特許第5936206号(P5936206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936206
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】統合された工程システム
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/64 20060101AFI20160609BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20160609BHJP
   D21C 3/00 20060101ALI20160609BHJP
   D21H 11/20 20060101ALI20160609BHJP
   C12R 1/66 20060101ALN20160609BHJP
【FI】
   C12P7/64
   C12P19/14 A
   D21C3/00 Z
   D21H11/20
   C12P7/64
   C12R1:66
   C12P19/14 A
   C12R1:66
【請求項の数】14
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2013-545450(P2013-545450)
(86)(22)【出願日】2011年12月19日
(65)【公表番号】特表2014-502500(P2014-502500A)
(43)【公表日】2014年2月3日
(86)【国際出願番号】FI2011051136
(87)【国際公開番号】WO2012085346
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2013年12月6日
(31)【優先権主張番号】10196494.8
(32)【優先日】2010年12月22日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/459,964
(32)【優先日】2010年12月22日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505081261
【氏名又は名称】ネステ オサケ ユキチュア ユルキネン
(74)【代理人】
【識別番号】100098464
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 洌
(74)【代理人】
【識別番号】100149630
【弁理士】
【氏名又は名称】藤森 洋介
(72)【発明者】
【氏名】コスキネン、ペルッツ
(72)【発明者】
【氏名】タンネル、レイヨ
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−538642(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/042842(WO,A1)
【文献】 Annals of Microbiology,2007年,Vol. 57, No. 2,P. 239-242
【文献】 Bioresource Technology,2010年 5月,Vol. 101,P. 7556-7562
【文献】 Journal of Scientific & Industrial Research,2005年,Vol. 64,P. 832-844
【文献】 Biotechnology Advances,2000年,Vol. 18,P. 355-383
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/00−7/64
C12P 19/14
C13K 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/BIOSIS(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵油脂産生工程である第一の工程およびパルプおよび/または製紙工業工程である第二の工程を含む統合された方法であって、前記発酵油脂産生工程が、脂質産生のための原材料として前記パルプおよび/または製紙工業工程からの有機材料と、発酵油脂および酵素を産生することのできるアスペルギルス属に属する微生物と、を使用し、そして、前記パルプおよび/または製紙工業工程が、前記発酵油脂産生工程からの、ポリマー糖を加水分解することのできる酵素を使用する方法。
【請求項2】
前記パルプおよび/または製紙工業工程が、化学パルプ化工程であり、そして、前記発酵油脂産生工程が発酵油脂産生のための原材料としてヘミセルロース、一次汚泥および/またはそれらの画分を使用し、そして、前記パルプおよび/または製紙工業工程が前記発酵油脂産生工程から得られるヘミセルラーゼを使用する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記パルプおよび/または製紙工業工程が、リサイクル繊維工程であり、そして、前記発酵油脂産生工程が発酵油脂産生のための原材料として機械パルプ化からの残渣、一次汚泥および/またはそれらの画分を使用し、そして、前記パルプおよび/または製紙工業工程が前記発酵油脂産生工程から得られる酵素を使用する請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記パルプおよび/または製紙工業工程が、機械パルプ化工程であり、そして、前記発酵油脂産生工程が発酵油脂産生のための原材料として脱墨汚泥および/またはその画分を使用し、そして、前記パルプおよび/または製紙工業工程が前記発酵油脂産生工程から得られる酵素を使用する請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記酵素が、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ、ガラクトシダーゼ、ペロキシダーゼ、ラッカーゼ、ペクチナーゼ、セルラーゼ、グルコシダーゼ、アラビナーゼ、リパーゼ、エステラーゼまたはプロテアーゼまたはそれらの任意の混合物を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記発酵油脂産生工程へ供給される有機材料が、少なくとも50%のリグノセルロースまたはリグノセルロースの画分を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記発酵油脂産生工程へ供給される有機材料が、少なくとも10%のポリマー糖を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記有機材料が、少なくとも20%のヘミセルロースまたはその画分、または、少なくとも20%のセルロースまたはその画分を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記有機材料が、少なくとも30%のヘミセルロースまたはその画分を含む請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記有機材料が、少なくとも30%のセルロースまたはその画分を含む請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記酵素が細胞外酵素を含む請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞外酵素が、ヘミセルロースおよび/またはセルロース加水分解と関連する酵素である請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記パルプおよび/または製紙工業工程が、溶解パルプ工程、クラフトパルプ工程、パルプ(前)漂白、または機械パルプ工程、繊維調成、剥皮、リサイクル繊維工程、脱墨、繊維調成、製紙、またはスライムおよび/またはピッチの除去を含む請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
発酵油脂産生および酵素産生に適切な条件下、パルプおよび/または製紙工業からの有機材料を含む培地上で発酵油脂および酵素を産生することのできるアスペルギルス属に属する微生物を培養し、そして前記アスペルギルス属に属する微生物によって発酵油脂および酵素を産生する工程、
上澄みおよびアスペルギルス属に属する微生物細胞を微生物培養物から分離する工程、
アスペルギルス属に属する微生物細胞から発酵油脂を回収する工程、および
上澄みから酵素を回収する工程
を含む請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つの工程がパルプまたは製紙工業工程であり、そして別の工程が発酵油脂産生工程(微生物脂質産生工程)である統合された工程システムに関する。本発明はまた、統合されたシステムにおけるパルプおよび/または製紙工業残渣からの脂質の産生のための工程および前記脂質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘミセルロースは、木質材料の比較的大きな画分を占めており、典型的には木質種に依存して木質材料の20〜40重量%である。例えばクラフトパルプおよびパルプ溶解工程などの化学パルプ化工程において、木材が脱リグニン化される。リグニンに加えて、化学パルプ化工程ではヘミセルロースがセルロースからかなりの程度分離され、そして、最終的なパルプ製品は工程に依存してわずか少量のみのヘミセルロースを含むかまたは全くヘミセルロースを含まない。したがって、約半分の木材が化学パルプ化工程において溶解される。例えばクラフトパルプ化または亜硝酸法パルプ化(パルプの溶解)などのパルプ化工程においては、パルプから分離されるヘミセルロース画分は主に燃焼されそして価格設定されていない。
【0003】
主要なパルプ化工程、クラフトパルプ化(亜硝酸法パルプ化または蒸解)において、木材リグニンおよび一部のヘミセルロースは、蒸解釜中で過酷な条件下溶解される(蒸解)。得られた液体(黒液)中のヘミセルロース分解性生物は、非常に複雑であり、そして液体からのそれらの分離および精製は困難であり、そして、微生物工程へのその適合性は乏しい。このため、黒液は、電気的および熱的エネルギーを製造するために回収ボイラ中で燃焼される。しかしながら、ヘミセルロースはリグニンと比較して顕著により低い発熱量しか有さず、溶解されたヘミセルロースの燃焼はこの資源の理想的な経済的使用を構成しない。したがって、ヘミセルロースは、蒸解に先立ち、より高い価値の製品を製造するために好ましくは抽出されるべきである。ヘミセルロースを価格設定するための1つのオプションは、それを化学品および/またはバイオ燃料(例えばエタノール、ブタノール)に微生物工程によって転換することである。しかしながら、パルプ化前のこのヘミセルロースの前抽出はパルプ収率または質を低下させてはならない。
【0004】
溶解パルプ(溶解セルロースとも称される)は、高いセルロース含有量(>90%)を有する晒木材パルプである。溶解パルプは、例えばレーヨン(繊維製品)、セロファン、酢酸セルロース、メチルセルロースなどの多種多様のセルロース誘導体のための原材料として使用される化学パルプグレードである。溶解パルプは亜硝酸法またはパルプ化工程の前にヘミセルロースを抽出するための工程を有するクラフト工程によって形成される。ヘミセルロースは、しばしばボイラ中で燃焼され、そしてそのエネルギーの大部分が廃熱として失われており、今日では工場において大部分無駄に消費されている副生産物である。
【0005】
クラフトパルプ化に先立ってヘミセルロース前抽出のいくつかの種々の方法、例えば加圧熱水抽出(水温処理)、ならびに、場合によってはSO2などの酸性触媒で補充されていてもよいアルコール(例えばエタノール、メタノールなど)および/または有機酸(例えば酢酸、ギ酸、マレイン酸、乳酸または過酢酸など)を用いる様々なオルガノソルブ法などが適用され得る。前記方法は、パルプ画分からの主にヘミセルロースまたはリグニンおよびヘミセルロースの両方の除去を促進させ得る。これらの前抽出方法の大多数においては、ヘミセルロースは少なくとも部分的にはオリゴマーの形状で得られる。オリゴマーは、微生物によって最終生成物へと転換され得る前に、モノマーへと加水分解される必要がある。ヘミセルロース中のオリゴマー糖のモノマー糖への転換は、ヘミセルロースのタイプに依存して(木材種に依存して)例えばキシラナーゼ、アラビナーゼ、ガラクトシダーゼおよび/またはマンナーゼなどの特定の酵素によって行われ得る。このような酵素は特定の微生物、典型的には真菌またはバクテリアによって産生される。
【0006】
パルプ化工程の前のヘミセルロースの前抽出およびエタノールまたは化学製品の製造へのヘミセルロース画分の利用を含むバイオリファイナリー(biorefinery)の概念は先行技術において提案されてきた。ヘミセルロース前抽出方法のレビューが非特許文献1によって、そしてヘミセルロース前抽出を含むクラフトパルプバイオリファイナリーの概説が非特許文献2によって示されている。特許文献1は、エタノールおよび化学製品のための生物的発酵に対するヘミセルロースの反応性を増進させる、クラフトパルプ化工程の前にヘミセルロースを前抽出するための方法を開示する。ユーカリのクラフトパルプ化工程から前抽出されたヘミセルロースからのエタノール産生が非特許文献3に記載されている。
【0007】
先行技術は、それによって木材材料および特にはヘミセルロースが抽出され得るパルプ工業工程のための様々な方法を開示しているが、木材材料、特にはヘミセルロースの分画および更なる価格化を促進するであろうパルプ工業工程のための新規方法の必要性が依然として存在する。
【0008】
リグノセルロース系材料の分解および利用は、パルプ工業工程以外の他の工業的分野においてもまた重要である。発酵油脂は、従来、例えば健康食品中などの特別な製品として使用されてきた。同様の種類の製造方法がまた、バイオディーゼル製造のための脂質の製造について記載されている。しかしながら、製品が安価な汎用化学製品である場合、単位原価は特別な製品の単位原価のレベルにあるべきではない。さらに、従属栄養微生物による脂質の収率は通常非常に低く、供給された糖質の20重量%未満、最も良好な場合で、利用可能な糖の22〜24%がオイルへと変換され得る。これらの理由により、例えばリグノセルロース系フィードストックなどの低コストの原材料の利用がオイル製造のために必要である。
【0009】
微生物を使用する発酵油脂産生工程は、一般的に、通気されたバイオリアクター中で微生物を培養すること、細胞が脂質を蓄積できるようにさせること、脂質に富んだ細胞を採取すること、および、細胞からオイルを回収することを含む。
【0010】
オイル製造のためのセルロース系フィードストックの利用は、いくつかの最近の特許文献において提案されてきた。特許文献2は、ストラメノパイル(Stramenopiles)界の微生物をセルロース含有フィードストックを主な炭素源として使用することによって増殖させることによる従属栄養発酵による生物学的オイルの製造を開示している。セルロースは酵素によって、またはセルロースを糖化することのできる他の微生物によって加水分解される。特許文献3は、微細藻類および菌類による脱重合されたセルロース系材料からの生物学的オイルの製造を開示する。
【0011】
特許文献4は、木材およびパルプおよび製紙工業残渣などを含むバイオ燃料製造のための様々なリグノセルロース系および他の材料の加水分解物からの発酵油脂産生を開示している。前記方法は、原料の材料を水、酸またはアルカリとで処理する工程、および、ろ液または沈殿物を脂質産生微生物に接触させる工程を含む。先行技術はまた、例えば非特許文献4によるキシラン、非特許文献5によるセルロースなど、リグノセルロース中のポリマー糖からの直接的な脂質産生について記載している。
【0012】
酵素的な加水分解は、典型的には市販の酵素によるバイオ燃料製造工程から分離した工程において実施される。典型的には市販の酵素が購入され、そして、実際のバイオ燃料製造工程の外で製造される。酵素の価格は微生物工程によるセルロース系材料のバイオ燃料への転換における主要なコスト因子である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0165968号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0064567号明細書
【特許文献3】国際公開第2009/0011480号
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/217569号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Huang H-J. Ramaswamy S,Tschirner UW,Ramarao BV. 2008. A review of separa-tion technologies in current and future biorefineries. Separation and Purification Technology 62:1-21.
【非特許文献2】Marinova M, Mateos-Espejel E Jemaa N, Paris J. 2009. Addressing the increased energy demand of a Kraft mill biorefinery: The hemicellulose extraction case. Chemical engineering research and design 87:1269-1275.
【非特許文献3】C.V.T. Mendes, M.G.V.S. Carvalho C.M.S.G. Baptista, J.M.S. Rocha, B.I.G. Soa-res, G.D.A. Sousa. 2009. Valorisation of hardwood hemicelluloses in the kraft pulping process by using an integrated biorefinery concept. Food and Bioproducts Processing 87:197-207.
【非特許文献4】Fall R, Phelps P, Spindler D. 1984. Bioconversion of Xylan to Triglycerides by Oil-Rich Yeasts. Applied and Environmental Microbiology 47:1130-1134.
【非特許文献5】Lin H, Cheng W,, Ding HT, Chen XJ, Zhou QF, Zhao YH. 2010. Direct microbial conversion of wheat straw into lipid by a cellulolytic fungus of Aspergillus oryzae A-4 in solid-state fermentation. Bioresource Technology 101:7556-7562.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
先行技術において直面する課題への解決法を提供することが本発明の1つの目的である。特には、本発明はパルプおよび/または製紙工業工程において直面する課題への技術的に有用な解決法を提供することを目的とする。
【0016】
発酵油脂の大規模な産生において直面する問題への技術的に有用な解決法を提供することが本発明の別の目的である。
【0017】
大規模な発酵油脂産生の経済性を向上させることが可能である解決法を提供することが本発明のさらに別の目的である。
【0018】
環境的負荷を低減することができる解決法を提供することが本発明のさらに別の目的である。
【0019】
本発明は、輸送用バイオ燃料の製造に関する問題を解決することを特に目的とする。
【0020】
これらの目的を達成するために、本発明は、独立クレームに挙げられている特性によって特徴づけられる。他のクレームは発明のより好ましい実施態様を示している。
【0021】
本発明による方法は、パルプおよび製紙工業工程の副流が、微生物のための、特に脂質産生微生物のための炭素源として役立ち得る顕著な量の栄養素を含んでいるという発見に基づく。
【0022】
驚くべきことに、脂質産生工程が、顕著な量のタンパク質、とりわけ酵素を産生することが発見された。より具体的には、発酵油脂産生工程と関連して、パルプおよび/または製紙工業からの木材材料または有機材料を分解することのできる顕著な量の酵素が産生され得る。本発明において、脂質産生工程において産生される酵素が、パルプ漂白、パルプ脱墨、化学パルプ化に先立つリグノセルロースの処理、溶解パルプ作製、剥皮または繊維調成工程などの例えばパルプ工業工程であるパルプおよび/または製紙工業工程において再利用され得ることが発見された。
【0023】
本発明のある態様において、発酵油脂産生工程である第一の工程、および、パルプおよび/または製紙工業工程である第二の工程を含む統合されたシステムを提供する。前記システムにおいて、パルプおよび/または製紙工業からの有機材料は脂質産生工程へと導入され、脂質産生工程において、パルプおよび/または製紙工業からの有機材料を含む培地上で培養された場合に脂質または複数の脂質および酵素を産生することのできる微生物が使用される。ある実施態様において、脂質または複数の脂質および酵素は、前記微生物によって発酵油脂産生工程において産生される。別の実施態様において、酵素は発酵油脂産生工程と関係する工程において産生される。
【0024】
酵素は、微生物培養物、使用済み培養培地または上澄みから回収され得る。
【0025】
典型的には、上澄みおよび微生物細胞は、微生物培養物から分離され、そして脂質が微生物細胞から回収される。本発明の様々な実施態様において、上澄みまたは上澄みのタンパク質が富化された画分、または触媒的に活性な酵素を含む上澄みの希釈液が、脂質産生工程から、またはそれに関係する工程から回収される。ある実施態様において、上澄みまたは酵素を含む上澄みのタンパク質が富化された画分は、脂質産生工程からパルプおよび/または製紙工業工程へと導入される。
【0026】
本発明の一実施態様において、酵素は、脂質産生工程から分離した工程において産生されるか、または、脂質産生微生物とは別の微生物によって産生される。
【0027】
本発明の一つの好ましい実施態様において、酵素および脂質は同じ微生物によって産生される。
【0028】
本発明の一つの好ましい実施態様において、微生物的脂質産生工程は、例えばパルプ化または脱墨工程などからの例えばヘミセルロースまたは一次汚泥などの、パルプおよび/または製紙工業からの画分または残渣を利用し、パルプおよび/または製紙工業工程における使用のための例えば酵素などの有用な物質を産生する。同時に、微生物的工程は、例えばバイオ燃料の産生などの様々な目的のために使用され得るかなりの量の脂質を産生する。統合された工程システムは、パルプおよび/または製紙工業工程におけるリグノセルロース系バイオマスのより完全な利用および価格設定のための方法を提供する。
【0029】
パルプおよび/または製紙工業は、副流の価格設定により先行技術の工程よりも多種多様な有用な副生成物を産生できる可能性があり、そして、競争上の強みという可能性を与える。
【0030】
要約すると、本発明は以下の利益を提供すると結論付けられ得る:
−本明細書中に記載される発明は、パルプおよび/または製紙工業工程の費用効率を改善し得る。
−輸送用バイオ燃料の製造によるヘミセルロース流の価格設定は、経済的恩恵をもたらす。先行技術においてはクラフトパルプ工場のヘミセルロースは結果的に黒液となり、そして燃焼される。
−脱墨、剥皮、化学パルプ工程、機械パルプ工程または製紙工程からの例えば一次汚泥などの、パルプおよび/または製紙工業からのセルロースを含む残渣の転換。微生物による例えば脂質などの有益な製品の製造は、好気性および/または嫌気性排水処理の現在の工程に付加価値を付与する。
−パルプおよび/または製紙工業工程中に必要とされる酵素のその場での産生は、経費削減をもたらす。これはまた、使用に先立っての酵素の安定化の必要性も減少させる。
−統合された、脂質産生のためのバイオプロセス(同じ工程段階における酵素的分解および発酵)はコストを削減し、そして、専用のヘミセルロースの産生および/または脂質産生段階を特徴とする工程と比較して効率性を改善する。これは、外部で酵素を購入する必要性を除外または減少させることによりコストを低減させる。
−化学パルプ化工程は余剰のエネルギー、主に熱を大量に生産する。パルプ化工程からの過剰な熱の利用はエネルギー効率の改善をもたらす。例えば、糖をヘミセルロース加水分解物(シロップ)へと濃縮するための、加水分解物を精製するための、または脂質産生工程におけるオイル回収物中の溶媒の回収におけるパルプ化工程からの熱(リグニンの燃焼)など。
−他のポリマー炭化水素バイオマスを含むリグノセルロース系材料または複数の材料の処理のエネルギーコストは、市販の酵素の代わりにまたはそれに加えて発酵油脂工程それ自身からの酵素ならびに熱機械的および化学的処理を使用することにより低減する。
−発酵油脂産生発酵からの液体の残余物からの酵素タンパク質の除去は、発酵油脂産生から遊離される発酵液体の生物学的酸素消費量を減少させる。
−発酵油脂工程の炭素収支は、酵素タンパク質が、プロセス流における生物学的負荷の原因となる代わりに、減少されるかまたは発酵排水から除去され、触媒的目的のために再使用されるかまたは発酵油脂産生工程もしくはバイオ技術的工程において栄養素として使用される場合に改善される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】工程スキームを示す図である。
図2】工程スキームを示す図である。
図3】加水分解試験中に遊離された、培養物ブロースの容積当たりのキシロースを示す図である。基質としては、200mgのカバ材キシランが使用された。
図4】加水分解試験中に遊離された、タンパク質当たりのキシロースを示す図である。基質としては、200mgのカバ材キシランが使用された。
図5】加水分解試験中に遊離された、培養物ブロースの容積当たりのキシロースおよびキシロビオースを示す図である。基質としては、200mgのカバ材キシランが使用された。
図6】加水分解試験中に遊離された、タンパク質当たりのキシロースおよびキシロビオースを示す図である。基質としては、200mgのカバ材キシランが使用された。
図7】1mLの市販のキシラナーゼ溶液を用いた加水分解試験中に遊離された、基質(500mgの天然セルロースまたは培養からの残渣バイオマス)に対する%としての糖(キシロースおよびグルコース)を示す図である。
図8】加水分解試験中に遊離された、培養物ブロースの容積当たりのキシロースを示す図である。基質としては、200mgのカバ材キシランが使用された。
図9】加水分解試験中に遊離された、タンパク質当たりのキシロースを示す図である。基質としては、200mgのカバ材キシランが使用された。
図10】加水分解試験中に遊離された、培養物ブロースの容積当たりのグルコースを示す図である。基質としては、1gのセルロースが使用された。使用された培養ブロース由来のヘミセルロースから、多少のキシロースが遊離された。
図11】加水分解試験中に遊離された、タンパク質当たりのグルコースを示す図である。基質としては、1gのセルロースが使用された。使用された培養物ブロース由来のヘミセルロースから、多少のキシロースが遊離された。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本明細書において、「発酵油脂産生工程(a single cell oil production process)」とは、脂質合成微生物の生成またはその生成を可能にし、そして脂質を産生するおよび/または蓄える(store)(蓄積する(accumulate))ための生物マス(organism mass)を得ることを可能にする工程、液相から細胞を回収する工程、および細胞および/または培養物培地もしくは液体から脂質を抽出または回収する工程を含む工程を指す。本明細書中で後に開示されるように、様々な微生物群、例えばバクテリア、古細菌、真菌(糸状菌類)、酵母、および藻類などが発酵油脂産生微生物である。
【0033】
本明細書中に記載されるように、本発明は、好ましくは脂質および酵素の両方を産生することが可能な微生物を使用する。本明細書のいくつかの実施態様において「微生物(a microorganism)」とは、2つまたはそれ以上の微生物を指す。ある実施態様では、酵素は1つの微生物によって産生され、そして発酵油脂(脂質)は別の微生物によって産生される。
【0034】
用語「発酵油脂(single cell oil)」は、脂肪性物質であって、その分子が一般的に、脂肪族炭化水素鎖を部分的に含み、非極性有機溶媒に溶解するが水には溶解しにくい物質を意味する。発酵油脂は生体細胞における巨大分子の不可欠な一群である。発酵油脂としては例えば、脂質、脂肪、ワックス、ろうエステル、ステロール、テルペノイド、イソプレノイド、カロテノイド、ポリヒドロキシアルカノエート、核酸、脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪アルデヒド、脂肪酸エステル、リン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質、および、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロールまたはモノアシルグリセロールなどのアシルグリセロールが挙げられる。
【0035】
本発明における好ましい発酵油脂は、脂質、脂肪、ワックス、アシルグリセロールおよび脂肪酸ならびにその誘導体、特にはトリアシルグリセロールおよびろうエステルである。
【0036】
本発明と関連して、「脂質(lipid)」は発酵油脂の同義語として、そして、「脂質産生工程(lipid production process)」は発酵油脂産生工程の同義語として使用される。
【0037】
「パルプ工業工程(pulp industry process)」は、本明細書においてリグノセルロース材料またはリサイクルされた繊維およびパルプ製造に必要とされる繊維状材料からのパルプの製造を目的とする工程のことを意味する。
【0038】
「パルプおよび/または製紙工業(pulp and/or paper industry)」は、本明細書において様々な種類の紙、板紙(paperboard)、紙、新聞印刷用紙(newsprint)、トイレットペーパーおよび板紙製品(paperboard articles)、パルプ、および断熱板(insulation boards)およびハードボード(hardboards)を製造する工業の部門を意味する。パルプおよび/または製紙工業は、リグノセルロース系材料またはサイクルされた繊維を原材料として使用する。パルプおよび/または製紙工業は、化学パルプ化、機械パルプ化、セミケミカルパルプ化、化学的熱機械パルプ化、繊維のリサイクル工程、製紙などの工程を含む。
【0039】
「化学パルプ化(chemical pulping)」は、木材または木材チップなどのリグノセルロース材料が化学薬品および熱とともに処理される工程であって、大部分のリグニンの除去、そしてそれゆえセルロース繊維を著しく損傷することなく繊維の放出をもたらす工程を意味する。典型的には、リグニンおよびヘミセルロースの大部分は化学パルプ化中で水に可溶となり、したがって、パルプ中の繊維から除去される。およそ半分の木質材料が化学パルプ化において溶解される。化学パルプ化の主な方法は、クラフトパルプ化および溶解パルプ工程(亜硫酸工程)である。ソーダ蒸解はクラフト蒸解工程の変形であり、ここでは亜硫酸ナトリウムは使用されない。
【0040】
「クラフトパルプ工程(Kraft pulp process)」または「クラフトパルプ化(Kraft pulping)」または「クラフト蒸解(Kraft cooking)」は、リグノセルロース系材料が、リグニンをセルロースへと結び付けている結合を切断する水酸化ナトリウムおよび亜硫酸ナトリウムの混合物と処理される化学パルプ化工程を意味する。ソーダ蒸解はクラフト蒸解工程の変形であり、ここでは亜硫酸ナトリウムは使用されない。エタノール、メタノールおよび過酢酸などの有機溶媒がクラフトパルプ工程における補強化学薬品(reinforcement chemical)として使用され得る。
【0041】
「溶解パルプ工程(Dissolving pulp process)」または「亜硫酸工程(sulphite process)」は、亜硫酸(H2SO3)および亜硫酸水素イオンがリグニンの分解および溶解に作用する化学パルプ化工程を意味する。酸性亜硫酸パルプ化は低いpH、pH1から2で行われ、一方、中性亜硫酸パルプ化はpH7〜9で行われる。エタノール、メタノールおよび過酢酸などの有機溶媒が溶解パルプ工程における補強化学薬品として使用され得る。
【0042】
「オルガノソルブ工程(organosolv process)」とは、リグニンの除去および繊維の放出を達成するために有機化学薬品が使用される化学パルプ化工程を意味する。オルガノソルブ工程において使用される典型的な有機化学薬品としては、メタノール、エタノール、ギ酸、酢酸、過酢酸、酢酸エチルおよびアセトンなどが挙げられるがこれらに限定されるわけではない。オルガノソルブ工程におけるリグニンの除去は、例えば硫酸または二酸化硫黄(SO2)などの酸性触媒の添加によって強化され得る。
【0043】
「機械パルプ化(Mechanical pulping)」は、例えば木材または木材チップなどのリグノセルロース系材料中の繊維が、例えば破砕などによって機械的に放出される工程を意味する。主な種類の機械パルプとしては、砕木パルプ(stone groudwood pulp)およびリファイナーパルプ(refiner pulp)などが挙げられる。砕木パルプは、丸太を摩砕することによって作製され、そして、木材が摩砕に先立って蒸解された場合、圧力砕木パルプ(pressure groundwood pulp)として知られる。リファイナーパルプは、木材チップを回転ディスクの中心に供給すること(リファイニング(refining))によって作製され、パルプがパルプのリファイニングに先立って上記で処理された場合、パルプはサーモメカニカルパルプ(thermomechanical pulp)と称される。ケミサーモメカニカルパルプ(chemo-thermomechanical pulp)を作製するには、木材は例えば亜硫酸ナトリウムなどの化学薬品およびチップのリファイニングにより作製されるリファイニングのための蒸気を用いて前処理される。全ての場合において、パルプ収率は高く、典型的には95〜98%であり、これは、水に容易に溶解しやすい物質の僅かな損失のみをともなうだけで全ての木材成分が繊維中に保持されていることを意味しており、これはパルプ収率がはるかに低い化学パルプ化工程とは異なっている。
【0044】
「リサイクル繊維工程(Recycle fibre process)」または「繊維リサイクル工程(Fibre recycle process)」は、例えば紙まどの使用済みパルプ製品を使用し、そして、それを新しいパルプまたは紙製品へと作り変える工程を意味する。前記工程は、パルプおよび紙製品のリサイクリングおよび再使用を可能にする。リサイクル繊維工程は、一般的に3つの工程、紙の再パルプ化、インクなどの汚染物資の除去(脱墨)、および繊維の漂白からなる。
【0045】
本発明のある好ましい実施態様によれば、加水分解およびバイオ燃料製造は、オリゴマー糖を加水分解することのできる酵素を産生すること、および、バイオ燃料の産生の両方が可能である微生物を利用して実行される。典型的にはこれは単一の工程中で行われる。
【0046】
本発明のある好ましい実施態様によれば、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%の、パルプおよび/または製紙工業工程において使用される特定の酵素が、脂質もまた産生する微生物によって産生される。パルプおよび/または製紙工業工程において、いくつかの酵素が使用され得るが、そのうちのいくつかの酵素または酵素群は統合された発酵油脂産生工程において、またはそれに関連した工程において産生され、そして、いくつかの酵素または酵素群は他の調達源から得られる、例えば市販の酵素などである。
【0047】
脂質を産生する微生物とは、本明細書において、1またはそれ以上の脂質を産生する微生物、好ましくは1つの脂質産生する微生物を意味する。
【0048】
本発明の別の実施態様によれば、酵素は、同じ脂質産生工程においてまたは前記工程に関連した工程において、脂質産生微生物とは別の1またはそれ以上の微生物によって産生される。微生物(または複数の微生物)は、効率よく特定の酵素、例えば加水分解酵素などを産生する微生物(または複数の微生物)、例えばトリコデルマ(Trichoderma)またはバチラス(Bacillus)などであり得る。「脂質産生工程に関連した工程(A process connected to the lipid production process)」とは、例えば、脂質産生工程のためのフィードストックが例えば酵素などによって処理される工程を意味する。
【0049】
本発明のさらなる実施態様によれば、酵素は脂質産生工程から分離した工程において産生される。酵素は例えば微生物によって、加水分解酵素などの特定の酵素を産生するのに効率の良い分離された工程において例えば産生される。また、あるいは、酵素は市販の酵素である。
【0050】
本発明のさらなる実施態様によれば、加水分解およびバイオ燃料産生はオリゴマー糖を加水分解することのできる酵素の産生およびバイオ燃料の産生が可能である微生物を利用する類似の方法によって行われるが、産生された酵素は、例えばセルロース(またはヘミセルロース)加水分解などの原材料を加水分解するために別個に使用される。加水分解生成物はその後、発酵において使用される。
【0051】
本発明のさらに別の実施態様によれば、従属栄養微生物ベースの脂質産生工程が、パルプおよび/または製紙工業工程へ統合される。従属栄養微生物は、パルプおよび/または製紙工業からの残渣または画分を脂質産生のための原材料として使用する。
【0052】
本発明の一実施態様において、脂質産生のために使用される有機材料は、少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは60%のリグノセルロースを、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%のリグノセルロースまたはパルプおよび/または製紙工業からのリグノセルロース由来材料を含む。
【0053】
本発明の一実施態様において、脂質産生工程において使用されるパルプおよび/または製紙工業からの有機材料は、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%のリグノセルロースの画分、または例えばヘミセルロースもしくはセルロースなどのリグノセルロース由来の材料を含む。
【0054】
本発明の一実施態様において、脂質産生工程において使用されるパルプおよび/または製紙工業からの有機材料は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%のポリマー糖を含む。
【0055】
脱リグニンからの加水分解物中の単糖類の重合度および量は、リグノセルロースの蒸解または前処理方法に大部分依存する。典型的には、リグノセルロース系材料の加圧熱水抽出は、オリゴマーのヘミセルロースから主に構成されるヘミセルロース画分をもたらす。他方、溶解パルプ工程は、一般に加水分解物、すなわち使用済み亜硫酸液を生産し、ここで、ヘミセルロース糖は主に、単糖類の形状で存在する。
【0056】
本発明の一実施態様において、パルプおよび/または製紙工業からの、場合によってはリグニンが少なくとも部分的に除去されている、脂質産生工程において使用される有機材料は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%のヘミセルロースまたはヘミセルロース由来の材料を含む。
【0057】
本発明の一実施態様において、パルプおよび/または製紙工業からの、リグニンが少なくとも部分的に除去されている、脂質産生工程において使用される有機材料は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%のセルロースを含む。
【0058】
より具体的には、微生物的脂質産生にとって適切な画分は、実際のパルプ化工程より前に分離されるヘミセルロース材料を含む。この統合は、クラフトパルプおよび溶解パルプ工程を含む種々の種類のパルプ化工程において利用され得る。
【0059】
本発明の一実施態様において、セルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼ産生、セルロースおよび/またはヘミセルロース加水分解および発酵は、1つの工程において行われる。、これは、専用のセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼ産生を特徴とする工程と比べてより低コストかつ高効率の可能性を提供する。これは、資本、物質および他の原材料およびセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼ産生に関連する設備のコストの回避をもたらす。加えて、これはより速い加水分解速度が得られる可能性を提供し、そしてこれゆえ、リアクターの容積および設備投資を減少させる。一段階プロセスは、別個のバイオプロセス中で産生される酵素の必要性を除外または少なくとも減少させることによりコストを顕著に低減する。
【0060】
本発明のさらに別の実施態様において、従属栄養微生物は、パルプおよび/または製紙工業、例えば脱墨、剥皮などからの一次汚泥、化学パルプ、機械パルプまたは製紙の一次汚泥を使用する。一次汚泥は、パルプおよび/または製紙工業からの他の画分または残渣、例えばヘミセルロースまたはセルロースなどと組み合わされてもよい。
【0061】
脂質産生において使用される微生物は、好ましくは、例えばヘミセルロース分解が可能であるヘミセルラーゼなどの細胞外酵素を有することによってポリマーヘミセルロースを利用できるようなものである。例えばキシラナーゼ、アラビナーゼ、マンナーゼ、ガラクトシダーゼなどのヘミセルラーゼは、脂質産生工程からの使用済み(使用された)培養培地から回収され、そして、例えばパルプ漂白、パルプ脱墨、溶解パルプ作製、または繊維調成などのパルプ化工程において再使用され得る。このような酵素は、例えば真菌またはバクテリア、好ましくは、アスペルギルス オリザエ(Aspergillus oryzae)などのアスペルギルス(Aspergillus)、フミコーラ(Humicola)、クモノスカビ(Rhizopus)またはトリコデルマ(Trichoderma)属に属している真菌、または、好ましくは、ストレプトマイセス(Streptomyces)などのバクテリアなどによって産生され得る。
【0062】
本発明の別の実施態様において、ヘミセルロースおよびセルロース中のポリマー糖を利用することができる脂質産生微生物が使用される。ヘミセルラーゼおよび/またはセルラーゼは、脂質産生工程からの培養培地から回収され、そして、例えば繊維調成、リサイクル繊維の加工または脱墨などのパルプ化工程において再使用され得る。このような酵素は、例えば真菌またはバクテリア、好ましくは、例えばアスペルギルス テレウス(Aspergillus terreus)などのアスペルギルス(Aspergillus)属に属している真菌、または、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属するバクテリアなどによって産生され得る。
【0063】
本発明の好ましい実施態様によれば、パルプおよび/または製紙工業から、ヘミセルロース流または一次汚泥などの例えばパルプおよび/または製紙工場副流または残渣などから、脂質産生において産生された酵素は、微生物工程から回収され、そして、例えばパルプおよび/または製紙工場などのパルプおよび/または製紙工業において利用される。好ましくは、パルプの(前)漂白への適用のための、または溶解パルプ工程からの残余のキシランの除去のためのヘミセルラーゼ酵素は、パルプ中のセルロース繊維に影響を及ぼさないため、またはそれを分解しないために、セルロース分解活性をもたないかまたは低い活性のみを有する。例えば真菌によって、好ましくは例えばアスペルギルス オリザエ(Aspergillus oryzae)などのアスペルギルス(Aspergillus)属に属している真菌によって産生され得るこのような酵素は、油性であり、ヘミセルロースから脂質を蓄積することができる。ヘミセルラーゼ酵素の代替的な再使用適用は、それらを脂質産生工程へと戻してリサイクルすることである。
【0064】
パルプおよび/または製紙工業において酵素はまた、紙製造コストを減少させるため、または製品を改善するために使用され得る。酵素の主な使用としては、ヘミセルロース酵素(例えばキシラナーゼおよびマンナーゼ)および場合によってはラッカーゼがヘミセルロースおよび/またはリグニン除去を促進するために使用されるパルプ漂白が挙げられる。パルプ漂白における酵素の利用は、漂白用化学薬品の消費を低減し、そして、経済的および環境的両方の利益をもたらす。パルプ化工程において使用される酵素は、別個の酵素工場で産生された市販の酵素である。その場での酵素の産生は、例えば使用前の安定化などの酵素処理の必要性を低減させるので経費削減をもたらす。
【0065】
例えば脱墨の促進、クラフトパルプ化の向上、ベッセルピックの減少、発酵精錬の促進、繊維成分の選択的除去、繊維特性の調成、繊維の柔軟性の向上、および側鎖または官能基の共有結合、剥皮、抄紙機の洗浄、ならびに、ピッチおよびスライムの除去などのパルプおよび/または製紙工業においては多くの他の酵素適用がまた存在する。
【0066】
パルプ漂白、すなわち化学パルプからのリグニンの除去は、亜硫酸パルプ化後の余剰のリグニン残渣は紙を好ましくない茶色にしてしまうため、審美的理由から、および紙の特性の改良のために必要である。酵素的処理の目的は、実際の工場の状況に依存しており、そして、環境的な要求、化学薬品費の削減、または製品の質の維持もしくは向上に関連し得る。
【0067】
キシラナーゼ酵素の最も重要な適用は、クラフトパルプの前漂白にあり、そして、キシラナーゼは、有毒な塩素含有化学薬品への代替として重要性を増している。キシラナーゼによる化学パルプの処理は、漂白化学薬品の消費の節約、環境的負荷の減少、および/またはパルプの最終的な明るさの向上をもたらす。主な推進力は、酵素が植物の漂白にもたらす経済的および環境的な優位性であった。キシラナーゼはまた、パルプ化において個々の繊維に分離しなかった、シャイブ、繊維の除去にもまた使用され得る。
【0068】
キシラナーゼは溶解パルプ工程における残余のキシランを除去するためのセルロースパルプの工程において使用され得る。酵素は、セルロースに影響を与えることなくヘミセルロース画分を選択的に分解することができる。一度、ヘミセルロースがヘミセルラーゼによって除去されると、リグニンは、例えばラッカーゼなどの酵素によってより容易に除去および分解可能である。クラフトパルプの脱リグニン化を向上させるために必要な主な酵素は、エンド−β−キシラーゼであるが、マンナーゼ、リパーゼおよびα−ガラクトシダーゼなどの他の酵素の富化が、クラフトパルプの酵素的処理の効果を向上させることが示されている。キシラナーゼ酵素は、酸化薬品の必要性を20〜40%減少させ得る(Begら、2001)。得られた酵素調製物は、いかなるセルラーゼ活性をも含んでいてはならない。加えて、高温およびアルカリ性のpHにおいて活性かつ安定であるキシラナーゼが好ましい(Begら、2001)。アルカリ耐性である酵素が、パルプ漂白におけるpHの調整なしで機能し得るという点から好ましい(Bajpai、2004)。
【0069】
キシラナーゼを産生するための、とりわけパルプ漂白のための好ましい微生物は、アスペルギルスおよびトリコデルマ(Trichoderma)種である真菌のキシラナーゼ、および、バチラス(Bacillus)種、ストレプトマイセス(Streptomyces)種およびクロストリジウム(Clostridium)種のバクテリアのキシラナーゼである。これらの属のうち、とりわけアスペルギルスおよびストレプトマイセスは、油性種、すなわち適切なまたは最適化された条件下で培養された場合に相当量の脂質(細胞の乾燥重量の>15%)を蓄積することのできる種を含む。
【0070】
本発明によれば、パルプおよび/または製紙工業からの原材料上で培養された場合、微生物はそれらの細胞の乾燥重量に対して少なくとも3%(w/w)、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%の脂質を産生および蓄積できる。
【0071】
酵素はまた、パルプの繊維調成において、とりわけ機械パルプ化工程のパルプ精製において使用され得る。繊維の酵素的調成は、熱機械パルプの産生におけるエネルギー消費の低減および化学パルプの叩解性の増加または繊維特性の向上を目的とする。
【0072】
キシラナーゼおよびペクチナーゼ酵素は、剥皮を促進させるために使用され得、そして、剥皮工程において顕著なエネルギー消費量をもたらし得る。
【0073】
低濃度のキシラーゼおよびセルラーゼ酵素の混合物が、実質的な収率低下を伴うことなしに、リサイクル繊維の叩解度を顕著に増加させることが発見された。
【0074】
溶解パルプは、例えば酢酸塩、セロファンおよびレーヨンなどのセルロース材料を製造するために使用され得る。それらの製造は、誘導化、およびしたがって高度に精製されたセルロースの可溶化によって特徴付けられる。パルプからのヘミセルロースの除去は、例えば亜硫酸パルプ化および酸前処理されたクラフトパルプ化などの、大量の腐食剤および適切なパルプ化条件の使用を必要とする。溶解パルプ工程におけるキラナーゼ処理は、腐食性の抽出のあいだに必要とされる化学薬品量を減少させ、クラフトパルプからのヘミセルロース抽出を容易にするかもしれない。
【0075】
パルプ脱墨化において、酵素は二次的繊維を高品質な製品へと転換するために使用され得る。脱墨において利用される酵素としては例えば、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ラッカーゼ、エステラーゼおよびペクチナーゼが挙げられ得る。
【0076】
リパーゼは、製紙機械中で操作上の問題を引き起こす、パルプ化中のピッチの除去に使用され得る。例えばレバン加水分解酵素、アミラーゼおよびプロテアーゼなどの特定の酵素がまた、製紙機械中のスライムを洗浄しそして減少させるために使用され得る。
【0077】
ヘミセルロースは木質材料中比較的大きな画分を占めており、典型的には木材種に依存して木質材料の20〜40重量%である。ヘミセルロースはパルプ化工程中でセルロースから分離され、そして、最終的なパルプ製品は、工程に依存して、全くヘミセルロースを含んでいないか、非常に少量しか含まない。脂質産生工程を従来のクラフトパルプ工程と統合するために、追加のヘミセルロース分離ユニット工程が、実際のパルプ化工程の前に必要とされる。このようなユニット工程は、リグノセルロース系材料からヘミセルロースを分離する任意の工程であり得、例えば、これらに限定されるわけではないが、加圧熱水抽出(熱水処理)、酸処理、またはオルガノソルブ(organosolv)処理などである。
【0078】
ヘミセルロース抽出(例えば酸処理など)をともなうパルプ溶解工程またはクラフト工程などの従来技術工程である溶解パルプ工程の場合、工程は、発酵可能な糖類を含むヘミセルロースおよびリグニン流を生じ、そして脂質産生工程はパルプ化工程により容易に統合され得る。
【0079】
パルプ化に先立つ、リグノセルロースからのヘミセルロースの抽出または分離方法は、任意の公知の方法で行われ得る。好ましくは、ヘミセルロースの分離は、可能な精製および濃縮の後、脂質産生微生物の増殖を阻害しないような加水分解物を産生する方法によって行われる。好ましくは、前記方法は、少なくとも一部がオリゴマーの形状である糖を含むヘミセルロース画分を提供する。本発明の一実施態様は、ヘミセルロースを抽出するために加圧熱水抽出を使用するものである。ヘミセルロースに加えて、加圧熱水抽出は、発酵において好ましいかもしれず、そして培養培地中への無機物の添加の必要性を低下し得る無機物をリグノセルロース系材料から除去する。
【0080】
例えばオルガノソルブ処理におけるまたは使用済み亜硫酸液中などの、特定の前処理適用において、顕著な量のヘミセルロースおよびリグニンの両方が固体のまま維持されているパルプ画分から可溶化され得る。これらの場合、ヘミセルロース糖およびリグニンの分離は、嫌気性微生物的脂質産生工程の前が好ましい。ヘミセルロース糖からのリグニン画分の分離は任意の公知の方法によってなされ得る。オルガノソルブ処理において、リグニンの除去は、有機溶媒(エタノール、メタノール、アセトン、酢酸、ギ酸、酢酸エチルなど)のリグニンを可溶化しそしてヘミセルロース画分を加水分解する直接的な作用によって促進される。ヘミセルロース加水分解物からリグニンを分離するための一般的な方法は、リグニンの沈殿を導く水を添加することである。
【0081】
ヘミセルロース加水分解生成物は、微生物の供給の前に種々のユニット操作で処理される必要がある。リグニン残渣からのリグニンの分離が必要とされるかもしれない。ヘミセルロース加水分解生成物中の糖は、例えば水のエバポレーションによってなどで濃縮される必要があるかもしれない。さらに、前処理において遊離される例えば酸(有機酸)などの有機化合物、または、加水分解において使用された、例えばアルコールもしくは酸などの溶媒、または例えばSO2などの他の化合物を取り除くことが必要かもしれない。例えば、これらに限定はされないが、水蒸気ストリッピング、エバポレーションまたは蒸留などの方法が使用されてもよい。これらのエバポレーション、蒸留またはストリッピングの工程は、パルプ化工程からのプロセス熱およびプロセス流を利用することができる(リグニンの燃焼)。プロセス熱の使用は、通常パルプ工場が、利用され得ない過剰の熱を生成することから有利である。加えて、糖はろ過または膜技術もしくは適用によって濃縮される必要があるかもしれない。例えば、ヘミセルロース中のオリゴマー糖は膜ろ過によって濃縮され得る。ヘミセルロース加水分解物は、微生物へ供給する前にさらに精製される必要があるかもしれない。阻害性の化合物を除去するための加水分解物調整方法としては、沈殿、ろ過、ストリッピングもしくは吸着または酵素処理などが挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0082】
記載される発明は、これらに限られるわけではないが例えば、針葉樹(例えばマツ、トウヒなど)、広葉樹(例えばユーカリ、カバ、アスペン、ポプラ、オーク)、竹、稲わら、大麦わら、麦わら、トウモロコシ茎葉、油やし、空の果房、および、バガスなどを含む任意の材料またはそれらの混合物を使用するパルプ化工程に適用可能である。好ましくは、リグノセルロース系材料からのヘミセルロース画分は、脂質産生のための原材料として使用される。本発明は、脂質産生のための原材料として、ヘミセルロース流、またはその任意の画分の利用に限られるわけではなく、セルロースを含有流、その任意の画分、および/または脂質産生のために適切である他の化合物もまた使用され得る。脂質産生工程はまた、パルプおよび/または製紙工業からの廃棄物繊維または一次汚泥などの、パルプおよび/または製紙工業からの他の供給流も利用することができる。例えば、ヘミセルロースフィードは、パルプおよび/または製紙工業からの他の供給流によって補充され得る。加えて、脂質産生工程はパルプおよび/または製紙工業からもの以外の他の原材料、例えば、農業残渣、エネルギー作物、紙くず、藻類バイオマス、食品工業からの残渣、都市固体有機廃棄物、厨房機関からのバイオ廃棄物、でんぷん(コーンスターチ、小麦のでんぷん、じゃがいものでんぷん、キャッサバでんぷんなど)またはサトウキビもしくはサトウダイコンからの糖蜜などの糖などのリグノセルロース系材料などで補充され得る。脂質産生のための原材料はまた、製紙工程において使用される、例えばでんぷんまたはその残渣などの添加物である原材料を含み得る。
【0083】
本発明の好ましい実施態様によれば、パルプ化工程からのまたはパルプ化工程に先立って分離された、ヘミセルロース流が、微生物による脂質産生のために利用される。また、パルプ化工程において製造されたヘミセルロースの発酵可能な画分が、本発明の範囲内である。脂質産生のため、ヘミセルロース由来の糖を利用することのできる微生物が利用される。微生物は、脂質を蓄積および/または産生することのできる任意の生物(油性微生物)であり得る。このような微生物は、従属栄養的または混合栄養的に増殖することのできるバクテリア、酵母、糸状菌類(カビ)または藻類である。
【0084】
微生物は、増殖および脂質産生のためリグノセルロース系バイオマス由来のヘミセルロース加水分解物中に含まれる例えば有機酸などの糖以外の他の化合物を利用し得るかもしれない。微生物はまた、増殖および脂質産生のために、ヘミセルロース抽出で試薬として添加された、例えば有機酸またはアルコールなどの化合物も利用し得る。少量の、典型的には0.01〜10%のこれら化合物は、これらの試薬の大部分が除去された後も加水分解物中に残存しているかもしれない。これらの化合物の存在は脂質産生の微生物的工程にとって有利であるかもしれない。
【0085】
ヘミセルロース中の糖は、脂質産生のためにモノマーおよび/またはオリゴマーの形状であり得る。本発明のある最も好ましい実施態様において、糖は主にオリゴマーの形状である。典型的には、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の量の糖が、オリゴマーおよび/またはポリマーの形状である。
【0086】
本発明のある最も好ましい実施態様において、脂質産生工程は、例えばヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、アラビナーゼ、マンナーゼまたはガラクトシターゼなどの、細胞外酵素によってポリマー糖を利用することのできる微生物を利用する。本発明において使用される微生物は、例えば広葉樹中のガラクトグルコマンナンおよび針葉樹中のキシラン、および麦わらなど草木材料中の(アラビノ)キシランなどを含む木質材料などの種々の材料からのオリゴマーヘミセルロース糖を分解および利用することのできる酵素を有するか、または産生することができる。微生物によって産生されるポリマー糖分解細胞外酵素は、使用済み培養培地から濃縮または回収され得、そして、希釈物としてまたはプロセス水としてパルプ化工程において再使用され得る。ヘミセルロースは、例えばパルプ漂白および繊維調成においてなど、パルプ化工程において広範囲に使用される。パルプ漂白の目的のためには、ヘミセルラーゼが熱的に安定かつアルカリのpHに耐性であることが好ましい。これは、酵素的処理の前の、パルプ流の冷却およびpH調整の必要性を低下させ、工程を簡素化し、そして、資本および操作コストの節約をもたらし得る。
【0087】
パルプおよび/または製紙工業は、工程に依存して、セルロースおよび/またはヘミセルロースなどのポリマー糖を含む、様々な廃棄物または残渣流を産生する。パルプおよび製紙工場プラントで使用される主な廃棄水処理工程は、固形物が除去される一次沈殿(sedimentation)(浄化(clarification)、沈降(settling))である。これは、排水の一次処理とみなされており、そして、生成される固体は一次汚泥として知られている。一次汚泥は通常、オリゴマーセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンおよび/または無機化合物を含む。一次汚泥は、微生物による脂質産生にとって適切な原材料である。本発明によれば、パルプおよび/または製紙工業からの一次汚泥は、微生物による脂質産生のために使用される。一次汚泥は、糖の生分解性を改善するために前処理されてもよく、また、リグニンまたはリグニンの残渣、無機化合物、または阻害化合物の量を減少させるためにバイオプロセスへ供給させる前に処理されてもよい。
【0088】
本発明の好ましい実施態様において、脂質、および、ポリマー糖を加水分解することのできる酵素を産生することができるような微生物が使用される。使用された培養培地から富化されたおよび/または回収されたかかる酵素がパルプおよび/または製紙工業工程において使用され得る。
【0089】
パルプおよび/または製紙工業からの一次汚泥としては、例えば、脱墨、剥皮、化学パルプ化、機械またはセミケミカルパルプ化、および繊維調成一次汚泥などが挙げられる。化学パルプ化一次汚泥としては、クラフトパルプ工程一次汚泥および溶解パルプ工程一次汚泥が挙げられる。機械パルプ化一次およびセミケミカルパルプ化一次汚泥としては、砕木パルプ(SGW)、圧力砕木パルプ(PGW)、リファイナーパルプ(RMP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP)工程からのものが含まれる。脱墨工程一次汚泥は、リサイクル繊維を使用する製紙工場から生まれるものであり、汚泥は、セルロース繊維に加えて、染料、着色料、接着剤、凝集剤ならびに紙充填材および他の無機添加物を含み得る。汚泥は典型的には、微生物の脂質産生工程へ供給する前に繊維からの無機成分の少なくとも部分的な分離を必要とする。製紙工場からの一次汚泥は、セルロース繊維に加えて例えば粘土、炭酸カルシウム、タルクおよび二酸化チタンなどの製紙充填材を含む。典型的には、これらの無機化合物の少なくとも部分的な分離が、微生物的脂質産生工程への供給には必要である。
【0090】
本発明の一実施態様において、微生物脂質産生工程は、リサイクル繊維工程(リサイクルパルプ工程)へ統合される。例えば脱墨汚泥などのパルプおよび/または製紙工業工程からの一次汚泥は、微生物による脂質産生のための原材料として使用される。脱墨汚泥は、バイオプロセスへの供給前に無機化合物または有機または無機阻害化合物の量を減少させるために処理されてもよい。脱墨汚泥は、パルプおよび/または製紙工業から、または例えば農業からのリグノセルロース系残渣、エネルギー作物、微細藻類、糖料作物、でんぷん、スクロースまたは糖蜜などの他からの別の原材料で補充され得る。少なくともある量の一次汚泥、または、例えば脱墨などのリサイクル繊維工程からの他の有機残渣を使用する微生物工程は、回収されそしてバイオ燃料へ転換され得る脂質、および、例えばポリマー糖を加水分解できる酵素を産生する。使用済み培養培地からの酵素は回収および/または富化され、そして、例えばリサイクル繊維工程、紙の脱墨においてなど、パルプおよび/または製紙工業工程において再使用され得る。回収された酵素はまた、パルプおよび製紙工業工程の任意の部分で使用されてもよく、また、販売されそして任意の他の工程において使用されてもよい。
【0091】
ポリマー糖を加水分解することのできる、使用済み培養培地中の酵素としては、使用される微生物に依存して例えばセルローゼおよび/またはヘミセルラーゼが挙げられる。好ましくは、セルラーゼおよびヘミセルラーゼの両方が使用済み培養培地中に含まれる。一次汚泥からの脂質産生工程は、パルプおよび/または製紙工業工程から、または、例えば、農業残渣、食品工業残渣またはリグノセルロースバイオマスまたはでんぷんまたは糖蜜などの他の場所からの原材料からの他の残渣で補充され得る。
【0092】
細胞外酵素は、パルプ製造のために使用される同じ材料から抽出されたヘミセルロースを微生物に供給することによってその場で産生される。したがって、その場で産生される細胞外酵素は、その場でのパルプ漂白に非常に適している。
【0093】
本発明の一実施態様において、パルプまたはパルプおよび/または製紙工業流の、パルプおよび/または製紙工業工程における酵素による処理から生じる上澄みは、微生物脂質産生工程へ戻されてリサイクルされる。上澄みは、脂質産生微生物の増殖および脂質産生に好都合である化合物を含み得る。例えば、上澄みは、微生物の増殖および脂質産生に適切である糖、微生物の増殖のための無機物、および/またはポリマー糖を加水分解する酵素を含み得る。本発明の一実施態様において、例えばヘミセルラーゼを用いた処理など、パルプの酵素的前漂白から得られる上澄みは、脂質産生工程へと戻されてリサイクルされる。別の実施態様において、パルプ中のヘミセルロースを除去するための溶解バルブの酵素的処理からの上澄みは、、脂質産生工程へと戻されてリサイクルされる。上澄みは、脂質産生工程へと供給されるまえに、濃縮され、および/またはタンパク質画分が収集されてもよい。
【0094】
本発明の一実施態様において、糖オリゴマーまたはポリマーを脂質産生のために利用することのできない微生物もまた使用され得、そして本発明の範囲内である。この場合、パルプおよび/または製紙工業からの、例えばヘミセルロース、一次汚泥または廃棄繊維などからの原材料は、糖モノマーとして脂質産生工程へと供給される。ヘミセルロースポリマーのモノマーへの加水分解は、ヘミセルロース抽出法によって、または糖ポリマーを加水分解することのできる酵素の添加によって起こりうる。原材料中のヘミセルロースおよび/またはセルロースの酵素的加水分解は、オイル蓄積から分離された工程段階において、またはいわゆる糖化および発酵同時アプローチによりオイル蓄積のあいだに同時に行われ得る。
【0095】
さらに、種々の微生物(2つまたはそれ以上)がポリマー糖の加水分解のため、および糖モノマーから脂質を産生するために使用される実施態様が本発明の範囲内である。このような工程は、工程が、ポリマー有機化合物(例えばヘミセルロースまたはセルロース)を加水分解(脱重合)することができる第一の微生物、例えば糸状真菌、酵母またはバクテリア種を含み、そして、得られた加水分解生成物をその増殖および発酵油脂産生のために使用することのできる例えば酵母、バクテリア、藻類または糸状真菌種などの第二の微生物を含むことを特徴とする。このような工程段階は、逐次工程としてもまたは並行的にもどちらででも組み込まれ得る。ポリマー有機化合物を加水分解することのできる微生物種は、このような化合物を加水分解する能力を有する酵素を使用することによって置き換えることができる。酵素処理は、発酵油脂の微生物による産生に先立ってまたは並行して行われ得る。2つまたはそれ以上の種を用いたバイオプロセスの操作は、これらに限定されるわけではないが、例えば、共培養物としての同時に同じバイオリアクター中における操作、またはヘミセルロース加水分解および脂質産生のプロセス段階を時間および空間的に分離することなどを含む任意の方法によって行われ得る。本発明によればどの場合においても、糖ポリマーの加水分解に関与する酵素は、培養培地から回収されそしてパルプ化工程において再使用され得る。
【0096】
脂質産生工程は、また、機械パルプ化工程と一体化され得る。脂質産生は、例えばパルプ化のあいだに生成された水に可溶な物質などの残渣を原材料として使用し得る。水溶性残渣は一般的に、例えばアセチル化されたガラクトグルコマンナンなどのヘミセルロース成分を含む。脂質産生工程は、パルプおよび/または製紙工業工程から、または、例えば、農業残渣、食品工業残渣またはリグノセルロース系バイオマスまたはでんぷんまたは糖蜜などの他の場所からの別の残渣で補充され得る。脂質産生において産生された酵素は、これらに限定されるわけではないが、例えば、木質チップの前処理、または繊維調成もしくは漂白などの機械パルプ化において再使用され得る。機械パルプ化工程からの残渣を用いた脂質産生において産生される酵素もまた回収され、そして、例えば化学パルプ化などの他のパルプ化工程において、または化学パルプ化工程からの生成物の処理において再利用され得る。
【0097】
いくつかの油性微生物は、例えばキシラン中のキシロース、またはアラビノキシラン中のキシランおよびアラビノース、またはガラクトグルコマンナン中のマンノース、ガラクトースまたはグルコースなどのヘミセルロース中の糖モノマーを利用することができる。脂質産生生物は上記の化合物の1つまたはいくつかを利用できる。脂質産生生物は、バクテリア、シアノバクテリア、例えば酵母およびカビなどの真菌(糸状菌類)、古細菌または微細藻類の群より選択される。微生物は脂質を容易に蓄積することができるか、または、脂質を蓄積するようにまたは脂質の蓄積を向上させるように遺伝子組み換えされ得る。脂質産生生物としては、以下の生物が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0098】
ドナリエラ(Dunaliella)、クロレラ(Chlorella)、ボツリオコッカス(Botryococcus)、ブラキオモナス(Brachiomonas)、クロロコッカム(Chlorococcum)、クリプテコジウム(Crypthecodinium)、ユーグレナ(Euglena)、ヘマトコッカス(Haematococcus)、クラミドモナス(Chlamydomonas)、イソクリシス(Isochrysis)、プレウロクリシス(Pleurochrysis)、パブロバ(Pavlova)、プロトテカ(Prototheca)、フェオダクチラム(Phaeodactylum)、シュードクロレラ(Pseudochlorella)、パラクロレラ(parachlorella)、ブラクテアコッカス(Bracteococcus)、イカダモ(Scenedesmus)、スケレトネマ(Skeletonema)、キートセロス(Chaetoceros)、ニッチア(Nitzschia)、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)、ナビクラ(Navicula)、ナンノクロリス(Nannochloris)、シゾキトリウム(Schizochytrium)、スケレトネマ(Sceletonema)、スラウストキトリウム(Thraustochytrium)、ウルケニア(Ulkenia)、テトラセルミス(Tetraselmis)およびシネコシスティス(Synechocystis)を含む属に属する微細藻類種。
【0099】
アスペルギルス(Aspergillus)、クサレケカビ(Mortierella)、ケタマカビ(Chaetomium)、麦角菌(Claviceps)、クラドスポリウム(Cladosporium)、クスダマカビ(Cunninghamella)、エメリセラ(Emericella)、フザリウム(Fusarium)、グロムス(Glomus)、ケカビ(Mucor)、ペシロマイセス(Paecilomyces)、アオカビ(Penicillium)、フハイカビ(Pythium)、クモノスカビ(Rhizopus)、トリコデルマ(Trichoderma)、ジゴリンクス(Zygorhynchus)、フミコーラ(Humicola)、クラドスポリウム(Cladosporium)、マルブランキア(Malbranchea)、黒穂菌(Ustilago)を含む属に属する糸状菌類種。
【0100】
クラビスポラ(Clavispora)、デバリオミケス(Deparyomyces)、パチソレン(Pachysolen)、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、ガラクトマイセス(Galactomyces)、ハンゼヌラ(Hansenula)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、ウォルトマイセス(Waltomyces)、エンドミコプシス(Endomycopsis)、クリプトコッカス カルバタス(Cryptococcus curvatus)などのクリプトコッカス(Cryptococcus)、ロドスポリジウム トルロイデス(Rohodosporidium toruloides)などのロドスポリジウム(Rhodosporidium)、ロドトルラ グルチニス(Rhodotorula glutinis)などのロドトルラ(Rhodotorula)、ヤロウイア リポリティカ(Yarrowia lipolytica)などのヤロウイア(Yarrowia)、ピキア スティピティス(Pichia stipitis)などのピキア(Pichia)、カンジダ クルバータ(Candida curvata)などのカンジダ(Candida)、リポマイセス スターケイ(Lipomyces starkeyi)などのリポマイセス(Lipomyces)、および、トリコスポロン クタネウム(Trichosporon cutaneum)またはトリコスポロン プルランス(Trichosporon pullulans)などのトリコスポロン(Trichosporon)属に属している酵母。
【0101】
アシネトバクター(Acinetobacter)、アクチノバクター(Actinobacter)、アルカニボラックス(Alcanivorax)、アエロゲネス(Aerogenes)、アナベナ(Anabaena)、アルスロバクター(Arthrobacter)、バチラス(Bacillus)、クロストリジウム(Clostridium)、ディエジア(Dietzia)、ゴードニア(Gordonia)、エシェリキア(Escherichia)、フレキシバクテリウム(Flexibacterium)、マイクロコッカス(Micrococcus)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、ノカルディア(Nocardia)、ネンジュモ(Nostoc)、オシラトリア(Oscillatoria)、シュードモナス(Pseudomonas)、ロードコッカス(Rhodococcus)、ロードマイクロビウム(Rhodomicrobium)、ロードシュードモナス(Rhodopseudomonas)、シュワネラ(Shewanella)、シゲラ(Shigella)、ストレプトマイセス(Streptomyces)およびビブリオ(Vibrio)属に属しているバクテリア。最も好ましくは、ロードコッカス オパカス(Rhodococcus opacus)、アシネトバクター(Acinetobacter)、ノカルディア(Nocardia)、またはストレプトマイセス(Streptomyces)を含む。
【0102】
本発明の好ましい実施態様において、ポリマーヘミセルロースまたはセルロースを細胞外酵素(例えばヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、ガラクトシダーゼ、またはマンナーゼ、またはセルラーゼ)によって利用することのできる油性脂質産生生物が使用される。これらの生物としては、ストレプトマイセスまたはバチラスなどのバクテリア、A.ニガー(A. niger)、A.テレウス(A. terreus)、A.オリザエ(A. oryzae)、A.ニデュランス(A. nidulans)、F.オキシスポルム(F. oxysporum)、ファネロカエテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、リゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)またはトリコデルマ リーゼイ(Trichoderma reesei)などの例えばアスペルギルス(Aspergillus)、セファロスポリウム(Cephalosporium)、フザリウム(Fusarium)、フミコーラ(Humicola)、アオカビ(Penicillium)、ファネロカエテ(Phanerochaete)、クモノスカビ(Rhizopus)、またはトリコデルマ(Trichoderma)などの糸状菌類(filamentous fungi)、クリプトコッカス アルビダス(Cryptococcus albidus)またはトリコスポロン クタネウム(Trichosporon cutaneum)などの例えばクリプトコッカス(Cryptococcus)またはトリコスポロン(Trichosporon)などの酵母(yeasts)が例えば挙げられるが、これらに限定されるわけではない。ヘミセルロースまたはセルロース中のポリマー糖を利用することができるように遺伝子組み換えされている油性微生物もまた、本発明の一部分である。さらに、脂質の産生が向上するように遺伝子組み換えされた、ヘミセルロースまたはセルロース中のポリマー糖を利用することができる生物もまた本発明に含まれる。
【0103】
本発明の最も好ましい実施態様において、リグノセルロース中のポリマー糖、とりわけヘミセルロースを利用できる脂質産生生物が使用される。このような生物は好ましくは、以下の属、糸状真菌アスペルギルス、フミコーラ、クモノスカビ、トリコデルマ、酵母クリプトコッカス、または、バクテリアのストレプトマイセスからのものである。
【0104】
ヘミセルラーゼ以外の酵素
ヘミセルラーゼは、パルプおよび/または製紙工業において適用される主な酵素である。また、パルプおよび/または製紙工業工程における脂質産生工程からのヘミセルラーゼ以外の他の酵素の回収および利用もまた、本発明の範囲に含まれる。このような酵素としては例えば、セルラーゼ、ラッカーゼ、ペクチナーゼ、リパーゼ、アミセルラーゼ、エステラーゼおよびプロテアーゼなどが挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0105】
本発明の別の特徴は、ヘミセルロースのパルプ化または前抽出、(過)漂白、一次汚泥中に製造または放出される、または、他のパルプおよび/または製紙工業残渣に含まれるリグニンまたはその画分の少なくとも一部分が、リグニンの分解、修飾、または構造的変化が可能である酵素を産生するために使用されることである。このような酵素は、これらに限定されるわけではないが、例えば、パルプ(前)漂白、パルプ脱墨、化学パルプ化に先立つリグノセルロースの処理、溶解パルプ調製、剥皮または繊維調成などのいくつかの適用において使用され得る。
【0106】
本発明の別の特徴は、セルロースを分解することのできる酵素を産生するためにセルロース画分(パルプ)の少なくとも一部分を利用することである。このような酵素は、例えば繊維調成またはパルプ剥皮などにおいて使用され得る。セルラーゼの産生は、セルラーゼ活性を有することによってセルロースを利用することのできる油性微生物を使用することにより行われ得る。したがって、脂質およびセルラーゼの産生は、脂質およびヘミセルラーゼの産生と同様に組み合わされることが可能である。
【0107】
本発明のさらに別の特徴は、パルプおよび製紙工業流からペクチナーゼを産生することである。ペクチナーゼの産生は、脂質産生と組み合わされることができる。ペクチナーゼは、例えば、繊維調成、パルプ脱墨、剥皮または柔軟繊維の発酵精錬などに使用され得る。
【0108】
産生生物による細胞外酵素の産生は、外部で酵素を購入する必要性を減少させ、全体的な工程の経済効率を改善する。同じ場所での酵素の利用は、酵素の精製および安定化に起因するコストを減少させる。代わりに、酵素は回収され、精製され、そして安定化され、そして、高価値な副生産物として外部に販売され得る。
【0109】
脂質産生工程
微生物的な脂質産生は、任意の公知の方法または将来において開発される方法で行われ得る。典型的には、微生物的脂質産生工程は、好気性バイオリアクター中の微生物の液内培養での培養を含む。微生物は、例えばヘミセルロース糖などの炭素源およびエネルギー源ならびに主要または微量栄養素を含む液体培養培地中で増殖される。培養は、例えば回分培養、流加回分培養、連続培養などで行われ得る。培養はまた、カスケード法で行われてもよい。培養において、微生物は増殖され、そして、細胞内に脂質が蓄積される。一部の微生物は脂質を培養培地へと分泌することができる。
【0110】
微生物脂質産生工程は、遊離水の量が少ないか、または産生が固体または半固体表面上で行われる反応器中でもまた行われ得る。水に溶解しない細胞マスまたは他のバイオマスは、酵素を溶解可能な形状で得るために水溶液を用いて抽出され得る。
【0111】
本発明の様々な実施態様において、オイル、またはオイルのための前駆物質は、細胞バイオマスまたは培養物ブロースから、当該技術において公知のまたは将来において開発される、任意の方法を用いて回収され得る。例えば、微生物は、ろ過または傾斜法を用いることによって培養培地から分離されてもよい。代わりに、大容積容量の工業規模の工業用遠心分離器を用いた遠心分離が、所望の製品を分離するために使用されてもよい。
【0112】
本発明の様々な実施態様において、バクテリア細胞は、オイルおよび他の成分の分離を促進するために破砕されてもよい。例えば超音波処理、浸透圧ショック、機械的せん断力、コールドプレス、熱衝撃、酵素触媒のまたは自立の自己消化などの、細胞破砕のための公知の任意の方法が使用され得る。オイルは有機溶媒を用いた抽出によって、また、公知のまたは将来において開発される任意の方法によって細胞から回収され得る。
【0113】
脂質以外の他の生成物
パルプ化工程における酵素の回収および/または再利用に続いての、パルプ化工程からの原材料または残渣由来のヘミセルロースおよび/またはセルロースからの、脂質以外の他の化合物の微生物的産生物は、本発明の一部である。このような生成物としては、アルコール、エタノール、ブタノール、アセトン−ブタノール−エタノール(ABE)、イソブタノール、2,3−プロパンジオール、乳酸およびコハク酸の微生物的産生物が挙げられる。
【0114】
記載される方法を用いて産生される脂質または脂質画分の目的は、いかなる特定の適用にも制限されるものではない。脂質は、これらに限定されるわけではないが例えば、食品または食品目的に、料理用に栄養補助食品として、石鹸または洗剤の製造に、化粧品の製造のために化学薬品または化学薬品の製造のための原材料として、バイオ燃料として、またはバイオ燃料製造のための原材料として、または潤滑剤として、潤滑剤(潤滑油)のためのベースオイルとして、または、潤滑剤のためのベースオイルの製造のための出発物質として使用され得る。
【0115】
好ましくは、本発明において記載される方法を用いて微生物バイオマスから回収される脂質は、バイオディーゼル、再生可能ディーゼル、ジェット燃料またはガソリンの製造のためのフィードストックとして使用され得る。バイオディーゼルは脂肪酸メチルエステルを含み、そして、典型的にはエステル交換によって製造される。エステル交換において、アシルグリセロールは長鎖脂肪酸アルキル(メチル、エチルまたはプロピル)エステルへと変換される。再生可能なディーゼルとは、脂質の水素処理(水素脱酸素化、水素化または水素化処理)によって製造される燃料を意味する。水素処理において、アシルグリセロールは対応するアルカン(パラフィン)へと変換される。アルカン(パラフィン)はさらに異性化によってまたは他の代替の工程によって修飾され得る。再生可能なディーゼルの製造工程はジェット燃料および/またはガソリンを製造するためにもまた使用され得る。加えて、脂質のクラッキングがバイオ燃料を製造するために行われてもよい。さらに、脂質は特定の適用においては直接的にバイオ燃料として使用され得る。
【0116】
「バイオ燃料(biofuel)」は、主にバイオマスまたはバイオ廃棄物由来の固体、液体、ガス状の燃料を意味し、有史以前の微生物、植物および動物の有機遺物由来である化石燃料とは異なる。
【0117】
EU指令(directive)2003/30/EUに従えば、「バイオディーゼル(biodiesel)」は植物油または動物油から製造されるメチルエステルであって、バイオ燃料として使用されるディーゼル品質のものを意味する。より広義には、バイオディーゼルは、ディーゼル品質の、植物油または動物油由来の、例えばメチル、エチルまたはプロピルエステルなどの、長鎖アルキルエステルを意味する。バイオディーゼルは微生物脂質からもまた製造されることができ、ここで微生物脂質は、バクテリア、真菌(酵母またはカビ)、藻類または別の微生物起源であり得る。
【0118】
「再生可能ディーゼル(renewable diesel)」とは、動物、植物もしくは微生物起源の脂質またはそれらの混合物の水素処理によって製造される燃料を意味し、ここで微生物脂質は、バクテリア、真菌(酵母またはカビ)、藻類または別の微生物起源であり得る。再生可能ディーゼルはまた、ガス化およびフィッシャー−トロプシュ合成によりバイオマスに由来するワックスから製造され得る。任意には、水素処理に加えて、異性化または他の処理工程が行われてもよい。再生可能ディーゼル製造方法はまた、ジェット燃料および/またはガソリンの製造に使用され得る。再生可能ディーゼルの製造は、欧州特許第1396531号明細書、欧州特許第1398364号明細書、欧州特許第1741767号明細書および欧州特許第1741768号明細書の特許文献に記載されている。
【0119】
バイオディーゼルまたは再生可能ディーゼルは、鉱油ベースのディーゼルと混合されてもよい。適切な添加物、例えば防腐剤および酸化防止剤などが燃料製品に添加されてもよい。
【0120】
「潤滑剤(lubricant)」とは、例えばグリース、脂質またはオイルなどの、可動部への表面コーティングとして適用された場合に摩擦を減少させる物質を意味する。潤滑剤の他の2つの主な機能は、熱の除去および不純物を溶解させることである。潤滑剤の適用の例としては例えば、内燃エンジン内におけるエンジンオイルとしての使用、燃料中への添加物、例えばポンプおよび油圧装置などのオイル駆動機器における使用、または、種々のタイプの軸受部における使用などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。典型的には潤滑剤は、75〜100%のベースオイルを含み、そして、残りは添加物である。適切な添加物としては例えば、界面活性剤、貯蔵安定剤、酸化防止剤、腐食防止剤、曇り防止剤、抗乳化剤、消泡剤、共溶媒および潤滑性添加物(例えば米国特許第7,691,792号明細書などを参照のこと)が挙げられる。潤滑剤のためのベースオイルは鉱物油、植物油、動物油起源、または、バクテリア、真菌(酵母またはカビ)、藻類または別の微生物起源であり得る。ベースオイルはまた、バイオマスに由来するワックスからガス化およびフィッシャー−トロプシュ合成により生じ得る。粘度指数がベースオイルを特徴付けるために使用される。典型的には高い粘度指数が好ましい。
【0121】
用語「脂質(lipid)」は、脂肪性物質であって、その分子が一般的に、脂肪族炭化水素鎖を部分的に含み、非極性有機溶媒に溶解するが水には溶解しにくい物質を意味する。脂質は生体細胞における巨大分子の不可欠な一群である。脂質としては例えば、脂肪、オイル、ワックス、ろうエステル、ステロール、テルペノイド、イソプレノイド、カロテノイド、ポリヒドロキシアルカノエート、核酸、脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪酸エステル、リン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質、および、アシルグリセロールが挙げられる。
【0122】
用語「アシルグリセロール」とは、グリセロールおよび脂肪酸のエステルを意味する。アシルグリセロールは天然に脂肪および脂肪油として存在する。アシルグリセロールの例としては例えば、トリアシルグリセロール(TAGs、トリグリセリド)、ジアシルグリセロール(ジグリセリド)およびモノアシルグリセロール(モノグリセリド)が挙げられる。
【0123】
「使用済み培養培地(spent cultivation medium)」または「使用済み培養培地(spent culture medium)」とは微生物の培養において使用され、そして、微生物によって蓄積された産生物を含む培地を意味する。より広義には、使用済み培養培地は、培養のあいだまたは後に微生物培養から取り出された培養培地の画分として規定され得る。使用済み培養培地はまた、使用済み培養ブロース(spent cultivation broth)とも称され得る。
【0124】
オイルが抽出された細胞残渣は、例えば燃焼される、もしくは嫌気性分解方法で処理されるなど、エネルギー産生に使用されるか、または、動物飼料として利用され得る。オイルが抽出された細胞残渣または細胞残渣の留分はまた、栄養源として使用されるべく培養工程へとリサイクルされてもよい。
【0125】
本明細書中に記載される発明は、これらに限定されるわけではないが例えば、クラフト工程、溶解パルプ工程またはオルガノソルブ工程などを含む任意のパルプ化工程へ適用され得る。溶解パルプ工程の場合、ヘミセルロース抽出(例えば酸処理)をともなう亜硫酸工程またはクラフト工程などの本工程は、パルプ化の前にヘミセルロース分離を既に含んでいてもよく、そして、脂質産生工程はパルプ化工程により容易に統合され得る。
【0126】
パルプおよび/または製紙工程のための酵素のその場における産生は、いくつかの理由により有利であり、そして、パルプ化工程のコスト効率を改善し得る。
−水および酵素安定化を含む下流の工程(down stream processing)のコストを低減した。
−輸送およびパッケージングのためのコストを減少させた。
−酵素のパルプ化工程への直接的な移送を介して損失を減少させた。
−資本コストの減少 対 専用の(遠隔の)設備。
−酵素産生およびパルプ/製紙工程のための、同じ原材料または同じ供給源からの原材料の利用が原材料への酵素の直接的な導入および適用をもたらす。
−直接的な工程制御および出力同調およびバイオリファイナリー(biorefinery)内での、酵素産生およびパルプ/製紙工程における直接的な改善の機会。
【0127】
使用済み培養培地からの酵素の回収
酵素は、微生物培養物、使用済み培養培地、上澄みから、任意の公知かつ適切な方法で、または将来において開発される任意の適切な方法で回収され得る。それによって所望の酵素活性を有する酵素を留分へと分離し得るような方法についても同様のことが適用される。
【0128】
使用済み培養培地からの酵素の濃縮、分離または回収は、任意の公知の方法または将来において開発される方法で行われ得る。回収は、望ましい酵素(複数の酵素)の活性を保持するような方法で行われる。使用済み培養培地中の酵素はまた、酵素のいかなる濃縮、分離または濃縮なしに再使用されてもよい。
【0129】
それによって触媒的に活性な酵素(または複数の酵素)を含む、微生物培養物または上澄みまたは富化されたタンパク質留分が回収されるような方法は、それらの分子サイズ、イオン性の挙動、水への溶解度、種々の溶質の溶解性、または緩衝因子もしくは表面活性因子もしくは表面−活性化合物もしくは塩を含む溶質混合物の溶解度に依存し得る。
【0130】
酵素は、例えば遠心分離、ろ過、抽出、噴霧乾燥、エバポレーションまたは沈降などを含むがこれらに限定されるわけではない、様々な方法によって培養培地から回収され得る。
【0131】
必要であれば、酵素は、クロマトグラフィー、電気泳動法、種々の溶解性、SDS−PAGE、または抽出などを含むがこれらに限定されるわけではない、様々な方法によって精製または単離されてもよい。
【0132】
酵素は、例えば塩、糖、またはグリセロールなどによって安定化されてもよい。
【0133】
さらに、酵素は、所望の適用のために製剤化されてもよい。
【0134】
「脂質産生のために適切な条件(conditions suitable for lipid production)」とは、その条件下で微生物が増殖し、そして脂質を産生することができる任意の条件を意味する。
【0135】
「酵素産生のために適切な条件(conditions suitable for enzyme production)」とは、その条件下で微生物が酵素を産生することができる任意の条件を意味する。
【0136】
本明細書中に記載されるように、細胞外のポリマーまたはオリゴマー化合物を、栄養素、炭素源および/またはエネルギー源として使用することのできる微生物が、これらの化合物を含むポリマーバイオマスを含む培養培地上で培養される。微生物は脂質を産生できる。
【0137】
「培養培地(a cultivation medium)」とは、本明細書において微生物を培養するために使用される培地を意味する。培養培地は、本明細書において典型的には、ポリマー糖などの少なくとも部分的にはポリマーまたはオリゴマーの化合物を含むパルプおよび/または製紙工業からの原材料を少なくとも部分的に含む。培養培地は、無機物、微量栄養素、主要栄養素および緩衝剤で補充され得る。
【0138】
本発明の実施態様における好ましいフィードストックは、単独でまたは組み合わせでのリグノセルロース、セルロース、ヘミセルロースおよび/またはリグニンまたはリグノセルロースの他の部分を含むポリマーバイオマス、または、糖ポリマーへの加水分解酵素のアクセスを改善するために化学的もしくは物理的に、またはそれらの組み合わせによって処理されたバイオマスである。リグノセルロースフィードストックは、好ましくは、ヘミセルロースおよび/またはセルロースである少なくともある量のポリマー糖を含む、パルプおよび製紙工業からの残渣である。パルプおよび/または製紙工業からのこのような残渣としては、化学パルプ化工程からのヘミセルロース、化学パルプ化、機械パルプ化、脱墨もしくは繊維調成工程からの一次汚泥または廃棄繊維などが挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0139】
前処理されたバイオマスは、典型的には、ヘキソースおよび/またはペントース糖を含むバイオマスである。バイオマスは、酵素処理に先立ってまたは後に、化学的、物理的(例えば(熱)機械的)、生物学的方法によって、またはそれらの任意の組み合わせによって処理され、そしてその後発酵油脂産生のために使用されてもよい。
【0140】
「ポリマー糖(polymer sugar)」とは、種々の化学的または機械的方法によって、またはそれらの組み合わせによって処理された天然有機材料または有機材料を意味する。ポリマー糖とは、本明細書中において、典型的には、工業的製品、または、ヘミセルロースまたはセルロースを含む画分などのパルプおよび/または製紙工業工程の副流を意味する。
【0141】
「培養培地からの上澄みおよび微生物細胞の分離(separating the supernatant and microorganism cells from the cultivation medium)」とは、それによって細胞画分と上澄み画分との分離が得られる任意の方法を意味する。
【0142】
本発明において「酵素(enzyme)」とは、特に、炭水化物およびタンパク質の複合体を分解することのできる細胞外酵素を意味する。より具体的には、酵素はグリコシド結合、またはペプチド、エステル、またはエーテル結合、または、窒素と炭素との、または窒素と酸素とのあいだの結合を分解することのできる加水分解酵素である。酵素は、好ましくはセルラーゼ、キシラナーゼ、マンナーゼ、ガラクターゼ、ペクチナーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、またはエステラーゼである。
【0143】
本明細書中で記載されるように得られる酵素調製物は、微生物培養物または好ましくは触媒的に活性な酵素を含む上澄みまたは富化されたタンパク質画分である。典型的には、酵素調製物は、発酵油脂産生工程のプロセス水、またはタンパク質画分が富化される工程のプロセス水である。富化は、生物学的に活性な形のタンパク質を富化するまたは濃縮するために使用される任意の適切な方法によって行われ得る。
【0144】
「タンパク質画分の富化(enrichiing a protein fraction)」とは、本明細書において、上澄み中のタンパク質を富化し、かつタンパク質の触媒活性を維持する任意の方法を指す。より具体的には、前記方法は、発酵油脂産生工程からの液相(上澄み)を、液相中のタンパク質を富化する少なくとも1つの方法によって処理することを含む。タンパク質留分は、元々の液相と比較して、少なくとも10%、典型的には少なくとも20%、様々な実施態様では少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%富化される。適切な方法の例としては、タンパク質のイオン特性、分子サイズ、溶解度、表面活性特性または疎水性相互作用に基づく方法が挙げられる。好ましくは、酵素画分の回収は、温度が70℃またはそれより低い温度である条件下で行われる。
【0145】
「セルラーゼ(cellulase)」または「セルロース分解性の酵素(cellulolytic enzyme)」とは、例えば糸状菌類または酵母などの真菌、バクテリア、植物などによって、またはセルロースの加水分解(セルロース分解とも称される)を触媒する動物によって主に産生される酵素の群を意味する。セルラーゼ酵素のEC番号はEC 3.2.1.4である。いくつかの異なる種類のセルラーゼが公知であり、それらは構造的におよび反応機構的に異なっている。セルラーゼの概要としては、触媒される反応のタイプにしたがって、エンドセルラーゼ、エキソセルラーゼ、セロビアーゼ、またはベータグルコシダーゼ、酸化セルラーゼ、およびセルロースホスホリラーゼなどが挙げられる。
【0146】
「ヘミセルラーゼ(hemicellulase)」とは、例えば糸状菌類または酵母などの真菌、バクテリア、植物などによって、またはヘミセルロースの加水分解を触媒する動物によって主に産生される酵素の群を意味する。例えば、キシランの加水分解に関与する酵素としては、エンドキシラーゼ、アセチル−キシランエステラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ、α−L−アラビノフラノシダーゼ、フェルラ酸エステラーゼおよびβ−キシロシダーゼが挙げられる。加えて、ガラクトグルコマンナンの加水分解に関与する酵素としては、エンドマンナーゼ、アセチル−マンナンエステラーゼ、α−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−マンノシダーゼが挙げられる。加えて、アラビノガラクタンの加水分解に関与する酵素としては、β−ガラクトシダーゼおよびエンド−α−L−アラビナーゼが挙げられる。これらの酵素は例えば以下のEC番号のもとに見出すことができる:EC 3.2.1.8, EC 3.2.1.37, EC 3.2.1.55, EC 3.2.1.99, EC 3.2.1.139, EC 3.2.1.78, EC 3.2.1.25, EC 3.2.1.22, EC 3.2.1.21, EC 3.2.1.89, EC 3.1.1.72, EC 3.1.1.6, EC 3.1.1.73。
【0147】
「ヘミセルロース(hemicellulose)」とは、植物細胞のセルロース繊維を他の炭水化物(例えばペクチンなど)とともに取り巻いている、リグノセルロース系材料中に見出される炭水化物複合体を意味する。ヘミセルロースの構成成分は、植物の種類に依存する。ヘミセルロースの最も一般的な種類としては、キシラン、グルコノキシラン、グルコマンナン、ガラクトグルコマンナン、アラビノキシラン、キシログルカンおよびアラビノガラクタンが挙げられる。
【0148】
「リグノセルロース材料(lignocellulosic material)」または「リグノセルロース系バイオマス(lignocellulosic biomass)」とは、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニンからなるバイオマスを意味する。
【0149】
「糖化(saccharification)」とは、ポリマー糖の、糖単量体への加水分解を指す。糖化は典型的には、ポリマー糖を加水分解することのできる酵素の使用によって達成される。
【0150】
「油性生物(oleaginous organisms)」とは、本明細書において、適切であるかまたは最適化されている培養条件で培養される場合に、そのバイオマスの少なくとも15%(w/w)を脂質として蓄積することのできる微生物を指す。
【0151】
「パルプおよび製紙工業一次汚泥(pulp and paper industry primary sludge)」とは、パルプおよび/または製紙工程からの排水の一次的処理において生成される汚泥を指す。パルプおよび製紙工業排水中の懸濁物質からなる一次汚泥は、典型的には、オリゴマーのセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンおよび/または無機化合物を含む。典型的には、一次汚泥は、排水中の懸濁物質の沈殿(浄化、沈降)によって得られる。沈殿に加えて、他の方法もパルプおよび製紙排水から懸濁物質を収集するために使用され得る。これは、排水の一次処理と考えられ、生成される固体は、一次汚泥として知られている。
【0152】
セルロースは通常、実際上水に溶解しない。固体のセルロースの加水分解は3つの異なる種類の酵素:エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼおよびβ−グルコシダーゼを通常必要とする。主にセルロースのアモルファスな部分に作用するエンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.4)はセルロースの巨大分子の内部結合をランダムにアタックする。エキソグルカナーゼまたはセロビオヒドラーゼ(EC 3.2.1.91)はセルロース鎖の端部をアタックし、一度に主に1つのセロビオースを加水分解する。エキソグルカナーゼはまた、結晶性セルロースポリマーを加水分解することもできる。最後に、セロビオースのグルコースモノマーへの加水分解がβ−グルコシダーゼ(EC 3.2.1.21)によって行われる。
【0153】
セルロース加水分解は、多くの異なるセルラーゼの連携を必要とする。分析された異なるグリコシド結合切断酵素の量は非常に高く、90を超える種々の酵素が、例えばセロビオヒドラーゼドメイン(CBH I、II)、エンドグルカナーゼドメイン(EG I、II、III、IV、V)およびベータグルコシダーゼドメイン(BGL I、II)などの14の異なるファミリー中にすでに数えられている。例えばパルプ(前)漂白などのパルプおよび製紙工業における多くの適用において、セルラーゼによるセルロース繊維の分解は好ましくない。
【0154】
ヘミロース(キシラン、アラビノキシランおよびグルコマンナン)の完全な酵素加水分解のために、いくつかの異なる酵素が必要とされ、これらはほぼ同じ時間に活性化されなければならない。第一のアタックは、例えばエンドキシラナーゼ(1,4−β−D−キシラン キシラノハイドロラーゼ)、エンドアラビナーゼおよびエンドマンナナーゼ(1,4−β−D−マンナン マナノハイドロラーゼなどの酵素によって行われる。例えば、トリコデルマ リーゼイ(Trichoderma reesei)は少なくとも4つの異なるエンド−キシラナーゼおよび1つのエンド−マンナナーゼを有する。
【0155】
エンド−ヘミセルラーゼ作用の後に、ヘミセルロースオリゴマーを加水分解することのできる酵素は、β−キシロシダーゼ、β−アラビノシダーゼ、β−マンノシダーゼおよびβ−グルコシダーゼ(EC 33.2.1.21)などである。オリゴマー中に含まれるの残余の側鎖結合を分解するために、α−グルクロニダーゼ(EC 3.2.1.139)、α−アラビノダーゼ(EC 3.2.1.55)およびα−D−ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.22)が必要とされる。アセチル成分の除去のため、エステラーゼ(EC 3.2.1.72)の作用が必要とされる。
【0156】
さらに、リグニンの酵素的加水分解は、リグニンペロキシダーゼ(LiP EC 1.11.1.14)、マンガネーゼ−依存性ペロキシダーゼ(MnP EC 1.11.1.13)およびラッカーゼ(EC 1.10.3.2)などの酸化酵素の活性を必要とする。リグニンの修飾は、多くの酵素、補酵素およびドナーと最終的なアクセプターとのあいだの電子移動システムの連携を必要とする。化学構造およびリグニンのセルロースおよびヘミセルロースへの付加が、リグニンの量よりもより重要である。
【0157】
脂質産生工程からの使用済み培養培地(廃液(effluent))またはそれによって酵素が回収される脂質回収工程からの細胞残渣(残余のバイオマス)は、いくつかの目的に使用され得る。それは、例えば、脂質産生工程へと部分的にまたは全体がリサイクルされ得る。代わりに、パルプおよび製紙工業における排水処理プラントにおいて処理されてもよい、排水および/またはバイオマス残渣は、パルプおよび/または製紙排水処理工程への栄養分の添加の必要性を低減することのできる栄養素を含んでいる。使用済み培養培地および/または細胞残渣はまた、パルプおよび/または製紙生産残渣またはパルプおよび/または製紙工程の排水処理からの汚泥による補充ありまたは無しで、嫌気性消化バイオガス中、バイオガスまで処理され得る。
【0158】
要約すると、本発明の様々な実施態様が、1〜31の番号を付された以下の項を用いて以下に開示される。
【0159】

1.−発酵油脂産生工程である第一の工程およびパルプおよび/または製紙工業工程である第二の工程であって、パルプおよび/または製紙工業からの有機材料は発酵油脂産生工程へと導入され、そして、脂質産生工程において、パルプおよび/または製紙工業からの有機材料を含む培地上で培養された場合に脂質または複数の脂質および酵素を産生することのできる微生物が使用される工程、
−発酵油脂産生工程において、および/または、それと関係する工程において、前記微生物によって脂質または複数の脂質および酵素を産生する工程、
−上澄みおよび/または微生物細胞を微生物培養物から分離する工程、
−脂質を微生物細胞から回収する工程であって、上澄みまたは上澄みのタンパク質が富化された画分、または触媒的に活性な酵素を含む上澄みの希釈液が、脂質産生工程から、またはそれに関係する工程から回収され、そして任意には、それまたはそれらをパルプおよび/または製紙工業工程へと導入する工程
を含む統合された方法。
【0160】
2.少なくとも5%の、パルプおよび/または製紙工業工程において使用される特定の酵素が、発酵油脂産生工程においてまたは発酵油脂産生工程に関連した工程において産生される項1記載の方法。
【0161】
3.前記酵素および前記脂質が同じ微生物によって産生される項1または2記載の方法。
【0162】
4.前記酵素および前記脂質が一またはそれ以上の微生物によって産生される項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【0163】
5.酵素産生微生物および脂質産生微生物が異なる項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【0164】
6.前記酵素が、パルプおよび/または製紙工業工程へ統合された発酵油脂産生工程から分離した工程において産生される項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【0165】
7.前記酵素が、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ、ガラクトシダーゼ、ペロキシダーゼ、ラッカーゼ、ペクチナーゼ、セルラーゼ、グルコシダーゼ、アラビナーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、エステラーゼまたはプロテアーゼまたはそれらの任意の混合物を含む項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【0166】
8.発酵油脂産生工程へ供給される有機材料が、少なくとも50%のリグノセルロースまたはリグノセルロースの画分、好ましくは少なくとも10%のポリマー糖を含む項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【0167】
9.前記有機材料が、少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%のヘミセルロースまたはヘミセルロースの画分を含む項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【0168】
10.前記有機材料が、溶解パルプ工程からの、または、クラフトパルプ工程または溶解パルプ工程における蒸解に先立って抽出されたヘミセルロースまたはその画分を含む項8または9記載の方法。
【0169】
11.前記酵素が細胞外酵素、好ましくはヘミセルロース加水分解と関連する酵素を含む項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【0170】
12.前記酵素が、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ、アラビナーゼ、ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、マンノシダーゼ、キシロシダーゼ、アラビノフラノシダーゼまたはエステラーゼまたはそれらの任意の混合物を含む項11記載の方法。
【0171】
13.前記有機材料が、少なくとも20%のセルロース、好ましくは少なくとも30%のセルロースまたはその画分を含む項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【0172】
14.前記有機材料が、一次汚泥、および/または、パルプおよび/または製紙工業からの繊維廃棄物である項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【0173】
15.前記酵素が細胞外酵素、好ましくはセルロース加水分解と関連する酵素を含む項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【0174】
16.前記酵素が、エンドセルラーゼ、エキソセルラーゼ、セロビアーゼ、またはベータグルコシダーゼ、酸化セルラーゼ、セルロースホスホリラーゼまたはヘミセルラーゼまたはそれらの任意の混合物を含む項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【0175】
17.セルラーゼおよびヘミセルラーゼの両方が産生される項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【0176】
18.パルプおよび/または製紙工業工程からのポリマー糖の加水分解生成物が脂質産生工程へ再循環される項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【0177】
19.前記パルプおよび/または製紙工業工程が、例えば溶解パルプ工程、パルプ化中またはそれに先立ってのリグノセルロースの処理(溶解パルプ化の促進)、クラフトパルプ工程、パルプ化中またはそれに先立ってのリグノセルロースの処理(クラフトパルプ化の促進)、パルプ(前)漂白、または機械パルプ工程、繊維調成、剥皮、リサイクル繊維工程、脱墨、繊維調成、製紙、またはスライムおよび/またはピッチの除去などの工程を含む項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【0178】
20.前記微生物が、糸状真菌、酵母またはバクテリアであり、好ましくは、アスペルギルス、フミコーラ、クモノスカビおよびトリコデルマの群より選択される属に属しているか、または、クリプトコッカス属に属する酵母、またはストレプトマイセスに属するバクテリアである項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【0179】
21.項1〜19のいずれか1項に記載の方法により得られる酵素調製物。
【0180】
22.項1〜19のいずれか1項に記載の方法により製造される酵素または項21に記載の酵素調製物の、パルプおよび/または製紙工業における、または他の適用における、酵素調製物としてのまたは酵素源としての使用。
【0181】
23.項1〜20のいずれか1項に記載の方法により製造されるヘミセルラーゼまたは項21に記載の酵素調製物の、パルプ(前)漂白、溶解パルプ化工程の促進、クラフトパルプ化工程の促進、剥皮、脱墨および/または繊維調成における、好ましくはパルプ(前)漂白における使用。
【0182】
24.項1〜20のいずれか1項に記載の方法により製造されるセルラーゼまたは項21に記載の酵素調製物の、脱墨、繊維調成、溶解パルプ化工程の促進、クラフトパルプ化工程の促進および/または剥皮における、好ましくは繊維調成および/または脱墨における使用。
【0183】
25.脂質産生およびパルプおよび/または製紙工業のための統合された工程システムであって、前記脂質産生工程が脂質産生のための原材料としてパルプおよび/または製紙工業からの有機材料を使用し、そして、前記パルプおよび/または製紙工業工程が脂質産生工程由来の上澄みからの酵素を使用するシステム。
【0184】
26.脂質産生および化学パルプ化工程のための統合された工程システムであって、前記脂質産生工程が脂質産生のための原材料としてヘミセルロース、一次汚泥および/またはそれらの画分を使用し、そして、前記パルプおよび/または製紙工程が脂質産生工程から得られるヘミセルラーゼを使用するシステム。
【0185】
27.脂質産生およびリサイクル繊維工程のための統合された工程システムであって、前記脂質産生工程が脂質産生のための原材料として脱墨汚泥および/またはその画分を使用し、そして、前記パルプおよび/または製紙工程が脂質産生工程から得られる酵素を使用するシステム。
【0186】
28.脂質産生および機械パルプ化工程のための統合された工程システムであって、前記脂質産生工程が脂質産生のための原材料として機械パルプ化からの残渣、一次汚泥および/またはそれらの画分を使用し、そして、前記パルプおよび/または製紙工程が脂質産生工程から得られる酵素を使用するシステム。
【0187】
29.脂質を産生するための方法であって、
−脂質産生および酵素産生に適切な条件下、パルプおよび/または製紙工業からの有機材料を含む培地上で脂質および酵素の両方を産生することのできる微生物を培養し、そして前記微生物によって脂質および酵素を産生する工程、
−上澄みおよび微生物細胞を微生物培養物から分離する工程、
−微生物細胞から発酵油脂を回収する工程、および
−上澄みまたは上澄みのタンパク質が富化された画分、または触媒的に活性な酵素を含む上澄みの希釈液を回収する工程
を含む方法。
【0188】
30.項1〜20のいずれか1項に記載の方法により製造される脂質または項21に記載の酵素調製物の、バイオ燃料として、バイオ燃料の成分としての、またはバイオ燃料製造のための出発物質としての使用。
【0189】
31.前記バイオ燃料が、バイオディーゼルまたは再生可能なディーゼル、ガソリンおよび/またはジェット燃料である項30記載の使用。
【0190】
本発明を説明することが以下の実施例の目的であって、本発明を限定するものとは決して解釈されるべきではない。
【実施例】
【0191】
脂肪産生糸状菌の培養からの使用済み培養物ブロースにおける酵素活性が、基質として純粋なセルロースおよびキシランを用いた加水分解試験によって測定された。
【0192】
方法
糖の規定:
溶液の糖濃度を規定するために、溶液は、適切な希釈液とされ、HPLC分析に先立ち、0.2μmを通してろ過された。
【0193】
糖の規定のために使用されたカラムは、鉛型のShodex Sugar SP0810 イオン交換体(固定相)であった。カラム寸法は、8.0mm(ID)×300mmであった。溶出液は水(流量0.6mL/分)であり、カラム温度は60℃であった。検出器はRI Shimatzu RID 10Aであり、ポンプはA6、およびオートサンプラーはShimatzu SIL 20Aであった。結果の処理はClass−VPソフトウェアを用いて行われた。
【0194】
脂肪酸分析:
サンプルの脂肪酸成分がSuutariら(1990)によって記載される方法で測定された。サンプル中の脂質は、初めに遊離脂肪酸へと加水分解され、そのナトリウム塩へとケン化され、そしてその後、メチルエステルへとメチル化された。脂肪酸メチルエステルはガスクロマトグラフィーを用いて分析された。
【0195】
タンパク質濃度分析:
培養物ブロースのタンパク質濃度が、Whatman3ろ紙を通してブロースをろ過した後に分析された。タンパク質濃度は、Bio−Rad Protein Assay’ブラッドフォード法に基づく)によって分析された。
【0196】
加水分解試験:
培養物ブロースは、加水分解試験前にWhatman3ろ紙を通してろ過された。
【0197】
キシラーゼ活性は、以下のように測定された。100mLのエルレンマイヤーフラスコが反応容器として使用された。それを基質としての20mLの1%カバ材キシラン(Sigma)のリン酸緩衝溶液(0.02M、pH5)、10mLのろ過した培養物ブロースおよび20mLの燐酸緩衝液(0.02M、pH5)で満たした。加水分解反応が、50℃の攪拌(140rpm)水浴中で行われた。1mLのサンプルが培養物ブロースの添加のすぐ後、1、3、5、21/23時間後に反応容器から採取された。加水分解反応は、1mLのサンプルにおいて、1.33Mの硫酸50μLの添加によってpHを低下させることにより停止された。試料はHPLC分析に適合するよう、塩およびポリマー糖の除去のため処理された。遊離された糖が、マンニトールを基準としてHPLCによって(糖の規定を参照のこと)分析された。
【0198】
セルラーゼ活性は、キシランの代わりにセルロース基質として1gのWhatmanろ紙を用いて測定された。反応容積は、基質として同じサイズの円である(直径約5mm)1gのWhatmanろ紙、10mLのろ過された培養物ブロースおよび40mLのリン酸緩衝液(0.02M、pH5)を含む50mLであった。実験はまたキシランを用いても行われた。
【0199】
微生物株:
脂質産生微生物は、通常、例えばATCC、DSMなどの複数の公認の微生物培養物(株)保存機関によって一般に公開されている。本発明の様々な実施態様が、以下の実施例において、以下の微生物株を使用することにより議論される。アスペルギルス オリザエ(Aspergillus oryzae) DSM 1861、アスペルギルス オリザエ(Aspergillus oryzae) DSM 1864、アスペルギルス テレウス(Aspergillus terreus) DSM 1958。
【0200】
実施例1
本実施例は、脂質産生のための炭素源としてのヘミセルロースベース材料を用いたアスペルギルス オリザエの培養のあいだに培養物ブロース中に形成される酵素活性を示している。
【0201】
アスペルギルス オリザエは、炭素源として、精製カバ材キシラン(Sigma)ならびに加圧熱水抽出によって抽出されたトウヒ(spruce)およびカバ材ヘミセルロースを用いてフラスコ培養された。培養は、50mLの培養培地を含む250mLのエルレンマイヤーフラスコ中で行われた。増殖培地のベースは、水1リットル当たり1gの(NH42SO4、1gのMgSO4・7H2O、0.5gのK2HPO4、1gのKH2PO4および0.2gのCaCl2・2H2Oを含み、そして、炭素源、酵母エキスおよび任意には補助材料で補充された。培養培地は、1%(w/w)の真菌胞子懸濁液で播種され、そして、培養物は28℃の温度でインキュベートされた。
【0202】
精製キシランの場合、培養ベースは1リットル当たり40gの精製カバ材キシラン(Sigma)および1gの酵母エキスで補充された。2つ組みの培養物が6日間オービタルシェーカー(160rpm)中でインキュベートされた。
【0203】
トウヒおよびカバ材ヘミセルロースの場合、培養ベースは1リットル当たり44gの熱水抽出によって製造された乾燥トウヒまたはカバ材ヘミセルロース、0.5gの酵母エキスおよび真菌の菌糸体のため機械的サポートを付与するための2gのセルロースで補充された。3つ組みの培養物が7日間オービタルシェーカー(180rpm)中でインキュベートされた。
【0204】
インキュベーションの後、培養ブロースは、Whatman3ろ紙を通してろ過された。タンパク質濃度および酵素活性が、ろ液から測定された。残余分は蒸留水で洗浄され、そして乾燥された。バイオマス濃度および脂質含有量が乾燥された試料から測定された。
【0205】
精製キシラン上での6日間の培養後、A.オリザエ真菌は、16g/Lのバイオマス(乾燥重量)を産生し、そして、バイオマスは10.5%の脂質/乾燥重量を含んでいた。水で抽出されたカバ材ヘミセルロース上で培養されたアスペルギルス オリザエは、7日間のインキュベーションのあいだで14g/Lの乾燥バイオマスを産生した。菌糸体、残余のヘミセルロースおよびセルロースを含むバイオマスは、8.9%の脂質/乾燥重量(培養培地1リットル当たり1.26の脂質に相等)を含んでいた。トウヒヘミセルロース上では、3.7%の脂質/乾燥重量を含む8.7g/Lの乾燥バイオマスが産生されており、脂質産生のためには、カバ材キシランおよびヘミセルロースの両方が、トウヒヘミセルロースと比べより優れていた。
【0206】
培養ブロースのタンパク質濃度は、トウヒおよびカバ材ヘミセルロース培養物において0.06および0.02mg/mLであり、そして、カバ材キシラン培養物において0.05mg/mLであった。
【0207】
1ミリリットルの培養物ブロース当たりおよび反応中の1ミリグラムのタンパク質当たりの、キシランの加水分解試験から遊離されたキシロースが、時間の関数として図3および4に示されている。図3には、加水分解試験中に遊離された、培養物ブロースの容積当たりのキシロースが示されている。基質としては、200mgのカバ材キシランが使用された。図4には、加水分解試験中に遊離された、タンパク質当たりのキシロースが示されている。基質としては、200mgのカバ材キシランが使用された。
【0208】
トウヒヘミセルロース培養物からの培養ブロース1ミリリットルは、21時間の培養で1.2mgのキシロースおよび20.1mg/mgタンパク質を遊離した。カバ材ヘミセルロース培養物からの培養ブロース1ミリリットルは、21時間の培養で5.2mgのキシロースおよび234.6mg/mgタンパク質を遊離した。カバ材キシラン培養物からの培養ブロース1ミリリットルは、23時間の培養で5.0mgのキシロースおよび101.4mg/mgタンパク質を遊離した。
【0209】
ヘミセルロースまたはキシランを炭素源とするアスペルギルス オリザエ培養物からの培養物ブロースは、顕著なキシラナーゼ活性を示した。セルロース加水分解試験において遊離のグルコースが全く検出されなかったことから、培養ブロースは、検出可能なセルラーゼ活性を有さなかった。本実施例は、A.オリザエによる木質ヘミセルロース加水分解物からの脂質産生由来の使用済み培養培地が、パルプ(前)漂白に好ましい特性である、木質材料のヘミセルロース分解に関与し得る例えばキシラナーゼなどのヘミセルラーゼを含んでいることを示している。木質材料由来のヘミセルロースからの脂質産生は、ヘミセルロース前抽出工程をともなう、クラフトパルプ工程または溶解パルプ工程への脂質産生工程の統合の可能性の一例を示している。さらに、ヘミセルラーゼの活性を有するがセルラーゼ活性をもたないことは、パルプ(前)漂白への利用への酵素の適応性を示している。
【0210】
実施例2
本実施例は、脂質産生のための炭素源としてのリグノセルロースベース材料を用いたアスペルギルス オリザエの培養のあいだに培養物ブロース中に形成される選択的なキシラナーゼ活性を示している。
【0211】
アスペルギルス オリザエは、セルロースをベースとするリグノセルロース材料上で、脂質産生のため培養された。増殖培地のベースは、水1リットル当たり40gの炭素源としてのリグノセルロース材料、窒素源としての1.46gのペプトン、0.5gの酵母エキス、1gのMgSO4・7H2O、0.5gのK2HPO4、1gのKH2PO4および0.2gのCaCl2・2H2O、0.00015gのZnSO4・7H2O、0.0001gのCuCl・2H2Oおよび0.00625gのMnCl2・4H2Oを含んでいた。炭素源は、約15%のヘミセルロースを含む、破砕されおよびふるいにかけられた(0.2mm)漂白カバ材広葉樹硫酸塩セルロースであった。このセルロース原料は、培養液に最終濃度が50g/Lとなるように添加された。培養培地は、48時間前培養されたアスペルギルス オリザエ懸濁液50mLを用いて播種された。発酵は、1Lの培養培地容量で、0.8L/分のエアレーションおよび350〜450rpmの攪拌下で28℃の温度で行われた。培養液のpHは5.7であり、培養のあいだ、3M NaOHを用いて調整された。酵素活性が188時間のインキュベーション後に測定された。
【0212】
培養物ブロースが分離され、そしてタンパク質濃度ならびにキシラーゼおよびセルラーゼ活性が、上述されるようにアッセイされた。培養ブロース中のタンパク質濃度は0.11mg/mLであった。1ミリリットルの培養物ブロース当たりのミリグラム単位の、および1ミリグラムのタンパク質当たりのミリグラム単位としての加水分解試験のあいだに遊離された糖が、時間の関数として図5および6に示されている。図5は、加水分解試験中に遊離された、培養物ブロースの容積当たりのキシロースおよびキシロビオースを示している。基質としては、200mgのカバ材キシランが使用された。図6は、加水分解試験中に遊離された、タンパク質当たりのキシロースおよびキシロビオースを示している。基質としては、200mgのカバ材キシランが使用された。図7は、1mLの市販のキシラナーゼ溶液を用いた加水分解試験のあいだの、基質(500mgの天然セルロースまたは培養物からの残余のバイオマス)に対する%としての遊離された糖(キシロースおよびグルコース)を示している。
【0213】
顕著な量のセルロース系材料残渣が188時間の培養後に残存していた。バイオマスは、残渣の成分を決定するために市販のキシラナーゼ(タンパク質10.6mg/mL)で処理された。参照として、天然のカバ材セルロースが同じ酵素溶液で処理された。加水分解試験において、500mgの乾燥セルロース材料が、49mLのリン酸緩衝液(0.02M、pH5)および1mLの酵素溶液中に懸濁された。加水分解試験は、その他の点では酵素活性アッセイと同様に行われた。1ミリリットルの培養物ブロース当たりのミリグラム単位の、および1ミリグラムのタンパク質当たりのミリグラム単位としての加水分解試験のあいだに遊離された糖が、時間の関数として図7に示されている。
【0214】
培養物ブロースの酵素アッセイ(セルラーゼおよびキシラナーゼ)は、キシラナーゼ活性のみを示し、セルラーゼ活性は検出されなかった。キシランを基質として用いた加水分解試験において、顕著な量のキシロースおよびキシロビオースの両方が遊離された。
【0215】
残余のバイオマスの、市販のキシラナーゼ(少しのセルラーゼ活性をともなう)を用いた加水分解試験は、痕跡量のヘミセルロースのみが培養物由来のセルロース残渣から加水分解され得ることを示した。
【0216】
つまり、培養中にブロースに生成されたキシラナーゼは、セルロースのヘミセルロース部分を効率よく加水分解した。
【0217】
培養において炭素源として使用された元の天然セルロース材料からは、キシラナーゼで処理された場合、11%の基質がキシロースとして遊離された。前記材料は約15%のヘミセルロースを含んでいた。
【0218】
本実施例は、アスペルギルス オリザエが、炭素源としてリグノセルロース材料と培養された場合に、脂質産生工程において選択的なキシラナーゼ活性(セルラーゼ活性無しの)を有する酵素を産生し得ることを示している。このキシラナーゼは、富化されたセルロース画分をそのまま保持しながら選択的にヘミセルロースを加水分解するために使用され得る。セルラーゼ活性無しの、ヘミセルラーゼ活性は、本酵素のパルプ(前)漂白応用への適用性を示している。
【0219】
実施例3
本実施例は、脂質産生のための炭素源としてのヘミセルロースベース材料を用いたアスペルギルス テレウスの培養のあいだに培養物ブロース中に形成される酵素活性を示している。
【0220】
アスペルギルス テレウスは、バイオリアクター中2リットルの容積で、炭素基質として麦わらヘミセルロース上で、脂質産生のため培養された。培養培地は、50mLの酵母ニトロゲンベース、アミノ酸・硫酸アンモニウム不含(Difco)の10倍ストック溶液を2Lの水に懸濁したものからなり、1リットル当たり、1.0gの酵母エキス、1gの(NH42SO4、1gのMgSO4・7H2O、0.5gのK2HPO4、1gのKH2PO4、0.2gのCaCl2・2H2Oおよび2gのセルロースで補充された。培養培地は、124時間前培養されたA.テレウス培養物50mLを用いて播種された。発酵は、3.0L/分のエアレーションおよび200〜430rpmの攪拌下で35℃の温度で行われた。培養液のpHは5.7であり、培養のあいだ、3M NaOHを用いて調整された。培養のあいだ、ヘミセルロース溶液が発酵槽へと供給された。酵素活性が165時間のインキュベーション後に測定された。
【0221】
培養物ブロースが分離され、そして、10000Daフィルターを有するアミコン攪拌式セル(Millipore)中で限外ろ過により部分的に濃縮された。タンパク質および脂質濃度ならびにキシラーゼおよびセルラーゼ活性が、上述されるようにアッセイされた。
【0222】
真菌の菌糸体、残余のヘミセルロースおよびセルロースを含むバイオマス中の脂質含有量は、乾燥重量当たり15%であった。タンパク質濃度は、非濃縮の培養ブロース中で0.72mg/mLであり、濃縮されたブロース中で2.15mg/mLであった。
【0223】
1ミリリットルの培養物ブロース当たりのミリグラム単位の、および1ミリグラムのタンパク質当たりのミリグラム単位としての加水分解試験のあいだに遊離された糖が、時間の関数として図8〜11に示されている。
【0224】
図8は、加水分解試験中に遊離された、培養物ブロースの容積当たりのキシロースを示している。基質としては、200mgのカバ材キシランが使用された。図9は、加水分解試験中に遊離された、タンパク質当たりのキシロースを示している。基質としては、200mgのカバ材キシランが使用された。図10は、加水分解試験中に遊離された、培養物ブロースの容積当たりのグルコースを示している。基質としては、1gのセルロースが使用された。使用された培養ブロース由来のヘミセルロースから、多少のキシロースが遊離された。図11は、加水分解試験中に遊離された、タンパク質当たりのグルコースを示している。基質としては、1gのセルロースが使用された。使用された培養ブロース由来のヘミセルロースから、多少のキシロースが遊離された。
【0225】
本実施例は、アスペルギルス テレウスが、細胞内脂質と培養ブロースへの細胞外加水分解酵素との両方を産生できることを示している。本実施例は、A.テレウスが、キシランおよびセルロース分解活性の両方を有する酵素を産生し、そして増殖培地中に分泌することを示す。これらの酵素は、分離され、濃縮され、そして、セルラーゼおよびヘミセルロース活性の両方が好ましい応用におけるリグノセルロース系材料の加水分解および処理に使用され得る。パルプ/および製紙工業におけるこのような応用としては、例えば繊維調成、脱墨、剥皮などが含まれ得る。さらに、ポリマーセルロースおよびヘミセルロースの両方に対する活性株は、例えば脱墨、化学パルプ化および/または機械パルプ化からの汚泥などのセルロースおよびヘミセルロース両方を含むパルプおよび/または製紙工業残渣に使用するために適用可能である。したがって、本実施例は、脂質産生工程の化学パルプ化、機械パルプ化、または繊維リサイクル工程への統合の可能性を示している。
【0226】
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