【0009】
(a)式(1)で示される化合物
式(1)において、Rは炭素数1〜4の炭化水素基であり、直鎖であっても分岐であってもよく、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。Rは好ましくはメチル基又はエチル基であり、より好ましくはメチル基である。Rの炭素数が4より大きいと、式(1)で示される化合物の溶媒への溶解性が低下する。
式(1)において、aはオキシブチレン基の平均付加モル数で、3〜25、好ましくは3〜20、より好ましくは3〜15である。aが3より小さいとカルボン酸の分散性が低下して低温で電解液にカルボン酸の結晶が析出し、25より大きいと式(1)で示される化合物の溶媒への溶解性が低下する。
式(1)において、bはオキシエチレン基の平均付加モル数で、3〜60、好ましくは4〜50、より好ましくは4〜45である。bが3より小さいと式(1)で示される化合物の溶媒への溶解性が低下し、60より大きいと低温で電解液に式(1)で示される化合物自身の結晶が析出しやすくなる。
式(1)において、cはオキシプロピレン基の平均付加モル数で、0〜30、好ましくは1〜25、より好ましくは2〜23である。cが30より大きいと式(1)で示される化合物の溶媒への溶解性が低下する。
【0010】
式(1)において、a/(a+b+c)は0.1〜0.5であり、好ましくは0.1〜0.4、より好ましくは0.15〜0.4である。a/(a+b+c)が0.1より小さいとカルボン酸の分散性が低下して低温で電解液にカルボン酸の結晶が析出し、0.5より大きいと式(1)で示される化合物の溶媒への溶解性が低下する。
式(1)において、b/(b+c)は0.6〜1であり、より好ましくは0.6〜0.95、より好ましくは0.65〜0.9である。b/(b+c)が0.6より小さいと式(1)で示される化合物の溶媒への溶解性が低下する。
式(1)において、(EO)
b/(PO)
cは、EOとPOのランダム状付加を表す。ブロック状付加であると、親油基−親水基−親油基のトリブロック型構造を形成する場合があり、カルボン酸の分散性が低下して低温で電解液中にカルボン酸の結晶が析出することがあるため好ましくない。
式(1)で示される化合物の分子量は、好ましくは500〜10,000であり、より好ましくは800〜4,000である。分子量が500より小さいと酸の分散に十分な効果が得られず、分子量が10,000より大きいと電解液の粘度が高くなり、泡立ちが高くなる傾向がある。
【実施例】
【0015】
[実施例1]
<合成例1>
メタノール32.0g(1.0モル)と触媒として水酸化カリウム3.5gを5L容量オートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した後、撹拌しながら120℃にて触媒を完全に溶解させた。次に滴下装置よりブチレンオキシド360.5g(5.0モル)を滴下し、4時間撹拌した。その後、さらに滴下装置よりエチレンオキシド882.0g(20.0モル)とプロピレンオキシド232.4g(4.0モル)の混合物を滴下し、4時間撹拌した。その後、オートクレーブより生成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するために、減圧−0.095Mpa(ゲージ圧、50mmHg)、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するためにろ過を行い、表1の化合物Aを得た。
【0016】
<電解液の調製>
表2に示す組成で混合し、60℃で均一になるまで撹拌して電解液を得た。
<外観の評価>
電解液50gをガラス瓶に入れ、25℃及び−40℃の恒温槽で1時間静置したときの分離の有無及び結晶の析出の有無を以下の基準で評価した。
○:分離、結晶の析出がなく均一である
×:式(1)で示される化合物が分離している、又は酸や式(1)で示される化合物の結晶が析出している
結果を表2に示す。
【0017】
<比抵抗の測定>
電気伝導度計(東亜電波工業(株)製CM−60S)により、電解液の30℃での比抵抗を測定した。結果を表2に示す。
<火花発生電圧の測定>
1L容量ステンレス製容器に電解液700gを入れ、60mm×10mmに切断した純度99.99%以上のアルミ箔を浸漬し、直流電源を繋げて25℃における電解液の火花発生電圧を測定した。火花発生電圧向上効果を次式にしたがって算出し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
[火花発生電圧向上度(V)=(a)の化合物を添加した電解液の火花発生電圧
−(a)の化合物を添加していない電解液の火花発生電圧]
○:火花発生電圧向上度が30V以上
×:火花発生電圧向上度が30V未満
また、比抵抗上昇度に対する火花発生電圧向上度を次式にしたがって算出し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
[火花発生電圧向上度/比抵抗上昇度=((a)の化合物を添加した電解液の火花発生電圧−(a)の化合物を添加していない電解液の火花発生電圧)/((a)の化合物を添加した電解液の比抵抗−(a)の化合物を添加していない電解液の比抵抗)]
○:火花発生電圧向上度/比抵抗上昇度が1.20以上
×:火花発生電圧向上度/比抵抗上昇度が1.20未満
【0018】
[実施例2〜9]
実施例1と同様の方法で、表1に示す化合物B〜Gを合成し、表2に示す配合組成の電解液を調製して、外観及び電気特性の評価、を行った。結果を表2に示す。
[比較例1〜9]
実施例1と同様の方法で、表1に示す化合物H〜Nを合成し、下記の方法で化合物O及びPを合成して、表2に示す配合組成の電解液を調製し、分離の有無及び結晶析出の有無の評価を行った。また、比抵抗及び火花発生電圧を測定し、火花発生電圧向上度を算出して、火花発生電圧向上度の評価及び比抵抗上昇度に対する火花発生電圧向上度の評価を行った。結果を表2に示す。なお、電解液の外観の評価において、25℃で均一でなかった場合には、−40℃での評価は行わなかった。
【0019】
<化合物Oの合成>
エタノール46.1g(1.0モル)と触媒として水酸化カリウム5.0gを5L容量オートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した後、撹拌しながら120℃にて触媒を完全に溶解させた。次に滴下装置よりエチレンオキシド970.2g(22.0モル)とブチレンオキシド1009.4g(14.0モル)の混合物を滴下し、4時間撹拌した。その後、オートクレーブより生成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するために、減圧−0.095Mpa(ゲージ圧、50mmHg)、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するためにろ過を行い、化合物Oを得た。化合物Oは、エタノール−EO22モル/BO14モルランダム付加物(分子量2000)である。
<化合物Pの合成>
メタノール32.0g(1.0モル)と触媒として水酸化カリウム6.0gを5L容量オートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した後、撹拌しながら120℃にて触媒を完全に溶解させた。次に滴下装置よりエチレンオキシド1764.0g(40.0モル)を滴下し、4時間撹拌した。その後、さらに滴下装置よりプロピレンオキシド581.0g(10.0モル)を滴下し、4時間撹拌した。その後、オートクレーブより生成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するために、減圧−0.095Mpa(ゲージ圧、50mmHg)、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するためにろ過を行い、化合物Pを得た。化合物Pは、メタノール−EO40モル−PO10モルブロック付加物(分子量2400)である。
【0020】
表2から明かなとおり、実施例1〜9の電解液は、分離することがなく、かつ低温において結晶が析出することがなく均一であった。また、火花発生電圧向上度が高く、さらに比抵抗上昇度に対する火花発生電圧向上度が高いことが明らかとなった。この電解液をアルミ電解コンデンサに使用した場合、高い電導度を示すとともに、高い火花電圧向上効果を示すことが確認された。
【0021】
これに対し、比較例1の電解液はRの炭素数が本発明の範囲より大きいために、式(1)で示される化合物の溶媒への溶解性が低下し、電解液が分離する結果となった。
比較例2は、a/(a+b+c)が本発明の範囲より大きいために、式(1)で示される化合物の溶媒への溶解性が低下し、電解液が分離した。
比較例3は、aが本発明の範囲より大きいために、式(1)で示される化合物の溶媒への溶解性が低下し、電解液が分離した。
比較例4は、a及びa/(a+b+c)が本発明の範囲より小さいために、酸の分散性が低下し、低温で電解液に酸の結晶が析出した。また、火花発生電圧向上度が十分でなく、比抵抗上昇度に対する火花発生電圧向上度も不十分であった。
比較例5は、bが本発明の範囲より大きいために、低温で電解液に式(1)で示される化合物及び酸の結晶が析出し、また、比抵抗上昇度に対する火花発生電圧向上度が不十分であった。
比較例6は、a/(a+b+c)が本発明の範囲より大きいために、式(1)で示される化合物の溶媒への溶解性が低下し、電解液が分離した。
比較例7は、cが本発明の範囲より大きく、b/(b+c)が本発明の範囲より小さいために、式(1)で示される化合物の溶媒への溶解性が低下し、電解液が分離した。
比較例8は、(a)成分が本発明の式(1)で示される化合物とは異なり、EOとBOがランダム付加であるため、式(1)で示される化合物の溶媒への溶解性が低下し、電解液が分離した。
比較例9は、(a)成分が本発明の式(1)で示される化合物とは異なり、BOが含まれていないため、酸の分散性が低下し、低温で電解液に酸の結晶が析出した。また、火花発生電圧向上度が十分でなく、比抵抗上昇度に対する火花発生電圧向上度も不十分であった。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】