(54)【発明の名称】伝送線路共振器並びに伝送線路共振器を用いた帯域通過フィルタ、分波器、平衡−不平衡変換器、電力分配器、不平衡−平衡変換器、周波数混合器及びバランス型フィルタ
【文献】
北沢祥一(ほか4名),「両端接地型λ/2ストリップ線路共振器とλ/4コプレーナ共振器を用いたデュアルバンドフィルタに関する一検討」,電子情報通信学会技術研究報告,2006年 7月20日,Vol.106,No.186,pp.85-90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記第1の伝送線路、上記第2の伝送線路及び上記第3の伝送線路は、いずれも方形状であり、該第2の伝送線路及び該第3の伝送線路のそれぞれの接続端において該第1の伝送線路に対して直角方向に配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の伝送線路共振器。
上記分布定数素子は、インタデジタルキャパシタ、長方形状のスタブ、インピーダンスステップを有するスタブ、T型スタブ又は折り返し線路構造のスタブのうちのいずれか1つであることを特徴とする請求項6記載の伝送線路共振器。
両端を短絡接地された1/2波長型のステップインピーダンス共振器と、該ステップインピーダンス共振器の中央部に一端が接続され他端が短絡接地された容量性素子とを有し、同一の共振周波数を有する2個以上の伝送線路共振器と、
上記2個以上の伝送線路共振器のうちの1つの伝送線路共振器に電界結合又は磁界結合された入力端子と、
上記1つの伝送線路共振器と異なる他の1つの伝送線路共振器に電界結合又は磁界結合された出力端子とを備え、
上記ステップインピーダンス共振器は、
第1の線路インピーダンス及び第1の線路長を有する第1の伝送線路と、
上記第1の伝送線路の一端に一方の端が接続され他方の端が短絡接地された、第2の線路インピーダンス及び第2の線路長を有する第2の伝送線路と、
上記第1の伝送線路の他端に一方の端が接続され他方の端が短絡接地された、上記第2の線路インピーダンス及び第2の線路長を有する第3の伝送線路とを有し、
上記第1の線路インピーダンスは、上記第2の線路インピーダンスよりも低く、
上記2個以上の伝送線路共振器をそれぞれ所定の距離離間して相互に隣接するように配置して電界結合及び/又は磁界結合させてなる帯域通過フィルタ。
第1の線路インピーダンス及び第1の線路長を有する第1の伝送線路と、該第1の伝送線路の一端に一方の端が接続され他方の端が短絡接地された、第2の線路インピーダンス及び第2の線路長を有する第2の伝送線路と、該第1の伝送線路の他端に一方の端が接続され他方の端が短絡接地された、該第2の線路インピーダンス及び第2の線路長を有する第3の伝送線路と、該第1の伝送線路の中央部に一端が接続され他端が短絡接地された容量性素子と、該第1の伝送線路の中央部近傍に電界結合により結合された、局部発振信号を入力する局部発振入力端子と、該第2の伝送線路及び該第3の伝送線路にそれぞれ略平行に所定の距離離間して隣接するように配置された、略同一の線路長を有する第1の位相調整部及び第2の位相調整部と、該第2の伝送線路の短絡接地部からもっとも離れた位置にある該第1の位相調整部の一方の端に磁界結合された第1の出力端子と、該第3の伝送線路の短絡接地部にもっとも近い位置にある該第2の位相調整部の一方の端に磁界結合された第2の出力端子とを備え、該第1の位相調整部及び該第2の位相調整部のそれぞれの他方の端は、短絡接地され、該第1の伝送線路、該第2の伝送線路及び該第3の伝送線路は、ループ状に配置された不平衡−平衡変換器と、
高周波信号を入力する高周波信号入力端子と、所定のフィルタ処理をして信号出力する高周波信号出力端子とを有する高周波信号入力部と、
上記不平衡−平衡変換器の上記第1の出力端子及び第2の出力端子にそれぞれ結合した第1の混合部入力端子及び第2の混合部入力端子と、上記高周波信号入力部の高周波信号出力端子に結合した第3の混合部入力端子と、上記高周波信号及び上記局部発振信号を検波し混合した信号を出力する混合部出力端子とを有する高周波混合部と、
上記混合器出力端子と結合した中間周波入力端子を有し、所定のフィルタ処理をして中間周波信号を出力する中間周波信号出力部とを備えた周波数混合器。
第1の線路インピーダンス及び第1の線路長を有する第1の伝送線路と、該第1の伝送線路の一端に一方の端が接続され他方の端が短絡接地された、第2の線路インピーダンス及び第2の線路長を有する第2の伝送線路と、該第1の伝送線路の他端に一方の端が接続され他方の端が短絡接地された、該第2の線路インピーダンス及び第2の線路長を有する第3の伝送線路と、該第1の伝送線路の中央部に一端が接続され他端が短絡接地された容量性素子とを備え、該第1の伝送線路、該第2の伝送線路及び該第3の伝送線路がループ状に配置された、同一の共振周波数を有する2個の伝送線路共振器のそれぞれの第1の伝送線路を略平行に所定の距離離間して隣接するように配置することにより形成された1個以上の伝送線路共振器の組を含み、
複数の上記伝送線路共振器の組は、それぞれの第2の伝送線路又は第3の伝送線路に略平行に所定の距離離間して隣接するように配置して磁界結合させることにより順次縦続接続され、
隣接する上記伝送線路共振器の組が存在しない最初の伝送線路共振器の第2の伝送線路及び第3の伝送線路の短絡接地部近傍にそれぞれ磁界結合した第1及び第2の入力端子と、
隣接する上記伝送線路共振器の組が存在しない他の伝送線路共振器の第2の伝送線路及び第3の伝送線路と磁界結合するためにそれぞれ略平行に所定の距離離間して隣接するように配置した第2の伝送線路及び第3の伝送線路を有する最後の伝送線路共振器の第1の伝送線路の中央部に電界結合された出力端子とを備えた平衡入力及び不平衡出力の帯域通過フィルタ。
第1の線路インピーダンス及び第1の線路長を有する第1の伝送線路と、該第1の伝送線路の一端に一方の端が接続され他方の端が短絡接地された、第2の線路インピーダンス及び第2の線路長を有する第2の伝送線路と、該第1の伝送線路の他端に一方の端が接続され他方の端が短絡接地された、該第2の線路インピーダンス及び第2の線路長を有する第3の伝送線路と、該第1の伝送線路の中央部に一端が接続され他端が短絡接地された容量性素子とを備え、該第1の伝送線路、該第2の伝送線路及び該第3の伝送線路がループ状に配置された、同一の共振周波数を有する2個の伝送線路共振器のそれぞれの第1の伝送線路を略平行に所定の距離離間して隣接するように配置することにより形成された1個以上の伝送線路共振器の組と、
複数の上記伝送線路共振器の組は、それぞれの第2の伝送線路又は第3の伝送線路に略平行に所定の距離離間して隣接するように配置して磁界結合させることにより順次縦続接続され、
隣接する上記伝送線路共振器の組が存在しない最初の伝送線路共振器の第2の伝送線路及び第3の伝送線路の短絡接地部近傍にそれぞれ磁界結合した第1及び第2の入力端子と、
隣接する上記伝送線路共振器の組が存在しない最後の伝送線路共振器の第2の伝送線路及び第3の伝送線路とそれぞれ略平行に所定の距離離間して隣接するように配置した略同一の線路長を有する第1の位相調整部及び第2の位相調整部と、
上記第2の伝送線路の短絡接地された部分からもっとも離れた位置にある上記第1の位相調整部の一方の端に磁界結合された第1の出力端子と、
上記第3の伝送線路の短絡接地された部分にもっとも近い位置にある上記第2の位相調整部の一方の端に磁界結合された第2の出力端子とを備え、
上記第1の位相調整部及び上記第2の位相調整部の他方の端は短絡接地されたバランス型フィルタ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明が適用された伝送線路共振器(以下、単に共振器又はSIRともいう。)並びにその伝送線路共振器を用いた帯域通過フィルタ、分波器、平衡−不平衡変換器、電力分配器、不平衡−平衡変換器、周波数混合器及びバランス型フィルタについて、図面を参照して説明する。なお、説明は以下の順序で説明する。
【0029】
1.伝送線路共振器
1−1.伝送線路共振器の構成
1−2.伝送線路共振器の動作原理
1−3.伝送線路共振器の設計例
1−4.伝送線路共振器の結合
(1)伝送線路共振器同士の結合
(2)外部回路との結合
1−5.伝送線路共振器の変形例
2.伝送線路共振器の応用回路
2−1.帯域通過フィルタ
2−2.分波器
2−3.平衡−不平衡変換器、電力分配器、不平衡−平衡変換器
(1)平衡−不平衡変換器、電力分配器
(2)不平衡−平衡変換器
2−4.周波数混合器
(1)シングルバランスドミキサ
(2)ダブルバランスドミキサ
2−5.バランス型フィルタ
【0030】
1.伝送線路共振器
1−1.伝送線路共振器の構成
図1に示すように、本発明のSIR10は、誘電体基板1上に形成される。
図1Aは、パターン面を示す平面図である。また、
図1Bは、
図1A図のA−A’断面を示す。通常、SIR10は、A−A’線を対称線とする線対称形状に設計、形成される。SIR10は、第1の線路インピーダンスZ
1及び第1の線路長θ
1を有する第1の伝送線路11と、第1の伝送線路11の一方の端に第2の伝送線路12が第1の伝送線路11の長手方向に対して略直角方向に接続され、第1の伝送線路11の他方の端に第3の伝送線路13が第1の伝送線路11の長手方向に対して略直角に接続される。第2の伝送線路12及び第3の伝送線路13は、第2の線路インピーダンスZ
2及び第2の線路長θ
2を有している。第2及び第3の伝送線路12、13は、「コ」の字状の形状をしており、第1の伝送線路11に接続された側と反対側の端で、第2の伝送線路12と第3の伝送線路13とが短絡接地部14aで接続されて、電気的に短絡している。短絡接地部14aにおいて、第2及び第3の伝送線路12、13は、図の黒丸で表わされたビア19を介して誘電体基板1の裏面側一面に形成された短絡接地部14bと接続される。このような構造をとることにより、低インピーダンスの短絡接地を実現することができる。
【0031】
SIR10の第1の伝送線路11の略中央部に、容量性素子15の一方の端子を接続し、他方の端子を短絡接地部14aに接続する。通常は、
図1Aのように、伝送線路11がA−A’線について線対称となっているので、第1の伝送線路11における容量性素子15の接続位置は、第1の伝送線路11の長手方向の物理的寸法の中間位置、すなわち第1の伝送線路11の長さの1/2の箇所にとる。しかしながら、製造上のばらつき等でA−A’について非対称となるような場合等、一般的には、第1の伝送線路11の電界強度が最大になる位置に容量性素子15を接続する。
【0032】
入力端子18は、後述する磁界結合の一種であるタッピング結合により第2の伝送線路12に接続される。出力端子17は、後述する結合コンデンサ16を用いて、電界結合の一種である容量結合により第1の伝送線路11に接続される。
【0033】
ここで、第2の伝送線路12と第3の伝送線路13は、短絡接地部14aでパターン上接続され、電気的な接続をとっているため、SIR10は閉じた方形のループ形状をなしている。しかしながら、短絡接地部14a及び14bにより低インピーダンスで短絡接地が実現される限りにおいては、必ずしも閉じたループである必要はなく、一部が開いたループ形状であってもよい。
【0034】
1−2.伝送線路共振器の動作原理
本発明の伝送線路共振器の動作原理を
図2及び
図3を参照して説明する。
【0035】
図2は、従来の1/2波長型のステップインピーダンス共振器の例を示す図である。
図2Aでは、両端開放型ステップインピーダンス共振器20aを示し、
図2Bでは、両端短絡型ステップインピーダンス共振器20bを示す。
【0036】
両端開放型ステップインピーダンス共振器20aは、第1の伝送線路21aの両端にそれぞれ第2及び第3の伝送線路22a、23aを接続している。第2及び第3の伝送線路22a、23aの他方の端である開放端24a、25aには何も接続されておらず開放状態である。
【0037】
一方、両端短絡型ステップインピーダンス共振器20bは、第1の伝送線路21bの両端に第2及び第3の伝送線路22b、23bを接続している。第2及び第3の伝送線路22b、23bのそれぞれの他方の端である接地端24b、25bは接地される。ここで、第1の伝送線路21bの線路インピーダンスをZ
1、線路長をθ
1とし、第2及び第3の伝送線路22b、23bの線路インピーダンスをZ
2、線路長をθ
2とすると、両端短絡型ステップインピーダンス共振器20bの共振条件は、以下の式で表される。
【0039】
図3Aに示すように、本発明の両端短絡型SIR30は、
図2の場合と同様に、第1の伝送線路31aの両端に第2及び第3の伝送線路32、33が接続される。第2及び第3の伝送線路32、33の他方の端34、35は接地される。そして、第1の伝送線路31の中央部に容量性素子36aの一方の端子が接続され、この容量性素子36aの他方の端子は、接地される。第1の伝送線路31aの線路インピーダンスをZ
1、線路長をθ
1とし、第2及び第3の伝送線路32、33の線路インピーダンスをZ
2、線路長をθ
2とし、容量性素子36aの容量値を2C
aとする。
図3Aの両端短絡型SIR30は、第1の伝送線路31aの中央を対称線とする左右対称の構造に形成されているから、
図3Bのように一端開放他端短絡されたSIRの開放端38に容量値Caを有する容量性素子36bが接続された構造と等価である。さらに、ωC
a≒(1/Z
1)tanθ
aとなるようにθ
aを選ぶことができるから、
図3Bの容量性素子36bを、
図3Cのように線路インピーダンスZ
1、線路長θ
aの伝送線路に置き換えることができる。
【0040】
したがって、
図3Bにおける第1の伝送線路31bは、その線路長θ
1がθ
aだけ長くなったものと考えることができ、
図3Cに示すSIRの共振条件は、以下のように表わされる。
【0042】
このことは、容量2C
aを有する容量性素子36aを装荷することにより、線路長が長くなったことに相当するから、容量性素子36aを装荷しない場合に比べて共振周波数が低くなることになる。逆に言えば、容量性素子36aを装荷しないときの共振周波数に等しくするためには第1の伝送線路31の線路長θ
1を短くすることが必要であり、SIRを小型化することが可能となる。
【0043】
ここで、ωC
a≒(1/Z
1)tanθ
aとの条件を一般化すれば、装荷される容量性素子36aのアドミタンスをjBとして、以下の共振条件を満たせばよいこととなる。
【0046】
なお、
図3において、第2及び第3の伝送線路32、33の線路インピーダンスZ
2は、第1の伝送線路31aの線路インピーダンスZ1より大きい条件、すなわち、第2及び第3の伝送線路の幅が第1の伝送線路31aの幅よりも狭い条件の場合(R
Z=Z
1/Z
2<1)について説明した。しかしながら、SIRの構造としては、上述の共振条件を満たす限り、R
Z>1としてもよい。容量性素子を装荷することにより、上述の動作原理で容量装荷前のSIRよりも外径寸法を小型化することができる。さらに第2及び第3の伝送線路の線路インピーダンスを低くした結果、短絡接地部近傍のインピーダンスを下げることができ、導体損失の低減が可能となる。ただし、SIR全体の長さ(大きさ)は、1/2波長型の一様線路共振器より長くなる。
【0047】
ところで、
図3Aにおいて、容量性素子36aを第1の伝送線路31aに結合する位置は、通常は物理的な中央部(対称線の位置)とするが、正確には電界の強度分布上の中央、すなわち電界強度最大の位置となる。したがって、一般的には、本発明のSIRにおいて、容量性素子の接続位置は、SIRの第1の伝送線路の電界強度の最大になる位置である。
【0048】
1−3.伝送線路共振器の設計例
図4に本発明の両端短絡型SIR40の具体的な設計例を示す。
図4Aが本発明の両端短絡型SIR40aであり、
図4Bはループ形状に構成した両端短絡型の一様線路共振器40bを大きさの比較のために示したものである。
【0049】
図4A及び
図4Bとも、0.63mm厚のアルミナ基板(比誘電率9.8)上にマイクロストリップ線路により共振器を形成し、いずれも1.6GHzに共振周波数を設定した。なお、マイクロストリップ線路は、周知のマスク技術、エッチング技術等を用いて、基板上に形成することができる。また、その他の周知の微細加工技術を用いてLTCC基板上にSIRを形成することが可能なことはいうまでもない。
【0050】
図4Aに示す本発明の両端短絡型SIR40aでは、第1の伝送線路41aは、幅0.94mmで「コ」の字状に形成される。第1の伝送線路41aに直線状に接続された第2及び第3の伝送線路42a、43aは、L字状に形成されており、短絡接地部44aで電気的に接続し、ビア49aを介して裏面の接地パターン(図示せず)に接続される。第1の伝送線路41aの線路インピーダンスは、40Ωに設定され、第2及び第3の伝送線路42a、43aの線路インピーダンスは、80Ωに設定されている。スタブ45aは、後述するように分布定数型の容量性素子を構成している。スタブ45aの線路インピーダンスは40Ωである。なお、このスタブ45aのスタブ長を0mmから8mmに変えて容量値を変化させることにより、共振周波数を2.0GHzから1.5GHzに変化させることもできる。
【0051】
図4Bの両端短絡型の一様線路共振器40bでは、幅0.62mmの一様線路41bが、一様線路の両端は、短絡接地部44bで接続され、ビア49bを介して裏面接地パターン(図示せず)に接続される。線路インピーダンスは、50Ωに設定されている。
【0052】
図4を参照して明らかなように、一様線路共振器40bの寸法が4.5mm×14.8mmであるのに対して、本発明の両端短絡型SIR40aの寸法は、4.4mm×8.6mmとなり1/2程度に小型化されている。なお、装荷する容量が数5及び数6の関係を満たした場合に、
図4Aに示すように、あるいは後述するように、共振周波数に対して最適化された大きさ、電気特性を実現することができる。一方、これらの関係を満たさない場合であっても、従来の共振器に対して小型化が可能であり、すぐれた電気特性を発揮することは言うまでもない。
【0053】
1−4.伝送線路共振器の結合
次に、本発明の両端短絡型SIRのもう1つの特長である回路同士の結合の仕方について説明する。
【0054】
(1)伝送線路共振器同士の結合
図5は、本発明の両端短絡型SIR同士の結合させるための配置パターンを示した図である。
【0055】
図5Aは、第1、第2及び第3の伝送線路51a、52a、53aを方形のループ形状に配置した両端短絡型SIR50aと、SIR50aと同一形状の両端短絡型SIR50bとを結合させるために隣接して配置した図である。
図5Aの左側の両端短絡型SIR50aの第1の伝送線路51aと、右側の両端短絡型SIR50bの第1の伝送線路51bとを略平行に対向させて離間距離55だけ離して、両端短絡型SIR50aと50bとを隣接するように配置する。そうすると、離間距離55で電界が強くなるため、SIR50a、50b間は、電界結合が支配的な結合状態となる。左右の両端短絡型SIR50a、50bを、
図5Aの実線の矢印の方向へずらすと双方のSIR50a、50bにはたらく電界強度は次第に弱くなり、SIR同士の結合も弱くなる。同様に、破線の矢印の方向へ左右の両端短絡型SIR50a、50bをずらしても結合度を調整することができる。もちろん、離間距離55を大きくすれば、両端短絡型SIR50a、50bの結合は弱くなり、離間距離55を小さくすれば、結合は強くなる。
【0056】
図5Bは、
図5Aの両端短絡型SIR50a、50bと同一のSIRを磁界結合させる場合の配置を示している。
図5Bの左側の両端短絡型SIR50aの第2及び第3の伝送線路52a、53aと、右側の両端短絡型SIR50bの第2及び第3の伝送線路52b、53bとを略平行に対向させて離間距離56だけ離して、両端短絡型SIR50aと50bとが隣接するように配置する。そうすると、離間距離56で磁界が強くなるため、両端短絡型SIR50a、50b間は、磁界結合が支配的な結合状態となる。
図5Aの場合と同様に、左右の両端短絡型SIR50a、50bを上下又は左右にずらして結合度を調整することができる。
【0057】
図5Cは、左側の両端短絡型SIR50aの第3の伝送線路53aと、右側の両端短絡型SIR50bの第2の伝送線路52bとを略平行に対向させて所定の距離57だけ離間して、両端型短絡SIR50aと50bとを隣接するように配置した状態を示すものである。このように配置すると、電界結合と磁界結合とが混在して2つの両端短絡型SIR50a、50bが結合する。
【0058】
図5Dは、左側の両端短絡型SIR50aの第3の伝送線路53aと、右側の両端短絡型SIR50bの第3の伝送線路53bとを略平行に対向させて離間距離58だけ離して、両端型短絡SIR50aと50bとを隣接するように配置したものである。
【0059】
図5C、Dの場合も、左右の両端短絡型SIR50a、0bを上下左右にずらすことで結合度を調整することができる。
【0060】
図5A〜
図5Dにおいて、同一形状の2つの両端短絡型SIRの場合について述べたが、配置パターンによる結合パターンの種類は、SIRの形状や共振周波数等の特性に限定されるものではない。異なる形状、たとえば一方が
図1のような正方形状で、他方が
図3のような直線形状のものであってもよく、両方とも直線形状のものであってもよい。本発明の両端短絡型SIRにおいては、任意の形状、任意の特性のSIRについて、その配置により相互に結合をさせることができ、結合度を設定、調整することが可能である。結合の種類は、電界結合と磁界結合とか混在して結合するのであるが、第1の伝送線路の中央部に近いほど、電界結合が主となり、第2及び第3の伝送線路の短絡接地部に近いほど、磁界結合が主となる結合状態となる。
【0061】
このように、本発明の両端短絡型SIRは、相互に結合させる場合に、その配置及び距離によって、容易に結合度を調整することができ、設計の制約条件に応じた回路設計を可能にし、回路の小型化を可能にする。
【0062】
(2)外部回路との結合
本発明の両端短絡型SIRは、SIR同士を結合する場合と同様に、外部回路と結合することができる。
【0063】
図1に示すように、第1の伝送線路11の中央部は電界が強いので、結合コンデンサ16による電界結合、すなわち容量結合により出力を取り出すことができる。また、第2の伝送線路12の短絡接地部14aの近傍では磁界が強いので、タッピング結合を用いた磁界結合により外部回路と接続することができる。
【0064】
図1のSIR10の形状、性能に限らず、任意の形状、特性の両端短絡型SIRについて電界結合又は磁界結合を利用して容易に外部回路との接続を実現できることはいうまでもない。また、容量結合させる場合には、集中定数素子であるコンデンサの利用に限らず、後述するようなスタブを利用した分布定数素子や可変容量素子を用いることができることは言うまでもない。
【0065】
1−5.伝送線路共振器の変形例
図6は、本発明の両端短絡型SIRの第1の伝送線路の中央部に接続される容量性素子について、分布定数回路素子として実現する場合の例を示す図である。
【0066】
図6Aは、インタデジタルキャパシタの例を示す。インタデジタルキャパシタは、櫛形の電極62、63を所定の距離離間して配置することにより構成される。一方の電極62は、接続端子61aにより両端短絡型SIRに接続される。他方の電極63は、ビア64により下層の接地電極に接続される。「櫛」の幅、長さ、本数又は電極間隔等により容量値を設定することができる。
【0067】
図6Bは、先端開放の長方形状伝送線路65からなる容量スタブの例を示す図である。この容量スタブは、接続端子61bによりSIRに接続される。
【0068】
図6Cは、
図6Bに示すような容量スタブを小型化するために、2つの伝送線路66c、67cを用いたステップインピーダンススタブを示す図である。
【0069】
図6Dは、
図6Cの開放端部分の伝送線路67cを分割してひろげたT型スタブの例を示す図である。
【0070】
図6Eは、
図6DのT型スタブをさらに小型化するために、T字部分の伝送線路を折り曲げた形状とする折り返し線路構造のスタブの例を示す図である。
【0071】
なお、
図6A〜
図6Eに示した分布定数型の容量性素子は、本発明の両端短絡型SIRの第1の伝送線路の中央部に接続する容量性素子に限らず、外部回路と電界結合させるための結合容量として用いることができることは言うまでもない。
【0072】
図7は、
図6Dに示すようなT型スタブを容量性素子75として用いた例を示す図である。この例では、両端短絡型SIR70の第1の伝送線路71の中央部にT型スタブにより形成された容量性素子75を、第1の伝送線路71と一体化して形成している。そして、出力端子78を両端短絡型SIR70に容量結合するために、T型スタブ76を用いている。なお、入力信号は、タッピング結合により入力端子77から入力される。
【0073】
図7に示した例では、容量性素子75を1つのT型スタブで実現しているが、複数のスタブの組合せにより実現することもでき、
図6に示した各種スタブを用いることも当然のことながら可能である。
【0074】
図8に示すように、本発明の両端短絡型SIR80は、閉じたループ形状のものに限らず、直線形状の構成とすることもできる。第1の伝送線路81の長辺方向の両端に第2及び第3の伝送線路82、83が接続されている。容量性素子85は、第1の伝送線路81の第2及び第3の伝送線路82、83が接続されていない辺の両側中央部に2つ形成される。この場合には、2つの容量性素子85が並列接続されていることになるから、大きな容量値を実現できる。第2の伝送線路82に略平行に所定の距離離間して隣接するように配置した平行結合部86は、磁界結合により第2の伝送線路82に結合する。入力信号は、平行結合部86にタッピング結合された入力端子により入力される。一方、出力信号は、第3の伝送線路83の短絡接地部84近傍にタッピング結合された出力端子88により出力される。短絡接地部84は、ビア89を介して裏面接地パターン(図示せず)に接続される。
【0075】
図9は、長方形状の第1の伝送線路91の両端に長方形状の第2及び第3の伝送線路92、93を第1の伝送線路91に対してそれぞれ略直角になるように接続された両端短絡型SIR90の例を示す図である。
図9に示すように、第2及び第3の伝送線路92、93の短絡接地部94はパターン面上で接続し閉じたループ形状となる必要はない。
【0076】
他の例として、第2の伝送線路と第3の伝送線路とが、180°異なる方向に屈曲して第1の伝送線路に接続するような形状(Z字形状)も取り得る。
【0077】
ここで、
図9の例においては、容量性素子として可変同調ダイオード98を用いている。
図9に示すように、可変同調ダイオード98は、アノード端子が短絡接地部94に接続され、カソード端子が容量性素子97に接続されており、容量性素子97の他方の端子は第1の伝送線路91の中央部に接続されている。制御電極96は、抵抗99を介して、容量性素子97と可変同調ダイオード98との接続ノード95に接続され、外部電源により可変同調ダイオード98に制御電圧を印加する。このような応用回路では、外部電源による電圧に依存して容量値が変化し共振周波数を変化させることができるので、電子同調フィルタや電圧制御発振器に適用することも可能である。
【0078】
なお、第1の伝送線路91の線路インピーダンスを第2及び第3の伝送線路92、93の線路インピーダンスよりも大きくすると、同一の容量値及び可変同調ダイオード98を用いた場合、可変周波数範囲を広く設計することができる。また、抵抗99は、高周波チョークコイルに置き換えることもできる。
【0079】
図10は、第1の伝送線路101の線路インピーダンスが第2及び第3の伝送線路102、103の線路インピーダンスよりも大きい場合の両端短絡型SIR100の例を示す図である。
図10に示す両端短絡型SIR100の容量性素子105は、先端開放型スタブとしているが、容量性素子は、
図5に示すような他のスタブであってもよく、集中定数素子であるコンデンサであってもよい。また、必要に応じて可変容量素子を用いてもよい。
【0080】
図10に示す両端短絡型SIR100は、1/2波長型の一様線路共振器に比べて小型にすることができない。しかしながら、両端短絡型SIR100は、短絡接地部を含む伝送線路が低インピーダンス線路となるので、短絡接地部で生じやすい損失の低減をはかることができ、その結果、共振器の無負荷時Qを大きく設計することが可能となる。
【0081】
以上説明した通り、本発明の両端短絡型SIRでは、小型化が可能であり、外部回路及びSIR同士の結合を容易にとることができるので、設計自由度の高い高周波回路を提供することができる。
【0082】
2.伝送線路共振器の応用回路
次に、本発明の両端短絡型SIRを用いた各種応用回路について説明する。
【0083】
2−1.帯域通過フィルタ
帯域通過フィルタは、周波数の混在した信号を入力して、特定の周波数の信号を取り出す回路である。
【0084】
図11は、本発明の両端短絡型SIR(以下、単にSIRともいう。)を3個用いて3段構成の帯域通過フィルタを構成した応用例を示す。
【0085】
第1のSIR110aは、
図1で示したSIRと略同じものである。すなわち、第1のSIR110aは、「コ」の字の形状をした第1の伝送線路111aと、第1の伝送線路111aの一方の端に第2の伝送線路112aが第1の伝送線路111aに対して略直角方向に接続される。また、第1の伝送線路の他方の端に第3の伝送線路113aが第1の伝送線路111aに対して略直角に接続される。第2及び第3の伝送線路112a、113aは、L字の形状をしており、第1の伝送線路111aに接続された側と反対側の端で、第2及び第3の伝送線路112a、113aとが短絡接地部114aで接続されて、電気的に短絡している。短絡接地部114aにおいて、第2及び第3の伝送線路112a、113aは、ビア119aを介してSIR110aが形成されている誘電体基板の裏面側一面に形成された短絡接地部(図示せず)と接続されている。第2及び第3のSIR110b、110cは第1のSIR110aと同じ共振周波数を有しており、すべて同じ構成及び形状である。
【0086】
第1及び第2のSIR110a、110bのそれぞれの第2及び第3の伝送線路112a、113a、112b、113bは、略平行に対向して離間距離117だけ離して、第1及び第2のSIR110a、110bが隣接するように配置される。第1及び第2のSIR110a、110bは、結合度k12で磁界結合する。
【0087】
第2及び第3のSIR110b、110cのそれぞれの第1の伝送線路111b、111cは、略平行に対向して離間距離118だけ離して、第2及び第3のSIR110b、110cが隣接するように配置される。第2及び第3のSIR110b、110cは、結合度k23で電界結合する。
【0088】
第1のSIR110aの第1の伝送線路111aの中央部にコンデンサ116を接続して、容量結合により入力端子を構成している。また、第3のSIR110cの第3の伝送線路113cの短絡接地部114c近傍にタッピング結合により出力端子を構成している。
【0089】
それぞれのSIR110a、110b、110cの配置を調整、すなわち離間距離117、118を調整することにより結合度を調整してフィルタの特性を設計し、調整することが可能である。
【0090】
図11においては、3段のSIRによる帯域通過フィルタの構成を説明したが、SIRの段数は3段に限らず、何段でもフィルタ回路を構成することができる。また、SIR間の結合パターンについては、
図5A〜
図5Dで示したような配置パターンを組合わせることが可能である。SIRの形状もループ形状に限らず、
図3や
図8のような直線形状のもの等任意の形状のものを組合わせることもできる。設計のしやすさ、製造のしやすさ、実装上の制約等により様々な組合せを選択することが可能である。本発明の両端短絡型SIRが小型であることを考慮すると、設計自由度の高い、小型の帯域通過フィルタを実現することが可能となる。
【0091】
図12は、本発明の両端短絡型SIRの多様な結合方式を実現できる特長を活かして、有極フィルタの一種であるクロスカップルフィルタを構成した例を示す図である。有極フィルタは、急峻な減衰特性が要求される場合に高い利用価値がある。
【0092】
図12に示すクロスカップルフィルタ120は、4個の略同一のSIR120a、120b、120c、120dからなる。クロスカップルフィルタ120を構成する第1のSIR120aは、長方形状の第1の伝送線路121aの長辺方向の両端に、長方形状の第2及び第3の伝送線路122a、123aがそれぞれ接続されている。第2及び第3の伝送線路122a、123aの他方の端は、短絡接地部124aであり、ビアを介して裏面接地パターン(図示せず)に接続される。先端開放型スタブによる容量性素子125aは、第1の伝送線路121aの中央部に接続されている。クロスカップルフィルタ120を構成する第2、第3及び第4のSIR120b、120c、120dは、第1のSIR120aと同じ構造及び特性となっている。ただし、後述するように、第3のSIR120cの第2の伝送線路122c及び第4のSIR120dの第3の伝送線路123dは、それぞれのSIRの容量性素子125c、125dの方向にそれぞれL字状に屈曲して配置されている。そして、第4のSIR120dの第2の伝送線路122dにタッピング結合により入力端子を磁界結合し、第3のSIR120cの第3の伝送線路123cにタッピング結合により出力端子を磁界結合している。
【0093】
第1のSIR120aは、その第1の伝送線路121aが第4のSIR120dの第1の伝送線路121dと略平行になるように離間距離126だけ離して隣接するように配置される。離間距離126により、第1及び第4のSIR120a、120dの結合度k14を制御する。
【0094】
第2のSIR120bは、その第3の伝送線路123bが第1のSIR120aの第2の伝送線路122aと略平行になるように離間距離127だけ離して隣接するように配置される。離間距離127により、第1及び第2のSIR120a、120bの結合度k12を制御する。
【0095】
第3のSIR120cは、その第1の伝送線路121cが第2のSIR120bの第1の伝送線路121bと略平行になるように離間距離128だけ離して隣接するように配置される。離間距離128により、第2及び第3のSIR120b、120cの結合度k23を制御する。
【0096】
第4のSIR120dは、その第3の伝送線路123dが第3のSIR120cの第2の伝送線路122cと略平行になるように離間距離129だけ離して隣接するように配置される。離間距離129により、第3及び第4のSIR120c、120dの結合度k34を制御する。
【0097】
そして、
図12に示す例では、第1〜第4のSIR120a〜120dは、格子状に配置される。
【0098】
結合度k12、k23、k34、k14は、離間距離126〜129を変えることにより適切な値に設計し、調整することができる。また、
図12に示すように、入力端子を有する第4のSIR120dと、出力端子を有する第3のSIR120cとの結合度k34を、他の結合度k14、k12、k23より弱くするために、それぞれの第3の伝送線路123d及び第2の伝送線路122cの短絡接地部である先端部を遠ざけるようにL字状に屈曲させている。このようにして結合度k34を調整することにより、減衰極の発生する位置を容易に制御することが可能である。
【0099】
なお、
図12の例では、入力及び出力のSIR間の結合度を調整して減衰極を発生させる位置を設定する方法を説明したが、入力及び出力のSIR間の結合度に限らず、クロスカップルフィルタを構成するSIRのうちの任意の2個のSIRの相互の結合度を調整することにより減衰極等フィルタ特性の設計をすることができる。
【0100】
また、
図12の例では、4個のSIRにより構成されるクロスカップルフィルタ120について述べたが、3個以上のSIRがあればクロスカップルフィルタを構成することができる。SIRの形状も
図12の例のような開いたループ形状に限らず、短絡接地部で接続された、
図1の例のような閉じたループ形状のSIRであってもよく、
図8のような直線形状のSIRであってももちろんよい。同一形状のSIRを複数用いる場合に限らず、異なる形状のSIRを組合わせて構成することももちろん可能である。さらに、クロスカップルフィルタを構成する容量性素子は、コンデンサのような集中定数素子であってもよく、スタブを利用した
図5のような分布定数素子であってもよく、可変容量ダイオードのような可変容量素子であってもよく、これらを組み合わせたものであってもよい。
【0101】
2−2.分波器
本発明の両端短絡型SIRにより構成された帯域通過フィルタを複数用いることにより、分波器又は送受信アンテナ共用器を実現することができる。なお、分波器と送受信アンテナ共用器とは、入出力される信号の方向により用途が異なるが、回路構成としては同一である。分波器は、複数の周波数成分を有する入力信号を通過帯域の異なるフィルタを通過させることで、入力信号に含まれていた異なる周波数成分の出力信号をそれぞれ出力するための回路である。一方、送受信アンテナ共用器は、無線機器等において異なる周波数を有する送信信号と受信信号とを1つのアンテナで送受信する回路であり、機器内で生成した送信信号を通過させてアンテナへ送信するフィルタと、アンテナから受信信号を通過させて受信して機器内の受信回路へ送るフィルタとからなる。以下、分波器として説明する。
【0102】
図13に示す分波器は、本発明のSIR130a、130b、130cを3段構成した、第1の共振周波数f1を有する第1の帯域通過フィルタ131と、本発明のSIR130d、130eを2段構成した、第2の共振周波数f2を有する第2の帯域通過フィルタ132とを備えている。そして、第1の帯域通過フィルタ131に磁界接合された第1の入力端子133と、第2の帯域通過フィルタ132に磁界結合された第2の入力端子134と、これらをタッピング結合により磁界結合した分波器130の入力端子135とを備えている。さらに、共振周波数f1に対応する出力信号を得るために、第1の帯域通過フィルタ131にT型スタブにより構成された結合容量136を介して電界結合した第1の出力端子137と、共振周波数f2に対応する出力信号を得るために、第2の帯域通過フィルタ132にタッピング結合により磁界結合した第2の出力端子138とを備える。
【0103】
周波数f1及びf2を含む入力信号が入力端子135から入力されると、第1の帯域通過フィルタ131を通り、周波数f1の出力信号が出力端子137から得られる。また、入力信号は、第2の帯域通過フィルタ132を通り、周波数f2の出力信号が出力端子138から得られる。
【0104】
以上の動作は、分波器としての動作であるが、送受信アンテナ共用器の場合は、次のような動作となる。
【0105】
送受信アンテナ(図示せず)を入力端子135に接続する。そして、出力端子137を送信信号入力として、周波数f1の信号を第1の帯域通過フィルタ131を通過させて送受信アンテナに送信する。一方、送受信アンテナで受信した受信信号は、第2の帯域通過フィルタ132を経由して出力端子138から周波数f2の受信信号として出力される。
【0106】
図13においては、2個の帯域通過フィルタの場合について述べたが、2個に限らず任意の数の帯域通過フィルタにより、対応する任意の周波数出力を得る分波器を構成することができる。また、分波器を構成する帯域通過フィルタも、
図11又は
図12の例に示すように、所定の設計条件に応じて、任意の個数、任意の形状の本発明のSIRを組み合わせることにより構成することが可能である。また、
図13の例に限らず、入力端子を構成するために、電界結合又は磁界結合のどちらでも用いることができ、出力端子を構成する場合においても、電界結合又は磁界結合のどちらでも用いることができる。
【0107】
2−3.平衡−不平衡変換器、電力分配器、不平衡−平衡変換器
本発明の両端短絡型SIRは、
図1等に示すように、第1の伝送線路の中央部を対称線とする線対称構造とすることができ、この対称構造を利用することにより平衡回路を容易に構成することができる。高周波回路では、半導体素子等が平衡回路で構成されていることが多く、これらとのインタフェースのためには、小型の平衡−不平衡変換器や不平衡−平衡変換器は非常に有用である。
【0108】
(1)平衡−不平衡変換器、電力分配器
図14は、本発明の両端短絡型SIRを用いた平衡−不平衡変換器の例を示したものである。
図1と同様に第1の伝送線路の中央部を対称線として線対称構造とすると、容易に平衡入力回路を構成することができる。
【0109】
図14の平衡−不平衡変換器は、
図1と同様の両端短絡型SIRを含んでいる。すなわち第1の伝送線路141と、第1の伝送線路141の一方の端に第2の伝送線路142が第1の伝送線路141の長手方向に対して略直角方向に接続される。また、第1の伝送線路141の他方の端に第3の伝送線路143が第1の伝送線路141の長手方向に対して略直角に接続される。第2の伝送線路142及び第3の伝送線路143は、「コ」の字状の形状をしており、第1の伝送線路141に接続された側と反対側で、第2の伝送線路142と第3の伝送線路143とが接続されて、短絡接地部144で電気的に短絡している。短絡接地部144は、ビア149を介して基板裏面一面に形成された接地部(図示せず)に接続される。第1及び第2の入力端子148a、148bは、タッピング結合により、第2及び第3の伝送線路142、143の短絡接地部144の近傍にそれぞれ磁界結合される。ここで、
図14の例では、第1及び第2の入力端子148a、148bは、短絡接地部144からそれぞれ等距離に配置することで電気的平衡を確保することができる。一般的には、第1及び第2の入力端子のそれぞれの結合点における磁界の強度が等しくなる点を選んで第1及び第2の入力端子を両端短絡型SIR140に結合する。
【0110】
出力端子147は、結合コンデンサ146を用いて、第1の伝送線路141の中央部に電界結合される。出力される信号は、不平衡信号である。
【0111】
次に、出力端子147から本発明の平衡−不平衡変換器を見ると、1/4波長型の一端開放他端短絡である同一の共振器が並列に接続されていることと等価である。したがって、
図14の例における出力端子147を入力として不平衡信号を入力すると、2つの入力端子148a、148bからは、逆位相の平衡信号ではなく同位相の信号が出力されるので、電力分配器として利用することができる。
【0112】
図14の例では、SIRの形状は、閉じたループ形状であるが、第2及び第3の伝送線路の短絡接地される端が同一層内で接続されていない開いたループ形状であってもよい。また、容量性素子は、集中定数素子に限らず、分布定数素子であってもよいのは上述と同様である。可変容量素子を用いれば、同調回路を構成できるのも上述同様である。
【0113】
(2)不平衡−平衡変換器
上述したとおり、
図14の回路に不平衡信号を入力しても、同位相の2つの信号が出力される電力分配器としてしか機能しない。そこで、本発明の両端短絡型SIRを用いて不平衡信号を入力し、平衡信号を出力する回路を実現するには、
図14の回路に位相調整機構を追加する必要がある。
図15は、本発明のSIRに位相調整機構を追加して不平衡−平衡変換器150を構成した例を示す図である。
【0114】
図15に示す不平衡−平衡変換器に含まれるSIRは、
図1と同様のSIRである。すなわち、第1の伝送線路151と、第1の伝送線路151の一方の端に第2の伝送線路152が第1の伝送線路151の長手方向に対して略直角方向に接続され、第1の伝送線路151の他方の端に第3の伝送線路153が第1の伝送線路151の長手方向に対して略直角に接続されたSIRである。SIRの第2及び第3の伝送線路152、153は、「コ」の字の形状をしており、第1の伝送線路151に接続された側と反対側の端で、第2及び第3の伝送線路152、153とが短絡接地部154で接続されて、電気的に短絡している。短絡接地部154において、第2及び第3の伝送線路152、153は、ビア159を介して基板裏面一面に形成された接地部(図示せず)に接続される。第2及び第3の伝送線路152、153と略平行に対向するように離間して、長方形状のそれぞれ第1及び第2の位相調整部156a、156bを配置する。第1の位相調整部156aの短絡接地部154に近い側の端は、ビア159を介して短絡接地部に接続される。第2の位相調整部156bの短絡接地部154からもっとも遠い端がビア159を介して短絡接地部154に接続される。第1及び第2の位相調整部156a、156bのビア159のない側の端にそれぞれ第1及び第2の出力端子157a、157bがタッピング結合により磁界結合される。不平衡入力のための入力端子は、第1の伝送線路151の中央部に結合コンデンサ158により電界結合される。
【0115】
上述したように、入力端子から電界結合により入力された入力信号は、並列接続された1/4波長型の一端開放他端短絡共振器を同位相の信号として励振して、第2及び第3の伝送線路153、154を通って、短絡接地部に到達する。ここで、第1及び第2の位相調整部156a、156bは、接地点をSIRの短絡接地部154の位置に対してそれぞれ反対の位置にあるので、第2及び第3の伝送線路を通過してきた同相信号は、第1及び第2の位相調整部156a、156bにおいて180°の位相変化をする。第1及び第2の位相調整部156a、156bの接地点を適切に選択することで、2つの信号の位相を180°変えることができ、平衡出力信号を得ることができる。
上述した不平衡−平衡変換器について、シミュレーション技術を用いてその動作を確認した。
図16には、シミュレーションに用いた回路を示す。
図16Aに示す回路は、
図15の構成とほぼ同じであるが、第1の伝送線路151の中央部に装荷する容量性素子155を、容量スタブとした点が相違する。
図16Aの回路に基づいて、
図16Bに示すような回路定数を設定してシミュレーション回路を構成しシミュレーションを実施した。
図16Bにおいては、Port1が入力端子158a、Port2が第1の出力端子、Port3が第2の出力端子に対応する。また、第1の伝送線路151、第2の伝送線路152及び第3の伝送線路153からなるステップインピーダンス共振器が第1の伝送線路151の中央部と短絡接地部とを結ぶ線を対称軸として線対称となることを利用して、シミュレーションのための回路定数を設定した。
図17Aに示すように、Port1からPort2への透過係数S21、Port1からPort3への透過係数S31は、ほぼ同一の周波数特性を示す。また、
図17Bに示すように、透過係数S21,S31の位相特性は、ほぼ180°の位相差を示しており、平衡信号が出力されていることが示される。
【0116】
図15の例では、SIRの形状は、閉じたループ形状であるが、第2及び第3の伝送線路の短絡接地される端が同一層内で接続されていない開いたループ形状であってもよい。また、容量性素子は、集中定数素子に限らず、分布定数素子であってもよいのは上述と同様である。可変容量素子を用いれば、同調回路を構成できるのも
図14等の例と同様である。
【0117】
なお、
図15に示すような不平衡−平衡変換器の入力と出力とを入れ替えれば、そのまま平衡−不平衡変換器として動作する。
【0118】
2−4.周波数混合器
図15の例に示したような不平衡−平衡変換器を用いると、高周波入力信号に局部発振信号を混合して中間周波信号を生成するミキサ回路を構成することができる。本発明のSIRを用いることで、設計自由度の高い小型のミキサ回路を実現できる。
【0119】
(1)シングルバランスドミキサ
図18は、高周波入力信号が不平衡信号である場合に用いられる、本発明のSIRを用いたシングルバランスドミキサ160を示した図である。
【0120】
シングルバランスドミキサ160は、不平衡信号である局部発振信号を入力する不平衡−平衡変換器160aと、局部発振信号と高周波信号とを検波し、混合する高周波混合部と、高周波信号を入力して高周波混合部に出力する高周波信号入力部165と、高周波混合部によって生成された中間周波信号を出力する中間周波信号出力部167とを備える。
【0121】
不平衡−平衡変換器160aは、局部発振器(図示せず)からの局部発振信号が入力される局部発振入力端子164と、第1及び第2の出力端子162a、162bとを備えている。第1及び第2の出力端子162a、162bから出力される同位相の信号は、第1及び第2の位相調整部161a、161bにより位相変換され180°位相の異なる平衡信号となる。高周波混合部は、第1及び第2のダイオード163a、163bからなる。不平衡−平衡変換器160aの第1の出力端子162aには、第1のダイオード163aのアノードがタッピング結合により磁界結合され、第2の出力端子162bには、第2のダイオード163bのカソードがタッピング結合により磁界結合される。第1のダイオードのカソードと第2のダイオードのアノードは互いに接続される。高周波信号入力部165は、不平衡信号である高周波信号を入力して高周波混合部に入力するための信号を生成する高域通過フィルタである。高周波信号入力部165は、第1のダイオードのアノードと第2のダイオードのカソードとの接続点に接続されて、高周波混合部に高周波信号を入力する。局部発振入力端子164から入力された局部発振信号と高周波信号入力端子166から入力された高周波信号とは、第1及び第2のダイオード163a、163bからなる高周波混合部で検波、混合されて、中間周波信号出力部167に送られて中間周波信号として中間周波信号出力端子168から出力される。中間周波信号出力部167は、低域通過フィルタである。
【0122】
図18の例では、SIRの形状は、閉じたループ形状であるが、第2及び第3の伝送線路の短絡接地される端が同一層内で接続されていない開いたループ形状であってもよい。また、容量性素子は、集中定数素子に限らず、分布定数素子であってもよいのは上述と同様である。可変容量素子を用いれば、同調回路を構成できるのも上述同様である。
【0123】
(2)ダブルバランスドミキサ
図19は、共振周波数の異なる本発明のSIRを用いた不平衡−平衡変換器を2個用いたダブルバランスドミキサ170の例を示す図である。局部発振信号を入力する第1の不平衡−平衡変換器170aは、
図18のものと同じである。そして、
図18の例における高周波信号入力部165を、第2の不平衡−平衡変換器170bに置き換えて、平衡入力される高周波信号に対応している。一般には、高周波信号の周波数と局部発振周波数との差分を中間周波信号の周波数とするから、第2の不平衡−平衡変換器170bの共振周波数は、第1の不平衡−平衡変換器170aの共振周波数より高い周波数に設定される。
【0124】
高周波混合部は、ブリッジ接続される第1〜第4のダイオード173〜176からなる。第1の不平衡−平衡変換器170aの第1の出力端子171aは、高周波混合部を構成する第1のダイオード173のカソード及び第2のダイオード174のアノードに接続される。第1の不平衡−平衡変換器170aの第2の出力端子172aは、高周波混合部を構成する第3のダイオード175のアノード及び第4のダイオード176のカソードに接続される。第2の不平衡−平衡変換器170bの第1の出力端子171bは、高周波混合部を構成する第1のダイオード173のアノード及び第3のダイオード175のカソードに接続される。第2の不平衡−平衡変換器170bの第2の出力端子172bは、高周波混合部を構成する第2のダイオード174のカソード及び第4のダイオード176のアノードに接続される。
【0125】
第1〜第4のダイオード173〜176からなる高周波混合部の出力は、第2のダイオード174のカソードと第4のダイオード176のアノードとの接続点から中間周波信号出力部177に入力されて、中間周波信号として出力端子178から出力される。中間周波信号出力部177は、
図18の例と同様に低域通過フィルタである。
【0126】
なお、
図19に示すように、第2の不平衡−平衡変換器170bの第1の出力端子171bは、第1の不平衡−平衡変換器170aの第2の出力端子172aとクロスオーバ部171cで交差するので、多層基板を利用して第2の不平衡−平衡変換器170bが形成される配線層を変える等により対応する必要がある。クロスオーバ部171cにおいて位相変化を生じないように、かつ出力信号の平衡を維持できるように配線長等留意する必要がある。
【0127】
図19の例では、SIRの形状は、閉じたループ形状であるが、第2及び第3の伝送線路の短絡接地される端が同一層内で接続されていない開いたループ形状であってもよい。また、容量性素子は、集中定数素子に限らず、分布定数素子であってもよいのは上述と同様である。可変容量素子を用いれば、同調回路を構成できるのも上述同様である。
【0128】
2−5.バランス型フィルタ
本発明のSIRを組合わせて、容易に平衡入力、平衡出力のバランス型フィルタを構成することができる。
【0129】
図20は、
図14に示したものと略同じ平衡−不平衡変換器180aと、
図15に示したものと略同じ不平衡−平衡変換器180bとを、電界結合により結合して構成したバランス型フィルタの例を示している。バランス型フィルタ180は、それぞれの第1の伝送線路181a、181bを略平行に対向して離間距離188だけ離して、平衡−不平衡変換器180aと不平衡−平衡変換器180bとを隣接するように配置することによる電界結合によって構成されている。
【0130】
バランス型フィルタ180は、第2及び第3の伝送線路にそれぞれタッピング結合された第1及び第2の入力端子182、183を有する平衡−不平衡変換器180aと、第1及び第2の位相調整部184、186にそれぞれ第1及び第2の出力端子185、187を有する不平衡−平衡変換器180bとを備える。平衡−不平衡変換器180aと不平衡−平衡変換器180bとの離間距離188により、結合度k12を調整することができる。結合度k12を調整することにより、フィルタの減衰特性を設計し、調整することができる。
【0131】
図18に示す例では、2段構成のフィルタであるが、平衡−不平衡変換器180aと不平衡−平衡変換器180bとの間にさらにSIRを挿入して多段構成にすることも可能である。すなわち平衡−不平衡変換器180aと不平衡−平衡変換器180bとの間に偶数個のSIRを挿入すれば、第1の伝送線路同士を電界結合させ、第2又は第3の伝送線路同士を磁界結合させることで、隣接するSIR、平衡−不平衡変換器180a及び不平衡−平衡変換器180bを順次結合し縦続接続することにより多段バランス型フィルタを構成することができる。
【0132】
このようにして、本発明のSIRを用いて、多段構成のバランス型フィルタを容易に構成することが可能である。小型にできる本発明のSIRの特長を活かして、小型で設計自由度の高い多段バランス型フィルタを実現できる。
【0133】
図20の例では、SIRの形状は、閉じたループ形状であるが、第2及び第3の伝送線路の短絡接地される端が同一層内で接続されていない開いたループ形状であってもよい。また、容量性素子は、集中定数素子に限らず、分布定数素子であってもよいのは上述と同様であり、可変容量素子を用いれば、同調回路を構成できるのも上述同様である。
【0134】
また、本発明のSIRを複数個用いて、電界結合と磁界結合とを繰り返して順次結合することによって、平衡入力かつ不平衡出力の多段フィルタを構成することもできる。
【0135】
図21は、このような平衡入力−不平衡出力の帯域通過フィルタを構成した場合の例を示した図である。平衡入力−不平衡入力の帯域通過フィルタを構成するためには、同じ共振周波数を有する奇数個のSIRが必要であり、
図21の場合には、3個のSIRを用いて帯域通過フィルタ190を構成している。
【0136】
第1の両端短絡型SIR190aの第2及び第3の伝送線路192a、192bには、短絡接地部から等距離にそれぞれ第1及び第2の入力端子がタッピング結合により磁界結合されている。第1の両端短絡型SIR190aの第1の伝送線路191aと、第2の両端短絡型SIR190bの第1の伝送線路191bとは、略平行に対向して離間距離198だけ離して、第1及び第2のSIR190a、190bを隣接するように配置されている。さらに、第2のSIR190bの第2及び第3の伝送線路192b、193bと、第3のSIR190cの第2及び第3の伝送線路192c、193cとは、略平行に対向して離間距離199だけ離して、第2及び第3のSIR190b、190cを隣接するように配置されている。出力端子は、第3のSIR190cの第1の伝送線路191cの中央部からコンデンサ196を介して電界結合され、不平衡出力を出力する。
【0137】
図21に示した例においては、3段構成の帯域通過フィルタであるが、第2のSIR190bと第3のSIR190cとの間にさらに偶数個のSIRを挿入して多段構成にすることももちろん可能である。
【0138】
なお、
図21の例では、SIRの形状は、閉じたループ形状であるが、第2及び第3の伝送線路の短絡接地される端が同一層内で接続されていない開いたループ形状であってもよい。また、容量性素子は、集中定数素子に限らず、分布定数素子であってもよいのは上述と同様であり、可変容量素子を用いれば、同調回路を構成できるのも上述同様である。
【0139】
このようにして、本発明のSIRの特長である、小型であること、SIRや外部回路の配置パターンにより容易に結合を制御できること、回路の対称性により容易に平衡回路が構成できることを最大限利用することにより、小型かつ設計の自由度の高い上述のような帯域通過フィルタ、分波器、平衡−不平衡変換器、電力分配器、不平衡−平衡変換器、周波数混合器及びバランス型フィルタ等各種高周波応用回路を実現できる。
【0140】
設計の自由度が高いということは、多様な周波数帯域での応用設計が可能であり、近年の無線装置で要求されているマルチバンド化への対応も容易である。
【0141】
また、本発明のSIR及び各種高周波応用回路は、平衡回路を採用した半導体デバイスとのインタフェースを考慮した場合に、平衡変換機能を内蔵したフィルタ構成を特別の回路の追加なく実現することができるので、MMIC化すれば1/4波長型共振器にも劣らない小型化も可能である。