(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936110
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】レーザー光の回折方法及び回折光学素子装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/29 20060101AFI20160602BHJP
【FI】
G02F1/29
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-273663(P2011-273663)
(22)【出願日】2011年12月14日
(65)【公開番号】特開2013-125139(P2013-125139A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年12月5日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「高エネルギー密度プラズマフォトニクス」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(72)【発明者】
【氏名】米田 仁紀
【審査官】
廣崎 拓登
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−052266(JP,A)
【文献】
特開2007−250879(JP,A)
【文献】
M. A. Buntine, et al.,"A two-color laser-induced grating technique for gas-phase excited-state spectroscopy",Journal of Chemical Physics,1992年 7月 1日,Vol.97, No.1,pp.707-710
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
5/32
G02F 1/00− 1/125
1/21− 7/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共鳴的に光を吸収する気体によりシート状の回折格子記録領域を形成し、
上記気体の吸収帯域の波長の励起用レーザー光を上記回折格子記録領域内において交叉するように照射して上記回折格子記録領域を形成している気体に吸収させることにより該気体を光励起して、上記2つの励起用レーザー光の干渉による周期的空間屈折率分布を上記回折格子記録領域内に生成し、
上記回折格子記録領域内における周期的空間屈折率分布を過渡的な回折格子として用い、該過渡的な回折格子に入射される光学損傷強度で決められる強度までの上記気体の非吸収帯域の波長の被回折レーザー光を回折させることを特徴とするレーザー光の回折方法。
【請求項2】
上記共鳴的に光を吸収する気体は、オゾンを含むガスであり、
上記ガスの吸収ピーク波長である250nm近傍の2つの励起用レーザー光の照射により、上記ガスにより形成された上記回折格子記録領域内に周期的空間屈折率分布を生成し、上記回折格子記録領域内における周期的空間屈折率分布を過渡的な回折格子として用いることを特徴とする請求項1記載のレーザー光の回折方法。
【請求項3】
共鳴的に光を吸収する気体によりシート状の回折格子記録領域を形成する気体発生手段と、
上記気体の吸収帯域の波長の励起用レーザー光を上記回折格子記録領域内において交叉するように照射して上記回折格子記録領域を形成している気体に吸収させることにより該気体を光励起して、上記2つの励起用レーザー光の干渉による周期的空間屈折率分布を上記回折格子記録領域内に生成する光励起手段とを備え、
上記回折格子記録領域内における周期的空間屈折率分布を過渡的な回折格子として用い、該過渡回折格子に入射される光学損傷強度で決められる強度までの上記気体の非吸収帯域の波長の被回折レーザー光を回折させることを特徴とする回折光学素子装置。
【請求項4】
上記気体発生手段は、スリット状の開口を介して流出されるオゾンを含むガスにより上記回折格子記録領域を形成するガス発生手段であり、
上記光励起手段は、上記ガスの吸収ピーク波長である250nm近傍の2つの励起用レーザー光を、上記回折格子記録領域内において交叉するように照射して上記回折格子記録領域を形成しているガスに吸収させることにより該ガスを光励起して、上記回折格子記録領域内に周期的空間屈折率分布を生成することを特徴とする請求項3記載の回折光学素子装置。
【請求項5】
上記ガス発生手段は、絶縁物を挟んだ電極間に高周波高電圧を印加して発生する無声放電中を、純酸素または空気と酸素の混合を通すことによりオゾンを含むガスを発生させることを特徴とする請求項4記載の回折光学素子装置。
【請求項6】
上記ガス発生手段は、上記無声放電中を通す空気または酸素の流速を制御する制御手段を備えることを特徴とする請求項5記載の回折光学素子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光の回折方法及び回折光学素子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高い出力を持つ超短パルスレーザーを出力する超高出力レーザー発生装置において、望まれない増幅器内での非線形効果を下げるために、発振器からの光を周波数チャープさせ、ピーク強度を低下させて増幅する、いわゆるチャープパルス増幅が用いられている。
【0003】
チャープパルス増幅では、超短パルスレーザー発振器からの低エネルギーの光パルスを、回折格子対等で構成されるパルス拡張器によって時間的に周波数が増加する線形の正の周波数チャープに変換する。この周波数チャープした長パルス光を、広帯域レーザー増幅器によって飽和レベルまで増幅し、そして最後に負の分散特性を有する、すなわち低周波成分のほうが遅く伝搬する回折格子対等によって構成されるパルス圧縮器を通すことによってすべての周波数成分を同一時に重ね合わせ、超短パルス・高ピーク出力レーザー光を得る。
チャープパルス増幅により高い出力を持つ超短パルスレーザーを得る超高出力レーザー発生装置では、増幅後回折格子などを用いてパルス圧縮が行われる。この回折格子は、光学損傷しきい値が通常の鏡よりも低く、大面積なものが必要になり、システム全体のスケールダウンに制約をしている。回折格子は、大型化に伴い、製作技術が困難になり、コストの面でも大きな問題となっている。また、通常の鏡は、表面汚染等をクリーニングが可能であるが、回折格子の場合には困難なことが多く、表面汚染が蓄積した結果、損傷に至る場合もある。
【0004】
高強度パルスレーザー光を回折する方法として、レーザー光の二光束干渉を利用して生成したプラズマの周期的空間密度分布からなる過渡的な回折格子を利用する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1で提案されている方法は、気体中、液体中もしくは固体透明媒質中で交叉するようにレーザー光の照射することにより光束干渉が起こって生成したプラズマの周期的空間密度分布を過渡的な回折格子として機能させるものであるが、これとは別にブリリアン非線形散乱などを使って媒質中に音波による粗密波を作る方法も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−52266号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H. Yoshida, T. Hatae, H. Fujita, M. Nakatsuka, and S. Kitamura, A high-energy 160-ps pulse generation by stimulated Brillouin scattering from heavy fluorocarbon liquid at 1064 nm wavelength, Optics Express, Vol. 17, Issue 16, pp. 13654-13662 (2009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の如く、既存の固体回折格子にレーザーを入射させる場合、光学損傷のために入射強度が制限されてしまう。また、通常の回折格子などの光学素子を高強度のレーザーで使用すると、使用できるレーザーパワーは、その回折格子の光学損傷強度で決まってしまう。一般に回折格子は他の鏡などにくらべ桁違いに弱い損傷しきい値を持つために、レーザーシステム全体が大型化したり、使用強度の制限を受けていた。
【0009】
また、上記特許文献1で提案されている方法において、気体中に十分な屈折率変調を誘起するためには、10
16W/cm
2程度以上の強い強度のレーザー光を使用する必要がある。これでは、書きこむレーザーの強度が使用する回折させるレーザーと同程度かそれ以上になってしまい、有効的な素子としては使用できない。屈折率を変調させるためには、原子・分子に書き込み光を吸収させる必要があるが、このような高い強度では、吸収による熱膨張などの影響で、ピコ秒以下の短い時間しか粗密形状を保つことができず、結果として超短パルス光でしか書き込みができないことになってしまっている。これでは、例えばレーザー圧縮を考えた場合にサブピコ秒に圧縮するのに同等かそれ以上の強度の書き込み光がいることになり、回折光は生み出せるが、実質的なメリットがない。
【0010】
さらに、上記非特許文献1のように、ブリリアン非線形散乱などを使って媒質中に音波による粗密波を作る方法では、励起光と散乱光が位相整合を伴って起きるために位相共役波など発生に使われるが、チャープ増幅などの任意の位相を戻すことはできない。
【0011】
従来、ガス中に屈折率の粗密を形成するには、一般的にはプラズマ化させることが考えられてきた。しかし、プラズマ化させると、自由電子が放出され、これにより媒質の屈折率は大きく変化するが、この波長依存性は周波数=0を極大とした緩やかな変化であり、書きこむための光と回折させる光で吸収率の差を出すことが難しく、屈折率変調を生成させるのに必要な強度と最大回折強度はほぼ同程度であり、光学素子として効率のいいものができなかった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上述の如き従来の実情に鑑み、高い強度のレーザー光でも回折することができるレーザー光の回折方法及び回折光学素子装置を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下において図面を参照して説明される実施に形態から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、レーザー光に共鳴的に吸収が高い気体を放電により形成し、それに周期的空間屈折率分布を生成し、それを過渡的な回折素子として使うことで、高い強度のレーザー光でも回折可能とする。
【0015】
すなわち、本発明は、レーザー光の回折方法であって、共鳴的に光を吸収する気体によりシート状の回折格子記録領域を形成し、上記気体の吸収帯域の波長の励起用レーザー光を上記回折格子記録領域内において交叉するように照射して上記回折格子記録領域を形成している気体に吸収させることにより該気体を光励起して、上記2つの励起用レーザー光の干渉による周期的空間屈折率分布を上記回折格子記録領域内に生成し、上記回折格子記録領域内における周期的空間屈折率分布を過渡的な回折格子として用い、該過渡的な回折格子に入射される
光学損傷強度で決められる強度までの上記気体の非吸収帯域の波長の被回折レーザー光を回折させることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るレーザー光の回折方法では、上記共鳴的に光を吸収する気体は、例えばオゾンを含むガスであり、上記ガスの吸収ピーク波長である250nm近傍の励起用レーザー光の照射により、上記ガスにより形成された上記回折格子記録領域内に周期的空間屈折率分布を生成し、上記回折格子記録領域内における周期的空間屈折率分布を過渡的な回折格子として用いるものとすることができる。
【0017】
本発明は、回折光学素子装置であって、共鳴的に光を吸収する気体により回折格子記録領域を形成する気体発生手段と、上記気体の吸収帯域の波長の励起用レーザー光を上記回折格子記録領域内において交叉するように照射して上記回折格子記録領域を形成している気体に吸収させることにより該気体を光励起して、上記2つの励起用レーザー光の干渉による周期的空間屈折率分布を上記回折格子記録領域内に生成する光励起手段とを備え、上記回折格子記録領域内における周期的空間屈折率分布を過渡的な回折格子として用い、該過渡回折格子に入射される
光学損傷強度で決められる強度までの上記気体の非吸収帯域の波長の被回折レーザー光を回折させることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る回折光学素子装置において、上記気体発生手段は、例えば、スリット状の開口を介して流出されるオゾンを含むガスにより上記回折格子記録領域を形成するガス発生手段であり、上記光励起手段は、上記ガスの吸収ピーク波長である250nm近傍の2つの励起用レーザー光を、上記回折格子記録領域内において交叉するように照射して上記回折格子記録領域を形成しているガスに吸収させることにより該ガスを光励起して、上記回折格子記録領域内に周期的空間屈折率分布を生成するものとすることができる。
【0019】
また、本発明に係る回折光学素子装置において、上記ガス発生手段は、例えば、絶縁物を挟んだ電極間に高周波高電圧を印加して発生する無声放電中を、空気または酸素を通すことによりオゾンを発生させるものとすることができる。
【0020】
また、本発明に係る回折光学素子装置において、上記ガス発生手段は、上記無声放電中を通す空気または酸素の流速を制御する制御手段を備えるものとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、レーザーに共鳴的に吸収が高い気体に周期的空間屈折率分布を生成し、それを過渡的な回折格子として使うので、高い強度のレーザーでも回折することができ、小型で高強度のレーザー光に使用できる回折光学系を作ることができる。これにより、これまで光学損傷しきい値のために大型になっていたチャープ増幅システムの小型化が可能になる。
【0022】
また、本発明では、光励起された気体中に周期的空間屈折率分布を生成し、それをもとに再生可能な過渡的な回折格子を作るので、例えレーザー光が通過後に破壊されても、その都度再生が可能であり、高強度のレーザーに対応できる回折光学系を作ることができる。したがって、破壊強度以上の光が入射されても、毎回再生されるために、使用限界の強度で安全係数なしに使用が可能になる。
【0023】
また、本発明では、深紫外域のガスの共鳴吸収を使うことで書き込むレーザー光と使用するレーザー光で4〜5桁の吸収差をつけることができ、小さなエネルギーで生成させた周期的空間屈折率分布による過渡的な回折格子で大きな出力のレーザーを制御できる。
【0024】
さらに、本発明によれば、格子の形状、変調度、ピッチは、固体光学回折素子のように固定でなく、2つの励起用レーザー光を変化できるために様々な回折波を生みだすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明を適用した回折光学素子装置の構成例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】上記回折光学素子装置において回折格子記録領域内に生成した周期的空間屈折率分布の観測結果を示す図である。
【
図3】上記回折光学素子装置において回折格子記録領域内に周期的空間屈折率分布を生成して回折格子を書き込み、回折実験を行った結果を示す図である。
【
図4】上記回折光学素子装置の動作原理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
本発明は、例えば
図1に示すような構成の回折光学素子装置100に適用される。
【0028】
この回折光学素子装置100は、スリット状の開口11Aを介して流出される均一で且つ連続するシート状の回折格子記録領域を形成するオゾン含有ガス発生部10と、上記回折格子記録領域に2つの励起用レーザー光L1,L2を照射して、上記回折格子記録領域を形成しているオゾン含有ガスGooを光励起する光励起部20を備える。
【0029】
この回折光学素子装置100において、上記オゾンガス発生部10は、共鳴的に光を吸収する気体によりシート状の回折格子記録領域を形成する気体発生手段として機能するもので、上記共鳴的に光を吸収する気体として250nm近傍を吸収ピーク波長とするオゾン含有ガスGooを発生し、このオゾン含有ガスGooによりシート状の回折格子記録領域を形成する。
【0030】
上記オゾン含有ガス発生部10は、無声放電を発生する空間ギャップ11内に酸素O
2を含む原料ガスGoを供給して上記無声放電によりオゾン含有ガスGooを発生するものであって、平行平板状に配置された一対の金属電極12A,12Bと、上記金属電極12A,12B間に設置された長さが30mm程度の一対の誘電体13A,13Bを備え、酸素ボンベまたは空気タンクなどの原料ガス源14から酸素O
2を含む原料ガス(高濃度酸素や脱湿空気等)Goがダイヤフラムポンプ15により上記一対の誘電体13A,13B間の空間ギャップ11に送り込まれるとともに、高周波電源16により高周波高電圧が上記一対の金属電極12A,12Bに印加されるようになっている。上記高周波電源16には、例えば、13MHz・100Wの電源が用いられる。
【0031】
このオゾンガス発生部10では、上記一対の誘電体13A,13B間の空間ギャップ11に酸素O
2を含む原料ガスGoを通過させながら上記一対の金属電極12A,12Bに高周波高電圧を印加することにより上記空間ギャップ11内に無声放電を発生させ、無声放電により酸素O
2を解離させてオゾンO
3を発生させることによりオゾン含有ガスGooを生成する。そして、上記空間ギャップ11内に発生したオゾン含有ガスGooをスリット状の開口11Aを介して流出させることにより、均一で且つ連続するシート状のオゾン含有ガスGooによる回折格子記録領域を形成する。上記空間ギャップ11は1mm前後の間隙で、上記一対の誘電体13A,13Bには絶縁耐力の高いガラスやセラミックが用いられる。
【0032】
上記スリット状の開口11Aを介して流出されたオゾン含有ガスGooは回収フード17により回収され、再循環ライン18を介して原料ガス供給源14から供給される酸素を含む原料ガスGoの供給ラインに戻され、上記ダイヤフラムポンプ15により上記一対の誘電体13A,13B間の空間ギャップ11に送り込まれるようになっている。上記ダイヤフラムポンプ15の上流側には、上記一対の誘電体13A,13B間の空間ギャップ11に送り込まれる酸素O
2を含む原料ガスGoの流量を測定する流量計19が設置されている。
【0033】
この回折光学素子装置100において、上記光励起部20は、オゾン含有ガスGooの吸収ピーク波長である250nm近傍のレーザー光Lを発生するレーザー光源21と、このレーザー光源21から出射されたレーザー光を2本のレーザー光L1,L2に分岐して、上記オゾン含有ガス発生部10により形成される均一で且つ連続するシート状のオゾン含有ガスGooによる回折格子記録領域内において交叉するように、上記回折格子記録領域を形成しているオゾン含有ガスGooに2つの励起用レーザー光L1,L2を照射する光学系22からなる。
【0034】
この光励起部20は、上記オゾン含有ガスGooの吸収ピーク波長である250nm近傍の2つの励起用レーザー光L1,L2を、上記回折格子記録領域内において交叉するように照射して上記回折格子記録領域を形成しているオゾン含有Gooに吸収させることにより、該オゾン含有ガスGooを光励起して、上記回折格子記録領域内に周期的空間屈折率分布を生成する。
【0035】
上述の如く、この回折光学素子装置100では、オゾン含有ガス発生部10において、高周波電源16により一対の金属電極12A,12Bに高周波高電圧を印加することにより、ダイヤフラムポンプ15により原料ガスGoが送り込まれる一対の誘電体13A,13B間の空間ギャップ11内、すなわち、原料ガスGoを流した流路に無声放電を発生させ、無声放電により酸素を解離させてオゾン含有ガスGooを生成し、均一で且つ連続するシート状のオゾン含有ガスGooによりシート状の回折格子記録領域を形成している。
【0036】
ここで、上記オゾン含有ガス発生部10におけるオゾン含有ガスGooの発生に際し、酸素濃度が高いと放電が不安定になり、逆に低いと上記光励起部20による回折格子記録領域内への回折格子の書き込み時の屈折率変化が少なくなる。また、流速は遅ければ回折格子記録領域へのオゾン移動が少なくなり、早ければ放電によるオゾン濃度の低下と回折格子の書き込みに際して流速による屈折率乱れを引き起こす。そこで、オゾン量は、酸素の分圧、原料ガスの流速を光励起部20による上記回折格子記録領域内への回折格子の書き込みに最適な屈折率変調が得られるように調整する。また、上記光励起部20では、オゾン含有ガスGooの吸収ピークである250mm近傍の紫外線レーザー光を使い、この紫外線レーザーを2光束干渉させ、そのフリンジパターンを利用して、噴出ガス内に屈折率変調をつけることにより、回折格子の書き込みを行う。レーザーの強度は強すぎると格子部の温度が上がり音速が早くなるので格子の寿命が短くなり、弱すぎると屈折率変調度が小さくなる。
【0037】
この回折光学素子装置100において、上記オゾン含有ガス発生部10により形成したオゾン含有ガスGooによる回折格子記録領域内に、250mm近傍の紫外線レーザー光を用いた励起用レーザー光L1,L2の2光束干渉による周期的空間屈折率分布を生成し、プローブの光を入れることで観測した結果を
図2に示す。
【0038】
このようにしてオゾン含有ガスGooにより形成した回折格子記録領域内に周期的空間屈折率分布を生成して回折格子を書き込み、回折実験を行った結果を
図3に示す。この
図3では、最初のピークが回折格子を書き込むための書込パルス、すなわち、励起用レーザー光L1,L2の強度を示し、2番目のパルスが回折強度を表している。
図3において、下側の特性線F1は格子を形成した場合、上側の特性線F2は格子を形成しない場合であるが、回折光学系として働いていることが実証されている。
【0039】
上記回折格子記録領域内における周期的空間屈折率分布を過渡的な回折格子として用いることにより、該過渡的な回折格子に入射される上記オゾン含有ガスGooの非吸収帯域の波長の被回折レーザー光Linを回折させることができる。
【0040】
ここで、上記2つの励起用レーザー光L1,L2と被回折レーザー光Linの入射方向は、上記回折格子記録領域の厚み方向(Z軸方向)と直交するY軸方向としたが、上記書き込みレーザーをZ方向から繰り返し入れ、厚み方向(Z方向)に回折格子を記録してもよく、これ以外にも所望する回折波によって、体積的な回折格子を構成させることができる。
【0041】
すなわち、この回折光学素子装置100では、
図4に動作原理を示すように、オゾン含有ガス発生部10において、一対の誘電体13A,13B間の空間ギャップ11に酸素O
2を含む原料ガスGoを通過させながら高周波電源16により一対の金属電極12A,12Bに高周波高電圧を印加することにより上記空間ギャップ11内に無声放電を発生させ、無声放電により酸素O
2を解離させてオゾンO
3を発生させることによりオゾン含有ガスGooによりシート状の回折格子記録領域を形成する。また、オゾン含有ガスGooの吸収ピーク波長である250nm近傍の2つの励起用レーザー光L1,L2を上記回折格子記録領域内において交叉するように照射して上記回折格子記録領域を形成しているオゾン含有ガスGooに吸収させることにより該オゾン含有ガスGooを光励起して、上記2つの励起用レーザー光L1,L2の干渉による周期的空間屈折率分布を上記回折格子記録領域内に生成する。そして、上記回折格子記録領域内における周期的空間屈折率分布を過渡的な回折格子として用いることにより、該過渡的な回折格子に入射される上記オゾン含有ガスGooの非吸収帯域の波長の被回折レーザー光Linを回折させて回折レーザー光Loを出射することができる。
【0042】
なお、上記回折光学素子装置100では、無声放電法を採用したオゾン含有ガス発生部10によりオゾン含有ガスGooによるシート状の回折格子記録領域を形成したが、電解法や紫外線ランプ法によりオゾン含有ガスを生成して、オゾン含有ガスGooによるシート状の回折格子記録領域を形成するようにしてもよい。また、オゾン含有ガスGooは、例えば液体オゾンを気化させることにより得られる高濃度オゾンガスであっても良い。
【0043】
また、上記回折光学素子装置100では、オゾン含有ガスGooにより回折格子記録領域を形成し、上記オゾン含有ガスGooの吸収ピーク波長である250nm近傍の2つの励起用レーザー光L1,L2を励起光としたが、本発明は、この回折光学素子装置100のみに限定されるものでなく、上記回折格子記録領域を形成するガスは、オゾン含有ガスGooに限定されることなく、共鳴的に光を吸収するガスであればよい。
【0044】
すなわち、本発明では、共鳴的に光を吸収する気体によりシート状の回折格子記録領域を形成し、上記気体の吸収帯域の波長の2つの励起用レーザー光を上記回折格子記録領域内において交叉するように照射して上記回折格子記録領域の領域を形成している気体に吸収させることにより該気体を光励起して、上記2つの励起用レーザー光の干渉による周期的空間屈折率分布を上記回折格子記録領域内に生成し、上記回折格子記録領域内における周期的空間屈折率分布を過渡的な回折格子として用い、該過渡的な回折格子に入射される上記気体の非吸収帯域の波長の被回折レーザー光を回折させることができる。
【0045】
このように、本発明では、レーザーに共鳴的に吸収が高い気体に周期的空間屈折率分布を生成し、それを過渡的な回折格子として使うので、高い強度のレーザーでも回折することができ、小型で高強度のレーザー光に使用できる回折光学系を作ることができる。これにより、これまで光学損傷しきい値のために大型になっていたチャープ増幅システムの小型化が可能になる。また、本発明を適用した回折光学素子装置では、使用波長に吸収が少ないため、ファイバーグレーティングのように、伝播方向に屈折率の粗密を書き込み波長により反射点が変わるようにした、圧縮器にも利用することができる。
【0046】
また、本発明では、光励起された気体中に周期的空間屈折率分布を生成し、それをもとに再生可能な過渡的な回折格子を作るので、例えレーザー光が通過後に破壊されても、その都度再生が可能であり、高強度のレーザーに対応できる回折光学系を作ることができる。したがって、破壊強度以上の光が入射されても、毎回再生されるために、使用限界の強度で安全係数なしに使用が可能になる。
【0047】
また、本発明では、深紫外域のガスの共鳴吸収を使うことで4〜5桁の吸収差をつけることができ、小さなエネルギーで生成させた周期的空間屈折率分布による過渡的な回折格子で大きな出力のレーザーを制御できる。
【0048】
さらに、本発明によれば、格子の形状、変調度、ピッチは、固体光学回折素子のように固定でなく、2つの励起用レーザー光を変化できるために様々な回折波を生みだすことができる。
【符号の説明】
【0049】
10 オゾン含有ガス発生部、11 空間ギャップ、11A 開口、12A,12B 金属電極、13A,13B 誘電体、14 原料ガス源、15 ダイヤフラムポンプ、16 高周波電源、17 回収フード、18 再循環ライン、19 流量計、20 光励起部、21 レーザー光源、22 光学系、100 回折光学素子装置、Go 原料ガス、Goo オゾン含有ガス、L1,L2 励起用レーザー光、Lin 被回折レーザー光、Lo 回折レーザー光