32cmの内径(供給口)を有する炭素源供給部111から炭素源を供給した。前記の構成を有するプラズマ装置をプラズマ装置Aと称する。
【0075】
金属原料としてはニッケルを用い、蒸発速度は毎分10gであった。キャリアガスとしては窒素ガスを用いた。冷却管を通過するキャリアガスは毎分200Lとし、金属濃度が0.05g/Lとなるよう制御した。炭素源としてはアルゴンガス(キャリアガス)中に10%のメタンを含む混合ガス(以下、10%メタンガスと称す)を用い、供給量は毎分25Lとし、供給する炭素源の温度は室温(25〜30℃)とした。
炭素源を供給し、金属蒸気が搬送されている状態で、炭素源を供給する位置(通常は仮想面120a近傍)の温度T
βは、1040℃であった。また、当該位置の温度は、炭素源を供給せず、金属蒸気が搬送されている状態で、1100℃の温度T
αであった。
以下の実施例において、特に断りがなければ、金属蒸気が搬送されている状態で冷却管に炭素源(比較例1、2では10%メタンガスに代わる窒素ガス)を供給する位置(通常は仮想面120a近傍)の温度をT
β、冷却管に炭素源(比較例1、2では10%メタンガスに代わる窒素ガス)を供給せず、金属蒸気が搬送されている状態での前記T
β測定位置と同位置での温度をT
αとした。
【0076】
実施例2
炭素源の流量を毎分7Lとした以外は実施例1と同様に実験を行った。T
αは1100℃、T
βは1050℃であった。
【0077】
実施例3
炭素源の流量を毎分6Lとした以外は実施例1と同様に実験を行った。T
αは1100℃、T
βは1050℃であった。
【0078】
実施例4
炭素源の流量を毎分40Lとした以外は実施例1と同様に実験を行った。T
αは1100℃、T
βは1024℃であった。
【0079】
実施例5
炭素源として、アルゴンガス中に3%のプロパンを含む混合ガスを用いた以外は実施例1と同様に実験を行った。T
αは1100℃、T
βは1035℃であった。
【0080】
実施例6
プラズマ装置Aを用いて炭素被覆金属粉末の製造を行った。金属原料としては銀を用い、蒸発速度は毎分100gであった。キャリアガスとしては窒素ガスを用い、冷却管を通過するキャリアガスは毎分200Lとし、金属濃度が0.5g/Lとなるよう制御した。炭素源としては10%メタンガスを用い、供給量は毎分25Lとし、供給する炭素源の温度は室温(25〜30℃)とした。T
αは750℃、T
βは700℃であった。
【0081】
実施例7
プラズマ装置Aを用いて炭素被覆金属粉末の製造を行った。金属原料としては銅を用い、蒸発速度は毎分15gであった。キャリアガスとしては窒素ガスを用い、冷却管を通過するキャリアガスは毎分200Lとし、金属濃度が0.075g/Lとなるよう制御した。炭素源としては10%メタンガスを用い、供給量は毎分25Lとし、供給する炭素源の温度は室温(25〜30℃)とした。T
αは920℃、T
βは880℃であった。
【0082】
実施例8
プラズマ装置Aを用いて炭素被覆金属粉末の製造を行った。金属原料としてはニッケルと銅の合金(銅の含有量2wt%)を用い、蒸発速度は毎分10gであった。キャリアガスとしては窒素ガスを用い、冷却管を通過するキャリアガスは毎分200Lとし、金属濃度が0.05g/Lとなるよう制御した。炭素源としては10%メタンガスを用い、供給量は毎分25Lとし、供給する炭素源の温度は室温(25〜30℃)とした。T
αは1080℃、T
βは1035℃であった。
【0083】
実施例9
プラズマ装置Aを用いて炭素被覆金属粉末の製造を行った。金属原料としてはニッケルと銅の合金(銅の含有量20wt%)を用い、蒸発速度は毎分12gであった。キャリアガスとしては窒素ガスを用い、冷却管を通過するキャリアガスは毎分200Lとし、金属濃度が0.06g/Lとなるよう制御した。炭素源としては10%メタンガスを用い、供給量は毎分25Lとし、供給する炭素源の温度は室温(25〜30℃)とした。T
αは1075℃、T
βは1020℃であった。
【0084】
実施例10
図2に記載のプラズマ装置100を用いて炭素被覆金属粉末の製造を行った。冷却管110としては、内径8.9cmの内管112a(第1の間接冷却区画114)と、内径10.3cmの内管112b(第2の間接冷却区画115)と、内径22cmの内管112c(直接冷却区画DC)とを組合せたものを用いた。なお、内管112aの長さを3.5cm、内管112bの長さを46cm、内管112cの長さを42.3cmとした。また、第2の間接冷却区画115の上流端から10cm下流側に1cmの内径(供給口)を有する炭素源供給部111から炭素源を供給した。前記の構成を有するプラズマ装置をプラズマ装置Bと称する。
【0085】
金属原料としてはニッケルを用い、蒸発速度は毎分85gであった。キャリアガスとしては窒素ガスを用いた。冷却管を通過するキャリアガスは毎分750Lとし、金属濃度が0.11g/Lとなるよう制御した。炭素源としては10%メタンガスを用い、供給量は毎分20Lとし、供給する炭素源の温度は室温(25〜30℃)とした。T
αは1780℃、T
βは1500℃であった。
【0086】
実施例11
プラズマ装置Bを用いて炭素被覆金属粉末の製造を行った。金属原料としてはニッケルを用い、蒸発速度は毎分50gであった。キャリアガスとしては窒素ガスを用いた。冷却管を通過するキャリアガスは毎分750Lとし、金属濃度が0.07g/Lとなるよう制御した。炭素源としてはアルゴンガス中に3%メタンガス含む混合ガスを用い、供給量は毎分103Lとし、供給する炭素源の温度は室温(25〜30℃)とした。T
αは1650℃、T
βは1380℃であった。
【0087】
実施例12
図2に記載のプラズマ装置100を用いて炭素被覆金属粉末の製造を行った。冷却管110としては、内径8.9cmの内管112a(第1の間接冷却区画114)と、内径22cmの内管112b(第2の間接冷却区画115)と、内径22cmの内管112c(直接冷却区画DC)とを組合せたものを用いた。なお、内管112aの長さを10.3cm、内管112bの長さを22.5cm、内管112cの長さを44.3cmとした。また、第2の間接冷却区画115の上流端から11cm下流側に1cmの内径(供給口)を有する炭素源供給部111から炭素源を供給した。
【0088】
金属原料としてはニッケルを用い、蒸発速度は毎分85gであった。キャリアガスとしては窒素ガスを用いた。冷却管を通過するキャリアガスは毎分750Lとし、金属濃度が0.11g/Lとなるよう制御した。炭素源としては10%メタンガスを用い、供給量は毎分20Lとし、供給する炭素源の温度は室温(25〜30℃)とした。T
αは1780℃、T
βは1470℃であった。
【0089】
実施例13
図2に記載のプラズマ装置100を用いて炭素被覆金属粉末の製造を行った。冷却管110としては、内径10.3cmの内管112a(第1の間接冷却区画114)と、内径12.8cmの内管112b(第2の間接冷却区画115)と、内径36.9cmの内管112c(直接冷却区画DC)とを組合せたものを用いた。なお、内管112aの長さを24.5cm、内管112bの長さを45cm、内管112cの長さを54.7cmとした。また、第2の間接冷却区画115の上流端から10cm下流側に1.9cmの内径(供給口)を有する炭素源供給部111から炭素源を供給した。
【0090】
金属原料としてはニッケルを用い、蒸発速度は毎分85gであった。キャリアガスとしては窒素ガスを用いた。冷却管を通過するキャリアガスは毎分850Lとし、金属濃度が0.10g/Lとなるよう制御した。炭素源としては10%メタンガスを用い、供給量は毎分20Lとし、供給する炭素源の温度は室温(25〜30℃)とした。T
αは1620℃、T
βは1340℃であった。
【0091】
比較例1
炭素源供給部111からの供給材料として、炭素源(10%メタンガス)の代わりに窒素ガスを用いた以外は実施例1と同様に実験を行った。T
α及びT
βはともに1100℃であった。
【0092】
比較例2
炭素源供給部111を第2の間接冷却区画115ではなく、直接冷却区画DCに設け、炭素源(10%メタンガス)の代わりに窒素ガスを直接冷却区画DC内に供給した以外は実施例6と同様に実験を行った。T
α及びT
βはともに350℃であった。
【0093】
比較例3
炭素源供給部111を第2の間接冷却区画115ではなく、反応容器101に設け、炭素源を反応容器101内に供給した以外は実施例1と同様に実験を行った。前述の通り、キャリアガス中の金属蒸気は、反応容器101から間接冷却区画ICに導入された時点では例えば5000Kの温度であるので、T
αは5000K以上と想定できる。また、反応容器101内は継続的に加熱しているので、T
βも5000K以上と想定できる。
【0094】
比較例4
炭素源供給部111を第2の間接冷却区画115ではなく、直接冷却区画DCに設け、炭素源を直接冷却区画DC内に供給した以外は実施例1と同様に実験を行った。T
α及びT
βはともに350℃ であった。
【0095】
比較例5
炭素源供給部111を設けていない、すなわち炭素源を供給しないこと以外は実施例1と同様に実験を行った。実施例1において、T
α及びT
βを測定した箇所の温度は、1100℃であった。
【0096】
[炭素被覆金属粉末の評価]
実施例1〜13、及び比較例1〜5で得られた炭素被覆金属粉末それぞれの平均粒径、SD値、炭素含有量、不純物含有量及び炭素被覆膜の厚さを求めた。ここでは、不純物含有量として酸素、硫黄及び塩素の含有量を求めた。これらの結果は、表1に示した。
【0097】
【表1】
N.D.: 不検出
【0098】
平均粒径及びSD値については以下のように求めた。得られた炭素被覆金属粉末について、レーザー回折式粒度分布測定器(HORIBA社製 LA−920)を用いて測定した粒度分布の体積基準の積算分率10%値、50%値、90%値(以下、それぞれ「D10」「D50」「D90」と称す)を求めた。平均粒径は、D50である。また、粒度分布の指標として(D90−D10)/(D50)を求め、これをSD値とした。炭素含有量及び硫黄含有量は、炭素硫黄分析装置(HORIBA社製 EMIA−320V)を用いて測定した。酸素含有量は、窒素酸素分析装置(HORIBA社製 EMGA−920)を用いて測定した。塩素含有量は、滴定法により測定した。
【0099】
炭素被覆膜の厚さは、炭素被覆金属粉末をTEM(日立社製 HD−2000)で観察し、その観察像から求めた。
図3は、実施例1の炭素被覆金属粉末のTEM像である。
図3において、濃い部分が金属粒子10であり、やや薄くなっている部分が炭素被覆膜11である。炭素被覆膜11の厚さは、濃い部分と薄い部分との境界から薄い部分の外周までの長さ(
図3では矢印部分の長さ)である。表1には、当該長さを1つの粒子に対して任意の20箇所で測定した平均値を「炭素被覆膜の厚さ」として示した。
【0100】
さらに、実施例1〜5、8〜13及び比較例1、3〜5については、炭素被覆金属粉末それぞれのTMA収縮率を求めた。これらの結果は、表2に示した。また、実施例1〜5、8、11、比較例1、3〜5の測定で得られたTMAチャートは、
図4及び
図5に示した。
【0101】
【表2】
【0102】
TMA収縮率については以下のように求めた。測定には、TMA装置(Bruker社製 TMA4000S)を用いた。そして、直径5mm、高さ約2mmの円柱状に成型した炭素被覆金属粉末を試料とし、4%の水素を含む窒素ガス中、5℃/minの速度で室温から1300℃まで(実施例8については1200℃まで)昇温させて、試料の高さ方向の収縮率を測定した。
図4、5において、収縮率[%]は昇温温度に対する試料の高さ方向の寸法変化率(%)であり、マイナスの値は収縮を示す。このマイナスの値の絶対値が大きいほど収縮率(%)が大きいことを示す。
【0103】
さらに、実施例1〜5、8〜13及び比較例3、4については、ESCAによる表面解析において、粒子表面から中心に向けて炭素原子の1sに帰属されるピーク位置のシフト量を求めた。なお、比較例1、5は、表1に記載の通り炭素が検出されなかったので、炭素原子の1sに帰属されるピーク位置付近でのESCAによる表面解析を行わなかった。これらの結果は、表3に示した。また、実施例5、8、11及び比較例3のESCAによる表面解析結果は
図6〜9に示した。
図6〜9は、結合エネルギー276〜294eVの間で測定された炭素の1sピークの、アルゴンイオンエッチングによる強度変化を示す。
【0104】
【表3】
【0105】
上記ピーク位置のシフト量については、以下のように求めた。測定には、ESCA(島津製作所製 ESCA−3400)を用い、入射X線源としてMg−Kα線(1250eV)を使用した。そして、アルゴンイオンエッチングを実施しながら、エッチング深さ1nm及び11nmにおける上記ピーク位置を調べて、その差分(シフト量)を求めた。なお、表3中、シフト量がマイナスの値をとるときはエッチング深さ1nmの上記ピーク位置に対してエッチング深さ11nmの上記ピーク位置が低エネルギー側にシフトしたことを示す。反対に、シフト量がプラスの値をとるときは高エネルギー側にシフトしたことを示す。
【0106】
さらに、実施例1〜5、8〜13及び比較例1、3〜5 については、酸化ニッケル及び水酸化ニッケルに帰属されるピークの有無を調べた。実施例5、8、11について、結合エネルギー850〜880eVの間で測定されたESCAによる表面解析結果を
図10〜12に示した。上記と同様、測定には、ESCA(島津製作所製 ESCA−3400)を用い、入射X線源としてMg−Kα線(1250eV)を使用した。
また、実施例1及び比較例3については、SEM(日立社製 SU−8020)で観察した。
図13及び
図14は、実施例1及び比較例3それぞれで得られた炭素被覆金属粉末のSEM像である。
【0107】
また、実施例1、その熱処理品(実施例1−1〜1−4)及び比較例3、5で得られた炭素被覆金属粉末に対して、焼成膜の連続性(焼成膜の被覆率)、平滑性(ペースト乾燥膜の表面粗さ)を評価し、その結果を表4に示した。
【0108】
【表4】
【0109】
これらの評価は以下のように行なった。炭素被覆金属粉末100重量部、エチルセルロース5重量部、ジヒドロタ一ピネオール95重量部を配合し、3本ロールミルを使って混練して導電性ペーストを作製した。得られた導電性ペーストを、焼成後の膜厚が約1μmとなるようにアルミナ基板上に塗布し、1%H
2/N
2雰囲気中、1200℃で焼成した。
【0110】
また、実施例1−1では、実施例1で得られた炭素被覆金属粉末に対して大気雰囲気下、180℃、2時間の熱処理を施した炭素被覆金属粉末を用いた。また、実施例1−2では、実施例1で得られた炭素被覆金属粉末に対して大気雰囲気下、180℃、10時間の熱処理を施した炭素被覆金属粉末を用いた。また、実施例1−3では、実施例1で得られた炭素被覆金属粉末に対して大気雰囲気下、300℃、2時間の熱処理を施した炭素被覆金属粉末を用いた。また、実施例1−4では、実施例1で得られた炭素被覆金属粉末に対して窒素雰囲気下、1000℃、2時間の熱処理を施した炭素被覆金属粉末を用いた。
【0111】
焼成膜をSEM(日立社製 SU−8020)で観察し、特定面積における金属膜と金属膜が存在しない部分の面積割合を焼成膜の連続性として評価した。
図15、
図16は、実施例1、1−1、
図17、
図18は比較例3、5で得られた炭素被覆金属粉末を用いて形成された焼成膜のSEM像である。
また、導電性ペーストを、乾燥後の膜厚が約1μmとなるようにアルミナ基板上に塗布し、大気雰囲気中、150℃、2時間乾燥させた。そして、表面粗さ計(小坂研究所製 SURFCORDER ET3000)を使ってこのペースト乾燥膜の表面粗さ(Ra値及びRz値)を求めた。表4に示した表面粗さRa、Rzは、JIS B 0601‐1994に規定された算術平均粗さ、十点平均粗さである。
【0112】
[まとめ]
以上の結果より、本発明の製造方法により得られた炭素被覆金属粉末は、不純物が少なく、かつ、粒度分布が狭い炭素被覆金属粉末が得られることが分かった。具体的には、実施例1と、炭素源を供給しないこと以外は実施例と同一の比較例5とを比較すると、実施例1の方が酸素含有量が少なく、平均粒径が小さく、SD値が小さいことが分かった。さらに、実施例1と、炭素源供給部111から炭素源以外のものを供給した比較例1とを比較しても、同様の傾向が見られた。また、
図13、
図14を比較することによっても、比較例3よりも実施例1で得られた炭素被覆金属粉末の方が粒径が小さく、かつ、粒度分布が狭いことが分かった。
【0113】
また、
図5を参照することにより、炭素被覆膜が形成されない比較例1、4、5では、ある温度から急激に収縮し始め、600℃程度から収縮率が一定となることが分かった。すなわち、比較例1、4、5では、600℃付近で変曲点Aが現れることが分かった。換言すると、比較例1、4、5では、600℃付近が焼結終了温度であることが分かった。また、
図4を参照することにより、炭素被覆膜が形成された実施例1〜5、8、11では、焼結が開始してから徐々に収縮し、少なくとも、実施例1〜5、8、11で得られた炭素被覆金属粉末を含む導電性ペーストの焼成温度(ここでは1200℃)まで、変曲点が現れないことが分かった。このように、すくなくとも焼成温度まで急激に収縮しないことにより、本発明にかかる炭素被覆金属粉末を用いた導電性ペーストを塗布・焼成した焼成膜は、穴(欠陥)が少なく、平滑性や緻密性などの膜質に優れる。これは、表4、
図15〜18に示された結果からも明らかであった。
【0114】
また、表3の結果から分かるように、実施例1〜5、8〜13ではいずれもシフト量がマイナスの値であり、低エネルギー側にシフトしていた。比較例3、4では、シフト量がプラスの値であり、高エネルギー側にシフトしていた。すなわち、比較例3、4では、カーバイドニッケル層がほとんど存在していないと考えられる。
また、実施例1〜5、8〜13ではいずれも酸化ニッケル及び水酸化ニッケルに帰属されるピークが存在しなかった。比較例1、4、5 ではいずれも酸化ニッケル及び水酸化ニッケルに帰属されるピークが存在した。
【0115】
このように、実施例1〜5、8〜13では炭素被覆金属粉末粒子の表面状態が良好であるため、収縮特性の改善が十分となり、これらの炭素被覆金属粉末を含む導電性ペーストを積層セラミックの内部導体形成に用いた場合、緻密で連続性に優れた薄い内部導体層を備え、優れた特性を有する積層電子部品を、クラックやデラミネーション等の構造欠陥を生ずることなく得ることができる。また、カーバイドニッケルを介しての連続的な炭素被覆層の形成によりペースト混練等の物理的な力によって被覆層のはがれ等による欠陥の生成が起こりにくい。しかし、カーバイドの中間層がないとニッケルと被覆層の界面の接着が十分でなく機械的な力で容易に欠陥が生じ炭素被覆による効果が十分に発揮できなくなる。