【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0043】
<層状複水酸化物の製造>
(製造例1:硝酸型Mg−Al系LDH)
Mg/Alモル比を3に調整した硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物の混合水溶液200mLを調製した。窒素ガスでバブリングした蒸留水400mLに、調製した混合水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液でpHを10に調整しながら、5mL/minの速度で滴下した。なお、窒素ガスによるバブリングは炭酸ガスの混入を防ぐために実施した。滴下後1時間熟成し、次いで、蒸留水1500mLでろ過洗浄して固形分を得た。凍結乾燥器を使用し、得られた固形分を24時間乾燥して、硝酸型Mg−Al系LDHを得た。
【0044】
(製造例2:硝酸型Ca−Al系LDH)
Ca/Alモル比を3に調整した硝酸カルシウム四水和物と硝酸アルミニウム九水和物の混合溶液200mLを調製した。窒素ガスでバブリングした蒸留水400mLに、調製した混合水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液でpHを12に調整しながら、5mL/minの速度で滴下した。なお、窒素ガスによるバブリングは炭酸ガスの混入を防ぐために実施した。滴下後1時間熟成し、次いで、蒸留水1500mLでろ過洗浄して固形分を得た。凍結乾燥器を使用し、得られた固形分を24時間乾燥して、硝酸型Ca−Al系LDHを得た。
【0045】
<層状複水酸化物複合体の製造>
(実施例1)
炭酸型Mg−Al系LDH(商品名「Hydrotalcite,synthetic」、Mg
6Al
2CO
3(OH)
16・4H
2O、アルドリッチ社製)を550℃で焼成して得た焼成物3.0gを、フェロシアン化鉄(商品名「MILORI BLUE 905」、大日精化工業社製)3.0gを入れた蒸留水600mL中に浸漬し、内温を60℃に調整した乾燥器中に24時間載置した。次いで、定性ろ紙を用いてろ過するとともに洗浄して固形分を分離した後、凍結乾燥器を用いて24時間乾燥させて層状複水酸化物複合体を得た。得られた層状複水酸化物複合体のXRDチャートを
図1に示す。
図1に示すように、LDHの回折線が低角度側にシフトしたとともに、フェロシアン化鉄の回折線が認められた。このため、LDHの層間と表面の少なくともいずれかにフェロシアン化鉄が配置されたことが分かる。
【0046】
(実施例2)
製造例1で得た硝酸型Mg−Al系層状複水酸化物3.0gを、フェロシアン化鉄(商品名「MILORI BLUE 905」、大日精化工業社製)3.0gを入れた蒸留水600mL中に浸漬し、25℃で24時間放置した。次いで、定性ろ紙を用いてろ過するとともに洗浄して固形分を分離した後、凍結乾燥器を用いて24時間乾燥させて層状複水酸化物複合体を得た。得られた層状複水酸化物複合体のXRDチャートを
図2に示す。
図2に示すように、LDHとフェロシアン化鉄の両方の回折線が認められる。このため、LDHの少なくとも表面にフェロシアン化鉄が配置されたことが分かる。
【0047】
(実施例3)
炭酸型Mg−Al系LDH(商品名「Hydrotalcite,synthetic」、Mg
6Al
2CO
3(OH)
16・4H
2O、アルドリッチ社製)を550℃で焼成して得た焼成物3.0gを、フェロシアン化鉄(商品名「MILORI BLUE 905」、大日精化工業社製)3.0gを入れた蒸留水600mL中に浸漬し、内温を60℃に調整した乾燥器中に24時間載置した。次いで、定性ろ紙を用いてろ過するとともに洗浄して固形分を分離した後、凍結乾燥器を用いて24時間乾燥させて生成物を得た。0.1mol/L硝酸ニッケル(II)六水和物水溶液200mL中に得られた生成物1.0gを入れ、横揺れ振とう機を使用して80rpmで24時間振とうした。次いで、定性ろ紙を用いてろ過するとともに洗浄して固形分を分離した後、凍結乾燥器を用いて24時間乾燥させて層状複水酸化物複合体を得た。得られた層状複水酸化物複合体のXRDチャートを
図3に示す。
図3に示すように、LDHとフェロシアン化ニッケルの両方の回折線が認められる。このため、LDHの層間と表面の少なくともいずれかにフェロシアン化ニッケルが配置されたことが分かる。
【0048】
(実施例4)
製造例2で得た硝酸型Ca−Al系LDH3.0gを、フェロシアン化鉄(商品名「MILORI BLUE 905」、大日精化工業社製)3.0gを入れた蒸留水600mL中に浸漬し、25℃で24時間放置した。次いで、定性ろ紙を用いてろ過するとともに洗浄して固形分を分離した後、凍結乾燥器を用いて24時間乾燥させて層状複水酸化物複合体を得た。得られた層状複水酸化物複合体のXRDチャートを
図4に示す。
図4に示すように、LDHとフェロシアン化鉄の両方の回折線が認められる。このため、LDHの層間と表面の少なくともいずれかにフェロシアン化鉄が配置されたことが分かる。
【0049】
(比較例1)
炭酸型Mg−Al系LDH(商品名「Hydrotalcite,synthetic」、Mg
6Al
2CO
3(OH)
16・4H
2O、アルドリッチ社製)を550℃で焼成して得た焼成物3.0gを、フェロシアン化鉄(商品名「MILORI BLUE 905」、大日精化工業社製)1.5gを入れた蒸留水600mL中に浸漬し、内温を60℃に調整した乾燥器中に24時間載置した。次いで、定性ろ紙を用いてろ過するとともに洗浄して固形分を分離した後、凍結乾燥器を用いて24時間乾燥させて生成物を得た。得られた生成物のXRDチャートを
図5に示す。
図5に示すように、LDHの回折線は低角度側にシフトしたが、フェロシアン化鉄の回折線は認められなかった。このため、LDHの層間に挿入されたのはフェロシアン化物イオンのみであり、フェロシアン化鉄はLDHの層間に挿入されなかったことが分かる。これは、フェロシアン化鉄の量が少な過ぎたために反応液のpHが高くなってしまい、フェロシアン化鉄が分解したためであると考えられる。
【0050】
(比較例2)
炭酸型Mg−Al系LDH(商品名「Hydrotalcite,synthetic」、Mg
6Al
2CO
3(OH)
16・4H
2O、アルドリッチ社製)を550℃で焼成して得た焼成物5.0gを、フェロシアン化カリウム(ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム三水和物)3.0gを入れた蒸留水600mL中に浸漬し、内温を60℃に調整した乾燥器中に24時間載置した。次いで、定性ろ紙を用いてろ過するとともに洗浄して固形分を分離した後、凍結乾燥器を用いて24時間乾燥させて生成物を得た。得られた生成物は、比較例1の場合と同様、LDHの層間に挿入されたのはフェロシアン化物イオンのみであり、フェロシアン化鉄はLDHの層間に挿入されなかったと推測される。これは、フェロシアン化カリウムが水可溶性であるため、生成したフェロシアン化物イオンがLDHの層間に導入されたためであると考えられる。
【0051】
<セシウム吸着試験(1)>
(実施例5)
実施例3で得た層状複水酸化物複合体0.5gを、セシウム濃度が10mg/Lである塩化セシウム水溶液10mLに入れた。横揺れ振とう機を使用し、25℃の恒温室中で100rpm、24時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いて固液分離し、得られた液相中のセシウムイオン濃度を原子吸光光度計により測定した。その結果、セシウムイオン吸着率は99.0%であった。
【0052】
(実施例6)
実施例2で得た層状複水酸化物複合体0.3gを、セシウム濃度が10mg/Lである塩化セシウム水溶液30mLに入れた。横揺れ振とう機を使用し、25℃の恒温室中で100rpm、24時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いて固液分離し、得られた液相中のセシウムイオン濃度を原子吸光光度計により測定した。その結果、セシウムイオン吸着率は99.9%であった。
【0053】
(実施例7)
実施例1で得た層状複水酸化物複合体0.3gを、セシウム濃度が10mg/Lである塩化セシウム水溶液30mLに入れた。横揺れ振とう機を使用し、25℃の恒温室中で100rpm、24時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いて固液分離し、得られた液相中のセシウムイオン濃度を原子吸光光度計により測定した。その結果、セシウムイオン吸着率は99.2%であった。
【0054】
(実施例8)
実施例4で得た層状複水酸化物複合体0.3gを、セシウム濃度が10mg/Lである塩化セシウム水溶液30mLに入れた。横揺れ振とう機を使用し、25℃の恒温室中で100rpm、24時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いて固液分離し、得られた液相中のセシウムイオン濃度を原子吸光光度計により測定した。その結果、セシウムイオン吸着率は99.9%であった。
【0055】
(比較例3)
フェロシアン化鉄(商品名「MILORI BLUE 905」、大日精化工業社製)0.3gを、セシウム濃度が10mg/Lである塩化セシウム水溶液30mLに入れた。横揺れ振とう機を使用し、25℃の恒温室中で100rpm、24時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いて固液分離し、得られた液相中のセシウムイオン濃度を原子吸光光度計により測定した。その結果、セシウムイオン吸着率は95.2%であり、一部の微細な結晶が孔径0.45μmのシリンジフィルターを透過して液相に残存したことが示唆される。
【0056】
(比較例4)
フェロシアン化鉄(商品名「MILORI BLUE 905」、大日精化工業社製)1.4gを入れた蒸留水600mLを、内温を60℃に調整した乾燥器中に24時間載置した。次いで、定性ろ紙を用いてろ過するとともに洗浄して固形分を分離した後、凍結乾燥器を用いて24時間乾燥させて生成物を得た。0.1mol/L硝酸ニッケル(II)六水和物水溶液200mL中に得られた生成物1.0gを入れ、横揺れ振とう機を使用して80rpmで24時間振とうした。次いで、定性ろ紙を用いてろ過するとともに洗浄して固形分を分離した後、凍結乾燥器を用いて24時間乾燥させてフェロシアン化ニッケルを得た。
【0057】
フェロシアン化ニッケル0.5gを、セシウム濃度が10mg/Lである塩化セシウム水溶液10mLに入れた。横揺れ振とう機を使用し、25℃の恒温室中で100rpm、24時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いて固液分離し、得られた液相中のセシウムイオン濃度を原子吸光光度計により測定した。その結果、セシウムイオン吸着率は17.3%であった。
【0058】
(比較例5)
比較例1で得た生成物0.5gを、セシウム濃度が10mg/Lである塩化セシウム水溶液10mLに入れた。横揺れ振とう機を使用し、25℃の恒温室中で100rpm、24時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いて固液分離し、得られた液相中のセシウムイオン濃度を原子吸光光度計により測定した。その結果、セシウムイオン吸着率は2.0%であった。
【0059】
(比較例6)
製造例1で得た硝酸型Mg−Al系LDH0.5gを、セシウム濃度が10mg/Lである塩化セシウム水溶液10mLに入れた。横揺れ振とう機を使用し、25℃の恒温室中で100rpm、24時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いて固液分離し、得られた液相中のセシウムイオン濃度を原子吸光光度計により測定した。その結果、セシウムイオン吸着率は6.0%であった。
【0060】
<セシウム吸着試験(2)>
(実施例9)
実施例3で得た層状複水酸化物複合体0.5gを、水酸化ナトリウム水溶液を用いて初期のpHを(i)10、(ii)11、(iii)12、及び(iv)13に調整したセシウム濃度が10mg/Lである塩化セシウム水溶液10mLにそれぞれ入れた。横揺れ振とう機を使用し、25℃の恒温室中で100rpm、24時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いて固液分離し、得られた液相中のセシウムイオン濃度を原子吸光光度計により測定した。その結果、セシウムイオン吸着率は(i)95.0%、(ii)95.2%、(iii)94.3%、及び(iv)90.8%であった。
【0061】
(比較例7)
比較例1で得た生成物0.5gを用いたこと以外は、前述の実施例9と同様にしてセシウムイオン吸着率を測定した。その結果、いずれのpHの塩化セシウム水溶液を用いた場合であってもセシウムイオン吸着率は5.0%以下であった。
【0062】
<セシウム吸着試験(3)>
(実施例10)
フェロシアン化鉄(商品名「MILORI BLUE 905」、大日精化工業社製)0.1gを、セシウム濃度が10mg/Lである塩化セシウム水溶液30mLに入れた。横揺れ振とう機を使用し、25℃の恒温室中で100rpm、24時間撹拌した。次いで、製造例1で得た硝酸型Mg−Al系LDH0.3gを添加してさらに撹拌した。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いて固液分離し、得られた液相中のセシウムイオン濃度を原子吸光光度計により測定した。その結果、セシウムイオン吸着率は99.1%であった。
【0063】
(実施例11)
フェロシアン化鉄(商品名「MILORI BLUE 905」、大日精化工業社製)0.1gを、セシウム濃度が10mg/Lである塩化セシウム水溶液30mLに入れた。横揺れ振とう機を使用し、25℃の恒温室中で100rpm、24時間撹拌した。次いで、製造例2で得た硝酸型Ca−Al系LDH0.3gを添加してさらに撹拌した。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いて固液分離し、得られた液相中のセシウムイオン濃度を原子吸光光度計により測定した。その結果、セシウムイオン吸着率は99.4%であった。
【0064】
<アルカリ条件下での安定性評価>
実施例1及び3で得た層状複水酸化物複合体3.0gを、セシウム濃度10mg/Lの塩化セシウム水溶液300mLとそれぞれ接触させた。接触後の層状複水酸化物複合体(セシウム含有層状複水酸化物複合体)1.5gを、初期pHをpH10、pH11、pH12、及びpH13に調整した水酸化ナトリウム水溶液中に入れた。24時間後、それぞれの初期pHにおけるセシウムイオン(Cs
+)溶出率(%)を測定及び算出した。なお、Cs
+溶出率(%)は、10mg/Lのセシウムイオンが吸着されたと仮定して算出した。結果を
図6に示す。
図6に示すように、実施例1で得た層状複水酸化物複合体を用いて調製したセシウム含有層状複水酸化物複合体は、初期pH12までCs
+溶出率が20%以下であった。さらに、実施例3で得た層状複水酸化物複合体を用いて調製したセシウム含有層状複水酸化物複合体は、初期pH13までCs
+溶出率が20%以下であった。すなわち、いずれのセシウム含有層状複水酸化物複合体についても、高アルカリ条件下であっても安定してセシウムを吸着し、長期間保存可能であることが分かる。