(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、セリウム(Ce)、ニオブ(Nb)、スズ(Sn)、およびインジウム(In)からなる群より選択される1または複数の金属の金属酸化物前駆体を含む反応液を調製する工程と、
基材の表面に前記反応液を塗布し、前記金属酸化物前駆体を反応させ、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ニオブ、酸化スズ、および酸化インジウムからなる群より選択される1または複数からなり、電子絶縁性の非晶質の金属酸化物薄膜を形成する工程と、
前記金属酸化物薄膜に、1価、2価、または3価の金属イオンをドープする工程とを有することを特徴とする無機固体イオン伝導体の製造方法。
前記金属酸化物薄膜を、1価、2価、または3価の金属イオンの塩、金属錯体、および金属化合物のいずれかを含む金属イオン溶液と接触させることにより、前記金属酸化物薄膜中への前記金属イオンのドープを行うことを特徴とする請求項1または2記載の無機固体イオン伝導体の製造方法。
直流または交流電場を印加した状態で前記金属酸化物薄膜を前記金属イオン溶液と接触させ、前記金属酸化物薄膜中への前記金属イオンのドープを行うことを特徴とする請求項3記載の無機固体イオン伝導体の製造方法。
前記金属イオンが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)および鉄(Fe)からなる群より選択されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の無機固体イオン伝導体の製造方法。
前記金属イオンが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)および鉄(Fe)からなる群より選択される1または複数であることを特徴とする請求項9から12のいずれか1項記載の無機固体イオン伝導体。
【背景技術】
【0002】
電池は、可搬性を有する電気エネルギー源として広範囲への応用展開が期待されている。特に、リチウム二次電池は、高エネルギー密度で、小型、軽量であり、かつエネルギー変換効率に優れていることから、携帯型情報通信端末、電力貯蔵、電気自動車およびハイブリッド自動車等の様々な分野への応用に向けた研究開発が盛んに行われている。リチウム電池においては、正極と負極とを分離するリチウムイオン伝導相として、リチウム塩を極性有機溶媒に溶解した電解質液が用いられているが、有機溶媒を含んでいるため、安全性や安定性の問題を有している。そこで、高いリチウムイオン伝導性を有し、安定性に優れた無機固体電解質が注目を集めている。また、リチウムイオン以外のイオン伝導性を示す無機固体電解質についても、二次電池、燃料電池、ガスセンサー等の構成材料として、盛んに研究がなされている。
【0003】
イオン伝導性を示す無機固体としては、β−アルミナ、α−ヨウ化銀、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)等が知られている。しかし、これらはいずれも数百度以上の高温域でのみイオン伝導性を示すため、室温での使用が前提となる携帯型情報通信端末等の応用には適していない。そのため、無機固体電解質の研究開発においては、より低い温度でのイオン伝導性の発現が重要な課題となっている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、N−ビニルピロリドン(NVP)で被覆したヨウ化銀ナノ粒子を合成し、その粒径を制御することにより、α−ヨウ化銀の相転移挙動を制御することが可能になり、室温付近で10
−2S・cm
−1オーダーのイオン伝導度を達成できることが記載されている。
【0005】
特許文献1には、主結晶相がLi
1+x+yAl
xTi
2−xSi
yP
3−yO
12(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1)であるリチウムイオン伝導性の結晶を含む無機物質を含有し、有機物、電解液を含まないことを特徴とする固体電解質およびそれを用いた全固体型リチウムイオン電池が開示されている。
【0006】
特許文献2には、固体電解質層が、リン酸リチウム(Li
3PO
4)、リン酸リチウムの酸素を窒素で一部置換したリン酸リチウムオキシナイトライドガラス(LiPON)、TaとNbのいずれかあるいは両方の遷移金属およびLiとNを含む複合酸化物のうちの一つである薄膜固体二次電池が開示されている。
【0007】
特許文献3には、結晶化を行なう熱処理において、結晶化開始温度の昇温速度を5℃/h〜50℃/hとすることにより、化学的にも安定で、リチウムイオンの伝導を阻害するような空孔が無く、高いリチウムイオン伝導性を示すガラスセラミックスを高い歩留まりで安定して得ることができるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法が開示されている。
【0008】
特許文献4〜6には、出発原料として、硫化リチウムと、五硫化リン、単体リン及び単体イオウから選ばれる一種以上を含む原料を用い、メカニカルミリングによりガラス化させたLi
2S−P
2S
5系リチウムイオン伝導性硫化物ガラスの製造方法、それをさらにガラス転移温度以上の温度で焼成するリチウムイオン伝導性硫化物ガラスセラミックスの製造方法、およびそれらの方法により得られたリチウムイオン伝導性硫化物ガラスまたはガラスセラミックスを用いた全固体型電池が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、非特許文献1記載のポリマーコートされたα−ヨウ化銀ナノ粒子は、高価な銀を原料としているため製造コストが高く、ポリマーコート層を含んでいるため、耐久性の点で無機材料のみからなる無機固体電解質に劣っている。
【0012】
特許文献1記載の固体電解質および特許文献2記載の薄膜固体二次電池に用いられている固体電解質層は、共に複雑な組成を有し、高価な原料を含んでいると共に、特に薄膜化のために緻密な固体電解質を製造するためには高温での焼成を必要とするため、製造コストが高くなる。
【0013】
特許文献3記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスは、加熱条件の制御が困難であると共に、結晶化開始温度付近での昇温速度を小さくするため、熱処理に長い時間を要し、生産性の点で問題を有している。
【0014】
特許文献4〜6記載のリチウムイオン伝導性硫化物ガラスまたはガラスセラミックスは、室温で10
−3S・cm
−1オーダーの高いリチウムイオン伝導性を示すが、硫化物系材料には、緻密な構造体作製や薄膜化が困難であること、水との反応で劣化しやすいこと、および硫化水素ガスの発生などの問題がある。
【0015】
また、エネルギー密度が高く、小型軽量化に適した電池として、1個のイオンで複数個の電荷を移動させることができる多価イオン電池が注目を集めている。全固体型多価イオン電池の実現のためには、リチウムや銀以外の多価金属イオンについて室温で高い伝導性を有する無機固体電解質の開発が重要であるが、上記の無機固体電解質において、金属イオンを多価金属イオンに置換すると結晶構造が変化するため、イオン伝導性を示さなくなると思われることから、上記先行技術文献に記載の技術を直接多価金属イオン伝導体の開発に適用することは著しく困難である。
【0016】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、種々の金属イオンについて室温で高いイオン伝導性を示し、安価かつ簡便に製造可能な無機固体イオン伝導体とその製造方法および電気化学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の態様は、下記の(1)〜(8)のいずれかに記載の無機固体イオン伝導体の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
(1) ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、セリウム(Ce)、ニオブ(Nb)、スズ(Sn)、およびインジウム(In)からなる群より選択される1または複数の金属の金属酸化物前駆体を含む反応液を調製する工程と、
基材の表面に前記反応液を塗布し、前記金属酸化物前駆体を反応させ、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ニオブ、酸化スズ、および酸化インジウムからなる群より選択される1または複数からなり、電子絶縁性の非晶質の金属酸化物薄膜を形成する工程と、
前記金属酸化物薄膜に、1価、2価、または3価の金属イオンをドープする工程とを有する無機固体イオン伝導体の製造方法。
(2) 前記反応液が、リン酸、リン酸エステルまたはリン酸誘導体をさらに含む上記(1)記載の無機固体イオン伝導体の製造方法。
(3) 前記金属酸化物薄膜を、1価、2価、または3価の金属イオンの塩、金属錯体、および金属化合物のいずれかを含む金属イオン溶液と接触させることにより、前記金属酸化物薄膜中への前記金属イオンのドープを行う上記(1)または(2)記載の無機固体イオン伝導体の製造方法。
(4) 直流または交流電場を印加した状態で前記金属酸化物薄膜を前記金属イオン溶液と接触させ、前記金属酸化物薄膜中への前記金属イオンのドープを行う上記(1)から(3)のいずれか1項記載の無機固体イオン伝導体の製造方法。
(5) 前記金属酸化物前駆体が金属アルコキシドである上記(1)から(4
)のいずれか1項記載の無機固体イオン伝導体の製造方法。
(6) 前記第1の反応液が、・アルミニウムトリアルコキシド、・テトラアルコキシシラン、・シランテトライソシアネート、・テトラアルコキシシランおよびアルミニウムトリアルコキシド、ならびに・ジルコニウムテトラアルコキシドおよびリン酸のいずれかを含む上記(5)記載の無機固体イオン伝導体の製造方法。
【0018】
(7) 前記金属酸化物の形成を前記金属酸化物の縮合反応により行う上記(1)から(6)のいずれか1項記載の無機固体イオン伝導体の製造方法。
(8) 前記金属イオンが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)および鉄(Fe)からなる群より選択される上記(1)から(7)のいずれか1項記載の無機固体イオン伝導体の製造方法。
【0019】
本発明の第2の態様は、下記の(9)〜(13)のいずれかに記載の無機固体イオン伝導体を提供することにより上記課題を解決するものである。
(9) 上記(1)から(7)のいずれか1項記載の方法により製造され、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ニオブ、酸化スズ、および酸化インジウムからなる群より選択される1または複数を含み、電子絶縁性の非晶質の金属酸化物と、前記金属酸化物中にドープされた1価、2価、または3価の金属イオンとを含み、25℃において1×10
−7S・cm
−1以上のイオン伝導度を有する無機固体イオン伝導体。
(10) 25℃におけるイオン伝導度が1×10
−6S・cm
−1以上である上記(9)記載の無機固体イオン伝導体。
(11) 金属イオン伝導についての面積比抵抗が30Ω・cm
2以下である上記(9)または(10)記載の無機固体イオン伝導体。
(12) 前記金属酸化物が、
・酸化アルミニウム、
・酸化ケイ素、
・アルミノシリケート、および
・酸化ジルコニウム−リン酸のいずれかである上記(9)から(11)のいずれか1項記載の無機固体イオン伝導体。
(13) 前記金属イオンが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)および鉄(Fe)からなる群より選択される1または複数である上記(9)から(12)のいずれか1項記載の無機固体イオン伝導体。
【0020】
本発明の第3の態様は、下記の(14)記載の電気化学デバイスを提供することにより上記課題を解決するものである。
(14) 上記(9)から(13)のいずれか1項記載の無機固体イオン伝導体を含む電気化学デバイス。
【発明の効果】
【0021】
本発明の無機固体イオン伝導体は、マトリックスである金属酸化物および電荷の担い手である金属イオンを含む多様な材料を用いることができると共に、いずれの材料についてもシンプルな方法により製造可能である。以上述べたような理由から、本発明によると、リチウムのみならず、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンおよび鉄等の多価イオンを含む種々の金属イオンについて室温で高いイオン伝導性を示し、安価かつ簡便に製造可能な無機固体イオン伝導体が提供される。本発明の無機固体イオン伝導体は、金属酸素架橋ネットワークを基本構造としているため、ボイドやピンホールを形成しやすい粒界を含まない薄膜を形成でき、電子伝導による短絡をきわめて起こしにくいと共に、薄膜化によるイオン伝導度の向上も容易に行うことができる。そのため、全固体型電池の電解質膜として好適に用いることができる。
【0022】
また、本発明によると、上記のような特徴を有する無機固体イオン伝導体を安価に製造できる無機固体イオン伝導体の製造方法が提供される。固体電解質膜の形成に湿式法を用いるため、高価な真空装置が不要であると共に、大面積化も容易に行うことができる。また、膜厚の制御も容易であるため、金属酸化物や金属イオンの選択以外に膜厚によってもイオン伝導性能を制御でき、幅広い用途に適用可能である。
【0023】
さらに、本発明によると、安全性、信頼性および耐久性の面で優れた、電池、センサー等の電気化学デバイスが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の第1の実施の形態に係る無機固体イオン伝導体は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ニオブ、酸化スズ、および酸化インジウムからなる群より選択される1または複数を含み、電子絶縁性の非晶質の金属酸化物と、金属酸化物中に含有された1価、2価、または3価の金属イオンとを含み、25℃(室温)において1×10
−7S・cm
−1以上のイオン伝導度を有する。
【0026】
非晶質の金属酸化物が「電子絶縁性」であるとは、自由電子を有しておらず、かつ、ホッピング伝導等による電子伝導性を有しておらず、例えば、電子伝導性抵抗値が1MΩ以上であることをいう。なお、無機固体イオン伝導体における電気伝導に対する金属イオン伝導および電子伝導の寄与は、交流インピーダンス法におけるインピーダンスの周波数依存性や、インピーダンスの金属イオンをドープする際の金属イオン溶液の濃度に対する依存性を検討することにより見積もることができる。
【0027】
1.金属酸化物
無機固体イオン伝導体を構成する無機酸化物は、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン(チタニア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化セリウム(セリア)、酸化ニオブ、酸化スズ、および酸化インジウムからなる群より選択される1または複数からなる非晶質の金属酸化物であり、好ましくは、(a)シリカ、(b)ジルコニア、および(c)酸化ケイ素および酸化アルミニウムからなるアルミノシリケートのいずれかである。このうち、(c)のアルミノシリケートにおいて、SiとAlのモル比は、0.1:99.9〜99.9:0.1、好ましくは60:40〜95:5である。金属酸化物は、緻密な非晶質の薄膜を形成し、室温においても、後述する金属イオンを高いイオン伝導で伝導させるが、プロトン等の他のイオンの伝導や分子の透過および電子伝導を阻害することにより、厚さが数nmオーダーの薄膜においても高い絶縁性を保持し、短絡による電気化学デバイスの破損等を防止しつつ、所望の金属イオンに対しては高いイオン伝導性を発揮させる上で非常に重要な役割を果たす。
【0028】
2.金属イオン
無機固体イオン伝導体において、イオン伝導の担い手となる金属イオンは、1価、2価、または3価の金属イオンであり、上記の無機酸化物中でイオン伝導可能なものであれば特に限定されないが、入手の容易さ等の観点からみて好ましい具体例としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等のアルカリ金属(1価)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属(2価)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)等が挙げられ、特に好ましいのは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)および鉄(Fe)である。
【0029】
金属イオンが、どのような形で金属酸化物中に存在し、どのような機構でイオン伝導が行われているかについては必ずしも明らかではないが、電子顕微鏡で見る限りにおいて、最外層の無機固体イオン伝導体は均一かつ緻密な非晶質を形成していること(例えば、
図1〜4参照)等から、金属イオンは、nmレベルの非晶質のマイクロドメインに含まれ、これらが連続的なチャンネルを形成し、金属イオンは、これらを通して無機固体イオン伝導体内を移動していると推定される。
【0030】
無機固体イオン伝導体は、幅広い膜厚の範囲で金属イオンのみを伝導させ、かつ電子伝導を阻害できるため、幅広い膜厚の範囲で使用できる。無機固体イオン伝導体の膜厚は、例えば、5nm〜1.0μmとすることができ、特に充放電速度を大きくする必要がある場合には、100nm以下の厚さ、特に、10nm以下とすることができる。従来の結晶性セラミックからなる電解質膜は通常数十nm以上の結晶粒子からなっているため、5μm以下の厚さとすることができなかったが、無機固体イオン伝導体に用いられる非晶性材料は、この点を回避できる点で極めて有意である。
一方、ペースメーカー用電源等のように、充放電速度を高くする必要はないが、長時間にわたって放電可能なようにエネルギー密度を向上させる必要がある場合には、膜厚を上記範囲よりも大きくしてもよい。
【0031】
無機固体イオン伝導体は、緻密な非晶質材料からなる無機酸化物を含んでいるため、膜厚を小さくしても電子伝導による短絡を抑制できるため、イオン伝導度を向上させることができる。
【0032】
本発明において、「非晶質材料」には、非晶質(アモルファス)材料以外のものが全く含まれていないもの以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、非晶質材料以外の成分を含んでいるものも含まれる。非晶質材料以外の成分としては、例えば、製造工程で混入する不純物等が挙げられる。また、無機固体イオン伝導体は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、結晶構造を含んでいてもよい。この場合の結晶構造は、非晶質材料の体積全体の、例えば20%以下、より好ましくは10%以下である。
【0033】
無機固体イオン伝導体は、イオン伝導性を有している。本発明において、「イオン伝導性」とは、外部電場または化学ポテンシャルにより金属イオンのみを伝導させ、電子またはその他のイオンの伝導および分子の透過を起こさないことをいう。
【0034】
無機固体イオン伝導体のイオン伝導度は、室温(25℃)において、1×10
−7S・cm
−1以上であることが好ましく、1×10
−6S・cm
−1以上であることがより好ましい。
【0035】
さらに無機固体イオン伝導体の面積比抵抗値(ASR:上記イオン伝導データと無機固体イオン伝導体の膜厚より評価できる)を30Ω・cm
2以下とすることができる。この中でも、作動温度−30〜300℃、好ましくは作動温度0〜100℃において、面積比抵抗値が上記値であることがより好ましい。面積比抵抗値がこのように小さいと、イオン輸送効率が上昇し、例えば、全固体型リチウムイオン電池等の電気化学デバイスにおける電解質膜としての性能が向上するという利点がある。このように実用性の高い無機固体イオン伝導体は、従来得られなかったものである。
【0036】
アモルファス金属酸化物を主要な素材として、金属イオン伝導性かつ電子絶縁性を有する無機固体イオン伝導体を開発するための基本的な考え方(方法論)は、マトリックス材料であるアモルファス金属酸化物中に、所望の金属イオン(以下「金属イオン」と略す)を導入する、というものである。マトリックス材料に金属イオンを導入する方法は以下のとおりである。金属イオンの導入方法によって、予め金属イオンをマトリックス前駆体材料に混合し、一体製膜する方法(プレドープ方式)と製膜済みのマトリックス材料に何らかの方法であとから導入するする方法(ポストドープ方式)の二つに大別できるが、本発明の無機固体イオン伝導体の製造方法では、後者のアプローチを用いている。
【0037】
1.プレドープ方式
(1)予混合前駆体方式
これは、電解質膜前駆体とLi等上述の金属含有化合物(金属塩、金属錯体、あるいは他の金属化合物)を予混合して前駆体溶液を作成し、それをスピンコーティングなどのやり方でナノ膜化する単純な方法である。本特許に記載しているようなシリカ、アルミノシリケート、酸化ジルコニウム等さまざまな金属酸化物がマトリックスとして適切である。それらの溶液に伝導機能の対象となる金属イオン(Li、Mg等)などを生成する金属塩、金属キレート、金属化合物の溶液を加えてから薄膜化することにより、金属イオン伝導性を示すナノ薄膜が得られる。前駆体濃度を調整したりスピンコーティング法を繰り返したりすることにより、所定厚みのナノ薄膜を作成することができる。
【0038】
(2)逐次積層法
上記の前駆体法において、前駆体と金属イオン含有化合物の両成分を含む均一溶液を作成できない場合(両成分の混合によって沈殿が生じたり不均一になったりする場合やそれぞれの溶液成分が異なり均一な混合溶液を得ることができない場合など)、それぞれの成分の溶液を独立に膜化し必要に応じて組み合わせる方法が有効である。それぞれの膜層がナノメートルオーダーの厚みであれば、後処理の過程で進行する拡散のために一様な膜に近くなる。
【0039】
2.ポストドープ方式
(1)イオン交換法
中温型燃料電池用として適切な機能を持つプロトン伝導膜が、広範な金属酸化物から作成出来ることを、本発明者らは既に報告している(Efficient Proton Conductivity of Gas-Tight Nanomembranes of
Silica-Based Double Oxides Yoshitaka Aoki, Emi Muto, Aiko Nakao, Toyoki
Kunitake: Adv. Mater, 2008, 20, 23, 4387を参照。)。
すなわち、4価の金属を一部3価の金属に置き換えた複合酸化物中には、活性なプロトンが含まれ、これらのナノ膜は中温領域で実用性のある燃料電池用電解質膜として有効である。これらのプロトンを電気化学的方法や中和によりLiなどの金属イオンと交換すれば、優れた金属イオン伝導膜が得られる。
イオン交換法による金属酸化物薄膜への金属イオンのドープは、直流または交流電場を印加した状態で金属酸化物薄膜を金属イオン溶液と接触させることによって行ってもよい。金属イオンの一例として、Liイオンを含む正極上にこの膜を塗布し、Liイオン含有電解質液中でCV(サイクリック・ボルタンメトリー)測定を繰り返すと、Liイオンがアルミノシリケート膜にドープされ、電位の変化に応じて速やかに透過することを確認できる。
【0040】
また他の金属イオン伝導を考えた場合、それに対応するイオン伝導可能なサイトがマトリックス内に適切に存在すればよい。上述アルミノシリケートでは、活性なプロトンサイトが存在するが、例えばシリケートだけの組成でも、他のシリコン原子と結合をしていないシラノール酸素(ヒドロキシル基およびその水素イオン解離体)が存在すれば、上述と同様に金属イオン導入が可能となり、金属イオン伝導性が発現可能である。
【0041】
また、イオン交換法による金属イオンの導入は、固相で行うこともできる。例えば、導入したい金属の塩(ハロゲン化物塩、硝酸塩、硫酸塩等が挙げられるがこれらに制限されない。)の板状の結晶(単結晶でもよいが、粉末を圧縮成形したペレット等でもよい。)の上で金属酸化物前駆体から金属酸化物を形成し、形成された金属酸化物の内部に界面から拡散した金属イオンを導入させるようにしてもよい。この場合、金属酸化物に接触している塩が水溶性の場合には、ドープの完了後、水洗して金属塩の結晶を溶かし去ることにより、無機固体イオン伝導体を得ることができる。
【0042】
(2)物理ドープ法
またマトリックスにドープする方法は、上記のような化学的なプロセスだけにとどまらない。例えばイオンビームなどの方式によって物理的にマトリックスに打ち込む(注入する)方式もある。半導体製造プロセスで使われているような、イオン注入方式などはその一例である。この方式によれば、ある程度の表面厚さまでは、製膜後に所望の金属イオンを導入可能である。
【0043】
以下、ポストドープ方式(イオン交換法)を用いた本発明の無機固体イオン伝導体の製造方法の実施形態について説明する。
【0044】
本発明の第2の実施の形態に係る無機固体イオン伝導体の製造方法は、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、セリウム(Ce)、ニオブ(Nb)、スズ(Sn)、およびインジウム(In)からなる群より選択される1または複数の金属の金属酸化物前駆体を含む反応液を調製する工程と、基材の表面に反応液を塗布し、金属酸化物前駆体を反応させ、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ニオブ、酸化スズ、および酸化インジウムからなる群より選択される1または複数を含み、電子絶縁性の非晶質の金属酸化物薄膜を形成する工程と、金属酸化物薄膜に、1価、2価、または3価の金属イオンをドープする工程とを有する。
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0045】
1.基材
反応液を塗布する基材は無機固体イオン伝導体を含む電気化学デバイスの構成部材、あるいは電気化学デバイスの機械的強度を維持するための支持体であってもよいが、無機固体イオン伝導体を製造する際の「鋳型」または「土台」として用いられ、無機固体イオン伝導体の製造後は破壊または除去されるものであってもよい。基材の具体例としては、銅、銀、金、アルミニウム等の金属、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等のカーボン材料、ITOガラス等の無機導電体、電極活物質もしくは電極活物質と導電性材料との複合材料等の、電池の正極または負極、あるいはガスセンサーの集電体や参照極に用いられる材料等が挙げられる。また、基材は導電性を有しない材料からなるものであってもよく、その具体例としては、有機または無機ポリマー、織物、不織布等の布帛等が挙げられる。
【0046】
2.反応液
反応液の調製に用いることができる溶媒としては、金属酸化物前駆体を溶解可能な任意の溶媒を用いることができる。用いられる溶媒は1種類の溶媒のみであってもよいが、任意の2種類以上の溶媒を混和可能な範囲内で任意の割合で混合した混合溶媒であってもよく、金属酸化物前駆体の溶解度、価格、入手の容易性、安全性等の観点から適宜選択される。溶媒の具体例としては、アルコール系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、アセトン、2−ブタノン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ポリエチレングリコール系溶媒、酢酸エチル、乳酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のエステル系溶媒等が挙げられる。
【0047】
ここで、金属酸化物前駆体とは、加水分解後に金属酸化物となる任意の化合物をいう。金属酸化物の一例であるシリカの前駆体としては、具体的には、アルコキシシラン、ハロゲン化シラン、水ガラスおよびシランイソシアネートが好ましく、ゾル−ゲル法等の縮合反応を採用する場合にはアルコキシシランがより好ましい。
【0048】
アルコキシシランとしては、テトラアルコキシシランが好ましく、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、トリブトキシシラノール、メチルトリエトキシシランがより好ましい。また、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ニオブ、酸化スズ、または酸化インジウムを用いる場合も、ぞれぞれ、対応する金属を含有するハロゲン化物またはアルコキシ化合物を採用することが好ましい。
【0049】
アルコキシシラン以外の金属アルコキシドの具体例としては、Ce(OC
2H
4OCH
3)
3、Zr(OC
4H
9)
4、Al(OCH(CH
3)
2)
3、Ti(OC
4H
9)
4、Sn(OC
4H
9)
4、Nb(OC
2H
5)
5、In(OC
2H
5)
3等が挙げられる。ハロゲン化金属化合物としては、具体的には、CeCl
3、ZrCl
4、TiCl
4、AlCl
3、NbCl
5、SnCl
4、InCl
3等が挙げられる。
【0050】
リン酸、リンエステルまたはリン酸誘導体の具体例としては、オルトリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、五酸化二リン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、オキシ塩化リン、オキシ臭化リン等が挙げられる。
【0051】
上述のとおり、反応液に添加される金属化合物の具体例としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等のアルカリ金属、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)等の化合物が挙げられ、特に好ましいのは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)および鉄(Fe)の化合物である。金属イオン源の具体例としては、これらの金属のハロゲン化物塩、硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、過塩素酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、金属アルコキシド、酢酸塩等の金属塩、金属錯体、有機および無機金属化合物等が挙げられる。
【0052】
金属酸化物前駆体を含む反応液の調製は、金属酸化物前駆体を溶媒に加えることにより調製してもよい。金属酸化物の生成をゾル−ゲル法により行う場合には、金属酸化物前駆体の加水分解およびゾルの生成を促進するために酸を加えてもよい。加える酸は、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸であっても、カルボン酸、アルカンスルホン酸等の有機酸のいずれであってもよく、酸を溶液に加えるタイミングについても特に制限されない。
【0053】
このようにして得られた反応液を基材の表面に薄層状に塗布し、塗膜に含まれる金属酸化物前駆体を加水分解して、好ましくはゾル−ゲル法により反応させることにより形成される。必要に応じて焼成を行ってもよく、さらに必要に応じて焼成後の無機固体イオン伝導体をアニーリング処理してもよい。塗布および焼成ならびにアニーリング処理は、必要に応じて複数回反復してもよい。
【0054】
基材上への反応液の塗布方法としては、スピンコーティング法、ディップコーティング法、スプレーコーティング法等の公知の方法を採用できる。スピンコーティング法を採用することにより、塗布の回数が制御でき、膜厚を調整できるため好ましい。さらに、本発明では、薄層を積層した積層体であることが好ましい。このような構成とすることにより、膜がより均一に作製されて電子絶縁性が向上し、イオン伝導性に優れた、薄膜状の無機固体イオン伝導体が得られる。
【0055】
加水分解の具体的な方法および反応条件は、それにより金属酸化物前駆体を金属酸化物とし、該金属酸化物中に金属イオンが導入されうる限り特に定めるものではない。例えば、反応液を吸着させた固体を水蒸気処理、水処理または湿潤空気中で加熱処理してもよい。この場合の水は、不純物等の混入を防止し、高純度の反応液からなる無機固体イオン伝導体を形成するために、イオン交換水を用いることが好ましい。
【0056】
加水分解後、必要により、窒素ガス等の乾燥用ガスにより表面を乾燥させてもよい。さらに、酸や塩基などの触媒を用いることで、これらの工程に必要な時間を大幅に短縮することも可能である。
【0057】
焼成を行う場合、100〜500℃で、10秒〜24時間行うことが好ましく、大気中であってもよいが、必要に応じて不活性雰囲気中で焼成を行ってもよい。
【0058】
無機固体イオン伝導体は、上述のとおり、均一で緻密な膜状のものとすることができ(以下、「伝導性膜」ということがある)、各種電気化学デバイスの電解質膜として用いることができる。
【0059】
金属酸化物薄膜に、1価、2価、または3価の金属イオンをドープする工程については、例えば、金属酸化物薄膜を、1価、2価、または3価の金属イオンの塩、金属錯体、および金属化合物のいずれかを含む金属イオン溶液と接触させることにより行うことができる。なお、金属イオンのドープには、電位勾配を利用する電気化学的方法を単独で、あるいは金属イオンの濃度勾配を利用する方法と組み合わせて用いてもよい。
【0060】
無機固体イオン伝導体を用いる電気化学デバイスは、金属イオン伝導性を有するが電子伝導性を有しない固体薄膜が用いられる限りにおいて特に限定されないが、全固体型リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、センサ等が挙げられる。電気化学デバイスが、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等の場合には、これらのデバイスに用いられる電解液がイオン溶液を兼ねるようにすることもできる。
【実施例】
【0061】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
【0062】
1.イオン伝導体膜前駆体溶液の調製
(1)シラン前駆体溶液
テトラエトキシラン(TEOS)(0.49g)を1−プロパノール(7.5mL)に溶解させた。さらにこれに塩酸(1N、85.5μL)を加え、室温で1時間撹拌して溶液を調製した。これをシラン前駆体溶液とした。
上記操作で作製されたシラン前駆体溶液を、50℃で1時間加熱撹拌した。その後、この溶液をセルロースアセテートフィルター(フィルター孔径:0.2μm)でろ過し、ろ液に1−プロパノールを加え、全体として50mLになるように希釈した。
【0063】
(2)ジルコニウム前駆体溶液
2−メトキシエタノール20mLに、ジルコニウムテトラn−ブトキシド(0.42mL)を加え溶解させた。これを室温で1時間撹拌して溶液を調製した。これをジルコニウム前駆体溶液とした。上記操作で作製されたジルコニウム前駆体溶液を、50℃で1時間加熱撹拌した。その後、この混合溶液をセルロースアセテートフィルター(フィルター孔径:0.2μm)でろ過した。
【0064】
(3)Al−Si混合前駆体溶液
Al−Si混合前駆体溶液は以下の操作によって調製した。まず、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド(0.3g)にクロロホルムを10mL加え、軽く振とう後、1分間超音波照射して溶液を調製した。これをアルミニウム溶液とした。
これとは別にテトラエトキシラン(0.49g)を1−プロパノールに7.5mLに溶解させた。これに塩酸(1N)を85.5μL加え、室温で1時間撹拌して溶液を調製した。これをシラン溶液とした。
上記操作で作製されたシラン溶液に対し、超音波を照射しながらアルミニウム溶液を1mL加え、50℃で1時間加熱撹拌した。その後、この混合溶液をセルロースアセテートフィルター(フィルター孔径:0.2μm)でろ過し、ろ液に1−プロパノールを加え、全体として50mLになるように希釈した。以上の操作により、(Al+Si)が50mM、Al/Siモル比が5/95となるAl−Si混合前駆体溶液を調製した。
【0065】
(4)チタン前駆体溶液
2−メトキシエタノール20mLにチタニウムテトラn−ブトキシド0.34gを加え溶解させた。これを室温で1時間撹拌して溶液を調製した。これをチタン前駆体溶液とした。
【0066】
(5)リン酸ジルコニウム前駆体溶液の作製
五酸化二リンを秤量し、これにクロロホルムを2mL加えて振とうし、次いで2−メトキシエタノールを加えて1時間撹拌する。これをリン酸液とする。
これとは別に、2―メトキシエタノール9.73mLにジルコニウムテトラブトキシドを0.27mL加え、1時間撹拌する。これをジルコニウム液とする。
2―メトキシエタノール2.05mLに、リン酸液1mL、ジルコニウム液0.95mLを加えて5分間撹拌し、リン酸ジルコニウム前駆体溶液を作製した。
【0067】
2.酸化バナジウム膜の作製
酸化バナジウムは、電気化学的にリチウムをその内部に挿入できると共に、挿入されたリチウムを抽出することが可能である。そのため、酸化バナジウム膜は、リチウム二次電池用正極材料として知られている。そこで、酸化バナジウム膜をリチウム挿入・脱離膜(正極膜)として利用し、イオン伝導体膜の電気化学的特性の評価(後述)を行った。
バナジルイソプロポキシド((C
3H
7)
3VO)をイソプロピルコール−エタノール2.5:97.5の溶液に溶解させ、100mMのバナジウム溶液を作成した。この溶液を電導性のインジウム・スズ酸化物(ITO)で被覆されたガラス基板(以後ITO基板と略す)に100μLを滴下し、次いで基板を4000回転/秒で、120秒間スピンした。こののち、この基板を昇温速度450℃/時間で、室温から250度まで昇温し、さらに250℃で3時間保持した後、室温まで放冷した。
【0068】
3.金属酸化物薄膜の製膜操作
上記2.の(1)から(5)で作製したシラン前駆体溶液、ジルコニウム前駆体溶液、Al−Si混合前駆体溶液、チタン前駆体溶液、またはリン酸ジルコニウム前駆体溶液を上記の酸化バナジウム膜で被覆したITO基板に200μL滴下し、引き続きこのITO基板を3000rpmで40秒間回転させ、さらにそのまま回転させながら100℃以上で60秒間加熱し、次いで60秒間、空気を吹き付けながら放冷した。この前駆体溶液滴下から空気吹き付けまでの操作過程を1回とし、この操作を5回繰り返して、金属酸化物薄膜を酸化バナジウム膜で被覆したITO基板上に作製した。なお、シラン前駆体溶液、ジルコニウム前駆体溶液、Al−Si混合前駆体溶液、チタン前駆体溶液、リン酸ジルコニウム前駆体溶液から作製された金属酸化物薄膜を、それぞれ、Si膜、Zr膜、Al−Si膜、Ti膜、Zr−P膜と呼ぶ。
【0069】
4.LiイオンドープおよびCV測定
これら金属酸化物薄膜/酸化バナジウム膜/ITO基板を、過塩素酸リチウムの炭酸プロピレン溶液(1M)に挿入し、白金を対電極、参照電極をSCE電極として、所定電位範囲を10mV/秒あるいは50mV/秒で電位掃引を行った。
【0070】
図1、
図2、
図3、
図4に、Ti膜、Si膜、Al−Si膜、Zr−P膜断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図1〜4ともに、30nm〜40nmの厚みを有する酸化バナジウム膜上に同程度の膜厚を有する均一なチタニア膜、シリカ膜アルミノシリケート膜、リン酸ジルコニウム膜の生成がそれぞれ確認された。続いてこれらの複合膜のボルタモグラムのグラフを順に
図5から
図8に示す。いずれの場合もLiイオン挿入および脱着に伴う酸化還元電流が観測された。これらの膜は電子絶縁性(例:Si膜:約5GΩ、Ti膜:約300MΩ、酸化バナジウム膜のみであれば数百Ω)であることが確認されている。さらに
図9は、ITO基板の代わりの金蒸着ガラス基板上の酸化バナジウム膜に対してAl/Si膜を製膜し、製膜直後(
図9a)、還元電位印加後(Liイオン挿入電位印加後)(
図9b)、および酸化電位印加後(Liイオン脱着電位印加後)(
図9c)のそれぞれの赤外吸収スペクトルを測定した結果である。製膜直後では1017cm
−1にV=Oの伸縮振動に基づく吸収が観察された。還元電位印加後はこのピークが999cm
−1にシフトした。これは、Liイオンの挿入に伴ってV=O結合がLi
+−O−V結合状態に近くなったことによるものである。さらに酸化電位印加後はこのピークが1010cm
−1まで戻っていることから、Liイオンがバナジウム膜より脱着して、もとのV=O結合状態に戻ったためである。これらの結果より、電位掃引に伴う電流は、イオン伝導に基づくものであり、Liイオンがイオン伝導体膜を通じて酸化バナジウム膜に導入および脱離されているものと判断される。
【0071】
また、
図6〜8では、電位掃引に基づくイオン電流量の増加がみられた。電位掃引に伴う電流量の増加はイオン伝導の増加に基づくもの、すなわちイオン伝導性が徐々に改善されることに起因すると思われる。