特許第5936123号(P5936123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936123
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】車両用内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/06 20060101AFI20160602BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20160602BHJP
【FI】
   F02D29/06 F
   F02P5/15 C
   F02P5/15 E
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-214021(P2012-214021)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-66234(P2014-66234A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 登喜夫
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−015441(JP,A)
【文献】 特開2010−196602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/06
F02P 5/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸でオルタネータが駆動されるようになっており、アイドル運転時に回転変動が生じたら回転数を変動前に戻すように点火時期が制御される構成であって、
回転変動が発生する直前のオルタネータ負荷が小さいほど点火時期の調節量が大きくなるように制御される、
車両用内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、アイドル運転時の制御に特徴を有する車両用内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は補機の一例としてオルタネータを備えており、オルタネータはベルトを介してクランク軸で駆動されている。オルタネータはバッテリーの蓄電状態に応じて自動的に駆動されており、従って、車両が停止しているアイドル運転時にもオルタネータが駆動されることは多い。
【0003】
ガソリン機関の場合、内燃機関の出力・回転数等の制御は、スロットルバルブの制御と点火時期制御とで行っており、アイドル運転時の制御では、例えば、機関にかかる各種負荷(駆動部分の摩擦抵抗等であるフリクショントルク、オルタネータの負荷であるオルタネータトルク、自動変速機の負荷である変速機トルク、エアコン用コンプレッサの負荷であるエアコントルク、各種電気機器の負荷である電気負荷トルクなど)を予め算定し、これら負荷の割合をマップとして予め設定しておき、クランク軸の実際の回転で発生するトルクと各種負荷(トルク)の割合とを随時比較して回転数を目標値に導くフィードバック制御を行っている。
【0004】
アイドル運転は燃料の使用量を抑制しつつクランク軸の回転は維持する必要があるが、負荷が瞬間的に高くなるとエンジンストールに至るおそれがある。特に、オルタネータの負荷は大きいため、アイドル運転のエンジンストールは、オルタネータの負荷がクランク軸にかかることに起因することが殆どである。そこで、オルタネータを駆動している状態で回転数が低下してもエンジンストールに至らないように、アイドル運転の回転数そのものを高めに設定していることが多いが、オルタネータの負荷変動に対するスロットルバルブの追従遅れにより、回転数が急激に上昇する吹き上がり(或いは浮き)の現象が生じることがあった。
【0005】
この点について特許文献1には、オルタネータの発電量を検知し、発電量が増加したら点火時期を進角させることで回転数の落ち込みを防止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−245436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
点火時期の制御は瞬間的に行えるため、スロットルバルブの制御に比べてクランク軸の回転アップの応答性が格段に高く、この点については、特許文献1は優れていると言える。しかし、クランク軸の回転低下によって必ずしもオルタネータの発電量が増加するとは言えないため、特許文献1においてエンジンストールを防止できるか否か、非常に疑問であると言える。
【0008】
つまり、クランク軸の回転が低下している状態でオルタネータの発電量が増加するには、クランク軸で発生したトルクのうちオルタネータの駆動に占める割合が増大することを意味するが、これはクランク軸に更なる負荷がかかることを意味しており、回転が低下している状態で更に負荷が増大するとエンジンストールに至る可能性が高いのである。
【0009】
より端的に述べると、クランク軸の回転が低下している状態では、オルタネータの発電量が一定であったり低下したりしていても、クランク軸はオルタネータの負荷によって更に回転が低下していくのであり、クランク軸の回転低下はむしろオルタネータの発電量減少につながることが多いと言えるのである。
【0010】
つまり、オルタネータは所定の発電量を維持するように機能するため、クランク軸の回転数が低下すると所定の発電量を維持しようとしてクランク軸の回転を低下させるように作用し、すると、益々クランク軸の回転数が低下するという悪循環に陥って、最終的にエンジンストールに至るのである。
【0011】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたもので、点火時期の進角制御で回転を持ち直させるという点は特許文献1と共通ししているが、その契機になる事象を現実に適合させることで、的確な制御を図ろうとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本願発明の内燃機関は、クランク軸でオルタネータが駆動されるようになっており、アイドル運転時に回転変動が生じたら回転数を変動前に戻すように点火時期が制御される構成であって、回転変動が発生する直前のオルタネータ負荷が小さいほど点火時期の調節量が大きくなるように制御されるようになっている。
【0013】
この場合、クランク軸の回転変動は回転センサで直接に検知しても良いし、クランク軸又はこれに連動した部材の回転の加速度をセンサで検知してこれから演算したり、或いは、オルタネータのデューティ比の増大で代替したりすることも可能である。すなわち、クランク軸の回転数(回転速度)の変動を間接的に検知するものも本願発明の包含されている。
【発明の効果】
【0014】
アイドル運転状態でクランク軸の回転数が低下した場合、回転数の低下が緩慢であればスロットルバルブの制御により、エンジンストールに至ることなく回転数を上げる(元に戻す)ことができるが、オルタネータ等の大きな負荷が掛かっている状態で急激に低下すると、スロットルバルブの制御によっては回転数の回復が間に合わず、上記したようにエンジンストールに至ってしまうおそれがある。
【0015】
また、アイドル運転時におけるオルタネータの稼働率は一定ではなく、バッテリーの蓄電量に電気機器の使用状況等に応じて高負荷で発電したり低負荷で発電したりするが、オルタネータ負荷が大きい高負荷低回転域では機関の駆動トルクに余力があるため、回転数が低下しても元に戻す時間的な余裕があるが、オルタネータの負荷が小さい低負荷低回転域では機関が余力のない状態で駆動されているため、何らかの理由で回転数が低下するとオルタネータが所定の発電を行うとすることに起因して加速度的に回転数が低下しやすい。
【0016】
この点、本願発明では、回転変動が生じる直前のオルタネータ負荷を基準として、オルタネータ負荷が小さいほど点火時期の変動量を大きくしているため、オルタネータ負荷が回転を抑制するように働く前に回転数を上げて、エンジンストールを防止することができる。これにより、内燃機関(或いは車両)の信頼性を向上できる。
【0017】
なお、点火時期の調整量は回転数の低下率にも関連しており、回転数の落ち込みが大きいほど(回転変動の低下率が大きいほど)点火時期の進角量を多くするのが好ましい。従って、実際の進角量は回転数の低下率によって変化するものであり、オルタネータトルが同じあっても、点火時期の変動量は異なり得る。
【0018】
また、本願発明では必ずしもアイドル運転の回転数を高めに設定しておく必要はないのであり、このため、何らかの原因で回転数が急激に上昇する吹き上がり減少も防止又は抑制可能となり、燃費向上にも貢献し得る。
【0019】
更に、オルタネータは固体によって発電能力にバラツキがあり、また、使用しているうちに発電能力が徐々に低下するのが普通であるが、クランク軸のどの回転域でオルタネータの負荷に起因した回転数減少が発生しやすいかを記憶して、この記憶に基づいてオルタネータのデューティ比と回転数との関係マップを修正することも可能であり、これにより、個々のオルタネータに適合した最適のアイドル運転状態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本願発明の実施形態を示す模式図である。
図2】制御の説明図である。
図3】制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1).内燃機関の基本構成
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、基本構成を説明する。本実施形態の内燃機関の基本構造は従来と同様であり、主要要素としてシリンダボア2を有するシリンダブロック1と、シリンダブロック1に重なったシンリダヘッドとを備えている。当然ながらシリンダボア2にはピストン4が摺動自在に嵌まっており、ピストン4の往復動は連設棒5を介してクランク軸6の回転に変換される。
【0022】
シリンダヘッド2には吸気弁7で開閉される吸気通路8と排気弁9で開閉される排気通路10とが形成されており、かつ、シリンダヘッド2の中央部には点火プラグ11を設けている。吸気通路8には吸気マニホールド12が接続されており、吸気マニホールド12には吸気通路13が接続されている。吸気経路はエアクリーナ14を始点にしており、エアクリーナ14の下流側には、順に、インタークーラ15、スロットルバルブ16、サージタンク17が介在している。
【0023】
吸気通路13のうち例えばサージタンク17や吸気マニホールドに燃料噴射ノズル(インジェクタ)を設けており、燃料の噴射量はECU26からの指示で制御される。排気通路10には排気マニホールド18が接続されており、排気マニホールド18には排気通路19が接続されており、排気ガスの一部はEGR通路20を介して吸気通路13に還流する。
【0024】
クランク軸6の一端部には、一部を欠歯としたギア状のセンサプレート22が固定されており、センサプレート22の歯を回転センサ23で検知して、隣り合った歯の検知の時間間隔を演算することで、回転数と回転速度(加速度)とを得ることができる。
【0025】
シリンダブロック1には、補機の例としてオルタネータ24とウォータポンプ25とを取り付けており、これらオルタネータ24とウォータポンプ25は、クランク軸6に固定した駆動プーリ26及びベルト27で駆動される。当然ながらオルタネータ24の出力線はバッテリー27に結線されており、バッテリー27から各部位に電力が供給される。
【0026】
内燃機関は制御手段としてのECU(エンジン・コントロール・ユユニット)28を有しており、このECU28に、アクセルペダル29の踏み込み量を検知するペダルセンサ30、車速センサ31、既述の回転センサ23、オルタネータ24、バッテリー27、点火プラグ11、スロットルバルブ18が電気的に接続されている。ECU28に繋がった線の矢印は信号の方向を示している。
【0027】
(2).アイドル運転制御
車両が停止した状態では、ペダルセンサ31及び車速センサ32の検出値はゼロになっている。そこで、ペダルセンサ31及び車速センサ32ともゼロの状態が所定時間維持された場合はアイドル状態と認識して、オルタネータ24等の負荷マップに基づいてクランク軸6の回転数を目標回転数に一致させるフィードバック制御が行われる。
【0028】
図2のR1は設定された目標回転数であり、R2はエンジンストールに至る危険回転数である。図2では、現実の回転数が目標回転数R1と一致していると仮定している。そして、吸気の僅かの乱れ等で実際の回転数が目標回転数R1から低下することがある。
【0029】
この場合、オルタネータ負荷が大きい場合は、低回域でも機関には余力があるため、回転数がR1から低下しても、オルタネータ24の負荷に起因して回転数が加速度的に落ち込む現象は生じにくく、オルタネータ負荷が小さくなるほど、オルタネータ24の負荷に起因して回転数が加速度的に落ち込む現象が生じやすい。
【0030】
また、回転数低下の程度が点線矢印Aのように緩慢である場合(勾配が緩い場合)は、スロットルバルブ16を開いて燃料供給量を増やすことで、危険回転数R2に至る前に回転数を上げることができるが、実線Bのように回転数の低下が急激である場合(勾配が急である場合)は、スロットルバルブ16の制御では応答できず、オルタネータ24の負荷で回転数が低下して、更に回転数低下によってオルタネータ24の負荷が増大する(デューティ比が高くなる)という悪循環に陥ってしまう。
【0031】
そこで、図2(B)に一点鎖線で示すように、スロットルバルブ16の制御で辛うじて回転数を上昇させ得る程度の低下率(勾配)よりやや小さい低下率を基準低下率(基準線)Cに設定しておいて、実際の回転数の低下率ΔRが基準低下率Cよりも大きい急減速エリアにある場合は、オルタネータ24のデューティ比が高くなったものと見なして、点火タイミングが早くなるように点火プラグ11を進角制御し、実際の回転数の低下率ΔRが基準低下率Cより小さい緩慢減速エリアにある場合は、スロットルバルブ16を開いて吸気を増大させる。
【0032】
かつ、回転変動直前のオルタネータ負荷を制御マップ又は発電量から読み取って、オルタネータ負荷が小さいほど進角量が大きくなるように制御する。つまり、回転数の低下率ΔRを第1の制御因子として進角量を演算し、更に、オルタネータトルクを第2の制御因子として点火時期の進角量を補正する。
【0033】
点火時期の進角制御は瞬間的に行えるので、クランク軸6は危険回転数R2に低下する前に安全な目標回転数R1に戻すことができる。なお、回転数が急低下したときに、点火時期の進角制御に合わせてスロットルバルブ16も制御することが可能であるが、スロットルバルブ16による回転数上昇にはタイムラグがあるので、進角制御をスロットルバルブ16の開き操作と併行させる実益は乏しい。従って、回転数の低下率ΔRが基準低下率Cよりも高くなった場合は、点火時期の進角制御のみを行うのが現実的である。
【0034】
点火時期の進角タイミングはクランク軸6の回転角度で概ね1〜3度で良いが、回転数の低下率に比例して進角量が多くなるように関連付けると、よりタイムリーな制御が可能になる。
【0035】
回転センサ23ではクランク軸6の回転数変化(速度変化)を小刻みに検知できるが、ごく僅かの時間だけ減速してすぐに元の回転数に戻ることもある。そこで、例えば、クランク軸6の回転角度で数十度の間減速傾向が連続したら急減速エリアにあると判断することで、回転数低下が危険な状態になるときのみ進角制御することができる。
【0036】
図2のように、クランク軸6の回転数が低下すると、オルタネータ24のデューティ比がランクAからランクBに上昇しようとするので、オルタネータ24のデューティ比を電力等とから演算して、その値の上昇をトリガーとして点火時期を進角制御することも可能である。
【0037】
図3では制御のフローチャートを示している。このフローはアイドル運転でかつオルタネータ24が駆動されている状態でスタートし、まず、制御マップ又は発電量の検出値からオルタネータ負荷のレベルが短い時間間隔で繰り返し演算される。オルタネータ負荷レベルは短時間で更新され、最新のレベルが保持判断される(S1)。次いで、クランク軸6の回転数が低下していないか否かがごく短い時間間隔で随時判断される(S2)。
【0038】
回転数が継続的に所定時間(或いは所定角度)低下した場合は、低下率ΔRが基準値K(図2の線Cの傾き)より大きいか否かが判断され(S3)、低下率ΔRが基準値Kより大きい場合は、低下率ΔRの大きさとオルタネータ負荷の大きさとに基づいて点火時期の進角量が演算され(S4)、直近の気筒の点火プラグ11から進角した状態で点火される(S5)。オルタネータ負荷が相当に大きい場合や回転数低下率ΔRが基準値Kより小さい場合は、スロットルバルブ16を使用した通常制御に移行する(S6)。
【0039】
点火時期の進角が実行された後は、クランク軸6の現実の回転数(回転速度)と目標値との差が比較回路によって演算され(S7)、比較値がゼロになったら元の点火タイミングに戻し(S8)、比較値がマイナスの場合は、比較値がゼロになるまで進角状態での点火を継続する。
【0040】
本実施形態では、進角制御の回転センサ23の検出値をきっかけにして行われ、正常値に戻ったか否かも回転センサ23の検出値で判断される。そして、回転センサ23は内燃機関に元々備えられているものであるため、センサ類を新たに設ける必要はない。このためコストアップを防止できる。
【0041】
オルタネータ負荷レベルの認定は、オルタネータ24の実際の発電量(電圧・電流)を実際に検知することで行ってもよいし、バーテリー28の蓄電量や電気使用量に基づいてオルタネータ24に指示される発電量から演算してもよい。上記の説明は回転数が低下した場合の処置であったが、回転数が増加した場合も同様である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本願発明は実際に車両用内燃機関に適用できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 シリンダブロック
2 シリンダヘッド
4 ピストン
6 クランク軸
11 点火プラグ
13 吸気通路
16 スロットルバルブ
24 オルタネータ
28 バッテリー
29 制御手段としてのECU
図1
図2
図3