(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の電解液層を有する空気電池では、電解液が蒸発又は揮発すると電池性能が著しく低下するという問題や、電極に設けた端子が腐食してしまうという問題がある。そのため、電解液の蒸発又は揮発を防いだり、電解液を適宜補充するという電解液の減少を防ぐ対策を講じなければならなかった。
【0006】
また近年、住宅などの建物では、太陽電池(太陽光発電パネル)を補助電源として利用することが進められている。しかし、太陽電池には、日当たりの良い屋根等に設置場所が限られたり、天気の良い日中にしか発電できないという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その主たる目的とするところは、空気電池について、電解液を減少させないための対策を不要としながらも安定した電池性能を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る空気電池は、負極活物質となる金属を含む負極と、上記負極の金属をイオン化させる電解質と導電性粒子とを含んだ固体状に形成されて酸素を正極活物質とする正極と、上記正極及び上記負極の間に介在されており、上記正極に含まれている電解質を上記負極へ透過させ且つ上記負極で生じた金属イオンを上記正極へ透過させるシート層とを備え
、上記シート層は、電解液を含んでおらず且つ吸湿性を有する材料によって構成されており、上記正極に含まれている電解質は、空気中の水分を吸収した上記シート層に浸透して上記負極へ移動可能になると共に、上記負極で生じた金属イオンは、空気中の水分を吸収した上記シート層に浸透して上記正極へ移動可能になっている。
【0009】
上記正極は、上記電解質及び上記導電性粒子が分散された固体状の樹脂によって構成されていることが望ましい。
【0010】
上記電解質は塩化ナトリウムであり、上記導電性粒子は炭素材料からなることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る建物は、壁の内部、床下、及び天井裏の少なくとも1つに空気電池が収容されている。そして、上記空気電池は、負極活物質となる金属を含む負極と、上記負極の金属をイオン化させる電解質と導電性粒子とを含んだ固体状に形成されて酸素を正極活物質とする正極と、上記正極及び上記負極の間に介在されており、上記正極に含まれている電解質を上記負極へ透過させ且つ上記負極で生じた金属イオンを上記正極へ透過させるシート層とを備え
、上記シート層は、電解液を含んでおらず且つ吸湿性を有する材料によって構成されており、上記正極に含まれている電解質は、空気中の水分を吸収した上記シート層に浸透して上記負極へ移動可能になると共に、上記負極で生じた金属イオンは、空気中の水分を吸収した上記シート層に浸透して上記正極へ移動可能になっている。
【0012】
上記正極は、上記電解質及び上記導電性粒子が分散された固体状の樹脂によって構成されていることが望ましい。
【0013】
上記電解質は塩化ナトリウムであり、上記導電性粒子は炭素材料からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る空気電池によれば、正極に含まれる電解質がシート層を透過して負極へ移動することにより、その電解質が負極の金属をイオン化させて電子を発生させることができる。負極で生じた金属イオンは、シート層を透過して正極へ移動すると共に正極内で導電性粒子を伝って移動することができる。正極では酸素が電子を受け取って金属イオンと反応する。こうして、空気電池により発電が行われる。
【0015】
このように、本発明に係る空気電池では、電解質が含まれた固体状の正極とシート層と負極とを備えており、電解液を有しない構成としたので、電解液を減少させないための対策を不要としながらも安定した電池性能を得ることができる。さらに、電解液を用いないので、空気電池の取り扱いが容易になる効果も得ることができる。しかも、正極と負極との間にシート層を介在させるという構成にしたので、空気電池の厚み大幅に薄くすることができる。その結果、空気電池を設置する場所の自由度を高めることができる。
【0016】
さらに、電解質及び導電性粒子を分散させた固体状の樹脂によって正極を構成すれば、電解質及び導電性粒子を含む正極を安定した形状で実現することができる。
【0017】
さらにまた、シート層が吸湿性を有していれば、シート層が空気中の水分を含むようになるので、正極の電解質を好適に負極へ移動させることができると共に、負極の金属イオンを好適に正極へ移動させることができる。特に、電解質を塩化ナトリウムとし、導電性粒子を炭素とすることによって、良好な電池性能を得ることができる。
【0018】
また、本発明に係る建物によれば、空気電池を備えることにより、太陽電池のように日当たりを考慮する必要がないので、建物に電池を設置できる範囲が広くなり、昼夜を問わず発電できるので1日当たりの発電量を大幅に増加させることができる。しかも、壁の内部、床下、及び天井裏というスペースを有効に利用して空気電池を収容したので、建物の見栄えや住空間を良好に確保しつつ十分な電力を得ることができる。
【0019】
特に、空気電池を正極と負極との間にシート層を介在させるという構成としたので、空気電池の厚みを薄くして大幅に小型化できる。そのため、空気電池を壁の内部、床下、又は天井裏に好適に設置することができる。しかも、電解液を用いないので、空気電池の維持管理が極めて容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
図1は、本実施形態における空気電池1の原理を模式的に示している。
図1に示すように、空気電池1は、酸素を正極活物質とする正極11と、負極活物質となる金属を含む負極12と、正極11及び負極12の間に介在されたシート層13とを備えている。シート層13は、正極11及び負極12のそれぞれに接触している。
【0023】
負極12に含まれる負極活物質としての金属は、例えばアルミニウムである。本実施形態では、矩形状のアルミニウム板によって負極12を構成した。負極12は、空気電池1による発電が進むにつれて厚みが減少していく。そのため、空気電池1を使用する期間に応じて厚みを設定すればよい。本実施形態では、負極12の厚みを例えば3mm程度とした。尚、負極12に含まれる金属は、アルミニウム以外にも例えばマグネシウムや金属リチウム等の他の金属であってもよい。
【0024】
正極11は、負極12の金属をイオン化させる電解質と導電性粒子とを含んだ固体状に形成されている。また、正極11は、上記電解質及び上記導電性粒子が分散された固体状の樹脂によって構成されている。
【0025】
正極11に含まれている導電性粒子は、負極12で生じた金属イオン及び電子を正極11内で移動可能にする。導電性粒子は、例えば活性炭の粒子である。この導電性粒子には、活性炭以外の炭素材料(例えばカーボンブラックやグラファイト等)利用することも可能である。しかし、正極11に酸素を取り入れやすくするためには、多孔質である活性炭を利用することが望ましい。また、金属等の他の導電性材料を上記導電性粒子としてもよい。
【0026】
正極11に含まれている電解質は、例えば塩化ナトリウムである。電解質としての塩化ナトリウムには、天然塩等の粒子が比較的粗い塩(粗塩)を用いることが望ましい。そのことにより、空気電池1の電池性能を高められることが本願発明者の実験により分かっている。すなわち、天然塩等の粗塩を用いると、負極12の金属の分解速度が速くなり、また負極12の全体を略均一に分解することができる。
【0027】
尚、電解質は、塩化ナトリウム以外にも、負極12の金属材料に応じてその金属材料をイオン化させやすい電解質を適用すればよい。
【0028】
正極11は、例えば塩化ビニル等の固体状の樹脂を基材としており、その樹脂には、電解質(塩化ナトリウム)と、導電性粒子(活性炭の粒子)とが分散して混合されている。正極11を構成する樹脂は、耐久性の高い材料が好ましく、塩化ビニル以外にもポリカーボネート等の他の合成樹脂であってもよい。正極11は、例えば矩形板状に形成されている。
【0029】
電解質(塩化ナトリウム)は、電池性能を高めるために、樹脂に対して3重量%以上且つ20重量%程度の範囲が適量であるが、5重量%前後が最適である。一方、導電性粒子としての活性炭は、電池性能を高めるために、樹脂に対して30重量%以上且つ60重量%程度の範囲が適量であるが、45重量%前後が最適である。
【0030】
尚、正極11には、還元反応を活性化させるための触媒を添加してもよい。また、正極11には、シート層13と反対側に導電板を設けて、この導電板に配線を接続するようにしてもよい。導電板の材質としては、例えば銅などの導電性のよい金属材料が好ましい。ただし、正極11への酸素の供給が阻害されないように、なるべく小さい面積の導電板とすることが望ましい。
【0031】
シート層13は、正極11に含まれている電解質を負極12へ透過させると共に、負極12で生じた金属イオンを正極11へ透過させるように構成されている。また、シート層13は、絶縁材料によって形成されている。
【0032】
例えば、シート層13は、紙や布等の吸湿性を有する材料によって形成することが可能である。シート層13の厚みは例えば0.5mm程度である。シート層13が吸湿性を有していれば、空気中の水分を吸収したシート層13に正極11の電解質が浸透し、その電解質が正極11から負極12へ移動可能となる。さらに、空気中の水分を吸収したシート層13に負極12で生じた金属イオンが浸透し、その金属イオンが負極12から正極11へ移動可能となる。
【0033】
シート層13は、紙や布以外の他の材料によって形成してもよい。例えば、塩化ビニル等の樹脂材料からなるシート材によって構成してもよい。この場合、樹脂のシート材には、例えば3重量%前後の電解質(塩化ナトリウム等)を分散して混合させておくことが望ましい。そのことにより、良好に電池反応を生じさせることができる。
【0034】
さらに、シート層13は、例えば紙、布及び樹脂等の各材料からなる場合であっても、複数の貫通孔(図示省略)を形成しておくことが望ましい。そのことにより、電解質及び金属イオンをより透過させやすくなるので、電池性能をより高めることができる。
【0035】
シート層13は、空気電池1の使用前において電解質を含んでいなくてもよい。しかしながら、シート層13は、正極11に含まれる電解質と同じ電解質を空気電池1の使用前から予め含んでいることが好ましい。そのことにより、空気電池1の使用開始直後から速やかに電解質を負極12へ供給して電池反応をスムーズに開始させることができる。
【0036】
予め電解質を含むシート層13は、例えば5重量%程度の電解質(塩化ナトリウム等)を含む水溶液に紙や布等からなるシート材を浸漬し、その後にシート材を乾燥させることによって作成できる。
【0037】
そして、上記空気電池1では、
図1に矢印Aで示すように、正極11に含まれる電解質(塩化ナトリウム)がシート層13を透過して負極12へ移動する。負極12へ到達した塩化ナトリウムは、負極12を構成している金属(アルミニウム)をイオン化させると共に、電子を発生させる。
【0038】
負極12で生じた電子は、
図1に矢印Bで示すように、正極11へ向かって配線14を流れる。一方、負極12で生じた金属イオン(アルミニウムイオン)は、
図1に矢印Cで示すように、シート層13を透過して正極11へ移動する。正極11に到達したアルミニウムイオンは、正極11に含まれている導電性粒子(活性炭)を伝って正極11内を移動する。そして、正極11周りにおける空気中の酸素が電子を受け取ってアルミニウムイオンと反応する。こうして、空気電池1により発電が行われる。
【0039】
ここで、
図2は、空気電池1を備えた建物10を模式的に示している。建物10は、
図3に示すように、地面21にベタ状に打設されたコンクリート層からなる基礎22と、外壁や間仕切り等の壁23と、床部24と、天井部25と、屋根部26とを有している。基礎22と床部24との間には、床下27が形成されている。また、天井部25と屋根部26との間には、天井裏28が形成されている。
【0040】
本実施形態における建物10には、壁23の内部、床下27、及び天井裏28に空気電池1が収容されている。
【0041】
建物10には、例えば、
図2に示される空気電池1のユニットが複数収容され、互いに接続されている。空気電池1は、1つのユニット当たりの出力が1Vである。このユニットを直列に接続することにより、所望の電圧を得ることができる。空気電池1のユニットは全体として矩形板状に形成されており、正極11、シート層13及び負極12の積層方向における厚みが例えば5mm程度である。また、空気電池1のユニットの大きさは、例えば、縦が75mm程度であり、横が14mm程度である。尚、空気電池1のユニットの寸法は、使用目的に応じて自在に変更することが可能である。
【0042】
空気電池1を1年間発電させると、アルミニウムの厚みは約0.1mm減少する。したがって、建物10の耐用年数を50年として想定すると、アルミニウムの厚みを約5mmとすることにより、この建物10において空気電池1を電源として50年間使用することができる。
【0043】
建物10の壁23は中空状に形成されており、その内部に空気電池1が収容されている。壁23には、その内部に空気を導入するための空気導入口(図示省略)が形成されている。また、床下27では、基礎22の上に空気電池1が設置されている。天井裏28では、天井部25の上に空気電池1が設置されている。
【0044】
このように、空気電池1を壁23の内部、床下27、及び天井裏28に収容することによって、建物10の室内や室外から空気電池1が視認されないようにしつつ、壁23の内部、床下27及び天井裏28におけるスペースを有効に利用することができる。
【0045】
ここで、
図3は、建物10における電力の制御を説明するためのブロック図である。建物10には、空気電池1を電源として適切に利用するための制御部31と、蓄電池32とが設けられている。制御部31は空気電池1に接続されており、蓄電池32は制御部31に接続されている。
【0046】
空気電池1は、周囲の空気中に含まれる酸素を利用して発電するので、昼夜を問わず、常時発電している。一方、建物10で使用される電力は、時間帯によって変動する。したがって、空気電池1によって発電される電力は、建物10で必要な電力に対して過不足が生じ得る。尚、一般的な家庭で必要な電力は、8〜12Kw/hといわれているが、近年、省エネルギー化が進められたことにより、その必要な電力の30%前後は低減している。本実施形態の建物10にも、LED照明等の省電力設備が設置されている。
【0047】
建物10で必要な電力が空気電池1の発電量を下回っている場合、制御部31は、空気電池1により発電された電力を建物10内の電気設備へ供給すると共に、余剰の電力を蓄電池32へ蓄電する。一方、建物10で必要な電力が空気電池1の発電量を上回っている場合、制御部31は、空気電池1により発電された電力を建物10内の電気設備へ供給すると共に、蓄電池32に蓄電されている電力を建物10内の電気設備へ供給する。このようにして、空気電池1により発電された電力を適切に利用することができる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の空気電池1によると、電解質が含まれた固体状の正極11とシート層13と負極12とを備えており、電解液を有しない構成としたので、電解液の蒸発や揮発を防止するための構造や、電解液を補充する構成等、電解液を減少させないための対策を不要としながらも安定した電池性能を得ることができる。また、正極11及び負極12に端子を設けた場合、上記空気電池1では電解液を用いないことから、その端子の腐食を防止することができる。さらに、電解液を用いないので、空気電池1の取り扱いが容易になる。
【0049】
しかも、正極11と負極12との間にシート層13を介在させるという構成にしたので、空気電池1の厚みを大幅に薄くすることができる。その結果、空気電池1を設置する場所の自由度を高めることができる。
【0050】
さらに、電解質及び導電性粒子を分散させた固体状の樹脂によって正極11を構成したので、電解質及び導電性粒子を含む正極11を安定した形状で実現することができる。特に、電解質を塩化ナトリウムとし、導電性粒子を炭素とすることによって、良好な電池性能を得ることができる。
【0051】
また、シート層13が吸湿性を有することにより、シート層13が空気中の水分を含むようになるので、正極11の電解質を好適に負極12へ移動させることができると共に、負極12の金属イオンを好適に正極11へ移動させることができる。また、シート層13が、当該空気電池1の使用前から予め電解質を含む構成とすることにより、空気電池1の使用開始直後から速やかに電解質を負極12へ供給して電池反応をスムーズに開始させることができる。
【0052】
また、本実施形態によると、建物10における壁23の内部、床下27、及び天井裏28に空気電池1を設置することにより、太陽電池のように日当たりを考慮する必要がないので、建物10に電池を設置できる範囲が広くなり、昼夜を問わず発電できるので1日当たりの発電量を大幅に増加させることができる。しかも、壁23の内部、床下27、及び天井裏28というスペースを有効に利用して空気電池1を収容したので、建物10の見栄えや住空間を良好に確保しつつ十分な電力を得ることができる。
【0053】
さらに、空気電池1の負極12に含まれる金属をアルミニウムとしたので、空気電池1を軽量化して、建物10の構造体に加わる負荷を軽減させることができる。特に、空気電池1を床下27の基礎22に固定すれば、空気電池1を支持するための補強が不要になる点、及び空気電池1を収容する容積を比較的大きく確保できる点で、好適である。
【0054】
また、空気電池1は、活性炭を含む正極11を有しているので、壁23、床下27、及び天井裏28に設置することによって、断熱効果及び消臭効果を得ることもできる。一方、空気電池1は、負極12としてのアルミニウム層を有しているので、携帯端末の電波を室内で確実に受信するためのアンテナを設置することが好ましい。
【0055】
尚、空気電池1は、壁23の内部、床下27、及び天井裏28の全てに収容する必要はなく、これらの少なくとも1つに収容すればよい。また、これら以外にも、建物10の外壁面や屋上等、若しくは建物10の外部に空気電池1を設置してもよい。
【0056】
本実施形態では、床下27に空気電池1を収容した例について説明したが、これに限らず、床部24の内部に空気電池1を収容するようにしてもよい。また、天井裏28に空気電池1を収容した例についても説明したが、これに限らず、天井部25の内部に空気電池1を収容してもよい。また、複数階を有する建物10では、下の階の天井部25と、上の階の床部24との間に空気電池1を収容すればよい。
【0057】
また、空気電池1の形状は、矩形板状以外にも、設置場所に応じて例えば円盤状や三角板状等の他の任意の形状とすることが可能である。
【0058】
また、以上の説明では空気電池1を建物10に設置した例について説明したが、これに限らず、例えば自動車、船、及び飛行機等のように内部空間を有する個体や移動体等に幅広く設置することができる。さらに、上記空気電池1を蓄電池として利用することも可能である。
【解決手段】空気電池1は、酸素を正極活物質とする正極11と、負極活物質となる金属を含む負極12と、正極11及び負極12の間に介在されたシート層13とを備えている。正極11は、負極12の金属をイオン化させる電解質と、導電性粒子とを含んだ固体状に形成されている。シート層13は、正極11に含まれている電解質を負極12へ透過させると共に、負極12で生じた金属イオンを正極11へ透過させるように構成されている。