(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936130
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月15日
(54)【発明の名称】超伝導ケーブルとバスバー
(51)【国際特許分類】
H01B 12/02 20060101AFI20160602BHJP
【FI】
H01B12/02ZAA
【請求項の数】18
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-546941(P2012-546941)
(86)(22)【出願日】2011年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2011077825
(87)【国際公開番号】WO2012074065
(87)【国際公開日】20120607
【審査請求日】2014年11月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-268045(P2010-268045)
(32)【優先日】2010年12月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(72)【発明者】
【氏名】山口 作太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕文
(72)【発明者】
【氏名】孫 建
【審査官】
月野 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−510346(JP,A)
【文献】
特開2008−282566(JP,A)
【文献】
特開平06−044834(JP,A)
【文献】
特開平05−334921(JP,A)
【文献】
特公昭51−005516(JP,B1)
【文献】
特開2004−127764(JP,A)
【文献】
特開平11−097234(JP,A)
【文献】
特開2011−003468(JP,A)
【文献】
特表2004−510300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に絶縁された隣接する層の電流の方向が互いに逆である複数層のHTSテープ線材からなる集合導体を備え、
前記集合導体の長手方向に沿った側面に前記集合導体と電気的に絶縁して強磁性材料テープを備えた導体装置。
【請求項2】
前記集合導体の各層が、同一層に、互いに離間した複数のHTSテープ線材を備えた請求項1の導体装置。
【請求項3】
前記集合導体の長手方向に沿った側面に前記集合導体と電気的に絶縁して強磁性材料テープ及び補強材を備えた請求項2の導体装置。
【請求項4】
前記集合導体を収容する導体カバーを備えた請求項3の導体装置。
【請求項5】
前記集合導体の側面に配設される前記強磁性材料テープが、前記集合導体の最上層面と最下層面の少なくとも一方のHTSテープ線材の面の一部を覆うつばを備えた請求項1の導体装置。
【請求項6】
超伝導バスバーから、前記集合導体からなるテープ線材部の対応する層のHTSテープ線材を介して銅素線と接続してなる請求項1の導体装置。
【請求項7】
複数のHTSテープ線材を貼り合わせて1層としてなる請求項6の導体装置。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項の導体装置からなる超伝導ケーブル。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか1項の導体装置からなる超伝導バスバー。
【請求項10】
電気的に絶縁された隣接する層の電流の方向が互いに逆である複数層のHTSテープ線材からなる集合導体を備え、
前記集合導体の隣接する層のHTSテープ線材の間に強磁性材料テープが挿入されている導体装置。
【請求項11】
前記集合導体の長手方向に沿った側面に前記集合導体と電気的に絶縁して強磁性材料テープを備えた請求項10の導体装置。
【請求項12】
前記集合導体の上端、及び下端に強磁性材料テープを備えた請求項11の導体装置。
【請求項13】
前記集合導体を覆う保護層を備えた、断面を丸状とした請求項12の導体装置。
【請求項14】
前記集合導体の側面及び上端、下端にそれぞれ保護部を備え、前記保護部を覆う保護層を備え、断面を丸状とした請求項12の導体装置。
【請求項15】
前記集合導体を複数本まとめて保護層で覆い1つのケーブルとし、ケーブル断面を丸状とした請求項10乃至12のいずれか1項の導体装置。
【請求項16】
前記ケーブル内に前記集合導体を上下に対向して1対、左右に対向して1対の計4本備え、隣り合う前記集合導体の間隙に保護層(ガイド層)を備えた請求項15の導体装置。
【請求項17】
請求項10乃至15のいずれか1項の導体装置からなる超伝導ケーブル。
【請求項18】
請求項10乃至15のいずれか1項の導体装置からなる超伝導バスバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願についての記載]
本発明は、日本国特許出願:特願2010−268045号(2010年12月1日出願)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
本発明は、超伝導導体装置に関し、特に超伝導ケーブル、バスバーに適用して好適な構成に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、関連技術の超伝導ケーブルの構成を示す。断面は、内側から中空部(Center hole)101から内部スプリング102、フォーマー銅ワイヤ103、電気絶縁層(Insulation Layer)104、HTS(High Temperature Superconductor:高温超伝導体)テープ線材105、絶縁層104、アース層106を備えている。このケーブルは学校法人中部大学の1号機(CASER−1)で利用している。このケーブルは20m単芯ケーブルであり、2層のHTSテープ線材39本からなる。HTSテープ線材105は巻芯(フォーマー)103に対して電気絶縁層104を介して巻き付けてあり、2層が巻芯(フォーマー)に対して逆の方向に撚られている。層間にはPPLPと言われる電気絶縁層104が挿入されている。但し、単芯ケーブルのため、2層の導体間の絶縁ではない。このように、100μm以下の厚さの絶縁層104を介して、HTSテープ線材105の撚り方向が逆になっている。
【0003】
図2は、関連技術の200m同軸ケーブルの構成を示す図である。内極のHTSテープ線材105_1は2層(23本)、外極のHTSテープ線材105_2は1層(16本)からなる。2層のHTSテープ線材105_1は、巻芯103に絶縁層104を介して巻き付ける(撚る)構造とされている。これは、HTSテープ線材を撚ることによってケーブルを曲げることができるからである。2層のHTSテープ線材105_1は巻芯103に対して逆方向に撚られる。これは
図1と同様である。
【0004】
また
図2(A)に示すように、各HTSテープ線材の間を少し空けておく(間隙を設ける)ことで、HTSテープ線材がPPLPの上を滑り、ケーブルの曲げを容易化している。複数のHTSテープ線材が並列接続されている。常温から温度を200℃近く下げるために、熱収縮し撚り方向に曲がりやすい。これは僅かであるが、熱応力のためとされている。このため、HTSテープ線材の撚り方向は、層毎に逆方向とされる。これによって、ケーブル全体がHTSテープ線材の撚り方向に曲がるようなことを避けているとされているが、HTSテープ線材は薄く、強度も相対的に低いことから、ケーブル全体の撚れは、ほとんどが巻芯(フォーマー)103によって決まっている。
【0005】
したがって、HTSテープ線材の撚り方向を層毎に変える必要性はそれほど高くはない。
図2のケーブルは、内部に絶縁されて導体層105_1、105_2を備え、同軸ケーブルとして用いられ、外部で磁場を発生しない。
【0006】
同軸ケーブルの場合には、2つの導電層に流れる電流は同じであるが、
図2に示すように、内極と外極のHTSテープ線材の本数は同じとはならない。このため、ケーブルに流すことができる電流は少ない方(外極の16本のHTSテープ線材からなる導電層)で決まり、内極の導電層(23本のHTSテープ線材)は、通電電流に対して、線材本数が余剰となる。
【0007】
超伝導ケーブルのコストは、HTSテープ線材の本数で決まるといっても過言ではなく、流す電流が同じであるにもかかわらず、内側と外側でHTSテープ線材の本数が異なることは、コストアップの要因となる。
【0008】
図3(A)は、交流3相ケーブルのため、導体層は3つある。米国Southwire社が製作した。
図3(B)は、nexans社が製作したケーブルである(インターネット http://blog.lefigaro.fr/industrie/2010/06/nexans-au-secours-des-reseaux-dlectricite.html?xtor=RSS-39)。
図3(A)、
図3(B)のケーブルはどちらも液体窒素を冷媒として利用することになっている。
【0009】
フォーマーはパイプからなりパイプ内部に液体窒素を流す。また、ケーブル外部にも液体窒素を流し、断熱2重管に納められている。
図3(A)のケーブルはHTSテープ線材がそれぞれ一層になっている。
図3(B)のケーブルは、内層が2層になっている。これは、それぞれの層に流れる電流が同じであるにもかかわらず、HTSテープ線材の本数が異なることを意味する。
【0010】
図3(A)、(B)に示した例は、交流ケーブルであり、テープ線材は密に巻かれている。このため、往復導体を作ったときに、電流の向きによってテープ線材本数が異なる。HTSテープ線材間をほとんどゼロにするような巻き方ではなく、ある程度隙間を置く巻き方を行っているものと考えられる。
【0011】
巻線構造として説明される種々の方法でコイル構造体に巻き付けられるHTSテープが特許文献1に記載されている。巻線構造は、(1)コイル構造体上の超電導線材のサイズ(幅、厚さ、形状)、(2)用いられる超電導材料の種類、(3)テープをコイル構造体自体に巻き付ける方法(隣り合う線材との間隔)を変えることで、さまざまに変えることができ、コイル構造体にテープを巻きつける新しい技術を提供することにより低交流損失の効果を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2004−510346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献1の全開示内容はその引用をもって本書に繰込み記載する。
以下に本発明による分析を与える。
【0014】
図3(A)、(B)に示した例は、HTSテープ線材間をほとんどゼロにするような巻き方である。隙間がわずかにあるが、これはケーブルを曲げたときにテープ線材が移動する距離として確保している。
【0015】
一方、HTSテープ線材間にテープ線材幅程度の間隙を設けると、ケーブル臨界電流はHTSテープ線材の臨界電流の和よりも小さくなり、電流が十分に流せない可能性があるとされ、このため、今までは、作製(製造)されていない。
【0016】
HTSテープ線材間にある程度の隙間を置くことができるようになれば、同じ電流の往復に対するテープ線材の数の違いは最小限に抑えられるので、コストを下げることができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題の少なくとも1つを解決するため、本発明は概略以下の構成とされる。ただし、以下に制限されるものでない。
【0018】
本発明の1つの側面によれば、HTS(High Temperature Superconductor)テープ線材の第1及び第2の層を備え、前記第1の層と前記第2の層の各層が、HTSテープ線材幅方向に予め定められた所定のギャップ離間して配設された複数のHTSテープ線材を備え、前記第1の層と前記第2の層の少なくとも一方の前記HTSテープ線材は、他方の層の隣接する前記ギャップと前記HTSテープ線材に重なる部分領域を有する導体装置が提供される。
【0019】
本発明の別の側面によれば、電気的に絶縁された隣接する層の電流の方向が互いに逆である複数層のテープ線材からなる集合導体を備えた導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、同じ電流の往復に対するHTSテープ線材の数の違いを最小限に抑え、コストを下げることができる。また、本発明によれば、臨界電流を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図4】テープ線材の配置と臨界電流を説明する図である。
【
図5】テープ線材の配置と臨界電流の実験結果を示す図である。
【
図6】テープ線材のギャップと臨界電流の実験結果を示す図である。
【
図8】テープ線材の配置と臨界電流の実験導体を説明する図である。
【
図9】テープ線材の臨界電流の測定結果を示す図である。
【
図10】磁場計算結果(2本のテープ線材の電流向きが同じときと逆向き)を示す図である。
【
図11】磁場計算結果(4本、6本のテープ線材の電流向きが互いに逆向き)を示す図である。
【
図12】本発明の別の実施形態を説明する図である。
【
図13】本発明のさらに別の実施形態を説明する図である。
【
図15】本発明の別の実施形態を説明する図である。
【
図16】本発明のさらに別の実施形態を説明する図である。
【
図17】本発明のさらに別の実施形態を説明する図である。
【
図18】本発明のさらに別の実施形態を説明する図である。
【
図19】本発明のさらに別の実施形態を説明する図である。
【
図20】本発明のさらに別の実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の好適な形態の一つにおいて、超伝導ケーブル又はバスバーを構成する超伝導導体装置は、HTSテープ線材の第1の層と第2の層を備え、前記第1の層と前記第2の層の各層が、HTSテープ線材幅方向に所定のギャップ離間して配設された複数のHTSテープ線材を備え、前記第1の層は、前記第2の層の隣接する前記ギャップと前記HTSテープ線材に重なる部分領域を有するHTSテープ線材を備える。また前記第2の層は、前記第1の層の隣接する前記ギャップと前記HTSテープ線材に重なる部分領域を有するHTSテープ線材を備える。
【0023】
本発明の態様の一つによれば、前記超伝導ケーブルにおけるHTSテープ線材間のギャップは臨界電流が大きくなるような値に設定してもよい。また、HTSテープ線材には大別して2種類あり、一つはビスマス系、もう一方はイツトリウム系と呼ばれる。
【0024】
本発明の態様の一つによれば、前記第1の層と前記第2の層の前記ギャップにはギャップ線材が配設される。すなわち、同方向にテープ線材は撚って巻かれる。
【0025】
本発明の態様の一つによれば、前記第1の層と前記第2の層を巻芯に同じ方向に巻き付けられる。また、3層以上にHTSテープ線材を重ねる場合でも、同じ方向にテープ線材を撚ってケーブルを構成する。
【0026】
本発明の態様の一つによれば、前記巻芯に巻き付けられた前記第1の層と前記第2の層の複数のHTSテープ線材の相対距離が一定とされる。
【0027】
本発明の別の好ましい態様の一つによれば、電気的に絶縁された隣接する層の電流の方向が互いに逆である複数層のHTSテープ線材からなる集合導体を備える。
【0028】
本発明の態様の一つによれば、前記集合導体の長手方向に沿った側面に強磁性材料テープを備えた構成としてもよい。
【0029】
本発明の態様の一つによれば、前記集合導体の各層が、同一層に、互いに離間した複数のHTSテープ線材を備えた構成としてもよい。
【0030】
本発明の態様の一つによれば、前記集合導体の長手方向に沿った側面に強磁性材料テープ及び補強材を備えた構成としてもよい。
【0031】
本発明の態様の一つによれば、前記集合導体を収容する導体カバーを備えた構成としてもよい。
【0032】
本発明の態様の一つによれば、前記集合導体の側面に配設される前記強磁性材料テープが、前記集合導体の最上層面と最下層面の少なくとも一方のHTSテープ線材の面の一部を覆うつばを備えた構成としてもよい。
【0033】
本発明の態様の一つによれば、超伝導バスバーから、前記集合導体からなるテープ線材部の対応する層のHTSテープ線材を介して銅素線と接続する構成としてもよい。この場合、複数のHTSテープ線材を貼り合わせて1層としてもよい。
【0034】
本発明の態様の原理の一例を説明する。
【0035】
HTSテープ線材の配置として4種類(b,c,d,e:
図4)について、臨界電流測定を行った。
図4の(a)はHTSテープ線材を上から見た配置であり、矢印方向に電流が流れ、3本のHTSテープ線材A、B、Cを用いている。
図4の(b)は(a)の側断面(テープ長手方向に直交する側断面)を示す図であり、紙面に垂直方向に電流が流れる。HTSテープ線材間の間隔dは正である。
図4の(c)、(d)、(e)はHTSテープ線材A、B、Cの配置の別の例の側断面を示している。
【0036】
(c)、(d)はAとCの両方にBが重なる例であり、上のBは下のA、Cと間隔d重なる。(c)ではd=−1.25mm重ねてあるため、d値を負値で示している。以下同様。(d)ではd=−2.25mmである。(e)はA、B、Cが3層に完全に積層された例である(d=−4.5mm)。積層構造(間隔dが負)の場合、間に絶縁層(100μm程度)を入れた。また以上はそれぞれのテープ線材は互いに絶縁されている。
【0037】
HTSテープ線材A、B、Cの中で、線材Bの臨界電流を測定した。線材A、Cには同じ電源で同じ電流を流したり、別電源で異なった電流を流した。
【0038】
図5は、
図4(c)に関する実験結果(Bi系のテープ線材)の一例である。臨界電流測定を一本のHTSテープ線材Bのみで測定した結果が四角(■)で示されている。臨界電流は154.9Aである。
【0039】
HTSテープ線材A、B、C3本同時に同じ電流を流したとき結果は丸(●)で示されており、HTSテープ線材Bの臨界電流は169.0Aであり、単独通電に比べて14Aの増大を観測した。2つの層で同じ極の導体を作る場合には、HTSテープ線材間にギャップ線材(絶縁した銅テープなどで構成)を入れて、ギャップ間距離を臨界電流が最大になるような距離を一定に保つ構造を作ることが適切であろう。
【0040】
図6は、以上で述べた臨界電流測定実験についてまとめた結果であり、中心の線材Bの臨界電流を縦軸に示している。単独での臨界電流は165A程度(■で示してある)であるため、3本のHTSテープ線材には同じ方向に電流をこの様な構成で流すと臨界電流は増大することが分かる。但し、3本の線材を完全に重ねると(
図4の(e)に対応)、逆に臨界電流は減少する。グラフは、ギャップは正値であると、一列で平面上に3本の線材を並べた場合に相当し、負値では2段に重ねて配置した場合に対応する。この場合には、100ミクロン厚のカプトンテープで線材を電気絶縁している。
【0041】
図7(A)は、本発明の一実施形態のHTSテープ線材の構成を示す図である。2つの層で同じ極の導体を作る場合には、HTSテープ線材105の間にギャップ線材(銅テープ等で構成される)107を入れて、ギャップ間距離を臨界電流が最大になるような距離に一定に保つ構造とする。
図7(A)の上層と下層のHTSテープ線材105は、
図4の(c)の配置に対応している。上層のテープ線材105は下層のギャップ線材107に隣接するテープ線材105と互いに重なる。
図4の(c)と同様、間隔dが負であり、上層と下層の2層のテープ線材間は、絶縁層により電気的絶縁がとられている。
【0042】
また、超伝導ケーブルは、巻線機でフォーマー(巻芯)に巻き付ける構造とすることで製造されるが、これは、
図7(B)のように巻き付ける。
図7(B)には、巻き付け構造の一部が示されている。
図7(B)に示すように、
図7(A)の2つの層(臨界電流が最大となるギャップ間距離のHTSテープ線材)を、同じ向きに巻くことによって、2層のHTSテープ線材の相対距離を一定にすることができる。
【0043】
図3等の関連技術のケーブルでは、2層にHTSテープ線材を巻くときには、第1、第2の層を巻芯に対して互いに逆方向(右周り、左周り)に巻き付けていたが、本実施形態では、第1、第2の層を同じ方向に巻き付けることで、臨界電流を大きくした状態で、ケーブルを製造することができる。
【0044】
次に、本実施形態における、HTSテープ線材の配置と臨界電流について
図8を参照して説明する。
【0045】
HTSテープ線材3本に逆方向の電流を流す。中央のHTSテープ線材の臨界電流を測定する。
【0046】
3本のHTSテープ線材は完全に重ねる。中央のHTSテープ線材の臨界電流を測定する。
【0047】
これによって、臨界電流を大きくした状態でケーブルを製造できる。
【0048】
図9には、
図8の構成(3本のHTSテープ線材)において、臨界電流測定を一本のHTSテープ線材105Bのみで測定した結果が丸(●)にて示されており、臨界電流は168.8Aである。
図8のHTSテープ線材105A、105Cに、逆方向に電流50Aを流した時の中央のHTSテープ線材の臨界電流は四角(■)で示されており、201Aである。更に、
図8のHTSテープ線材105A、105Cに100Aの逆方向電流を流したときの中央のHTSテープ線材の臨界電流の測定結果は菱形で示されており、209.5Aである。このように、隣接するHTSテープ線材に逆方向の電流を流すと、臨界電流が増大する。これは、HTSテープ線材の面に垂直磁場が減少したためであると考えられている。
【0049】
このように、3枚のHTSテープ線材を重ねて両脇のテープ線材の電流を同じ方向から逆方向に電流を流したときの臨界電流とn値の実験結果を、以下の表1にまとめる。
【0050】
[表1]
テープ線材3枚を積層したときの中心導体の臨界電流
【0051】
表1から、一本のテープ線材単体(「single」と表記)では、160A程度の臨界電流であるのに対して、両側に超伝導テープ線材を設置すると、180A以上の臨界電流になり、同じ方向に電流を流すと臨界電流は減少し、逆方向に電流を流すと臨界電流は増大する。なお、X、Y、Zは実験で用いた線材名である。
【0052】
同様に4枚のテープ線材を重ねて層毎に逆方向の電流を流すと中心部の臨界電流は240A程度まで増大した。原因を究明中であるが、テープ面に垂直な磁場が減少したことが大きな理由であることが推測される。
【0053】
つまり、単一テープ線材の臨界電流測定を外磁場環境下で行うと、HTSテープ線材の面(テープ面)方向に垂直な磁場が印加されると、急激に臨界電流が減少する。
【0054】
そして、それ以外の方向の磁場ではそれほど臨界電流が減少しない。更に、両脇のテープ線材に、逆方向の電流を流すと、テープ面に垂直方向の磁場が減少し、同じ方向の電流を流すと増大することが磁場計算から分かるためである。
【0055】
図10(A)、
図10(B)は、磁場計算結果(HTSテープ線材2本)を示す図である。中心部のテープ面に垂直方向の磁場は、電流が互いに逆方向に流れる時には低く、2本のHTSテープ線材に同じ方向と逆方向に電流を流す。電流密度は一定であるが、実際には、インダクタンス最小になるように電流が流れる(いわゆる、最小作用の原理である)。2本のHTSテープ線材に同じ方向と、逆向きに電流を流すとそれぞれの導体内磁場分布が異なる。これによって臨界電流が増大すると考えられる。
【0056】
図11(A)、
図11(B)は、HTSテープ線材が4本、6本の磁場計算結果を示す図である。ここでの磁場分布は電流密度一定であるが、実際には、上記したように、インダクタンス最小になるように電流が流れる(最小作用の原理)。4本、6本のHTSテープ線材に一層毎に逆方向に電流を流すと、導体内磁場分布が異なる。6本くらいになると、端より中心に近いHTSテープ線材のテープ面に垂直磁場がより低くなるので、臨界電流は更に増大すると考えられる。集合導体の中心部付近のHTSテープ線材は、端部のHTSテープ線材での垂直方向磁場が低い。したがって、中心部のHTSテープ線材には余裕がある。これは同じ方向に電流を流した時と全く異なる磁場分布であり、この場合には臨界電流は減少する。
【0057】
図12(A)の断面構造の集合導体(ケーブル)は、それぞれのHTSテープ線材間を電気絶縁するとともに、全体を絶縁物で巻いて電気絶縁を取る。断面に対して紙面の先の向きに電流を流すHTSテープ線材と、手前に電流を流すHTSテープ線材が交互に積層されている。この形状で長手方向に撚った集合導体は、ケーブルのように、どちらの方向にも曲げることが可能になる。
図12(B)のように、集合導体の側面に強磁性材料テープ108を貼り付けることによって、外部への漏れ磁場を少なくし、HTSテープ線材面に垂直磁場を少なくする。これは電流方向がテープ線材毎によって逆のため、端部に強磁性材料を置けば、互いにキャンセルするからである。これによってバスバーのもれ磁場も減少する。
【0058】
HTSテープ線材の幅は例えば4mmから5mmとされるが、幅広の導体が要求される場合、
図13(A)に断面構造を示すように、HTSテープ線材105は幅方向(左右方向)に同じ電流を流す導体を並べる構造としてよい。隣接する層は逆方向の電流を流す。端部には、強磁性材料テープ108(HTSテープ線材105と電気的に絶縁)や補強材108’を置き、導体として強度を上げる。
【0059】
また、
図13(B)に断面構造を示すように、全体を補強剤や電気絶縁材(導体カバー109)で巻き上げてケーブルとして完成させる。
【0060】
図14は、HTSテープ線材による複合導体を撚った構造を示す。電流はテープ長手方向に流れる。
図14では、集合導体(副数本のHTSテープ線材が一層毎に逆方向に電流を流す)の厚さを無視している(HTSテープ線材の厚さをゼロとしている)。この様にすることによってバスバーはどちらの方向にも曲げることができる。
【0061】
図15は、本実施形態の変形例を示す図であり、バスバーの断面形状を示している。テープ線材105を電気的絶縁して複数層備え、HTSテープ線材105は層毎に逆方向の電流が流れる。このため、
図15の左右の端部のテープ線材105間には磁場がバスバー外側に出てくるが、それは線材間毎に方向が逆になる。このため、側面に強磁性材料テープ108を置くと、その内部で磁束が閉じる。しかし、
図15に示すように、上下端のテープ線材では磁場が広く拡散するため、テープ面において、垂直方向磁場が増大する。これを避けるために、つば110が付いた強磁性材料テープ108(テープ線材と電気絶縁)を、HTSテープ線材105の積層体側面に配置する。これによって、上下端のHTSテープ線材105のテープ面における垂直方向磁場の増大を避けることができる。この結果、臨界電流を増大させることができる。
【0062】
図16は、本発明のさらに別の実施形態を説明する図である。
図16には、超伝導バスバーの端部での接続例が示されている。
図16のテープ線材部111の導体側面構造は、テープ線材を複数層積層した集合導体の側面構造であり、例えば断面構造を示した
図12、
図15等の側面に対応する。上記各実施形態で説明したように、テープ線材単体の臨界電流より、上記した手法でバスバーを構成すると、臨界電流が50%近く増大する。すると、超伝導バスバーの常温部との接続部(「電流リード」と言う)では、銅素線113と接続するため、部分的に超伝導テープ線材が単体で利用される状態と同じになる。
図16には、この状態が示されている。すなわち、超伝導バスバー側からテープ線材接続部112(HTSテープ線材105が使われている)から銅素線113に接続している。この場合、テープ線材部111で臨界電流を超えることが懸念される。
【0063】
そこで、テープ線材部111では、HTSテープ線材105を例えば2枚半田等で貼り合わせる構造(複数のテープ線材を1層に貼り合わせる)をとる。かかる構成により、HTSテープ線材1層あたりの臨界電流がほぼ2倍になるため、テープ線材接続部112での発熱を抑制することができるため、安定に超伝導バスバーを銅素線に接続できる。
【0064】
本発明のさらに別の実施形態を説明する。本実施形態では、超伝導テープ線材(HTSテープ線材)105の間に強磁性材料テープ108を挟む。
図17は、本実施形態を説明する図である。
図17は、超伝導テープ線材(HTSテープ線材)105による複合導体(集合導体)の断面形状を示す。超伝導テープ線材(HTSテープ線材)105を電流は紙面垂直方向に流れる(ただし、層毎に、逆方向に流れる)。電流が逆方向に流れる超伝導テープ線材(HTSテープ線材)105の間に、強磁性材料テープ108が挿入されている。複合導体(集合導体)の両側側面、上端面、下端面にも、同様に、強磁性材料テープ108が設けられる。紙面に垂直方向に電流を流すが、その方向にケーブル導体は撚ってある。
【0065】
本発明のさらに別の実施形態を説明する。本実施形態は、
図17の前記実施形態において、ケーブル導体部201にケーブル保護層202を付けて、断面形状を丸にしたものである。
図18は、本実施形態の構成を示す図である。
図17の実施形態は、電流を運ぶ導体部であるが、これに保護層を付けてケーブルとなる。本実施形態では、ケーブル保護層202の断面形状を丸にして、通常のケーブルと同等な扱いが出来るようにした。なお、ケーブル導体部201は紙面に垂直方向に電流を流す。ケーブル導体部201は撚ってある。
【0066】
本発明のさらに別の実施形態を説明する。
図18のケーブル構造においては、導体部がツイストしてあるが、本実施形態では、
図19に示すように、ガイド層203を付け、ケーブル保護層202を取り付けてある。ケーブル導体部201にケーブル保護層202を付けてケーブルとなるが、ケーブル保護層202の断面形状を丸にして、通常のケーブルと同等な扱いが出来るようにした。また、ケーブル導体部201の保護をより完全にするために、導体保護層203を取り付け、導体保護層203がケーブル導体部201のガイドを行っている。なお、ケーブル導体部201は紙面に垂直方向に電流を流し、撚ってある。
【0067】
本発明のさらに別の実施形態を説明する。本実施形態では、大電流化対応のケーブルとして、4つの導体部を一つのケーブルにしている。
図20は、本実施形態を説明する図である。本実施形態では、上下に対向配置される1対の積層導体層205、左右に対向配置される1対の積層導体層205の計4つの積層導体層205を一つのケーブルに収容している。4つの積層導体層205は同じピッチで撚ってある。隣接する積層導体層205間の4隅に積層導体ガイド層204を備え、4つの積層導体層205を一つのケーブル保護層202に入れて一つのケーブルとしている。206は中心穴である。なお、ケーブル導体部201は紙面に垂直方向に電流を流し、撚ってある。また、4つ以外に複数の積層導体をまとめて一つのケーブルとすることが可能となる。
【0068】
なお、上記の特許文献の開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0069】
101 中心孔(中空部)
102 内部スプリング
103 フォーマー
104 絶縁層
105、105_1、105_2、105_3、105A、105B、105C HTSテープ線材
106 アース層
107 ギャップ線材
108、108’ 強磁性材料テープ(及び補強材)
109 導体カバー
110 強磁性材料のつば
111 テープ線材部(バスバー部)
112 テープ線材接続部
113 銅素線
201 ケーブル導体部
202 ケーブル保護層
203 導体保護層(ガイド層)
204 積層導体ガイド層
205 積層導体層
206 ケーブル中心穴