【0008】
(a)式(1)で示される化合物
式(1)におけるXは、5又は6価のアルコールの水酸基を除いた残基であり、キシリトール、トリグリセリン、グルコース、ガラクトース、ソルビトール、ジペンタエリスリトール等の残基が挙げられる。Xは好ましくはキシリトール、トリグリセリン、ソルビトールの残基である。アルコールの水酸基の価数が5より小さいと比抵抗の上昇が大きくなり、比抵抗の上昇度に対する火花発生電圧の向上度は小さくなる。
式(1)におけるmは、オキシブチレン基の平均付加モル数で1〜5であり、好ましくは2〜4である。mが1より小さいと低温で電解液に結晶が析出し、また火花発生電圧向上効果が十分でない。mが5より大きいと、極性溶媒への溶解性が低下する。
式(1)におけるnは、オキシエチレン基の平均付加モル数で1〜15であり、好ましくは4〜12である。nが1より小さいと極性溶媒への溶解性が低下し、15より大きいと低温で電解液に結晶が析出する。
m/(m+n)は0.1〜0.5で、好ましくは0.2〜0.4である。m/(m+n)が0.1より小さいと電解液に低温で結晶が析出し、また火花発生電圧向上効果が十分でない。m/(m+n)が0.5より大きいと極性溶媒への溶解性が低下する。
式(1)におけるkは5又は6である。kが5より小さいと比抵抗の上昇が大きくなり、比抵抗の上昇度に対する火花発生電圧の向上度は小さくなる。
【0010】
式(1)で示される化合物は、オキシブチレン基を有するため、オキシエチレン基やオキシプロピレン基のみからなる化合物と比べて電気絶縁性が高い。また、オキシブチレン基の分岐のエチル基により嵩高い立体構造を形成して、酸化皮膜の化成性が向上する。これにより、オキシブチレン基を有する化合物は火花発生電圧の向上に効果を有すると考えられる。
同時に、式(1)で示される化合物は、分子内に極性基である水酸基を多く含有するため電導度が高く、アルミ箔表面での酸化皮膜の形成により火花発生電圧を大きく向上させた場合にも比抵抗の上昇を抑制できる。
さらに、オキシブチレン基は分岐のエチル基を有するために分子間の立体斥力が大きく、高い分散効果を有する。したがって、式(1)で示される化合物を、極性溶媒及び有機酸、無機酸又はそれらの塩とともに配合して電解コンデンサ用電解液として用いた場合、ポリオキシブチレン鎖により酸の親油性部位に吸着するとともに、ポリオキシエチレン鎖を極性溶媒側に配向して、酸の電解液中での分散性を向上させる。
よって、式(1)の化合物を含有する電解液は、低温でも結晶を析出することなく、幅広い温度域で安定なコンデンサを提供することができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
<合成例1>
D−ソルビトール182.2g(1.0モル)と触媒としての水酸化カリウム7.1gを5L容量オートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した後、撹拌しながら120℃にて触媒を完全に溶解させた。次に滴下装置より1,2−ブチレンオキシド865.2g(12.0モル)を滴下し、4時間撹拌した。その後、さらに滴下装置よりエチレンオキシド1323.0g(30.0モル)を滴下し、6時間撹拌した。その後、オートクレーブより生成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するために、減圧−0.095Mpa(ゲージ圧、50mmHg)、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するためにろ過を行い、表1の化合物Aを得た。
<電解液の調製>
表2に示す配合組成で混合し、60℃で均一になるまで撹拌して電解液を得た。
表2、及び後記計算式中の「(a)成分」とは、式(1)の化合物、又は式(1)の化合物に対する比較化合物を表す。また、「(a)成分無添加の場合」は、これと等量の溶媒(実施例7以外はエチレングリコール、実施例7はγーブチロラクトン)を加えた。
【0016】
<外観の評価>
電解液50gをガラス瓶に入れ、25℃及び−40℃の恒温槽で1時間静置したときの外観を、目視により以下の基準で評価した。なお、25℃において均一でない場合は−40℃での評価は行わなかった。結果を表2に示す。
○:均一である
×:分離している又は結晶が析出している
【0017】
<比抵抗の測定>
電気伝導度計(東亜電波工業(株)製CM−60S)により、電解液の30℃での比抵抗を測定した。また、比抵抗上昇度を次式にしたがって算出し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
[比抵抗上昇度(Ω・cm)=(a)成分を添加した電解液の比抵抗
−(a)成分を添加していない電解液の比抵抗]
○:比抵抗上昇度が20Ω・cm未満
×:比抵抗上昇度が20Ω・cm以上
【0018】
<火花発生電圧の測定>
1L容量ステンレス製容器に電解液700gを入れ、60mm×10mmに切断した純度99.99%以上のアルミ箔を浸漬し、直流電源を繋げて25℃における電解液の火花発生電圧を測定した。火花発生電圧向上効果を次式にしたがって算出し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
[火花発生電圧向上度(V)=(a)成分を添加した電解液の火花発生電圧
−(a)成分を添加していない電解液の火花発生電圧]
○:火花発生電圧向上度が30V以上
×:火花発生電圧向上度が30V未満
また、比抵抗上昇度に対する火花発生電圧向上度を次式にしたがって算出し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
[火花発生電圧向上度/比抵抗上昇度=((a)成分を添加した電解液の火花
発生電圧−(a)成分を添加していない電解液の火花発生電圧)/((a)成分
を添加した電解液の比抵抗−(a)成分を添加していない電解液の比抵抗)]
◎:火花発生電圧向上度/比抵抗上昇度が2.40以上
○:火花発生電圧向上度/比抵抗上昇度が1.20以上2.40未満
×:火花発生電圧向上度/比抵抗上昇度が1.20未満
【0019】
[実施例2〜8]
合成例1と同様の方法で、表1に示す化合物B〜Eを合成し、表2に示す電解液を調製して、分離の有無及び結晶析出の有無に基づき外観の評価を行った。また、比抵抗及び火花発生電圧を測定し、比抵抗上昇度及び火花発生電圧向上度を算出し、比抵抗上昇度の評価、火花発生電圧向上度の評価、及び比抵抗上昇度に対する火花発生電圧向上度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0020】
[比較例1〜8]
実施例1と同様の方法で、表1に示す化合物F〜Iを合成し、表2に示す電解液を調製して、分離の有無及び結晶析出の有無に基づき外観の評価を行った。また、比抵抗及び火花発生電圧を測定し、比抵抗上昇度及び火花発生電圧向上度を算出し、比抵抗上昇度の評価、火花発生電圧向上度の評価、及び比抵抗上昇度に対する火花発生電圧向上度の評価を行った。結果を表2に示す。なお、電解液の分離の評価において、25℃で分離が見られた場合には、結晶の析出の有無の評価、比抵抗の測定、火花発生電圧の測定は行わなかった。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
表2の結果から、実施例1〜8の電解液は、分離することがなく、かつ低温において結晶が析出することがなく均一であることがわかる。また、実施例1〜8の電解液は火花発生電圧の向上に十分な効果を有するとともに、比抵抗の上昇が小さく、比抵抗の上昇度に比べて火花発生電圧の向上度が高いことがわかる。
これに対し、比較例1はmが本発明の範囲より大きいために、電解液が分離する。
比較例2は、nが本発明の範囲より大きいために、低温で電解液に結晶が析出する。
比較例3は、m/(m+n)が本発明の範囲より小さいために、低温で電解液に結晶が析出する。
比較例4は、kが本発明の範囲より小さいために、比抵抗の上昇度が大きく、比抵抗上昇度に対する火花発生電圧向上度が十分でない。
比較例5は、本発明の化合物を用いていないので、低温で電解液に結晶が析出し、比抵抗の上昇度が大きく、火花発生電圧向上度が不十分であり、比抵抗上昇度に対する火花発生電圧向上度が十分でない。
比較例6は、本発明の化合物を用いていないので、低温で電解液に結晶が析出し、火花発生電圧向上度が十分でない。
比較例7は、本発明の化合物を用いていないので、比抵抗の上昇度が大きく、比抵抗上昇度に対する火花発生電圧向上度が十分でない。
比較例8は、本発明の化合物を用いていないので、低温で電解液に結晶が析出し、火花発生電圧向上度が十分でない。
以上のとおり、式(1)の化合物を含有する本発明の電解液をアルミ電解コンデンサに使用することによって、比抵抗の上昇を抑制しながら、高い火花発生電圧向上効果が得られることが確認された。