(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
関節疾患により、関節可動域が制限された患者を外科的に治療する場合、整形外科医は手術対象である患部である関節対のCTやMRI画像を基にどの部位をどのように切除・修復すればよいかを術前に計画する。一方で、近年では、CTやMRI画像(以下、CT画像等或いは医用画像という)といった2次元可視画像を基にこれを3次元可視画像(もっとも、ディスプレー上の平面画像ではあるが)に変換する技術(CAD:Computer Aided Design )が確立され、しかも、ディスプレー上で3次元可視画像を適宜に動かせるようになっている(その部位、方向及び量、つまり可動域は定量的に表示される)。
【0003】
股関節や膝関節といった関節では、可動域が制限されるのは主として骨の変形であるが、この変形はCT画像等及び3次元可視画像で変形の様子は大体観察できるし、例えば、股関節の場合、大腿骨或いは骨盤をディスプレー上で仮想的に動かして干渉による制限の数値も把握できる。
【0004】
しかし、画面上での動かしだけでは、損傷を受けている実際の関節対での動きの状況や干渉程度は十分には判断できない。また、CT画像等や3次元可視画像には画像ノイズによる正確性の低下は避けられないので、3次元可視画像の動かしは実際の関節対の動かしに正確に対応していない場合もある。このため、下記特許文献1及び2では関節対に近い皮膚に指標点を取り付け、この指標点を3次元位置計測装置で計測し、実際の関節対の動きに近い結果を得ようとする試みがなされている。
【0005】
ただ、これもあくまで計測できるのは当該皮膚の動きであり、実際の関節対の動きとは異なる。そこで、最近注目を集めているのが下記特許文献3に見られるものを始めとする手術ナビゲーションシステムであり、中には手術対象である患部に対して手術器具をカメラで捉えた画像の中に反映できるものもある。しかし、ナビゲーションシステムを使用する場合、対象とする骨に計測指標となるセンサーを設置しなければならないために侵襲を伴う。また、このシステムでの可動域計測は、その原理上、術中でしかできないため、術前に関節対と骨切除等による治療方針を決定するのは不可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を股関節を例にとって図面を参照して説明する。本発明に係る関節対の可動域予測装置(以下、本装置という)はコンピュータにより処理するものである。
図1はコンピュータの各ユニットのブロック図であるが、本装置1は、画像入力部10、画像処理部11、骨輪郭認識部12、画像上の特定点(以下では特徴点という)抽出部13、基準座標系設定部14、可動域計算部15、表示部16、入力部17、演算部18及び計測部19等から構成される。
【0014】
ここで、画像入力部10、画像処理部11、骨輪郭認識部12、特徴点抽出部13、基準座標系設定部14、可動域計算部15はコンピューター内でメモリー[ROM(Read Only Memory)]や[RAM(Random Access Memory)]内に格納されるプログラム又はデータ格納部でもある。これらプログラム又はデータは演算部18に適宜転送された後にCPU(Central Processing Unit)で演算処理され、表示部16のディスプレーにその演算結果が表示される。入力部17はマウス及びキーボードで構成され、画像入力部10、画像処理部11、骨輪郭認識部12、特徴点抽出部13、基準座標系選定部14、可動域計算部15に使用する情報の入力を行うユーザインターフェースである。
【0015】
また、各ユニットの構成はこの他に入出力ポート20及びRP(Rapid Prototyping) 造形装置21を有する。RP造形装置21は取得したCT画像等から変換した3次元可視画像を基にこれと同一の骨実体模型を造形するものであり、入出力ポートは20は可動域計算部15の外部データを入出力するものであって、汎用メディア(CD−ROM、USBメモリー)又はLANである。
【0016】
図2は医用画像の撮影から手術を行うまでの各ステップを示すフローチャートであるが、以下はこれに基づいて説明する。まずは、予測(計測)対象である骨頭FHや骨盤臼蓋SCの周辺を十分に含むエリアでCT画像等を取得する[医用画像の撮影]を行う。医用画像はスライス画像に変換できるが、このときのスライス画像は医用分野での通常フォーマットであるDICOM(Digital Imaging and Communication in Medicine)によるものが適しているが、JPG、GIFといった汎用フォーマットでも画像ピクセルサイズとスライス位置情報が対応付けされた医用画像であれば適用も可能である。なお、後述する骨実体模型が十分な精度で造形されるには医用画像のスライス間隔は1.5mm以下が望ましい。
【0017】
次に、撮影されたCT画像等を入出力ポート20を介して画像入力部10に転送する[画像の転送]を行う。画像入力部10では、撮影されたCT画像等が格納されている画像サーバと通信を行い、該当する画像を選択して他のユニットへ転送する機能も有する。さらに、画像入力部10は画像保存通信システムPACS(Picture Archiving and Communication System) と連携して画像の転送を行う場合もある。なお、上記した汎用フォーマットによるものでも画像の転送は可能である。
【0018】
画像処理部11では、転送されたCT画像等を再構築して任意断面のスライス画像に変換する。この変換は、スライス位置以外のスライス画像やスライス方向以外の方向のスライス画像も適正な画像に変換できるようになっている。CT画像等からスライス画像への変換はMPR(Multi Planer Reconstruction)画像処理により、表示部16への表示や他のユニットへの転送を可能とするものである。
【0019】
続いて、手術対象を明確にするために撮影画像の[骨輪郭抽出及び3次元CAD化]を骨輪郭認識部12によって行う。撮影された医用画像群のそれぞれについて信号値のカットオフ値を決定して骨輪郭を抽出する。例えば、CT画像の場合には信号値としてCT値を採用する。CT値はX線の透過率であり、空気が−10
3、水は0として対象部位のX線透過率はそれらとの相対値として表されるものである。骨のCT値は一般的には10
3 前後であるが、患者の年齢や骨質によって異なるため、カットオフ値は表示部18に表示される骨輪郭の鮮明度を確認して決める。
【0020】
骨輪郭は関節対を構成する骨盤Pと大腿骨Tを別領域として抽出する。抽出された骨輪郭は画像情報内の位置情報を基に配列された画像群として
図3に示すようなボクセルデータ化(各スライス画像の画素を3次元配列として立体的に構築すること(この微小な各ユニットをボクセルという))する。このボクセルデータ化は画像処理では一般的に行われている手法であり、このボクセルデータを3次元CADデータと呼び、この処理を3次元CAD化ということもある。3次元CAD化したデータは3次元可視画像(3次元CADモデルともいう)として捉えることができる。
【0021】
3次元CAD化した画像を可視化するにはこのボクセルデータを使用して、一般的に行われているボリューム・レンダリングで十分であるが、本発明では後のステップで骨実体模型を造型するため、ボクセルデータを使用して、例えばマーチング・キューブ法によって骨表面の性状を計算し、STL(Stereo Lithography)形式のデータに構築して精度を高めるようにしている。なお、骨輪郭の抽出は他のソフト(例えば、Materialize 社製 Mimics)で処理される場合でも行うことができる。他のソフトによる骨輪郭の抽出及び3次元CAD化を行った場合には最終的に得られたSTLデータを入出力ポート20を介して骨輪郭抽出部12に転送すればよい。
【0022】
次に、特徴点抽出部13で[特徴点抽出]を行う。表示部16に表示されるスライス画像又は3次元CADモデルを参照しながら対象となる骨表面の特徴点を画像入力部10へキーボード又はマウスで指定する。本例の股関節では、骨盤P表面(
図4に示されるAPP:Anterior Pelvic Plane) を参照するため、左右骨盤Pの上前腸骨棘及び恥骨結合部分の計4点を特徴点として指定する。
【0023】
また、大腿骨T側は関節可動域の基準となる荷重軸(
図5に示す人が立位の際に荷重が作用するベクトル)及びSEA(Surgical Epicondyle Axis) を設定する必要があるため、骨頭FH中心(骨頭FH中心は外部から計測し難いため、大腿骨T表面の任意の1点以上とすることもある)と内外側副靱帯付着部を指定する。指定した特徴点は骨盤P又は大腿骨Tの3次元CADモデルが表現される座標系において、位置情報として特徴点抽出部13に格納される。
【0024】
大腿骨T側で任意の点を1点以上計測する理由は、後述のように関節対を構成する骨盤Pと大腿骨Tをそれぞれについて3点以上の計測点が必要となるためである。骨頭FH中心はその内部に存在するため、外部から骨頭FH中心を計測する際には股関節における骨頭FHの球状(才差)運動による軌跡中心を採用する必要があるが、股関節疾患例では十分な関節可動域(データ)が確保できず、誤差を生ずる虞があるため、骨頭FH付近の骨表面の1点以上を採用している。
【0025】
なお、本ステップで採用された特徴点は3次元CADデータ上では後のステップでの特徴点計測に使用するプローブ22の先端形状に合せて
図6に示すような球体又はV形の凹面22aとして表現される。これは本ステップで指定した特徴点を後のステップで高精度で計測するためである。これまでの一連のステップで生成されたデータは[骨CADモデル出力]として出力される。骨輪郭認識部12及び特徴点抽出部13によって骨表面の特徴点に凹面が設けられた3次元CADデータとしてのSTLデータは入出力ポート20を介してRP造形装置21に転送される。
【0026】
次に、RP造形装置21によって[骨実体模型の製作]を行う。これは、転送されたSTLデータ等からRP造形装置21を作動させてそのデータを現実の物として具現するもので、工業製品の試作品製作等に際してよく用いられているものである。これには、積層造形法、FDM法、シート積層法、インクジェット法等があるが、そのいずれでもよい。素材も問わないが、一般には樹脂が用いられている。本例では、積層造形方によるRP造形装置21としてOBJET社製Conenx350 を使用して骨実体模型を造形しているが、これに限るものではない。造形された骨実体模型は大腿骨Tの骨頭FHが骨盤臼蓋AC内に嵌入されて実際に可動できるようにしている。
【0027】
次いで、[座標系の設定]を基準座標系設定部14で行う。まず、可動域計算の基準となる関節対のそれぞれの骨について基準座標系を設定する。股関節では、骨盤P側は左右上前腸骨棘を結ぶ線の方向をX軸、左右上前腸骨棘の中点と左右恥骨結合の中点を結ぶ線の方向をZ軸とし、これらに直交する線をY軸とし、原点は骨頭FH中心に該当する骨盤臼蓋AC中心とする。
【0028】
大腿骨T側は骨頭FH中心と内外側副靱帯付着部の中点を結ぶ線の方向をZ軸、内外側副靱帯付着部を結ぶ線の方向をX軸とし、これらに直交する線をY軸とし、原点は骨頭FH中心とする。ここで骨盤/大腿骨双方で原点を骨頭FH中心としたのは医用画像撮影時には骨盤/大腿骨共に股関節の回転中心と一致しているからである。なお、本座標系の設定の際には上記で定義する各座標系同士が互いに直交しない場合もあるので、座標系同士で外積を計算して擬似的に直交させる。
【0029】
これ以後、本装置1の内部では、
図4及び
図5に示すように骨盤/大腿骨の3次元CADモデル及び特徴点はそれぞれ上記の座標系によって表現されるものとする。これら座標系の情報は以下の式(1)に示す正規直行行列Aとして骨盤/大腿骨それぞれについて表現される。
【0030】
| X
1 Y
1 Z
1 X |
A= | X
2 Y
2 Z
2 Y | ‥(1)
| X
3 Y
3 Z
3 Z |
| 0 0 0 1 |
ここで、Xi (i ;1〜3、以下も同じ)はX軸座標のXYZ成分、Yi はY軸座標のXYZ成分、Zi はZ軸座標のXYZ成分である。
【0031】
この正規直行行列AによってCT又はMRI装置内部の座標系で表現されている3次元CADデータ及び特徴点は上記で定義した基準座標系に以下の式(2)によって変換される。
P
R=AP
D ‥(2)
ここで、P
Rは基準座標系での位置、Aは先の正規直行行列、P
DはCT又はMRI装置内部の座標系での位置である。
【0032】
上記ステップ[医用画像の撮影][画像の転送][骨輪郭抽出及び3次元CAD化]まではCT等の医用画像撮影装置での座標系で表現されている。したがって、[骨実体模型の製作]までは3次元CADモデルが表現されている座標系は任意でも問題ないが、可動域を計算する際には臨床学的な方位(屈曲角/回旋/内外転)に変換する必要があるため、この臨床学的な方位に沿った座標系とした方が後の計算が簡素化できるので、以下はそれに従う。
【0033】
さらに、[骨実体模型の製作]では、3次元CADモデルが表現される座標系は任意であるため、[特徴点の抽出]で[座標系の設定]を行い、以後、骨盤/大腿骨の3次元CADモデル及び特徴点を臨床学的に設定した上記座標系で表現して[骨CADモデル出力]以下のステップを実施しても差し支えがないため、以下ではそれに従う。
【0034】
次に、[レジストレーション]を基準座標系設定部14で行う。ここで、レジストレーションとは異なる座標系で表現される位置間の対応付けを行うことをいう。本例では、コンピュータ上で表現される3次元CADデータと、実空間での骨実体模型の動きを対応付ける操作をするものとなる。レジストレーションに際しては、関節対と同一に造形された骨実体模型に計測部19が感知ができるセンサーを取り付ける。本例では、計測部19のセンサーとして赤外線座標測定機(例えば、NDI社製のPoralis 等が考えられる) 23を使用するため、赤外線で位置検出ができる赤外線反射マーカー24を
図7のように骨実体模型にそれぞれ取り付ける。
【0035】
この状態で、赤外線反射マーカー24の位置/姿勢を赤外線座標測定機23で計測することで骨盤/大腿骨の相対位置を把握することは可能であるが、赤外線反射マーカー24は骨盤/大腿骨の骨実体模型に対して任意の位置/姿勢に設置されるため、臨床学的方位に基づく骨盤/大腿骨骨実体模型の相対位置関係は把握できない。
【0036】
そこで、
図6のように骨実体模型に設置された上記の特徴点と一致する凹面をプローブ22で計測して[座標系の設定]で定義された座標系を実空間で把握する。本例では、骨盤P側では左右上前腸骨棘及び恥骨結合部に設定された凹面を、大腿骨T側では内外側副靱帯付着部と任意に設けられた1点以上をそれぞれプローブ22で計測する。これらの計測点は本装置1のコンピュータ内部において、特徴点抽出部13で定義された特徴点と一致するため、実空間内での計測点とコンピュータ内部の特徴点との間の空間をレジストレーションすることが可能になる。
【0037】
具体的には、以下のようになる。まず、プローブ22による骨実体模型上の計測点は赤外線反射マーカー24で相関される座標系(ここでは、骨盤/大腿骨マーカー座標系と称する)に対して計測位置が定義される。赤外線座標測定機23の座標系で骨実体模型上のある点の計測を行った場合、骨実体模型が赤外線座標測定機23の座標系内で変位した場合には計測点は変位するが、計測した点位置は変位しない。このため、骨実体模型との整合性がとれなくなるため、点位置を骨盤/大腿骨マーカー座標系に対して計測すれば、骨実体模型の変位に対して骨盤/大腿骨マーカー24の位置を計測でき、実空間で骨表面上の点を計測できることになる。
【0038】
実空間で計測された骨実体模型上の凹面の位置は[特徴点抽出]で定義した特徴点に一致するため、点対応レジストレーション(異なる空間上に存在する点群同士に対して最小二乗残差となるように空間同士を対応付けること)を行い、[座標系の設定]で定義した座標系を実空間上の骨実体模型に反映させる。これらの凹面計測とレジストレーションは骨盤Pと大腿骨Tの骨実体模型それぞれについて行われ、それぞれについて本装置1内で定義される座標系と実空間のレジストレーションを行う。
【0039】
なお、このレジストレーションは本装置1内で定義された特徴点と実空間に存在する骨実体模型の計測点が完全に一致することを前提としたものである。この定義された特徴点と実空間に存する骨実体模型の計測点に誤差が生じた場合、異なる空間間のレジストレーションに誤差を生ずる結果となる。そこで、大腿骨T側で骨頭FH中心を計測点として採用せず、骨表面上の1点以上を採用しており、こうすることで、骨内部の骨頭FH中心より骨表面上の点の方が実際に計測できて正確になるからである。そのために、異なる空間間の位置・姿勢を完全にレジストレーションするには実空間上に異なる少なくとも3点が必要となる。
【0040】
このレジストレーションによる本装置1と実空間の座標系のレジストレーションにより、例えば、骨実体模型に対する大腿骨Tの骨実体模型の位置は以下の式(3)によって表現が可能になる。
P
P=R
PRPA
RPRFR
RFFP
F ‥(3)
ここで、P
PはAPP基準での本装置1内で定義される骨盤Pの座標系、P
Fは本装置1内で定義される大腿骨T座標系で定義される大腿骨Tの座標系、R
PRP、R
RFFは骨盤/大腿骨の本装置1内及び実空間座標系のレジストレーション情報、A
RPRFは骨実体模型に設置された赤外線反射マーカー24の位置情報から構成される大腿骨赤外線マーカー座標系を骨盤赤外線マーカー座標系に変換する情報である。
【0041】
次に、骨実体模型として造型された骨盤Pと大腿骨Tとを組み合わせて実際に骨実体模型を動かす[骨実体模型の動作]を行う。このとき、レジストレーション時に骨盤P及び大腿骨Tに設置した赤外線マーカー24を赤外線座標測定器23でその位置及び方位を測定する。
【0042】
そして、最終的に[可動域の測定]を可動域計算部15で計測する。本例では、大腿骨T又は骨盤Pの骨実体模型或いはその双方を関節部で可動させ、それぞれの骨実体模型に設置されている赤外線反射マーカー24の位置を赤外線座標測定機23で実時間で計測し、可動域計算部15に骨盤/大腿骨における赤外線反射マーカー24の位置を実時間で計測しながら、上記の式(3)によって骨盤P座標系に対する大腿骨Tの相対位置・姿勢を計算する。
【0043】
つまり、式(3)に基づき、骨盤APPに対する大腿骨Tの可動域を回転3自由度(APP基準の骨盤座標系における屈曲・X軸周り、内外旋・Y軸周り、内外旋・Z軸周りの数値にしてその数値を表示部16に表示するのである。この可動域計算では、関節対を構成する骨盤Pと大腿骨Tとの骨実体模型において、関節部分の骨実体模型の干渉現象による動作拘束により、その関節可動域が制限される状況を把握することが可能である。
【0044】
加えて、骨実体模型に歪計の原理を用いる力センサを設置して、可動域計測と同期させて力計測を行うこともできる。力センサ信号は計測部19を介して可動域とともに可動域演算部15で処理される。本実施例では、股関節を構成する骨盤P側の骨実体模型に力センサを設置した場合について説明する。
【0045】
力センサ自体は取り付ける部位に対して剛直に固定されており、骨盤P側の骨実体模型は力センサと一体化するように拘束され、大腿骨T側の骨実体模型を動作させた場合に骨盤P側の骨実体模型に作用する力を検出できる。大腿骨T側の骨実体模型を動作させて骨盤P側の骨実体模型と干渉が生じた場合には、規定値以上の力が骨盤P側に作用するため、それを検出して干渉と判定する。
【0046】
この力センサ計測と可動域計測を同期して行うことで、可動域計算部15では以下の式(4)のような評価関数を用いて可動域計測データを生成する。
f(α,β,γ)=0 or 1 ‥(4)
ここでα、β、γはそれぞれ骨盤座標系における屈曲・X軸周り、内外旋・Y軸周り、内外旋・Z軸周りの角度であり、評価関数fの値は力センサの値が規定値を超えた場合は1、それ以外は0となる。なお、評価関数のパラメータとして、本実施例では骨頭FH中心の移動量(x、y、z)を加えても差し支えない。
【0047】
これら一連の可動域計測データは可動域計算部15に格納される。この可動域計測を複数回上記のパラメータの組合せで計測し、多次元データとして格納する(本実施例ではα、β、γをパラメータとする3次元データ)。これにより、2のパラメータを固定して残りの1のパラメータでの可動域を推定することもできる。このように、計測された可動域データから骨盤/大腿骨の任意の位置・姿勢の可動判定を行うこともできる。
【0048】
例えば、股関節の場合、日常生活では、a.内外転0°、内外旋0°の際の最大屈曲角、b.屈曲角0°、内外旋0°の際の最大外転角、c.屈曲角90°、内外転0°の際の最大内旋角、d.屈曲角0°、内外転0°の際の最大外旋角等が重要視されるが、そのバラメータに合うように骨盤Pと大腿骨Tの骨実体模型の相対位置を維持しながら、骨実体模型を動作させるのは実際問題困難であるため、このような機能を提供できるのは有用である。
【0049】
本実施例では力センサとして3軸力センサを念頭においているが、例えば、関節対を構成する骨実体模型の摺動部分にシート状センサ(タクタイルセンサ)を用いてもよいし、予め干渉部が事前に想定できるのであれば、関節対を構成する骨実体模型間の干渉部に接近の程度を観測できる近接センサを用いてその距離を可動域計測とともに行うことでも本目的を達成できる。
【0050】
なお、力センサの値は本実施例では1個の力センサ3軸(x、y、z)方向の信号を処理してその合力として計算される。一方で、例えば複数のセンサで多軸力を検出する場合には、個々のセンサ信号を以下の式(5)で処理して可動域判定を行ってもよい。
F(S
1、S
2、S
3‥‥S
N)=S
max or S
min ‥(5)
ここで、S
N(n=1,2・・・・n)は各センサの信号値、nはセンサの個数、S
maxはS
Nの最大値、S
min はS
N の最小値である。例えば、力を検出する場合にはS
maxを基準として規定値と比較することで、上記の式(4)の評価関数で可動域判定することとなる。また、例えば、近接センサの場合には関節対を構成する骨実体模型間の最小距離S
minを基準として、規定値以下となった場合に式(4)の評価関数の値が1となる。
【0051】
さらに、RP造形装置21による骨実体模型の造形に際して医用画像群から骨領域の異なる部位を判別し、この部位ごとに硬さの異なる連続した骨実体模型を製作することもできる。例えば、骨輪郭認識部12における[骨輪郭抽出及び3次元CAD化]において、CTやMRI等の画像では骨盤臼蓋ACの軟骨と皮質骨の境界は鮮明であるために抽出は容易である。また、互いに連続性を有する骨盤皮質表面部と軟骨表面部をSTLデータとして出力し、それぞれの領域に対して異なる物性値を与えるようにRP造形装置21に入力して骨実体体模型を造形することも可能である。
【0052】
股関節では、皮質骨部部分では固い材料で、軟骨部分では軟らかい材料で造形することになり、より生体に近い骨実体模型を造形可能とする。本例で使用しているOBJET社製のConnex350 ではこれが可能である。この骨実体模型を使用して[座標系の設定]以下のステップをとることで可動域計測を再度計測ができる。関節部の変形が局所的で、CT画像等では検出し難い軟骨が十分に残存している症例では、実際の可動域を正確に把握することができる。
【0053】
以上のステップを実行して関節対の骨実体模型を用いて可動域を計測し、その結果が[可動域の測定結果が満足できるものか]どうかを判別して、もし、所期の数値を得られない場合、[骨実体模型の整形]に戻り、再度、骨実体模型の切除や肉盛り週に等を行う。本式の手術ではこれができないこともあるから、これができることは手術の正確さを期す上で非常に有用である。これらの手順を繰り返して所期の数値が得られるまで続け、得られたなら実際の[手術]を行う。なお、上記した操作は滅菌した状態の骨実体模型を手術室に持ち込んでおくことで手術中でも可能である。[手術]は患部を開いて適宜な措置を施すが、手術後に実際の骨を動かしてみて表示部16の数値と合致していれば、術前計画どおりに手術ができたことになる。
【0054】
なお、骨盤Pと大腿骨Tの関節面周囲に筋肉等の軟部組織が介在して骨を動かすときに大きな抵抗が生じることがあり、これは本装置1では検出できない。このため、術前計画どおりの可動域が確保できないことがあるが、そのときは軟部組織を遊離させる等の臨機応変の措置をとることになる。さらに、実際に患部を開けてみて、本装置1で想定された以外の疾患が見つかり、これに対応した手技が要求されることもあるが、そのときも臨機応変の措置をとって最適な手術をする。
【0055】
以上により、本発明によれば、手術前(場合によっては手術中)に手術リハーサルを行うことができ、本式の手術精度を上げるとともに、誤手術を防ぐことができる。加えて、手術対象は実際の骨ではなく、樹脂で製作された模擬的な骨実体模型とすることができるから、何度でも修復でき、手術の精度をより高めることができる。したがって、難度の高い手術であっても、術前にリハーサルができるし、経験の浅い整形外科医の手術の訓練にもなる。