【文献】
Int. J. Oncol., 2009, Vol. 34, pp. 657-663
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域からなるポリペプチドのうちの(c1)又は(c2)のポリペプチドを有効成分として含む、MDSC又はTregである免疫抑制機能系細胞の分化誘導阻害剤。
請求項2記載のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域からなるポリペプチドをコードするDNA又は請求項3若しくは4に記載のベクターを有効成分として含む、単球からの樹状細胞様細胞分化誘導剤。
請求項2記載のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域からなるポリペプチドをコードするDNAのうちの(h1)、(h2)及び(h3)のいずれかのDNA又は該DNAを含む請求項3若しくは4に記載のベクターを有効成分として含む、樹状細胞、ヘルパーT細胞、CTL及びNK細胞からなる群から選択される免疫活性化細胞の分化誘導促進剤。
請求項2記載のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域からなるポリペプチドをコードするDNAのうちの(h1)、(h2)及び(h3)のいずれかのDNA又は該DNAを含む請求項3若しくは4に記載のベクターを有効成分として含む、MDSC又はTregである免疫抑制系細胞の分化誘導阻害剤。
請求項2記載のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域からなるポリペプチドをコードするDNAのうちの(h1)、(h2)及び(h3)のいずれかのDNA又は該DNAを含む請求項3若しくは4に記載のベクターを有効成分として含む、抗癌剤。
動物から採取した単球を、in vitroで請求項1記載のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域からなるポリペプチドの存在下で培養することを含む、CD14陽性単球より樹状細胞様細胞を分化誘導する方法。
請求項16記載のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域からなるポリペプチドをコードするDNA又は請求項17若しくは18に記載のベクターを有効成分として含む、抗癌剤。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、ヒトREIC/Dkk−3タンパク質の全長、並びに部分領域1[Arg121−329]及び部分領域2[Gly184−Ile329]の調製方法を示す図である。
図2は、単独(添加なし)(
図2A)、GM−CSF+IL−4(
図2B)(それぞれ、2ng/ml)、又はヒトREIC/Dkk−3タンパク質の全長(
図2C)、部分領域1[Arg 121−Ile 329](
図2D)若しくは部分領域2[Gly 184−Ile 329](
図2E)(10μg/ml)の存在下で7日間培養したPBMCの位相差顕微鏡像を示す写真である(弱拡大像)。
図3は、単独(添加なし)(
図3A)、GM−CSF+IL−4(
図3B)(それぞれ、2ng/ml)、又は部分領域2[Gly 184−Ile 329](10μg/ml)(
図3C)の存在下で7日間培養したPBMCの位相差顕微鏡像を示す写真である(強拡大像)。
図4は、単独(添加なし)、GM−CSF+IL−4(それぞれ、2ng/ml)、又はヒトREIC/Dkk−3タンパク質の全長、部分領域1[Arg 121−Ile 329]若しくは部分領域2[Gly 184−Ile 329](10μg/ml)により分化誘導される樹状細胞様細胞の出現頻度を示す図である。
図5−1は、REIC/Dkk−3タンパク質の部分領域3[Ser 114−Phe 267]の製造法及び精製法のプロトコールを示す図である。
図5−2は、REIC/Dkk−3タンパク質の部分領域3[Ser 114−Phe 267]の精製における第1回目のイオン交換クロマトグラフィー精製のチャートを示す図である。
図5−3は、REIC/Dkk−3タンパク質の部分領域3[Ser 114−Phe 267]の精製における第2回目のイオン交換クロマトグラフィー精製のチャートを示す図である。
図6は、ヒト組織由来培養細胞発現ヒトREICタンパク質添加による末梢血単球からの樹状細胞様分化誘導を示す写真であり、単独(添加なし)(
図6A)、又はREIC/Dkk−3タンパク質の部分領域1[Arg 121−Ile 329](10μg/ml)(
図6B)若しくは部分領域3[Ser 114−Phe 267](10μg/ml)(
図6C)により分化誘導される樹状細胞様細胞(7日目)の位相差顕微鏡写真(弱拡大)である。
図7は、ヒト組織由来培養細胞発現ヒトREICタンパク質添加による末梢血単球からの樹状細胞様分化誘導を示す写真であり、単独(添加なし)(
図7A)、又はREIC/Dkk−3タンパク質の部分領域1[Arg 121−Ile 329](10μg/ml)(
図7B)若しくは部分領域3[Ser 114−Phe 267](10μg/ml)(
図7C)により分化誘導される樹状細胞様細胞(7日目)の位相差顕微鏡写真(強拡大)である。
図8は、REIC/Dkk−3タンパク質の部分領域3[Ser 114−Phe 267]の安定性確認実験の結果を示す図である。
図9は、実施例3で用いた遺伝子高発現プラスミドが含む発現カセットのコンストラクトを示す図である。
図10は、ヒト全長REIC/Dkk−3タンパク質、及び部分領域3[Ser 114−Phe 267]の腹腔内投与実験のプロトコールを示す図である。
図11Aは、ヒト全長REIC/Dkk−3タンパク質、及び部分領域3[Ser 114−Phe 267]の腹腔内投与による腫瘍増殖抑制効果(腫瘍体積の経時的変化)を示す図である。
図11Bは、ヒト全長REIC/Dkk−3タンパク質、及び部分領域3[Ser 114−Phe 267]の腹腔内投与による腫瘍増殖抑制効果(腫瘍重量)を示す図である。
図11Cは、ヒト全長REIC/Dkk−3タンパク質、及び部分領域3[Ser 114−Phe 267]の腹腔内投与による腫瘍増殖抑制効果を示す腫瘍の写真である。
図11C−aはPBSを投与した場合、
図11C−bはヒト全長REIC/Dkk−3タンパク質を投与した場合、
図11C−cは部分領域3を投与した場合の結果を示す。
図12Aは、REIC/Dkk−3タンパク質(全長又は部分領域3)治療実験終了時(安楽死直前)又は無処置群又はPBSバッファー投与群における各末梢血中の骨髄由来免疫抑制性細胞の陽性率(%)を示すグラフである。
図12Bは、REIC/Dkk−3タンパク質(全長又は部分領域3)治療実験終了時(安楽死直前)又は無処置群又はPBSバッファー投与群における各末梢血中の樹状細胞細胞の陽性率(%)を示すグラフである。
図12Cは、REIC/Dkk−3タンパク質(全長又は部分領域3)治療実験終了時(安楽死直前)又は無処置群又はPBSバッファー投与群における各末梢血中の活性化樹状細胞(CD11c+/CD80+)の陽性率(%)を示すグラフである。
図12Dは、REIC/Dkk−3タンパク質(全長又は部分領域3)治療実験終了時(安楽死直前)又は無処置群又はPBSバッファー投与群における各末梢血中の活性化樹状細胞(CD11c+/CD86+)の陽性率(%)を示すグラフである。
図12Eは、REIC/Dkk−3タンパク質(全長又は部分領域3)治療実験終了時(安楽死直前)又は無処置群又はPBSバッファー投与群における各末梢血中のヘルパーT細胞の陽性率(%)を示すグラフである。
図12Fは、REIC/Dkk−3タンパク質(全長又は部分領域3)治療実験終了時(安楽死直前)又は無処置群又はPBSバッファー投与群における各末梢血中の免疫抑制性T細胞の陽性率(%)を示すグラフである。
図12Gは、REIC/Dkk−3タンパク質(全長又は部分領域3)治療実験終了時(安楽死直前)又は無処置群又はPBSバッファー投与群における各末梢血中の細胞傷害性T細胞の陽性率(%)を示すグラフである。
図12Hは、REIC/Dkk−3タンパク質(全長又は部分領域3)治療実験終了時(安楽死直前)又は無処置群又はPBSバッファー投与群における各末梢血中の活性型細胞傷害性T細胞の陽性率(%)を示すグラフである。
図12Iは、REIC/Dkk−3タンパク質(全長又は部分領域3)治療実験終了時(安楽死直前)又は無処置群又はPBSバッファー投与群における各末梢血中のNK細胞の陽性率(%)を示すグラフである。
図13は、ヒト全長REIC/Dkk−3タンパク質の同所性腎細胞がん・肺転移モデルマウスでの腹腔内投与実験のプロトコールを示す図である。
図14Aは、ヒト全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)の同所性腎細胞がん・肺転移モデルマウスでの腹腔内投与実験における腎がん原発巣の腫瘍組織の写真である。
図14Bは、全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)治療実験終了時(安楽死直前)又はPBSバッファー投与群における腎がん原発巣の腫瘍重量(g)の平均値を示すグラフである。
図15Aは、ヒト全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)の同所性腎細胞がん・肺転移モデルマウスでの腹腔内投与実験における肺転移巣の腫瘍組織の写真である。
図15Bは、全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)の治療実験終了時(安楽死直前)又はPBSバッファー投与群における肺転移巣の腫瘍重量(g)の平均値を示すグラフである。
図16Aは、無処置マウスから採取した骨髄細胞にGM−CSF(20ng/ml)(16A−a)又はREICタンパク質(10ug/ml)とGM−CSF(20ng/ml)の混合液(16A−c)を投与した際の、MDSC細胞の分化誘導を示したサイトグラムである。16A−aはコントロールである。
図16Bは、
図16Aに示したサイトグラムから割り出されたMDSC細胞の陽性率のグラフである。
図17A−1は、全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)の治療実験終了時(安楽死直前)又はPBSバッファー投与群から採取した各末梢血に対し、フローサイトメトリー解析を用いて、MDSC(Gr−1+,CD11b+)の陽性率を測定した結果(サイトグラム)を示す図である。
図17A−1aはPBS、
図17A−1bは全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg)、
図17A−1cは全長REIC/Dkk−3タンパク質(100μg)を用いた場合の結果である。
図17A−2は、全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)の治療実験終了時(安楽死直前)又はPBSバッファー投与群から採取した各末梢血に対し、フローサイトメトリー解析を用いて、MDSC(Gr−1+,CD11b+)の陽性率を測定した結果(陽性率のグラフ)を示す図である。
図17B−1は、全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)の治療実験終了時(安楽死直前)又はPBSバッファー投与群から採取した各末梢血に対し、フローサイトメトリー解析を用いて、樹状細胞(CD11c+,CD80+)の陽性率を測定した結果(サイトグラム)を示す図である。
図17B−1aはPBS、
図17B−1bは全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg)、
図17B−1cは全長REIC/Dkk−3タンパク質(100μg)を用いた場合の結果である。
図17B−2は、全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)の治療実験終了時(安楽死直前)又はPBSバッファー投与群から採取した各末梢血に対し、フローサイトメトリー解析を用いて、樹状細胞(CD11c+,CD80+)の陽性率を測定した結果(陽性率のグラフ)を示す図である。
図17C−1は、全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)の治療実験終了時(安楽死直前)又はPBSバッファー投与群から採取した各末梢血に対し、フローサイトメトリー解析を用いて、Treg(CD4+,Foxp3+)の陽性率を測定した結果(サイトグラム)を示す図である。
図17C−1aはPBS、
図17C−1bは全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg)、
図17C−1cは全長REIC/Dkk−3タンパク質(100μg)を用いた場合の結果である。
図17C−2は、全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)の治療実験終了時(安楽死直前)又はPBSバッファー投与群から採取した各末梢血に対し、フローサイトメトリー解析を用いて、Treg(CD4+,Foxp3+)の陽性率を測定した結果(陽性率のグラフ)を示す図である。
図17D−1は、全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)の治療実験終了時(安楽死直前)又はPBSバッファー投与群から採取した各末梢血に対し、フローサイトメトリー解析を用いて、活性型CTL(CD8+,CD69)の陽性率を測定した結果(サイトグラム)を示す図である。
図17D−1aはPBS、
図17D−1bは全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg)、
図17D−1cは全長REIC/Dkk−3タンパク質(100μg)を用いた場合の結果である。
図17D−2は、全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)の治療実験終了時(安楽死直前)又はPBSバッファー投与群から採取した各末梢血に対し、フローサイトメトリー解析を用いて、活性型CTL(CD8+,CD69+)の陽性率を測定した結果(陽性率のグラフ)を示す図である。
図17E−1は、全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)の治療実験終了時(安楽死直前)又はPBSバッファー投与群から採取した各末梢血に対し、フローサイトメトリー解析を用いて、NK細胞(CD3e+,NK1.1+)の陽性率を測定した結果(サイトグラム)を示す図である。
図17E−1aはPBS、
図17E−1bは全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg)、
図17E−1cは全長REIC/Dkk−3タンパク質(100μg)を用いた場合の結果である。
図17E−2は、全長REIC/Dkk−3タンパク質(10μg、100μg)の治療実験終了時(安楽死直前)又はPBSバッファー投与群から採取した各末梢血に対し、フローサイトメトリー解析を用いて、NK細胞(CD3e+,NK1.1+)の陽性率を測定した結果(陽性率のグラフ)を示す図である。
図18Aは、REIC/Dkk−3タンパク質とTctex−1タンパク質の相互作用を示した酵母ツーハイブリッドの解析の結果を示す図である。図中、青色のコロニーはREIC/Dkk−3タンパク質とTctex−1タンパク質の相互作用があることを示す。
図18Bは、REIC/Dkk−3タンパク質とTctex−1タンパク質の相互作用を示した免疫沈降解析とウエスタン・ブロット解析の結果を示す図である。
図19Aは、全長REIC/Dkk−3タンパク質とTctex−1タンパク質の相互作用を示した動物細胞ツーハイブリッド解析の結果を示す図である。
図19Bは、ヒト全長REIC/Dkk−3タンパク質の部分領域とTctex−1タンパク質の相互作用を示した動物細胞ツーハイブリッド解析の結果を示す図である。
図20Aは、REIC/Dkk−3タンパク質とdynein intermediate chain(DIC)のTcTex−1結合領域のアミノ酸配列アラインメントを示す図である。
図20Bは、REIC/Dkk−3タンパク質のTctex結合ドメインと既知結合タンパク質のアミノ酸配列アラインメントを示す図である。
図21Aは、ヒト全長REIC/Dkk−3タンパク質とTctex−1タンパク質の細胞内局在を示す写真である。
図21Aの写真はヒト線維芽細胞OUMS24においてヒト全長REIC/Dkk−3タンパク質(A−b)と小胞体マーカーであるConcanavalinA(A−a)との2重蛍光染色(A−c)の共焦点顕微鏡による撮像である。
図21Bは、ヒト全長REIC/Dkk−3タンパク質とTctex−1タンパク質の細胞内局在を示す写真である。
図21Bの写真はヒト線維芽細胞OUMS24においてTctex−1タンパク質(B−b)と小胞体マーカーであるConcanavalinA(B−a)との2重蛍光染色(B−c)の共焦点顕微鏡の写真である。
図22Aは、Ad−REICのアポトーシス誘導能が、Tctex−1の発現減少により減弱し、発現増幅により増強することを、蛍光顕微鏡によるHochest染色の撮像により示した写真である。上段の写真はAd−LacZを用いた場合、下段の写真はAd−REICを用いた場合であり、a、b及びcは、それぞれ、GFPプラスミド、shRNA−Tctex−1、Tctex−1発現プラスミドを投与した場合の結果を示す。
図22Bは、Ad−REICのアポトーシス誘導能が、Tctex−1の発現減少により減弱し、発現増幅により増強することを、アポトーシスの誘導率グラフで示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、本発明を詳細に説明する。
REIC/Dkk-3遺伝子(REIC遺伝子)の全長塩基配列及び該遺伝子のコードするタンパク質のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1及び配列番号2に表される。配列番号2に表すアミノ酸配列中、1番から21番のアミノ酸からなる配列がシグナル配列と予測される。REIC/Dkk-3遺伝子は、配列番号1の配列情報に基づいて、ヒト細胞、ヒト組織等から得ることができる。また、国際公開第WO01/038523号パンフレットの記載に従って得ることも可能である。
本発明の、REIC/Dkk-3タンパク質(REICタンパク質)の部分領域からなるポリペプチドは、以下のポリペプチドを含む。
(1)REIC/Dkk-3タンパク質のシグナル配列部分を除いた部分の第121番目のArgから第329番目のIleからなる部分領域を含む209アミノ酸からなる。該ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の142番目のArgから350番目のIleからなる。本発明のポリペプチドをREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域[Arg 121-Ile 329]と称することがある。本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域[Arg 121-Ile 329]のアミノ酸配列を配列番号5に、該アミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号6に示す。
(2)REIC/Dkk-3タンパク質のシグナル配列部分を除いた部分の第184番目のGlyから第329番目のIleからなる部分領域を含む146アミノ酸からなる。該ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の205番目のGlyから350番目のIleからなる。本発明のポリペプチドをREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域[Gly 184-Ile 329]と称することがある。本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域[Gly 184-Ile 329]のアミノ酸配列を配列番号3に、該アミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号4に示す。
(3)REIC/Dkk-3タンパク質のシグナル配列部分を除いた部分の第114番目のSerから第267番目のPheからなる部分領域を含む154アミノ酸からなる。該ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の135番目のSerから288番目のPheからなる。本発明のポリペプチドをREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域[Ser 114-Phe 267]と称することがある。本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域[Ser 114-Phe 267]のアミノ酸配列を配列番号7に、該アミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号8に示す。
(4)REIC/Dkk-3タンパク質のシグナル配列部分を除いた部分の第184番目のGlyから第267番目のPheからなる部分領域を含む83アミノ酸からなる。該ポリペプチドは上記の3種類のポリペプチドのコンセンサス配列からなるポリペプチドであり、生理活性のコアとなるポリペプチドであると考えられる。該ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の205番目のGlyから288番目のPheからなる。本発明のポリペプチドをREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域[Gly 184-Phe 267]と称することがある。本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域[Gly 184-Phe 267]のアミノ酸配列を配列番号9に、該アミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号10に示す。
(5)さらに、本発明の、REIC/Dkk-3タンパク質(REICタンパク質)の部分領域からなるポリペプチドは、REIC/Dkk-3タンパク質のシグナル配列部分を除いた部分の第184番目のGlyから第267番目のPheからなる部分領域を含み、かつ第114番目のSerから第329番目のIleからなる部分領域の断片からなるポリペプチドを含む。該ポリペプチドは、配列番号2に示すアミノ酸配列の第205番目のGlyから第288番目のPheからなる部分領域を含み、かつ配列番号2に示すアミノ酸配列の第135番目のSerから第350番目のIleからなる部分領域の断片からなるポリペプチドである。また、該ポリペプチドをコードする塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列の第613番目のgから第864番目のcからなる部分配列を含み、かつ配列番号1に示す塩基配列の第403番目のtから第1050番目のtからなる部分配列の断片からなる塩基配列である。該ポリペプチドのアミノ酸残基数は、83〜216である。
さらに、REIC/Dkk-3タンパク質は、Tctex-1(t-complex testis expressed-1)タンパク質と相互作用(会合)して作用する。Tctex-1タンパク質は、dyneinモーター複合体を構成する軽鎖タンパク質(dynein light chain)であり、Tctex-1結合タンパク質と会合することによってdyneinモーターと小胞積荷間の介在分子として重要な役割を果たす。
REIC/Dkk-3タンパク質とTctex-1タンパク質はいずれも小胞体周辺に局在しており、Tctex-1タンパク質はREIC/Dkk-3タンパク質のアポトーシス誘導能を促進する。REIC/Dkk-3タンパク質の、配列番号2で表されるアミノ酸配列の136番目のValから157番目のMetからなる22アミノ酸からなる部分領域がTctex-1タンパク質と相互作用する。該部分領域ポリペプチドは、REIC/Dkk-3タンパク質のシグナル配列部分を除いた部分の第115番目のValから第136番目のMetからなる部分領域に相当する。該部分領域のアミノ酸配列を配列番号17に示す。
該部分領域のアミノ酸配列中、EXGRRXH(配列番号18、配列番号17の4〜10番目のアミノ酸からなる配列に相当)(Xは任意の天然アミノ酸)がTctex-1タンパク質との結合に関するコンセンサス配列(コンセンサスモチーフ)である。
本発明は、REIC/Dkk-3タンパク質の上記のTctex-1タンパク質と相互作用する部分領域ペプチド及び上記のコンセンサスモチーフを包含する。
従って、本発明の、REIC/Dkk-3タンパク質(REICタンパク質)の部分領域からなるポリペプチドはREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域からなる、Tctex-1タンパク質に結合し得るポリペプチドであって、配列番号17に表されるアミノ酸配列からなる、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域からなるポリペプチドを包含する。
さらに、上記のEXGRRXH(配列番号18)で表されるコンセンサスモチーフの配列を含む、7〜22残基のアミノ酸からなるポリペプチドを包含する。該ポリペプチドは、例えば、配列番号17に表されるアミノ酸配列の中の連続する7〜22残基のアミノ酸からなるポリペプチであって、第4番目のGluから第10番目のHisの7アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含むポリペプチドである。この場合、5番目のGlu及び9番目のSerは他の任意の天然アミノ酸に置換されていてもよい。
本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドは、上記のアミノ酸配列、すなわち配列番号3、配列番号5、配列番号7若しくは配列番号9に表されるアミノ酸配列、又はREIC/Dkk-3タンパク質のシグナル配列部分を除いた部分の第184番目のGlyから第267番目のPheからなる部分領域を含み、かつ第114番目のSerから第329番目のIleからなる部分領域の断片からなるポリペプチドのアミノ酸配列あるいは該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有し、樹状細胞様細胞分化誘導活性を有するポリペプチドである。また、本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドは、配列番号17に表されるアミノ酸配列あるいは該アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有し、Tctex-1タンパク質への結合活性を有するポリペプチドである。ここで、実質的に同一のアミノ酸配列としては、当該アミノ酸配列に対して1又は複数若しくは数個(1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1個若しくは2個)のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の同一性を有しているものが挙げられる。
本発明のポリペプチドは、単球から樹状細胞様細胞を分化誘導する活性を有し、さらに、CTL細胞、NK細胞、ヘルパーT細胞等の免疫活性化細胞を分化誘導する活性を有する、さらにMDSC細胞やTreg細胞を分化抑制する活性も有する。本発明のポリペプチドはこれらの細胞分化誘導活性や抑制活性を有するため、免疫抑制系を阻害し得る。従って本発明のポリペプチドを抗がん免疫賦活剤、抗がん剤、抗腫瘍剤、免疫細胞分化誘導・抑制剤として利用することができる。
本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドをコードするDNAは、配列番号4、配列番号6、配列番号8若しくは配列番号10に表される塩基配列、配列番号8に表される塩基配列の4番目のgから69番目のgからなる塩基配列、又は配列番号1に示す塩基配列の第613番目のgから第864番目のcからなる部分配列を含み、かつ配列番号1に示す塩基配列の第403番目のtから第1050番目のtからなる部分配列の断片からなる塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、配列番号4、配列番号6、配列番号8若しくは配列番号10、配列番号8に表される塩基配列の4番目のgから69番目のgからなる塩基配列、又は配列番号1に示す塩基配列の第613番目のgから第864番目のcからなる部分配列を含み、かつ配列番号1に示す塩基配列の第403番目のtから第1050番目のtからなる部分配列の断片からなる塩基配列に表される塩基配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の同一性を有しているDNA、又は前記DNAによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列に対して1又は複数若しくは数個(1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1個若しくは2個)のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAなどのうち、単球からの樹状細胞様細胞分化誘導活性;CTL細胞、NK細胞、ヘルパーT細胞等の免疫活性化細胞分化誘導活性;MDSC細胞やTreg細胞の分化抑制活性を有するタンパクをコードするものである
。
REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドは、上記の配列情報に基づいて、化学合成により得ることができる。また、遺伝子工学的手法により組換えポリペプチドとして得ることができる。すなわち、本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドをコードするDNAを適当なベクターに導入し、該ベクターを宿主中に挿入し、該宿主を培養し、培養物からポリペプチドを得ればよい。本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられ、公知のものを用いることができる。この際、宿主としては真核細胞又は原核細胞系を使用することができる。真核細胞としては、例えば樹立されたヒト、げっ歯類などの哺乳類細胞系、昆虫細胞系、真糸状菌細胞及び酵母細胞などの動物細胞等が挙げられ、原核細胞としては、例えば大腸菌細胞等の細菌細胞が挙げられる。本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドをコードするDNAを含む宿主細胞をin vitro又はin vivoで培養して該宿主を公知の方法で培養することにより、培養物からREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドを得ることができる。ここで、「培養物」とは、培養上清、あるいは培養細胞若しくは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味する。発現、産生されたポリペプチドは、前記培養物から精製することができる。精製は、通常のタンパク質で使用されている精製方法を用いればよく、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより精製することができる。さらに、本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドはWO01/038523号公報の記載に従って得ることも可能である。
本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドのうち、特にREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域[Gly 184-Phe 267]は、室温から37℃程度の高温で保存しても分解を受けることなく安定である。また、PEG等の各種試薬に対しても安定である。
本発明は上記のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドをコードするDNAを含むベクターをも包含する。該ベクターを被験体に導入することにより、被験体体内でREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドが発現し、被験体体内で生理活性を発揮し得る。
REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドは、がん細胞においてアポトーシスを誘導する。
遺伝子治療における目的の遺伝子(DNA)の被験体への導入は公知の方法により行うことができる。遺伝子を被験体へ導入する方法として、ウイルスベクターを用いる方法及び非ウイルスベクターを用いる方法があり、種々の方法が公知である(別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996;別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997;日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999)。
遺伝子導入のためのウイルスベクターとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス等のウイルスベクターを用いた方法が代表的なものである。無毒化したレトロウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNAウイルス又はRNAウイルスに目的とする遺伝子を導入し、細胞に組換えウイルスを感染させることによって、細胞内に遺伝子を導入することが可能である。
本発明に係る遺伝子を,ウイルスを用いた遺伝子治療に使用するとき、アデノウイルスベクターが好ましく用いられる。アデノウイルスベクターの特徴として、(1)多くの種類の細胞に遺伝子導入ができる、(2)増殖停止期の細胞に対しても効率よく遺伝子導入ができる、(3)遠心により濃縮が可能であり、高タイター(10〜11PFU/ml以上)のウイルスが得られる、(4)in vivoの組織細胞への直接の遺伝子導入に適している、という点が挙げられる。遺伝子治療用のアデノウイルスとしては、E1/E3領域を欠失させた第1世代のアデノウイルスベクター(Miyake,S.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,93,1320,1996)から、E1/E3領域に加え、E2若しくはE4領域を欠失させた第2世代のアデノウイルスベクター(Lieber,A.,et al.,J.Virol.,70,8944,1996;Mizuguchi,H.&Kay,M.A.,Hum.Gene Ther.,10,2013,1999)、アデノウイルスゲノムをほぼ完全に欠失させた(GUTLESS)第3世代のアデノウイルスベクター(Steinwaerder,D.S.,et al.,J.Virol.,73,9303,1999)が開発されているが、本発明に係る遺伝子を導入するには、特に限定されずいずれのアデノウイルスベクターでも使用可能である。さらに、AAVの染色体に組み込み能を付与したアデノ-AAVハイブリッドベクター(Recchia,A.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,96,2615,1999)や、トランスポゾンの遺伝子を用いることにより染色体に組み込む能力を有したアデノウイルスベクターなどを利用すれば、長期的な遺伝子発現にも応用が可能である。また、アデノウイルスファイバーのH1ループに組織特異的な移行性を示すペプチド配列を挿入することにより、アデノウイルスベクターに組織特異性を付与することも可能である(Mizuguchi,H.&Hayakawa,T.,Nippon Rinsho,7,1544,2000)。
また、上記ウイルスを用いることなく、プラスミドベクター等の遺伝子発現ベクターが組み込まれた組換え発現ベクターを用いて、目的遺伝子を細胞や組織に導入することができる。例えば、リポフェクション法、リン酸-カルシウム共沈法、DEAE-デキストラン法、微小ガラス管を用いたDNAの直接注入法などにより細胞内へ遺伝子を導入することができる。また、内包型リポソーム(internal liposome)による遺伝子導入法、静電気型リポソーム(electorostatic type liposome)による遺伝子導入法、HVJ-リポソーム法、改良型HVJ-リポソーム法(HVJ-AVEリポソーム法)、HVJ-E(エンベロープ)ベクターを用いた方法、レセプター介在性遺伝子導入法、パーティクル銃で担体(金属粒子)とともにDNA分子を細胞に移入する方法、naked-DNAの直接導入法、種々のポリマーによる導入法等によっても、組換え発現ベクターを細胞内に取り込ませることが可能である。この場合に用いる発現ベクターとしては、生体内で目的遺伝子を発現させることのできるベクターであれば如何なる発現ベクターも用いることができるが、例えばpCAGGS(Gene 108, 193-200(1991))や、pBK-CMV、pcDNA3、1、pZeoSV(インビトロゲン社、ストラタジーン社)、pVAX1などの発現ベクターが挙げられる。
REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドをコードするDNAを含むベクターは、適宜遺伝子を転写するためのプロモーターやエンハンサー、ポリAシグナル、遺伝子が導入された細胞の標識及び/又は選別のためのマーカー遺伝子等を含んでいてもよい。この際のプロモーターとしては、公知のプロモーターを用いることができる。
本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子治療用医薬を被験体へ導入するには、遺伝子治療用医薬を直接体内に導入するin vivo法、及び、ヒトからある種の細胞を取り出して体外で遺伝子治療用医薬を該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すex vivo法等を用いればよい(日経サイエンス、1994年4月号、20-45頁;月刊薬事、36(1), 23-48 (1994); 実験医学増刊、12(15)、(1994); 日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999)。
本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチド、該ポリペプチドをコードするDNA及び該DNAを含むベクターは医薬や試薬として利用することができる。
本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチド、該ポリペプチドをコードするDNA及び該DNAを含むベクターは、単球から樹状細胞様細胞を分化誘導することができ、抗癌免疫活性を高め、癌の治療に利用することが可能である。
本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチド、該ポリペプチドをコードするDNA及び該DNAを含むベクターを、単球からの樹状細胞様細胞分化誘導剤、癌免疫活性化剤及び癌免疫活性化作用を有する、癌の治療又は予防のための医薬組成物として用いることができる。ここで、単球からの樹状細胞様細胞分化誘導活性とは、単球に作用して樹状細胞様細胞に分化させる活性をいう。REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドの添加により樹状細胞様細胞が分化誘導されたか否かは、形態的特徴及び表面抗原により検出することができる。すなわち、この樹状細胞様細胞の特徴としては、形態学的に樹状突起を有するということと、さらにフローサイトメトリーによる解析により、表面抗原として、樹状細胞のマーカーであるCD11c、CD40、CD80、CD86、HLA-DRが陽性であることが挙げられる。
また、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドをコードするDNAを含むベクターを被験体に導入することにより、被験体体内でREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドが発現し単球からの樹状細胞様細胞分化誘導効果、癌免疫活性化効果及び癌免疫活性化作用による癌の治療又は予防効果を発揮し得る。
単球は末梢血由来単球、骨髄由来単球、脾臓細胞由来単球、臍帯血由来単球が含まれ、この中でも末梢血由来の単球が好ましい。単球は、CD14陽性を特徴とし、生体から単球を採取し、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドで樹状細胞様細胞に誘導させる場合、CD14の存在を指標にFACS(Fluorescent activated cell sorter)又はフローサイトメーター等により採取することができる。単球の由来動物種は限定されず、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、ヒト等の哺乳動物を用いることができる。FACSによる特定の細胞集団の単離は公知の方法により行なえばよい。FACS、フローサイトメーターとしては例えばFACS vantage(ベクトン・ディッキンソン社製)、FACS Calibur(ベクトン・ディッキンソン社製)等を用いることができる。
単球の培養は、周知のヒトリンパ系細胞の培養技術により行なうことができる。培養液としては例えばRPMI1640やDMEMの公知の基本培地を用いればよい。これらの基本培地に適当な抗生物質や動物血清等を添加して培養すればよい。培養容器は限定されず、培養規模に応じて市販のプレート、ディッシュ、フラスコを適宜選択して用いることができる。
本発明は、in vitroで単球をREICタンパク質の存在下で培養し、単球を樹状細胞様細胞に分化誘導させる方法を含む。該方法においては、例えば単球を10
4〜10
7細胞/mlの濃度で用い、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドを1〜20μg/mlの濃度で添加して培養すればよい。
樹状細胞は、生体内において、癌免疫、炎症などの機構に極めて重要な役割を果たしている。本発明の方法によりREIC/Dkk-3タンパク質により分化誘導された樹状細胞様細胞は、IL-4 + GM-CSFで誘導される樹状細胞に形態学的に似ているが、厳密には異なる新規な樹状細胞様細胞である。REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドにより誘導される樹状細胞様細胞は、樹状の形態を有している。また、樹状細胞のマーカーである、CD11c、CD40、CD80、CD86、HLA-DRが陽性である。この点、本発明の新規な樹状細胞様細胞は樹状細胞として分類することができる。しかしながら、樹状細胞のマーカーであるCD1aは陰性であり、一般的に樹状細胞では陰性化するとされるCD14は陽性である。
REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドの刺激によりCD14陽性単球から誘導される場合は、「REICタンパク質により活性化された、樹状細胞様に分化した細胞(REIC activated monocyte with dendritic cell features)」と呼ぶ。
本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドの樹状細胞様細胞を分化誘導する能力は、全長REIC/Dkk-3タンパク質よりも大きい。
本発明は、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドによりCD14陽性単球から誘導された樹状細胞様細胞を包含する。
REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドに誘導され、得られた樹状細胞様細胞は、癌免疫療法に用いることができる。すなわち、被験体より単球を採取し、該単球をREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドと共に培養し、樹状細胞様細胞を誘導し、得られた樹状細胞様細胞を被験体に戻すことにより、樹状細胞様細胞自体を癌治療又は予防等に用いることができる。この際、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドにより誘導された樹状細胞様細胞は、癌種非特異的に作用し、癌免疫治療効果を発揮し得るが、樹状細胞様細胞を誘導する際に癌種特異的な腫瘍抗原や自家の腫瘍ライセートを添加してもよい。また、誘導した樹状細胞様細胞を特定の腫瘍抗原や自家の腫瘍ライセートと共に培養してもよい。樹状細胞様細胞を癌種特異的な腫瘍抗原や自家の腫瘍ライセートで刺激することにより、腫瘍特異的に癌細胞を攻撃することが可能になる。
樹状細胞様細胞は、皮内投与、皮下投与、静脈内投与又はリンパ節内投与により投与することができる。
また、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドは、細胞外から細胞に作用して細胞の分化を司るサイトカイン様作用を有すると考えられ、生体内において広く、免疫性、炎症性に関する機能を有すると考えられる。従って、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチド又はそれをコードするDNAを、被験体に投与し、in vivoでの樹状細胞様細胞分化誘導剤、又は樹状細胞様細胞活性化剤として用いることができる。REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドは被験体内で樹状細胞様細胞を誘導し、その結果、樹状細胞様細胞により被験体内で抗癌性をもつリンパ球が全身性に活性化され癌免疫作用を発揮する。従って、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチド又はそれをコードするDNAを癌免疫活性化剤として用いることができる。さらに、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドにより誘導された樹状細胞様細胞は癌免疫作用を有しているので、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチド又はそれをコードするDNAを癌の治療又は予防のための医薬組成物(癌免疫治療剤)として用いることができる。この際、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチド又はそれをコードするDNAを単独で投与してもよく、この場合、癌種非特異的に効果を発揮する。あるいは、特定の腫瘍抗原と共に投与してもよい。この場合は、癌種特異的に効果を発揮し得る。
また、癌化の進む組織内では、REIC/Dkk-3タンパク質の濃度が低下しており、抗癌免疫活性が癌組織内では誘導されにくく、生体免疫が癌を見逃して(癌細胞の免疫学的寛容)、癌が増殖し、悪化すると考えられる。従って、本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドは、癌治療剤(抗癌剤、抗腫瘍剤)としてのみならず、抗癌免疫活性化による癌化・発癌予防剤としても有用であることを示している。また、癌免疫療法剤としても有用である。
さらに、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチド、該ポリペプチドをコードするDNA及び該DNAを含むベクターは、CTL(cytotoxic T lymphocyte; 細胞傷害性Tリンパ球)、NK(Natural killer)細胞、ヘルパーT細胞等の免疫活性化細胞を分化誘導する活性を有する、さらにMDSC(Myeloid derived suppressor cell: 骨髄球由来抑制細胞)やTreg細胞(制御性T細胞)の分化を抑制する活性も有する。本発明のポリペプチドは、抗癌免疫活性を高め、癌の治療に利用することが可能であり、癌の局所巣及び転移巣への抗癌効果を発揮し得る。具体的には、樹状細胞・ヘルパーT細胞・CTL・NK細胞に代表される免疫活性化細胞への分化誘導促進による抗がん剤・抗腫瘍剤・抗がん免疫活性化剤・全身免疫賦活化剤・免疫活性化細胞分化誘導剤、並びにMDSC、Tregに代表される免疫抑制系細胞の分化誘導阻害剤として用いることができる。
本発明の医薬の治療又は予防対象となる癌としては、脳・神経腫瘍、皮膚癌、胃癌、肺癌、肝癌、リンパ腫・白血病、結腸癌、膵癌、肛門・直腸癌、食道癌、子宮癌、乳癌、副腎癌、腎癌、腎盂尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、尿道癌、陰茎癌、精巣癌、骨・骨肉腫、平滑筋腫、横紋筋腫、中皮腫等が挙げられる。特に、乳癌、膀胱癌が好ましい。
本発明の医薬は、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドをコードするDNA、該DNAを含むベクター、若しくは該DNAがコードするポリペプチド並びに薬理学的に許容され得る担体、希釈剤若しくは賦形剤を含む。該癌の治療又は予防のための医薬、種々の形態で投与することができ、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、点滴剤、座薬、スプレー剤、点眼剤、経鼻投与剤、経皮投与剤、経粘膜投与剤、経肺投与剤、貼付剤などによる非経口投与を挙げることができる。
本発明の医薬は、注射等により全身投与してもよく、また、局所投与することも可能である。例えば、癌部位に注射により投与することによりその効果を発揮し得る。特にREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドをコードするDNAを含むベクターを局所投与した場合、癌部位でベクターによりペプチドが長期間にわたって生産され、効果を発揮し得る。
好ましくは、癌病変局所に1回又は複数回、癌病変全体に本剤が行き渡るように直接注入を行う。
本発明の医薬は、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用してもよい。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。
その投与量は、症状、年齢、体重などによって異なるが、数日又は数週間又は数ヶ月おきに1回あたり、0.001mg〜100mgを皮下注射、筋肉注射、又は静脈注射によって投与すればよい。また、REIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチドをコードするDNAを含むベクターを用いる場合、例えば10
7〜10
9pfu(plaque forming unit)のベクターを投与すればよい。
本発明の医薬は、癌に罹患した癌患者であって抗癌剤治療等の既存の様々な治療に抵抗性が認められるようになった癌病変を持つ患者に対しても有効である。
本発明の医薬は、単剤投与でも癌細胞死・腫瘍縮小効果が認められる。さらに、本剤と抗癌剤との併用により抗癌作用が2重に誘導され強い腫瘍縮小効果が期待される。
さらに、本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチド、該ポリペプチドをコードするDNA及び該DNAを含むベクターは抗癌免疫活性を有しているため、投与した癌局所のみならず、癌転移巣に対する治療効果や癌転移の予防に用いることもできる。
また、既存の種々の癌抗原タンパク質と本発明のREIC/Dkk-3タンパク質の部分領域ポリペプチド、該ポリペプチドをコードするDNA及び該DNAを含むベクターを同時に投与することにより、樹状(様)細胞などの分化誘導を介して抗癌免疫を系統的に活性化させ、発癌そのものを予防することも可能になる。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0006】
ヒトREIC/Dkk−3タンパク質の全長、並びに部分領域1[Arg121−329]及び部分領域2[Gly184−Ile329]の調製
成熟体のREIC/Dkk−3タンパク質をコードする全長[Ala 1−Ile 329](サンプルI)(配列番号2の第22番目のAlaから第350番目のIle)、及びREIC/Dkk−3タンパク質の部分領域のREIC[Arg 121−Ile 329](サンプルII)をコードするプラスミドDNAを、大腸菌(T7 Express株:NEB社)に形質転換し、新鮮なコロニーを約10個程度、1.6リットルの培養液中で大量培養し、対数増殖期の培養液(A600〜0.7)にIPTGを0.5mM添加することで、タンパク質の発現を誘導した。発現誘導条件下での培養は37℃で3時間行い、遠心分離により菌体を回収した。この発現菌体を超音波破砕などを用いて溶菌後、遠心分離を行い、発現タンパク質は不溶性画分に回収した。不溶性画分に混入する菌体由来の核酸をできるだけ除去するため、20mM Tris−HCl、pH8.0と5mMのMgCl
2を含むバッファー中に分散させた不溶性画分に10unit/mLのBenzonase(Novagen社)を添加し、25℃で30分間インキュベートし、核酸の分解を促進した。その後、再度遠心分離を行うことでより高純度なREIC/Dkk−3タンパク質を含む不溶性画分を得た。次に、この沈殿を6M塩酸グアニジンを含むTris−HCl buffer(pH8)中でよく懸濁・溶解し、100mMの2−メルカプトエタノールを添加して37℃で1時間インキュベートすることでタンパク質を完全に還元した。この時点でタンパク質濃度をブラッドフォード法でタンパク定量を行い、終濃度が0.2mg/mLのタンパク質濃度となるようにリフォールディングバッファーに希釈し、25℃で24時間インキュベートした。リフォールディング時のバッファーは20mM Tris−HCl、pH8.0、0.4M塩酸グアニジン、30%グリセロールを含み、還元タンパク質溶液に含まれリフォールディングバッファー中に持ち込まれる2−メルカプトエタノールの1/4モル量の酸化型グルタチオン(ナカライテスクス)を含む組成となるように予め調製した。この組成を用い、スターラーでよく攪拌しながら還元したタンパク質溶液を直ちに希釈した。この酸化還元条件下でリフォールディングを行った後は、陰イオン交換樹脂(DEAE−Toyopearl 650M、東ソー)を充てんしたカラムを用いてタンパク質を吸着させた後、20mM Tris−HCl、pH8.0バッファー中で、塩化ナトリウムの直線濃度勾配(0〜0.8M)により溶出を行うことで、塩化ナトリウム濃度が0.5M程度の条件で、REICタンパク質のピーク画分を回収した。この時点において、全長REIC[Ala 1−Ile 329](サンプルI)は分子間でジスルフィド(SS)結合が形成されたオリゴマーとして回収されたため、さらに30mMのジチオスレイトール(DTT)を添加して、37℃で1時間インキュベートすることで、分子間のSS結合のみを限定的に還元したモノマーとした。この限定還元反応後は、直ちにpH6.0に調整したリン酸バッファー又はMESバッファーで平衡化した。Sephadex G25Mカラムクロマトグラフィー(GEヘルスケア社)を用いてDTTの除去と、pH6.0のバッファーへの置換を行うことで、4℃で数週間は安定に保管できるサンプルを回収した。この段階で得られたものがサンプルIであり、必要に応じて分子量10kDa以下の物質のみを透過させる限外濾過フィルターを用いて濃縮することができた。
上記の手順により、陰イオン交換クロマトグラフィーで部分領域のREIC[Arg 121−Ile 329](サンプルII)を安定なモノマーとして単離した。更なる高純度精製を行うため、Resource−Qカラム(GEヘルスケア社)等を用いた陰イオン交換HPLCにより塩化ナトリウムの直線濃度勾配で溶出することで、高純度のREIC/Dkk−3タンパク質の部分領域REIC[Arg 121−Ile 329]を精製することができた。これをpH7.4のPBSで平衡化したSephadex G25Mカラムクロマトグラフィーでバッファーを置換したものがサンプルIIであり、必要に応じて分子量10kDa以下の物質のみを透過させる限外濾過フィルターを用いて濃縮することができた。
REIC/Dkk−3タンパク質の部分領域[Gly 184−Ile 329](サンプルIII)をコードするタンパク質の調製については、発現用のプラスミドDNAを大腸菌(Shuffle T7 Express株:NEB社)に形質転換し、新鮮なコロニーを約10個程度、0.8リットルの培養液中で大量培養し、対数増殖期の培養液(A600〜0.7)にIPTGを0.5mM添加することで、タンパク質の発現を誘導した。発現誘導条件下での培養は30℃で16時間行い、遠心分離により菌体を回収した。この発現菌体を超音波破砕などを用いて溶菌後、遠心分離を行い、発現タンパク質を可溶性画分に回収した。本実施例で用いたREICタンパク質[Gly 184−Ile 329]にはN末端側にHisタグ配列が付加されているため、TALON Metal Affinity Resin(Clontech社)を用いて、アフィニティー精製を行った。これを更なる高純度精製を行うため、Resource−Qカラム(GEヘルスケア社)等を用いた陰イオン交換HPLCにより精製し、pH7.4のPBSで平衡化されたSephadex G25Mカラムクロマトグラフィーでバッファーを置換したものがサンプルIIIである。
アミノ酸配列から推定される分子量は、それぞれ全長REIC/Dkk−3タンパク質が37.5kDa、REIC/Dkk−3タンパク質部分領域1[Arg 121−Ile 329]が26.9kDa、REIC/Dkk−3タンパク質部分領域2[Gly 184−Ile 329]が19.7kDaであり、SDS−PAGEによる解析でほぼ推定通りの分子量にシングルバンドとして泳動されることを確認した。
全長REIC/Dkk−3タンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に、REIC/Dkk−3タンパク質部分領域1[Arg 121−Ile 329]のアミノ酸配列を配列番号5に、REIC/Dkk−3タンパク質部分領域2[Gly 184−Ile 329]のアミノ酸配列を配列番号3に示す。さらに、これらに付加したHisタグを含む配列を配列番号11に示す。なお、REIC/Dkk−3タンパク質部分領域1[Arg 121−Ile 329]のアミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列の第142番目から350番目のアミノ酸に相当する。
図1に、ヒトREIC/Dkk−3タンパク質の全長、並びに部分領域1[Arg121−329]及び部分領域2[Gly184−Ile329]の調製方法をまとめた図を示す。
【実施例2】
【0007】
末梢血単核球からの樹状細胞様分化誘導
ヒト単球の調製
ヒトPBMC(末梢血単球)は健康なドナーの血液からFicoll−Paque遠心分離を用いた標準的方法で行った。細胞の回収率をトリパンブルー排除法で計測し、99%以上の生存率であることを確認した。単球の調製のために、PBMCをLGM−3培地(リンパ球増殖培地−3、血清非含有、Lonza)に再懸濁し、プラスチックに付着した細胞(2時間、37℃、10cmディッシュでインキュベート)を単球として使用した。いくつかの実験では、CD14
+単球をCD14
+磁気活性化セルソーティングマイクロビーズ(MACS;MiltenyiBiotec)を用いて分離した。精製したCD14
+単球をLGM−3培地に再懸濁した。フローサイトメトリーによると、純度は常に、95%より高かった。
ヒト単球の処理
PBMCは単独(添加無し)、GM−CSF(R&D Systems)+IL−4(R&D Systems)(それぞれ、2ng/ml)、又は実施例1で調製したヒトREIC/Dkk−3タンパク質の全長、部分領域1[Arg 121−Ile 329]若しくは部分領域2[Gly 184−Ile 329](10μg/ml)の存在下で培養した。細胞は位相差顕微鏡で観察した。
図2に単独(添加なし)、GM−CSF(R&D Systems)+IL−4(R&D Systems)(それぞれ、2ng/ml)、又は実施例1で調製したヒトREIC/Dkk−3タンパク質の全長、部分領域1[Arg 121−Ile 329]若しくは部分領域2[Gly 184−Ile 329](10μg/ml)の存在下で培養したPBMCにおける、培養7日目の樹状細胞様分化誘導の結果を示す。
図2Aが添加なし、
図2BがGM−CSF+IL−4を添加した場合、
図2Cが全長REIC/Dkk−3タンパク質を添加した場合、
図2DがREIC/Dkk−3タンパク質部分領域1[Arg 121−Ile 329]を添加した場合、
図2EがREIC/Dkk−3タンパク質部分領域2[Gly184−Ile329」を添加した場合の結果を示す。
図2は、位相差顕微鏡像の弱拡大像を示す。
形態学的な観察から、REIC/Dkk−3タンパク質部分領域2[Gly 184−Ile 329]において、最も強い、末梢血単核球からの樹状細胞様細胞の分化誘導の活性が認められた。
図3に単独(添加なし)、GM−CSF+IL−4を添加した場合、及びREIC/Dkk−3タンパク質部分領域2[Gly 184−Ile 329]を添加した場合の分化誘導の比較を示す。
図3Aが添加無し、
図3BがGM−CSF+IL−4を添加した場合、
図3CがREIC/Dkk−3タンパク質部分領域2[Gly 184−Ile 329]を添加した場合の結果を示す。
図3は、位相差顕微鏡像の強拡大像を示す。
REIC/Dkk−3タンパク質部分領域2において、末梢血単核球から分化誘導される樹状細胞様細胞は、IL−4+GM−CSFで誘導される樹状細胞よりも形態学的に小さい。一方、全長REIC/Dkk−3タンパク質及びREIC/Dkk−3タンパク質部分領域1[Arg121−Ile329]において誘導される樹状細胞様細胞と、REIC/Dkk−3タンパク質部分領域2において誘導される樹状細胞様細胞との間に、形態学的な差は認められなかった。
図4に単独(添加なし)、GM−CSF(R&D Systems)+IL−4(R&D Systems)(それぞれ、2ng/ml)、又はヒトREIC/Dkk−3タンパク質の全長、部分領域1[Arg 121−Ile 329]若しくは部分領域2[Gly 184−Ile 329](10μg/ml)を添加した場合の樹状細胞様細胞の出現頻度を示す。7日目に、用手的に攪拌し3分後に、弱拡大写真の倍率でランダムに一視野あたりの樹状細胞様細胞の数をカウントして、グラフ化した(n=5視野)。形態学的な観察から、REIC/Dkk−3タンパク質部分領域2[Gly 184−Ile 329]において、最も強い末梢血単核球からの樹状細胞様細胞の分化誘導の活性が認められ、全長REIC/Dkk−3タンパク質を添加した場合及び部分領域1[Arg 121−Ile 329]を添加した場合に比べ、非常に強い活性が認められ、さらに、GM−CSF+IL−4を添加した場合に比べても、強い活性が認められた。
【実施例3】
【0008】
ヒトREIC/Dkk−3タンパク質の部分領域3[Ser114−Phe267]の調製
タンパク質生産用の宿主細胞として、対数増殖期にあるヒト腎臓由来細胞FreeStyle 293−F cells(invitrogen社)を5〜6×10
5cells/mLの濃度で500mLフラスコに180mL幡種したフラスコを5本分準備し、37℃、8%CO
2存在下にてFreestyle 293 Expression Media(invitrogen社)を用いて一晩振とう培養(125rpm)した。翌日、1×10
6cells/mLの濃度に調整し、500mLフラスコに180mL幡種した293−F cellへ全長REIC[Ala1−Ile329]をコードする遺伝子高発現プラスミド(下記)各180μgを293 Fectin(invitrogen社)と混合しtransient transfectionした。Transfection後4日間、37℃、8%CO
2存在下にて振とう培養し、培養上清を回収した。
回収した培養上清は限外濾過により濃縮し、Sephadex G25Mカラムクロマトグラフィー(GEヘルスケア社)を用いて溶媒を20mM Hepes Buffer(pH7.2)へ置換し、REICタンパク質含有画分を回収した。その後、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(DEAE−Toyopearl 650M,東ソー)を用いて、タンパク質を吸着させた後、20mM Hepes Buffer(pH7.2)中で、塩化ナトリウムの直線濃度勾配(0〜0.7M)により溶出を行い、塩化ナトリウム濃度が0.35M程度の条件で、REICタンパク質のピーク画分が確認された。そのピーク画分よりREICタンパク質がより多く、かつ、より高純度に含まれる画分よりREICタンパク質を回収した。
この全長REIC[Ala1−Ile329]タンパク質をpH7.4のPBSで平衡化されたSephadex G25Mカラムクロマトグラフィーを用いてバッファーをPBSに置換後、37℃若しくは室温で5日間インキュベートすることによりREICの部分領域[Ser 114−Phe 267]をコードするタンパク質に限定分解した。このREICの部分領域[Ser 114−Phe 267]を含むタンパク質溶液をSephadex G25Mカラムクロマトグラフィー(GEヘルスケア社)を用いて溶媒を20mM Hepes Buffer(pH7.2)へ置換し、REICタンパク質含有画分を回収した。その後、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(DEAE−Toyopearl 650M,東ソー)を用いて、タンパク質を吸着させた後、20mM Hepes Buffer(pH7.2)中で、塩化ナトリウムの直線濃度勾配(0〜0.6M)により溶出を行い、塩化ナトリウム濃度が0.3M程度の条件で、REICの部分領域[Ser 114−Phe 267]タンパク質のピーク画分が確認された。そのピーク画分よりREICの部分領域[Ser 114−Phe 267]タンパク質を回収したものがサンプルIVであり、必要に応じて分子量10kDa以下の物質のみを透過させる限外濾過フィルターを用いて濃縮した。
図5−1に調製のプロトコールを示す。また、
図5−2に第1回目の陰イオン交換クロマトグラフィー精製チャート(
図5−1の(3)の陰イオン交換クロマトグラフィー)を示し、
図5−3に第2回目の陰イオン交換クロマトグラフィー(
図5−1の(4)の陰イオン交換クロマトグラフィー)精製チャートを示す。
本実施例で用いた遺伝子高発現プラスミドは特定の構造を有する発現カセットを含むプラスミドであり、遺伝子発現による発現させようとする目的タンパク質の超高発現による大量生産を可能にする。該発現用カセットは、少なくとも第1のプロモーターの下流に、発現させようとするタンパク質の遺伝子(発現させようとする遺伝子)及びポリA付加配列を含むDNA構築物を含み、さらに該構築物の下流にエンハンサー又は第2のプロモーターが連結して含まれる構造を有する。発現用カセットの最下流には上記のエンハンサー又は第2のプロモーターが存在し、その下流には他の遺伝子発現用の機構を有しない。すなわち、本発明の発現用カセットは、少なくとも発現させようとする遺伝子を第1のプロモーター1つとエンハンサー少なくとも1つで挟むか、又は第1のプロモーター1つと第2のプロモーター1つで挟んだ構造を有する。ここで、他の遺伝子発現用の機構とは、上記の発現させようとする遺伝子以外の遺伝子を発現させるための機構をいう。プロモーターとしてはCMV iプロモーター、SV40プロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター又はCAGプロモーターを用いることができ、エンハンサーとしてはCMVエンハンサー、SV40エンハンサー又はhTERTエンハンサーを用いることができる。また、プロモーターの下流に発現させようとするタンパク質をコードするDNA及びポリA付加配列を含むDNA構築物の上流に1〜4個のCMVエンハンサーが連結されていてもよい。さらに、(i)外来タンパク質をコードするDNAの直ぐ上流に連結されたRU5’、(ii)エンハンサー及び/又はプロモーターの直ぐ上流に連結されたUAS、又は(iii)発現用カセットの最上流に連結されたSV40−oriを含んでいてもよい。用いたプラスミドが含む発現カセットのコンストラクトを
図9に示す。
【実施例4】
【0009】
ヒトREIC/Dkk−3タンパク質の部分領域3[Ser114−Phe267]による末梢血単核球からの樹状細胞様分化誘導
実施例2に記載の方法で、ヒトPBMC(末梢血単球)を調製し、単独(添加無し)、実施例1で調製したヒトREIC/Dkk−3タンパク質の全長及び部分領域1[Arg 121−Ile 329]、並びに実施例3で調製した部分領域3[Ser114−Phe267](10μg/ml)の存在下で培養した。細胞は位相差顕微鏡で観察した。
図6に単独(添加なし)、実施例1で調製したヒトREIC/Dkk−3タンパク質の全長、及び実施例3で調製した部分領域3[Ser114−Phe267](10μg/ml)の存在下で培養したPBMCにおける、培養7日目の樹状細胞様分化誘導の結果を示す。
図6Aが添加なし、
図6Bが全長REIC/Dkk−3タンパク質を添加した場合、
図6CがREIC/Dkk−3タンパク質部分領域3[Ser114−Phe267]を添加した場合の結果を示す。
図6は、位相差顕微鏡像の弱拡大像を示す。形態学的な観察から、REIC/Dkk−3部分領域3は、全長、部分領域1と比較した場合に、同等又はそれ以上の末梢血単核球からの樹状細胞様細胞の分化誘導の活性が認められた。
図7に強拡大像を示す。
図7に示すように、REIC/Dkk−3部分領域3において末梢血単核球から分化誘導される樹状細胞様細胞は、部分領域1のそれと形態学的な差は認められなかった。
【実施例5】
【0010】
REIC/Dkk−3部分領域3の安定性
37℃又は室温(約20℃)で5日間インキュベート後のサンプル18μLをSDS−PAGEを用いて分離し、CBB染色によって分子量約17kDaのREIC/Dkk−3の部分領域3をコードするタンパク質を検出した。この際、室温(約20℃)又は37℃で5日間放置し、さらにSDS−PAGEを実施し分解パターンを確認した。SDS−PAGEの結果を
図8に示す。タンパク質の保存条件としては高温であるにも関わらず、部分領域3はSDS−PAGEによる分離後、約17kDaのバンドとしてCBB染色で検出された。
また、部分領域3のタンパク質溶液は、各種PEG、硫化アンモニウム・硫化リチウム等の塩・2−methyl−2,4−pentandiol(MPD)・エタノール・2−propanol等アルコール類の投入・混合に対し凝集・沈殿などの反応を示さないことが分かった。よって部分領域3の安定性は十分に高いことが判明した。
【実施例6】
【0011】
in vivo実験によるREIC/Dkk−3タンパク質の部分領域3[Ser 114−Phe 267]の腫瘍抑制効果の検定
RENCa細胞(1×10
6)をマウス(BALB/c、メス、n=5)の皮下に注射した。注入後3、5、7、10、12及び14日目(注入後3日目を全長REICタンパク質及び部分領域3の投与開始とする)に全長REICタンパク質(100μg(100μl))又は部分領域3(100μg(100μl))又はコントロールとしてPBS(100μl)を、マウス腹腔に注入した。17日目に皮下腫瘍における治療効果を判定し、抗癌免疫活性の測定(実施例7)を行ってマウスを安楽死処置した。in vivo実験のプロトコールを
図10に示す。腫瘍体積は、0.52×(最小直径)
2×(最大直径)により求めた。
図11Aに治療後の腫瘍体積の経時的変化を示す。全長REICタンパク質、部分領域3を投与した治療群の腫瘍体積と、コントロールであるPBSを投与した群のそれとを比較したところ、統計学的に有意に小さいことが判った(*にて示す)。
図11Bにマウスから採取した腫瘍の重量を示す。全長REICタンパク質、部分領域3を投与した治療群の腫瘍重量と、PBSを投与した群のそれとを比較したところ、統計学的に有意に小さいことが判った(*にて示す)。
図11Cにマウスから採取した腫瘍の写真を示す。
図11A〜
図11Cに示すように全長REICタンパク質及び部分領域3の投与により腫瘍増殖を抑制することができた。
【実施例7】
【0012】
実施例6のマウス静脈血中の免疫担当細胞のフローサイトメトリー
実施例6で得たマウスの静脈血に存在する免疫担当細胞の変動をフローサイトメトリーで解析した。下大静脈より採血したマウスの血液750μlに、0.2%EDTA溶液を30μl加え抗凝固処理した。30μlの血液に、eBioscience社より購入した異なる蛍光標識のなされた以下のそれぞれの抗体1μlを加え撹拌し、4℃で60分間インキュベートすることにより、下記に示す免疫担当細胞の染色を行った。
骨髄由来免疫抑制細胞(抗GR−1抗体,抗CD11b抗体)
樹状細胞(抗CD11抗体)
活性型樹状細胞(CD11c+/CD80+)(抗CD11c抗体,抗CD80抗体)
活性型樹状細胞(CD11c+/CD86+)(抗CD11c抗体,抗CD86抗体)
ヘルパーT細胞(抗CD4抗体)
免疫制御性T細胞(抗CD4抗体、抗Foxp3抗体)
細胞傷害性T細胞(抗CD8抗体)
活性型細胞傷害性T細胞(抗CD69抗体、抗CD8抗体)
NK細胞(抗CD3e抗体,抗NK1.1抗体)
その後、赤血球lysis bufferで赤血球を溶解処理し、細胞をPBSで2回洗浄し、PBS200μlに再懸濁して解析する細胞液とした。FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson)を用いて3×10
4個の細胞を採取し、CellQuestソフトウェア(Becton Dickinson)を用いて分析した。これらの細胞の特徴的なforward scatterパターンに基づいて適当なゲートを設定し、ゲート内の細胞のみを分析した。結果、全長REICタンパク質及び部分領域3では、殆ど全ての免疫賦活化細胞で分化誘導活性が認められた(
図12B、C、D、E、G、H、I)。一方、免疫抑制系細胞の分化誘導抑制が観察された(
図12A、F)。特に部分領域3は細胞傷害性T細胞(CTL)の分化誘導に優れており(
図12G、H)、また免疫制御性T細胞(Treg)に対する強力な分化抑制が観察された(
図12F)。以上から、部分領域3を含むタンパク質は、抗がん免疫賦活剤、抗がん剤、抗腫瘍剤、免疫細胞分化誘導・抑制剤として応用可能であり、部分領域3を含む全長REICタンパク質も同様に応用可能であると判断できる。
【実施例8】
【0013】
腎細胞がんモデルマウスを用いた全長REICタンパク質の抗腫瘍効果に関する実験
マウス腎細胞がん細胞RENCA−Luc細胞株は、RENCA細胞株にLuciferase遺伝子を安定発現させることにより作製した。in vivo実験によるREICタンパク質の腫瘍抑制効果について検討するため、このRENCA−Luc細胞株を用いて腎細胞がんモデルマウスを作製した。同所性の腫瘍を作製するために、雄のBALB/Cマウスをネンブタールで麻酔後、RENCA−Luc細胞(10
3cells)を左腎に局所注入した。その後直ちに、10
4cellsを尾静脈より注入し、肺転移病巣を持った腎細胞がんマウスモデルとした(Day0)。コントロール群・治療群に下記の処置を行った。
A:PBS(100μl)を連日(13日間)で計13回腹腔内投与
B:REICタンパク質(10μg/100μl PBS)を連日(13日間)で計13回腹腔内投与
C:REICタンパク質(100μg/100μl PBS)を連日(13日間)で計13回腹腔内投与
投与開始後14日目(Day14)にマウスを安楽死させ、摘出した腫瘍の腫瘍サイズ、重量を解析した。
図14Aに示すとおり、無処置及びバッファー投与群に対してREICタンパク質投与群は、腫瘍の縮小が認められた。この腫瘍縮小効果は、REICタンパク質の投与量に応じ顕著になることが示唆された(
図14B)。また肺転移巣でも同様に腫瘍の縮小が認められた(
図15A、B)。
【実施例9】
【0014】
マウスの骨髄細胞を用いた分化誘導実験
無処置の正常マウスから骨髄を採取し、パイペッティングにより懸濁し、平底6ウェルプレートにてマウス骨髄細胞の培養を行った。翌日、PBSにより2回洗浄し、付着した細胞を実験に用いた。GM−CSF(20ng/ml,R&D Systems社より購入)単独、又は全長REICタンパク質(10μg/ml)を添加することにより、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)へのREICタンパク質による分化誘導抑制効果を解析した。マウス骨髄細胞培養開始後6日目に、トリプシン処理により細胞を回収し、MDSCの表面抗原マーカーGR−1,CD11bに対する抗体を用いて細胞の染色を行った。3×10
4個の細胞を、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson)を用いて解析した。無処置の場合は、MDSCの割合は2.56%であるのに対し、GM−CSFを投与した場合は、MDSCの割合が53.04%に増加した(
図16A、B)。これはGM−CSFによりMDSCの分化誘導が亢進し、免疫活性能が抑制されることを意味する。GM−CSFと全長REICタンパク質の両者を混合した場合、MDSCの分化誘導はGM−CSF単独の場合よりも低率(34.71%)であった。この結果は、REICタンパク質はMDSC細胞の分化誘導に対し抑制的に作用し、免疫活性化能を発揮することを意味する。
【実施例10】
【0015】
実施例8のマウス静脈血中の免疫担当細胞のフローサイトメトリー
実施例8で得たマウスの静脈血中の免疫担当細胞の割合をフローサイトメトリーで解析した。実施例7と同様、下大静脈より採血したマウスの末梢血750μlに、0.2%EDTA溶液を30μl加え抗凝固処理した。30μlの血液に、eBioscience社より購入した異なる蛍光標識のなされた以下のそれぞれの抗体1μlを加え撹拌し、4℃で60分間インキュベートすることにより、下記に示すそれぞれの免疫担当細胞の染色を行った。
骨髄由来免疫抑制細胞(抗GR−1抗体,抗CD11b抗体)
活性型樹状細胞(CD11c+/CD80+)(抗CD11c抗体,抗CD80抗体)
免疫制御性T細胞(抗CD4抗体、抗Foxp3抗体)
活性型細胞傷害性T細胞(抗CD69抗体、抗CD8抗体)
NK細胞(抗CD3抗体,抗NK1.1抗体)
その後、赤血球lysis bufferで赤血球を溶解処理し、細胞をPBSで2回洗浄し、PBS200μlに再懸濁して解析する細胞液とした。FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson)を用いて3×10
4個の細胞を採取し、CellQuestソフトウェア(Becton Dickinson)を用いて分析した。これらの細胞の特徴的なforward scatterパターンに基づいて適当なゲートを設定し、ゲート内の細胞のみを分析した。結果を
図17A〜Eに示す。樹状細胞(
図17B−1及びB−2)・活性化細胞傷害性T細胞(CTL・
図17D−1及びD−2)・NK細胞(
図17E−1及びE−2)は、REICタンパク質の投与量に応じて陽性率が高まることが分かった。これらの免疫担当細胞は、いずれも免疫活性に促進的に機能する。さらに、免疫系に対し抑制的に働くMDSC(
図17A−1及びA−2)、Treg(
図17C−1及びC−2)は、REICタンパク質の投与量に応じて陽性率が低下することが分かった。
以上から、REICタンパク質は、免疫抑制系を減弱させることにより、免疫系を活性化する機能を有することを発見した。生体の微小環境における免疫能の低下は、腫瘍の発生・増殖を促進し得ることが知られており、免疫抑制系細胞の発生・誘導が主因となっている。よって、REICタンパク質及びそれを発現するDNAベクターは、免疫抑制阻害剤として抗癌剤・抗腫瘍剤・抗がん免疫活性化剤・免疫担当細胞分化誘導剤として応用することが可能である。
【実施例11】
【0016】
酵母ツーハイブリッド法(Y2H:Yeast 2 hybrid法)によるREICタンパク質とTctex−1相互作用解析酵母ツーハイブリッド法はProQuest Two−hybrid System(Invitrogen,Carlsbad,CA)を用いた。ヒトREIC/Dkk−3の全長cDNAは下記に示す2本のプライマーDNAで増幅した。
増幅したcDNAをベイトベクターpDBLeuのSallとNotl酵素切断サイト間に挿入し、酵母MaV203株に導入した。続いてREIC/Dkk−3発現クローンを単離し、pPC86(Invitrogen)にクローニングしたヒト心臓cDNAライブラリに転換した。遺伝子導入に成功したクローンはβ−galactosidaseの基質を添加した選択培地で回収した。遺伝子導入、プラスミド単離、DNAコンストラクトの確認、酵母融解液の調製は、Invitrogenのインストラクションを参考にした。
REIC/Dkk−3の相互作用パートナーを同定するために、REIC/Dkk−3タンパク質をベイトとした酵母ツーハイブリッド法によるスクリーニングを実施した。マウスやヒトの心組織ではREIC/Dkk−3の発現が亢進しているため、スクリーニングは正常心組織のヒトcDNAライブラリを対象とした。レポーター遺伝子が活性化したクローンのうち、4クローンが培養に成功した。これらのクローンからプラスミド・レスキュー法で挿入遺伝子を分離・回収し、再度遺伝子導入しレポーター選択培地で培養した。結果を
図18Aに示す。
図18A中、Tctex−1を含む右のパネルにおいて青色のコロニーが観察された。青色のコロニーはREIC/Dkk−3タンパク質とTctex−1タンパク質の相互作用(会合)を明示している。この結果より、Tctex−1がREIC/Dkk−3の相互作用パートナーであることが示唆された(
図18A)。
【実施例12】
【0017】
免疫沈降、ウエスタン・ブロットによりREIC−Tctex−1相互作用解析
免疫沈降法による結合パートナーの確認を目的とし、REIC/Dkk−3またTctex−1のヒト全長cDNAをpcDNA3.1/Myc−His(−)A又はpcDNA3.2/V5/GW/D−TOPO plasmid(Invitrogen)に挿入し、クローニングを行った。トランジエントな遺伝子発現を目的に、リポフェクタミン2000を用いてプラスミドDNAを293T細胞に導入した。293T細胞にMyc−tag付加REIC/Dkk−3又はV5タグ付加Tctex−1を同時に導入し、遺伝子導入後48時間に293T細胞を融解させ、バッファー(20mM Tris−HCl,pH7.5,1% Triton X−100,150mM NaCl,5mM EDTA and Complete Protease Inhibitor Cocktail(Roche,Basel,Switzerland))を加えた。細胞融解液にマウス由来非特異的IgG抗体(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)1mgを加えインキュベートし、protein G sepharose(Invitrogen)1ml、又は抗Mycマウス由来モノクローナル抗体(Invitrogen,Cat.No.R95025)を添加した。4℃で12時間インキュベートした後、沈降物を洗浄、SDSを溶解させたバッファーで煮沸した。沈殿物について、マウス由来V5モノクローナル抗体(Invitrogen,Cat.No.R96025)を用いたウエスタン・ブロット法を行った。
REIC/Dkk−3とTctex−1の相互作用を確認するため、免疫沈降法によるin vitroプルダウンアッセイを実施した。Myc−REIC/Dkk−3融合タンパク質を発現する293Tの細胞融解液を用いてV5−Tctex−1融合タンパク質の結合アッセイを実施した。Tctex−1への結合はV5抗体を用いたウエスタン・ブロット法で検出した。Tctex−1とREIC/Dkk3−タンパク質の結合は、REIC/Dkk−3とTctex−1を同時に導入した細胞の融解液にMyc抗体を加えて得た免疫沈降サンプルから検出した。結果を
図18Bに示す。実施例11及び12の結果は、REIC/Dkk−3タンパク質とTctex−1タンパク質の相互作用が酵母ツーハイブリッドと免疫沈降法の両者で証明・再現されたことを示す。
【実施例13】
【0018】
哺乳動物2ハイブリッド法(M2H)によりREICタンパク質のTctec−1結合領域の解析
哺乳類細胞ツーハイブリッドアッセイを実施するために、様々なアミノ酸長のREIC/Dkk−3をコードしたcDNAをpM GAL4 DNA結合ドメインのクローニング用プラスミドに導入し、さらに、全長Tctex−1をコードしたcDNAをpVP16転写活性ドメインのクローニングプラスミド(Clontech Laboratories,Mountain View,CA)に導入した。各アミノ酸長のヒトREIC/Dkk−3の鋳型は適当なプライマー対を用いたPCR法で生成・増幅した。Tctex−1の完全長cDNAは以下に示すプライマーで増幅した。
約2×10
5個の293T細胞に、400ngのpVP16、400ngのpM、250ngのpFR−Lucホタル由来ルシフェラーゼレポータープラスミド(Promega,Madison,WI)、10ngのphRL−TKウミシイタケ由来ルシフェラーゼのレポータープラスミド(Promega)を同時に遺伝子導入した。導入した当該細胞を48時間培養し、ルシフェラーゼ活性をdual−luciferase reporter assay system(Promega)を用いて測定した。導入効率の違いによる誤差は、phRL−TK遺伝子導入によるウミホタル由来ルシフェラーゼ活性を測定し標準化した。
Tctex−1との相互作用に重要なREIC/Dkk−3の部分領域の探索を目的とし、REIC/Dkk−3とTctex−1の相互作用を哺乳類細胞ツーハイブリッド法で解析した。各アミノ酸長のREIC/Dkk−3のcDNAを導入したGAL4プラスミドと、全長Tctex−1のcDNAを導入したVP16プラスミドを同時に導入した293T細胞の融解液のルシフェラーゼ活性を測定、活性が認められた場合にREIC/Dkk−3の各部分領域とTctex−1とが結合したと判定した。結果、20〜146アミノ酸残基で構成されるREIC/Dkk−3の部分領域が、Tctex−1への結合領域として重要であることが分かった。また、それ以上のアミノ酸長を持つREIC/Dkk−3の部分領域は、Tctex−1との結合活性が低いことが明らかとなった(
図19A)。REIC/Dkk−3のTctex−1との結合領域をさらに絞り込むため、REIC/Dkk−3の部分領域を段階的に短縮させた。20−146アミノ酸を持つREIC/Dkk−3と、20−157アミノ酸残基の部分領域で、Tctex−1との結合を示すルシフェラーゼ活性が検出された。20−135アミノ酸残基で構成される部分領域では微弱な活性しか認められなかった。これらの結果は、REIC/Dkk−3とTctex−1との相互作用は、136−157アミノ酸残基で構成されるREIC/Dkk−3の部分領域が関与することを示唆している(
図19B)。
図20AにREICタンパク質とdynein intermediate chain(DIC)のTcTex−1結合領域のアミノ酸配列アラインメントを示す。Dynein light chainタンパク質であるTctex−1と、dynein intermediate chain(DIC)の部分領域[
120SDSELGRRLHKLGVSKVTQVDFL
142](配列番号16)の結合が別のグループにより報告されている。REIC/Dkk−3のTctex−1結合領域は、[
136VGDEEGRRSHECIIDEDCGPSM
157](配列番号17)であった。DICのTctex−1結合領域との配列比較により、そのコンセンサス配列は[−E−X−G−R−R−X−H−](Xは任意の天然アミノ酸を示す)(配列番号18)であることが明らかとなった。
図20BにREICタンパク質のTctex−1結合ドメインと既知Tctex−1結合タンパク質のアミノ酸配列アラインメントを示す。Tctex−1結合タンパク質のアミノ酸配列モチーフ[−R/K−R/K−X−X−R/K−](Xは任意の天然アミノ酸を示す)(配列番号20)。REIC/Dkk−3の結合領域のアミノ酸配列は、[−RR−]を含むモチーフのみが一致し、Tctex−1の他の結合パートナーのモチーフ比べ特徴的である。
【実施例14】
【0019】
REIC/Dkk−3タンパク質とTctex−1の細胞内における局在パターンの解析
OUMS24細胞におけるREIC/Dkk−3とTctex−1の免疫細胞化学染色を、小胞体の共染色により行った。細胞を24穴ウエル上で30〜40%コンフルエントの条件で培養した。さらに、4%パラホルムアルデヒド・100mMリン酸塩バッファーで細胞を固定し、生理食塩水と3%BSAでブロッキング処理した。細胞はウサギ由来抗REIC/Dkk−3ポリクローナル抗体(生理食塩水で200倍希釈)、又はウサギ由来抗Tctex−1ポリクローナル抗体(100希釈,Santa Cruz Biotechnology,sc−28537)を添加し室温で2時間インキュベートし、さらにAlexa488緑色蛍光色素を付加したウサギ由来2次抗体を加えて1時間インキュベートした。小胞体での分布を検出するため、Alexa546赤色蛍光色素を付与したconcanavalin A(Molecular Probes)を細胞に添加し室温で15分間インキュベートした。
各種アッセイ系で明示されたREIC/Dkk−3とTctex−1の相互作用を踏まえ、これら2つのタンパク質の細胞内における共局在を解析した。REIC/Dkk−3は小胞体内だけでなく細胞質内にも局在することが報告されており、また最近の我々の研究では、REIC/Dkk−3タンパク質の安定発現細胞においてREIC/Dkk−3タンパク質は小胞体に局在していることが証明された。そこで、小胞体におけるREIC/Dkk−3タンパク質とTctex−1タンパク質との局在を確認するために、蛍光色素を付加した小胞体局在マーカータンパク質であるconcanavalin Aを用いた免疫蛍光二重染色法を実施した。
図21Aはヒト線維芽細胞OUMS24においてヒト全長REICタンパク質と小胞体マーカーconcanavalin Aとの二重蛍光染色の共焦点顕微鏡による撮像である。赤(
図21A−aの明るい部分)はconcanavalin A、緑(
図21A−bの明るい部分)は全長REICタンパク質を示す。小胞体と全長REICタンパク質との重複領域は黄色(
図21A−cの明るい部分)で表示されている(重複像)。
図21Bは、ヒト線維芽細胞OUMS24においてTctex−1タンパク質と小胞体マーカーconcanavalin Aとの2重蛍光染色の共焦点顕微鏡による撮像である。赤(
図21B−aの明るい部分)はconcanavalin A、緑(
図21B−bの明るい部分)はTctex−1タンパク質を示す。小胞体とTctex−1タンパク質との重複領域は黄色(
図21A−cの明るい部分)で表示されている(重複像)。
図21A及び
図21Bの重複像において、ほとんど黄色で染色されている。すなわち、期待された通り、REIC/Dkk−3(
図21A)とTctex−1(
図21B)は共に小胞体に局在しており、これらのタンパク質の正常線維芽細胞OUMS24の細胞内における局在パターンは一致していた。すなわちREIC/Dkk−3とTctex−1は共に小胞体周辺に局在し、またREIC/Dkk−3の相互作用パートナーはTctex−1であると判断できる。
【実施例15】
【0020】
Tctex−1のREICのアポトーシス誘導能の促進因子機能の解析
アデノウイルスREIC/Dkk−3(Ad−REIC)の作製は、以下の通り実施した。REIC/Dkk−3の全長cDNAをコスミドベクターpAxCAwtに挿入し、さらにCOS−TPC法(タカラバイオ、滋賀、日本)によりアデノウイルスベクター導入した。LacZ遺伝子を導入したアデノウイルスベクター(Ad−LacZ)は比較対象として用いた。
アポトーシスアッセイ法を下記に示す。各処理後のin vitroアポトーシス誘導率を検証するために、PC3前立腺がん細胞を6穴平底培養プレートで24時間培養した。培養したPC3細胞は、GFP発現プラスミド(Clonetech)、Tctex−1発現プラスミド(pcDNA3.2/V5/GW/D−TOPO)、又はTctex−1−sh−RNAプラスミド(sc−43319−SH,Santa Cruz Biotechnology)を添加、6時間後に培地交換を行った。遺伝子導入には、FuGENE HD(Roche)を用いた。GFPプラスミドの遺伝子導入効率は、プラスミド添加後48時間で60%以上であった。GFP発現プラスミドの遺伝子導入24時間後、Ad−LacZ、Ad−REIC 50MOI(multiplicity of infection)を添加し無血清培地で2時間反応させた後、培地交換を行った。さらに48時間培養後、2μg/mlのHoechst 33342溶液を培地に添加し、暗所に10分間静置した。Hoechst 33342は総クロマチン含量の評価とクロマチン凝縮を検出するインタカレータ試薬である。高度に凝縮又は分断した細胞核を蛍光顕微鏡によって観測し、アポトーシス誘導が生じた死細胞を特定した。5点の異なる顕微鏡像においてアポトーシス誘導細胞の数を計測した。1点の顕微鏡像につき100個の細胞を判定した。
統計学的検定については、以下の通り実施した。データは平均値±標準誤差で示した。2群間のStudent’s unpaired t−testを用いて検定し、P値が0.05より低い場合に、両者の差は統計学的に有意であると判定した。
REIC/Dkk−3のアポトーシス誘導能へのTctex−1の機能を検証するために、本発明者がこれまでの研究により確立したヒト前立腺がん細胞PC3とAd−REICを用いたREIC/Dkk−3の過剰発現によるアポトーシス誘導モデルを活用した。ウエスタン・ブロット解析の結果によると、PC3は内在性Tctex−1タンパク質を発現しており、一方、REIC/Dkk−3タンパク質は発現していなかった。
図22AにHoechst 33342によるアポトーシスアッセイの結果を示す。該アッセイの結果では、Ad−REICを投与したPC3においてはアポトーシスが生じたが、Ad−LacZでは起こらなかった(
図22A、矢印)。
図22AはAd−REICのアポトーシス誘導能が、Tctex−1の発現減少により減弱し、発現増幅により増強することを示す。Ad−REIC投与群におけるアポトーシス誘導率は、GFPプラスミド、shRNA−Tctex−1、Tctex−1発現プラスミド各投与群において、それぞれ30%、15%、75%であった(
図22B)。すなわち、Ad−REICのアポトーシス誘導能は、Tctex−1の発現減少により減弱し、発現増幅により増強することを示唆する。Ad−REICを投与したGFPプラスミド処置群と比べ、shRNA−Tctex−1処置群ではアポトーシス誘導率が低下していることが明らかになった。一方、Tctex−1発現プラスミドはアポトーシス誘導を促進することが分かった。この結果は、Tctex−1の発現レベルとAd−REICを用いたREIC/Dkk−3の過剰発現によるアポトーシス誘導は、正の相関を示すことを示唆している。すなわち、Tctex−1はREIC/Dkk−3のアポトーシス誘導を促進していると結論付けられる。